(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、車両用操舵装置の第1実施形態を図面に従って説明する。
(全体構成)
図1に示すように、車両用操舵装置1は、ステアリングホイール2が固定されるステアリングシャフト3と、ステアリングシャフト3の回転に応じて軸方向に往復動するラック軸5とを備えている。なお、ステアリングシャフト3は、ステアリングホイール2側から順にコラム軸7、中間軸8、及びピニオン軸9を連結することにより構成されている。
【0019】
ラック軸5とピニオン軸9とは、所定の交叉角をもって配置されており、ラック軸5に形成されたラック歯5aとピニオン軸9に形成されたピニオン歯9aとが噛合されることで転舵機構としてのラックアンドピニオン機構11が構成されている。また、ラック軸5の両端には、タイロッド12が連結されており、タイロッド12の先端は、転舵輪13が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。したがって、車両用操舵装置1では、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転がラックアンドピニオン機構11によりラック軸5の軸方向移動に変換され、この軸方向移動がタイロッド12を介してナックルに伝達されることにより、転舵輪13の転舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0020】
なお、本実施形態では、運転者のステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転が、後述する遊星歯車機構32を介して反転してラックアンドピニオン機構11に伝達されることを踏まえ、タイロッド12は、上記ナックルに対して転舵輪13の転舵中心よりも車両後方側に連結されている。これにより、車両の進行方向は、ラック軸5の移動方向とは反対方向、すなわちステアリングシャフト3の回転方向に変更される。
【0021】
また、車両用操舵装置1は、コラム軸7の途中に設けられ、モータとしての第1モータ(反力モータ)21及び第2モータ(出力モータ)22を駆動源としてアシスト力を付与する操舵力補助装置23と、操舵力補助装置23の作動を制御するECU24を備えている。つまり、車両用操舵装置1は、所謂コラム型の電動パワーステアリング装置として構成されている。また、本実施形態の操舵力補助装置23は、操舵系にアシスト力を付与する機能(EPS機能)に加え、ステアリングホイール2の操舵角に対する転舵輪13の転舵角の比率、すなわち入力側から出力側への回転伝達比(ステアリングギヤ比)を可変させる機能(VGR機能)を有している。
【0022】
(操舵力補助装置)
図2及び
図3に示すように、操舵力補助装置23は、コラム軸7が貫挿される円筒状のハウジング31を備えており、ハウジング31内には、遊星差動機構としての遊星歯車機構32、及びデフ機構33が収容されている。ハウジング31は、図示しない車両本体に固定されており、コラム軸7の回転によって回転しない非回転部位となっている。なお、以下の説明では、ハウジング31の一端側(
図3中、左側)を前側とし、ハウジング31の他端側(
図3中、右側)を後側とする。
【0023】
図3に示すように、ハウジング31は、略円筒状のフロントハウジング34と、略円筒状のエンドハウジング35とを互いに連結することにより構成されている。そして、フロントハウジング34内には、遊星歯車機構32が収容され、エンドハウジング35内には、デフ機構33が収容されている。
【0024】
コラム軸7は、ステアリングホイール2が連結される入力軸41と、中間軸8に連結される出力軸42とを備えており、遊星歯車機構32を介して互いに連結されている。入力軸41は、円柱状に形成されており、エンドハウジング35における後側の開口端35aとの間に設けられた軸受43を介して回転可能に支持されている。一方、出力軸42は、円柱状に形成された柱状部42a、柱状部42aにおけるフロントハウジング34内に配置された内端から径方向外側に延びた円環状のフランジ部42b、及びフランジ部42bから後側に延びた円筒状の筒状部42cを有している。そして、出力軸42は、その柱状部42aがフロントハウジング34における前側の開口端34aとの間に設けられた軸受44を介して回転可能に支持されている。また、フロントハウジング34の開口端34aにおける軸受44の支持位置よりも前側には、円環状の調整ネジ45が螺着されている。
【0025】
次に、遊星歯車機構の構成ついて説明する。
図3及び
図4に示すように、遊星歯車機構32は、入力軸41に連結された第1回転要素としての太陽歯車51と、出力軸42に連結された第2回転要素としての内歯車52と、太陽歯車51及び内歯車52の双方に噛合される複数の遊星歯車53と、各遊星歯車53を支持する第3回転要素としての遊星キャリヤ54とを備えている。
【0026】
詳述すると、
図3に示すように、太陽歯車51は、円環状に形成されており、入力軸41の外周に嵌合されることにより、該入力軸41と一体回転可能に連結されている。内歯車52は、円環状に形成されており、出力軸42における筒状部42cの先端に一体形成されることにより、該出力軸42と一体回転可能に連結されている。遊星キャリヤ54は、円板状に形成されたフロントプレート55及びエンドプレート56と、フロントプレート55とエンドプレート56とを連結する複数の連結部材57とを備えている。
【0027】
エンドプレート56内には、入力軸41が挿通されており、エンドプレート56は、入力軸41との間に設けられた軸受58を介して回転可能に支持されている。また、エンドプレート56には、後側に突出した段差部56aが形成されている。さらに、エンドプレート56には、前側に開口した複数の支持穴56bが周方向に等角度間隔で形成されている。フロントプレート55の中央部には、後側に開口する凹部55aが形成されるとともに、前側に突出する凸部55bが形成されている。凹部55a内には、入力軸41の先端が挿入されるとともに、凸部55bは、出力軸42のフランジ部42b内に挿入されている。そして、フロントプレート55は、凹部55aと入力軸41との間に設けられた軸受59a、及び凸部55bとフランジ部42bとの間に設けられた軸受59bを介して回転可能に支持されている。また、フロントプレート55には、後側に開口した複数の支持穴55cが周方向に等角度間隔で形成されている。なお、各支持穴55cは、エンドプレート56の支持穴56bよりもやや径方向内側に設けられている。そして、各連結部材57は、扇形状に形成されており、支持穴55c,56b間に配置された状態で、フロントプレート55とエンドプレート56とを一体回転可能に連結している。
【0028】
各遊星歯車53には、その軸方向両側に突出する支持部53aが形成されており、支持部53aは、フロントプレート55及びエンドプレート56の支持穴55c、56b内にニードルベアリング60を介してそれぞれ挿入されている。これにより、遊星歯車53は、入力軸41の回転に伴って該遊星歯車53の軸線周りに自転しつつ、太陽歯車51の周囲を公転(周回)する。また、上記のようにフロントプレート55の支持穴55cは、エンドプレート56の支持穴56bよりもやや径方向内側に設けられていることから、遊星歯車53の軸線は、太陽歯車51及び内歯車52(入力軸41及び出力軸42)の各軸線に対して傾斜している。つまり、太陽歯車51の歯部51a、内歯車52の歯部52a、及び遊星歯車53の歯部53b(
図4参照)は、テーパ状に形成されている。
【0029】
次に、第1モータと遊星歯車機構との連結構造について説明する。
図5に示すように、第1モータ21は、ウォーム軸61とウォームホイール62とを噛合してなる第1ウォーム減速機63を介して遊星キャリヤ54のエンドプレート56に連結されている。なお、本実施形態の第1モータ21には、三相のブラシレスモータが採用されており、第1モータ21には、そのロータの回転角である第1モータ回転角θm1を検出する第1レゾルバ64が設けられている。
【0030】
詳しくは、フロントハウジング34の周壁におけるエンドプレート56と径方向に対向する位置には、有底円筒状の第1ギヤ収容部65が形成されている。第1ギヤ収容部65は、その軸線がフロントハウジング34の軸線に対して直交する方向に延びるとともに、第1ギヤ収容部65の内部がフロントハウジング34の内部に連通するように形成されている。第1モータ21は、第1ギヤ収容部65の開口端に固定されている。そして、第1モータ21に連結されたウォーム軸61は、第1ギヤ収容部65内において、該第1ギヤ収容部65の底部側に設けられた軸受66を介して回転可能に収容されている。一方、ウォームホイール62は、ウォーム軸61と噛合した状態でエンドプレート56の外周に一体回転に固定されている。
【0031】
なお、軸受66は、円弧状に湾曲した湾曲板バネ67を介して第1ギヤ収容部65の内周に設けられており、湾曲板バネ67の付勢力によってウォームホイール62に近接する方向に押し付けられている。これにより、ウォーム軸61とウォームホイール62との間の軸間距離が調整され、これらの間のバックラッシュが除去されている。
【0032】
次に、第2モータと遊星歯車機構との連結構造について説明する。
図4に示すように、第2モータ22は、ウォーム軸71とウォームホイール72とを噛合してなる第2ウォーム減速機73を介して内歯車52に連結されている。なお、本実施形態の第2モータ22には、三相のブラシレスモータが採用されており、第2モータ22には、そのロータの回転角である第2モータ回転角θm2を検出する第2レゾルバ74が設けられている。
【0033】
詳しくは、フロントハウジング34の周壁における内歯車52と径方向に対向する位置には、有底円筒状の第2ギヤ収容部75が形成されている。第2ギヤ収容部75は、その軸線がフロントハウジング34の軸線に対して直交する方向に延びるとともに、第2ギヤ収容部75の内部がフロントハウジング34の内部に連通するように形成されている。第2モータ22は、第2ギヤ収容部75の開口端に固定されている。そして、第2モータ22に連結されたウォーム軸71は、第2ギヤ収容部75内において、該第2ギヤ収容部75の底部側に設けられた軸受76を介して回転可能に収容されている。一方、ウォームホイール72は、ウォーム軸71と噛合した状態で内歯車52の外周に一体回転に固定されている。
【0034】
なお、軸受76は、上記第1ウォーム減速機63のウォーム軸71を支持する軸受66と同様に、円弧状に湾曲した湾曲板バネ77を介して第2ギヤ収容部75の内周に設けられており、湾曲板バネ77の付勢力によってウォームホイール72に近接する方向に押し付けられている。
【0035】
次に、デフ機構の構成について説明する。
図3に示すように、デフ機構33は、入力軸41に連結された入力リングギヤ81と、遊星キャリヤ54に連結された出力リングギヤ82と、エンドハウジング35内に回転可能に支持されるデフキャリヤ83と、デフキャリヤ83に回転可能に支持されたデフピニオン84と備えている。
【0036】
詳しくは、入力リングギヤ81及び出力リングギヤ82は、それぞれ円環状に形成されたベベルギヤにより構成されている。入力リングギヤ81は、入力軸41の外周に嵌合されることにより、該入力軸41と一体回転可能に連結されている。出力リングギヤ82は、遊星キャリヤ54を構成するエンドプレート56に形成された段差部56aに嵌合されることにより、遊星キャリヤ54と一体回転可能に連結されている。デフキャリヤ83は、円筒状に形成されており、その両端がエンドハウジング35の内周との間に設けられた軸受85a,85bを介して回転可能に支持されている。
【0037】
図6に示すように、デフキャリヤ83の軸方向中央部には、径方向内側に延出される円環状の延出部83aが形成されるとともに、延出部83aには、軸方向に貫通した複数の支持孔83bが周方向に等角度間隔で形成されている。各デフピニオン84は、円柱状に形成されており、その両端が軸受86a,86bによって回転可能に支持された状態で支持孔83bに配置されている。これにより、各デフピニオン84は、デフキャリヤ83内で入力軸41の軸線と直交する軸線周りに回転可能に支持されている。また、各デフピニオン84には、入力リングギヤ81と噛合する入力デフギヤ87、及び出力リングギヤ82と噛合する出力デフギヤ88が一体回転可能に設けられている。なお、本実施形態のデフ機構33では、デフキャリヤ83のハウジング31に対する相対回転が規制された状態での入力リングギヤ81から出力リングギヤ82への回転伝達比は、入力軸41から出力軸42への回転伝達比を所定伝達比(例えば、「−1」)とした場合の太陽歯車51から遊星キャリヤ54への回転伝達比と同一に設定されている。
【0038】
図7に示すように、デフキャリヤ83の外周面には、複数の係合溝83cが形成されている。一方、エンドハウジング35には、係合溝83cと径方向において対向する位置に貫通孔35bが形成されている。また、エンドハウジング35の外周面における貫通孔35bに臨む位置には、ソレノイド91が設けられている。さらに、貫通孔35bには、入力軸41と平行な軸線周りに回動可能なレバー92が設けられている。レバー92は、略L字の棒状に形成されている。そして、レバー92の一端には、係合溝83cに係合可能な爪部92aが形成されるとともに、レバー92の他端には、ソレノイド91のプランジャ93に連結される連結部92bが形成されている。
【0039】
これにより、レバー92はプランジャ93の往復動に伴って回動し、爪部92aが係合溝83cに係合することで、デフキャリヤ83のエンドハウジング35に対する相対回転が規制される。一方、爪部92aが係合溝83cから離脱することで、デフキャリヤ83のエンドハウジング35に対する相対回転が許容される。そして、デフキャリヤ83の相対回転が許容された状態では、入力軸41の回転に伴ってデフキャリヤ83が回転することで、該入力軸41の回転はデフ機構33を介しては遊星キャリヤ54に伝達されなくなる。一方、デフキャリヤ83の相対回転が規制された状態では、入力軸41の回転が入力リングギヤ81からデフピニオン84及び出力リングギヤ82を介して遊星キャリヤ54に伝達される。つまり、本実施形態では、デフ機構33が入力軸41の回転を所定伝達比で遊星キャリヤ54に伝達可能な伝達機構として機能する。
【0040】
以上のように構成された操舵力補助装置23では、ステアリング操作に伴う入力軸41の回転は、該入力軸41に連結された太陽歯車51から遊星歯車53(遊星キャリヤ54)を介して反転して内歯車52(出力軸42)に伝達される。また、第1モータ21の駆動に基づく遊星キャリヤ54の回転が上記ステアリング操作に基づく回転に上乗せされて出力軸42へと伝達される。これにより、入力軸41と出力軸42との間の回転伝達比が変更されるとともに、第1モータ21のモータトルクがアシスト力として操舵系(出力軸42)に付与される。さらに、本実施形態では、第2モータ22により出力軸42が回転駆動されることにより、該第2モータ22のモータトルクがアシスト力として操舵系(出力軸42)に付与される。
【0041】
また、上記調整ネジ45を回転させ、該調整ネジ45を出力軸42の軸方向に移動させる(螺進退させる)と、出力軸42と一体形成された内歯車52が軸方向移動することで、該内歯車52、太陽歯車51及び遊星歯車53の軸方向の相対位置が変化する。ここで、上記のように遊星歯車53の軸線が太陽歯車51及び内歯車52の各軸線に対して傾斜しているため(
図3参照)、これら太陽歯車51、内歯車52及び遊星歯車53の軸方向の相対位置が変化することで、これらの歯部間のバックラッシュが調整される。つまり、本実施形態では、フロントハウジング34及び調整ネジ45により、調整機構が構成されている。
【0042】
(ECU)
図1に示すように、ECU24には、車両の車速SPDを検出する車速センサ101、及びステアリングホイール2の操舵角θhを検出するステアリングセンサ(操舵角センサ)102が接続されている。また、ECU24には、上記第1モータ21の第1モータ回転角θm1を検出する第1レゾルバ64、及び第2モータ22の第2モータ回転角θm2を検出する第2レゾルバ74が接続されている。そして、ECU24は、これらの各状態量に基づいて第1及び第2モータ21,22にそれぞれ駆動電力を供給することにより、操舵力補助装置23の作動を制御し、入力軸41から出力軸42への回転伝達比を変更しつつ、操舵系にアシスト力を付与する構成となっている。
【0043】
詳述すると、
図8に示すように、ECU24は、第1及び第2モータ制御信号をそれぞれ出力する制御装置としてのマイコン103と、第1モータ制御信号に基づいて第1モータ21に駆動電力を供給する第1駆動回路104と、第2モータ制御信号に基づいて第2モータ22に駆動電力を供給する第2駆動回路105とを備えている。なお、以下に示す各制御ブロックは、マイコン103が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものである。そして、マイコン103は、所定のサンプリング周期(検出周期)で各状態量を検出し、所定の演算周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行することにより、各モータ制御信号を出力する。
【0044】
なお、第1駆動回路104には、直列に接続された一対のスイッチング素子(例えば、FET等)を基本単位(スイッチングアーム)として、第1モータ21の各相のモータコイル21u,21v,21wに対応する3つのスイッチングアームを並列に接続してなる周知のPWMインバータが採用されている。同様に、第2駆動回路105には、第2モータ22の各相のモータコイル22u,22v,22wに対応する3つのスイッチングアームを並列に接続してなる周知のPWMインバータが採用されている。また、マイコン103の出力する各モータ制御信号は、各スイッチング素子のオンオフ状態(オンDUTY比)を規定するものとなっている。そして、第1駆動回路104は、第1モータ制御信号の入力により作動して、その印加される電源電圧に基づく三相の駆動電力を第1モータ21に供給し、第2駆動回路105は、第2モータ制御信号の入力により作動して、その印加される電源電圧に基づく三相の駆動電力を第2モータ22に供給する。
【0045】
マイコン103には、第1モータ制御信号を出力する第1モータ制御部111、及び第2モータ制御信号を出力する第2モータ制御部112が設けられている。第1モータ制御部111には、上記操舵角θh、車速SPD、第1モータ回転角θm1及び第2モータ回転角θm2に加え、第1電流センサ113u,113vにより検出される第1モータ21のU相及びV相の相電流値Iu1,Iv1が入力される。そして、第1モータ制御部111は、これら各状態量に基づいて所定の演算周期毎に第1モータ制御信号を出力する。一方、第2モータ制御部112には、上記車速SPD及び第2モータ回転角θm2に加え、第2電流センサ114u,114vにより検出される第2モータ22のU相及びV相の相電流値Iu2,Iv2が入力される。そして、第2モータ制御部112は、これら各状態量に基づいて所定の演算周期毎に第2モータ制御信号を出力する。
【0046】
なお、マイコン103は、第1及び第2モータ21,22の相電流値Iu1,Iv1,Iu2,Iv2、第1モータ回転角θm1及び第2モータ回転角θm2等に基づいて第1モータ21の駆動が不能になった場合や、適切な第1モータ回転角θm1又は第2モータ回転角θm2を検出できなくなった場合には、ソレノイド91の作動を制御して上記デフキャリヤ83の回転を拘束するとともに、第1及び第2モータ21,22を停止させる。これにより、操舵力補助装置23の故障時においても、運転者のステアリング操作に基づいて継続して車両の進行方向の変更が可能となっている。
【0047】
次に、第1モータ制御部について説明する。
図9に示すように、第1モータ制御部111には、入力軸41から出力軸42への目標回転伝達比Gvgr*を演算する目標回転伝達比演算部121と、目標回転伝達比Gvgr*及び内歯車52の実際の角速度に相当する値を示す角速度検出値ωi_dに基づいて遊星キャリヤ54の角速度の目標値である角速度指令値ωc*を演算する角速度指令値演算部122とが設けられている。また、第1モータ制御部111には、角速度指令値ωc*に基づいて第1モータ21に対する電力供給の目標値である電流指令値(q軸電流指令値Iq1*)を演算する第1電流指令値演算部123と、この電流指令値に基づいて第1モータ制御信号を上記第1駆動回路104に出力する第1モータ制御信号出力部124が設けられている。
【0048】
詳述すると、目標回転伝達比演算部121には、上記操舵角θh及び車速SPDが入力される。また、目標回転伝達比演算部121には、
図10に示すような操舵角θh及び車速SPDと目標回転伝達比Gvgr*とが関連付けられた伝達比マップが設けられている。そして、目標回転伝達比演算部121は、伝達比マップを参照することにより、操舵角θh及び車速SPDに基づいた目標回転伝達比Gvgr*を演算する。具体的には、伝達比マップは、操舵角θhの絶対値が大きいほど(ステアリングエンドに近いほど)、また車速SPDが低いほど大きな値(絶対値)を有する目標回転伝達比Gvgr*が演算されるように設定されている。なお、本実施形態では、上記のように入力軸41の回転は、遊星歯車機構32を介して反転して出力軸42に伝達されるため、目標回転伝達比Gvgr*は、マイナスの値に設定されている。
【0049】
図9に示すように、角速度指令値演算部122には、目標回転伝達比Gvgr*に加え、内歯車52の角速度検出値ωi_dが入力される。なお、本実施形態の内歯車52の角速度検出値ωi_dは、第2レゾルバ74により検出される第2モータ回転角θm2を微分して得られた第2モータ角速度ωm2を、減速比換算部125で第2ウォーム減速機73の減速比Gw2で除算することより得られる。つまり、本実施形態では、第2レゾルバ74及びマイコン103により第2角速度検出器が構成されている。そして、角速度指令値演算部122は、入力された内歯車52の角速度検出値ωi_d、及び上記目標回転伝達比演算部121で演算された目標回転伝達比Gvgr*に応じて一義的に決まる遊星キャリヤ54の角速度を目標角速度である角速度指令値ωc*として演算する。換言すると、角速度指令値演算部122は、運転者のステアリング操作に伴う太陽歯車51の回転が目標回転伝達比Gvgr*で伝達されることにより、内歯車52の角速度検出値ωi_dが生じるように角速度指令値ωc*を演算する。
【0050】
ここで、遊星歯車機構32においては、各回転要素(太陽歯車51、内歯車52及び遊星キャリヤ54)のうち、2つの回転要素の角速度が決まると、残りの回転要素の角速度が一義的に決まる。そのため、例えば太陽歯車51の角速度ωsが決められた場合において、遊星キャリヤ54の角速度ωcを変更すると、この遊星キャリヤ54の角速度ωcに応じて内歯車52の角速度ωiが変化する。つまり、太陽歯車51から内歯車52(入力軸41から出力軸42)への回転伝達比は、遊星キャリヤ54の角速度ωcに応じて変化する。このことから、内歯車52の角速度ωiと回転伝達比Gvgrを決めれば、太陽歯車51の角速度ωs及び遊星キャリヤ54の角速度ωcも一義的に決まる。
【0051】
この点を踏まえ、角速度指令値演算部122は、
図11に示すような各回転要素間の角速度の関係を示す共線図(Kutzbach Speed Diagram for Planetary Transmissions又はKutzbach Chart)に基づいて遊星キャリヤ54の角速度指令値ωc*を演算する。なお、この共線図では、遊星キャリヤ54の角速度ωcを示す角速度軸の一方側に、太陽歯車51の角速度ωsを示す角速度軸が平行に配置されるとともに、他方側に内歯車52の角速度ωiを示す角速度軸が平行に配置されている。そして、遊星キャリヤ54の角速度軸と太陽歯車51の角速度軸との間の間隔Dsと、遊星キャリヤ54の角速度軸と内歯車52の角速度軸との間の間隔Diとの比は、太陽歯車51の歯数Zsと内歯車52の歯数Ziとの比の逆(Ds:Di=Zi:Zs)になっている。このように作図された共線図中において、太陽歯車51の角速度ωsと、内歯車52の角速度ωiと、遊星キャリヤ54の角速度ωcとの関係は、各角速度軸と任意の直線との交点の位置関係で示される。
【0052】
具体的には、例えば太陽歯車51が
図11の交点Nsで示す角速度ωsで回転するとともに、遊星キャリヤ54が
図11の交点Ncで示す角速度ωcで回転する場合、内歯車52は、該内歯車52の角速度軸と交点Nsと交点Ncとを結ぶ直線Lとが交差する交点Niで示す角速度ωiで回転することになる。
【0053】
こうした共線図において、
図11中、便宜上ハッチングを付した2つの三角形は互いに相似の関係を満たすことから、太陽歯車51の角速度ωs、内歯車52の角速度ωi、遊星キャリヤ54の角速度ωc、太陽歯車51の歯数Zs及び内歯車52の歯数Ziの間には、下記(1)式が成立する。
【0054】
【数1】
また、入力軸41から出力軸42への回転伝達比Gvgrは、太陽歯車51の角速度ωs、内歯車52の角速度ωiを用いて下記(2)式で表される。
【0055】
Gvgr=ωi/ωs …(2)
これら上記(1)式及び(2)式に基づいて太陽歯車51の角速度ωsを消去し、遊星キャリヤ54の角速度ωcについて整理すると下記(3)が得られる。
【0056】
【数2】
そして、角速度指令値演算部122は、上記(3)式に対し、回転伝達比Gvgrに目標回転伝達比Gvgr*を代入するとともに、内歯車52の角速度ωiに角速度検出値ωi_dを代入することで得られる遊星キャリヤ54の角速度ωcを角速度指令値ωc*として演算し、第1電流指令値演算部123に出力する。
【0057】
図9に示すように、第1電流指令値演算部123には、角速度指令値ωc*に加え、第1モータ回転角θm1が入力される。そして、第1電流指令値演算部123は、これら各状態量に基づいて角速度指令値ωc*に遊星キャリヤ54の実際の角速度を追従させるべく速度フィードバック制御を実行することにより、第1モータ回転角θm1に従う二相回転座標系(d/q座標系)のq軸電流指令値Iq1*を演算する。
【0058】
詳しくは、遊星キャリヤ54の実際の角速度に相当する値を示す角速度検出値ωc_dは、第1レゾルバ64により検出される第1モータ回転角θm1を微分して得られた第1モータ角速度ωm1を、減速比換算部126で第1ウォーム減速機63の減速比Gw1で除算することより得られる。つまり、本実施形態では、第1レゾルバ64及びマイコン103により第3角速度検出器が構成されている。このように演算された角速度検出値ωc_dは、上記角速度指令値演算部122で演算された角速度指令値ωc*とともに減算器127に入力される。減算器127は、角速度偏差Δωcを演算してF/B(フィードバック)制御部128に出力する。そして、F/B制御部128は、角速度指令値ωc*に角速度検出値ωc_dを追従させるべくフィードバック演算を実行することにより、q軸電流指令値Iq1*を演算し、第1モータ制御信号出力部124に出力する。より詳しくは、F/B制御部128は、角速度偏差Δωcに比例ゲインを乗ずることにより得られる比例成分、及び角速度偏差Δωcの積分値に積分ゲインを乗ずることにより得られる積分成分を足し合わせることで、q軸電流指令値Iq1*を演算し、第1モータ制御信号出力部124に出力する。なお、本実施形態では、d軸電流指令値Id1*はゼロに固定される(Id1*=0)。
【0059】
第1モータ制御信号出力部124には、上記第1電流指令値演算部123の演算するq軸電流指令値Iq1*とともに、各相電流値Iu1,Iv1及び第1モータ回転角θm1が入力される。そして、第1モータ制御信号出力部124は、これら各状態量に基づいてd/q座標系における電流フィードバック制御を実行することにより、上記第1駆動回路104に出力する第1モータ制御信号を演算する。
【0060】
詳しくは、第1モータ制御信号出力部124に入力された各相電流値Iu1,Iv1は、d/q変換部131に入力される。d/q変換部131は、キルヒホッフの法則により各相電流値Iu1,Iv1,Iw1の総和がゼロになる(Iu1+Iv1+Iw1=0)ことを踏まえ、各相電流値Iu1,Iv1に基づいてW相の相電流値Iw1を演算する。そして、d/q変換部131は、第1モータ回転角θm1に基づいて各相電流値Iu1,Iv1,Iw1をd/q座標上に写像することにより、d軸電流値Id1及びq軸電流値Iq1を演算する。続いて、q軸電流値Iq1は、第1電流指令値演算部123から入力されたq軸電流指令値Iq1*とともに減算器132qに入力され、d軸電流値Id1は、d軸電流指令値Id1*とともに減算器132dに入力される。そして、各減算器132d,132qは、d軸電流偏差ΔId1及びq軸電流偏差ΔIq1を演算し、F/B制御部133d,133qに出力する。なお、q軸電流値Iq1は、後述する第2モータ制御部112にも出力する。
【0061】
これら各F/B制御部133d,133qは、d軸電流指令値Id1*及びq軸電流指令値Iq1*に実電流値であるd軸電流値Id1及びq軸電流値Iq1を追従させるべく、フィードバック演算を実行することにより、d軸電圧指令値Vd1*及びq軸電圧指令値Vq1*を演算し、d/q逆変換部134に出力する。より詳しくは、F/B制御部133d,133qは、d軸電流偏差ΔId1及びq軸電流偏差ΔIq1にそれぞれ比例ゲインを乗ずることにより得られる比例成分、及びこれらd軸電流偏差ΔId1及びq軸電流偏差ΔIq1の積分値にそれぞれ積分ゲインを乗ずることにより得られる積分成分を演算する。そして、これらの各比例成分及び各積分成分をそれぞれ加算することにより、d軸電圧指令値Vd1*及びq軸電圧指令値Vq1*を演算し、d/q逆変換部134に出力する。
【0062】
d/q逆変換部134は、第1モータ回転角θm1に基づいてd軸電圧指令値Vd1*及びq軸電圧指令値Vq1*を三相の交流座標上に写像することにより三相の相電圧指令値Vu1*,Vv1*,Vw1*を演算し、PWM変換部135に出力する。PWM変換部135は、各相電圧指令値Vu1*,Vv1*,Vw1*に基づくDUTY指令値を演算するとともに、その各DUTY指令値に示されるオンDUTY比を有する第1モータ制御信号を生成し、上記第1駆動回路104に出力する。これにより、第1モータ制御信号に応じた駆動電力が第1モータ21に出力され、駆動電力に応じたモータトルクが第1ウォーム減速機63を介して遊星キャリヤ54に伝達される。
【0063】
次に、第2モータ制御部について説明する。
図12に示すように、第2モータ制御部112には、運転者が付与した操舵トルクの推定値である推定操舵トルクTs^を演算する推定操舵トルク演算部141と、推定操舵トルクTs^に基づいて第2モータ22で発生させるトルクの目標値であるトルク指令値T2*を演算するトルク指令値演算部142とが設けられている。また、第2モータ制御部112には、トルク指令値T2*に基づいて第2モータ22に対する電力供給の目標値である電流指令値(q軸電流指令値Iq2*)を演算する第2電流指令値演算部143と、この電流指令値に基づいて第2モータ制御信号を上記第2駆動回路105に出力する第2モータ制御信号出力部144が設けられている。
【0064】
詳しくは、推定操舵トルク演算部141には、車速SPD及び第1モータ21に流れるq軸電流値Iq1が入力される。推定操舵トルク演算部141は、下記(4)式を用いることにより、q軸電流値Iq1に基づいて第1モータ21で発生したトルクT1を演算する。
【0065】
T1=Iq1×Kt1 …(4)
なお、「Kt1」は第1モータ21のトルク定数を示す。また、第1ウォーム減速機63の減速比を「Gw1」、トルクの伝達効率を「η1」とすると、遊星キャリヤ54のトルクTcは下記(5)で表される。
【0066】
Tc=T1×Gw1×η1 …(5)
そして、推定操舵トルク演算部141は、上記(5)式と遊星歯車機構32における各要素間の力の釣り合いとに基づいて推定操舵トルクTs^を演算する。
【0067】
先ず、
図13に示す遊星歯車機構32の模式図に従って力の釣り合いについて説明する。遊星歯車53が等速で自転及び公転する(停止状態を含む)状態、すなわち遊星歯車機構32の各回転要素に作用する力が釣り合っている状態では、下記(6)式が成立する。
【0068】
Ws=Wi=−Wc/2 …(6)
なお、「Ws」は太陽歯車51から遊星歯車53に作用する荷重を示し、「Wi」は内歯車52から遊星歯車53に作用する荷重を示し、「Wc」は遊星キャリヤ54から遊星歯車53に作用する荷重を示す。また、太陽歯車51から遊星歯車53に作用するトルクTs、内歯車52から遊星歯車53に作用するトルクTi、及び遊星キャリヤ54から遊星歯車53に作用するトルクTcは、それぞれ下記(7)〜(9)式で表される。
【0069】
【数3】
なお、「rs」は太陽歯車51の中心から遊星歯車53との噛み合い位置までの長さを示し、「ri」内歯車52の中心から遊星歯車53との噛み合い位置までの長さを示し、「rc」は遊星キャリヤ54の中心から遊星歯車53の支持位置までの長さを示し、「m」は遊星歯車機構32のモジュールを示す。したがって、遊星歯車53に作用する力が釣り合っている場合には、上記(7)〜(9)式を(6)式に代入することにより、下記(10)式が成立することになり、太陽歯車51から遊星歯車53に作用するトルクTs(運転者が付与する操舵トルク)は下記(11)で表される。
【0070】
【数4】
ここで、上記のように第1モータ制御部111は角速度指令値ωc*に遊星キャリヤ54の角速度検出値ωc_dが追従するように第1モータ21の作動を制御する。そして、第1モータ制御部111の演算周期は、運転者のステアリング操作により操舵角θh等が変化するのにかかる時間と比べると極めて短いため、角速度指令値ωc*演算周期毎に大きくは変化しない。そのため、運転者のステアリング操作により操舵角θh等が変化するのにかかる時間と比べて十分に短い時間間隔では、第1モータ21の作動により、遊星キャリヤ54の角速度検出値ωc_dが角速度指令値ωc*に追従し、遊星キャリヤ54が角速度指令値ωc*付近の角速度で等速(一定速度で)回転していると近似することができる。この点を踏まえ、推定操舵トルク演算部141は、上記(11)式を用い、遊星キャリヤ54のトルクTcに上記(5)を用いて演算された値を代入することにより得られる太陽歯車51のトルクTsを推定操舵トルクTs^として演算し、トルク指令値演算部142に出力する。
【0071】
トルク指令値演算部142には、
図14に示すような推定操舵トルクTs^及び車速SPDと、運転者が操舵に必要なトルクの目標値である目標負荷トルクTs_gとが関連付けられたアシストマップが設けられている。アシストマップは、推定操舵トルクTs^の絶対値が大きいほど、また車速SPDが低いほど大きな値(絶対値)を有する目標負荷トルクTs_gが演算されるように設定されている。なお、本実施形態では、推定操舵トルクTs^の絶対値が所定トルク未満の小さな範囲では、目標負荷トルクTs_gが推定操舵トルクTs^よりも大きくなるように設定されている。トルク指令値演算部142は、当該アシストマップを参照することにより、推定操舵トルクTs^及び車速SPDに基づいた目標負荷トルクTs_gを演算し、この目標負荷トルクTs_gと推定操舵トルクTs^との差分トルクΔTを演算する。そして、トルク指令値演算部142は、差分トルクΔTを第2ウォーム減速機73の減速比Gw2及び伝達効率η2で除算した値(ΔT/(Gw2×η2))の積算値をトルク指令値T2*として第2電流指令値演算部143に出力する。
【0072】
なお、第2モータ22で発生するトルクT2に応じて第1モータ21で発生させるトルク、すなわち第1モータ21に供給する駆動電力(q軸電流値Iq1)が変化すると、推定操舵トルクTs^は、車速SPDに応じた目標負荷トルクTs_gを示す曲線と、目標負荷トルクTs_gが推定操舵トルクTs^の値と等しいと仮定した場合の直線との交点に近づき、差分トルクΔTが小さくなる。そして、推定操舵トルクTs^が車速SPDに応じた目標負荷トルクTs_gと一致すると、差分トルクΔTがゼロとなり、第2モータ22で一定のトルクT2が発生するようになる。つまり、ステアリング操作を行う際に、運転者は車速SPDに応じた一定の操舵トルクが必要となるようになっている。
【0073】
図12に示すように、第2電流指令値演算部143は、トルク指令値T2*を第2モータ22のトルク定数Kt2で除算した値(T2*/Kt2)を、第2モータ回転角θm2に従う二相回転座標系(d/q座標系)の電流指令値であるq軸電流指令値Iq2*として演算し、第2モータ制御信号出力部144に出力する。なお、本実施形態では、d軸電流指令値Id2*はゼロに固定される(Id2*=0)。
【0074】
第2モータ制御信号出力部144には、上記第2電流指令値演算部143の演算するq軸電流指令値Iq2*とともに、第2モータ22の各相電流値Iu2,Iv2及び第2モータ回転角θm2が入力される。そして、第2モータ制御信号出力部144は、これら各状態量に基づいてd/q座標系における電流フィードバック制御を実行することにより、上記第2駆動回路105に出力する第2モータ制御信号を演算する。
【0075】
詳しくは、第2モータ制御信号出力部144に入力された各相電流値Iu2,Iv2は、d/q変換部151に入力される。d/q変換部151は、第1モータ制御部111の第1モータ制御信号出力部124と同様に、各相電流値Iu2,Iv2に基づいてW相の相電流値Iw2を演算し、d/q変換部151に出力する。そして、d/q変換部151は、第2モータ回転角θm2に基づいて各相電流値Iu2,Iv2,Iw2をd/q座標上に写像することにより、d軸電流値Id2及びq軸電流値Iq2を演算する。続いて、q軸電流値Iq2は、第2電流指令値演算部143から入力されたq軸電流指令値Iq2*とともに減算器152qに入力され、d軸電流値Id2は、d軸電流指令値Id2*とともに減算器152dに入力される。そして、各減算器152d,152qは、d軸電流偏差ΔId2及びq軸電流偏差ΔIq2を演算し、F/B制御部153d,153qに出力する。
【0076】
これら各F/B制御部153d,153qは、d軸電流指令値Id2*及びq軸電流指令値Iq2*に実電流値であるd軸電流値Id2及びq軸電流値Iq2を追従させるべくフィードバック演算を実行することにより、d軸電圧指令値Vd2*及びq軸電圧指令値Vq2*を演算し、d/q逆変換部154に出力する。より詳しくは、F/B制御部153d,153qは、d軸電流偏差ΔId2及びq軸電流偏差ΔIq2にそれぞれ比例ゲインを乗ずることにより得られる比例成分、及びこれらd軸電流偏差ΔId2及びq軸電流偏差ΔIq2の積分値にそれぞれ積分ゲインを乗ずることにより得られる積分成分を演算する。そして、これらの各比例成分及び各積分成分をそれぞれ加算することにより、d軸電圧指令値Vd2*及びq軸電圧指令値Vq2*を演算し、d/q逆変換部154に出力する。
【0077】
d/q逆変換部154は、第2モータ回転角θm2に基づいてd軸電圧指令値Vd2*及びq軸電圧指令値Vq2*を三相の交流座標上に写像することにより三相の相電圧指令値Vu2*,Vv2*,Vw2*を演算し、PWM変換部155に出力する。PWM変換部155は、第1モータ制御部111のPWM変換部155と同様に、各相電圧指令値Vu2*,Vv2*,Vw2*に基づく第2モータ制御信号を生成し、上記第2駆動回路105に出力する。これにより、第2モータ制御信号に応じた駆動電力が第2モータ22に出力され、駆動電力に応じたモータトルクが第2ウォーム減速機73を介して内歯車52に伝達される。
【0078】
(作用)
次に、本実施形態の操舵力補助装置の動作ついて
図15及び
図16に従って説明する。
例えば操舵角θhがステアリング中立位置付近にある状態から、運転者がステアリング操作を開始した場合、ECU24(マイコン103)は、車速SPD及び操舵角θhに応じた目標回転伝達比Gvgr*を演算する。このとき、瞬間的には、ステアリング操作に伴う入力軸41(太陽歯車51)の回転に連動して遊星キャリヤ54が太陽歯車51と同方向に回転する。一方、操舵を開始した瞬間には、転舵輪13は路面との間の摩擦力により転舵していないため、内歯車52の角速度検出値ωi_dがゼロとなり、マイコン103は、遊星キャリヤ54の目標角速度である角速度指令値ωc*をゼロとする。すなわち、太陽歯車51の角速度ωsと、内歯車52の角速度ωiと、遊星キャリヤ54の角速度ωcとの関係は、各角速度軸と
図16において一点鎖線で示す直線との交点の位置関係で表される。
【0079】
その結果、遊星キャリヤ54の角速度検出値ωc_dと角速度指令値ωc*との間に角速度偏差Δωcが生じることで、マイコン103は、該角速度偏差Δωcを打ち消すように第1モータ21の作動を制御する。このとき第1モータ21で発生するトルクが転舵輪13と路面との間の摩擦力を下回ると、転舵輪13は転舵せず、第1モータ21によってステアリングホイール2の回転が規制される。一方、第1モータ21で発生するトルクが転舵輪13と路面との間の摩擦力を上回ると、遊星キャリヤ54とともに、内歯車52(出力軸42)が回転する。すなわち、太陽歯車51の角速度ωsと、内歯車52の角速度ωiと、遊星キャリヤ54の角速度ωcとの関係は、各角速度軸上と
図16において二点鎖線で示す直線との交点の位置関係で表されるように変化する。そして、遊星キャリヤ54の角速度が角速度指令値ωc*に追従するように第1モータ21の作動が制御されることにより、遊星歯車機構32における各回転要素間の力の釣り合いが図られる。その結果、運転者のステアリング操作により操舵角θh等が変化するのにかかる時間と比べて十分に短い時間間隔では、遊星キャリヤ54を略等速で回転させることにより、太陽歯車51(入力軸41)が略等速で回転する状態となる。
【0080】
ここで、入力軸41が略等速で回転する状態は、滑らかにステアリング操作がされている状態とみなすことができる。したがって、遊星キャリヤ54の角速度検出値ωc_dを角速度指令値ωc*に追従させるべく速度フィードバック制御を実行して第1モータ21の作動を制御することで、運転者のステアリング操作に応じた適切なアシスト力が付与される。
【0081】
また、マイコン103は、第1モータ21の制御と並行して、第1モータ21に供給する駆動電力(q軸電流値Iq1)に基づいて推定操舵トルクTs^を演算し、この推定操舵トルクTs^及び上記アシストマップに基づいて第2モータ22の作動を制御する。上記のようにアシストマップは、推定操舵トルクTs^の絶対値が所定値未満の小さな範囲では、目標負荷トルクTs_gが推定操舵トルクTs^よりも大きくなるように設定されている(
図14参照)。そのため、推定操舵トルクTs^の絶対値が所定トルク未満の小さな範囲では、マイコン103は、運転者の操舵方向に従う方向と反対方向に内歯車52を回転させるように第2モータ22の作動を制御する。これにより、運転者に所謂手応え感が与えられ、ステアリングホイール2が小さな操舵トルクで過剰に回転することが抑制される。一方、推定操舵トルクTs^の絶対値が所定トルク以上の大きな範囲では、マイコン103は、運転者の操舵方向に従う方向と同一方向に内歯車52を回転させるように第2モータ22の作動を制御する。これにより、第2モータ22のトルクが運転者のステアリング操作をアシストするアシスト力として付与される。
【0082】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)マイコン103は、遊星キャリヤ54の角速度検出値ωc_dが、内歯車52の角速度検出値ωi_d及び目標回転伝達比Gvgr*に応じて一義的に決まる角速度指令値ωc*に追従するように、第1モータ21の作動を制御するため、トーションバーの捩れに基づく操舵トルクを用いることなく、上記のように好適なアシスト力を操舵系に付与することができる。
【0083】
(2)操舵力補助装置23に、内歯車52に連結された第2モータ22を設けたため、第2モータ22のトルクをアシスト力として操舵系に付与することで、第1モータ21が出力するトルクを小さくしても十分なアシスト力を確保でき、例えば第1モータ21を小型化できる。
【0084】
(3)マイコン103は、車速SPD及びステアリングホイール2の操舵角θhに基づいて目標回転伝達比Gvgr*を変更するため、車両の走行状態や運転者の操舵状態に応じた良好な操舵フィーリングを実現することができる。
【0085】
(4)マイコン103は、推定操舵トルクTs^と目標負荷トルクTs_gとの差分トルクΔTに基づいて第2モータ22の作動を制御するため、良好な操舵フィーリングを確保しつつ、第2モータ22によって適切なアシスト力を付与することができる。
【0086】
(5)ECU24は、推定操舵トルクTs^の絶対値が所定トルク未満の小さな範囲では、運転者の操舵方向に従う方向と反対方向に内歯車52を回転させるように第2モータ22の作動を制御するため、運転者に所謂手応え感が与えられ、ステアリングホイール2が小さな操舵トルクで過剰に回転することを抑制できる。
【0087】
(6)マイコン103は、車速SPDに応じて目標負荷トルクTs_gを変更するため、より良好な操舵フィーリングを実現することができる。
(7)遊星歯車53を、該遊星歯車53の軸線が太陽歯車51及び内歯車52の各軸線と交差するように遊星キャリヤ54に対して傾斜して支持した。そのため、調整ネジ45を螺進退させて太陽歯車51、遊星歯車53及び内歯車52間の軸方向の相対位置を変更することで、太陽歯車51、遊星歯車53及び内歯車52間のバックラッシュを調整することができ、例えば異音の発生を抑制できる。
【0088】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態を図面に従って説明する。なお、説明の便宜上、同一の構成については上記第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0089】
図17に示すように、ステアリングシャフト3の回転に応じて軸方向に往復動する転舵軸171と、ステアリングシャフト3を構成する中間軸8の下端に連結された下部軸172とは、ボール螺子機構161及び減速機構162を有する転舵機構163によって連結されている。
【0090】
ボール螺子機構161は、内周に螺子溝(図示略)が形成されたボール螺子ナット164を備えている。転舵軸171には、その外周の一部に螺子溝(図示略)が形成されている。そして、ボール螺子機構161は、ボール螺子ナットの螺子溝と転舵軸171の螺子溝とを対向させてなる螺旋状のボール軌道内に複数のボール165を配設することにより構成されている。
【0091】
減速機構162は、下部軸172と一体回転する入力ギヤ166と、ボール螺子ナット164と一体回転する出力ギヤ167とを備えており、これら入力ギヤ166と出力ギヤ167とを噛合させることにより構成されている。なお、本実施形態の入力ギヤ166及び出力ギヤ167には、それぞれ傘歯車(ベベルギヤ)が採用されている。
【0092】
したがって、本実施形態の車両用操舵装置1では、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転が減速機構162を介してボール螺子ナット164に伝達され、このボール螺子ナット164の回転が転舵軸171の軸方向移動に変換されることで、転舵輪13の転舵角が変更される。
【0093】
ここで、転舵機構163のストロークレシオは、上記第1実施形態の転舵機構であるラックアンドピニオン機構11のストロークレシオよりも小さく設定されている。なお、ストロークレシオは、下部軸172の一回転に対する転舵軸171の軸方向への移動量を示す値である。具体的には、転舵機構163のストロークレシオは、ラックアンドピニオン機構11のストロークレシオの1/N倍(「N」は「1」よりも大きな値であり、本実施形態では「3」程度)に設定されている。
【0094】
また、
図18に示すように、目標回転伝達比演算部121(
図9参照)に設けられた伝達比マップは、操舵角θh及び車速SPDに基づいて演算される目標回転伝達比Gvgr*の値(絶対値)が上記第1実施形態のN倍となるように設定されている。なお、目標回転伝達比Gvgr*の操舵角θh及び車速SPDに応じた変化傾向は、上記第1実施形態と同様に設定されている。
【0095】
つまり、本実施形態の車両用操舵装置1では、転舵機構163のストロークレシオを小さくした分、出力軸42(下部軸172)、第1及び第2モータ21,22の回転量を多くすることで、ステアリングホイール2の操舵角変化に対する転舵輪13の転舵角変化の関係を上記第1実施形態の関係と略同一に保っている。
【0096】
以上記述したように、本実施形態によれば、上記第1実施形態の(1)〜(7)の効果に加え、以下の効果を奏することができる。
(8)転舵機構163のストロークレシオを小さくしたため、小さなトルクで転舵軸171を軸方向移動させることができる。そのため、ステアリングシャフト3に必要な機械的強度を下げることができ、その軽量化を図ることができる。また、第1及び第2モータ21,22から大きなトルクを出力しなくてもよくなるため、これら第1及び第2モータ21,22をはじめとする操舵力補助装置23を小型化できる。
【0097】
なお、上記各実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記各実施形態では、マイコン103は、車速SPD及び操舵角θhに基づいて目標回転伝達比Gvgr*を変更したが、これに限らず、例えば車速SPD及び操舵角θhのいずれか一方のみに基づいて目標回転伝達比Gvgr*を変更してもよい。また、車速SPD及び操舵角θh以外のパラメータに基づいて目標回転伝達比Gvgr*を変更してもよい。さらに、目標回転伝達比Gvgr*を変更せず、予め設定された一定値としてもよい。
【0098】
・上記各実施形態では、第1及び第2モータ21,22のW相の相電流値Iw1,Iw2を、キルヒホッフの法則を用いてU相及びV相の相電流値Iu1,Iv1,Iu2,Iv2から演算したが、これに限らず、電流センサを用いて直接検出してもよい。
【0099】
・上記各実施形態では、目標回転伝達比演算部121は、伝達比マップを参照することにより、車速SPD及び操舵角θhに基づいた目標回転伝達比Gvgr*を演算したが、他の態様で目標回転伝達比Gvgr*を演算してもよい。例えば、車速SPD及び操舵角θhを変数とする関数式に基づいて目標回転伝達比Gvgr*を演算するようにしてもよい。同様に、例えばトルク指令値演算部142が車速SPD及び推定操舵トルクTs^を変数とする関数式に基づいて目標負荷トルクTs_gを演算するようにしてもよい。
【0100】
・上記各実施形態では、第1レゾルバ64により検出される第1モータ回転角θm1を微分して得られた第1モータ角速度ωm1を第1ウォーム減速機63の減速比Gw1で除算することより遊星キャリヤ54の角速度検出値ωc_dを取得した。しかし、例えば遊星キャリヤ54の回転角を検出するレゾルバを設け、このレゾルバにより検出された値を微分することにより遊星キャリヤ54の角速度検出値ωi_dを取得してもよい。同様に、例えば内歯車52の回転角を検出するレゾルバを設け、このレゾルバにより検出された値を微分することにより内歯車52の角速度検出値ωi_dを取得してもよい。
【0101】
・上記各実施形態では、トルク指令値演算部142は、車速SPDが低いほど大きな値(絶対値)を有する目標負荷トルクTs_gを演算したが、これに限らず、車速SPDによっては目標負荷トルクTs_gを変更しなくてもよい。
【0102】
・上記各実施形態では、トルク指令値演算部142は、推定操舵トルクTs^の絶対値が所定トルク未満の小さな範囲では、目標負荷トルクTs_gを推定操舵トルクTs^よりも大きくなるように演算したが、これに限らず、目標負荷トルクTs_gを推定操舵トルクTs^以下となるように演算してもよい。
【0103】
・上記各実施形態では、マイコン103は、第1モータ21に供給されるq軸電流値Iq1に基づいて推定操舵トルクTs^を演算し、この推定操舵トルクTs^に基づいて第2モータ22の作動を制御したが、これに限らず、他のパラメータに基づいて第2モータ22の作動を制御してもよい。
【0104】
・上記各実施形態では、フロントハウジング34の開口端34aに螺着された調整ネジ45を螺進退させ、出力軸42を軸方向させることで、太陽歯車51、遊星歯車53及び内歯車52間の軸方向の相対位置を変更した。しかし、これに限らず、例えば入力軸41を軸方向させることで、太陽歯車51、遊星歯車53及び内歯車52間の軸方向の相対位置を変更してもよい。
【0105】
・上記各実施形態において、遊星歯車53の軸線が太陽歯車51及び内歯車52の各軸線と平行になるように遊星歯車53を遊星キャリヤ54に対して傾斜して支持してもよい。
【0106】
・上記各実施形態では、第1ウォーム減速機63を介して第1モータ21を遊星キャリヤ54に連結したが、これに限らず、ボール減速機(サイクロイド減速機)やベアリング減速機等の他の減速機を介して遊星キャリヤ54に連結してもよい。同様に、第2モータ22を第2ウォーム減速機73以外の他の減速機を介して内歯車52に連結してもよい。
【0107】
・上記各実施形態では、操舵力補助装置23にデフ機構33を設け、デフキャリヤ83の回転を拘束することにより、入力軸41の回転を所定伝達比で遊星キャリヤ54に伝達可能な構成とした。しかし、これに限らず、例えばデフ機構33に代えて遊星歯車機構を別途設けてもよい。
【0108】
・上記各実施形態では、遊星歯車機構32を介して入力軸41の回転を反転してラックアンドピニオン機構11に伝達したが、これに限らず、出力軸42の回転をさらに反転させることにより、入力軸41の回転方向を変えずにラックアンドピニオン機構11に伝達させてもよい。なお、この場合には、タイロッド12をナックルに対して転舵輪13の転舵中心よりも車両前方側に連結することになる。
【0109】
・上記各実施形態では、太陽歯車51を入力軸41に連結し、内歯車52を出力軸42に連結し、遊星キャリヤ54を第1モータ21に連結した。しかし、これに限らず、例えば太陽歯車51を出力軸42に連結して第2回転要素として機能させるとともに、内歯車52を入力軸41に連結して第1回転要素として機能させてもよく、太陽歯車51、内歯車52及び遊星キャリヤ54を第1〜第3回転要素のいずれとして機能させるかは適宜変更可能である。
【0110】
・上記各実施形態において、操舵力補助装置23に第2モータ22を設けなくともよい。なお、この場合には、内歯車52等に対して該内歯車52の回転角を検出するレゾルバ等を設けることになる。
【0111】
・上記各実施形態では、遊星差動機構として、太陽歯車51、遊星歯車53及び内歯車52の各歯部の噛み合いによりトルク伝達を行う遊星歯車機構32を用いたが、これに限らず、例えば太陽ローラ、遊星ローラ及びリングローラ間の摩擦によりトルク伝達を行う遊星ローラ機構等を用いてもよい。
【0112】
・上記各実施形態では、第1及び第2モータ21,22にブラシレスモータを用いたが、これに限らず、例えばブラシ付き直流モータ等の他のモータを用いてもよい。
・上記各実施形態では、操舵力補助装置23をコラム軸7の途中に設けたが、これに限らず、例えばピニオン軸9又は下部軸172の途中に設けてもよい。
【0113】
次に、上記各実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(イ)前記第1〜第3回転要素のいずれか1つは太陽歯車であり、他の1つは遊星歯車を回転可能に支持する遊星キャリヤであり、残りの1つは内歯車であり、前記遊星歯車は、該遊星歯車の軸線が前記太陽歯車及び前記内歯車の各軸線と交差するように前記遊星キャリヤに対して傾斜して支持され、前記太陽歯車、前記遊星歯車及び前記内歯車間の軸方向の相対位置を変更する調整機構とを備えたことを特徴とする車両用操舵装置。上記構成によれば、遊星歯車の軸線が太陽歯車及び内歯車の各軸線と交差するため、太陽歯車、遊星歯車及び内歯車間の軸方向の相対位置を変更することで、これら各歯車間のバックラッシュを調整することができ、例えば異音の発生を抑制できる。
【0114】
(ロ)前記入力軸の回転を所定伝達比で前記第3回転要素に伝達可能な伝達機構を備えたことを特徴とする車両用操舵装置。