(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
樹脂筐体等の樹脂成形品の製造に射出成形技術が利用されている。この射出成形技術は、製品形状のキャビティーを備える金型に樹脂を射出、硬化させることで、高精度な成形品が量産できる技術である。
【0003】
即ち、射出成形技術は、射出成形機のシリンダ内でプラスチック材料を可塑化して溶融させる。そして、この溶融した樹脂をキャビティーに射出し、冷却・固化させることにより、目的とする形状の成形品を製造する。
【0004】
このとき、成形品に外観不良となる樹脂の合流部に発生するウエルドライン、金型表面への樹脂の転写ムラ、冷却条件によって発生するヒケ、さらには成形品の収縮不均一により発生する反り変形が発生する場合がある。これらの現象は、金型温度(以下、型温と記載する)が関与することが知られており、その制御が重要となっている。
【0005】
型温は、製品の品質ばかりでなく、成形品の生産性にも大きく影響する。これは、型温が射出された溶融樹脂の冷却・固化に要する冷却時間に影響を与え、型温が高いと冷却時間が長くなって、生産性が低下するためである。
【0006】
また、プラスチック材料に結晶性樹脂を使用する場合は、型温制御による結晶化度の管理が成形後のプラスチック材料物性や成形収縮に大きく関わってくる。このためにも、型温制御は、重要である。
【0007】
一般的な型温制御は、金型に温調回路を形成し、この温調回路に温度設定された水や油等の媒体を循環させることで、型温調整を行なっている。
【0008】
しかし、温調回路の加工が困難な場合があり、また成形時の樹脂の射出圧力に耐えうる金型構造が要求されることから、必ずしも温調制御が優先された設計とならない場合があった。
【0009】
一方で、射出成形における型温制御は、工程毎に望ましい温度がある。例えば、金型内に溶融樹脂を射出する射出工程では、金型温度を高くして溶融樹脂の粘度上昇を抑えたほうが、射出圧力を低減できるばかりでなく、ウエルドラインの防止や金型表面への樹脂の転写性が向上して成形品の品質が向上する。
【0010】
しかし、金型内で樹脂を冷却・固化する冷却工程では、金型温度が高いと冷却時間を要して生産性が悪化するばかりでなく、離型時(金型から成形品を取り出すとき)に成形品が変形することがある。従って、射出工程時の温調温度と冷却工程時の温調温度を変えることが必要になる。
【0011】
このような要求に対して、例えば特開平11−348045号においては、
図9に示すような、レーザ光を用いて金属粉末を焼結することにより造形された金型100に、冷却水等の温調媒体を流動させるための流路101を形成する技術が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
本発明の実施形態を説明する。
図1は、第1実施形態にかかる金型2の断面図である。
図1における点線矢印は、温調媒体Dの流動方向を例示している。なお、
図1においては後述する温調部13の部分拡大図も併せて示している。また、
図1においては、温調機3及び該温調機3と金型2を接続する配管4も併せて示している。
【0022】
金型2は、溶融樹脂の射出側に取り付けられる固定側金型2A、この固定側金型2Aに対して進退する可動側金型2Bを主要構成とする。
【0023】
固定側金型2Aと可動側金型2Bとの当接領域に成形品形状のキャビティー11が形成されて、溶融した樹脂が固定側金型2A側に設けられたスプルランナ12を介してキャビティー11に射出される。なお、以下の説明では、キャビティー11を形成する固定側金型2A及び可動側金型2Bの面をキャビティー面11aと記載する。即ち、キャビティー11はキャビティー面11aで囲まれた空間領域である。
【0024】
固定側金型2A及び可動側金型2Bは、温調媒体Dが流動する温調部13、及び、該温調部13と温調機3からの配管4とを連結する入口側連結部連結部14a及び出口側連結部14b、スプルランナ12やエジェクタピン17と温調部13とを気密にシールするシール部15を備える。
【0025】
また、温調部13を貫通するスプルランナ12やエジェクタピン17等の部材を温調部貫通部材と記載する。従って、シール部15は温調部貫通部材が温調部13を貫通する貫通領域に設けられていることになる。このとき、温調部貫通部材は、スプルランナ12やエジェクタピン17に限定するものではない。
【0026】
なお、温調媒体Dが入力する連結部14を入口側連結部連結部14a、温調媒体Dが出力する連結部14を出口側連結部14bと記載する。また、固定側の温調部13とスプルランナ12とを気密にシールするシール部15をスプル側シール部15a,可動側の温調部13とエジェクタピン17とを気密にシールするシール部15をエジェクタ側シール部15bと記載する。
【0027】
そして、温調媒体Dは、温調機3→配管4→入口側連結部連結部14a→温調部13→出口側連結部14b→配管4→温調機3を順次循環して、温調部13を流動する際に金型2と熱交換する。
【0028】
(温調部)
温調部13は、温調媒体Dが流動する流動チャネル13a、この流動チャネル13a内に設けられた複数のチャネル支持柱13bにより構成されている(
図1の拡大図参照)。
【0029】
温調部13の高さ(チャネル支持柱13bの柱高に相当)K1は、成形品の厚み(キャビティー11の厚みに相当)K2の約2倍程度としたとき、良好な結果を得ることができたが、この大きさは成形品に対する温調特性や温調媒体Dの流動特性、温調温度等により決定する。
【0030】
このような温調部13は、概ねキャビティー面11aに沿って設けられて、キャビティー11のコーナ領域、曲面領域、平面領域等の各領域に対応して設けられている。即ち、温調部13は、キャビティー11を均一に包み込むように設けられている。これにより、成形品のコーナ領域、曲面領域、平面領域等の各領域に対して一様に温調できるようになる。従って、成形品の熱収縮量が一様となるため、変形等の発生が抑制できる。
【0031】
(鍔部)
また、固定側の温調部13又は可動側の温調部13の少なくとも一方には、帽子のつばのような形状の鍔部18が設けられている。この鍔部18は、温調部13をパーティングラインPLに沿って延設されたもので、当該温調部13と連通し、かつ、同一構成である。
【0032】
図2は、可動側金型2Bの上面図(キャビティー11側から見た図)で、本実施形態では、鍔部18を可動側金型2Bに設けた場合を示している。鍔部18を固定側金型2A又は可動側金型2Bのいずれに設けるかについては、キャビティー11の形状や金型2の要求強度により決定される。
図1等に示すキャビティー11は、弁当箱形状であるため、その側壁の端面11b(
図1参照)に対しても温調機能を作用させることが可能になる。
【0033】
このとき、温調部は、弁当箱の底面に対応するキャビティー面を少なくとも主要面として、当該主要面に沿って所定距離の位置に設けられている。なお、主要面は、複数の平面や曲面で構成される成型品において、大きな面積を持つ面であり、平面に限定されず、また1つの面に限定されない。
【0034】
鍔部18の突出量K3,K4(
図1,
図2参照)は、成形品の厚みK2(
図1参照)が2mm、固定側金型2Aのキャビティー面11aと温調部13との間隔K5が3mmである場合は、突出量K3,K4は5mm以上であることが望ましい。
【0035】
(支持柱)
温調部13を構成するチャネル支持柱13bについて説明する。チャネル支持柱13bは、丸柱、四角柱、六角柱等の柱状体であり、概ね等間隔(等密度)に配置されている。
【0036】
このようにチャネル支持柱13bを等密度で配置することにより、温調媒体Dに対する流動抵抗が概ね一様とすることができる。即ち、チャネル支持柱13bは流動チャネル13aに配置されるので、配置密度に粗密が存在すると密の所で温調媒体Dは流れ難くなる。温調媒体Dの流動速度変化は周りとの熱交換効率の変化を意味する。従って、一様の流速で温調媒体Dが流動することは、成形品に対する温調作用が一様になることを意味し、成形品の品質向上が可能になる。
【0037】
図3は、チャネル支持柱13bの配置例を示す図である。温調部13の長手方向と垂直な断面(
図3において紙面に垂直な面)において隣接するチャネル支持柱13bの間隔は一定(
図3では寸法2c)に設定され、上下関係のあるチャネル支持柱13bの間隔は一定(
図3では寸法c)に設定されている。これにより、どの流路においても流路断面積が概ね一定となって、均一な温調が行える。
【0038】
また、チャネル支持柱13bにおける柱軸は、型締力や射出圧による荷重の方向に平行に設けられている。また、温調部13のコーナ領域では、
図1の拡大図に示すように、対向するコーナを橋渡しするようにチャネル支持柱13bが配置されている。従って、型締力や射出圧等の荷重によって温調部13が変形したりしないようになっている。
【0039】
例えば、樹脂材料がABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)、成形時の最大射出圧が50MPa、金型2の材料がマルエージング鋼(ヤング率は186GPa)、キャビティー面11aから温調部13までの距離が2.5mm、チャネル支持柱13b間の金型2の撓み量が金型2の厚の0.2%以下にする場合、各チャネル支持柱13bの間隔を11mm以下、かつ、温調部13の容積に対して20%以上となるようにチャネル支持柱13bを設けることが好ましい。
【0040】
(連結部)
連結部14は温調機3からの配管4と温調部13とを連結する。このとき、連結部14における温調媒体Dの流動抵抗が増大しないように、配管4と温調部13とを連結することが好ましい。具体的には、温調部13の断面形状は概ね矩形であり、配管4の断面形状は概ね円形であるので、配管4側の連結部14の領域は円形とし、温調部13側の連結部14の領域は矩形として、かつ、断面積が一定となるように徐々に変化させる。
【0041】
(シール部)
シール部15は、先に述べたように、スプル側シール部15a、エジェクタ側シール部15bを含んでいる。
【0042】
スプルランナ12には高圧の溶融樹脂が流動し、温調部13には温調媒体Dが流動しているので、スプルランナ12の樹脂が温調部13に流出したり、温調部13の温調媒体Dがスプルランナ12に流出したりする恐れがある。
【0043】
一方、エジェクタピン17は無垢の金属棒であるため、エジェクタピン17から温調部13に流入するものはないが、温調部13の温調媒体Dが流出する恐れがある。
【0044】
温調媒体Dの流出は、温調特性の変動をもたらすため、好ましくない。そこで、かかる溶融樹脂の流出や温調媒体Dの流出を防止するために、スプル側シール部15a及びエジェクタ側シール部15bを設けている。
【0045】
シール部15の厚みは、シール部15の近傍領域でも温調作用が得られ、かつ、シール部15の変形が起きない厚み(例えば、約1mm)に設定する。
【0046】
なお、スプルランナ12及びエジェクタピン17の外径寸法にもよるが、この寸法がチャネル支持柱13bの外径より小さい場合には、
図4に示すように、対応する位置のチャネル支持柱13bをスプルランナ12やエジェクタピン17が挿通するようにしても良い。
図4は、エジェクタピン17がチャネル支持柱13bを挿通する場合を示している。
【0047】
(製造方法)
このような金型2は、一般的な切削加工によっては製造が困難な場合がある。特に、複雑な形状の成形品に対応した温調部13を持つ金型2を製造する場合には、マシニングセンタを用いても容易に製造できない。
【0048】
無論、固定側金型2Aや可動側金型2Bを温調部13の位置で2分割し、一方に温調部を製造した後、一体化するならば、切削加工でも製造可能である。しかし、非常に製造コストが嵩んでしまう。
【0049】
そこで、本実施形態では、金属粉末を50μm程度の所定の厚みで溶融積層するレーザ光を用いた粉末積層造形技術を用いた。この造形技術では、任意形状の温調部13を内包する構造物が、容易に製造できる。このとき、マシニングセンタやNCフライス等による機械加工方法と粉末積層造形技術とを併用してもよい。
【0050】
また、粉末積層造形技術に用いる金型2の材料としては、マルエージング鋼等が例示でき、一般的な機械加工技術を用いる場合には、S50C、SKD61、SUS420、SKD11等が例示できる。
【0051】
成形品を成形する際には、大きな型締力や射出圧が金型2に加わる。このときの力により温調部13が変形すると、キャビティー11の形状や寸法が狂い、また温調媒体Dの流動特性が変わってしまう。このため、マルエージング鋼を用いた場合には、温調部13とパーティングラインとを5mm以上離し、かつ、温調部13とキャビティー面11aとの距離が最も近いところで、2mm以上離れるようにすることで、良好な結果を得る。
【0052】
射出成形に用いる樹脂材料として、非晶性樹脂(例えば、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂等)、結晶性樹脂(ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、液晶ポリマー、ポリ乳酸等)、及び、これらの混合材料が使用できる。
【0053】
また、成形品の弾性率を向上させたり、樹脂に難燃性を付与したりする目的で、樹脂中にガラス繊維等の無機フィラー、シリコーン等の有機フィラーを添加して使用することもできる。
【0054】
(温調媒体)
また、温調媒体Dとしては、水(加圧水を含む)、油等が利用できる。この場合、温調機3の性能にもよるが、水の場合は140℃程度の温調が可能であり、それ以上の温度で温調したい場合は、油を使用する。
【0055】
(仕切板)
なお、上記説明では、入口側連結部連結部14aから入流した温調媒体Dは温調部13全体に広がって流動する場合について説明した。即ち、温調媒体Dは、
図2に示したように、入口側連結部連結部14aから温調部13に流入し、温調部13全体に広がり、そして出口側連結部14bから温調機3に戻るパス(一点鎖線の矢印で示すパス)を流動した。
【0056】
しかし、本実施形態はかかる構成に限定するものではない。例えば、
図5に示すように温調部13に複数の仕切板19を設けて、温調媒体Dが一筆書きで循環できるように設けてもよい。
【0057】
温調媒体Dの流速が位置的にばらつくことは、温調ムラの原因となる。このため、仕切板19は、流動方向の面積が一様(流動抵抗が一様)になるように設けることが好ましい。
【0058】
このような仕切板19は、金型2やチャネル支持柱13bと同じ材質のものが望ましく、仕切板19の厚みとして、約1mmが例示できる。なお、粉末積層造形技術を用いて金型2を製造する場合には、チャネル支持柱13b及び仕切板19も同時に製造できる利点もある。
【0059】
また、上記説明では、温調部13は一筆書きの流動チャネル13aを持つ場合について説明した。この場合、流動チャネル13aのチャネル長が長いと、温調媒体Dが流動中に金型2と熱交換して温度上昇(又は温度下降)してしまう。
【0060】
この様な場合には、温調媒体Dの流動方向を動作中に反転させたり、温調部13を対路として(温調部13を2本でペアとする)、一方の温調部13を流動する温調媒体Dの流動方向と他方の温調部13を流動する温調媒体Dの流動方向と逆方向にする。
【0061】
このような構成により、金型2の温度分布を均一化することができ、成形品を一様に冷却等することが可能になる。
【0062】
以上説明したように、キャビティーから概ね等距離離れた位置であって、かつ、当該キャビティーを包むように温調部を設けたので、効率的な温調を行なうことが可能になり、高品質の成形品が高い生産性のもとで製造可能になる。
【0063】
また、温調部に支持柱を設けることで、成形時の荷重に対する金型の変形が防止できるようになり、金型の信頼性が向上する。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、上述した各実施形態と同一構成に関しては、同一符号を用いて説明を適宜省略する。
【0064】
図6は、本実施形態にかかる金型2の断面図である。この金型2は、上述した実施形態にかかる金型に対して、断熱部16を固定側金型2A及び可動側金型2Bに追設した構成となっている。
図6の拡大図は、断熱部16の内部構成を例示した図である。
【0065】
このとき、キャビティー11、温調部13、断熱部16と並ぶように、断熱部16を設け、かつ、温調部13に沿わせて当該温調部13を覆うように設ける。
【0066】
この断熱部16の断熱作用により、温調部13は効率的に温調できるようになる。即ち、この断熱部16がない場合には、キャビティー11内の成形品の温調制御を行うために金型2全体の温調が必要となる。しかし、断熱部16を設けることにより、この断熱部16とキャビティー11との間の金型部分の温調を行えばよい。従って、温調媒体Dが温調しなければならない領域が少なくなり(熱負荷が小さくなり)、迅速に温調が行えると共に、循環させる温調媒体Dの流量も減らすことができ、温調機3を小型化することが可能になる。
【0067】
このような断熱部16に要求される特性は、断熱作用の他に、成形時の型締力や射出圧等の荷重に対して許容できる変形に収まることが条件となる。
【0068】
断熱部16は、粉末積層造形技術を用いて断熱支持柱16bと断熱層16aとからにより作成されている。この構造は、温調部13と同じ構造であり、断熱支持柱16bがチャネル支持柱13bに対応し、流動チャネル13aが断熱層16aに対応している。このとき、断熱層16aは、空洞(即ち空気が充満)でも良いが、エポキシ樹脂等の断熱材料を充填固化させてもよい。
【0069】
エポキシ樹脂等の充填剤単独では、成形時の型締力や射出圧等の荷重に耐えることができない場合でも、断熱支持柱16bが荷重を支持するので、断熱部16が潰れる等の恐れがない。
【0070】
断熱材料として少なくとも断熱支持柱16bより熱伝導度が小さい材料であることが要求される。
【0071】
また、溶融樹脂が流動するスプルランナ12等の部材が断熱部16を貫通する場合は、断熱部16を気密にシールするためのシール手段を設けることが好ましい。このシール手段として、先に説明したシール部が適用できる。
【0072】
以上説明したように、断熱部を設けたので、温調媒体の熱負荷が小さくなり、迅速に温調が行えると共に、循環させる温調媒体の流量も減らすことができ、温調機を小型化することが可能になる。
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、上述した実施形態と同一構成に関しては、同一符号を用いて説明を適宜省略する。
【0073】
図7は、本実施形態にかかる金型の断面図である。この金型2は、温調媒体ポート20が追設されて、複数の温調系統を形成している。
【0074】
温調媒体ポート20は、配管4と接続される複数の外部側ポート20aと、連結部14と接続されたチャネル側ポート20bとを備えている。
図7では3つの温調系統(便宜上、第1系統〜第3系統と記載する)の場合を例示しているが、3つに限定するものではない。
【0075】
外部側ポート20aには、それぞれ温度の異なる温調媒体Dが入出力する。従って、成形工程に応じた温度の温調が行えると共に、成形品の形状や種類に応じた温調が行えるようになる。
【0076】
なお、
図7においては、系統を切替える切替バルブ等の切替手段は図示されていないが、当該切替手段を設けてもよく、また温調機3の方で温調媒体Dの循環路を設定するようにしても良い。
【0077】
無論、各系統に対応した温調部13を設けてもよい。この場合、例えば第1系統に接続された第1温調部、第2系統に接続された第2温調部というように、温調部13を温調媒体D毎に使い分けることになる。但し、各温調部13による温調分布は同じ分布となるようにすることが好ましい。
【0078】
ところで、上記説明では、1つの温調部に対して複数の温度の異なる複数の温調媒体を切り替えて循環させる場合について説明したが、複数の温調部を設け、各温調部に異なる温度の温調媒体を循環させる構成であっても良い。この場合には、各温調媒体による温調分布が相似形をなすように、それぞれの温調部を設けることが好ましい。
【0079】
次に、複数系統の温調媒体Dを用いて成形する際の成形手順を説明する。使用する樹脂としてABS樹脂、ポリカーボネート等の非晶性樹脂やポリ乳酸、ポリアミド、ポリアセタール等の結晶性樹脂が例示できる。以下、主に非晶性樹脂を用いた場合を例に説明する。
図8は、非晶性樹脂を用いた場合の成形手順を示すフローチャートである。
【0080】
ステップSA1,S2: 温調機3を起動して温調を開始する。このときの温調は射出工程において樹脂の射出性や転写性を向上させることを目的とする。そこで、便宜上、型温調と記載する。
【0081】
ABS樹脂は220℃〜240℃、ポリカーボネートは270℃〜300℃で可塑化されて射出される。このとき、型温はABS樹脂の場合には40℃〜60℃、ポリカーボネートの場合には80℃〜100℃になるように設定したとする。以下、このとき第1系統から温度(第1温度)の温調媒体D(第1温調媒体D)が供給されるとする。
【0082】
なお、第1温度は、樹脂溶融温度以下を上限とし、樹脂の熱変形温度以上の範囲で、型温制御することが望ましい。そして、第1温調媒体Dとして第1温度が140℃程度までの温調であれば水(加圧水を含む)を用いることができ、200℃程度までが必要であれば油を用いることができる。
【0083】
ステップSA3: 第1温調媒体Dによる型温が安定した後、可塑化した樹脂がスプルランナ12を経てキャビティー11に射出される。このとき、第1温調媒体Dにより金型2が温調されているため、樹脂は低粘性を保った状態で流動する。従って、通常では成形し難い樹脂や薄肉形状の成形品等が成形可能になると共に、成形品における樹脂が合流する領域で発生しやすいウエルドライン等の外観不良が抑制できるようになる。
【0084】
ステップSA4,SA5: 樹脂の射出が完了すると、成形された樹脂成形品に対する温調(主に、冷却)を行うことにより、成形サイクルを短縮する。そこで、第2系統から第2温度の第2温調媒体Dを温調部13に循環させる。この第2温度は、第1温度より低い温度であり、かつ、成形品を取り出した後でも熱収縮等による変形を起こさない(許容範囲に収まる)温度とする。
【0085】
そして、この状態で保圧が行われる。この保圧は、キャビティー11に樹脂が充填された後でも、溶融樹脂を射出圧又はこの射出圧より適宜高い圧力で充填させる工程である。これは、樹脂が冷えて収縮するときの収縮量を補充する意味を持つ。従って、第2温調媒体Dによる冷却は保圧開始と同時に行われ、かつ、保圧終了後も所定時間継続される。
【0086】
ステップSA6〜SA7: 成形品が所定温度まで冷却されると、型開きして成形品を取り出す。その後、次の成形サイクルに進むべく、ステップSA1に戻り、第2温調媒体Dから第1温調媒体Dに切り替えられる。このとき、型開と同時に第2温調媒体Dに切り替えるならば、金型2が型温調の温度に達するまでの時間の節約できるので、成形サイクルの短縮が可能になる。
【0087】
なお、上記説明では、成形品の冷却を第2温度の1つの温度で行ったが、複数の温度(第2温度の第2温調媒体D、第3温度の第3温調媒体D、第4温度の第4温調媒体D…)で行うことも可能である。このような冷却を多段冷却と記載する。
【0088】
例えば、2段冷却を行う場合には、先ず第2温度の第2温調媒体Dで冷却を行い、次に室温付近の温度の第3温度の第3温調媒体Dで冷却を行う。
【0089】
室温付近の温度で冷却すると、成形品は第2温度から概ね室温までキャビティー11内に保持されるので、樹脂レンズのように可能な限り熱収縮や変形を嫌う成形品に対しては非常に有効である。
【0090】
また、結晶性樹脂の場合には、結晶化度が低いと成形後の樹脂機械物性が低下し、十分な強度が確保できない。従って、型温が高くして結晶化が進行し易い状態で成形することが望まれる。しかし、型温が高くなると冷却時間も長くなるので、生産性が低下する。
【0091】
このような場合は、第3温度を結晶成長が可能な温度の下限とし、第4温度を室温近傍の温度とすると、第3温度で結晶成長を確保し、その後に第4温度で冷却することができる。これにより、結晶成長を阻害することなく、生産性を向上させることが可能になる。
【0092】
なお、上記説明では、固定側金型2Aと可動側金型2Bとで同じ温度で温調する場合について説明したが、本実施形態はかかる限定を行うものではない。
【0093】
成形品に反りが発生するような場合に、固定側金型2Aと可動側金型2Bの型温や冷却温度を異なる温度に設定して、成形品の表裏温度を変えて(冷却バランスを調整する)、反りの発生を抑制することが考えられる。
【0094】
この点、従前の金型では、固定側金型と可動側金型の温度を異なる温度設定にしても、固定側金型の型温と可動側金型の型温とがそれぞれ影響し合うので、十分な冷却バランスの制御が行えない。
【0095】
しかし、上述した金型2では、温調部13がキャビティー11の近傍、かつ、等距離の位置に設けられているので、固定側金型2Aの型温と可動側金型2Bの型温とが影響し合ったとしても、冷却バランスを容易に制御することができる。従って、成形品の反りを効率的に抑制することが可能になる。
【0096】
以上説明したように、キャビティーを包むように温調部を設けたので、効率的に金型及び成形品の温度制御が行えるようになり、成形品の品質及び生産性が向上する。
【0097】
また、温調部が成形時の荷重方向に沿って設けられたチャネル支持柱を含むため、金型や温調部の変形を防止することができ、成形品の品質及び生産性が向上すると共に金型の耐久特性を維持することができるようになる。
【0098】
さらに、多段冷却することが可能になるため、樹脂の種類や成形品の形状等に応じた温調が可能になる。
【0099】
<発明の利用が考えられる分野>
本発明は、射出成形に用いる金型に適用可能である。
【0100】
上記実施の形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
<付記1>
固定側金型と可動側金型とを備え、これらの当接領域に形成されたキャビティーに樹脂が射出される金型において、
前記固定側金型又は前記可動側金型の少なくとも一方に、温調媒体が流動する流動チャネルと、該流動チャネル内に設けられて、当該流動チャネルの高さを維持すると共に、荷重を支持する複数のチャネル支持柱と、を備える温調部を設け、かつ、
前記温調部を少なくともキャビティー面における主要面に沿って所定距離の位置に設けたことを特徴とする金型。
<付記2>
付記1に記載の金型であって、
前記チャネル支持柱は、所定形状で概ね一様な配置密度となるように設けられていることを特徴とする金型。
<付記3>
付記1に記載の金型であって、
複数の前記チャネル支持柱は、前記温調媒体に対して概ね一定の流動抵抗を示すように、配置されていることを特徴とする金型。
<付記4>
付記1乃至3のいずれか1項に記載の金型であって、
前記チャネル支持柱は、丸柱、四角柱、六角柱のいずれか1の形状に形成されていることを特徴とする金型。
<付記5>
付記1乃至4のいずれか1項に記載の金型であって、
前記温調部のコーナにおける前記チャネル支持柱は、対向する前記コーナを橋渡しするように設けられていることを特徴とする金型。
<付記6>
付記1乃至5のいずれか1項に記載の金型であって、
前記固定側金型又は前記可動側金型に設けられた前記温調部に、パーティングラインに沿って延設した鍔部を設けたことを特徴とする金型。
<付記7>
付記1乃至6のいずれか1項に記載の金型であって、
前記温調部を挿通する温調部貫通部材の貫通領域に、少なくとも前記温調部を流動する前記温調媒体の流出を規制するシール部を設けたことを特徴とする金型。
<付記8>
付記7に記載の金型であって、
前記温調部貫通部材には、溶融した樹脂を前記キャビティーに射出する際の流路をなすスプルランナ、成形された製品を前記キャビティーから突き出すエジェクタピンの少なくとも1つであることを特徴とする金型。
<付記9>
付記1乃至8のいずれか1項に記載の金型であって、
前記温調部には、異なる温度の複数の系統からの前記温調媒体が選択されて循環することを特徴とする金型。
<付記10>
付記1乃至9のいずれか1項に記載の金型であって、
前記温調部が複数設けられて、各温調部に異なる温度の前記温調媒体が流動し、かつ、複数の前記温調部は、同じ形状の温度分布を持つように設けられていることを特徴とする金型。
<付記11>
付記1乃至10のいずれか1項に記載の金型であって、
前記温調部に、流路を区画する仕切板を設けたことを特徴とする金型。
<付記12>
付記11に記載の金型であって、
前記仕切板により区画されて形成された流路断面は、概ね一様な面積に設定されていることを特徴とする金型。
<付記13>
付記1乃至2のいずれか1項に記載の金型であって、
前記温調部を基準にした場合、前記キャビティーと反対方向の位置で、かつ、前記温調部に沿って概ね等距離の位置に、断熱部を設けたことを特徴とする金型。
<付記14>
付記13に記載の金型であって、
前記断熱部は、当該断熱部に加わる荷重を支持する複数の断熱支持柱と、
前記断熱支持柱の柱周囲に設けられた断熱層と、
を備えることを特徴とする金型。
<付記15>
付記14に記載の金型であって、
前記断熱層は、空洞又はエポキシ樹脂により形成されていることを特徴とする金型。
<付記16>
付記1乃至15のいずれか1項に記載の温調部を備えた金型を用いて樹脂製品を射出成形する射出成形方法であって、
前記温調部に所定温度の温調媒体を流動させて、前記金型を所定温度に温調する型温温調工程と、
型温温調された前記金型のキャビティーに溶融樹脂を射出して成形品を形成する射出工程と、
前記型温を行った際の温度と異なる温度の前記温調媒体を前記温調部に流動させて前記成形品の冷却を行う冷却工程と、
前記成形品を取り出す型開工程と、
を含むことを特徴とする射出成形方法。
<付記17>
付記16に記載の射出成形方法であって、
前記冷却工程は、温度の異なる前記温調媒体を前記温調部に順次流動させる多段冷却処理を含むことを特徴とする射出成形方法。
<付記18>
付記17に記載の射出成形方法であって、
前記多段冷却処理は、前記キャビティーに射出された溶融樹脂における結晶化温度の下限値より適宜高い温度の前記温調媒体を流動させる工程と、
前記成形品が取出されてから室温に達したときに生じる当該成形品の熱収縮に伴う変形が許容範囲に収まる温度で前記成形品を取り出すことができるように、温度設定された前記温調媒体を前記温調部に流動させる工程と、
を含むことを特徴とする射出成形方法。
<付記19>
付記16乃至18のいずれか1項に記載の金型であって、
前記金型を構成する固定側金型と可動側金型とに設けられた前記温調部に流動させる前記温調媒体の温度が異なることを特徴とする射出成形方法。
<付記20>
付記16乃至19のいずれか1項に記載の金型であって、
前記温調媒体を前記温調部に流動させている最中に、流動方向を逆転させることを特徴とする射出成形方法。