(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記皮膜形成添加剤は、ジエチルアリルホスホナート、ジエチルフェニルホスホナート、ジエチル(2−オキソフェニルエチル)ホスホナートからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用負極。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の電極およびこの電極を使用することができる二次電池の例を構成要素ごとに説明する。
【0015】
[1]負極
・負極活物質層
負極は、例えば負極活物質が負極用結着剤によって負極集電体に結着されている。本実施形態における負極活物質は、リチウムの吸蔵及び放出が可能なものであれば、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。負極は、集電体上に負極活物質層を設けて構成されたものを用いる。
【0016】
負極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵放出が可能な材料であれば他に制限は無く、公知の負極活物質を任意に用いることができる。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、コークス、アセチレンブラック、メゾフェーズマイクロビーズ、グラファイト等の炭素質材料;リチウム金属;リチウム−シリコン、リチウム−スズ等のリチウム合金、チタン酸リチウムなどを使用することが好ましい。これらの中でもサイクル特性及び安全性が良好でさらに連続充電特性も優れている点で、炭素質材料を使用するのが最も好ましい。なお、負極活物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0017】
さらに、負極活物質の粒径は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、初期効率、レ−ト特性、サイクル特性等の電池特性が優れる点で、通常1μm以上、好ましくは15μm以上であり、通常50μm以下、好ましくは30μm以下程度である。また、例えば、上記の炭素質材料をピッチ等の有機物で被覆した後で焼成したもの、CVD法等を用いて表面に上記炭素質材料よりも非晶質の炭素を形成したものなども、炭素質材料として好適に使用することができる。ここで、被覆に用いる有機物としては、軟ピッチから硬ピッチまでのコールタールピッチ;乾留液化油等の石炭系重質油;常圧残油、減圧残油等の直留系重質油;原油、ナフサ等の熱分解時に副生する分解系重質油(例えばエチレンヘビーエンド)等の石油系重質油が挙げられる。また、これらの重質油を200〜400℃で蒸留して得られた固体状残渣物を、1〜100μmに粉砕したものも使用することができる。さらに塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂、イミド樹脂なども使用することができる。負極活物質層は、例えば、上述の負極活物質をロール成形してシート電極としたり、圧縮成形によりペレット電極としたりすることも可能であるが、通常は、正極活物質層の場合と同様に、上述の負極活物質と、結着剤と、必要に応じて各種の助剤等とを、溶媒でスラリー化した塗布液を、集電体に塗布し、乾燥することにより製造することができる。
【0018】
また、ケイ素を含む負極活物質としては、例えば、シリコンやシリコン化合物等が挙げられる。シリコンとしては、例えば、単体ケイ素が挙げられる。シリコン化合物としては、例えば、シリコン酸化物、ケイ酸塩、ニッケルシリサイドやコバルトシリサイドなどの遷移金属とケイ素を含む化合物等などが挙げられる。シリコン化合物には、負極活物質自体の繰り返し充放電に対する膨脹収縮を緩和する役目があり、充放電サイクル特性の観点から好ましく用いられる。さらにシリコン化合物の種類によってはシリコン間の導通を確保する役目もあり、このような観点から、シリコン化合物としてシリコン酸化物が好ましく用いられる。
【0019】
シリコン酸化物は、特に限定されるものではないが、例えば、SiOx(0<x<2)で表される。シリコン酸化物は、Liを含んでもよく、Liを含むシリコン酸化物は、例えばSiLiyOz(y>0、2>z>0)で表される。また、シリコン酸化物は微量の金属元素や非金属元素を含んでも良い。シリコン酸化物は、例えば、窒素、ホウ素およびイオウの中から選ばれる一種または二種以上の元素を、例えば0.1〜5質量%含有することができる。微量の金属元素や非金属元素を含有することで、シリコン酸化物の電気伝導性を向上させることができる。
【0020】
また、シリコン酸化物は結晶であってもよく、非晶質であってもよい。また、負極活物質は、シリコン又はシリコン酸化物に加えて、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る炭素材料を含むことが好ましい。炭素材料は、シリコンやシリコン酸化物と複合化させた状態で含有させることもできる。炭素材料は、シリコン酸化物と同様に、負極活物質自体の繰り返し充放電に対する膨脹収縮を緩和し、負極活物質であるシリコン間の導通を確保する役目がある。したがって、シリコン、シリコン酸化物、及び炭素材料が共存することにより、より良好なサイクル特性が得られる。
【0021】
炭素材料としては、黒鉛、非晶質炭素、ダイヤモンド状炭素、カーボンナノチューブ、またはこれらの複合物を用いることができる。ここで、結晶性の高い黒鉛は、電気伝導性が高く、銅などの金属からなる負極集電体との接着性および電圧平坦性が優れている。一方、結晶性の低い非晶質炭素は、体積膨張が比較的小さいため、負極全体の体積膨張を緩和する効果が高く、かつ結晶粒界や欠陥といった不均一性に起因する劣化が起きにくい。負極活物質中の炭素材料の含有率は、2質量%以上50質量%以下とすることが好ましく、2質量%以上30質量%以下とすることがより好ましい。
【0022】
シリコンとシリコン化合物とを含有する負極活物質の作製方法としては、シリコン化合物としてシリコン酸化物を用いる場合には、例えば、単体ケイ素とシリコン酸化物を混合し、高温減圧下にて焼結させる方法が挙げられる。また、シリコン化合物として遷移金属とケイ素を含む化合物を用いる場合には、例えば、単体ケイ素と遷移金属を混合、溶融させる方法や、単体ケイ素の表面に遷移金属を蒸着等により被覆する方法が挙げられる。
【0023】
負極活物質の製造方法として、上記で述べた作製方法に加えて、炭素との複合化を組み合わせることもできる。例えば、高温非酸素雰囲気下で有機化合物の気体雰囲気中に単体ケイ素とシリコン化合物の混合焼結物を導入する方法や、高温非酸素雰囲気下で単体ケイ素とシリコン酸化物の混合焼結物と炭素の前駆体樹脂を混合する方法により、単体ケイ素とシリコン酸化物の核の周囲に炭素からなる被覆層を形成することができる。これにより充放電に対する体積膨張の抑制及びサイクル特性のさらなる改善効果が得られる。
【0024】
本実施形態における負極活物質としてシリコンを用いる場合は、シリコン、シリコン酸化物及び炭素材料を含む複合体(以下、Si/SiO/C複合体とも称す)から構成されることが好ましい。さらに、シリコン酸化物は、その全部または一部がアモルファス構造を有することが好ましい。アモルファス構造のシリコン酸化物は、他の負極活物質である炭素材料やシリコンの体積膨張を抑制することができる。このメカニズムは明確ではないが、シリコン酸化物がアモルファス構造であることにより、炭素材料と電解液の界面への皮膜形成に何らかの影響があるものと推定される。また、アモルファス構造は、結晶粒界や欠陥といった不均一性に起因する要素が比較的少ないと考えられる。なお、シリコン酸化物の全部または一部がアモルファス構造を有することは、エックス線回折測定(一般的なXRD測定)にて確認することができる。具体的には、シリコン酸化物がアモルファス構造を有しない場合には、シリコン酸化物に固有のピークが観測されるが、シリコン酸化物の全部または一部がアモルファス構造を有する場合は、シリコン酸化物に固有のピークがブロードとなって観測される。
【0025】
Si/SiO/C複合体において、シリコンは、その全部または一部がシリコン酸化物中に分散していることが好ましい。シリコンの少なくとも一部をシリコン酸化物中に分散させることで、負極全体としての体積膨張をより抑制することができ、電解液の分解も抑制することができる。なお、シリコンの全部または一部がシリコン酸化物中に分散していることは、透過型電子顕微鏡観察(一般的なTEM観察)とエネルギー分散型X線分光法測定(一般的なEDX測定)を併用することで確認することができる。具体的には、サンプルの断面を観察し、シリコン酸化物中に分散しているシリコン部分の酸素濃度を測定し、酸化物となっていないことを確認することができる。
【0026】
Si/SiO/C複合体において、例えば、シリコン酸化物の全部または一部がアモルファス構造であり、シリコンはその全部または一部がシリコン酸化物中に分散している。このようなSi/SiO/C複合体は、例えば、特開2004−47404号公報で開示されているような方法で作製することができる。すなわち、Si/SiO/C複合体は、例えば、シリコン酸化物をメタンガスなどの有機物ガスを含む雰囲気下でCVD処理を行うことで得ることができる。このような方法で得られるSi/SiO/C複合体は、シリコンを含むシリコン酸化物からなる粒子の表面がカーボンで被覆された形態となる。また、シリコンはシリコン酸化物中にナノクラスター化している。
【0027】
Si/SiO/C複合体において、シリコン、シリコン酸化物および炭素材料の割合は、特に制限されるものではない。シリコンは、Si/SiO/C複合体に対し、5質量%以上90質量%以下とすることが好ましく、20質量%以上50質量%以下とすることがより好ましい。シリコン酸化物は、Si/SiO/C複合体に対し、5質量%以上90質量%以下とすることが好ましく、40質量%以上70質量%以下とすることがより好ましい。炭素材料は、Si/SiO/C複合体に対し、2質量%以上50質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは2質量%以上30質量%以下である。
【0028】
また、Si/SiO/C複合体は、単体ケイ素、シリコン酸化物及び炭素材料の混合物からなることができ、単体ケイ素とシリコン酸化物と炭素材料とをメカニカルミリングで混合することでも作製することができる。例えば、Si/SiO/C複合体は、それぞれの単体ケイ素、シリコン酸化物および炭素材料が粒子状のものを混合して得ることができる。例えば、単体ケイ素の平均粒子径は、炭素材料の平均粒子径およびシリコン酸化物の平均粒子径よりも小さい構成とすることができる。このようにすれば、充放電時に伴う体積変化の大きい単体ケイ素が相対的に小粒径となり、体積変化の小さい炭素材料やシリコン酸化物が相対的に大粒径となるため、デンドライト生成および合金の微粉化がより効果的に抑制される。
【0029】
また、単体ケイ素の平均粒子径は、例えば20μm以下とすることができ、15μm以下とすることが好ましい。また、シリコン酸化物の平均粒子径が炭素材料の平均粒子径の1/2以下であることが好ましく、単体ケイ素の平均粒子径がシリコン酸化物の平均粒子径の1/2以下であることが好ましい。さらに、シリコン酸化物の平均粒子径が炭素材料の平均粒子径の1/2以下であり、かつ単体ケイ素の平均粒子径がシリコン酸化物の平均粒子径の1/2以下であることがより好ましい。平均粒子径をこのような範囲に制御すれば、体積膨脹の緩和効果がより有効に得ることができ、エネルギー密度、サイクル寿命と効率のバランスに優れた二次電池を得ることができる。より具体的には、シリコン酸化物の平均粒子径を黒鉛の平均粒子径の1/2以下とし、単体ケイ素の平均粒子径をシリコン酸化物の平均粒子径の1/2以下とすることが好ましい。またより具体的には、単体ケイ素の平均粒子径は、例えば20μm以下とすることができ、15μm以下とすることが好ましい。また、負極活物質として、上述のSi/SiO/C複合体の表面をシランカップリング剤によって処理したものを用いてもよい。
【0030】
・負極用導電補助材
負極は、インピーダンスを低下させる目的で、導電補助材を添加してもよい。導電補助材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の導電性カーボンブラック、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛粉末、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ等の炭素繊維、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン等の導電性高分子が挙げられる。
【0031】
・負極用結着剤
負極用結着剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、各種ポリウレタン等を用いることができる。これらの中でも、結着性が強いことから、ポリイミド、ポリアミドイミドが好ましい。また、水性バインダーも使用することができる。水性バインダーは特に制限されるものではないが、通常、水分散性ポリマーがラテックス又はエマルジョンの形態で使用される。例えば、アクリル系樹脂エマルジョン、スチレン系樹脂エマルジョン、酢酸ビニル系重合体エマルジョン、ウレタン系樹脂エマルジョン等を用いることができる。これらの中でも、粘弾特性の点から、水分散性の合成ゴムラテックス又はエマルジョンが好ましい。水分散性の合成ゴムラテックス(エマルジョン)としては、例えば、ポリブタジエンゴムラテックス、スチレン−ブタジエンゴムラテックス、アクリロニトリル−ブタジエンゴムラテックス、(メタ)アクリル酸エステル−ブタジエンゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックスなどが挙げられる。電解液に対する耐性の点から、スチレン−ブタジエンゴムラテックス(SBRラテックス)が好ましい。これらの結着剤は、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることもできる。使用する負極用結着剤の量は、トレードオフの関係にある「十分な結着力」と「高エネルギー化」の観点から、負極活物質100質量部に対して、2〜10質量部が好ましい。
【0032】
・負極用増粘剤
負極スラリーを作製しやすくするために、増粘剤を用いることもできる。このような増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(アルカリで中和されたリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩を含む)、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ヒドロキシエチル、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸(アルカリで中和されたリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩を含む)等が挙げられる。これらの増粘剤は、単独でまたは2種類以上を組み合わせて用いることもできる。負極スラリー中の増粘剤の割合としては、0.1〜5質量%が好ましい。
【0033】
・負極用界面活性剤
分散溶媒に水を用いる場合、スラリー中の炭素粒子の分散性を向上させる目的で、ノニオン系界面活性剤を用いることもできる。ノニオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを好ましく使用できる。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、一般式:
R−O−(AO)
nH
(式中、Rはアルキル基を示す。Aはアルキレン基を示す。nは自然数を示す。)
で表される。ここで、Rで示されるアルキル基の炭素数及びAで示されるアルキレン基の炭素数、並びにnで示されるアルキレンオキシ基(AO)の重合度は特に限定されない。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、Rで示されるアルキル基の炭素数、Aで示されるアルキレン基の炭素数及びnで示されるアルキレンオキシ基(AO)の重合度の少なくとも1種が異なる複数のポリオキシアルキレンアルキルエーテルの混合物であってもよい。
【0034】
・皮膜形成添加剤
本発明において使用される皮膜形成添加剤としては、式(1)で表されるホスホン酸エステル化合物から選ばれるものが好ましい。
【0035】
【化2】
[式中、
R
1、R
2は、それぞれ独立して、炭素数1〜4の直鎖または分岐アルキル基、フェニル基またはグリシジル基であり、これらの基は置換基を有していてもよく、
R
3は、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族基、ベンジル基、−CH
2−C(=O)−X(Xは、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族基またはベンジル基)、−CH
2−C(=O)O−X(Xは、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族基またはベンジル基)、ジチオール基、フタルイミドアルキル基、ベンジリデンアミノアルキル基またはベンゾオキサゾリル基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。]
【0036】
式(1)で表されるホスホン酸エステル化合物において、R
1、R
2としては、炭素数1〜4の直鎖または分岐構造を有するアルキル基、フェニル基、グリシジル基が挙げられる。これらの基は置換基を有していてもよい。R
1とR
2は同じ構造であっても別の構造であってもよい。
【0037】
R
1およびR
2において、置換基としては、特に限定されるものではないが、上記の基に含まれる水素原子の少なくとも一部が、それぞれ互いに独立に、ハロゲン、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基もしくはアルキニル基等で置換されていてよい。
【0038】
R
1、R
2の例として、より具体的には、メチル基、エチル基、フェニル基、トリル基、グリシジル基およびこれらの基の少なくとも一部の水素をフッ素で置換した基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
式(1)で表されるホスホン酸エステル化合物において、R
3としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族基、ベンジル基、−CH
2−C(=O)−X(Xは、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族基またはベンジル基)、−CH
2−C(=O)O−X(Xは、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族基またはベンジル基)、ジチオール基、フタルイミドアルキル基、ベンジリデンアミノアルキル基およびベンゾオキサゾリル基等が挙げられる。これらの基は置換基を有していてもよい。
【0040】
具体的には、R
3は、炭素数1〜20の直鎖または分岐アルキル基、炭素数2〜20の直鎖または分岐アルケニル基、炭素数2〜20の直鎖または分岐アルキニル基、または、炭素数3〜12のシクロアルキル基であってよい。
【0041】
また、R
3は、単環または多環の芳香族基(フェニル基、ナフチル基等)、ベンジル基、ベンジリデンアミノアルキル基(アルキル鎖の炭素数は1〜6)、フタルイミドアルキル基(アルキル鎖の炭素数は1〜6)、ベンゾオキサゾリル基等であってよい。
【0042】
また、R
3は、−CH
2−C(=O)−Xで表される基であってもよく、Xとしては、炭素数1〜20の直鎖または分岐アルキル基、炭素数2〜20の直鎖もしくは分岐アルケニル基、炭素数2〜20の直鎖もしくは分岐アルキニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜18の芳香族基(フェニル基、ナフチル基等)またはベンジル基が挙げられる。
【0043】
また、R
3は、−CH
2−C(=O)O−Xで表される基であってもよく、Xとしては、炭素数1〜20の直鎖または分岐アルキル基、炭素数2〜20の直鎖もしくは分岐アルケニル基、炭素数2〜20の直鎖もしくは分岐アルキニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜18の芳香族基(フェニル基、ナフチル基等)またはベンジル基等が挙げられる。
【0044】
また、R
3は、ジチオール基であってもよい。ジチオール基の例としては、特に限定されるものではないが、ジチオール環を有する基が挙げられ、例えば、ジチオリル基、ベンゾジチオリル基等が挙げられる。
【0045】
ただし、R
3において、一つ以上のCH
2基は、それぞれ互いに独立に、−CH=CH−、−C≡C−、−O−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−O−CO−O−、−S−、−SO−、−CS−等で置き換えられていてもよい。
【0046】
また、R
3において、上記の基は置換基を有していてもよい。置換基としては特に限定されるものではないが、一つ以上の水素原子が、それぞれ互いに独立に、ハロゲン、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基またはアルキニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜18の芳香族基、炭素数7〜20のアラルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基等で置換されていてよい。具体的には、フルオロ、メチル基、イソプロピル基、フェニル基、ベンジル基、メトキシ基、メトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0047】
R
3の例として、より具体的には、メチル、ジフルオロメチル、エチル、フェニル、ビニル、メトキシプロペニル、へキシル、フェニルエチニル、エチニル、スチリル、ベンジル、フルオロベンジル、イソプロピルベンジル、メトキシベンジル、メチルベンジル、ベンジルオキシカルボニルメチル、オキソフェニルエチル、1,3−ジチオリル、1,3−ベンゾチオリル、フタルイミドメチル、ベンジリデンアミノメチル、チオキソベンゾオキサゾリル基等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0048】
式(1)で表されるホスホン酸エステル化合物の具体的な化合物として、例えば、ジエチルアリルホスホナート、ジエチル(3−メトキシカルボニル―2−プロペニル)ホスホナート、ジエチル(1−ヘキシニル)ホスホナート、ジエチル(フェニルエチニル)ホスホナート、ジメチルフェニルホスホナート、ジエチルフェニルホスホナート、ジエチルエチニルホスホナート、ジエチル[(E)−スチリル]ホスホナート、ジエチルビニルホスホナート、ジエチルベンジルホスホナート、ジエチル(4−フルオロベンジル)ホスホナート、ジエチル(4−イソプロピルベンジル)ホスホナート、ジエチル(3−メトキシベンジル)ホスホナート、ジエチル(4−メトキシフェニル)ホスホナート、ジエチル(2−メチルベンジル)ホスホナート、ジエチル(3−メチルベンジル)ホスホナート、ジエチル(4−メチルベンジル)ホスホナート、ジエチル(4−メトキシベンジル)ホスホナート、ベンジルジメチルホスホンアセテート、ジエチル(2−オキソフェニルエチル)ホスホナート、ジメチル[2−(1,3−ジチオール)]ホスホナート、ジメチル(1,3−ベンゾジチオール―2−イル)ホスホナート、ジエチル(ジフルオロメチル)ホスホナート、ジエチル(フタルイミドメチル)ホスホナート、ジエチル[(ベンジリデンアミノ)メチル]ホスホナート、ジフェニル(2,3−ジヒドロ−2−チオキソ−3−ベンゾオキサゾリル)ホスホナート、ジフェニルメチルホスホナート、ジ−o−トリルメチルホスホナート、ジグリシジルフェニルホスホナートなどが挙げられる。
【0049】
ホスホン酸エステル化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのホスホン酸エステル化合物は、π電子を持つ芳香族や不飽和結合を有するため、負極中の黒鉛との相互作用により負極表面に吸着し電解液への溶出を抑制できるものと推察される。さらに、P−O結合を有することより、Liイオン伝導性の良い良質な皮膜を負極表面に形成することができる。ホスホン酸エステルの中では、ジエチルアリルホスホナート、ジエチルフェニルホスホナート、ジエチル(2−オキソフェニルエチル)ホスホナートが好ましい。また、電解液に不溶なホスホン酸エステル化合物は、電解液へ溶出しないためさらに好ましい。
【0050】
本実施形態で挙げた皮膜形成添加剤は、スラリー分散溶媒への溶解性にかかわらず用いることができる。皮膜形成添加剤は、スラリー内で分散し、塗布、乾燥後には、保護皮膜として負極の表面のみに付着するのが好ましい。皮膜形成添加剤が多すぎると皮膜が厚膜化し、電極の内部抵抗が上昇する。これによって、リチウムイオンの伝導性、電極中の電子伝導性が低下し、電池特性が低下する。また、皮膜形成添加剤が多すぎると、皮膜に使われなかった添加剤が電解液に溶けだすため、正極表面への付着、電解液の粘度上昇などの原因となる。そこで、皮膜形成添加剤の添加剤量としては、活物質量に対して0.001〜5.0質量%が好ましく、0.01〜2.0質量%がより好ましく、さらには0.01〜0.3質量%が好ましい。添加量が低いほどコスト面でも有利となる。
【0051】
・負極用集電体
負極用集電体の材質としては、公知のものを任意に用いることができるが、例えば、銅、ニッケル、SUS等の金属材料が用いられる。中でも加工し易さとコストの点から特に銅が好ましい。また、集電体は予め粗面化処理しておくのが好ましい。さらに、集電体の形状も任意であり、箔状、平板状、メッシュ状等が挙げられる。また、エキスパンドメタルやパンチングメタルのような穴あきタイプの集電体を使用することもできる。また、集電体として薄膜を使用する場合の好ましい厚さ、形状も任意である。
【0052】
・負極の作製方法
負極は、例えば、負極集電体上に、負極活物質、負極用結着剤、および皮膜形成添加剤を含み、必要に応じて、その他、負極用増粘剤、界面活性剤などを含む負極活物質層を形成することで作製することができる。負極活物質層の形成方法としては、例えば、ドクターブレード法、ダイコーター法、CVD法、スパッタリング法などが挙げられる。予め負極活物質層を形成した後に、蒸着、スパッタ等の方法でアルミニウム、ニッケルまたはそれらの合金の薄膜を形成して、負極集電体としてもよい。中でも、負極活物質、負極用結着剤、皮膜形成添加剤、および任意に負極用増粘剤、界面活性剤などを分散溶媒に混合してスラリーを作製し、集電体上に塗布した後、加熱乾燥する方法が、安価に製造できるため好ましい。皮膜形成添加剤の結着剤への付着を防止する目的で、負極活物質、負極用増粘剤、皮膜形成添加剤、界面活性剤を分散後、負極用結着剤を最後に添加するのが好ましい。スラリーを負極集電体に塗布した後の加熱乾燥温度は50℃以上140℃以下が好ましく、80℃以上120℃以下がより好ましい。分散溶媒には、NMPまたは水が好ましい。
【0053】
このように、リチウムイオン二次電池の製造時に、皮膜形成添加剤であるホスホン酸エステル化合物を負極スラリーに添加し、塗布、乾燥することにより、あらかじめ皮膜形成添加剤が含まれた負極を得ることができる。本発明によれば、皮膜形成添加剤は負極の黒鉛に吸着する構造を有するため、電解液への溶け出しが抑制され、電解液の粘度が上昇しない。非水系電解液には皮膜形成添加剤が添加されないため、電解液の粘度が上昇しない、皮膜形成添加剤が電解液に非相溶であっても使用できる、また、正極に皮膜形成添加剤が付着しないので正極の抵抗を上げない、などの利点がある。また、本発明の添加量の範囲内であれば、スラリーの分散状態を阻害しないため、均一な負極が作製できる。さらに、本発明の添加量の範囲内であれば、多量の添加剤が結着剤に付着することはないため、結着剤の結着効果が弱まることなく、負極と集電体の密着性は低下しない。したがって、電池のサイクル低下、内部ガスの発生による膨れなどの電池特性低下を抑制でき、電解液の保存特性の低下も抑制できるため、優れた非水系電解液二次電池を提供することができる。
【0054】
[2]正極
・正極活物質層
正極活物質層は、正極活物質を含み、正極活物質が正極用結着剤によって正極集電体上に結着した構造を有するものである。正極活物質は、充電時にリチウムイオンを電解液中へ放出し、放電時に電解液中からリチウムを吸蔵するものであり、LiMnO
2、LixMn
2O
4(0<x<2)等の層状構造を持つマンガン酸リチウム、又はスピネル構造を有するマンガン酸リチウム;LiCoO
2、LiNiO
2、又はこれらの遷移金属の一部を他の金属で置き換えたもの;LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2等の特定の遷移金属が半数を超えないリチウム遷移金属酸化物;これらのリチウム遷移金属酸化物において化学量論組成よりもLiを過剰にしたもの等が挙げられる。特に、Li
αNi
βCo
γAl
δO
2(1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.7、γ≦0.2)又はLi
αNi
βCo
γMn
δO
2(1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.6、γ≦0.2)が好ましい。正極活物質は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0055】
上記正極活物質を結着して一体化する正極結着剤としては、具体的には、上記負極結着剤と同様のものを用いることができる。正極結着剤としては、汎用性、低コストの観点から、ポリフッ化ビニリデンが好ましい。使用する正極結着剤の量は、正極活物質100質量部に対して、2〜10質量部であることが好ましい。正極結着剤の含有量が2質量部以上であれば、活物質同士あるいは活物質と集電体との密着性が向上し、サイクル特性が良好になり、10質量部以下であれば、活物質比率が向上し、正極容量を向上させることができる。
【0056】
上記正極活物質層には、正極活物質のインピーダンスを低下させる目的で、導電補助材を添加してもよい。導電補助材としては、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質微粒子を用いることができる。
【0057】
・正極用結着剤
正極用結着剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド等を用いることができる。これらの中でも、結着性が強いことから、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリル酸(アルカリで中和されたリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩を含む)、カルボキシメチルセルロース(アルカリで中和されたリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩を含む)が好ましい。使用する正極用結着剤の量は、トレードオフの関係にある「十分な結着力」と「高エネルギー化」の観点から、負極活物質100質量部に対して、2〜10質量部が好ましい。
【0058】
・正極用集電体
正極用集電体は、結着剤により一体化される正極活物質を含む正極活物質層を支持し、外部端子との導通を可能とする導電性を有するものであればよく、具体的には、上記負極集電体と同様のものを用いることができる。
【0059】
・正極の作製方法
正極電極の製造方法としては、特に制限はないが例えば、表面処理Mn系正極の粉体のみ、あるいは、表面処理Mn系正極の粉体とリチウムニッケル複合酸化物の粉体を、導電補助材および結着剤と共に、結着剤を溶解しうる適当な分散媒で混合(スラリー法)した上で、アルミ箔等の集電体上に塗布し、溶剤を乾燥した後、プレス等により圧縮して成膜する方法が挙げられる。尚、導電補助材としては特に制限は無く、カーボンブラック、アセチレンブラック、天然黒鉛、人工黒鉛、炭素繊維等の通常用いられるものを用いることができる。
【0060】
[3]電解液
電解液は、非プロトン性溶媒として、環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ラクトン類、環状エーテル類、鎖状エーテル類およびそれらのフッ素誘導体、からなる群から選択された一以上の溶媒を含むことができる。具体的には、たとえばプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1,2−ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、N−メチルピロリドンなどのうち、一種または二種以上を混合して使用することができる。
【0061】
本実施形態の二次電池用電解液において、さらに電解質としてリチウム塩を含む構成とすることができる。こうすることにより、リチウムイオンを移動物質とすることができるため、電池特性を向上させることができる。リチウム塩としてたとえばリチウムイミド塩、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiSbF
6、LiClO
4、LiAlCl
4、LiN(C
nF
2n+1SO
2)(C
mF
2m+1SO
2)(n、mは自然数)の中から選択された一以上の物質を含む構成とすることができる。また、特にLiPF
6またはLiBF
4を用いることが好ましい。これらを用いることにより、リチウム塩の電気伝導率を高めることができ、二次電池のサイクル特性をさらに向上させることができる。
【0062】
[4]セパレータ
セパレータとしては、特に制限されるものではないが、ポリプロピレン、ポリエチレン等の多孔質フィルムや不織布を用いることができる。また、セパレータとしては、それらを積層したものを用いることもできる。
【0063】
[5]外装体
外装体としては、特に制限されるものではないが、例えば、ラミネートフィルムを用いることができる。ラミネートフィルムとしては、電解液に安定でかつ十分な水蒸気バリア性を持つものであれば、適宜選択することができる。ラミネートフィルムとしては、例えば、外装体として、アルミニウム、シリカ、アルミナをコーティングしたポリプロピレン、ポリエチレン等のラミネートフィルムを用いることができる。特に、体積膨張を抑制する観点から、アルミニウムラミネートフィルムが好ましい。
【0064】
外装体としてラミネートフィルムを用いた二次電池の場合、外装体として金属缶を用いた二次電池に比べて、ガスが発生すると電極素子の歪みが非常に大きくなる。これは、ラミネートフィルムが金属缶に比べて二次電池の内圧により変形しやすいためである。さらに、外装体としてラミネートフィルムを用いた二次電池を封止する際には、通常、電池内圧を大気圧より低くするため、内部に余分な空間がなく、ガスが発生した場合にそれが直ちに電池の体積変化や電極素子の変形につながる場合がある。
【0065】
本実施形態に係る二次電池では、上記問題を克服することができる。それにより、安価かつ積層数の変更によるセル容量の設計の自由度に優れた、積層ラミネート型のリチウムイオン二次電池を提供することができる。ラミネートフィルムの代表的な層構成としては、金属薄膜層と熱融着性樹脂層とが積層された構成が挙げられる。また、ラミネートフィルムの代表的な層構成としては、その他にも、金属薄膜層の熱融着樹脂層と反対側の面に、さらにポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルやナイロン等のフィルムからなる保護層が積層された構成が挙げられる。電池要素を封止する場合、熱融着性樹脂層を対向させて電池要素が包囲される。金属薄膜層としては、例えば、厚さ10〜100μmの、Al、Ti、Ti合金、Fe、ステンレス、Mg合金などの箔が用いられる。熱融着性樹脂層に用いられる樹脂は、熱融着が可能な樹脂であれば特に制限はない。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、これらの酸変成物、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体やエチレン−アクリル酸共重合体を金属イオンで分子間結合させたアイオノマー樹脂などが、熱融着性樹脂層として用いられる。熱融着性樹脂層の厚さは10〜200μmが好ましく、より好ましくは30〜100μmである。
【0066】
[6]電池構成
二次電池の構成は、特に制限されるものではないが、例えば、正極および負極が対向配置された電極素子と、電解液と、が外装体に内包されている積層ラミネート型とすることができる。
図1は、積層ラミネート型の二次電池が有する電極素子の構造を示す模式的断面図である。この電極素子は、平面構造を有する正極1の複数および負極3の複数が、セパレータ2を挟みつつ交互に積み重ねられて形成されている。各正極1が有する正極集電体1bは、正極活物質層1aに覆われていない端部で互いに溶接されて電気的に接続され、さらにその溶接箇所に正極端子4が溶接されている。各負極3が有する負極集電体3bは、負極活物質層3aに覆われていない端部で互いに溶接されて電気的に接続され、さらにその溶接箇所に負極端子6が溶接されている。さらに、正極端子4は正極タブ5に、負極端子6は負極タブ7に溶接されている。このような平面的な積層構造を有する電極素子は、Rの小さい部分(捲回構造の巻き芯に近い領域)がないため、捲回構造を持つ電極素子に比べて、充放電に伴う電極の体積変化に対する悪影響を受けにくいという利点がある。すなわち、体積膨張を起こしやすい活物質を用いた電極素子として有効である。一方で、捲回構造を持つ電極素子では電極が湾曲しているため、体積変化が生じた場合にその構造が歪みやすい。特に、ケイ素酸化物のように充放電に伴う体積変化が大きい負極活物質を用いた場合、捲回構造を持つ電極素子を用いた二次電池では、充放電に伴う容量低下が大きい。
【0067】
ところが、平面的な積層構造を持つ電極素子には、電極間にガスが発生した際に、その発生したガスが電極間に滞留しやすい問題点がある。これは、捲回構造を持つ電極素子の場合には電極に張力が働いているため電極間の間隔が広がりにくいのに対して、積層構造を持つ電極素子の場合には電極間の間隔が広がりやすいためである。外装体がアルミラミネートフィルムであった場合、この問題は特に顕著となる。
【0068】
本発明では、皮膜形成添加剤を負極に含有させることにより、上記の問題を解決することができ、高エネルギー型の負極を用いた積層ラミネート型のリチウムイオン二次電池においても、長寿命駆動が可能となる。
【0069】
従って、本発明の一実施形態の二次電池は、正極および負極が対向配置された電極素子と、電解液と、前記電極素子および前記電解液を内包する外装体とを有する積層ラミネート型の二次電池であって、前記負極は、リチウムと合金可能な金属(a)およびリチウムイオンを吸蔵、放出し得る金属酸化物(b)の少なくとも1つを含む負極活物質を含み、かつ負極用結着剤によって負極集電体と結着されており、前記負極が皮膜形成添加剤を含む。これは、捲回構造を持つ電極素子を用いた二次電池においても有効である。
【0070】
[発明の他の実施の形態]
上記実施の形態において、表面処理Mn系正極を主とした正極活物質に、LiCoO
2等の一般的に正極活物質として知られている化合物を混合して用いることもできる。また、安全性等のためにLi
2CO
3等の通常用いられる添加物質をさらに加えることもできる。
【0071】
また、上記実施の形態において、電池の外装体としては、角型、ペーパー型、積層型、円筒型、コイン型など種々の形状を採用することが出来る。外装材料その他の構成部材は特に限定されるものではなく、電池形状に応じて選定すればよい。一例を挙げると、フィルム状外装体を、ポリエチレンテレフタレートなどの耐熱性樹脂膜に直接あるいは接着剤を介して前述の熱融着性樹脂膜をラミネートしたフィルム、あるいは熱融着性樹脂膜単独フィルムなどで構成することができる。
【0072】
また、本発明の一実施形態の二次電池は、上記実施の形態の二次電池を複数個組み合わせて組電池とすることができる。
【0073】
また、本明細書で記載した二次電池またはその組電池は、モーター駆動用電源としても最適であり、車両用途において使用できる。
【0074】
電解液は、スルホニル基を少なくとも2個有する環式スルホン酸エステルに加え、一以上のスルホニル基を有する化合物をさらに含む構成とすることもできる。
【実施例】
【0075】
以下に本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
皮膜形成添加剤として表1に示す化合物を用いた。
【0077】
【表1】
【0078】
(実施例1)
[負極の作製]
負極シートの作製には、天然黒鉛20g、導電性物質として人造黒鉛粉末0.88g、1.0質量%カルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液21gおよび皮膜形成添加剤としてジエチルアリルホスホナート(化合物1)0.04g(カーボンに対して0.2質量%)を混合した混合物を用いた。この混合物に、40質量%SBR水溶液1.0gを添加し、撹拌することで均一なスラリーを調製した。このスラリーを厚さ10μmの銅箔上に塗布し、80℃で20分乾燥後、さらにプレスすることで、厚さ100μmの負極シートを作製した。
【0079】
[コイン型セルの作製]
得られた負極シートを直径12mmの円状に打ち抜き、これを電解液に浸して、電極中の空隙に電解液を染み込ませた。電解液としては、1.0mol/LのLiPF
6電解質塩を含むエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート混合溶液(混合比3:7)を用いた。電解液を含浸させた電極に、電解液を含浸させたポリプロピレン多孔質フィルムセパレーターを積層した。さらにリチウム金属ディスクを対極として積層し、これをステンレス製コイン型電池外装体に入れ、かしめ機によって圧力を加え、密閉型のコイン型セルとした。
【0080】
[セル特性評価]
電極を電解液に含浸させてから30分経過後、20℃において、下限電圧0Vまで0.25mAの定電流で負極にLiイオンを吸蔵させたときの初期吸蔵容量を初回充電容量とした。また、前述の充電セルを0.25mAの定電流で上限電圧2Vまで放電後、0.5mAの定電流で下限電圧0Vまで再充電した。この再充電したセルに、定電流(0.5mA、1mA、1.5mA、2mA、2.5mA)を10秒間流したときの電流値と10秒後の電圧値をプロットし、その傾きを負極の初回抵抗値(内部抵抗値)として算出した。サイクル特性は、下限電圧0Vまで0.25mAの定電流で充電、0.25mAの定電流で上限電圧2Vまで放電したセルを用いて、20℃において定電流電圧で20サイクル充放電を行い、容量維持率が70%以上のセルを○、70%未満のセルを×とした。
【0081】
(実施例2)
皮膜形成添加剤として化合物1を0.12g(カーボンに対して0.6質量%)混合して負極を作製した以外は、実施例1と同様の評価を行った。
【0082】
(実施例3)
皮膜形成添加剤として化合物1を0.34g(カーボンに対して1.7質量%)混合して負極を作製した以外は、実施例1と同様の評価を行った。
【0083】
(実施例4)
皮膜形成添加剤としてジエチルフェニルホスホナート(化合物2)を0.04g(カーボンに対して0.2質量%)混合して負極を作製した以外は、実施例1と同様の評価を行った。
【0084】
(実施例5)
皮膜形成添加剤として化合物2を0.12g(カーボンに対して0.6質量%)混合して負極を作製した以外は、実施例1と同様の評価を行った。
【0085】
(実施例6)
皮膜形成添加剤として化合物2を0.34g(カーボンに対して1.7質量%)混合して負極を作製した以外は、実施例1と同様の評価を行った。
【0086】
(実施例7)
皮膜形成添加剤としてジエチル(2−オキソフェニルエチル)ホスホナート(化合物3)を0.04g(カーボンに対して0.2質量%)混合して負極を作製した以外は、実施例1と同様の評価を行った。
【0087】
(実施例8)
皮膜形成添加剤として化合物3を0.12g(カーボンに対して0.6質量%)混合して負極を作製した以外は、実施例1と同様の評価を行った。
【0088】
(実施例9)
皮膜形成添加剤として化合物3を0.34g(カーボンに対して1.7質量%)混合して負極を作製した以外は、実施例1と同様の評価を行った。
【0089】
(比較例1)
皮膜形成添加剤を添加せずに負極を作製した以外は、実施例1と同様の評価を行った。
【0090】
(比較例2)
皮膜形成添加剤に化合物1を用いて、添加量を1.1g(カーボンに対して5.5質量%)と変えて負極を作製した以外は、実施例1と同様の評価を行った。
【0091】
(比較例3)
皮膜形成添加剤に化合物2を用いて、添加量を1.1g(カーボンに対して5.5質量%)と変えて負極を作製した以外は、実施例1と同様の評価を行った。
【0092】
(比較例4)
皮膜形成添加剤に化合物3を用いて、添加量を1.1g(カーボンに対して5.5質量%)と変えて負極を作製した以外は、実施例1と同様の評価を行った。
【0093】
【表2】
【0094】
評価結果を表2に示す。表2は、負極スラリーに添加剤を入れた場合の初回充電容量、内部抵抗値およびサイクル特性を評価したものである。内部抵抗値は、添加剤なし(比較例1)に比べて、ホスホン酸エステルを添加した実施例1〜9の方が低くなった。実施例1〜9は、負極表面にホスホン酸エステルの皮膜が形成され、電解液の分解を抑制したためと思われる。一方、比較例1は皮膜形成添加剤を添加していないため、電解液の分解反応が進み皮膜が厚くなり抵抗値が高くなったと思われる。そして、比較例2〜4は実施例に比べて添加量が多いため、厚いポリマー状の皮膜が形成され抵抗値が上昇したと考えられる。また、充放電試験20サイクル後においては、実施例1〜9ではサイクル特性は良好であったのに対し、比較例1〜4ではサイクル特性が悪い結果となった。添加剤がない比較例1では、負極表面に良好な皮膜が形成されないため、電解液と負極表面の反応が起こる。そして、その分解物が負極表面に堆積するため、抵抗が上昇しサイクル特性は低下したと思われる。また、比較例2〜4では、負極上の皮膜が厚すぎるため、負極の内部抵抗が上昇しサイクル特性が低下したと思われる。