特許第6191454号(P6191454)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6191454-二次電池および電解液 図000022
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191454
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】二次電池および電解液
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20170828BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20170828BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20170828BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20170828BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20170828BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20170828BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   H01M10/052
   H01M10/0569
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M10/0567
   H01M4/58
   H01M4/36 E
【請求項の数】2
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2013-507393(P2013-507393)
(86)(22)【出願日】2012年3月16日
(86)【国際出願番号】JP2012056916
(87)【国際公開番号】WO2012132976
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2015年2月10日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2011/072036
(32)【優先日】2011年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-70109(P2011-70109)
(32)【優先日】2011年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】上原 牧子
(72)【発明者】
【氏名】川崎 大輔
(72)【発明者】
【氏名】野口 健宏
(72)【発明者】
【氏名】中村 彰信
(72)【発明者】
【氏名】志村 健一
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 洋子
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−257988(JP,A)
【文献】 特開2010−086914(JP,A)
【文献】 特開2010−086915(JP,A)
【文献】 特開2009−152037(JP,A)
【文献】 特開2006−012576(JP,A)
【文献】 特開2009−123707(JP,A)
【文献】 特開2003−168480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極活物質を含む負極と、電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記電解液が、鎖状フッ素化エステル化合物と、下記式(2)で表される鎖状フッ素化エーテル化合物を含み、
前記負極活物質が、リチウムと合金可能な金属(a)、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る金属酸化物(b)、及びリチウムイオンを吸蔵、放出し得る炭素材料(c)を含み、
前記金属(a)がシリコンであり、前記金属酸化物(b)が酸化シリコンであり、
前記電解液に含まれる鎖状フッ素化エステル化合物が、下記式(1)で表される鎖状フッ素化エステル化合物のみからなることを特徴とするリチウムイオン二次電池;
【化5】

(式(1)において、Rはアルキル基又はフッ素置換アルキル基を示し、Rはフッ素置換アルキル基を示す。)
【化6】

(式(2)において、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基又はフッ素置換アルキル基を示し、R及びRの少なくとも一つはフッ素置換アルキル基である。)。
【請求項2】
正極と、負極活物質を含む負極と、電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記電解液が、鎖状フッ素化エステル化合物と、下記式(X2)で表される鎖状フッ素化エーテル化合物を含み、
前記正極がリチウムに対して4.5V以上の電位で動作する正極活物質を含み、
前記電解液に含まれる鎖状フッ素化エステル化合物が、下記式(X1)で表される鎖状フッ素化エステル化合物のみからなることを特徴とするリチウムイオン二次電池;
【化7】

(式(X1)において、Rはアルキル基又はフッ素置換アルキル基を示し、Rはフッ素置換アルキル基を示す。)
【化8】

(式(X2)において、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基又はフッ素置換アルキル基を示し、R及びRの少なくとも一つはフッ素置換アルキル基である。)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に係る実施形態は、二次電池に関し、特にリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型パソコン、携帯電話、電気自動車などの急速な市場拡大に伴い、高エネルギー密度の二次電池が求められている。高エネルギー密度の二次電池を得る手段として、容量の大きな負極材料を用いる方法や、安定性に優れた電解液を使用する方法などが挙げられる。
【0003】
負極材料としては、例えば特許文献1〜3に開示されるように、ケイ素やケイ素酸化物を負極活物質として用いることが試みられている。特許文献1には、ケイ素の酸化物またはケイ酸塩を二次電池の負極活物質に利用することが開示されている。特許文献2には、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る炭素材料粒子、リチウムと合金可能な金属粒子、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る酸化物粒子を含む活物質層を備えた二次電池用負極が開示されている。特許文献3には、ケイ素の微結晶がケイ素化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングした二次電池用負極材料が開示されている。特許文献2や3に記載の負極活物質では、負極全体として体積変化を緩和させる効果がある。
【0004】
電解液としては、例えば特許文献4〜6に開示されるように、一般に用いられる非水電解液に加えて他の化合物を含む電解液が試みられている。
【0005】
特許文献4には、非対称の非環状スルホンと鎖状エステル化合物とを含有する電解質を用いることが開示されている。
【0006】
特許文献5、6には、フッ素化エーテルを含む非水電解液を用いることが記載されている。
【0007】
特許文献7の実施例には、含フッ素エーテル、含フッ素エステル及び含フッ素カーボネートのうちいずれかの化合物を含む電解液が記載されている。
【0008】
特許文献8及び9には、含フッ素エステル化合物を含む電解液が記載されている。
【0009】
また、電池のエネルギー密度を上げる方法として、容量の大きな活物質を用いる方法の他に、電池の動作電位を上げる方法や、充放電効率又はサイクル寿命などを向上させる方法などが挙げられる。これらの中でも電池の動作電位を上げる方法は、従来の組電池よりも直列数が少ない組電池を提供できるため、電気自動車等に使用される電池モジュールの小型化、軽量化に有効な手段である。
【0010】
リチウムイオン二次電池の4V級の正極活物質として、コバルト酸リチウムやマンガン酸リチウム(平均動作電位;3.6〜3.8V、対リチウム電位)等が知られている。これに対して、5V級の正極活物質としては、例えば、スピネル型マンガン酸リチウムのMnをNiやCo、Fe、Cu、Crなどで置換した化合物(平均動作電位;4.6V以上、対リチウム電位)が知られている。
【0011】
例えば5V級活物質のLiNi0.5Mn1.5は、容量が130mAh/g以上あり、平均動作電位がLi金属に対して4.6V以上あり、高いエネルギー密度を持つ材料として期待できる。更に、スピネル型リチウムマンガン酸化物は三次元のリチウム拡散経路を有し、他の化合物より、熱力学的安定性に優れている、合成が容易といった利点もある。
【0012】
例えば特許文献10又は11では、4.5V以上の充放電領域を示す正極活物質を用いた際に、フッ素化溶媒を用いた二次電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平6−325765号公報
【特許文献2】特開2003−123740号公報
【特許文献3】特開2004−47404号公報
【特許文献4】特開2000−21447号公報
【特許文献5】特開平11−26015号公報
【特許文献6】特開2010−123287号公報
【特許文献7】特開2008−192504号公報
【特許文献8】特開平11−86901号公報
【特許文献9】特開平6−20719号公報
【特許文献10】特開2003−100342号公報
【特許文献11】特開2003−168480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、負極活物質や電解液について研究が行われているが、電池の分野では、高温環境下でも繰り返し使用可能な二次電池の開発が望まれている。すなわち、二次電池には、繰り返し充放電させたときの容量維持率を高く維持できることや体積増加を抑制できること等のさらなる改善が求められている。
【0015】
また、ガス発生を抑制するためには、上述のようなフッ素化溶媒が有効と考えられるが、一般的にフッ素化溶媒は誘電率が低く、フッ素化溶媒の含有量を増やすとLiPFなどのリチウム塩を溶解させることが困難になる場合がある。
【0016】
したがって、本発明に係る実施形態は、高温環境においても、サイクル特性に優れ、体積増加が少ないリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の態様の一は、
正極と、負極活物質を含む負極と、電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記電解液が、鎖状フッ素化エステル化合物と、下記式(2)で表される鎖状フッ素化エーテル化合物を含み、
前記負極活物質が、リチウムと合金可能な金属(a)、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る金属酸化物(b)、及びリチウムイオンを吸蔵、放出し得る炭素材料(c)を含み、
前記金属(a)がシリコンであり、前記金属酸化物(b)が酸化シリコンであり、
前記電解液に含まれる鎖状フッ素化エステル化合物が、下記式(1)で表される鎖状フッ素化エステル化合物のみからなることを特徴とするリチウムイオン二次電池である。
【0018】
【化1】
【0019】
(式(1)において、1はアルキル基又はフッ素置換アルキル基を示し、2はフッ素置換アルキル基を示す。)。
【0020】
【化2】
【0021】
(式(2)において、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基又はフッ素置換アルキル基を示し、R及びRの少なくとも一つはフッ素置換アルキル基である。)。
【0022】
また、本発明の態様の一は、
正極と、負極活物質を含む負極と、電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記電解液が、鎖状フッ素化エステル化合物と、上記式(2)で表される鎖状フッ素化エーテル化合物を含み、
前記正極がリチウムに対して4.5V以上の電位で動作する正極活物質を含み、
前記電解液に含まれる鎖状フッ素化エステル化合物が、上記式(1)で表される鎖状フッ素化エステル化合物のみからなることを特徴とするリチウムイオン二次電池である。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る実施形態によれば、高温環境でもサイクル特性に優れ、体積増加が少ないリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】積層ラミネート型の二次電池が有する電極素子の構造を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0026】
[1]電解液
本実施形態における電解液は、式(1)で表される鎖状フッ素化エステル化合物と、式(2)で表される鎖状フッ素化エーテル化合物を含む。本実施形態では、フッ素化エーテルとフッ素化エステルとを共存させた電解液を用いることによって、サイクル特性、体積増加率に優れる二次電池を得られることがわかった。このメカニズムは明らかではないが、鎖状フッ素化エステル化合物が形成した被膜に鎖状フッ素化エーテル化合物が配位又は吸着することで、さらに電解液の分解抑制が行われるものと推測される。
【0027】
電解液は、例えば、支持塩が非水溶媒に添加されて構成される。本実施形態において、鎖状フッ素化エステル化合物と鎖状フッ素化エーテル化合物は非水溶媒として電解液中に含まれることが望ましい。
【0028】
鎖状フッ素化エステル化合物は耐酸化性に優れ、粘性が比較的低いという利点がある。そのため、鎖状フッ素化エステル化合物はリチウムイオン伝導度や電解液特性に与える影響が少ない。また、さらに、鎖状フッ素化エステル化合物はフッ素化エーテルとカーボネート化合物との相溶性を向上させることができる。
【0029】
鎖状フッ素化エステル化合物は下記式(1)で表される。
【0030】
【化3】
【0031】
式(1)において、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基又はフッ素置換アルキル基を示し、R及びRの少なくとも一つはフッ素置換アルキル基である。
【0032】
式(1)において、R及びRにおいて、アルキル基又はフッ素置換アルキル基の炭素数は、1〜12であることが好ましく、1〜8であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜4であることが特に好ましい。
【0033】
フッ素置換アルキル基とは、無置換アルキル基のうちの少なくとも一つの水素原子がフッ素原子で置換された構造を有する置換アルキル基を表す。また、アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、又は環状のものを含むが、フッ素置換アルキル基は直鎖状であることが好ましい。
【0034】
式(1)において、例えば、R及びRは、それぞれ独立に、フッ素置換アルキル基である。また、式(1)において、例えば、Rがアルキル基であり、Rがフッ素置換アルキル基である。また、式(1)において、例えば、Rがフッ素置換アルキル基であり、Rがアルキル基である。
【0035】
前記鎖状フッ素化エステル化合物は、下記(I)で表される化合物であることが好ましい。
【0036】
F(CZCOO(CZCH (I)
【0037】
(式(I)において、nは1〜4であり、mは1〜4であり、Z〜Zは、それぞれ独立に、フッ素原子または水素原子である。ただし、Z〜Zの少なくとも1つはフッ素原子である。)。
【0038】
式(I)において、nが2以上の場合、Z及びZは、結合する炭素原子ごとにそれぞれ独立していてもよい。また、mが2以上の場合、Z及びZは、結合する炭素原子ごとにそれぞれ独立していてもよい。
【0039】
鎖状フッ素化エステル化合物は1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0040】
鎖状フッ素化エステル化合物の電解液中の含有量は、特に制限されるものではないが、例えば、0.01〜30質量%であり、0.1〜20質量%であることがより好ましく、1〜15質量%であることがさらに好ましい。鎖状フッ素化エステル化合物の含有量を0.1質量%以上とすることにより、負極表面において効果的に被膜を形成することができ、電解液の分解をより効果的に抑制することができると考えられる。また、鎖状フッ素化エステル化合物の含有量を30質量%以下とすることにより、鎖状フッ素化エステル化合物がもたらすと予測されるSEI膜の過剰な生成による電池の内部抵抗上昇を抑えることができると考えられる。
【0041】
鎖状フッ素化エーテル化合物は下記式(2)で表される。
【0042】
【化4】
【0043】
式(2)において、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基又はフッ素置換アルキル基を示し、R及びRの少なくとも一つはフッ素置換アルキル基である。
【0044】
及びRにおいて、アルキル基の炭素数は、1〜12であることが好ましく、1〜8であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜4であることが特に好ましい。また、式(2)において、アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、又は環状のものを含むが、直鎖状であることが好ましい。
【0045】
及びRの少なくとも一つはフッ素置換アルキル基である。フッ素置換アルキル基とは、無置換アルキル基のうちの少なくとも一つの水素原子がフッ素原子で置換された構造を有する置換アルキル基を表す。また、フッ素置換アルキル基は直鎖状であることが好ましい。また、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜6のフッ素置換アルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4のフッ素置換アルキル基であることがより好ましい。
【0046】
鎖状フッ素化エーテルは、耐電圧性と他の電解質との相溶性の観点から、下記式(II)で表される化合物であることが好ましい。
【0047】
1−(CX−CHO−(CX−X (II)
【0048】
(式(II)において、nは1〜8であり、mは2〜4であり、X〜Xは、それぞれ独立に、フッ素原子または水素原子である。ただし、X〜Xの少なくとも1つはフッ素原子であり、X〜Xの少なくとも1つはフッ素原子である。)。
【0049】
式(II)において、nが2以上の場合、X及びXは、結合する炭素原子ごとにそれぞれ独立していてもよい。mが2以上の場合、X及びXは、結合する炭素原子ごとにそれぞれ独立していてもよい。
【0050】
鎖状フッ素化エーテルは、耐電圧性と他の電解質との相溶性の観点から、下記式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【0051】
−(CY−CHO−CY−CY−Y (3)
【0052】
(式(3)中、nは1〜8であり、Y〜Yは、それぞれ独立に、フッ素原子または水素原子である。ただし、Y〜Yの少なくとも1つはフッ素原子であり、Y〜Yの少なくとも一つはフッ素原子である。)。
【0053】
式(3)において、nが2以上の場合、Y及びYは、結合する炭素原子ごとにそれぞれ独立していてもよい。
【0054】
また、鎖状フッ素化エーテル化合物は、電解液の粘度や、鎖状フッ素化エステル化合物などに代表される他の物質との相溶性の観点から、下記式(4)で表されることがより好ましい。
【0055】
H−(CX−CX−CHO−CX−CX−H (4)
【0056】
式(4)において、nは1、2、3または4である。X〜Xは、それぞれ独立に、フッ素原子または水素原子である。ただし、X〜Xの少なくとも1つはフッ素原子であり、X〜Xの少なくとも1つはフッ素原子である。nが2以上の場合、X〜Xは、結合する炭素原子ごとにそれぞれ独立していてもよい。
【0057】
式(4)において、nが1又は2であることが好ましく、nが1であることがより好ましい。
【0058】
また、式(4)において、フッ素原子と水素原子の原子比〔(フッ素原子の総数)/(水素原子の総数)〕が1以上であることが好ましい。
【0059】
鎖状フッ素化エーテル化合物としては、例えば、CFOCH、CFOC、F(CFOCH、F(CFOC、F(CFOCH、F(CFOC、F(CFOCH、F(CFOC、F(CFOCH、F(CFOC、F(CFOCH、F(CFOC、F(CFOCH、CFCHOCH、CFCHOCHF、CFCFCHOCH、CFCFCHOCHF、CFCFCHO(CFH,CFCFCHO(CFF、HCFCHOCH,H(CFOCHCH、H(CFOCHCF,H(CFCHOCHF、H(CFCHO(CFH、H(CFCHO(CFH、H(CFCHO(CFH、(CFCHOCH、(CFCHCFOCH、CFCHFCFOCH、CFCHFCFOCHCH、CFCHFCFCHOCHF、H(CFCHOCFCHFCF、CHF−CH−O−CFCFH−CF、F(CFCHOCFCFHCFなどが挙げられる。
【0060】
鎖状フッ素化エーテル化合物の電解液中の含有量は、例えば、1〜70質量%である。また、鎖状フッ素化エーテル化合物の含有量は、5〜60質量%であることが好ましく、7〜50質量%であることがより好ましく、10〜40質量%であることがさらに好ましい。鎖状フッ素化エーテル化合物の含有量が60質量%以下の場合、支持塩におけるLiイオンの解離が起こりやすくなり、電解液の導伝性が改善される。また、鎖状フッ素化エーテル化合物の含有量が5質量%以上の場合、電解液の負極上での還元分解を抑制し易くなると考えられる。
【0061】
電解液に用いることができる溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類;ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類;プロピレンカーボネート誘導体;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類;などの非プロトン性溶媒が挙げられる。これらの非プロトン性溶媒は、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0062】
電解液は、非水溶媒としてカーボネート化合物(非フッ素化)を含むことが好ましい。カーボネート化合物を用いることにより、電解液のイオン解離性が向上し、また電解液の粘度が下がる。そのため、イオン移動度を向上することができる。
【0063】
上述のように、ガス発生を抑制するためには、フッ素化溶媒が有効と考えられるが、一般的にフッ素化溶媒は誘電率が低く、フッ素化溶媒の含有量を増やすとLiPFなどのリチウム塩を溶解させることが困難になる場合がある。一方、リチウム塩の溶解性の観点からはカーボネート系溶媒が有効と考えられるが、カーボネート系溶媒とフッ素化溶媒との相溶性が乏しい場合が多く、Liの解離度や溶解性の低下を招いたり、電解液の粘度の増加を招いたりする場合があった。それに対して、本実施形態では、カーボネート系溶媒に加え、鎖状フッ素化エステル化合物と鎖状フッ素化エーテル化合物の両者を含む電解液とすることにより、ガス発生抑制、リチウム塩の溶解性向上、及びフッ素化溶媒とカーボネート系溶媒との相溶性に優れた電解液とすることができる。これは、鎖状フッ素化エステル化合物はフッ素化エーテルとカーボネート化合物との相溶性を向上させることができるためと推測される。また、鎖状フッ素化エステル化合物は耐酸化性に優れ、粘性が比較的低いという利点がある。そのため、鎖状フッ素化エステル化合物はリチウムイオン伝導度や電解液特性に与える影響が少ないと推測される。
【0064】
カーボネート化合物としては、上述のような、環状カーボネート類や鎖状カーボネート類が挙げられる。カーボネート化合物としては、上述のように、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(MEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等が挙げられる。電解液は、カーボネート化合物を主溶媒として含むことが好ましい。カーボネート化合物の非水溶媒中の含有量は、60体積%以上であることが好ましく、70体積%以上であることがより好ましく、80体積%以上であることがさらに好ましく、90体積%以上であることが特に好ましくい。
【0065】
非水溶媒としては、上記以外にも、例えば、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1、2−エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1、3−ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1、3−プロパンスルトン、アニソール、N−メチルピロリドン、フッ素化カルボン酸エステルなどの非プロトン性有機溶媒を挙げることができる。これらは、一種又は二種以上を混合して用いることができる。
【0066】
本実施形態における電解液は、鎖状フッ素化エステル化合物と鎖状フッ素化エーテル化合物と溶媒としてのカーボネート化合物とを含むことがとくに好ましい。カーボネート化合物は、比誘電率が大きいため電解液のイオン解離性が向上し、さらに、電解液の粘度が下がるのでイオン移動度が向上するという利点がある。しかし、カーボネート構造を有するカーボネート化合物を電解液として用いると、カーボネート化合物が分解してCOからなるガスが発生し易い傾向がある。とくに積層ラミネート型の二次電池の場合、内部でガスが生じると膨れの問題が現れ、性能低下に繋がりやすい。本実施形態では、カーボネート化合物を溶媒として含む場合でも、鎖状フッ素化エステル化合物と鎖状フッ素化エーテル化合物の両者を含ませることにより、ガス発生による膨れをかなり抑制できることがわかった。これは、鎖状フッ素化エステル化合物と鎖状フッ素化エーテル化合物とカーボネート化合物の共存によって、一層のガス発生抑制効果が得られたものと考えられるが、このメカニズムは明確にはわかっていない。鎖状フッ素化エーテル化合物はガス発生抑制効果があるが、鎖状フッ素化エーテル化合物は相分離を起こし易いと考えられている。鎖状フッ素化エステル化合物と非フッ素化鎖状・環状カーボネートとはエステル交換反応を起こす傾向にあるため、鎖状フッ素化エーテル化合物の相分離を抑制できるためと推測される。サイクル維持率改善効果についても何らかのメカニズムにより奏されているものと考えられる。したがって、カーボネート化合物を溶媒として用いた電解液に対して鎖状フッ素化エステル化合物と鎖状フッ素化エーテル化合物の両者を含ませることにより、高温環境下においても、サイクル維持率をより改善でき、体積増加がより抑制できる。なお、以上の考察はあくまで推測であり、本発明を限定するものではない。
【0067】
この場合、鎖状フッ素化エステル化合物の含有量が鎖状フッ素化エステル化合物と鎖状フッ素化エーテル化合物と溶媒との総量に対して1〜15体積%であり、鎖状フッ素化エーテル化合物の含有量が鎖状フッ素化エステル化合物と鎖状フッ素化エーテル化合物と溶媒との総量に対して10〜35体積%であり、カーボネート化合物の含有量が鎖状フッ素化エステル化合物と鎖状フッ素化エーテル化合物と溶媒との総量に対して30〜89体積%であることが好ましい。また、鎖状フッ素化エーテル化合物の含有量は鎖状フッ素化エステル化合物と鎖状フッ素化エーテル化合物と溶媒との総量に対して15〜30体積%であることがより好ましい。また、カーボネート化合物の含有量は鎖状フッ素化エステル化合物と鎖状フッ素化エーテル化合物と溶媒との総量に対して50〜80体積%であることがより好ましく、55〜75体積%であることがさらに好ましい。
【0068】
より具体的には、非水溶媒は、鎖状フッ素化エステル化合物と鎖状フッ素化エーテル化合物とカーボネート化合物とを含んでなることが好ましく、鎖状フッ素化エステル化合物の非水溶媒中の含有量が1〜15体積%であり、鎖状フッ素化エーテル化合物の非水溶媒中の含有量が10〜45体積%であり、カーボネート化合物の非水溶媒中の含有量が30〜89体積%であることが好ましい。また、鎖状フッ素化エーテル化合物の非水溶媒中の含有量が15〜35体積%であることがより好ましく、15〜30体積%であることがさらに好ましい。また、カーボネート化合物の非水溶媒中の含有量が50〜80体積%であることがより好ましく、55〜75体積%であることがさらに好ましい。
【0069】
電解液は、さらに支持塩を含むことができる。支持塩としては、例えば、LiPF、LiAsF、LiAlCl、LiClO、LiBF、LiSbF、LiCFSO、LiCSO、Li(CFSO、LiN(CFSO等のリチウム塩が挙げられる。支持塩は、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。支持塩の電解液中の濃度は、0.5〜1.5mol/lであることが好ましい。支持塩の濃度をこの範囲とすることにより、密度や粘度、電気伝導率等を適切な範囲に調整し易い。
【0070】
[2]負極
本実施形態のリチウム二次電池は、負極活物質を有する負極を備える。負極活物質は負極用結着材によって負極集電体上に結着されることができる。
【0071】
本実施形態における負極活物質としては、特に制限されるものではなく、例えば、リチウムと合金可能な金属(a)、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る金属酸化物(b)、又はリチウムイオンを吸蔵、放出し得る炭素材料(c)等が挙げられる。
【0072】
金属(a)としては、例えば、Al、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、La、またはこれらの2種以上の合金等が挙げられる。また、これらの金属又は合金は2種以上混合して用いてもよい。また、これらの金属又は合金は1種以上の非金属元素を含んでもよい。本実施形態では、負極活物質としてシリコンを用いることが好ましい。シリコンは、酸素に続くクラーク数2位の元素であり資源量が豊富である。また、約4200mAh/gという他金属より高めの充電容量を示す。そのため、負極活物質としてシリコンを用いることにより、重量エネルギー密度や、体積エネルギー密度に優れた、資源面での制約が少ないリチウムイオン電池を提供することができる。また、負極活物質として、スズを用いることもでき、スズ及びシリコンを用いることが好ましく、スズとシリコンとの合金を用いることがより好ましい。負極活物質中の金属(a)の含有率は、0質量%でも100質量%でも構わないが、5質量%以上95質量%以下とすることが好ましく、10質量%以上90質量%以下とすることがより好ましく、20質量%以上50質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0073】
シリコンを含む負極は充放電の繰り返しによる体積増加が大きいという問題があったが、鎖状フッ素化エステル化合物と鎖状フッ素化エーテル化合物とを含む電解液を用いることにより、充放電による体積増加を抑制できることがわかった。本実施形態のメカニズムは、上述のように、鎖状フッ素化エステル化合物が形成した被膜に鎖状フッ素化エーテル化合物が配位又は吸着することで、一層の電解液の分解抑制が行われるものと推測されるが、このような現象は、シリコンを含む負極に特に顕著であると考えられている。したがって、本実施形態はシリコンを含む負極を用いることにより特に有利な効果が得られる。
【0074】
金属酸化物(b)としては、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化リチウム、またはこれらの複合物等が挙げられる。本実施形態では、負極活物質として酸化シリコンを用いることが好ましい。これは、酸化シリコンは、比較的安定で他の化合物との反応を引き起こしにくいからである。また、金属酸化物(b)に、窒素、ホウ素およびイオウの中から選ばれる一種または二種以上の元素を、例えば0.1〜5質量%添加することもできる。こうすることで、金属酸化物(b)の電気伝導性を向上させることができる。負極活物質中の金属酸化物(b)の含有率は、0質量%でも100質量%でも構わないが、5質量%以上90質量%以下とすることが好ましく、40質量%以上80質量%以下とすることがより好ましく、50質量%以上70質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0075】
炭素材料(c)としては、例えば、炭素、非晶質炭素、ダイヤモンド状炭素、カーボンナノチューブ、またはこれらの複合物等が挙げられる。ここで、結晶性の高い炭素は、電気伝導性が高く、銅などの金属からなる負極集電体との接着性および電圧平坦性が優れている。一方、結晶性の低い非晶質炭素は、体積膨張が比較的小さいため、負極全体の体積膨張を緩和する効果が高く、かつ結晶粒界や欠陥といった不均一性に起因する劣化が起きにくい。負極活物質中の炭素材料(c)の含有率は、0質量%でも100質量%でも構わないが、2質量%以上50質量%以下とすることが好ましく、2質量%以上30質量%以下とすることがより好ましい。
【0076】
本実施形態における負極活物質は、リチウムと合金可能な金属(a)と、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る金属酸化物(b)と、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る炭素材料(c)と、を含むことが好ましい。また、金属(a)はシリコンであり、金属酸化物(b)は酸化シリコンであることが好ましい。また、負極活物質は、シリコン、酸化シリコン及び炭素材料の複合体(以下、Si/SiO/C複合体とも称す)からなることが好ましい。さらに、金属酸化物(b)は、その全部または一部がアモルファス構造を有することが好ましい。アモルファス構造の金属酸化物(b)は、他の負極活物質である炭素材料(c)や金属(a)の体積膨張を抑制することができる。このメカニズムは明確ではないが、金属酸化物(b)がアモルファス構造であることにより、炭素材料(c)と電解液の界面への皮膜形成に何らかの影響があるものと推定される。また、アモルファス構造は、結晶粒界や欠陥といった不均一性に起因する要素が比較的少ないと考えられる。なお、金属酸化物(b)の全部または一部がアモルファス構造を有することは、エックス線回折測定(一般的なXRD測定)にて確認することができる。具体的には、金属酸化物(b)がアモルファス構造を有しない場合には、金属酸化物(b)に固有のピークが観測されるが、金属酸化物(b)の全部または一部がアモルファス構造を有する場合が、金属酸化物(b)に固有ピークがブロードとなって観測される。
【0077】
上述のように、本実施形態はシリコンを含む負極を用いることにより特に有利な効果が得られるが、シリコンを含む負極活物質としては、金属(a)としてシリコン、金属酸化物(b)として酸化シリコン、及び炭素材料(c)を含むことが好ましく、Si/SiO/C複合体であることがより好ましい。シリコン、酸化シリコン及び炭素材料を含む負極活物質を用い、かた本実施形態の電解液を用いることにより、上述のサイクル特性や体積増加率の改善効果に加え、抵抗変化率に優れる二次電池を得ることができる。例えば、具体的には、本実施形態において、Si/SiO/C複合体からなる負極活物質と、鎖状フッ素化エステル化合物及び鎖状フッ素化エーテル化合物を含む電解液とを用いることにより、サイクル特性、体積増加率、抵抗変化率にさらに優れた二次電池を得ることができる。
【0078】
Si/SiO/C複合体において、シリコンは、その全部または一部が酸化シリコン中に分散していることが好ましい。シリコンの少なくとも一部を酸化シリコン中に分散させることで、負極全体としての体積膨張をより抑制することができ、電解液の分解も抑制することができる。なお、シリコンの全部または一部が酸化シリコン中に分散していることは、透過型電子顕微鏡観察(一般的なTEM観察)とエネルギー分散型X線分光法測定(一般的なEDX測定)を併用することで確認することができる。具体的には、シリコン粒子を含むサンプルの断面を観察し、酸化シリコン中に分散しているシリコン粒子の酸素濃度を測定し、酸化物となっていないことを確認することができる。
【0079】
Si/SiO/C複合体において、例えば、酸化シリコンの全部または一部がアモルファス構造であり、シリコンはその全部または一部が酸化シリコン中に分散している。このようなSi/SiO/C複合体は、例えば、特許文献3(特開2004−47404号公報)で開示されているような方法で作製することができる。すなわち、Si/SiO/C複合体は、例えば、酸化シリコンをメタンガスなどの有機物ガスを含む雰囲気下でCVD処理を行うことで得ることができる。このような方法で得られるSi/SiO/C複合体は、シリコンを含む酸化シリコンからなる粒子の表面がカーボンで被覆された形態となる。また、シリコンは酸化シリコン中にナノクラスター化している。
【0080】
Si/SiO/C複合体において、シリコン、酸化シリコンおよび炭素材料の割合は、特に制限されるものではない。シリコンは、Si/SiO/C複合体に対し、5質量%以上90質量%以下とすることが好ましく、20質量%以上50質量%以下とすることが好ましい。酸化シリコンは、Si/SiO/C複合体に対し、5質量%以上90質量%以下とすることが好ましく、40質量%以上70質量%以下とすることが好ましい。炭素材料は、Si/SiO/C複合体に対し、2質量%以上50質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは2質量%以上30質量%以下である。
【0081】
また、Si/SiO/C複合体は、シリコン、酸化シリコン及び炭素材料の混合物からなることができ、金属(a)と金属酸化物(b)と炭素材料(c)とをメカニカルミリングで混合することでも作製することができる。例えば、Si/SiO/C複合体は、それぞれのシリコン、酸化シリコンおよび炭素材料が粒子状のものを混合して得ることができる。例えば、シリコンの平均粒子径は、炭素材料の平均粒子径および酸化シリコンの平均粒子径よりも小さい構成とすることができる。このようにすれば、充放電時に伴う体積変化の小さいシリコンが相対的に小粒径となり、体積変化の大きい炭素材料や酸化シリコンが相対的に大粒径となるため、デンドライト生成および合金の微粉化がより効果的に抑制される。また、充放電の過程で大粒径の粒子、小粒径の粒子、大粒径の粒子の順にリチウムが吸蔵、放出されることとなり、この点からも、残留応力、残留歪みの発生が抑制される。シリコンの平均粒子径は、例えば20μm以下とすることができ、15μm以下とすることが好ましい。また、金属酸化物(b)の平均粒子径が炭素材料(c)の平均粒子径の1/2以下であることが好ましく、金属(a)の平均粒子径が金属酸化物(b)の平均粒子径の1/2以下であることが好ましい。さらに、金属酸化物(b)の平均粒子径が炭素材料(c)の平均粒子径の1/2以下であり、かつ金属(a)の平均粒子径が金属酸化物(b)の平均粒子径の1/2以下であることがより好ましい。平均粒子径をこのような範囲に制御すれば、金属および合金相の体積膨脹の緩和効果がより有効に得ることができ、エネルギー密度、サイクル寿命と効率のバランスに優れた二次電池を得ることができる。より具体的には、酸化シリコン(c)の平均粒子径を黒鉛(a)の平均粒子径の1/2以下とし、シリコン(b)の平均粒子径を酸化シリコン(c)の平均粒子径の1/2以下とすることが好ましい。またより具体的には、シリコン(b)の平均粒子径は、例えば20μm以下とすることができ、15μm以下とすることが好ましい。
【0082】
負極用結着剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリル酸等を用いることができる。中でも、結着性が強いことから、ポリイミドまたはポリアミドイミドが好ましい。使用する負極用結着剤の量は、トレードオフの関係にある「十分な結着力」と「高エネルギー化」の観点から、負極活物質100質量部に対して、5〜25質量部が好ましい。
【0083】
負極集電体としては、電気化学的な安定性から、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、クロム、銅、銀、およびそれらの合金が好ましい。その形状としては、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。
【0084】
負極は、負極集電体上に、負極活物質と負極用結着剤を含む負極活物質層を形成することで作製することができる。負極活物質層の形成方法としては、ドクターブレード法、ダイコーター法、CVD法、スパッタリング法などが挙げられる。予め負極活物質層を形成した後に、蒸着、スパッタ等の方法でアルミニウム、ニッケルまたはそれらの合金の薄膜を形成して、負極としてもよい。
【0085】
[3]正極
正極は、例えば、正極活物質が正極用結着剤によって正極集電体を覆うように結着されてなる。
【0086】
正極活物質としては、LiMnO、LiMn(0<x<2)等の層状構造を持つマンガン酸リチウムまたはスピネル構造を有するマンガン酸リチウム;LiCoO、LiNiOまたはこれらの遷移金属の一部を他の金属で置き換えたもの;LiNi1/3Co1/3Mn1/3などの特定の遷移金属が半数を超えないリチウム遷移金属酸化物;これらのリチウム遷移金属酸化物において化学量論組成よりもLiを過剰にしたもの等が挙げられる。特に、LiαNiβCoγAlδ(1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.7、γ≦0.2)またはLiαNiβCoγMnδ(1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.6、γ≦0.2)が好ましい。正極活物質は、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0087】
正極活物質としては、高電圧が得られるという観点から、リチウムに対して4.5V以上の電位で動作する活物質(以下、5V級活物質とも称す)を用いることが好ましい。5V級活物質を用いた場合、電解液の分解等によるガス発生が起こり易いが、本実施形態の電解液を併せて用いることにより、ガス発生を抑制できるとともに、サイクル特性の向上も実現できる。この理由としては、本発明を限定するものではないが、以下のように推測される。鎖状フッ素化エステル化合物は耐酸化性に優れ、粘性が比較的低いという利点がある。そのため、鎖状フッ素化エステル化合物はリチウムイオン伝導度や電解液特性に与える影響が少ない。また、さらに、鎖状フッ素化エステル化合物はフッ素化エーテルとカーボネート化合物との相溶性を向上させることができる。そのため、5V級活物質を用いた際のガス発生の抑制とサイクル特性の向上が実現できる。
【0088】
5V級活物質としては、例えば、下記式(A)で表されるリチウムマンガン複合酸化物を用いることができる。
【0089】
Li(MMn2−x−y)(O4−w) (A)
【0090】
(式(A)中、0.4≦x≦1.2、0≦y、x+y<2、0≦a≦1.2、0≦w≦1である。MはCo、Ni、Fe、Cr及びCuからなる群より選ばれる少なくとも一種である。Yは、Li、B、Na、Mg、Al、Ti、Si、K及びCaからなる群より選ばれる少なくとも一種である。Zは、F及びClからなる群より選ばれる少なくとも一種である。)
【0091】
また、5V級活物質としては、十分な容量を得ることと高寿命化の観点から、このような金属複合酸化物の中でも、下記式(B)で表されるスピネル型化合物が好ましく用いられる。
【0092】
LiNiMn2−x−y (B)
【0093】
(式(B)中、0.4<x<0.6、0≦y<0.3、Aは、Li、B、Na、Mg、Al、Ti及びSiからなる群より選ばれる少なくとも一種である。)
【0094】
式(B)中、0≦y<0.2であることがより好ましい。
【0095】
また、リチウムに対して4.5V以上の電位で動作する活物質としては、オリビン型の正極活物質が挙げられる。オリビン型の5V活物質としては、例えば、LiCoPO、又はLiNiPOが挙げられる。
【0096】
また、リチウムに対して4.5V以上の電位で動作する活物質としては、Si複合酸化物が挙げられる。このようなSi複合酸化物としては、例えば、下記式(C)で示される化合物が挙げられる。
【0097】
LiMSiO(C)
【0098】
(式(C)中、Mは、Mn、Fe及びCoからなる群より選ばれる少なくとも一種である)
【0099】
また、リチウムに対して4.5V以上の電位で動作する活物質は、層状構造を有していてもよい。層状構造を含む5V級活物質としては、例えば、下記式(D)で示される化合物が挙げられる。
【0100】
Li(M1M2Mn2−x−y)O (D)
【0101】
(式(D)中、M1は、Ni、Co及びFeからなる群より選ばれる少なくとも一種である。M2は、Li、Mg及びAlからなる群より選ばれる少なくとも一種である。0.1<x<0.5、0.05<y<0.3)
【0102】
5V級活物質としては、下記(E)〜(G)で示されるリチウム金属複合酸化物を好ましく用いることができる。
【0103】
LiMPO (E)
【0104】
(式(E)中、Mは、Co及びNiからなる群より選ばれる少なくとも一種である。)
【0105】
Li(MMn)O (F)
【0106】
(式(F)中、0.1≦y≦0.5、0.7≧z≧0.33であって、Mは、Li、Co及びNiからなる群より選ばれる少なくとも一種である。)
【0107】
Li(LiMn)O (G)
【0108】
(式(G)中、0.3>x≧0.1、0.1≦y≦0.4、0.7≧z≧0.33であって、Mは、Li、Co及びNiからなる群より選ばれる少なくとも一種である。)。
【0109】
正極用結着剤としては、負極用結着剤と同様のものと用いることができる。中でも、汎用性や低コストの観点から、ポリフッ化ビニリデンが好ましい。使用する正極用結着剤の量は、トレードオフの関係にある「十分な結着力」と「高エネルギー化」の観点から、正極活物質100質量部に対して、2〜10質量部が好ましい。
【0110】
正極集電体としては、負極集電体と同様のものを用いることができる。
【0111】
正極活物質を含む正極活物質層には、インピーダンスを低下させる目的で、導電補助材を添加してもよい。導電補助材としては、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質微粒子が挙げられる。
【0112】
[4]セパレータ
セパレータとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等の多孔質フィルムや不織布を用いることができる。また、セパレータとしては、それらを積層したものを用いることもできる。
【0113】
[5]外装体
外装体としては、電解液に安定で、かつ十分な水蒸気バリア性を持つものであれば、適宜選択することができる。例えば、積層ラミネート型の二次電池の場合、外装体としては、アルミニウム、シリカをコーティングしたポリプロピレン、ポリエチレン等のラミネートフィルムを用いることができる。特に、体積膨張を抑制する観点から、アルミニウムラミネートフィルムを用いることが好ましい。
【0114】
外装体としてラミネートフィルムを用いた二次電池の場合、外装体として金属缶を用いた二次電池に比べて、ガスが発生すると電極素子の歪みが非常に大きくなる。これは、ラミネートフィルムが金属缶に比べて二次電池の内圧により変形しやすいためである。さらに、外装体としてラミネートフィルムを用いた二次電池を封止する際には、通常、電池内圧を大気圧より低くするため、内部に余分な空間がなく、ガスが発生した場合にそれが直ちに電池の体積変化や電極素子の変形につながりやすい。
【0115】
ところが、本実施形態に係る二次電池は、上記問題を克服することができる。それにより、安価かつ積層数の変更によるセル容量の設計の自由度に優れた、積層ラミネート型のリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0116】
[6]二次電池
本実施形態に係る二次電池の構成は、特に制限されるものではなく、例えば、正極および負極が対向配置された電極素子と、電解液とが外装体に内包されている構成とすることができる。二次電池の形状は、特に制限されるものではないが、例えば、円筒型、扁平捲回角型、積層角型、コイン型、扁平捲回ラミネート型、又は積層ラミネート型が挙げられる。
【0117】
以下、例として積層ラミネート型の二次電池について説明する。図1は、積層ラミネート型の二次電池が有する電極素子の構造を示す模式的断面図である。この電極素子は、正極cの複数および負極aの複数が、セパレータbを挟みつつ交互に積み重ねられて形成されている。各正極cが有する正極集電体eは、正極活物質に覆われていない端部で互いに溶接されて電気的に接続され、さらにその溶接箇所に正極端子fが溶接されている。各負極aが有する負極集電体dは、負極活物質に覆われていない端部で互いに溶接されて電気的に接続され、さらにその溶接箇所に負極端子gが溶接されている。
【0118】
このような平面的な積層構造を有する電極素子は、Rの小さい部分(捲回構造の巻き芯に近い領域)がないため、捲回構造を持つ電極素子に比べて、充放電に伴う電極の体積変化に対する悪影響を受けにくいという利点がある。すなわち、体積膨張を起こしやすい活物質を用いた電極素子として有効である。ところが、平面的な積層構造を持つ電極素子には、電極間にガスが発生した際に、その発生したガスが電極間に滞留しやすい場合がある。これは、捲回構造を持つ電極素子の場合には電極に張力が働いているため電極間の間隔が広がりにくいのに対して、積層構造を持つ電極素子の場合には電極間の間隔が広がりやすいためである。外装体がアルミラミネートフィルムであった場合、この問題は特に顕著となる。本実施形態では、このような問題を解決することができ、高エネルギー型の負極を用いた積層ラミネート型のリチウムイオン二次電池においても、長寿命駆動が可能となる。
【0119】
(実施例)
以下、本実施形態を実施例により具体的に説明する。
【0120】
(実施例1)
<負極>
負極活物質として、レーザ回折・散乱法により測定される平均粒径D50が5μmとなるように調整された単体ケイ素を用いた。この負極活物質と、負極用結着剤としてのポリアミドイミド(東洋紡績株式会社製、商品名:バイロマックス(登録商標))と、導電補助材としてのアセチレンブラックとを、75:20:5の質量比で計量し、それらをn−メチルピロリドンと混合して、負極スラリーを調製した。負極スラリーを厚さ10μmの銅箔に塗布した後に乾燥し、さらに窒素雰囲気300℃の熱処理を行うことで、負極を作製した。
【0121】
<正極>
正極活物質としてのニッケル酸リチウム(LiNi0.80Co0.15Al0.052)と、導電補助材としてのカーボンブラックと、正極用結着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを、90:5:5の質量比で計量した。そして、これら材料をn−メチルピロリドンと混合して、正極スラリーを調製した。正極スラリーを厚さ20μmのアルミ箔に塗布した後に乾燥し、さらにプレスすることで、正極を作製した。
【0122】
<電極素子>
得られた正極の3層と負極の4層を、セパレータとしてのポリプロピレン多孔質フィルムを挟みつつ交互に重ねた。正極活物質に覆われていない正極集電体および負極活物質に覆われていない負極集電体の端部をそれぞれ溶接した。さらに、その溶接箇所に、アルミニウム製の正極端子およびニッケル製の負極端子をそれぞれ溶接して、平面的な積層構造を有する電極素子を得た。
【0123】
<電解液>
カーボネート系非水溶媒と、式(1)で表される鎖状フッ素化エステル化合物(R=CH−、R=CHF−)と、式(2)で表される鎖状フッ素化エーテル化合物(H−CFCF−CHO−CFCF−H)と、を70:10:20(体積比)で混合して混合溶媒を調製した。該混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1モル/lとなるように添加して電解液を得た。なお、カーボネート系非水溶媒としてEC/PC/DMC/EMC/DEC=20/20/20/20/20(体積比)の溶媒を用いた。なお、表及び以下では鎖状フッ素化エーテル化合物(H−CFCF−CHO−CFCF−H)をFET1と略す。なお、調製した混合溶媒において、鎖状フッ素化エステル化合物の含有量は10体積%であり、鎖状フッ素化エーテル化合物の含有量は20体積%である。
【0124】
<二次電池>
上記電極素子を外装体としてのアルミニウムラミネートフィルムで包み、内部に電解液を注液した後、0.1気圧まで減圧しつつ封止することで、二次電池を作製した。
【0125】
<評価>
(55℃におけるサイクル特性、体積増加、抵抗変化率)
作製した二次電池に対し、55℃に保った恒温槽中で、2.5Vから4.1Vの電圧範囲で充放電を繰り返す試験を行い、サイクル維持率(%)、体積増加(%)、及び抵抗変化率(%)について評価した。充電は、1Cで4.1Vまで充電した後、合計で2.5時間定電圧充電を行った。放電は、1Cで2.5Vまで定電流放電した。結果を表1に示す。
【0126】
「サイクル維持率(%)」は、(50サイクル後の放電容量)/(5サイクル後の放電容量)×100(単位:%)で算出される。
【0127】
「体積増加(%)」は、{(50サイクル後の体積容量)/(サイクル前の体積容量)−1}×100(単位:%)で算出される。
【0128】
「抵抗変化率(%)」は、(55サイクル後の抵抗値)/(初期抵抗値)(単位:%)で算出される。初期抵抗値はサイクル前の放電状態の抵抗値である。抵抗値は、HIOKI製ACミリオームハイテスタ3560にて測定した。
【0129】
(実施例2〜26)
鎖状フッ素化エステル化合物として表1に記載の化合物を用いた以外は、実施例1と同様に二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0130】
(比較例1)
鎖状フッ素化エステル化合物及び鎖状フッ素化エーテル化合物を用いなかった以外は、実施例1と同様に二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0131】
(比較例2)
鎖状フッ素化エーテル化合物を用いず、カーボネート系非水溶媒と鎖状フッ素化エステル化合物とを90:10(体積比)で混合した混合溶媒を用いた以外は、実施例7と同様に二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0132】
(比較例3)
鎖状フッ素化エステル化合物を用いず、カーボネート系非水溶媒と鎖状フッ素化エステル化合物と80:20(体積比)で混合した混合溶媒を用いた以外は、実施例1と同様に二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0133】
【表1】
【0134】
(実施例27)
負極活物質として、単体ケイ素の代わりにSi/SiO/C複合体(CVD法)を用いた以外は、実施例1と同様に二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0135】
Si/SiO/C複合体(CVD法)は、メタンガスを含む雰囲気下1150℃で6時間CVD処理を行うことにより得た。Si/SiO/C複合体は、シリコンと酸化シリコンとからなる粒子の表面がカーボンで被覆された形態を有していた。また、シリコンは酸化シリコン中にナノクラスター化していた。また、Si/SiO/Cの質量比はおよそ29/61/10となるように調整した。Si/SiO/C複合体の平均粒径D50は約5μmであった。
【0136】
(実施例28〜52)
鎖状フッ素化エステル化合物として表2に記載の化合物を用いた以外は、実施例27と同様に二次電池を作製し、評価した。結果を表2に示す。
【0137】
【表2】
【0138】
(実施例53)
負極活物質として、単体ケイ素の代わりにSiSn合金を用いた以外は、実施例7と同様に二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。SiSn合金の平均粒径D50は約5μmであった。SiSn合金は、平均粒径D50は約7μmの金属Si粒子と、平均粒径D50は約7μmの金属Sn粒子を、いわゆるメカニカルミリング法にて8h混合することによって得た。
【0139】
(実施例54〜56)
鎖状フッ素化エステル化合物として表3に記載の化合物を用いた以外は、実施例53と同様に二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0140】
(実施例57)
負極活物質として、単体ケイ素の代わりにSi/SiO/C複合体(メカニカル法)を用いた以外は、実施例20と同様に二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0141】
Si/SiO/C複合体(メカニカル法)は以下の方法により作製した。まず、平均粒径5μmのシリコンと、平均粒径13μmの非晶質酸化シリコン(SiO、0<x≦2)と、平均粒径30μmの黒鉛と、を、29:61:10の質量比で計量した。そして、これら材料をいわゆるメカニカルミリングで24時間混合して、Si/SiO/C複合体(メカニカル法)を得た。なお、この負極活物質において、シリコンは酸化シリコン(SiO、0<x≦2)中に分散していた。
【0142】
(実施例58)
バインダ樹脂としてポリイミド(宇部興産株式会社製、商品名:UワニスA)を用いた以外は、実施例46と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0143】
【表3】
【0144】
(実施例59〜63)
鎖状フッ素化エーテル化合物(FET1)の混合溶媒中の含有量(体積%)を表4に示した値とした以外は、実施例46と同様に二次電池を作製し、評価した。結果を表4に示す。なお、表において、鎖状フッ素化エステル化合物(R=CHFCH−、R=CHFCH−)をFES1とも略す。
【0145】
【表4】
【0146】
(実施例64〜80)
鎖状フッ素化エーテル化合物としてFET1の代わりに表5に記載の化合物を用いた以外は、実施例46と同様に二次電池を作製し、評価した。結果を表5に示す。
【0147】
【表5】
【0148】
(実施例81)
<正極の作製>
正極活物質の原料として、MnO、NiO、LiCO、Tiの粉末を用い、目的の組成比なるように秤量し、粉砕混合した。その後、混合粉末を750℃で8時間焼成して、LiNi0.5Mn1.37Ti0.13を作製した。得られた正極活物質はほぼ単相のスピネル構造であることを確認した。作製した正極活物質と導電付与剤であるカーボンブラックを混合し、この混合物をN−メチルピロリドンに結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)を溶かした溶液に分散させ、スラリーを調製した。正極活物質、導電付与剤、結着剤の質量比は91/5/4とした。そして、Alからなる集電体の両面に前記スラリーを均一に塗布した。その後、集電体上に形成されたスラリーを真空中で12時間乾燥させ、ロールプレスで圧縮成型することにより、正極電極を作製した。
【0149】
<負極の作製>
負極活物質には黒鉛を用いた。負極活物質と、N−メチルピロリドンに結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)を溶かした溶液に分散させ、スラリーを調製した。負極活物質、導電付与剤の質量比は90/10とした。Cuからなる集電体の両面に前記スラリーを均一に塗布した。その後、集電体上に形成されたスラリーを真空中で12時間乾燥させ、ロールプレスで圧縮成型することにより、負極電極を作製した。
【0150】
<電解液>
カーボネート系非水溶媒(エチレンカーボネート(EC))と、式(1)で表される鎖状フッ素化エステル化合物(R=CH−、R=CHF−)と、式(2)で表される鎖状フッ素化エーテル化合物(H−CFCF−CHO−CFCF−H)と、を50:10:40(体積比)で混合して混合溶媒を調製した。該混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1モル/lとなるように添加して電解液を得た。なお、以下、鎖状フッ素化エーテル化合物(H−CFCF−CHO−CFCF−H)をFET1と略す。なお、調製した混合溶媒において、鎖状フッ素化エステル化合物の含有量は10体積%であり、鎖状フッ素化エーテル化合物の含有量は40体積%である。
【0151】
<評価>
(55℃におけるサイクル特性及び抵抗変化率)
作製した二次電池に対し、55℃に保った恒温槽中で、3.0Vから4.75Vの電圧範囲で充放電を繰り返す試験を行い、サイクル維持率(%)及び膨れ率(%)について評価した。充電は、1Cで4.75Vまで充電した後、合計で2.5時間定電圧充電を行った。放電は、1Cで3.0Vまで定電流放電した。
【0152】
上記以外は実施例1と同様に二次電池を作製し、評価をした。
【0153】
(実施例82〜110)
鎖状フッ素化エステル化合物を表6又は7に記載の化合物とした以外は実施例81と同様に二次電池を作製し、評価した。
【0154】
(比較例1)
鎖状フッ素化エステル化合物及び鎖状フッ素化エーテル化合物を用いず、非水溶媒の組成をエチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC)=50:50とした以外は、実施例81と同様にして二次電池を作製し、評価した。
【0155】
(比較例2)
鎖状フッ素化エーテル化合物を用いず、非水溶媒の組成を、EC:DMC:FES2(R=CFCFCF−、R=CHCH−)=50:40:10とした以外は、実施例81と同様にして二次電池を作製し、評価した。
【0156】
(比較例3)
鎖状フッ素化エステル化合物を用いず、非水溶媒の組成を、EC:DMC:FET1=50:10:40とした以外は、実施例81と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表7に示す。
【0157】
【表6】
【0158】
【表7】
【0159】
(実施例111〜124)
正極活物質として表8に記載の化合物を用いた以外は、実施例81と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表8に示す。なお、鎖状フッ素化エステル化合物(R=CFCFCF−、R=CHCH−)をFES2と略す。
【0160】
【表8】
【0161】
(実施例125〜135)
鎖状フッ素化エステル化合物(FES2)、鎖状フッ素化エーテル化合物(FET1)及びカーボネート系溶媒(EC/DMC)の含有量(体積%)を表9とした以外は、実施例81と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表9に示す。
【0162】
【表9】
【0163】
(実施例136〜実施例154)
鎖状フッ素化エーテル化合物として表10に記載の化合物を用いた以外は、実施例81と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表10に示す。
【0164】
【表10】
【0165】
表1より、鎖状フッ素化エステル化合物及び鎖状フッ素化エーテルを含む電解液を用いることにより、高温におけるサイクル維持率が改善され、体積増加が少なくなり、さらに抵抗上昇が抑制されることが確認された。
【0166】
とくに、シリコンを含有する負極では体積増加が問題となる場合があったが、鎖状フッ素化エステル化合物及び鎖状フッ素化エーテルを含む電解液を用いることにより、高温環境下でも体積増加がさらに抑制された。さらに、Si/SiO/C複合体を含む負極を用いることにより、サイクル維持率、体積増加、抵抗上昇がさらに改善されることがわかった。
【0167】
表6〜10より、リチウムに対して4.5V以上で動作する正極活物質を用いた場合でも、鎖状フッ素化エステル化合物及び鎖状フッ素化エーテルを含む電解液を用いることにより、高温サイクルでのガス発生による体積増加が改善され、サイクル維持率が向上することがわかった。
【0168】
この出願は、2011年3月28日に出願された日本出願特願2011−070109及び2011年9月27日に出願されたPCT/JP2011/072036を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【0169】
以上、実施形態及び実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0170】
また、本実施形態の態様の一つは、以下の付記に記載の形態として把握することもできる。
【0171】
(付記1)
正極と、負極活物質を含む負極と、電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記電解液が、下記式(X1)で表される鎖状フッ素化エステル化合物と、下記式(X2)で表される鎖状フッ素化エーテル化合物を含み、
前記正極がリチウムに対して4.5V以上の電位で動作する正極活物質を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池;
【0172】
【化5】
【0173】
(式(X1)において、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基又はフッ素置換アルキル基を示し、R及びRの少なくとも一つはフッ素置換アルキル基である。)
【0174】
【化6】
【0175】
(式(X2)において、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基又はフッ素置換アルキル基を示し、R及びRの少なくとも一つはフッ素置換アルキル基である。)。
【0176】
(付記2)
前記正極活物質が下記式(XA)で示されるリチウム金属複合酸化物である付記1に記載のリチウムイオン二次電池;
【0177】
Li(MMn2−x−y)(O4−w) (XA)
【0178】
(式(XA)中、0.4≦x≦1.2、0≦y、x+y<2、0≦a≦1.2、0≦w≦1である。MはCo、Ni、Fe、Cr及びCuからなる群より選ばれる少なくとも一種である。Yは、Li、B、Na、Mg、Al、Ti、Si、K及びCaからなる群より選ばれる少なくとも一種である。Zは、F及びClからなる群より選ばれる少なくとも一種である。)。
【0179】
(付記3)
式(XA)において、MがNiであり、YがTi及びAlからなる群より選ばれる少なくとも一種である付記2に記載のリチウムイオン二次電池。
【0180】
(付記4)
前記負極活物質が炭素材料を含む付記1乃至3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【0181】
(付記5)
前記負極活物質がリチウムと合金可能な金属(a)を含む付記1乃至3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【0182】
(付記6)
前記金属(a)がシリコンである付記5に記載のリチウムイオン二次電池。
【0183】
(付記7)
前記負極活物質が、さらに、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る金属酸化物(b)、及びリチウムイオンを吸蔵、放出し得る炭素材料(c)を含む付記5又は6に記載のリチウムイオン二次電池。
【0184】
(付記8)
前記金属(a)がシリコンであり、前記金属酸化物(b)がシリコン酸化物である付記7に記載のリチウムイオン二次電池。
【0185】
(付記9)
前記酸化シリコンの少なくとも一部がアモルファス構造を有し、前記シリコンの少なくとも一部が前記酸化シリコン中に分散している付記8に記載のリチウムイオン二次電池。
【0186】
(付記10)
及びRは、それぞれ独立に、フッ素置換アルキル基である付記1乃至9のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【0187】
(付記11)
がアルキル基であり、Rがフッ素置換アルキル基である付記1乃至9のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【0188】
(付記12)
がフッ素置換アルキル基であり、Rがアルキル基である付記1乃至9のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【0189】
(付記13)
前記鎖状フッ素化エステル化合物は、下記(X3)で表される付記1乃至12のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池;
【0190】
F(CZCOO(CZCH (X3)
【0191】
(式(X3)において、nは1〜4であり、mは1〜4であり、Z〜Zは、それぞれ独立に、フッ素原子または水素原子である。ただし、Z〜Zの少なくとも1つはフッ素原子である。)。
【0192】
(付記14)
前記鎖状フッ素化エーテル化合物は、下記式(X4)で表される付記1乃至13のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池;
【0193】
1−(CX−CHO−(CX−X (X4)
【0194】
(式(X4)において、nは1〜8、mは2〜4であり、X〜Xは、それぞれ独立に、フッ素原子または水素原子である。ただし、X〜Xの少なくとも1つはフッ素原子であり、X〜Xの少なくとも1つはフッ素原子である。)。
【0195】
(付記15)
前記電解液は、さらに、カーボネート化合物を含む付記1乃至14のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【0196】
(付記16)
前記電解液は、支持塩と、前記鎖状フッ素化エステル化合物、前記鎖状フッ素化エーテル化合物及び前記カーボネート化合物を含む非水溶媒と、を含み、
前記鎖状フッ素化エステル化合物の前記非水溶媒中の含有量が1〜15体積%であり、前記鎖状フッ素化エーテル化合物の前記非水溶媒中の含有量が10〜45体積%であり、前記カーボネート化合物の前記非水溶媒中の含有量が30〜89体積%である付記15に記載のリチウムイオン二次電池。
【0197】
(付記17)
前記負極は結着剤を含み、該結着剤が、ポリイミドまたはポリアミドイミドである付記1乃至16のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【0198】
(付記18)
積層ラミネート構造を有する付記1乃至17のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【0199】
(付記19)
前記外装体がアルミニウムラミネートフィルムである付記18に記載のリチウムイオン二次電池。
【産業上の利用可能性】
【0200】
本実施形態は、電源を必要とするあらゆる産業分野、ならびに電気的エネルギーの輸送、貯蔵および供給に関する産業分野にて利用することができる。具体的には、携帯電話、ノートパソコンなどのモバイル機器の電源;電気自動車、ハイブリッドカー、電動バイク、電動アシスト自転車などの電動車両を含む、電車や衛星や潜水艦などの移動・輸送用媒体の電源;UPSなどのバックアップ電源;太陽光発電、風力発電などで発電した電力を貯める蓄電設備;などに、利用することができる。
【符号の説明】
【0201】
a 負極
b セパレータ
c 正極
d 負極集電体
e 正極集電体
f 正極端子
g 負極端子
図1