特許第6191595号(P6191595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6191595光通信システム、光送信装置、光通信方法、及び光送信方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191595
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】光通信システム、光送信装置、光通信方法、及び光送信方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/2543 20130101AFI20170828BHJP
   H04J 14/06 20060101ALI20170828BHJP
   H04J 11/00 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   H04B10/2543
   H04J14/06
   H04J11/00 B
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-504651(P2014-504651)
(86)(22)【出願日】2013年1月25日
(86)【国際出願番号】JP2013000388
(87)【国際公開番号】WO2013136652
(87)【国際公開日】20130919
【審査請求日】2015年12月3日
(31)【優先権主張番号】特願2012-54092(P2012-54092)
(32)【優先日】2012年3月12日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 慎介
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 大作
(72)【発明者】
【氏名】高道 透
【審査官】 後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/140289(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/026894(WO,A1)
【文献】 特開2012−119759(JP,A)
【文献】 特開2011−146795(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0039606(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B10/00−10/90
H04J14/00−14/08
H04J 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏波多重方式で光信号を送信する光送信装置と、
前記光信号を受信する光受信装置と、
を備え、
前記光送信装置は、
2つに分割された搬送波の位相差を周期的に変化させる位相差変化手段と、
前記位相差変化手段により位相差が変化された後の前記搬送波の一方を変調することにより第1光信号を生成する第1光信号生成手段と、
前記位相差変化手段により位相差が変化された後の前記搬送波の他方を変調することにより、前記第1光信号と偏光状態が直交し、かつ搬送波の周波数帯が同一である第2光信号を生成する第2光信号生成手段と、
前記第1光信号と前記第2光信号を多重化して送信用光信号を生成する多重化手段と、
を備え、
前記光受信装置は、
前記送信用光信号から、前記第1光信号及び前記第2光信号を互いに分離する分離手段と、
前記位相差変化手段によって加えられた前記2つに分割された搬送波の位相差を補償する位相差補償手段と、
を備える光通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の光通信システムにおいて、
前記位相差変化手段は、前記第1光信号と前記第2光信号の位相差の変化速度を1GHz以上にする光通信システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光通信システムにおいて、
前記位相差変化手段は、前記2つに分割された搬送波の少なくとも一方に周波数偏差を加えることにより、前記2つに分割された搬送波の位相差を、周期的に変化させる光通信システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の光通信システムにおいて、
前記光受信装置の前記分離手段は、
局所光を発生する局所光発生手段と、
前記局所光と前記送信用光信号を干渉させてから前記第1光信号及び前記第2光信号を互いに分離する分離処理手段と、
を備え、
前記光受信装置は、前記位相差補償手段の後段に設けられ、前記局所光と前記送信用光信号の周波数偏差を補償する周波数偏差補償手段を備える光通信システム。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の光通信システムにおいて、
前記光受信装置の前記分離手段は、
局所光を発生する局所光発生手段と、
前記局所光と前記送信用光信号を干渉させてから前記第1光信号及び前記第2光信号を互いに分離する分離処理手段と、
を備え、
前記光受信装置は、前記局所光と前記送信用光信号の周波数偏差を補償する周波数偏差補償手段を備え、
前記周波数偏差補償手段は、前記位相差補償手段を兼ねている光通信システム。
【請求項6】
請求項5に記載の光通信システムにおいて、
前記位相差変化手段は、前記2つに分割された搬送波の位相差の周波数を、前記周波数偏差補償手段が補償可能な値未満にする光通信システム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の光通信システムにおいて、
前記位相差変化手段は、前記2つに分割された搬送波のそれぞれに、絶対値が互いに等しく符号が互いに異なる変化を加える光通信システム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の光通信システムにおいて、
前記位相差変化手段は、前記2つに分割された搬送波の位相差の周波数を、前記光信号の信号チャネルの周波数間隔未満にする光通信システム。
【請求項9】
2つに分割された搬送波の位相差を周期的に変化させる位相差変化手段と、
前記位相差変化手段により位相差が変化された後の前記搬送波の一方を変調することにより第1光信号を生成する第1光信号生成手段と、
前記位相差変化手段により位相差が変化された後の前記搬送波の他方を変調することにより、前記第1光信号と偏光状態が直交し、かつ搬送波の周波数帯が同一である第2光信号を生成する第2光信号生成手段と、
前記第1光信号と前記第2光信号を多重化して送信用光信号を生成する多重化手段と、
を備える光送信装置。
【請求項10】
光送信装置において、
2つに分割された搬送波の位相差を周期的に変化させ、
位相差が変化された後の前記搬送波の一方を変調することにより第1光信号を生成し、
位相差が変化された後の前記搬送波の他方を変調することにより、前記第1光信号と偏光状態が直交していて搬送波の周波数帯が同一である第2光信号を生成し、
前記第1光信号と前記第2光信号を多重化して送信用光信号を生成し、
光受信装置において、
前記送信用光信号から、前記第1光信号及び前記第2光信号を互いに分離し、前記光送信装置によって加えられた前記第1光信号及び前記第2光信号の位相差を補償する光通信方法。
【請求項11】
2つに分割された搬送波の位相差を周期的に変化させ、
位相差が変化された後の前記搬送波の一方を変調することにより第1光信号を生成し、
位相差が変化された後の前記搬送波の他方を変調することにより、前記第1光信号と偏光状態が直交していて搬送波の周波数帯が同一である第2光信号を生成し、
前記第1光信号と前記第2光信号を多重化して送信用光信号を生成し、前記送信用光信号を送信する光送信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重偏波方式の光信号を用いる光通信システム、光送信装置、光受信装置、光通信方法、光送信方法、及び光受信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットの普及により、基幹ネットワークのトラフィック量が急増している。これに対応するために、長距離の光通信における高速化が強く望まれている。光通信の高速化に対応する技術として、デジタル信号処理技術を活用した光位相変調方式、及び偏光多重分離技術がある。光位相変調方式と偏光多重分離技術を組み合わせた技術、所謂光デジタルコヒーレント通信方式は、長距離の光通信における高速化が実現できるため、近年注目されている。
【0003】
一方、光通信に関する技術としては、例えば特許文献1〜3に記載の技術がある。
【0004】
特許文献1に記載の技術は、伝送路内で生じる波形歪の補償を、送信局と受信局とで分担して行うものである。詳細は、以下の通りである。まず、光信号の送信局は、送信歪補償係数に基づいて、送信信号に対して歪補償を行う。また光信号の受信局は、受信歪補償係数に基づいて、受信信号に対して歪補償を行う。
【0005】
特許文献2に記載の技術は、受信機において、局所光と搬送波の位相の差を補償するものである。
【0006】
特許文献3に記載の技術は、光ファイバ内の誘導ブリュアン散乱を抑制するために、互いに直交する偏波成分であるS成分とP成分のうち、S成分には時間遅延を導入し、P成分には周波数シフトを加えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−239555号公報
【特許文献2】特開2009−135930号公報
【特許文献3】特開2002−026818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
偏光多重された2個の独立した光信号は、光ファイバの伝送中に、非線形光学効果により偏光多重光信号の振幅の二乗に比例する位相変動を、自身及び他方の光信号に付与する。このため、偏光多重光信号の伝送特性が劣化してしまう。
【0009】
本発明の目的は、光ファイバの伝送中に光信号が劣化することを抑制する光通信システム、光送信装置、光受信装置、光通信方法、光送信方法、及び光受信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、偏波多重方式で光信号を送信する光送信装置と、
前記光信号を受信する光受信装置と、
を備え、
前記光送信装置は、
第1光信号を生成する第1光信号生成手段と、
前記第1光信号と偏光状態が直交し、かつ搬送波の周波数帯が同一である第2光信号を生成する第2光信号生成手段と、
前記第1光信号と前記第2光信号の位相差を周期的に変化させる位相差変化手段と、
前記第1光信号と前記第2光信号を多重化して送信用光信号を生成する多重化手段と、
を備え、
前記光受信装置は、
前記送信用光信号から、前記第1光信号及び前記第2光信号を互いに分離する分離手段と、
前記位相差変化手段によって加えられた前記第1光信号及び前記第2光信号の位相差を補償する位相差補償手段と、
を備える光通信システムが提供される。
【0011】
本発明によれば、第1光信号を生成する第1光信号生成手段と、
前記第1光信号と偏光状態が直交し、かつ搬送波の周波数帯が同一である第2光信号を生成する第2光信号生成手段と、
前記第1光信号と前記第2光信号の位相差を周期的に変化させる位相差変化手段と、
前記第1光信号と前記第2光信号を多重化して送信用光信号を生成する多重化手段と、
を備える光送信装置が提供される。
【0012】
本発明によれば、偏波多重方式で第1光信号及び第2光信号が多重化されており、かつ第1光信号と前記第2光信号の位相差が周期的に変化されている送信用光信号を受信し、前記第1光信号及び前記第2光信号を互いに分離する分離手段と、
前記第1光信号及び前記第2光信号の位相差の周期的変化を補償する位相差補償手段と、
を備える光受信装置が提供される。
【0013】
本発明によれば、光送信装置において、
第1光信号と、前記第1光信号と偏光状態が直交していて搬送波の周波数帯が同一である第2光信号の位相差を周期的に変化させた上で、前記第1光信号と前記第2光信号を多重化して送信用光信号を生成し、
光受信装置において、
前記送信用光信号から、前記第1光信号及び前記第2光信号を互いに分離し、前記光送信装置によって加えられた前記第1光信号及び前記第2光信号の位相差を補償する光通信方法が提供される。
【0014】
本発明によれば、第1光信号と、前記第1光信号と偏光状態が直交していて搬送波の周波数帯が同一である第2光信号の位相差を周期的に変化させた上で、前記第1光信号と前記第2光信号を多重化して送信用光信号を生成し、前記送信用光信号を送信する光送信方法が提供される。
【0015】
本発明によれば、偏波多重方式で第1光信号及び第2光信号が多重化されており、かつ第1光信号と前記第2光信号の位相差が周期的に変化されている送信用光信号を受信し、
前記第1光信号及び前記第2光信号を互いに分離し、
前記第1光信号及び前記第2光信号の位相差の周期的変化を補償する、光受信方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光ファイバの伝送中に光信号が劣化することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0018】
図1】第1の実施形態に係る光通信システムの構成を示す図である。
図2】第2の実施形態に係る光通信システムの構成を示す図である。
図3】周波数シフタの構成の一例を示す図である。
図4】第1光信号と第2光信号の位相差に周期的変動を加えた場合の、非線形光学効果に起因した受信信号のQ値の変動量をシミュレーションした結果を示す図である。
図5】第1光信号と第2光信号の位相差に周期的変動を加えた場合の、非線形光学効果に起因した受信信号のQ値の改善量を、伝送距離を変数としてシミュレーションした結果を示す図である。
図6】第1光信号と第2光信号の位相差の周波数と、非線形光学効果に起因した受信信号のQ値のシミュレーション結果を示す図である。
図7】第1光信号と第2光信号の位相差の周波数を変数にした場合の、隣接チャネル間のクロストークに起因した受信信号のQ値の劣化量をシミュレーションした結果を示す図である。
図8】位相差の周波数が大きくなるにつれて、隣接チャネル間のクロストークに起因した受信信号のQ値の劣化量が大きくなる理由を説明するための図である。
図9】第1光信号と第2光信号の位相差の周波数の設定基準を説明するための図である。
図10】第1光信号及び第2光信号のそれぞれに、絶対値が互いに等しく符号が互いに異なる変化を加えることの効果を説明するための図である。
図11】第3の実施形態に係る光通信システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0020】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る光通信システムの構成を示す図である。この光通信システムは、光送信装置10及び光受信装置20を有している。
【0021】
光送信装置10は、第1光信号生成部110、第2光信号生成部120、多重化部130、及び位相差変化部140を備えている。第1光信号生成部110は、第1光信号を生成する。第2光信号生成部120は、第2光信号を生成する。第2光信号は、第1光信号と偏光状態が直交し、かつ搬送波の周波数帯が同一である。多重化部130は、第1光信号と第2光信号を多重化して送信用光信号を生成する。位相差変化部140は、第1光信号と第2光信号の位相差を周期的に変化させる。言い換えれば、位相差変化部140は、第1光信号と第2光信号の少なくとも一方の位相に、互いに異なる速度の時間的変動を加える。この位相差の変化は、1GHz以上であるのが好ましい。なお、搬送波の周波数は、100THz以上であり、送信信号の光スペクトル帯域は、例えば10GHz以上である。
【0022】
光受信装置20は、分離部210及び位相差補償部220を備えている。分離部210は、送信用光信号から、第1光信号及び第2光信号を分離する。位相差補償部220は、光送信装置10の位相差変化部140によって加えられた第1光信号と第2光信号の位相差を補償する。
【0023】
光ファイバ内において、非線形光学効果による位相雑音の大きさは、光信号の振幅の二乗に比例する。これに対して本実施形態では、光送信装置10と光受信装置20を結ぶ光ファイバ内において、第1光信号と第2光信号の位相差は周期的に変化している。このため、送信用光信号の振幅の二乗の平均値は、第1光信号と第2光信号の位相差が周期的に変化しない場合と比較して小さくなる。従って、光ファイバの伝送中に光信号が劣化することを抑制できる。
【0024】
(第2の実施形態)
図2は、第2の実施形態に係る光通信システムの構成を示す図である。本実施形態に係る光通信システムは、光送信装置10、光受信装置20、及び変化量設定部30を有している。
【0025】
光送信装置10は、第1光信号生成部110、第2光信号生成部120、多重化部130、位相差変化部140、及びレーザ発振部150を備えている。第1光信号生成部110、第2光信号生成部120、多重化部130、及び位相差変化部140の基本的な動作は、第1の実施形態と同様である。
【0026】
第1光信号生成部110は、駆動信号生成部112及び光直交位相変調部114を有しており、第2光信号生成部120は、駆動信号生成部122及び光直交位相変調部124を有している。駆動信号生成部112,122は、送信すべき信号に基づいた駆動信号を生成する。
【0027】
レーザ発振部150は、搬送波となるレーザ光を発振する。レーザ発振部150が生成したレーザ光は2つに分岐し、光直交位相変調部114及び光直交位相変調部124に入力される。
【0028】
光直交位相変調部114は、駆動信号生成部112が生成した駆動信号に従ってレーザ光を変調し、第1光信号を生成する。光直交位相変調部124は、駆動信号生成部122が生成した駆動信号に従ってレーザ光を変調し、第2光信号を生成する。
【0029】
多重化部130は、第1光信号及び第2光信号を、互いの偏光状態が直交となるような状態で多重化することにより、送信用光信号を生成する。
【0030】
位相差変化部140は、周波数シフタ142を備えている。周波数シフタ142は、光直交位相変調部114とレーザ発振部150の間、及び光直交位相変調部124とレーザ発振部150の間それぞれに設けられている。ただし、位相差変化部140の周波数シフタ142は、光直交位相変調部114と多重化部130の間、及び光直交位相変調部124と多重化部130の間それぞれに設けられていても良い。
【0031】
変化量設定部30は、周波数シフタ142を制御することにより、光直交位相変調部114,124に入射するレーザ光の位相を変化させる。これにより、第1光信号及び第2光信号の位相差は、周期的に変化する。変化量設定部30は、光直交位相変調部114に対応する周波数シフタ142のみを動作させて、第1光信号の位相を周期的に変化させても良いし、光直交位相変調部124に対応する周波数シフタ142のみを動作させて、第2光信号の位相を周期的に変化させてもよい。なお、変化量設定部30は、2つの周波数シフタ142を共に動作させて、第1光信号及び第2光信号のそれぞれに、絶対値が互いに等しく符号が互いに異なる変化を加えるのが好ましい。また、変化量設定部30は、第1光信号と第2光信号の位相差の最大値を、光信号の信号チャネルの周波数間隔未満にするのが好ましい。
【0032】
光受信装置20は、分離部210、位相差補償部220、偏差補償部230、及びシンボル識別部240を備えている。分離部210及び位相差補償部220の基本的な動作は、第1の実施形態と同様である。
【0033】
分離部210は、局所光生成部211、90度光ハイブリッド212、光ディテクタ213、AD(Analog-Digital)コンバータ214、及び偏光分離部215(分離処理部)を備えている。局所光生成部211は局所光を発振する。局所光は、レーザ発振部150とほぼ同一の周波数を有する。
【0034】
90度光ハイブリッド212は、伝送路からの信号光と、局所光生成部211からの局所光が入力される。90度光ハイブリッド212は、光信号と局所光とを位相差0で干渉させて光信号(I)を生成し、光信号と局所光とを位相差π/2で干渉させて光信号(Q)を生成する。また90度光ハイブリッド212は、光信号と局所光とを位相差0で干渉させて光信号(I)を生成し、光信号と局所光とを位相差π/2で干渉させて光信号(Q)を生成する。光信号(I)及び光信号(Q)及び一組の信号を形成し、また光信号(I)及び光信号(Q)も、一組の信号を形成する。
【0035】
光ディテクタ213は、90度光ハイブリッド212が生成した4つの光信号を光電変換して、4つのアナログ信号を生成する。
【0036】
ADコンバータ214は、光ディテクタ213が生成した4つのアナログ信号を、それぞれデジタル信号に変換する。
【0037】
偏光分離部215は、ADコンバータ214の4つの出力デジタル信号から2チャンネルの信号Exin(t)、及びEyin(t)を生成する。Exin(t)は送信機出力での第1光信号を示しており、Eyin(t)は送信機出力での第2光信号を示している。
【0038】
位相差補償部220は、周波数シフト補償部222,224を備えている。周波数シフト補償部222は、周波数シフタ142が第1光信号に加えた位相変化を補償する。周波数シフト補償部224は、周波数シフタ142が第2光信号に加えた位相変動を補償する。周波数シフト補償部222,224は、位相変動の補償量を、変化量設定部30から受信する。
【0039】
偏差補償部230は、送信用光信号と局所光との間の周波数偏差と光位相偏差を補償する。これにより、光位相の回転に起因した信号のノイズが補償される。
【0040】
シンボル識別部240は、偏差補償部230によって補償された後の信号を用いて、シンボル判定を行う。これにより、送信された信号が復調される。
【0041】
図3は、周波数シフタ142の構成の一例を示す図である。ただし、周波数シフタ142の構成は、本図に示す例に限定されない。本図に示す周波数シフタ142は、クロック信号発振部143、位相制御部144、及び光直交位相変調部145を備えている。クロック信号発振部143は、周波数シフタ142の変調信号のもととなる変調信号を発生させる。この変調信号は、光直交位相変調部145のI相の入力端子及びQ相の入力端子それぞれに入力される。クロック信号発振部143が生成する変調信号は、単一周波数の正弦波であり、その周波数は、周波数シフタ142が加えるべき位相差の周波数に設定されている。位相制御部144は、光直交位相変調部145のI相の入力端子に入力される変調信号とQ相の入力端子に入力される変調信号の位相差が−π/2となるように制御する。なお、光直交位相変調部145のバイアスは、変調信号が未入力の場合の光直交位相変調部145の出力光波の光強度が最小となるように制御されている。なお、本図に示す周波数シフタ142の詳細については、例えば以下の文献に示されている。
【0042】
社団法人電子情報通信学会、信学技報OPE2001-159「XカットLiNbO3を用いた光周波数シフタ/SSB−SC変調器の開発」、日隈薫、橋本義浩、及川哲、川西哲也、井筒雅之
【0043】
そして、第1光信号と第2光信号の位相差の変動量は、周波数シフタ142が設定可能な周波数の範囲内、及び偏差補償部230が補償可能な周波数の範囲内で定められる。
【0044】
図4は、第1光信号と第2光信号の位相差に周期的変動を加えた場合の、非線形光学効果に起因した受信信号のQ値の変動量をシミュレーションした結果を示している。このシミュレーションにおいて、信号は、QPSK(quadrature phase shift keying)方式であり、その速度は50Gbps(bit per second)である。伝送距離は、6400kmである。本図から、シフト量が5GHzの場合、シフト量が0GHz(すなわち第1光信号と第2光信号の位相差に周期的変動を加えない)の場合と比較して、信号のQ値が改善していることがわかる。
【0045】
図5は、第1光信号と第2光信号の位相差に周期的変動を加えた場合の、非線形光学効果に起因した受信信号のQ値の改善量を、伝送距離を変数としてシミュレーションした結果を示している。シミュレーションの条件は、図4に示す例と同様である。この図から、伝送距離が長くなるにつれて、第1光信号と第2光信号の位相差に周期的変動を加えることの効果が大きくなることが分かる。
【0046】
図6は、第1光信号と第2光信号の位相差の周波数と、非線形光学効果に起因した受信信号のQ値のシミュレーション結果を示している。シミュレーションの条件は、図4に示す例と同様である。この図から、第1光信号と第2光信号の位相差の周波数が1GHzの場合においても、受信信号のQ値が改善していることが分かる。また、位相差の周波数が上がるにつれて、受信信号のQ値が改善していることも分かる。
【0047】
図7は、第1光信号と第2光信号の位相差の周波数を変数にした場合の、波長多重光通信システムにおける隣接チャネル間のクロストークに起因した受信信号のQ値の劣化量をシミュレーションした結果を示している。シミュレーションの条件は、図4に示す例と同様である。このシミュレーションにおいて、波長多重光通信システムでの隣接するチャネルの間隔を、25GHzとした。また、信号は、QPSK方式であり、その速度は50Gbpsとした。伝送距離は、6400kmとした。この図から明らかなように、位相差の周波数が大きくなるにつれて、隣接チャネル間のクロストークに起因した受信信号のQ値の劣化量は、大きくなる。
【0048】
この理由を、図8を用いて説明する。第1光信号と第2光信号の位相差を周期的に変動させると、第1光信号と第2光信号の少なくとも一方の周波数も周期的に変動する。そして、この位相差の変動の周波数が大きくなると、位相差を加えられた信号チャネル(第1の信号チャネル)の一部が、隣接する信号チャネル(第2の信号チャネル)と重なる可能性が出てくる。
【0049】
このため、図9に示すように、第1光信号と第2光信号の位相差の周波数は、非線形光学効果に起因した位相雑音の低下量と、隣接チャネル間のクロストークに起因した信号品質の劣化と、を考慮した上で設定する必要がある。例えば、第1光信号と第2光信号の位相差の周波数は、隣接する信号チャネルの間隔未満にすることが好ましい。
【0050】
また上記したように、変化量設定部30は、2つの周波数シフタ142を用いて、第1光信号及び第2光信号のそれぞれに、絶対値が互いに等しく符号が互いに異なる変化を加えるのが好ましい。その理由を、図10を用いて説明する。
【0051】
図9から明らかなように、第1光信号と第2光信号の位相差の変動量は、振幅がある程度大きいほうが好ましい。しかし、図10(a)に示すように、第1光信号と第2光信号のみを変動させることによって振幅を確保しようとすると、位相差を加えられた信号チャネル(第1の信号チャネル)の一部が、隣接する信号チャネル(第2の信号チャネル)と重なる可能性が出てくる。
【0052】
これに対して図10(b)に示すように、第1光信号及び第2光信号のそれぞれに、絶対値が互いに等しく符号が互いに異なる変化を加えると、図10(a)の場合と比較して、光信号一つあたりの振幅が、半分になる。このため、位相差を加えられた信号チャネルの一部が、隣接する信号チャネルと重なる可能性は低くなる。
【0053】
以上、第2の実施形態によっても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、第1光信号と第2光信号の位相差の周波数を、隣接する信号チャネルの間隔未満にすると、隣接チャネル間のクロストークに起因した信号品質の劣化を抑制できる。また、第1光信号及び第2光信号のそれぞれに、絶対値が互いに等しく符号が互いに異なる変化を加えても、隣接チャネル間のクロストークに起因した信号品質の劣化を抑制できる。
【0054】
なお本実施形態において、光直交位相変調部114及び光直交位相変調部124の少なくとも一方を用いて、第1光信号と第2光信号の位相差を周期的に変動させても良い。この場合、周波数シフタ142を設けなくても良い。
【0055】
(第3の実施形態)
図11は、第3の実施形態に係る光通信システムの構成を示す図である。本実施形態に係る光通信システムは、偏差補償部230が、第2の実施形態における位相差補償部220の機能を兼ねている点を除いて、第2の実施形態に係る光通信システムと同様である。
【0056】
本実施形態によっても、第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、偏差補償部230が第2の実施形態における位相差補償部220を兼ねているため、光受信装置20のコストが低くなる。なお、本実施形態において、変化量設定部30は、第1光信号及び第2光信号の位相差の周波数を、偏差補償部230が補償可能な値未満にすることが好ましい。
【0057】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0058】
この出願は、2012年3月12日に出願された日本出願特願2012−54092を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
図1
図2
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図6
図7
図8
図9
図10
図11