【実施例】
【0015】
図1(A)に示すように、本実施例における空気調和機1は、屋外に設置される室外機2と、室外機2に液管4およびガス管5で接続された室内機3とを備えている。詳細には、液管4は、一端が室外機2の閉鎖弁25に、他端が室内機3の液管接続部34に接続されている。また、ガス管5は、一端が室外機2の閉鎖弁26に、他端が室内機3のガス管接続部35に接続されている。以上により、空気調和機1の冷媒回路10が構成されている。
【0016】
まずは、室外機2について説明する。室外機2は、圧縮機20と、四方弁22と、室外熱交換器23と、液管4の一端が接続された閉鎖弁25と、ガス管5の一端が接続された閉鎖弁26と、アキュムレータ21と、室外ファン24とを備えている。そして、室外ファン24を除くこれら各装置が以下で詳述する各冷媒配管で相互に接続されて、冷媒回路10の一部をなす室外機冷媒回路10aを構成している。
【0017】
圧縮機20は、図示しないインバータにより回転数が制御されるモータ201によって駆動されることで、運転能力を可変できる能力可変型圧縮機である。圧縮機20の冷媒吐出側は、四方弁22のポートaに吐出管61で接続されており、また、圧縮機20の冷媒吸入側は、アキュムレータ21の冷媒流出側に吸入管66で接続されている。
【0018】
四方弁22は、冷媒の流れる方向を切り換えるための弁であり、a、b、c、dの4つのポートを備えている。ポートaは、上述したように圧縮機20の冷媒吐出側に吐出管61で接続されている。ポートbは、室外熱交換器23の一方の冷媒出入口と冷媒配管62で接続されている。ポートcは、アキュムレータ21の冷媒流入側と冷媒配管65で接続されている。そして、ポートdは、閉鎖弁26と室外機ガス管64で接続されている。
【0019】
室外熱交換器23は、冷媒と、後述する室外ファン24の回転により室外機2内部に取り込まれた外気とを熱交換させるものである。室外熱交換器23の一方の冷媒出入口は、上述したように四方弁22のポートbに冷媒配管62で接続され、他方の冷媒出入口は室外機液管63で閉鎖弁25に接続されている。
【0020】
膨張弁27は、室外機液管63に設けられている。膨張弁27は電子膨張弁である。膨張弁27の開度制御の詳細な説明は、後述する。
【0021】
室外ファン24は樹脂材で形成されており、室外熱交換器23の近傍に配置されている。室外ファン24は、図示しないファンモータによって回転することで図示しない吸込口から室外機2内部へ外気を取り込み、室外熱交換器23において冷媒と熱交換した外気を図示しない吹出口から室外機2外部へ放出する。
【0022】
アキュムレータ21は、上述したように、冷媒流入側が四方弁22のポートcと冷媒配管65で接続され、冷媒流出側が圧縮機20の冷媒吸入側と吸入管66で接続されている。アキュムレータ21は、冷媒配管65からアキュムレータ21内部に流入した冷媒をガス冷媒と液冷媒とに分離してガス冷媒のみを圧縮機20に吸入させる。
【0023】
以上説明した構成の他に、室外機2には各種のセンサが設けられている。
図1(A)に示すように、吐出管61には、圧縮機20から吐出される冷媒の温度を検出する吐出温度センサ73が設けられている。
【0024】
室外熱交換器23には、室外熱交換器23から流出、または、室外熱交換器23に流入する冷媒の温度を検知するための室外熱交換器温度センサ75が設けられている。そして、室外機2の図示しない吸込口付近には、室外機2内に流入する外気の温度、すなわち外気温度を検出する外気温度センサ76が備えられている。
【0025】
また、室外機2には、室外機制御手段100が備えられている。室外機制御手段100は、室外機2の図示しない電装品箱に格納されている制御基板に搭載されている。
図1(B)に示すように、室外機制御手段100は、CPU110と、記憶部120と、通信部130と、検出値入力部140と、膨張弁制御部150とを備えている。
【0026】
記憶部120は、ROMやRAMで構成されており、室外機2の制御プログラムや各種センサからの検出信号に対応した検出値、圧縮機20や室外ファン24の制御状態等を記憶している。通信部130は、室内機3との通信を行うためのインターフェイスである。検出値入力部140は、室外機2の各種センサでの検出結果を取り込んでCPU110に出力する。膨張弁制御部150は、後述する膨張弁27の開度制御を行う。
【0027】
CPU110は、前述した室外機2の各種センサでの検出結果を検出値入力部140を介して取り込む。また、CPU110は、室内機3から送信される制御信号を通信部130を介して取り込む。また、CPU110は、取り込んだ検出結果や制御信号に基づいて、圧縮機20や室外ファン24の駆動制御を行う。さらには、CPU110は、取り込んだ検出結果や制御信号に基づいて、四方弁22の切り換え制御を行う。
【0028】
次に、
図1(A)を用いて、室内機3について説明する。室内機3は、室内熱交換器31と、液管4の他端が接続された液管接続部34と、ガス管5の他端が接続されたガス管接続部35と、室内ファン33とを備えている。そして、室内ファン33を除くこれら各装置が以下で詳述する各冷媒配管で相互に接続されて、冷媒回路10の一部をなす室内機冷媒回路10bを構成している。
【0029】
室内熱交換器31は、冷媒と後述する室内ファン33により図示しない吸込口から室内機3内部に取り込まれた室内空気とを熱交換させるものであり、一方の冷媒出入口が液管接続部34に室内機液管68で接続され、他方の冷媒出入口がガス管接続部35に室内機ガス管69で接続されている。室内熱交換器31は、室内機3が冷房運転を行う場合は蒸発器として機能し、室内機3が暖房運転を行う場合は凝縮器として機能する。尚、液管接続部34やガス管接続部35では、各冷媒配管が溶接やフレアナット等により接続されている。
【0030】
室内ファン33は樹脂材で形成されており、室内熱交換器31の近傍に配置されている。室内ファン31は、図示しないファンモータによって回転することで、図示しない吸込口から室内機3内に室内空気を取り込み、室内熱交換器31において冷媒と熱交換した室内空気を図示しない吹出口から室内へ吹き出す。
【0031】
以上説明した構成の他に、室内機3には各種のセンサが設けられている。室内熱交換器31には、室内熱交換器31を通過する冷媒の温度を検出する室内熱交換器温度センサ78が設けられている。そして、室内機3の図示しない吸込口付近には、室内機3内に流入する室内空気の温度、すなわち室内温
度を検出する室内温度センサ79が備えられている。
【0032】
次に、本実施形態における空気調和機1の空調運転時の冷媒回路10における冷媒の流れや各部の動作について、
図1(A)を用いて説明する。尚、以下の説明では、室内機3が冷房運転を行う場合について説明し、暖房運転を行う場合については詳細な説明を省略する。また、
図1(A)における矢印は冷房運転時の冷媒の流れを示している。
【0033】
図1(A)に示すように、室内機3が冷房運転を行う場合、室外機制御手段100は、四方弁22を実線で示す状態、すなわち、四方弁22のポートaとポートbとが連通するよう、また、ポートcとポートdとが連通するよう、切り換える。これにより、室外熱交換器23が凝縮器として機能するとともに、室内熱交換器31が蒸発器として機能する。
【0034】
圧縮機20から吐出された高圧の冷媒は、吐出管61を流れて四方弁22に流入し、四方弁22から冷媒配管62を流れて室外熱交換器23に流入する。室外熱交換器23に流入した冷媒は、室外ファン24の回転により室外機2内部に取り込まれた外気と熱交換を行って凝縮する。室外熱交換器23から流出した冷媒は室外機液管63を流れ、膨張弁27を通過するときに減圧されて低圧の冷媒となる。その後、閉鎖弁25を介して液管4に流入する。
【0035】
液管4を流れて液管接続部34を介して室内機3に流入した冷媒は、室内機液管68を流れ、室内機液管68から室内熱交換器31に流入し、室内ファン33の回転により室内機3内部に取り込まれた室内空気と熱交換を行って蒸発する。このように、室内熱交換器31が蒸発器として機能し、室内熱交換器31で冷媒と熱交換を行い冷却された室内空気が図示しない吹出口から室内に吹き出されることによって、室内機3が設置された室内の冷房が行われる。
【0036】
室内熱交換器31から流出した冷媒は室内機ガス管69を流れガス管接続部35ガス管5に流入する。ガス管5を流れ閉鎖弁26を介して室外機2に流入した冷媒は、順に室外機ガス管64、四方弁22、冷媒配管65、アキュムレータ21、吸入管66を流れ、圧縮機20に吸入されて再び圧縮される。
以上説明したように冷媒回路10を冷媒が循環することで、空気調和機1の冷房運転が行われる。
【0037】
尚、室内機3が暖房運転を行う場合、室外機制御手段100は、四方弁22が破線で示す状態、すなわち、四方弁22のポートaとポートdとが連通するよう、また、ポートbとポートcとが連通するよう、切り換える。これにより、室外熱交換器23が蒸発器として機能するとともに、室内熱交換器31が凝縮器として機能する。
【0038】
次に、膨張弁27の制御方法について詳細に説明する。
【0039】
膨張弁27の制御は冷媒回路10内の冷媒循環量を調節するために行う。冷媒循環量を調節することで冷房・暖房能力を調整し、且つ、圧縮機20の適正な冷媒吸入状態を保っている。これによって、蒸発器(暖房時は室外熱交換器23、冷房時は室内熱交換器31)の熱交換効率及び圧縮機20の信頼性を向上させることができる。
【0040】
一方、圧縮機20は、前述したように内部にモータ201を備えており、モータ201の巻線には使用上限温度がある。巻線が使用上限温度を超えると絶縁部の劣化や焼損等が発生するおそれがある。巻線は圧縮機20内の吐出側で冷媒に晒されているため、圧縮機の信頼性を保つためには冷媒の吐出温度が巻線の使用上限温度のような高温にならないようにする必要がある。そこで、記憶部120は圧縮機20の吐出温度が所定温度(耐熱温度)を超えた場合に圧縮機20の運転を停止する圧縮機保護制御を組み込んでいる。
【0041】
膨張弁27の開度制御は、要求される冷房又は暖房能力に応じて行われる。一般的な制御方法として、圧縮機20の吸入冷媒が乾き度=1になるように制御する制御方法がある。これは、圧縮機20の吸入冷媒が完全に気相となり、さらに過熱度も取れた状態となると圧縮機20の吐出温度が上昇して信頼性を損なうためである。また、圧縮機20の吸入冷媒が乾き度<1の場合でも、蒸発器における熱交換効率が低下し、さらに、圧縮機20に蒸発しきれなかった液冷媒が吸入され液圧縮を引き起こしてしまう。したがって、吸入乾き度=1の状態を目標として膨張弁を制御している。
【0042】
本実施例の記憶部120は、圧縮機20の吐出温度が理論吐出温度(吸入乾き度=1の時の吐出温度)に近づくように膨張弁27の開度制御を行うフィードバック開度制御を組み込んでいる。
【0043】
フィードバック開度制御とは、凝縮温度と蒸発温度とから圧縮機の吸入冷媒の乾き度が最適(乾き度=1)となるような理論吐出温度を算出し、検出吐出温度が理論吐出温度に近づくように膨張弁27の開度を調整する制御のことをいう。具体的には、理論吐出温度と検出吐出温度との温度差が大きいときは開度の絞り量を大きく、温度差が小さいときは開度の絞り量を小さくしている。
【0044】
このとき、理論吐出温度の温度域の高さは冷媒の断熱圧縮指数によって左右される。例えば、R32はR410Aに比べて断熱圧縮指数が高いので理論吐出温度が高くなる。したがって、R410Aを用いた場合では異常な運転条件でない限り理論吐出温度が耐熱温度を超えることはない圧縮機であっても、R32を用いた場合だとR410Aに比べて理論吐出温度が耐熱温度に近くなるか、若しくは耐熱温度を超えてしまう。
図2には、同じ圧縮機を用いた場合のR410Aの理論吐出温度の温度範囲(1)とR32の理論吐出温度の温度範囲(2)の比較が示されている。R410A(1)では、理論吐出温度は耐熱温度b℃よりも低いd℃が上限である。それに対してR32(2)では、理論吐出温度は耐熱温度b℃を上回るa℃まで上昇してしまう。
【0045】
吐出温度が耐熱温度を超えてしまうと、圧縮機保護制御によって圧縮機20が運転停止してしまう。これを避けるため、耐熱温度よりも十分に低い温度域で安定させて運転させることが望ましい。一方、吐出温度が理論吐出温度(吸入乾き度=1のときの吐出温度)となる運転が最適な状態である。したがって、理論吐出温度が耐熱温度に近い値であるか、若しくは耐熱温度以上である場合であっても、少しでも理論吐出温度に近づくような高い吐出温度で安定した運転をさせたいという要求がある。
図2を用いて説明すると、耐熱温度b℃に近いc℃で安定させた運転が好ましい。この場合、耐熱温度よりも低く、耐熱温度に近い温度域で理論吐出温度を安定させることによって、圧縮機20の信頼性を保ちつつ、空気調和機1の能力低下の抑制を図れることになる。しかし、圧縮機20の回転数の上昇や負荷(室温や室内風量)の変動などにより凝縮温度と蒸発温度は変化するため、理論吐出温度もそれに伴って変化し、理論吐出温度が耐熱温度を超えることがある。このとき、フィードバック開度制御では実吐出温度は理論吐出温度に追従するため、実吐出温度が耐熱温度を超えてしまい、圧縮機20が停止してしまう。なお、圧縮機の耐熱温度を上げることでも本課題を解決することは可能だが、製品コストの増大に繋がってしまう。
【0046】
このように、R32等の断熱圧縮指数が高い冷媒を使用した空気調和装置であって、理論吐出温度が耐熱温度に近い温度域で運転するものにおいて、負荷変動等により理論吐出温度が変化する場合でも、変化を予測して吐出温度が耐熱温度以上にならないようにする制御が望まれていた。よって、本発明の制御を行う。
【0047】
図5は、圧縮機20起動後の膨張弁27の開度制御方法を示すフローチャートである。
【0048】
まず、圧縮機20起動後、初期パルス制御を行う(ST1)。圧縮機20起動直後は圧縮機20の回転数が目標回転数に向かって増加しており、冷凍サイクル中の凝縮温度及び蒸発温度が安定しておらず、理論吐出温度が算出できないため、フィードバック開度制御を行うことはできない。その代りに、膨張弁27の開度を適正な冷媒流量が確保できる開度に予め調整しておく初期パルス制御を行っている。これによって、圧縮機20の回転数が目標値に到達したときに膨張弁27の開度が不十分だと吐出温度が急激に上昇し、耐熱温度をオーバーシュートすることを防止している。初期パルス制御を開始したら、
図6に示すように、記憶部120から初期パルスの情報をCPU110に出力し、CPU110は取り込んだ初期パルスの情報を膨張弁27に送信し開度制御を行う(ST1−1)。その後、初期パルス制御を終了する。なお、パルスとは膨張弁27の開度を制御する際の制御量であり、加算されると膨張弁27の開度は開方向に制御される、減算されると膨張弁27の開度は閉方向に制御される。
【0049】
次に、圧縮機20の目標回転数(要求rps)が変化したかどうかを判定し(ST2)、変化があった場合は回転数パルス制御を行う(ST3)。なお、回転数パルス制御(ST3)については後述する。回転数変化がなかった場合、圧縮機20の起動から所定時間t1(分)経過したかどうかを判定する(ST4)。なお、この所定時間t1は、圧縮機20が室外機制御手段100の要求した回転数に到達するための予め設定した時間である。所定時間を経過していない場合はST2に戻る。
【0050】
次に、回転数パルス制御(ST3)について説明する。圧縮機20の回転数(rps)変化があった場合、本制御を行う。検出吐出温度(Td)は、理論吐出温度(Tdi)の短時間での変化に対して追従性が悪い。したがって、検出吐出温度(Td)に基づいて行うフィードバック開度制御では検出吐出温度(Td)を安定させるのに時間が掛かってしまい、検出吐出温度(Td)が圧縮機20の耐熱温度に到達する場合がある。よって、冷媒循環量が変化した時点で膨張弁27の開度を制御する必要があり、この場合には圧縮機20の回転数変化毎に変化量に応じて開度制御を行う。回転数パルス制御では、
図6に示すように、圧縮機20の回転数(rps)を検出し(ST3−1)、CPU110は検出した回転数(rps)の大きさに応じて予め定められた加算パルスを記憶部120から取り出す(ST3−2)。その後、CPU110は取り込んだ加算パルスの情報を膨張弁27に送信し開度制御を行う(ST3−3)。その後、回転数パルス制御を終了する。
【0051】
ST4において圧縮機起動開始から所定時間t1が経過した場合、CPU110は検出値入力部140から凝縮温度(Tc)、蒸発温度(Te)、吐出温度(Td)、圧縮機回転数(rps)を取り込む(ST5)。空気調和機1が暖房運転の場合、室外熱交換器23は蒸発器、室内熱交換器31は凝縮器として機能するため、室外機制御手段100の検出値入力部140は、室内熱交換器温度センサ78と室外熱交換器温度センサ75とからそれぞれが検出した凝縮温度と蒸発温度を取り込んでCPU110に出力する。その後、凝縮温度(Tc)、蒸発温度(Te)および圧縮機回転数(rps)に基づいて理論吐出温度(Tdi)を算出する(ST6)。理論吐出温度(Tdi)を算出した後、フィードバック(FB)開度制御を行う(ST7)。
【0052】
フィードバック開度制御の態様は前述のとおり、凝縮温度と蒸発温度とから圧縮機の吸入冷媒の乾き度が最適(乾き度=1)となるような理論吐出温度に検出吐出温度が近づくように膨張弁27の開度調整を行う制御である。まず、フィードバック開度制御では
図7に示すように、前回のフィードバック開度制御から所定時間t2が経過したかを判定する(ST7−1)。なお、この所定時間t2がはフィードバック開度制御の制御間隔であり、圧縮機20起動後初めてのフィードバック開度制御であった場合もt2が経過したものとみなす。所定時間t2がを経過していない場合はそのままフィードバック開度制御を終了し、所定時間t2がを経過した場合は、CPU110はST5で検出した吐出温度(Td)とST6で算出した理論吐出温度(Tdi)の差(Tdx=Tdi−Td)を算出し、差(Tdx)の大きさに応じて予め定められた加算パルスを記憶部120から取り出す(ST7−2)。その後、CPU110は取り込んだ加算パルスの情報を膨張弁27に送信し開度制御を行う(ST7−3)。その後、フィードバック開度制御を終了する。
【0053】
その後、湿り制御を行う(ST8)。理論吐出温度(Tdi)が短時間に変化する要因は回転数(rps)の変化だけではなく、室内風量や室温等の負荷変動によっても変化が発生する。上述した圧縮機20の回転数(rps)に応じた開度制御では負荷変動による理論吐出温度(Tdi)の変化には対応できない。よって、現在の吐出温度(Td)が耐熱温度に近い場合には不要な圧縮機保護停止制御が発生するおそれがある。これを避けるため、膨張弁27の開度調節が必要になる状況の発生を検出した時点で予め膨張弁27の開度を調整する予測制御が必要となる。そこで、理論吐出温度(Tdi)がある閾値を超えた場合、その閾値との差の大きさに応じて膨張弁27の開度を開く方向に制御する。本実施例において、これを湿り制御と呼ぶ。
【0054】
次に、湿り制御の具体的な制御態様について、
図2、
図3、
図4及び
図8を用いて詳細に説明する。
【0055】
湿り制御では、耐熱温度(
図2におけるb℃を指す)より低い温度の目標吐出温度上限値(Tdl)という閾値を設けており(
図2におけるc℃を指す)、この目標吐出温度上限値(Tdl)と理論吐出温度(Tdi)との差から湿らせ度合い(湿りレベル)を算出する(
図8のST8−1)。湿りレベル(n)の算出方法は、
n=(Tdi−Tdl)/d+1(Tdi<Tdlのときn=0、それ以外のときnは整数:小数点以下切り捨て)
とする。このとき、dは湿りレベルの幅であって、例えばd=2とした場合(
図3)、2℃毎にレベルが変化することを意味する。
図3は目標吐出温度上限値(Tdl)と理論吐出温度(Tdi)の差に応じた湿りレベル(n)の変化を表した図である。
【0056】
図3に示すように、目標吐出温度上限値(Tdl)と理論吐出温度(Tdi)の差(Tdx)が上昇している場合は、当該差が0、+2、+4、+6を超える時に湿りレベル(n)がI、II、III、IVとそれぞれ変化する。湿りレベル(n)が変化した場合、
図4に示すように、変化後の湿りレベルに応じて予め定められた加算パルスを記憶部120から取り出す(
図8のST8−2)。その後、CPU110は取り込んだ加算パルスの情報を膨張弁27に送信し開度制御を行う(
図8のST8−3)。その後、湿り制御を終了する。このとき、例えば湿りレベルが0からIに変化した場合、制御パルスは2%加算される。
また、ハンチングを防止するために上昇時と下降時とでヒステリシスを設けている(3℃)。
【0057】
上記した湿り制御によれば、負荷変動によって短時間に理論吐出温度の変化が発生した場合でも、湿りレベルの大きさに応じて膨張弁27の開度調整を行える。よって、圧縮機20の吐出温度を耐熱温度よりも低く、且つ、耐熱温度に近い温度で安定させることができ、圧縮機20の信頼性を保ちつつ、空気調和機1の暖房能力及び冷房能力の向上が図れることになる。
【0058】
図5において、湿り制御(ST8)が終了した後、圧縮機20の停止指令があるか判定(ST9)し、指令がなければST2まで戻って回転数パルス制御、フィードバック開度制御及び湿り制御を各ステップに従って行う。停止指令がある場合は圧縮機20を停止する。
【0059】
また、本実施形態では、湿りレベルの幅を2℃、ヒステリシスを3℃に設定しているが、本発明の実施形態はこの限りでなく、試験結果等に基づいて適宜設定するものとしている。なお、
図4における、パルス加算率についても、本実施形態では、湿りレベルが0からIに上昇した場合+2%、IからIIに上昇した場合+2%等に設定しているが、湿りレベルの幅やヒステリシスと同様に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。