特許第6191761号(P6191761)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191761
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】溶接構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20170828BHJP
   B23K 26/14 20140101ALI20170828BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20170828BHJP
   B23K 103/04 20060101ALN20170828BHJP
【FI】
   B23K26/21 F
   B23K26/14
   B23K26/00 N
   B23K26/21 N
   B23K103:04
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-511644(P2016-511644)
(86)(22)【出願日】2015年4月3日
(86)【国際出願番号】JP2015060610
(87)【国際公開番号】WO2015152402
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2016年6月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-78075(P2014-78075)
(32)【優先日】2014年4月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100140121
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 朝幸
(72)【発明者】
【氏名】巽 雄二郎
(72)【発明者】
【氏名】富士本 博紀
(72)【発明者】
【氏名】泰山 正則
【審査官】 篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−021216(JP,A)
【文献】 特開2004−136329(JP,A)
【文献】 特開2014−113598(JP,A)
【文献】 特開2002−263878(JP,A)
【文献】 特開平05−208290(JP,A)
【文献】 特表2007−520355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/21
B23K 26/00
B23K 26/14
B23K 103/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの鋼板をレーザ溶接で、アシストガスを溶融池表面に供給しながら突き合わせ溶接することにより溶接構造体を製造する方法であって、
上記2つの鋼板の少なくとも1つの鋼板の板厚が0.6mm以下であり、
上記アシストガスは10〜50体積%のOガスを含有する混合ガスであり、
上記アシストガス中のO濃度をC(体積%)としたとき、アシストガスの流量L(L/min)が、30−C≦L<40、かつL≧10を満たし、
溶接速度をV[m/min]、2枚の鋼板の平均の板厚をt[mm]、レーザのスポット面積をA[mm2]としたとき、レーザの出力を1.42×V×t×A[kW]〜1.83×V×t×A[kW]とする
ことを特徴とする溶接構造体の製造方法。
【請求項2】
前記2つの鋼板の溶接部の表面溶融幅は、2つの鋼板のうち薄い鋼板の板厚の2.3倍以下とし、裏面溶融幅は表面の溶融幅の0.5〜1.2倍とすることを特徴とする請求項1に記載の溶接構造体の製造方法。
【請求項3】
前記アシストガス中のO濃度が15〜30体積%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接構造体の製造方法。
【請求項4】
前記アシストガスが空気であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の溶接構造体の製造方法。
【請求項5】
前記アシストガスが、前記溶融池表面に、溶接進行方向とは反対の方向に流れるように供給されることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の溶接構造体の製造方法。
【請求項6】
前記アシストガスが溶融池表面と交差するように供給されることを特徴とする請求項に記載の溶接構造体の製造方法。
【請求項7】
前記アシストガスが溶融池より溶接進行方向前方において鋼板と交差するように供給されることを特徴とする請求項に記載の溶接構造体の製造方法。
【請求項8】
前記溶接構造体がテーラードブランク材であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の溶接構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接構造体の製造方法に関し、特に、たとえば、テーラードブランク材のような、鋼板の突き合わせレーザ溶接を用いた溶接構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用鋼板の分野においては、燃費向上のための軽量化と耐衝突特性の向上とを図るため、テーラードブランク(Tailored welded blank)の適用が拡大している。テーラードブランクとは、材質、板厚、引張強度等が異なる複数の金属板を突き合わせ溶接で一体化した板材(以下「テーラードブランク材」という)を、所望の形状にプレス成形する工法をいう。テーラードブランク材を製造する際の突き合わせ溶接には、レーザ溶接が用いられるのが一般的である。
【0003】
特許文献1〜3では、レーザ溶接を用いた突き合わせ溶接によってテーラードブランク材を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−21968号公報
【特許文献2】特開2006−187811号公報
【特許文献3】特開2007−237216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、テーラードブランク材を製造するのに用いられる金属板の板厚は0.7mm程度が下限であった。特許文献1〜3においても、実施例として詳細に開示されている鋼板の板厚は、薄いものでも0.7mmである。
【0006】
自動車のさらなる軽量化のため、テーラードブランク材を製造するのに用いられる金属板の薄肉化が検討されている。これにより、従来、テーラードブランク材を製造するのには用いられず、溶接技術が検討されていなかったさらに薄い鋼板の適用が望まれるようになっている。
【0007】
本発明者らは、薄い鋼板テーラードブランク材に適用すべく、検討を行った。その結果、実際の製造ラインにおいて板厚が0.6mm以下の鋼板を用いてレーザ溶接による突き合わせ溶接を行うと、鋼板の間のギャップが0.1mm以下(ギャップが無い場合も含む)と小さな場合であっても、溶接部分において貫通穴が発生するという問題が生じることが明らかとなった。しかしながら、主に板厚が0.7mm以上の鋼板を用いたテーラードブランク材に関する特許文献1〜3では、貫通穴の問題について報告されていない。すなわち、その打開策は、いまだ検討されていない。
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、板厚が0.6mm以下の鋼板を含む複数の鋼板を突き合わせ溶接する場合であっても、溶接部分における貫通穴の発生を防止することが可能な溶接構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、溶接部における貫通穴の発生に影響を与える要因について鋭意検討を行った。その結果、以下の知見を得るに至った。
【0010】
溶接部において貫通穴が発生するのは、溶接の際に溶融池の流れが乱れるためである。溶融池の流れの安定性には、アシストガスの種類が大きく影響する。
【0011】
レーザ溶接を行うに際して、入熱不足とならないレーザ出力の下限を下限出力、エネルギが過剰となり貫通穴が発生するレーザ出力の上限を上限出力とし、下限出力と上限出力との範囲を適正出力範囲とする。アシストガスとして一般的に使用されるArガスを用いた場合、いかなるレーザ出力においても適切に突き合わせ溶接を行うことができない。
【0012】
アシストガスを一切使用しない場合、突き合わせ溶接を行うことは可能である。しかしながら、溶融池の流れに乱れが生じることがあるため、貫通穴が時折発生し、実操業上安定的に管理することは困難である。
【0013】
アシストガスとして、適切な流量のOガスを含有する混合ガスを用いた場合、貫通穴の発生を抑制することができる。Oガスによる貫通穴の発生抑制メカニズムについては明らかではないが、以下の要因によるものと推測される。
【0014】
ガスを含有する混合ガスを溶接部に供給した場合、Arガスを吹きかけた場合と比較して溶融金属の表面張力が低下する。そのため、細くシャープな形状のキーホールが安定して形成される。これにより乱れの少ない流れが得られ、その結果、安定的に貫通穴の発生を抑制できると考えられる。
【0015】
一方、アシストガスとしてArガスを使用した場合、溶融金属の表面張力が大きく、太く丸みを帯びた形状のキーホールが形成され、キーホールが溶接方向に対して後方に伸びた後寸断され、貫通穴として残ると考えられる。
【0016】
本発明は、上記の知見を基礎としてなされたものであり、下記の溶接構造体の製造方法を要旨とする。
【0017】
(1)2つの鋼板をレーザ溶接で、アシストガスを溶融池表面に供給しながら突き合わせ溶接することにより溶接構造体を製造する方法であって、上記2つの鋼板の少なくとも1つの鋼板の板厚が0.6mm以下であり、上記アシストガスは10〜50体積%のOガスを含有する混合ガスであり、上記アシストガス中のO濃度をC(体積%)としたとき、アシストガスの流量L(L/min)が、L≧10、かつ30−C≦L<40を満たし、溶接速度をV[m/min]、2枚の鋼板の平均の板厚をt[mm]、レーザのスポット面積をA[mm2]としたとき、レーザの出力を1.42×V×t×A[kW]〜1.83×V×t×A[kW]とすることを特徴とする溶接構造体の製造方法。
【0019】
)前記2つの鋼板の溶接部の表面溶融幅は、2つの鋼板のうち薄い鋼板の板厚の2.3倍以下とし、裏面溶融幅は表面の溶融幅の0.5〜1.2倍とすることを特徴とする前記(1)の溶接構造体の製造方法。
【0020】
(3)前記アシストガス中のO濃度が15〜30体積%であることを特徴とする前記(1)又は(2)の溶接構造体の製造方法。
【0021】
)前記アシストガスが空気であることを特徴とする前記(1)〜()のいずれかの溶接構造体の製造方法。
【0022】
)前記アシストガスが、前記溶融池表面に、溶接進行方向とは反対の方向に流れるように供給されることを特徴とする前記(1)〜()のいずれかの溶接構造体の製造方法。
【0023】
)前記アシストガスが溶融池表面と交差するように供給されることを特徴とする前記()の溶接構造体の製造方法。
【0024】
)前記アシストガスが溶融池より溶接進行方向前方において鋼板と交差するように供給されることを特徴とする前記()の溶接構造体の製造方法。
【0025】
)前記溶接構造体がテーラードブランク材であることを特徴とする前記(1)〜()のいずれかの溶接構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、板厚が0.6mm以下の鋼板を含む複数の鋼板を突き合わせ溶接する場合であっても、溶接部分における貫通穴の発生を防止することが可能となる。したがって、本発明に係る溶接方法は、溶接構造体、特にテーラードブランク材を製造するのに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係る溶接方法の一例を示す図である。
図2】本発明に係る溶接方法の他の一例を示す図である。
図3】本発明に係る溶接方法の他の一例を示す図である。
図4】本発明に係る溶接方法の他の一例を示す図である。
図5】溶接構造体の表面溶融幅、裏面溶融幅を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の溶接構造体の製造方法は、アシストガスを溶融池表面に供給しながら、2つの鋼板をレーザ溶接により突き合わせ溶接するものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
【0029】
(A)アシストガスの供給
本発明の溶接構造体の製造方法では、アシストガスとして、Oガスを含有する混合ガスを溶融池表面に供給する。溶融池の流れを安定化させ、溶接部における貫通穴の発生を防止するためには、混合ガス中のOガスの含有量を10〜50体積%とする必要がある。
【0030】
ガスの含有量が高いと、酸化反応が過剰となり、スラグとして排出される酸化物が多くなる。その結果、溶接金属の形状が凹み形状となるおそれがある。したがって、混合ガス中のOガスの含有量は、30体積%以下であるのが好ましい。
【0031】
ガスの含有量が低すぎると、貫通穴が発生しやすくなる。さらに、溶接後における裏面側の溶融幅を安定的に広くするためには、混合ガス中のOガスの含有量は、15体積%以上であるのが好ましい。
【0032】
以外のガス成分は、特に制限されない。Ar、He等の不活性ガス、又はNガス、COガス、圧縮空気等を適宜用いればよい。
【0033】
また、アシストガスとして、Oガスを21体積%程度含有する空気を用いてもよい。アシストガスとして空気を用いれば、製造コストを低く抑えることが可能である。
【0034】
アシストガスの供給手段について、特に制限はない。たとえば、混合ガスを所定の方向に向けて噴射することが可能な噴出口を有する、通常のノズルを用いればよい。ノズルの種類についても特に制限はない。たとえば、矩形の噴出口を有するフラットノズル、又は円管による丸管ノズル等が例示される。
【0035】
溶接部に貫通穴が発生しないようにするためには、溶融金属を溶接進行方向の後方に押し流すようにアシストガスを供給することが好ましい。すなわち、溶融池表面において、供給手段から噴射したアシストガスが、溶接進行方向とは反対の方向に流れるように供給されることが好ましい。
【0036】
上記の目的を達成するためには、アシストガスの供給は、溶融池表面に向かって直接吹き付けることで行うことが好ましい。つまり、供給手段から噴射されるアシストガスの中心線が溶融池表面で交差するようにアシストガスの噴射位置及び方向を調整することが望ましい。
【0037】
溶融池より溶接進行方向前方の鋼板の突き合わせ部に存在する異物等を除去するために、溶融池より溶接進行方向前方の鋼板に吹き付け、鋼板表面で反射した混合ガスが溶融池表面に供給されるように、混合ガスの噴射位置、方向及び強度を調整してもよい。つまり、供給手段から噴射されるアシストガスの中心線が溶融池より溶接進行方向前方において鋼板と交差するように供給手段を配置してもよい。
【0038】
図1〜4は、本発明に係る溶接方法の一例を説明するための図である。溶接ヘッド1から射出されたレーザ11によって鋼板2の溶接を行うに際し、供給手段3によって混合ガス12を供給する。図1では、溶接進行方向Aに対して、溶接ヘッド1の前方に設置した供給手段3から、アシストガス12を溶融池13に対して直接混合ガスを吹き付けている。
【0039】
図2では、図1と同様に供給手段3を溶接ヘッド1の前方に設置しているが、アシストガス12の吹き付けは溶融池より前方の鋼板2に向けて行い、鋼板2の表面で反射したアシストガス12が溶融池13の表面に供給されるように、供給手段3の位置を調整している。
【0040】
図3に示すように、供給手段3を溶接ヘッド1の前方に設置した上で、アシストガス12を前方に吹き付け、鋼板2の表面で反射したアシストガス12が溶融池13の表面に供給されるように供給手段3の噴射位置及び噴射強度を調整してもよい。溶融池13より溶接進行方向Aの前方に向けて混合ガス12を勢いよく吹き付けることで、突き合わせ部14に付着している防錆油、滓、スパッタ等を除去することが可能となる。
【0041】
図4に示すように、供給手段3を溶接ヘッド1の後方に設置し、混合ガス12を前方に吹き付け、鋼板2の表面で反射した混合ガス12が溶融池13の表面に供給されるように供給手段3の噴射位置及び噴射強度を調整してもよい。
【0042】
アシストガスの流量L(L/min)は、O濃度をC(体積%)としたとき、L≧10、かつ30−C≦L<40を満たすようにする。酸素濃度が高いほど、流量は少なくともよい。ただし、流量が小さすぎると、ガスが溶融金属に到達しにくくなり、アシストガスの役割を果たさなくなる。流量が大きすぎると溶融金属が溶け落ちる可能性がある。
【0043】
アシストガスの吹きかけ力Fは、0.001〜0.025Nが好ましい。アシストガスの吹きかけ力は、F=ρQ/Aで求めることができる。ここで、ρは混合ガスの密度、Qは混合ガスの流量、Aは混合ガスの配管の断面積である。
【0044】
(B)鋼板
本発明の溶接構造体の製造方法においては、2つの鋼板を突き合わせて溶接する。前述のように、板厚が0.6mm以下の鋼板を含む板組の突き合わせ溶接を行う場合には、溶接部に貫通穴が生じやすくなる。本発明の溶接構造体の製造方法は、0.6mm以下の鋼板を含む板組の突き合わせ溶接を行う際に、特にその効果を発揮する。
【0045】
本発明の溶接構造体の製造方法を適用する鋼種に特に制限はない。非めっき鋼板であっても、溶融亜鉛めっき鋼板等のめっき鋼板であってもよい。鋼板の引張強度についても制限はなく、200〜1900MPa級の鋼板を適宜用いることができる。
【0046】
鋼板の板厚の差について特に制限はない。ただし、差が大きすぎると、突き合わせ溶接が困難になる場合がある。したがって、2枚の鋼板の板厚は、厚い側の板厚が薄い側の板の3倍以下であることが好ましい。
【0047】
レーザ溶接で突き合わせ溶接を行う際は、鋼板同士の間隔は0.1mm以下とすることが好ましい。鋼板同士の間隔が大きすぎると、溶接不良が生じるおそれがあるためである。必要に応じて、フィラワイヤを供給しながら溶接してもよい。
【0048】
(C)レーザ溶接
本発明の溶接構造体の製造方法では、レーザ溶接を用いる。レーザ発振器の種類は、kW級のレーザを発振することができるものであれば、特に限定されない。たとえば、ファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ、半導体レーザ、炭酸ガスレーザ等の発振器を用いることができる。上記の発振器を用いれば、高出力のレーザを得ることができるので、効率良く溶接をすることが可能となる。
【0049】
溶接位置におけるレーザのスポット径は、小さい方が溶融池の流れが安定する。ただし、小さすぎると、突き合わせでの対隙間性が低下し、良好な溶接性が得られなくなるおそれがある。スポット径が大きすぎると、溶接速度が低下し、表面溶融幅が広がりすぎ、好ましくない。そのため、直径0.5〜0.7mmとするのが好ましい。円形以外の矩形等のスポットを適用する場合、溶接方向と直交する方向のサイズを0.5〜0.7mmとするのが好ましい。溶接速度は、溶接形状や生産性を考慮し、4〜8m/minが好ましい。
【0050】
良好な溶接形状を得るために、レーザの出力は、溶接速度をV[m/min]、2枚の鋼板の平均の板厚をt[mm]、レーザのスポット面積をA[mm]としたとき、1.42×V×t×A[kW]〜1.83×V×t×A[kW]とすることが好ましい。たとえば、スポットを直径0.6mmの円形とし、板厚0.5mm、1.0mmの板組を、溶接速度6m/minで溶接する場合は、1.8〜2.3kW程度とすることが好ましい。
【0051】
レーザ出力が低すぎると、鋼板が十分に溶融せず、溶接が不十分となる。レーザ出力が大きすぎると、飛散するスパッタ量が増加し、好ましくない。
【0052】
なお、本発明の溶接方法は2つの鋼板の突き合わせ溶接に関するが、2つの鋼板が突き合わせ溶接された溶接部を複数有するテーラードブランク材など(たとえば、中央の鋼板に対し左右それぞれに鋼板を突き合わせ溶接した、3枚の板組からなるテーラードブランク材)の製造にも使用できることはいうまでもない。
【0053】
(D)溶接部
溶接部の表面溶融幅は、2つの鋼板のうち薄い鋼板の板厚の2.3倍以下、裏面溶融幅は表面の溶融幅の0.5〜1.2倍とするのが好ましい。表面溶融幅が大きくなりすぎると、溶接部の裏面が溶融しなかったり、溶融金属が垂れ下がりやすくなったりし、好ましくない。裏面溶融幅は小さすぎると十分な強度が確保できない。大きすぎると、溶融金属が垂れ下がりやすくなり好ましくない。溶接部の強度を十分なものとするためには、裏面溶融幅は0.8mm以上あることが好ましい。なお、表面溶融幅は図5のW1、裏面溶融幅はW2の長さとする。
【実施例】
【0054】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
板厚が0.5mmの270MPa級冷延鋼板と、板厚が1.0mmの590MPa級冷延鋼板を、ファイバレーザで突き合わせ溶接した。
【0056】
レーザのスポット径は0.6mmであり、溶接速度は6m/minで一定とした。アシストガスを供給するノズルの形状は円管状であり、内径は5.5mmである。ノズルは、図1に示すように溶接ヘッドの前方に設置し、ノズル先端と鋼板との距離を15mm、鋼板とノズルのなす角を45°とし、アシストガスを吹き付けた。
【0057】
アシストガスの種類を変化させながらレーザ出力を調整し、溶接性の評価を行った。溶接条件及び評価結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1の数値は裏面側の溶融幅の平均値(mm)である。数値が示されている条件では、貫通穴が生じずに鋼板の裏面側まで溶接ビードが形成された。裏面側の溶融幅が0.8mm以上になる場合を良好な結果と判定した。■印は入熱不足により、裏面側まで溶接ビードが形成されなかったことを意味する。▲印は裏面側まで溶接ビードが形成されたが、その溶融幅が不安定であったことを意味する。×印は貫通穴が発生したことを意味する。
【0060】
表1から分かるように、アシストガスを用いなかった場合、又はArガス、Nガス、COガス若しくはCOガスとArガスの混合ガスを用いた場合は、安定して広い幅の溶接ビードを形成させることができなかった。
【0061】
一方、アシストガスとしてOガスを含む混合ガスを用いた場合、Oガスの含有量が10〜50体積%の場合、貫通穴が発生することなく裏面側まで安定した溶接ビードを形成することが可能であった。特にOガスの含有量が15〜50体積%の場合、適正出力範囲を十分に確保することができた。ただし、Oガスの含有量が50体積%の混合ガスを用いた場合、溶接金属が減肉気味でやや凹んだ形状となった。また、アシストガスとして空気を用いた場合であっても、良好な結果となった。Oガスの含有量が5体積%の場合は、広い幅の溶接ビードを形成することができなかった。
【0062】
[実施例2]
実施例1と同様にして、レーザ出力を2.1kWとし、アシストガス中のO濃度とアシストガスの流量を変化させて、溶接性の評価を行った。溶接条件及び評価結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2の数値は裏面側の溶融幅の平均値(mm)である。数値が示されている条件では、貫通穴が生じずに鋼板の裏面側まで溶接ビードが形成された。×印は貫通穴が発生したことを意味する。
【0065】
表2から分かるように、混合ガス中のO濃度をC(体積%)としたとき、混合ガスの流量L(L/min)が、L≧10、かつ30−C≦L<40を満たすときに、良好な結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、板厚が0.6mm以下の鋼板を含む複数の鋼板を突き合わせ溶接する場合であっても、溶接部分における貫通穴の発生を防止することが可能となる。したがって、本発明に係る溶接方法は、溶接構造体、特にテーラードブランク材を製造するのに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0067】
1 溶接ヘッド
2 鋼板
3 供給手段
11 レーザ
12 混合ガス
13 溶融池
14 突き合わせ部
A 溶接進行方向
51 鋼板
52 鋼板
53 溶接部
W1 表面溶融幅
W2 裏面溶融幅
図1
図2
図3
図4
図5