特許第6191656号(P6191656)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191656
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】移動式クレーン
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/00 20060101AFI20170828BHJP
   B66C 23/40 20060101ALI20170828BHJP
   B66C 23/00 20060101ALI20170828BHJP
   F02D 17/00 20060101ALI20170828BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   F02D29/00 B
   B66C23/40
   B66C23/00 Z
   F02D17/00 Q
   F02D29/02 321C
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-120247(P2015-120247)
(22)【出願日】2015年6月15日
(65)【公開番号】特開2017-2877(P2017-2877A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2016年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 仁士
(72)【発明者】
【氏名】笹井 慎太郎
【審査官】 藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−174711(JP,A)
【文献】 特開2013−217224(JP,A)
【文献】 特開2009−052438(JP,A)
【文献】 特開2003−065097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D29/00−29/06
F02D17/00
B66C23/00−23/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーン作業するための駆動力を発生するエンジンと、
前記エンジン及びエンジン付帯装置を起動及び停止させる起動停止手段と、
前記起動停止手段とは別に備えられていて、且つオペレータが操作することで駆動中の前記エンジンのみを強制的に停止させる手動停止機構と、を有し、
前記手動停止機構は、前記クレーン作業の安全性を確保するために必要な第1の停止可能条件が満たされた場合、前記エンジンの停止が可能であると判断し、当該エンジンの停止機能を有効とする構成とされている
ことを特徴とする移動式クレーン。
【請求項2】
前記第1の停止可能条件よりも満たすべき条件を多く有する第2の停止可能条件のもとで、駆動中の前記エンジンのみを自動的に停止させる自動停止機構が備えられている
ことを特徴とする請求項1に記載の移動式クレーン。
【請求項3】
前記第1の停止可能条件には、前記クレーンの旋回に関する項目が含まれていることを特徴とする請求項1または2に記載の移動式クレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドリング中のエンジンを手動で停止することのできる手動停止機構を備えた移動式クレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
クローラクレーンなどに代表される移動式クレーンは、例えば、数メートルから数十メートルに及ぶ長いブームを備え、このブームに備えられたフック装置を用いて様々な荷物を吊下する作業(クレーン作業)を行う建設機械である。
さて、クレーン作業を行っている移動式クレーンは、クレーン作業と次のクレーン作業との間、エンジンを駆動した状態(アイドリング状態)で待機していることがある。
【0003】
このような状況を鑑み、環境保護、燃料の消費量削減、建設コストの低減などの観点から、移動式クレーンなどの建設機械においても、作業待ちをしている際、アイドリング中のエンジンを自動的に停止する自動停止機構が備えられるようになってきている。
作業待ち時間において、アイドリング中のエンジンを停止することを目的とする技術が、例えば特許文献1、2に開示されている。
【0004】
特許文献1は、作業機械に搭載されたエンジンと、作業機械の操作されない状態が設定された時間を超えたときは運転中のエンジンを自動的に停止させる制御手段とを具備した作業機械のエンジン制御装置が開示されている。
また、特許文献2は、エンジンを動力源として油圧ポンプを作動させ、クレーン操作手段の操作に基づいて上記油圧ポンプの吐出油により油圧アクチュエータを駆動して、ブーム先端から吊下げたワイヤにより吊荷を吊上げ作業するクレーン車のエンジン制御装置において、上記クレーン操作手段の操作の有無を検出するクレーン操作検出手段と、ブーム先端に吊下げられている吊荷の有無を検出する吊荷検出手段と、上記検出手段からの信号に基づきクレーン操作が無い状態と吊荷が無い状態とが同時に予め設定された時間継続したときにエンジンを停止するエンジン停止手段と、を備えている。
【0005】
また、移動式クレーンなどの建設機械を対象としてはいないが、アイドリング中のエンジンを停止させる技術が特許文献3に開示されている。
特許文献3には、内燃機関の回転を変速して駆動輪に伝達するマニュアル式変速機と、灯火装置とを備える自動二輪車において、前記内燃機関のアイドルストップを指示するアイドルストップスイッチと、前記灯火装置の点灯又は非点灯を検出する灯火装置点灯検出手段と、前記アイドルストップスイッチが操作されると、前記灯火装置点灯検出手段によって前記灯火装置のうちのヘッドライトの点灯が検出された場合は前記内燃機関の停止を禁止させ、前記ヘッドライトの非点灯が検出された場合は前記内燃機関を停止させるアイドルストップ制御部と、を備える自動二輪車が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−65097号公報
【特許文献2】特開2006−62782号公報
【特許文献3】特開2013−72413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した特許文献1〜3に開示された自動停止機構は、所定の停止条件が揃った際に、自動的にエンジンを停止するものである(オートアイドルストップ機構、AIS)。
しかしながら、特許文献1〜3に開示された技術を用いたオートアイドルストップ機構の場合、移動式クレーンがクレーン作業を行う作業現場では、オートアイドルストップ機構によりエンジンが思わぬところで停止してしまうと、予期せぬ事態が生じてしまう。
【0008】
例えば、特許文献1、2のオートアイドルストップ機構は、クレーン作業が行われていない時間の経過だけをみて、アイドリング中のエンジンを自動的に停止するものであるが、クレーン作業が行われていない時間であっても、実際の作業現場ではエンジンを停止すべきではない状況もあるので、特許文献1、2の技術を用いると実際の作業現場において予期せぬ事態が生じてしまう虞がある。
【0009】
また、特許文献3は、オートアイドルストップ機構を行うことのできるシステムであるが、移動式クレーンなどに用いるとクレーン作業の操作性が悪化してしまう虞があるし、そもそも自動2輪車を対象とした技術であるので、適用することはできない。
このような状況になることを回避するために、「停止条件を厳しくしたオートアイドルストップ機構」を考えることができる。停止条件を厳しくしたオートアイドルストップ機構は、移動式クレーンが作業する現場では十分に作動するものと思われる。
【0010】
しかしながら、実際の作業現場においては、オートアイドルストップ機構によるエンジン停止だけでなく、オペレータの判断に基づいたエンジンの停止を行いたいとの要望が挙がってきている。
例えば、作業現場では、安全性が確保されているが、停止可能条件を全て満たしていないため、オートアイドルストップ機構が作動しない状況がある。そのような状況においても、アイドルストップ動作を行いたいとの要望がある。
【0011】
例えば、作業現場におけるクレーン自体の組み立ては、クレーンに備えられたエンジンの駆動力を用いて行うものとなっており、オペレータがキャブ外で作業を行うことがある為、自動でエンジンを停止させないが、組み立て期間中、常にエンジンを駆動させずに、エンジンを止めても良い状況となることも多い。
ところが、従来からのオートアイドルストップ機構では、エンジンの回転数が低く、安全が確保されているにも拘わらず、クレーン組み立て中であるが故に、クレーン作業中を意図した停止条件を満たさないことから、エンジンの停止動作が自動的に行われないことがある。
【0012】
このような状況下でもエンジンを停止させたいことがあり、オートアイドルストップ機構とは別に、オペレータの意志によりエンジンを手動で停止することができるようにして欲しいとの要望が、実際の作業現場から挙がってきている。
そこで本発明は、上記問題点に鑑み、移動式クレーンの作業状況に応じて、オペレータが手動でエンジン停止することができる手動停止機構を備えた移動式クレーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明のかかる移動式クレーンは、クレーン作業するための駆動力を発生するエンジンと、前記エンジン及びエンジン付帯装置を起動及び停止させる起動停止手段と、前記起動停止手段とは別に備えられていて、且つオペレータが操作することで駆動中の前記エンジンのみを強制的に停止させる手動停止機構と、を有し、前記手動停止機構は、前記クレーン作業の安全性を確保するために必要な第1の停止可能条件が満たされた場合、前記エンジンの停止が可能であると判断し、当該エンジンの停止機能を有効とする構成とされていることを特徴とする。
【0014】
好ましくは、前記第1の停止可能条件よりも満たすべき条件を多く有する第2の停止可能条件のもとで、駆動中の前記エンジンのみを自動的に停止させる自動停止機構が備えられているとよい
好ましくは、前記第1の停止可能条件には、前記クレーンの旋回に関する項目が含まれているとよい
【発明の効果】
【0015】
本発明の移動式クレーンよれば、移動式クレーンの作業状況に応じて、オペレータが手動でエンジン停止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態によるクローラクレーンの全体構成を概略的に示す側面図である。
図2】本発明の実施形態によるクローラクレーンの運転席を模式的に示した図である。
図3】自動停止機構及び手動停止機構の停止可能条件を示す図である。
図4】本発明の手動停止機構が、停止動作可能となる手順を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
本実施形態では、自動停止機構(オートアイドリングストップ機構:AIS)を有する移動式クレーン1に備えられ、且つその移動式クレーン1のエンジンをオペレータが操作して強制的に停止することのできる手動停止機構20(マニュアルアイドルストップ機構:MIS)について説明する。
その前に、本実施形態の手動停止機構20が配備される移動式クレーン1(クローラクレーン)について図を基に説明する。
【0018】
図1を参照して、本実施形態によるクローラクレーン1の基本的な構成を説明する。
図1図2に示すように、クローラクレーン1(以下、単にクレーンということもある)は、上部旋回体3と、上部旋回体3を旋回自在に下から支持するとともに、走行を行う下部走行体2と、を備えている。また、上部旋回体3の幅方向中央の前方には、フック装置7を吊りロープ6を介して吊り下げるブーム5が備えられている。そのブーム5を操作する操作ユニットが内部に配備されたキャブ11(運転室)が、上部旋回体3の幅方向一方側(右側)の前方に搭載されている。
【0019】
クレーン1の下部走行体2は、金属製の帯体を環状に形成してなる無限軌道(クローラ)を左右方向の両端にそれぞれ備え、このクローラにより地面を走行可能とされている。この下部走行体2の中央上部には、上部旋回体3を旋回自在に下から支持し、且つ上部旋回体3を上下方向軸心回りに旋回させる旋回手段4が搭載されている。
上部旋回体3は、鋼材で形成され、前後方向の長さが、左右方向の幅よりやや長い板状の枠体(ラダーフレーム)である。
【0020】
上部旋回体3の幅方向中央前側には、起伏自在のブーム5が配備されていて、そのブーム5の先端から吊りロープ6を介して吊荷を吊るためのフック装置7が吊り下げられている。また、ブーム5の先端には、起伏ロープ9が掛回されている。
一方、上部旋回体3の幅方向中央後側には、起伏ロープ9が掛回されたマスト8と、起伏ロープ9の巻き取りや繰り出しを行うことによりブーム5を起伏させる起伏用ウインチ(図示せず)が配備されている。上部旋回体3の後方には、カウンターウエイト10が配備されている。
【0021】
上部旋回体3の幅方向右前側には、キャブ11(運転室)が搭載され、そのキャブ11の後方にエンジンガードが搭載されている。
図2に示すように、キャブ11は内部が広い空間とされた筐体とされ、キャブ11の前面及び左右側面(搭乗した使用者から見た前、左右)には、搭乗したオペレータの視界を確保するための窓12が設けられている。クレーン操作を行う操作部14(操作ユニット)と、オペレータが着座可能な座席13と、当該内部を冷やすエアコン(図示せず)とが配備されている。
【0022】
この操作部14は、クレーン1の動作を制御する制御装置に接続されているものであって、ブーム5を動かしたり、フック装置7が吊下された吊りロープ6を、巻取・繰出をするウインチを動作させたりする操作レバー15と、クレーン操作におけるクレーン1の作業状況を表示し、且つその状況に応じて、制御装置から指令されたクレーン1の作業条件を変更可能とする操作モニタ16と、を備える。
【0023】
また、操作部14には、エンジンとエンジン付帯装置(共に図示せず)とを起動及び停止させる起動停止手段17(メインスイッチ)が備えられている。エンジン付帯装置は、エンジンを起動させる際に用いられる機器(例えば、燃料タンク、燃料ポンプ、バッテリなど)や、起動後に発生した駆動力を用いてクレーン操作の制御を行う装置(例えば、油圧ポンプ、コントロールバルブ、作動油タンクなど)や、駆動力を発生する際に高温となったエンジンを冷却する機器(例えば、ラジエター、ファンなど)が該当する。
【0024】
本実施形態のメインスイッチ17は、操作部14に設けられたキーシリンダ18と、携帯可能なキー19(鍵)とからなる。キャブ11の内部の座席13に着座したオペレータは、キーシリンダ18にキー19を差し込んで一方方向に回転させることで、エンジンとエンジン付帯装置とを始動させて、操作部14の操作レバー15などを操作することによりクレーン操作を行う。また、キーシリンダ18に差し込まれたキー19を一方方向とは逆の方向に回転させることで、エンジンとエンジン付帯装置とを停止させて、クレーン操作を終える。
【0025】
さて、上記したクレーン1には、アイドリング中のエンジンを自動的に停止する自動停止機構(オートアイドルストップ機構:AIS)が備えられている。
オートアイドルストップ機構(AIS)は、予め設定された停止可能条件(第2の停止可能条件)を満たしたとき、その満たされた停止可能条件のもとで、アイドリング中のエンジンのみを自動的に停止させる機構であり、例えばクレーン1を制御する制御装置内に、プログラムとして組み込まれている。
【0026】
すなわち、オートアイドルストップ機構は、エンジン付帯装置のうち、エンジンが停止しても直接影響が少ない機器(例えば、バッテリ、制御装置、操作モニタ16など)を起動させたままにしておくことができる機構である。なお、油圧ポンプなどエンジンの駆動力により直接動作する機器も、エンジンの停止に伴って停止している。このオートアイドルストップ機構が機能することにより、エンジンで消費される燃料量を低減することができるとともに、エンジンから外部へ排出される排出ガスを抑制することができる。
【0027】
なお、本実施形態においては、上記したオートアイドルストップ機構が起動されると、操作モニタ16に「AIS動作中」として表示して、オペレータにオートアイドルストップ機構が動作中であることを伝達するようになっている。
ここで、オートアイドルストップ機構における停止可能条件について、説明する。
図3は、オートアイドルストップ機構を動作させる際に満たされる必要がある停止可能条件、及び手動停止機構20(詳細は後述)を動作させる際に満たされる必要がある停止可能条件を示す図である。
【0028】
本実施形態においては、オートアイドルストップ機構(AIS)における停止可能条件は第2の停止可能条件として設定され、手動停止機構20、すなわちマニュアルアイドルストップ機構(MIS)における停止可能条件は第1の停止可能条件として設定される。なお、手動停止機構20における第1の停止可能条件の詳細については、後述する。
この第2の停止可能条件としては、例えば、図3中のNo,1〜No,6に示されている条件(AIS必要条件)が挙げられる。
【0029】
なお、図3中のNo,1に記載されている「過負荷防止装置において組立/分解モードではない」とは、クレーン1が通常作業を実施可能な状態にあることを示しているため、オートアイドルストップ機構が正常に動作するものとなっている。
以上述べたように、本実施形態のオートアイドルストップ機構は、第1の停止可能条件基づいて、作業環境に応じて、適切にエンジンのアイドルストップを行っている。
【0030】
しかしながら、「発明が解決しようとする課題」でも述べたように、実際の作業現場においては、オートアイドルストップ機構が作動しない状況下であっても、安全が確保されている場合があり、エンジンのアイドルストップが所望される状況が存在する。
例えば、建築工事現場など、現場の作業状況により、待機時間や待機条件が変則的となる環境では、作業の進捗状況による待ち時間(5分〜30分程度)が発生することがある。この待ち時間について、「どのタイミングで発生するか」、また「どれだけの期間であるか」といった予測をすることは困難であり、オートアイドルストップ機構では、適切にエンジンを停止させることは難しい。
【0031】
また、作業現場においては、玉掛者の合図で直ぐにクレーン操作を開始させる必要があるため、オペレータは常時キャブ11内で待機しておく必要がある。それ故、アイドルストップ機構は、オペレータの意思、判断と同じタイミングでエンジンを停止させる必要がある。
そこで、本実施形態においては、上記の状況下にも対応できるように、オペレータの判断に基づいて、駆動中のエンジンのみを手動で停止させる機構を、クレーン1に備えた。
【0032】
図2に戻って、手動停止機構、すなわちマニュアルアイドルストップ機構(MIS)20は、このMIS20がエンジン停止可能と判断した上で有効となるサブスイッチ20aを有する。
サブスイッチ20aは、キャブ11内部の操作部14に、起動停止手段17(メインスイッチ)とは別に独立して備えられていて、例えば押しボタンスイッチなどの手動操作可能の機器である。
【0033】
サブスイッチ20aは、エンジンと制御装置などのエンジン付帯装置すべてを起動・停止するメインスイッチ17に対して、エンジンへの給油だけを止めることで、エンジンの回転のみを強制的に停止するものである。
ところで、メインスイッチ17を使ってエンジンを停止させることも可能と思われるが、メインスイッチ17でエンジンを停止すると、クレーン1の制御系統も停止することとなり、制御装置などの初期設定が消去されてしまう。つまり、メインスイッチ17を使ってアイドルストップすると、エンジン起動毎に制御装置などの初期設定を行わなければならないので、手間がかかるし、作業の状況によっては制御装置などの再設定に時間が掛かるので、現場において作業の遅れが生じてしまう虞がある。
【0034】
それ故、本実施形態においては、クレーン1を起動した際における制御装置などの初期設定が消えないように、クレーン1の制御系統を起動させたままにしておくことのできるサブスイッチ20aを、メインスイッチ17とは別に独立して備えた。
サブスイッチ20aは、制御装置内にプログラムとして組み込まれたマニュアルアイドルストップ機構(MIS)20がエンジン停止可能と判断したとき、すなわち停止可能条件がある一定条件を満たしたとき、その満たされた停止可能条件のもとで、アイドリング中のエンジンのみを手動で停止させることができる機器(押しボタンスイッチ)である。
【0035】
ここで、マニュアルアイドルストップ機構20における停止可能条件について、説明する。
マニュアルアイドルストップ機構20における停止可能条件は、第1の停止可能条件として設定される。
第1の停止可能条件は、オートアイドルストップ機構を動作させるために必要な第2の停止可能条件(図3中のAIS項目の○印)に加え、クレーン作業の安全性を確保するために必要な最低限の条件、すなわち特定の停止可能条件(MIS必要条件)を必ず含んで、設定される。
【0036】
この第1の停止可能条件としては、例えば、図3中のNo,4、No,6に示されている、クレーン操作中における「クレーン作業をするブーム5の旋回が停止している状態」及び「バッテリの残量が規定値以上である状態」の2つの条件が挙げられ、この2つのMIS必要条件を含んだ上で、設定される。なお、設定された第1の停止可能条件及び、前述の第2の停止可能条件は、例えばクレーン1を制御する制御装置内に格納されている。
【0037】
本実施形態においては、この第1の停止可能条件、すなわち上記した2つの停止可能条件がすべて満たされた場合に、マニュアルアイドルストップ機構20はサブスイッチ20aの機能を有効(例えば、押しボタンスイッチの表示を点灯させるなど)となるように設定し、その手動停止動作が可能となったサブスイッチ20aをオペレータが押すことで、エンジンを停止することができる。
【0038】
なお、サブスイッチ20aが有効になる第1の停止可能条件が増えた場合でも、最低限の条件(図3中のNo,4、No,6)さえそろえば、サブスイッチ20aを長押しすることによってエンジンを強制的に停止させることができるように設定してもよい。
このマニュアルアイドルストップ機構20の判断により、手動停止可能となるサブスイッチ20aによれば、オートアイドルストップ機構が動作しない状況下でも、オペレータの判断でアイドリング中のエンジンのみを容易、且つ素早く停止することができる。
【0039】
このようなオートアイドルストップ機構が動作しない状況下において、マニュアルアイドルストップ機構20により機能が有効とされたサブスイッチ20aを押してエンジンを停止させたときでも、バッテリは起動された状態であり、バッテリに接続されたコントローラの電源は常時起動している状態(KeyOn状態)であるので、エンジン停止前の機械の状態、すなわち制御装置などの初期設定を継続させることができると共に、エンジン再起動時に直ぐにクレーン作業を開始することができる。つまり、メインスイッチ17を切らずにエンジンを停止させることは、クレーン1の再始動の時間を短縮することができる。
【0040】
上記したエンジン停止動作が行えるマニュアルアイドルストップ機構20(サブスイッチ20a)は、第2の停止可能条件を第1の停止可能条件へと変更し、変更後の第1の停止条件のもとで、オートアイドルストップ機構によりエンジンのみを停止する機能を有するものであると考えることもできる。
次に、マニュアルアイドルストップ機構20のエンジン停止判断手順を、図4に示されているフローチャート図に沿って説明する。
【0041】
マニュアルアイドルストップ機構20は、まずクレーン1がパーキング状態(旋回パーキング状態)であるかを検出する(STEP1)。旋回パーキング状態であると検出された場合、STEP2へ進む(YES)。旋回パーキング状態ではない場合はリターンする(NO)。
次いで、制御装置や、操作モニタ16などに電力を供給するためのバッテリの充電状況を検出する(STEP2)。バッテリが規定値以上である、つまりバッテリの充電が完了されていると検出された場合、STEP3へ進む(YES)。バッテリが規定値より小さい、つまり充電が不十分であると検出された場合はリターンする(NO)。
【0042】
なおSTEP1又はSTEP2何れかで、別の停止可能条件を検出するようにしてもよい。
そして、特定の停止可能条件(旋回パーキング状態やバッテリ充電状態など、図3中のMIS項目の◎印)、すなわち第1の停止可能条件に基づいて、サブスイッチ20aを有効とするかを判断する(STEP3)。第1の停止可能条件が満たされた場合、サブスイッチ20aを有効とし、STEP4へ進む(YES)。一方、例えば、第1の停止可能条件が満たされていない場合はリターンする(NO)。
【0043】
サブスイッチ20aが有効(ON状態)とされると、押しボタンスイッチの表示を点灯させたり、操作モニタ16に表示したりして、オペレータに伝達する(STEP4)。ここで、表示を視認したオペレータは、サブスイッチ20aを押して、アイドリング中のエンジンを停止させる。
なお、クレーン作業を再開する際には、オペレータはキャブ11内に配備されているアクセルペダル21を踏んで、エンジンを再始動させる(オートアイドルストップ機構によりエンジンが停止されている場合も同様である)。また、アクセルペダル21を踏んでも再始動することができるが、操作レバー15に設けられたアクセルグリップ22を操作することでもエンジンを再始動させることができる。
【0044】
以上述べたように、本発明によれば、移動式クレーン1の作業状況に応じて、オペレータの判断でエンジンを手動で停止することができる。また、メインスイッチ17とは別に手動停止機構20のサブスイッチ20aを設けておくことで、クレーン1の作業性の低下を回避することができるので、手待待機中における燃料消費の削減などの省エネ性能と、クレーン1の作業性の向上とを両立させることができる。その上、特定の停止可能条件(安全上必要とされる条件)が成立した場合にのみ、エンジン停止可能なサブスイッチ20aの操作を有効とすることで、作業現場の安全性も確保できる。
【0045】
なお、今回開示された各実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
例えば、本発明の手動停止機構20は、単独で機能させることが可能な技術であるので、自動停止機構が備えられていない移動式クレーン1に備えることも可能である。
また、実施形態の説明においては、移動式クレーン1は、自動停止機構(オートアイドリングストップ機構:AIS)を備えるものとされていたが、自動停止機構を有さない移動式クレーンであっても、本願発明の手動停止機構20を採用することができる。
【0046】
特に、今回開示された各実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【符号の説明】
【0047】
1 移動式クレーン(クローラクレーン)
2 下部走行体
3 上部旋回体
4 旋回手段
5 ブーム
6 吊りロープ
7 フック装置
8 マスト
9 起伏ロープ
10 カウンターウエイト
11 キャブ(運転室)
12 窓
13 座席
14 操作部
15 操作レバー
16 操作モニタ
17 起動停止手段(メインスイッチ)
18 キーシリンダ
19 キー(鍵)
20 手動停止機構
20a サブスイッチ
21 アクセルペダル
22 アクセルグリップ
図1
図2
図3
図4