(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸の外周に設けられた環状溝に装着され、相対的に回転する前記軸とハウジングとの間の環状隙間を封止して、流体圧力が変化するように構成されたシール対象領域の流体圧力を保持するシールリングであって、
前記環状溝における低圧側の側壁面に密着し、かつ前記ハウジングにおける前記軸が挿通される軸孔の内周面に対して摺動するシールリングにおいて、
外周面側には、周方向に伸びる一対の凹部が幅方向の両側に設けられており、
これら一対の凹部の間に位置する凸部における一方側の側面からシールリングにおける他方側の側面までの距離、及び前記凸部における他方側の側面からシールリングにおける一方側の側面までの距離は、シールリングにおける内周面から前記凸部の外周面までの距離よりも短く設定されていることによって、
前記流体圧力により前記軸孔の内周面に対して押し付けられる力に寄与する内周面側からの有効受圧面積の方が、前記流体圧力により前記環状溝における低圧側の側壁面に対して押し付けられる力に寄与する側面側からの有効受圧面積よりも狭くなるように構成されていると共に、
前記一対の凹部内には、前記凸部に繋がり、かつシールリングの側面まで伸びるリブが複数設けられていることを特徴とするシールリング。
軸の外周に設けられた環状溝に装着され、相対的に回転する前記軸とハウジングとの間の環状隙間を封止して、流体圧力が変化するように構成されたシール対象領域の流体圧力を保持するシールリングであって、
前記環状溝における低圧側の側壁面に密着し、かつ前記ハウジングにおける前記軸が挿通される軸孔の内周面に対して摺動するシールリングにおいて、
外周面側には、
幅方向の中央に設けられ、周方向に伸びる凹部と、
該凹部を介して両側に設けられ、前記軸孔の内周面に対して摺動する一対の凸部と、
を有すると共に、
内周面側から前記凹部の底面に至るように設けられ、かつ内周面側からシール対象流体を前記凹部内に導入可能とする貫通孔を有することによって、
前記流体圧力により前記軸孔の内周面に対して押し付けられる力に寄与する内周面側からの有効受圧面積の方が、前記流体圧力により前記環状溝における低圧側の側壁面に対し
て押し付けられる力に寄与する側面側からの有効受圧面積よりも狭くなるように構成されていることを特徴とするシールリング。
【背景技術】
【0002】
自動車用のAutomatic Transmission(AT)やContinuously Variable Transmission(CVT)においては、油圧を保持させるために、相対的に回転する軸とハウジングとの間の環状隙間を封止するシールリングが設けられている。近年、環境問題対策として低燃費化が進められており、上記シールリングにおいては、回転トルクを低減させる要求が高まっている。そこで、従来、シールリングが装着される環状溝の側面とシールリングとの摺動部分の接触面積を小さくする対策が取られている。このような従来例に係るシールリングについて、
図19を参照して説明する。
【0003】
図19は従来例に係るシールリングの使用状態を示す模式的断面図である。従来例に係るシールリング300は、軸500の外周に設けられた環状溝510に装着される。そして、シールリング300は、軸500が挿通されるハウジング600の軸孔の内周面に密着し、かつ環状溝510の側壁面に摺動自在に接触することで、軸500とハウジング600の軸孔との間の環状隙間が封止される。
【0004】
ここで、従来例に係るシールリング300には、周方向に伸びる一対の凹部320が両側面の内周側に設けられている。これにより、シールリング300が、シール対象流体によって高圧側(H)から低圧側(L)に向かって軸線方向に押圧される際の有効な受圧領域は、
図19中Aで示す領域となる。つまり、シールリング300の側面のうち、凹部320が設けられていない部分310の径方向の領域が、有効な受圧領域Aとなる。何故なら、凹部320が設けられている領域においては、軸線方向の両側から流体圧力が作用して、シールリング300に対して軸線方向に加わる力が相殺されるからである。なお、受圧領域Aの全周に亘る面積が軸線方向に対する有効な受圧面積となる。
【0005】
また、シールリング300が、シール対象流体によって内周面側から外周面側に向かって径方向外側に押圧される際の有効な受圧領域は、
図19中Bで示す領域となる。つまり、シールリング300における軸線方向の厚み分が、有効な受圧領域Bとなる。なお、受圧領域Bの全周に亘る面積が径方向に対する受圧面積となる。
【0006】
以上より、[領域Aの長さ]<[領域Bの長さ]に設定することによって、シールリング300と環状溝510の側壁面との間で摺動させることが可能となる。また、受圧領域Aの長さをできる限り小さくすることによって、回転トルクを低減させることが可能となる。
【0007】
しかしながら、環状溝510の側壁面に対するシールリング300の接触領域は、
図19中Cで示す領域となる。つまり、シールリング300は、その低圧側(L)の側面であって、凹部320が設けられていない部分310のうち、軸500とハウジング600との間の隙間に晒される部分を除く部分のみが環状溝510の側壁面に接触する。そのため、シールリング300における接触領域Cは、軸500とハウジング600との間の隙間の寸法に影響される。従って、使用環境によっては、環状溝510の側壁面に対するシールリング300の接触面積が過剰に小さくなってしまい、密封性が低下してしまうおそれがある。また、使用環境に応じて、接触領域が変化してしまい、密封性が安定しないなどの問題もある。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、本実施例に係るシールリングは、自動車用のATやCVTなどの変速機において、油圧を保持させるために、相対的に回転する軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する用途に用いられるものである。また、以下の説明において、「高圧側」とは、シールリングの両側に差圧が生じた際に高圧となる側を意味し、「低圧側」とは、シールリングの両側に差圧が生じた際に低圧となる側を意味する。
【0018】
(実施例1)
図1〜
図4を参照して、本発明の実施例1に係るシールリングについて説明する。
【0019】
<シールリングの構成>
本実施例に係るシールリング100は、軸500の外周に設けられた環状溝510に装着され、相対的に回転する軸500とハウジング600(ハウジング600における軸500が挿通される軸孔の内周面)との間の環状隙間を封止する。これにより、シールリング100は、流体圧力(本実施例では油圧)が変化するように構成されたシール対象領域の流体圧力を保持する。ここで、本実施例においては、
図4中の右側の領域の流体圧力が変化するように構成されており、シールリング100は図中右側のシール対象領域の流体圧力を保持する役割を担っている。なお、自動車のエンジンが停止した状態においては、シール対象領域の流体圧力は低く、無負荷の状態となっており、エンジンをかけるとシール対象領域の流体圧力は高くなる。
【0020】
そして、シールリング100は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂材からなる。また、シールリング100の外周面の周長はハウジング600の軸孔の内周面の周長よりも短く構成されており、締め代を持たないように構成されている。
【0021】
このシールリング100には、周方向の1箇所に合口部110が設けられている。また、シールリング100の外周面側には、周方向に伸びる一対の凹部130が幅方向の両側に設けられている。なお、これら一対の凹部130の間には、ハウジング600の軸孔の内周面に摺動する凸部120が設けられている。一対の凹部130底面は、シールリング100の内周面と同心的な面で構成されている。また、凸部120の側面は凹部130の底面に対して垂直となるように構成されている。
【0022】
なお、本実施例に係るシールリング100は、断面が矩形の環状部材に対して、上記の合口部110,一対の凹部130、及び一対の凹部130を設けたことにより得られる凸部120が形成された構成である。ただし、これは形状についての説明に過ぎず、必ずしも、断面が矩形の環状部材を素材として、これらの各部を形成する加工を施すことを意味するものではない。勿論、断面が矩形の環状部材を成形した後に、各部を切削加工により得ることもできる。ただし、例えば、予め合口部110を有したものを成形した後に、凹部130を切削加工により得てもよいし、製法は特に限定されるものではない。
【0023】
合口部110は、外周面側及び両側壁面側のいずれから見ても階段状に切断された、いわゆる特殊ステップカットを採用している。これにより、シールリング100においては、切断部を介して一方の側の外周側には第1嵌合凸部111a及び第1嵌合凹部112aが設けられ、他方の側の外周側には第1嵌合凸部111aが嵌る第2嵌合凹部112bと第1嵌合凹部112aに嵌る第2嵌合凸部111bが設けられている。特殊ステップカットに関しては公知技術であるので、その詳細な説明は省略するが、熱膨張収縮によりシールリング100の周長が変化しても安定したシール性能を維持する特性を有する。なお、ここでは合口部110の一例として、特殊ステップカットの場合を示したが、合口部110については、これに限らず、ストレートカットやバイアスカットやステップカットなども採用し得る。なお、シールリング100の材料として、低弾性の材料(PTFEなど)を採用した場合には、合口部110を設けずに、エンドレスとしてもよい。
【0024】
一対の凹部130は、合口部110付近を除く全周に亘って形成されている。合口部110付近の凹部130が設けられていない部位と、凸部120の外周面は同一面となっている。これらによって、シールリング100の外周面側における環状の連続的なシール面が形成される。つまり、シールリング100の外周面において、合口部110付近を除く領域では、凸部120の外周面のみが軸孔の内周面に対して摺動する。なお、合口部110を設けない構成を採用する場合には、一対の凹部130を環状に設けることで、凸部120も環状となる。これにより、凸部120の外周面のみで、環状の連続的なシール面を形成させることが可能となる。
【0025】
凸部120の幅については、狭いほどトルクを低減することができるものの、幅を狭くし過ぎると、シール性及び耐久性が低下してしまう。そこで、使用環境等に応じて、シール性及び耐久性を維持できる程度に、当該幅を可及的に狭くするのが望ましい。なお、例えば、シールリング100の横幅の全長が1.9mmの場合、凸部120の幅は、0.3mm以上0.7mm以下程度に設定するとよい。
【0026】
そして、本実施例に係るシールリング100においては、凸部120における一方側の側面からシールリング100における他方側の側面までの距離(領域Bの長さに相当)、及び凸部120における他方側の側面からシールリング100における一方側の側面までの距離は、シールリング100における内周面から凸部120の外周面までの距離(領域Aの長さに相当)よりも短く設定されている(
図4参照)。なお、凸部120における一方側の側面からシールリング100における他方側の側面までの距離、及び凸部120における他方側の側面からシールリング100における一方側の側面までの距離は等しい。なお、領域Bは、シールリング100の使用時において、凸部120における高圧側(H)の側面からシールリング100における低圧側(L)の側面までの領域ということもできる(
図4参照)。
【0027】
領域Aと領域Bの関係を上記のように設定することで、シールリング100が、流体圧力により軸孔の内周面に対して押し付けられる力に寄与する内周面側からの有効受圧面積の方が、流体圧力により環状溝510における低圧側の側壁面に対して押し付けられる力に寄与する側面側からの有効受圧面積よりも狭くなる。
【0028】
<シールリングの使用時のメカニズム>
特に、
図4を参照して、本実施例に係るシールリング100の使用時のメカニズムについて説明する。
図4は、エンジンがかかり、シールリング100を介して、差圧が生じている状態(図中右側の圧力が左側の圧力に比べて高くなった状態)を示している。
【0029】
無負荷状態においては、左右の領域の差圧がなく、かつ内周面側からの流体圧力も作用しないため、シールリング100は、環状溝510における
図4中左側の側壁面及び軸孔の内周面から離れた状態となり得る。
【0030】
そして、エンジンがかかり、差圧が生じた状態においては、シールリング100は、環状溝510の低圧側(L)の側壁面に密着した状態となり、かつ軸孔の内周面に対して摺動した状態となる(
図4参照)。
【0031】
<本実施例に係るシールリングの優れた点>
本実施例に係るシールリング100によれば、シールリング100を介して両側に差圧が生じた際には、一対の凹部130のうち高圧側(H)の凹部130内にシール対象流体が導かれる。そのため、流体圧力が高まっても、この凹部130が設けられた領域においては流体圧力が内周面側に向かって作用する。ここで、本実施例においては、凹部130の底面は、シールリング100の内周面と同心的な面で構成されているので、高圧側(H)の凹部130が設けられている領域においては、内周面側から流体圧力が作用する向きと、外周面側から流体圧力が作用する向きは真逆となる。なお、
図4中の矢印は、流体圧力がシールリング100に対して作用する様子を示している。これにより、本実施例に係るシールリング100においては、流体圧力の増加に伴う、シールリング100による外周面側への圧力の増加を抑制でき、摺動トルクを低く抑えることができる。
【0032】
ここで、本実施例に係るシールリング100においては、
図4に示す領域Bの長さは領域Aの長さよりも短く設定されている。これにより、上記の通り、シールリング100が、流体圧力により軸孔の内周面に対して押し付けられる力に寄与する内周面側からの有効受圧面積の方が、流体圧力により環状溝510における低圧側の側壁面に対して押し付けられる力に寄与する側面側からの有効受圧面積よりも狭くなる。
【0033】
すなわち、領域Aは、シールリング100がシール対象流体によって高圧側(H)から低圧側(L)に向かって軸線方向に押圧される際の有効な受圧領域となる。また、受圧領域Aの全周に亘る面積が軸線方向に対する有効な受圧面積となる。そして、領域Bは、シールリング100がシール対象流体によって内周面側から外周面側に向かって径方向外側に押圧される際の有効な受圧領域となる。何故なら、上記の通り、凹部130が設けられている領域においては、径方向の両側から流体圧力が作用して、シールリング100に対して径方向に加わる力が相殺されるからである。なお、受圧領域Bの全周に亘る面積が径方向に対する有効な受圧面積となる。
【0034】
従って、シールリング100の両側に差圧が生じた際に、シールリング100に対する有効な受圧領域(受圧面積)は、軸線方向よりも径方向外側に向かう方向の方が小さくなる。そのため、シールリング100における凸部120の外周面を、より確実に軸孔内周面に対して摺動させることができる。これにより、軸500とハウジング600との間の環状隙間の大小に拘らず、摺動部分の面積を安定させることができる。従って、密封性の安定化を図ることができる。また、シールリング100の外周面のうち凸部120の部分をより確実に摺動させることで、摺動抵抗を低減させ、回転トルクを低減させることができる。更に、シールリング100は外周面側が摺動するため、環状溝の側壁面との間で摺動するシールリングの場合に比べて、シール対象流体による潤滑膜(ここでは油膜)が形成され易くなり、より一層、摺動トルクを低減させることができる。これは、シールリング100の外周面と軸孔内周面との間で摺動する場合には、これらの間の微小隙間部分で楔効果が発揮されるためである。
【0035】
また、本実施例においては、一対の凹部130は、合口部110付近を除く全周に亘って形成されている。このように、本実施例においては、シールリング100の外周面の広範囲に亘って凹部130を設けたことにより、シールリング100とハウジング600の軸孔の内周面との摺動面積を可及的に狭くすることができ、摺動トルクを極めて軽減することができる。
【0036】
このように、摺動トルクの低減を実現できることにより、摺動による発熱を抑制することができ、高速高圧の環境条件下でも本実施例に係るシールリング100を好適に用いることが可能となる。また、環状溝510の側面に対して摺動しないことにより、軸500の材料としてアルミニウムなどの軟質材を用いることもできる。
【0037】
更に、本実施例に係るシールリング100は、幅方向の中心面に対して、対称的な形状となっているため、シールリング100を環状溝510に装着する際に、装着方向を気にする必要はない。また、高圧側(H)と低圧側(L)の関係が入れ替わるような環境下においても、上記のような優れた効果が発揮される。
【0038】
なお、本実施例においては、凸部120の側面は凹部130の底面に対して垂直となるように構成されている。ここで、凸部120が外周面側に向かって幅が狭くなるように、凸部120の側面をテーパ面などの傾斜面にすることも考えられ得る。しかしながら、凸部120の側面を傾斜面にすると、急激に差圧が生じた際に、凸部120の外周面と軸孔内周面との隙間からシール対象流体が吹き抜けてしまうおそれもある。従って、凸部120の側面は凹部130の底面に対して垂直とするのが望ましい。
【0039】
(実施例2)
図5及び
図6には、本発明の実施例2が示されている。本実施例においては、上記実施例1に示す構成に対して、一対の凹部内に複数のリブを設ける場合の構成を示す。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。
【0040】
本実施例に係るシールリング100においても、上記実施例1と同様に、合口部110,一対の凹部130、及び凸部120を備えている。これら合口部110,凹部130及び凸部120については、上記実施例1に係るシールリングと同一の構成であるので、その説明は省略する。なお、合口部110については、本実施例においても、特殊ステップカットを採用した場合を示しているが、これに限られないことは、上記実施例1で説明した通りである。
【0041】
そして、本実施例においては、一対の凹部130内に、凸部120に繋がるように設けられた複数のリブ121が設けられている。
【0042】
以上のように構成された本実施例に係るシールリング100においても、上記実施例1に係るシールリング100の場合と同様の作用効果を得ることができる。また、本実施例においては、複数のリブ121が設けられているので、シールリング100の剛性が高くなり、特に、捩じれ方向に対する強度が高くなっている。従って、差圧が大きくなる環境下においても、シールリング100の変形が抑制され、安定的に密封性が発揮される。
【0043】
(実施例3)
図7〜
図12には、本発明の実施例3が示されている。本実施例においては、基本的な構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。
【0044】
本実施例に係るシールリング100は、軸500の外周に設けられた環状溝510に装着され、相対的に回転する軸500とハウジング600(ハウジング600における軸500が挿通される軸孔の内周面)との間の環状隙間を封止する。これにより、シールリング100は、流体圧力(本実施例では油圧)が変化するように構成されたシール対象領域の流体圧力を保持する。ここで、本実施例においては、
図10〜
図12中の右側の領域の流体圧力が変化するように構成されており、シールリング100は図中右側のシール対象領域の流体圧力を保持する役割を担っている。なお、自動車のエンジンが停止した状態においては、シール対象領域の流体圧力は低く、無負荷の状態となっており、エンジンをかけるとシール対象領域の流体圧力は高くなる。
【0045】
そして、シールリング100は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂材からなる。また、シールリング100の外周面の周長はハウジング600の軸孔の内周面の周長よりも短く構成されており、締め代を持たないように構成されている。
【0046】
このシールリング100には、周方向の1箇所に合口部110が設けられている。また、シールリング100の外周面側には、幅方向の中央に設けられ、周方向に伸びる凹部140と、この凹部140を介して両側に設けられ、ハウジング600の軸孔の内周面に対して摺動する一対の凸部150が設けられている。更に、シールリング100には、内周面側から凹部140の底面に至るように設けられ、かつ内周面側からシール対象流体(ここでは油)を凹部140内に導入可能とする貫通孔141が複数設けられている。凹部140の底面は、シールリング100の内周面と同心的な面で構成されている。
【0047】
なお、本実施例に係るシールリング100は、断面が矩形の環状部材に対して、上記の合口部110,凹部140,貫通孔141、及び一対の凸部150が形成された構成である。ただし、これは形状についての説明に過ぎず、必ずしも、断面が矩形の環状部材を素材として、これらの各部を形成する加工を施すことを意味するものではない。勿論、断面が矩形の環状部材を成形した後に、各部を切削加工により得ることもできる。ただし、例えば、予め合口部110を有したものを成形した後に、凹部140,貫通孔141、及び一対の凸部150を切削加工により得てもよいし、製法は特に限定されるものではない。
【0048】
合口部110については、本実施例においても、上記実施例1と同様に、外周面側及び両側壁面側のいずれから見ても階段状に切断された、いわゆる特殊ステップカットを採用している。合口部110に関しては、実施例1で説明した通りであるので、その説明は省略する。
【0049】
凹部140は、合口部110付近を除く全周に亘って形成されている。合口部110付近の凹部140が設けられていない部位と、一対の凸部150の外周面は同一面となっている。これらによって、シールリング100の外周面側における環状の連続的なシール面が形成される。つまり、シールリング100の外周面において、合口部110付近を除く領域では、一対の凸部150の外周面のみが軸孔の内周面に対して摺動する。なお、合口部110を設けない構成を採用する場合には、凹部140を環状に設けることで、一対の凸部150も環状となる。これにより、一対の凸部150の外周面のみで、環状の連続的なシール面を形成させることが可能となる。
【0050】
凹部140の深さについては、浅い方が、一対の凸部150の剛性が高くなる。一方、一対の凸部150は摺動により摩耗するため、凹部140の深さは経時的に浅くなっていく。そのため、凹部140の深さが浅くなり過ぎると流体を導入することができなくなってしまう。そこで、上記剛性と経時的な摩耗が進んでも流体の導入を維持することの両者を考慮して、初期の凹部140の深さを設定するのが望ましい。例えば、シールリング100の肉厚が1.7mmの場合、凹部140の深さを0.1mm以上0.3mm以下程度に設定するとよい。
【0051】
一対の凸部150の幅については、狭いほどトルクを低減することができるものの、幅を狭くし過ぎると、シール性及び耐久性が低下してしまう。そこで、使用環境等に応じて、シール性及び耐久性を維持できる程度に、当該幅を可及的に狭くするのが望ましい。なお、例えば、シールリング100の横幅の全長が1.9mmの場合、一対の凸部150の幅は、0.3mm以上0.7mm以下程度に設定するとよい。
【0052】
そして、本実施例に係るシールリング100においては、一対の凸部150のそれぞれの幅(
図11中の領域B1と領域B2の長さに相当)を足した長さが、シールリング100における内周面から凸部150の外周面までの距離(
図11中、領域Aの長さに相当)よりも短く設定されている。なお、領域B1の長さと領域B2の長さは等しく設定されている。
【0053】
領域Aと領域B1,B2の関係を上記のように設定することで、シールリング100が、流体圧力により軸孔の内周面に対して押し付けられる力に寄与する内周面側からの有効受圧面積の方が、流体圧力により環状溝510における低圧側の側壁面に対して押し付けられる力に寄与する側面側からの有効受圧面積よりも狭くなる。
【0054】
<密封装置の使用時のメカニズム>
特に、
図10〜
図12を参照して、本実施例に係るシールリング100の使用時のメカニズムについて説明する。
図10は、エンジンが停止して、シールリング100を介して左右の領域の差圧がなく(または、差圧が殆どなく)、無負荷の状態を示している。なお、
図10中のシールリング100は
図8中のDD断面に相当する。
図11及び
図12は、エンジンがかかり、シールリング100を介して、左側の領域に比べて右側の領域の流体圧力の方が高くなった状態を示している。なお、
図11中のシールリング100は
図8中のEE断面に相当し、
図12中のシールリング100は
図8中のDD断面に相当する。
【0055】
無負荷状態においては、左右の領域の差圧がなく、かつ内周面側からの流体圧力も作用しないため、シールリング100は、環状溝510における
図10中左側の側壁面及び軸孔の内周面から離れた状態となり得る。
【0056】
そして、エンジンがかかり、差圧が生じた状態においては、シールリング100は、環状溝510の低圧側(L)の側壁面に密着した状態となり、かつ軸孔の内周面に対して摺動した状態となる(
図11及び
図12参照)。
【0057】
<本実施例に係るシールリングの優れた点>
本実施例に係るシールリング100によれば、シールリング100を介して両側に差圧が生じた際には、貫通孔141を介して、シールリング100の内周面側からシール対象流体が凹部140内に導かれる。そのため、流体圧力が高まっても、この凹部140が設けられた領域においては流体圧力が内周面側に向かって作用する。ここで、本実施例においては、凹部140の底面は、シールリング100の内周面と同心的な面で構成されている。従って、凹部140が設けられている領域においては、内周面側から流体圧力が作用する向きと、外周面側から流体圧力が作用する向きは真逆となる。なお、
図11及び
図12中の矢印は、流体圧力がシールリング100に対して作用する様子を示している。これにより、本実施例に係るシールリング100においては、流体圧力の増加に伴う、シールリング100による外周面側への圧力の増加を抑制でき、摺動トルクを低く抑えることができる。
【0058】
ここで、本実施例に係るシールリング100においては、上記の通り、
図11に示す領域B1と領域B2の長さの和は領域Aの長さよりも短く設定されている。これにより、上記の通り、シールリング100が、流体圧力により軸孔の内周面に対して押し付けられる力に寄与する内周面側からの有効受圧面積の方が、流体圧力により環状溝510における低圧側の側壁面に対して押し付けられる力に寄与する側面側からの有効受圧面積よりも狭くなる。
【0059】
すなわち、領域Aは、シールリング100がシール対象流体によって高圧側(H)から低圧側(L)に向かって軸線方向に押圧される際の有効な受圧領域となる。また、受圧領域Aの全周に亘る面積が軸線方向に対する有効な受圧面積となる。そして、領域B1と領域B2は、シールリング100がシール対象流体によって内周面側から外周面側に向かって径方向外側に押圧される際の有効な受圧領域となる。何故なら、上記の通り、凹部140が設けられている領域においては、径方向の両側から流体圧力が作用して、シールリング100に対して径方向に加わる力が相殺されるからである。なお、受圧領域B1及び領域B2の全周に亘る面積が径方向に対する有効な受圧面積となる。
【0060】
従って、シールリング100の両側に差圧が生じた際に、シールリング100に対する有効な受圧領域(受圧面積)は、軸線方向よりも径方向外側に向かう方向の方が小さくなる。そのため、シールリング100における一対の凸部150の外周面を、より確実に軸孔内周面に対して摺動させることができる。これにより、軸500とハウジング600との間の環状隙間の大小に拘らず、摺動部分の面積を安定させることができる。従って、密封性の安定化を図ることができる。また、シールリング100の外周面のうち一対の凸部150の部分をより確実に摺動させることで、摺動抵抗を低減させ、回転トルクを低減させることができる。更に、シールリング100は外周面側が摺動するため、環状溝の側壁面との間で摺動するシールリングの場合に比べて、シール対象流体による潤滑膜(ここでは油膜)が形成され易くなり、より一層、摺動トルクを低減させることができる。これは、シールリング100の外周面と軸孔内周面との間で摺動する場合には、これらの間の微小隙間部分で楔効果が発揮されるためである。
【0061】
また、本実施例においては、凹部140は、合口部110付近を除く全周に亘って形成されている。このように、本実施例においては、シールリング100の外周面の広範囲に亘って凹部140を設けたことにより、シールリング100とハウジング600の軸孔の内周面との摺動面積を可及的に狭くすることができ、摺動トルクを極めて軽減することができる。
【0062】
このように、摺動トルクの低減を実現できることにより、摺動による発熱を抑制することができ、高速高圧の環境条件下でも本実施例に係るシールリング100を好適に用いることが可能となる。また、環状溝510の側面に対して摺動しないことにより、軸500の材料としてアルミニウムなどの軟質材を用いることもできる。
【0063】
また、本実施例に係るシールリング100は、幅方向の中心面に対して、対称的な形状となっているため、シールリング100を環状溝510に装着する際に、装着方向を気にする必要はない。また、高圧側(H)と低圧側(L)の関係が入れ替わるような環境下においても、上記のような優れた効果が発揮される。
【0064】
更に、本実施例に係るシールリング100においては、凹部140の両側に設けられた一対の凸部150が、軸孔の内周面に対して摺動するため、シールリング100の姿勢を安定させることができる。つまり、流体圧力によって、シールリング100が環状溝510内で傾いてしまうことを抑制できる。
【0065】
(実施例4)
図13〜
図18には、本発明の実施例4が示されている。本実施例においては、基本的な構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。
【0066】
本実施例に係るシールリング100は、軸500の外周に設けられた環状溝510に装着され、相対的に回転する軸500とハウジング600(ハウジング600における軸500が挿通される軸孔の内周面)との間の環状隙間を封止する。これにより、シールリング100は、流体圧力(本実施例では油圧)が変化するように構成されたシール対象領域の流体圧力を保持する。ここで、本実施例においては、
図16〜
図18中の右側の領域の流体圧力が変化するように構成されており、シールリング100は図中右側のシール対象領域の流体圧力を保持する役割を担っている。なお、自動車のエンジンが停止した状態においては、シール対象領域の流体圧力は低く、無負荷の状態となっており、エンジンをかけるとシール対象領域の流体圧力は高くなる。
【0067】
そして、シールリング100は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂材からなる。また、シールリング100の外周面の周長はハウジング600の軸孔の内周面の周長よりも短く構成されており、締め代を持たないように構成されている。
【0068】
このシールリング100には、周方向の1箇所に合口部110が設けられている。また、シールリング100の外周面には、外周面側に突出し、その表面がハウジング600の軸孔の内周面に対して摺動する凸部160が形成されている。この凸部160は、幅方向の両端面の位置まで至るように、高圧側(H)と低圧側(L)に交互に位置が変化しながら周方向に向かって伸びるように形成されている。より具体的には、凸部160は周方向に向かって蛇行する波形状となるように構成されている。また、この凸部160は、合口部110付近を除く全周に亘って設けられている。なお、後述のように、合口部110を設けない構成を採用する場合には、この凸部160は全周に亘って設けられる。
【0069】
そして、このような凸部160が形成されることによって、シールリング100の外周面における高圧側(H)には、第1凹部171が周方向にそれぞれ間隔を空けて複数形成される。また、シールリング100の外周面における低圧側(L)には、第2凹部172が周方向にそれぞれ間隔を空けて複数形成される。第1凹部171は、高圧側(H)の端部から低圧側(L)の端部に至らない位置まで伸びるように構成され、高圧側(H)から流体を導入する機能を発揮する。また、第2凹部172は、低圧側(L)の端部から高圧側(H)の端部に至らない位置まで伸びるように構成される。これら第1凹部171の底面及び第2凹部172の底面は、シールリング100の内周面と同心的な面で構成されている。
【0070】
なお、本実施例に係るシールリング100は、断面が矩形の環状部材に対して、上記の合口部110,凸部160,複数の第1凹部171及び第2凹部172が形成された構成である。ただし、これは形状についての説明に過ぎず、必ずしも、断面が矩形の環状部材を素材として、これらに合口部110,凸部160,複数の第1凹部171及び第2凹部172を形成する加工を施すことを意味するものではない。勿論、断面が矩形の環状部材を成形した後に、合口部110,凸部160,複数の第1凹部171及び第2凹部172を切削加工により得ることもできる。しかしながら、例えば、予め合口部110を有したものを成形した後に、凸部160,複数の第1凹部171及び第2凹部172を切削加工により得てもよいし、製法は特に限定されるものではない。
【0071】
合口部110については、本実施例においても、上記実施例1と同様に、外周面側及び両側壁面側のいずれから見ても階段状に切断された、いわゆる特殊ステップカットを採用している。合口部110に関しては、実施例1で説明した通りであるので、その説明は省略する。
【0072】
また、合口部110を設ける構成を採用する場合には、合口部110の付近には第1凹部171及び第2凹部172を形成させないようにするのが望ましい(
図15参照)。なお、この場合、合口部110の付近の外周面は凸部160の部分の外周面と同一面となる。これらによって、シールリング100の外周面側における環状の連続的なシール面が形成される。つまり、シールリング100の外周面において、合口部110付近を除く領域では、凸部160の外周面のみが軸孔の内周面に対して摺動する。なお、合口部110を設けない構成を採用する場合には、凸部160は環状に設けられる。これにより、凸部160の外周面のみで、環状の連続的なシール面を形成させることが可能となる。
【0073】
本実施例に係る凸部160は細長く伸びる構成であり、シールリング100の外周面において、複数の第1凹部171及び第2凹部172が占める面積に比して、凸部160の占める面積は十分に狭くなるように構成されている。そして、複数の第1凹部171及び第2凹部172は、周方向のほぼ全域に亘って形成されている。つまり、合口部110が形成されている付近と、細長い凸部160の部位を除き、周方向の全域に亘って第1凹部171及び第2凹部172が形成されている。また、本実施例における凸部160の両側面は、第1凹部171の底面及び第2凹部172の底面に対してそれぞれ垂直となるように構成されている。
【0074】
また、凸部160の高さ(第1凹部171及び第2凹部172の深さに等しい)については、低い方が、凸部160が設けられている部位の剛性が高くなる。一方、凸部160は摺動により摩耗するため、第1凹部171及び第2凹部172の深さは経時的に浅くなっていく。そのため、第1凹部171の深さが浅くなり過ぎると流体を導入することができなくなってしまう。そこで、上記剛性と経時的な摩耗が進んでも流体の導入を維持することの両者を考慮して、初期の凸部160の高さを設定するのが望ましい。例えば、シールリング100の肉厚が1.7mmの場合、凸部160の高さを0.1mm以上0.3mm以下程度に設定するとよい。また、凸部160の幅が狭いほど、トルクを低減することができるものの、幅を狭くし過ぎると、シール性及び耐久性が低下してしまう。そこで、使用環境等に応じて、シール性及び耐久性を維持できる程度に、凸部160の幅を可及的に狭くするのが望ましい。なお、例えば、シールリング100の幅(軸方向の幅)の全長が1.9mmの場合、凸部160の幅は、0.3mm以上0.7mm以下程度に設定するとよい。
【0075】
そして、本実施例に係るシールリング100においては、凸部160における一方側の側面からシールリング100における他方側の側面までの領域BX(
図16〜
図18参照)の全周に亘る面積、及び凸部160における他方側の側面からシールリング100における一方側の側面までの領域の全周に亘る面積が、シールリング100における内周面から凸部160の外周面までの領域Aの全周に亘る面積よりも狭くなるように設定されている。なお、領域BXは、シールリング100の使用時において、凸部160における高圧側(H)の側面からシールリング100における低圧側(L)の側面までの領域ということもできる。
【0076】
領域Aと領域BXの関係を上記のように設定することで、シールリング100が、流体圧力により軸孔の内周面に対して押し付けられる力に寄与する内周面側からの有効受圧面積の方が、流体圧力により環状溝510における低圧側の側壁面に対して押し付けられる力に寄与する側面側からの有効受圧面積よりも狭くなる。
【0077】
<密封装置の使用時のメカニズム>
特に、
図16〜
図18を参照して、本実施例に係るシールリング100の使用時のメカニズムについて説明する。
図16〜
図18は、エンジンがかかり、シールリング100を介して、左側の領域に比べて右側の領域の流体圧力の方が高くなった状態を示している。なお、
図16中のシールリング100は
図14中のFF断面に相当し、
図17中のシールリング100は
図14中のGG断面に相当し、
図18中のシールリング100は
図14中のHH断面に相当する。
【0078】
無負荷状態においては、左右の領域の差圧がなく、かつ内周面側からの流体圧力も作用しないため、シールリング100は、環状溝510における
図16〜
図18中左側の側壁面及び軸孔の内周面から離れた状態となり得る。
【0079】
そして、エンジンがかかり、差圧が生じた状態においては、シールリング100は、環状溝510の低圧側(L)の側壁面に密着した状態となり、かつ軸孔の内周面に対して摺動した状態となる。
【0080】
<本実施例に係るシールリングの優れた点>
本実施例に係るシールリング100によれば、シールリング100を介して両側に差圧が生じた際には、高圧側(H)の第1凹部171内にシール対象流体が導かれる。そのため、流体圧力が高まっても、この第1凹部171が設けられた領域においては流体圧力が内周面側に向かって作用する。ここで、本実施例においては、第1凹部171の底面は、シールリング100の内周面と同心的な面で構成されている。そのため、第1凹部171が設けられている領域においては、内周面側から流体圧力が作用する向きと、外周面側から流体圧力が作用する向きは真逆となる。なお、
図16〜
図18中の矢印は、流体圧力がシールリング100に対して作用する様子を示している。これにより、本実施例に係るシールリング100においては、流体圧力の増加に伴う、シールリング100による外周面側への圧力の増加を抑制でき、摺動トルクを低く抑えることができる。
【0081】
ここで、本実施例に係るシールリング100においては、上記の通り、シールリング100が、流体圧力により軸孔の内周面に対して押し付けられる力に寄与する内周面側からの有効受圧面積の方が、流体圧力により環状溝510における低圧側の側壁面に対して押し付けられる力に寄与する側面側からの有効受圧面積よりも狭くなるように構成されている。
【0082】
なお、
図16〜
図18に示す領域Aは、シールリング100がシール対象流体によって高圧側(H)から低圧側(L)に向かって軸線方向に押圧される際の有効な受圧領域となる。また、受圧領域Aの全周に亘る面積が軸線方向に対する有効な受圧面積となる。そして、
図16〜
図18に示す領域BXは、シールリング100がシール対象流体によって内周面側から外周面側に向かって径方向外側に押圧される際の有効な受圧領域となる。何故なら、上記の通り、第1凹部171が設けられている領域においては、径方向の両側から流体圧力が作用して、シールリング100に対して径方向に加わる力が相殺されるからである。なお、受圧領域BXの全周に亘る面積が径方向に対する有効な受圧面積となる。
【0083】
従って、シールリング100の両側に差圧が生じた際に、シールリング100に対する有効な受圧領域(受圧面積)は、軸線方向よりも径方向外側に向かう方向の方が小さくなる。そのため、シールリング100における凸部160の外周面を、より確実に軸孔内周面に対して摺動させることができる。これにより、軸500とハウジング600との間の環状隙間の大小に拘らず、摺動部分の面積を安定させることができる。従って、密封性の安定化を図ることができる。また、シールリング100の外周面のうち凸部160の部分をより確実に摺動させることで、摺動抵抗を低減させ、回転トルクを低減させることができる。更に、シールリング100は外周面側が摺動するため、環状溝の側壁面との間で摺動するシールリングの場合に比べて、シール対象流体による潤滑膜(ここでは油膜)が形成され易くなり、より一層、摺動トルクを低減させることができる。これは、シールリング100の外周面と軸孔内周面との間で摺動する場合には、これらの間の微小隙間部分で楔効果が発揮されるためである。
【0084】
また、本実施例においては、第1凹部171及び第2凹部172は、合口部110付近を除く全周に亘って形成されている。このように、本実施例においては、シールリング100の外周面の広範囲に亘って第1凹部171及び第2凹部172を設けたことにより、シールリング100とハウジング600の軸孔の内周面との摺動面積を可及的に狭くすることができ、摺動トルクを極めて軽減することができる。
【0085】
このように、摺動トルクの低減を実現できることにより、摺動による発熱を抑制することができ、高速高圧の環境条件下でも本実施例に係るシールリング100を好適に用いることが可能となる。また、環状溝510の側面に対して摺動しないことにより、軸500の材料としてアルミニウムなどの軟質材を用いることもできる。
【0086】
更に、本実施例に係るシールリング100は、幅方向の中心面に対して、対称的な形状となっているため、シールリング100を環状溝510に装着する際に、装着方向を気にする必要はない。また、高圧側(H)と低圧側(L)の関係が入れ替わるような環境下においても、上記のような優れた効果が発揮される。
【0087】
更に、本実施例に係るシールリング100の外周面に形成されている凸部160は、高圧側(H)と低圧側(L)に交互に位置が変化しながら周方向に向かって伸びるように形成されている。そのため、ハウジング600の軸孔に対してシールリング100の外周面が摺動する位置が、高圧側(H)や低圧側(L)に偏ってしまうことはない。従って、シールリング100が環状溝510内で傾いてしまうことを抑制でき、シールリング100の装着状態を安定化させることができる。なお、本実施例では、凸部160は、幅方向の両端面の位置まで至るように、高圧側(H)と低圧側(L)に交互に位置が変化しながら周方向に向かって伸びるように形成されている。従って、ハウジング600の軸孔に対してシールリング100の外周面が摺動する位置が、高圧側(H)や低圧側(L)に偏ってしまうことを、効果的に抑制することができる。
【0088】
なお、本実施例においては、凸部160が、周方向に向かって蛇行する波形状となるように構成されている場合を示した。しかしながら、凸部については、周方向に向かって矩形状の波形状となるように構成したり、周方向に向かって三角形状の波形状となるように構成したりすることもできる。