(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜4のいずれかに記載の鋼成分を有するスラブを1100℃以上1250℃以下に加熱した後、仕上温度が850℃以上、950℃以下と条件で熱間圧延を行い、その後10℃/秒以上の冷却速度で冷却し、200℃以下の温度でコイル状に巻き取り一旦室温まで冷却した後、150〜350℃の温度範囲でバッチ焼鈍炉による焼鈍を施すことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のコイル幅方向の強度ばらつきが少なく靭性に優れた高降伏比高強度熱延鋼板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、200℃以下で巻き取った鋼板にバッチ焼鈍を施す事で、板幅方向の強度ばらつきが少なく、靭性に優れた高降伏比高強度鋼板およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記問題に関し、MoとBを複合添加した成分系において、更に成分範囲を最適化する事によって、強度レベルと鋼板内での強度ばらつきの程度を両立すると共に、熱延後にバッチ焼鈍を施す事で強度ばらつきを低減したまま靭性と高降伏比の高強度熱延鋼板を得られることを知見した。すなわち、MoとBを複合添加する事で焼き入れ性の冷速依存性を最小化し、強度ばらつきを低減すると共に、他の焼き入れ性向上成分とのバランスを最適化することで、所望の強度レベルを得るものである。また、熱延後、一旦室温まで冷却する事でコイル内の強度ばらつきの発生を出来るだけ抑制し、さらに150〜350℃の温度範囲のバッチ焼鈍を施すことによって、コイル内の強度ばらつきを低減し、かつ靭性に優れ高降伏比の高強度熱延鋼板およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0008】
即ち、本発明のコイル幅方向の強度ばらつきが少なく靭性に優れた高降伏比高強度熱延鋼板およびその製造方法は以下の通りである。
(1) 質量%で、
C :0.05%以上、0.2%以下、
Si:0.01%以上、0.6%以下、
Mn:0.5%以上、2.5%以下、
P:0.001%以上、0.1%以下、
S:0.0005%以上、0.05%以下、
Al:0.01%以上、0.2%以下、
N:0.0001%以上、0.010%以下、
Mo:0.05%以上、0.5%以下、
Ti:48N/14+0.01%以上、0.14%以下、
B:0.0003%以上、0.005%以下
を、下記式(1)を満足する範囲で含有し残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼組成を有し、降伏強度が960MPa以上、降伏比が0.83以上であり、かつ板幅方向の降伏強度のばらつきが50MPa以内であ
り、−40℃での衝撃吸収エネルギーが−32J超であることを特徴とするコイル幅方向の強度ばらつきが少なく靭性に優れた高降伏比高強度熱延鋼板。
70≦300×C(質量%)+33×Mn(質量%)+22×Cr(質量%)+11×Mo(質量%)+11×Si(質量%)+17×Ni(質量%)≦100 … (1)
(2) さらに、質量%で、
Nb:0.005%以上、0.09%以下を含有することを特徴とする(1)に記載のコイル幅方向の強度ばらつきが少なく靭性に優れた高降伏比高強度熱延鋼板。
(3) さらに質量%で
、
W:0.01%以上、2.0%以下、
Cu:0.04%以上、2.0%以下、
Ni:0.02%以上、1.0%以下、
V:0.001%以上、0.10%以下、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)又は(2)のいずれか1項に記載のコイル幅方向の強度ばらつきが少なく靭性に優れた高降伏比高強度熱延鋼板。
(4) 更に質量%で
、
Mg、Zrの1種または2種以上を合計で0.0005%以上、0.05%以下含有することを特徴とする(1)〜(3)の何れか一項に記載のコイル幅方向の強度ばらつきが少なく靭性に優れた高降伏比高強度熱延鋼板。
(5) (1)〜(4)の何れかに記載の高強度熱延鋼板を製造する方法であって、(1)〜(4)のいずれかに記載の鋼成分を有するスラブを1100℃以上1250℃以下に加熱した後、仕上温度が850℃以上、950℃以下となる条件で熱間圧延を行い、その後10℃/秒以上の冷却速度で冷却し、200℃以下の温度でコイル状に巻き取り一旦室温まで冷却した後、150〜350℃の温度範囲でバッチ焼鈍炉による焼鈍(BAF焼鈍)を施すことを特徴とする
(1)〜(4)のいずれか一項に記載のコイル幅方向の強度ばらつきが少なく靭性に優れた高降伏比高強度熱延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコイル幅方向の強度ばらつきが少なく靭性に優れた高降伏比高強度熱延鋼板およびその製造方法によれば、上記構成により、板幅方向の強度ばらつきが小さく、また降伏強度960MPa以上、降伏比0.83以上の靭性に優れた高降伏比高強度鋼板を得ることが出来る。したがって、例えば、大型クレーンのブームを始めとする建機の構造用部材等に本発明を適用する事により、ブーム自体の軽量化、および、つり上げ運搬容量の拡大を図る事が出来、作業効率が顕著に向上するメリットを十分に享受することが出来る事から、その社会的貢献は計り知れない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態である高強度鋼板、および、その製造方法について説明する。なお、本実施形態は、本発明のコイル幅方向の強度ばらつきが少なく靭性に優れた高降伏比高強度熱延鋼板およびその製造方法の趣旨をよりよく理解させるために詳細に説明するものであるから、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0011】
本発明のコイル幅方向の強度ばらつきが少なく靭性に優れた高降伏比高強度熱延鋼板(以下、単に高強度熱延鋼板と略称することがある)は、質量%で、 C :0.05%以上、0.2%以下、Si:0.01%以上、0.6%以下、 Mn:0.5%以上、2.5%以下、P:0.001%以上、0.1%以下、S:0.0005%以上、0.05%以下、Al:0.01%以上、0.2%以下、N:0.0001%以上、0.010%以下、Mo:0.05%以上、0.5%以下、Ti:48N/14+0.01%以上、0.14%以下、B:0.0003%以上、0.005%以下を、下記式(1)を満足するように含有し残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼組成を有し、降伏強度が960MPa以上、降伏比が0.83以上であり、かつ板幅方向の降伏強度のばらつきが50MPa以内とされ、概略構成される。
70≦300×C(質量%)+33×Mn(質量%)+22×Cr(質量%)+11×Mo(質量%)+11×Si(質量%)+17×Ni(質量%)≦100 ・・・(1)
以下に、本発明における鋼特性および製造条件の限定理由について詳しく説明する。
【0012】
[鋼組成]
[(C:炭素)0.05%以上、0.2%以下]
Cは、安価に強度を確保出来る元素であり、本発明の必須元素である。強度を満足するためにはCを0.05%未満では本発明で規定している強度が満足できない。また、Cが0.2%を超えると強度が上がりすぎ、延性が低下すると共に、溶接性も劣化する。
このため、本発明では、Cの含有量を0.05%以上、0.2%以下に規定した。Cの含有量のより好ましい範囲は、0.10%以上、0.15%以下である。
【0013】
[(Si:ケイ素)0.01%以上、0.6%以下]
Siは強度を確保するために0.01%以上添加する。また、溶接性の観点からは、Siを0.1%以上添加することが望ましい。しかし、Siを0.6%超添加すると表面にSiスケールと呼ばれる欠陥が発生し、表面品位を著しく低下させることから、0.6%を上限とする。また、この観点から、Siの添加量は、より好ましくは0.3%以下、更に好ましくは0.15%以下である。
【0014】
[(Mn:マンガン)0.5%以上、2.5%以下]
Mnは強度確保の観点から0.5%以上添加する。また、この観点からは、Mnは1.0%以上添加することが望ましく、更に望ましくは1.3%以上である。また、Mn添加量が2.5%を超えると、溶接割れ感受性が劣化することから上限を2.5%以下とする。この観点からはMnの添加量を2.2%以下とすることが望ましく、更に望ましくは2.0%以下である。
【0015】
[(P:リン)0.001%以上、0.1%以下]
Pは鋼板の強度を上げる元素として必要な強度レベルに応じて添加する。しかしながら、Pの添加量が多いと粒界へ偏析するために局部延性、溶接性、靭性を劣化させる。従って、P上限値は0.1%とする。この観点からは、Pは0.05%以下とする事が望ましい。一方、0.001%未満ではPの劣化効果は無視できる他、これ未満にするにはコストの上昇を招くことから0.001%を下限とする。
【0016】
[(S:硫黄)0.0005%以上、0.05%以下]
Sは、MnSを生成することで局部延性、溶接性、靭性を劣化させる元素であり、鋼中に存在しない方が好ましい元素であることから、上限を0.05%とする。この観点からはSは0.01%以下とすることが望ましい。一方、Sを0.0005%未満にするにはコストの上昇を招くことからこれを下限とする。
【0017】
[(Al:アルミニウム) 0.01%以上、0.2%以下]
Alは脱酸材として0.01%以上添加する必要がある。一方、Alを過度に添加しても、かえって鋼を脆化させるとともに、溶接性も低下させるため、0.2%を上限とする。
【0018】
[(N:窒素) 0.0001%以上、0.010%以下]
Nは、鋼中に不可避的に含まれる元素であるが、BNを形成し、固溶Bを低減させ焼き入れ性を劣化させることから、その含有量を0.010%以下とする。また、この観点からはNは0.006%以下の添加が望ましい。一方、不必要にNを低減することは製鋼工程でのコストが増大するのでその含有量を0.0001%以上に制御する。
【0019】
[(Mo:モリブデン)0.05%以上、0.5%]
Moは本発明において重要な元素である。Moは焼き入れ性向上元素であるが、Bと複合添加することによって焼き入れ性の冷却速度依存性を小さくする効果がある。このため、コイル内の強度ばらつきを抑える事が可能である。又、Mnに比べて靭性の劣化が少ないことから、0.05%以上添加する。この観点からは、Moは0.1%以上添加することが望ましい。一方、Moを0.5%以上添加しても特段の効果が得られず、合金コストの上昇を招くばかりであることから、0.5%を上限とする。この観点からは、Moの添加量は0.3%以下が望ましい。
【0020】
[(B:ボロン)0.0003%以上、0.005%以下]
Bも本発明において重要な元素である。Bは安価な焼き入れ性向上元素であり、また、Moと複合添加することによって強度の冷却速度依存性を小さくし、コイル内の強度ばらつきを低減する効果がある。そのため、本発明ではBを0.0003%以上添加する。この観点からは、Bは0.0006%以上の添加が望ましい。一方、Bを0.005%超添加しても特段の効果が得られないばかりでなく、靭性の劣化を招くことから0.005%を上限とする。また、この観点からは、Bは0.003%以下の添加が望ましい。
【0021】
[(Ti:チタン) 48N/14+0.01%以上、0.14%以下]
Tiは高温でTiNを形成することでBNの析出を阻害すると共に炭化物形成や固溶によって強度上昇に寄与することから、次式{48N/14+0.01}%以上添加する。式中のNは窒素(N)の含有率(質量%)である。一方、Tiを0.14%超で添加してもそれ以上の強度上昇が得られないばかりでなく、靭性や溶接性の低下を招くことからこの値を上限とする。
【0022】
[(Nb:ニオブ)0.005%以上、0.09%以下]
本発明においては、上記の必須元素に加え、更に、Nbを所定範囲で添加することが望ましい。ここで、Nbも、Tiと同様、再結晶の抑制、組織の微細化、炭化物の析出を介して強度上昇、特に降伏強度の向上に寄与することから、0.005%以上添加することが望ましい。一方、Nbの0.09%超の添加は靭性の靭性や延性を著しく劣化させることからこの値を上限とする。Nbのより好ましい範囲は、0.015%以上、0.05%以下であり、更に好ましい範囲は、0.015%以上、0.03%以下である。
【0023】
[(Cr:クロム)0.1%以上、2.0%以下]
[(W:タングステン)0.01%以上、2.0%以下]
Cr、Wは、いずれも焼入性を向上させると共に炭化物を形成して強度を高める効果を有する元素である。そのため、各々0.1%(Cr)以上、0.01%(W)以上添加することが望ましい。一方、各々2.0%超(Cr)、2.0%超(W)の添加は、延性や溶接性を低下させる。以上の観点から、Crは0.1%以上、2.0%以下、Wは0.01%以上、2.0%以下の範囲で必要に応じて添加することが望ましい。
【0024】
[(Cu:銅)0.04%以上、2.0%以下]
Cuは鋼板強度を上げると共に、耐食性やスケールの剥離性を向上させる元素であることから0.04%以上添加することが望ましい。一方Cuの2.0%超の添加は表面疵の原因となるため、0.04%以上、2.0%以下の範囲で必要に応じて添加することが望ましい。
【0025】
[(Ni:ニッケル)0.02%以上、1.0%以下]
Niは鋼板強度を上げると共に、靭性を向上させる元素であることから、0.02%以上添加することが望ましい。一方、Niの1.0%超の添加は延性劣化の原因となるため、0.02%以上、1.0%以下の範囲で必要に応じて添加することが望ましい。
【0026】
[(V:バナジウム)0.001%以上、0.10%以下]
Vは、強度の向上に効果がある元素である。しかしながら、0.001%未満のVの添加ではその効果が得られず、0.10%を超える添加では、逆に靱性の低下を招くため、その範囲を0.001〜0.10%とする。
さらに、本発明においては、鋼特性を改善するための元素として、Ca、Mg、Zr、REM(希土類元素)の1種または2種以上を、単独または合計で0.0005%以上、0.05%以下含有することができる。
Ca、Mg、Zr、REMは、硫化物や酸化物の形状を制御して靭性を向上させる。この目的のためには、これらの元素の1種または2種以上を単独または合計で0.0005%以上添加する必要がある。しかしながら、これらの元素の過度の添加は加工性を劣化させるため、その上限を0.05%とした。
また、本発明の鋼は、以上の元素の他、Sn、Asなどの不可避的に混入する元素を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる。
【0027】
[各元素の関係式]
次に、各元素の関係式である下記(1)式について説明する。
本発明の高強度熱延鋼板において、上記各本発明の効果を得るためには、鋼組成が下記(1)式の関係を満足する必要がある。
【0028】
70≦300×C(質量%)+33×Mn(質量%)+22×Cr(質量%)+11×Mo(質量%)+11×Si(質量%)+17×Ni(質量%)≦100 ・・・(1)
【0029】
上記(1)式の値が70未満では十分な強度が得ることが出来ない。また、この観点からは上記(1)式の値を70以上にすることがより望ましい。一方、上記(1)式の値が100を超えると熱延板の強度が高くなりすぎて巻取装置への負荷が高くなりすぎる。また、この観点からは、上記(1)式の値を100以下にする事が望ましい。式(1)のより好ましい範囲は、80以上、95以下であり、更に好ましい範囲は85以上、90以下である。
【0030】
[降伏強度(YP)]
本発明の高強度熱延鋼板においては、降伏強度(YP)を960MPa以上に規定している。
本発明では、鋼組成を上述した範囲に制御し、さらに、各製造条件を後述の条件とすることで、降伏強度が960MPa以上の高強度熱延鋼板が実現できる。このように、降伏強度を960MPa以上に高めることにより、例えば、鋼板の板厚を4.0〜10mm程度まで薄肉化して用いる場合であっても、部材として十分に高い強度が確保でき、軽量化に寄与することが出来る。なお、高強度熱延鋼板の降伏強度を測定するにあたり、鋼板の板幅方向の両エッジから、全板幅の1/20〜1/5の長さ離れた位置および板厚中央部の3か所から作製した引張試験片の降伏強度がそれぞれ960MPa以上であることが好ましい。
【0031】
[降伏強度比(YR)]
一方、最高強度(TS)の過剰な上昇は部材成形時に装置に過大な負荷を貸し、部材の形状不良や成形装置の破損などを招く。したがって、YPとTSの比である降伏強度比YR(=YP/TS)は0.83以上とする。
【0032】
[幅方向の降伏強度のばらつき]
コイル幅方向(板幅方向)の降伏強度のばらつきが50MPa超となると鋼板を切断後の反りやプレスの際の形状不良の原因となることからばらつきは50MPa以下とする。この場合のばらつきは両エッジから、全板幅の1/20〜1/5の長さ離れた位置および板厚中央部の3か所から作製した引張試験片の降伏強度の最大・最小値の差を指す事とする。
【0033】
[製造方法]
本発明に係るコイル幅方向の強度ばらつきが少なく靭性に優れた高降伏比高強度熱延鋼板の製造方法について以下に説明する。
本発明の高強度熱延鋼板の製造方法は、上記鋼成分を有するスラブを1100℃以上1250℃以下に加熱した後、仕上温度が850℃以上、950℃以下となる条件で熱間圧延を行い、その後10℃/秒以上の冷却速度で冷却し、200℃以下の温度でコイル状に巻き取り一旦室温まで冷却した後、150〜350℃の温度範囲でバッチ焼鈍炉による焼鈍(BAF焼鈍)を施す方法である。
【0034】
まず、鋼を常法により溶製、鋳造し、熱間圧延に供する鋼片(スラブ)を得る。この鋼片は、鋼塊を鍛造又は圧延したものでも良いが、生産性の観点から、連続鋳造により鋼片を製造することが好ましく、または、薄スラブキャスターなどで製造してもよい。あるいは溶製した鋼を鋳造後、直ちに熱間圧延を行う連続鋳造−直接圧延(CC−DR)のようなプロセスを採用しても良い。
【0035】
通常、鋼片は鋳造後、冷却し、熱間圧延を行うために、再度加熱する。この場合、熱間圧延を行う際の鋼片の加熱温度は1100℃以上とする。この温度が1100℃未満で均一に加熱を行うためには長時間の保持が必要となり生産性を下げることからこの温度を下限とする。一方、鋼片を1250℃超に加熱すると、鋼板の結晶粒径が粗大になり、加工性を損なうことがあることからこの値を上限とする。
【0036】
本発明の製造方法では仕上げ温度は850℃以上とする。850℃未満で熱間圧延を終了すると熱間圧延の荷重が高くなりすぎるとともに、焼き入れ性が低下し、強度が低下することからこの温度を下限とする。一方、仕上げ温度が950℃を超えるとγ粒径の粗大化を招き、靭性が低下することからこの温度を上限とする。熱間圧延の後、200℃以下までいずれの温度域においても10℃/s以上の冷却速度で冷却する。冷却速度が10℃/s未満では十分な強度が得られないことからこの値を下限とする。この観点からは25℃/s以上の冷却速度が望ましい。冷却速度の上限は特に定めないが、100℃/s以上の速度で冷却するためには過剰な設備投資が必要となる一方で、特段の効果が得られないことから、100℃/s以下とする事が現実的である。
【0037】
本発明の製造方法では、巻取温度は200℃以下とする。巻取温度が200℃を超えるとマルテンサイト変態が十分起こらず、強度が低下するとともに、均一な巻取温度に制御することが難しいことから、コイル内での強度ばらつきの要因となることからこの値を上限とする。巻取温度の下限は特に定めないが、室温以下に冷却する事は過剰な設備を必要とし、その一方で特段の効果も得られない。
【0038】
なお、巻き取ったコイルは一旦室温まで冷却した後、バッチ焼鈍炉(BAF炉)においてコイルままで温度範囲150〜350℃での保持時間0.5〜8時間となるような熱処理を施す(以下、バッチ焼鈍炉における焼鈍をBAF焼鈍という場合がある)。150℃未満での焼鈍では炭化物析出やマルテンサイトの焼き戻しが不十分なためにYPの上昇が得られないことからこの温度を下限とする。一方、350℃超に保持する事はTSの著しい低下を招き、コイル内での強度ばらつきの要因となることからこの温度を上限とする。
【0039】
また、保持時間が0.5時間未満では、炭化物析出やマルテンサイトの焼き戻しが不十分なためにYPの上昇が得られないことからこの保持時間を下限とする。一方、保持時間が8時間を超えるとTSの著しい低下を招き、コイル内での強度ばらつきの要因となることからこの保持時間を上限とする。
【0040】
以上説明した様な、本発明に係るコイル幅方向の強度ばらつきが少なく靭性に優れた高降伏比高強度熱延鋼板およびその製造方法によれば、上記構成により、降伏強度および降伏比が高く、また靭性を確保しつつコイル幅方向の強度ばらつきの小さい高強度熱延鋼板を実現することが出来る。
【0041】
したがって、例えば、大型クレーンのブームを始めとする建機の構造用部材等に本発明を適用する事により、ブーム自体の軽量化、および、つり上げ運搬容量の拡大を図る事が出来、作業効率が顕著に向上するメリットを十分に享受することが出来る事から、その社会的貢献は計り知れない。
【実施例】
【0042】
以下、コイル幅方向の強度ばらつきが少なく靭性に優れた高降伏比高強度熱延鋼板およびその製造方法の実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例に限定されるものではなく、前、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施する事も可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲にふくまれるものである。
【0043】
[実施例1]
本実施例においては、まず、下記表1に示す組成を有する鋼を溶製し、下記表2、3に示す条件で熱間圧延とBAF炉での焼鈍を施した。下記表2、3には得られた熱延板の特性を調査した結果も併せて示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
引張特性は、JIS5号引張試験片を圧延方向に対して直角方向から採取し引張特性を評価した。熱延板の板幅は1500mm〜2200mmで、板の両エッジ部から150mmの位置(−L,−R)と板幅の中心位置(−C)が平行部中心となるように引張試験片を作製した。
【0048】
また、靭性はシャルピー衝撃試験で評価した。この際、JIS Z 2202試験片を圧延方向に対して直角方向を長手方向として、板幅中心位置から試験片を作製し、試験温度−40℃での吸収エネルギーを測定した。なお、板厚10mm未満の鋼板については、10mmのフルサイズ試験片の値に換算した。
【0049】
以下に、本実施例の結果の詳細について述べる。
表2、表3に示す結果から明らかなとおり、本発明で規定する化学成分を有する鋼を適正な条件で熱間圧延した場合には、降伏強度が960MPa以上、降伏強度比が0.83以上、板幅方向の降伏強度のばらつきが50MPa以内、−40℃での衝撃吸収エネルギーが32J超の靭性に優れた熱延鋼板を得る事が出来た。
ただし、No.11、12、16、17、23、24は参考例である。
【0050】
一方、製造No.40〜46は、化学成分が本発明の範囲外である鋼No.R〜Xを用いた比較例である。製造No.40とNo.43〜45はいずれも添加元素が多すぎて式1の上限を超えており、靭性が劣化している。一方、製造No.41と46は式1の値が下限を下回っており、降伏強度が低下している。また、製造No.42はTiの添加量が低いために、TiNが形成されずBNとなるため、焼き入れ性向上に寄与する固溶Bの低下を招き強度が低下している。なお、製造No.46はMoが添加されていないために焼き入れ性が十分確保されず、降伏強度のコイル幅方向のばらつきが大きい。
【0051】
製造No.5、13、22、27、31、34はいずれも化学成分は本発明を満足しているが、降伏強度または降伏強度比が本発明の下限を満足しない。No.5は加熱温度と仕上温度が高くγ粒径が粗大化したため靭性が低下した。また製造No.13と31は巻取温度CTが高すぎたために強度が低下した。製造No.22は冷速が遅かったために十分にマルテンサイト変態が起こらず、強度が低下した。製造No.27はBAF焼鈍温度が高すぎたためにYP、TS共に低下し、靭性も劣化した。一方製造No.34は熱延後のBAF焼鈍を行わなかったため、YPとYRが本発明の範囲から逸脱する。製造No.5、10、31はいずれも靭性が低下している。製造No.5の場合はFTが高すぎγ粒径が大きすぎたため、製造No.10と31に関しても巻取り中に何らかの析出物が生成したため靭性が劣化した。また、No.10と31に関しては冷却から巻取の温度履歴のばらつきが大きい事に起因し、幅方向の材質ばらつきも極めて大きくなっている。
【0052】
[実施例2]
表4には表1の鋼No.Jのスラブを用いて、BAF焼鈍温度を変化させた場合の機械的性質の変化を示す。
【0053】
【表4】
【0054】
表4に示す結果から明らかなように、本発明で規定するBAF焼鈍温度の範囲で熱処理を行った場合は降伏強度が960MPa以上、降伏強度比が0.83以上、板幅方向の降伏強度のばらつきが50MPa以内、−40℃での衝撃吸収エネルギーが32J超の靭性に優れた熱延鋼板を得る事が出来るが、BAF焼鈍温度が低すぎる場合、YPが下限を下回る。一方、BAF炉での焼鈍温度が高すぎる場合にはYP、TS共に低下してしまう。
ただし、No.48〜52は参考例である。