特許第6191752号(P6191752)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6191752
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】塩化ビニル樹脂組成物およびシート材
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20170828BHJP
   C08L 33/00 20060101ALI20170828BHJP
   C08K 5/57 20060101ALI20170828BHJP
   C08L 23/30 20060101ALI20170828BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20170828BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20170828BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   C08L27/06
   C08L33/00
   C08K5/57
   C08L23/30
   C08K5/098
   C08K5/101
   C08J5/18CEV
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-215537(P2016-215537)
(22)【出願日】2016年11月2日
【審査請求日】2017年3月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】天牛 英清
【審査官】 中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−131370(JP,A)
【文献】 特開平10−279721(JP,A)
【文献】 特開2000−159963(JP,A)
【文献】 特開2000−143914(JP,A)
【文献】 特開平01−188540(JP,A)
【文献】 特表2001−501644(JP,A)
【文献】 特開2001−131823(JP,A)
【文献】 特開2001−131824(JP,A)
【文献】 特開2001−115332(JP,A)
【文献】 特開平09−157430(JP,A)
【文献】 特開平10−168276(JP,A)
【文献】 特開2008−120852(JP,A)
【文献】 特表平10−502409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/000−101/14
C08K 3/00−13/08
C08J 5/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主材としてのポリ塩化ビニル系樹脂と、
補強剤としてのアクリル系ポリマーと、
安定剤としてのジメチルスズ系安定剤と、
滑材として、酸化ポリエチレンと、脂肪族モノカルボン酸カルシウム塩と、を含み、
前記酸化ポリエチレンは、重量平均分子量が500以上、1500以下のものであり、その含有量は、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上、2.00重量部以下であり、
前記脂肪族モノカルボン酸カルシウム塩の含有量は、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上、3.0重量部以下であることを特徴とする塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項2】
前記酸化ポリエチレンは、酸価が0.5mgKOH/g以上、16mgKOH/g以下のものである請求項1に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項3】
前記酸化ポリエチレンは、密度が0.90g/cm以上、0.93g/cm以下のものである請求項1または2に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項4】
前記滑材は、さらに、ステアリン酸を含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項5】
前記ステアリン酸の含有量は、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上、1.0重量部以下である請求項4に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項6】
前記ジメチルスズ系安定剤の含有量は、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上、5.0重量部以下である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項7】
前記ジメチルスズ系安定剤は、ジメチルスズメルカプタイドである請求項1ないし6のいずれか1項に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項8】
前記アクリル系ポリマーの含有量は、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、10.0重量部以上、25.0重量部以下である請求項1ないし7のいずれか1項に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の塩化ビニル樹脂組成物を用いて成形されたことを特徴とするシート材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル樹脂組成物およびシート材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車、オートバイ、鉄道等の車両の各種部材、航空機、住宅等の内装材や、医療機器、OA機器等のカバー部材には、硬質塩化ビニル樹脂組成物が用いられている(例えば、特許文献1参照)。硬質塩化ビニル樹脂組成物は、加工性、耐衝撃性、耐薬品性および耐熱性等に優れ、上記内装材や上記カバー部材に用いられている。
【0003】
例えば特許文献1には、硬質塩化ビニル樹脂組成物として、硬質塩化ビニル樹脂と、安定剤としてのジブチルスズ系安定剤と、滑材としての脂肪酸系滑材とが配合されてなるものが開示されている。ジブチルスズ系安定剤を含むことにより、硬質塩化ビニル樹脂組成物を優れた熱安定性のものとすることができる。また、脂肪酸系滑材を含むことにより、押出成型する際の、押出性の向上を図ることができる。このような理由から、硬質塩化ビニル樹脂組成物は、前述したように広く用いられている。
【0004】
ここで、近年では、人の健康と環境の保護という観点から、REACH(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals)規制が定められている。このREACH規制は、人の健康や環境に対して悪影響のある物質の使用量等を規制する制度である。上記のように安定剤としてジブチルスズ系安定剤を用いた場合、このREACH規制を満足することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−265373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、塩化ビニル樹脂組成物において、単にジブチルスズ系安定剤を省略し、ジメチルスズ系安定剤を添加した場合、REACH規制を満足することができるが、塩化ビニル樹脂組成物をシート材に成形する際に用いるローラーに汚れが付着し、その汚れがシート表面に転写することで、シート材の外観が悪化することが分かった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、REACH規制を満足しつつ、塩化ビニル樹脂組成物をシート材に成形する際に用いるローラー等に汚れが付着するのを防止し、シート材の外観を良好に保つことができる塩化ビニル樹脂組成物およびシート材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 主材としてのポリ塩化ビニル系樹脂と、
補強剤としてのアクリル系ポリマーと、
安定剤としてのジメチルスズ系安定剤と、
滑材として、酸化ポリエチレンと、脂肪族モノカルボン酸カルシウム塩と、を含み、
前記酸化ポリエチレンは、重量平均分子量が500以上、1500以下のものであり、その含有量は、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上、2.00重量部以下であり、
前記脂肪族モノカルボン酸カルシウム塩の含有量は、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上、3.0重量部以下であることを特徴とする塩化ビニル樹脂組成物。
【0009】
(2) 前記酸化ポリエチレンは、酸価が0.5mgKOH/g以上、16mgKOH/g以下のものである上記(1)に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【0010】
(3) 前記酸化ポリエチレンは、密度が0.90g/cm以上、0.93g/cm以下のものである上記(1)または(2)に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【0011】
(4) 前記滑材は、さらに、ステアリン酸を含む上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【0012】
(5) 前記ステアリン酸の含有量は、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上、1.0重量部以下である上記(4)に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【0013】
(6) 前記ジメチルスズ系安定剤の含有量は、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上、5.0重量部以下である上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【0014】
(7) 前記ジメチルスズ系安定剤は、ジメチルスズメルカプタイドである上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【0015】
(8) 前記アクリル系ポリマーの含有量は、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、10.0重量部以上、25.0重量部以下である上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【0016】
(9) 上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物を用いて成形されたことを特徴とするシート材。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、塩化ビニル樹脂組成物に対するジブチルスズ系安定剤を省略し、ジメチルスズ系安定剤を用いることにより、REACH規制を満足することができる。さらに、塩化ビニル樹脂組成物に対して滑材として酸化ポリエチレンを配合することにより、塩化ビニル樹脂組成物をシート材に成形する際に、ローラーが汚れてしまうのを防止または抑制することができ、シート材の外観を良好に保つことができる。
【0018】
以上より、本発明によれば、REACH規制を満足しつつ、塩化ビニル樹脂組成物をシート材に成形する際に用いるローラー等に汚れが付着するのを防止することができ、シート材の外観を良好に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の塩化ビニル樹脂組成物からなるシート材の断面図である。
図2図1に示すシート材を製造する製造装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0021】
まず、本発明の塩化ビニル樹脂組成物およびシート材を説明するのに先立って、塩化ビニル樹脂組成物をシート材1に成形するのに用いる製造装置10について説明する。
【0022】
図1は、本発明の塩化ビニル樹脂組成物からなるシート材の断面図である。図2は、図1に示すシート材を製造する製造装置の側面図である。
【0023】
なお、図1では、上側を「上方」または「上」と言い、下側を「下方」または「下」とも言う。また、本明細書で参照する図面では、一部を誇張して図示しており、実際の寸法とは大きく異なる。
【0024】
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、主材としてのポリ塩化ビニルと、補強剤としてのアクリル系ポリマーと、安定剤としてのジメチルスズと、滑材としての酸化ポリエチレンと、を含むものである。この塩化ビニル樹脂組成物を用いて製造装置10により成形することにより、図1に示すシート材1が得られる。
【0025】
この製造装置10は、図2に示すように、供給部100と、押出機200と、成形部300と、冷却部400と、切断部500とを有している。
【0026】
供給部100は、塩化ビニル樹脂組成物が貯留されており、貯留された塩化ビニル樹脂組成物を押出機200に供給するものである。供給部100では、塩化ビニル樹脂組成物が混合された状態で貯留されている。
【0027】
押出機200は、供給部100から供給された塩化ビニル樹脂組成物を押出法によりシートとして押し出すものである。押出機200は、塩化ビニル樹脂組成物が通過する流路と、流路内に設けられたスクリューとを有している。スクリューが回転することにより、塩化ビニル樹脂組成物がシートとして押し出される。
【0028】
成形部300は、3つのローラー301、302、303を有している。各ローラー301〜303は、鉛直方向に並んで配置されおり、互いに独立して回転するよう構成されている。これらローラー301〜303には、押し出されたシート材が掛け回され、ローラー301〜303の間でシート材がそれぞれ挟持されて成形される。
【0029】
冷却部400は、複数の冷却ローラー401を有している。各冷却ローラー401が成形されたシートの一方の面と当接し、該シートを冷却する。
【0030】
切断部500は、刃部501を有し、該刃部501によってシートを所定の長さに切断するものである。
【0031】
このような製造装置10では、供給部100から供給された塩化ビニル樹脂組成物が押出機200によって連続的にシート材が押し出され、成形部300によって、表面が平坦化されて所定の厚さに成形される。そして、冷却部400と当接して冷却され、切断部500によって所定の長さに切断されて塩化ビニル樹脂組成物からなるシート材1が得られる。
【0032】
なお、本明細書中では、切断されたシートをシート材1として説明するが、シートを切断するのを省略し、シートをロール状に巻回したものをシート材1としてもよい。
【0033】
また、製造装置10では、ローラー301、302、303に冷却機能を付与し、成形部300を冷却部として機能させてもよい。
【0034】
以上のような製造装置10によって、塩化ビニル樹脂組成物をシート材1に成形することができる。以下、本発明の塩化ビニル樹脂組成物およびシート材について説明する。
【0035】
前述したように、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、主材としてのポリ塩化ビニルと、補強剤としてのアクリル系ポリマーと、安定剤としてのジメチルスズと、滑材としての酸化ポリエチレンと、を含むものである。
【0036】
従来では、安定剤としてジブチルスズ系安定剤を用いているが、ジブチルスズを用いた場合、REACH(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals)規制を満足することができない。本発明では、安定剤としてジメチルスズを用いることにより、REACH規制を満足することができる。
【0037】
また、単に、安定剤としてジメチルスズを用いると、製造装置10により成形する際に、ローラー301〜303に汚れが付着する。そこで、本発明では、滑材として酸化ポリエチレンを配合した。これにより、ローラー301〜303に汚れが付着するのを防止することができる。
【0038】
以上より、本発明によれば、REACH規制を満足しつつ、塩化ビニル樹脂組成物をシート材に成形する際に、ローラー301〜303に汚れが付着するのを防止することができる。
【0039】
以下、本発明の塩化ビニル樹脂組成物の構成材料について詳細に説明する。
<主材>
塩化ビニル樹脂組成物は、主材として、ポリ塩化ビニル系樹脂を含んでいる。
【0040】
塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルの単独重合体や、塩化ビニルと共重合可能なビニル系単量体との共重合体、塩化ビニルと各種重合体またはポリ塩化ビニルとビニル系単量体とのグラフト重合体、後塩素化塩化ビニル重合体が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、単独重合体を用いるのが一般的である。
【0041】
また、塩化ビニル系樹脂は、平均重合度が600〜1000のものであるのが好ましい。平均重合度が高すぎた場合、可塑剤を添加しないと加工性が悪く、そのために可塑剤を多量に添加すると柔軟温度の低下をもたらす。一方、平均重合度が低くすぎた場合、成形されたシート材1の耐熱性が低下する傾向を示す。
【0042】
<補強剤>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、補強剤として、アクリル系ポリマーを含んでいる。アクリル系ポリマーとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、オクチルアクリレート等のアクリレートを主体として、これらのモノマーと2−クロロエチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、アクリル酸、アクリロニトリル、ブタジエン等との共重合体であり、例えば、鐘淵化学社製「カネエースFM」、呉羽化学社製「クレハKM−334」等が挙げられる。このようなアクリル系ポリマーを含むことにより、耐久性を高めることができる。
【0043】
前記アクリル系ポリマーの含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、10.0重量部以上、25.0重量部以下であるのが好ましく、12.0重量部以上、23.0重量部以下であるのがより好ましい。これにより、塩化ビニル樹脂組成物の耐久性を確実に高めることができる。
【0044】
なお、本発明の塩化ビニル樹脂組成物では、補強剤として、上記で挙げたアクリル系ポリマー以外のものを含んでいてもよい。
【0045】
<安定剤>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、安定剤としてジメチルスズ系安定剤を含んでいる。
【0046】
ジブチルスズ系安定剤として用いた場合、REACH規制を満足することができないが、本発明では、ジブチルスズ系安定剤を省略し、上記ジメチルスズ系安定剤を安定剤として用いることにより、REACH規制を満足しつつ、安定剤としての効果を発揮することができる。
【0047】
このジメチルスズ系安定剤としては、ジメチルスズビス(ラウリルメルカプタイド)、ジメチルスズビス(ステアリルメルカプタイド)、ジメチルスズビス(メルカプトエチルステアレート)、ジメチルスズビス(2−エチルヘキシルメルカプトアセテート)、ジメチルスズビス(2−エチルヘキシルメルカプトプロピオネート)、ジメチルスズビス(メルカプトエチル・トール油脂肪酸エステル)、ジメチルスズビス(メルカプト酢酸2−エチルへキシルエステル)塩等のジメチルスズメルカプタイドが挙げられる。
【0048】
これらの中でも、ジメチルスズビス(2−エチルヘキシルメルカプトアセテート)、ジメチルスズビス(2−エチルヘキシルメルカプトプロピオネート)、ジメチルスズビス(メルカプトエチル・トール油脂肪酸エステル)、ジメチルスズビス(メルカプト酢酸2−エチルへキシルエステル)塩のうちの少なくとも1種であるのが好ましい。これにより、安定剤としての効果を確実に発揮することができる。
【0049】
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上記以外の安定剤として、モノメチルスズメルカプタイド、メチルスズサルファイドを含んでいてもよい。
【0050】
モノメチルスズメルカプタイドとしては、モノメチルスズトリス(メルカプトエチルラウレート)、モノメチルスズトリス(メルカプトエチルステアレート)、モノメチルスズトリス(メルカプトエチルオレート)、モノメチルスズトリス(2−エチルヘキシルメルカプトアセテート)、モノメチルスズトリス(2−エチルヘキシルメルカプトプロピオネート)、モノメチルスズトリス(メルカプトエチル・トール油脂肪酸エステル)、モノメチルスズトリス(メルカプト酢酸2−エチルへキシルエステル)塩等が挙げられる。
【0051】
これらの中でも、モノメチルスズトリス(2−エチルヘキシルメルカプトアセテート)、モノメチルスズトリス(2−エチルヘキシルメルカプトプロピオネート)、モノメチルスズトリス(メルカプトエチル・トール油脂肪酸エステル)、モノメチルスズトリス(メルカプト酢酸2−エチルへキシルエステル)塩のうちの少なくとも1種であるのが好ましい。これにより、安定剤としての効果を確実に発揮することができる。
【0052】
メチルスズサルファイドとしては、モノメチルスズサルファイド、モノメチルスズ(トリデシルメルカプトアセテート)サルファイド、モノメチルスズ(2−メルカプトエチルトール油酸)サルファイド、ジメチルスズサルファイド、ビス〔ジメチルスズ(ノニルメルカプトプロピオネート)〕サルファイド、ビス〔ジメチルスズ(2−メルカプトエチル・トール油酸)〕サルファイド、ビス〔モノメチルスズビス(2−メルカプトエチルオレイン酸)〕サルファイド、ビス{メチルスズジ(2−メルカプトエチルカプリレート)}サルファイド、ビス{メチルスズジ(2−メルカプ卜エチルカプリレート)}ジサルファイド等が挙げられる。
【0053】
ジメチルスズ系安定剤の含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上、5.0重量部以下であるのが好ましく、2.0重量部以上、4.0重量部以下であるのがより好ましい。これにより、安定剤としての効果を確実に発揮することができる。
【0054】
<滑材>
塩化ビニル樹脂組成物は、滑材として、酸化ポリエチレンを含んでいる。
【0055】
酸化ポリエチレンを配合することにより、塩化ビニル樹脂組成物を押出成形する際、ローラー301〜303から塩化ビニル樹脂組成物が離れるとき、ローラー301〜303に塩化ビニル樹脂組成物の成分が付着してしまうのを防止することができる。また、従来のように、ローラー301〜303に汚れが付着するのを防止することができる。
【0056】
酸化ポリエチレンは、低分子量のものであるのが好ましい。このような低分子量の酸化ポリエチレンは、例えば、ポリエチレンを熱分解して分子量を低下させることにより得られる。
【0057】
また、上記低分子量の酸化ポリエチレンの重量平均分子量は、500以上、10000以下であるのが好ましく、1000以上、5000以下であるのがより好ましい。これにより、長期の連続成形加工において成形安定性の向上を図ることができる。
【0058】
また、上記酸化ポリエチレンの酸価は、0.5(KOHmg/g)以上、60(KOHmg/g)以下であるのが好ましく、10(KOHmg/g)以上、40(KOHmg/g)以下であるのがより好ましい。酸価は、JIS K 3504に準拠した方法により測定することができる。具体的には、ワックス類1g中に含有する遊離脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数として測定される。酸価が上記範囲内にあると、塩化ビニル系樹脂との相溶性が良く、長期の連続成形加工においてさらなる成形安定性の向上を図ることができる。
【0059】
また、上記酸化ポリエチレンの滴点は、90℃以上、140℃以下であるのが好ましく、90℃以上、120℃以下であるのがより好ましい。滴点は、ASTM D127に準拠した方法により測定することができる。具体的には、金属ニップルを用いて、溶融したワックスが金属ニップルから最初に滴下するときの温度として測定される。滴点が上記範囲内にあると、熱安定性に優れ、長期の連続成形加工においてさらなる成形安定性の向上を図ることができる。
【0060】
また、上記酸化ポリエチレンの密度は、0.90g/cm以上、1.00g/cm以下であるのが好ましく、0.90g/cm以上、0.95g/cm以下であるのがより好ましい。密度は、例えばASTM D1505に準拠した浮遊法にて、20℃における密度測定により算出することができる。密度が上記範囲内にあると、熱安定性に優れ、長期の連続成形加工においてさらなる成形安定性の向上を図ることができる。
【0061】
酸化ポリエチレンの含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上、2.00重量部以下であるのが好ましく、0.1重量部以上、1.50重量部以下であるのがより好ましい。これにより、上記効果を確実に発揮することができる。
【0062】
このような酸化ポリエチレンを配合することにより、塩化ビニル樹脂組成物を押出成型する際、ローラー301〜303から塩化ビニル樹脂組成物が離れるとき、ローラー301〜303に塩化ビニル樹脂組成物の成分が付着してしまうのを防止することができる。
【0063】
また、塩化ビニル樹脂組成物は、滑材として、さらに脂肪族モノカルボン酸を含んでいてもよい。
【0064】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数16以上の飽和脂肪族モノカルボン酸およびヒドロキシカルボン酸が好ましく、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、12−ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。
【0065】
これらの中でもステアリン酸であるのが特に好ましい。これにより、塩化ビニル樹脂組成物を押出成形する際の押出性を高めることができるとともに、シート材1の外観が悪化するのを防止することができる。
【0066】
ステアリン酸の含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上、1.0重量部以下であるのが好ましく、0.3重量部以上、0.8重量部以下であるのがより好ましい。これにより、塩化ビニル樹脂組成物を成形する際の押出性をさらに高めることができるとともに、得られたシート材1における外観が悪化するのを確実に防止することができる。
【0067】
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上記以外の滑材として、脂肪族モノカルボン酸の金属塩を含んでいてもよい。
【0068】
脂肪族モノカルボン酸としては、上述したようなものを用いることができる。また、金属塩の金属としては、カルシウム、バリウム。マグネシウム、アルミニウム、亜鉛等が挙げられる。
【0069】
脂肪族モノカルボン酸の金属塩の含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上、3.0重量部以下であるのが好ましく、0.3重量部以上、2.5重量部以下であるのがより好ましい。これにより、塩化ビニル樹脂組成物を押出成形する際の押出性を高めることができるとともに、得られたシート材1における外観が悪化するのを防止することができる。
【0070】
また、塩化ビニル樹脂組成物は、上記以外の滑材として、エチレン酢酸ビニル重合体を含んでいてもよい。エチレン酢酸ビニル重合体の含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.2重量部以上、2.0重量部以下であるのが好ましい。
【0071】
また、塩化ビニル樹脂組成物は、上記以外の滑材として、メタクリル酸アルキル−アクリル酸アルキル共重合体を含んでいてもよい。メタクリル酸アルキル−アクリル酸アルキル共重合体の含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上、0.5重量部以下であるのが好ましい。
【0072】
<顔料>
塩化ビニル樹脂組成物は、顔料を含んでいてもよい。この顔料としては、要求される着色に応じて選択されるが、酸化チタン、カーボンブラックの他、アゾ系、ベンズイミダゾロン系、ジアリライド系、キナクリドン系、イソインドリノン系、バット系、フタロシアニン系、ジオキサン系等の有機顔料や、チタンイエロー、黄鉛等の無機顔料が挙げられる。
【0073】
このように、本発明によれば、塩化ビニル樹脂組成物に対するジブチルスズ系安定剤を省略し、ジメチルスズ系安定剤を用いることにより、REACH規制を満足することができる。さらに、塩化ビニル樹脂組成物に対して、滑材として酸化ポリエチレンを配合することにより、塩化ビニル樹脂組成物をシート材に成形する際に、ローラーが汚れてしまうのを防止または抑制することができる。
【0074】
以上より、本発明によれば、REACH規制を満足しつつ、成形する際に用いるローラー等に汚れが付着するのを防止することができる。
【0075】
また、本発明のシート材1は、自動車、オートバイ、鉄道等の車両の各種部品や、航空機、船舶、住宅等の内装材や、医療機器、OA機器等の筐体に適用可能である。
【0076】
以上、本発明の塩化ビニル樹脂組成物およびシート材について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、塩化ビニル樹脂組成物には、任意の構成物が付加されていてもよい。
【実施例】
【0077】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。
1.塩化ビニル樹脂組成物の検討
1−1.塩化ビニル樹脂組成物の形成
[実施例1]
[1]まず、100重量部のポリ塩化ビニル樹脂(重合度800)と、15.0重量部のアクリル系ポリマー(分子量300万、メチルメタクリレート−ブチルアクリレート共重合体)と、3.0重量部のジメチルスズビス(2−エチルヘキシルメルカプトアセテート)と、0.5重量部の酸化ポリエチレン1(重量平均分子量1200、酸価15mgKOH/g、滴点101℃、密度0.93g/cm、低密度ポリエチレンポリマーの酸化物)と、1.0重量部のエチレン酢酸ビニル共重合体と、0.5重量部のステアリン酸と、1.5重量部の脂肪族モノカルボン酸カルシウム塩と、3.0重量部の酸化チタン(堺化学社製、「R−42」)と、を攪拌・混合することにより塩化ビニル樹脂組成物形成用材料を準備した。
【0078】
[2]次に、調製された塩化ビニル樹脂組成物形成用材料を、図1に示す製造装置10が備える押出機200に収納し、押出、溶融または軟化状態とされたシートを得た。そして、溶融または軟化状態とされたシートをローラー301〜303に掛け回し、挾持することで、平坦化し、冷却部400にて冷却する。そして、切断部500によって所定長さで切断することにより、塩化ビニル樹脂組成物からなるシート材を得た。
【0079】
[実施例2〜10、比較例1および2、参考例1]
前記工程[1]において、安定剤、滑材の種類および配合量を表1に示すように変更したこと以外は前記実施例1と同様にして、実施例2〜11、比較例1および2、参考例1の塩化ビニル樹脂組成物を得た。
【0080】
各実施例、比較例および参考例の塩化ビニル樹脂組成物形成用材料に用いた滑材について以下に示す。
【0081】
酸化ポリエチレン2(重量平均分子量1500、酸価16mgKOH/g、滴点108℃、密度0.93g/cm、低密度ポリエチレンポリマーの酸化物)
酸化ポリエチレン3(重量平均分子量3500、酸価25mgKOH/g、滴点136℃、密度0.99g/cm、高密度ポリエチレンポリマーの酸化物)
ポリエチレン(重量平均分子量1000、滴点102℃、密度0.91g/cm
【0082】
1−2.評価
各実施例、各比較例および参考例の塩化ビニル樹脂組成物を、以下の方法で評価した。
【0083】
<ローラー汚れ>
目視により、塩化ビニル樹脂組成物を成形した後のローラー301〜303に、汚れが付着しているか否かを観察した。
【0084】
◎:10時間成形後も、汚れが無く良好
○:5時間成形後も、汚れが無く良好
×:汚れの付着が見られた
【0085】
<押出性>
目視により、押出機から均一に押し出されているか否かを観察した。
【0086】
○:均一に押し出されている
×:均一に押し出されていない(押出機ベント部に逆流が発生した)
【0087】
<シート外観>
冷却後、得られた塩化ビニル樹脂組成物の表面の平坦性を観察した。
【0088】
◎:段差、うねりが無く良好
○:一部に小さな段差、うねりが生じたが、実際の使用上に問題なし
×:大きな段差、うねりが生じた(実際の使用上に問題あり)
【0089】
以上のようにして得られた各実施例、各比較例および参考例の塩化ビニル樹脂組成物における評価結果を、それぞれ、下記の表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
表1に示したように、各実施例における塩化ビニル樹脂組成物では、REACH規制を満足しつつ、各比較例および参考例1と同等もしくはそれ以上にローラーの汚れを防止することができる結果となった。
【符号の説明】
【0092】
1 シート材
10 製造装置
100 供給部
200 押出機
300 成形部
301 ローラー
302 ローラー
303 ローラー
400 冷却部
401 ローラー
500 切断部
501 刃部
【要約】
【課題】REACH規制を満足しつつ、成形する際に用いるローラー等に汚れが付着するのを防止することができる塩化ビニル樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、主材としてのポリ塩化ビニル系樹脂と、補強剤としてのアクリル系ポリマーと、安定剤としてのジメチルスズ系安定剤と、滑材としての酸化ポリエチレンと、を含むことを特徴とする。また、酸化ポリエチレンの含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上、2.00重量部以下である。そして、滑材は、さらに、脂肪族モノカルボン酸カルシウム塩を含み、脂肪族モノカルボン酸カルシウム塩の含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上、3.0重量部以下である。
【選択図】図2
図1
図2