(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記駆動信号は、送信データ信号をデジタル信号処理することにより生成され、前記駆動信号の振幅は、前記デジタル信号処理された前記送信データ信号の信号波形に応じた可変振幅である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の光送信機。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、あくまでも例示であり、以下に明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。なお、以下の実施形態で用いる図面において、同一符号を付した部分は、特に断らない限り、同一若しくは同様の部分を表す。
【0014】
(一実施形態)
図1は、一実施形態に係る光送受信機の構成例を示すブロック図である。
図1に示す光送受信機1は、例示的に、局発用光源2、受信フロントエンド3、信号処理回路4、接続コネクタ5、送信用光源6、変調器ドライバ7、光変調器8、制御部9、及び、電源部10を備える。
【0015】
局発用光源2は、受信フロントエンド3での受信信号光に混合されて光検波を行なうための局発光を発生する。局発用光源2には、例示的に、レーザダイオード(LD)を用いることができる。
【0016】
受信フロントエンド3は、光ファイバ等を用いた光伝送路から受信した信号光と局発用光源2からの局発光とを混合して光検波を行ない、光検波により得られた光を光電変換することにより、受信信号光を電気信号に変換する。受信フロントエンド3には、例示的に、偏波ビームスプリッタ(PBS)、光(90°)ハイブリッド、フォトダイオード(PD)等の受光器、トランスインピーダンスアンプ(TIA)、AD変換器(ADC)等が含まれてよい。
【0017】
信号処理回路4は、例示的に、受信フロントエンド3から入力される電気信号について受信に適したデジタル信号処理(受信処理)を行なう。受信処理には、偏波分離、波長分散、偏波モード分散補償、復調処理、誤り訂正復号処理等が含まれてよい。また、信号処理回路4は、例示的に、送信に適したデジタル信号処理(送信処理)を行なう。送信処理には、例示的に、送信フレームに応じた電気信号の多重化、分散予等化や後述のナイキストフィルタリング等が含まれてよい。なお、信号処理回路4は、LSIやDSP等の演算能力を備えたプロセッサを用いて実現してよい。
【0018】
接続コネクタ5は、例示的に、光送受信機1の外部機器との間で電気信号を送受信するインタフェースを提供する。
【0019】
送信用光源(以下、単に「光源」と称することがある。)6は、送信用の光を発生する。送信用光源6には、レーザダイオード等の半導体レーザを用いてよい。
【0020】
変調器ドライバ7は、信号処理回路4から与えられる駆動制御信号に応じた光変調器8の駆動信号を生成する。
【0021】
光変調器8は、光源6から入力される光を変調器ドライバ7から与えられる駆動信号によって変調する。伝送速度が10Gbps以上の高速伝送用の光送受信機1においては、光変調器8には、例示的に、マッハツェンダ(MZ)光変調器を適用してよい。
【0022】
光変調方式には、例示的に、光変調器8の駆動信号(駆動電圧)対光強度特性の山、谷、山を用いる2×Vπの振幅をもつ駆動信号によって光源6からの連続光を変調する方式を適用可能である。そのような光変調方式の一例としては、CS−RZ変調方式や、光デュオバイナリ変調方式、差動位相偏移変調(DPSK)方式、4位相偏移変調(QPSK)方式、差動4位相偏移変調(DQPSK)方式等が挙げられる。
【0023】
制御部9は、光送受信機1の動作を制御する。当該制御には、受信フロントエンド3、変調器ドライバ7、及び、光変調器8等の動作状態を制御することが含まれてよい。
【0024】
電源部10は、光送受信機1の動作に適した電圧を発生して電源供給が必要な各部に供給する。
【0025】
なお、
図1において、点線枠11で示した、変調器ドライバ7、光変調器8及び制御部9を含むブロックは、光送信部の一例を成す。光送信部11は、光送信機11と称してもよい。
【0026】
次に、
図2に、光送信部11に着目した光送受信機1の構成例を示す。
図2に示す光送信部11は、光変調器8の一例としてのMZ光変調器と、モニタ部9Aと、制御部9Bと、を備える。モニタ部9Aには、例示的に、後述する光検出部87と、平均光強度モニタ91と、光強度交流成分モニタ92と、が含まれてよい。
【0027】
MZ光変調器8は、例示的に、分岐点aで分岐され、且つ、合流点bで合流する2つの光導波路81及び82と、各光導波路81及び82のそれぞれに設けられた、駆動電極83及び84並びにバイアス制御電極85及び86と、光検出部87と、を備える。
【0028】
分岐点aには、例えば光スプリッタが備えられる。また、合流点bには、例えば光コンバイナが備えられる。
【0029】
駆動電極83及び84のそれぞれには、変調器ドライバ7から駆動信号が与えられる。駆動信号は、例示的に、信号処理回路4で生成された送信データ信号に応じて変調器ドライバ7によって生成される電圧信号である。2つの駆動信号の一方は他方に対して極性が反転した信号である。
【0030】
このような駆動信号を駆動電極83及び84を与えることによって、各光導波路81及び82を伝搬する光の位相が制御される。したがって、2つの光導波路81及び82を伝搬する光の合流点bでの光干渉状態が制御され、当該光干渉状態に応じて光位相が変化する変調光が得られる。
【0031】
バイアス制御電極85及び86のそれぞれには、バイアス制御部93からMZ光変調器8のバイアス電圧(別言すると、動作点)を制御するための制御電圧が与えられる。駆動電極83及び84に与えられる駆動信号に対してMZ光変調器8の動作点を適切な状態に設定することで、送信信号光の品質を向上できる。
【0032】
例えば、送信データ信号の振幅中心が、MZ光変調器8の駆動電圧対光強度特性の、光強度が最小となる位置になるようにMZ光変調器8のバイアス電圧を制御するとよい。バイアス電圧の制御は、バイアス制御部93によって行なわれる。バイアス制御部93によるバイアス電圧制御例については後述する。
【0033】
光検出部87は、MZ光変調器8の出力光の一部を検出光(あるいはモニタ光)として受光し、その受光パワーに応じた電気信号(以下「モニタ信号」あるいは「検出信号」と称することがある。)を生成する。光検出部87には、例示的に、フォトダイオード(PD)等の受光素子や、当該受光素子から出力される受光パワーに応じた電流を電圧に変換する増幅器(例えば、TIA等)が含まれてよい。
【0034】
なお、MZ光変調器8の出力光の一部を分岐して光検出部87に入力する構造は特に問わない。例示的に、光カプラ等の光分岐部を用いてMZ光変調器8の出力光の一部を分岐して光検出部87に入力するようにしてよい。モニタ信号は、例示的に、平均光強度モニタ91及び光強度交流成分モニタ92に入力される。
【0035】
平均光強度モニタ91は、光検出部87から入力されるモニタ信号(例えば、電圧)の平均値(別言すると、MZ光変調器8の出力光強度の平均値)を検出する。平均光強度モニタ91には、例示的に、電気アンプを用いてよい。平均光強度モニタ91は、第1のモニタの一例であり、電圧をモニタするから「電圧モニタ」と称してもよい。
【0036】
光強度交流成分モニタ92は、光検出部87から入力されるモニタ信号に含まれる交流成分を検出する。例示的に、光強度交流成分モニタ92は、交流成分の二乗平均値(別言すると、電力)を検出する。光強度交流成分モニタ92は、第2のモニタの一例であり、電力をモニタするから「電力モニタ」と称してもよい。
【0037】
光強度交流成分モニタ92には、非限定的な一例として、RMS−DCコンバータを用いてよい。RMSは、交流実効値(root mean square value)の略称であり、DCは直流電圧を意味する。したがって、RMS−DCコンバータは、光検出部87から入力されるモニタ信号に含まれる交流成分電力を直流電圧に変換する。RMS−DCコンバータの一例としては、アナログデバイセズ社やリニアテクノロジー社等から市販されているものが挙げられる。
【0038】
モニタ部9Aは、光検出部87及び各モニタ91及び92を備えることで、MZ光変調器8の出力光である変調光の強度の平均値と交流成分とを検出(モニタ)することが可能である。モニタ部9Aをこのように構成することで、MZ光変調器8の出力光である変調光の強度の平均値と交流成分とを確実に検出することが可能である。
【0039】
バイアス制御部93は、駆動振幅に応じて、各モニタ91及び92のモニタ(検出)結果の一方を選択的に用いて、バイアス制御電極85及び86に与えるバイアス電圧を制御し、バイアス電圧をMZ光変調器8の動作点が最適点となるように最適化する。
【0040】
なお、制御部9Bに含まれるバイアス制御部93(あるいは、
図16、
図19、
図26にて後述するバイアス制御部93A又は93B)は、モニタ部9Aとともに、光変調器8の(バイアスを制御する)制御装置の一例を成す。モニタ部9A及び制御部9Bは、
図2に例示した制御部9に含まれると捉えてよい。
【0041】
ここで、平均光強度モニタ91でのモニタ結果に基づくバイアス電圧制御の一例について、
図3及び
図4を参照して説明する。
【0042】
MZ光変調器8の駆動信号に、低周波発振器等を用いて微小振幅の低周波信号を重畳したとする。低周波信号は、駆動信号の周波数よりも十分に低い周波数の信号であり、例示的に、駆動信号の周波数がギガヘルツ(GHz)オーダであるのに対し、低周波信号の周波数はキロヘルツ(kHz)オーダである。以下、低周波信号の周波数成分をf0成分と表す。
【0043】
駆動信号に低周波信号を重畳すると、MZ光変調器8から出力される変調光信号には、f0成分が含まれる。このf0成分がゼロに近づくようにMZ光変調器8のバイアス電圧をフィードバック制御することで、MZ光変調器8の動作点を最適化することができる。
【0044】
図3及び
図4はMZ光変調器8に与えられる駆動信号とMZ光変調器8の動作点との関係の一例を示す図であり、MZ光変調器8の出力においてf0成分がどのように観測されるかを説明する図である。ただし、駆動信号の振幅(以下「駆動振幅」と称することがある。)は、半波長電圧Vπの2倍(2×Vπ)としている。
【0045】
半波長電圧Vπは、MZ光変調器8の位相をπだけ変化させることのできる電圧幅に相当する。別言すると、半波長電圧Vπは、MZ光変調器8の駆動振幅(駆動電圧)対光出力特性における光出力が最大から最小になるまでの電圧幅に相当する。駆動電圧を2×Vπに設定すると、MZ光変調器8の出力光強度を最大にすることが可能である。
【0046】
図3には、バイアス電圧(動作点)が最適値からずれている場合を例示し、
図4には、バイアス電圧(動作点)が最適値になっている場合を例示している。
図3及び
図4に例示するように、駆動信号にf0成分が重畳されると、駆動振幅の低電圧側の包絡線ENV1及び高電圧側の包絡線ENV2のそれぞれが周波数f0で変動する。
【0047】
そして、
図3に例示するように、バイアス電圧(動作点)が最適値からΔVだけずれている場合、駆動振幅の包絡線ENV1及びENV2の周期的な振幅変化に応じてMZ光変調器8の出力光強度が変化(増減)する。
【0048】
例えば、
図3において、包絡線ENV1及びENV2の振幅が山となる時刻tAでのMZ光変調器8の出力光強度がPAであるとすると、その後に包絡線ENV1及びENV2の振幅が谷となる時刻tBでのMZ光変調器8の出力光強度はPBに増加する。以降、包絡線ENV1及びENV2の振幅変化に応じて、MZ光変調器8の出力光強度はPA及びPBとの間を増減する。したがって、時間に対するMZ光変調器8の出力光強度の変化は
図3の右端に例示するようになり、MZ光変調器8の出力光にf0成分が現れる。
【0049】
これに対し、バイアス電圧(動作点)が最適値になっている場合には、
図4に例示するように、MZ光変調器8の出力光には、f0成分は現れず、f0成分の2倍の成分である2×f0成分が現れる。すなわち、
図3の場合と同じ時刻tAと時刻tBとの間に着目すると、包絡線ENV1及びENV2の振幅が山から谷に変化する際に、MZ光変調器8の出力光強度は最大値を2回とるように変動する。したがって、時間に対するMZ光変調器8の出力光強度の変化は
図4の右端に例示するようになり、MZ光変調器8の出力光に2×f0成分が現れる。
【0050】
このように、MZ光変調器8の出力光に現れるf0成分はバイアス電圧の最適値からのずれ(以下「バイアスずれ」と称することがある。)の量に応じて変化する。そのため、f0成分が最小になるようにバイアス電圧を制御すると、バイアス電圧を最適値へ制御することが可能となる。
【0051】
次に、MZ光変調器8の駆動信号の平均的な振幅(平均駆動振幅)を2×Vπよりも小さくした場合に、バイアス電圧を最適値へ制御することが困難になる現象について、
図5及び
図6を参照して説明する。
【0052】
図5は、MZ光変調器8の駆動信号にf0成分を重畳し、かつ、平均駆動振幅を2Vπよりも小さくした場合(例えば、Vπ程度にした場合)の、MZ光変調器8の出力光強度変化の一例を示す図である。
【0053】
図5に例示するように、時刻tAでは、高電圧側の包絡線ENV2に対し出力光強度が増加し、低電圧側の包絡線ENV1に対し出力光強度が減少する。その後の時刻tBでは、高電圧側の包絡線ENV2に対し出力光強度が減少し、低電圧側の包絡線ENV1に対し出力光強度が増加する。
【0054】
つまり、いずれの場合も、MZ光変調器8の出力光強度の変化が相殺されるように作用する。そのため、平均駆動振幅が2×Vπよりも小さい場合は、駆動信号に対するf0成分の重畳により得られる出力光強度の変化は、平均駆動振幅が2×Vπの場合よりも小さくなる。別言すると、出力光強度変化の検出感度が低下する。なお、以下「平均駆動振幅」を単に「駆動振幅」と称する。
【0055】
図6は、駆動振幅をパラメータとして、バイアス電圧とMZ光変調器8の出力光強度との関係を計算により求めた図である。
図6において、グラフ(特性)A〜Eは、それぞれ、駆動振幅を2×Vπ、1.43×Vπ、1×Vπ、0.57×Vπ、0×Vπに設定した場合の、バイアス電圧とMZ光変調器8の出力光強度との関係を例示している。ただし、バイアス電圧(V)はVπで正規化されている。
【0056】
駆動振幅を2×Vπに設定した場合(例えば、
図3及び
図4に例示した場合)の特性Aに着目すると、バイアス電圧Vを0から増加させるにつれてMZ光変調器8の出力光強度も増加し、V=Vπにおいて最大値となる。更にバイアス電圧Vを増加させると、MZ光変調器8の出力光強度は減少してゆく。
【0057】
駆動信号に微小振幅の低周波信号を重畳することは、バイアス電圧に微小振幅の低周波成分を重畳することと等価であり、変曲点であるVπでは出力光強度変化が最小になる。そのため、
図3及び
図4により説明したように、駆動信号に対するf0成分の重畳による出力光強度変化を観測することで、バイアス制御が可能となる。
【0058】
これに対し、駆動振幅Vを2×Vπよりも小さいVπへ低下させてゆくと、
図5により説明したように、駆動信号に対するf0成分の重畳により得られる出力光強度の変化が低下する(特性B及びC参照)。駆動振幅V=Vπの場合には、特性Cに例示するように、MZ光変調器8の出力光に現れるf0成分の変化が小さくなる現象が顕著に生じる。
【0059】
なお、駆動振幅VをVπよりも更に小さくしてゆくと、出力光強度は低下するものの、特性D及びEに例示するように、駆動信号に対するf0成分の重畳により得られる出力光強度の変化は、V=Vπの場合よりも再び大きくなる。つまり、出力光強度変化の検出感度が向上する。
【0060】
問題となるのは駆動振幅V=Vπの場合であり、バイアス電圧の変動に対するMZ光変調器8の出力光強度に変化が発生しないか、あるいは、微小なため、
図2に例示した平均光強度モニタ91においてバイアス電圧制御の基となるモニタ結果が実質的に得られない。その結果、バイアス制御部93は、バイアス電圧制御が困難になるか実質的に不能になる。
【0061】
そこで、本実施形態では、バイアス制御部93において光強度交流成分モニタ92でのモニタ結果を補完的に用いることで、駆動振幅Vが2×Vπよりも小さい場合であっても、バイアス電圧制御を適切に行なえるようにする。
【0062】
図7〜
図10を用いて両モニタ91及び92の動作を説明する。
図7(A)及び
図7(B)は、それぞれ、MZ光変調器8の駆動振幅を2×Vπとした時の駆動信号とMZ光変調器8の動作点との関係の一例を示す図である。
図7(A)は、バイアス電圧が最適値にある場合、
図7(B)は、バイアス電圧が最適値からずれている場合をそれぞれ例示している。なお、説明を容易にするために、駆動信号は「1010・・・」の交番信号とし、モニタ可能な帯域は、十分広帯域であると仮定する。
【0063】
図7(A)に例示するように、バイアス電圧が最適値にある場合、駆動振幅2×Vπの中心に対して高電圧側と低電圧側とでMZ光変調器8の出力光強度は同じ変動を示す。一方、
図7(B)に例示するように、バイアス電圧が最適値からずれた場合でも、駆動振幅2×Vπの中心に対して高電圧側と低電圧側とでMZ光変調器8の出力光強度は同じ変動を示す。
【0064】
したがって、
図7(A)及び
図7(B)に例示するように、バイアス電圧が最適値にある場合とバイアス電圧が最適値からずれた場合とで、MZ光変調器8から出力される光の平均的な強度に変わりない。つまり、MZ光変調器8から時間軸において平均的に出力される光強度は一定である。
【0065】
これに対し、駆動振幅を例えばVπ(<2×Vπ)とした場合、
図8(A)及び
図8(B)に例示するように、バイアス電圧が最適値にある場合とバイアス電圧が最適値からずれた場合とで、MZ光変調器8から出力される光の強度には時間的に変動が生じる。
【0066】
例えば
図8(A)に例示するように、バイアス電圧が最適値にある場合、駆動振幅Vπの中心に対して高電圧側と低電圧側とでMZ光変調器8の出力光強度は同じ変動を示すから、MZ光変調器8から時間軸において平均的に出力される光強度は一定である。
【0067】
一方、
図8(B)に例示するように、バイアス電圧が最適値からずれた場合、駆動振幅Vπの中心に対して高電圧側と低電圧側とでMZ光変調器8の出力光強度は異なる変動を示すから、MZ光変調器8の出力光強度は、時間軸において変動する。
【0068】
しかしながら、
図8(B)に例示する場合でも、出力光強度の変動は上下に同量であるため、平均的な出力光強度は、
図8(A)に例示する場合と変わらない。したがって、平均光強度モニタ91の検出結果には、バイアス電圧がどのような状態にあっても変化が生じない。このことは、
図6に例示した結果(特性C)と一致する。
【0069】
一方、
図8(A)に例示する場合、MZ光変調器8の出力光を電気信号に変換した信号は直流となるが、
図8(B)に例示する場合、MZ光変調器8の出力光を電気信号に変換した信号には、出力光強度の変動に応じた交流成分が現れる。
【0070】
したがって、光強度交流成分モニタ92を用いて当該交流成分を検出することで、バイアスずれ(バイアス電圧が最適値からどの程度外れているか)を検出することが可能となる。なお、説明を簡単にするために、駆動信号は、「1010・・・」の交番信号とし、モニタ可能な帯域は、十分広帯域であると仮定したが、実際には駆動信号は単純な繰り返し信号ではなく、モニタ可能な帯域にも制限がある。
【0071】
実際の駆動信号に対応したMZ光変調器8の出力光は例えば
図9(A)及び
図9(B)に例示するようになる。なお、
図9(A)は、例えば
図8(A)の場合(駆動振幅がVπでバイアス電圧が最適値の場合)のMZ光変調器8の時間に対する出力光強度の変動を例示している。これに対し、
図9(B)は、例えば
図8(B)の場合(駆動振幅がVπでバイアス電圧が最適値からずれている場合)のMZ光変調器8の時間に対する出力光強度の変動を例示している。
【0072】
図9(B)に例示するように、実際の駆動信号には同符号が連続する部分が含まれるため、低周波成分が発生するようになり、そのため、モニタ可能な帯域に制限があっても交流成分を確実に検出することが可能となる。
【0073】
図10及び
図11に、駆動振幅をパラメータとし、光強度交流成分の変化と駆動振幅のとの関係を計算により求めた図を例示する。
図10には、駆動振幅VがV=2×Vπ、1.43×Vπ、及び、1×Vπの時それぞれの関係(特性A〜C)を例示している。
図11には、駆動振幅VがV=1×Vπ、0.57×Vπ、及び、0×Vπの時それぞれの関係(特性C〜E)を例示している。
【0074】
図10に例示するように、光強度交流成分は駆動振幅V=2×Vπから減少するにつれて増加し、駆動振幅V=Vπにおいて最大となる。また、
図11に例示するように、駆動振幅V=Vπから更に小さくなると光強度交流成分は減少するようになる。この挙動は
図6に例示した平均光強度モニタの挙動と逆である。
【0075】
図12(A)に、平均光強度モニタ値についての駆動振幅に対する変化量の関係の一例を示し、
図12(B)に、光強度交流成分モニタ値についての駆動振幅に対する変化量の関係の一例を示す。
【0076】
図12(A)に例示するように、駆動振幅がVπの時に変化量(別言すると、検出感度)が最小となり(
図6の特性C参照)、平均光強度モニタ91では光強度変化を検出することが困難であるか実質的に不可能となる。これに対し、
図12(B)に例示するように、光強度交流成分の変化量は、逆に、駆動振幅がVπの時に最大となる。
【0077】
以上から、駆動振幅がVπの場合、平均光強度モニタ91に代えて光強度交流成分モニタ92によって光強度交流成分を検出することで、バイアスずれに応じた光強度交流成分の変化が検出可能になり、バイアス電圧の制御が可能になる。
【0078】
別言すると、駆動振幅に対して平均光強度と光強度交流成分とでモニタ感度が相補的に増減するため、平均光強度モニタ91と光強度交流成分モニタ92とを相互補完的に用いる。これにより、駆動振幅の状態に依存せずに、バイアスずれを検出することが可能になり、駆動振幅の状態に依存しないバイアス制御が可能となる。
【0079】
次に、
図13に例示するフローチャートを参照して、
図2に例示したバイアス制御部93による制御について説明する。
【0080】
バイアス制御部93は、駆動振幅の値に応じてバイアス制御に平均光強度モニタ91の検出結果を用いるか、光強度交流成分モニタの検出結果を用いるかを切り替える。ここで、駆動振幅Vdに対して、2つの電圧閾値(以下、単に「閾値」と称する。)Vd1及びVd2を設定する。ただし、Vd1>Vπ>Vd2である。
【0081】
非限定的な一例として、Vd1=1.5×Vπ、Vd2=0.5×Vπである。この場合、
図12(A)及び
図12(B)において、閾値Vd1及びVd2は、Vπで正規化された横軸の1.5及び0.5に対応する値になる。閾値Vd1及びVd2は、例示的に、制御部9Bに備えられたメモリ等の記憶部(図示省略)に記憶される。
【0082】
バイアス制御部93は、駆動振幅Vdが、Vd≧Vd1であるか、Vd1>VdかつVd≧Vd2であるか、Vd<Vd2であるかをそれぞれ監視(判定)する(処理P11〜P13)。
【0083】
駆動振幅VdがVd≧Vd1である場合(処理P11でYesの場合)、バイアス制御部93は、平均光強度モニタ91の検出結果を用いてバイアス制御を行なう。平均光強度モニタ91の検出結果に基づくバイアス制御は、第1のバイアス制御の一例である。例えば、バイアス制御部93は、平均光強度モニタ91の検出結果(別言すると、MZ光変調器8の平均出力光強度)が最大となるように、バイアス制御電極85及び86(
図2参照)に与えるバイアス電圧を制御する(処理P14)。
【0084】
駆動振幅VdがVπをまたぐ状態の場合、すなわち、Vd1>Vdであり、かつ、Vd≧Vd2の場合(処理P11でNoかつ処理P12でYesの場合)、バイアス制御部93は、光強度交流成分モニタ92の検出結果を用いてバイアス制御を行なう。光強度交流成分モニタ92の検出結果に基づくバイアス制御は、第2のバイアス制御の一例である。例えば、バイアス制御部93は、光強度交流成分が最小となるように、バイアス制御電極85及び86に与えるバイアス電圧を制御する(処理P15)。
【0085】
駆動振幅VdがVd2>Vdの場合(処理P11及びP12でNoかつ処理P13でYesの場合)、バイアス制御部93は、平均光強度モニタ91の検出結果を用いてバイアス制御を行なう。ここで、
図6及び
図12(A)から分かるように、駆動振幅の変化に対する変化の傾斜がVπを境に反転するため、駆動振幅VdがVd2>Vdの場合、Vd≧Vd1の場合に対してバイアス制御の方向を反転する。例えば、バイアス制御部93は、平均光強度モニタ91の検出結果が最小となるように、バイアス制御電極85及び86に与えるバイアス電圧を制御する(処理P16)。
【0086】
なお、処理P13でNoの場合、すなわち、駆動振幅Vdが上述した3つの条件のいずれも満たさない場合、バイアス制御部93は、バイアス制御は行なわずに3つの条件の監視を継続する。ただし、この場合には、エラー情報をバイアス制御部93から外部機器等へ通知する等のエラー処理を実施しても構わない。
【0087】
上述した動作例から分かるように、制御部9Bは、駆動振幅に応じて、平均光強度モニタ91の検出結果に基づく第1のバイアス制御と、光強度交流成分モニタ92の検出結果に基づく第2のバイアス制御と、のいずれかを選択する機能を具備している。「選択」は、「切り替え」と称してもよい。
【0088】
このように、平均光強度モニタ91と光強度交流成分モニタ92とを相互補完的に用いることで、駆動振幅に依存せずに、バイアスずれを検出することが可能になり、駆動振幅に依存しないバイアス制御が可能となる。
【0089】
したがって、例えば、信号処理した送信信号波形に応じてMZ光変調器8の駆動振幅が2×Vπよりも小さくなる場合でも、MZ光変調器8のバイアス電圧を最適化することができる。その結果、MZ光変調器8の出力光強度が最大になるように調整可能になり、また、光送信機11の性能(例えば、送信信号光の品質)を向上することが可能となる。
【0090】
(第1実施例)
図14は、第1実施例に係る光送信機11の構成例を示すブロック図である。
図14に示す光送信機11は、例示的に、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)用の光送信機である。そのため、光送信機11は、例示的に、MZ光変調器8として、Iアーム及びQアームをそれぞれ成す光導波路80A及び80Bを含むLN変調器(以下「QPSK変調器」とも称する。)を備える。なお、
図14において、既述の符号と同一符号を付した部分は、特に断らない限り、既述の部分と同一若しくは同様の部分を表す。
【0091】
図14に例示するQPSK変調器8において、A点はIアーム80A及びQアーム80Bの分岐点を示し、B点はIアーム80A及びQアーム80Bの合流点を示す。分岐点Aには、例えば光スプリッタが備えられる。また、合流点Bには、例えば光コンバイナが備えられる。
【0092】
Iアーム80A及びQアーム80Bのそれぞれには、光源6から出力された送信光(連続光)が分岐点Aで2分岐されて導入され、Iアーム80A及びQアーム80Bをそれぞれ伝搬した送信光は、合流点Bで合流して出力される。
【0093】
Iアーム80A及びQアーム80Bのそれぞれには、
図2に例示したように、分岐点aで分岐され、且つ、合流点bで合流する2つの光導波路81及び82が設けられる。分岐点aには、例えば光スプリッタが備えられる。また、合流点bには、例えば光コンバイナが備えられる。なお、各光導波路81及び82のそれぞれには、
図2に例示した駆動電極83及び84とバイアス制御電極85及び86とが設けられるが、
図14では図示を省略している。
【0094】
Iアーム80Aを伝搬する連続光は、Iデータ信号を基に変調器ドライバ7Aによって生成された駆動信号が駆動電極83及び84に与えられることによって、Iデータ信号に応じて変調される。このように、Iアーム80Aにおいて、Iデータ信号で連続光が変調されることによって、Iアーム変調信号光が生成される。
【0095】
同様に、Qアーム80Bを伝搬する連続光は、Qデータ信号を基に変調器ドライバ7Bによって生成された駆動信号が駆動電極83及び84に与えられることによって、Qデータ信号に応じて変調される。このように、Qアーム80Bにおいて、Qデータ信号で連続光が変調されることによって、Qアーム変調信号光が生成される。
【0096】
別言すると、Iアーム80Aを成す光導波路81及び82は、Iアーム変調信号光を生成する第1の変調器の一例であり、Qアーム80Bを成す光導波路81及び82は、Qアーム変調信号光を生成する第2の変調器の一例である。以下、便宜的に、Iアーム80Aを第1の変調器80Aと表記し、Qアーム80Bを第2の変調器80Bと表記することがある。
【0097】
なお、Iデータ信号及びQデータ信号は、それぞれ、送信データ信号の複素平面(IQ平面)における同相成分(I)及び直交成分(Q)に対応し、例示的に、信号処理回路4において生成される。
【0098】
また、Iアーム80A及びQアーム80Bの一方(
図14の例ではQアーム80B)には、例示的に、合流点bの後段に位相シフタ88が備えられる。位相シフタ88は、Iアーム80A及びQアーム80Bを伝搬する光、すなわちIアーム変調信号光及びQアーム変調信号光に対してπ/2の位相差を与える。位相シフタ88が与える位相差は、例示的に、バイアス制御部93によって制御(調整)可能である。
【0099】
π/2の位相差をもつIアーム変調信号光及びQアーム変調信号光は、合流点B(光コンバイナ)にて合成される。これにより、QPSK変調光信号が生成される。
【0100】
上述したようなQPSK変調器8においては、バイアス制御部93によるバイアス制御の対象に、Iアーム80A及びQアーム80Bのそれぞれに設けられたバイアス制御電極85及び86と、位相シフタ88と、が含まれる。
【0101】
第1実施例のバイアス制御部93は、
図15に例示するように、時分割で順番に、第1の変調器80Aのバイアス制御(処理P21)と、第2の変調器80Bのバイアス制御(処理P22)と、位相シフタ88のバイアス制御(処理P23)と、を繰り返し実施してよい。なお、処理P21〜P23の順序は不問である。
【0102】
処理P21及びP22のバイアス制御では、それぞれ、
図13に例示した処理P11〜P16が実施される。すなわち、バイアス制御部93は、Iアーム80A及びQアーム80Bのそれぞれについて、駆動振幅Vdが、Vd≧Vd1であるか、Vd1>VdかつVd≧Vd2であるか、Vd<Vd2であるかを判定する(処理P11〜P13)。そして、バイアス制御部93は、その判定結果に応じて平均光強度モニタ91及び光強度交流成分モニタ92の検出結果を選択的に用いて
図13に例示したバイアス制御を実施する(処理P14〜P16)。
【0103】
処理P23の位相シフタ88のバイアス制御では、Iアーム変調信号光及びQアーム変調信号光の光強度が等しくなるように制御すればよいので、光強度交流成分モニタ92の検出結果用いて制御を行なえばよい。例えば、バイアス制御部93は、光強度交流成分モニタ92の検出結果が最小になるよう位相シフタ88のバイアスを制御する。
【0104】
なお、上述した例では、第1及び第2の変調器80A及び80Bに対するバイアス制御を時分割に実施しているが、並列に実施しても構わない。並列制御は、例示的に、光検出部87と各モニタ91及び92とをIアーム変調信号光及びQアーム変調信号光のそれぞれについて備えれば実現可能である。この点は、以下の第2〜第4実施例についても同様である。
【0105】
(第2実施例)
図16は、第2実施例に係る光送信機11の構成例を示すブロック図である。
図16に例示する光送信機11は、第1実施例と同様に、QPSK用の光送信機であり、
図14に例示した光検出部87の一例としてフォトダイオード(PD)を備える。
【0106】
PD87は、QPSK変調器8の出力光の一部を分岐した光を受光し、受光パワーに応じた電気信号(例えば、電流)を出力する。なお、QPSK変調器8の出力光の一部を分岐するには、分岐カプラ等の光分岐部を用いればよい。光分岐部は、
図16において図示を省略している。
【0107】
また、
図16に例示する光送信機11は、モニタ部9Aの一例として、
図14に例示した構成に比して、I/V変換部94、f0発生部95、バンドパスフィルタ(BPF)96A及び96B、並びに、同期検波部97を追加的に備える点が異なる。また、
図16に例示する光送信機11は、
図14に例示した構成に比して、制御部9Bの一例としてバイアス制御部93に代えてバイアス制御部93Aを備える点が異なる。
【0108】
モニタ部9Aにおいて、I/V変換部94は、PD87から出力される電流を電圧に変換する。I/V変換部94には、例示的に、TIAを用いることができる。変換により得られた電圧は、平均光強度モニタ91及び光強度交流成分モニタ92のそれぞれに入力される。
【0109】
f0発生部95は、周波数f0の低周波信号を発生する低周波信号源の一例であり、当該低周波信号は、バイアス制御部93A及び同期検波部97に入力される。バイアス制御部93Aに入力された低周波信号は、QPSK変調器8の駆動信号に重畳される。したがって、f0発生部95及びバイアス制御部93Aは、低周波重畳部の一例を成すと捉えてよい。同期検波部97に入力された低周波信号は、各モニタ91及び92の検出結果の同期検波に用いられる。
【0110】
BPF96Aは、平均光強度モニタ91の出力からf0成分以外の信号成分を除去し、f0成分を同期検波部97へ通過する。
【0111】
BPF96Bは、光強度交流成分モニタ92の出力からf0成分以外の信号成分を除去し、f0成分を同期検波部97へ通過する。
【0112】
同期検波部97は、f0発生部95から入力される低周波信号とBPF96A及び96Bから入力されるf0成分とを同期検波する。なお、平均光強度モニタ91は、検出した光強度の平均値を出力するが、f0成分が重畳した信号には応答できる程度の応答速度を有する。そのため、同期検波部97において同期検波が可能となる。一方、光強度交流成分モニタ92は、f0成分重畳時はバイアスずれにより引き起こされる交流成分がf0成分に応じた周期で変化する。そのため、同期検波部97において同期検波が可能となる。
【0113】
なお、PD87、I/V変換部94、f0発生部95、バンドパスフィルタ(BPF)96A及び96B、並びに、同期検波部97は、光変調器8の出力光強度の平均値と交流成分とを検出(モニタ)するモニタ部の一例を成す。モニタ部は、モニタ系と称してもよい。
【0114】
バイアス制御部93Aは、同期検波部97による同期検波によって抽出された、各モニタ91及び92の検出結果を示すf0成分のいずれかを選択的に用いて、QPSK変調器8の各アーム80A及び80Bと位相シフタ88とに対してバイアス制御を行なう。
【0115】
第2実施例のバイアス制御部93Aは、
図17に例示するように、時分割で順番に、Iアーム80Aのバイアス制御(処理P31)と、Qアーム80Bのバイアス制御(処理P32)と、位相シフタ88のバイアス制御(処理P33)と、を繰り返し実施してよい。なお、処理P31〜P33の順序は不問である。
【0116】
処理P31及びP32のバイアス制御では、それぞれ、
図18に例示する処理P41〜P46が実施される。すなわち、バイアス制御部93Aは、Iアーム80A及びQアーム80Bのそれぞれについて、駆動振幅Vdが、Vd≧Vd1であるか、Vd1>VdかつVd≧Vd2であるか、Vd<Vd2であるかを判定する(処理P41〜P43)。
【0117】
駆動振幅VdがVd≧Vd1である場合(処理P41でYesの場合)、バイアス制御部93Aは、平均光強度モニタ91の検出結果を同期検波部97で同期検波した結果を用いてバイアス制御を行なう。例えば、バイアス制御部93Aは、検波結果が最大となるように、バイアス制御電極85及び86(
図2参照)に与えるバイアス電圧を制御する(処理P44)。
【0118】
駆動振幅VdがVπをまたぐ状態の場合、すなわち、Vd1>Vdであり、かつ、Vd≧Vd2の場合(処理P41でNoかつ処理P42でYesの場合)、バイアス制御部93Aは、光強度交流成分モニタ92の検出結果を同期検波部97で同期検波した結果を用いてバイアス制御を行なう。例えば、バイアス制御部93Aは、検波結果が最小となるように、バイアス制御電極85及び86に与えるバイアス電圧を制御する(処理P45)。
【0119】
駆動振幅VdがVd2>Vdの場合(処理P41及びP42でNoかつ処理P43でYesの場合)、バイアス制御部93Aは、平均光強度モニタ91の検出結果を同期検波部97で同期検波した結果を用いてバイアス制御を行なう。
【0120】
ここで、第1実施例と同様、
図6及び
図12(A)から分かるように、駆動振幅の変化に対する変化の傾斜がVπを境に反転するため、駆動振幅VdがVd2>Vdの場合、Vd≧Vd1の場合に対してバイアス制御の方向を反転する。例えば、バイアス制御部93Aは、平均光強度モニタ91の検出結果を同期検波した結果が最小となるように、バイアス制御電極85及び86に与えるバイアス電圧を制御する(処理P46)。
【0121】
なお、処理P43でNoの場合、すなわち、駆動振幅Vdが上述した3つの条件のいずれも満たさない場合、バイアス制御部93Aは、バイアス制御は行なわずに3つの条件の監視を継続する。ただし、この場合には、エラー情報をバイアス制御部93Aから外部機器等へ通知する等のエラー処理を実施しても構わない。
【0122】
図17に例示する処理P33(位相シフタ88のバイアス制御)では、Iアーム変調信号光及びQアーム変調信号光の光強度が等しくなるように制御すればよいので、光強度交流成分モニタ92の検出結果を同期検波した結果を用いて制御を行なえばよい。例えば、バイアス制御部93Aは、光強度交流成分モニタ92の検出結果を同期検波部97で同期検波した結果が最小になるよう位相シフタ88のバイアスを制御する。
【0123】
以上のように、第2実施例によれば、QPSK変調器8に対して、既述の一実施形態及び第1実施例と同様の処理を適用可能なので、QPSK変調器8のバイアス制御を駆動振幅に依存しないで最適化することができる。
【0124】
また、第2実施例によれば、各モニタ91及び92の検出結果をBPF96A及び96によりフィルタリングして同期検波部97で同期検波するので、f0成分の検出精度を向上可能である。したがって、バイアス制御の精度を向上することが可能である。
【0125】
(第3実施例)
MZ光変調器8の初期(制御実施前)のバイアス状態は不定である。そのため、
図10及び
図11において、出力光強度の交流成分が最小になるように制御する際、初期のバイアス電圧Vdが0.5×Vπ<Vd<1.5×Vπの場合はバイアス電圧VdがVπとなるように制御される。
【0126】
しかし、初期のバイアス電圧VdがVd≦0.5×Vπの場合はバイアス電圧Vdが0×Vπに、初期のバイアス電圧VdがVd≧1.5×Vπの場合はバイアス電圧が2×Vπになるようにそれぞれ制御されるおそれがある。
【0127】
バイアス制御の収束点であるバイアス電圧目標値はVπであり、0×Vπおよび2×Vπにバイアス電圧Vdが収束する動作は回避したい。その対策を講じたのが、第3実施例である。
【0128】
図19は、第3実施例に係る光送信機11の構成例を示すブロック図である。
図19に例示する光送信機11は、第1及び第2実施例と同様に、QPSK用の光送信機であり、
図16に例示した構成に比して、制御部9Bにおいて、バイアス制御部93Bと、振幅制御部98と、を備える点が異なる。
【0129】
バイアス制御部93Bは、既述のバイアス制御部93及び93Aと同様の機能を具備するほか、振幅制御部98と連携して後述する逆相判定処理を実施する。
【0130】
振幅制御部98は、バイアス制御部93Bからの制御に応じ、f0発生部95で生成した低周波信号に応じて変調器ドライバ7A及び7Bの出力を制御する。これにより、QPSK変調器8のIアーム80A及びQアーム80Bに与えられる駆動信号にf0成分が重畳される。
【0131】
その動作を
図20〜
図24を用いて説明する。初期のバイアス電圧の状態が不定であるため、一例として、
図20に、初期のバイアス電圧がMZ光変調器8の駆動電圧対出力光強度特性の谷付近にある場合を例示する。また、
図21に、初期のバイアス電圧がMZ光変調器8の駆動電圧対出力光強度特性の山付近にある場合を例示する。
図20及び
図21は、いずれも駆動振幅に周波数f0の低周波信号を重畳したときの、MZ光変調器8の出力光強度の変化の様子を例示している。
【0132】
図20の場合、MZ光変調器8の出力光強度信号には駆動信号に低周波信号を重畳したことに伴ってf0成分が観測される。時刻tAに示すように駆動振幅が増加する場合は出力光強度も増加し、その後の時刻tBに示すように駆動振幅が減少する場合には出力光強度も減少する。別言すると、駆動信号に重畳した低周波信号と、検出される出力光信号の強度変化と、は同相の関係となる。
【0133】
これに対し、
図21の場合は、時刻tAに示すように駆動振幅が増加する場合は出力光強度が減少し、その後の時刻tBに示すように駆動振幅が減少する場合には出力光強度が増加する。別言すると、駆動信号に重畳した低周波信号と、検出される出力光信号の強度変化と、は逆相の関係となる。
【0134】
以上の関係を計算により示したものが
図22〜
図24である。
図22に例示するグラフ(特性)A〜Cは、それぞれ、バイアス電圧を0×Vπ、0.27×Vπ、0.5×Vπに設定した場合の、バイアス電圧とMZ光変調器8の出力光強度との関係を例示している。
【0135】
図23に例示するグラフ(特性)C〜Gは、それぞれ、バイアス電圧を0.5×Vπ、0.64×Vπ、1×Vπ、1.27×Vπ、1.5×Vπに設定した場合の、バイアス電圧とMZ光変調器8の出力光強度との関係を例示している。
【0136】
図24に例示するグラフ(特性)G〜Iは、それぞれ、バイアス電圧を1.5×Vπ、1.73×Vπ、2×Vπに設定した場合の、バイアス電圧とMZ光変調器8の出力光強度との関係を例示している。ただし、
図22〜
図24において、バイアス電圧(V)はVπで正規化されている。
【0137】
図22及び
図24に例示するように、バイアス電圧が0×Vπ〜0.5×Vπ(グラフA〜C)の場合、及び、バイアス電圧が1.5×Vπ〜2×Vπ(グラフG〜I)の場合は、いずれも駆動振幅が増加すると出力光強度は減少する。
【0138】
これに対し、
図23に例示するように、バイアス電圧が0.5×Vπから1.5×Vπ(グラフC〜G)の場合は、駆動振幅が増加すると出力光強度も増加する。別言すると、駆動振幅に低周波信号を重畳して同期検波すると、
図22及び
図24の場合は逆相となり、
図23の場合は同相となる。
【0139】
このような関係を用いることで、バイアス電圧が0×Vπ及び2×Vπに収束する動作を回避することができる。例えば、バイアス制御部93Bは、
図22及び
図24の場合(逆相の場合)には、バイアス電圧に所定の電圧(例えば、Vπ)を加算することで、バイアス電圧の制御開始点をずらしてバイアス電圧が0×Vπ及び2×Vπに収束することを回避する。
【0140】
図25に、第3実施例のバイアス制御部93Bによるバイアス制御のフローチャートの一例を示す。
図25において点線枠で示す処理P55が上述した逆相判定処理を示す。なお、
図25に例示する処理P51〜P57は、QPSK変調器8のIアーム(第1の変調器)80A及びQアーム(第2の変調器)80Bのそれぞれについて実施される。実施順序は不問である。
【0141】
図25に例示するように、バイアス制御部93Bは、第1の変調器80A及び第2の変調器80Bのそれぞれについて、駆動振幅Vdが、Vd≧Vd1であるか、Vd1>VdかつVd≧Vd2であるか、Vd<Vd2であるかを判定する(処理P51〜P53)。
【0142】
駆動振幅VdがVd≧Vd1である場合(処理P51でYesの場合)、バイアス制御部93Bは、バイアス電圧に低周波信号f0を重畳し、平均光強度モニタ91の検出結果を同期検波部97で同期検波した結果を用いてバイアス制御を行なう。例えば、バイアス制御部93Bは、検波結果が最大となるように、バイアス制御電極85及び86(
図2参照)に与えるバイアス電圧を制御する(処理P54)。
【0143】
駆動振幅VdがVd2>Vdの場合(処理P51及びP52でNoかつ処理P53でYesの場合)も、バイアス制御部93Bは、バイアス電圧に低周波信号f0を重畳し、平均光強度モニタ91の検出結果を同期検波した結果を用いてバイアス制御を行なう。
【0144】
ここで、第1及び第2実施例と同様、
図6及び
図12(A)から分かるように、駆動振幅の変化に対する変化の傾斜がVπを境に反転するため、駆動振幅VdがVd2>Vdの場合、Vd≧Vd1の場合に対してバイアス制御の方向を反転する。例えば、バイアス制御部93Bは、平均光強度モニタ91の検出結果を同期検波した結果が最小となるように、バイアス制御電極85及び86に与えるバイアス電圧を制御する(処理P57)。
【0145】
一方、駆動振幅VdがVπをまたぐ状態の場合、すなわち、Vd1>Vdであり、かつ、Vd≧Vd2の場合(処理P51でNoかつ処理P52でYesの場合)、バイアス制御部93Bは、逆相判定処理(処理P55)を実施する。逆相判定処理P55は、例示的に、光強度交流成分モニタ92の検出結果に基づくバイアス制御を実施する前に実行され、以下の処理P551〜P553を含む。
【0146】
例えば、バイアス制御部93Bは、振幅制御部98によって駆動信号に低周波信号f0を重畳させ、平均光強度モニタ91の検出結果を同期検波部97で同期検波した結果が同相を示すか否かを判定する(処理P551及びP552)。
【0147】
判定の結果、検波結果が同相を示す場合(処理P552でYesの場合)、バイアス制御部93Bは、光強度交流成分モニタ92の検出結果を同期検波部97で同期検波した結果を用いてバイアス制御を行なう(処理P56)。例えば、バイアス制御部93Bは、検波結果が最小となるように、バイアス制御電極85及び86に与えるバイアス電圧を制御する。
【0148】
一方、同期検波結果が逆相を示す場合(処理P552でNoの場合)、バイアス制御部93Bは、バイアス電圧に所定の電圧値(例えば、Vπ)を加算する(処理P553)。これにより、バイアス電圧の制御開始点が0×Vπや2×Vπに誤収束しないようにシフトされる。
【0149】
バイアス電圧の制御開始点をシフトした後は、バイアス制御部93Bは、光強度交流成分モニタ92の検出結果を同期検波部97で同期検波した結果を用いてバイアス制御を行なう(処理P56)。例えば、バイアス制御部93Bは、検波結果が最小となるように、バイアス制御電極85及び86に与えるバイアス電圧を制御する。
【0150】
なお、処理P53でNoの場合、すなわち、駆動振幅Vdが上述した3つの条件のいずれも満たさない場合、バイアス制御部93Bは、バイアス制御は行なわずに3つの条件の監視を継続する。ただし、この場合には、エラー情報をバイアス制御部93Bから外部機器等へ通知する等のエラー処理を実施しても構わない。
【0151】
以上のように、第3実施例によれば、既述の一実施形態、第1及び第2実施例と同様の効果が得られるほか、バイアス電圧の制御開始点が0×Vπや2×Vπに誤収束することを回避することが可能となる。すなわち、駆動信号に低周波信号f0を重畳し、f0成分の同期検波の結果が逆相を示す場合、バイアス電圧に所定電圧を加算してバイアス電圧の制御開始点をずらすので、バイアス電圧の制御開始点が意図しない電圧に誤収束することを回避することが可能となる。
【0152】
(第4実施例)
図26は、第4実施例に係る光送信機11の構成例を示すブロック図である。
図26に示す光送信機11は、第1〜第3実施例と同様に、QPSK用の光送信機であり、第3実施例(
図19)に例示した構成に、
図1に例示した信号処理回路4を含めて記載した構成に相当する。
【0153】
信号処理回路4は、電気信号である送信データ信号をデジタル信号処理する。デジタル信号処理には、ナイキストフィルタリングが含まれてよい。ナイキストフィルタリングでは、送信データ信号に対して下記の数式1に例示する伝達関数H(f)をもつフィルタリングを実施する。なお、数式1において、fは周波数、αはロールオフ率と呼ばれ0から1までの値をとる。fnは、フィルタ帯域に対応するパラメータである。
【0155】
送信データ信号にナイキストフィルタリングを施すことによって、周波数領域において信号スペクトル形状を狭めて波長多重(WDM)光伝送における周波数利用効率を向上することが可能となる。
【0156】
この場合、ナイキストフィルタの形状を決定するロールオフ率を大きくするほど光スペクトル形状を狭めることができるが、その場合、送信信号波形形状も変化する。駆動信号のアイパターンの一例を
図27(A)〜
図27(C)に示す。
図27(A)〜
図27(C)は、それぞれ、ロールオフ率αがα=0、α=0.5、α=1のときのアイパターンを例示している。
【0157】
図27(A)〜
図27(C)から分かるように、ロールオフ率αを大きくするほど、平均駆動振幅に対してピーク駆動振幅が大きくなる。この場合にピーク部分まで光変換して送信を可能にするには、平均駆動信号の振幅を2×Vπよりも下げることになる。
【0158】
図27(A)〜
図27(C)から分かるように、ローフオフ率αにより平均駆動振幅の値が決まるため、その値をVdとすれば、バイアス制御部93Bは、例えば
図25に例示したフローチャートに従ったバイアス制御が可能になる。
【0159】
したがって、第4実施例によれば、既述の一実施形態及び第1〜第3実施例と同様の効果が得られるほか、信号処理回路4でデジタル信号処理された送信信号波形に対しても適切なバイアス制御が可能となる。
【0160】
なお、ナイキストフィルタリングは、既述の一実施形態、第1実施例及び第2実施例に適用してもよい。その場合、
図13、
図15、及び、
図17(
図18)に例示したフローチャートのうち対応するフローチャートに従ってバイアス制御を実施すればよい。