(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
金属膜を作製する方法として、金属をリキッドインク状又はペーストインク状とし、これらを基材に塗布又は印刷後、加温する方法が知られている。使用される金属としては、金、銀、銅、アルミニウムであり、配線用の材料としては銀が汎用されている。銀を用いたインクの場合、一般に金属銀が分散溶媒中に分散したインクを用い、配線基板上にパターン形成し、前記インク中の金属銀を焼結させ、配線を形成する。金属銀を導電性材料として使用する場合、分散した金属銀の微細化による融点降下を利用して、低温で焼結する必要があることが知られている。現在では、微細化したナノサイズの金属ナノ微粒子が低温焼結可能な材料として期待されている。
しかし、融点降下を示すほどの微小な金属銀の粒子は、互いに接触して凝集しやすいことから、凝集を防止するために前記インクには分散剤を添加する必要がある。しかしながら、前記分散剤を含むインクを用いて金属銀の粒子を焼結させると、分散剤由来の不純物が残存してしまうため、高温での処理などによって不純物を除去することが望ましいとされている。
【0003】
銀ナノ微粒子の一般的な製造方法としては、例えば、硝酸銀などの無機酸と銀から成る銀塩を分散剤の存在下で還元する方法が挙げられる。しかしながら、銀塩由来の酸成分の残存や分散剤除去のために高温で処理する必要がある。
また、前述のような無機酸に代えて有機酸を用いた銀塩を利用する金属銀の形成方法も報告されている。有機酸銀としては、例えば、長鎖カルボン酸の銀塩をアルキルアミンの存在下で熱分解又は還元する方法が報告されている(特許文献1〜5)。しかし、いずれの有機酸銀により作製された銀ナノ微粒子にも、不揮発性で熱分解温度が高いカルボン酸あるいはカルボン酸銀が付着しているため、導電性の良い銀膜や銀線等の銀要素を得るためには200℃以上かつ長時間の熱処理が必要であると考えられる。
【0004】
近年では、透明樹脂基板に対し金属銀の作製が盛んに試みられている。しかし、一般的に透明樹脂基板は、ガラス等と比較し低い軟化点を有する為に150℃以下の加熱によって金属銀を作製できる低温焼結性の銀形成材料が望まれている。低温焼結性を実現する為には、銀ナノ粒子の表面に吸着した分散剤が低温で除去される必要がある。さらに、耐久性の良い金属樹脂基板を得るために、透明樹脂基板と銀要素間が強く結合している必要がある
【0005】
低温焼結性を実現する手段として、シュウ酸銀とアミンを混合して、熱分解温度が110℃のシュウ酸銀アミン錯体を有する銀ナノ粒子の製造方法が提案されている(特許文献6)。この方法で得られる銀ナノ粒子は、150℃以下の焼成で良好な導電性を示す金属膜等の銀要素が得られるものの、密着性を含めた耐久性については記載されていない。このように有機物が膜中に残存しないといった作用機序で得られた純粋な銀要素は、基材との密着性に乏しいことが推測される。
一方、密着性や銀要素の強度を向上させる手段としては、ウレタンジオール基を含む有機高分子と無機材料をハイブリッド化した組成物を用いる方法が報告されている(特許文献7)。しかし有機高分子を添加する場合、導電膜中に残存して抵抗成分となるため、バルク銀と同等レベルの導電性を発現することは困難である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の銀ナノ微粒子は、上記式(1)で表される銀化合物(A)と、1級アミノ基を有するアミン化合物(B)と、特定の重合体(C)とを特定の割合で含有する銀含有組成物を、還元処理する本発明の製造方法により得られる。
銀化合物(A)は、アセトンジカルボン酸銀であり、その形態は通常粉体である。該銀化合物(A)は、溶媒への溶解性が低く、均一な系で還元反応が行えないため、安定に分散したナノ微粒子を得ることが難しい。しかしながら、上記1級アミノ基を有するアミン化合物(B)と組み合わせることで、銀化合物(A)が溶解し均一な系で還元反応が進行する。また銀化合物(A)は、有機構造のアセトンジカルボン酸が反応系中で揮発性化合物に分解し、銀のみを与えるため、生成した銀ナノ微粒子に不揮発性のカルボン酸が残存せず、150℃以下の加熱処理で金属銀膜や線等の銀要素を形成することが可能となる。
従って、本発明の銀ナノ微粒子は、導電性、密着性に優れた銀膜や銀線等の銀要素を基材に形成するために使用することができる。
【0013】
前記銀含有組成物において、アミン化合物(B)の含有割合は、前記銀化合物(A)中の銀元素に対して1〜50モル当量の範囲である。1モル当量未満では、均一な溶液が調整できないため還元時に沈澱が生じやすくなり、50モル当量を超える場合は、含有割合に見合った効果が得られない。
【0014】
アミン化合物(B)は、銀化合物(A)へ配位しやすい1級アミノ基を構造に有する化合物であれば特に限定されない。アミン化合物(B)としては、例えば、1−ブチルアミン、1−アミルアミン、1−ヘキシルアミン、1−ヘプチルアミン、1−オクチルアミン、1−ノニルアミン、1−デシルアミン、1−ウンデシルアミン、1−ドデシルアミン、1−トリデシルアミン、1−テトラデシルアミン、1−ペンタデシルアミン、1−ヘキサデシルアミン、1−オクタデシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、イソブチルアミン、イソアミルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、tert−アミルアミン、アリルアミン、オレイルアミン、ベンジルアミン、2−フェネチルアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−イソプロポキシプロピルアミン、3−ブトキシプロピルアミン、2−エチルヘキシルオキシプロピルアミン、3−デシルオキシプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジイソプロピルアミノエチルアミンが挙げられ、使用に際しては1種又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0015】
本発明の銀ナノ微粒子を低温焼成に特に優れたものとするためには、アミン化合物(B)は焼成時に膜中から除去されやすい構造の化合物が好ましく、例えば、1−ブチルアミン、1−アミルアミン、1−ヘキシルアミン、1−ヘプチルアミン、1−オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、イソブチルアミン、イソアミルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、tert−アミルアミン、アリルアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−イソプロポキシプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジイソプロピルアミノエチルアミンが挙げられ、使用に際しては1種又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0016】
本発明の銀ナノ微粒子を、溶媒に対して特に安定性に優れたものとするためには、アミン化合物(B)は立体反発の効果が得られる側鎖を有する構造の化合物が好ましく、例えば1−デシルアミン、1−ウンデシルアミン、1−ドデシルアミン、1−トリデシルアミン、1−テトラデシルアミン、1−ペンタデシルアミン、1−ヘキサデシルアミン、1−オクタデシルアミン、オレイルアミン、2−エチルヘキシルオキシプロピルアミン、3−デシルオキシプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン等が挙げられ、使用に際しては1種又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0017】
本発明の銀ナノ微粒子に、低温焼結性と溶媒への分散安定性とを両立させるために、上記アミン化合物(B)を2種以上併用することができる。その含有比率は任意であって、所望の低温焼結性と分散安定性に応じて適宜選択できる。
【0018】
前記重合体(C)は、上記式(2)で示されるウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物(c1)(以下、単量体(c1)と略すことがある)と、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、アクリルアミドモノマー、ビニルモノマー、ビニルエーテルモノマー及びエポキシ基含有モノマーから選ばれる少なくとも1種の単量体(c2)とを含む単量体組成物を重合して得た共重合体である。
重合体(C)は、単量体(c1)の構造に由来する、極性のウレタン基と2つの水酸基(ジオール基)を有する。ウレタン基や水酸基は、それら単体では銀との相互作用はそれほど強くないものの、それらが隣接した部位に存在しているため、3点の配位により銀ナノ微粒子の表面に効率的に吸着することができ、残りの高分子鎖の立体反発によって分散安定性を向上させることができる。また、本発明の銀ナノ微粒子を分散液として基材上に塗布して加熱処理する際は、重合体(C)は銀ナノ微粒子の表面から脱離するため銀要素形成を妨げることはない。さらに、脱離した重合体(C)は基材界面に配向するため、得られる金属銀膜や線等の銀要素と基材間を強固に密着させることができる。
【0019】
単量体(c1)を表す上記式(2)において、R
1は水素原子又はメチル基を表し、分子量の調整のしやすさの点からメチル基が好ましい。R
2は−(CH
2)
n−であり、nは1〜4の整数である。R
2は具体的に−CH
2−、−CH
2CH
2−、−CH
2CH
2CH
2−、−CH
2CH
2CH
2CH
2−のいずれかであり、入手のし易さから−CH
2−又は−CH
2CH
2−が好ましい。
単量体(c1)としては、例えば、グリセロール−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン、グリセロール−1−アクリロイルオキシエチルウレタンが挙げられ、合成のし易さからグリセロール−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンが好ましく挙げられる。
単量体(c1)の製造は、例えば、上記特許文献7に開示される方法に準じて合成することができる。
【0020】
単量体(c2)として用いる上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、α−ナフチルメタアクリレート、2−メチル−2−アダマンチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロへキシル)エチル(メタ)アクリレート、1H−1−(トリフルオロメチル)トリフルオロエチルアクリレートが挙げられる。
【0021】
単量体(c2)として用いる上記アクリルアミドモノマーとしては、例えば、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジイソプロピルアクリルアミドが挙げられる。
単量体(c2)として用いる上記ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、2−クロロスチレン、β−ブロモスチレン、ビニルカルバゾール、パーフルオロへキシルエチレンが挙げられる。
単量体(c2)として用いる上記ビニルエーテルモノマーとしては、例えば、メチルビニルエーテルが挙げられる。
単量体(c2)として用いる上記エポキシ含有モノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテルが挙げられる。
【0022】
前記単量体組成物において、単量体(c1)と単量体(c2)との組成比は、モル比で単量体(c1):単量体(c2)=20:80〜90:10が好ましく、30:70〜80:20が特に好ましい。単量体(c1)のモル比が20%未満では、得られる銀ナノ微粒子への吸着効率が低下し分散安定性が低下するおそれがある。単量体(c1)のモル比が90%を超える場合は、得られる重合体(C)同士の会合によって溶媒への親和性が低下し、溶媒への分散安定性が低下するおそれがある。
【0023】
重合体(C)の分子量は、重量平均分子量で5000〜50000の範囲が好ましく、特に好ましくは7000〜40000である。重量平均分子量が5000未満では、分子が小さく立体反発により、溶媒に対する分散安定性の向上が十分に得られないおそれがある。重量平均分子量が50000を超える場合は、重合体(C)同士の会合によって溶媒への親和性が低下し、溶媒への分散安定性が低下するおそれがある。
【0024】
重合体(C)は、例えば、前記単量体組成物を、公知の溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等の方法を用いて、必要に応じて重合系を不活性ガス、例えば、窒素、二酸化炭素、ヘリウムで置換ないし雰囲気下でラジカル重合させる方法により調製することができる。この際、重合温度は通常0〜100℃、重合時間は通常1〜48時間である。
重合にあたっては重合開始剤を用いることができる。該重合開始剤としては、例えば、2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4'−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2'−アゾビス(2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)二塩酸塩、2,2'−アゾビス(2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)二塩酸塩、2,2'−アゾビスイソブチルアミド二水和物、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化ベンゾイル、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオキシジイソブチレート、過酸化ラウロイル、アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、t−ブチルペルオキシネオデカノエート(商品名「パーブチルND」、日油(株)社製)又はこれらの混合物が挙げられる。重合開始剤には各種レドックス系の促進剤を用いても良い。
重合開始剤の使用量は、単量体組成物100質量部に対して0.01〜5.0質量部が好ましい。重合体の精製は、再沈澱法、透析法、限外濾過法等の一般的な精製法により行うことができる。
【0025】
本発明の銀ナノ微粒子の製造において、銀濃度や銀ナノ微粒子の生成速度を調整する目的に、溶媒を適宜添加することができる。溶媒の量は、特に限定されないが、生産性や環境負荷の観点から、銀化合物(A)100質量部に対して3000質量部未満が望ましい。
【0026】
前記溶媒は、銀ナノ微粒子が分散するものであれば特に限定されず、用途に応じて単独もしくは混合して用いることができる。該溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、tert−アミルアルコール、1−ヘキサノール、1−オクタノール、2-エチル−1−ヘキサノール、エチレングリコール、ブトキシエタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、エチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル及びジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ターピネオール等のアルコール類、アセトキシメトキシプロパン、フェニルグリシジルエーテル及びエチレングリコールグリシジル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン、γ-ブチロラクトン等のケトン類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル及びイソブチロニトリル等のニトリル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族類、水が挙げられる。
【0027】
前記銀含有組成物において、重合体(C)の含有割合は、銀化合物(A)中の銀元素量100質量部に対して0.1〜0.9質量部の範囲であり、好ましくは0.2〜0.7質量部の範囲である。0.1質量部未満では、銀ナノ微粒子が生成するものの、溶媒に対する分散安定性が低くなり沈澱が生じやすくなる。また、本発明の分散液を加熱処理して得られる銀要素と基材との密着性も不十分となる。0.9質量部を超える場合は、重合体(C)が凝集剤として働き沈澱が生ずる。
【0028】
前記銀含有組成物を調製するにあたり、銀化合物(A)、アミン化合物(B)及び重合体(C)の混合順序は特に制限されない。
【0029】
本発明の銀ナノ微粒子は、前記銀含有組成を、還元処理(還元剤で処理、または熱処理)する本発明の製造方法により得ることができる。
熱処理としては、銀化合物とアミンと錯体の熱分解還元を用いることができる。加熱温度としては、50℃以上が好ましく、70℃〜200℃の範囲が特に好ましい。処理時間は5−120分が好ましい。50℃未満では、熱分解還元反応の進行が遅く銀ナノ微粒子が生成せず、200℃を超える場合は、銀ナノ微粒子同士が融着してしまう恐れがある。
還元剤としては、例えば、ギ酸、ヒドラジン、アスコルビン酸、ヒドロキノン、水素化ホウ素ナトリウム、3級アミン、アミノアルコールが挙げられるがこれらに限定されない。
【0030】
還元剤の添加量は、銀含有組成物の銀化合物(A)中の銀元素に対して1.0〜5.0モル当量の範囲が好ましく、1.1〜3.0モル当量の範囲が特に望ましい。1.0モル当量未満では、還元剤の量が不十分となり銀ナノ微粒子の生成速度が遅くなるおそれがあり、5.0モル当量を超える場合は、銀ナノ微粒子の生成速度が速すぎて凝集を招き、沈澱を生じるおそれがある。
【0031】
還元剤の添加方法は特に限定されず、還元力に応じて調節すればよい。還元力が高い場合は、希釈してゆっくり添加することにより、沈澱が生じず安定に分散した銀ナノ微粒子が得られる。温和な還元剤の場合は、一度に添加したり、加熱することにより反応を進行させてもよい。通常、還元剤による処理は、室温程度で行うことができる。
還元剤の添加終了後は、還元反応を終了させ、生成した銀ナノ微粒子への配位を促すために、さらに攪拌することが望ましい。この際、攪拌の方法及び時間は特に限定されない。
【0032】
本発明の銀ナノ微粒子の体積平均粒子径は、通常、1〜100nmである。また、銀ナノ微粒子の銀含有量は、通常90質量%以上である。
本発明の銀ナノ微粒子は、加熱処理により優れた金属銀膜や線等の銀要素を作製する、特に導電性材料として好適に用いることができる。従って、当該銀ナノ微粒子は、銀要素形成基材の製造に使用できる。
【0033】
本発明の製造方法により得られる銀ナノ微粒子は、そのまま使用してもよいが、銀ナノ微粒子への配位に関与していない過剰のアミン化合物や還元剤が存在するため、これらを除去して精製することが望ましい。精製方法としては、高極性溶剤を添加することによる沈澱が挙げられるが、この方法で精製できない場合は遠心分離、限外濾過等で精製してもよい。
【0034】
本発明の銀ナノ微粒子分散液は、本発明の銀ナノ微粒子と溶媒とを含み、該銀ナノ微粒子が溶媒に分散したものである。
溶媒は特に制限されず、銀ナノ微粒子が分散するものであればよい。例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、tert−アミルアルコール、1−ヘキサノール、1−オクタノール、2-エチル−1−ヘキサノール、エチレングリコール、ブトキシエタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、エチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル及びジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ターピネオール等のアルコール類、アセトキシメトキシプロパン、フェニルグリシジルエーテル及びエチレングリコールグリシジル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン、γ-ブチロラクトン等のケトン類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル及びイソブチロニトリル等のニトリル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族類、水が挙げられる。
【0035】
銀ナノ微粒子分散液中の銀含有量は、分散液の用途に応じて適宜選択可能であるが、通常10〜85質量%が好ましく、導電性材料として使用する場合は20〜60質量%の範囲が、低温焼結性と溶媒に対する分散安定性の観点から好ましい。
【0036】
本発明の銀ナノ微粒子分散液には、必要により、基材に対するレベリング性を調整するために、例えば、炭化水素、アセチレンアルコール、シリコーンオイルを、また、分散液の粘度特性を調整せるために、例えば、樹脂や可塑剤を適宜配合することができる。更に、必要により、例えば、他の導電体粉末、ガラス粉末、界面活性剤、金属塩や、その他銀含有組成物に一般に使用される添加剤を適宜配合しても良い。
【0037】
本発明の銀要素形成基材は、本発明の分散液を、基板等の基材上に塗布し、該基材を加熱して金属銀を膜状や線状に形成した銀要素を形成させる基材である。
本発明の分散液を塗布する基材は特に制限されず、分散液が基材上に塗工できればよい。例えば、ポリエステル、ポリイミド、エポキシ樹脂、ビスマレイミド・トリアジン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、ABS樹脂、ポリアミド、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂等のプラスチック基板、ソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、シリカガラス、石英ガラス等のガラス基板、金、銀、銅、アルミニウム等の金属配線を有する配線基板が挙げられる。またこれらの基材は、プライマー処理、プラズマ処理、エッチング処理、溶剤吸収層処理が施されていても良い。
【0038】
本発明の銀ナノ微粒子分散液及び上記基材を使用して、銀要素形成基材を製造する方法は、例えば次の方法を挙げることができる。
本発明の分散液の基材への塗布は、印刷等により行うことができる。印刷等の方法は特に制限されず、例えば、インクジェット印刷、マイクログラビア印刷、グラビアオフセット印刷、スクリーン印刷、ロールコート法、エアナイフコート法、ブレードコート法、バーコート法、ダイコート法、スライドコート法が挙げられる。
【0039】
基材に銀要素を形成するための加熱における加熱温度は、基材の種類により異なり適宜選択でき、例えば、基材の耐熱温度以下かつ導電性に優れた銀要素(体積抵抗値1.0×10
-5Ω・cm未満)が得られる加熱温度が好ましく、具体的には100〜200℃の範囲が好ましい。また、加熱時間は、加熱温度により異なるが、導電性に優れた銀要素が形成される時間であればよく、通常は1〜120分間、好ましくは10〜60分間である。
【0040】
基材上に形成された銀要素の厚さは、用途により異なるが、配線材料として使用する場合は導電性、耐久性の観点からは0.2〜50μmが好ましく、加熱時の乾燥性、焼結性の観点からは0.5〜30μmが好ましい。
【0041】
本発明の銀要素含有基材の用途は特に限定されないが、体積抵抗値10
-6Ω・cmオーダーのバルク銀に近い導電性を示し、銀要素が基材に強固に密着し、耐久性を有することから、例えば、電子機器の配線等の電子材料分野において特に利用可能である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
尚、例中の銀元素とは用いた銀化合物中の銀元素を意味する。
合成例
表1に示す単量体(c1)及び単量体(c2)の組成の単量体組成物を用い、常法により重合体(C1〜C10)を得た。これら重合体を、後述する実施例及び比較例に使用する。
なお、各重合体の重量平均分子量は、次に示す測定装置及び条件により測定した。
測定装置:東ソービルドアップGPCシステム(検出器:RI)。
カラム:TSKgelG3000PWXL+TSKgelG5000PWXL(東ソー)。
溶離液:水/エタノール=7/3(v/v)。
測定条件:送液速度;0.5ml/min、カラム槽温度;40℃、標準物質;ポリエチレンオキシド。
【0043】
【表1】
【0044】
実施例1−1 銀ナノ微粒子の製造
銀化合物(A)であるアセトンジカルボン酸銀3.6g(10.0mmol)、2−エチルヘキシルアミン7.8g(60.0mmol、銀元素に対して3モル当量)及びトルエン36.0g(銀化合物の10倍重量)を混合し、薄黄色透明の溶液を得た。これに重合体(C1)11mg(銀元素100質量部に対して0.5質量部)添加した。次いで、ギ酸1.4g(30.0mmol、銀元素に対して1.5モル当量)をゆっくりと滴下した後、反応液を室温(25℃)で1時間撹拌し、銀ナノ微粒子を製造した。
【0045】
製造した銀ナノ微粒子の評価を以下の方法で行った。結果を表2に示す。
吸収スペクトルの分析は、UV−Visスペクトル分光装置(日本分光(株)製)を用いて行った。その結果、銀ナノ微粒子の表面プラズモンに由来する、極大吸収スペクトルが420nmに観測された(
図1)。
銀ナノ微粒子の粒子径は、動的光散乱装置(マルバーン製)で測定した。その結果、体積平均粒子径は17.4nmであった。
銀ナノ粒子を合成した反応液に、メタノールを注ぎ、銀ナノ微粒子を凝集沈澱させた。沈澱した銀微粒子をPTFEフィルターで濾過し、銀ナノ微粒子2.0gを得た。この銀ナノ微粒子を用いてTG分析を、熱重量分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製)を用いて行った。分析条件は、昇温速度10℃/分、測定雰囲気を空気中とした。その結果、熱重量分析後の残分は92.0%(
図2)であった。
【0046】
実施例1−2〜1−40
表2及び3に示す各成分割合で実施例1−1と同様の方法で銀ナノ微粒子を製造した。
銀ナノ微粒子の評価については実施例1−1と同様に行い、UV−Visスペクトル分光装置により表面プラズモンに由来する極大吸収を確認した。また、体積平均粒子径と加熱重量残分も同様に測定した。結果を表2及び表3に示す。
尚、表において、2−EHAは2−エチルヘキシルアミン、HAはヘキシルアミン、OAはオクチルアミン、3−EPAは3−エトキシプロピルアミン、DMAPAはジメチルアミノプロピルアミン、LAはラウリルアミン、OLAはオレイルアミン、IPAはイソプロピルアルコールの略号である。
また、表において、注1は、銀化合物(A)中の銀元素量100質量部に対する質量部である。注2は、銀化合物(A)中の銀元素に対するモル当量である。注3は、銀化合物(A)100質量部に対する質量部である。
【0047】
実施例1−41
銀化合物(A)であるアセトンジカルボン酸銀3.6g(10.0mmol)、2−エチルヘキシルアミン7.8g(60.0mmol、銀元素に対して3モル当量)及びトルエン36.0g(銀化合物の10倍重量)を混合し、薄黄色透明の溶液を得た。これに重合体(C1)11mg(銀元素100質量部に対して0.5質量部)添加した。次いで、混合液を70℃に設定したオイルバス中で1時間撹拌し、銀ナノ微粒子を製造した。
銀ナノ粒子を合成した反応液に、メタノールを注ぎ、銀ナノ微粒子を凝集沈澱させた。沈澱した銀微粒子をPTFEフィルターで濾過し、銀ナノ微粒子2.1gを得た。この銀ナノ微粒子を用いてTG分析を、熱重量分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製)を用いて行った。分析条件は、昇温速度10℃/分、測定雰囲気を空気中とした。結果を表3に示す。
【0048】
実施例1−42〜1−43
表3に示す反応温度で実施例1−41と同様の方法で銀ナノ微粒子を製造した。
銀ナノ微粒子の評価については実施例1−1と同様に行い、UV−Visスペクトル分光装置により表面プラズモンに由来する極大吸収を確認した。また、体積平均粒子径と加熱重量残分も同様に測定した。結果を表3に示す。
【0049】
実施例1−44
反応溶媒を使用しなかった以外は、実施例1−41と同様の方法で銀ナノ微粒子を製造した。
銀ナノ微粒子の評価については実施例1−1と同様に行い、UV−Visスペクトル分光装置により表面プラズモンに由来する極大吸収を確認した。また、体積平均粒子径と加熱重量残分も同様に測定した。結果を表3に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
比較例1−1〜1−5
表4に示す各成分割合で実施例1−1と同様の方法で銀ナノ微粒子を製造した。
得られた銀ナノ微粒子については、実施例1−1と同様にUV−Visスペクトル分光装置により表面プラズモンに由来する極大吸収を確認した。また、TG分析の重量残分と体積平均粒子径も同様に測定した。結果を表4に示す。
比較例1−4に関しては、銀粒子が生成したものの、一級アミノ基を有するアミン化合物が含まれていないため、反応系中が不均一となり粗大粒子の沈澱が生じ、銀ナノ微粒子は得られなかった。従って評価はできなかった。
比較例1−5に関しては、熱分解による還元処理や還元剤の処理を行なわなかったため、銀粒子の生成が進行せず、銀ナノ微粒子は得られなかった。従って評価はできなかった。
【0053】
【表4】
【0054】
実施例2−1 銀ナノ微粒子分散液の製造と保存安定性評価
実施例1−1で得られた、銀ナノ微粒子を銀濃度が30質量%になるようにトルエンに再分散させ、銀ナノ微粒子分散液を調製した。
得られた分散液の保存安定性を静置したときの沈澱の有無で確認した。評価基準は、◎:6ヵ月以上沈澱なし、○:3ヵ月以上6か月未満沈澱なし、△:1ヶ月以上3か月未満沈澱なし、×:1ヶ月未満で沈澱あり、とした。結果を表5に示す。
【0055】
実施例2−2〜2−54
実施例2−1と同様に、表5に示す銀ナノ微粒子と溶媒を用いて銀ナノ微粒子分散液を調製した。得られた分散液について実施例2−1と同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0056】
【表5】
【0057】
比較例2−1〜2−3
実施例2−1と同様に、表6に示す銀ナノ微粒子と溶媒を用いて銀ナノ微粒子分散液を調製した。得られた分散液の評価を実施例2−1と同様に行った。結果を表6に示す。
表6の結果より、比較例2−2に関しては、重合体(C)が含まれていないため、保存時の安定期間が短くなった。このことより、重合体(C)はわずかな添加量でも銀ナノ微粒子の分散安定化に寄与していると考えられる。
【0058】
【表6】
【0059】
実施例3−1 銀膜を形成した基材の作製と導電性及び密着性評価
実施例2−1で得られた、銀ナノ微粒子分散液をSelect−Roller(オーエスジーシステムプロダクツ(株)製)にて、ポリエチレンナフタレートフィルム(以下PENと略す)にバーコート法で塗布し、150℃で30分間加熱処理して、膜厚1μmの銀白色膜を有した基材を得た。
導電性評価は、四端針方式の低抵抗率計(ロレスターGP:三菱化学社製)を用いて行った。その結果、体積抵抗値は5.5μΩ・cmであり、優れた導電性を示した。
密着性評価は、銀膜にカッターで1mm四方のマス目を100マス作製し、これに粘着テープ(3M社製)を貼り付けて、剥がした後に残ったマス目の数を計測して行った。密着性の評価基準は、○:100/100、△:99〜50/100、×:49〜0/100とした。結果を表7に示す。
【0060】
実施例3−2〜3−54
表7に示す銀ナノ微粒子分散液を用いて、実施例3−1と同様の方法でPENに銀膜を作製し、導電性と密着性の評価を行った。結果を表7に示す。
【0061】
【表7】
【0062】
比較例3−1〜3−3
表8に示す銀ナノ微粒子分散液を用い、実施例3−1と同様の方法でPENに銀膜を作製し、導電性と密着性の評価を行った。結果を表8に示す。
表8の結果より、比較例3−1に関しては、導電性が悪く抵抗値が測定できない結果となった。これは、銀ナノ微粒子の製造時に銀化合物としてドデシル酸銀を用いているため、ドデシル酸銀、ドデシル酸やドデシル酸銀アミン錯体が不揮発成分として銀膜中に残存したためと考えられる。
比較例3−2に関しては、銀膜の密着性が低く容易に剥がれる結果となった。これは、銀ナノ微粒子の製造時に重合体成分を添加していないため、PEN基材との密着性が確保できなかったためと考えられる。このことより、実施例の重合体(C)は、加熱時に銀ナノ微粒子の表面から離れ、基材表面との間に吸着することにより、銀膜と基材との密着性を向上させていると考えられる。
比較例3−3に関しては、抵抗値が二桁増大する結果となった。これは、重合体成分の添加量が多すぎて分子鎖同士が絡み合い、銀ナノ微粒子が基材表面から離れることができずに銀膜中に残存したためと考えられる。
【0063】
【表8】