特許第6191370号(P6191370)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191370
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】同期電動機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/27 20060101AFI20170828BHJP
【FI】
   H02K1/27 501K
   H02K1/27 501M
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-208547(P2013-208547)
(22)【出願日】2013年10月3日
(65)【公開番号】特開2015-73397(P2015-73397A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2016年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】有賀 信雄
(72)【発明者】
【氏名】太田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】諸星 時男
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第02509198(EP,A1)
【文献】 特公昭50−021582(JP,B1)
【文献】 特開2009−118674(JP,A)
【文献】 特開2004−320989(JP,A)
【文献】 特開2002−281700(JP,A)
【文献】 米国特許第05097166(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子を構成し、回転軸回りに回転可能な回転子鉄心と、当該回転子鉄心の内部で円周方向に配置された複数の永久磁石スロットと、前記回転子鉄心の外周近傍で回転軸に沿って配置された複数の開口と、を具備する同期電動機において、
前記永久磁石スロットは永久磁石を挿入する永久磁石挿入部と当該永久磁石挿入部の円周方向両端に位置し磁極を区画する一対のフラックスバリアとを備え、
前記フラックスバリアは、前記回転軸と直交する断面において、前記永久磁石挿入部と連続する基端部から回転子の外径方向に向かって延びるとともに、その先端部の一部に、この先端部に最も近接する前記開口と対向する直線部が設けられており、当該基端部から前記先端部方向へ延びる脚部と前記先端部に設けられた直線部とは接続部を介して接続され、当該接続部は前記脚部より円周方向の少なくとも片側に前記開口から乖離するように突出していることを特徴とする同期電動機。
【請求項2】
前記回転軸と直交する断面において、前記接続部の、少なくとも円周方向に突出した頂点よりも径方向外側の部分が滑らかな曲線によって構成されていることを特徴とする請求項1記載の同期電動機。
【請求項3】
前記回転軸と直交する断面において、前記フラックスバリアの先端部に設けられた直線部が、この先端部に最も近接する前記開口の中心と前記回転軸とを結ぶ直線に直交する直線に対し前記開口から乖離するように傾斜していることを特徴とする請求項1または2に記載の同期電動機。
【請求項4】
1極の永久磁石スロットを構成する永久磁石挿入部が、円周方向で複数の永久磁石挿入孔に分割されて形成されており、各永久磁石挿入孔に前記永久磁石を構成する永久磁石片がそれぞれ挿入されるとともに、各永久磁石片の磁極を径方向に同極の向きとなるように配したことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の同期電動機。
【請求項5】
前記複数の開口をかご形導体スロットとしてそれぞれ構成するとともに、各かご形導体スロットに挿入される導体バーと、各導体バーの両端をそれぞれ接続するエンドリングとを含むかご形導体を備えたことを特徴とする請求項1〜4何れかに記載の同期電動機。
【請求項6】
請求項1〜5何れかに記載の同期電動機を備えた合成繊維製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックスバリアを有する同期電動機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種装置に搭載する同期電動機には、搭載装置に応じた特性が要求される。例えば合成繊維製造プロセスで用いられる同期電動機では、高速回転、高出力等の高いスペックが要求される。こうした要求に対応して、同期電動機の中でも回転子鉄心の内部に永久磁石が埋め込まれた、いわゆる永久磁石埋め込み型(IPM型)の同期電動機が広く提案されている。
【0003】
さらに、こうした同期電動機では一般に起動性能が低い点が課題とされており、このような課題を解決するために、先行文献1に記載されるようなかご形導体を備える誘導起動型同期電動機も提案されている。この先行文献1に記載された誘導起動型同期電動機は、固定子と、複数の矩形状の永久磁石が径方向に直交してそれぞれ配されつつ埋め込まれた回転子鉄心の外周部近傍にモータ始動用のかご形導体が設けられた回転子とから構成される。回転子鉄心にはシャフトが焼き嵌めや圧入などによって締め代をもってシャフト孔に挿入されることで締結されている。かご形導体は回転子鉄心に形成された複数のかご形導体スロットに各々挿入配置される導体バーとこれら導体バーの両端をそれぞれ接続するエンドリングとによって構成されている。
【0004】
上記構成の誘導起動型同期電動機は、インバータを用いずに定電圧の単層又は三相電源(周波数50Hzまたは60Hz)から直接電源供給が可能であり、この場合、電源投入時には、かご形導体によって誘導モータとして回転子が回転し、同期速度に達した後、永久磁石によって同期モータとして回転する。また、インバータを用いた場合でも、電流制御を行わずとも同期速度に達し、さらにかご形導体によって安定した同期運転を行うことができる。
【0005】
上述したような永久磁石埋め込み型の同期電動機においては、出力効率を高めるために、永久磁石端部近傍における漏れ磁束を低減することが効果的とされており、これを目的として永久磁石の端部にフラックスバリア(磁束遮断部)を設ける場合もある。こうしたフラックスバリアを形成することで、回転子鉄心の内部で短絡する磁束が遮断され、漏洩磁束を低減して発生トルクを増加させることが期待できる。
【0006】
フラックスバリアの形状としては例えば、特許文献2の図1及び図2に第1凸部(12d−1)として示されるような、永久磁石の端部と接続し矩形状に形成されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−69696号公報
【特許文献2】特開平10−336927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したように、回転子鉄心の内部にかご形導体スロットを有する誘導起動型同期電動機を前提とした場合には、永久磁石の端部にフラックスバリアを設けると、回転に伴ってフラックスバリアとかご形導体スロットとの間に嵌め合いおよび遠心力による応力集中が生じ、最大応力が高くなって望むような高速回転ができなくなることが考えられる。また嵌め合い応力を低下させるために、回転子の肉厚を上げようとした場合には、回転子鉄心に挿入支持するためシャフトの径を細くせざるを得ず、危険速度が低下することで高速回転が不能になる可能性がある。
【0009】
なお、特許文献2にはフラックスバリアとかご形導体スロットとの間の応力集中を緩和する目的で、フラックスバリアの円周方向における幅や、フラックスバリアとかご形導体スロットとの間の距離を特定の長さに定める点が開示されているが、フラックスバリア自体の形状が適正化されたものではなく、こうした手法のみで応力集中の緩和を十分達成できるとは言えない。
【0010】
また、上記の問題は、かご形導体を備える誘導起動型同期電動機のみに限ることなく、回転子鉄心内に形成された挿通孔、外周に形成された凹部等の開口を備えるものであれば、フラックスバリアとの位置関係によって応力集中に起因する同様の問題を生じ得ることになる。
【0011】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、フラックスバリアを設けることで高出力を得ることができるとともに、その形状を適正化することにより嵌め合いや遠心力等による応力集中を緩和することで高速化を実現することのできる同期電動機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0013】
すなわち、本発明の同期電動機は、回転子を構成し、回転軸回りに回転可能な回転子鉄心と、当該回転子鉄心の内部で円周方向に配置された複数の永久磁石スロットと、前記回転子鉄心の外周近傍で回転軸に沿って配置された複数の開口と、を具備するものにおいて、前記永久磁石スロットは永久磁石を挿入する永久磁石挿入部と当該永久磁石挿入部の円周方向両端に位置し磁極を区画する一対のフラックスバリアとを備え、前記フラックスバリアは、前記回転軸と直交する断面において、前記永久磁石挿入部と連続する基端部から回転子の外径方向に向かって延びるとともに、その先端部の一部に、この先端部に最も近接する前記開口と対向する直線部が設けられており、当該基端部から前記先端部方向へ延びる脚部と前記先端部に設けられた直線部とは接続部を介して接続され、当該接続部は前記脚部より円周方向の少なくとも片側に前記開口から乖離するように突出していることを特徴とする。
【0014】
このように構成すると、フラックスバリアが永久磁石挿入部に連続する基端部より前記回転子の外径方向へ延びるように設けられていることから、フラックスバリア周辺での磁束の短絡を防いで、磁束の流れを適正化することができるため、効率を高めて高出力を得ることが可能となる。
【0015】
さらには、フラックスバリアの先端部が直線状になっていることで、回転子鉄心の外周近傍に設けられた前記開口に近接するフラックスバリアの先端部周りにおける応力集中を緩和して最大応力の低減を図り、高速化を実現することも可能となる。
【0016】
また、接続部が脚部より円周方向の少なくとも片側に前記開口から乖離するように突出していることで、直線部の端部に生じる応力を低減し、上記の効果を高めることが可能となる。
【0017】
さらに、フラックスバリア先端部における直線部の端部および接続部に生じる応力を低減し、より上記の効果を高め、高出力・高速化を図るには、前記回転軸と直交する断面において、前記接続部の、少なくとも円周方向に突出した頂点よりも径方向外側の部分が滑らかな曲線によって構成されていることが望ましい。
【0018】
また、前記フラックスバリア先端部の前記開口との対向面における応力集中を緩和し、応力のアンバランスを解消するには、前記回転軸と直交する断面において、前記フラックスバリアの先端部に設けられた直線部が、この先端部に最も近接する前記開口の中心と前記回転軸とを結ぶ直線に直交する直線に対し傾斜していることが効果的である。ここで、回転子鉄心の外周近傍に設けた開口の断面形状が円形でない場合は、当該断面形状の重心位置を開口の中心と定義する。
【0019】
永久磁石を複雑な形状にすることなく、永久磁石挿入部を適正な形状にすることとともに、個々の永久磁石挿入孔を小さくして回転子鉄心の強度を高めるためには、1極の永久磁石スロットを構成する永久磁石挿入部が、円周方向で複数の永久磁石挿入孔に分割されて形成されており、各永久磁石挿入孔に前記永久磁石を構成する永久磁石片がそれぞれ挿入されるとともに、各永久磁石片の磁極を径方向に同極の向きとなるように配することが好ましい。
【0020】
回転子鉄心内にシャフトを挿入するシャフト孔を設ける構成とした場合、シャフトとの嵌め合いによる応力集中を緩和して、より強度を向上するには、前記永久磁石挿入部を、隣接する永久磁石挿入孔同士が外径方向に向かって凸をなすように配置して構成することが有効である。
【0021】
そして、前記永久磁石挿入孔が、前記回転軸と直交する断面において略矩形をなすように形成されていれば、直方体形状の永久磁石を用いて、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0022】
さらには、起動時には誘導電動機として機能する誘導起動型同期電動機として構成するためには、前記複数の開口をかご形導体スロットとしてそれぞれ構成するとともに、各かご形導体スロットに挿入される導体バーと、各導体バーの両端をそれぞれ接続するエンドリングとを含むかご形導体を備えるように構成することが好適である。
【0023】
そして、上記の同期電動機を備える合成繊維製造装置として構成することで、合成繊維製造プロセスの効率化を図ることも可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、以上説明した構成であるから、フラックスバリアを設けることでトルクを向上させ高出力を得ることができるとともに、フラックスバリアの形状を適正化することで、嵌め合いや遠心力等による応力集中を緩和することで高速化を実現することが可能となる。また、回転子鉄心にシャフトを挿入する構成とした場合、シャフト径を大きくしても嵌め合いによる応力に耐えうるため、太いシャフトを用いることができ、固有振動数を高くして安定した高速回転を行うことも可能となる。そして、これらの効果により、高出力と高速化を両立させた同期電動機を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係る同期電動機の断面図。
図2図1に示す同期電動機を構成する回転子の断面図。
図3図2の回転子の要部(E部)拡大断面図。
図4】フラックスバリア周辺における磁束の流れを示す図。
図5】フラックスバリア先端部の形状の変化させた例を示す模式図。
図6】磁石挿入部の端部を示す断面の模式図。
図7】フラックスバリアの詳細な形状を説明するための拡大断面図。
図8】フラックスバリア形状の変形例を示す断面図。
図9】2極の同期電動機の場合の変形例に係る回転子の断面図。
図10】本発明を異なるタイプの同期電動機に採用した場合の変形例を示す要部拡大断面図。
図11】フラックスバリア形状を変形する際の考え方を示す説明図。
図12】永久磁石及び永久磁石挿入部の形状の変形例を示す断面図。
図13】フラックスバリア形状の変形例を示す断面図。
図14図13に示す変形例の要部拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る同期電動機を、図面を参照しつつ説明する。図1に示す本実施形態に係る同期電動機は、後述するかご形導体を備える誘導起動型同期電動機として構成している。図2は、本発明の同期電動機を構成する回転子の一例を示す、当該回転子の回転中心となる回転軸Oに垂直な断面図であり、図3は当該回転子の要部拡大断面図(図2のE部)である。
【0027】
図1に示された同期電動機は、固定子巻線スロット31に図示しない固定子巻線を巻回された3相の固定子30と、固定子30の磁極面32に対向し固定子30の内部で回転する回転子10を有するものである。この回転子10は、図2に示すように、回転軸Oに沿って配置されるシャフト40が焼き嵌めや圧入などによって締め代をもってシャフト孔11に挿入されることで締結された回転子鉄心12と、当該回転子鉄心の内部で円周方向に等間隔で配置された4つの永久磁石スロット13と、前記回転子鉄心12の内部にあって、前記永久磁石スロット13よりも径方向外側に設けられた図示しないアルミ製の導体バーを挿入するための複数の開口としてのかご形導体スロット14とを具備している。
【0028】
回転子鉄心12は、電磁鋼板を積層して形成されており、各鋼板表面の絶縁皮膜によって回転軸O方向に発生する渦電流を抑え、鉄損失による効率の低下を防止している。
【0029】
永久磁石スロット13は、永久磁石15を挿入する永久磁石挿入部16と当該永久磁石挿入部16の円周方向両端に位置し磁極を区画する一対のフラックスバリア17と、空隙部18とを備えている。
【0030】
永久磁石挿入部16は、円周方向で2個の永久磁石挿入孔16a,16bに分割されて形成され、各永久磁石挿入孔16a,16bには永久磁石15が2つの永久磁石片15a,15bに分割されて挿入されており、これら2つの永久磁石片15a,15bの磁極を径方向に同極の向きとなるように配することで、1つの磁極を形成している(磁極中心は図2に示す分割点D)。これらに隣接する永久磁石スロット13を構成する永久磁石挿入部16a,16bに挿入される永久磁石片15a,15bの径方向の磁極の向きは、図4に示すように逆向きとなっている。また、回転軸Oと直交する断面において略矩形をなすように形成され、嵌め合いによる応力が最大となる図2:B部の強度を維持するために、隣接する永久磁石挿入孔16a,16bは磁束中心に向かって径方向外側に傾けられ、すなわち、外径方向に向かって凸をなすよう配置されている。永久磁石挿入孔16aと16bのなす角は160°となっている。このように構成することで、永久磁石片15a,15bは、最もシャフト孔11に近接する部分が角部になることなく、応力集中を緩和することが可能となっている。
【0031】
空隙部18は、図2に示すように永久磁石挿入孔16a,16bの互いに対向する側の端部に設けられ、具体的には図6(b)の模式図に示すように、空隙部18は永久磁石片15a,15bが挿入されない空洞として形成されており、こうすることで、永久磁石挿入孔16の加工精度を高め、永久磁石15の位置精度を高めるとともに、応力集中を低減することが可能となる。なお、図6(b)の形状に代えて、図6(a)に示すように隅部に小さなrを形成してもよい。ただし、図6(a)のように構成した場合よりも、図6(b)の場合の方が、永久磁石挿入孔16の隅部のRを大きく取ることができ(r<R)、この永久磁石挿入孔16の隅部の近傍における応力集中をより効果的に緩和することができて好ましい。
【0032】
以下、フラックスバリア17(図2参照)の詳細形状について説明を行う。図7は、図2におけるE部を拡大し角度を変えて示したものである。フラックスバリア17は、回転軸Oと直交する断面において、永久磁石挿入部16と連続し回転子10の円周方向に延びる基端部19と、当該基端部19から角度を変えて回転子10の外径方向に向かって延びる脚部20を備えるとともに、その先端部21の一部に、当該先端部21と最も近接するかご形導体スロット14nに対向する直線部22が設けられている。また、脚部20と先端部21に設けられた直線部22とは滑らかな曲線によって構成される接続部23を介して接続されている。
【0033】
なお、本明細書中においては図7に示すように、直線部22と接続部23とをあわせて先端部21と定義しており、また、フラックスバリア17は基端部19と脚部20と先端部21とから構成されている。また、先端部21は、挿入された永久磁石片15aの端面を通る直線L3と交わらないよう、図7における距離dだけ円周方向外側へ変位している
【0034】
そして本実施形態においては、かご形導体スロット14は図2に示すように回転子鉄心の外周部に等間隔で40個設けられており、永久磁石スロット13の両端にある4組8ヶ所のフラックスバリア17は全てかご形導体スロット14のいずれかと対向するようになっている。
【0035】
図3に示すように、フラックスバリア17を構成する直線部22は、回転軸Oと直交する断面において、先端部21に最も近接するかご形導体スロット14nの中心Pと前記回転軸Oとを結ぶ直線L1に直交する直線L2に対し傾斜して設けられており、当該直線L2に対する傾斜角θは本実施形態において10°と設定している。
【0036】
接続部23は、図7に示すように脚部20より円周方向両側に突出しており、当該接続部23、脚部20および直線部22によって略T字形が形成されている。
【0037】
なお、フラックスバリア17の先端部21の形状は、最も近接するかご形導体スロット14nとの対向面における応力が均等になるように形成するという考え方で適正化すればよい。すなわち、図5に当該先端部21の模式的な形状が(a)〜(e)の5通り示されているが、(a)〜(e)それぞれの先端部の応力を数値解析することで適正な形状が決定される。ここで、(a)の先端部形状は従来から用いられているもので比較例1を構成するものであり、(b)は先端部に直線部を設けているもので比較例2を構成するものである。また、(c)〜(e)は第1実施形態〜第3実施形態を構成するものである。この中でも、第3実施形態に相当する(e)の先端部形状は、図3,7等に記載したフラックスバリア17において採用した形状を模式的に表したものとなっている。
【0038】
具体的には、まず先端部21を半円形の(a)のような形状にすると、かご形導体スロット14nに最も近いX1に応力が集中する。そこで、(b)のようにかご形導体スロット14nとの対向面に直線部22を設けることで凸部をなくすと、一点での応力集中を避けることで最大応力を低減することが可能となる。但し、隅部X2に応力が集中する傾向にあるため、このX2の応力を低減するため(c)のような左右対称なT字形にすると、直線部22と両側の接続部23a,23bとの接続点(X3,X4)周りに応力が集中し、両端の応力にも差が生じる(図5ではX3における応力<X4における応力とする。)。そこでさらに、2つの接続点X3,X4のうち応力の大きいX4側の接続部23bを円周方向に延長してX4がかご形導体14nから円周方向に乖離した(d)のような形状にし、さらに応力の差を軽減するため直線部22を傾けると、X4がかご形導体14nからさらに乖離して(e)のような形状となり、X3とX4の応力の均等化が達成される。
【0039】
なお、実際の形状は同期電動機の回転数、トルク、嵌め合い応力等の条件によって変更されるため、常に(e)のような形状が最適であるわけではなく、先端部の形状は上記種々の条件によって、かご形導体スロットとの対向面における応力を均等にする目的で変更され得る。例えば、前記(c)あるいは(d)の形状によっても目標の性能を得ることが可能となる場合もある。
【0040】
同様に、図3に記載した直線部22の傾斜角θは上述した10°に限定されるものではなく、目標とする出力トルク、最大回転速度、回転速度に適する焼き嵌め量等の種々の条件に応じて、傾斜角を変更することも可能である。この際、傾斜角θを変更する場合には、マイナスの角度をとる、すなわち、逆方向に傾斜する場合も含むものである。
【0041】
次に、上記の実施形態における作用を説明する。
【0042】
図1において、回転子10は、固定子30巻線に電流を流し固定子30内部に回転磁界を発生させると、図示しないかご形導体に発生する誘導電流によってトルクを得て回転を開始する。そして、同期速度に達すると、永久磁石15によって同期電動機として回転する。
【0043】
そして、同期電動機として回転中は、図7に示すように、フラックスバリア17が基端部19から回転子10の外径方向に向かって延びていることで、図4のように永久磁石15より径方向内側にq軸磁束が流れる経路が確保できるため、回転子10の同期を保つトルクである引き入れトルクや回転増加時に同期を保つ最大トルクである脱出トルクの向上を期待できる。
【0044】
また、本実施形態を採った時の数値解析も行っている。焼嵌めしろと回転数を同条件で比較した場合、フラックスバリア先端部21及び永久磁石孔16の形状を図2のようにしたときの最大応力は、フラックスバリア先端部21の形状を図5(a)、永久磁石孔16の形状を図6(b)のようにしたときの約1/3となった。この結果から、本実施形態を採れば応力分布が改善され、応力集中が緩和されることが示された。
【0045】
以上のように、本実施形態の同期電動機は、回転子10を構成し、回転軸回りに回転可能な回転子鉄心12と、その回転子鉄心12の内部で円周方向に配置された複数の永久磁石スロット13と、回転子鉄心12の外周近傍で回転軸Oに沿って配置された複数の開口としてのかご形導体スロット14と、を具備するものにおいて、永久磁石スロット13は永久磁石15を挿入する永久磁石挿入部16とその永久磁石挿入部16の円周方向両端に位置し磁極を区画する一対のフラックスバリア17とを備え、フラックスバリア17は、回転軸Oと直交する断面において、永久磁石挿入部16と連続する基端部19から回転子10の外径方向に向かって延びるとともに、その先端部21の一部に、この先端部21に最も近接するかご形導体スロット14nと対向する直線部22が設けられており、その基端部19から先端部21方向へ延びる脚部20と先端部21に設けられた直線部22とは接続部23を介して接続され、接続部23は脚部20より円周方向の両側に突出しているように構成したものである。
【0046】
このように構成しているため、フラックスバリア17が永久磁石挿入部15に連続する基端部19より回転子10の外径方向へ延びるように設けられていることから、フラックスバリア17周辺での磁束の短絡を防いで、磁束の流れを適正化することができるため、効率を高めて高出力を得ることが可能となっている。
【0047】
さらには、フラックスバリア17の先端部21が直線状になっていることで、回転子鉄心12の、かご形導体スロット14に近接するフラックスバリア17の先端部21周りにおける応力集中を緩和して最大応力の低減を図り、高速化を実現することも可能となっている。また、回転子鉄心12にシャフト40を挿入する構成とした場合、シャフト40の直径は細くすることを要せず、危険速度の低下を生じることもない。
【0048】
また、接続部23が脚部20より円周方向の両側に突出していることで、直線部22と接続部23との接続点X3,X4に生じる応力を低減し、上記の効果を高めることが可能となる。
【0049】
さらに、回転軸Oと直交する断面において、接続部23は滑らかな曲線によって構成されているため、フラックスバリア17の先端部21における直線部22の端部および接続部23に生じる応力を低減し、より上記の効果を高め、高出力・高速化を図ることが可能となっている。
【0050】
また、回転軸Oと直交する断面において、フラックスバリア17の先端部21に設けられた直線部22が、この先端部21に最も近接するかご形導体スロット14nの中心Pと回転軸Oとを結ぶ直線L1に直交する直線L2に対し傾斜するように構成しているため、フラックスバリア先端部21のかご形導体スロット14との対向面の応力集中を緩和し、応力のアンバランスを解消することが可能となっている。
【0051】
1極の永久磁石スロット13を構成する永久磁石挿入部16が、円周方向で複数の永久磁石挿入孔16a,16b,…に分割されて形成されており、各永久磁石挿入孔16a,16b,…に永久磁石15を構成する永久磁石片15a,15b,…がそれぞれ挿入されるとともに、各永久磁石片15a,15b,…の磁極を径方向に同極の向きとなるよう配しているため、永久磁石15を複雑な形状にすることなく、永久磁石挿入部16を適正な形状にすることとともに、個々の永久磁石挿入孔16を小さくして回転子鉄心10の強度を高めることが可能となっている。
【0052】
永久磁石挿入部16を、隣接する永久磁石挿入孔16a,16b,…が外径方向に向かって凸をなすように配置して構成しているため、嵌め合いによる応力集中を緩和して、より強度を向上することが可能となっている。
【0053】
そして、永久磁石挿入孔16が、回転軸Oと直交する断面において略矩形をなすように形成されて構成されているため、直方体形状の永久磁石を用いて、製造コストの低減を図ることが可能となっている。
【0054】
さらには、複数の開口をかご形導体スロットとしてそれぞれ構成するとともに、各かご形導体スロット14に挿入される導体バーと、各導体バーの両端をそれぞれ接続するエンドリングとを含むかご形導体を備えるように構成していることから、上記のように構成したフラックスバリア17による特長を効果的に生かしつつ、起動時には誘導電動機として機能する誘導起動型同期電動機とすることが可能となっている。
【0055】
なお、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0056】
例えば、上記の実施形態では、フラックスバリア17の接続部23は脚部20より円周方向の両側に突出していたが、応力分散が達成されるのであれば、片側は突出していなくても良い。また、直線部22は必ずしも完全な直線である必要はなく、応力分散が達成されるのであれば、緩やかな曲線などの非直線形状とすることも許容され得る。さらに、図8(a)に示すように、フラックスバリア117の形状は基端部119を短くして脚部120が永久磁石挿入孔116から連続して直接外径方向へ向かって延びていてもよい。また、先端部21は図7に示すように永久磁石片15aの端面を通る直線L3から距離dだけ円周方向外側へ変位していたが、q軸磁束を妨げることによる効率の低下が許容される場合には、この先端部21が直線L3と交わっていてもよい。
【0057】
また、上述の実施形態では、各永久磁石スロット13が円周方向両端部にフラックスバリア17,17を備えており、これらのフラックスバリア17〜17をそれぞれ独立させた構成としていたが、隣接する永久磁石スロット13,13に形成された隣り合う2つのフラックスバリア17,17を一部が連続するように形成することもでき、こうした場合でも、最大応力の低減などの、上述の実施形態に準じた効果を得ることが可能である。さらには、その1つの形態として、図13に示すように、隣り合う2つの永久磁石スロット613,613が、1個のフラックスバリア617を共有しつつ備える形態としてもよい。この場合においても、上述の実施形態と同様、回転子610を構成する回転子鉄心612の内部で円周方向に等間隔で配置された4つの永久磁石スロット613は、それぞれ永久磁石615a,615bを挿入する永久磁石挿入孔616a,616bと、これらの互いに対向する端部に形成された空隙部618とを備えており、フラックスバリア617によって、隣り合う永久磁石スロット613,613がそれぞれ備える永久磁石挿入孔616a,616b同士が連結されるように構成されている。すなわち、フラックスバリア617は、図14に示すように、隣接する2つの永久磁石スロット613を構成する永久磁石挿入孔616a,616bとそれぞれ連続する基端部619,619と、これら2つの基端部619,619と接続された1つの脚部620と、脚部620の外径方向に存在する1つの先端部621から構成される。先端部621の一部には、この先端部621に最も近接するかご型導体スロット14nと対向する直線部622が設けられていて、脚部620と直線部622とは接続部623を介して接続されている。
【0058】
言い換えると、フラックスバリア617は、永久磁石挿入部616aと連続する基端部619から回転子610の外径方向に向かって延びるとともに、その先端部621の一部に、この先端部621に最も近接するかご形導体スロット14nと対向する直線部622が設けられており、その基端部619から先端部621方向へ延びる脚部620と先端部621に設けられた直線部622とは接続部623を介して接続され、接続部623は脚部620より円周方向の両側に突出しているように構成している。
【0059】
また、本実施形態において、接続部23は全体が滑らかな曲線から構成されているが、必ずしもこのような構成である必要もなく、図11に示すように、接続部23のうち少なくとも円周方向に最も突出した頂点Y1,Y2よりも径方向外側の部分が滑らかな曲線であればよい。具体的に述べると、頂点Y1,Y2を直線L5で結んだ場合、この直線L5を境界としてこの直線L5よりも径方向外側にあたる部分を外側接続部23a、内側にあたる部分を内側接続部23bとすると、外側接続部23aは接側部23全体の中でも比較的応力が大きくなるため、これを緩和するために滑らかな曲線によって構成されることを要するが、内側接続部23bは比較的応力が大きくならないため、滑らかな曲線によって構成されることを要さない。なお、上述した接続部23のうち円周方向に最も突出した部分が、径方向と同一方向をなす直線により構成されている場合には、頂点Y1,Y2をその直線の中心位置と設定することで足りる。
【0060】
永久磁石スロット13は設計・製造の容易さの観点、並びに、回転軸Oを中心とする質量バランス及び駆動力のバランスから等間隔で設けることが好ましいが、モータの仕様によっては、磁束の経路を確保するため間欠的にすなわち互いに間隔を空けて設けられてさえいれば、必ずしも等間隔で設ける必要はない。
【0061】
また、図8(b)に示すように、永久磁石挿入部216に対して永久磁石片215を本来挿入可能である長さよりも短くして、その永久磁石片215の端部と連続して円周方向に延びる部分全体を基端部219とする構成であってもよい。
【0062】
さらに、上記の実施形態では永久磁石片15a,15b及び永久磁石挿入孔16a,16bは矩形状としていたが、図12に示すように、永久磁石片515a,515b及び永久磁石挿入孔516a,516bを断面視略円弧状に形成すると永久磁石挿入部516a,516bとシャフト孔11との間の応力緩和により高い効果を得ることができる。また、永久磁石挿入孔516a,516bのなす円弧をシャフト孔11と同心になるように配置することで、さらに効果的に応力を緩和することができる。なお、この構成においても、上述の実施形態と同様、回転子510を構成する回転子鉄心512の内部で円周方向に等間隔で配置された4つの永久磁石スロット513は、円周方向両端部にフラックスバリア517,517を備え、永久磁石挿入孔516a,516bの互いに対向する側の端部に空隙部518を備えるように構成している。
【0063】
また、上記の実施形態では1つの磁極を構成する永久磁石15は永久磁石片15a,15bに分割されていたが、単一の永久磁石片によって1つの磁極を構成することも可能である。こうする場合、永久磁石として円弧状に形成された円弧磁石を用いることによって、更に、応力の緩和と効率の向上を図ることができる。さらに、永久磁石を複数の永久磁石片に分割する構成と同様、単一の永久磁石片とする構成においても、これを複数個配置する場合には、応力緩和のためシャフト孔11とほぼ同心になるよう配置することが好ましい。
【0064】
また、上記の実施形態ではかご形導体スロット14nの断面が円形のものを採用していたが、本発明は円形以外の断面を有するかご形導体スロットを備えるものにおいても適用することが可能であり、その場合には断面の重心位置を上述した中心Pとするのみで足りる。
【0065】
また、上記の実施形態は4極(1極あたり永久磁石片が2個)の同期電動機であるが、図9に示すように2極の同期電動機(1極あたり永久磁石片3個)として構成することも可能である。この変形例では、かご形導体スロット314が回転子310を構成する回転子鉄心312の外周部に等間隔で28個設けられており、その径方向内側には3個の永久磁石片315a,315b,315cが磁極を径方向に同極の向きとなるよう配置されている。フラックスバリア317は1極につきその両端に2個、合計で4個設置され、全てかご形導体スロット314のいずれかと対向するようになっている。また、当該構成においては、同極内の永久磁石片315a,315b,315c間に設けられた空隙部318が、単一の永久磁石片315a,315b,315cの各磁極間で磁束が短絡するのを防ぐ役割も兼ねている。なお、この変形例においても、フラックスバリア317は、基端部19、脚部20、先端部21からなる上述した形状にすることができる。
【0066】
また、本発明は、誘導起動型同期電動機以外の、例えば図10に示すような形態の永久磁石埋め込み型の同期電動機であっても好適に適用することが可能である。これは、回転子鉄心の外周に、回転軸Oに沿って複数の凹部414が開口として形成されたものである。こうしたものであっても、この凹部414に対するフラックスバリア17との位置や形状を、上述したものと同様に構成することで、同一の効果を奏することが可能である。なお、この場合における凹部414の中心Pとは、回転軸Oに直交する断面において回転子鉄心412の外周に沿った仮想円Ciと凹部414とで形成される領域内の重心位置と考えればよい。
【0067】
また、上記の同期電動機を備える合成繊維製造装置として構成した場合には、合成繊維製造プロセスの効率化を図ることも可能となる。具体的には、合成繊維製造装置を構成するゴデットローラ等の大型ローラの駆動源として構成した場合には、この大重量のローラを繊維製造プロセスに応じた高速回転させることが可能となる。また、繊維を巻き取る巻き取り用スピンドルの駆動源として構成した場合には、比較的長尺の回転体を繊維巻取体という重量物を付加した状態で高速回転させることが可能となる。
【0068】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0069】
10…回転子
12…回転子鉄心
13…永久磁石スロット
14,14n…開口(かご形導体スロット)
15…永久磁石
15a,15b…永久磁石片
16…永久磁石挿入部
16a,16b…永久磁石挿入孔
17…フラックスバリア
19…基端部
20…脚部
21…先端部
22…直線部
23…接続部
40…シャフト
L1,L2,L3…直線
P…(開口の)中心
O…回転軸
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