特許第6191694号(P6191694)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191694
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】軟骨損傷治療剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/38 20060101AFI20170828BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20170828BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20170828BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20170828BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20170828BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20170828BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20170828BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20170828BHJP
   A61K 35/51 20150101ALN20170828BHJP
   A61K 35/50 20150101ALN20170828BHJP
   A61K 35/35 20150101ALN20170828BHJP
   A61K 35/32 20150101ALN20170828BHJP
【FI】
   A61L27/38 300
   A61L27/20
   A61L27/38 112
   A61K35/28
   A61P19/02
   A61K47/36
   A61K47/02
   A61K47/12
   C12N5/0775
   !A61K35/51
   !A61K35/50
   !A61K35/35
   !A61K35/32
【請求項の数】12
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2015-529631(P2015-529631)
(86)(22)【出願日】2014年8月1日
(86)【国際出願番号】JP2014070382
(87)【国際公開番号】WO2015016357
(87)【国際公開日】20150205
【審査請求日】2016年3月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-160856(P2013-160856)
(32)【優先日】2013年8月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503328193
【氏名又は名称】株式会社ツーセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】辻 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】森川 實
(72)【発明者】
【氏名】前田 悟
(72)【発明者】
【氏名】北山 唯
(72)【発明者】
【氏名】大森 亜樹
(72)【発明者】
【氏名】邵 金昌
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 森一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】松下 隆
(72)【発明者】
【氏名】高尾 昌人
(72)【発明者】
【氏名】三木 慎也
(72)【発明者】
【氏名】印南 健
(72)【発明者】
【氏名】高橋 泰文
【審査官】 馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/080919(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/055616(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/111787(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/094888(WO,A1)
【文献】 特開2006−122147(JP,A)
【文献】 特開2006−211920(JP,A)
【文献】 特表2010−501547(JP,A)
【文献】 特表2004−507454(JP,A)
【文献】 西村正宏ら,骨髄間葉系幹細胞のヒアルロン酸合成及び分解: 間葉系幹細胞に対するヒアルロン酸の作用,Clin. Rheumatol.,2004年,Vol.16,p.240-245
【文献】 TISSUE ENGINEERING: Part C,2013年,Vol.19, No.4,p.288-298,Online Publication Date: 2012.10.24
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/38
A61K 35/28
A61K 47/02
A61K 47/12
A61K 47/36
A61L 27/20
A61P 19/02
C12N 5/0775
A61K 35/32
A61K 35/35
A61K 35/50
A61K 35/51
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FGF、PDGF、TGF−β、HGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び、少なくとも1つの脂肪酸を含有する無血清培地Aにおいて、間葉系幹細胞を増殖させる増殖工程と、
上記増殖工程後の間葉系幹細胞、等張保存剤、及び、ヒアルロン酸を混合する混合工程と
を包含し、
上記混合工程では、上記ヒアルロン酸の濃度が0.005%以上、0.1%以下になるように混合することを特徴とする軟骨損傷治療剤の製造方法。
【請求項2】
上記混合工程では、上記間葉系幹細胞が1×10個/mL以上、1×10個/mL以下になるように混合することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記混合工程では、上記ヒアルロン酸の濃度が0.01%以上、0.1%以下になるように混合することを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
上記間葉系幹細胞は、滑膜、臍帯、臍帯血、羊膜、骨髄、及び、脂肪からなる群より選択される組織由来であることを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
上記増殖工程において、分化能を維持したまま上記間葉系幹細胞を増殖させることを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
上記増殖工程の前に、
FGF、PDGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び、少なくとも1つの脂肪酸を含有する無血清培地Bにおいて、間葉系幹細胞を増殖させる前増殖工程をさらに包含することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
FGF、PDGF、TGF−β、HGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び、少なくとも1つの脂肪酸を含有する無血清培地Aにおいて培養された間葉系幹細胞と、
等張保存剤と、
ヒアルロン酸
を含有しており、
上記ヒアルロン酸の濃度が、0.005%以上、0.1%以下であることを特徴とする軟骨損傷治療剤。
【請求項8】
上記間葉系幹細胞の細胞数が、1×10個/mL以上、1×10個/mL以下であることを特徴とする請求項に記載の軟骨損傷治療剤。
【請求項9】
上記ヒアルロン酸の濃度が、0.01%以上、0.1%以下であることを特徴とする請求項7または8に記載の軟骨損傷治療剤。
【請求項10】
上記間葉系幹細胞が分化能を維持していることを特徴とする請求項7〜9の何れか1項に記載の軟骨損傷治療剤。
【請求項11】
軟骨の一部が損傷した軟骨損傷部位に投与される、請求項7〜10の何れか1項に記載の軟骨損傷治療剤。
【請求項12】
上記軟骨損傷部位に複数回投与される、請求項11に記載の軟骨損傷治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨損傷治療剤及びその製造方法に関し、さらに、当該製造方法に用いられる培地用添加剤、培養培地及びキット、並びにこれらを用いた培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膝等の関節部位において、滑膜の内側にある可動性関節に存在する軟骨組織は、II型コラーゲン、プロテオグリカン、及び水等により構成されており、関節軟骨(硝子軟骨)として定義されている。一方、関節部位以外に存在する軟骨組織の構成成分としては、II型コラーゲンよりも、I型コラーゲンの方が多い。
【0003】
関節軟骨は修復能が低く、一度損傷してしまうと自然再生することはほぼ不可能である。外傷性関節軟骨損傷を有し、強い疼痛及び/又は関節水腫を繰り返す場合には、内服の鎮痛剤による治療及び/又はヒアルロン酸の関節内注射が行われるが、これらはいずれも対症療法であり、根本的な治療方法ではない。そのため、現在の一般的な治療方法として、関節軟骨を外科的に再生する方法が採用されている。主な外科的治療方法として、非特許文献1に記載された骨穿孔法及び自家骨軟骨柱移植術が知られている。
【0004】
非特許文献1の骨穿孔法は、軟骨損傷部の骨にドリルで穴をあけ、骨髄から出血させ、骨髄に含まれる間葉系幹細胞(MSC:Mesenchymal Stem Cell)を損傷部へ誘導し、軟骨及び軟骨に類似した組織が再生することを期待する方法である。自己の組織を犠牲にせず、関節鏡視下で簡便に実施可能であるため、これまで軟骨損傷の第一の治療法として世界的に広く行われている。
【0005】
ここで、幹細胞は、自己複製能と分化能を有する細胞である。このような幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、及び体性幹細胞等が知られている。上記体性幹細胞としては、例えば、造血幹細胞、神経幹細胞、及び間葉系幹細胞等がある。上記ES細胞及び上記iPS細胞は、あらゆる組織へと分化することができる多分化能を有している。上記造血幹細胞は、血液細胞へと分化する能力を有しており、上記神経幹細胞は、神経細胞へと分化する能力を有している。また、上記間葉系幹細胞は、骨髄等の組織中に存在し、脂肪細胞、骨細胞、及び軟骨細胞等へ分化する多分化能を有する幹細胞として知られている。
【0006】
非特許文献1の自家骨軟骨柱移植術は、自家関節軟骨の健常部から骨と軟骨とを円柱状に一塊くりぬき、損傷部に自家移植(Auto graft)する方法であり、移植された硝子軟骨とその間隙の線維性軟骨とによる修復が可能であるが、健常部組織へのダメージ及び移植面積の制限が欠点である。
【0007】
また、関節軟骨損傷の他の外科的治療法として、自家培養軟骨移植術が知られている。自家培養軟骨移植術は、Brittbergらにより1994年に報告された方法であり、患者自身の非荷重部の膝関節軟骨から少量の軟骨組織を採取し、分離及び単層培養した軟骨細胞を軟骨損傷部に移植する方法である。
【0008】
関節軟骨損傷のさらに他の外科的治療法として、特許文献1に記載された、ヒト組織工学(Tissue engineering)を利用した治療方法が知られている。この治療方法においては、軟骨細胞、又は幹細胞等の細胞源と足場素材とを組み合わせて関節軟骨損傷部位に移植し、関節軟骨の再生を促す。
【0009】
また、大阪大学医学部附属病院において実施されているヒト幹細胞臨床研究「関節軟骨病変に対する自己滑膜間葉系幹細胞由来三次元人工組織治療法」(2012年1月25日付にて計画認可)は、外傷性膝軟骨損傷患者を対象としている。当該臨床研究は、関節内組織より単離した滑膜幹細胞を培養して、生物学的刺激を与えて立体的な組織片を得た後、軟骨損傷部位へ移植するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2005/012512号パンフレット(2005年2月10日公開)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】整形外科Knack&Pitfalls 膝関節外科の要点と盲点、黒坂昌弘、2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述のような従来の間葉系幹細胞を利用した関節軟骨損傷の治療方法には、以下に示すような問題がある。
【0013】
すなわち、非特許文献1に記載の骨穿孔法について、最近の報告では、治療部位の軟骨組織が経時的に硝子軟骨から線維軟骨に置換され、組織が損傷を受けやすくなること、及び、治療後2年程度は臨床症状の改善が良好であるが、5年以上経過すると疼痛が再発し、患者の活動性が低下することが明らかとなっており、長期間における治療効果は期待しがたい。また、非特許文献1の骨穿孔法では、軟骨組織に血液を流入させるために穴をあけた骨は修復されない。
【0014】
また、非特許文献1の自家骨軟骨柱移植術は、健常部の軟骨組織を犠牲にしなければならず、中高齢の患者を対象とした場合、加齢に伴い健康な軟骨の範囲が少なくなるため、軟骨損傷治療に必要な量の軟骨組織を採取できないという問題がある。また、非特許文献1の自家骨軟骨柱移植術では、患者から取得した移植片が新鮮な場合には、移植片の生物活性が保持されているが、移植片を凍結した場合には生物活性が失われてしまう。したがって、移植毎に新鮮な移植片を患者から取得する必要があり、患者の負担が増大する。
【0015】
自家培養軟骨移植術は、骨穿孔法及び自家骨軟骨柱移植術における上記問題を解決し得る治療法であるが、以前は日本で保険診療として認められていなかった。しかしながら、2012年7月に、患者自身の軟骨組織から分離した軟骨細胞をアテロコラーゲンゲルに包埋して培養した自家培養軟骨であるジャック(登録商標)が日本において承認された。また、同様に、米国では、Carticel(登録商標)が1997年8月に、ヨーロッパでは、ChondroCelect(登録商標)が2009年10月に、承認されている。したがって、自家培養軟骨移植術は、外傷性軟骨欠損症に対する新たな治療法として注目されるが、その適応範囲には他に治療法がなく、かつ、軟骨欠損面積が4cm以上の軟骨欠損部位を適応範囲としているため、適応範囲が非常に限定的である。
【0016】
また、特許文献1の治療方法では、関節軟骨の再生に時間がかかり、さらに、繰り返し移植を行う必要がある。
【0017】
さらに、関節軟骨病変に対する自己滑膜間葉系幹細胞由来三次元人工組織治療法では、自家由来の間葉系幹細胞を血清含有培地で培養して用いるため、患者から細胞を取得する必要があり、患者の負担が増大する上に、後述するように血清による細胞汚染等のリスクがある。
【0018】
間葉系幹細胞等の細胞を関節軟骨損傷治療に用いる場合、投与する前に細胞を培養するが、この時の培地としては、現在、動物血清(通常10〜15%ウシ胎仔血清)が添加された培地が広く用いられている。この血清は、生体外での細胞の成長及び/又は増殖を促進するための栄養源、又はホルモン等の生理活性物質の供給源として用いられている。
【0019】
しかしながら、血清は、非常に高価であり、また天然製品であるがゆえにロット毎に成分の差が生じる。そのため、細胞増殖効果にばらつきが生じやすい。また、培養後の細胞から血清由来のタンパク質等を除去するために精製する必要があり、作業が煩雑になる。さらに、血清中に混入している未知の病原体(ウイルス、及び病原性プリオン等)により培養細胞が汚染される危険性がある。
【0020】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、好適に軟骨を再生させることが可能な、無血清培養した間葉系幹細胞を含む軟骨損傷治療剤及びその製造方法を提供すること、さらには、当該製造方法に用いられる培地用添加剤、培養培地及びキット、並びにこれらを用いた培養方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係る軟骨損傷治療剤の製造方法は、FGF、PDGF、TGF−β、HGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び、少なくとも1つの脂肪酸を含有する無血清培地Aにおいて、間葉系幹細胞を増殖させる増殖工程と、上記増殖工程後の間葉系幹細胞、等張保存剤、及び、細胞保護剤を混合する混合工程とを包含することを特徴としている。
【0022】
本発明に係る軟骨損傷治療剤は、FGF、PDGF、TGF−β、HGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び、少なくとも1つの脂肪酸を含有する無血清培地Aにおいて培養された間葉系幹細胞と、等張保存剤と、細胞保護剤とを含有していることを特徴としている。
【0023】
本発明に係る培養培地は、軟骨損傷治療剤を製造するための無血清の培養培地であり、本発明に係る培地用添加剤を含有していることを特徴としている。
【0024】
本発明に係る培養方法は、軟骨損傷治療剤を製造するための培養方法であり、本発明に係る培養培地において間葉系幹細胞を培養する工程を包含することを特徴としている。
【0025】
本発明に係るキットは、本発明に係る培地用添加剤を少なくとも備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る軟骨損傷治療剤の製造方法は、FGF、PDGF、TGF−β、HGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び、少なくとも1つの脂肪酸を含有する無血清培地Aにおいて、間葉系幹細胞を増殖させる増殖工程と、上記増殖工程後の間葉系幹細胞、等張保存剤、及び、細胞保護剤を混合する混合工程とを包含しているので、無血清培養した間葉系幹細胞を含み、軟骨損傷部位を好適に再生させることが可能な軟骨損傷治療剤を製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明のメカニズムを説明する模式図である。
図2】正常軟骨の染色像の顕微鏡画像を示す図である。(a)はヘマトキシリン・エオシン染色像、(b)はトルイジンブルー染色像、(c)はサフラニンO染色像をそれぞれ示す。
図3】MSC 5×10個及び乳酸リンゲル 1mLを含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に単回投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像を示す図である。(a)は肉眼画像、(b)はヘマトキシリン・エオシン染色像、(c)はトルイジンブルー染色像、(d)はサフラニンO染色像をそれぞれ示す。
図4】MSC 5×10個、乳酸リンゲル 990μL、及び、ヒアルロン酸1% 10μL(ヒアルロン酸濃度 0.01%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に単回投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像を示す図である。(a)は肉眼画像、(b)はヘマトキシリン・エオシン染色像、(c)はトルイジンブルー染色像、(d)はサフラニンO染色像をそれぞれ示す。
図5】MSC 5×10個、乳酸リンゲル 900μL、及び、ヒアルロン酸1% 100μL(ヒアルロン酸濃度 0.1%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に単回投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像を示す図である。(a)は肉眼画像、(b)はヘマトキシリン・エオシン染色像、(c)はトルイジンブルー染色像、(d)はサフラニンO染色像をそれぞれ示す。
図6】MSC 5×10個、乳酸リンゲル 500μL、及び、ヒアルロン酸1% 500μL(ヒアルロン酸濃度 0.5%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に単回投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像を示す図である。(a)は肉眼画像、(b)はヘマトキシリン・エオシン染色像、(c)はトルイジンブルー染色像、(d)はサフラニンO染色像をそれぞれ示す。
図7】MSC 5×10個及び乳酸リンゲル 1mLを含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に単回投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像を示す図である。(a)は肉眼画像、(b)はヘマトキシリン・エオシン染色像、(c)はトルイジンブルー染色像、(d)はサフラニンO染色像をそれぞれ示す。
図8】MSC 5×10個、乳酸リンゲル 990μL、及び、ヒアルロン酸1% 10μL(ヒアルロン酸濃度 0.01%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に単回投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像を示す図である。(a)は肉眼画像、(b)はヘマトキシリン・エオシン染色像、(c)はトルイジンブルー染色像、(d)はサフラニンO染色像をそれぞれ示す。
図9】MSC 5×10個、乳酸リンゲル 900μL、及び、ヒアルロン酸1% 100μL(ヒアルロン酸濃度 0.1%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に単回投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像を示す図である。(a)は肉眼画像、(b)はヘマトキシリン・エオシン染色像、(c)はトルイジンブルー染色像、(d)はサフラニンO染色像をそれぞれ示す。
図10】MSC 5×10個、乳酸リンゲル 500μL、及び、ヒアルロン酸1% 500μL(ヒアルロン酸濃度 0.5%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に単回投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像を示す図である。(a)は肉眼画像、(b)はヘマトキシリン・エオシン染色像、(c)はトルイジンブルー染色像、(d)はサフラニンO染色像をそれぞれ示す。
図11】MSC 5×10個及び乳酸リンゲル 1mLを含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に単回投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像を示す図である。(a)は肉眼画像であり、(b)はヘマトキシリン・エオシン染色像、(c)はトルイジンブルー染色像、(d)はサフラニンO染色像をそれぞれ示す。
図12】MSC 5×10個、乳酸リンゲル 500μL、及び、ヒアルロン酸1% 500μL(ヒアルロン酸濃度 0.5%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に単回投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像を示す図である。(a)は肉眼画像、(b)はヘマトキシリン・エオシン染色像、(c)はトルイジンブルー染色像、(d)はサフラニンO染色像をそれぞれ示す。
図13】乳酸リンゲル1mLのみを含む投与液を軟骨半層欠損部位に単回投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像を示す図である。(a)は肉眼画像、(b)はヘマトキシリン・エオシン染色像、(c)はトルイジンブルー染色像、(d)はサフラニンO染色像をそれぞれ示す。
図14】乳酸リンゲル 500μL及びヒアルロン酸1% 500μL(ヒアルロン酸濃度 0.5%)を含む投与液を軟骨半層欠損部位に単回投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像を示す図である。(a)は肉眼画像、(b)はヘマトキシリン・エオシン染色像、(c)はトルイジンブルー染色像、(d)はサフラニンO染色像をそれぞれ示す。
図15】MSC 5×10個、乳酸リンゲル 990μL、及び、ヒアルロン酸1% 10μL(ヒアルロン酸濃度 0.01%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に単回投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像を示す図である。(a)は肉眼画像、(b)はヘマトキシリン・エオシン染色像、(c)はtypeIIコラーゲン染色像、(d)はサフラニンO染色像をそれぞれ示す。
図16】MSC 5×10個、乳酸リンゲル 900μL、及び、ヒアルロン酸1% 100μL(ヒアルロン酸濃度 0.1%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に単回投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像を示す図である。(a)は肉眼画像、(b)はヘマトキシリン・エオシン染色像、(c)はtypeIIコラーゲン染色像、(d)はサフラニンO染色像、(e)はトルイジンブルー染色像をそれぞれ示す。
図17】細胞投与液を単回投与した関節内の健常な軟骨の顕微鏡画像を示す図である。(a)はヘマトキシリン・エオシン染色像、(b)はトルイジンブルー染色像、(c)はサフラニンO染色像をそれぞれ示す。
図18】細胞投与液を単回投与した関節内の健常な滑膜の顕微鏡画像を示す図である。(a)はヘマトキシリン・エオシン染色像、(b)はトルイジンブルー染色像、(c)はサフラニンO染色像をそれぞれ示す。
図19】最も結果が良かった、MSC 5×10個、乳酸リンゲル 990μL、及び、ヒアルロン酸1% 10μL(ヒアルロン酸濃度 0.01%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に単回投与した個体のtypeIIコラーゲン免疫染色を行った顕微鏡画像(弱拡大)を示す図である。
図20】最も結果が良かった、MSC 5×10個、乳酸リンゲル 990μL、及び、ヒアルロン酸1% 10μL(ヒアルロン酸濃度 0.01%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に単回投与した個体のtypeIIコラーゲン免疫染色を行った顕微鏡画像(強拡大)を示す図である。
図21】軟骨再生が全く得られなかった、乳酸リンゲル1mLのみを含む投与液を軟骨半層欠損部位に単回投与した個体のtypeIIコラーゲン免疫染色を行った顕微鏡画像(弱拡大)を示す図である。
図22】軟骨再生が全く得られなかった、乳酸リンゲル1mLのみを含む投与液を軟骨半層欠損部位に単回投与した個体のtypeIIコラーゲン免疫染色を行った顕微鏡画像(強拡大)を示す図である。
図23】MSC 5×10個、乳酸リンゲル 990μL、及び、ヒアルロン酸1% 10μL(ヒアルロン酸濃度 0.01%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に3回投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像を示す図である。(a)は肉眼画像、(b)はヘマトキシリン・エオシン染色像、(c)はtypeIIコラーゲン染色像、(d)はサフラニンO染色像をそれぞれ示す。
図24】MSC 5×10個、乳酸リンゲル 900μL、及び、ヒアルロン酸1% 100μL(ヒアルロン酸濃度 0.1%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に3回投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像を示す図である。(a)は肉眼画像、(b)はヘマトキシリン・エオシン染色像、(c)はtypeIIコラーゲン染色像、(d)はサフラニンO染色像、(e)はトルイジンブルー染色像をそれぞれ示す。
図25】軟骨分化用培地にて培養したMSCにおける、軟骨特異的遺伝子(type II collagen、aggrecan、及び、sox9)の発現量を示すグラフである。
図26】細胞投与液が投与された関節腔内から採取したMSCにおいて、未分化マーカー遺伝子発現を測定した結果を示す図である。Sは無血清培養した結果、Dは有血清培養した結果、Pは継代数をそれぞれ示す。
図27】MSCを5種類の保存液[乳酸リンゲル液 1mL、乳酸リンゲル 990μL及びヒアルロン酸1% 10μL(ヒアルロン酸濃度 0.01%)を含む溶液、乳酸リンゲル 900μL及びヒアルロン酸1% 100μL(ヒアルロン酸濃度 0.1%)を含む溶液、乳酸リンゲル 500μL及びヒアルロン酸1% 500μL(ヒアルロン酸濃度 0.5%)を含む溶液、並びに、無血清培地(STK2培地)]中で保存した時の継時的な細胞生存率を示す図である。(a)はMSCが5×10個で37℃のインキュベーター内に保存した時の結果、(b)はMSCが5×10個で4℃の冷蔵条件で保存した時の結果、(c)はMSCが5×10個で4℃の冷蔵条件で保存した時の結果をそれぞれ示す。
図28】MSC 5×10個を3種類の保存液[乳酸リンゲル液 1mL、乳酸リンゲル 990μL及びヒアルロン酸1% 10μL(ヒアルロン酸濃度 0.01%)を含む溶液、並びに、乳酸リンゲル 900μL及びヒアルロン酸1% 100μL(ヒアルロン酸濃度 0.1%)を含む溶液]中で37℃のインキュベーター内に24時間保存した時の細胞生存率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔1.軟骨損傷治療剤の製造方法〕
本発明は、間葉系幹細胞を含む軟骨損傷治療剤の製造方法を提供する。本発明に係る軟骨損傷治療剤の製造方法は、FGF、PDGF、TGF−β、HGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び、少なくとも1つの脂肪酸を含有する無血清培地Aにおいて、間葉系幹細胞を増殖させる増殖工程と、上記増殖工程後の間葉系幹細胞、等張保存剤、及び、細胞保護剤を混合する混合工程とを包含する。
【0029】
本明細書中で使用される場合、「無血清培地」とは、血清を含まない培地であることが意図され、「無血清培養」とは、血清を用いない培養であることが意図される。
【0030】
本明細書中において、「軟骨損傷治療剤」は、軟骨損傷治療用材料として再生医療等に用いられる、間葉系幹細胞を製剤化した治療薬である。軟骨損傷治療剤は、軟骨組織再生剤と称することもできる。軟骨損傷治療剤は、間葉系幹細胞を元の状態のまま機能を変化させることなく製剤化したもののみならず、間葉系幹細胞を特定の条件の下で培養及び増殖させることによって分化能等の機能を向上させた細胞を製剤化したものも含む。
【0031】
(増殖工程)
増殖工程においては、間葉系幹細胞を、FGF、PDGF、TGF−β、HGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び、少なくとも1つの脂肪酸を含有する無血清培地Aにおいて培養し、間葉系幹細胞を増殖させる。
【0032】
<間葉系幹細胞>
間葉系幹細胞には、滑膜細胞、脂肪細胞、骨髄、歯槽骨、及び歯根膜等の成人の組織からだけでなく、胎盤、臍帯血、及び胎児の種々の細胞等から単離されるものも含まれる。増殖工程において増殖させる間葉系幹細胞は、滑膜、臍帯、臍帯血、羊膜、骨髄、及び、脂肪からなる群より選択される組織由来であることが好ましい。
【0033】
増殖工程において増殖させる間葉系幹細胞は、製造した軟骨損傷治療剤を投与する患者の自家細胞であることが好ましいが、同種細胞であってもよい。また、増殖工程において増殖させる間葉系幹細胞は、ヒト間葉系幹細胞であってもよいし、マウス、ラット、ネコ、イヌ等の非ヒト動物由来間葉系幹細胞であってもよい。
【0034】
各組織から間葉系幹細胞を単離する方法としては、従来公知の方法を採用することが可能であり、例えば、コラゲナーゼ法によって組織から間葉系幹細胞を好適に分離することができる。
【0035】
<無血清培地A>
増殖工程において用いる無血清培地Aを構成するための基礎培地は、当該分野において周知の動物細胞用培地であれば特に限定されない。好ましい基礎培地としては、例えば、Ham’s F12培地、DMEM培地、RPMI−1640培地、及びMCDB培地等が挙げられる。これらの基礎培地は、単独で使用されてもよいし、複数を混合して使用されてもよい。一実施形態において、無血清培地Aを構成するための基礎培地は、MCDB培地とDMEM培地とを1:1の比率で混合した培地であることが好ましい。
【0036】
一実施形態において、上記の基礎培地に、FGF、PDGF、TGF−β、HGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び少なくとも1つの脂肪酸を添加した無血清培地Aを増殖工程に用いればよい。
【0037】
基礎培地に対するFGFの含有量は、終濃度で、0.1〜100ng/mLであることが好ましく、3ng/mLであることがさらに好ましい。基礎培地に対するPDGFの含有量は、終濃度で、0.5〜100ng/mLであることが好ましく、10ng/mLであることがさらに好ましい。基礎培地に対するTGF−βの含有量は、終濃度で、0.5〜100ng/mLであることが好ましく、10ng/mLであることがさらに好ましい。
【0038】
基礎培地に対するHGFの含有量は、終濃度で、0.1〜50ng/mLであることが好ましく、5ng/mLであることがさらに好ましい。基礎培地に対するEGFの含有量は、終濃度で、0.5〜200ng/mLであることが好ましく、20ng/mLであることがさらに好ましい。基礎培地に対するリン脂質の総含有量は、終濃度で、0.1〜30μg/mLであることが好ましく、10μg/mLであることがさらに好ましい。基礎培地に対する脂肪酸の総含有量は、基礎培地の1/1000〜1/10であることが好ましく、1/100であることがさらに好ましい。
【0039】
このような無血清培地Aを使用することによって、異種タンパク質の混入を防ぎつつ、血清含有培地と同等以上の増殖促進効果が得られ、間葉系幹細胞を所望のとおり増殖させることができる。
【0040】
無血清培地Aが含有しているリン脂質としては、例えば、フォスファチジン酸、リゾフォスファチジン酸、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジルセリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルコリン、及びフォスファチジルグリセロール等が挙げられ、これらのリン脂質を単独で含有してもよいし、組み合わせて含有してもよい。一実施形態において、無血清培地Aは、フォスファチジン酸とフォスファチジルコリンとを組み合わせて含有していてもよく、これらのリン脂質は、動物由来であってもよいし、植物由来であってもよい。
【0041】
無血清培地Aが含有している脂肪酸としては、例えば、リノール酸、オレイン酸、リノレイン酸、アラキドン酸、ミリスチン酸、パルミトレイン酸、パルミチン酸、及びステアリン酸等が挙げられ、これらの脂肪酸を単独で含有してもよいし、組み合わせて含有してもよい。また、一実施形態において、無血清培地Aは、上記脂肪酸以外にさらにコレステロールを含有していてもよい。
【0042】
本明細書中で使用される場合、FGFは、線維芽細胞増殖因子(FGF:fibroblast growth factor)ファミリーから選択される増殖因子が意図され、FGF−2(bFGF)であることが好ましいが、FGF−1など他のFGFファミリーから選択されてもよい。
【0043】
また、本明細書中で使用される場合、PDGFは、血小板由来増殖因子(PDGF:platelet derived growth factor)ファミリーから選択される増殖因子が意図され、PDGF−BB又はPDGF−ABであることが好ましい。
【0044】
さらに、本明細書中で使用される場合、TGF−βは、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β:transforming growth factor−β)ファミリーから選択される増殖因子が意図され、TGF−β3であることが好ましいが、他のTGF−βファミリーから選択されてもよい。
【0045】
本明細書中で使用される場合、HGFは、肝細胞増殖因子(HGF:hepatocyte growth factor)ファミリーから選択される増殖因子が意図される。本明細書中で使用される場合、EGFは、上皮増殖因子(EGF:epidermal growth factor)ファミリーから選択される増殖因子が意図される。
【0046】
また、一実施形態において、無血清培地Aは、結合組織増殖因子(CTGF:connective tissue growth factor)、血管内皮増殖因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)及びアスコルビン酸化合物からなる群より選択される少なくとも2つの因子をさらに含有していてもよい。
【0047】
本明細書中で使用される場合、アスコルビン酸化合物は、アスコルビン酸(ビタミンC)若しくはアスコルビン酸2リン酸、又はこれらに類似する化合物が意図される。
【0048】
なお、無血清培地Aに含有されている上述した増殖因子は、天然のものであってもよいし、遺伝子組換えによって製造されたものであってもよい。
【0049】
一実施形態において、無血清培地Aは、脂質酸化防止剤を含有していることが好ましい。一実施形態において、無血清培地Aに含有される脂質酸化防止剤は、DL−α−トコフェロールアセテート(ビタミンE)であり得る。無血清培地Aはまた、界面活性剤をさらに含有していてもよい。一実施形態において、無血清培地Aに含有される界面活性剤は、Pluronic F−68又はTween 80であり得る。
【0050】
無血清培地Aは、インスリン、トランスフェリン及びセレネートをさらに含有していてもよい。本明細書中で使用される場合、インスリンは、インスリン様増殖因子であってもよく、天然の細胞由来であってもよいし、遺伝子組換えによって製造されたものでもよい。無血清培地Aは、さらに、デキサメタゾン、あるいは他のグルココルチコイドを含有していてもよい。
【0051】
増殖工程においては、上述した無血清培地Aに、ヒト等の動物組織又は細胞から従来公知の方法により単離された間葉系幹細胞を播種し、所望の数に増殖するまで培養する。培養条件として、培地1mLに対して1〜2×10個の間葉系幹細胞を播種することが好ましく、培養温度は37℃±1℃、培養時間は48〜96時間、かつ5%CO下であることが好ましい。このような条件で培養することによって、分化能を維持した間葉系幹細胞を効率よく大量に得ることができる。
【0052】
増殖工程において、培養に用いる培養容器は、間葉系幹細胞が増殖し得るものであれば特に限定されない。例えば、ファルコン製75cmフラスコ、又は住友ベークライト製75cmフラスコ等を好適に用いることができる。但し、細胞によっては、用いる培養容器の種類によって細胞の増殖が影響を受ける場合がある。このため、間葉系幹細胞をより効率よく増殖させるために、増殖工程において増殖させる対象となる間葉系幹細胞(以下、「増殖対象細胞」ともいう)毎に、増殖に適した培養容器を用いて増殖工程を行うことが好ましい。
【0053】
増殖対象細胞の増殖に適した培養容器の選択方法としては、例えば、最適な培養容器を増殖対象細胞に選択させる方法を挙げることができる。具体的に説明すると、複数種類の培養容器を準備し、培養容器の種類が異なる以外は同一の培養条件で増殖対象細胞を増殖させ、培養開始から2週間後の細胞数を公知の方法によって計測し、細胞数が多いものから順に増殖対象細胞の増殖に適した培養容器であると判断することができる。また、増殖対象細胞の増殖速度が速い場合は、培養開始から2週間経過する前であっても、コンフルエント状態の80〜90%の細胞数に達する期間が短いものから順に増殖対象細胞の増殖に適した培養容器であると判断することができる。
【0054】
なお、間葉系幹細胞の増殖には、細胞が培養容器に接着することが必須条件であるので、培養容器に対する増殖対象細胞の接着が弱い場合は、増殖工程において、上記無血清培地Aに、細胞接着分子をさらに含有させることが好ましい。細胞接着分子としては、例えば、フィブロネクチン、コラーゲン、及びゼラチン等を挙げることができる。これらの細胞接着分子は、一種類を単独で用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
無血清培地Aに対する細胞接着分子の含有量は、終濃度で、1〜50μg/mLであることが好ましく、5μg/mLであることがさらに好ましい。一実施形態において、細胞接着分子としてフィブロネクチン用いる場合は、無血清培地Aに対するフィブロネクチンの終濃度が5μg/mLとなるように添加することによって、培養容器に対する増殖対象細胞の接着効率を向上させることができる。
【0056】
あるいは、上記細胞接着分子がコーティングされている培養容器を用いて増殖対象細胞を増殖させてもよい。
【0057】
また、増殖工程では、間葉系幹細胞を少なくとも1回継代してもよい。間葉系幹細胞は足場依存的に増殖するので、間葉系幹細胞が局所的に偏って増殖している等の場合に、増殖工程の途中で間葉系幹細胞を継代することによって培養条件を改善することができる。
【0058】
間葉系幹細胞の継代方法としては特に限定されず、従来公知の間葉系幹細胞の継代方法を用いて継代することできる。継代後の間葉系幹細胞の状態が良好であることから、上記増殖工程では、継代を行う場合に哺乳類及び微生物由来の成分を含有していない細胞剥離剤を用いて上記間葉系幹細胞を剥離することが好ましい。哺乳類及び微生物由来の成分を含有していない細胞剥離剤としては、例えば、Accutase(登録商標)(Innovative Cell Technologies,Inc.)、及びTrypLE(登録商標)Select (1X)(Life Technologies Corporation)等が挙げられる。
【0059】
ここで、哺乳類及び微生物由来の成分を含有していない細胞剥離剤としてAccutaseを用いる場合の継代方法の一例を説明する。(i)〜(vi)の手順によって間葉系幹細胞を剥離し、継代する。なお、以下に説明する継代方法では、培養容器としてT−25フラスコ(ファルコン製)を用いたと仮定する。
(i)細胞層をPBS(−)5mLを用いて洗浄する。
(ii) Accutaseを2mL添加する。
(iii)室温にて2分程度静置し、細胞の剥離を確認のうえ遠心管に細胞浮遊液を移す。
(iv)培養容器にPBS(−)を7mL添加し、フラスコ底面をリンスする。
(v)上記(iii)の遠心管に上記(iv)の溶液を移し、1500rpm(200×g)で5分間遠心する。
(vi)上清を除き、5,000個/cmの播種濃度にて、無血清培地Aを用いて播種する。
【0060】
なお、増殖工程には、ヒト等の動物組織から採取してから継代1回目(P1)以降の間葉系幹細胞を供することが好ましい。
【0061】
また、増殖工程においては、分化能を維持したまま間葉系幹細胞を増殖させることが好ましい。すなわち、増殖工程においては、未分化であり、かつ、脂肪細胞、骨細胞、及び軟骨細胞等に分化する分化能を有する間葉系幹細胞を無血清培地Aにおいて培養し、培養後の間葉系幹細胞も未分化であり、かつ、分化能を有している。これにより、分化能を有する間葉系幹細胞を含む軟骨損傷治療剤を製造することが可能であり、この軟骨損傷治療剤を軟骨損傷部位に投与することによって、軟骨損傷部位に分化能を維持した間葉系幹細胞を投与することができる。
【0062】
なお、間葉系幹細胞が分化能を有しているか否かは、増殖させた間葉系幹細胞を、骨分化用培地、脂肪分化用培地、及び軟骨分化用培地等の培地において培養し、それぞれ骨芽細胞、脂肪細胞、及び軟骨細胞等に分化誘導させているか否かを評価することによって確認することができる。また、増殖させた間葉系幹細胞を各種CD抗体と反応させ、フローサイトメーターで蛍光強度を測定することにより表面抗原発現を評価する方法、又は増殖させた間葉系幹細胞において未分化マーカー遺伝子(nanog、sox2、oct3/4)と内在性コントロール遺伝子(Gapdh)を測定することにより未分化マーカー遺伝子発現を評価する方法等によっても、間葉系幹細胞が分化能を有しているか否かを確認することができる。
【0063】
(混合工程)
混合工程においては、上記増殖工程後の間葉系幹細胞、等張保存剤、及び、細胞保護剤を混合し、細胞投与液を調製する。この細胞投与液が軟骨損傷治療剤である。
【0064】
混合工程において混合する間葉系幹細胞は、増殖工程において増殖した間葉系幹細胞であり、従来公知の方法により培地から剥離した間葉系幹細胞である。培地から間葉系幹細胞を剥離する方法としては、上述した、哺乳類及び微生物由来の成分を含有していない、Accutase等の細胞剥離剤を用いる方法が挙げられる。
【0065】
また、混合工程において混合する間葉系幹細胞は、増殖工程において増殖させた後、凍結保存(例えば、−80℃)した間葉系幹細胞を融解させたものであってもよい。凍結保存した間葉系幹細胞を用いる場合には、事前にその増殖能を確認し、融解させた後に無血清培地Aによりプレコンフルエントの状態になるまで培養し、1回継代してから用いてもよい。また、凍結保存した間葉系幹細胞を用いる場合には、分化能を有することを事前に確認することが好ましい。
【0066】
混合工程において、細胞投与液(すなわち、軟骨損傷治療剤)における間葉系幹細胞が、1×10個/mL以上、1×10個/mL以下になるように混合することが好ましく、1×10個/mL以上、5×10個/mL以下になるように混合することがより好ましく、5×10個/mL以上、5×10個/mL以下になるように混合することがさらに好ましく、5×10個/mLになるように混合することが最も好ましい。間葉系幹細胞数が上記範囲内になるように混合することによって、製造した軟骨損傷治療剤を軟骨損傷部位に投与したときに、好適に軟骨の再生を促すことができる。
【0067】
<等張保存剤>
混合工程において混合する等張保存剤としては、例えば、乳酸リンゲル液が挙げられるが、これに限定されない。乳酸リンゲル液としては、商業的に入手可能なものを使用可能であり、例えば、乳酸リンゲル ソルラクト輸液(テルモ社製)を好適に使用することができる。等張保存剤は、一種類を単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
<細胞保護剤>
混合工程において混合する細胞保護剤としては、例えば、ヒアルロン酸が挙げられるが、これに限定されない。細胞保護剤として使用するヒアルロン酸の平均分子量は、1500000以上、3900000以下であることが好ましい。細胞保護剤は、一種類を単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
混合工程において、細胞投与液(すなわち、軟骨損傷治療剤)における細胞保護剤の濃度が、0%より多く、0.5%以下になるように混合することが好ましく、0.005%以上、0.1%以下になるように混合することがより好ましく、0.01%以上、0.1%以下になるように混合することがさらに好ましく、0.01%になるように混合することが最も好ましい。
【0070】
したがって、混合工程において混合する等張保存剤及び細胞保護剤の量は、混合する前の細胞保護剤の濃度により決定される。すなわち、混合工程において、間葉系幹細胞、等張保存剤、及び、細胞保護剤を混合して調製される細胞投与液の量が、例えば、1mLであり、混合前の細胞保護剤の濃度が1%であるとき、細胞投与液中の細胞保護剤の濃度を0.1%にするために、細胞保護剤 100μL及び等張保存剤 900μLを混合する。また、細胞投与液の量が、例えば1mLであり、混合前の細胞保護剤の濃度が1%であるとき、細胞投与液中の細胞保護剤の濃度を0.01%にするために、混合工程においては細胞保護剤 10μL及び等張保存剤 990μLを混合する。
【0071】
本発明者らは、細胞保護剤を高濃度で含む場合よりも、上述したように、細胞保護剤を低濃度で含む場合の方が、軟骨損傷治療剤の軟骨再生能が優れていることを見出した。すなわち、細胞保護剤の濃度を上記範囲内で混合することによって、間葉系幹細胞の機能低下を防ぎ、より好適に軟骨の再生を促すことができる。
【0072】
また、本発明者らは、調製した細胞投与液における細胞保護剤の濃度が0.01%以上、0.1%以下である場合、当該細胞投与液の保存に伴う間葉系幹細胞の生存率の低下が抑制されることを見出している。すなわち、細胞保護剤の濃度を上記範囲内となるように混合することによって、より長期的な保存に耐え得る軟骨損傷治療剤を提供することができる。
【0073】
混合工程においては、軟骨損傷治療剤の軟骨再生機能を変化させない限り、他の成分を混合してもよい。
【0074】
混合工程において調製した細胞投与液は、軟骨損傷部位に投与するまで一定期間、例えば4〜37℃で保存されてもよい。保存する場合には、冷蔵保存(4℃)することがより好ましい。細胞保護剤の濃度が0.01%以上、0.1%以下である場合、4℃において1か月以上保存しても、60%以上の細胞生存率を維持し得る。また、当該濃度である場合、37℃において保存しても、24時間で70%以上の細胞生存率を維持し得る。一定期間保存した場合には、投与前に間葉系幹細胞が分化能を有していることを確認することが好ましい。
【0075】
(前増殖工程)
本発明に係る製造方法においては、上記増殖工程の前に、間葉系幹細胞を、FGF、PDGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び、少なくとも1つの脂肪酸を含有する無血清培地Bにおいて培養し、間葉系幹細胞を増殖させる前増殖工程をさらに行ってもよい。
【0076】
<無血清培地B>
無血清培地Bは、HGF及びTGF−βを含有していない点で、上記「増殖工程」の項で説明した無血清培地Aとは異なる。HGF及びTGF−β以外の成分(FGF、PDGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び少なくとも1つの脂肪酸)並びに基礎培地については、上記「増殖工程」の項で無血清培地Aに関して説明したとおりであるので、ここでは説明を省略する。
【0077】
また、一実施形態において、無血清培地Bは、無血清培地Aと同様、脂質酸化防止剤を含有していることが好ましい。また、無血清培地Bは、界面活性剤をさらに含有していてもよい。また、無血清培地Bは、インスリン、トランスフェリン及びセレネートをさらに含有していてもよい。また、無血清培地Bは、さらに、デキサメタゾン、あるいは他のグルココルチコイドを含有していてもよい。これらの成分についても、上記「増殖工程」の項で無血清培地Aに関して説明したとおりであるので、ここでは説明を省略する。
【0078】
なお、無血清培地Bに含有されている上記成分の含有量は、上記「増殖工程」の項で無血清培地Aに関して説明した含有量の範囲内であれば、無血清培地Aに含有されている各成分の含有量と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0079】
前増殖工程においては、上述した無血清培地Bに、ヒト等の動物組織から従来公知の方法により単離された間葉系幹細胞を播種し、所望の数に増殖するまで培養する。培養条件として、培地1mLに対して1〜500mgの組織片(MSCを含む)を分離し、間葉系幹細胞を播種することが好ましく、培養温度は37℃±1℃、培養時間は3〜14日間、かつ5%CO下であることが好ましい。
【0080】
前増殖工程に供される間葉系幹細胞に特に制限はないが、初期の間葉系幹細胞、すなわち、ヒト等の動物組織から採取してから一度も継代培養を経ていない細胞であることが好ましい。後述する実施例に示すように、増殖工程に供する前に無血清培地Bにおいて初期の間葉系幹細胞を予め増殖させることによって、増殖工程において得られる間葉系幹細胞の数を極めて顕著に増幅させることが可能となる。
【0081】
一実施形態において、前増殖工程における間葉系幹細胞の培養方法としては、例えば、2×10個/cmの播種濃度にて無血清培地Bにおいて間葉系幹細胞を播種し、その後1週間程度は、播種時培養液量の10%の無血清培地Bを2日毎に追加して添加し、細胞数がコンフルエント状態の70〜80%となるまで細胞を増殖させる。このように無血清培地Bにおいて予め培養した間葉系幹細胞を増殖工程に供することによって、分化能を維持した間葉系幹細胞を効率よく大量に得ることができる。
【0082】
また、前増殖工程において間葉系幹細胞をより効率よく増殖させるために、前増殖工程において増殖させる対象となる間葉系幹細胞(以下、「前増殖対象細胞」ともいう)毎に、増殖に適した培養容器を用いて前増殖工程を行うことが好ましい。前増殖対象細胞の増殖に適した培養容器の選択方法としては、上記「増殖工程」の項で説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。
【0083】
また、増殖工程と同様に、前増殖工程では、培養容器に対する前増殖対象細胞の接着が弱い場合に、上記無血清培地Bに、細胞接着分子をさらに含有させてもよい。上記細胞接着分子については、上記「増殖工程」の項で説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。
【0084】
また、増殖工程と同様に、前増殖工程では、間葉系幹細胞を少なくとも1回継代してもよい。前増殖工程の途中で間葉系幹細胞を継代することによって培養条件を改善することができる。なお、前増殖工程は、初代培養(P0)〜継代3回目(P3)までの期間行うことが好ましい。前増殖工程の途中で間葉系幹細胞を継代する方法及び前増殖工程後の細胞を増殖工程に供する際の継代方法については、上記「増殖工程」の項で説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。
【0085】
なお、前増殖工程においては、間葉系幹細胞の接着又は増殖が悪い場合に、培養途中で培地中に1%の自己血清又は同種血清を添加してもよい。また、前増殖工程においては、培地中に抗生物質を1%添加し、徐々にその濃度を低くしていくように培養してもよい。
【0086】
上述したように、本発明に係る製造方法によれば、無血清培地であっても血清含有培地において培養した場合と同等又はそれ以上の速度で、間葉系幹細胞を増殖させることが可能である上に、増殖させた間葉系幹細胞が分化能を維持している。したがって、このような間葉系幹細胞を含む軟骨損傷治療剤を患者に投与した場合、間葉系幹細胞による優れた移植治療が実現できるのみならず、安定した治療を実現し得る。また、血清を用いて製造した従来の細胞製剤と比較して、血清のロット差を考慮する必要がなく、移植治療において安定した治癒率を実現できる。
【0087】
〔2.軟骨損傷治療剤〕
本発明は、間葉系幹細胞を含む軟骨損傷治療剤を提供する。本発明に係る軟骨損傷治療剤は、FGF、PDGF、TGF−β、HGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び、少なくとも1つの脂肪酸を含有する無血清培地Aにおいて培養された間葉系幹細胞と、等張保存剤と、細胞保護剤とを含有している。
【0088】
(間葉系幹細胞)
軟骨損傷治療剤に含まれる間葉系幹細胞には、滑膜細胞、脂肪細胞、骨髄、歯槽骨、及び歯根膜等の成人の組織からだけでなく、胎盤、臍帯、臍帯血、及び胎児の種々の細胞等から単離されるものも含まれる。増殖工程において増殖させる間葉系幹細胞は、滑膜、臍帯、臍帯血、羊膜、骨髄、及び、脂肪からなる群より選択される組織由来であることが好ましい。
【0089】
軟骨損傷治療剤に含まれる間葉系幹細胞は、軟骨損傷治療剤を投与する患者の自家細胞であることが好ましいが、同種細胞であってもよい。また、間葉系幹細胞は、ヒト間葉系幹細胞であってもよいし、マウス、ラット、ネコ、イヌ等の非ヒト動物由来間葉系幹細胞であってもよい。
【0090】
各組織から間葉系幹細胞を単離する方法としては、従来公知の方法を採用することが可能であり、例えば、コラゲナーゼ法によって組織から間葉系幹細胞を好適に分離することができる。
【0091】
軟骨損傷治療剤に含まれる間葉系幹細胞は、上述した無血清培地Aにおいて培養して増殖させた間葉系幹細胞である。すなわち、軟骨損傷治療剤に含まれる間葉系幹細胞は、上述した軟骨損傷治療剤の製造方法における増殖工程において増殖した間葉系幹細胞であることができる。また、軟骨損傷治療剤に含まれる間葉系幹細胞は、上述した無血清培地Bにおいて培養して増殖させた後、さらに無血清培地Aにおいて培養して増殖させた間葉系幹細胞であってもよい。すなわち、軟骨損傷治療剤に含まれる間葉系幹細胞は、上述した軟骨損傷治療剤の製造方法における前増殖工程において増殖した後に、増殖工程において増殖した間葉系幹細胞であってもよい。
【0092】
また、軟骨損傷治療剤に含まれる間葉系幹細胞は、無血清培地Aにおいて培養した後、細胞剥離剤を用いて培地から剥離し、凍結保存(例えば、−80℃)した後に融解させたものであってもよい。そして、軟骨損傷治療剤に含まれる間葉系幹細胞は、融解させた後に無血清培地Aによりプレコンフルエント状態になるまで培養し、1回継代したものであってもよい。
【0093】
軟骨損傷治療剤に含まれる間葉系幹細胞の細胞数は、1×10個/mL以上、1×10個/mL以下であることが好ましく、1×10個/mL以上、5×10個/mL以下であることがより好ましく、5×10個/mL以上、5×10個/mL以下であることがさらに好ましく、5×10個/mLであることが最も好ましい。間葉系幹細胞数を上記範囲内で含有していることによって、軟骨損傷治療剤を軟骨損傷部位に投与したときに、好適に軟骨の再生を促すことができる。
【0094】
軟骨損傷治療剤に含まれる間葉系幹細胞は、分化能を維持していることが好ましい。すなわち、軟骨損傷治療剤に含まれる間葉系幹細胞は、未分化であり、かつ、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞等に分化する分化能を有している。このような軟骨損傷治療剤を軟骨損傷部位に投与することによって、軟骨損傷部位に分化能を維持した間葉系幹細胞を投与することができる。
【0095】
(等張保存剤)
軟骨損傷治療剤に含まれる等張保存剤としては、例えば、乳酸リンゲル液が挙げられるが、これに限定されない。乳酸リンゲル液としては、商業的に入手可能なものを使用可能であり、例えば、乳酸リンゲル ソルラクト輸液(テルモ社製)を好適に使用することができる。軟骨損傷治療剤は、等張保存剤として、一種類を単独で含んでいてもよいし、複数種類を組み合わせて含んでいてもよい。
【0096】
(細胞保護剤)
軟骨損傷治療剤に含まれる細胞保護剤としては、例えば、ヒアルロン酸が挙げられるが、これに限定されない。細胞保護剤として使用するヒアルロン酸の平均分子量は、1500000以上、3900000以下であることが好ましい。軟骨損傷治療剤は、細胞保護剤として、一種類を単独で含んでいてもよいし、複数種類を組み合わせて含んでいてもよい。
【0097】
軟骨損傷治療剤に含まれる細胞保護剤の濃度は、0%より多く、0.5%以下であることが好ましく、0.005%以上、0.1%以下であることがより好ましく、0.01%以上、0.1%以下であることがさらに好ましく、0.01%であることが最も好ましい。
【0098】
軟骨損傷治療剤に含まれる等張保存剤及び細胞保護剤の量は、細胞保護剤の濃度により決定される。すなわち、軟骨損傷治療剤全体の量が、例えば、1mLであり、軟骨損傷治療剤に混合する前の細胞保護剤の濃度が1%であるときに、軟骨損傷治療剤中の細胞保護剤の濃度が0.1%であれば、軟骨損傷治療剤には、細胞保護剤 100μL及び等張保存剤 900μLが含まれる。また、軟骨損傷治療剤全体の量が、例えば1mLであり、軟骨損傷治療剤に混合する前の細胞保護剤の濃度が1%であるときに、軟骨損傷治療剤中の細胞保護剤の濃度が0.01%であれば、軟骨損傷治療剤には、細胞保護剤 10μL及び等張保存剤 990μLが含まれる。
【0099】
本発明者らは、細胞保護剤を高濃度で含む場合よりも、上述したように、細胞保護剤を低濃度で含む場合の方が、軟骨損傷治療剤の軟骨再生能が優れていることを見出した。すなわち、細胞保護剤の濃度を上記範囲内で含むことによって、間葉系幹細胞の機能低下を防ぎ、より好適に軟骨の再生を促すことができる。
【0100】
また、本発明者らは、細胞保護剤の濃度が0.01%以上、0.1%以下である場合、細胞投与液の保存に伴う間葉系幹細胞の生存率の低下が抑制されることを見出している。すなわち、細胞保護剤の濃度を上記範囲内で含むことによって、軟骨損傷治療剤はより長期的な保存に耐え得る。
【0101】
軟骨損傷治療剤は、その軟骨再生機能を変化させない限り、他の成分を含んでいてもよい。
【0102】
(軟骨損傷治療剤の用途)
本発明に係る軟骨損傷治療剤は、軟骨損傷部位に投与して、軟骨を再生するために用いられる。また、軟骨損傷治療剤は、骨を被覆する軟骨が損傷することによって、少なくとも一部の骨が露出している全層損傷部位に投与してもよいが、骨が露出しない程度に軟骨の一部が損傷した一部損傷部位、又は、軟骨の層の約半分を損傷した半層損傷部位に投与することが好ましい。また、軟骨の変性部を除去して、軟骨損傷治療剤を投与することも有効である。
【0103】
軟骨損傷治療剤は、関節軟骨の損傷部位に投与することが可能であり、例えば、膝関節軟骨、足関節軟骨、又は肩関節軟骨等の損傷部位に投与することができる。また、軟骨損傷治療剤は、椎間板の損傷部位又は変性部位に投与して、椎間板の再生及び/又は髄核の変性の改善に用いることもできる。
【0104】
本発明に係る軟骨損傷治療剤は、軟骨損傷部位に、1回あたり、0.5mL以上、10mL以下投与することが好ましく、1mL以上、5mL以下投与することがより好ましく、1mL以上、3mL以下投与することが最も好ましい。これにより、より効果的に軟骨損傷部位の軟骨を再生することができる。
【0105】
また、本発明に係る軟骨損傷治療剤は、治療1箇所あたり、1回以上、10回以下投与することが好ましく、1回以上、5回以下投与することがより好ましく、1回以上、3回以下投与することが最も好ましい。これにより、より効果的に軟骨損傷部位の軟骨を再生することができる。
【0106】
さらに、本発明に係る軟骨損傷治療剤を、治療1箇所あたり複数回投与する場合、投与タイミングとして、3日以上、28日以下毎に投与することが好ましく、3日以上、21日以下毎に投与することがより好ましく、3日以上、7日以下毎に投与することが最も好ましい。これにより、より効果的に軟骨損傷部位の軟骨を再生することができる。
【0107】
また、本発明に係る軟骨損傷治療剤の投与方法としては、軟骨損傷治療剤を注射器等により関節腔内に投与する方法が好ましい。また、軟骨損傷治療剤を関節腔内に適切に投与するために、関節鏡を用いて投与位置を確認しながら、軟骨損傷治療剤を投与してもよい。さらに、軟骨損傷部位を削って損傷個所をクリーニングした後に、軟骨損傷治療剤を投与してもよい。
【0108】
本発明に係る軟骨損傷治療剤によれば、軟骨損傷部位に直接投与することで、軟骨損傷部位における軟骨の再生を促進することができる。本発明者らは、軟骨損傷部位に、無血清培養し、分化能を維持した間葉系幹細胞と、細胞保護剤とを含む軟骨損傷治療剤を投与することによって、本来、間葉系幹細胞の持つ抗炎症作用及び免疫寛容作用に加えて、この間葉系幹細胞の機能が細胞保護剤により十分に保護され、(i)間葉系幹細胞から軟骨再生に寄与するサイトカインを好適に放出させることができること、及び、(ii)間葉系幹細胞が軟骨損傷部位に好適にホーミングすることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0109】
本発明に係る軟骨損傷治療剤に含まれる間葉系幹細胞は、細胞保護剤により好適に保護されているので、図1に示すように、投与された軟骨損傷部位において長期間生存し、軟骨再生に寄与するサイトカインを継続して放出させることが可能であり、かつ、軟骨損傷部位に好適にホーミングする。図1は、本発明のメカニズムを説明する模式図である。
【0110】
そして、軟骨損傷治療剤に含まれる間葉系幹細胞から放出されるサイトカインが、軟骨損傷部位における線維芽細胞、及び血管内皮細胞等の増殖を刺激する。これにより、軟骨損傷部位における血管新生が開始し、繊維芽細胞及び類縁細胞が軟骨損傷部位に集積し、持続的に細胞外マトリックスが新生及び沈着される。また、軟骨損傷部位にホーミングした間葉系幹細胞が接着、増殖及び分化し、軟骨組織を再生する。
【0111】
このように、本発明に係る軟骨損傷治療剤によれば、軟骨損傷治療剤に含まれる間葉系幹細胞自身が、投与された軟骨損傷部位において、軟骨細胞に分化して軟骨組織を再生すると共に、軟骨損傷部位に未分化の状態で長期間生存し、軟骨再生に寄与するサイトカインを放出し続けることによって、軟骨再生を促進する。もちろん、間葉系幹細胞の持つ抗炎症作用及び免疫寛容作用が同種移植を可能としている。
【0112】
また、本発明に係る軟骨損傷治療剤は、等張保存剤を含んでいるので、軟骨損傷治療剤中の間葉系幹細胞の生存率の低下を防ぎ、軟骨損傷治療剤を長期間保存することが可能である。すなわち、本発明に係る軟骨損傷治療剤は、予め調製したものを必要なときに患者に投与することができるので、患者の負担を大幅に低減することができる。
【0113】
このように、本発明に係る軟骨損傷治療剤によれば、軟骨損傷部位に注射器等により投与するのみで軟骨を再生することができるので、損傷した軟骨組織以外の他の組織を不必要に傷つけることがない。
【0114】
また、本発明に係る軟骨損傷治療剤は、自家移植による治療のみならず、自己以外の組織及び細胞を他人に移植する(ドナーとレシピエントとが異なる)他家移植による治療に適用することが可能である。さらに、ヒト組織又はヒト細胞を用いたアロ移植(同種移植)のみならず、ヒト以外の動物組織又は動物細胞を用いたゼノ移植(異種移植)にも好適に使用可能であると言える。したがって、患者自身から細胞を取得しなくてもよいので、患者の負担が軽減すると共に、多数の患者に対してタイムリーに軟骨損傷治療剤を提供可能であり、さらに、一度の手術で治療可能である。
【0115】
さらに、本発明に係る軟骨損傷治療剤によれば、一度の投与で軟骨を再生することもできるので、繰り返し治療する必要がなく、肉体的、精神的及び金銭的な面で、患者の負担が軽減する。さらに、本発明に係る軟骨損傷治療剤によれば、短期間で確実に軟骨を再生させることができる。
【0116】
また、本発明に係る軟骨損傷治療剤は、無血清培養した間葉系幹細胞を含んでいるので、血清中に混入している未知の病原体(ウイルス、及び病原性プリオン等)が患者の体内に投与される危険性がない。また血清は、非常に高価であり、また天然製品であるがゆえにロット毎に成分の差が生じるので、細胞増殖効果にばらつきが生じやすいが、本発明においては血清を使用しないため、このような問題が生じない。さらに、培養後の間葉系幹細胞から血清由来のタンパク質等を除去するために精製を行う必要がないため、作業の効率化が図れる。
【0117】
さらに、本発明に係る軟骨損傷治療剤は、スキャフォールド(足場)フリーであるため、既存の培養軟骨細胞移植術のように健常部の骨膜を採取し、移植部を被覆する必要がない。したがって、骨膜採取に起因する有害事象発現のリスクがない。
【0118】
なお、本発明に係る軟骨損傷治療剤を用いた軟骨損傷治療方法、及び、本発明に係る軟骨損傷治療剤を用いた軟骨組織再生方法についても、本発明の範疇に含まれる。軟骨損傷治療方法及び軟骨組織再生方法は、本発明に係る軟骨損傷治療剤を、患者の上述した投与部位に、上述した投与量、投与回数、及び投与タイミングで投与する投与工程を包含する。
【0119】
〔3.軟骨損傷治療剤を製造するための無血清の培地用添加剤〕
本発明は、間葉系幹細胞を含む軟骨損傷治療剤を製造するための無血清の培地用添加剤を提供する。本発明に係る培地用添加剤は、FGF、PDGF、TGF−β、HGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び少なくとも1つの脂肪酸を含有している。本発明に係る培地用添加剤は、従来公知の基礎培地に添加して、間葉系幹細胞を含む軟骨損傷治療剤を製造するための無血清培地(無血清培地A)として使用することができる。
【0120】
本発明に係る培地用添加剤が含有しているリン脂質としては、例えば、フォスファチジン酸、リゾフォスファチジン酸、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジルセリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルコリン、及びフォスファチジルグリセロール等が挙げられ、本発明に係る培地用添加剤はこれらのリン脂質を単独で含有してもよいし、組み合わせて含有してもよい。一実施形態において、本発明に係る培地用添加剤はフォスファチジン酸とフォスファチジルコリンとを組み合わせて含有している。また、これらのリン脂質は、動物由来であってもよいし、植物由来であってもよい。
【0121】
本発明に係る培地用添加剤が含有している脂肪酸としては、例えば、リノール酸、オレイン酸、リノレイン酸、アラキドン酸、ミリスチン酸、パルミトレイン酸、パルミチン酸、及びステアリン酸等が挙げられ、本発明に係る培地用添加剤はこれらの脂肪酸を単独で含有してもよいし、組み合わせて含有してもよい。また、本発明に係る培地用添加剤は、上記脂肪酸以外にさらにコレステロールを含有していてもよい。
【0122】
本明細書中で使用される場合、FGFは、線維芽細胞増殖因子(FGF:fibroblast growth factor)ファミリーから選択される増殖因子が意図され、FGF−2(bFGF)であることが好ましいが、FGF−1など他のFGFファミリーから選択されてもよい。
【0123】
また、本明細書中で使用される場合、PDGFは、血小板由来増殖因子(PDGF:platelet derived growth factor)ファミリーから選択される増殖因子が意図され、PDGF−BB又はPDGF−ABであることが好ましい。
【0124】
さらに、本明細書中で使用される場合、TGF−βは、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β:transforming growth factor−β)ファミリーから選択される増殖因子が意図され、TGF−β3であることが好ましいが、他のTGF−βファミリーから選択されてもよい。
【0125】
本明細書中で使用される場合、HGFは、肝細胞増殖因子(HGF:hepatocyte growth factor)ファミリーから選択される増殖因子が意図される。本明細書中で使用される場合、EGFは、上皮増殖因子(EGF:epidermal growth factor)ファミリーから選択される増殖因子が意図される。
【0126】
また、一実施形態において、培地用添加剤は、結合組織増殖因子(CTGF:connective tissue growth factor)、血管内皮増殖因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)及びアスコルビン酸化合物からなる群より選択される少なくとも2つの因子をさらに含有していてもよい。
【0127】
本明細書中で使用される場合、アスコルビン酸化合物は、アスコルビン酸(ビタミンC)若しくはアスコルビン酸2リン酸、又はこれらに類似する化合物が意図される。
【0128】
なお、本発明に係る培地用添加剤に含有されている増殖因子は、天然のものであってもよいし、遺伝子組換えによって製造されたものであってもよい。
【0129】
一実施形態において、本発明に係る培地用添加剤は、脂質酸化防止剤を含有していることが好ましい。一実施形態において、本発明に係る培地用添加剤に含有される脂質酸化防止剤は、DL−α−トコフェロールアセテート(ビタミンE)であり得る。本発明に係る培地用添加剤はまた、界面活性剤をさらに含有していてもよい。一実施形態において、本発明に係る培地用添加剤に含有される界面活性剤は、Pluronic F−68又はTween 80であり得る。
【0130】
本発明に係る培地用添加剤は、インスリン、トランスフェリン及びセレネートをさらに含有していてもよい。本明細書中で使用される場合、インスリンは、インスリン様増殖因子であってもよく、天然の細胞由来であってもよいし、遺伝子組換えによって製造されたものでもよい。本発明に係る培地用添加剤はさらに、デキサメタゾン、あるいは他のグルココルチコイドを含有していてもよい。
【0131】
〔4.軟骨損傷治療剤を製造するための無血清の培養培地〕
本発明は、間葉系幹細胞を含む軟骨損傷治療剤を製造するための無血清の培養培地を提供する。本発明に係る培養培地は、FGF、PDGF、TGF−β、HGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び少なくとも1つの脂肪酸を含有している。本発明に係る培養培地は、間葉系幹細胞を含む軟骨損傷治療剤を製造するための無血清培地(無血清培地A)として使用することができる。
【0132】
本発明に係る培養培地は、FGF、PDGF、TGF−β、HGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び少なくとも1つの脂肪酸を含有していればよく、これらの成分は基礎培地に同時に添加されても別々に添加されてもよい。すなわち、本発明に係る培養培地は、上述した培地用添加剤に含有されている成分、又は、後述する培地用添加剤キット中に備えられている成分を含んでいればよいといえる。
【0133】
本発明に係る培養培地を構成するための基礎培地は、当該分野において周知の動物細胞用培地であれば特に限定されない。好ましい基礎培地としては、例えば、Ham’s F12培地、DMEM培地、RPMI−1640培地、及びMCDB培地等が挙げられる。これらの基礎培地は、単独で使用されてもよいし、複数を混合して使用されてもよい。一実施形態において、本発明に係る培養培地を構成するための基礎培地は、MCDB培地とDMEM培地とを1:1の比率で混合した培地であることが好ましい。
【0134】
〔5.軟骨損傷治療剤を製造するための培養方法〕
本発明は、間葉系幹細胞を含む軟骨損傷治療剤を製造するための培養方法を提供する。本発明に係る培養方法は、FGF、PDGF、TGF−β、HGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び少なくとも1つの脂肪酸を含有している無血清培地(無血清培地A)中において間葉系幹細胞を培養する工程(培養工程A)を包含している。本発明に係る培養方法は、間葉系幹細胞を培養する際に、上述した無血清の培養培地を用いればよいといえる。
【0135】
また、本発明に係る培養方法は、上記培養工程Aの前に、FGF、PDGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び少なくとも1つの脂肪酸を含有する無血清培地Bにおいて、間葉系幹細胞を培養する工程(培養工程B)をさらに包含していてもよい。
【0136】
なお、上記培養工程A及び上記培養工程Bは、本発明に係る間葉系幹細胞を含む細胞製剤の製造方法における増殖工程及び前増殖工程にそれぞれ対応している。このため、本明細書における上記「軟骨損傷治療剤の製造方法」の項の増殖工程及び前増殖工程についての説明を、それぞれ、培養工程A及び培養工程Bについての説明として読み替えることができる。
【0137】
一実施形態において、本発明に係る培養方法は、FGF、PDGF、TGF−β、HGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び少なくとも1つの脂肪酸を、基礎培地に同時に添加する工程を包含してもよい。また、一実施形態において、本発明に係る培養方法は、FGF、PDGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び少なくとも1つの脂肪酸を、基礎培地に同時に添加する工程を包含してもよい。上記基礎培地は、上述したように当該分野において周知の動物細胞用培地であれば特に限定されない。
【0138】
〔6.軟骨損傷治療剤を製造するためのキット〕
本発明は、間葉系幹細胞を含む軟骨損傷治療剤を製造するためのキットを提供する。本発明に係るキットは、FGF、PDGF、TGF−β、HGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び少なくとも1つの脂肪酸を含有している。
【0139】
本発明に係るキットは、FGF、PDGF、TGF−β、HGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び少なくとも1つの脂肪酸を同一容器内に備えていても、これらの成分を別々に備えていてもよい。また、本発明に係るキットは、細胞接着分子をさらに含有していてもよい。上記細胞接着分子については、本明細書における上記「軟骨損傷治療剤の製造方法」の項の増殖工程において説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。
【0140】
本発明に係るキットは、従来公知の基礎培地に添加して、間葉系幹細胞を含む軟骨損傷治療剤を製造するための無血清培地(無血清培地A)として使用することができる。
【0141】
本明細書中で使用される場合、「組成物」は各主成分が一物質中に含有されている形態であり、「キット」は各主成分の少なくとも1つが別物質中に含有されている形態であることが意図される。よって、本発明に係るキットに備えられている増殖因子、リン脂質及び脂肪酸は、培地用添加剤について上述したものと同一であることが容易に理解される。
【0142】
また、本発明に係るキットは、間葉系幹細胞を含む軟骨損傷治療剤を製造するためのキットであって、本発明にかかる培地用添加剤(培地用添加剤A)を少なくとも備えている。また、本発明に係るキットは、FGF、PDGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び少なくとも1つの脂肪酸を含有する培地用添加剤Bをさらに備えていてもよい。なお、上述した無血清培地Bについての説明を、培地用添加剤Bについての説明として読み替えることができる。
【0143】
また、本発明に係るキットは、等張保存剤、細胞保護剤、培養容器、及び使用説明書等のうちの少なくとも1つを備えていてもよい。上記等張保存剤、細胞保護剤、及び培養容器については、本明細書における上記「軟骨損傷治療剤の製造方法」の項において説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。上記使用説明書には、例えば、上記「軟骨損傷治療剤の製造方法」の項で説明した、本発明に係る軟骨損傷治療剤の製造方法の内容が記録されている。
【0144】
〔7.まとめ〕
本発明に係る軟骨損傷治療剤の製造方法は、FGF、PDGF、TGF−β、HGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び、少なくとも1つの脂肪酸を含有する無血清培地Aにおいて、間葉系幹細胞を増殖させる増殖工程と、上記増殖工程後の間葉系幹細胞、等張保存剤、及び、細胞保護剤を混合する混合工程とを包含することを特徴としている。
【0145】
本発明に係る製造方法において、上記混合工程では、上記間葉系幹細胞が1×10個/mL以上、1×10個/mL以下になるように混合することが好ましい。
【0146】
本発明に係る製造方法において、上記混合工程では、上記細胞保護剤の濃度が0%より多く、0.5%以下になるように混合することが好ましい。
【0147】
本発明に係る製造方法において、上記混合工程では、上記細胞保護剤の濃度が0.01%以上、0.1%以下になるように混合することがより好ましい。
【0148】
本発明に係る製造方法において、上記間葉系幹細胞は、滑膜、臍帯、臍帯血、羊膜、骨髄、及び、脂肪からなる群より選択される組織由来であることが好ましい。
【0149】
本発明に係る製造方法は、上記増殖工程において、分化能を維持したまま上記間葉系幹細胞を増殖させることが好ましい。
【0150】
本発明に係る製造方法は、上記増殖工程の前に、FGF、PDGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び、少なくとも1つの脂肪酸を含有する無血清培地Bにおいて、間葉系幹細胞を増殖させる前増殖工程をさらに包含することが好ましい。
【0151】
本発明に係る軟骨損傷治療剤は、FGF、PDGF、TGF−β、HGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び、少なくとも1つの脂肪酸を含有する無血清培地Aにおいて培養された間葉系幹細胞と、等張保存剤と、細胞保護剤とを含有していることを特徴としている。
【0152】
本発明に係る軟骨損傷治療剤において、上記間葉系幹細胞の細胞数は、1×10個/mL以上、1×10個/mL以下であることが好ましい。
【0153】
本発明に係る軟骨損傷治療剤において、上記細胞保護剤の濃度は、0%より多く、0.5%以下であることが好ましい。
【0154】
本発明に係る軟骨損傷治療剤において、上記細胞保護剤の濃度は、0.01%以上、0.1%以下であることがより好ましい。
【0155】
本発明に係る軟骨損傷治療剤において、上記間葉系幹細胞が分化能を維持していることが好ましい。
【0156】
本発明に係る軟骨損傷治療剤は、軟骨の一部が損傷した軟骨損傷部位に投与されることが好ましい。
【0157】
本発明に係る軟骨損傷治療剤は、上記軟骨損傷部位に複数回投与されることが好ましい。
【0158】
本発明に係る培地用添加剤は、軟骨損傷治療剤を製造するための無血清の培地用添加剤であり、FGF、PDGF、TGF−β、HGF、EGF、少なくとも1つのリン脂質、及び、少なくとも1つの脂肪酸を含有していることを特徴としている。
【0159】
本発明に係る培養培地は、軟骨損傷治療剤を製造するための無血清の培養培地であり、本発明に係る培地用添加剤を含有していることを特徴としている。
【0160】
本発明に係る培養方法は、軟骨損傷治療剤を製造するための培養方法であり、本発明に係る培養培地において間葉系幹細胞を培養する工程を包含することを特徴としている。
【0161】
本発明に係るキットは、本発明に係る培地用添加剤を少なくとも備えていることを特徴としている。
【0162】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0163】
〔I.軟骨再生実験〕
(1.細胞培養)
径2.0mmの顎関節鏡を使用して、健常なビーグルの成犬(北山ラベス株式会社、月齢:11か月齢、性別:オス)の膝関節の軟骨を半層欠損させ、イヌの軟骨欠損モデルを作製した。軟骨を半層欠損させた膝関節とは別の膝関節から、滑膜組織を観血的に採取し、50mLチューブ内の抗生物質(ペニシリン−ストレプトマイシン、濃度1%、sigma社製)を添加した生理食塩液に浸して実験室に輸送した。輸送した組織をハサミで細断し、コラゲナーゼ処理した後に、フィルターでろ過した。下記表1に示す無血清培地Aである培地1(STK2(登録商標))から、HGF及びTGF−βを除いた無血清培地Bである培地2(STK1(登録商標))を含む培養器に、細胞密度が均一になるように播種し、37℃に保った炭酸ガスインキュベータ内(空気95%及び二酸化炭酸5%)で培養した。
【0164】
培養開始から4日目(継代0回目)に、Accutase(Innovative Cell Technologies, Inc.)で処理することにより細胞を回収し、下記表1に示す無血清培地Aである培地1を含む培養器に、再度細胞密度が均一になるように播種し、継代培養した。
【0165】
【表1】
【0166】
培養9日目に、細胞がコンフルエントになったことを確認し、Accutaseで処理して細胞を回収し、−80℃で凍結保存した。
【0167】
(2.多分化能試験)
上記1.の培養後の細胞が分化能を維持しているか否かを調べた。
【0168】
<骨分化能>
培地2で培養し、コンフルエントになった細胞を回収し、骨分化用培地(STK3(登録商標))に播種して培養した。培養7日後及び21日後にアリザリンレッドS(ナカライテスク:01303−52)で染色し、骨分化誘導されているか否かを確認した。培養7日後に比べて培養21日後の培地の方が良く染色されており、骨芽細胞に誘導されていることが分かった。
【0169】
<脂肪分化能>
培地2で培養し、コンフルエントになった細胞を回収し、脂肪分化用培地(DMEM(sigma:D5796)、FBS(Hyclone)、ペニシリン−ストレプトマイシン(Sigma:P0781)、インスリン(Wako:093−06471)、デキサメタゾン(Sigma:D1756)、インドメタシン(Wako:097−02471)、3−イソブチル−1−メチルキサンチン(Calbiochem:410957))に播種して培養した。脂肪分化誘導培地と脂肪分化維持培地(MEM(sigma:D5796)、FBS(Hyclone)、ペニシリン−ストレプトマイシン(Sigma:P0781)、インスリン(Wako:093−06471))とを3日おきに交互に交換し培養した。培養7日後及び培養21日後にオイルレッドO(WAKO:154−02072)で染色し、脂肪分化誘導されているか否かを確認した。培養7日後に比べて培養21日後の培地の方が良く染色されており、脂肪細胞に誘導されていることが分かった。
【0170】
<軟骨分化能>
培地2で培養し、コンフルエントになった細胞を回収し、軟骨分化用培地(αMEM(Sigma:M4526)、ペニシリン−ストレプトマイシン(Sigma:P0781)、glutaMAX(L−glutamine)(Life Technologies Corporation:35050−061)、デキサメタゾン(Sigma:D1756)、アスコルビン酸−2−リン酸(Sigma:A8960)、D−グルコース(Sigma:G8769)、ピルビン酸(Sigma:28−4020−2)、ITS(インスリン,トランスフェリン、アセレン酸)(Life Technologies Corporation:41400−045)、リノール酸(Sigma:L5900)、BSA(WAKO:017−15146)、TGF−b3(peprotec:100−36E))にて三次元培養した。
【0171】
細胞の軟骨分化誘導を確認するために、軟骨分化用培地において培養した細胞を、培地1(STK2)及び基礎培地(DMEM)にそれぞれ播種して培養した。培養14日後及び28日後に、リアルタイムPCRにより軟骨特異的遺伝子(type II collagen、aggrecan、及び、sox9)の発現量を測定した。測定結果を図25に示す。図25は、軟骨分化用培地にて培養したMSCにおける軟骨特異的遺伝子(type II collagen、aggrecan、及び、sox9)の発現量を示すグラフである。図25に示すように、各遺伝子共に高発現していることが確認され、軟骨細胞に誘導されていることが分かった。
【0172】
(3.関節内投与(単回投与))
<方法>
凍結保存していた細胞の増殖能を事前に確認し、投与日から逆算して培養を開始した。凍結保存していた細胞を融解し、STK2培地にて、プレコンフルエントになるまで培養し、1回継代した。投与日当日又は前日に細胞を回収し、細胞数を調製してヒアルロン酸(スベニール(登録商標)、中外製薬社製)及び乳酸リンゲル ソルラクト輸液(テルモ社製)と混合して細胞投与液を調製した。
【0173】
調製後の細胞投与液を動物実験施設に輸送し(5〜21時間冷蔵保存)、シリンジに細胞投与液を注入して、上記1.で作製したイヌの軟骨欠損モデルの関節内(膝関節の軟骨半層欠損部位)に単回投与した。
【0174】
なお、投与後に、細胞投与液内の細胞生存率を測定したところ、冷蔵保存21時間以内では、細胞数及びヒアルロン酸濃度に関わらず、細胞の生存率が85%以上を維持していた。これにより、細胞投与液の関節内投与が正常に行われたことを確認した。
【0175】
<結果>
関節軟骨損傷部の再生に最適なMSCの投与細胞数及びヒアルロン酸濃度を検討するために、種々の細胞数及びヒアルロン酸濃度の細胞投与液を用いて、上記3.の関節内投与を行った。
【0176】
細胞投与液の投与12週間後に、軟骨半層欠損部位を観察し、切片を作製した。作製した切片に対して、ヘマトキシリン・エオシン染色、トルイジンブルー染色、及び、サフラニンO染色、typeIIコラーゲン染色等の各種染色を行い、顕微鏡観察により欠損部位の修復状態を評価した。
【0177】
ここで、関節軟骨に損傷のない、正常な硝子軟骨の染色像の顕微鏡画像を図2に示す。図2中(a)は、ヘマトキシリン・エオシン染色像を示し、図2中(b)は、トルイジンブルー染色像を示し、図2中(c)は、サフラニンO染色像を示す。軟骨基質は、矢印で示されており、ヘマトキシリン・エオシン染色により薄いピンク色に染まり、トルイジンブルー染色により濃い青色に染まり、サフラニンO染色により濃い赤色に染まる。図面においては、これらの染色状態をグレースケールにより示している。
【0178】
次に、上記3.において、種々の成分濃度の細胞投与液をそれぞれ軟骨半層欠損部位に投与した場合の代表的な顕微鏡画像を図3〜16に示す。また、軟骨半層欠損部位の肉眼的評価として、ICRS(International Cartilage Repair Society)のMacroscopic scalesを用いて、組織学的評価として、修正されたO’Driscollのhistological grading scalesを用いて、それぞれ評価した。ICRS Macroscopic scalesの評価指標を表2に示し、修正されたO’Driscollのhistological grading scalesの評価指標を表3に示す。
【0179】
【表2】
【0180】
【表3】
【0181】
図3は、比較例として、ヒアルロン酸を含まない細胞投与液を用いた実験結果を示す。すなわち、図3は、MSCを5×10個及び乳酸リンゲル 1mLを含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像である。図3中(a)は、軟骨半層欠損部位の肉眼画像を示し、図3中(b)は、図3中(a)の点線で囲んだ部分のヘマトキシリン・エオシン染色像を示し、図3中(c)は、図3中(a)の点線で囲んだ部分のトルイジンブルー染色像を示し、図3中(d)は、図3中(a)の点線で囲んだ部分のサフラニンO染色像を示す。以下、図4〜14においても、図中(a)〜(d)を、図3と同様に示す。図3の状態におけるICRSスコアは2、修正O’Driscollの組織学スコアは13であった。
【0182】
図4は、MSCを5×10個、乳酸リンゲル 990μL、及び、ヒアルロン酸1% 10μL(ヒアルロン酸濃度 0.01%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像である。図4の状態におけるICRSスコアは3、修正O’Driscollの組織学スコアは17であった。
【0183】
図5は、MSCを5×10個、乳酸リンゲル 900μL、及び、ヒアルロン酸1% 100μL(ヒアルロン酸濃度 0.1%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像である。図5の状態におけるICRSスコアは2、修正O’Driscollの組織学スコアは17であった。
【0184】
図6は、MSCを5×10個、乳酸リンゲル 500μL、及び、ヒアルロン酸1% 500μL(ヒアルロン酸濃度 0.5%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像である。図6の状態におけるICRSスコアは2、修正O’Driscollの組織学スコアは16であった。
【0185】
図7は、比較例として、ヒアルロン酸を含まない細胞投与液を用いた実験結果を示す。すなわち、図7は、MSCを5×10個及び乳酸リンゲル 1mLを含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像である。図7の状態におけるICRSスコアは2、修正O’Driscollの組織学スコアは14であった。
【0186】
図8は、MSCを5×10個、乳酸リンゲル 990μL、及び、ヒアルロン酸1% 10μL(ヒアルロン酸濃度 0.01%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像である。図8の状態におけるICRSスコアは11、修正O’Driscollの組織学スコアは39であった。
【0187】
図9は、MSCを5×10個、乳酸リンゲル 900μL、及び、ヒアルロン酸1% 100μL(ヒアルロン酸濃度 0.1%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像である。図9の状態におけるICRSスコアは4、修正O’Driscollの組織学スコアは19であった。
【0188】
図10は、MSCを5×106個、乳酸リンゲル 500μL、及び、ヒアルロン酸1% 500μL(ヒアルロン酸濃度 0.5%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像である。図10の状態におけるICRSスコアは2、修正O’Driscollの組織学スコアは15であった。
【0189】
図11は、比較例として、ヒアルロン酸を含まない細胞投与液を用いた実験結果を示す。すなわち、図11は、MSCを5×10個及び乳酸リンゲル 1mLを含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像である。図11の状態におけるICRSスコアは2、修正O’Driscollの組織学スコアは17であった。
【0190】
図12は、MSCを5×10個、乳酸リンゲル 500μL、及び、ヒアルロン酸1% 500μL(ヒアルロン酸濃度 0.5%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像である。図12の状態におけるICRSスコアは2、修正O’Driscollの組織学スコアは16であった。
【0191】
図13は、比較例として、MSC及びヒアルロン酸を含まない投与液を用いた実験結果を示す。すなわち、図13は、乳酸リンゲル 1mLのみを含む投与液を軟骨半層欠損部位に投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像である。図13の状態におけるICRSスコアは1、修正O’Driscollの組織学スコアは11であった。
【0192】
図14は、比較例として、MSCを含まない投与液を用いた実験結果を示す。すなわち、図14は、乳酸リンゲル 500μL及びヒアルロン酸1% 500μL(ヒアルロン酸濃度 0.5%)を含む投与液を軟骨半層欠損部位に投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像である。図14の状態におけるICRSスコアは1、修正O’Driscollの組織学スコアは11であった。
【0193】
図15は、MSCを5×10個、乳酸リンゲル 990μL、及び、ヒアルロン酸1% 10μL(ヒアルロン酸濃度 0.01%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像である。図15中(a)は、軟骨半層欠損部位の肉眼画像を示し、図15中(b)は、図15中(a)の点線で囲んだ部分のヘマトキシリン・エオシン染色像を示し、図15中(c)は、図15中(a)の点線で囲んだ部分のtypeIIコラーゲン染色像を示し、図15中(d)は、図15中(a)の点線で囲んだ部分のサフラニンO染色像を示す。図15の状態におけるICRSスコアは11、修正O’Driscollの組織学スコアは37であった。
【0194】
図16は、MSCを5×10個、乳酸リンゲル 900μL、及び、ヒアルロン酸1% 100μL(ヒアルロン酸濃度 0.1%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像である。図16中(a)〜(d)の説明は、図15と同様である。図16中(e)は、図16中(a)の点線で囲んだ部分のトルイジンブルー染色像を示す。図16の状態におけるICRSスコアは3、修正O’Driscollの組織学スコアは18であった。
【0195】
各細胞数及びヒアルロン酸濃度毎のICRSスコア及び修正O’Driscollの組織学スコアに基づけば、MSCを5×10個、乳酸リンゲル 990μL、及び、ヒアルロン酸1% 10μL(ヒアルロン酸濃度 0.01%)を含む細胞投与液が、最も良好に軟骨組織を再生させることができることが分かった。一方、ヒアルロン酸が高濃度になると、軟骨再生が阻害されることが分かった。また、手術後のイヌの歩行能力、感染の有無等の健康状態への影響は極めて少なかった。
【0196】
また、細胞投与液を投与したイヌの軟骨欠損モデルにおいて、健常な関節内軟骨及び滑膜に対して上述した染色を行い、異形成の発生を評価した。図17は、細胞投与液を投与した関節内の健常な軟骨の顕微鏡画像を示しており、(a)はヘマトキシリン・エオシン染色像、(b)はトルイジンブルー染色像、(c)はサフラニンO染色像をそれぞれ示す図である。図18は、細胞投与液を投与した関節内の健常な滑膜の顕微鏡画像を示しており、(a)はヘマトキシリン・エオシン染色像、(b)はトルイジンブルー染色像、(c)はサフラニンO染色像をそれぞれ示す図である。図17及び18に示すように、健常な関節内において明らかな異形成は認められなかった。
【0197】
まとめとして、最も結果が良かった、MSC 5×10個、乳酸リンゲル 990μL、及び、ヒアルロン酸1% 10μL(ヒアルロン酸濃度 0.01%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に投与した個体のtypeIIコラーゲン免疫染色を行った顕微鏡画像の弱拡大図を図19に示し、強拡大図を図20に示す。そして、軟骨再生が全く得られなかった乳酸リンゲル1mLのみを含む投与液を軟骨半層欠損部位に投与した個体のtypeIIコラーゲン免疫染色を行った顕微鏡画像の弱拡大図を図21に示し、強拡大図を図22に示す。
【0198】
図19及び20に示す最も良好な結果は、MSCを5×10個、乳酸リンゲル 990μL、及び、ヒアルロン酸1% 10μL(ヒアルロン酸濃度 0.01%)を含む細胞投与液を投与した軟骨半層欠損部位のtypeIIコラーゲン免疫染色像を示している。図21及び22は、乳酸リンゲル 1mLのみを含む投与液を投与した軟骨半層欠損部位のtypeIIコラーゲン免疫染色像を示している。
【0199】
図19〜22に示すように、MSCを5×10個、乳酸リンゲル 990μL、及び、ヒアルロン酸1% 10μL(ヒアルロン酸濃度 0.01%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に投与することによって、軟骨が良好に再生した。
【0200】
(4.関節内投与(複数回投与))
<方法>
上記3.と同様の方法で、MSCを5×10個、乳酸リンゲル 990μL、及び、ヒアルロン酸1% 10μL(ヒアルロン酸濃度 0.01%)を含む細胞投与液、並びに、MSCを5×10個、乳酸リンゲル 900μL、及び、ヒアルロン酸1% 100μL(ヒアルロン酸濃度 0.1%)を含む細胞投与液を調製した。調製後の細胞投与液を動物実験施設に輸送し(5〜21時間冷蔵保存)、シリンジに細胞投与液を注入して、上記1.で作製したイヌの軟骨欠損モデルの関節内(膝関節の軟骨半層欠損部位)に3回投与した。投与量は、1回あたり1mLとし、投与の間隔は7日とした。
【0201】
<結果>
3回目の投与から12週間後に、軟骨半層欠損部位を観察し、切片を作製した。作製した切片に対して、ヘマトキシリン・エオシン染色、トルイジンブルー染色、及び、サフラニンO染色、typeIIコラーゲン染色等の各種染色を行い、顕微鏡観察により欠損部位の修復状態を上記3.と同様に評価した。
【0202】
図23は、MSCを5×10個、乳酸リンゲル 990μL、及び、ヒアルロン酸1% 10μL(ヒアルロン酸濃度 0.01%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に3回投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像である。図23中(a)は、軟骨半層欠損部位の肉眼画像を示し、図23中(b)は、図23中(a)の点線で囲んだ部分のヘマトキシリン・エオシン染色像を示し、図23中(c)は、図23中(a)の点線で囲んだ部分のtypeIIコラーゲン染色像を示し、図23中(d)は、図23中(a)の点線で囲んだ部分のサフラニンO染色像を示す。図23の状態におけるICRSスコアは11、修正O’Driscollの組織学スコアは37であった。
【0203】
図24は、MSCを5×10個、乳酸リンゲル 900μL、及び、ヒアルロン酸1% 100μL(ヒアルロン酸濃度 0.1%)を含む細胞投与液を軟骨半層欠損部位に3回投与した場合における肉眼及び顕微鏡画像である。図24中(a)〜(d)の説明は、図23と同様である。図24中(e)は、図24中(a)の点線で囲んだ部分のトルイジンブルー染色像を示す。図24の状態におけるICRSスコアは3、修正O’Driscollの組織学スコアは21であった。
【0204】
〔II.関節腔内におけるMSCの状態〕
(1.未分化状態)
上記Iの軟骨再生実験において細胞投与液が単回投与された関節腔内に未分化状態のMSCが存在するか否かを確認した。MSCを含む細胞投与液を投与した個体の関節腔からMSCを採取し、無血清培地及び有血清培地においてそれぞれ培養した後、培養細胞の未分化マーカー遺伝子(nanog、sox2、oct3/4)発現と内在性コントロール遺伝子(Gapdh)発現を測定した。結果を図26に示す。図26は、細胞投与液が投与された関節腔内から採取したMSCにおいて、未分化マーカー遺伝子発現を測定した結果を示す図であり、Sは無血清培養した結果、Dは有血清培養した結果、Pは継代数を示している。
【0205】
図26に示すように、各培養細胞において各未分化マーカー遺伝子の発現が認められ、細胞投与液が投与された関節腔内に未分化状態のMSCが存在することが確認された。
【0206】
(2.サイトカインの放出状態)
上記Iの軟骨再生実験において細胞投与液が単回投与された関節腔内におけるサイトカインの放出状態を確認した。細胞投与液が投与された関節腔内において、CTACK、Eotaxin、bFGF、G−CSF、GRO−α、HGF、IFN−α2、IFN−γ、IL−1rα、IL−2、IL−2Rα、IL−3、IL−4、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−12(p40)、IL−12(p70)、IL−16、IL−18、IP−10、LIF、MCP−1 (MCAF)、M−CSF、MIF、MIG、β−NGF、PDGF−BB、RANTES、SCF、SCGF−β、SDF−1α、TGF−β 1、TGF−β 2、TGF−β 3、TRAIL、及び、VEGFの検出が認められ、細胞投与液が投与された関節腔内において多数のサイトカインが放出されていることが確認された。
【0207】
〔III.細胞保護剤の性能試験1〕
(1.細胞培養)
細胞の保存における、上記I.で用いた細胞保護剤(ヒアルロン酸)の性能を確認した。保存液として、乳酸リンゲル 990μL及びヒアルロン酸1% 10μL(ヒアルロン酸濃度 0.01%)を含む溶液、乳酸リンゲル 900μL及びヒアルロン酸1% 100μL(ヒアルロン酸濃度 0.1%)を含む溶液、乳酸リンゲル 500μL及びヒアルロン酸1% 500μL(ヒアルロン酸濃度 0.5%)を含む溶液を用意した。また、乳酸リンゲル液 1mL、及び、無血清培地(STK2培地) 1mLを対照として用意した。ヒト滑膜組織由来MSCが5×10個又は5×10個となるように各液に分注し、37℃に保った炭酸ガスインキュベータ内(空気95%及び二酸化炭酸5%)又は4℃の冷蔵ショーケースで保存した。37℃では保存後168時間までの生存率を測定し、4℃では保存後5週間までの生存率を測定した。
【0208】
(2.結果)
図27に結果を示す。図27中「HA」は「ヒアルロン酸」を指す。37℃の保存条件では、図27中(a)に示すとおり、ヒアルロン酸濃度0.01%の溶液が他の溶液よりも高い生存率を保持することが明らかとなった。また、4℃の保存条件では、図26中(b)及び(c)に示すとおり、ヒアルロン酸濃度0.01%の溶液、ヒアルロン酸濃度0.1%の溶液、及び乳酸リンゲル液において1か月以上生存率60%を保つことができる能力を有することを確認した。
【0209】
〔IV.細胞保護剤の性能試験2〕
(1.細胞培養)
上記III.において、細胞を37℃の温度条件下に保存した場合でも、細胞保護剤を用いると24時間後の生存率が60%以上であることが示された。そのため、ヒト滑膜組織由来MSCを5×10個で、乳酸リンゲル 990μL及びヒアルロン酸1% 10μL(ヒアルロン酸濃度 0.01%)を含む溶液、乳酸リンゲル 900μL及びヒアルロン酸1% 100μL(ヒアルロン酸濃度 0.1%)を含む溶液、並びに、乳酸リンゲル液 1mLの3つにおいて、さらに試験を行った。
【0210】
(2.結果)
図28に結果を示す。Non-repeated Measures ANOVAで統計解析を行い、P<0.01で有意差が示された箇所に**を記載した。図28中「HA」は「ヒアルロン酸」を指す。図28に示すとおり、37℃の保存条件において、乳酸リンゲル 990μL及びヒアルロン酸1% 10μL(ヒアルロン酸濃度 0.01%)を含む溶液、並びに、乳酸リンゲル 900μL及びヒアルロン酸1% 100μL(ヒアルロン酸濃度 0.1%)を含む溶液は、乳酸リンゲル液 1mLよりも有意に細胞保護効果を有することが確認された。
【0211】
このことから、細胞保護剤は0.01%〜0.1%の濃度において投与前の細胞保存液としてもその細胞保護効果を有し、特に冷蔵条件においては長期間の保管を可能とすることがわかった。また、細胞の代謝活性が高いと考えられる37℃の保存条件においても24時間での生存率が高いことから、細胞輸送や保存の際に高い温度条件下に置かれた際の保護作用も高いことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0212】
本発明は、間葉系幹細胞を用いたより安全かつ利用価値の高い関節損傷治療剤を提供することができるので、間葉系幹細胞を用いた軟骨組織の再生医療に利用することができる。また、本発明では、細胞保護作用によって細胞を長期間保存できることが見出されているので、本発明は、細胞保護剤等として再生医療産業の分野で応用することもできる。
図1
図2
図3
図4
図5
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