(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191616
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】内服液剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/525 20060101AFI20170828BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20170828BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20170828BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20170828BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20170828BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20170828BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20170828BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20170828BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20170828BHJP
A61K 36/9068 20060101ALI20170828BHJP
A23L 2/52 20060101ALN20170828BHJP
A23L 2/70 20060101ALN20170828BHJP
A61K 125/00 20060101ALN20170828BHJP
【FI】
A61K31/525
A61K9/08
A61K47/32
A61K47/12
A61P1/02
A61P27/02
A61P17/00
A61P3/02
A61P3/02 106
A61P29/00
A61K36/9068
!A23L2/00 F
!A23L2/00 K
A61K125:00
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-551015(P2014-551015)
(86)(22)【出願日】2013年11月13日
(86)【国際出願番号】JP2013080662
(87)【国際公開番号】WO2014087818
(87)【国際公開日】20140612
【審査請求日】2016年11月1日
(31)【優先権主張番号】特願2012-266256(P2012-266256)
(32)【優先日】2012年12月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 貴則
(72)【発明者】
【氏名】畑中 大
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅
(72)【発明者】
【氏名】中本 慶介
【審査官】
澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−111566(JP,A)
【文献】
特開2008−94786(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/077656(WO,A1)
【文献】
特開平5−155756(JP,A)
【文献】
特開2007−262054(JP,A)
【文献】
特開2001−213764(JP,A)
【文献】
特開平10−45627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00−9/72,
A61K31/00−31/80,
A61K47/00−47/69,
A61P1/00−43/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ビタミンB2又はその内服可能な塩、b)生薬由来成分、c)生薬由来成分1質量部(原生薬量)に対して1〜10質量部のポリビニルピロリドン、及びd)ビタミンB2の1質量部に対して0.02〜1.6質量部の没食子酸及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種を配合したことを特徴とする内服液剤。
【請求項2】
ビタミンB2又はその内服可能な塩が、リボフラビン、リン酸リボフラビン、酪酸リボフラビン、フラビンアデニンヌクレオチド及びこれらの内服可能な塩から選ばれる請求項1に記載の内服液剤。
【請求項3】
生薬由来成分が、ショウキョウ抽出物である請求項1に記載の内服液剤。
【請求項4】
449nmの光透過率が0.1%以上である容器に充填した請求項1〜3のいずれかに記載の内服液剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンB2又はその塩類と、生薬由来成分を配合してなる内服液剤に関する。さらに詳しくは、ビタミンB2又はその塩と生薬由来成分を配合した内服液剤に、ポリビニルピロリドンと没食子酸類を同時配合することによって、ビタミンB2類の安定性に優れ、液剤中に沈殿の生じない内服液剤に関し、医薬、食品の分野に応用できるものである。
【背景技術】
【0002】
ビタミンB2又はその塩類は、口角炎、口内炎、舌炎、口唇炎、結膜炎、角膜炎、急・慢性湿疹、脂漏性皮膚炎等の諸症状の緩和に有効であるほか、肉体疲労時、妊娠・授乳期、病中病後の体力低下時のビタミンB2の補給に用いられている。また、ショウキョウやニンジンなどの生薬抽出物を配合した液剤は、保管中に生薬抽出物由来の沈殿が生じるため、これを抑制する目的でポリビニルピロリドンを用いる試みがなされている。
没食子酸類は、抗酸化作用を有することが知られており、今までに没食子酸類を配合してチオクト酸の光安定性を改善した内服液剤やトリプタン化合物の安定性低下を抑制した内服液剤が開示されている(特許文献1〜3)。一方で、没食子酸類は光照射により水に対する溶解度が低い副生成物を生じることが報告されており(非特許文献1)、沈殿の原因となってしまうことが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−305089
【特許文献2】特開2012−36166
【特許文献3】特開2012−36167
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Phys. Chem. A., 112, 1188-94 (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、ビタミンB2と生薬由来成分を配合する内服液剤に、ポリビニルピロリドンの配合を試みたところ、ビタミンB2類の光安定性がさらに低下するという知見を得た。
【0006】
したがって、本発明は、内服液剤中の沈殿生成を抑制しつつ、ビタミンB2類の安定性にも優れる内服液剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定量のポリビニルピロリドン及び特定量の没食子酸又はその誘導体を配合した場合に、沈殿生成抑制とビタミンB2類の含量低下の改善が両立することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち本発明は、
(1)a)ビタミンB2又はその内服可能な塩、b)生薬由来成分、c)生薬由来成分1質量部(原生薬量)に対して1〜10質量部のポリビニルピロリドン、及びd)ビタミンB2の1質量部に対して0.02〜1.6質量部の没食子酸及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種を配合したことを特徴とする内服液剤、
(2)ビタミンB2又はその内服可能な塩が、リボフラビン、リン酸リボフラビン、酪酸リボフラビン、フラビンアデニンヌクレオチド及びこれらの内服可能な塩から選ばれる(1)に記載の内服液剤、
(3)生薬由来成分が、ショウキョウ抽出物である(1)に記載の内服液剤、
(4)449nmの光透過率が0.1%以上である容器に充填した(1)〜(3)のいずれかに記載の内服液剤、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ビタミンB2又はその塩類と生薬由来成分を配合した内服液剤に、ポリビニルピロリドンと没食子酸類を同時に特定量配合することで、液剤中の沈殿抑制とビタミンB2又はその塩類の含量低下の改善が両立した内服液剤を提供することが可能になった。また、本発明の内服液剤は、遮光性が十分でない容器に充填した場合においても、ビタミンB2類の含量低下と内服液剤中の沈殿生成を抑制することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に使用するビタミンB2又はその内服可能な塩とは、通常可食性のものを指し、具体的にはリボフラビン、リン酸リボフラビン、酪酸リボフラビン、フラビンアデニンヌクレオチドナトリウム及びそれらの内服可能な塩などをあげることができる。いずれも市販品として容易に入手することができる。内服可能な塩とは、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、臭化水素酸などの無機酸との塩、酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、タンニン酸、酪酸、エナント酸、デカン酸、テオクル酸、サリチル酸、乳酸、シュウ酸、リンゴ酸等の有機カルボン酸との塩、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸との塩を挙げることができる。これらの塩は、当該化合物とリボフラビン等とを接触させることにより製造することができる。本発明において配合することができるビタミンB2及びその塩の配合量は、栄養摂取量の面からリボフラビンに換算して、1日当たり0.01〜100mgが好ましく、液剤全質量部に対し0.00001〜0.1質量部である。
【0011】
配合する生薬由来成分は、エキス(抽出物)の形態での配合が好ましい。エキスの製造は通常の方法、例えば、抽出溶媒を用いて、適当な温度(低温又は加熱)にて、生薬原料から抽出する方法などにより行う。抽出溶媒は生薬に応じて適当に選択できるが、好ましくは、水、親水性溶媒(特にエタノール)及びこれらの混合溶媒が用いられる。本発明の生薬由来成分とは、液状抽出物をそのまま使用できるほか、水などで希釈したもの、液状抽出物の濃縮物、液状抽出物の乾固物としても使用できる。すなわち、本発明の生薬由来成分には、乾燥エキス、軟エキス、流エキス、チンキ、生薬末など何れのものも包含される。市販品として利用できるものとしては例えば、イカリ草エキス、ニクジュヨウエキス、トシシエキス、ジオウエキス−A、ブクリョウエキス−A、オンジエキス−A、ムイラプアマエキス−A、サンヤク流エキス、トチュウ抽出液、冬虫夏草流エキス、ショウキョウエキス、ショウキョウチンキ、ケイヒ流エキス、トウキ流エキス、ゴミシ流エキス、オウギ流エキス、ハンピ流エキス−C、コウジン流エキスなどが挙げられる。本発明において配合することができる生薬由来成分(原生薬量)の配合量は、液剤全質量部に対して0.05〜2質量部が好ましい。また、本発明に用いる生薬由来成分は、ショウキョウ抽出物が好ましい。
【0012】
本発明に用いるポリビニルピロリドンは、通常食品や医薬品に用いられるものを指し、具体的にはK値が17から90のものをあげることができる。いずれも市販品として容易に入手することができる。本発明に用いるポリビニルピロリドンの配合量は、生薬由来成分1質量部(原生薬量)に対して1〜10質量部である。1質量部未満であると製剤の沈殿抑制効果が不十分な場合があり、10質量部を超えるとポリビニルピロリドン由来の味により、服用性が悪くなることがあるからである。
【0013】
本発明に用いる没食子酸及びその誘導体とは、通常可食性のものを指し、具体的には没食子酸、没食子酸メチル、没食子酸エチル、没食子酸プロピル、没食子酸ブチル及びそれらの内服可能な塩などをあげることができる。いずれも市販品として容易に入手することができる。内服可能な塩とは、例えば、アンモニウム塩、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、トリエチルアミン、エタノールアミン、モルホリン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、ジシクロへキシルアミン等の有機アミンとの塩、アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸との塩を挙げることができる。これらの塩は、当該化合物と没食子酸等とを接触させることにより製造することができる。本発明において配合することができる没食子酸及びその誘導体の配合量は、ビタミンB2の光安定性確保の面から、ビタミンB2 1質量部に対して0.02〜1.6質量部であり、好ましくは0.05〜1.0質量部、より好ましくは0.1〜1.0質量部である。なお、液剤全質量部に対して0.001質量部を超えて配合すると、水に不溶の副生成物を生じる可能性があるので好ましくない。
【0014】
本発明に用いる容器は、449nmの光透過率が0.1%以上が好ましく、より好ましくは0.2%以上である。具体的には、透明ガラス瓶や褐色あるいは茶系のガラス瓶などがあげられる。容器の材質は、特に制限がなく、例えばガラス製、プラスティック製等が挙げられる。
【0015】
本発明にかかる液剤のpHは、2.0〜7.0であり、好ましくは2.5〜5.5である。なお、本発明の液剤のpHを上記範囲に保つために、必要に応じてpH調整剤が配合される。pH調整剤としては、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、乳酸、コハク酸などの有機酸及びそれらの塩類、塩酸などの無機酸、水酸化ナトリウムなどの無機塩基などが挙げられる。
【0016】
本発明の内服液剤にはその他の成分として、他のビタミン類、ミネラル類、アミノ酸及びその塩類、他の生薬や生薬抽出物、カフェインなどを本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。
【0017】
さらに必要に応じて、甘味料、酸味料、増粘安定剤、酸化防止剤、着色剤、香料、矯味剤、保存料、調味料、苦味料、強化剤、可溶化剤、乳化剤などの添加物を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。
【0018】
本発明の内服液剤は、常法により調製することができ、その方法は特に限定されるものではない。通常、各成分をとり適量の精製水で溶解した後、pHを調整し、残りの精製水を加えて容量調製し、必要に応じてろ過、殺菌処理することにより得られる。
【0019】
本発明の内服液剤は、例えばシロップ剤、ドリンク剤などの医薬品や医薬部外品などの各種製剤、健康飲料などの各種飲料に適用することができる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例、比較例及び試験例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。
【0021】
(実施例1)
リン酸リボフラビン16.93mg、ショウキョウ流エキス(原生薬量)100mg、没食子酸プロピル5mg、クエン酸475mg、ポリビニルピロリドン1000mgを精製水に溶解し、精製水を加えて全量を100mLとし、449nmの光透過率が0.3%の褐色ガラス瓶に充填しキャップを施し、80℃で25分間加熱殺菌して澄明な内服液剤を得た。
以下の比較例1、比較例2も実施例1と同様に調製した。それぞれの処方を表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
試験例1(リン酸リボフラビンの光安定性試験)
光安定性試験装置(LTL−400D5、株式会社ナガノサイエンス製)を用い、D65蛍光ランプを光源として、実施例1、比較例1及び比較例2で得た試験液を3000Lux×200時間曝光させた。これらの試験液中のリン酸リボフラビン残存率を液体クロマトグラフ法(カラム:ODS−80TS(東ソー)、移動相:水:アセトニトリル:リン酸=880:120:1、流速:1mL/min、検出波長:280nm)により定量した。調製直後に対する3000Lux×200時間曝光後のリン酸リボフラビン残存率(%)を表2に示す。
【0024】
【表2】
【0025】
表2から明らかなように、実施例1は比較例2と比較してリン酸リボフラビンの光安定性が改善されていた。この結果から没食子酸プロピルを配合することにより、ショウキョウ流エキスとポリビニルピロリドンを配合した際に生じるリン酸リボフラビンの光安定性低下を改善できることが明らかとなった。
【0026】
(実施例2、実施例3)
以下の実施例2、実施例3、比較例3も実施例1と同様に調製し、澄明な内服液剤を得た。それぞれの処方を表3に示す。
【0027】
【表3】
【0028】
試験例2(リン酸リボフラビンの光安定性試験)
光安定性試験装置(LTL−400D5、株式会社ナガノサイエンス製)を用い、D65蛍光ランプを光源として、実施例2、実施例3及び比較例3で得た試験液を3000Lux×400時間曝光させた。これらの試験液中のリン酸リボフラビン残存率を液体クロマトグラフ法(カラム:ODS−80TS(東ソー)、移動相:水:アセトニトリル:リン酸=880:120:1、流速:1mL/min、検出波長:280nm)により定量した。調製直後に対する3000Lux×400時間曝光後のリン酸リボフラビン残存率(%)を表4に示す。
【0029】
【表4】
【0030】
表4から明らかなように、実施例2及び実施例3は比較例3と比較してリン酸リボフラビンの光安定性が改善されていた。この結果から没食子酸プロピルをビタミンB2の1質量部に対して0.06質量部以上配合することにより、初めてショウキョウ流エキスとポリビニルピロリドンを配合した際に生じるリン酸リボフラビンの光安定性低下を改善できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によりビタミンB2類の安定性に優れ、液剤中に沈殿の生じない内服液剤を得ることができたので医薬品、食品、健康飲料、特定保健用食品などに使用可能である。