(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、体積が小さく、質量容量密度が大きく、高電圧を取り出すことができるため、小型機器用の電源として広く採用されている。例えば、携帯電話、ノート型パソコンなどのモバイル機器用の電源として用いられている。また、近年では、小型のモバイル機器用途以外にも、環境問題に対する配慮と省エネルギー化に対する意識の向上から、電気自動車(EV)や電力貯蔵分野などの大容量で長寿命が要求される大型二次電池への応用が期待されている。
【0003】
現在市販されているリチウムイオン二次電池では、正極活物質として層状構造のLiMO
2(MはCo、Ni、及びMnのうち少なくとも1種)またはスピネル構造のLiMn
2O
4をベースとしたものが用いられている。また、負極活物質としては黒鉛などの炭素材料が用いられている。このような電池の電圧は、主に4.2V以下の充放電領域を用いている。
【0004】
一方、LiMn
2O
4のMnの一部をNiなどで置換した材料は、リチウム金属に対して4.5〜4.8Vと高い充放電領域を示すことが知られている。具体的には、LiNi
0.5Mn
1.5O
4等のスピネル化合物は従来のMn
3+とMn
4+の酸化還元ではなく、MnはMn
4+の状態で存在しNi
2+とNi
4+の酸化還元を利用するため、4.5V以上の高い動作電圧を示す。このような材料は5V級活物質と呼ばれ、高電圧化によりエネルギー密度の向上を図ることが可能であることから、有望な正極材料として期待されている。
【0005】
しかしながら、正極の電位が高くなると、電解液が酸化分解されてガスが発生したり、電解液の分解に伴う副生成物が発生したり、正極活物質中のMnやNiなどの金属イオンが溶出して負極上に析出して負極の劣化を早める等の影響により、電池のサイクル劣化が大きくなるという問題があった。特に、ガス発生は5V級正極の実用化の上で大きな障害となっていた。
【0006】
リチウムイオン電池のサイクル劣化やガス発生を抑制する手法として電解液に添加剤を入れることにより活物質表面にSEI(Solid Electrolyte Interface)皮膜を形成させることが行われている。このSEI皮膜は電子的な絶縁体であるがリチウムイオン伝導性は有すると考えられ、活物質と電解液との反応を防止する働きをする。このような添加剤の多くは負極に皮膜を形成するものである。しかしながら、5V級活物質では正極での電解液の分解の影響が支配的であることから、これら負極に皮膜を形成する添加剤ではガス発生に対して十分な効果が得られていなかった。
【0007】
一方、正極活物質に表面処理を施すことで電池性能を向上させる試みがなされている。例えば、正極や正極活物質表面にポリアニリンに代表される導電性高分子を電解酸化あるいは化学酸化の方法により被覆することで電池性能を向上させる技術が開示されている(特許文献1〜3)。しかしながら、これら特許文献には5V級活物質のガス発生の抑制に効果を示す添加剤についての具体的な記述は一切ない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(非水電解液)
本実施形態の非水電解液は、下式(1)で表されるアニリン誘導体の少なくとも一種と、非水溶媒とを含む。
【0016】
【化2】
(式(1)中、
置換基R
1〜R
5は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ビニル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化ビニル基、またはハロゲン化アルコキシ基であり、
前記アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、およびハロゲン化アルコキシ基の炭素数は、それぞれ、1または2である。
【0017】
ただし、式(1)中、ハロゲン原子の総数は5以下であり、かつ、
置換基R
1〜R
5のうち、水素原子およびハロゲン原子以外の置換基の数は1または2である。)
【0018】
本実施形態の非水電解液は、式(1)で表されるアニリン誘導体を含むことにより非水電解液の分解反応が抑制され、高温充放電サイクルにおけるガス発生を低減することができる。これは、式(1)で表されるアニリン誘導体が正極活物質表面に酸化重合により良質な皮膜を形成することで電解液の分解反応が抑制され、高温充放電サイクルにおけるガス発生を低減することができるためと考えられる。本実施形態の非水電解液は、電極におけるガス発生の問題が大きい5V級の正極活物質を含む二次電池において、その効果をより発揮することができる。
【0019】
以下、本明細書において、式(1)で表されるアニリン誘導体のことを単に「アニリン誘導体」と記載することもある。また、本明細書において、式(1)で表されるアニリン誘導体の置換基とは、R
1〜R
5から選ばれるいずれかの置換基のことをいい、−NH
2基は含まない。
【0020】
式(1)において、置換基R
1〜R
5は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ビニル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化ビニル基、またはハロゲン化アルコキシ基である。
【0021】
式(1)において、置換基であるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素が挙げられ、フッ素であることが好ましい。
【0022】
式(1)において、アルキル基およびアルコキシ基の炭素数は、それぞれ1または2である。炭素数が3以上の場合は、立体障害効果などによって皮膜形成が阻害される可能性がある。アルキル基としては、メチル基およびエチル基が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基およびエトキシ基が挙げられる。
【0023】
式(1)において、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化ビニル基、およびハロゲン化アルコキシ基は、それぞれ、アルキル基、ビニル基、およびアルコキシ基の水素の一部または全部が、ハロゲン原子で置換された置換基のことをいう。また、ハロゲン化アルキル基およびハロゲン化アルコキシ基の炭素数は、それぞれ1または2である。炭素数が3以上であると、立体障害効果などによって皮膜形成が阻害される可能性がある。ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化ビニル基、およびハロゲン化アルコキシ基におけるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、および臭素が挙げられ、フッ素であることが好ましい。置換基の一部にフッ素を含むことで正極皮膜の酸化に対する安定性が向上することが期待できる。ハロゲン化アルキル基としては、−CF
3、−CHF
2、−CH
2F、−CF
2CF
3、−CH
2CF
3、−CH
2CHF
2等が挙げられる。ハロゲン化ビニル基としては、−CH=CF
2、−CH=CHF等が挙げられる。ハロゲン化アルコキシ基としては、−OCF
3、−OCH
2F等が挙げられる。
【0024】
また、式(1)で表されるアニリン誘導体においては、ハロゲン原子の総数は5以下である。ここで、ハロゲン原子の総数とは、置換基としてのハロゲン原子の数と、置換基の一部としてのハロゲン原子の数との合計のことをいう。アニリン誘導体に含まれるハロゲン原子の数が6以上であると、アニリン誘導体の酸化重合反応が起きにくくなり皮膜形成を妨げてしまいやすくなる。
【0025】
また、本実施形態において、アニリン誘導体中、水素原子およびハロゲン原子以外の置換基、すなわち炭素原子を含む置換基の数は、1または2である。例えば、無置換のアニリン(すなわち、式(1)においてR
1〜R
5がすべて水素原子のアニリン)を用いた非水電解液は、ガス発生抑制の効果が得られない。この理由は定かではないが、例えば、ポリアニリンは導電性高分子として知られており、正極に形成されたポリアニリン皮膜の電子伝導性が高いためにSEIに求められる電子絶縁性が損なわれやすいことや、無置換のアニリンを用いると副反応がおこりやすく、ガスが発生しやすいという理由が考えられる。一方、炭素原子を含む置換基の数が多すぎるとその立体障害効果などによって重合反応を妨げてしまい皮膜が形成されにくくなると考えられる。
【0026】
式(1)において、置換基R
1〜R
5に含まれる炭素の総数は1または2であることが好ましい。全置換基に含まれる炭素の総数が3以上となると、立体障害効果などによって皮膜形成が阻害されやすくなる場合がある。
【0027】
本実施形態において、アニリン誘導体として、特に限定はされないが、トリフルオロメチルアニリン、メトキシアニリン、および、メチルアニリンから選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0028】
本実施形態におけるアニリン誘導体の一例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0030】
これらアニリン誘導体は一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0031】
電解液中のアニリン誘導体の含有量は、非水電解液の全質量に対して、0.1質量%以上1質量%以下が好ましい。アニリン誘導体の含有量が少なすぎると、正極に十分に皮膜が形成されず電解液との分解反応を抑制する効果が少なくなってしまう。一方、アニリン誘導体の含有量が多すぎると皮膜形成に使われずに残存したアニリン誘導体が充放電サイクル時に副反応することでガス発生量が増加してしまう場合がある。
【0032】
本実施形態の非水電解液に含まれる非水溶媒としては、特に制限されるものではないが、例えば、環状カーボネート、鎖状カーボネート、脂肪族カルボン酸エステル、γ−ラクトン、環状エーテルおよび鎖状エーテルから選ばれる少なくとも1種類の有機溶媒を用いることができる。
【0033】
環状カーボネートとしては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、およびこれらの誘導体(フッ素化物を含む)が挙げられる。一般に、環状カーボネートは粘度が高いため、粘度を低減させるために鎖状カーボネートを混合して用いられる。鎖状カーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、およびこれらの誘導体(フッ素化物を含む)が挙げられる。脂肪族カルボン酸エステルとしては、例えば、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル、およびこれらの誘導体(フッ素化物を含む)が挙げられる。γ−ラクトンとしては、例えば、γ−ブチロラクトンおよびその誘導体(フッ素化物を含む)が挙げられる。環状エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランおよびその誘導体(フッ素化物を含む)が挙げられる。鎖状エーテルとしては、例えば、1,2−エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)、ジエチルエーテル、およびこれらの誘導体(フッ素化物を含む)が挙げられる。これらは一種を単独で、または二種以上を混合して用いることができる。
【0034】
その他、非水溶媒として、例えば、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルオニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、アニソール、N−メチルピロリドン、およびこれらの誘導体(フッ素化物を含む)を用いることもできる。
【0035】
本実施形態においては、非水溶媒としてフッ素含有溶媒を含むことが好ましい。ここで、フッ素含有溶媒とは、フッ素原子を含有する化合物からなる溶媒のことをいう。一般に、フッ素含有溶媒は耐酸化性が高いために、正極上での溶媒の分解を抑えることができる。また、電解液がフッ素含有溶媒を含むと、アニリン誘導体を添加することによるガス発生の低減効果をより高めることができる。この理由は定かではないが、フッ素含有溶媒は耐酸化性が高いため、正極表面に溶媒由来の分解生成物が堆積しにくく、その結果、アニリン誘導体により形成される正極皮膜の品質が向上している可能性が考えられる。
【0036】
フッ素含有溶媒は、特に、リチウム塩の溶解性、カーボネート溶媒への相溶性、電池性能などの観点から、フッ素化エーテル化合物およびフッ素化リン酸エステル化合物から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0037】
フッ素化エーテル化合物としては、特に限定されないが、例えば、CF
3OCH
3、CF
3OC
2H
5、F(CF
2)
2OCH
3、F(CF
2)
2OC
2H
5、CF
3(CF
2)CH
2O(CF
2)CF
3、F(CF
2)
3OCH
3、F(CF
2)
3OC
2H
5、F(CF
2)
4OCH
3、F(CF
2)
4OC
2H
5、F(CF
2)
5OCH
3、F(CF
2)
5OC
2H
5、F(CF
2)
8OCH
3、F(CF
2)
8OC
2H
5、F(CF
2)
9OCH
3、CF
3CH
2OCH
3、CF
3CH
2OCHF
2、CF
3CF
2CH
2OCH
3、CF
3CF
2CH
2OCHF
2、CF
3CF
2CH
2O(CF
2)
2H、CF
3CF
2CH
2O(CF
2)
2F、HCF
2CH
2OCH
3、(CF
3)(CF
2)CH
2O(CF
2)
2H、H(CF
2)
2OCH
2CH
3、H(CF
2)
2OCH
2CF
3,H(CF
2)
2CH
2OCHF
2、H(CF
2)
2CH
2O(CF
2)
2H、H(CF
2)
2CH
2O(CF
2)
3H、H(CF
2)
3CH
2O(CF
2)
2H、H(CHF)
2CH
2O(CF
2)
2H、(CF
3)
2CHOCH
3、(CF
3)
2CHCF
2OCH
3、CF
3CHFCF
2OCH
3、CF
3CHFCF
2OCH
2CH
3、CF
3CHFCF
2CH
2OCHF
2、CF
3CHFCF
2OCH
2(CF
2)
2F、CF
3CHFCF
2OCH
2CF
2CF
2H、H(CF
2)
4CH
2O(CF
2)
2H、CH
3CH
2O(CF
2)
4F、F(CF
2)
4CH
2O(CF
2)
2Hなどが挙げられる。フッ素化エーテル化合物は、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
フッ素化リン酸エステル化合物としては、特に限定されないが、例えば、Tris(trifluoromethyl)phosphate、Tris(pentafluoroethyl)phosphate、Tris(2,2,2−trifluoroethyl)phosphate(TTFP)、Tris(2,2,3,3−tetrafluoropropyl)phosphate、Tris(3,3,3−trifluoropropyl)phosphate、Tris(2,2,3,3,3−pentafluoropropyl)phosphate等のフッ素化アルキルリン酸エステル化合物が挙げられる。中でも、フッ素化リン酸エステル化合物として、Tris(2,2,2−trifluoroethyl)phosphate(TTFP)が好ましい。フッ素化リン酸エステル化合物は、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
本実施形態において、フッ素含有溶媒の含有量は、特に限定はされないが、非水溶媒の全体積に対して、30体積%以上90体積%以下であることが好ましく、40体積%以上85体積%以下であることがより好ましく、50体積%以上80体積%以下であることがさらに好ましい。
【0040】
本実施形態の非水電解液においては、非水溶媒にリチウム塩からなる電解質が溶解されていることが好ましい。
【0041】
リチウム塩としては、特に制限されるものではないが、例えば、リチウムイミド塩、LiPF
6、LiAsF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、LiBF
4、LiSbF
6等が挙げられる。これらのなかでも、LiPF
6、LiBF
4が好ましい。リチウムイミド塩としては、例えば、LiN(C
kF
2k+1SO
2)(C
mF
2m+1SO
2)(kおよびmは、それぞれ独立して1または2である)が挙げられる。リチウム塩は、1種を単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。リチウム塩の電解液中の濃度は、0.5〜1.5mol/Lであることが好ましい。リチウム塩の濃度をこの範囲とすることにより、密度や粘度、電気伝導率等を適切な範囲に調整し易い。
【0042】
また、非水電解液には、負極表面に良質なSEI皮膜を形成させるために添加剤(ただし、上記式(1)で表されるアニリン誘導体を除く。)を加えても良い。SEI皮膜には、電解液との反応性を抑制したり、リチウムイオンの挿入脱離に伴う脱溶媒和反応を円滑にして活物質の構造劣化を防止したりする働きがある。このような添加剤としては、例えば、プロパンスルトンやビニレンカーボネート、環状ジスルホン酸エステルなどが挙げられる。非水電解液中における添加剤の添加量は非水電解液の全質量に対して、0.2質量%〜5質量%が好ましい。
【0043】
(正極活物質)
本実施形態における正極は、リチウム金属に対して4.5V以上に動作電位を有する正極活物質(以下、「5V級活物質」と記載することもある)を含むことが好ましい。すなわち、本実施形態で用いる正極活物質は、リチウム金属に対して4.5V以上に充放電領域を有することが好ましい。
【0044】
5V級活物質としては、リチウム含有複合酸化物であることが好ましい。リチウム含有複合酸化物の5V級活物質としては、例えば、スピネル型リチウムマンガン複合酸化物、オリビン型リチウムマンガン含有複合酸化物、逆スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物、Li
2MnO
3系固溶体等が挙げられる。
【0045】
特に、正極活物質としては、下記式(2)で表されるリチウムマンガン複合酸化物を用いることが好ましい。
【0046】
Li
a(M
xMn
2−x−yA
y)(O
4−wZ
w) (2)
(式(2)中、0.4≦x≦1.2、0≦y、x+y<2、0≦a≦1.2、0≦w≦1であり、Mは、Co、Ni、Fe、CrおよびCuからなる群から選択される少なくとも一種であり、Aは、Li、B、Na、Mg、Al、Ti、Si、KおよびCaからなる群から選択される少なくとも一種であり、Zは、FおよびClの少なくとも一種である。)。
【0047】
Mとしては、Niのみ、あるいはNiを主成分としてCo及びFeのうち一種以上を含むことがより好ましい。Aとしては、B、Mg、Al、及びTiのうち一種以上であることがより好ましい。Zとしては、Fであることがより好ましい。このような置換元素は結晶構造を安定化させ、活物質の劣化を抑制する働きをする。
【0048】
正極活物質の平均粒径(D
50)は、1〜50μmであることが好ましく、5〜25μmであることがより好ましい。なお、正極活物質の平均粒径(D
50)は、レーザー回折散乱法(マイクロトラック法)により測定することができる。
【0049】
5V級活物質としては、リチウム金属に対して4.5V(vs.Li/Li
+)以上の充放電領域がある正極活物質であれば、上記式(2)以外の正極活物質であっても構わない。正極活物質表面に形成される皮膜の質や安定性は、その電位の影響が支配的であって活物質の組成による直接的な影響は受けにくいと考えられる。
【0050】
5V級活物質のほかの例としては、例えば、Li
xMPO
4F
y(0≦x≦2、0≦y≦1、Mは、少なくともCo及びNiのうちの少なくとも一種である。)で表されるオリビン系の複合酸化物;Li
xMSiO
4(0≦x≦2,M:Mn、Fe及びCoのうちの少なくとも一種である。)で表されるSi含有複合酸化物;Li
x[Li
aM
bMn
1−a−b]O
2(0≦x≦1、0.02≦a≦0.3、0.1<b<0.7、Mは、少なくともNi,Co、Fe及びCrのうちの少なくとも一種である。)で表される層状系複合酸化物;等を使用することができる。正極活物質は、一種類を単独で、または、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
また、本実施形態において、正極活物質は、コバルト酸リチウム等の4V級の正極活物質を含んでもよい。
【0052】
(負極活物質)
負極活物質としては、特に制限されるものではないが、例えば、黒鉛や非晶質炭素等の炭素材料を用いることができる。負極活物質としては、エネルギー密度の観点から、黒鉛を用いることが好ましい。また、負極活物質として、炭素材料以外にも、例えば、Si、Sn、Al等のLiと合金を形成する材料、Si酸化物、SiとSi以外の他金属元素を含むSi複合酸化物、Sn酸化物、SnとSn以外の他金属元素を含むSn複合酸化物、Li
4Ti
5O
12、これらの材料にカーボンを被覆した複合材料等を用いることもできる。負極活物質は、1種を単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0053】
(電極)
正極は、例えば、正極集電体の少なくとも一方の面に正極活物質層が形成されてなる。正極活物質層は、例えば、主材である正極活物質と、結着剤と、導電助剤とによって構成される。負極は、例えば、負極集電体の少なくとも一方の面に負極活物質層が形成されてなる。負極活物質層は、例えば、主材である負極活物質と、結着剤と、導電助剤とによって構成される。
【0054】
正極で用いる結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、アクリル系ポリマー等が挙げられる。負極で用いる結着剤としては、前記のもの以外に、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。SBR系エマルジョンのような水系の結着剤を用いる場合、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤を用いることもできる。
【0055】
導電助剤としては、正極および負極とも、例えば、カーボンブラック、粒状黒鉛、燐片状黒鉛、炭素繊維などの炭素材料を用いることができる。特に、正極においては、結晶性の低いカーボンブラックを用いることが好ましい。
【0056】
正極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタンまたはこれらの合金等を用いることができる。負極集電体としては、例えば、銅、ステンレス鋼、ニッケル、チタンまたはこれらの合金等を用いることができる。
【0057】
電極は、例えば、活物質と、結着剤と、導電助剤とを、所定の配合量でN−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の溶剤中に分散混練し、得られたスラリーを集電体に塗布して活物質層を形成することで得ることができる。得られた電極は、ロールプレス等の方法により圧縮して、適当な密度に調整することもできる。
【0058】
(セパレータ)
セパレータとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンやフッ素樹脂等からなる多孔性フィルム、セルロースやガラスなどからなる無機セパレータ等を用いることができる。
【0059】
(外装体)
外装体としては、例えば、コイン型、角型、円筒型等の缶や、ラミネート外装体を用いることができるが、軽量化が可能であり電池エネルギー密度の向上を図る観点から、合成樹脂と金属箔との積層体からなる可撓性フィルムを用いたラミネート外装体が好ましい。ラミネート型電池は、放熱性にも優れているため、電気自動車などの車載用電池として好適である。
【0060】
ラミネート型の二次電池の場合、外装体としては、例えば、アルミニウムラミネートフィルム、SUS製ラミネートフィルム、シリカをコーティングしたポリプロピレン、ポリエチレン等のラミネートフィルムなどを用いることができる。特に、体積膨張を抑制する観点やコストの観点から、アルミニウムラミネートフィルムを用いることが好ましい。
【0061】
(二次電池)
本実施形態に係る二次電池の構成は、特に制限されるものではなく、例えば、正極および負極が対向配置された電極素子と、電解液とが外装体に内包されている構成とすることができる。二次電池の形状は、特に制限されるものではないが、例えば、円筒型、扁平捲回角型、積層角型、コイン型、扁平捲回ラミネート型、又は積層ラミネート型が挙げられる。
【0062】
図1に本実施形態に係る二次電池の一例として、ラミネート型二次電池を示す。
図1に示す二次電池は、正極活物質と正極バインダーを含む正極活物質層1と正極集電体3とからなる正極と、リチウムを吸蔵放出し得る負極活物質を含む負極活物質層2と負極集電体4とからなる負極との間に、セパレータ5が挟まれている。正極集電体3は正極タブ8と接続され、負極集電体4は負極タブ7と接続されている。外装体にはラミネート外装体6が用いられ、二次電池内部は本実施形態に係る非水電解液で満たされている。
【0063】
(二次電池の製造方法)
本実施形態に係る二次電池の製造方法は特に限定されないが、例えば、以下に示す方法が挙げられる。本実施形態に係る二次電池用正極および前記負極にそれぞれ正極集電体及び負極集電体を介して正極タブ、負極タブを接続する。前記正極と前記負極とを前記セパレータを挟んで対向配置させ、積層させた電極積層体を作製する。該電極積層体を外装体内に収容し、電解液に浸す。正極タブ、負極タブの一部を外部に突出するようにして外装体を封止することで、二次電池を作製する。
【実施例】
【0064】
以下、本実施形態の実施例について詳細に説明するが、本実施形態は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)
(負極の作製)
負極活物質としての天然黒鉛粉末(平均粒径(D
50):20μm、比表面積:1m
2/g)と、結着剤としてのPVDFとを、質量比95:5でNMP中に均一に分散させて、負極スラリーを作製した。この負極スラリーを負極集電体となる厚み15μmの銅箔上に塗布後、125℃にて10分間乾燥させてNMPを蒸発させることにより、負極活物質層を形成し、さらにプレスすることによって負極を作製した。なお、乾燥後の単位面積当たりの負極活物質層の重量を0.008g/cm
2とした。
【0066】
(正極の作製)
正極活物質としてのLiNi
0.5Mn
1.5O
4粉末(平均粒径(D
50):10μm、比表面積:0.5m
2/g)を用意した。正極活物質と、結着剤としてのPVDFと、導電助剤としてのカーボンブラックとを、質量比93:4:3でNMP中に均一に分散させて、正極スラリーを作製した。この正極スラリーを正極集電体となる厚み20μmのアルミニウム箔上に塗布後、125℃にて10分間乾燥させてNMPを蒸発させることにより、正極を作製した。なお、乾燥後の単位面積当たりの正極活物質層の重量を0.018g/cm
2とした。
【0067】
(非水電解液)
ECと、DMCと、フッ素含有溶媒としてのH(CF
2)
2CH
2OCF
2CF
2Hで表されるフッ素化エーテル(FE)とを、EC:DMC:FE=40:20:40(体積比)の比率で混合して非水溶媒を調製した。このときのフッ素含有溶媒の濃度は非水溶媒全体積に対して40体積%である。この非水溶媒に、電解質として0.8mol/Lの濃度でLiPF
6を溶解させた。この電解溶液に、アニリン誘導体として前記の2,5−ジメトキシアニリンを、非水電解液の全質量に対し0.5質量%溶解させ、非水電解液を調整した。
【0068】
(ラミネート型電池の作製)
上記のように作製した正極および負極を各々5cm×6.0cmに切り出した。このうち、一辺5cm×1cmはタブを接続するために電極活物質層を形成していない部分(未塗布部)であって、電極活物質層が形成された部分は5cm×5cmである。幅5mm×長さ3cm×厚み0.1mmのアルミニウム製の正極タブを、正極の未塗布部に長さ1cmで超音波溶接した。また、正極タブと同サイズのニッケル製の負極タブを、負極の未塗布部に超音波溶接した。6cm×6cmのポリエチレンおよびポリプロピレンからなるセパレータの両面に上記負極と正極を電極活物質層がセパレータを隔てて重なるように配置して、電極積層体を得た。2枚の7cm×10cmのアルミニウムラミネートフィルムの長辺の一方を除いて三辺を熱融着により幅5mmで接着して、袋状のラミネート外装体を作製した。ラミネート外装体の一方の短辺より1cmの距離となるように上記電極積層体を挿入した。上記非水電解液を0.2g注液して真空含浸させた後、減圧下にて開口部を熱融着により幅5mmで封止することで、ラミネート型電池を作製した。
【0069】
(初回充放電)
上記のように作製したラミネート型電池を、20℃にて5時間率(0.2C)相当の12mAの定電流で4.75Vまで充電した後、合計で8時間の4.75V定電圧充電を行ってから、1時間率(1C)相当の60mAで3.0Vまで定電流放電した。
【0070】
(サイクル試験)
初回充放電が終了したラミネート型電池を、1Cで4.75Vまで充電した後、合計で2.5時間の4.75V定電圧充電を行ってから、1Cで3.0Vまで定電流放電するという充放電サイクルを、45℃で300回繰り返した。初回放電容量に対する300サイクル後の放電容量の比率を容量維持率(%)として算出した。また、サイクル後のセル体積から初回充放電後のセル体積を差し引いて体積変化量(cc)を求め、体積変化量(cc)を初回放電容量(mAh)で除して得られる電池容量で規格化した体積変化量(cc/mAh)を算出した。体積は水中と空気中での重量差からアルキメデス法を用いて測定した。
【0071】
(実施例2)
アニリン誘導体として前記の2−メトキシアニリンを用いた以外は実施例1と同様の方法で二次電池を作製し、評価した。
【0072】
(実施例3)
アニリン誘導体として前記の2−メチルアニリンを用いた以外は実施例1と同様の方法で二次電池を作製し、評価した。
【0073】
(実施例4)
アニリン誘導体として前記の2−トリフルオロメチルアニリンを用いた以外は実施例1と同様の方法で二次電池を作製し、評価した。
【0074】
(比較例1)
アニリン誘導体を添加しなかった点以外は実施例1と同様の方法で二次電池を作製し、評価した。
【0075】
(比較例2)
2,5−ジメトキシアニリンに代えて、下記の無置換のアニリンを用いた以外は実施例1と同様の方法で二次電池を作製し、評価した。
【0076】
【化4】
【0077】
(比較例3)
2,5−ジメトキシアニリンに代えて、下記のペンタフルオロアニリンを用いた以外は実施例1と同様の方法で二次電池を作製し、評価した。
【0078】
【化5】
【0079】
(比較例4)
2,5−ジメトキシアニリンに代えて下記の2,5−ビス(トリフルオロメチル)アニリンを用いた以外は実施例1と同様の方法で二次電池を作製し、評価した。
【0080】
【化6】
【0081】
(比較例5)
2,5−ジメトキシアニリンに代えて下記の2,3,5−トリメチルアニリンを用いた以外は実施例1と同様の方法で二次電池を作製し、評価した。
【0082】
【化7】
【0083】
表1に、実施例1〜4および比較例1〜5の評価結果を示す。実施例1〜4で用いたアニリン誘導体は、いずれも式(1)で表される化合物の一種である。アニリン誘導体を添加しなかった比較例1の結果と比べて、実施例1〜4では体積変化量が減少することが確認された。これは、式(1)で表されるアニリン誘導体が5V級活物質の表面に良質な皮膜を形成し、高電圧高温下における電解液の分解を抑制したものと考えられる。
【0084】
一方、比較例2〜5では、式(1)で表される化合物には含まれないアニリンまたはアニリン誘導体を用いた。これら比較例2〜5では、ガス発生を低減する効果は認められなかった。また、アニリン誘導体を添加しなかった比較例1に対して、無置換のアニリン(比較例2)、ベンゼン環の水素原子5個がフッ素原子で置換されたペンタフルオロアニリン(比較例3)、置換基としてメチル基を3個含む2,3,5−トリメチルアニリン(比較例5)はサイクル劣化が大きく300サイクル未満で容量維持率が20%以下となり、体積変化量も5倍以上と大きかった。トリフルオロメチル基を2個含む2,5−ビス(トリフルオロメチル)アニリン(比較例4)は比較例1とほぼ変わらなかった。
【0085】
(実施例5)
2−トリフルオロメチルアニリン(2TFMA)の電解液への添加量を、電解液全質量中、0.05質量%とした以外は実施例4と同様の方法で二次電池を作製し、評価した。
【0086】
(実施例6)
2TFMAの添加量を、電解液全質量中、0.1質量%とした以外は実施例4と同様の方法で二次電池を作製し、評価した。
【0087】
(実施例7)
2TFMAの添加量を、電解液全質量中、0.3質量%とした以外は実施例4と同様の方法で二次電池を作製し、評価した。
【0088】
(実施例8)
2TFMAの添加量を、電解液全質量中、1.0質量%とした以外は実施例4と同様の方法で二次電池を作製し、評価した。
【0089】
(実施例9)
2TFMAの添加量を、電解液全質量中、1.5質量%とした以外は実施例4と同様の方法で二次電池を作製し、評価した。
【0090】
表2に、実施例5〜9の評価結果を示す。2TFMAの添加量が、電解液全質量中、0.1質量%以上1質量%以下のとき体積変化量がより少なくなっており、より好ましいことがわかった。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
(比較例6)
ECと、DMCと、フッ素含有溶媒としてのH(CF
2)
2CH
2OCF
2CF
2Hで表されるフッ素化エーテル(FE)と、O=P(OCH
2CF
3)
3で表されるフッ素化リン酸エステル(FP)とを、EC:DMC:FE:FP=35:15:25:25(体積比)の比率で混合して非水溶媒を調製した。このときのフッ素含有溶媒の濃度は、非水溶媒全体積に対して50体積%である。この非水溶媒に、電解質として0.8mol/Lの濃度でLiPF
6を溶解させた。この非水電解液を用いた以外は比較例1と同様の方法で二次電池を作製し、評価した。
【0094】
(実施例10)
非水電解液に2TFMAを、非水電解液全質量に対し0.5質量%溶解させた以外は比較例6と同様の方法で二次電池を作製し、評価した。
【0095】
(比較例7)
ECと、DMCと、フッ素含有溶媒としてのH(CF
2)
2CH
2OCF
2CF
2Hで表されるフッ素化エーテル(FE)と、O=P(OCH
2CF
3)
3で表されるフッ素化リン酸エステル(FP)とを、EC:DMC:FE:FP=30:10:20:40(体積比)の比率で混合して非水溶媒を調製した。このときのフッ素含有溶媒の濃度は、非水溶媒全体積に対して60体積%である。この非水溶媒に、電解質として0.8mol/Lの濃度でLiPF
6を溶解させた。この非水電解液を用いた以外は比較例1と同様の方法で二次電池を作製し、評価した。
【0096】
(実施例11)
非水電解液に2TFMAを、非水電解液全質量に対し0.5質量%溶解させた非水電解液を用いた以外は比較例7と同様の方法で二次電池を作製し、評価した。
【0097】
表3に比較例6、7および実施例10、11の評価結果を示す。フッ素含有溶媒の濃度が非水溶媒全体積に対して50体積%の場合には、2TFMAの添加により体積変化量が0.018から0.01cc/mAhへと44%減少した。また、フッ素含有溶媒の濃度が非水溶媒全体積に対して60体積%の場合には、2TFMAの添加により体積変化量が0.0085から0.0043cc/mAhへと49%減少した。一方、比較例1と実施例4は、フッ素含有溶媒濃度が非水溶媒の全体積に対して40体積%であるが、2TFMAの添加により体積変化量が0.03から0.02cc/mAhへと33%減少している。この結果から、特にフッ素含有溶媒の濃度が50体積%以上の非水電解液と式(1)で表されるアニリン誘導体とを併用することにより、体積変化量、すなわちガス発生の抑制効果がより大きいことがわかった。
【0098】
【表3】