(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
連続的に血圧を推定する手法が、体調・健康管理や疾病の経過観察の他にも、脈波の波形の振幅や所定の区間の傾きといった特徴や、脈波を二階微分した加速度脈波の特徴に基づき、血圧の推定精度を向上させる手法も開発されている。
【0011】
脈波伝播速度と血圧の関係は、測定点間の血管距離、血管壁の弾性率や血管径といった特性に依存する。つまり、できるだけ対象者の同位置(同条件)で生体信号を測定することが望ましい。例えば、より精度良く血圧値を推定するために、センサデバイスの装着状態が変化した場合には、血圧値の推定手段が適用困難になったことが検知され、認識されることが必要となる。
【0012】
また、脈波や心電図の波形は血圧の推定だけではなく、心臓・血管疾患の指標となるが、脈波計測用の光電センサ・圧力センサ又は心電図計測用の電極の装着位置およびデバイスの向きが異なると、測定結果が異なってしまう。つまり、血圧値の推定の場合と同様に、センサデバイスの装着状態が変化した場合には、装着状態の変化が検知され、認識されることが望ましい。
【0013】
また、生体表面上にマイクを配置することにより生体音の特徴から、例えば呼吸音や心音図、咀嚼音等から対象者の状態を推定することが可能である。例えば心音図の場合も、計測したい心臓疾患に応じて最適な装着位置が異なり、装着状態が異なることが認識されることが望ましい。
【0014】
また、身体に装着されたセンサデバイスによって計測された筋活動から、対象者の運動量や消費カロリー、姿勢解析を行う技術が広く提案されている。運動の特徴を計測し、解析を行う場合には、できるだけ対象者の同位置(同条件)又はシステムが指定する所定の位置に計測電極が正しく装着されていることが望ましい。よって、血圧値の推定の場合と同様に、センサデバイスの装着状態の変化を検知する手法が重要となる。
【0015】
(実施形態)
以下に添付図面を参照して、判定装置の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、実施形態にかかる判定装置1のハードウェア構成を例示するブロック図である。判定装置1は、例えば生体信号計測装置として機能する本体部2と、本体部2を対象者に装着する装着部200とを有する。装着部200は、例えば粘着部材からなり、本体部2を対象者の体表面に接着する。また、装着部200は、ベルト等であってもよいし、対象者の服装等に本体部2を取り付ける取付部であってもよい。つまり、装着部200は、例えば生体信号や体動を計測される対象者の体表面、又は対象者の表面と略同じ位置の面などの被取付面に本体部2を着脱可能に取り付ける。
【0016】
本体部2は、入力部20、出力部22、記憶部24、通信部26、制御部28、第1計測部30及び第2計測部32を有する。本体部2を構成する各部は、バス29を介して互いに接続されている。
【0017】
入力部20は、例えば入力キーやスイッチなどであり、本体部2に対する対象者の入力を受け入れる。出力部22は、例えば液晶パネルなどの表示部220、音声等を出力するスピーカ222、及び振動を発生させるバイブレータ224などを有する。出力部22は、本体部2の処理動作の結果などを表示、音及び振動の少なくともいずれかにより出力する。また、タッチパネルなどにより、入力部20と表示部220とが一体化されていてもよい。
【0018】
記憶部24は、図示しないROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)などを含み、制御部28が実行するプログラムや、制御部28がプログラムを実行する場合に使用するデータなどを記憶する。また、本体部2には、記憶部24との間でプログラム及びデータを送受可能にされたメモリカードなどの記憶媒体240が着脱自在に設けられていてもよい。
【0019】
通信部26は、外部装置(コンピュータなど)との通信を行う汎用のインターフェイスであり、例えば有線通信、長距離無線通信又は近接無線通信などを行う。通信部26は、外部機器と無線通信を行い、外部機器からコマンド受信することによって入力部20の代わりに対象者の入力操作を受入れてもよい。同様に、通信部26は、外部機器と無線通信を行い、処理操作の結果を外部機器へ送信することにより、外部機器に処理操作の結果を出力させてもよい。つまり、通信部26は、情報を通信によって出力する出力部としても機能する。
【0020】
制御部28は、例えばCPU280を含み、判定装置1を構成する各部を制御する。
【0021】
第1計測部30は、少なくとも1方向の加速度を継続して計測する加速度センサを有する。また、第1計測部30は、重力方向の加速度を計測するものであってもよい。本実施形態においては、第1計測部30は、測定軸を本体部2に固定され、サンプリング周波数が128Hzである3軸の加速度センサを有するものとする。
【0022】
第2計測部32は、例えば体表面電位差を計測する電極、脈波信号を計測する光電センサ・圧力センサ、温度センサ、音声マイク、及びパルスオキシメータ等を有する。つまり、第2計測部32は、心電、脈波、体温、生体音、及び血中酸素濃度等の生体信号を計測するセンサデバイスを有する。
【0023】
なお、判定装置1の構成は、
図1に示した構成に限定されない。例えば、判定装置1は、第1計測部30、第2計測部32、制御部28、記憶部24及び通信部26を有し、第1計測部30及び第2計測部32が計測した結果に基づく情報を、通信部26を介して外部の表示装置等へ出力するように構成されてもよい。
【0024】
次に、判定装置1の機能について説明する。
図2は、判定装置1が有する機能の概要を例示する機能ブロック図である。
図2に示すように、判定装置1は、第1計測部30、第2計測部32、第1算出部40、ベクトル保存部(記憶部)42、第2算出部44、推定部(判定部)46、及び通知部(出力部)48を有する。なお、
図2に示した第1計測部30及び第2計測部32は、
図1に示した第1計測部30及び第2計測部32に対応する。また、ベクトル保存部(記憶部)42は、
図1に示した記憶部24と同一であってもよい。また、通知部(出力部)48は、
図1に示した出力部22であってもよいし、通信部26であってもよい。
【0025】
第1算出部40は、第1計測部30が所定の時間(第1期間)に計測した加速度に基づいて、例えば対象者の体表面(被取付面)の傾斜を示す傾斜情報を算出する。例えば、第1算出部40は、第1計測部30が第1期間に計測した加速度(加速度信号)を用いて、本体部2が取付けられた体表面の傾斜を示すベクトル(体表面ベクトル)を傾斜情報として算出する。
【0026】
ここで、第1算出部40は、例えば第1計測部30が第1期間に計測した加速度に対し、対象者の呼吸又は一時的動作による加速度の変動を除去するフィルタ処理を行った後に、被取付面の傾斜を示す傾斜情報を算出する。第1算出部40が用いるフィルタは、例えばFFT、IIR型LPF、又は移動平均フィルタ等であるが、これらに限定されない。
【0027】
ベクトル保存部42は、第1算出部40が算出した傾斜情報を記憶(保存)する。
【0028】
第2算出部44は、ベクトル保存部42が記憶した傾斜情報と、第1算出部40が新たに算出した傾斜情報との相違を示す相違情報を算出する。例えば、第2算出部44は、ベクトル保存部42が記憶したベクトルと、第1算出部40が新たに算出したベクトルとが構成する内積、角度、又は角度の余弦値(
図6参照)の少なくともいずれかを相違情報として算出する。なお、第2算出部44は、相違情報を算出するために、ベクトルの各要素の差分を利用してもよいし、ベクトル長等他の情報をさらに利用してもよい。
【0029】
推定部46は、第2算出部44が算出した相違情報が所定の時間(第2期間)継続して所定値以上の相違を示した場合に、被取付面に対する本体部2の取付状態(装着条件)が変化したと推定(判定)する。ここで、被取付面に対する本体部2の取付状態が変化したとは、例えば、対象者の体表面に対して、装着部200によって接着された本体部2の装着位置がずれた場合などを指す。
【0030】
通知部48は、例えば出力部22又は通信部26などによって構成され、推定部46が判定した結果に基づく情報を出力する。例えば、通知部48は、被取付面に対する本体部2の取付状態が変化した場合、その旨を示す表示、音及び振動の少なくともいずれかを出力する。また、通知部48は、通信によって情報を対象者へ通知してもよいし、情報を離れた位置の第3者へ送信して通知してもよい。
【0031】
なお、判定装置1が有する機能は、上述したハードウェア構成と同様に、
図2に示した形態で構成されることに限定されない。例えば、第1算出部40、ベクトル保存部42、第2算出部44、推定部46及び通知部48は、第1計測部30及び第2計測部32の計測結果を受信する外部装置に設けられていてもよい。
【0032】
図3は、対象者の体幹部に判定装置1が装着された状態の一例を示す模式図である。
図3に示すように、判定装置1は、少なくとも第1計測部30(及び第2計測部32)を有して被取付面に取付けられ、計測結果に基づく情報を出力する。
【0033】
次に、判定装置1が行う処理について説明する。
図4は、実施形態にかかる判定装置1が行う処理例を示すフローチャートである。
【0034】
判定装置1が対象者に装着されて、例えば電源がオンにされると、ステップ100(S100)において、第1計測部30は、加速度信号の計測を開始する。
【0035】
ステップ102(S102)において、制御部28は、第1計測部30が計測した加速度の分散値が所定の範囲内にあるか否かを判定する。制御部28は、加速度の分散値が所定の範囲内にない場合(S102:No)には、S100の処理に戻る。また、制御部28は、加速度の分散値が所定の範囲内にある場合(S102:Yes)には、S104の処理に進む。
【0036】
ステップ104(S104)において、制御部28は、判定装置1の取付状態の変化を推定すべき状態であるか否かを判定する。具体的には、制御部28は、第1計測部30が計測した加速度の連続値を用いて、判定装置1が取付けられた体表面の傾斜情報を算出するために、加速度値を記録する必要がある所定の区間(第1期間)であるか否か判定する。例えば、制御部28は、加速度値の分散値が所定の閾値以下である場合には、判定装置1を装着した対象者が継続して静止している状態であると推定し、加速度値を記録する必要がある所定の区間であると判定する。例えば第2計測部32が脈波や心電などの生体信号を計測する場合には、対象者が仰臥などの静止状態になるためである。
【0037】
以下、所定の区間(第1期間)とは、加速度値の分散値が所定の閾値以下である場合など、判定装置1を装着した対象者が継続して静止している状態であると推定される予め定められた長さの時間であるとする。なお、制御部28は、加速度の分散値ではなく、最大値と最小値の差分値や、周波数解析などによって所定の区間であるか否かを判定してもよい。また、複数軸方向の加速度計測が可能な場合には、各加速度、又はその絶対値を加算した値の分散値などによって所定の区間であるか否かを判定してもよい。
【0038】
制御部28は、加速度値を記録する必要がある所定の区間でないと判定した場合(S104:No)には、S100の処理に戻る。また、制御部28は、加速度値を記録する必要がある所定の区間であると判定した場合(S104:Yes)には、S106の処理に進む。
【0039】
なお、S102,S104の処理は、第1算出部40が行ってもよい。また、制御部28又は第1算出部40は、対象者が所定の姿勢を取った際や、計測を開始する際の、対象者による判定装置1への操作入力、又は外部からのコマンド入力などを受入れた時から予め定められた長さの時間を所定の区間としてもよい。即ち、制御部28又は第1算出部40は、外部から所定の信号を取得した場合に、第1期間が開始するよう制御してもよい。又は、外部から所定の信号を取得した時から予め定められた長さの時間であり、かつ加速度の分散値等に基づき、静止している状態であると推定された所定の時間を第1期間としてもよい。
【0040】
ステップ106(S106)において、第1算出部40は、第1計測部30が計測した加速度を例えば記憶部24に記憶させる(記録する)。
【0041】
ステップ108(S108)において、第1算出部40は、S106の処理で記録した加速度に対し、対象者の呼吸や一時的な体動による加速度の変動を除去するために上述したフィルタ処理を行い、体表面ベクトルを算出する。
【0042】
ステップ110(S110)において、ベクトル保存部42は、第1算出部40が算出した体表面ベクトルを保存する。ベクトル保存部42に保存される数値は、例えば第1期間内にて算出された体表面ベクトルの時系列情報において、軸ごとに平均値もしくは中央値を算出することにより得られる代表値である。なお、ベクトル保存部42には、予め定められた値が体表面ベクトルの初期値として設定されている。
【0043】
ステップ112(S112)において、第2算出部44は、例えばベクトル保存部42が保存した体表面ベクトルと、第1算出部40が新たに算出した体表面ベクトルとの相違を示す相違情報を算出する。具体的には、第2算出部44は、例えばベクトル保存部42が保存した体表面ベクトルV1と、第1算出部40が新たに算出した体表面ベクトルV2とがなす角度θの余弦を下式1によって算出する。
【0044】
cos(θ)=V1・V2/(|V1||V2|) ・・・(1)
【0045】
ステップ114(S114)において、推定部46は、相違情報が予め定められた長さの時間(第2期間)継続して所定値以上の相違があるか否かを判定する。例えば、推定部46は、上式1により算出した余弦値が所定の閾値以下(相違が所定値以上)である状態が第2期間継続しているか否かを判定する。推定部46は、余弦値が所定の閾値以下である状態が第2期間継続していないと判定した場合(S114:No)には、S100の処理に戻る。また、推定部46は、余弦値が所定の閾値以下である状態が第2期間継続していると判定した場合(S114:Yes)には、S116の処理に進む。
【0046】
ステップ116(S116)において、推定部46は、判定装置1の装着状態が変化したと推定する。つまり、推定部46は、相違情報が第2期間継続して所定値以上の相違を示した場合に、被取付面に対する本体部の取付状態が変化したと判定する。
【0047】
そして、通知部48は、推定部46が判定した結果に基づく情報を出力する。例えば、判定装置1は、
図4に示した処理を継続的に行い、本体部2の取付状態が変化したと判定した場合、対象者等に本体部2の取付位置の調整を指示することを目的として、本体部2の取付状態が変化した旨を示す情報を通知部48が出力する。従って、判定装置1は、対象者の生体信号及び体動等を測定・推定し、本体部2の装着位置がずれた場合には、その旨を示す情報を出力する。
【0048】
次に、判定装置1の取付状態(取付位置)が変化した場合に、第2算出部44が算出する相違情報の具体例について説明する。
図5は、生体(人体)に対して取付けられた判定装置1の取付位置(ずれ)を模式的に示す模式図である。
図6は、
図5に示した取付位置のずれによる相違情報の具体例を示すグラフである。
【0049】
図5に示すように、例えば仰臥位静止状態の対象者に対し、体幹部表面の8箇所(A点〜H点)に各2cm間隔で本体部2を粘着部材からなる装着部200によって装着する。
図6に示した相違情報を示すグラフは、胸部A点における体表面ベクトルVAと、B点〜H点における各体表面ベクトルVB〜VHとがなす角度の余弦値を測定回数ごと(0〜約600回)に示したグラフである。
【0050】
図6においては、本体部2がA点から離れるにつれて、上述した余弦値が小さくなっている。判定装置1は、余弦値が所定の閾値以下である状態が第2期間継続した場合、取付状態が変化したと判定する。例えば、判定装置1は、余弦値が0.989以下である(余弦値の相違が0.011以上である)状態が第2期間(例えば500回の計測を行った期間)継続した場合、対象者の体幹部表面に対して本体部2の取付位置がずれたと判定する。つまり、判定装置1は、例えば本体部2がA点から4cmを超えてずれた場合(C点よりも離れた場合)にも、本体部2の取付位置がずれたと判定することができる精度を有する。なお、判定装置1は、取付後初めて相違情報を算出した場合には、余弦値が所定の閾値以下であっても、取付状態が変化したと判定しないように構成されてもよい。
【0051】
(変形例)
次に、判定装置1の変形例について説明する。判定装置1の変形例において、第2算出部44は、加速度値を記録する所定の区間であるとの判定を行った後、例えばベクトル保存部42に保存されているベクトルと、第1計測部30の各軸それぞれとが構成する角度の余弦値CX1、CY1、CZ1をそれぞれ算出する。更に、第2算出部44は、第1算出部40が新たに算出したベクトルと、第1計測部30の各軸それぞれとが構成する角度の余弦値CX2、CY2、CZ2をそれぞれ算出する。
【0052】
推定部46は、第2算出部44が算出したCX1とCX2、CY1とCY2、CZ1とCZ2の差分値が、第2期間継続して所定の閾値以上であった場合、本体部2の取付状態が変化したと判定する。
【0053】
なお、第2算出部44は、ベクトル保存部42が記憶したベクトルと、複数方向の加速度それぞれの測定軸とが構成する内積、角度、又は角度の余弦値の少なくともいずれかを第1情報として算出してもよい。そして、第2算出部44は、第1算出部40が新たに算出したベクトルと、複数方向の加速度それぞれの測定軸とが構成する内積、角度、又は角度の余弦値の少なくともいずれかを第2情報として算出し、第1情報と当該第1情報に対応する第2情報との差分を相違情報として算出してもよい。
【0054】
なお、本実施形態の判定装置1が実行する判定プログラムは、上述した各部(第1算出部40、第2算出部44、及び推定部46)を含むモジュール構成となっている。また、判定装置1が有する機能は、ソフトウェアによって構成されてもよいし、ハードウェアによって構成されてもよい。
【0055】
以上説明した実施形態によれば、記憶部が記憶した傾斜情報と、第1算出部が新たに算出した傾斜情報との相違を示す相違情報が、第2期間継続して所定値以上の相違を示した場合に、被取付面に対する本体部の取付状態が変化したと判定するので、被取付面に対する取付状態が変化したことを簡易な構成で精度よく判定することができる。
【0056】
また、本発明のいくつかの実施形態を複数の組み合わせによって説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規の実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。