特許第6191387号(P6191387)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191387
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】継手構造及び風力発電装置
(51)【国際特許分類】
   F03D 80/00 20160101AFI20170828BHJP
   F16D 41/06 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   F03D80/00
   F16D41/06 F
【請求項の数】14
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2013-220888(P2013-220888)
(22)【出願日】2013年10月24日
(65)【公開番号】特開2015-63986(P2015-63986A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年9月13日
(31)【優先権主張番号】特願2013-178228(P2013-178228)
(32)【優先日】2013年8月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 英樹
【審査官】 冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−110844(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0201679(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 80/00
F16D 41/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
増速機が有する出力軸からのトルクによって発電機が有する入力軸を回転させて発電する風力発電装置に用いられる継手構造であって、
前記出力軸と前記入力軸との間に設けられ当該出力軸と当該入力軸との間でトルク伝達可能とするための軸継手と、前記出力軸と前記入力軸との内のいずれか一方の軸体との間に介在するクラッチユニットを備え、
前記クラッチユニットは、前記軸体と一体回転する軸連結部と、前記軸継手と一体回転する継手連結部と、前記軸連結部と前記継手連結部との間に設けられている一方向クラッチと、を有し、
前記軸連結部は、前記軸体と別体であって当該軸体と連結される部材からなり、
前記継手連結部は、前記軸継手と別体であって当該軸継手と連結される部材からなり、
前記一方向クラッチは、前記出力軸の回転速度が前記入力軸の回転速度を上回る状態で前記軸連結部と前記継手連結部とを一体回転可能に接続し、前記出力軸の回転速度が前記入力軸の回転速度を下回る状態で前記軸連結部と前記継手連結部との接続を解除することを特徴とする継手構造。
【請求項2】
前記軸連結部は、前記軸体と連結するための連結用軸部を有し、
前記連結用軸部と前記軸体との内の一方の端部に、軸方向に伸びる孔が形成され、他方の端部に、前記孔に挿入されかつ当該孔に対して軸方向移動は可能であるが相対回転は不能である挿入軸部が形成されている請求項に記載の継手構造。
【請求項3】
前記孔はスプライン孔であり、前記挿入軸部はスプライン軸である請求項に記載の継手構造。
【請求項4】
前記軸連結部と前記継手連結部との内の一方は軸状の部材からなり、他方はこの軸状の部材の径方向外側に位置する筒状の部材からなり、
前記一方向クラッチは、前記軸連結部と前記継手連結部との間に介在し、かつ前記出力軸の回転速度が前記入力軸の回転速度を上回る状態で当該軸連結部と当該継手連結部とに噛み込み可能であると共に前記出力軸の回転速度が前記入力軸の回転速度を下回る状態で前記噛み込みが解除される係合子を有し、
前記クラッチユニットは、更に、前記軸連結部と前記継手連結部との間に介在する転がり軸受を有している請求項1〜のいずれか一項に記載の継手構造。
【請求項5】
前記軸体の端部には雄ねじが形成されており、
前記軸連結部には、前記雄ねじと螺合しかつ当該雄ねじとの締め付けが完了した状態で当該締め付けの方向に回り止めがされる雌ねじが形成されており、
前記締め付けの方向は、前記発電機による発電時の前記出力軸及び前記入力軸の回転方向と同方向に設定されている請求項に記載の継手構造。
【請求項6】
前記軸連結部と前記継手連結部との内の一方は筒状の部材からなり、他方はこの筒状の部材の径方向内側に位置する軸状の部材からなり、
前記クラッチユニットは、更に、前記軸連結部と前記継手連結部材とを相対的に軸方向移動可能でかつ相対回転可能として支持する支持部を有している請求項に記載の継手構造。
【請求項7】
前記支持部は、前記軸連結部と前記継手連結部との間に介在する複数の玉と、この複数の玉を周方向に間隔をあけて保持する保持器と、を有している請求項に記載の継手構造。
【請求項8】
前記クラッチユニットは、更に、前記風力発電装置が有する固定物に固定される支持部材と、前記支持部材と前記継手連結部との間に設けられ当該支持部材に対して当該継手連結部を回転可能に支持するための転がり軸受と、を有している請求項1に記載の継手構造。
【請求項9】
前記継手連結部は、前記軸継手と連結される回転フランジ部と、前記回転フランジ部と一体回転すると共に前記一方向クラッチが内周側に設けられる回転円筒部と、を有し、
前記支持部材は、前記固定物と連結される固定フランジ部と、前記固定フランジ部と一体であると共に前記回転円筒部と同心状でかつ当該回転円筒部の径方向外側に位置する固定円筒部と、を有し、
前記固定円筒部の内周面と前記回転円筒部の外周面との間に前記転がり軸受は設けられている請求項に記載の継手構造。
【請求項10】
前記固定円筒部の内周面に前記転がり軸受が有する転動体の軌道が設けられ、当該固定円筒部が当該転がり軸受の外輪を兼ねている請求項に記載の継手構造。
【請求項11】
前記回転円筒部の外周面に前記転がり軸受が有する転動体の軌道が設けられ、当該回転円筒部が当該転がり軸受の内輪を兼ねている請求項又は10に記載の継手構造。
【請求項12】
前記固定物は、前記増速機のハウジングであり、
前記クラッチユニットは、前記軸継手と前記出力軸との間に介在する請求項11のいずれか一項に記載の継手構造。
【請求項13】
前記固定物は、前記発電機のハウジングであり、
前記クラッチユニットは、前記軸継手と前記入力軸との間に介在する請求項11のいずれか一項に記載の継手構造。
【請求項14】
風力により回転する主軸と、
前記主軸の回転を増速して出力軸から出力する増速機と、
前記出力軸の回転を入力として回転する入力軸を有すると共に当該入力軸と一体回転するロータの回転に伴って発電する発電機と、
前記出力軸と前記入力軸との間に設けられ当該出力軸と当該入力軸との間でトルク伝達可能とするための軸継手と、
前記軸継手と、前記出力軸と前記入力軸との内のいずれか一方の軸体との間に介在する請求項1〜13のいずれか一項に記載の継手構造と、
を備えていることを特徴とする風力発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電装置に用いられる継手構造、及び風力発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電装置として、風力を受けて回転するブレード、ブレードに接続された主軸、主軸の回転を増速する増速機、及び増速機の出力軸と連結された入力軸を有している発電機を備えたものが知られている。この風力発電装置では、ブレードが風力を受けて主軸が回転し、この主軸の回転を増速機により増速させて発電機を駆動させ、これにより、発電が行われる。
【0003】
このような風力発電装置では、一般的に、図21に示すように増速機110が有する出力軸111と発電機114が有する入力軸113とは軸継手112によって接続されている。
また、風力発電装置の組立の際、出力軸111と入力軸113との間には、偏心や偏角等のミスアライメントが生じることがあるため、両軸111,113の間に撓み軸継手が設けられているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ここで、風力発電装置の増速機では、高速で回転する出力軸を回転自在に支持するころ軸受が設けられているが、ころ軸受は、ころの転動面や内輪や外輪等の回転輪の軌道面に発生したスメアリング(表層焼付きが起こる現象)によって寿命が低下するという問題があった。そこで、本願発明者は、スメアリングの発生メカニズムについて鋭意研究を重ね、このスメアリングの発生を抑制するためには、増速機の出力軸と発電機の入力軸との間に一方向クラッチを設けることが有効であると見出し、これに関する発明を既に提案している(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−250034号公報
【特許文献2】特開2013−76395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
更に、本願発明者は、前記のような増速機の出力軸と発電機の入力軸との間に生じるミスアライメントを吸収可能で、かつ、前記スメアリングの発生を抑制可能とする軸継手装置を提案している(特願2013−048573)。なお、以下において、この軸継手装置を提案継手という。
【0007】
そこで、図21に示す軸継手112の代わりに前記提案継手を採用した風力発電装置が考えられる。しかし、風力発電装置の種類によっては、軸継手112の軸方向長さ(設計長さ)が短く、この軸継手112の代わりに前記提案継手を組み入れることができない場合がある。この場合、前記のようなスメアリングの発生を抑制するための構成を得ることが困難となる。特に、図21に示す軸継手112を備えている既設の風力発電装置に対して、この軸継手112を前記提案継手に入れ替える場合、軸継手112の軸方向長さ(設計長さ)が短いと前記入れ替えは不可能である。
【0008】
そこで、本発明では、増速機が有する出力軸と発電機が有する入力軸とを繋ぐ軸継手の代わりに、前記提案継手を組み入れることができないような風力発電装置に対しても、前記のようなスメアリングの発生を抑制することが可能となる新たな技術的手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、増速機が有する出力軸からのトルクによって発電機が有する入力軸を回転させて発電する風力発電装置に用いられる継手構造であって、前記出力軸と前記入力軸との間に設けられ当該出力軸と当該入力軸との間でトルク伝達可能とするための軸継手と、前記出力軸と前記入力軸との内のいずれか一方の軸体との間に介在するクラッチユニットを備え、前記クラッチユニットは、前記軸体と一体回転する軸連結部と、前記軸継手と一体回転する継手連結部と、前記軸連結部と前記継手連結部との間に設けられている一方向クラッチと、を有し、前記軸連結部は、前記軸体と別体であって当該軸体と連結される部材からなり、前記継手連結部は、前記軸継手と別体であって当該軸継手と連結される部材からなり、前記一方向クラッチは、前記出力軸の回転速度が前記入力軸の回転速度を上回る状態で前記軸連結部と前記継手連結部とを一体回転可能に接続し、前記出力軸の回転速度が前記入力軸の回転速度を下回る状態で前記軸連結部と前記継手連結部との接続を解除することを特徴とする。
本発明によれば、スメアリングの発生を抑制するための一方向クラッチを有しているクラッチユニットが、増速機の出力軸と前記軸継手との間、又は、前記軸継手と発電機の入力軸との間に介在することから、当該軸継手の範囲内に一方向クラッチを設ける程のスペースが無くても、前記のようなスメアリングの発生を抑制することが可能となる継手構造が得られる。
【0010】
た、前記軸連結部は、前記軸体と別体であって当該軸体と連結される部材からなり、前記継手連結部は、前記軸継手と別体であって当該軸継手と連結される部材からなる。このため、既設の風力発電装置が有する既設の軸継手をそのまま残して継手構造を組み入れることが可能となる。
【0011】
)また、前記軸連結部は、前記軸体と連結するための連結用軸部を有し、前記連結用軸部と前記軸体との内の一方の端部に、軸方向に伸びる孔が形成され、他方の端部に、前記孔に挿入されかつ当該孔に対して軸方向移動は可能であるが相対回転は不能である挿入軸部が形成されているのが好ましい。
この場合、出力軸から入力軸までの間において熱伸縮によって軸方向長さが変化しても、その変化を挿入軸部と孔との関係によって吸収することができ、かつ、出力軸から入力軸へのトルクの伝達が可能となる構成が得られる。
)また、前記孔はスプライン孔であり、前記挿入軸部はスプライン軸であるのが好ましい。これにより、前記()の構成を得ることができる。
【0012】
)また、前記継手構造において、前記軸連結部と前記継手連結部との内の一方は軸状の部材からなり、他方はこの軸状の部材の径方向外側に位置する筒状の部材からなり、前記一方向クラッチは、前記軸連結部と前記継手連結部との間に介在し、かつ前記出力軸の回転速度が前記入力軸の回転速度を上回る状態で当該軸連結部と当該継手連結部とに噛み込み可能であると共に前記出力軸の回転速度が前記入力軸の回転速度を下回る状態で前記噛み込みが解除される係合子を有し、前記クラッチユニットは、更に、前記軸連結部と前記継手連結部との間に介在する転がり軸受を有しているのが好ましい。
この場合、係合子が軸連結部と継手連結部とに噛み込むことでこれら軸連結部と継手連結部とを一体回転可能に接続することができ、この噛み込みが解除されることで前記接続も解除される。そして、係合子の噛み込みが解除された場合であっても、転がり軸受によって軸連結部と継手連結部とを同心円状にして支持することができる。
【0013】
)また、前記()の継手構造において、前記軸体の端部には雄ねじが形成されており、前記軸連結部には、前記雄ねじと螺合しかつ当該雄ねじとの締め付けが完了した状態で当該締め付けの方向に回り止めがされる雌ねじが形成されており、前記締め付けの方向は、前記発電機による発電時の前記出力軸及び前記入力軸の回転方向と同方向に設定されているのが好ましい。この構成によって、軸体と軸連結部との連結が容易に行われる。
【0014】
)また、前記()の継手構造において、前記軸連結部と前記継手連結部との内の一方は筒状の部材からなり、他方はこの筒状の部材の径方向内側に位置する軸状の部材からなり、前記クラッチユニットは、更に、前記軸連結部と前記継手連結部材とを相対的に軸方向移動可能でかつ相対回転可能として支持する支持部を有しているのが好ましい。
この場合、出力軸から入力軸までの間において熱伸縮によって軸方向長さが変化しても、その変化を軸連結部と継手連結部との構成及び支持部によって吸収することができる。
)また、前記()の継手構造において、前記支持部は、前記軸連結部と前記継手連結部との間に介在する複数の玉と、この複数の玉を周方向に間隔をあけて保持する保持器と、を有しているのが好ましい。この構成によって、前記支持部を簡単な構成によって実現することができる。
【0015】
)また、前記(1)の継手構造において、前記クラッチユニットは、更に、前記風力発電装置が有する固定物に固定される支持部材と、前記支持部材と前記継手連結部との間に設けられ当該支持部材に対して当該継手連結部を回転可能に支持するための転がり軸受とを有しているのが好ましい。
この場合、風力発電装置が有する固定物に、支持部材及び転がり軸受を介して、継手連結部を回転可能として取り付けることができる。このため、継手連結部を介して作用する前記軸継手の重力(重量)、この継手連結部と軸連結部との間に設けられている一方向クラッチの重力(重量)、及び、この継手連結部自身の重力(重量)に起因する荷重を前記固定物に伝達させ、この荷重を固定物は支持することが可能となる。
【0016】
)また、前記()の継手構造において、前記継手連結部は、前記軸継手と連結される回転フランジ部と、前記回転フランジ部と一体回転すると共に前記一方向クラッチが内周側に設けられる回転円筒部とを有し、前記支持部材は、前記固定物と連結される固定フランジ部と、前記固定フランジ部と一体であると共に前記回転円筒部と同心状でかつ当該回転円筒部の径方向外側に位置する固定円筒部とを有し、前記固定円筒部の内周面と前記回転円筒部の外周面との間に前記転がり軸受は設けられているのが好ましい。
この場合、継手連結部の回転円筒部の内周側に一方向クラッチが設けられ、この回転円筒部の外周側に転がり軸受が設けられた構成となる。つまり、一方向クラッチと転がり軸受とが径方向に並んだ配置となり、継手構造の軸方向寸法を小さくすることができる。
【0017】
10)また、前記()の継手構造において、前記固定円筒部の内周面に前記転がり軸受が有する転動体の軌道が設けられ、当該固定円筒部が当該転がり軸受の外輪を兼ねている場合、部品数の削減が可能となり、また部品数が減ることで組み立てが容易となる。
11)また、前記()又は(10)の継手構造において、前記回転円筒部の外周面に前記転がり軸受が有する転動体の軌道が設けられ、当該回転円筒部が当該転がり軸受の内輪を兼ねている場合、部品数の削減が可能となり、また部品数が減ることで組み立てが容易となる。
【0018】
12)また、前記()〜(11)の継手構造において、前記固定物は、前記増速機のハウジングであり、前記クラッチユニットは、前記軸継手と前記出力軸との間に介在することができる。
この場合、クラッチユニットが有する各構成部材等の重力(重量)に起因する荷重を、増速機のハウジングに伝達させ、この荷重を増速機のハウジングは支持することが可能となる。なお、増速機のハウジングは、例えば風力発電装置が設けられている床上に設置されており、この床によって支持されている。
【0019】
13)また、前記()〜(11)の継手構造において、前記固定物は、前記発電機のハウジングであり、前記クラッチユニットは、前記軸継手と前記入力軸との間に介在することができる。
この場合、クラッチユニットが有する各構成部材等の重力(重量)に起因する荷重を、発電機のハウジングに伝達させ、この荷重を発電機のハウジングは支持することが可能となる。なお、発電機のハウジングは、例えば風力発電装置が設けられている床上に設置されており、この床によって支持されている。
【0020】
14)また、本発明の風力発電装置は、風力により回転する主軸と、前記主軸の回転を増速して出力軸から出力する増速機と、前記出力軸の回転を入力として回転する入力軸を有すると共に当該入力軸と一体回転するロータの回転に伴って発電する発電機と、前記出力軸と前記入力軸との間に設けられ当該出力軸と当該入力軸との間でトルク伝達可能とするための軸継手と、前記軸継手と、前記出力軸と前記入力軸との内のいずれか一方の軸体との間に介在する前記(1)〜(13)のいずれか一つの継手構造と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、軸継手の範囲内に一方向クラッチを設ける程のスペースが無くても、転がり軸受においてスメアリングの発生を抑制することが可能となる継手構造を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の継手構造を備えている風力発電装置の概略側面図である。
図2】増速機及び発電機を示す概略側面図である。
図3】増速機が有するころ軸受を示す断面図である。
図4】軸継手、クラッチユニット及びその周囲を示す縦側面図である。
図5図4におけるA矢視断面図である。
図6】一方向クラッチの保持器を示す斜視図である。
図7】一方向クラッチの要部を拡大して示す断面図である。
図8】一方向クラッチの作用を説明する説明図である。
図9】負荷トルクと伝達トルクとの関係を説明するグラフである。
図10】トルクリミッタを備えている一方向クラッチの断面図である。
図11】トルクリミッタを備えている一方向クラッチの断面図である。
図12】軸継手、クラッチユニット及びその周囲を示す縦側面図である。
図13】クラッチユニットの一部を示す横断面図である。
図14】増速機及び発電機を示す概略側面図である。
図15】風力発電装置の変形例を示す概略側面図である。
図16】軸継手、クラッチユニット及びその周囲を示す縦断面図である。
図17図16に示すクラッチユニットの変形例を示す縦断面図である。
図18】風力発電装置の変形例を示す概略側面図である。
図19】クラッチユニットの組み立て方法を説明する説明図である。
図20】クラッチユニットの組み立て方法を説明する説明図である。
図21】従来の風力発電装置の概略構成を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
〔全体構成〕
図1は、本発明の継手構造を備えている風力発電装置1の概略側面図である。風力発電装置1は、増速機3の出力軸35からのトルクによって発電機4の入力軸41を回転させて発電する構成であり、このような風力発電装置1に本発明の継手構造は用いられる。
この構成を更に説明すると、風力発電装置1は、ブレード(受風部材)11、支柱12、及びナセル13を備えている。ブレード11は、主軸2の先端に設けられた複数枚の羽根により構成され、風を受けることによって主軸2を回転させる。ナセル13は、主軸2と、この主軸2を支持するための支持機構15と、主軸2の回転を増速する増速機3と、増速機3によって増速された回転動力によって発電する発電機4と、これらを収容するケーシング18等を備えている。支柱12は、上下方向の軸心回りに水平旋回可能にナセル13を支持している。
【0024】
図2は、増速機3及び発電機4を示す概略側面図である。発電機4は、例えば誘導発電機により構成されており、増速機3により増速された回転を入力して回転する入力軸41、発電機4に内蔵されたロータ42、及び図示しないステータ等を有する。ロータ42は入力軸41に一体回転可能に連結されており、発電機4は、入力軸41が回転してロータ42が駆動することに伴って発電するように構成されている。また、入力軸41には、当該入力軸41を制動するためのブレーキ44が設けられている。
【0025】
増速機3は、主軸2の回転を入力してその回転を増速する歯車機構(回転伝達機構)30を備えている。この歯車機構30は、遊星歯車機構31と、この遊星歯車機構31により増速された回転を入力してさらにその回転を増速する高速段歯車機構32とを備えている。
遊星歯車機構31は、内歯車(リングギヤ)31aと、主軸2に一体回転可能として連結された遊星キャリア(図示省略)に保持された複数の遊星歯車31bと、遊星歯車31bに噛み合う太陽歯車31cとを有している。これにより、主軸2とともに遊星キャリアが回転すると、遊星歯車31bを介して太陽歯車31cが回転し、その回転が高速段歯車機構32の低速軸33に伝達される。
【0026】
高速段歯車機構32は、低速ギヤ33aを有する低速軸33と、第1中間ギヤ34a及び第2中間ギヤ34bを有する中間軸34と、高速ギヤ35aを有する出力軸35とを備えている。
低速軸33は、その直径が例えば約1mの大型の回転軸からなり、主軸2と同心上に配置されている。低速軸33の軸方向両端部はころ軸受36a,36bにより回転自在に支持されている。
【0027】
中間軸34は、低速軸33と平行に配置されており、その軸方向両端部がころ軸受37a,37bにより回転自在に支持されている。中間軸34の第1中間ギヤ34aは低速ギヤ33aと噛み合い、第2中間ギヤ34bは高速ギヤ35aと噛み合っている。
出力軸35は、中間軸34と平行に配置されており、回転トルクを出力する。出力軸35の軸方向の一端部35b及び他端部(出力端部)35c側は、それぞれころ軸受38,39により回転自在に支持されている。
【0028】
以上の構成により、主軸2の回転は、遊星歯車機構31のギヤ比、低速ギヤ33aと第1中間ギヤ34aとのギヤ比、及び第2中間ギヤ34bと高速ギヤ35aとのギヤ比により3段階に増速されて、出力軸35の出力端部35cから回転として出力される。すなわち、風力による主軸2の回転は増速機3により3段階に増速されて、出力軸35から出力され、この出力軸35の回転トルクによって発電機4を駆動する。
【0029】
〔ころ軸受38〕
図3は、増速機3が有しているころ軸受38を示す断面図である。ころ軸受38は、円筒ころ軸受からなり、出力軸35に外嵌固定された内輪38aと、増速機3のハウジング14に固定された外輪38bと、内輪38aと外輪38bとの間に転動可能に配置された複数の円筒ころ38cと、各円筒ころ38cを円周方向に沿って所定間隔毎に保持する環状の保持器38dとを備えている。内輪38a、外輪38b、円筒ころ38cは例えば軸受鋼によって形成されており、保持器38dは例えば銅合金によって形成されている。
【0030】
内輪38aは、その外周の軸方向中央部に内輪軌道面38a1が形成されている。外輪38bは、内輪38aと同心上に配置されており、その内周の軸方向中央部に外輪軌道面38b1が形成されている。外輪軌道面38b1は、内輪軌道面38a1に対向して配置されている。また、外輪38bは、軸方向両側に形成された一対の外輪鍔部38b2を有している。外輪鍔部38b2は、外輪38bの内周の軸方向両端部から径方向内側に向かって突出して形成されており、この外輪鍔部38b2に円筒ころ38cの端面が摺接する。
【0031】
円筒ころ38cは、内輪軌道面38a1と外輪軌道面38b1との間に転動可能に配置されている。
保持器38dは、軸方向に離れて配置された一対の円環部38d1と、この円環部38d1の周方向に沿って等間隔おきに配置されて両円環部38d1同士を連結する複数の柱部38d2とを有している。一対の円環部38d1と隣接する柱部38d2との間にはポケット38d3が形成されており、このポケット38d3内に各円筒ころ38cが配置されている。なお、大型の風力発電装置1においては、増速機3の出力軸35を支持する転がり軸受には、大きな負荷が付与されるため、剛性が高く、かつ出力軸35の熱による軸方向の伸縮を好適に吸収することができるころ軸受38を用いるのが好ましい。ただし、転がり軸受として玉軸受や円錐ころ軸受を用いてもよい。
【0032】
〔軸継手9及びクラッチユニット20〕
図2において、風力発電装置1は、増速機3の出力軸35と発電機4の入力軸41との間に設けられ、これら出力軸35と入力軸41との間でトルク伝達可能とするための軸継手9を備えている。そして、本実施形態では、軸継手9と出力軸35との間にクラッチユニット20が介在している。クラッチユニット20は、入力軸41用のブレーキ44よりも増速機3側に設けられている。
【0033】
図4は、軸継手9、クラッチユニット20及びその周囲を示す縦側面図である。軸継手9は、出力軸35と入力軸41との間の領域に設けられており、これら出力軸35と入力軸41との間でトルク伝達可能とするための部材である。軸継手9は、軸本体部9aと、この軸本体部9aの両端部に固定されているフランジ部9b,9cとを有している。フランジ部9cに、入力軸41の端部に固定されているフランジ部41aがボルト・ナット29aによって連結固定されている。軸継手9は、出力軸35側から入力される回転トルクを入力軸41側へ伝達するためのトルク伝達軸として機能する。
【0034】
図4において、クラッチユニット20は、出力軸35と一体回転する軸連結部21と、軸継手9と一体回転する継手連結部22と、これら軸連結部21と継手連結部22との間に設けられている一方向クラッチ7とを有している。更に、クラッチユニット20は、軸連結部21と継手連結部22との間に介在する転がり軸受8を有している。
本実施形態では、軸連結部21は、出力軸35と別体であってこの出力軸35と連結される軸状の部材からなり、また、継手連結部22は、軸継手9と別体であってこの軸継手9と連結される部材からなる。
【0035】
軸連結部21は、外周面21a1が円筒面からなる軸本体部21aと、出力軸35と連結するための連結用軸部21bとを有している。これに対して、出力軸35の端部には、軸方向に伸びる孔35dが形成されている。そして、連結用軸部21bの端部に、この孔35dに挿入されている挿入軸部21cが形成されている。孔35dはスプライン孔からなり、挿入軸部21cはスプライン軸である。このため、軸連結部21(挿入軸部21c)は、出力軸35(孔35d)に対して軸方向移動は可能であるが、相対回転は不能となる。
【0036】
このように、軸連結部21は、出力軸35に対して軸方向移動は可能であるが、相対回転は不能となっていることから、出力軸35から軸継手9を経て入力軸41までの間において、温度上昇又は温度降下に起因する熱伸縮によって軸方向長さが変化しても、その変化を挿入軸部21cと孔35dとの関係によって吸収することができ、かつ、出力軸35から軸継手9を介して入力軸41へのトルクの伝達が可能となる構成が得られる。
なお、孔35dと挿入軸部21cとを設ける部材は反対であってもよい。つまり、図示しないが、軸連結部21にスプライン孔を形成し、出力軸35にスプライン軸を形成した構成としてもよい。
【0037】
軸連結部21は、軸状の部材からなるのに対して、継手連結部22は、この軸状の部材の径方向外側に位置する筒状の部材からなる。継手連結部22はフランジ部22aを有している。このフランジ部22aによって、継手連結部22は、後に説明するスペーサ(撓み部材23)を間に挟んで、軸継手9のフランジ部9bにボルト・ナット29bによって連結固定されている。またこのボルト・ナット29bによって、継手連結部22は軸継手9に着脱可能である。また、この着脱可能とする構成により、軸連結部21も出力軸35との間で着脱可能となる。なお、軸継手9に対して継手連結部22を着脱可能とするために、継手連結部22(この継手連結部22の内周側に取り付けられている一方向クラッチ7)と出力軸35との間には軸方向の空間S1が設けられている。また、出力軸35に対して軸連結部21を着脱可能とするために、軸連結部21と軸継手9との間には軸方向の空間S2が設けられている。空間S1には図示しないが、弾性部材からなる充填材が設けられていてもよい。
【0038】
一方向クラッチ7は、軸連結部21の軸本体部21aと継手連結部22の筒状本体部22bとの間であって、径方向で互いに対向してオーバーラップしている領域に設けられている。また、転がり軸受8は、軸本体部21aと筒状本体部22bとの間であって一方向クラッチ7の軸方向片側(軸継手9側)にのみ設けられている。
一方向クラッチ7は、出力軸35の回転を、軸連結部21及び継手連結部22を介して入力軸41に伝達可能とするために設けられている。この一方向クラッチ7の機能については後に説明する。転がり軸受8は軸連結部21と継手連結部22とを互いに支持するために設けられている。つまり、転がり軸受8は、連結部支持用の転がり軸受である。
【0039】
また、軸継手9と継手連結部22との間には、撓み部材23が介在している。撓み部材23は、複数のリンク状部材又はディスク状部材からなり、それぞれボルト・ナット29bによってフランジ部22a,9bに連結されている。撓み部材23は、自身が撓む(弾性変形する)ことによって出力軸35と入力軸41との間の偏心や偏角(軸心のずれ)等のミスアライメントを吸収する機能を有している。この撓み部材23の構成やこれと組み合わせて用いられるフランジ部22a,9bの構成は特に限定されるものではなく、上記機能を有するものであれば従来公知の構造(例えば、特開2006−250034号公報等に記載の構成)を適用することができる。
【0040】
〔給油構造〕
軸連結部21と継手連結部22との間には、その内部に配置された一方向クラッチ7及び転がり軸受8を潤滑するためのグリース(潤滑剤)が充填される。クラッチユニット20には、一方向クラッチ7及び転がり軸受8の収容領域である軸本体部21aと筒状本体部22bとの間にグリースを充填するための密封空間を形成する密封手段10を備えている。本実施形態では、軸連結部21は、軸本体部21aの外周側に取り付けられている内輪71を更に有している。この内輪71は一方向クラッチ7の内輪部としても機能する。そこで、前記密封空間は、この内輪71と筒状本体部22bとの間に形成される。密封手段10は出力軸35側に設けられており、また、図4では省略しているが、他の密封手段が軸継手9側に設けられていてもよい。これにより、筒状本体部22bと軸本体部21aとの間にグリースを封入し、一方向クラッチ7及び転がり軸受8を好適に潤滑することができる。なお、前記密封空間における一方向クラッチ7の配置箇所と転がり軸受8の配置箇所とは軸方向に連通しており、グリースが一方向クラッチ7と転がり軸受8との間で行き渡るようになっている。
【0041】
筒状本体部22bにはその外周面から内周面(前記密封空間)を径方向に貫通する給油孔61aが形成されており、この給油孔61aにグリースニップル(逆止弁付き給油口)64が取り付けられている。本実施形態では、給油孔61a(及びグリースニップル64)を、一方向クラッチ7の出力軸35側に設けているが、一方向クラッチ7と転がり軸受8との間に対応した位置に設けることができる。また、給油孔61aは周方向の複数箇所、例えば、周方向等間隔で4箇所に設けられており、いずれかの給油孔61aからも密封空間内にグリースを供給することが可能となる。
【0042】
また、いずれかの給油孔61aからグリースを供給する際に、他の給油孔61aのグリースニップル64を取り外すことで、当該他の給油孔61aから古いグリースを排出することができる。したがって、給油孔61aは、グリースの供給部としての機能だけでなく排出部としての機能をも有している。
【0043】
継手連結部22が回転すると給油孔61aの位置も変化するが、この給油孔61aは周方向に複数設けられているので、最も給油し易い位置に配置された給油孔61aを選択して給油することができる。したがって、給油作業を容易に行うことができる。
また、給油孔61aが、一方向クラッチ7と転がり軸受8との間に対応した位置に設けられている場合、両者に対するグリースの供給を確実に行うことができる。グリースは、基油にエステル、増ちょう剤にウレア系のもの等を用いた温度変化に影響を受けにくいものを用いることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0044】
〔転がり軸受8、及び一方向クラッチ7〕
図4において、転がり軸受8は、軸連結部21の軸本体部21aと継手連結部22の筒状本体部22bとの間に介在しており、軸連結部21及び継手連結部22を互いに相対回転可能に支持している。転がり軸受8は、軌道輪としての内輪81及び外輪82と、内輪81と外輪82との間に転動可能に配置された複数の玉(転動体)83と、複数の玉83を周方向に間隔をあけて保持する保持器84とを備えた深溝玉軸受からなる。
【0045】
図5は、図4におけるA矢視の断面図である。図4及び図5に示すように、一方向クラッチ7は、内輪部と、外輪部と、複数のころ(係合子)73とを備えている。本実施形態では、前記内輪部は軸本体部21aに外嵌する内輪71からなるが、前記外輪部は、筒状本体部22bの一部からなる。なお、以下において、この筒状本体部22bの一部を一方向クラッチ7の外輪72と呼ぶ。なお、前記外輪部は、筒状本体部22bとは別体であって、この筒状本体部22bの内周面に嵌合して固定される部材によって構成されてもよい。
【0046】
内輪71は、軸本体部21aに嵌合することによって固定されており、軸連結部21と一体回転する。ころ73は、内輪71の外周面71aと外輪72の内周面72aとの間に配置されている。外輪72の内周面72aが、ころ73が転動する内周面72aを構成している。本実施形態では、ころ73が円柱形状に形成されたものであり、周方向に8個設けられている(図5参照)。
【0047】
一方向クラッチ7は、更に、各ころ73を円周方向に沿って所定間隔毎に保持する環状の保持器74と、各ころ73を周方向に向かって一方向に弾性的に付勢する複数の弾性部材(付勢部材)75(図5参照)とを備えている。
図6は、一方向クラッチ7の保持器74を示す斜視図である。保持器74は、軸方向に対向する一対の円環部76と、これら円環部76とは別体であって、両円環部76に軸方向両端部がそれぞれ嵌合する複数の柱部77とを有している。両円環部76と周方向に隣接する柱部77とに囲まれた空間によってポケット78が形成されており、各ポケット78に各ころ73が個別に収容されている(図5参照)。
【0048】
円環部76は、炭素鋼やアルミ等の金属材料により構成され、また、円環部76の内周には、円周方向に所定間隔をあけて複数の凹部76aが形成されている。
柱部77は、本体部77aと、本体部77aの周方向の一端面に突設された突起部77bと、本体部77aの軸方向両端部にそれぞれ形成された一対の嵌合部77cとを有している。そして、本体部77a、突起部77b、及び嵌合部77cは、合成樹脂材料を射出成形することにより一体成形されている。
【0049】
嵌合部77cは、本体部77aよりも径方向の厚みが薄く形成されており、この嵌合部77cを凹部76aに嵌合させた状態で円環部76の外周面と本体部77aの外周面とがほぼ面一となるように構成されている。
突起部77bは、図5に示すように、ポケット78内に収容された弾性部材75を案内(位置決め)するためのものである。突起部77bは、先端に向かうに従って徐々に細くなるように形成されている。そして、弾性部材75が、突起部77bの先端側から遊嵌されるようになっている。なお、弾性部材75は、軸方向に細長く形成された圧縮コイルバネからなる。なお、弾性部材75は、板バネ等の他の形式のバネであってもよい。
【0050】
以上のように保持器74は、円環部76と柱部77とから構成され、これらは互いに別体で形成されているので、円環部76及び柱部77をそれぞれ個別に製作することができる。したがって、保持器74の全体を一体に製作する場合に比べて、保持器74を容易に製作することができる。特に、風力発電装置1に用いられる保持器74は大型であり、全体を一体に製作することが困難であるので、円環部76と柱部77とを別体で構成することがより有益である。また、円環部76を金属製とすることによって保持器74の強度を十分に確保することができ、柱部77を合成樹脂製とすることによって保持器74全体の軽量化を図ることができる。
【0051】
また、図4に示すように、一方側の円環部76の内周面には凸部76cが形成されている。そして、内輪71の外周面71aには、この凸部76cが挿入状となる凹部71bが形成されている。凸部76cが凹部71bに挿入状となることで、保持器74は軸方向の移動が制限され、この結果、ころ73は保持器74によって軸方向の移動が制限される構成となる。
【0052】
図5に示すように、内輪71の外周面71aにはころ73と同数(8つ)の平坦なカム面71a1が形成されており、外輪72の内周面72aは円筒面に形成されている。カム面71a1と内周面72aとの間には、くさび状空間Sが周方向に複数(8箇所)形成されている。
【0053】
図7は、一方向クラッチ7の要部を拡大して示す断面図である。複数のころ73が、軸連結部21の内輪71と継手連結部22の筒状本体部22bとの間に介在している。また、ころ73は各くさび状空間Sに個別に配置されている。また、ころ73は弾性部材75によってくさび状空間Sが狭くなる方向に付勢されている。ころ73の外周面は、内輪71のカム面71a1及び外輪72(筒状本体部22bの一部)の内周面72aに接触する接触面73aとなっており、この接触面73aは幅方向(軸方向)に真っ直ぐに形成されている。
【0054】
以上のように構成された一方向クラッチ7では、軸連結部21及びこれと一体である内輪71が増速回転することにより、軸連結部21及び内輪71の回転速度が、継手連結部22(外輪72)の回転速度を上回る場合には、軸本体部21a及び内輪71が、外輪72に対して一方向(図5の反時計回り方向;図7の矢印a方向)に相対回転しようとする。この場合、弾性部材75の付勢力により、ころ73はくさび状空間Sが狭くなる方向(図7の右方向)へ僅かに移動して、ころ73の接触面73aが内輪71の外周面71a(カム面71a1;被噛み合い面)及び外輪72の内周面(被噛み合い面)72aに圧接し、ころ73が内輪71と外輪72との間に噛み合った状態となる。これにより、内輪71と外輪72とは前記一方向aに一体回転可能となり、軸連結部21と継手連結部22とを一体回転可能に接続することができる。
【0055】
本実施形態では、図4に示すように、軸連結部21は増速機3の出力軸35と一体回転可能であり、また、継手連結部22は軸継手9を介して発電機4の入力軸41と一体回転可能である。このため、前記一方向クラッチ7は、出力軸35の回転速度が入力軸41の回転速度を上回る状態で軸連結部21と継手連結部22とを一体回転可能に接続することができる。つまり、出力軸35の回転速度が入力軸41の回転速度を上回る状態で、ころ73が、軸連結部21の内輪71の外周面71aと、継手連結部22の筒状本体部22b(外輪72)の内周面72aとに噛み込み可能となって、軸連結部21と継手連結部22とを一体回転可能に接続することができる。この結果、出力軸35は、軸継手9を介して入力軸41と一体回転する。
【0056】
また、出力軸35(軸連結部21)が増速回転後に一定速回転となり、軸連結部21の回転速度が、入力軸41(継手連結部22)の回転速度と同一になった場合には、ころ73が内外輪71,72の間に噛み合った状態で保持される。このため、一方向クラッチ7は、内外輪71,72の前記一方向への一体回転を維持し、出力軸35(軸連結部21)と入力軸41(継手連結部22)とは一体回転し続ける。
【0057】
一方、出力軸35が減速して軸連結部21が減速回転することにより、軸連結部21の回転速度が、継手連結部22の回転速度を下回る場合には、内輪71が外輪72に対して他方向(図5の時計回り方向;図7の矢印b方向)に相対回転しようとする。この場合には、ころ73が、弾性部材75の付勢力に抗してくさび状空間Sが広くなる方向へ僅かに移動することにより、ころ73と内外輪71,72との噛み合いが解除される。このように、ころ73の噛み合いが解除されることで、軸連結部21と継手連結部22との接続が遮断される。
【0058】
つまり、一方向クラッチ7は、出力軸35の回転速度が入力軸41の回転速度を下回る状態で軸連結部21と継手連結部22との接続を解除する。つまり、出力軸35の回転速度が入力軸41の回転速度を下回る状態で、軸連結部21の内輪71の外周面71aと継手連結部22の筒状本体部22b(外輪72)の内周面72aとに対するころ73の前記噛み込みが解除され、軸連結部21と継手連結部22との接続を解除する。この結果、出力軸35は、軸継手9と遮断され、出力軸35と入力軸41とは相対回転可能(空転可能)となる。
【0059】
なお、各くさび状空間Sを形成する内周面72aは、周方向に連続する円筒面の一部(円弧面)によって構成されているが、周方向に連続しない円弧面、例えば、周方向に隣接するくさび状空間Sの内周面72aの間に平坦面や変曲点が介在するような独立した円弧面であってもよい。
【0060】
〔締付け力が増大する作用について〕
軸連結部21において、内輪71は、軸本体部21aに対して所定の締め代をもって締まり嵌めによって嵌合されている。したがって、軸本体部21aに対する内輪71の締め付け力によって両者が一体回転可能となる。また、軸本体部21aに対する内輪71の締め付け力は、ころ73と内外輪71,72との噛み合いによって増大する。以下、この作用について説明する。
【0061】
図7に示すように、内輪71が外輪72に対して図7の矢印a方向に相対回転しようとしたとき、カム面71a1と内周面72aとにころ73が噛み込み、ころ73は、図8(a)(図8(b))に示すように、内周面72aから荷重Fa(Fb)を受け、内輪71のカム面71a1は、荷重Fa(Fb)の分力である垂直成分荷重Fa1(Fb)をころ73から受ける。したがって、この垂直成分荷重Fa1(Fb)によって軸本体部21aに対する内輪71の締め付け力は増大する。
【0062】
そのため、軸本体部21aと内輪71との嵌め合いによる締め付け力(以下、「初期の締め付け力」ともいう)によって軸本体部21aから内輪71に伝達可能なトルク(伝達トルク)T2は、風力発電装置1を作動させるための負荷トルク(発電機4のロータ42を回すための発電トルクや慣性トルク)が最大となったときに、軸本体部21aから内輪71に伝達されるべき最大の伝達トルクT1maxよりも小さくすることができる。すなわち、T2とT1maxとを、
T1max>T2 ・・・(1)
の関係に設定することができる。
【0063】
また、ころ73と内外輪71,72との噛み合いによる締め付け力(以下、「追加の締め付け力」ともいう)によって軸本体部21aから内輪71に伝達可能な伝達トルクをT3としたとき、T2とT3とを加算した値が、風力発電装置1を作動させるために必要な最小限の伝達トルクT1よりも常に大きくなっている。すなわち、
T1<T2+T3 ・・・(2)
特に、負荷トルクが最大となったときの追加の締め付け力で、軸本体部21aから内輪71に伝達可能な伝達トルクT3maxは、以下の条件を満たしている。
T1max<T2+T3max ・・・(3)
【0064】
以上の負荷トルクと各伝達トルクT1〜T3との関係は、図9のグラフに示すとおりである。なお、上述の最大の負荷トルクとは、風力発電装置1の設計条件として想定した最大の負荷トルクのことをいい、風力発電装置1が故障したときや異常気象により想定を超える風速の急変動が生じたときなどに発生する過大な負荷トルクのことではない。
上記の式(1)〜(3)の関係が満たされることによって、軸本体部21aと内輪71との嵌め合いによる初期の締め付け力を可及的に小さくすることができ、両者の嵌め合いに必要な締め代を小さくし、当該嵌め合いによって内輪71に生じる内部応力(特に円周方向の応力)を小さくすることができる。内輪71の内部応力を小さくすることで内輪71の耐久性を高め、一方向クラッチ7、ひいてはクラッチユニット20の寿命を高めることができる。なお、軸本体部21aと内輪71の間の締め代は、最小で10μmとすることができる。
【0065】
なお、一方向クラッチ7の内輪71を省略し、軸本体部21aに直接カム面を形成すれば、上記のような嵌め合いに伴う内輪71の応力集中を抑制することができ、好適である。しかし、本実施形態のように風力発電装置1に用いられる一方向クラッチ7は大型であるため、軸本体部21aに対して直接カム面を形成するのは困難であり、現実的ではない。したがって、上記の式(1)〜(3)のように各伝達トルクT1〜T3と負荷トルクとの関係を設定することが最も有効である。
【0066】
〔くさび状空間Sのくさび角について〕
一方、負荷トルクの増大に伴って、ころ73と内外輪71,72との噛み合いによる締め付け力が過度に大きくなると、内輪71の負担が大きくなり、却って耐久性が低下してしまうおそれがある。そのため、本実施形態では、負荷トルクが大きくなるほど、負荷トルクの増分に対する、ころ73から内輪71(カム面71a1)に付与される垂直成分荷重の増分を小さくし、内輪71への負担を可及的に小さくできるようにしている。
【0067】
具体的には、外輪72の内周面72aは円弧面に形成されているため、くさび状空間Sが狭い領域ほど、くさび角は大きくなる(図7参照)。
図8(a)は、くさび状空間Sが比較的広く、くさび角θaが小さい領域にころ73が位置している状態を示し、図8(b)は、くさび状空間Sが比較的狭く、くさび角θbが大きい領域にころ73が位置している状態を示している。
【0068】
また、ころ73がくさび状空間Sの広い領域に位置するのは、ころ73と内外輪71,72との噛み合いの初期、例えば非回転の状態からカットイン風速(発電のために最低必要な風速)に達して回転し始めるときや、カットイン風速で回転が一定となり安定しているとき等のように負荷トルクが小さい場合であり、また、ころ73がくさび状空間Sの狭い領域に位置するのは、定格風速以上の風速となり定格出力に達したときなどの負荷トルクが大きい場合である。カットイン風速は、瞬間風速であってもよいし、所定時間の平均風速であってもよい。
したがって、図8において、外輪72の内周面72aからころ73に付与される荷重Faと荷重Fbは、
Fa<Fb ・・・(4)
の関係がある。
【0069】
そして、図8(b)において、内周面72aからころ73に付与される荷重Fbに対する垂直成分荷重Fb1の割合(Fb/Fb1)は、図8(a)において、荷重Faに対する垂直成分荷重Fa1の割合(Fa/Fa1)よりも小さくなる。そのため、負荷トルクが増大したとしても、垂直成分荷重Fb1はそれほど大きくならず、内輪71に対する負担を軽減することができる。
【0070】
ころ73と内外輪71,72との噛み合いの初期の負荷トルクが作用したときのくさび角θaと、最大の負荷トルクが作用したときのくさび角θbとは、
1.0°<θb−θa<1.5° ・・・(5)
の関係に設定されている。
くさび角θaは、4°〜9°の範囲にあることが好ましく、くさび角θbは、5.5°〜10°の範囲にあることが好ましい。くさび角θaが4°よりも小さいと、ころ73からカム面71a1に付与される垂直成分荷重Fa1が必要以上に大きくなる可能性があり、くさび角θaが9°を超えると、他方のくさび角θbが大きくなりすぎ、ころと両周面との噛み合いが不十分となる可能性があるからである。また、くさび角θbが、5.5°よりも小さいと、他方のくさび角θaが小さくなりすぎ、ころ73からカム面71a1に付与される垂直成分荷重Fa1が必要以上に高まる可能性があり、くさび角θbが10°を超えると、ころ73と内外輪71,72との噛み合いが不十分となる可能性があるからである。
【0071】
また、くさび角θaとθbとの比は、
1.1<θb/θa<1.4 ・・・(6)
(より好ましくは、1.11<θb/θa<1.38)
に設定されている。
くさび角θa,θbが以上のような関係に設定されることによって、ころ73と内輪71及び外輪72との噛み合いの初期から負荷トルクが最大となるまでの間、軸本体部21aと内輪71とのトルク伝達を確実に行うことができるとともに内輪71の負担も軽減することができる。
【0072】
上記の式(5)(6)のような関係は、外輪72の内径、ころ73の外径やP.C.D、内周面72aとカム面71a1との間隔等を調整することによって設定することができる。また、一方向クラッチ7におけるころ73の数は、4個〜8個に設定することが好ましい。ころ73の数が8個を超えると、内周面72aから各ころ73への荷重Fa(Fb)が分散し、ころ73からカム面71a1への垂直成分荷重Fa1(Fb1)が小さくなり、軸本体部21aに対する内輪71の締め付け力を十分に得ることができなくなる可能性があるからである。また、ころ73の数が4個より少ないと、軸本体部21aに対する内輪71の締め付け力が大きくなりすぎ、内輪71への局所的な負担が大きくなるからである。
【0073】
〔トルクリミッタについて〕
本実施形態の一方向クラッチ7には、軸連結部21から継手連結部22への伝達トルクが所定値(上限値)を超えたときにこれら軸連結部21と継手連結部22との接続を遮断するトルクリミッタ24が設けられていてもよい。図10はトルクリミッタ24を備えている一方向クラッチ7の一部を示す断面図である。
【0074】
前述したように、一方向クラッチ7は、軸連結部21が図7の矢印a方向に増速回転することによって、ころ73がカム面71a1と外輪72の内周面72aとの間に噛み込み、継手連結部22を同方向に一体回転させる。しかし、例えば、発電機4に焼き付き等が生じて入力軸41が回転し難くなると、この入力軸41に軸継手9を介して連結された継手連結部22も回転し難くなり、軸連結部21から継手連結部22に伝達される回転トルクが過大となる。この結果、例えば、軸連結部21に連結された出力軸35と主軸2との間の増速機3にも大きな負担がかかり、増速機3内の歯車や軸受等を損傷させてしまう可能性がある。
【0075】
そこで、上記のような不都合を解消するために、トルクリミッタ24が設けられている。図10に示すように、内輪71の外周面71aに、ころ73を収容可能とする凹部25が形成されている。凹部25は、周方向に隣接するカム面71a1の間に形成されている。各凹部25には、その矢印a方向に隣接して配置されているカム面71a1に当接可能となっているころ73が、カム面71a1の端部71a2を乗り越えたときに落ち込み、収容される。
【0076】
凹部25は、その底部25aがころ73と略同一半径の円弧面に形成され、底部25aの周方向両側に形成された側壁部25b1,25b2は、互いに平行に形成される。側壁部25b1,25b2は、一方向クラッチ7の軸心Oと底部25aの曲率中心とを通る径方向の仮想線Yに対して径方向外側ほど矢印a方向に位置するように傾斜する傾斜面に形成されている。そのため、ころ73に近い側の側壁部25b1の方が長く、遠い側の側壁部25b2が短く形成されている。また、カム面71a1と一方の側壁部25b1との間の角度は90°以上(例えば、90°〜120°程度)とされている。
【0077】
また、凹部25は、ころ73の全体を収容することができる深さに形成されている。そのため、凹部25に収容されたころ73は、弾性部材75よりも径方向内側に位置づけられる。
弾性部材75にはカバー部材26が設けられている。このカバー部材26は、弾性部材75の周方向一端面(ころ73側の端面)、径方向外側面、径方向内側面、及び軸方向両側面を取り囲むように有底筒形状に形成されており、周方向一端面を覆う部分26aがころ73に当接する。また、弾性部材75の径方向外側面を覆う部分26bは、外輪72の内周面72aに沿って円弧状に形成されており、この部分26bは、外輪72の内周面72aに接触しても円滑に滑ることができるように、フッ素樹脂や二硫化モリブデン等によるコーティングが施され、摩擦抵抗が低減されている。
【0078】
軸連結部21から継手連結部22に伝達される回転トルクが上限を超えると、ころ73が、カム面71a1上から端部71a2を乗り越え、図11に示すように、凹部25に落ち込み、くさび状空間Sから離脱した状態となる。そのため、軸連結部21と継手連結部22との接続は完全に遮断され、両者の間の回転トルクの伝達が絶たれた状態となる。そのため、軸連結部21はほとんど負荷を受けることなく回転し、増速機3にかかる負担を軽減することができ、増速機3の損傷も防止することができる。
【0079】
また、軸連結部21は、主軸2が回転している限り、ころ73が凹部25内に収容された後も増速機3によって増速されて回転を継続するが、この軸連結部21の回転による遠心力で凹部25からころ73が径方向外方へ離脱し、再びころ73がカム面71a1と外輪72の内周面72aとに噛み合ってしまうと、軸連結部21が継手連結部22に接続されてロック状態となり、増速機3に大きな負担がかかってしまう。このような事態を防止するため、本実施形態のトルクリミッタ24には、凹部25からのころ73の離脱を防止する離脱防止手段が設けられている。
【0080】
具体的に、離脱防止手段は、凹部25の一方の側壁部(周方向一方の端縁;規制部)25b2が、ころ73の径方向外側へ向けて突出していることによって構成されている。すなわち、遠心力によってころ73が径方向外方(仮想線Yに沿った矢印B方向)へ移動しようとしたとしても、凹部25の側壁部25b2が障害となって移動し難くなり、凹部25からの離脱が防止される。また、軸連結部21が矢印a方向に回転することによって、ころ73には矢印aとは反対方向への慣性力が付与されるため、凹部25からより一層離脱し難くなっている。
【0081】
また、弾性部材75及びカバー部材26が、離脱防止手段としての機能を有している。すなわち、カム面71a1上のころ73が凹部25に落ち込むと、ポケット78内の弾性部材75が伸張し、ころ73は、弾性部材75及びカバー部材26よりも径方向内側に位置づけられるとともに、凹部25の少なくとも一部がカバー部材26によって閉塞される。そのため、軸連結部21の回転による遠心力に起因してころ73が径方向外方へ移動しようとしても弾性部材75及びカバー部材26が障害となって、その移動が阻止され、凹部25からのころ73の離脱が好適に防止される。特に、弾性部材75にカバー部材26が設けられることによって凹部25からのころ73の離脱を確実に防止することができる。
【0082】
なお、増速機3の故障等を防ぐためのトルクリミッタの構成は他の形態であってもよい。例えば、図4に示すスペーサ23をトルクリミッタとして機能させてもよい。つまり、この場合、スペーサ23を樹脂製とし、異常な過トルクが出力軸35等に作用しそうになると、このスペーサ23が破壊される構成とすればよい。
【0083】
〔クラッチユニット20の他の形態について〕
図12は、軸継手9、クラッチユニット20及びその周囲を示す縦側面図である。図12に示すクラッチユニット20も、図4に示すクラッチユニット20と同様に、出力軸35に連結される軸連結部21と、軸継手9に連結される継手連結部22と、これら軸連結部21と継手連結部22との間に設けられている一方向クラッチ7とを有している。なお、図4図12とに示す各形態において、同じ構成要素に対しては同じ符号を付している。
【0084】
図4に示すクラッチユニット20と、図12に示すクラッチユニット20とを比較すると、出力軸35と軸連結部21との連結構造、及び、軸連結部21と継手連結部22との支持構造が異なっている。また、図12に示す形態では、一方向クラッチ7の内輪が軸連結部21の一部によって構成されている点で、図4に示す形態と異なる。
【0085】
前記連結構造について説明する。出力軸35の端部35eには雄ねじ46が形成されている。これに対して、軸連結部21は中空の軸部材からなり、この軸連結部21には、雄ねじ46と螺合する雌ねじ47が形成されている。そして、雌ねじ47は、雄ねじ46との締め付けが完了すると、この締め付けの方向に回り止めがされる構成となっている。つまり、出力軸35は、雄ねじ46よりも径方向寸法が大きい大径部48を有しており、雌ねじ47と雄ねじ46とを締め付けると最終的に、この大径部48の軸方向端面48aに雌ねじ47の軸方向端面が当接する。これにより、それ以上、出力軸35と軸連結部21とを相対回転させることができず、締め付け方向に回り止めがされる。
【0086】
出力軸35に対して軸連結部21を回転させて、前記ねじ46,47を螺合させてこれらを連結させるが、その作業を容易に行うために軸連結部21には六角孔49が形成されている。つまり、この六角孔49に六角レンチの一部を挿入し締め付け作業が行われる。
そして、ねじ46,47の締め付けの方向は、発電機4による発電時の出力軸35及び入力軸41の回転方向と同方向に設定されている。これにより、発電のために出力軸35と軸連結部21との間に回転トルクが作用しても、ねじ46,47が外れることがない。
以上の連結構造によれば、出力軸35と軸連結部21との連結が容易に行われる。
【0087】
前記支持構造について説明する。継手連結部22は筒状の部材からなり、軸連結部21はこの筒状の部材の径方向内側に位置する軸状(中空軸状)の部材からなる。そして、このクラッチユニット20は、軸連結部21と継手連結部22とを同心円状として支持するための支持部56を有している。
支持部56は、複数の玉列(図12では3つの玉列)を有しており、各玉列は周方向に沿って複数配置した玉57を有している。更に、支持部56は、環状の保持器58を有しており、保持器58は、各玉列を軸方向に間隔をあけて保持すると共に、各玉列に含まれる複数の玉57を周方向に間隔をあけて保持することができる。
【0088】
支持部56が設けられる領域では、継手連結部22の内周面22c、及び軸連結部21の外周面21eは円筒面からなる。そして、この支持部56は、周方向に回転可能であり、また、軸方向にも移動可能となっている。
以上より、支持部56は、軸連結部21の外周面21eと継手連結部22の内周面22cとの間に介在する複数の玉57と、この複数の玉57を周方向に間隔をあけて保持する保持器58とを有しており、軸連結部21と継手連結部22とを相対的に軸方向移動可能でかつ相対回転可能として支持することができる。
【0089】
この支持構造によれば、軸連結部21と継手連結部22とは相対的に軸方向移動可能となることから、出力軸35から継手9を経て入力軸41までの間において、温度上昇や温度降下に起因する熱伸縮によって軸方向長さが変化しても、その変化を軸連結部21と継手連結部22との構成、及び支持部56によって吸収することができる。
なお、図示しないが、軸連結部21を筒状の部材とし、継手連結部22をこの筒状の部材の径方向内側に位置する軸状の部材とし、これらの間に支持部56を設けた構成としてもよい。
【0090】
〔クラッチユニット20の他の形態について〕
図16は、軸継手9、クラッチユニット20及びその周囲を示す縦断面図である。図16に示すクラッチユニット20は、図4及び図12に示す形態と同様に、軸継手9と増速機3の出力軸35との間に介在している。また、図4及び図12に示すクラッチユニット20と同様に、本実施形態のクラッチユニット20も、出力軸35に連結され出力軸35と一体回転する軸連結部21と、軸継手9に連結され軸継手9と一体回転する継手連結部22と、これら軸連結部21と継手連結部22との間に設けられている一方向クラッチ7とを有している。なお、図4図12)と図16とに示す各形態において、同じ構成要素に対してはできるだけ同じ符号を付している。
【0091】
図4図12)に示すクラッチユニット20と、図16に示すクラッチユニット20とを比較すると、出力軸35と軸連結部21との連結構造の他に、継手連結部22及び軸連結部21の支持構造が異なっている。図16に示すクラッチユニット20は、継手連結部22及び軸連結部21等を支持するための支持部材66を更に備えている。以下、図16に示すクラッチユニット20の構成を説明する。
【0092】
このクラッチユニット20は、増速機3のハウジング14に固定されている支持部材66と、この支持部材66と継手連結部22との間に設けられている転がり軸受68とを更に有している。
【0093】
増速機3は、ハウジング14、出力軸35、ころ軸受39、及びシール部材40を備えている。ハウジング14は、ナセル13(図1参照)の床(コンクリート床)上に載せた状態として設置されており、この床によってハウジング14を含む増速機3の自重は支持されている。ハウジング14の内周面に複列のころ軸受39が設けられており、これらころ軸受39によって出力軸35はハウジング14に回転可能として支持された状態となる。そして、このハウジング14と出力軸35との間に形成される環状の空間には、前記ころ軸受39の他に、開口端側にシール部材40が設けられており、異物が増速機3内部へ侵入するのを防止している。そして、出力軸35は、ハウジング14の端面14aから軸方向外側へ突出している。
【0094】
軸連結部21は、筒状の部材であり、出力軸35に外嵌して固定されている。このため、軸連結部21は出力軸35と一体回転可能となる。軸連結部21の軸方向隣りにはリング状の間座69aが設けられており、この間座69aと継手連結部22との間にシール部材69bが設けられている。シール部材69bは、異物が一方向クラッチ7側へ侵入するのを防止する。また、出力軸35の端部に形成されているボルト部にはナット部材69cが螺合している。このナット部材69cにより、軸連結部21及び間座69aが軸方向に移動して出力軸35から脱落するのを防止している。
【0095】
継手連結部22は、全体が円環状であり、軸継手9と連結されている回転フランジ部22dと、この回転フランジ部22dと一体であり円筒形状を有する回転円筒部22eとを有しており、断面L字形となっている。回転フランジ部22dは、軸継手9のフランジ部9bと、スペーサ(撓み部材)23を介してボルト・ナット29bにより連結されている。回転円筒部22eは、回転フランジ部22dと連続しており回転フランジ部22dと一体回転する。この回転円筒部22eの内周側に一方向クラッチ7が設けられている。
【0096】
一方向クラッチ7は、前記各実施形態(図5参照)と同様の構成であり、出力軸35の回転を、軸連結部21、継手連結部22、及び軸継手9を介して発電機4の入力軸41に伝達可能とする。一方向クラッチ7は、内輪部と、外輪部と、複数のころ(係合子)73とを備えている。本実施形態では、前記内輪部は軸連結部21からなり、前記外輪部は継手連結部22の回転円筒部22eからなる。つまり、軸連結部21が一方向クラッチ7の内輪として機能し、回転円筒部22eが一方向クラッチ7の外輪として機能する。なお、前記内輪部及び前記外輪部はそれぞれ、軸連結部21及び回転円筒部22eとは別の部材であってもよい。
【0097】
一方向クラッチ7のころ73は、軸連結部(内輪)21の外周面と回転円筒部(外輪)22の内周面との間に複数個配置されている。本実施形態では、ころ73が円柱形状に形成されたものであり、周方向に8個設けられている(図5参照)。
また、一方向クラッチ7は、更に、各ころ73を円周方向に沿って所定間隔毎に保持する環状の保持器74と、各ころ73を周方向に向かって一方向に弾性的に付勢する複数の弾性部材(付勢部材)75(図5参照)とを備えている。
なお、この一方向クラッチ7は、前記各実施形態と同じ機能を有している。つまり、この一方向クラッチ7は、出力軸35の回転速度が入力軸41の回転速度を上回る状態で軸連結部21と継手連結部22とを一体回転可能に接続し、出力軸35の回転速度が入力軸41の回転速度を下回る状態で軸連結部21と継手連結部22との接続を解除する。
【0098】
支持部材66は、全体が円環状であり、ハウジング14と連結されている固定フランジ部66dと、この固定フランジ部66dと一体であり円筒形状を有する固定円筒部66eとを有しており、断面L字形となっている。
転がり軸受68は、固定円筒部66eの内周面と、回転円筒部22eの外周面との間に設けられている。これにより、転がり軸受68は、支持部材66に対して継手連結部22を回転可能に支持することができる。
【0099】
支持部材66の固定フランジ部66dは、ボルト66fによってハウジング14の側部の端面14aに固定されている。固定円筒部66eは、継手連結部22の回転円筒部22eの径方向外側に位置している。そして、これら固定円筒部66eと回転円筒部22eとの間に転がり軸受68が介在しており、固定円筒部66eと回転円筒部22eとは同心状に位置することができる。そして、支持部材66はハウジング14に固定されていることから、転がり軸受68を介して設けられている継手連結部22は、この支持部材66に対して径方向の位置決めがされる。このため、一方向クラッチ7においてころ73による継手連結部22及び軸連結部21への噛み込みが解除された状態となっても、継手連結部22及びこれに連結されている軸継手9は、出力軸35と同心状を保つことができる。
【0100】
以上の本実施形態に係るクラッチユニット20によれば、増速機3のハウジング14に、支持部材66及び転がり軸受68を介して、継手連結部22を回転可能として取り付けることができる。このため、継手連結部22を介して作用する軸継手9の重力(重量)、この継手連結部22と軸連結部21との間に設けられている一方向クラッチ7の重力(重量)、及び、この継手連結部22自身の重力(重量)に起因する荷重をハウジング14に伝達させ、この荷重をハウジング14は支持することが可能となる。つまり、前記転がり軸受68は、(ハウジング14に対する)支持固定用の転がり軸受である。
【0101】
なお、前記支持部材66が仮に設けられていない場合、軸継手9及びクラッチユニット20の重量によって、これら軸継手9及びクラッチユニット20に対するストレスや機械的な負荷が増加する。例えば、これらの重量によって出力軸35と入力軸41とに撓みが発生したり芯ずれが発生したりすると、一方向クラッチ7における前記のような噛み込み動作、及びその解除動作がスムーズに行われなくなるおそれがあり、一方向クラッチとしての機能が低下してしまうことがある。これに対して、本実施形態に係るクラッチユニット20によれば、支持部材66により、前記のような撓みや芯ずれの発生を抑制することができる。
【0102】
また、本実施形態では、継手連結部22は、一方向クラッチ7が内周側に設けられる回転円筒部22eを有しており、また、支持部材66は、この回転円筒部22eと同心状でかつこの回転円筒部22eの径方向外側に位置する固定円筒部66eを有している。そして、これら固定円筒部66eと回転円筒部22eとの間に転がり軸受68が設けられている。そして、転がり軸受68の軸方向の範囲内に、一方向クラッチ7のころ73が位置する。このため、継手連結部22の回転円筒部22eの内周側に一方向クラッチ7が設けられ、この回転円筒部22eの外周側に転がり軸受68が設けられた構成となる。
以上より、一方向クラッチ7と転がり軸受68とが径方向に並んだ配置となり、この結果、継手構造(クラッチユニット20)の軸方向寸法Eを小さくすることができる。つまり、軸継手9と増速機3との間の軸方向間隔を、前記各実施形態よりも短くすることが可能となる。なお、転がり軸受68と一方向クラッチ7との軸方向位置は変更可能である。
【0103】
転がり軸受68は、転動体が軸方向に二列設けられている複列転がり軸受である。または、4点接触型の玉軸受であってもよい。これにより、固定状態である支持部材66は、継手連結部22を軸方向に離れて設けられている二列の玉(転動体)68cにより支持することができるので、支持部材66と継手連結部22との中心線の傾き発生を抑制することができる。この結果、固定状態にある支持部材66に対して、継手連結部22に作用するモーメントによるクラッチユニット20の傾き等の発生を抑制することができる。なお、転がり軸受68の転動体は、玉以外であってもよく、ころであってもよい。
【0104】
なお、図16に示す実施形態では、転がり軸受68の外輪68aは支持部材66と別体であるが、図17に示す変形例のように、支持部材66の固定円筒部66eが転がり軸受68の外輪を兼ねていてもよい。この場合、固定円筒部66eの内周面に転がり軸受68の玉(転動体)68cの軌道(軌道溝)68dが設けられている。
また、図16に示す実施形態では、転がり軸受68の内輪68bは継手連結部22と別体であるが、図17に示すように、継手連結部22の回転円筒部22eが転がり軸受68の内輪を兼ねていてもよい。この場合、回転円筒部22eの外周面に転がり軸受68の玉(転動体)68cの軌道(軌道溝)68fが設けられている。
このように、固定円筒部66eが転がり軸受68の外輪を兼ねたり、回転円筒部22eが転がり軸受68の内輪を兼ねたりすることで、部品数の削減が可能となり、また部品数が減ることで組み立てが容易となる。
【0105】
図16図17)に示す実施形態では、支持部材66を固定する対象となる固定物は、増速機3のハウジング14であり、クラッチユニット20は、軸継手9と増速機3の出力軸35との間に介在している。そして、ハウジング14は、風力発電装置1が設けられているナセル13の床上に設置されており、この床によって支持されている。これにより、クラッチユニット20が有する各構成部材等の重力(重量)に起因する荷重を、増速機3のハウジング14に伝達させ、この荷重を増速機3のハウジング14は支持することが可能となる。
【0106】
なお、図16図17)に示す実施形態では、支持部材66は、風力発電装置1が有する固定物として増速機3のハウジング14に固定される場合について説明したが、その他に、前記固定部としては、図示しないが、例えばナセル13内のスラブや柱であってもよい。
【0107】
このように図16図17)に示す実施形態では、クラッチユニット20が増速機3の出力軸35と軸継手9との間に設けられている場合について説明したが、他の形態として、図18に示すように、クラッチユニット20が軸継手9と発電機4の入力軸41との間に設けられていてもよい。この場合、支持部材66を固定する対象となる固定物は、発電機4のハウジング4aであり、クラッチユニット20は、軸継手9と発電機4の入力軸41との間に介在している。そして、クラッチユニット20が有している支持部材66は、発電機4のハウジング4aに固定される。また、ハウジング4aは、風力発電装置1が設けられているナセル13(図1参照)の床上に設置されており、この床によって支持されている。これにより、クラッチユニット20が有する各構成部材等の重力(重量)に起因する荷重を、発電機4のハウジング4aに伝達させ、この荷重をハウジング4aは支持することが可能となる。
【0108】
図19図20は、図16に示すクラッチユニット20の組み立て方法を説明する説明図である。図19(A)(B)に示すように、円筒状である軸連結部21の外周側に、一方向クラッチ7用の複数のころ(係合子)73と環状保持器74とを設ける。なお、この軸連結部21は、出力軸35に取り付ける前の状態にある。そして、この軸連結部21に軸方向から継手連結部22を接近させ、継手連結部22をころ73の径方向外側に取り付ける(図19(C)(D)参照)。この際、継手連結部22の回転円筒部22eの内周側にリング状のシール部材69bを取り付ける。また、このシール部材69bの内周側であって軸連結部21の軸方向隣りの位置にリング状の間座69aを設ける。このようにして組み立てられた中間品を、第1の中間品M1と呼ぶ。
また、軸連結部21に軸方向から継手連結部22を接近させ、図19(C)に示すように、継手連結部22をころ73の径方向外側に取り付ける際、その取り付けを容易とするために、継手連結部22の回転円筒部22eの内周面端部に、テーパ部が設けられている。このテーパ部は、軸方向外側に向かって拡径するテーパ面からなる。
【0109】
この第1の中間品M1とは別に、図20(E)(F)に示すように、支持部材66の内周側に転がり軸受68を取り付け、これを第2の中間品と呼ぶ。
そして、図20(G)に示すように、第1の中間品M1と第2の中間品M2とを相互に軸方向に沿って接近させて組み合わせ、クラッチユニット20を得る。このように、両中間品M1,M2を軸方向に接近させて組み合わせる際、その組み合わせ(取り付け)を容易とするために、継手連結部22の回転円筒部22eの外周面端部に、テーパ部が設けられている。このテーパ部は、軸方向外側に向かって縮径するテーパ面からなる。
そして、このクラッチユニット20と出力軸35とを軸方向に接近させて結合させ、つまり、軸連結部21及び間座69aを出力軸35に外嵌させ、出力軸35の先端に形成されているボルト部にナット部材69cを螺合させ、締め付ける(図20(H)参照)。そして、クラッチユニット20の支持部材66を図外の増速機3のハウジング14に固定し、このクラッチユニット20に図外の軸継手9を取り付ける。
以上より、図16に示すクラッチユニット20が、増速機3と軸継手9との間に設けられた構成となる。
【0110】
〔クラッチユニット20の更に別の形態について〕
図13は、クラッチユニット20の一部を示す横断面図である。このクラッチユニット20が有する一方向クラッチ7には、係合子としてスプラグ73が用いられている。この場合、内輪71の外周面71aは、図7に示すようなカム面が形成されておらず、円筒面に形成されている。なお、図13に示す実施形態では、一方向クラッチ7の内輪部は、軸本体部21aの一部から構成されており、図4の場合のような別体の内輪71を備えていない。この一方向クラッチ7は、前記各実施形態に適用可能である。
【0111】
スプラグ73は、軸本体部21aの外周面71aに当接する第1当接面73bと、筒状本体部22bの内周面72aに当接する第2当接面73cとを備え、第1当接面73b及び第2当接面73cはそれぞれ凸状かつ略円弧状に形成されている。また、軸本体部21aの外周面71aに当接している第1当接面73bの当接点と、筒状本体部22bの内周面72aに当接している第2当接面73cの当接点との間の距離(以下、当接点間距離という)は、スプラグ73の傾きによって変化する。つまり、筒状本体部22bに対して軸本体部21aが矢印a方向に回転したときは、スプラグ73は矢印e方向に傾き、前記当接点間距離が拡大する。これとは反対に、筒状本体部22bに対して軸本体部21aが矢印b方向に回転したときは、スプラグ73は矢印eとは反対方向に傾き、前記当接点間距離は縮小する。
【0112】
前記当接点間距離が拡大すると、スプラグ73は軸本体部21aの外周面71aと筒状本体部22bの内周面72aとに噛み合い、逆に、前記当接点間距離が縮小すると、スプラグ73と、軸本体部21aの外周面71a及び筒状本体部22bの内周面72aとの噛み合いが解除される。
したがって、軸本体部21aが筒状本体部22bに対して矢印a方向に相対回転しようとしたときに、軸本体部21aと筒状本体部22bとが一体回転可能に接続され、軸本体部21aが筒状本体部22bに対して矢印b方向に相対回転したときに、軸本体部21aと筒状本体部22bとの接続が遮断されるようになっている。これにより、出力軸35と入力軸41との関係について、前記各実施形態と同様に、一体回転する状態と、相対回転する状態とに切り替えが可能となる。
【0113】
図13に示す形態の場合、前記各実施形態と同様の効果を奏するほか、軸本体部21aには、カム面を形成する必要がないので、製造コストを低減することができる。また、内輪として軸本体部21aを用いることができるので、より製造コストを低減することができるとともに、一方向クラッチ7の構造の簡素化及び径方向の小型化を図ることができる。また、スプラグ73は、ころに比べて剛性を高くしトルク容量を高めやすいため、スプラグ73自体の径方向及び軸方向の寸法を小さくすることができる。したがって、一方向クラッチ7の径方向及び軸方向の寸法を小さくし、小型化を図ることができる。このように一方向クラッチ7を小型化することによって、クラッチユニット20全体を径方向及び軸方向に小型化することができる。
【0114】
〔各実施形態のクラッチユニット20を備えている風力発電装置1〕
以上のように、風力発電装置1(図1参照)は、風力により回転する主軸2と、この主軸2の回転を増速して出力軸35から出力する増速機3と、出力軸35の回転を入力として回転する入力軸41を有すると共にこの入力軸41と一体回転するロータの回転に伴って発電する発電機4と、出力軸35と入力軸41との間に設けられこれら出力軸35と入力軸41との間でトルク伝達可能とするための軸継手9と、この軸継手9と出力軸35との間に介在する前記各実施形態に係るクラッチユニット20を備えている継手構造とを備えている。
【0115】
クラッチユニット20は、例えば図4に示すように一方向クラッチ7を有しており、この一方向クラッチ7は、前記のとおり、出力軸35の回転速度が入力軸41の回転速度を上回る状態で軸連結部21と継手連結部22とを一体回転可能に接続し、出力軸35の回転速度が入力軸41の回転速度を下回る状態で軸連結部21と継手連結部22との接続を解除することができる。
【0116】
この結果、風力を受けて回転する主軸2側から入力された動力によって増速機3の出力軸35が加速回転し、この出力軸35の回転速度が入力軸41の回転速度を上回ろうとする状態では、軸連結部21と一体回転する出力軸35は、継手連結部22と一体回転する軸継手9を介して入力軸41と接続されて一体回転する。このため、主軸2側から入力された動力が入力軸41に伝わって発電機4によって発電が行われる。
そして、この発電状態から、例えば風力が低下して、出力軸35の加速回転が止められると出力軸35は減速するが、ロータ42の慣性力によって入力軸41は回転を継続しようとする。この場合、出力軸35とともに一体回転する軸連結部21の回転速度が入力軸41とともに一体回転する継手連結部22の回転速度を下回り、一方向クラッチ7によって出力軸35の軸連結部21と入力軸41側の継手連結部22との接続が解除される。
【0117】
つまり、風力の低下により主軸2を介して出力軸35の回転速度が急激に低下しても、発電機4のロータ42の慣性による回転が、入力軸41を介して出力軸35に伝達されるのを防止することができる。
したがって、出力軸35が減速しても、出力軸35及びこの出力軸35から増速機3側に設けられている他の軸は慣性回転することから急激なトルク抜けが防止され、これら出力軸35及び他の軸を支持する転がり軸受(例えば、図3のころ軸受38)が有する転動体(円筒ころ38c)の自転遅れを抑制することができる。
【0118】
このため、出力軸35が減速した後において、風力が強くなって出力軸35の加速回転が再開されると、出力軸35の回転速度が入力軸41の回転速度を上回ることとなり、一方向クラッチ7によって再び出力軸35と入力軸41とが接続されて前記転がり軸受(ころ軸受38)にラジアル荷重が作用するが、これら転がり軸受(ころ軸受38)の転動体(円筒ころ38c)の自転遅れは抑制されていることから、転動体(円筒ころ38c)及びこれら転動体が転動する軌道面にスメアリングが発生して転がり軸受(ころ軸受38)の寿命が低下するのを抑えることが可能となる。
【0119】
また、風力の低下により主軸2を介して出力軸35の回転速度が急激に低下した場合、軸連結部21と継手連結部22との接続が遮断されることにより、発電機4のロータ42は、急激に減速することなく慣性によって回転し続けるため、ロータ42の平均回転速度を上げることができる。これにより、発電機4の発電効率を向上させることができる。
【0120】
また、図4に示す転がり軸受8、図12に示す支持部56、図16に示す支持部材66及び転がり軸受68によれば、一方向クラッチ7によって出力軸35の軸連結部21と入力軸41側の継手連結部22との接続が解除されている状態、つまり、一方向クラッチ7の係合子であるころ73の噛み込みが解除された状態となっても、軸連結部21と継手連結部22とを同心円状にして支持することができ、軸連結部21と継手連結部22との径方向の振れ(ふらつき)を防止することができる。
【0121】
さらに、前記各実施形態では、一方向クラッチ7が、軸継手9の軸方向の範囲内ではなく、軸継手9と増速機3との間にクラッチユニット20の一つの構成要素として設けられている。このため、軸継手9の範囲内に一方向クラッチ7を設ける程のスペースが無くても、前記のようなスメアリングの発生を抑制することが可能となる継手構造が得られる。
【0122】
また、軸連結部21は、出力軸35と別体であってこの出力軸35と連結される部材からなり、また、継手連結部22は、軸継手9と別体であってこの軸継手9と連結される部材からなるため、既設の増速機3及び発電機4を備えている風力発電装置1に対して、既設の軸継手9をそのまま残して継手構造を組み入れることが可能となる。ただし、出力軸35に関しては交換又は加工が必要となる。つまり、出力軸35に対しては、図4に示すように孔35dを形成したものを採用したり、図12に示すように雄ねじ46を形成したものを採用したりする必要がある。
【0123】
また、特に図12に示す形態の場合、軸連結部21と継手連結部22との軸方向の相対移動によって一方向クラッチ7の外輪72の内周面72aがころ73に対して軸方向に移動すると、実質的な内周面72aが軸方向に位置ずれする。特に、風力発電装置1は大型であるため位置ずれ量も必然的に大きくなる。このような位置ずれに対応するため、予め筒状本体部22bの内周面72aには、想定される位置ずれ量も含む範囲で内周面72aに必要な表面処理を行っておくことが好ましい。なお、この位置ずれ量は、風力発電装置1が使用される環境温度、発電機4の発熱量を加味したナセル内の温度等から温度変化域(例えば、−40℃〜60℃)を想定し、この温度変化域における各部材の伸縮量を計算や実験により求めることによって、推定することができる。
【0124】
内周面72aの表面処理としては、例えば、浸炭窒化処理等の表面改質処理や、黒染め処理やDLC被膜などの被膜処理であってもよい。また、焼き入れや焼き戻し等の熱処理であってもよい。
また、図12に示す空間(隙間)S2、図4に示す空間(隙間)S1,S2によれば、各軸が軸方向に伸張しても、軸方向に隣の部材と干渉するのを防ぐことができる。なお、これら空間S1,S2は、想定される温度変化域の上限(最高温度)における各軸の軸方向の伸張量よりも大きい寸法に設定されることが好ましい。
【0125】
また、図2に示すように、入力軸41を制動するブレーキ44が設けられている場合、一方向クラッチ7(これを内蔵したクラッチユニット20)は、増速機3とブレーキ44との間に配置されることが好ましい。仮にブレーキ44と発電機4との間に一方向クラッチ7が配置されていたとすると、回転中にブレーキ44をかけても、増速機3側の回転が減速するだけで、発電機4側の回転は一方向クラッチ7によって継続し空転するため、発電機4の異常時等に発電機4を迅速に止めることが困難になるからである。
【0126】
本発明は、上記の実施形態に限定されることなく適宜変更して実施可能である。
例えば、前記実施形態(図2参照)では、クラッチユニット20が増速機3の出力軸35と軸継手9との間に設けられている場合について説明したが、他の形態として、図14に示すように、クラッチユニット20が軸継手9と発電機4の入力軸41との間に設けられていてもよい。この場合であっても、クラッチユニット20の構成は同じであるが、軸連結部21は、発電機4の出力軸35と連結される。つまり、クラッチユニット20は、入力軸41又は出力軸35からなる軸体に連結される軸連結部21と、軸継手9に連結される継手連結部22と、これら軸連結部21と継手連結部22との間に設けられている一方向クラッチ7とを有していればよい。
【0127】
また、前記実施形態では、一方向クラッチ7が、径方向に対向する軸連結部21と継手連結部22とを有している構成について説明したが、図示しないが、これら軸連結部21と継手連結部22とが軸方向に対向する構成であってもよい。この場合、一方向クラッチ7はスラスト型となる。
また、風力発電装置は、図1に示す水平軸タイプのものに限らず、図15に示す垂直軸タイプのものであってもよい。
【符号の説明】
【0128】
1:風力発電装置 2:主軸 3:増速機
4:発電機 4a:ハウジング(固定物) 7:一方向クラッチ
8:転がり軸受 9:軸継手 14 ハウジング(固定物)
20:クラッチユニット 21:軸連結部 21b:連結用軸部
21c:挿入軸部 22:継手連結部 22d:回転フランジ部
22e:回転円筒部 35:出力軸 35d:孔
35e:端部 41:入力軸 46:雄ねじ
47:雌ねじ 56:支持部 57:玉
58:保持器 66:支持部材 66d:固定フランジ部
66e:固定円筒部 68:転がり軸受 68d,68f:軌道
73:ころ(係合子) 73:スプラグ(係合子)
図1
図2
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