(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明における実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
はじめに、
図1を参照しながら、本実施の形態のトラクターの構成および動作について具体的に説明する。
【0024】
ここに、
図1は、本発明における実施の形態のトラクターの左側面図である。
【0025】
なお、本実施の形態のトラクターは、本発明の車両の一例である。
【0026】
本実施の形態のトラクターは、エンジン10と、ステアリングハンドル21と、トランスミッションケース100と、を備える。
【0027】
エンジン10は、ボンネット13で覆われたエンジンルーム内に配置されている。
【0028】
運転席20の前方には、作業者が操縦を行うためのステアリングハンドル21がコラム21aに立設されている。
【0029】
前後進切替レバー310は、コラム21aのハンドルポスト内部に前側と後側に操作可能に保持されており、ステアリングハンドル21の下側であってコラム21aの左側に配置されている。
【0030】
運転席20の後方には、機体が転倒したときにのその反転を防止する安全フレーム22が設けられている。
【0031】
トランスミッションケース100の上側に設けられている着脱自在なセンターカバー130は、運転席20のフロア23の一部を構成し、上方に突出している。
【0032】
運転席20のフロア23の左側には、クラッチペダル24が設けられている。運転席20のフロア23の前方の、機体左右方向の中央には、主変速切替レバー410が配置されている。
【0033】
前輪11および後輪12には、エンジン10によって発生されたこれらを駆動するための動力がトランスミッションケース100を介して伝達される。
【0034】
PTO取出軸803と、機体後部に連結された作業機30の作業軸31とが連結され、作業機30の駆動が行われる。
【0035】
もちろん、作業機30がプラウまたは代掻き装置などである場合には、PTO取出軸803は使用されない。
【0036】
つぎに、
図2を参照しながら、本実施の形態のトラクターの構成および動作についてより具体的に説明する。
【0037】
ここに、
図2(a)は本発明における実施の形態のトラクターのトランスミッションケース100近傍の部分平面図であり、
図2(b)は本発明における実施の形態のトラクターのトランスミッションケース100近傍の左側面図である。
【0038】
なお、
図2(a)においてはトランスミッションケース100内部を水平面に平行な上面側の断面から見ており、
図2(b)においてはトランスミッションケース100内部を鉛直面に平行な左側面側の断面から見ている。
【0039】
(A)トランスミッションケース100の構成について説明する。
【0040】
まず、トランスミッションケース100の上段においては、前後進切替ギヤ軸601、走行ドライブシャフト軸602、主変速切替ギヤ軸603および副変速切替ギヤ軸604が同軸上に配置されている。
【0041】
前後進切替ギヤ軸601は、インプットメタル壁111と前側中間壁112との間に位置しており、前後進切替部配置室121を貫通している。走行ドライブシャフト軸602は、前側中間壁112と後側中間壁113との間に位置しており、PTO変速部配置室122を貫通している。主変速切替ギヤ軸603は、後側中間壁113とベアリングメタル壁114との間に位置しており、主変速切替部配置室123を貫通している。副変速切替ギヤ軸604は、ベアリングメタル壁114と後部内壁115との間に位置しており、後部内室124を貫通している。
【0042】
ついで、トランスミッションケース100の中段においては、インプット軸200、主変速切替随伴ギヤ軸605および副変速切替随伴ギヤ軸606が同軸上に配置されている。
【0043】
インプット軸200は、トランスミッションケース前側外壁116と後側中間壁113との間に位置しており、トランスミッションケース前側内空間125、前後進切替部配置室121およびPTO変速部配置室122を貫通している。主変速切替随伴ギヤ軸605は、後側中間壁113とベアリングメタル壁114との間に位置しており、主変速切替部配置室123を貫通している。副変速切替随伴ギヤ軸606は、ベアリングメタル壁114と後部内壁115との間に位置しており、後部内室124を貫通している。
【0044】
そして、トランスミッションケース100の下段においては、PTO変速ギヤ軸801、PTO中間軸802およびPTO取出軸803が同軸上に配置されている。
【0045】
PTO変速ギヤ軸801は、前側中間壁112と後側中間壁113との間に位置しており、PTO変速部配置室122を貫通している。PTO中間軸802は、後側中間壁113と後部内壁115との間に位置しており、主変速切替部配置室123および後部内室124を貫通している。PTO取出軸803は、後部内壁115とトランスミッションケース後側外壁117との間に位置しており、トランスミッションケース後側内空間126を貫通している。
【0046】
つぎに、エンジン10からトランスミッションケース100への伝動について説明する。
【0047】
同軸上に配置されている、インプット軸200のシャフト部分200eと、エンジン10のシャフト部分10cと、が連結されており、インプット軸200とエンジン10とはベルトなどを利用せずに直結されている。
【0048】
エンジン10からインプット軸200への伝動は、クラッチペダル連携部材10bを利用して操作されるクラッチ部材200fによってオンオフされるエンジンシャフト連携部材10aを経由して行われる。
【0049】
より具体的に説明すると、つぎの通りである。
【0050】
まず、クラッチペダル24が踏まれていない場合には、エンジンシャフト連携部材10aがオン状態となっている。すなわち、エンジンシャフト連携部材10aは、インプット軸200のシャフト部分200eと繋がっているクラッチ部材200fと接触している。このため、動力の流れが、エンジン10のシャフト部分10c、エンジンシャフト連携部材10a、クラッチ部材200fおよびインプット軸200のシャフト部分200eの順にしたがって生じる。つまり、インプット軸200のシャフト部分200eは、エンジン10のシャフト部分10cとともに回転する。
【0051】
しかしながら、クラッチペダル24が踏まれている場合には、エンジンシャフト連携部材10aがオフ状態となっている。すなわち、クラッチペダル24と連動するクラッチペダル連携部材10bが可動部材200gを回動部材200hに当接させ、回動部材200hの内側が機体に対して前側に移動し、回動部材200hの外側は機体に対して後側に移動するので、エンジンシャフト連携部材10aはクラッチ部材200fと離反している。つまり、インプット軸200のシャフト部分200eは、エンジン10のシャフト部分10cとともに回転しない。
【0052】
つぎに、
図3〜7を主として参照しながら、トランスミッションケース100の構成および動作についてさらに説明していく。
【0053】
ここに、
図3は本発明における実施の形態のトラクターの運転席20近傍の左側面図であり、
図4(a)は本発明における実施の形態のトラクターのトランスミッションケース100近傍の正面図であり、
図4(b)は本発明における実施の形態のトラクターのトランスミッションケース100近傍の左側面図であり、
図5(a)は本発明における実施の形態のトラクターのトランスミッションケース100近傍の正面図であり、
図5(b)は本発明における実施の形態のトラクターのトランスミッションケース100近傍の上面図であり、
図6(a)は本発明における実施の形態のトラクターの前後進切替部300およびPTO変速部700近傍の拡大平面図であり、
図6(b)は本発明における実施の形態のトラクターの前後進切替部300およびPTO変速部700近傍の拡大左側面図であり、
図7は本発明における実施の形態のトラクターの主変速切替部400および副変速切替部500近傍の拡大左側面図である。
【0054】
なお、
図5(a)においては、トランスミッションケース100内部を鉛直面に平行な正面側のS1−S1断面から見ている。
【0055】
また、
図6(a)においては
図2(a)の場合と同様にトランスミッションケース100内部を水平面に平行な上面側の断面から見ており、
図6(b)および
図7においては
図2(b)の場合と同様にトランスミッションケース100内部を鉛直面に平行な左側面側の断面から見ている。
【0056】
まず、インプット軸200から、前輪11および後輪12を含む走行系、およびPTO系への伝動について説明する。
【0057】
PTO変速および前後進に関しては主として
図6を参照しながら、主変速および副変速に関しては主として
図7を参照しながら、これらにおける動力の伝達についてそれぞれ具体的に説明する。
【0058】
(PTO変速における動力の伝達について)
PTO変速レバー710は、副速切替レバー510の後方で運転席20の左側に設けられており、リンク機構710aを介してトランスミッションケース100の左側面でPTO変速変速軸710bと連結されている(
図3参照)。
【0059】
PTO変速部700の軸であるPTO変速ギヤ軸801は、ベアリング702aおよび702bによって支持されている。
【0060】
PTO変速切替体700aが機体に対して前側に移動されると、低速であるPTO2速における動力の流れがヘリカルギヤ200c、ヘリカルギヤ701aおよびPTO変速ギヤ軸801の順にしたがって生じる。
【0061】
なぜならば、PTO変速切替体700aはPTO変速ギヤ軸801に固定されているので、ヘリカルギヤ200cと同調していたヘリカルギヤ701aの回転が、前側に移動されてヘリカルギヤ701aと接続されたPTO変速切替体700aを介してPTO変速ギヤ軸801に伝達されるようになるからである。
【0062】
PTO変速切替体700aが機体に対して後側に移動されると、高速であるPTO1速における動力の流れがヘリカルギヤ200d、ヘリカルギヤ701bおよびPTO変速ギヤ軸801の順にしたがって生じる。
【0063】
なぜならば、PTO変速切替体700aは前述されたようにPTO変速ギヤ軸801に固定されているので、ヘリカルギヤ200dと同調していたヘリカルギヤ701bの回転が、後側に移動されてヘリカルギヤ701bと接続されたPTO変速切替体700aを介してPTO変速ギヤ軸801に伝達されるようになるからである。
【0064】
PTO変速切替体700aがシンクロメッシュ式で構成されていると、PTO取出軸803を回転させながらPTO1速とPTO2速との切換え変速ができる。
【0065】
(前後進における動力の伝達について)
前後進切替レバー310は、ステアリングハンドル21のコラム21aの左側であって下側である位置に設けられている(
図3および4参照)。
【0066】
前後進切替部300の軸である前後進切替ギヤ軸601は、ベアリング302aおよび302bによって支持されている。
【0067】
前後進切替体300aが機体に対して前側に移動されると、前進における動力の流れがヘリカルギヤ200a、ヘリカルギヤ301aおよび前後進切替ギヤ軸601の順にしたがって生じる。前後進切替体300aが機体に対して後側に移動されると、後進における動力の流れがヘリカルギヤ200b、ヘリカルギヤ301c、ヘリカルギヤ301bおよび前後進切替ギヤ軸601の順にしたがって生じる。
【0068】
ここに、カウンタギヤとして機能するヘリカルギヤ301cは、カウンタ軸Fに固着されている。前後進切替体300aがシンクロメッシュ式で構成されていると、走行しながら前後進の切換え変速ができる。
【0069】
さらに、前後進切替についてより具体的に説明するとつぎの通りである。
【0070】
すなわち、トランスミッションケース100には上下方向に前後進切替軸310bが設けられており、前後進切替レバー310と前後進切替軸310bとは連結機構310a(
図3参照)で連結されている。連結機構310aおよび前後進切替軸310bは、前後進連動機構310eを構成している(
図3参照)。
【0071】
そして、前後進切替レバー310が中立位置から前側の前進方向に操作されると、前後進切替軸310bは連結機構310aとともに上面視で時計回りに回転し、前後進切替体300a(
図6参照)は前後進切替シフター310c(
図4参照)とともに前側に移動し、前進への切替が行われる。
【0072】
もちろん、前後進切替レバー310が中立位置から後側の後進方向に操作されると、前後進切替軸310bは連結機構310aとともに上面視で反時計回りに回転し、前後進切替体300a(
図6参照)は前後進切替シフター310c(
図4参照)とともに後側に移動し、後進への切替が行われる。
【0073】
(主変速における動力の伝達について)
主変速切替レバー410は、コラム21aの後方でフロアの一部を兼ねるセンターカバー130の中央、つまりほぼ機体中央に立設されている(
図3および4参照)。
【0074】
変速体Aが中立位置から機体に対して前側に移動されると、ギヤKとギヤLとが噛み合わせられ、第4速が得られる。ここに、変速体Aは、ギヤKとギヤMとが一体となって構成されている。
【0075】
変速体Aが中立位置から機体に対して後側に移動されると、ギヤMとギヤNとが噛み合わせられ、第3速が得られる。変速体Bが中立位置から機体に対して前側に移動されると、ギヤOとギヤPとが噛み合わせられ、第2速が得られる。
【0076】
ここに、変速体Bは、ギヤOとギヤQとが一体となって構成されている。
【0077】
変速体Bが中立位置から機体に対して後側に移動されると、ギヤQとギヤRとが噛み合わせられ、第1速が得られる。
【0078】
シンクロメッシュ式は、本実施の形態においては用いられていないが、もちろん用いられてもよい。
【0079】
さらに、主変速切替についてより具体的に説明するとつぎの通りである。
【0080】
すなわち、主変速切替レバー410は、前後進切替軸310bの後方であってトランスミッションケース100の上部の位置で主変速変速軸410aと連結されており、作業者の操作に合わせて前後左右に動くことができる。
【0081】
主変速切替レバー410と、主変速変速軸410a、およびセンターカバー130の突出部で支持される主変速切替レバー支点部410dが構成している主変速連動機構410eと、は、溶接によって一体化されている(
図3参照)。
【0082】
主変速切替レバー410が左方向に操作され前後方向に操作されると、1速と2速との間での変速が行われる。
【0083】
つまり、主変速切替レバー410が左方向に操作されると、主変速変速軸410aの下端は上面視で右方向に移動して1速2速用のシフターステー410bと連結し、主変速切替レバー410がさらに前後方向に操作されると、1速2速用のシフターステー410bと変速体Bとが前後方向に移動し、変速が行われる。
【0084】
もちろん、主変速切替レバー410が右方向に操作され前後方向に操作されると、3速と4速との間での変速が行われる。
【0085】
つまり、主変速切替レバー410が右方向に操作されると、主変速変速軸410aの下端は上面視で左方向に移動して3速4速用のシフターステー410cと連結し、主変速切替レバー410がさらに前後方向に操作されると、3速4速用のシフターステー410cと変速体Aとが前後方向に移動し、変速が行われる。
【0086】
(副変速における動力の伝達について)
副速切替レバー510は、運転席20の左側に設けられており、トランスミッションケース100の左側面で副変速変速軸510aと連結されている(
図3および4参照)。
【0087】
変速体Cが中立位置から機体に対して前側に移動され、ギヤドックSが連結されると、高副変速における動力の流れが主変速切替随伴ギヤ軸605および副変速切替随伴ギヤ軸606の順にしたがって生じる。
【0088】
ここに、変速体Cは、ギヤドックSとギヤWとが一体となって構成されている。
【0089】
変速体Cが中立位置から機体に対して後側に移動され、ギヤWとギヤVとが噛み合わせられると、低副変速における動力の流れがギヤT、ギヤU、ギヤV、ギヤWおよび副変速切替随伴ギヤ軸606の順にしたがって生じる。
【0090】
なぜならば、ギヤUおよびVは副変速切替ギヤ軸604に固定されており、ギヤWは副変速切替随伴ギヤ軸606に固定されているので、ギヤTと同調していたギヤUおよびVならびに副変速切替ギヤ軸604の回転がギヤWを介して副変速切替随伴ギヤ軸606に伝達されるようになるからである。
【0091】
シンクロメッシュ式は、本実施の形態においては用いられていないが、もちろん用いられてもよい。
【0092】
なお、四輪駆動における、副変速切替随伴ギヤ軸606から前輪11への伝動は、さらに前輪伝動シャフト611を経由して行われる。
【0093】
ここで、主として
図7を参照しながら、二輪駆動から四輪駆動への切替について具体的に説明する。
【0094】
二駆四駆切替レバー1000は、運転席20の前方下位に設けられており、より具体的には、副速切替レバー510の前方ではあるが、左右方向において運転席20とオーバーラップする位置に設けられている(
図3参照)。これは、二駆四駆切替レバー1000が頻繁に操作されるレバーではないためである。
【0095】
二駆四駆切替レバー1000は、リンク機構1000aを介して、トランスミッションケース100の左側面で二駆四駆変速軸1000bと連結されている。
【0096】
二駆四駆変速軸1000bは、副変速変速軸510aの下方に設けられている。変速体Dが後輪二輪駆動の位置(
図2(a)参照)から機体に対して後側に移動され、ギヤZ1とギヤZとが噛み合わせられると、四輪駆動における動力の流れが副変速切替随伴ギヤ軸606、ギヤX、ギヤY、ギヤZ、ギヤZ1および前輪伝動シャフト611の順にしたがって生じる。
【0097】
ここに、変速体Dは、ギヤZ1と一体的に構成されている。
【0098】
そして、ギヤYとギヤZとは、一体的に構成されておりPTO中間軸802に対して摺動状態で取り付けられているので、PTO中間軸802からの影響は受けない。
【0099】
(レバーによる前後進切替および主変速切替について)
運転席20側からレバーなどを利用して前後進切替および主変速切替を操作するための構成および動作について、
図2〜4を参照しながら、詳細に説明する。
【0100】
前後進切替部300は、前後進切替シフター310c、前後進切替フォーク320および前後進切替ギヤ軸601を含む手段であって、インプット軸200の上側であって前後進切替レバー310の下側に配置されている。
【0101】
主変速切替部400は、シフターステー410bおよび410c、主変速切替フォーク420、主変速切替ギヤ軸603、ならびに主変速切替随伴ギヤ軸605を含む手段であって、前後進切替部300の後側であって主変速切替レバー410の下側に配置されている。
【0102】
そして、センターカバー130は、前後進連動機構310eと、主変速連動機構410eと、を保持している。前後進連動機構310eはセンターカバー130の前側で保持されており、ステアリングハンドル21近傍の前後進切替レバー310から前後進切替部300までの距離が小さいので、前後進切替レバー310へのチェンジ取出は効率ロス、部品点数および部品寸法誤差が小さく、操作性およびメンテナンス性が高い最短リンクによりセンターカバー130を介して最適な位置で行われる。
【0103】
かくして、フロントミッションケース101の上部の、チェンジメタルアッセンブリーとして機能するセンターカバー130から、主変速切替の取出のみならず、前後進切替の取出を行うことにより、構成が簡素化され、低価格化が促進される。
【0104】
なお、フロントミッションケース101は、トランスミッションケース100の、トランスミッションケース分割面αよりも前側にある部分であり、リアミッションケース102は、トランスミッションケース100の、トランスミッションケース分割面αよりも後側にある部分である。
【0105】
そして、前後進切替の取出を行うための前後進切替軸310bは、クラッチペダル連携部材10bなどが配置されるトランスミッションケース前側内空間125を除けば、フロントミッションケース101の最前室である前後進切替部配置室121内の前後進切替シフター310cのほぼ直上に配置されている。
【0106】
したがって、前後進切替レバー310の動作は、スムーズである。
【0107】
さらに、主変速切替の取出を行うための、主変速変速軸410aおよび主変速切替レバー支点部410dは、PTO変速部配置室122のほぼ直上に配置されている。
【0108】
主変速切替レバー410から主変速切替部400までの距離が小さいので、主変速切替レバー410へのチェンジ取出は効率ロス、部品点数および部品寸法誤差が小さく、操作性およびメンテナンス性が高い最短リンクによりセンターカバー130を介して最適な位置で行われる。
【0109】
かくして、走行ドライブシャフト軸602が貫通しているのみである、PTO変速部配置室122の上側のスペースが有効に活用された、廉価で簡素な構成が、実現される。
【0110】
(B)トランスミッションケース100の組立について、
図4を参照しながら、説明する。
【0111】
トランスミッションケース上方開放部131が前後進切替部配置室121、PTO変速部配置室122および主変速切替部配置室123の三室の上方に開口する構成が採用されており、チェンジメタルアッセンブリーとして機能するセンターカバー130を最後に落とし込むことで完了する組立工程は簡単に行うことができる。
【0112】
より具体的に説明すると、つぎの通りである。
【0113】
まず、ヘリカルギヤ701aおよび701bの間のチェンジギヤ間部品であるPTO変速ギヤ軸801およびPTO中間軸802などをトランスミッションケース上方開放部131から落とし込み、シャフト部であるPTO取出軸803をトランスミッションケース後方孔132から差し込む。
【0114】
その後にインプット軸200をトランスミッションケース上方開放部131から落とし込み、PTO系のギヤ組付が終われば、主変速切替部400の配置などをさらに行って組立を完了する。
【0115】
すなわち、ギヤ組付が終わった主変速切替ギヤ軸603および主変速切替随伴ギヤ軸605などをトランスミッションケース上方開放部131から落とし込み、ベアリングメタル壁114を後付けにし、サブASSY(アッセンブリー)組付による組立を行う。
【0116】
組立を行うときにはセンターカバー130を取り外すので、トランスミッションケース上方開放部131の後部から主変速切替部配置室123に主変速切替部400を容易に配置することができる。
【0117】
なお、前後進切替シフター310cを有する前後進切替フォーク320は、センターカバー130と一体ではないので、あらかじめトランスミッションケース100内部に配置しておく必要があるが、シフターステー410bおよび410cを有する主変速切替フォーク420は、センターカバー130と一体であるので、あらかじめトランスミッションケース100内部に配置しておく必要がなく、センターカバー130を最後に落とし込むときに同時に配置する。
【0118】
(C)左ブレーキペダル25および右ブレーキペダル26、ならびにクラッチペダル24に関連する構成について、
図2、4および8を主として参照しながら、説明する。
【0119】
ここに、
図8は、本発明における実施の形態のトラクターの運転席20近傍の上面図である。
【0120】
四輪駆動における前輪11への伝動を行うための前輪伝動シャフト611は、フロントミッションケース101の下面からトランスミッションケース100外部に取出される(
図2および4参照)。
【0121】
より具体的には、前輪伝動シャフト611は、トランスミッションケース分割面αに近い、フロントミッションケース101の下面のかなり後側にある取出箇所から外部に取出される。
【0122】
運転席20のフロア23の左側には、前述されたように、クラッチペダル24が設けられている(
図3参照)が、運転席20のフロア23の右側には左ブレーキペダル25、右ブレーキペダル26およびアクセルペダル27が設けられている(
図8参照)。
【0123】
そして、前輪伝動シャフト611が外部に取出される同取出箇所のほぼ直上には、左ブレーキペダル25および右ブレーキペダル26ならびにクラッチペダル24のペダル支点β(
図2および4参照)を収容するための、上側に窪んだ凹部が形成されている。
【0124】
外部に取出された前輪伝動シャフト611より上側にあるフロントミッションケース101の下面と、リアミッションケース102の下面と、の間の高低差δが確保される部分は、かなり大きい(
図2および4参照)。
【0125】
すなわち、前輪伝動シャフト611の、外部に取出されている部分の長さが大きいので、フロントミッションケース101の下面の圃場面からの高さが全体的に大きくなる。
【0126】
このため、タイ王国などの湿田においても、水底と、ペダル支点βおよびフロントミッションケース101の下面と、の間の干渉が懸念される恐れはほとんどない。
【0127】
もちろん、前輪伝動シャフト611がフロントミッションケース101からではなくリアミッションケース102から外部に取出される場合に利用される、前輪伝動シャフト取出用の高価なギヤボックスは不要であり、構成が簡素化され、低価格化が促進される。
【0128】
さらに、前輪伝動シャフト611は、前述されたように、かなり後側にある取出箇所から外部に取出されるので、ペダル支点βに対するペダルアーム長が十分に確保される。
【0129】
したがって、左ブレーキペダル25および右ブレーキペダル26ならびにクラッチペダル24の動作はスムーズであって、それらの操作性は高い。
【0130】
かくして、PTO中間軸802が貫通しているのみである、主変速切替部配置室123の下側のスペースが有効に活用された、廉価で簡素な構成が、実現される。
【0131】
(D)PTO変速レバー710に関連する構成について、
図3、8および9を主として参照しながら、説明する。
【0132】
ここに、
図9は、本発明における実施の形態のトラクターのPTO変速レバー710近傍の背面図である。
【0133】
PTO変速レバー710は、フロア23の右側からの乗降時に障害となりにくいように、左レバーガイド1210の、前後方向についてほぼ中央のPTO変速レバー取出口712(
図8参照)に配置されており、PTO変速部700(
図2参照)からPTO変速レバー710へのリンクはPTOリンクバー711(
図3参照)を介して最適な位置で行われる。
【0134】
そして、その使用頻度がPTO変速レバー710の使用頻度よりも高い副変速切替レバー510は、運転席20により近い、左レバーガイド1210の、前後方向についてPTO変速レバー取出口712よりも前側の副変速切替レバー取出口511(
図8参照)に配置されている。
【0135】
そこで、副変速切替レバー510のレバー支点とは異なるレバー支点を確保するために、左右両輪の差動装置であるデファレンシャルギアをロックするためのデフロックレバー1100(
図8参照)のレバー支点γが、PTO変速レバー710のレバー支点としても利用されている。
【0136】
レバー支点γは、リアミッションケース102内部の、PTO変速レバー710のレバー支点として適切な位置にあり、新たに必要になる支点部品はない。
【0137】
さらに、副変速切替レバー510の操作位置は前側から順番に低副変速位置、中立位置および高副変速位置であるが、PTO変速レバー710の操作位置は前側から順番に540rpm(revolution per minute)対応位置、中立位置および750rpm対応位置である。
【0138】
このため、省エネルギー化への取り組みが顕著であり、2000rpmのエンジン回転数が利用されることが多い国内外の地域などにおいても、前側の副変速切替レバー510と、使用頻度が極めて高い750rpm対応位置にある後側のPTO変速レバー710と、の間の干渉が懸念される恐れはほとんどない。
【0139】
かくして、操作性が高い、廉価で簡素な構成が、実現される。
【0140】
(E)PTO取出軸803に関連する構成について、
図10を主として参照しながら、説明する。
【0141】
ここに、
図10(a)は本発明における別の実施の形態のトラクターのトランスミッションケース後方孔132近傍の断面図であり、
図10(b)は本発明における別の実施の形態のトラクターのトランスミッションケース後方孔132近傍の一部分Ωの模式的な断面図である。
【0142】
シャフト部であるPTO取出軸803がリアミッションケース102から外部に取出されるトランスミッションケース後方孔132では、グリースなどのオイルが内部から漏出したり、泥水が外部から浸入したりする恐れがある。
【0143】
そこで、折り曲げられた外周部がリアミッションケース102の凹部に挿入された、ラビリンス構成をもつ板金などのラビリンスシールカバー803aを利用してシール性を確保することが望ましい。
【0144】
もちろん、ラビリンスシールカバー803aの外側とリアミッションケース102との間の隙間の大きさδAおよびδBは、外部とリアミッションケース102との間での連通が生じる原因とならないように、ほぼゼロであることが望ましい。
【0145】
しかしながら、ラビリンスシールカバー803aの内側とリアミッションケース102との間の隙間の大きさδCおよびδDは、ラビリンスシールカバー803aとリアミッションケース102との間での干渉が生じる原因とならないように、ある程度は大きいことが望ましい。
【0146】
したがって、たとえば、δAおよびδBがδCおよびδDよりも十分に小さい寸法設計を採用することが、考えられる。
【0147】
かくして、シールゴム803b以外のシール部材としてはラビリンスシールカバー803aが利用されるのみではあるが、シール性は十分に確保された、廉価で簡素な構成が、実現される。
【0148】
なお、前述されたシール性はメタルカバー803cを通常のシールカバー803dと併用することにより確保されてもよい(
図2参照)が、メタルカバー803cは比較的に高価である。