特許第6191514号(P6191514)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191514
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】樹脂組成物、及び樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/10 20060101AFI20170828BHJP
   C08K 5/1535 20060101ALI20170828BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20170828BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   C08L1/10
   C08K5/1535
   C08K5/521
   C08K5/42
【請求項の数】12
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-49325(P2014-49325)
(22)【出願日】2014年3月12日
(65)【公開番号】特開2015-172167(P2015-172167A)
(43)【公開日】2015年10月1日
【審査請求日】2016年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士ゼロックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八百 健二
【審査官】 中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/041388(WO,A1)
【文献】 特開2011−126955(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/040464(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0212244(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるセルロース誘導体と、下記一般式(2)で表されるイソソルバイド誘導体と、を含む樹脂組成物。
【化1】

一般式(1)中、A、A、A、A、A及びAはそれぞれ独立に、水素原子、又はアシル基を表し、nは任意の整数を表し、但し、分子中に存在するA、A、A、A、A及びAがすべて水素原子であることはない
一般式(2)中、R及びRはそれぞれ独立に、単結合、アルキレン基、アリーレン基、又はアルキレン基とアリーレン基が連結した2価の基を表す。
【請求項2】
前記一般式(1)中、A、A、A、A、A及びAはそれぞれ独立に、水素原子、アセチル基、又はプロピオニル基である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記セルロース誘導体の樹脂組成物全体に占める質量割合が、76質量%以上99質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記イソソルバイド誘導体の樹脂組成物全体に占める質量割合が、1質量%以上30質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記セルロース誘導体の重量平均分子量が15万以上20万以下である、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、リン酸エステル及びスルホン酸基含有化合物から選ばれる少なくとも1種の難燃剤を含む、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
下記一般式(1)で表されるセルロース誘導体と、下記一般式(2)で表されるイソソルバイド誘導体と、を含む樹脂成形体。
【化2】

一般式(1)中、A、A、A、A、A及びAはそれぞれ独立に、水素原子、又はアシル基を表し、nは任意の整数を表し、但し、分子中に存在するA、A、A、A、A及びAがすべて水素原子であることはない
一般式(2)中、R及びRはそれぞれ独立に、単結合、アルキレン基、アリーレン基、又はアルキレン基とアリーレン基が連結した2価の基を表す。
【請求項8】
前記一般式(1)中、A、A、A、A、A及びAはそれぞれ独立に、水素原子、アセチル基、又はプロピオニル基である、請求項7に記載の樹脂成形体。
【請求項9】
前記セルロース誘導体の樹脂成形体全体に占める質量割合が、76質量%以上99質量%以下である、請求項7又は請求項8に記載の樹脂成形体。
【請求項10】
前記イソソルバイド誘導体の樹脂成形体全体に占める質量割合が、1質量%以上30質量%以下である、請求項7又は請求項8に記載の樹脂成形体。
【請求項11】
前記セルロース誘導体の重量平均分子量が15万以上20万以下である、請求項7〜請求項10のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項12】
さらに、リン酸エステル及びスルホン酸基含有化合物から選ばれる少なくとも1種の難燃剤を含む、請求項7〜請求項11のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、及び樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロース誘導体を含有する種々の樹脂組成物が提供され、各種の樹脂成形体の製造に使用されている。例えば、特許文献1には、セルロースエステル系樹脂50〜99重量%と、所定の溶解度パラメーターを示す可塑剤50〜1重量%とを含有する樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−291246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、成形性に優れ且つ成形体にブリードが発生しにくい樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
請求項1に係る発明は、
下記一般式(1)で表されるセルロース誘導体と、下記一般式(2)で表されるイソソルバイド誘導体と、を含む樹脂組成物。
【0006】
【化1】
【0007】
一般式(1)中、A、A、A、A、A及びAはそれぞれ独立に、水素原子、又はアシル基を表し、nは任意の整数を表し、但し、分子中に存在するA、A、A、A、A及びAがすべて水素原子であることはない
一般式(2)中、R及びRはそれぞれ独立に、単結合、アルキレン基、アリーレン基、又はアルキレン基とアリーレン基が連結した2価の基を表す。
【0008】
請求項2に係る発明は、
前記一般式(1)中、A、A、A、A、A及びAはそれぞれ独立に、水素原子、アセチル基、又はプロピオニル基である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【0009】
請求項3に係る発明は、
前記セルロース誘導体の樹脂組成物全体に占める質量割合が、76質量%以上99質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【0010】
請求項4に係る発明は、
前記イソソルバイド誘導体の樹脂組成物全体に占める質量割合が、1質量%以上30質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【0011】
請求項5に係る発明は、
前記セルロース誘導体の重量平均分子量が15万以上20万以下である、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0012】
請求項6に係る発明は、
さらに、リン酸エステル及びスルホン酸基含有化合物から選ばれる少なくとも1種の難燃剤を含む、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0013】
請求項7に係る発明は、
下記一般式(1)で表されるセルロース誘導体と、下記一般式(2)で表されるイソソルバイド誘導体と、を含む樹脂成形体。
【0014】
【化2】
【0015】
一般式(1)中、A、A、A、A、A及びAはそれぞれ独立に、水素原子、又はアシル基を表し、nは任意の整数を表し、但し、分子中に存在するA、A、A、A、A及びAがすべて水素原子であることはない
一般式(2)中、R及びRはそれぞれ独立に、単結合、アルキレン基、アリーレン基、又はアルキレン基とアリーレン基が連結した2価の基を表す。
【0016】
請求項8に係る発明は、
前記一般式(1)中、A、A、A、A、A及びAはそれぞれ独立に、水素原子、アセチル基、又はプロピオニル基である、請求項7に記載の樹脂成形体。
【0017】
請求項9に係る発明は、
前記セルロース誘導体の樹脂成形体全体に占める質量割合が、76質量%以上99質量%以下である、請求項7又は請求項8に記載の樹脂成形体。
【0018】
請求項10に係る発明は、
前記イソソルバイド誘導体の樹脂成形体全体に占める質量割合が、1質量%以上30質量%以下である、請求項7又は請求項8に記載の樹脂成形体。
【0019】
請求項11に係る発明は、
前記セルロース誘導体の重量平均分子量が15万以上20万以下である、請求項7〜請求項10のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【0020】
請求項12に係る発明は、
さらに、リン酸エステル及びスルホン酸基含有化合物から選ばれる少なくとも1種の難燃剤を含む、請求項7〜請求項11のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に係る発明によれば、前記イソソルバイド誘導体を含まず別の可塑剤を含む場合に比べ、成形性に優れ且つ成形体にブリードが発生しにくい樹脂組成物が提供される。
請求項2に係る発明によれば、A乃至Aにアセチル基及びプロピオニル基以外のアシル基を含む場合に比べ、成形性により優れ且つ成形体にブリードがより発生しにくい樹脂組成物が提供される。
請求項3に係る発明によれば、前記セルロース誘導体の質量割合が前記範囲から外れる場合に比べ、成形性により優れる樹脂組成物が提供される。
請求項4に係る発明によれば、前記イソソルバイド誘導体の質量割合が前記範囲から外れる場合に比べ、成形性により優れる樹脂組成物が提供される。
請求項5に係る発明によれば、前記セルロース誘導体の重量平均分子量が前記範囲から外れる場合に比べ、成形性により優れ且つ成形体にブリードがより発生しにくい樹脂組成物が提供される。
請求項6に係る発明によれば、難燃剤としてリン酸エステル又はスルホン酸基含有化合物を含まず別の化合物を含む場合に比べ、難燃性により優れる樹脂組成物が提供される。
【0022】
請求項7に係る発明によれば、前記イソソルバイド誘導体を含まず別の可塑剤を含む場合に比べ、ブリードが発生しにくい樹脂成形体が提供される。
請求項8に係る発明によれば、A乃至Aにアセチル基及びプロピオニル基以外のアシル基を含む場合に比べ、ブリードがより発生しにくい樹脂成形体が提供される。
請求項9に係る発明によれば、前記セルロース誘導体の質量割合が前記範囲から外れる場合に比べ、ブリードが発生しにくい樹脂成形体がより確実に提供される。
請求項10に係る発明によれば、前記イソソルバイド誘導体の質量割合が前記範囲から外れる場合に比べ、ブリードが発生しにくい樹脂成形体がより確実に提供される。
請求項11に係る発明によれば、前記セルロース誘導体の重量平均分子量が前記範囲から外れる場合に比べ、ブリードがより発生しにくい樹脂成形体が提供される。
請求項12に係る発明によれば、難燃剤としてリン酸エステル又はスルホン酸基含有化合物を含まず別の化合物を含む場合に比べ、難燃性により優れる樹脂成形体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。これらの説明及び実施例は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
【0024】
本明細書において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0025】
<樹脂組成物>
本実施形態に係る樹脂組成物は、下記一般式(1)で表されるセルロース誘導体と、下記一般式(2)で表されるイソソルバイド誘導体と、を含有する。
【0026】
【化3】
【0027】
一般式(1)中、A、A、A、A、A及びAはそれぞれ独立に、水素原子、又はアシル基を表し、nは任意の整数を表し、但し、分子中に存在するA、A、A、A、A及びAがすべて水素原子であることはない
一般式(2)中、R及びRはそれぞれ独立に、単結合、アルキレン基、アリーレン基、又はアルキレン基とアリーレン基が連結した2価の基を表す。
【0028】
本実施形態に係る樹脂組成物は、前記一般式(1)で表されるセルロース誘導体を主成分として含む。本実施形態において主成分とは、樹脂組成物に含まれる各成分の中で最も含有割合(質量基準)が大きい成分を言う。
【0029】
前記一般式(1)で表されるセルロース誘導体を主成分とし、前記一般式(2)で表されるイソソルバイド誘導体を含む樹脂組成物は、成形性に優れ且つ成形体にブリードが発生しにくい。その機序として推測されることを、以下に説明する。
【0030】
セルロース誘導体は、分子中に水酸基があると分子間の水素結合の影響により、分解温度である230℃乃至250℃の温度にあっても、流動性が極めて低い。そのため、セルロース誘導体を主成分とする樹脂組成物は、射出成形をはじめとする流動性が求められる成形方法への適合性が悪く、成形品の形状を自由に形作ることが難しかった。従来、セルロース誘導体の流動性を向上させる技術として、フタル酸エステルやリン酸エステルに代表される可塑剤を添加する技術があるが、これらの可塑剤を添加すると、樹脂組成物に含まれている添加剤が成形体の表面にしみ出してくる現象、所謂ブリードが発生しやすい。
【0031】
これに対し本発明者は、セルロース誘導体を含む樹脂組成物に、一般式(2)で表されるイソソルバイド誘導体を添加することによって、樹脂組成物の流動性が著しく向上することを見出した。該イソソルバイド誘導体は、脂環構造に結合した置換基の末端に水酸基を有するので、セルロース誘導体の分子中の水酸基との相互作用によって、セルロース誘導体に対する親和性が高く、両者はよく混じり合うと考えられる。そのため、該イソソルバイド誘導体が、セルロース誘導体どうしの分子間相互作用を乱し、その結果、樹脂組成物の流動性を向上させるものと考えられる。
加えて、該イソソルバイド誘導体は、セルロース誘導体を含む樹脂組成物に添加されてもブリードを起しにくい。この効果は、該イソソルバイド誘導体がセルロース誘導体に水素結合で結合していることによると考えられる。
【0032】
本実施形態に係る樹脂組成物は、流動性に優れるほかに、溶剤に溶解させた場合にはレベリング性が良好である。一般式(2)で表されるイソソルバイド誘導体によってセルロース誘導体どうしの分子間相互作用が乱されるので、樹脂組成物の流動性が向上するためと考えられる。
【0033】
以下、本実施形態に係る樹脂組成物の成分を詳細に説明する。
【0034】
[セルロース誘導体]
本実施形態に係る樹脂組成物は、前記一般式(1)で表されるセルロース誘導体(単に「セルロース誘導体」とも言う。)を含有する。
【0035】
前記一般式(1)中、A乃至Aはそれぞれ独立に、水素原子、又はアシル基を表す。セルロース誘導体分子中にn個あるAは、全て同一でも一部同一でも互いに異なっていてもよい。n個あるA、n個あるA、n個あるA、n個あるA、n個あるAも、それぞれ、全て同一でも一部同一でも互いに異なっていてもよい。但し、分子中に存在するA、A、A、A、A及びAがすべて水素原子であることはない。
【0036】
前記一般式(1)で表されるセルロース誘導体は、セルロースの水酸基の少なくとも一部がアシル化されたセルロース誘導体である。本実施形態におけるセルロース誘導体のアシル化の程度は、D−グルコピラノース単位に3個ある水酸基の置換個数の分子内平均(以下「置換度」)で表す。本実施形態において置換度は、2.0以上2.9以下が望ましい。置換度が2.0以上であると、セルロース誘導体同士の分子間相互作用が緩和され、樹脂組成物の流動性がより高まる。一方、置換度が2.9以下であると、セルロース誘導体と一般式(2)で表されるイソソルバイド誘導体との親和性がよく、ブリード発生がより抑制される。置換度は、上記の観点で、より望ましくは2.2以上2.5以下である。
【0037】
前記一般式(1)中のA乃至Aで表されるアシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等が挙げられる。アシル基としては、樹脂組成物の流動性がより高く、また、ブリード発生がより抑制される点で、アセチル基、又はプロピオニル基が望ましい。
【0038】
前記一般式(1)中、nは任意の整数を表す。nの範囲は特に制限されないが、例えば200以上750以下であり、望ましくは350以上500以下である。
【0039】
セルロース誘導体の重量平均分子量は、10万以上30万以下が望ましい。重量平均分子量が10万以上であると、ブリード発生がより抑制される。一方、重量平均分子量が30万以下であると、樹脂組成物の流動性がより高い。セルロース誘導体の重量平均分子量は、上記の観点で、より望ましくは15万以上20万以下である。
【0040】
セルロース誘導体の樹脂組成物全体に占める質量割合は、50質量%以上99質量%以下がよく、76質量%以上99質量%以下が望ましい。セルロース誘導体の質量割合が76質量%以上であると、流動性が適度となり、より確実に成形体が得られる。一方、一般式(2)で表されるイソソルバイド誘導体の含有量を確保して樹脂組成物の流動性を高め、確実に成形体を得る観点で、セルロース誘導体の質量割合は99質量%以下が望ましい。セルロース誘導体の質量割合は、上記の観点で、より望ましくは80質量%以上95質量%以下、更に望ましくは85質量%以上90質量%以下である。
【0041】
[イソソルバイド誘導体]
本実施形態に係る樹脂組成物は、前記一般式(2)で表されるイソソルバイド誘導体(単に「イソソルバイド誘導体」とも言う。)を含有する。
【0042】
前記一般式(2)中、R及びRで表されるアルキレン基としては、炭素数1以上6以下のアルキレン基が望ましく、炭素数1以上4以下のアルキレン基がより望ましく、炭素数2又は3のアルキレン基が更に望ましい。アルキレン基は、直鎖状、分岐状、及び環式のいずれであってもよい。具体的には、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等の直鎖状のアルキレン基;プロピレン基、iso−ブチレン基、tert−ブチレン基、iso−ペンチレン基、tert−ペンチレン基、iso−ヘキシレン基、tert−ヘキシレン基等の分岐状のアルキレン基;シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等の環式のアルキレン基;が挙げられる。
【0043】
前記一般式(2)中、R及びRで表されるアリーレン基としては、炭素数6以上12以下のアリーレン基が望ましい。具体的には、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等が挙げられ、フェニレン基が望ましい。アリーレン基は、アルキル基で置換されていてもよく、例えば、炭素数1以上4以下のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基等)で置換されていてもよい。
【0044】
前記一般式(2)中、R及びRで表される、アルキレン基とアリーレン基が連結した2価の基は、少なくとも1個のアルキレン基と少なくとも1個のアリーレン基とが連結した基であり、アルキレン基とアリーレン基のどちらが脂環構造側でもよく、アルキレン基とアリーレン基が交互に連結していてもよい。
アルキレン基としては、炭素数1以上6以下のアルキレン基が望ましく、炭素数1以上4以下のアルキレン基がより望ましく、炭素数1又は2のアルキレン基が更に望ましい。アリーレン基としては、炭素数6以上12以下のアリーレン基が望ましく、フェニレン基がより望ましい。アリーレン基は、アルキル基で置換されていてもよく、例えば、炭素数1以上4以下のアルキル基で置換されていてもよい。
【0045】
前記2価の基は、具体的には、炭素数1以上4以下のアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、プロピレン基、iso−ブチレン基、tert−ブチレン基、シクロプロピレン基、シクロブチレン基等)とフェニレン基が連結した基が望ましく、炭素数1又は2のアルキレン基とフェニレン基が連結した基がより望ましい。この場合、アルキレン基とフェニレン基のどちらが脂環構造側でもよく、アルキレン基とフェニレン基が交互に連結していてもよい。
【0046】
以下にイソソルバイド誘導体の具体例を挙げるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0047】
【化4】
【0048】
【化5】
【0049】
イソソルバイド誘導体の樹脂組成物全体に占める質量割合は、1質量%以上30質量%以下が望ましい。イソソルバイド誘導体の質量割合が1質量%以上であると、樹脂組成物の流動性が適度となり、確実に成形体が得られる。一方、イソソルバイド誘導体の質量割合が30質量%以下であると、ブリード発生が抑制されつつ、流動性が適度となり、確実に成形体が得られる。イソソルバイド誘導体の質量割合は、上記の観点で、より望ましくは1質量%以上25質量%以下であり、更に望ましくは1質量%以上20質量%以下であり、更に望ましくは5質量%以上20質量%以下である。
【0050】
[難燃剤]
本実施形態に係る樹脂組成物は、さらに難燃剤を含有してもよい。難燃剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いてよく、例えば、リン系難燃剤、硫酸系難燃剤、窒素系難燃剤、無機水酸化物系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤などが挙げられる。本実施形態においては、リン酸エステル(縮合リン酸エステルを含む)、及びスルホン酸基含有化合物が望ましい。機序は定かではないが、セルロース誘導体及びイソソルバイド誘導体と組み合せた場合、他の難燃剤よりもリン酸エステル及びスルホン酸基含有化合物の方が、難燃性が高い。
【0051】
リン酸エステルとしては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチル等が挙げられる。
【0052】
縮合リン酸エステルとしては、例えば、ビスフェノールA型、ビフェニレン型、イソフタル型などの芳香族縮合リン酸エステルが挙げられる。具体的には、例えば、下記一般式(A)で表される縮合リン酸エステル、及び下記一般式(B)で表される縮合リン酸エステルが挙げられる。
【0053】
【化6】
【0054】
一般式(A)中、Q、Q、Q及びQはそれぞれ独立に、炭素数1以上6以下のアルキル基を表し、Q、Qはそれぞれ独立に、メチル基を表し、Q及びQはそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、m1、m2、m3及びm4はそれぞれ独立に、0以上3以下の整数を示し、m5及びm6はそれぞれ独立に、0以上2以下の整数を表し、n1は0以上10以下の整数を表す。
【0055】
一般式(B)中、Q、Q10、Q11及びQ12はそれぞれ独立に、炭素数1以上6以下のアルキル基を表し、Q13はメチル基を表し、m7、m8、m9及びm10はそれぞれ独立に、0以上3以下の整数を表し、m11は0以上4以下の整数を表し、n2は0以上10以下の整数を表す。
【0056】
縮合リン酸エステルは合成品でも市販品でもよい。縮合リン酸エステルの市販品として、例えば、大八化学工業社製の市販品である「PX200」、「PX201」、「PX202」、「CR741」等、アデカ社製の市販品である「アデカスタブFP2100」、「アデカスタブFP2200」等が挙げられる。
【0057】
スルホン酸基含有化合物としては、例えば、スルホン酸基又はスルホン酸塩基が導入されたポリマー、硫酸と塩基性化合物との塩、硫酸又は硫酸塩を表面に有するポリマー粒子等が挙げられ、具体的には、ポリスチレンスルホン酸カリウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、AS(アクリロニトリルスチレン)樹脂スルホン酸カリウム、AS樹脂スルホン酸ナトリウム、硫酸メラミン、硫酸グアニジン、硫酸又は硫酸カリウム被覆ポリスチレン粒子等が挙げられる。
【0058】
難燃剤の樹脂組成物全体に占める質量割合は、難燃性の向上とブリード抑制の観点で、1質量%以上30質量%以下が望ましく、5質量%以上25質量%以下がより望ましく、5質量%以上20質量%以下が更に望ましい。
【0059】
[その他の成分]
本実施形態に係る樹脂組成物は、必要に応じて、さらに、上述した以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、相溶化剤、可塑剤、酸化防止剤、離型剤、耐光剤、耐候剤、着色剤、顔料、改質剤、ドリップ防止剤、帯電防止剤、耐加水分解防止剤、充填剤、補強剤(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ミルドガラス、ガラスビーズ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミナ、ボロンナイトライド等)などが挙げられる。これらの成分の含有量は、樹脂組成物全体に対してそれぞれ、0質量%以上5質量%以下であることが望ましい。ここで、「0質量%」とはその他の成分を含まないことを意味する。
【0060】
本実施形態に係る樹脂組成物は、前記一般式(1)で表されるセルロース誘導体以外の他の樹脂を含有していてもよい。但し、他の樹脂は、成形機による成形性が低減しない範囲で配合する。
他の樹脂としては、例えば、従来公知の熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的には、ポリカーボネート樹脂;ポリプロピレン樹脂;ポリエステル樹脂;ポリオレフィン樹脂;ポリエステルカーボネート樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂;ポリスルフォン樹脂;ポリエーテルスルフォン樹脂;ポリアリーレン樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリビニルアセタール樹脂;ポリケトン樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリアリールケトン樹脂;ポリエーテルニトリル樹脂;液晶樹脂;ポリベンズイミダゾール樹脂;ポリパラバン酸樹脂;芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、及びシアン化ビニル化合物からなる群より選ばれる1種以上のビニル単量体を、重合若しくは共重合させて得られるビニル系重合体若しくは共重合体樹脂;ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂;シアン化ビニル−ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂;芳香族アルケニル化合物−ジエン−シアン化ビニル−N−フェニルマレイミド共重合体樹脂;シアン化ビニル−(エチレン−ジエン−プロピレン(EPDM))−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂;ポリオレフィン;塩化ビニル樹脂;塩素化塩化ビニル樹脂;などが挙げられる。これら樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
[樹脂組成物の製造方法]
本実施形態に係る樹脂組成物は、例えば、上記成分の混合物を溶融混練することにより製造される。ほかに、本実施形態に係る樹脂組成物は、例えば、上記成分を溶剤に溶解することにより製造される。溶融混練の手段としては公知の手段が挙げられ、具体的には例えば、二軸押出機、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等が挙げられる。
【0062】
<樹脂成形体>
本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物からなる。つまり、本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物と同じ組成で構成されている。
具体的には、本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物を成形して得られる。成形方法は、例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形、カレンダ成形、コーティング成形、キャスト成形、ディッピング成形、真空成形、トランスファ成形などを適用してよい。
【0063】
本実施形態に係る樹脂成形体の成形方法は、形状の自由度が高い点で、射出成形が望ましい。本実施形態に係る樹脂組成物は、流動性が高く射出成形を適用し得る。射出成形のシリンダ温度は、例えば200℃以上250℃以下であり、望ましくは210℃以上230℃以下である。射出成形の金型温度は、例えば40℃以上60℃以下であり、45℃以上55℃以下がより望ましい。射出成形は、例えば、日精樹脂工業製NEX150、日精樹脂工業製NEX70000、東芝機械製SE50D等の市販の装置を用いて行ってもよい。
【0064】
本実施形態に係る樹脂成形体は、電子・電気機器、事務機器、家電製品、自動車内装材、容器などの用途に好適に用いられる。より具体的には、電子・電気機器や家電製品の筐体;電子・電気機器や家電製品の各種部品;自動車の内装部品;CD−ROMやDVD等の収納ケース;食器;飲料ボトル;食品トレイ;ラップ材;フィルム;シート;などである。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0066】
<樹脂組成物および樹脂成形体の製造>
[プレ混合]
表1に示す組成で材料を混合装置(カワタ製SMV−10B)に200g仕込み、180℃、1000rpmで30分混合し、組成物1〜26、C1〜C13を得た。表1中の数値は質量部である。
【0067】
【表1】
【0068】
表1中の材料種は以下のとおりである。
−セルロース誘導体−
・化合物1:酢酸セルロース、アセチル置換度2.42、重量平均分子量120,000(ダイセル社製L−20)
・化合物2:酢酸セルロース、アセチル置換度2.56、重量平均分子量180,000(ダイセル社製L−50)
・化合物3:酢酸セルロース、アセチル置換度2.68、重量平均分子量220,000(ダイセル社製L−70)
・化合物4:酢酸セルロース、アセチル置換度2.79、重量平均分子量260,000(ダイセル社製LT−105)
・化合物5:セルロースアセテートプロピオネート、アセチル置換度1.95/プロピオニル置換度0.42、重量平均分子量140,000(イーストマンケミカル社製CA−320S)
・化合物6:セルロースアセテートプロピオネート、アセチル置換度1.88/プロピオニル置換度0.52、重量平均分子量180,000(イーストマンケミカル社製CA−394−60S)
・化合物7:セルロースアセテートプロピオネート、アセチル置換度1.74/プロピオニル置換度0.58、重量平均分子量220,000(イーストマンケミカル社製CA−398−6)
【0069】
−可塑剤−
・化合物8:フタル酸エステル(和光純薬工業社製)
・化合物9:アジピン酸エステル(和光純薬工業社製)
・化合物10:トリフェニルホスフェート(大八化学工業社製)
【0070】
−イソソルバイド誘導体−
・化合物11:既述の化合物I−1
・化合物12:既述の化合物I−2
・化合物13:既述の化合物I−3
・化合物14:既述の化合物I−4
・化合物15:既述の化合物I−5
【0071】
−難燃剤−
・化合物16:縮合リン酸エステル(大八化学工業社製PX200)
・化合物17:縮合リン酸エステル(大八化学工業社製CR741)
・化合物18:スルホン酸基含有化合物(ソニーケミカル社製PASS−K)
・化合物19:水酸化アルミニウム(昭和電工製ハイジライトS−48TV)
・化合物20:メラミンシアヌレート(日産化学製MC−4000)
【0072】
[混練]
組成物1〜26、C8〜C13を二軸混練装置(東芝機械製TEX41SS)に仕込み、表2に示すシリンダ温度にて混練し、混練物を得た。組成物C8、C10、C12は、混練トルクが装置上限を超えてしまい、混練が不可能だった。
【0073】
[成形]
組成物1〜26、C9、C11、C13の各上記混練物、組成物C1〜C7(各セルロース誘導体)を、それぞれ射出成形機(日精樹脂工業製NEX150)に仕込み、表2に示すシリンダ温度及び金型温度で、D2試験片(長さ60mm、幅60mm、厚さ2mm)とUL試験片(長さ125mm、幅13mm、厚さ0.5mm/1.6mm)を作製した。組成物C1〜C4は、可塑化トルクが装置上限を超えてしまい、試験片の成形が不可能だった。
【0074】
【表2】
【0075】
<評価>
[MFR測定]
プレ混合した各組成物について、メルトインデクサー(東洋精機社製G−01)を用いて220℃/10kgの条件でメルトマスフローレート(MFR、g/10min)を測定し、流動性を評価した。結果を表3に示す。MFRは、成形性の点で、2.5以上が望ましい。組成物C8、C10、C12は、上記条件で流動化せず、MFRが測定できなかった。
【0076】
[ブリード耐性]
D2試験片を温度65℃/湿度85%の恒温槽に入れ、500時間放置し、試験片表面のブリード発生の有無を肉眼で確認した。結果を表3に示す。
【0077】
[難燃性]
UL試験片を用いて、UL94規格のVテストに従い、難燃性を評価した。判定基準は、難燃性が優れる順にV−0、V−1、V−2、Notである。結果を表3に示す。
【0078】
【表3】