(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191698
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】電源システム
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20170828BHJP
【FI】
H02M3/155 W
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-540487(P2015-540487)
(86)(22)【出願日】2014年9月30日
(86)【国際出願番号】JP2014075983
(87)【国際公開番号】WO2015050092
(87)【国際公開日】20150409
【審査請求日】2016年1月13日
(31)【優先権主張番号】特願2013-207252(P2013-207252)
(32)【優先日】2013年10月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】特許業務法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鵜野 良之
【審査官】
戸次 一夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−192296(JP,A)
【文献】
特開2010−136286(JP,A)
【文献】
特開2013−090519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M3/00−3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電源装置を備え、それらの入力部および出力部がそれぞれ並列接続された電源システムにおいて、
前記複数の電源装置は、電力変換を行うコンバータ部と、スイッチ素子のスイッチング制御を行うスイッチング制御回路と、調歩同期方式でシリアル信号の通信を行うコントローラと、を備え、
前記複数の電源装置のうち、少なくとも1つの電源装置の前記コントローラは前記シリアル信号を送信し、他の電源装置の前記コントローラは前記シリアル信号を受信し、
前記複数の電源装置の各スイッチング制御回路は、前記シリアル信号の立ち上がりまたは立ち下がりエッジに同期してスイッチ素子をスイッチングすることを特徴とする電源システム。
【請求項2】
複数の電源装置を備え、それらの入力部および出力部がそれぞれ並列接続された電源システムにおいて、
前記複数の電源装置以外に、調歩同期方式でシリアル信号の通信を行う外部コントローラを備え、
前記複数の電源装置は、電力変換を行うコンバータ部と、スイッチ素子のスイッチング制御を行うスイッチング制御回路と、調歩同期方式でシリアル信号の通信を行うコントローラと、を備え、
前記外部コントローラは前記シリアル信号を送信し、前記複数の電源装置は前記シリアル信号を受信し、
前記複数の電源装置の各スイッチング制御回路は、前記シリアル信号の立ち上がりまたは立ち下がりエッジに同期してスイッチ素子をスイッチングすることを特徴とする電源システム。
【請求項3】
前記複数の電源装置のうち、少なくとも1つの電源装置の前記スイッチング制御回路は、前記シリアル信号の立ち上がりまたは立ち下がりエッジと前記スイッチ素子のスイッチングとの間に一定の遅延時間を設定する、請求項1または2に記載の電源システム。
【請求項4】
前記スイッチング制御回路による前記スイッチ素子のスイッチング周期と前記シリアル信号の1ビット長とは整数比の関係にある、請求項1、2または3に記載の電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電源装置を備え、それらの入力部および出力部がそれぞれ並列接続された電源システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高出力化や冗長運転を目的として、複数の電源装置を並列接続して構成される電源システムが利用される。複数の電源装置を用いる場合、複数のスイッチング動作による干渉現象(スイッチングビート)を抑制するためには、各電源装置の動作を同期させる必要がある。例えば特許文献1には、複数の電源装置を並列接続したマルチフェーズ型電源装置が示されており、この電源装置は、スイッチング周波数の同期をとるために、コントローラMCUからPWM搭載型駆動ユニットへ、所定周波数、所定位相のクロック信号を出力する。すなわち、複数のPWM搭載型駆動ユニットはそれぞれクロック信号を入力し、そのクロック信号に同期してそれぞれのインダクタを駆動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−80744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されている電源装置においては、PWM搭載型駆動ユニットそれぞれにクロック線が必要であるため、PWM搭載型駆動ユニットの数が増えるにつれ配線や端子が増加し、これがコスト増加の要因となる。また、クロック線はノイズの発生源になり、ノイズの受容部ともなるので、これらの対策が必要になる。
【0005】
本発明の目的は、各電源装置の同期のための個別のクロック線を不要として上記問題を解消した電源システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電源システムは、複数の電源装置を備え、それらの入力部および出力部がそれぞれ並列接続され、前記複数の電源装置は、電力変換を行うコンバータ部と、スイッチ素子のスイッチング制御を行うスイッチング制御回路と、調歩同期方式でシリアル信号の通信を行うコントローラと、を備え、前記複数の電源装置のうち、少なくとも1つの電源装置の前記コントローラは前記シリアル信号を送信し、他の電源装置の前記コントローラは前記シリアル信号を受信し、前記複数の電源装置の各スイッチング制御回路は、前記シリアル信号の立ち上がりまたは立ち下がりエッジに同期してスイッチ素子をスイッチングすることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の電源システムは、複数の電源装置を備え、それらの入力部および出力部がそれぞれ並列接続され、前記複数の電源装置以外に、調歩同期方式でシリアル信号の通信を行う外部コントローラを備え、前記複数の電源装置は、電力変換を行うコンバータ部と、スイッチ素子のスイッチング制御を行うスイッチング制御回路と、調歩同期方式でシリアル信号の通信を行うコントローラと、を備え、前記外部コントローラは前記シリアル信号を送信し、前記複数の電源装置は前記シリアル信号を受信し、前記複数の電源装置の各スイッチング制御回路は、前記シリアル信号の立ち上がりまたは立ち下がりエッジに同期してスイッチ素子をスイッチングすることを特徴とする。
【0008】
上記構成により、少ない配線で各電源装置の動作を同期させることができ、配線や端子の増加を抑制できる。またノイズに関する問題も低減できる。
【0009】
前記複数の電源装置のうち、少なくとも1つの電源装置の前記スイッチング制御回路は、前記シリアル信号の立ち上がりまたは立ち下がりエッジと前記スイッチ素子のスイッチングとの間に一定の遅延時間を設定するものであってもよい。このことで、マルチフェーズ動作を実現できる。
【0010】
前記スイッチング制御回路による前記スイッチ素子のスイッチング周期と前記シリアル信号の1ビット長とは整数比の関係にあることが好ましい。これにより、波形なまりやノイズ発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、各電源装置の同期のためのクロック線を必要としないため、配線や端子の増加を抑制できる。またノイズに関する問題も低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は第1の実施形態に係る電源システムの回路図である。
【
図2】
図2は各コントローラ内の回路または機能をブロック化して表した図である。
【
図3】
図3はシリアル信号および各コントローラの同期PWM生成部が発生する方形波信号の波形図である。
【
図4】
図4は第2の実施形態に係る電源システムの回路図である。
【
図5】
図5は第2の実施形態に係る電源システムの動作を示す波形図である。
【
図6】
図6はインターリーブ動作について示す波形図である。
【
図7】
図7は第3の実施形態に係る電源システムの回路図である。
【
図8】
図8は第4の実施形態に係る電源システムの動作を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以降、図を参照して幾つかの具体的な例を挙げて、本発明を実施するための複数の形態を示す。各図中には同一箇所に同一符号を付している。各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。
【0014】
《第1の実施形態》
図1は第1の実施形態に係る電源システムの回路図である。この電源システム201は、複数の電源装置ユニット(以下、単に「ユニット」)100A,100B・・・を備え、それらの入力部および出力部がそれぞれ並列接続されて構成されている。
図1では3つめ以降のユニットの図示は省略している。ユニット100A,100B・・・のそれぞれは基本的に同一構成であるが、この例では、ユニット100Aがマスター、他のユニット100B等はスレーブとして動作する。
【0015】
ユニット100Aを例に挙げると、ユニット100Aは、コンバータ部1、PWM制御部2、コントローラ10A、出力電圧検出回路3を備えている。コンバータ部1はスイッチ素子Q1、ダイオードD1、インダクタL1およびキャパシタC1を備えて、非絶縁の降圧コンバータ回路を構成している。PWM制御部2は、誤差増幅器OPAMP1,PWMコンパレータCMP1、三角波生成回路21を備えている。コンバータ部1、PWM制御部2およびコントローラ10Aにより、本発明に係る「スイッチング制御回路」を構成する。
【0016】
出力電圧検出回路3は抵抗R1,R0による分圧回路である。誤差増幅器OPAMP1は基準電圧Vrefと出力電圧検出回路3の出力電圧とを比較し、誤差電圧をPWMコンパレータCMP1の非反転端子へ与える。誤差増幅器OPAMP1の反転入力端と出力端との間には、キャパシタC2および抵抗R2が接続されている。この回路は制御系の発振防止のための位相補償回路として作用する。
【0017】
コントローラ10AはマイクロコントロールユニットMCUで構成されている。コントローラ10Aは三角波生成回路21に対して方形波信号を与える。三角波生成回路21はこの方形波信号に同期して三角波信号を発生し、これをPWMコンパレータCMP1の反転端子へ与える。PWMコンパレータCMP1は、非反転端子への入力電圧と三角波信号とを比較することでPWM変調信号をスイッチ素子Q1へ与える。
【0018】
スイッチ素子Q1は上記PWM変調された信号で制御される。スイッチ素子Q1のオン期間にインダクタL1に励磁電流が流れ、オフ期間にダイオードD1を通して還流電流が流れる。
【0019】
コントローラ10Aはシリアル信号線4へ通信用のシリアル信号を出力する。上記方形波信号はシリアル信号の立ち上がりまたは立ち下がりエッジと同期している。すなわち、コントローラ10Aは、通信用のシリアル信号を出力するとともに、このシリアル信号の立ち上がりまたは立ち下がりエッジと同期する方形波信号を発生する。但し、コントローラ10Aは通信用のシリアル信号を常に送出し続ける必要はない。
【0020】
ユニット100B内のコントローラ10Bは、シリアル信号線4のシリアル信号を入力し、その立ち上がりまたは立ち下がりエッジと同期する方形波信号を発生し、これを三角波生成回路21へ与える。
【0021】
図2は各コントローラ内の回路または機能をブロック化して表した図である。コントローラ10A,10B・・・は、同期PWM生成部11および調歩同期シリアル通信部12を備えている。コントローラ10A内の同期PWM生成部11は自励発振により方形波信号を発生する。コントローラ10A内の調歩同期シリアル通信部12は上記方形波信号を入力し、この方形波信号の立ち上がりまたは立ち下がりエッジに同期して通信データをTX端子から出力する。また、調歩同期シリアル通信部12は通信データをRX端子から入力する。コントローラ10B内の調歩同期シリアル通信部12は調歩同期方式でTX端子から通信データを出力し、RX端子から入力する。コントローラ10B内の同期PWM生成部11はシリアル信号線4の立ち上がりまたは立ち下がりエッジに同期して方形波信号を発生する。各コントローラ10A,10B・・・内の同期PWM生成部が発生する方形波信号の周期は同じである。
【0022】
図3は上記シリアル信号および各コントローラの同期PWM生成部が発生する方形波信号の波形図である。この例では、マスターとして動作するコントローラ10A内の同期PWM生成部11が発生する方形波信号の立ち上がりに同期してシリアル信号が出力される。そして、スレーブとして動作するコントローラ10B等内の同期PWM生成部11が発生する方形波信号はシリアル信号の立ち上がりまたは立ち下がりエッジに同期する。
【0023】
マスターとして動作するコントローラは、伝送すべきデータが無い状態ではシリアル信号線をHレベルに保つ。何らかのデータを送信する際、スタートビットとして0(Lレベル)を送出し、それに続くビットを順次送出する。規定のビット数を送出すると、ストップビットとして1(Hレベル)を送出し、データ送信を終了する。
【0024】
このようにして、各コントローラ10A,10B・・・が発生する方形波信号は一致し、各PWM制御部2は同じ三角波信号を基にPWM変調を行う。これにより、各ユニットのコンバータ部1はスイッチ素子Q1を同じスイッチング周期でスイッチングする。
【0025】
したがって、本実施形態によれば、調歩同期のシリアル通信に同期させてスイッチングするので、クロック信号を用いる必要がなく、その結果、クロック信号用の配線や端子の増加を抑制できる。また、クロック線が存在しないため、これによるノイズの発生も抑制できる。
【0026】
《第2の実施形態》
図4は第2の実施形態に係る電源システムの回路図である。この電源システム202は、2つのユニット100A,100Bを備え、それらの入力部および出力部がそれぞれ並列接続されて構成されている。この2つのユニット100A,100Bの基本的な構成は
図1に示したユニット100A,100Bと同じであるが、スレーブ動作するコントローラ10B等の動作が異なる。
【0027】
図5は第2の実施形態に係る電源システムの動作を示す波形図であり、マスターとして動作するコントローラ10Aが出力するシリアル信号および各コントローラの同期PWM生成部が発生する方形波信号の波形図である。この例では、スレーブとして動作するコントローラ10B等内の同期PWM生成部11が発生する方形波信号は、シリアル信号の立ち上がりまたは立ち下がりエッジから一定時間だけ遅延して立ち上がる。この遅延時間は、マスターであるユニット100Aと、スレーブであるユニット100Bとがインターリーブ動作するように定めておく。
【0028】
図6はインターリーブ動作について示す波形図である。ここで、ユニット100Aのスイッチング動作の位相をA相、ユニット100Bのスイッチング動作の位相をB相で表すと、A相とB相のインダクタ電流およびゲート電圧は
図6に示すような波形となる。A相ゲート電圧(ユニット100A内のスイッチ素子Q1のゲート電圧)と、B相ゲート電圧(ユニット100B内のスイッチ素子Q1のゲート電圧)とは位相差がある。これに伴い、A相インダクタ電流(ユニット100A内のインダクタL1に流れる電流)と、B相インダクタ電流(ユニット100B内のインダクタL1に流れる電流)とに位相差が生じ、インターリーブ動作する。これにより出力電流のリプル成分を抑制できる。
【0029】
なお、2相のインターリーブ動作に限らず、同様にして3相以上のマルチフェーズ動作をさせることもできる。すなわち、スレーブであるユニットを複数設け、これら複数のユニット内のコントローラの同期PWM生成部に対して複数とおりの遅延時間を定めておけばよい。例えば遅延時間が2とおりであれば、3相のマルチフェーズ動作となる。
【0030】
また、上記遅延時間はユニットの製造時にユニットに記憶させてもよいし、マスターであるユニットが上記シリアル通信によって指令することで、スレーブである各ユニットに遅延時間を設定するようにしてもよい。
【0031】
《第3の実施形態》
図7は第3の実施形態に係る電源システムの回路図である。この電源システム203は、第1・第2の実施形態と異なり、電源ユニット100A,100B以外に外部コントローラ20を備えている。この外部コントローラ20の構成は、
図2に示したコントローラ10Aと同じである。但し、同期PWM生成部11の信号は外部へは出力されない。外部コントローラ20は、第1の実施形態で示したコントローラ10Aと同様の動作を行う。このように、コントローラをユニットの外部に設けてもよい。
【0032】
《第4の実施形態》
第4の実施形態では、スイッチング制御回路によるスイッチ素子のスイッチング周期とシリアル信号の1ビット長とが1:1以外の整数比の関係にある例を示す。
【0033】
第1〜第3の実施形態では、シリアル信号の1ビット長とPWM変調のキャリア信号の周期(スイッチ素子のスイッチング周期)とが等しい例を示したが、スイッチ素子のスイッチング周期とシリアル信号の1ビット長とは整数倍比であればよい。
【0034】
図8は第4の実施形態に係る電源システムの動作を示す波形図である。
図3と比較すれば明らかなように、本実施形態では、PWM変調のキャリア信号の周期(スイッチ素子のスイッチング周期)はシリアル信号の1ビット長の整数分の1である。例えばシリアル信号のデータ転送レートは100kbps、PWM変調のキャリア信号の周波数は400kHzである。
【0035】
このような関係であっても、マスターとして動作するコントローラ内の同期PWM生成部が発生する方形波信号の立ち上がりに同期してシリアル信号が出力される。そして、スレーブとして動作するコントローラ内の同期PWM生成部が発生する方形波信号はシリアル信号の立ち上がりまたは立ち下がりエッジに同期する。
【0036】
シリアル信号の1ビット長とスイッチング周期とが同じであると、シリアル通信の伝送周波数が高くなり、波形なまりによる通信エラーが問題となったり、シリアル信号線がノイズ源となったりする場合があるが、本実施形態のように、シリアル通信の伝送周波数を低下させれば、これらの問題を回避あるいは低減できる。
【0037】
図2では、2本のシリアル信号線を用いて全二重通信を行う例を示したが、1本のシリアル信号線を用いた半二重通信を行う場合にも適用できる。
【0038】
また、以上に示した実施形態では、コンバータ部が非絶縁の降圧コンバータ回路である例を示したが、コンバータ部は昇圧コンバータや昇降圧コンバータであってもよい。また絶縁トランスを用いた絶縁型であってもよい。また、PWM制御部を誤差増幅器、PWMコンパレータおよび受動素子の組み合わせで構成したアナログ制御の例を示したが、これをMCUで処理するディジタル制御としてもよい。
【符号の説明】
【0039】
C1…キャパシタ
CMP1…PWMコンパレータ
D1…ダイオード
L1…インダクタ
OPAMP1…誤差増幅器
Q1…スイッチ素子
1…コンバータ部
2…PWM制御部
3…出力電圧検出回路
4…シリアル信号線
10A,10B…コントローラ
11…同期PWM生成部
12…調歩同期シリアル通信部
21…三角波生成回路
100A,100B…電源装置ユニット
201,202…電源システム