(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、フェライトの析出強化のためにTiやNbが添加される。そのため熱間圧延時に集合組織が発達してフェライトの塑性異方性が強くなる。その結果、十分な穴拡げ性が得られない。
また、特許文献1に記載の技術ではSiが0.5%以上添加される。そのため、熱間圧延時に生成したスケールによって、鋼板に筋模様(以下、スケール模様という)が生成するので、優れた外観が得られない。
【0007】
特許文献2に記載の技術では、鋼板にSiの代替としてAlを添加することで、外観や化成処理性を向上させている。しかしながら、Alを添加するとフェライト変態開始温度が高温化されるので、粗大なフェライトとマルテンサイトとが形成される。その結果、特許文献2に記載の鋼板では、フェライトとマルテンサイトとの界面で割れが起きやすく、伸び及び穴拡げ性が十分ではなかった。
【0008】
上記のような事情を鑑み、本発明は、外観に優れるとともに、伸びと穴拡げ性とのバランスに優れる引張強度590MPa以上の高強度熱延鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明において、外観に優れるとは、表面のスケール模様の生成が少ないことを示し、伸びと穴拡げ性とのバランスに優れるとは、20%以上の伸びと100%以上の穴拡げ率とを同時に有することを示す。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するための手段について種々検討した。
ミクロ組織がマルテンサイトを含むと、強度が向上するが、穴拡げ性の低下が懸念される。それゆえ、強度を向上させるために、マルテンサイトによる強度向上(変態強化)の代替として、TiやNbの析出強化を利用することが考えられる。しかしながら、TiやNbを含有させると、熱間圧延中に集合組織が形成される。
また、外観の改善ために、スケール模様生成の原因となるSiの代替としてAlを含有させると、粗大なマルテンサイトが形成され、穴拡げ性が劣化する。本発明者らは、これら2つの課題を解決させるためには、変態直前のオーステナイト組織を制御することが重要であることを新たに見出した。
具体的には、仕上圧延の最終パスにおける圧下率を20%以上とし、かつ仕上圧延温度を880℃以上、1000℃以下とすることによって、オーステナイトの再結晶を促進させることができ、これにより、集合組織の改善を図ることができることを見出した。さらに、仕上圧延終了後、0.01秒〜1.0秒の間に鋼板の水冷を開始することで、短時間で再結晶を完了させることができ、これにより微細な再結晶オーステナイトを作りこむことができることを見出した。微細な再結晶オーステナイトからの変態では、フェライトの核生成サイトが多く、かつ素早く変態が進む。そのため、上記冷却完了後に空冷を行うことで細かいフェライトが形成され、空冷中に残留するオーステナイトも微細に残存する。その結果、変態後のマルテンサイトを微細化することが可能となる。
【0010】
本発明は上記の知見に基づいて得られた。本発明の要旨は以下の通りである。
【0011】
(1)すなわち、本発明の一態様に係る熱延鋼板は、化学成分が、質量%で、C:0.02〜0.10%、Si:0.005〜0.1%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.2〜0.8%、N:0.01%以下、Ti:0.01〜0.11%、Nb:0
.01〜0.10%、Ca:0〜0.0030%、Mo:0
〜0.5%、Cr:0
〜1.0%、を含有し、残部Feおよび
不純物からなり、Si含有量と、Al含有量との合計が、0.20%超、0.81%未満であり;ミクロ組織が、面積率で、90〜99%のフェライトと、1〜10%のマルテンサイトとを有し、かつベイナイトが5%以下に制限され;前記マルテンサイトの粒径が1〜10μmであり;鋼板の圧延面に平行で、かつ圧延方向に平行な{211}<011>方位のX線ランダム強度比が3.0以下であり;引張強度が590MPa以上である。
【0012】
(2)上記(1)に記載の熱延鋼板では、前記化学成分が、質量%で
Ca:0.0005〜0.0030%、Mo:0.02〜0.5%、Cr:0.02〜1.0%のうち1種以上を含有してもよい。
【0013】
(3)上記(1)又は(2)に記載の熱延鋼板の製造方法は、上記(1)又は(2)に記載の化学成分を有する鋼を連続鋳造することによってスラブを得る鋳造工程と;前記スラブを1200℃以上の温度域まで加熱する加熱工程と;加熱された前記スラブに粗圧延を行う粗圧延工程と;前記粗圧延工程後に、前記スラブを、直列に配置された複数の圧延機を有する仕上圧延機列で、最終パスの圧下率が20%以上、仕上圧延温度が880〜1000℃となるように連続仕上圧延して鋼板を得る仕上圧延工程と;前記仕上圧延工程完了から0.01秒〜1.0秒後に開始され、前記鋼板を、30℃/秒以上の冷却速度で600〜750℃(ただし600℃を除く)の温度範囲まで水冷する一次冷却工程と;前記一次冷却工程後、前記鋼板を、
600〜750℃の温度範囲で3〜10秒間空冷する空冷工程と;前記空冷工程後、前記鋼板を、30℃/秒以上の冷却速度で200℃以下まで水冷する二次冷却工程と;前記二次冷却工程後に前記鋼板を巻き取る巻き取り工程と;を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明の上記態様によれば、所定の化学成分を有し、ミクロ組織において、フェライトの組織分率が90%以上99%以下、かつマルテンサイトの粒径が1μm以上10μm以下で、マルテンサイトの組織分率が1%以上10%以下であり、圧延面に平行でかつ圧延方向に平行な{211}<011>方位のX線ランダム強度比が3.0以下であり、引張強度が590MPa以上である熱延鋼板が得られる。この熱延鋼板は、外観、及び伸びと穴拡げ性とのバランスに優れる。
【0015】
また、所定の化学成分を有するスラブを熱間圧延するに際し、仕上圧延温度を880℃以上、1000℃以下とすることでオーステナイトの再結晶を促進させ、集合組織の改善を図ることができる。さらに、仕上圧下率(最終パスでの圧下率)を20%以上とし、圧延終了後は0.01秒以上、1.0秒以内に水冷を開始することで、短時間で再結晶を完了させて、微細な再結晶オーステナイトを作りこむことができる。微細な再結晶オーステナイトからの変態では、フェライトの核生成サイトが多く、かつ素早く変態が進む。そのため、その後に空冷を行うことで、細かいフェライトが形成される。また、空冷中に残留するオーステナイトも微細に残存するため、変態後のマルテンサイトを微細化することが可能となる。すなわち、本発明の上記態様によれば、所定のミクロ組織とX線ランダム強度比とを有する、外観に優れるとともに伸びと穴拡げ性とのバランスに優れる引張強度590MPa以上の高強度熱延鋼板を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る熱延鋼板(以下、本実施形態に係る熱延鋼板と言う場合がある。)について説明する。
本実施形態に係る熱延鋼板は、引張強度590MPa以上の高強度熱延鋼板を対象とする。このような高強度熱延鋼板において、穴拡げ性の向上を実現するためには、そのミクロ組織(金属組織)において、フェライトの組織分率(面積率)を90%以上、マルテンサイトの組織分率(面積率)を10%以下にすることが効果的である。各組織の組織分率及び粒径は、例えば、適切に腐食を行った鋼板の光学顕微鏡写真(視野:500×500μmの視野)で得られた組織写真に対し、画像解析を行って求めることができる。このような組織を得る手段として、例えば特許文献1に示すように、0.5%以上のSiを含有させた鋼板に対し、熱間圧延工程のランアウトテーブル(以下、ROTという)中で空冷(中間空冷)を施し、フェライト変態を促進させる方法が考えられる。しかしながら、SiはSiスケールを起因としたスケール模様を発生させる原因となる。そのため、Siを含有させると、鋼板使用時の外観不良が課題となる。
一方で、Siを添加しない場合にはフェライト変態を促進させるために仕上圧延温度を低温化させる必要が生じる。しかしながら、仕上圧延温度を低温化すると鋼板の集合組織の発達を招く。具体的には、圧延面に平行で、かつ圧延方向に平行な{211}<110>が発達する。このような集合組織が発達すると、塑性変形の異方性が強くなり、穴拡げ性が劣化する。
つまり、Siを添加しない鋼板で伸びと穴拡げ性とのバランスを向上させることは、従来達成できていなかった。
【0018】
本実施形態に係る熱延鋼板では、Siの代替として、Alでフェライト変態を促進させる。Alを所定量含有させ、フェライトを微細なオーステナイトから変態させることで、フェライトの粗大化を回避することが可能となる。
また、仕上圧延において、仕上温度を880〜1000℃、最終パスの圧下率を20%以上とし、仕上圧延終了後、0.01〜1.0秒の間に一次冷却を開始する。この一次冷却では、30℃/秒以上の冷却速度で600〜750℃まで冷却する。一次冷却後、3〜10秒空冷し、空冷後、30℃/秒以上の冷却速度で200℃以下まで二次冷却を行い、巻き取る。上述の製造方法により、フェライトの組織分率が90〜99%、マルテンサイトの粒径が1〜10μmで、マルテンサイトの組織分率が1〜10%であり、鋼板集合組織が圧延面に平行で、圧延方向に平行な{211}<011>方位のX線ランダム強度比が3.0以下、引張強度が590MPa以上の熱延鋼板を得ることができる。この熱延鋼板は、外観、及び伸びと穴拡げ性とのバランスに優れる。
【0019】
以下に本実施形態に係る熱延鋼板について詳細に説明する。
まず、化学成分の限定理由について述べる。
【0020】
C:0.02〜0.10%
Cは鋼板の強度を向上させるために重要な元素である。この効果を得るため、C含有量の下限を0.02%とする。C含有量の好ましい下限は0.04%である。一方で、C含有量が0.10%を超えると靭性が劣化し、鋼板としての基本的な特性が確保できない。そのため、C含有量の上限を0.10%とする。
【0021】
Si:0.005〜0.1%
Siは予備脱酸に必要な元素である。そのため、Si含有量の下限を0.005%とする。一方で、Siは外観不良を引き起こす原因となる元素であるため、Si含有量の上限を0.1%とする。Si含有量は、好ましくは、0.1%未満であり、より好ましくは0.07%以下であり、さらに好ましくは、0.05%以下である。
【0022】
Mn:0.5〜2.0%
Mnは焼入れ性向上及び固溶強化によって鋼板の強度上昇に寄与する元素である。目的の強度を得るため、Mn含有量の下限を0.5%とする。しかしながら、Mn含有量が過剰であると靭性の等方性に有害なMnSが生成する。そのため、Mn含有量の上限を2.0%とする。
【0023】
P:0.1%以下
Pは不純物であり、加工性や溶接性に悪影響を及ぼすとともに、疲労特性も低下させる元素である。そのため、P含有量は低いほど望ましいが、脱燐コストの関係からその下限を0.0005%としてもよい。P含有量が0.1%を超えると、その悪影響が顕著となるため、P含有量を0.1%以下に制限する。
【0024】
S:0.01%以下
Sは、靭性の等方性に有害なMnS等の介在物を生成させる。そのため、S含有量は低いほど望ましいが、脱硫コストの関係からその下限を0.0005%としてもよい。S含有量が、0.01%を超えるとその悪影響が顕著となるため、S含有量を0.01%以下に制限する。特に厳しい低温靭性が要求される場合には、S含有量を0.006%以下に制限することが好ましい。
【0025】
Al:0.2〜0.8%
Alは本実施形態に係る熱延鋼板に重要な元素である。仕上圧延後のROTでの冷却中にフェライト変態を促進させるために、Al含有量の下限を0.2%とする。しかし、Al含有量が過剰になると、クラスタ状に析出したアルミナが生成され、靭性が劣化する。そのため、Al含有量の上限を0.8%とする。
【0026】
N:0.01%以下
NはSよりも高い温度域でTiと析出物を形成する元素である。N含有量が過剰であると、Sを固定するのに有効なTiを減少させるばかりでなく、粗大なTi窒化物を形成して鋼板の靭性を劣化させる。したがってN含有を0.01%以下に制限する。
【0027】
Ti:0.01〜0.11%
Tiは析出強化により鋼板の強度を向上させる元素である。フェライトを析出強化し、優れた伸びと穴拡げ性とのバランスを得るために、Ti含有量の下限を0.01%とする。しかしながら、Ti含有量が0.11%を超えるとTiNを起因とした介在物が生成し、穴拡げ性が劣化する。そのため、Ti含有量の上限を0.11%とする。
【0028】
0.20%<Si+Al<0.81%
Si及びAlはどちらもフェライト変態を促進させる元素である。Si含有量とAl含有量との合計であるSi+Alが0.20%以下では中間空冷中にフェライト変態が進まず、ROT冷却中に目的のフェライト組織分率を得ることができない。一方、Si+Alが0.81%以上では、フェライト変態温度が過度に高くなり、圧延中にフェライト変態が起こるため、集合組織の異方性が強くなる。Si+Alは、好ましくは、0.20%超、0.60%以下である。
【0029】
本実施形態に係る熱延鋼板は、上述の化学成分を含有し、残部がFe及び不純物からなることを基本とする。しかしながら、製造ばらつきを低減させたり、強度をより向上させるために、Nb、Ca、Mo、Crから選択される一種以上を下記の範囲でさらに含有させてもよい。なお、これらの化学元素は、必ずしも鋼板中に添加する必要がないため、その下限は、0%である。
【0030】
Nb:0.01〜0.10%
Nbは熱延鋼板の結晶粒径を小さくすること及びNbCの析出強化により鋼板の強度を高めることができる。これらの効果を得る場合、Nb含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Nb含有量が0.10%を超えると、その効果は飽和する。そのため、Nb含有量の上限を0.10%とする。
【0031】
Ca:0.0005〜0.0030%
Caは溶鋼中に微細な酸化物を多数分散させ、組織を微細化する効果を有する。また、Caは、溶鋼中のSを球形のCaSとして固定して、MnSなどの延伸介在物の生成を抑制することにより、鋼板の穴拡げ性を向上させる元素である。これらの効果を得る場合、Ca含有量を0.0005%以上にすることが好ましい。一方、Ca含有量が0.0030%を超えてもその効果は飽和するため、Ca含有量の上限を0.0030%とする。
【0032】
Mo:0.02〜0.5%
Moはフェライトを析出強化させるのに有効な元素である。この効果を得る場合、Mo含有量を0.02%以上にすることが望ましい。ただし、Mo含有量が過剰になると、スラブの割れ感受性が高まってスラブの取り扱いが困難になる。そのため、Mo含有量の上限を0.5%とする。
【0033】
Cr:0.02〜1.0%
Crは鋼板の強度を向上させるのに有効な元素である。この効果を得る場合、Cr含有量を0.02%以上とすることが好ましい。ただし、Cr含有量が過剰になると、伸びが低下する。そのためCr含有量の上限を1.0%とする。
【0034】
次に、本実施形態に係る熱延鋼板のミクロ組織及びX線ランダム強度比について説明する。
【0035】
高強度と高い伸びとを両立した鋼板として、軟質で伸びに優れたフェライト中にマルテンサイトなどの硬質組織を分散させた鋼板である複合組織鋼がある。このような複合組織鋼は、高強度でありながら高い伸びを有している。しかしながら、複合組織鋼の場合、硬質組織近傍に高いひずみが集中して、亀裂伝搬速度が速くなるので、穴拡げ性が低いという欠点がある。
【0036】
マルテンサイトの存在に起因する穴拡げ性の劣化を抑制するためには、マルテンサイトの粒径を10μm以下にした上で、ミクロ組織中のマルテンサイトの組織分率(面積率)を10%以下にすることが有効である。一方で、疲労特性や伸びと強度のバランスを確保するためには、マルテンサイトの面積率を1%以上にする必要がある。また、穴拡げ性の劣化を抑制するために、マルテンサイトの面積率を10%以下に低下させた場合、十分な強度が得られないことが懸念される。そのため、本実施形態に係る熱延鋼板においては、伸びを確保しつつ、強度を向上させる手段として、Tiによって析出強化したフェライトを面積率で90%以上含むことを必要としている。しかしながら、析出強化を目的として、鋼板中にTiを含有させると、仕上圧延中のオーステナイトの再結晶が抑制されるため、仕上圧延によって強い加工集合組織が形成される。この加工組織は、変態後にも引き継がれ、変態後の鋼板において、集合組織は強い集積度を示し、穴拡げ性が劣位となる。そこで、本実施形態に係る熱延鋼板においては、上記フェライト及びマルテンサイトの面積率の最適化に加え、鋼板の集合組織の指標として、圧延面に平行で、かつ圧延方向に平行な{211}<011>方位のX線ランダム強度比を3.0以下としている。上記のように組織分率と集合組織とを最適な範囲とすることで、高い伸びと穴拡げ性とを両立することが可能である。
また、ベイナイトは、フェライトに対して伸びと穴拡げ性が劣位で、マルテンサイトよりも強度上昇が低くなる。従って、伸びと穴拡げ性の両立が困難になるという理由で、ベイナイトの面積率は5%以下に制限することが望ましい。本実施形態に係る熱延鋼板において、フェライト、マルテンサイト、ベイナイト以外の組織について、その面積率を規定する必要はない。
【0037】
次に本実施形態に係る熱延鋼板の製造方法について説明する。
【0038】
まず、上述した化学成分を有する鋼を連続鋳造し、連続鋳造スラブ(以下、スラブという)を得る(鋳造工程)。熱間圧延に先立って、スラブを1200℃以上に加熱する(加熱工程)。1200℃未満でスラブを加熱した場合、TiCがスラブ中に十分に溶解せず、フェライトの析出強化に必要なTiが不足する。一方、加熱温度が1300℃以上になると、スケールの発生量や加熱炉のメンテナンス費用が増大するため、好ましくない。
【0039】
加熱したスラブに対し、粗圧延を行い(粗圧延工程)、さらに圧延機が直列に複数配置された仕上圧延機列で連続仕上圧延を行う(仕上圧延工程)。この時、仕上圧延の最終の圧下率(仕上圧延の最終パスの圧下率)は20%以上とし、最終の仕上圧延の仕上温度FT(最終パス完了時の温度)は880〜1000℃とする。オーステナイトの再結晶を高温で起こすためには最終パスの圧下率として20%以上の圧下率が必要となる。最終パスの圧下率が20%未満では再結晶に必要な駆動力が十分でなく、仕上圧延の最終パス完了後から冷却開始までの間に粒成長が起こる。その結果、マルテンサイトが粗大化して穴拡げ性が劣位となる。仕上圧延温度が880℃未満ではオーステナイトの再結晶が進行せず、鋼板の集合組織が発達し、圧延面に平行で、圧延方向に平行な{211}<011>方位のX線ランダム強度比が3.0超となるので、穴拡げ性が劣位となる。仕上圧延温度が1000℃超ではオーステナイトの結晶粒径が粗大化するとともに、転位密度が急激に低下するためフェライト変態が大幅に遅延する。その結果、90%以上のフェライトの組織分率が得られなくなる。
なお、より確実にオーステナイトを再結晶させるには、仕上圧延温度は、900℃以上にすることが好ましい。
【0040】
仕上圧延に引き続いて、一次冷却を行う(一次冷却工程)。この一次冷却は仕上圧延完了後、0.01〜1.0秒の間に開始する。一次冷却では水冷を行うが、圧延後にオーステナイトの再結晶を完了させるためには仕上圧延完了から一次冷却開始まで、0.01秒以上空冷(放冷)する必要がある。確実に再結晶を完了させるため、仕上圧延完了から一次冷却開始までの時間を、好ましくは0.02秒以上、より好ましくは0.05秒以上にすることが好ましい。しかしながら、空冷時間が長いと再結晶したオーステナイトの結晶粒の粗大化が起き、フェライト変態が大幅に遅延され、粗大なマルテンサイトが形成される。フェライトとマルテンサイトとの界面に生じるボイドを抑制し、優れた穴拡げ性を得るためにはマルテンサイトの粒径を10μm以下にすることが重要である。そのためにはオーステナイトの結晶粒粗大化を抑制しておく必要があるので、一次冷却は仕上圧延完了後1.0秒以内に開始する。
【0041】
仕上圧延後の一次冷却は30℃/秒以上の冷却速度で冷却停止温度が600〜750℃の温度範囲となるように行う。また、一次冷却完了後、この温度範囲で、3〜10秒の中間空冷を行う(空冷工程)。微細なオーステナイトは結晶粒の成長速度が速いので、冷却速度が30℃/秒未満では冷却中に粒成長し、組織が粗大になる。一方、一次冷却の冷却速度が速すぎると鋼板の板厚方向に温度分布が生じやすくなる。板厚方向に温度分布が存在すると、フェライト及びマルテンサイトの粒径が、鋼板中心部と表層部で変化し、材質バラつきが大きくなることが懸念される。そのため、一次冷却の冷却速度は、100℃/秒以下とすることが好ましい。冷却停止温度、及び空冷を行う温度範囲が600℃未満ではフェライト変態が遅延し、高いフェライト分率が得られず、伸びが劣化する。一方で、冷却停止温度、及び空冷を行う温度範囲が750℃超ではフェライト中にTiCが粗大析出するためフェライトの析出強化が十分に得られず、引張強度590MPaを得られない。中間空冷はフェライト変態を起こさせるため3秒以上必要となるが、10秒超の空冷ではベイナイトの析出が進行することによって伸びと穴拡げ性が劣位となる。
【0042】
中間空冷の後は、30℃/秒以上の冷却速度で、200℃以下まで鋼板を冷却する二次冷却を行い(二次冷却工程)、巻き取る(巻き取り工程)。二次冷却の冷却速度が30℃/秒未満ではベイナイト変態が進み、マルテンサイトが得られなくなる。この場合、引張強度が低下し、伸びが劣位となる。一方、二次冷却の冷却速度が速すぎると鋼板の板厚方向に温度分布が生じやすくなる。板厚方向に温度分布が存在すると、フェライト及びマルテンサイトの粒径が、鋼板中心部と表層部で変化し、材質バラつきが大きくなることが懸念される。そのため、二次冷却の冷却速度は、100℃/秒以下とすることが好ましい。また、冷却停止温度が200℃超ではマルテンサイトの自己焼戻し効果が発生する。自己焼戻しが起こると、引張強度が低下し、伸びが劣位となる。
【実施例】
【0043】
表1に示す成分を含有する鋼を転炉にて溶製し、連続鋳造にて厚み230mmのスラブとした。その後、スラブを1200℃〜1250℃の温度に加熱し、連続熱間圧延装置によって粗圧延、仕上圧延を行い、ROT冷却後に巻き取りを行い、熱延鋼板を製造した。表2には、用いた鋼種記号と熱間圧延条件、鋼板の板厚を示す。表2において、「FT6」は最終仕上パス完了時の温度、「冷却開始時間」は仕上圧延から一次冷却まで開始までの時間、「一次冷却」は仕上圧延を終了してから中間空冷温度までの平均冷却速度、「中間温度」は一次冷却後の中間空冷温度、「中間時間」は一次冷却後の中間空冷時間、「二次冷却」は中間空冷後から巻き取るまでの平均冷却速度、「巻取温度」は二次冷却終了後の温度である。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
このようにして得られた鋼板について光学顕微鏡を用いてフェライト、ベイナイト、マルテンサイトの組織分率と集合組織解析とを行った。またマルテンサイトの粒径を調査した。
【0048】
鋼板のフェライト、ベイナイトの組織分率については、ナイタール腐食後に光学顕微鏡を用いて500×500μmの視野で得られた組織写真に対し、画像解析を行って面積率を求めた。マルテンサイトの組織分率及び粒径はレペラー腐食後に光学顕微鏡を用いて500×500μmの視野で得られた組織写真に対し、画像解析を用いて面積率及び粒径を求めた。
【0049】
集合組織解析は、板厚方向に表面から1/4の位置である板厚1/4部において圧延面に平行で、圧延方向に平行な{211}<011>方位のX線ランダム強度比を評価した。EBSD(Electron Back Scattering Diffraction Pattern)法を用いて、ピクセルの測定間隔が平均粒径の1/5以下で、結晶粒が5000個以上測定できる領域で測定し、ODF(Orientation Distribution Function)の分布からX線ランダム強度比を測定した。なお、X線ランダム強度比が3.0以下を合格とした。
【0050】
鋼板の引張試験については、鋼板の圧延幅方向(C方向)にJIS5号試験片を採取し、JISZ2241に準拠して、降伏強度:YP(MPa)、引張強度:TS(MPa)、伸び:EL(%)を評価した。
【0051】
穴拡げ率:λ(%)については、ISO16630で規定する方法によって評価を行った。
【0052】
鋼板外観の評価は、熱延コイルの外周10m位置で鋼板を長手方向に500mm切断し、スケール模様の面積率を測定した。スケール模様の面積率が10%以下だったものを「G:GOOD」とした。一方、スケール模様の面積率が10%超だったものを「B:BAD」とした。
【0053】
表3に各組織の組織分率(面積率)、マルテンサイト粒径、集合組織、材質、外観の評価結果を示す。
【0054】
表3に示すように本発明例は引張強度が590MPa以上で、フェライトの組織分率90%以上、かつマルテンサイトの粒径が10μm以下で、その組織分率が1%以上10%以下であり、圧延面に平行で、圧延方向に平行な{211}<011>方位のX線ランダム強度比が3.0以下である。すなわち、本発明例はいずれも、外観と、伸びと穴拡げ性とのバランスに優れている。
【0055】
これに対して、No.2は中間空冷温度が高かったので、Tiがフェライト中に粗大析出し、十分な析出強化が得られなかったために、引張強度が590MPa未満であった。
【0056】
No.5は仕上温度880℃未満であった、鋼板集合組織の異方性が強く、穴拡げ性が劣位であった。
【0057】
No.8は仕上圧延後の一次冷却開始までの時間が1.0秒超であり、オーステナイト組織の粗大化が進み、フェライト変態が大幅に遅れたことにより、伸びと穴拡げ性とが劣位であった。
【0058】
No.12は中間空冷時間が3秒未満のため、フェライト変態が十分に進まなかったので、伸びと穴拡げ性とが劣位であった。
【0059】
No.16は中間空冷時間が10秒超のため、ベイナイト変態が進み、マルテンサイトの組織分率が得られなかったので、伸びと穴拡げ性とが劣位であった。
【0060】
No.17は中間空冷温度が600℃未満であったので、フェライトの組織分率が得られず、伸びと穴拡げ性とが劣位であった。
【0061】
No.20は仕上温度が1000℃超であったので、オーステナイト組織の粗大化によりフェライト変態が遅れ、伸びと穴拡げ性とが劣位であった。
【0062】
No.22は巻取温度が200℃超であったので、マルテンサイトが得られず、ベイナイトが生成した。そのため、引張強度が590MPa未満で、かつ伸びと穴拡げ性とが劣位であった。
【0063】
No.24は最終パスの圧下率が20%未満であったので、マルテンサイトが粗大化し、10μm超になっていた。そのため穴拡げ性が劣位であった。また、オーステナイトの再結晶も十分でなかったので、鋼板集合組織の異方性が強く、穴拡げ性が劣位であった。
【0064】
No.29はAl含有量が0.2質量%未満であったので、フェライト変態が進まず、伸びと穴拡げ性が劣位であった。
【0065】
No.30はSi含有量が0.1質量%超であったので、外観にスケール模様が多数見られ、スケール模様の面積率が、全体の10%超となった。
【0066】
No.31は、仕上圧延後の一次冷却開始までの時間が0.01秒未満であったので、再結晶が十分に進まず、集合組織が発達し、穴拡げ性が劣位であった。
【0067】
No.32は、一次冷却の冷却速度が30℃/秒未満であったので、マルテンサイト粒径が10μmを超え、穴拡げ性が低下した。
【0068】
No.33は、二次冷却の冷却速度が30℃/秒未満であったので、冷却中にベイナイトが5%超となった。そのため、伸びと穴拡げ性とが劣位であった。