特許第6191326号(P6191326)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6191326燃料電池用電極触媒粒子、これを用いる燃料電池用電極触媒、電解質−電極接合体、および燃料電池、ならびに触媒粒子および触媒の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191326
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】燃料電池用電極触媒粒子、これを用いる燃料電池用電極触媒、電解質−電極接合体、および燃料電池、ならびに触媒粒子および触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/90 20060101AFI20170828BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20170828BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20170828BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20170828BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20170828BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20170828BHJP
【FI】
   H01M4/90 M
   H01M4/92
   H01M4/86 B
   H01M8/02 E
   H01M4/88 K
   !H01M8/10
【請求項の数】13
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-166138(P2013-166138)
(22)【出願日】2013年8月9日
(65)【公開番号】特開2015-35356(P2015-35356A)
(43)【公開日】2015年2月19日
【審査請求日】2016年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】垣内 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕行
(72)【発明者】
【氏名】在原 一樹
(72)【発明者】
【氏名】篠原 和彦
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−282947(JP,A)
【文献】 特開平02−061961(JP,A)
【文献】 特開平11−273690(JP,A)
【文献】 特開2003−045442(JP,A)
【文献】 特開2003−178764(JP,A)
【文献】 特開2008−171659(JP,A)
【文献】 特開2012−248365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/90
H01M 4/92
H01M 4/88
B01J 23/42
B01J 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金原子および非白金金属原子を有する合金粒子であり、
非白金金属原子−非白金金属原子の結合数の平均値に対する非白金金属原子−白金原子の結合数の平均値の比が2.0以上であり、
前記非白金金属原子がTi、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Ta、およびWからなる群から選択される少なくとも一である、燃料電池用電極触媒粒子。
【請求項2】
非白金金属原子の酸化度が0以上0.3以下である、請求項1に記載の燃料電池用電極触媒粒子。
【請求項3】
白金原子に対する非白金金属原子の比(原子比)が0.11以上である、請求項1または2に記載の燃料電池用電極触媒粒子。
【請求項4】
前記非白金金属原子がCoである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒粒子。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒粒子が導電性担体に担持されてなる、燃料電池用電極触媒。
【請求項6】
前記触媒粒子の担持濃度が前記担体に対して2〜70質量%である、請求項に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項7】
請求項またはに記載の電極触媒を含む電解質膜−電極接合体。
【請求項8】
請求項に記載の電解質膜−電極接合体を用いてなる燃料電池。
【請求項9】
白金塩もしくは白金錯体と、非白金金属塩もしくは非白金金属錯体と、を溶媒に分散させて混合液を調製する工程と、
前記混合液に還元剤を添加する工程と、を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒粒子の製造方法。
【請求項10】
前記混合液中の金属イオン濃度が5.0mM以下である、請求項に記載の燃料電池用電極触媒粒子の製造方法。
【請求項11】
白金塩もしくは白金錯体と、非白金金属塩もしくは非白金金属錯体と、を溶媒に分散させて混合液を調製する工程と、
前記混合液に還元剤を添加して、還元剤含有液を得る工程と、
前記還元剤含有液に導電性担体を添加して、白金および非白金金属含有粒子を導電性担体に担持する工程と、
を含む請求項またはに記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項12】
前記導電性担体は、比表面積が10〜5000m/gである、請求項11に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項13】
さらに、白金および非白金金属含有粒子が担持された導電性担体を100度以上700度以下の温度で熱処理する工程を含む、請求項11または12に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒粒子、これを用いる燃料電池用電極触媒、電解質−電極接合体、および燃料電池、ならびに触媒粒子および触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー・環境問題を背景とした社会的要求や動向と呼応して、常温でも作動して高出力密度が得られる燃料電池が電気自動車用電源、定置型電源として注目されている。燃料電池は、電極反応による生成物が原理的に水であり、地球環境への悪影響がほとんどないクリーンな発電システムである。特に、固体高分子形燃料電池(PEFC)は、比較的低温で作動することから、電気自動車用電源として期待されている。固体高分子形燃料電池の構成は、一般的には、電解質膜−電極接合体を、セパレータで挟持した構造となっている。電解質膜−電極接合体は、高分子電解質膜が一対の電極触媒層及びガス拡散性の電極(ガス拡散層;GDL)により挟持されてなるものである。
【0003】
上記したような電解質膜−電極接合体(MEA)を有する固体高分子形燃料電池では、固体高分子電解質膜を挟持する両電極(カソード及びアノード)において、その極性に応じて以下に記す反応式で示される電極反応を進行させ、電気エネルギーを得ている。まず、アノード(負極)側に供給された燃料ガスに含まれる水素は、触媒成分により酸化され、プロトンおよび電子となる(2H2→4H++4e-:反応1)。次に、生成したプロトンは、電極触媒層に含まれる固体高分子電解質、さらに電極触媒層と接触している固体高分子電解質膜を通り、カソード(正極)側電極触媒層に達する。また、アノード側電極触媒層で生成した電子は、電極触媒層を構成している導電性担体、さらに電極触媒層の固体高分子電解質膜と異なる側に接触しているガス拡散層、セパレータおよび外部回路を通してカソード側電極触媒層に達する。そして、カソード側電極触媒層に達したプロトンおよび電子はカソード側に供給されている酸化剤ガスに含まれる酸素と反応し水を生成する(O2+4H++4e-→2H2O:反応2)。燃料電池では、上述した電気化学的反応を通して、電気を外部に取り出すことが可能となる。
【0004】
ここで、発電性能を向上させるためには、電極触媒層の触媒粒子の活性および耐久性(耐久試験後の活性)の向上が重要な鍵となる。従来、活性及び耐久性向上の観点から、白金または白金含有量の高い白金合金を電極触媒の触媒成分として使用する必要があった。しかしながら、白金は、非常に高価であり、資源的にも稀少な金属であるため、活性や耐久性は維持しつつ、触媒粒子に占める白金含有量を低減した非白金系触媒の開発が求められている。
【0005】
例えば、特許文献1では、面心正方構造からなる白金−金属合金を含み、白金−金属合金のXRDパターンにおいて2θ値が65〜75度でブロードなピーク又は頂部が2つに分かれたピークを示す触媒が報告されている。特許文献1によると、面心正方構造からなる白金−金属合金は安定した構造であるため、耐久性に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−282947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の白金−金属合金は、合金としては安定した構造であるが、触媒粒子表面に白金以外の金属が存在するため、酸性条件下では白金以外の金属が溶出してしまう。このため、特許文献1に記載の触媒は、耐久性に劣る。
【0008】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、耐久性に優れる触媒粒子を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の別の目的は、本発明の触媒粒子を用いてなる電極触媒、電解質−電極接合体、および燃料電池を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、本発明の触媒粒子および触媒の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、非白金原子周囲の原子配置に注目し、非白金金属原子−非白金金属原子の結合数の平均値に対する非白金金属原子−白金原子の結合数の平均値の比が2.0以上である触媒粒子が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、白金原子による非白金原子の被覆率が高くなる結果、非白金原子の溶出が抑制され、触媒の耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池の基本構成を示す概略断面図である。
図2】(A)は実施例1で得られた触媒粒子のCo−K端のXANESスペクトルである。(B)はCo箔、すなわち、Co−Co結合のXANESスペクトルであり、(C)はCoO粒子、すなわち、Co−O結合のXANESスペクトルであり、(D)はCo/Pt=1/9(原子比)のCo−Pt合金、すなわち、Co−Pt結合およびCo−Co結合のXANESスペクトルである。
図3】酸化度を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の触媒粒子は、白金原子および非白金金属原子を有する合金粒子であり、非白金金属原子−非白金金属原子の結合数の平均値に対する非白金金属原子−白金原子の結合数の平均値の比が2.0以上である。
【0015】
上記特許文献1の触媒を構成する白金−金属合金は、十分な活性を発揮できない上、白金と合金を形成する金属(例えば、Co)の連鎖的溶出を防ぐことができず、耐久性に劣る。これに対して、本発明に係る合金粒子は、耐久性に優れる(耐久試験後も高い活性を有する)。上記効果が達成しうる理由は不明であるが、以下のように推測される。なお、本発明は、下記推測によって限定されない。
【0016】
すなわち、上記特許文献1の触媒を構成する白金−金属合金は、面心正方構造からなり、CuKαラインを利用したXRDパターンで、2θ値が65〜75度でブロードなピークまたは頂部が2つに分かれたピークを示す。このため、上記特許文献1の白金−金属合金は、L10構造を有する金属間化合物である。このL10構造を有する金属間化合物は、合金としては安定である。しかしながら、白金層及び金属層が繰り返し構造をとるため、構造安定性に劣る。また、上記特許文献1に記載の白金−金属合金は、触媒粒子表面に白金以外の金属が存在するため、酸性条件下、例えば、強酸性の電解質下(例えば、PEFC)では、金属の連鎖的溶出を十分に抑制できず、金属が溶出する。このため、特許文献1に記載の触媒は、耐久性に劣る。
【0017】
本発明者らが鋭意検討した結果、白金−非白金金属合金粒子を触媒粒子として用いる場合、長期耐久性性能を向上させるためには、相対的に溶出しやすい非白金金属原子周囲の構造を原子レベルで設計する必要があると考えた。かような技術的観点の元、非白金金属原子に対する白金原子の被覆率が高くなるような原子設計とすることにより、長期耐久性が向上することを見出した。該被覆率の指標として、本発明では、非白金金属原子−非白金金属原子の結合数の平均値に対する非白金金属原子−白金原子の結合数の平均値の比(以下、単に結合数比とも称する)を採用した。そして、種々検討した結果、結合数比が2.0以上の触媒粒子を用いると、電池の長期耐久性が顕著に向上することを見出したものである(後述の実施例参照)。
【0018】
ここで、従来の触媒は、例えば電位サイクルなどの耐久試験後に質量比活性が半分以下に低下していた。低下の主要因は、面積比活性(ia)の低下であり、ECA(電気化学的面積)の低下は面積比活性の低下に比べ、相対的に小さい。このため、電位サイクル耐久試験後の面積比活性の絶対値が高いことが重要であるが、本発明の触媒粒子は、耐久試験後であっても面積比活性の絶対値が高い。
【0019】
したがって、本発明の触媒粒子は、溶出耐性が高いため、酸性条件下、例えば、強酸性の電解質下(例えば、PEFC)であっても、非白金金属の連鎖的溶出を抑制・防止できる。このため、本発明の触媒粒子を用いた電極触媒、当該電極触媒を有する電解質膜−電極接合体および燃料電池は、耐久性に優れる。
【0020】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の触媒の一実施形態、並びにこれを使用した触媒層、膜電極接合体(MEA)および燃料電池の一実施形態を詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。なお、各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。また、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明した場合では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」及び「重量部」と「質量部」は同義語として扱う。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
【0022】
[燃料電池]
燃料電池は、膜電極接合体(MEA)と、燃料ガスが流れる燃料ガス流路を有するアノード側セパレータと酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路を有するカソード側セパレータとからなる一対のセパレータとを有する。本発明の燃料電池は、耐久性に優れ、かつ高い発電性能を発揮できる。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)1の基本構成を示す概略図である。PEFC1は、まず、固体高分子電解質膜2と、これを挟持する一対の触媒層(アノード触媒層3aおよびカソード触媒層3c)とを有する。そして、固体高分子電解質膜2と触媒層(3a、3c)との積層体はさらに、一対のガス拡散層(GDL)(アノードガス拡散層4aおよびカソードガス拡散層4c)により挟持されている。このように、固体高分子電解質膜2、一対の触媒層(3a、3c)および一対のガス拡散層(4a、4c)は、積層された状態で膜電極接合体(MEA)10を構成する。
【0024】
PEFC1において、MEA10はさらに、一対のセパレータ(アノードセパレータ5aおよびカソードセパレータ5c)により挟持されている。図1において、セパレータ(5a、5c)は、図示したMEA10の両端に位置するように図示されている。ただし、複数のMEAが積層されてなる燃料電池スタックでは、セパレータは、隣接するPEFC(図示せず)のためのセパレータとしても用いられるのが一般的である。換言すれば、燃料電池スタックにおいてMEAは、セパレータを介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。なお、実際の燃料電池スタックにおいては、セパレータ(5a、5c)と固体高分子電解質膜2との間や、PEFC1とこれと隣接する他のPEFCとの間にガスシール部が配置されるが、図1ではこれらの記載を省略する。
【0025】
セパレータ(5a、5c)は、例えば、厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで図1に示すような凹凸状の形状に成形することにより得られる。セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凸部はMEA10と接触している。これにより、MEA10との電気的な接続が確保される。また、セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凹部(セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータとMEAとの間の空間)は、PEFC1の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ5aのガス流路6aには燃料ガス(例えば、水素など)を流通させ、カソードセパレータ5cのガス流路6cには酸化剤ガス(例えば、空気など)を流通させる。
【0026】
一方、セパレータ(5a、5c)のMEA側とは反対の側から見た凹部は、PEFC1の運転時にPEFCを冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路7とされる。さらに、セパレータには通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。かような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度が確保されうる。
【0027】
なお、図1に示す実施形態においては、セパレータ(5a、5c)は凹凸状の形状に成形されている。ただし、セパレータは、かような凹凸状の形態のみに限定されるわけではなく、ガス流路および冷媒流路の機能を発揮できる限り、平板状、一部凹凸状などの任意の形態であってもよい。
【0028】
上記のような、本発明のMEAを有する燃料電池は、優れた発電性能を発揮する。ここで、燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では固体高分子形燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、固体高分子形燃料電池(PEFC)が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用である。なかでも、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求される自動車などの移動体用電源として用いられることが特に好ましい。
【0029】
燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが用いられうる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。
【0030】
また、燃料電池の適用用途は特に限定されるものではないが、車両に適用することが好ましい。本発明の電解質膜−電極接合体は、発電性能および耐久性に優れ、小型化が実現可能である。このため、本発明の燃料電池は、車載性の点から、車両に該燃料電池を適用した場合、特に有利である。
【0031】
以下、本発明の燃料電池を構成する部材について簡単に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに制限されない。
【0032】
[触媒粒子]
本発明で用いられる触媒粒子は白金原子および非白金原子を有する合金粒子である。
【0033】
なお、ここでいう触媒粒子は、触媒として用いられる触媒粒子を指し、例えば、導電性担体上に担持されている触媒粒子であってもよい。
【0034】
非白金金属原子としては、特に限定されるものではないが、遷移金属原子、典型金属元素などが挙げられる。非白金金属原子は、遷移金属原子であることが好ましく、中でも、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Ta、およびWからなる群から選択される少なくとも一であることが好ましい。遷移金属原子は、コバルト(Co)であることがより好ましい。上記遷移金属原子は、白金(Pt)と金属間化合物を形成しやすいため、白金の使用量を低減しつつも、質量比活性をより向上できる。また、上記遷移金属原子と白金との合金は、より高い面積比活性(単位面積当たりの活性)及び耐久性(耐久試験後の活性)を達成できる。なお、上記遷移金属原子は、単独で白金と合金化されても、あるいは2種以上が白金と合金化されても、いずれでもよいが、単独で白金と合金化されることが好ましい。
【0035】
合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれの形態であってもよい。しかしながら、本発明の触媒粒子は、少なくとも白金原子および非白金原子が金属間化合物を形成しているものを含み、実質的に、白金原子および非白金原子の金属間化合物からなることが好ましい。このため、本発明の触媒粒子は、非白金金属原子−白金原子の結合数の平均値(以下、単にM−Pt結合数とも称する)および非白金金属原子−非白金金属原子の結合数の平均値(以下、単にM−M結合数とも称する)が算出される。
【0036】
触媒粒子は、M−Pt結合数の平均値/M−M結合数の平均値が2.0以上である。結合数比が2.0以上であることで、非白金金属原子が分散して、白金原子が非白金金属原子を有効に被覆する。このため、触媒粒子は、耐久性試験後であっても活性、特に面積比活性の低下が抑制され、高い面積比活性を示す。耐久試験後にも高い活性を示すという観点からは、結合数比は2.0以上であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましい。白金と、非白金原子の原子数の比が0.11以上であることが好ましいため、FCC構造を想定すると最大でも配位数は12であり、Pt0.89対Co0.11のランダム合金を仮定するとCo−Ptの割合は10.7、Co−Coの割合は1.3となり、結合数比の上限は、8.23以下であることが好ましく、7.0以下であることがより好ましい。
【0037】
本発明において、結合数の平均値は、X線吸収微細構造(XAFS)解析法で得られるXANESスペクトルにおける非金属原子のK吸収端のスペクトルから得た値である。スペクトル測定のための試料は、以下のようにして準備した。計測サンプルの準備方法、および、実際の測定方法等は、IPC出版の、X線吸収分光法−XAFSとその応用−や、X線吸収微細構造―XAFSの測定と解析(日本分光学会 測定法シリーズ)等の文献を参考にできる。サンプル準備の方法としては、ボロンナイトライド粉末とカーボン担持されている電極触媒をメノウ乳鉢上ですりつぶしながらよく混合し、それをペレット状にした。注目すべき非白金金属の吸収端において、エッジジャンプΔμtが0.5〜1.5の範囲になるよう所定の量の電極触媒を混ぜる必要がある。
【0038】
そのうえでたとえば、SPring8のBL16B2等のビームラインにおいてペレットを光路に設置し、注目元素の注目吸収端のよりも低エネルギー側およそ500eV低エネルギー側からスイープを開始し、吸収端から1000eV程度高エネルギー側までおよそ0.2eV刻みで吸光度を測定すると良い。また、サンプル準備の方法としては、ボロンナイトライド粉末とカーボン担持されている電極触媒をメノウ乳鉢上ですりつぶしながらよく混合し、それをペレット状にした。スペクトルを得るために用いた設備およびその他の条件を以下に示す。
【0039】
【化1】
【0040】
解析は、得られたスペクトルについて、吸収端前領域(平坦なプリエッジ領域)に対してビクトリーンまたはマックマスターの計算式を用いて最小2乗フィッティングを行い、それを外挿することによってバックグラウンドを差し引いた後、微分を行う。例えば、MがCoの場合には、Co箔のCo−K吸収端(変化率最大)が7709eVになるようにスペクトルを取るときにSPring8で実験時に校正した。なお、XAFSデータ処理は、特に限定されるものではないが、例えば株式会社リガクREX2000等を用いて行うことができる。
【0041】
次いで、上記スペクトルから結合数の平均値を算出する。別途、M、M−O、既知割合のM−Pt合金を標準試料とし、同様にXANESスペクトルを得る。得られた試料のXANESスペクトルを標準試料のXANESスペクトルの重み付け加算によりフィッティングする。
【0042】
図2を用いてMがCoである場合を具体的に説明する。図2(A)は実施例1で得られた触媒粒子のCo−K端のXANESスペクトルである(PtCo合金_exp)。この試料にはCo、白金および酸素が含まれているため、Co−Co、Co−OおよびCo−Pt結合によりXANESが混在している。図2(B)はCo箔、すなわち、Co−Co結合のXANESスペクトルであり、(C)はCoO粒子、すなわち、Co−O結合のXANESスペクトルであり、(D)はCo/Pt=1/9(原子比)のCo−Pt合金、すなわち、Co−Pt結合およびCo−Co結合のXANESスペクトルである。
【0043】
次いで、試料のスペクトル(A)に対して、(B)〜(D)のスペクトルを用いたフィッティングを行う(図2(A)PtCo合金_Fitting)。フィッティングの範囲はEO(変化率最大のエネルギー)から、−10eV〜+30eVの範囲で行う(MがCoの場合は、7710〜7750eV)。フィッティング完了は、下記数1で定義されるR−factorが10%以下になった時点で、完了とする。
【0044】
【数1】
【0045】
ここで、Co−Co結合数は12であることから、Co箔でフィッティングできた場合には、Co−Co結合数の平均値は12となり、Co/Pt(1/9)箔でフィッティングできた場合には、Co−Co結合数の平均値は12×0.1=1.2、Co−Pt結合数の平均値は、12×0.9=10.8となり、結合数比は、10.8/1.2=9となる。
【0046】
また、Co箔0.5、Co/Pt(1/9)箔0.5でフィッティングできた場合には、Co−Co結合数の平均値は、12×0.5+12×0.1×0.5=6.6となり、Co−Pt結合数の平均値は、12×0.9×0.5=5.4となるため、結合数比は、5.4/6.6=0.82となる。
【0047】
実施例1の粒子では、Co箔0.1、CoO粒子0.09、Co/Pt合金0.81の重み付けとなった(図2)。この値を利用して結合数を算出する。Coの結合数は12であることから、Co−Co結合数の平均値=12×0.1(Co箔由来の重み付け)+12×0.1×0.81(Pt−Co合金由来の重み付け)=2.1であり、Co−Pt結合数の平均値=12×0.9×0.81=8.7となり、結合比は、8.748/2.172=4.1となる。
【0048】
なお、上記においては、Coを例に挙げて説明したが、その他の非白金原子においても同様に求めることができる。ここで、全原子平均配位数は下記の通りである。
【0049】
【表1】
【0050】
なお、非白金金属原子が複数種から構成される場合、以下のように結合数比を算出する。例えばPtCoNiという合金粒子を想定すると、まずCoとPtの結合数を計算する場合、Coフォイル、CoPt合金フォイル、CoNi合金フォイル、CoO標準試料の4つのサンプルを作成してCoの吸収端についてフィッティングする。加えて、NiPt合金フォイル、NiCo合金フォイル、Niフォイル、NiOフォイルを作成しておいてNiの吸収端について計算する。Ni−Pt,Co−Pt結合の合計が分子で、Co−Co、Co−Ni結合数とNi−Ni結合数の合計が分母に来ることとなる。
【0051】
また、結合数比は、EXAFSによって算出することもできる。
【0052】
触媒粒子は、非白金金属原子の酸化度が0以上0.3以下であることが好ましい。非白金原子の酸化度が0以上0.3以下である、すなわち、非白金金属原子の還元度が高い(酸化度が低い)と、非白金原子がイオン化しにくくなり、耐久試験後の性能がより向上するため、好ましい。酸化度の下限は、0すなわち、酸素原子が存在しない粒子であるが、製造上酸素を全く含有させないことは困難であることから、通常、0.1以上である。
【0053】
非白金金属原子の酸化度合いは、非白金金属の酸化物を表す組成式をMOx(式中、Mは非白金金属を示し、Oは酸素を示す)とした場合のxの数値である。
【0054】
ここで、本明細書における「酸化度」の定義について、図3を用いて説明する。まず、試料のX線吸収スペクトルを測定し、X線吸収微細構造の解析を行う。つまり、測定されたX線吸収スペクトルに関し、吸収端前のバックグランドの領域を利用して、ビクトリーン(Victoreen)の多項式でフィッティングしてバックグランドを取り除き、規格化を行う。同様に、非白金金属自体のX線吸収スペクトルと当該金属の酸化物のX線吸収スペクトルを測定し、規格化を行う。なお、図3は、金属ニッケル、試料(Pt/Ni合金粒子)及び酸化ニッケル(NiO)のX線吸収スペクトルを規格化した結果を示すグラフである。
【0055】
次に、各スペクトルについて、非白金金属のK吸収端の規格化ピーク高さを測定する。このとき、金属(図3の場合、ニッケル、Ni−K吸収端)のピーク高さを「X=0」とし、金属の酸化物(図3の場合、酸化ニッケル)のピーク高さを「X=1」とした場合の、試料のピーク高さの相対比を「酸化度」と定義する。つまり、Xが1に近づくに従い、非白金金属原子の多くが酸化した状態であると解釈できる。
【0056】
具体的な酸化度の値は、下記実施例に記載の方法を採用する。
【0057】
触媒粒子は、白金原子に対する非白金金属原子の比(原子比)が0.11以上であることが好ましい。非白金金属原子の含有量がかような範囲にあることで、非白金金属原子の添加による触媒の活性向上が図れる。白金原子に対する非白金金属原子の比の上限は、高価な白金使用量を低減するという観点から、1.0以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましい。
【0058】
触媒粒子中の各金属原子の含有量は、誘導結合プラズマ発光分析(ICP atomic emission spectrometry)や誘導結合プラズマ質量分析(ICP mass spectrometry)、蛍光X線分析(XRF)から定まる。具体的には下記実施例に記載の方法を採用する。
【0059】
触媒粒子の大きさは、特に制限されない。例えば、触媒粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜10nm、より好ましくは2〜8nm、さらに好ましくは3〜7nmである。触媒粒子の平均粒子径がかような範囲内の値であると、単位白金量当たりの活性を高くしつつ、発電時の触媒金属の溶解・凝集を抑制することができる。なお、「触媒粒子の平均粒子径」は、X線回折(XRD)における触媒粒子の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過型電子顕微鏡(TEM)により調べられる触媒金属粒子の粒子径の平均値として測定されうる。本明細書では、「触媒粒子の平均粒径」は、統計上有意な数(例えば、少なくとも203個)のサンプルについて透過型電子顕微鏡像より調べられる触媒粒子の粒子径の平均値である。ここで、「粒子径」とは、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味するものとする。
【0060】
[触媒粒子の製造方法]
上記触媒粒子の製造方法は特に限定されるものではないが、白金塩もしくは白金錯体と、非白金金属塩もしくは非白金金属錯体と、を溶媒に分散させて混合液を調製する工程(1)と、混合液に還元剤を添加する工程(2)と、を含むことが好ましい。このような工程を経ることにより、白金イオンと非白金イオンとが混在している状況下で、白金イオンと非白金イオンとを同時に還元させることによって、白金原子および非白金金属原子とが混在した金属間化合物を得ることができる。
【0061】
以下、上記好ましい方法について、詳述する。しかしながら、本発明は、下記方法に限定されるものではない。
【0062】
(工程(1))
工程(1)において用いることができる白金前駆体としては、特に制限されないが、白金塩及び白金錯体が使用できる。より具体的には、塩化白金酸(典型的にはその六水和物;H2[PtCl6]・6H2O)、ジニトロジアンミン白金等の硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、アミン、テトラアンミン白金及びヘキサアンミン白金等のアンミン塩、炭酸塩、重炭酸塩、塩化白金等のハロゲン化物、亜硝酸塩、シュウ酸などの無機塩類、ギ酸塩などのカルボン酸塩並びに水酸化物、アルコキサイドなどを使用することができる。なお、上記白金前駆体は、1種を単独で使用してもあるいは2種以上の混合物として使用されてもよい。
【0063】
また、本工程(1)において用いることができ非白金前駆体としては、特に制限されないが、非白金金属塩及び非白金金属錯体が使用できる。より具体的には、非白金金属の、硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、アミン、炭酸塩、重炭酸塩、臭化物及び塩化物などのハロゲン化物、亜硝酸塩、シュウ酸などの無機塩類、ギ酸塩などのカルボン酸塩並びに水酸化物、アルコキサイド、酸化物などを用いることができる。つまり、非白金金属が、純水などの溶媒中で金属イオンになれる化合物が好ましく挙げられる。これらのうち、非白金金属の塩としては、ハロゲン化物(特に塩化物)、硫酸塩、硝酸塩がより好ましい。なお、上記非白金前駆体は、1種を単独で使用してもあるいは2種以上の混合物として使用されてもよい。また、非白金前駆体は、水和物の形態であってもよい。
【0064】
上記白金塩/錯体(以下、単に白金前駆体とも称する)及び非白金金属塩/錯体(以下、単に非白金前駆体とも称する)を含む混合液の調製に使用される溶媒は、特に制限されず、使用される白金前駆体や非白金前駆体の種類によって適宜選択される。なお、上記混合液の形態は特に制限されず、溶液、分散液および懸濁液を包含する。均一に混合できるという観点から、混合液は溶液の形態であることが好ましい。具体的には、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の有機溶媒、酸、アルカリなどが挙げられる。これらのうち、白金/非白金金属のイオン化合物を十分に溶解する観点から、水が好ましく、純水または超純水を用いることが特に好ましい。上記溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0065】
白金前駆体及び非白金前駆体の混合液における濃度は、特に制限されないが、金属換算で0.1〜50(mg/100mL)であることが好ましく、より好ましくは0.5〜30(mg/100mL)である。なお、白金前駆体及び非白金前駆体の混合液における濃度は、同じであってもあるいは異なってもよい。
【0066】
または、混合液(特に混合液)中の金属イオン濃度(白金イオン濃度及び非白金イオン濃度の合計濃度)は、特に制限されないが、10.0mM以下であることが好ましく、5mM以下であることがより好ましい。上記金属イオン濃度が5.0mM以下であることで、合成された白金原子と非白金原子の混合粒子の凝集を抑制することができる。混合液中の金属イオン濃度の下限は、特に制限されないが、反応速度の観点から、1mM以上であることが好ましい。
【0067】
また、白金塩/錯体と非白金金属塩/錯体との混合比は、特に制限されないが、上記したような合金組成(白金原子/非白金原子比)を達成できるような混合比であることが好ましい。具体的には、非白金金属塩/錯体を、白金塩/錯体1モルに対して、0.1〜15モル、より好ましくは0.1〜10モルの割合(金属換算)で混合することが好ましい。
【0068】
工程(1)において、白金塩/錯体及び非白金金属塩/錯体を含む混合液の調製方法は、特に制限されない。例えば、白金塩/錯体及び非白金金属塩/錯体を溶媒に添加する;白金塩/錯体を溶媒に溶解した後、これに非白金金属塩/錯体を添加する;非白金金属塩/錯体を溶媒に溶解した後、これに白金塩/錯体を添加する;白金塩/錯体及び非白金金属塩/錯体をそれぞれ別々に溶媒に溶解した後、これらを混合する;のいずれの方法を使用してもよい。また、上記混合液は、均一に混合するために、撹拌することが好ましい。ここで、撹拌条件は、特に均一に混合できる条件であれば特に制限されない。例えば、スターラーやホモジナイザなどの適当な攪拌機を用いる、超音波分散装置など超音波を印加することによって、均一に分散混合できる。また、撹拌温度は、好ましくは10〜50℃、より好ましくは15〜40℃である。また、撹拌時間としては分散が十分に行われるように適宜設定すればよく、通常、1〜60分であり、好ましくは3〜30分である。
【0069】
(工程(2))
次いで、工程(2)において、還元剤を添加することにより、白金イオンおよび非白金金属イオンを同時に還元させることができる。かような工程により、白金と非白金金属の金属間化合物を得ることができる。
【0070】
工程(2)で用いることができる還元剤としては、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、ギ酸、ギ酸ナトリウムやギ酸カリウムなどのギ酸塩、ホルムアルデヒド、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウムなどのクエン酸塩、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)及びヒドラジン(N24)などが使用できる。
【0071】
また、還元剤は、溶媒に溶解した還元剤溶液の形態で、上記工程(1)で調製された混合液に添加されてもよい。溶液の形態であると、容易に均一に混合できるため、好ましい。ここで、溶媒としては、還元剤を溶解できるものであれば特に制限されず、還元剤の種類によって適宜選択される。具体的には、上記混合液の調製に使用される溶媒と同様の溶媒が使用できる。ただし、還元剤溶液に使用される溶媒と、混合液の調製に使用される溶媒とは同じである必要はないが、均一な混合性など考慮すると、同じであることが好ましい。
【0072】
還元剤の添加量としては、金属イオンを還元させるのに十分な量であれば特に制限されない。具体的には、還元剤の添加量は、金属イオン1モル(白金イオン及び非白金イオンの合計モル)に対して、好ましくは0.2〜5モルであり、好ましくは0.4〜3モルである。このような量であれば、金属イオン(白金イオン及び非白金イオン)を同時に十分還元できる。なお、2種以上の還元剤を用いる場合には、これらの合計の添加量が上記範囲であることが好ましい。
【0073】
工程(2)において、還元剤含有液を添加後、撹拌することが好ましい。これにより、白金前駆体、非白金前駆体及び還元剤を均一に混合するため、均一な還元反応が可能になる。ここで、撹拌条件は、特に均一に混合できる条件であれば特に制限されない。例えば、スターラーやホモジナイザなどの適当な攪拌機を用いる、超音波分散装置など超音波を印加することによって、均一に分散混合できる。また、撹拌温度は、好ましくは0〜50℃、より好ましくは0〜30℃である。また、撹拌時間は、白金前駆体、非白金金属前駆体及び還元剤を均一に混合できる時間であれば特に制限されない。
【0074】
上記還元反応により、本発明の触媒前駆粒子が得られる。ここで、必要であれば、触媒前駆粒子を単離してもよい。ここで、単離方法は、特に制限されず、触媒前駆粒子を濾過し、乾燥すればよい。なお、必要であれば、触媒前駆粒子を濾過した後に、洗浄(例えば、水洗)を行ってもよい。また、上記濾過ならびに必要であれば洗浄工程は、繰り返し行ってもよい。また、濾過または洗浄後、触媒前駆粒子を乾燥してもよい。ここで、触媒前駆粒子の乾燥は、空気中で行ってもよく、また減圧下で行ってもよい。また、乾燥温度は特に限定されないが、例えば、10〜100℃、好ましくは室温(25℃)〜80℃程度の範囲で行うことができる。また、乾燥時間もまた、特に限定されないが、例えば、1〜60時間、好ましくは5〜48時間程度の範囲で行うことができる。
【0075】
上記工程(1)および工程(2)により、本発明の触媒粒子は好適には製造される。ここで、上記結合数比および酸化度の制御は、白金/非白金含有比、撹拌条件、反応時間などを適宜調整して行うことができる。また、後述の熱処理によっても触媒粒子の酸化状態や原子結合状態を変化させることができる。
【0076】
本発明においては、ここで得られた触媒前駆粒子を触媒粒子としてそのまま用いてもよいが、後述のように、触媒前駆粒子を導電性担体上に担持することにより、電極触媒(特に、燃料電池用電極触媒)として、好適に使用できる。
【0077】
[触媒(電極触媒)]
上述した触媒粒子は好適には導電性担体に担持して電極触媒とする。
【0078】
導電性担体は、上述した触媒粒子を担持するための担体、および触媒粒子と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。導電性担体としては、触媒粒子を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、集電体として十分な電子導電性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであるのが好ましい。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、実質的に炭素原子からなるとは、2〜3重量%程度以下の不純物の混入が許容されることを意味する。
【0079】
導電性担体としては、具体的には、アセチレンブラック、チャンネルブラック、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック(例えば、バルカン)、ランプブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラック;ブラックパール;黒鉛化アセチレンブラック;黒鉛化チャンネルブラック;黒鉛化オイルファーネスブラック;黒鉛化ガスファーネスブラック;黒鉛化ランプブラック;黒鉛化サーマルブラック;黒鉛化ケッチェンブラック;黒鉛化ブラックパール;カーボンナノチューブ;カーボンナノファイバー;カーボンナノホーン;カーボンフィブリル;活性炭;コークス;天然黒鉛;人造黒鉛などを挙げることができる。また、導電性担体として、ナノサイズの帯状グラフェンが3次元状に規則的に連結した構造を有するゼオライト鋳型炭素(ZTC)も挙げることができる。
【0080】
また、導電性担体の大きさは、特に限定されないが、担持の容易さ、触媒利用率、電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよい。
【0081】
導電性担体に触媒粒子が担持された電極触媒において、触媒粒子の担持濃度は、担体の全量に対して、2〜70質量%とすることが好ましい。担持濃度をこのような範囲にすることで、触媒粒子同士の凝集が抑制され、また、電極触媒層の厚さの増加を抑制できるため好ましい。より好ましくは触媒粒子の担持濃度は、担体の全量に対して、5〜60質量%である。触媒成分の担持量がかような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散度と触媒性能とのバランスが適切に制御されうる。なお、触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって調べることができる。
【0082】
[触媒(電極触媒)の製造方法]
燃料電池用触媒の製造方法としては特に限定されるものではないが、白金塩もしくは白金錯体と、非白金金属塩もしくは非白金金属錯体と、を溶媒に分散させて混合液を調製する工程(1')と、前記混合液に還元剤を添加して、還元剤含有液を得る工程(2')と、前記還元剤含有液に導電性担体を添加して、白金および非白金金属含有粒子を導電性担体に担持する工程(3')と、を含むことが好ましい。さらに、場合により、工程(3')の後に加熱処理を行う工程(4')を含むことが好ましく、具体的には、導電性担体上に担持された燃料電池用電極触媒粒子を100度以上700度以下の温度で熱処理する工程を含むことが好ましい。
【0083】
以下、上記好ましい方法について詳述するが、上記工程(1')及び(2')は触媒粒子の製造方法における説明と同様であるため、ここでは説明を省略する。また、本発明は、下記方法に限定されるものではない。
【0084】
(工程(3'))
本工程では、還元剤含有液に導電性担体を添加して、白金および非白金金属含有粒子を導電性担体に担持して、触媒前駆粒子担持担体を得る。ここで、白金および非白金金属含有粒子とは、工程(2)の還元剤によって還元された白金−非白金金属間化合物を含む触媒前駆粒子である。触媒前駆粒子は、そのまま、担体に担持された触媒粒子となる場合もあるし、後述の加熱処理により、物性を変化させて担体に担持された触媒粒子となる場合もある。
【0085】
用いられる導電性担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるために、好ましくは10〜5000m2/gであることが好ましい。より好ましくは50〜2000m2/gである。なお、担体の「BET比表面積(m2/g担体)」は、窒素吸着法により測定される。
【0086】
ここで、触媒前駆粒子と導電性担体との混合比は、特に制限されないが、上記したような触媒粒子の担持濃度(担持量)となるような量であることが好ましい。
【0087】
また、還元剤含有液に導電性担体を添加した後、撹拌することが好ましい。これにより、触媒前駆粒子及び導電性担体を均一に混合するため、触媒前駆粒子を導電性担体に高分散・担持することが可能である。また、上記撹拌処理によって、未還元の白金前駆体や非白金前駆体の還元剤による還元反応も同時起こるため、触媒前駆粒子の導電性担体への高分散・担持をより進行させることも可能である。ここで、撹拌条件は、特に均一に混合できる条件であれば特に制限されない。例えば、スターラーやホモジナイザなどの適当な攪拌機を用いる、超音波分散装置など超音波を印加することによって、均一に分散混合できる。また、撹拌温度は、好ましくは0〜50℃、より好ましくは5〜40℃である。また、撹拌時間は、1〜90時間、より好ましくは5〜80時間行うことが好ましい。このような条件であれば、触媒前駆粒子を導電性担体により高分散・担持できる。また、未還元の白金前駆体や非白金前駆体を還元剤でさらに還元できるため、触媒前駆粒子を導電性担体により効率的に高分散・担持できる。
【0088】
上記担持処理により、触媒前駆粒子が担持した導電性担体(触媒前駆粒子担持担体または担持担体)が得られる。ここで、必要であれば、この担持担体を単離してもよい。ここで、単離方法は、特に制限されず、担持担体を濾過し、乾燥すればよい。なお、必要であれば、担持担体を濾過した後に、洗浄(例えば、水洗)してもよい。また、上記濾過ならびに必要であれば洗浄工程は、繰り返し行ってもよい。また、濾過または洗浄後、担持担体を乾燥してもよい。ここで、担持担体の乾燥は、空気中で行ってもよく、また減圧下で行ってもよい。また、乾燥温度は特に限定されないが、例えば、10〜100℃、より好ましくは室温(25℃)〜80℃程度の範囲で行うことができる。また、乾燥時間もまた、特に限定されないが、例えば、1〜60時間、好ましくは5〜48時間である。
【0089】
なお、上記では、含浸法により、触媒前駆粒子を導電性担体に担持したが、上記方法に限定されない。上記方法に加えて、例えば、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。
【0090】
(工程(4'))
本工程では、上記工程(3')で得られた触媒粒子担持担体を熱処理する。かような加熱処理は、導電性担体上に触媒粒子を担持させた後に行うことが好ましい。必要により行われる高温での加熱処理によって、非白金金属の還元を進め、結合数比および酸化度を制御することができる。例えば、触媒粒子の結合数比が低い場合(後述の比較例2)、高温での加熱処理により、結合数比を2.0以上に上げることができる(後述の実施例1)。このようにして得られた電極触媒は、少ない白金含有量であっても、高い活性を発揮できる。また、当該電極触媒は、耐久性にも優れる(高い活性維持性を有する)。
【0091】
熱処理条件は、結合数比または酸化度を好適な範囲にまで制御できる条件であれば特に制限されないが、熱処理の温度及び時間の制御が重要である。具体的には、熱処理温度が100〜1000℃であることが好ましく、100〜700℃であることがより好ましく、400〜700℃であることがより好ましい。また、熱処理時間は、30分以上であることが好ましい。なお、上記熱処理時間の上限は、触媒粒子が導電性担体に担持する状態を維持でき、また、過度の粒子径の増大を引き起こさない条件であれば特に制限されず、触媒粒子の粒径や種類によって適宜選択される。
【0092】
上記熱処理は、非白金金属の還元を進行させるために、非酸化性雰囲気下で行うことが好ましい。非酸化性雰囲気下としては、不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気が挙げられる。ここで、不活性ガスは、特に制限されないが、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、及び窒素(N2)などが使用できる。上記不活性ガスは、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合ガスの形態で使用されてもよい。また、還元性ガス雰囲気は、還元性ガスが含まれていれば特に制限されないが、還元性ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気であることがより好ましい。ここで、還元性ガスは、特に制限されないが、水素(H2)ガス、一酸化炭素(CO)ガスが好ましい。また、不活性ガスに含有される還元性ガスの濃度も、特に制限されないが、還元性ガス雰囲気中(不活性ガス及び還元性ガスの合計体積に対して)、好ましくは10〜100体積%、より好ましくは50〜100体積%である。このような濃度であれば、合金(白金及び非白金金属)の酸化を十分抑制・防止できる。
【0093】
[電解質膜−電極接合体(MEA)]
上述した電極触媒は、電解質膜−電極接合体(MEA)に好適に使用できる。すなわち、本発明は、本発明の電極触媒を含む電解質膜−電極接合体(MEA)、特に燃料電池用電解質膜−電極接合体(MEA)をも提供する。本発明の電解質膜−電極接合体(MEA)は、高い耐久性を発揮できる。
【0094】
本発明の電解質膜−電極接合体(MEA)は、従来の電極触媒に代えて、本発明の電極触媒(触媒)を用いる以外は、同様の構成を適用できる。以下に、本発明のMEAの好ましい形態を説明するが、本発明は下記形態に限定されない。
【0095】
MEAは、電解質膜、上記電解質膜の両面に順次形成されるアノード触媒層及びアノードガス拡散層ならびにカソード触媒層及びカソードガス拡散層から構成される。そしてこの電解質膜−電極接合体において、前記カソード触媒層およびアノード触媒層の少なくとも一方に本発明の電極触媒が使用される。
【0096】
(電解質膜)
電解質膜は、例えば、固体高分子電解質膜から構成される。この固体高分子電解質膜は、例えば、燃料電池(PEFC等)の運転時にアノード触媒層で生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層へと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
【0097】
固体高分子電解質膜を構成する電解質材料としては特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、以下の触媒層にて高分子電解質として説明したフッ素系高分子電解質や炭化水素系高分子電解質を同様にして用いることができる。この際、触媒層に用いた高分子電解質と必ずしも同じものを用いる必要はない。
【0098】
電解質膜の厚さは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。電解質膜の厚さは、通常は5〜300μm程度である。電解質膜の厚さがかような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性及び使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
【0099】
(触媒層)
触媒層は、実際に電池反応が進行する層である。具体的には、アノード触媒層では水素の酸化反応が進行し、カソード触媒層では酸素の還元反応が進行する。ここで、本発明の触媒は、カソード触媒層またはアノード触媒層のいずれに存在してもいてもよい。酸素還元活性の向上の必要性を考慮すると、少なくともカソード触媒層本発明の電極触媒が使用されることが好ましい。ただし、上記形態に係る触媒層は、アノード触媒層として用いてもよいし、カソード触媒層およびアノード触媒層双方として用いてもよいなど、特に制限されるものではない。
【0100】
触媒層は、本発明の電極触媒および電解質を含む。電解質は、特に制限されないが、イオン伝導性の高分子電解質であることが好ましい。上記高分子電解質は、燃料極側の触媒活物質周辺で発生したプロトンを伝達する役割を果たすことから、プロトン伝導性高分子とも呼ばれる。
【0101】
当該高分子電解質は、特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。高分子電解質は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質とに大別される。
【0102】
フッ素系高分子電解質を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性、耐久性、機械強度に優れるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質が用いられる。
【0103】
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系高分子電解質が好ましく用いられる。なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
【0104】
プロトンの伝達を担う高分子電解質においては、プロトンの伝導度が重要となる。ここで、高分子電解質のEWが大きすぎる場合には触媒層全体でのイオン伝導性が低下する。したがって、本形態の触媒層は、EWの小さい高分子電解質を含むことが好ましい。具体的には、本形態の触媒層は、好ましくはEWが1500g/eq.以下の高分子電解質を含み、より好ましくは1200g/eq.以下の高分子電解質を含み、特に好ましくは1000g/eq.以下の高分子電解質を含む。一方、EWが小さすぎる場合には、親水性が高すぎて、水の円滑な移動が困難となる。かような観点から、高分子電解質のEWは600以上であることが好ましい。なお、EW(Equivalent Weight)は、プロトン伝導性を有する交換基の当量重量を表している。当量重量は、イオン交換基1当量あたりのイオン交換膜の乾燥重量であり、「g/eq」の単位で表される。
【0105】
また、触媒層は、EWが異なる2種類以上の高分子電解質を発電面内に含み、この際、高分子電解質のうち最もEWが低い高分子電解質が流路内ガスの相対湿度が90%以下の領域に用いることが好ましい。このような材料配置を採用することにより、電流密度領域によらず、抵抗値が小さくなって、電池性能の向上を図ることができる。流路内ガスの相対湿度が90%以下の領域に用いる高分子電解質、すなわちEWが最も低い高分子電解質のEWとしては、900g/eq.以下であることが望ましい。これにより、上述の効果がより確実、顕著なものとなる。
【0106】
さらに、EWが最も低い高分子電解質を冷却水の入口と出口の平均温度よりも高い領域に用いることが望ましい。これによって、電流密度領域によらず、抵抗値が小さくなって、電池性能のさらなる向上を図ることができる。
【0107】
さらには、燃料電池システムの抵抗値を小さくするとする観点から、EWが最も低い高分子電解質は、流路長に対して燃料ガス及び酸化剤ガスの少なくとも一方のガス供給口から3/5以内の範囲の領域に用いることが望ましい。
【0108】
触媒層には、必要に応じて、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などの撥水剤、界面活性剤などの分散剤、グリセリン、エチレングリコール(EG)、ポリビニルアルコール(PVA)、プロピレングリコール(PG)などの増粘剤、造孔剤等の添加剤が含まれていても構わない。
【0109】
触媒層の(乾燥膜厚)は、好ましくは0.05〜30μm、より好ましくは1〜20μm、さらに好ましくは2〜15μmである。なお、上記は、カソード触媒層およびアノード触媒層双方に適用される。しかしながら、カソード触媒層及びアノード触媒層は、同じであってもあるいは異なってもよい。
【0110】
(ガス拡散層)
ガス拡散層(アノードガス拡散層4a、カソードガス拡散層4c)は、セパレータのガス流路(6a、6c)を介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層(3a、3c)への拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
【0111】
ガス拡散層(4a、4c)の基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚さがかような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
【0112】
ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0113】
また、撥水性をより向上させるために、ガス拡散層は、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層(マイクロポーラス層;MPL、図示せず)を基材の触媒層側に有するものであってもよい。
【0114】
カーボン粒子層に含まれるカーボン粒子は特に限定されず、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられうる。カーボン粒子の平均粒径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
【0115】
カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられうる。
【0116】
カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、撥水性および電子伝導性のバランスを考慮して、重量比で90:10〜40:60(カーボン粒子:撥水剤)程度とするのがよい。なお、カーボン粒子層の厚さについても特に制限はなく、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
【0117】
(電解質膜−電極接合体の製造方法)
電解質膜−電極接合体の作製方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を使用できる。例えば、電解質膜に触媒層をホットプレスで転写または塗布し、これを乾燥したものに、ガス拡散層を接合する方法や、ガス拡散層の微多孔質層側(微多孔質層を含まない場合には、基材層の片面に触媒層を予め塗布して乾燥することによりガス拡散電極(GDE)を2枚作製し、固体高分子電解質膜の両面にこのガス拡散電極をホットプレスで接合する方法を使用することができる。ホットプレス等の塗布、接合条件は、固体高分子電解質膜や触媒層内の高分子電解質の種類(パ−フルオロスルホン酸系や炭化水素系)によって適宜調整すればよい。
【0118】
[燃料電池]
上述した電解質膜−電極接合体(MEA)は、燃料電池に好適に使用できる。すなわち、本発明は、本発明の電解質膜−電極接合体(MEA)を用いてなる燃料電池をも提供する。本発明の燃料電池は、高い発電性能および耐久性を発揮できる。ここで、本発明の燃料電池は、本発明の電解質膜−電極接合体を挟持する一対のアノードセパレータおよびカソードセパレータを有する。
【0119】
(セパレータ)
セパレータは、固体高分子形燃料電池などの燃料電池の単セルを複数個直列に接続して燃料電池スタックを構成する際に、各セルを電気的に直列に接続する機能を有する。また、セパレータは、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却剤を互に分離する隔壁としての機能も有する。これらの流路を確保するため、上述したように、セパレータのそれぞれにはガス流路および冷却流路が設けられていることが好ましい。セパレータを構成する材料としては、緻密カーボングラファイト、炭素板などのカーボンや、ステンレスなどの金属など、従来公知の材料が適宜制限なく採用できる。セパレータの厚さやサイズ、設けられる各流路の形状やサイズなどは特に限定されず、得られる燃料電池の所望の出力特性などを考慮して適宜決定できる。
【0120】
燃料電池の製造方法は、特に制限されることなく、燃料電池の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0121】
さらに、燃料電池が所望する電圧を発揮できるように、セパレータを介して電解質膜−電極接合体を複数積層して直列に繋いだ構造の燃料電池スタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
【0122】
上述したPEFCや電解質膜−電極接合体は、発電性能および耐久性に優れる触媒層を用いている。したがって、当該PEFCや電解質膜−電極接合体は発電性能および耐久性に優れる。
【0123】
本実施形態のPEFCやこれを用いた燃料電池スタックは、例えば、車両に駆動用電源として搭載されうる。
【実施例】
【0124】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限りは、各操作は、室温(25℃)で/相対湿度40〜50%の条件で行われる。
【0125】
実施例1
ビーカーに入れた1000ml超純水に、0.105Mの塩化コバルト(CoCl2・6H2O)水溶液 21.8mL(Co量で135mg)、1.32Mの塩化白金酸(H2[PtCl6]・6H2O)水溶液 0.36mL(白金量で92mg)を投入した。これを、室温(25℃)で5分間、スターラーで撹拌・混合して、混合液を調製した。混合液中の金属イオン濃度は、2.66mMである。
【0126】
別途、クエン酸三ナトリウム二水和物 1.6g、水素化ホウ素ナトリウム 0.6gを超純水100mLに溶解して、還元剤溶液を調製した。
【0127】
上記で得られた混合液に、上記で調製した還元剤溶液 100mLを投入し、室温(25℃)で30分間、スターラーで撹拌・混合し、還元析出させて、触媒前駆粒子(Pt−Co含有粒子)を含む溶液を得た。次に、この溶液に、カーボン担体(ケッチェンブラック(登録商標)KettjenBlackEC300J、平均粒子径:40nm、BET比表面積:800m/g、ライオン株式会社製)0.2gを含む水分散液 100mLを添加して、室温(25℃)で48時間、スターラーで撹拌・混合し、触媒前駆粒子を担体に担持した。その後、この触媒前駆粒子担持担体をろ過した後、超純水で洗浄した。上記濾過・洗浄操作を計3回繰り返した後、ろ過を行い、触媒粒子担持担体を得た。この触媒粒子担持担体を60℃で12時間乾燥させた後、100体積%の水素ガス雰囲気下で、600℃で2時間、熱処理工程を実施した。これにより、電極触媒1を得た。この電極触媒1について、結合数比、酸化度および非白金原子/白金原子比を測定・算出した。結果を表2に示す。また、電極触媒1の触媒粒子の担持濃度(担持量)は、担体に対して、34.0(Pt:30.7、Co:3.3)重量%であり、平均粒子径は4.4nmであった。
【0128】
実施例2
ビーカーに入れた1000ml超純水に、0.105Mの塩化コバルト(CoCl2・6H2O)水溶液 10.9mL(Co量で67.5mg)、1.32Mの塩化白金酸(H2[PtCl6]・6H2O)水溶液 0.36mL(白金量で92mg)を投入した。これを、室温(25℃)で5分間、スターラーで撹拌・混合して、混合液を調製した。混合液中の金属イオン濃度は、1.60mMである。
【0129】
別途、クエン酸三ナトリウム二水和物 1.6g、水素化ホウ素ナトリウム 0.6gを超純水100mLに溶解して、還元剤溶液を調製した。
【0130】
上記で得られた混合液に、上記で調製した還元剤溶液 100mLを投入し、室温(25℃)で30分間、スターラーで撹拌・混合し、還元析出させて、触媒前駆粒子(Pt−Co混合粒子)を含む溶液を得た。次に、この溶液に、カーボン担体(ケッチェンブラック(登録商標)KetjenBlackEC、平均粒子径:40nm、BET比表面積:800m/g、ライオン株式会社製)0.2gを含む水分散液 100mLを添加して、室温(25℃)で48時間、スターラーで撹拌・混合し、触媒前駆粒子を担体に担持した。その後、この触媒前駆粒子担持担体をろ過した後、超純水で洗浄した。上記濾過・洗浄操作を計3回繰り返した後、ろ過を行い、触媒粒子担持担体を得た。この触媒粒子担持担体を60℃で12時間乾燥させて、電極触媒2を得た。この電極触媒2について、結合数比、酸化度および非白金原子/白金原子比を測定・算出した。結果を表2に示す。また、電極触媒1の触媒粒子の担持濃度(担持量)は、担体に対して、32.7(Pt:31.5、Co:1.2)重量%であり、平均粒子径は2.8nmであった。
【0131】
実施例3
実施例2において、0.105Mの塩化コバルト(CoCl・6HO)水溶液 43.6mL(Co量で270mg)、1.32Mの塩化白金酸(H[PtCl]・6HO)水溶液 0.36mL(白金量で92mg)を用いて混合液(金属イオン濃度:4.9mM)を作製したこと以外は、実施例2と同様にして電極触媒3を得た。この電極触媒3について、結合数比、酸化度および非白金原子/白金原子比を測定・算出した。結果を表2に示す。また、電極触媒3の触媒粒子の担持濃度(担持量)は、担体に対して、34.0(Pt:31.6、Co:2.4)重量%であり、平均粒子径は2.8nmであった。
【0132】
比較例1
実施例2において、0.105Mの塩化コバルト(CoCl・6HO)水溶液 32.7mL(Co量で202mg)、1.32Mの塩化白金酸(H[PtCl]・6HO)水溶液 0.54mL(白金量で138mg)を用いて混合液を作製したこと以外は、実施例2と同様にして電極触媒4を得た。この電極触媒4について、結合数比、酸化度および非白金原子/白金原子比を測定・算出した。結果を表2に示す。また、電極触媒4の触媒粒子の担持濃度(担持量)は、担体に対して、43.2(Pt:40.2、Co:3.0)重量%であり、平均粒子径は3.0nmであった。
【0133】
比較例2
実施例1において熱処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして電極触媒5を得た。この電極触媒5について、結合数比、酸化度および非白金原子/白金原子比を測定・算出した。併せて、Co含有量も表2に示す。また、電極触媒5の触媒粒子の担持濃度(担持量)は、担体に対して、34.1(Pt:31.9、Co:2.2)重量%であり、平均粒子径は2.4nmであった。
【0134】
[酸化度の測定]
各実施例及び比較例の電極触媒について、EXAFSの測定を行った。EXAFSの測定は、SPring8の偏向電磁石型ビームラインBL16B2を用いて透過モードで行った。次に得られた吸収スペクトルについて、吸収端前のバックグランドの領域を利用して、ビクトリーンの多項式でフィッティングしてバックグランドを取り除き、規格化された吸収スペクトルを得た。同様にして、コバルト箔、酸化コバルト(CoO)についても、規格化された吸収スペクトルを得た。
【0135】
そして、実施例および比較例の電極触媒、コバルト箔及び酸化コバルトにおけるCo−K吸収端の規格化ピーク高さを比較することにより、実施例および比較例の電極触媒の酸化度を算出した。
【0136】
[原子比の測定]
原子比の測定は、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製の誘導結合プラズマ発光分光分析装置 SPS−3520型を用いて測定した。
【0137】
(触媒の性能評価)
<耐久試験>
各実施例及び比較例の電極触媒について、次の試験を行った。N2ガスで飽和した60℃の0.1M過塩素酸中において、可逆水素電極(RHE)に対して電極電位を0.6Vに3秒間保持した後、瞬時に1.0Vに電位を上げ、1.0Vを3秒間保持した後、0.6Vに瞬時に戻すというサイクルを1万サイクル繰り返した。
【0138】
<面積比活性の測定>
実施例及び比較例の電極触媒を、それぞれ、直径5mmのグラッシーカーボンディスクにより構成される回転ディスク電極(幾何面積:0.19cm2)上に5μg・cm-2となるように均一にNafionと共に分散担持し、性能評価用電極を作製した。
【0139】
各実施例及び比較例の電極に対して、N2ガスで飽和した25℃の0.1M過塩素酸中において、可逆水素電極(RHE)に対して0.05〜1.2Vの電位範囲で、50mVs-1の走査速度でサイクリックボルタンメトリーを行った。得られたボルタモグラムの0.05〜0.4Vに現れる水素吸着ピークの面積より、各電極触媒の電気化学的表面積(cm2)を算出した。
【0140】
次に、電気化学計測装置を用い、酸素で飽和した25℃の0.1M過塩素酸中で、0.2Vから1.2Vまで速度10mV/sで電位走査を行った。さらに、電位走査によりに得られた電流から、物質移動(酸素拡散)の影響をKoutecky-Levich式を用いて補正した上で、0.9Vでの電流値を抽出した。そして、得られた電流値を上述の電気化学的表面積で除した値を面積比活性(μAcm-2)とした。Koutecky-Levich式を用いた方法は、例えば、Electrochemistry Vol.79, No.2, p.116-121 (2011) (対流ボルタモグラム(1)酸素還元(RRDE))の「4 Pt/C触媒上での酸素還元反応の解析」に記載されている。抽出した0.9Vの電流値を電気化学表面積で除算することで面積比活性が算出される。
【0141】
耐久試験後の電極触媒について面積比活性を測定した。結果を下記表2に示す。
【0142】
【表2】
【0143】
上記表1から、本発明の電極触媒(触媒粒子)は、比較例のものに比して、耐久性試験後の活性が有意に高いことが示される。
【符号の説明】
【0144】
1…固体高分子形燃料電池(PEFC)、
2…固体高分子電解質膜、
3…触媒層、
3a…アノード触媒層、
3c…カソード触媒層、
4a…アノードガス拡散層、
4c…カソードガス拡散層、
5a…アノードセパレータ、
5c…カソードセパレータ、
6a…アノードガス流路、
6c…カソードガス流路、
7…冷媒流路、
10…電解質膜−電極接合体(MEA)。
図1
図2
図3