特許第6191561号(P6191561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191561
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】シート型ヒートパイプ
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/02 20060101AFI20170828BHJP
【FI】
   F28D15/02 102A
   F28D15/02 101H
   F28D15/02 102B
   F28D15/02 L
【請求項の数】2
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-174622(P2014-174622)
(22)【出願日】2014年8月28日
(65)【公開番号】特開2016-50682(P2016-50682A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2015年8月24日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390010168
【氏名又は名称】東芝ホームテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(72)【発明者】
【氏名】本村 修
(72)【発明者】
【氏名】小島 伸行
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 直人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 忠幸
【審査官】 庭月野 恭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−132582(JP,A)
【文献】 特開2008−082698(JP,A)
【文献】 実開昭58−085353(JP,U)
【文献】 特開2010−060243(JP,A)
【文献】 特開2003−042675(JP,A)
【文献】 特開2004−028557(JP,A)
【文献】 米国特許第06695040(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/02
H01L 23/46
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔シートを2枚以上積み重ねて、接合により密閉された容器を形成してなるシート型ヒートパイプであって、
前記金属箔シートは、蒸気通路とウィックが形成され、
前記蒸気通路は、外部の熱源と熱接続する受熱部からみて、放射状に向かう放射通路を形成し、
前記放射通路は、少なくとも2つ以上で複数形成され、
前記受熱部と前記容器の外形角部とを結ぶ線上に、前記放射通路を形成し、
前記受熱部に前記放射通路の基点となる通路基部が形成され、前記蒸気通路は全て連通しており、
前記放射通路の一部を、作動液を注入する注入通路に連通させ
前記ウィックは、前記金属箔シートの外周部の略全周に形成された第1ウィックと、該第1ウィックに基端を連結して、前記放射通路に向けてそれぞれ複数並んで直線状に形成される第2ウィックとにより構成されることを特徴とするシート型ヒートパイプ。
【請求項2】
前記蒸気通路は、前記金属箔シートの長手方向または短手方向に沿って複数並んで形成された第1蒸気通路と、前記放射通路である第2蒸気通路とを有し、前記第1蒸気通路の一端は、いずれかの前記第2蒸気通路と連通して形成されることを特徴とする請求項1記載のシート型ヒートパイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スマートフォンやタブレット端末などの携帯情報端末に搭載可能であり、小型でありながら十分な熱輸送量が得られるシート型ヒートパイプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タブレット端末などの携帯機器に搭載されるCPUの発熱を拡散させるために、例えば特許文献1に示すような熱伝導率の高いグラファイトを、放熱シートに混在させた放熱構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−186692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし従来の構成では、熱の拡散が十分ではなく、CPUが制限温度を超えたり、携帯機器の外郭にヒートスポットが生じたりして、CPUの発熱を制限せざるを得なかった。このため、CPUの能力を最大限に使うことができなかった。
【0005】
一方、丸型のヒートパイプによりCPUの発熱を拡散する放熱構造も知られているが、タブレット端末などの携帯機器の好ましい大きさの制約から、直径がΦ3mm以上のヒートパイプを携帯機器の筐体内に収納するだけのスペースが確保し難い。とりわけ、スマートフォンなどの携帯情報端末では、使い易さの追求から筐体の厚さに制限があり、ヒートパイプの設置が難しいものであった。また、パイプ状のヒートパイプでは、携帯情報端末の広い領域に良好な熱拡散を行なうことができず、情報携帯端末としてCPUなどの熱部品の性能を十分に発揮させることができなかった。
【0006】
そこで本発明は上記問題点に鑑み、十分な熱輸送能力を有し、薄い筐体内にも無理なく設置が可能なシート型ヒートパイプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、金属箔シートを2枚以上積み重ねて、接合により密閉された容器を形成してなるシート型ヒートパイプであって、前記金属箔シートは、蒸気通路とウィックが形成され、前記蒸気通路は、外部の熱源と熱接続する受熱部からみて、放射状に向かう放射通路を形成し、前記放射通路は、少なくとも2つ以上で複数形成され、前記受熱部と前記容器の外形角部とを結ぶ線上に、前記放射通路を形成し、前記受熱部に前記放射通路の基点となる通路基部が形成され、前記蒸気通路は全て連通しており、前記放射通路の一部を、作動液を注入する注入通路に連通させ、前記ウィックは、前記金属箔シートの外周部の略全周に形成された第1ウィックと、該第1ウィックに基端を連結して、前記放射通路に向けてそれぞれ複数並んで直線状に形成される第2ウィックとにより構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1〜の発明によれば、2枚以上の金属箔シートを積み重ねることで、容器の内面に十分な熱輸送能力を有する微細な蒸気通路とウィックを形成できる。また、金属箔シートを積み重ねて接合し、密閉した容器を形成することで、丸型ヒートパイプよりも薄型で、しかも十分な熱輸送能力を有するシート型ヒートパイプを提供できる。そのため、携帯情報端末などのより厚さが薄い筐体内にも、シート型ヒートパイプを無理なく容易に設置できる。さらに、外部の熱源から受熱部に伝わる熱で、容器内部の作動液が蒸発すると、受熱部から放射通路を通して蒸気が放射状に流れる。そのため、容器ひいては筐体の広い領域に良好な熱拡散を行なうことができ、熱源となる例えばCPUなどの性能を十分に発揮させることが可能となる。
【0010】
請求項1〜の発明によれば、放射通路を少なくとも2つ以上複数形成することで、受熱部から容器内部の様々な方向に蒸気を送ることができ、容器全体で良好な熱拡散を行なうことが可能となる。
【0011】
請求項1〜の発明によれば、容器内部の作動液が蒸発すると、熱源からみて遠方に位置する容器の外形角部に向けて蒸気が流れて行くことから、容器全体でさらに良好な熱拡散を行なうことが可能となる。さらに、放射通路の一部を注液通路に連通させた場合、放射通路を単に受熱部からの蒸気の放射通路としてではなく、容器内の各部に放射する作動液の注入路や脱気路としても有効に利用でき、シート型ヒートパイプの製造性が併せて向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】基本的なシート型ヒートパイプの完成状態における平面図と側面図である。
図2】同上、第2シート体の側面図と平面図である。
図3】同上、図2に示すウィック部Aを拡大した詳細図である。
図4】同上、図2に示すウィック部Bを拡大した詳細図である。
図5】同上、図2に示すウィック部Cを拡大した詳細図である。
図6】同上、図2に示すウィック部Dを拡大した詳細図である。
図7】同上、図6のA−A線断面図である。
図8】本発明の第1実施例を示すシート型ヒートパイプの完成状態における平面図である。
図9】同上、第2シート体の平面図である。
図10】同上、図9に示すウィック部Eを拡大した詳細図である。
図11】同上、図8のB−B線断面図である。
図12】本発明の第2実施例を示すシート型ヒートパイプの完成状態における平面図である。
図13】同上、第2シート体の平面図である。
図14】同上、別な変形例を示す第2シート体の平面図である。
図15】従来のシート型ヒートパイプと本実施例のシートパイプとの比較で、各種の実験結果を示す図である。
図16】さらに別な変形例として、従来のシート型ヒートパイプと本変形例のシートパイプとの比較で、各種の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について、タブレット端末などの携帯機器に搭載されるシート型ヒートパイプを例にして説明する。ここでは先ず、基本的なシート型ヒートパイプの構造を説明した後に、本発明に関連する各実施例のシート型パイプを説明する。従って以下の各説明で、共通する箇所には共通する符号を付し、共通する部分の説明は重複を避けるため極力省略する。
【0017】
図1図7は、基本的なシート型ヒートパイプ1を示している。これらの各図において、シート型ヒートパイプ1は、2枚の銅箔シートである第1のシート体11と第2のシート体12を拡散接合した容器15により構成される。これらのシート体11,12は、例えばアルミニウムのように、熱伝導性が良好でエッチング加工またはプレス加工が可能な他の金属シートを利用してもよい。図1に示すように、完成状態のシート型ヒートパイプ1は略矩形平板状で、スマートフォンなどの携帯情報端末の筐体内部形状に合せた外形を有し、その四隅にはR形状の面取部16が形成される。また、容器15の内部に真空状態で純水などの作動液(図示せず)を封入するために、容器15には溶接可能な筒状の注液ノズル17が形成される。注液ノズル17により密閉された容器15、ひいてはシート型ヒートパイプ1の厚さt1は、0.4mmである。
【0018】
容器15の四隅には、取付け部18が配設される。取付け部18は貫通孔として形成され、携帯情報端末の筐体への取付けを可能にするもので、例えば筐体に形成したねじ孔(図示せず)に取付け部18を一致させ、図示しない止着部材としてのねじを取付け部18に貫通させて、ねじ孔に螺着することで、シート型ヒートパイプ1を携帯情報端末などの筐体に対して所望の位置に容易に取付け固定することができる。なお、取付け部18は貫通孔に限定されるものではなく、同等の機能を発揮する別な構造を採用してもよい。
【0019】
図2は、第2シート体12の側面図と平面図である。なお、第1シート体11は第2シート体12と同形状であるため、図示を省略する。同図において、シート体11,12の厚さt2は何れも0.2mmであり、ここでは最終的に容器15の内面となる片側面にのみ、ハーフエッチング加工によりシート体11,12の厚みの途中までエッチングが施されて、受熱部で作動液が蒸発した蒸気を放熱部に輸送する蒸気通路20と、放熱部で凝縮した作動液を受熱部に還流するウィック22を形成している。また、シート体11,12の内面には、蒸気通路20やウィック22の他に、シート体11,12の外周に沿って、エッチング加工でエッチングされない凸状の側壁30が形成される。この凸壁たる側壁30は、シート体11,12の内面どうしを向い合せたときに重なる位置にあり、最終的に拡散接合により容器15の外周部の一部を形成する。なお、図2ではウィック22と側壁30の部位を斜線で示している。
【0020】
図1に示すシート型ヒートパイプ1を製造するには、同形状の2枚のシート体11,12を、それぞれの内面を内側にして重ね合わせ、作動液を収容する容器15が構成されるように、ウィック22の一部と側壁30を接合する。その際、外周部となる側壁30を接合し、次に注液ノズル17を利用して作動液の注入と脱気を行なった後、この注液ノズル17を閉塞してシート型ヒートパイプ1の内部を密閉することで、容器15としての機能が得られるようになっている。
【0021】
容器15の内部には、作動液が封入される脱気状態の密閉室13が形成される。ここでは、一つの密閉室13だけが容器15の内部に形成され、その密閉室13に全ての蒸気通路20やウィック22が配設される。また、密閉室13は前述の注液ノズル17を備え、注液ノズル17に形成した筒状の注液通路17Aが、密閉室13の内部と連通して設けられる。注液通路17Aは単独で設けられており、図1に示す完成状態では閉塞され、それにより密閉室13を密閉状態に維持する。
【0022】
ところで、断面が丸型のヒートパイプでは、製造性や熱輸送能力の点から、0.9mmの厚さが限界である。そのため、図1で示した容器15ひいてはシート型ヒートパイプ1の厚さt1を0.9mm以下とすれば、丸型ヒートパイプよりも薄型で、しかも十分な熱輸送能力を有するシート型ヒートパイプ1を提供できる。また、シート型ヒートパイプ1の厚さt1を最大の0.9mmとする場合、各々のシート体11,12の厚さt2(図7を参照)は、1枚当たり0.45mmに形成すればよい。
【0023】
フォトエッチング加工でシート体11,12に蒸気通路20やウィック22を形成する場合、シート体11,12は少なくとも0.05mm以上の厚さt2を必要とする。一方、シート体11,12,…の重ね合わせる枚数は3枚以上としてもよいが、枚数が増え過ぎると、全てのシート体11,12,…を所望の位置に一致させて重ね合わせるのが困難になる。こうしたシート型ヒートパイプ1の製造性を考慮し、且つ丸型ヒートパイプよりも薄型のシート型ヒートパイプ1を得るために、シート体11,12,…の枚数を9以下とし、各シート体11,12,…の厚さt2を1枚当たり0.1mm以上にするのが好ましい。したがって、0.1mm〜0.45mmの厚さt2を有するシート体11,12,…の表面にエッチング加工を施し、完成したシート型ヒートパイプ1の厚さt1を0.9mm以下とすることで、容器15の内面に十分な熱輸送能力を有する微細な蒸気通路20とウィック22を形成でき、且つ携帯情報端末などの薄い筐体内にも、丸型ヒートパイプよりも薄型のシート型ヒートパイプ1を無理なく設置できる。
【0024】
蒸気通路20は、密閉された容器15の内部において、シート体11,12の長手方向に沿って複数並んで形成された凹状の第1通路部21Aと、複数の第1通路部21Aと連通して形成された一つの凹状の第2通路部21Bと、により構成される。第1通路部21Aは平面視で何れも直線状に形成されるのに対し、第2通路部21Bは平面視で逆V字状に形成され、シート体11,12の中央部付近で第1通路部21Aと第2通路部21Bが斜めに交叉しているが、これらはどのような形状でどの位置で連通していても構わない。シート体11,12の片側面を向い合せて積み重ねたときに、シート体11,12の第1通路部21Aどうしが向かい合うことで、中空筒状の第1蒸気通路20Aが形成され、シート体11,12の第2通路部21Bどうしが向かい合うことで、中空筒状の第2蒸気通路20Bが形成される。このとき容器15の内部には、第1蒸気通路20Aと第2蒸気通路20Bとによる蒸気通路20が配設され、シート型ヒートパイプ1の長手方向に沿って複数形成された第1蒸気通路20Aが、一つに形成された第2蒸気通路20Bと連通する。
【0025】
ウィック22は、容器15の内部において、蒸気通路20や側壁30を除く部位に形成される。より詳しくは、側壁30と共に容器15の外周部をなし、注液ノズル17の注液通路17Aに向けて延設される蒸気通路20の部位を除いて、シート体11,12ひいては容器15の外周部の略全周に形成された第1ウィック22Aと、シート体11,12ひいては容器15の長手方向に沿って、第1ウィック22Aの一側と他側から容器15の中央部に向けてそれぞれ複数並んで形成される第2ウィック22Bと、により全てのウィック22を構成している。第2ウィック22Bは何れも直線状で、第1ウィック22Aの一側から中央に向かう12本の第2ウィック22Bと、第1ウィック22Aの他側から中央に向かう12本の第2ウィック22Bが向かい合って、その間に前述の第2通路部21Bが形成される。また、並んで配置される第1ウィック22Aと第2ウィック22Bとの間、若しくは2本の第2ウィック22B,22Bの間に、第1通路部21Aが形成される。
【0026】
図3は、図2における第2シート体12のウィック部Aを拡大したものであり、図4は、図2における第2シート体12のウィック部Bを拡大したものである。これらの各図において、ウィック22を構成する第2ウィック22Bは、エッチング加工でエッチングされた凹状の溝26と、エッチングされていない凸状の壁27とにより構成され、第2ウィック22Bの領域内には作動液の通路となる多数の溝26が、壁27により所望の形状に形成される。こうした微細な溝26と壁27とを組み合わせた構造は、ウィック22のどの位置にあっても共通している。
【0027】
溝26は、蒸気通路20の両側部や端部に沿って位置しており、その蒸気通路20の方向と直交して一定間隔毎に配置される複数の第1溝26Aと、第1溝26Aよりも蒸気通路20から離れて配置され、第1溝26Aよりも少なく広い一定間隔毎に配置される複数の第2溝26Bと、これらの第1溝26Aや第2溝26Bを、蒸気通路20の方向に沿って互いに連通させる縦溝としての第3溝26Cとを有する。また、溝26の深さt2(図7を参照)は0.1mm〜0.13mmで、溝26の幅d1は、第1溝26A,第2溝26B,第3溝26Cの何れも0.12mmである。ここでは、溝26の幅d1が0.05mm〜0.3mmの範囲であれば、ウィック22による毛細管力を高めることができる。さらに、第1溝26Aの数は第2溝26Bの数よりも多く、第2溝26Bよりも微細な第1溝26Aが、蒸気通路20の両側部に位置して、この蒸気通路20と直接連通している。
【0028】
溝26の間に形成される壁27は、第2溝26Bよりも細かな間隔で第1溝26Aを形成するための複数の第1壁27Aと、第2溝26Bを形成するために、第1壁27Aとは異なる形状の複数の第2壁27Bや第3壁27Cを少なくとも有する。そして、第1壁27Aは、蒸気通路20と直交する方向に沿った幅d2が0.1mmに形成される一方で、第3壁27Cは、蒸気通路20と直交する方向に沿った幅d3が、第1壁27Aや第2壁27Bの幅d2よりも広い0.3mmに形成される。ここでは、蒸気通路20の方向と直交して、一列に並んだ第3壁27Cの両外側に対向して第2壁27Bを並設し、さらに第2壁27Bの外側に複数の第1壁27Aを並設している。好ましくは、第1壁27Aや第2壁27Bの幅d2を0.25mm未満とし、第3壁27Cの幅d3を0.25mm以上とすることで、シート体11,12の重ね合う第3壁27Cの表面を利用して、ウィック22の部分での拡散接合が可能になる。
【0029】
また、ウィック22を構成する第1ウィック22Aも、凹状の溝26と凸状の壁27とにより構成され、第1ウィック22Aの領域内には作動液の通路となる多数の微細な溝26が、壁27により所望の形状に形成される。第1ウィック22Aの溝26は、前述した第1溝26Aと、第2溝26Bと、第3溝26Cとを有して構成されるが、第1ウィック22Aの壁27は、複数の第1壁27Aと複数の第2壁27Bだけで構成される。そして、蒸気通路20に向けて複数列に並んだ第2壁27Bの一側には側壁30を配設する一方で、他側には複数の第1壁27Aを並設することで、それらの間に複数の第3溝26Cが一定間隔で形成される。
【0030】
そしてここでは、第1ウィック22Aの周囲溝として12列の第3溝26Cが有り、その第3溝26Cを形成するのに、凸壁として全部で12列の第1壁27Aおよび第2壁27Bと、第1ウィック22Aの外側にある凸状の側壁30とを設けている。
【0031】
容器15を構成する金属箔シートとしてのシート体11,12は、2枚のシート体11,12を重ね合わせたときに、第1ウィック22Aの外側にある外周壁として接触する側壁30の表面の幅d4が、0.2mmから1.9mmの範囲の寸法に形成される。これにより、完成したシート型ヒートパイプ1の状態で、容器15として必要な密閉度と適正な強度を得ることができる。その一方で、第1ウィック22Aの溝26を構成するだけの第1壁27Aや第2壁27Bは、その幅d5が狭いほど溝26の微細化に繋がり好ましい。ここでは前述の幅d2と同じ0.1mmにしてあり、第3溝26Cの幅d6よりも狭い。この幅d6は、前述の幅d1と同じく0.12mmである。つまり、第1ウィック22Aにおいて、第3溝26Cの幅d6と、第1壁27Aや第2壁27Bの幅d5と、第1ウィック22Aの外側に形成される側壁30の幅d4の各寸法は、d4>d6>d5の関係となる。このような寸法関係を保つことで、容器15の密閉度を確保しながらその強度を適正に保ちつつ、第1ウィック22Aの溝26に液相が触れる表面積と、蒸気通路20の気相が流れる断面積が最適となり、シート型ヒートパイプ1として熱輸送能力を向上させることができる。
【0032】
図5は、図2における第2シート体12のウィック部Cを拡大したものであり、図6は、図2における第2シート体12のウィック部Dを拡大したものである。図5では第2ウィック22Bの先端部を拡大しており、図6では第1蒸気通路20Aと第2ウィック22Bの略中間部を拡大しているが、その構成や寸法関係は図2図4で説明した通りである。特に、図5に示す第2ウィック22Bの先端側には、前述した第1壁27A,第2壁27B,第3壁27Cの他に、第3壁27Cと同じ列に、この第3壁27Cと同じ幅d3を有し、第3壁27Cよりも蒸気通路20に沿った方向の長さが短い複数の第4壁27Dと、第4壁27Dの両側にあって、扇形形状の第5壁27Eがそれぞれ壁27として配設され、それにより第1溝26Aや、第2溝26Bや、第3溝26Cを形成している。
【0033】
図6を参照すると、ここには第2ウィック22Bの縦溝として4列の第3溝26Cが有り、その第3溝26Cを形成するのに、幅の広い凸壁として1列の第3壁27Cと、幅の狭い全部で4列の第1壁27Aおよび第2壁27Bとを設けている。
【0034】
容器15を構成する金属箔シートとしてのシート体11,12は、2枚のシート体11,12を重ね合わせたときに、第2ウィック22Bの第1凸壁として接触する第3壁27Cの表面の幅d3が、0.2mmから1.9mmの範囲の寸法に形成される。これにより、完成したシート型ヒートパイプ1の状態で、容器15として必要な密閉度と適正な強度を得ることができる。その一方で、第1ウィック22Aの溝26を構成するだけの第2凸壁である第1壁27Aや第2壁27Bは、その幅d2が狭いほど溝の微細化に繋がり好ましく、例えば0.1mmにしてあり、第3溝26Cの幅d1よりも狭い。つまり、第1ウィック22Bにおいて、第3溝26Cの幅d1と、第1壁27Aや第2壁27Bの幅d2と、第3壁27Cの幅d3の各寸法は、d3>d1>d2の関係となる。このような寸法関係を保つことで、容器15の密閉度を確保しながらその強度を適正に保ちつつ、第2ウィック22Bの溝26に液相が触れる表面積と、蒸気通路20の気相が流れる断面積が最適となり、シート型ヒートパイプ1として熱輸送能力を向上させることができる。
【0035】
なお、図1に示すようなシート型ヒートパイプ1は、どの部位で熱源と熱接続されるのかによって、その受熱部と放熱部の各位置が変わってくるが、容器15の内部に複数形成された第1蒸気通路20Aが、一つに形成された第2蒸気通路20Bと連通しているので、シート型ヒートパイプ1のどの部位に受熱部と放熱部が位置したとしても、それぞれの蒸気通路20A,20Bが互いに連通することで、シート型ヒートパイプ1の全面を均熱化できる。
【0036】
図7は、図6に示す第2シート体12のA−A線断面図である。同図において、隣り合う一方の第2ウィック22Bの端部と、他方の第2ウィック22Bの端部との間には、幅d7を有する蒸気通路20の領域が形成されるが、この蒸気通路20となる領域の肉厚k1は、0.03mmから0.14mmの範囲の寸法を有する。
【0037】
蒸気通路20はその断面積が大きく、蒸気通路20の深さt4と幅d7の割合である縦横比が同じである程、蒸気通路20を通過する作動液の気相が触れる表面積が小さくなって、熱輸送能力が向上する。一方、シート型ヒートパイプ1を携帯情報端末などの薄い筐体内に無理なく設置するためには、図1で示した容器15ひいてはシート型ヒートパイプ1の厚さt1を0.5mm以下にする必要がある。そこで、完成したシート型ヒートパイプ1としての熱輸送能力と、容器15全体の厚さ制限を両立させるために、蒸気通路20となる領域における肉厚k1の寸法は、0.14mm以下に抑制する。一方、肉厚k1の寸法を0.03mm未満にすると、容器15内を真空にしていることから、外部の大気圧により容器15が潰れてしまう。そこで、蒸気通路20となる領域における肉厚k1の寸法は、0.03mm以上とすることが好ましい。
【0038】
また、蒸気通路20の幅d7が0.5mmよりも小さな寸法になると、蒸気通路20の断面積が小さくなり、目的とする熱輸送能力が得られなくなる。一方、蒸気通路20の幅d7が2.7mmよりも大きな寸法になると、容器15内を真空にしていることから、外部の大気圧により容器15が潰れてしまう。そこで、シート体11,12の蒸気通路20となる領域の幅d7は、0.5mmから2.7mmの範囲の寸法を有するのが好ましい。
【0039】
蒸気通路20に関して、上述した理由から適切な肉厚k1と幅d7の比率を求めると、1:4から1:90の範囲となる。例えば、肉厚k1が0.03mmである場合、幅d4は0.03×90=2.7mm以下であれば、外部の大気圧により容器15が潰れる虞がない。また、肉厚k1が0.14mmである場合、幅d4は0.14×4=0.56mm以上であれば、目的とする熱輸送能力を得ることができる。
【0040】
シート体11,12の蒸気通路20となる領域の肉厚k1は、どの部分でも一定の寸法ではなく、蒸気通路20の中央部分よりも、ウィック22となる溝26が形成された領域に近接する両側部分が厚く、全体がなだらかな略アーチ状に変化するように形成される。これは、容器15内が作動液の飽和蒸気圧であるため、蒸気通路20の壁面には大気圧による応力が加わることから、蒸気通路20の中で、ウィック22となる溝26が形成された領域に近接する応力の大きな両側部分の肉厚k1を厚くする一方で、応力の小さな中央部分の肉厚k1を薄くすれば、外部の大気圧により容器15が潰れる虞がなく、また蒸気通路20として目的とする熱輸送能力が得られる断面積を確保できるからである。
【0041】
前述したように、シート体11,12にはエッチング加工やプレス加工により、ウィック22となる溝26が多数形成される。このウィック22となる微細な溝26は、容器15の内部で作動液の液相が触れる表面積が大きい程、熱輸送能力が向上する。そこで、ある程度の断面積を維持しながら液相の触れる表面積が大きくできるように、シート体11,12の1枚あたりの溝26の幅d1と深さt3の比は、1:1から2:1の範囲とするのが好ましい。それにより、ウィック22における熱輸送能力を向上させることが可能となる。
【0042】
また、シート体11,12の1枚あたりの溝26の幅d1と、前述した蒸気通路20の深さt4の比は、1:0.8から1:1.6の範囲とするのが好ましい。この範囲内であれば、容器15の内部において、作動液の液相がウィック22の溝26に触れる表面積を大きくし、且つ気相が流れる蒸気通路20の断面積を大きくすることができ、シート型ヒートパイプ1として熱輸送能力を向上させることができる。
【0043】
次に、上述したシート型ヒートパイプ1を、薄型の携帯情報端末に実装した場合の作用効果について説明する。
【0044】
前述のようにシート型ヒートパイプ1は、携帯情報端末の筐体内部形状に合せた外形を有しており、そのまま単体で携帯情報端末の筐体内部に設置される。このとき、シート型ヒートパイプ1の一側面は、その一部が受熱部として、筐体内部に設置したCPUを含むマザーボード(何れも図示せず)と接触して熱接続され、熱源となるCPUから離れた部位(シート型ヒートパイプ1の一側面の別な一部や、他側面)で、放熱部が形成される。そして、筐体の内部でCPUなどが発熱して温度が上昇すると、そのCPUからの熱がシート型ヒートパイプ1の受熱部に伝わり、受熱部では作動液が蒸発して、蒸気通路20を通して受熱部から温度の低い放熱部に向かって蒸気が流れ、シート型ヒートパイプ1の内部で熱輸送が行われる。この放熱部に輸送された熱はシート型ヒートパイプ1の広い平面状の領域に熱拡散され、シート型ヒートパイプ1の裏表すなわち一側と他側の両面からそれぞれ放熱される。これにより携帯情報端末は、CPUなどに発生する熱を広い領域に熱拡散することができるため、携帯情報端末の外郭表面に生ずるヒートスポットが緩和され、CPUの温度上昇も抑制することができる。
【0045】
一方、シート型ヒートパイプ1の放熱部では、蒸気が凝縮して作動液が溜まるが、シート型ヒートパイプ1の内部で、蒸気通路20の両側に形成されたウィック22の強い毛細管力により、作動液が蒸気通路20に直交する第1溝26Aや第2溝26Bによる液流路から、蒸気通路20に沿った第3溝26Cによる液流路を伝わって放熱部から受熱部へと戻される。したがって、受熱部で作動液が無くなることはなく、ここで作動液が蒸発して蒸気通路20を伝わり毛細管力で放熱部に導かれることで熱輸送が継続し、シート型ヒートパイプ1としての本来の性能が発揮される。
【0046】
また、シート型ヒートパイプ1そのものの厚さt1は、丸型ヒートパイプよりも薄型になる0.9mm以下で、より好ましくは0.5mm以下であり、特にスマートフォンなどの携帯情報端末で、使いやすさを追求した筐体の厚さ制限に対応でき、グラファイトシートに比べて熱伝導率が極めて良好なシート型ヒートパイプ1の特徴を活かしつつ、CPU54などの熱を広い領域に速やかに熱拡散することが可能になる。
【0047】
このように上述のシート型ヒートパイプ1では、金属箔シートとしてのシート体11,12を2枚以上積み重ねて、接合により密閉された容器15を形成したシート型ヒートパイプ1であって、特にここでのシート体11,12は、ハーフエッチング加工により蒸気通路20とウィック22となる溝26が形成され、シート体11,12を積み重ねて接合することにより、厚さt1が0.9mm以下の密閉された容器15を形成している。
【0048】
この場合、シート体11,12の表面にハーフエッチング加工を施すことで、容器15の内面に十分な熱輸送能力を有する微細な蒸気通路20とウィック22の溝26を形成できる。また、シート体11,12を積み重ねた容器の厚さを0.9mm以下に形成することで、断面が丸型のヒートパイプよりも薄型で、しかも十分な熱輸送能力を有するシート型ヒートパイプ1を提供できる。そのため、携帯情報端末などのより厚さが薄い筐体内にも、シート型ヒートパイプ1を無理なく容易に設置できる。
【0049】
なお、ここでいうハーフエッチング加工とは、加工素材であるシート体11,12の両面から同一パターン形状を化学腐食させエッチングするのではなく、意図的にそれぞれの面のエッチングバランスを制御することによって、シート体11,12の片面にのみ、パターン形状を形成したり、シート体11,12の両面に異なる任意のパターン形状を形成したりするエッチング加工をいう。
【0050】
またシート型ヒートパイプ1は、各々のシート体11,12の材厚である厚さt2が、0.1mmから0.45mmの範囲に形成される。
【0051】
金属箔シートとして2枚のシート体11,12を積み重ねる場合に、各々のシート体11,12の厚さt2を0.45mm以下に形成すれば、容器15の厚さt1を所望の0.9mm以下に形成することができる。また、シート型ヒートパイプ1の製造上の制約から、各々のシート体11,12の厚さt2を0.1mm以上とすれば、フォトエッチング加工でシート体11,12に蒸気通路20やウィック22を無理なく形成でき、シート体11,12の積み重ね数を9枚とした場合でも、容器15の厚さt1を所望の0.9mm以下に形成することができる。
【実施例1】
【0052】
次に、図8図11を参照しながら、本発明の第1実施例として好適なシート型ヒートパイプ2の詳細を説明する。これらの各図において、図8に示す完成状態のシート型ヒートパイプ2は、略矩形平板状に形成された容器15の短手方向一側に、注液ノズル17が突出しないように設けられ、また取付け部18の存在しない角部32が、略矩形平板状をなすシート型ヒートパイプ2の四隅に設けられる。但し、基本のシート型ヒートパイプ1と同様に、角部32に取付け部18を設けてもよい。またHは、容器15の表面に熱接続される熱源であり、これは前述のように、携帯情報端末の筐体内部に配置されるCPUなどで構成される。したがって、本実施例のシート型ヒートパイプ2は、熱源Hを熱接続した容器15の短手方向一側寄りの中央部位が受熱部33となり、熱源Hから離れた容器15の角部32周辺の部位が放熱部34となる。それ以外の外観構成は、基本的なシート型ヒートパイプ1と概ね共通している。
【0053】
図9は、第1シート体11と向かい合わせに重なる第2シート体12の平面図であり、図10は、図9に示すシート型ヒートパイプ2のウィック部Eを拡大したものであり、図11は、図8に示すシート型ヒートパイプ2のB−B線断面図である。なお、ここでも第1シート体11は第2シート体12と同形状である。
【0054】
本実施例では、密閉された容器15の内部において、シート体11,12の長手方向と短手方向に沿って複数並んで形成された凹状の第1通路部21Aと、それぞれの第1通路部21Aの一端と連結するように、複数の第1通路部21Aと連通して形成された3つの凹状の第2通路部21Bが、蒸気通路20の通路部として構成される。そしてここでも、シート体11,12の片側面を向い合せて積み重ねたときに、シート体11,12の第1通路部21Aどうしが向かい合うことで、中空筒状の第1蒸気通路20Aが形成され、シート体11,12の第2通路部21Bどうしが向かい合うことで、中空筒状の第2蒸気通路20Bが形成される。このとき容器15の内部には、第1蒸気通路20Aと第2蒸気通路20Bとによる蒸気通路20が配設される。
【0055】
ここで図9を参照しながら、容器15内部における蒸気通路20の配置形状に注目すると、熱源Hに対応する形状の受熱部33の領域内には、3つの第2蒸気通路20Bの基端どうしが接続する通路基部35が配置され、この通路基部35からみて容器15の外形部に向けて、それぞれの第2蒸気通路20Bが放射状すなわちY字状に延設される。つまり、本実施例の蒸気通路20は、外部の熱源Hと熱接続する受熱部33からみて放射状に向かう放射通路として、直線状の第2蒸気通路20Bを容器15の内部に形成したといえる。
【0056】
また、3つの第2蒸気通路20Bの中で、2つの第2蒸気通路20Bは、受熱部33と容器15の外形をなす角部32とを結ぶ直線上に設けられており、これらの2つの第2蒸気通路20Bの先端は、何れも放熱部34に対応した角部32周辺に配置される。その一方で、残りの1つの第2蒸気通路20Bは、その先端が注液通路17Aに連通している。そして、これらの3つの第2蒸気通路20Bで区画された容器15内部の各領域に、第2蒸気通路20Bからの分岐通路として多数の第1蒸気通路20Aが形成され、これら全ての第1蒸気通路20Aの各基端が、3つの第2蒸気通路20Bの何れかに接続される。第1蒸気通路20Aの各先端は、何れも容器15の外形部に向けて延びており、容器15内部において蒸気が隅々まで行き渡るように、第1蒸気通路20Aや第2蒸気通路20Bが配置されている。
【0057】
図9に示す第2蒸気通路20Bの幅d8は一定で、好ましくは1mm以上3mm以下の範囲(例えば2mm)に形成される。これに対して、第1蒸気通路20Aの幅d9も一定ではあるが、第2蒸気通路20Bの幅d8と同等もしくはそれ未満とする(d9≦d8)。こうすれば、熱源Hから受熱部33に伝わる熱で、容器15内部の作動液が蒸発した時に、第2蒸気通路20Bから分岐した第1蒸気通路20Aに対して、蒸気を滞りなく円滑に輸送することが可能になる。また本実施例のように、第2蒸気通路20Bの一部を注液通路17Aに連通させた場合、第2蒸気通路20Bを単に受熱部33からの蒸気の放射通路としてではなく、容器15内の各部に放射する作動液の注入路や脱気路としても有効に利用でき、シート型ヒートパイプ2の製造性が併せて向上する。なお、第2蒸気通路20Bの数は特に限定されないが、好ましくは2つ以上複数あればよい。
【0058】
容器15の内部には、蒸気通路20や側壁30を除く部位にウィック22が形成される。ウィック22は、前述した第1ウィック22Aと、第1ウィック22Aに基端を連結して、第2通路部21Bに向けてそれぞれ複数並んで直線状に形成される第2ウィック22Bと、によりその全てが構成される。そのため第1蒸気通路20Aの両側には、毛細管力が働くウィック22(第1ウィック22Aや第2ウィック22B)が形成される。特に本実施例では、第1ウィック22Aと第2ウィック22Bの全てが、途中で途切れることなく受熱部33に繋がるようにウィック22を形成しており、これにより蒸気通路20のどの場所で蒸気が凝縮して作動液になったとしても、その作動液をウィック22の毛細管力で受熱部33に戻せるようになっている。
【0059】
そして本実施例では、同形状の2枚のシート体11,12を、それぞれの内面を内側にして重ね合わせ、作動液を収容する容器15が構成されるように、ウィック22の一部と側壁30を接合して、図8に示すシート型ヒートパイプ2を製造する。その際、外周部となる側壁30を接合し、次に注液ノズル17を利用して作動液の注入と脱気を行なった後、この注液ノズル17を閉塞してシート型ヒートパイプ2の内部を密閉することで、容器15としての機能が得られるようになっている。
【0060】
容器15の内部には、作動液が封入される脱気状態の密閉室13が形成される。本実施例でも、一つの密閉室13だけが容器15の内部に形成され、その密閉室13に全ての蒸気通路20やウィック22が配設される。また、密閉室13は前述の注液ノズル17を備え、注液ノズル17に形成した筒状の注液通路17Aが、密閉室13の内部と連通して設けられる。図8に示す完成状態では注液通路17Aが閉塞され、それにより密閉室13を密閉状態に維持する。
【0061】
図10図11に示すように、蒸気通路20やウィック22の細部の構成は、前述のシート型ヒートパイプ1と概ね共通しているが、角部32周辺の第1ウィック22Aには、平面視で長方形状の第2壁27Bだけでなく、異なる形状のL字状や正方形状の第2壁27Bも形成される。その他の構成は、シート型ヒートパイプ1と共通している。
【0062】
前述のように、本実施例でも2枚のシート体11,12を重ね合わせて容器15を形成し、その容器15に備えた注液ノズル17を利用して作動液の注入と脱気を行なった後、注液ノズル17を閉塞して、容器15内部の密閉室13に作動液を真空状態で密封したシート型ヒートパイプ2を製造する。完成後のシート型ヒートパイプ2は、CPUなどの熱源Hが容器15の外表面に設置されることで、自ずと受熱部33と放熱部34が形成される。容器15内部における蒸気通路20やウィック22による作用は、前述のシート型ヒートパイプ1で説明した通りであるが、外部の熱源Hからシート型ヒートパイプ2の受熱部33に伝わる熱で、容器15内部の作動液が蒸発すると、受熱部33から通路基部35を基点として、それぞれの第2蒸気通路20Bを通して蒸気が放射状に流れて行く。
【0063】
特に本実施例では、シート型ヒートパイプ2がどのような向きの姿勢で用いられたとしても、受熱部33から容器15の角部32に向かう2つの直線状の第2蒸気通路20Bは、受熱部33で発生した蒸気を最短距離で放熱部34に運び、そこで凝縮した作動液を、共通する第1ウィック22Aに多数の第2ウィック22Bを繋げたウィック22の毛細管力で、再び受熱部33に戻すので、平面状のシート型ヒートパイプ2でありながら、受熱部33から放熱部34への熱拡散を速やかに行なうことが可能になる。また、それぞれの第2蒸気通路20Bには、容器15の外形部に向かう多数の第1蒸気通路20Aが形成されており、受熱部33で発生した蒸気が、第2蒸気通路20Bを通して容器15の角部32にだけでなく、第1蒸気通路20Aを通して容器15の角部32以外の外形部にもほぼ均等に運ばれて行く。しかも、蒸気が蒸気通路20のどの場所で凝縮して作動液になったとしても、その作動液をウィック22の毛細管力で受熱部33に再び円滑に戻すことができるようになっており、結果的に容器15や、その容器15を収容する携帯情報端末の筐体の広い領域に対して、良好な熱拡散を行なうことが可能となる。
【0064】
本実施例の第2蒸気通路20Bは、通路基部35を基点として、容器15の内部で別々な方向に延設されている。このように、放射通路となる第2蒸気通路20Bを1つではなく、少なくとも2つ以上複数延設すれば、受熱部33から容器15の内部の様々な方向に蒸気を送ることができ、容器15の全体で良好な熱拡散を行なうことが可能となる。
【0065】
また本実施例では、受熱部33からみて容器15の短手方向他側に位置する2つの角部32に向けて、それぞれ第2蒸気通路20Bを配置しており、熱源Hから受熱部33に伝わる熱で、容器15内部の作動液が蒸発すると、熱源Hからみて遠方に位置する容器15の外形部をなす角部32に向けて蒸気が直接的に流れて行く。好ましくは、これらの第2蒸気通路20Bを直線状に形成すると、蒸気が最短距離で角部32周辺の放熱部34に運ばれることから、容器15の全体でさらに良好な熱拡散を行なうことが可能となる。なお、具体的には図示しないが、第2蒸気通路20Bを容器15のどの角部32に向けて延設しても構わない。全ての第2蒸気通路20Bについて、その幅d8を1mmから3mmの範囲に形成することで、受熱部33から第2蒸気通路20Bを通して容器15内の隅々に蒸気を円滑に送ることが可能となる。
【0066】
以上のように、本実施例のシート型ヒートパイプ2は、前述のシート型ヒートパイプ1で説明した特徴に加えて、金属箔シートとなるシート体11,12を2枚以上積み重ねて、拡散接合などの接合により密閉された容器15を形成しており、特にシート体11,12には蒸気通路20とウィック22が形成され、蒸気通路20は、外部の熱源Hと熱接続する受熱部33からみて、放射状に向かう放射通路としての第2蒸気通路20Bと、その第2蒸気通路20Bから分岐して、容器15の外周部に向かう複数の第1蒸気通路20Aと、をそれぞれ形成している。
【0067】
この場合、2枚以上のシート体11,12を積み重ねることで、容器11の内面に十分な熱輸送能力を有する微細な蒸気通路20とウィック22を形成できる。また、シート体11,12を積み重ねて接合し、密閉した容器15を形成することで、丸型ヒートパイプよりも薄型で、しかも十分な熱輸送能力を有するシート型ヒートパイプ2を提供できる。そのため、携帯情報端末などのより厚さが薄い筐体内にも、シート型ヒートパイプ2を無理なく容易に設置できる。さらに、外部の熱源Hから受熱部33に伝わる熱で、容器15内部の作動液が蒸発すると、受熱部33から第2蒸気通路20Bを通して蒸気が放射状に流れる。そのため、容器15ひいては容器15を収容する筐体の広い領域に良好な熱拡散を行なうことができ、熱源Hとなる例えばCPUなどの性能を十分に発揮させることが可能となる。
【0068】
また本実施例では、第2蒸気通路20Bを少なくとも2つ以上の複数形成している。
【0069】
この場合、第2蒸気通路20Bを1つではなく、少なくとも2つ以上複数形成することで、受熱部33から容器15内部の様々な方向に蒸気を送ることができ、容器15の全体で良好な熱拡散を行なうことが可能となる。
【0070】
また本実施例では、受熱部33と容器15の外形となる角部32とを結ぶ線上に、第2蒸気通路20Bを形成している。
【0071】
この場合、容器内部の作動液が蒸発すると、熱源Hからみて遠方に位置する容器15の角部32に向けて蒸気が流れて行くことから、容器15の全体でさらに良好な熱拡散を行なうことが可能となる。
【0072】
さらに本実施例では、第2蒸気通路20Bの幅d8を1mmから3mmの範囲に形成している。
【0073】
この場合、第2蒸気通路20Bの幅d8を1mmから3mmの範囲に形成することで、受熱部33から第2蒸気通路20Bを通して容器15の内部に蒸気を滞りなく円滑に送ることが可能となる。
【実施例2】
【0074】
図12図14は、本発明の第2実施例におけるシート型ヒートパイプ3を示している。これらの各図において、図12に示す完成状態のシート型ヒートパイプ3は、略矩形平板状に形成された容器15の長手方向一端から注液ノズル17が突出して設けられる。但し前述のように、容器15から突出しない注液ノズル17や、取付け部18を設けてもよい。Hは第1実施例でも説明した熱源であり、本実施例では容器15の略中央部に配置される。したがって、第2実施例のシート型ヒートパイプ3は、熱源Hを熱接続した容器15の中央部位が受熱部33となり、熱源Hから離れた容器15の例えば長手方向両端部位が放熱部34となる。それ以外の外観構成は、第1実施例のシート型ヒートパイプ2と共通している。
【0075】
図13は、第2シート体12の平面図であり、図14は、別の変形例を示す第2シート体12の平面図である。なお、ここでも第1シート体11は第2シート体12と同形状である。
【0076】
図13の第2シート体12について説明すると、ここでは密閉された容器15の内部において、シート体11,12の長手方向に沿って複数並んで形成された凹状の第1通路部21Aと、容器15の中心から4方に形成された凹状の第2通路部21Bと、容器15の外周に沿って形成され、全ての第1通路部21Aや第2通路部21Bの一端と連結する第3通路部21Cが、蒸気通路20の通路部として構成される。そして、シート体11,12の片側面を向い合せて積み重ねたときに、シート体11,12の第1通路部21Aどうしが向かい合うことで、中空筒状の第1蒸気通路20Aが形成され、シート体11,12の第2通路部21Bどうしが向かい合うことで、中空筒状の第2蒸気通路20Bが形成され、さらにシート体11,12の第3通路部21Cどうしが向かい合うことで、中空筒状の第3蒸気通路20Cが形成される。このとき容器15の内部には、第1蒸気通路20Aと第2蒸気通路20Bと第3蒸気通路20Cとによる蒸気通路20が配設される。
【0077】
熱源Hに対応する形状の受熱部33の領域内には、4つの第2蒸気通路20Bの基端どうしが接続する通路基部35が配置され、この通路基部35からみて容器15の外形部に向けて、それぞれの第2蒸気通路20Bが放射状すなわち十字状に延設される。つまり、本実施例の蒸気通路20は、外部の熱源Hと熱接続する受熱部33からみて放射状に向かう放射通路として、直線状の第2蒸気通路20Bを容器15の内部に形成したといえる。また本実施例では、第3蒸気通路20Cに注液通路17Aが連通している。
【0078】
全ての第2蒸気通路20Bは、その先端が第3蒸気通路20Cに接続しており、第3蒸気通路20Cは容器15の外周部に沿って、途中で途切れることなく連続して形成される。また、第2蒸気通路20Bで区画された容器15内部の4つの各領域に、分岐通路として多数の第1蒸気通路20Aが形成され、これら全ての第1蒸気通路20Aの各基端が、第3蒸気通路20Cに接続される。こうして、容器15内部において蒸気が隅々まで行き渡るように、第1蒸気通路20Aや第2蒸気通路20Bや第3蒸気通路20Cが配置されている。
【0079】
容器15の内部には、蒸気通路20や側壁30を除く部位にウィック22が形成される。特に本実施例では、シート型ヒートパイプ3自体の均熱化を十分なものにし、且つ熱源Hと受熱部33との温度差(熱接続の熱抵抗)を小さくする目的で、ウィック22のパターン形状の見直しを図っている。具体的には、第3蒸気通路20Cに連通する注液通路17Aの部位を除いて、シート体11,12ひいては容器15の外周部の略全周に形成された第1ウィック22Aや、容器15の長手方向に沿ってそれぞれ複数並んで直線状に形成される第2ウィック22Bの他に、第2蒸気通路20Bで区画された容器15内部の4つの領域毎に、複数の第2ウィック22Bの一端どうしを連結する第3ウィック22Cと、により全てのウィック22を構成している。第1実施例では、第1ウィック22Aと第2ウィック22Bが連結しているが、本実施例では第3蒸気通路20Cが配置される関係で、第1ウィック22Aが第2ウィック22Bや第3ウィック22Cと連結していない。但し変形例として、第1ウィック22Aを第2ウィック22Bや第3ウィック22Cと連結させても構わない。
【0080】
本実施例のウィック22は、複数の一定間隔で配置されたパターン部となる第2ウィック22Bと、この第2ウィック22Bどうしを繋げる連結部となる4つの第3ウィック22Cと、第2ウィック22Bおよび第3ウィック22C全体を取り囲む周回部となる第1ウィック22Aと、を備えているといえる。特に第2ウィック22Bは、何れもその一部が受熱部33の領域内にまで延設されており、蒸気通路20のどの場所で蒸気が凝縮して作動液になったとしても、その作動液が近接する第2ウィック22Bから第3ウィック22Cを通って、毛細管力で受熱部33に回収できるようになっている。
【0081】
また、第2ウィック22Bの幅d10よりも第3ウィック22Cの幅d11は広く(d11>d10)、好ましくは、第3ウィック22Cの幅d11が、第2ウィック22Bの幅d10の2倍の寸法に形成される。これは、一つの第3ウィック22Cに複数の第2ウィック22Bが連結するときに、狭い幅d11を有する第2ウィック22Bで回収した作動液を、広い幅d10を有する第3ウィック22Cに滞りなく円滑に集めて受熱部33に戻すためである。これらの第2ウィック22Bの幅d10や第3ウィック22Cの幅d11は、どの場所でも一定の寸法に形成されるが、部分的に異なる寸法に形成しても構わない。
【0082】
次に、図14に示す第2シート体12の変形例について説明する。ここでは、通路基部35からみて容器15の外形部の短手方向一端と他端に向けて、2つの第2蒸気通路20Bが放射状に延設される。また、第2蒸気通路20Bで区画された容器15内部の2つの領域毎に、複数の第2ウィック22Bの一端どうしを連結する第3ウィック22Cが配置される。ここでも第3ウィック22Cは、何れもその一部が受熱部33の領域内に延びて配置されており、蒸気通路20のどの場所で蒸気が凝縮して作動液になったとしても、その作動液が近接する第2ウィック22Bから第3ウィック22Cを通って、ウィック22の毛細管力で受熱部33に回収できるようになっている。つまり図14に示す第2シート体12は、第2蒸気通路20Bや第3ウィック22Cの数が異なるものの、それ以外の構成は図13に示す第2シート体12と共通している。
【0083】
なお、シート型ヒートパイプ3の製造方法は、第1実施例と同じであるため説明を省略する。その他、蒸気通路20やウィック22の細部を含めたシート型ヒートパイプ3の構成は、第1実施例のシート型ヒートパイプ2と概ね共通している。
【0084】
完成後のシート型ヒートパイプ3は、CPUなどの熱源Hが容器15の外表面に設置されることで、自ずと受熱部33と放熱部34が形成される。容器15内部における蒸気通路20やウィック22による作用は、前述のシート型ヒートパイプ1,2で説明した通りであるが、外部の熱源Hからシート型ヒートパイプ3の受熱部33に伝わる熱で、容器15内部の作動液が蒸発すると、受熱部33から通路基部35を基点として、それぞれの第2蒸気通路20Bを通して蒸気が放射状に流れて行き、第3蒸気通路20Cに達する。これにより蒸気は容器15の外形に沿って周回し、第3蒸気通路20Cから第1蒸気通路20Aにも流れ込むため、結果的に受熱部33で発生した蒸気を、容器15内の放熱部34を含む全体に行き渡らせることができる。
【0085】
また、熱源Hからの熱供給を受ける受熱部33では作動液が不足気味となる一方で、受熱部33から離れた例えば放熱部34などの部位では、作動液が余剰気味になる。そこで本実施例では、容器15内部におけるウィック22のパターン形状を全面的に見直し、シート型ヒートパイプ3の向いている姿勢に拘らず、受熱部33で発生した蒸気が、容器15内部における蒸気通路20のどの部位で凝縮して作動液になったとしても、その作動液をウィック22の毛細管力によって第2ウィック22Bで回収し、各々の第2ウィック22Bに繋がる第3ウィック22Cに集めて、受熱部33に供給できるようになっている。そのため、受熱部33から離れた部位で、容器15内部に余った作動液をウィックの第2ウィック22Bで回収して第3ウィック22Cに集め、これを作動液が不足しがちな受熱部33に供給することで、容器15内部の作動液を有効に活用して、容器15全体の温度分布の均一化と、受熱部33における局部的なホットスポットの改善を図ることが可能となる。したがって、前述した蒸気通路20の配置によって、受熱部33から容器15内の全体に蒸気を行き渡らせることと相俟って、熱源Hとなる例えばCPUなどの性能を十分に発揮させることが可能となる。
【0086】
図15は、従来例となる「改善前」のシート型ヒートパイプ3’と、図13で示した本実施例となる「改善後」のシート型ヒートパイプ3との比較で、種々の実験結果を示したものである。
【0087】
これらの各図において、シート型ヒートパイプ3,3’の外形寸法は何れも、長手方向が130mm、短手方向が46mm、厚さが0.4mmであり、ウィック22のパターン形状は、「ウィックパターン」で示したとおりである。なお、図中一部の符号は記載を省略してある。
【0088】
「IR画像」は、熱源HをCPUとして、このCPUに6Wを入力したときのシート型ヒートパイプ3,3’の温度分布を示している。図中「a」は、シート型ヒートパイプ3,3’の受熱部33の温度であり、それ以外の「b」〜「g」は、シート型ヒートパイプ3,3’の外周各部における温度である。
【0089】
「CPU温度」は、熱源HとなるCPUの温度であり、従来例のシート型ヒートパイプ3’は78.2℃であるのに対し、本実施例のシート型ヒートパイプ3は70.2℃となって、8℃の温度低下が確認できた。また「SHP受熱部温度」は、「a」部に相当する受熱部33の温度であり、従来例のシート型ヒートパイプ3’は67.2℃であるのに対し、本実施例のシート型ヒートパイプ3は61.0℃であった。
【0090】
「受熱 熱抵抗」は受熱部33の熱抵抗であり、これは「CPU温度」から「SHP受熱部温度」を差し引いた値を、入力ワット(ここでは6W)で割った値として算出される。従来例のシート型ヒートパイプ3’は、受熱部33の熱抵抗が1.83℃/Wであったのに対し、本実施例のシート型ヒートパイプ3は、受熱部33の熱抵抗が1.53℃/Wとなり、16.4%の改善が見られた。つまり、本実施例のシート型ヒートパイプ3は、熱源Hに臨むウィック22のパターン形状を工夫して、そこに上述した第3ウィック22Cを配置することで、従来例のシート型ヒートパイプ3’に比べて、熱源Hと受熱部33との温度差を小さくすることができ、結果的に受熱部33におけるヒートスポットの改善が確認できた。その理由は、従来例のシート型ヒートパイプ3’では、それぞれのウィック22が繋がっていないため、熱源Hに対応した受熱部33にまで作動液が十分戻らないのに対して、本実施例のシート型ヒートパイプ3では、受熱部33により多くの作動液が供給されるように、それぞれの第2ウィック22Bを第3ウィック22Cによって受熱部33で繋いでいるからである。
【0091】
その他、「SHP右端温度」は、前記「g」部における温度であり、「ΔT1」とは、「SHP受熱部温度」から「SHP右端温度」を差し引いた値である。従来例のシート型ヒートパイプ3’は、「g」部における温度が54.0℃で、「SHP受熱部温度」との差が13.2℃あるのに対し、本実施例のシート型ヒートパイプ3は、「g」部における温度が56.6℃で、「SHP受熱部温度」との差が4.4℃に緩和された。
【0092】
また「SHP左端温度」は、前記「e」部における温度であり、「ΔT2」とは、「SHP受熱部温度」から「SHP左端温度」を差し引いた値である。従来例のシート型ヒートパイプ3’は、「e」部における温度が56.2℃で、「SHP受熱部温度」との差が11.0℃あるのに対し、本実施例のシート型ヒートパイプ3は、「e」部における温度が56.4℃で、ここでも「SHP受熱部温度」との差が4.6℃に緩和された。以上の結果から、本実施例のシート型ヒートパイプ3は、従来例のシート型ヒートパイプ3’に比べて、受熱部33と外周端部との温度差が小さく、シート型ヒートパイプ3自体の均熱化が十分に改善されていることが確認できた。
【0093】
以上のように本実施例のシート型ヒートパイプ32は、前述のシート型ヒートパイプ1で説明した特徴に加えて、金属箔シートとなるシート体11,12を2枚以上積み重ねて、拡散接合などの接合により密閉された容器15を形成しており、特にシート体11,12には蒸気通路20とウィック22が形成され、ウィック22は、容器15の内部に多数形成されたパターン部となる第2ウィック22Bと、複数の第2ウィック22Bどうしを繋げる連結部としての第3ウィック22Cとを有し、第3ウィック22Cは外部の熱源Hと熱接続する受熱部33に形成されている。
【0094】
この場合、ウィック22のパターン形状を見直し、受熱部33から離れた部位で、容器15内部に余った作動液をウィック22の第2ウィック22Bで回収して第3ウィック22Cに集め、これを作動液が不足しがちな受熱部33に供給して、容器15内部の作動液を有効に活用できるようにする。これにより、容器15全体の温度分布と局部的なホットスポットを改善し、熱源Hとなる例えばCPUなどの性能を十分に発揮させることが可能となる。
【0095】
また本実施例では、第3ウィック22Cの幅d11を、第2ウィック22Bの幅d10よりも広く形成したウィック22のパターン形状を採用している。
【0096】
この場合、各々の第2ウィック22Bで回収した作動液を、より幅広な第3ウィック22Cに滞りなく集めて受熱部33に供給することが可能になり、容器15全体の温度分布と局部的なホットスポットの改善を効果的に促進できる。
【0097】
なお、本実施例で提案するウィック22のパターン形状は、受熱部33を容器15のどの位置に配置するのかによって、種々の変形が可能である。図16には、さらに別な変形例として、従来例となる「改善前」のシート型ヒートパイプ4’と、本変形例となる「改善後」のシート型ヒートパイプ4との比較で、平面全体の温度分布と各部の数値を実験結果として示している。シート型ヒートパイプ4,4’の外形寸法は何れも、長手方向が150mm、短手方向が136mmである。
【0098】
先ず、同図の「パターン配置」について説明すると、従来のシート型ヒートパイプ4’は、前述のシート型ヒートパイプ3’と同様に、それぞれのウィック22が繋がっていないパターン形状となっている。それに対して、本変形例のシート型ヒートパイプ4では、受熱部33により多くの作動液が供給されるように、それぞれの第2ウィック22Bを第3ウィック22Cによって受熱部33で繋いだパターン形状となっている。なおここでも、図中一部の符号は記載を省略してある。
【0099】
また「温度分布」は、熱源Hに8Wを入力したときのシート型ヒートパイプ4,4’の温度分布を示している。図中「A」は、シート型ヒートパイプ4,4’の受熱部33の温度であり、それ以外の「B」〜「K」は、受熱部33以外の各部における温度である。熱源Hの温度に関し、従来例のシート型ヒートパイプ4’は88.8℃であるのに対し、本変形例のシート型ヒートパイプ3は83.5℃となって、4.5℃の温度低下が確認できた。また、「A」部に相当する受熱部33の温度も、従来例のシート型ヒートパイプ4’は60.01℃であるのに対し、本実施例のシート型ヒートパイプ3は52.69℃に低下しており、受熱部33におけるヒートスポットの改善が確認できた。
【0100】
受熱部33とそれ以外の各部との温度差についても、従来例のシート型ヒートパイプ4’は、受熱部33に相当する「A」部の温度と、受熱部33以外の各部の中で最も低い「K」部の温度との差が、26.67℃であるのに対して、「A」部の温度と「K」部の温度との差が、16.53℃に緩和されており、ここでもシート型ヒートパイプ4自体の均熱化が十分に改善されていることが確認できた。
【0101】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更可能である。例えば、上記実施例ではシート体11,12を拡散接合しているが、例えば超音波接合などの別な接合方式を採用してもよく、シート体11,12を3枚以上重ね合わせて接合してもよい。また、上述した各部の形状や寸法はあくまでも一例で、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であり、またシート体11,12をあえて同形状にする必要もない。さらに、上記各実施例で説明した各部の特徴を適宜組み合わせたシート型ヒートパイプとしてもよい。
【符号の説明】
【0102】
2,3,4 シート型ヒートパイプ
11,12 シート体(金属箔シート)
15 容器
17A 注入通路
20 蒸気通路
20A 第1蒸気通
20B 第2蒸気通路(放射通路)
22 ウィック
22A 第1ウィック
22B 第2ウィッ
32 角部
33 受熱部
35 通路基部
H 熱源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図16