(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記メサ領域内において、前記非ドーピング領域が前記ドーピング領域の下方に設けられており、前記非ドーピング領域の高さDndと前記スラブ領域の厚さDsが、0<Dnd<Dsの関係を満たす、請求項2に記載の高次モードフィルタ。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の高次モードフィルタの基礎となる光導波路を概略的に示す断面図である。
【
図2a】メサ領域が存在しない場合の光導波路のTE−likeモード電界振幅プロファイル(X成分)であって、基本モードの電界振幅プロファイルを示す説明図である。
【
図2b】メサ領域が存在しない場合の光導波路のTE−likeモード電界振幅プロファイル(X成分)であって、1次モードの電界振幅プロファイルを示す説明図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態の高次モードフィルタを概略的に示す断面図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態の高次モードフィルタを概略的に示す断面図である。
【
図5】
図4に示す高次モードフィルタにおける、基本モード損失および高次モード損失と非ドーピング領域高さDndとの関係を示すグラフである。
【
図6】本発明の第3の実施形態の高次モードフィルタを概略的に示す断面図である。
【
図7】
図6に示す高次モードフィルタにおける、基本モード損失および高次モード損失と非ドーピング領域高さDndとの関係を示すグラフである。
【
図8】本発明の第4の実施形態の高次モードフィルタを概略的に示す断面図である。
【
図9a】本発明の第5の実施形態の高次モードフィルタを概略的に示す断面図である。
【
図9b】
図9aに示す高次モードフィルタの変形例を概略的に示す断面図である。
【
図10a】本発明の他の実施形態の高次モードフィルタを概略的に示す断面図である。
【
図10b】本発明の他の実施形態の高次モードフィルタを概略的に示す断面図である。
【
図10c】本発明の他の実施形態の高次モードフィルタを概略的に示す断面図である。
【
図10d】本発明の他の実施形態の高次モードフィルタを概略的に示す断面図である。
【
図10e】本発明の他の実施形態の高次モードフィルタを概略的に示す断面図である。
【
図10f】本発明の他の実施形態の高次モードフィルタを概略的に示す断面図である。
【
図10g】本発明の他の実施形態の高次モードフィルタを概略的に示す断面図である。
【
図10h】本発明の他の実施形態の高次モードフィルタを概略的に示す断面図である。
【
図10i】本発明の他の実施形態の高次モードフィルタを概略的に示す断面図である。
【
図10j】本発明の他の実施形態の高次モードフィルタを概略的に示す断面図である。
【
図10k】本発明の他の実施形態の高次モードフィルタを概略的に示す断面図である。
【
図11a】本発明の第3の実施形態の高次モードフィルタの変形例を概略的に示す平面図である。
【
図12a】本発明の第3の実施形態の高次モードフィルタの他の変形例を概略的に示す平面図である。
【
図13a】本発明の第3の実施形態の高次モードフィルタの他の変形例を概略的に示す平面図である。
【
図14】本発明の第1の実施形態の高次モードフィルタの変形例を概略的に示す平面図である。
【
図15】本発明の第1の実施形態の高次モードフィルタの他の変形例を概略的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0010】
最初に、本発明に係る高次モードフィルタの基本構造について説明する。
図1に示すように、本発明の高次モードフィルタは、平板状のスラブ領域1と、スラブ領域1の上に光の導波方向に沿って帯状に形成された突起部(リッジ部)2とから成る光導波路(リブ導波路)3を有している。高次モードフィルタは、突起部2およびスラブ領域1の一方または両方の側方に、スラブ領域1の底面と同じ高さに位置する底面と、スラブ領域1の上面よりも高い位置にある上面とを有するメサ領域4を備えている。突起部2とスラブ領域1とメサ領域4は同一の材料からなり、メサ領域4には不純物ドーピングが施されている。
【0011】
リブ導波路3は、突起部1によって、横方向(X方向)における光の閉じ込めが図られている。リブ導波路3を構成する材料としては、例えば、Si、Ge、SiGe、SiC、SiSn、PbS、PbSe、GaAs、InP、GaP、GaN、GaAlAs、GaInAsP、ZnSeなどの半導体や、LiNbO
3などの誘電体が用いられる。これらの材料に注入される不純物としては、例えば、B、As、P、Zn、S、Se、Ge、In、Sb、Ga、Al、C、O、H、Au、Na、Li、Cu、Te、Sn、Cr、Be、Mn、Er、Mg、Fe、Arなどが挙げられる。また、図示しないが、リブ導波路3を取り囲む周囲は、突起部2およびスラブ領域1よりも低屈折率であればよく、固体、空気などの気体、または水などの液体が存在していてもよく、真空であってもよい。
【0012】
次に、本発明に係る複数の実施形態の高次モードフィルタの詳細な構造について、図面を参照して説明する。以下の説明では、具体的な性能を示すため、突起部2とスラブ領域1とメサ領域4がSiからなり、その周囲を取り囲む図示しないクラッド領域がSiO
2からなるリブ導波路3をモデルとしている。そして、3次元ビーム伝播法を用いた理論計算の結果を必要に応じて示す。計算に用いた光の波長は、真空中で1.55μmであり、それに対するSiの屈折率は3.48、SiO
2の屈折率は1.46である。構造パラメータは、突起部2の幅(リブ導波路3の幅)W=1.4μm、リブ導波路3の高さH=1.0μm、突起部2の高さD=0.5μm、スラブ領域1の厚さDs=0.5μm、スラブ領域の幅Ws=2.2μm、メサ領域4の高さDm=1.0μmである。メサ領域4の幅Wmについては、実用上、波長に対して10倍程度以上の大きさの場合は半無限とみなしても同等の結果が得られるため、計算においては半無限としている。また、メサ領域4における不純物ドーピングのドーピング濃度Nd=1×10
20cm
-3とした。Si中にBやPなどの不純物をNd=1×10
20cm
-3の濃度で注入した場合、生成される自由キャリアにより、不純物ドーピングを施した領域では0.4dB/μm程度の光吸収が発生する。また、キャリアプラズマ効果により、0.1程度の屈折率低下が発生する。元々のSiの屈折率が3.48であることを考えると僅かな屈折率変化であるが、本発明では、この特徴を巧みに利用し、基本モード損失を低く抑え、迷光の発生を抑制しつつ、高次モード光を効率的に除去する。
【0013】
このような構造パラメータを持つリブ導波路3において、メサ領域4が無いと仮定した場合の(すなわちスラブ領域1の幅Wsを10μm以上にした場合の)TE−like伝播モードの電界振幅プロファイル(X成分)を、ドットの濃淡を用いて
図2に示している。このリブ導波路3には、
図2aに示した基本モードの他に、
図2bに示した1次モードが伝播モードとして存在する。
【0014】
以下に説明する本発明の実施形態において、具体的な性能を議論する場合には、この1次モード光を除去すべき高次モード光とし、伝播モードとして存在する高次モード光の光エネルギーが、光導波路中を1mm伝播する間に受ける損失を高次モード損失と呼ぶ。同様に、伝播モードとして存在する基本モード光の光エネルギーが、光導波路中を1mm伝播する間に受ける損失を基本モード損失と呼ぶ。一般的に、高次モードフィルタには、基本モード損失を低く抑えつつ、同時に、高次モード損失を高めることが求められる。ただし、前記したとおり、たとえ高次モード損失が高くても、光導波路中から除去された高次モード光が迷光になると、多くの問題を引き起こす。従って、除去された高次モード光のエネルギーを、光導波路近傍で効率的に別の形態に変換することが重要である。なお、以上の説明で例示した具体的な形態は、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0015】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態を、
図3を用いて説明する。
図3は、第1の実施形態における高次モードフィルタの概略断面図である。メサ領域4の全域に不純物ドーピングが施されている。仮にメサ領域4に不純物ドーピングが施されていない場合には、リブ導波路3中から除去された高次モード光は、スラブ領域1、メサ領域4、クラッド領域、基板等を通して周囲に散逸し、光学素子中に大量の迷光が発生する。これに対し、
図3に示す本実施形態の高次モードフィルタにおいては、メサ領域4に不純物ドーピングによって光吸収機能が付与されているため、リブ導波路3中から除去された高次モード光は、メサ領域4に吸収され、そのほとんどが光エネルギーから熱エネルギーに変換される。従って、迷光の発生が抑制される。
【0016】
3次元ビーム伝播法を用いた理論計算の結果、
図3に示す高次モードフィルタに先述の構造パラメータを適用した場合、高次モード損失は55dB/mmである。すなわち、高次モードフィルタ中で、高次モード光は、200μm伝播する間に90%以上除去される。また、除去された高次モード光は、突起部1からX方向に±10μm以内のメサ領域4内にほぼ全て吸収され、迷光の発生を抑制できることが確認された。
【0017】
さらに、ドーピング領域ではキャリアプラズマ効果により屈折率が低下し、ドーピング領域と非ドーピング領域との屈折率の差によって、基本モード光を閉じ込めることができる。従って、突起部1の側方に、不純物ドーピングされたメサ領域4が存在することによって、基本モード光を突起部1およびその近傍に閉じ込めることができる。これにより、基本モード損失を低く抑えることが可能である。例えば、突起部1とスラブ領域2とメサ領域4の材料としてSiを用い、それらの周囲を取り囲むクラッド領域の材料としてSiO
2を用いたリブ導波路3の場合、前記したとおり、ドーピング領域に誘起される屈折率低下は高々0.1程度であり、SiとSiO
2の屈折率差に比べると非常に小さい。従って、この程度の屈折率変化の影響は無視できると考えられる。しかしながら、発明者の理論計算によると、本発明の高次モードフィルタにおいては、スラブ領域1に染み出す基本モード光の電界は、この僅かな屈折率変化に応じて、電界をメサ領域4よりも内側に閉じ込めることが可能であることが明らかになった。これによって、メサ領域4に進入する基本モード光の電界が減り、基本モード光がメサ領域4に散逸することを防ぐことができる。
【0018】
3次元ビーム伝播法を用いた理論計算の結果、
図3に示す高次モードフィルタに先述の構造パラメータを適用した場合、不純物ドーピングを行う前の基本モード損失は5.2dB/mmであるのに対し、メサ領域4に不純物ドーピングを行うと0.6dB/mmにまで抑えられることが確認された。
【0019】
なお、本発明の効果を有効に引き出すためには、突起部2とスラブ領域1とメサ領域4とを同一の材料で形成することが必要である。何故ならば、リブ導波路3を導波する高次モード光において、スラブ領域1に染み出す電界は屈折率差に非常に敏感であり、突起部2とスラブ領域1とメサ領域4の屈折率を誤差1%程度以下で安定的に整合させる必要があるからである。本実施形態と、後述する全ての実施形態は、突起部2とスラブ領域1とメサ領域4とを同一の材料で形成することを前提として、不純物ドーピングによって誘起される僅かな屈折率変化を巧みに利用したものである。
【0020】
[第2の実施形態]
次に、本発明の高次モードフィルタの第2の実施形態を
図4に示す。本実施形態では、メサ領域4が、上方のドーピング領域4aと、ドーピング領域4aの下部に隣接する高さDndの非ドーピング領域4bとからなる。この構成によると、高次モード光の電界が非ドーピング領域4bを通してメサ領域4へと侵入し、効果的に高次モード光をドーピング領域4aで吸収させることが可能である。
【0021】
3次元ビーム伝播法を用いた理論計算の結果、
図4に示す高次モードフィルタに先述の構造パラメータを適用し、非ドーピング領域高さDnd=0.4μmとした場合、高次モード損失は157dB/mmにまで増大した。また、この場合も、除去された高次モード光は、突起部2からX方向に±10μm以内のメサ領域4内にほぼ全て吸収され、迷光の発生を抑制できることが確認された。
【0022】
一方、
図2a,2bからもわかるように、基本モード光は高次モード光に比べてスラブ領域1への電界の染み出しが元々少ないため、非ドーピング領域4bが存在してもその影響を受けにくい。従って、第1の実施形態と同様に、不純物ドーピングによる屈折率低下の効果により基本モード光は突起部2の近傍に閉じ込められ、基本モード損失を低く抑えることが可能である。3次元ビーム伝播法を用いた理論計算の結果、
図4に示す高次モードフィルタに先述の構造パラメータを適用し、非ドーピング領域高さDnd=0.4μmとした場合に、基本モード損失を0.4dB/mmにまで抑えられることが確認された。
【0023】
なお、基本モード損失を抑制しつつ高次モード光を効率的に除去するという観点から、非ドーピング領域高さDndとスラブ領域厚さDsが次の式(1)を満たすことが望ましい。
0<Dnd<Ds・・・(1)
何故ならば、この条件を満たすとき、スラブ領域1へ染み出した基本モード光の電界は、スラブ領域1の上面よりも下方へ張り出した低屈折率のドーピング領域4aの存在によって、より突起部2の近傍に閉じ込められるからである。
【0024】
図5に、基本モード損失および高次モード損失と、非ドーピング領域4bの高さDndとの関係(基本モード損失および高次モード損失の、非ドーピング領域4bの高さDndに関する依存性)について計算した結果を示す。
図5において、Dnd<Ds(すなわちDnd<Dm/2=0.5μm)のとき、僅かながら存在する基本モード光の電界のスラブ領域1への染み出しを効果的に抑えることが可能であり、基本モード損失を大幅に抑制可能であることが確認された。一方で高次モード損失は、上述の原理により、Dnd<Dsであっても比較的高く維持することが可能である。従って、本実施形態においては、迷光を抑制する機能と高次モード光を除去する機能とを維持しつつ、基本モード損失を抑制するために、式(1)を満たすことが望ましい。
【0025】
[第3の実施形態]
本発明の高次モードフィルタの第3の実施形態を
図6に示す。本実施形態では、メサ領域4が、突起部2に近接して対向する非ドーピング領域4bと、その外側に位置するドーピング領域4aとからなる。発明者の理論計算によると、本実施形態では、メサ領域4の内側端に位置する非ドーピング領域4bは、屈折率の低下したドーピング領域4aを側部クラッドとして、メサ領域4を導波する光導波路のコアとなり得ることが判明した。このように、メサ領域4の非ドーピング領域4bをコアとしドーピング領域4aをクラッドとする光導波路を光が導波する光モードを、「メサ領域導波モード」と呼ぶ。すなわち、この構成においては、リブ導波路3(突起部)を導波する基本モード(リブ導波路基本モード)の光と、リブ導波路3(突起部)を導波する高次モード(リブ導波路高次モード)の光と、メサ領域4を導波する基本モードの光と、メサ領域4を導波する高次モードの光とが存在する。このうち、リブ導波路3(突起部)を導波する高次モードの光を除去することが求められている。メサ領域4を導波する基本モードの光とメサ領域4を導波する高次モードの光は、いずれか一方を除去することが求められているわけではなく、両者を区別して取り扱う必要はないため、以下の説明ではこれらを総称して「メサ領域導波モード」と称する。
【0026】
突起部2が無いと仮定したときのメサ領域導波モードの有効屈折率と、メサ領域4が無いと仮定したときのリブ導波路高次モードの有効屈折率とが近ければ、2つの光モードが結合して、リブ導波路3を導波する高次モードの光がメサ領域4へ効率的に移行し、リブ導波路高次モードの光を除去する効果が大きい。一方、リブ導波路基本モードとメサ領域導波モードとが結合しないように、突起部2が無いと仮定したときのメサ領域導波モードの有効屈折率と、メサ領域4が無いと仮定したときのリブ導波路基本モードの有効屈折率とを離しておけば、リブ導波路基本モードの損失を抑制することが可能である。
【0027】
従って、突起部2が無いと仮定したときのメサ領域導波モードの有効屈折率と、メサ領域4が無いと仮定したときの除去すべきリブ導波路高次モードの有効屈折率との差が、突起部2が無いと仮定したときのメサ領域導波モードの有効屈折率と、メサ領域4が無いと仮定したときのリブ導波路基本モードの有効屈折率との差に比べて小さくなるようにすれば、基本モード損失を低く抑え、かつ高次モード光を効率的に除去することが可能である。
【0028】
また、第1〜2の実施形態と同様に、光導波路中から除去された高次モード光は、不純物ドーピングによって付与された光吸収機能によってメサ領域4内で吸収され、迷光の発生を抑制することが可能となる。
【0029】
図6に示す高次モードフィルタに先述の構造パラメータを適用し、基本モード損失および高次モード損失と、非ドーピング領域4bの幅Wndとの関係(基本モード損失および高次モード損失の、非ドーピング領域4bの幅Wndに関する依存性)を計算した結果を
図7に示す。Wnd=0.3μmのとき、上述の原理によりメサ領域導波モードの有効屈折率とリブ導波路高次モードの有効屈折率が近い値をとるため、リブ導波路3を導波する高次モード光は効率的にメサ領域4へと移行して吸収される。その結果、高次モード損失は333dB/mmまで高くなる。一方で、メサ領域導波モードの有効屈折率とリブ導波路基本モードの有効屈折率が離れているため、リブ導波路基本モードはメサ領域導波モードと結合できず、基本モード光のメサ領域4への移行を防止することができる。その結果、基本モード損失を0.3dB/mmに抑制可能である。Wnd=1.2μmのときもメサ領域導波モードの有効屈折率とリブ導波路高次モードの有効屈折率が近い値をとるため、高次モード損失は156dB/mmにまで高くなる。しかし、この場合は、メサ領域導波モードの有効屈折率とリブ導波路基本モードの有効屈折率も近い値をとるため、基本モード損失も45dB/mmと大きくなってしまい、高次モードフィルタとしては望ましくない。このように、非ドーピング領域4bの幅Wndを調整することによって、メサ領域導波モードの数や有効屈折率を制御して、不要な光モードのみが除去されるように調整することが可能である。
【0030】
なお、これらの場合も、Wndの値に関わらず、除去された高次モード光は、突起部2からX方向に±10μm以内のメサ領域4内でほぼ全て吸収され、迷光の発生を抑制できることが確認された。
【0031】
[第4の実施形態]
本発明の高次モードフィルタの第4の実施形態を
図8に示す。本実施形態では、メサ領域4が、下方のドーピング領域4aと、ドーピング領域4aの上部に隣接する非ドーピング領域4bとからなる。この構成によると、メサ領域4の最上部の非ドーピング領域4bは、屈折率の低下したドーピング領域4aを下部クラッドとして、メサ領域導波モードのコアとなり得る。従って、第3の実施形態と同様に、突起部2が無いと仮定したときのメサ領域導波モードの有効屈折率と、メサ領域4が無いと仮定したときの除去すべきリブ導波路高次モードの有効屈折率との差が、突起部2が無いと仮定したときのメサ領域導波モードの有効屈折率と、メサ領域4が無いと仮定したときのリブ導波路基本モードの有効屈折率との差に比べて小さくなるようにすれば、基本モード損失を低く抑え、かつ高次モード光を効率的に除去することが可能である。また、光導波路中から除去された高次モード光は、不純物ドーピングによって付与された光吸収機能によってメサ領域4内で吸収され、迷光の発生を抑制することが可能となる。
【0032】
[第5の実施形態]
本発明の高次モードフィルタの第5の実施形態を
図9a,9bに示す。本実施形態では、
図9aに示すように、メサ領域4が、突起部2に近接して対向するドーピング領域4aと、その外側に位置する非ドーピング領域4bとからなる。本実施形態では、メサ領域4の外側端に位置する非ドーピング領域4bは、屈折率の低下したドーピング領域4aを側部クラッドとして、メサ領域4を導波する光導波路のコアとなり得る。従って、突起部2が無いと仮定したときのメサ領域導波モードの有効屈折率と、メサ領域4が無いと仮定したときの除去すべきリブ導波路高次モードの有効屈折率との差が、突起部2が無いと仮定したときのメサ領域導波モードの有効屈折率と、メサ領域4が無いと仮定したときのリブ導波路基本モードの有効屈折率との差に比べて小さくなるようにすれば、基本モード損失を低く抑え、かつ高次モード光を効率的に除去することが可能である。また、光導波路中から除去された高次モード光は、不純物ドーピングによって付与された光吸収機能によってメサ領域4内で吸収され、迷光の発生を抑制することが可能となる。
【0033】
本実施形態の変形例として、
図9bに示すように、非ドーピング領域4bのさらに外側にもう1つのドーピング領域4aを有する構成にすることもできる。この構成でも実質的に同様な効果が得られる。
【0034】
以上説明した本発明の第2〜5の実施形態では、メサ領域4のドーピング領域4aの上方、下方、右側方、左側方のいずれか1つに非ドーピング領域4bが設けられている。しかし、
図10a〜10kに示す様々な実施形態のように、ドーピング領域4aの上方、下方、右側方、左側方のうちのいずれか2つ、またはいずれか3つ、または全てに非ドーピング領域4bが設けられていてもよい。これらの場合も、第2〜5の実施形態のいずれかと同様な原理が働き、迷光の発生を抑制可能で、かつ高次モードの除去性能の高い高次モードフィルタを構成することが可能である。
【0035】
本発明の高次モードフィルタにおいて、メサ領域幅Wmは任意の大きさであってよい。前記した計算例のように、リブ導波路幅Wに比べて極めて大きくてもよいし、リブ導波路幅Wと同程度であってもよい。メサ領域幅Wmがリブ導波路幅Wに近い場合、メサ領域幅Wmを調節することによってメサ領域導波モードの有効屈折率を調整することが可能である。これによって、高次モード除去性能を向上させたり、特定の高次モードを選択して除去させたりすることが可能である。
【0036】
以上の説明では、本発明の高次モードフィルタが、メサ領域高さDmとリブ導波路高さHに関して、以下の式(2)が成り立つ構成である場合を例にとって説明した。
Dm=H・・・(2)
しかしながら、Dm>HまたはDm<Hの場合であっても、本発明によると同様な効果が得られる。ただし、Dm=Hの場合には、リブ導波路3の形成とメサ領域4の形成とを同時に一括して行えるため、メサ領域4の形成のためのプロセスが追加されることがない。具体的には、例えば、1回のエッチングマスク形成プロセスと1回のエッチングプロセスと1回のエッチングマスク除去プロセスによって、突起部2とメサ領域4とを同時に形成できる。従って、作製の容易さを求める場合は、Dm=Hであることが望ましい。
【0037】
本発明の高次モードフィルタでは、ドーピング領域4aがメサ領域4内に設けられていることを基本としているが、メサ領域4から多少はみ出していてもよい。ただし、基本モード光が大きな損失を受けないように、ドーピング領域4aが突起部2に近づきすぎない構成にする必要がある。
【0038】
本発明の高次モードフィルタにおいて、メサ領域4、ドーピング領域4a、非ドーピング領域4b、突起部2のそれぞれの位置とサイズは、リブ導波路3の長手方向(光の導波方向)に沿って変化させてもよい。また、メサ領域4、ドーピング領域4a、非ドーピング領域4bの位置とサイズが、突起部2の両側方(右側と左側)で互いに異なっていてもよい。このように左右非対称の形状にすると、実際の高次モードフィルタの作製時の寸法誤差の許容範囲を大きくすることができ、安定して高次モード除去性能を発揮させることができる。また、除去すべき高次モードが複数ある場合に、全ての高次モードに対して、比較的高い除去性能を持つように設計することができる。
【0039】
例えば、
図11a,11bに示すように、非ドーピング領域4bの幅Wndが、リブ導波路3の長手方向(光の導波方向)に沿って変化している構成(第3の実施形態の変形例)では、非ドーピング領域4bをコアとしてメサ領域4を光が導波するメサ領域導波モードの有効屈折率も長手方向に沿って変化する。従って、仮に作製誤差があっても、非ドーピング領域4bのいずれかの箇所で、除去すべきリブ導波路高次モードの有効屈折率と一致し、大きな高次モード除去効果が得られる。
【0040】
また、
図12a,12bに示すように、メサ領域4の幅Wmがリブ導波路3の長手方向(光の導波方向)に沿って変化する構成でも、メサ領域4を光が導波するメサ領域導波モードの有効屈折率が長手方向に沿って変化する。従って、仮に作製誤差があっても、メサ領域4のいずれかの箇所で、除去すべきリブ導波路高次モードの有効屈折率と一致し、大きな高次モード除去効果が得られる。さらに、図示しないが、突起部2の幅Wがリブ導波路3の長手方向(光の導波方向)に沿って変化する構成でも、同様の効果が得られる。
【0041】
また、
図12a,12bに示すように、メサ領域4の、高次モードフィルタの始端部側(光の入射側)の端部の幅Wmを小さくすれば、リブ導波路3を導波する光が高次モードフィルタの始端部で反射されることを防ぐことも可能である。
【0042】
メサ領域4の幅Wmや突起部2の幅Wを長手方向に沿って変化させる場合に、リブ導波路3のコアを構成する材料とクラッドを構成する材料の界面に凹凸を形成すると、凹凸による散乱で若干の迷光が発生する可能性がある。これに対し、
図11a,11bに示す構成のように、ドーピング領域4aと非ドーピング領域4bの界面に凹凸を形成する場合は、ドーピング領域4aと非ドーピング領域4bの屈折率差が小さいため、迷光の発生はより少ない。
【0043】
図13a,13bに、非ドーピング領域幅Wndが、突起部2の両側方(左右)でそれぞれ異なる大きさである構成(第3の実施形態の変形例)を概略的に示す。例えば、除去すべき高次モードが2つある場合、突起部2の左方の非ドーピング領域幅Wnd1を、除去すべき一方の高次モード光に合わせて設定し、突起部の右方の非ドーピング領域幅Wnd2を、除去すべき他方の高次モード光に合わせて設定することが可能である。このようにして、除去すべき複数の高次モード光の全てに対して大きな高次モード除去効果を得ることができる。
【0044】
また、本発明の高次モードフィルタにおいて、メサ領域4は、突起部2の両側方(左右)のうち、いずれか片側のみに設けられていてもよい。こうすることによって、突起部2の側方であってメサ領域4が形成されていない位置に別の構造を形成することが可能になるとともに、基本モード損失をより小さくすることも可能である。また、メサ領域4は突起部2の両側方に設けられているが、ドーピング領域4aは片側のみに設けられている構成であってもよい。
【0045】
本発明の高次モードフィルタにおいて、基本となるリブ導波路3は曲げ導波路であり、突起部2が曲線状に形成されていてもよい。曲げ導波路を伝播する光は、曲げ導波路の外周側に向かって、スラブ領域1に大きく電界が染み出す。このとき、基本モード光よりも高次モード光の方が大きく電界が染み出すため、基本モード損失を低く抑えたまま、高次モード損失を更に高めることが可能である。この場合、曲げ導波路の外周側と内周側とで、メサ領域4、ドーピング領域4a、非ドーピング領域4bの位置とサイズが異なる構成であってもよく、また、
図14に示すように、外周側にのみメサ領域4やドーピング領域4aが形成された構成(第1の実施形態の変形例)であってもよい。
【0046】
本発明の高次モードフィルタにおいて、
図15に示すように、高次モードフィルタの始端部近傍もしくは終端部近傍の少なくとも一方において、突起部2の幅が連続的に変化するテーパー構造2aを有する構成(第1の実施形態の変形例)であってもよい。一般的に、リブ導波路3は突起部2の幅Wが大きいほど基本モード光の導波損失が小さくなるが、高次モードフィルタ内においては、突起部2の幅Wを小さくすればするほど、高次モード光の電界はスラブ領域1に大きく染み出すので、高次モード損失をより大きくすることができる。従って、メサ領域4が設けられていない高次モードフィルタの外部では突起部2の幅Wを大きくし、メサ領域4が設けられている高次モードフィルタの内部では突起部2の幅Wを小さくし、その間を低損失に接続するために、テーパー構造2aを設けることが有効である。
【0047】
不純物ドーピング濃度をNd、本発明の効果が現れる下限の不純物ドーピング濃度をNthとすると、ドーピング領域4aは以下の式(5)が成り立つ領域である。
Nd≧Nth・・・(5)
そして、非ドーピング領域4bは以下の式(6)が成り立つ領域である。
Nd<Nth・・・(6)
Nthの値は、高次モードフィルタに要求される性能や導波路3の材料に依存し、例えば、上述の計算で用いたシリコンからなるリブ導波路3の場合、およそNth=10
19cm
-3である。なお、ドーピング領域4aと非ドーピング領域4bの境界近傍では、ドーピング濃度Ndが緩やかに変化していてもよい。
【0048】
前記した実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下の付記に記載された内容には限られない。
【0049】
(付記1)
板状のスラブ領域と、
前記スラブ領域上に、光の導波方向に沿って帯状に形成された突起部と、
前記スラブ領域の両側方のうちの一方または両方に設けられ、前記スラブ領域の底面と等しい高さに位置する底面、および前記スラブ領域の上面よりも高い位置にある上面を有するメサ領域と、を有し、
前記突起部と前記スラブ領域と前記メサ領域とは同一の材料からなり、
前記メサ領域は、前記材料への不純物ドーピングによって光吸収機能が付与されたドーピング領域を含む
リブ導波路型の高次モードフィルタ。
【0050】
(付記2)
前記ドーピング領域は、前記不純物ドーピングによって、周囲の前記材料よりも屈折率が低下しており、
前記メサ領域は、前記ドーピング領域の上方と下方と右側方と左側方のうちの少なくとも一つに位置する非ドーピング領域を含む、付記1に記載の高次モードフィルタ。
【0051】
(付記3)
前記メサ領域内において、前記非ドーピング領域が前記ドーピング領域の下方に設けられており、前記非ドーピング領域の高さDndと前記スラブ領域の厚さDsが、0<Dnd<Dsの関係を満たす、付記2に記載の高次モードフィルタ。
【0052】
(付記4)
前記ドーピング領域に隣接して形成された前記非ドーピング領域が、前記メサ領域内で光を導波させるコアとなり、
前記突起部が無いと仮定したときのメサ領域導波モードの有効屈折率と、前記メサ領域が無いと仮定したときの、前記突起部を導波する除去すべき高次モードの有効屈折率との差が、前記突起部が無いと仮定したときのメサ領域導波モードの有効屈折率と、前記メサ領域が無いと仮定したときの、前記突起部を導波する基本モードの有効屈折率との差に比べて小さくなるように、前記非ドーピング領域のサイズおよび前記メサ領域の幅が設定されている、付記2または3に記載の高次モードフィルタ。
【0053】
(付記5)
前記ドーピング領域と前記非ドーピング領域の少なくとも一つの位置またはサイズが、前記突起部内を光が導波する方向に沿って一様ではなく変化している、付記2から4のいずれか1項に記載の高次モードフィルタ。
【0054】
(付記6)
前記ドーピング領域と前記非ドーピング領域の少なくとも一つが、前記突起部の両側方でそれぞれ異なる位置、形状、またはサイズを有する非対称構造である、付記2から5のいずれか1項に記載の高次モードフィルタ。
【0055】
(付記7)
前記メサ領域の高さDmと、前記スラブ領域の厚さと前記突起部の高さの和であるリブ導波路高さHが、Dm=Hの関係を満たす、付記1から6のいずれか1項に記載の高次モードフィルタ。
【0056】
(付記8)
前記突起部と前記スラブ領域と前記メサ領域がシリコンからなる、付記1から7のいずれか1項に記載の高次モードフィルタ。
【0057】
(付記9)
前記ドーピング領域は、不純物ドーピング濃度NdがNd≧10の領域である、付記8に記載の高次モードフィルタ。
【0058】
(付記10)
前記メサ領域と前記突起部の少なくとも一つの位置またはサイズが、前記突起部内を光が導波する方向に沿って一様ではなく変化している、付記1から9のいずれか1項に記載の高次モードフィルタ。
【0059】
(付記11)
前記メサ領域が、前記突起部の両側方でそれぞれ異なる位置、形状、またはサイズを有する非対称構造である、付記1から10のいずれか1項に記載の高次モードフィルタ。
【0060】
(付記12)
前記突起部は曲線状に形成されている、付記1から11のいずれか1項に記載の高次モードフィルタ。
【0061】
(付記13)
前記突起部は、始端部または終端部の少なくとも一方において幅が連続的に変化するテーパー構造を有する、付記1から12のいずれか1項に記載の高次モードフィルタ。
【0062】
以上、いくつかの実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記した実施形態の構成に限られるものではなく、本発明の構成や細部に、本発明の技術的思想の範囲内で、当業者が理解し得る様々な変更を施すことができる。
【0063】
本出願は、2012年9月25日に出願された日本特許出願2012−211015号を基礎とする優先権を主張し、日本特許出願2012−211015号の開示の全てをここに取り込む。