【実施例1】
【0030】
図1は第1実施例によるLC−MSの要部の構成図である。本実施例のLC−MSは、試料中に含まれる各種化合物を時間方向に分離する液体クロマトグラフ部(LC部)10と、分離された各種化合物を質量分析する質量分析部(MS部)20と、LC部10及びMS部20に接続されたシステムコントローラ30と、システムコントローラ30を介してLC部10及びMS部20を制御したり、MS部20から出力されるデータを処理したりする制御/処理部40と備えている。
【0031】
LC部10は、移動相を貯留した移動相容器11、移動相を吸引して一定流量で送り出す送液ポンプ12、所定タイミングで試料を移動相中に注入するインジェクタ13、試料中の各種化合物を時間方向に分離するカラム14を含む。
【0032】
MS部20は、カラム14から溶出する化合物を含む溶出液を大気雰囲気中にエレクトロスプレーしてイオン化するスプレーノズル21、試料中の化合物由来のイオンを真空雰囲気中に案内する加熱キャピラリ22、イオンを収束させつつ後段に輸送するイオンガイド23、24、特定の質量電荷比を持つイオンのみを通過させる四重極マスフィルタ25、及び、四重極マスフィルタ25を通り抜けてきたイオンを検出する検出器26を含む。
【0033】
MS部20の検出器26で得られる検出信号は図示しないA/D変換器でデジタル値に変換されたあと、システムコントローラ30を介して制御/処理部40に入力される。制御/処理部40は所定の演算処理を行うことによりマススペクトルやクロマトグラムを作成したり定量分析を遂行したりする。制御/処理部40の実体は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータであり、中央演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)41にメモリ42、キーボードやマウス等から成る入力部43、LCD(Liquid Crystal Display)等から成る表示部44、ハードディスクやSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置から成る記憶部50が互いに接続されている。記憶部50には、OS(Operating System)51、パラメータテーブル作成プログラム52(本発明に係るプログラム)が記憶されると共に、設定内容格納部53(本発明における化合物テーブル保持部に相当)、及びパラメータテーブル格納部54が設けられている。制御/処理部40は、更に、外部装置との直接的な接続や、外部装置等とのLAN(Local Area Network)などのネットワークを介した接続を司るためのインターフェース(I/F)45を備えており、該インターフェース45よりネットワークケーブルNW(又は無線LAN)を介してシステムコントローラ30に接続されている。
【0034】
図1においては、パラメータテーブル作成プログラム52に係るように、設定入力受付部55、セグメント設定部56、イベント時間決定部57、及びドウェル時間決定部58が示されている。これらはいずれも基本的にはCPU41がパラメータテーブル作成プログラム52を実行することによりソフトウェア的に実現される機能手段である。なお、パラメータテーブル作成プログラム52は必ずしも単体のプログラムである必要はなく、例えばLC部10及びMS部20を制御するためのプログラムの一部に組み込まれた機能であってもよく、その形態は特に問わない。
【0035】
本実施例のLC−MSにより、試料に含まれる既知化合物の定量分析を行う際の動作の一例を簡単に説明する。この場合、MS部20の四重極マスフィルタ25は、定量対象である化合物(以下、目的化合物という)由来のイオンの質量電荷比を選択的に通過させるようにSIM測定モードで駆動される。
【0036】
送液ポンプ12によりカラム14に略一定流量で移動相が送給されている状態で、インジェクタ13はその移動相中に試料を注入する。注入された試料は移動相の流れに乗ってカラム14に導入され、カラム14を通過する間に試料中の各種化合物は時間的に分離される。試料注入時点を基準として所定の時間が経過した時点付近(つまり、目的化合物の保持時間近傍)でカラム14出口から目的化合物は溶出し、該目的化合物はMS部20のスプレーノズル21に達して該化合物由来のイオンが生成される。このイオンは加熱キャピラリ22、イオンガイド23、24を経て四重極マスフィルタ25に導入される。四重極マスフィルタ25はその目的化合物由来の特定の質量電荷比をもつイオンのみを選択的に通過させ、通過したイオンは検出器26に到達して検出される。制御/処理部40は検出器26から得られる検出信号に基づくデータにより、上記特定の質量電荷比におけるイオン強度と時間経過との関係を示すマスクロマトグラム(抽出イオンクロマトグラムとも呼ばれる)を作成する。
【0037】
試料に目的化合物が含まれていれば、上記マスクロマトグラム上で目的化合物の保持時間近傍にピークが現れる。そこで制御/処理部40は、マスクロマトグラム上で目的化合物由来のピークを抽出し、そのピーク面積値を計算する。そして、予め標準試料等を測定した結果により作成してあるピーク面積値と目的化合物の濃度(含有量)との関係を示す検量線を参照し、目的化合物の濃度を算出する。定量対象の化合物が複数ある場合には、化合物毎に異なる質量電荷比に対するSIM測定を行って得られたデータに基づきマスクロマトグラムを作成し、上記と同様にそれぞれ目的化合物由来のピークの面積値を求め、その面積値から当該化合物の濃度を算出する。
【0038】
本実施例のLC−MSにおいて、制御/処理部40は、記憶部50のパラメータテーブル格納部54に格納されているパラメータテーブルに従って、LC部10及びMS部20の動作を制御する。特に多成分一斉分析のように、試料に含まれる多数の化合物を1回の試料注入で以て定量する場合、パラメータテーブルを分析者自身が手作業で作成するのは大変煩雑でありミスも生じやすい。そのため、制御/処理部40は、化合物テーブルからパラメータテーブルを自動的に作成するパラメータテーブル作成プログラム52を備えており、このパラメータテーブル作成プログラム52は従来のパラメータテーブル自動生成とは異なる特徴的な機能を有している。
【0039】
以下、このパラメータテーブル作成プログラム52を中心に実行される、特徴的なパラメータテーブル作成処理について詳細に説明する。
図2は本実施例のLC−MSにおけるパラメータテーブル作成処理のフローチャートである。
【0040】
まず、分析者が入力部43より所定の操作を行ってパラメータテーブル作成プログラム52を起動させると、設定入力受付部55が表示部44の画面上に
図3に示すような設定入力画面60を表示させる(ステップS11)。設定入力画面60には、パラメータテーブル作成の対象となる化合物テーブルが表示される化合物テーブル表示欄61と測定ループ時間入力欄63と向上比入力欄64が設けられている。該化合物テーブル表示欄61に表示される化合物テーブルは、1行がひとつの化合物に対応しており、測定対象とする複数の化合物についてそれぞれ化合物名、保持時間、プロセス時間、及び当該化合物について測定すべき1つの定量イオンの質量電荷比(m/z-1)と2つの確認イオンの質量電荷比(m/z-2, m/z-3)が設定可能となっている。更に、この化合物テーブルの各行には、本実施例に特徴的な要素として各行に対応する化合物を高感度モードの対象とするか否かを指定するためのチェックボックス62が設けられている。
【0041】
分析者は入力部43を介して前記化合物テーブルに各目的化合物の化合物名、保持時間、プロセス時間、及び質量電荷比(m/z-1, m/z-2, 及びm/z-3)を入力する(ステップS12)。
図3の例では、これらの事項として
図8に示した化合物テーブルと同一内容が入力されている。また、分析者は化合物テーブルに入力した目的化合物のうち高感度モードの対象とする化合物のチェックボックス62にチェックを入れ(ステップS13)、更に、測定ループ時間入力欄63及び向上比入力欄64にそれぞれ適宜の数値を入力する(ステップS14及びS15)。
図3の例では、高感度モードの対象化合物として化合物Bが選択され、測定ループ時間T
Lが300[msec]、向上比Kが3[倍]に設定されている。なお、ここで「向上比」とは同一セグメントに属する複数の化合物のうち高感度モードの対象化合物のイベント時間とその他の化合物のイベント時間との比であり、例えば向上比Kが「3」の場合、高感度モード対象化合物のイベント時間をその他の化合物のイベント時間の3倍とすることを意味している。
【0042】
上記入力設定が終了した状態で、分析者が「自動作成」ボタン65をクリック操作すると、上記設定入力画面60で設定された内容が設定内容格納部53に格納されると共に、パラメータテーブル自動作成処理の実行が指示される(ステップS16)。この指示を受けてセグメント設定部56が、設定内容格納部53から前記化合物テーブルを読み出し、該化合物テーブルに掲載されている各化合物の保持時間と設定されたプロセス時間とに基づいて、従来と同様に、測定時間全体又はその一部を適宜に区切ったセグメントを設定する(ステップS17)。具体的には、上述の(1)式に示した条件式を満たすような保持時間が隣接する2つの化合物を探索し、その2つの化合物の保持時間の中間点をセグメント境界として時間を区切る。
図3に示した化合物テーブルでは、化合物Cと化合物Dという2つの化合物が条件式(1)を満たすから、化合物C、Dの保持時間の中間点である10.8(min)にセグメント境界を設定し、その境界の前方をセグメント#1、後方をセグメント#2とする。また、化合物Dと化合物Eも条件式(1)を満たすから、化合物D、Eの保持時間の中間点である12.0(min)にもセグメント境界を設定し、その後方をセグメント#3とする。これにより、化合物A〜Cは全て、測定開始時間が9.5[min]、測定終了時間が10.8[min]であるセグメント#1の期間中に測定するように割り当てられ、化合物Dは、測定開始時間が10.8[min]、測定終了時間が12.0[min]であるセグメント#2の期間中に測定するように割り当てられる。このときのセグメントと化合物との関係は上述した
図12に示すようになる。
【0043】
次に、パラメータテーブル作成プログラム52が、変数Nを1に設定し(ステップS18)、ステップS17で設定されたセグメント#Nに割り当てられた化合物の数mが1であるか否かを判定する(ステップS19)。mが1でなかった場合、すなわちセグメント#Nに複数の化合物が割り当てられていた場合には、ステップS20に進んでイベント時間の算出を行う。
【0044】
以下、ステップS20におけるイベント時間の算出方法について説明する。1つのセグメントでは、該セグメントに割り当てられた1つ又は複数の化合物に関する測定が繰り返し実行され、この繰り返し測定の1回当たりの実行時間の長さが測定ループ時間T
Lである。この測定ループ時間T
Lをそのセグメントに割り当てられた化合物の数に応じて分割することにより、前記繰り返し測定の1回分における化合物1つ当たりの測定に掛ける時間であるイベント時間T
Iが決定される。従来のパラメータテーブル自動作成では、測定ループ時間T
Lを同一セグメントに割り当てられた化合物の数mで均等に分割することでイベント時間T
Iを決定していたため、一つのセグメントに割り当てられた複数の化合物のイベント時間は互いに同一となっていた。これに対し、本実施例に係るLC−MSでは、高感度モードの対象化合物のイベント時間がその他の化合物のイベント時間のK倍(Kは向上比)となるように測定ループ時間T
Lを分割する。例えば、
図3の例の場合、セグメント#1には上述の通り化合物A〜Cが割り当てられ、そのうち化合物Bが高感度モードの対象として指定されている。また、測定ループ時間T
Lは300[msec]、向上比Kは3[倍]となっている。従って、化合物Bのイベント時間は、(300÷(1+1+3))×3=180[msec]となり、化合物A及びBのイベント時間はそれぞれ、(300÷(1+1+3))×1=60[msec]となる。これらの式を一般化すると以下の通りとなる。
高感度モードの対象化合物のイベント時間:T
I=(T
L÷((m−n)×1+n×K))×K
その他の化合物のイベント時間:T
I=(T
L÷((m−n)×1+n×K))×1
(ただし、m:セグメント#Nに割り当てられた化合物の数、n:セグメント#Nに割り当てられた化合物のうち高感度モードの対象に指定された化合物の数)。
【0045】
一方、セグメント#Nに割り当てられた化合物の数mが1であった場合(ステップS19でYesだった場合)、イベント時間決定部57は、その化合物が高感度モードの対象であるか否かにかかわらず、イベント時間T
Iを測定ループ時間T
Lと等しい値とする(ステップS21)。例えば、
図3の例では、セグメント#2に1つの化合物(化合物D)だけが割り当てられるため、該化合物に関するイベント時間T
Iは測定ループ時間T
Lと同じ300[msec]となる。
【0046】
なお、このように、1つのセグメントに割り当てられた化合物が1つのみである場合は、該化合物が高感度モードに指定されていても指定されていなくてもイベント時間は同じとなるため、高感度モードによる効果を得ることができない。従って、このような場合はその旨を表示部44等で分析者に通知することが望ましい。
【0047】
次いで、ドウェル時間決定部58が、目的化合物のそれぞれに関して測定すべき複数のイオンの質量電荷比についてドウェル時間(データ蓄積時間)を算出する(ステップS22)。
図3の例では、一つの化合物に対し測定すべきイオンは3つ(定量イオンm/z-1、確認イオンm/z-2、及び確認イオンm/z-3)であるから、電圧安定待ち時間が1[msec]であるとすると、セグメント#1に属する化合物A、Cの各イオンに対するドウェル時間T
Dは(60-1×3)÷3=19[msec]、化合物Bの各イオンに対するドウェル時間T
Dは(180-1×3)÷3=59[msec]、となる。また、セグメント#2に属する化合物Dの各イオンに対するドウェル時間T
Dは(300-1×3)÷3=99[msec]となる。
【0048】
なお、ステップS20において、同一セグメントに割り当てられた複数の化合物が全て高感度モードに指定されていた場合、これらの化合物のイベント時間は全て等しくなり、高感度モードによる効果が得られないことになる。そのため、こうした場合も上記同様に分析者への通知を行うことが望ましい。
【0049】
続いて、パラメータテーブル作成プログラム52は、セグメント#Nが最終セグメントであるか否かを判定し(ステップS23)、最終セグメントでなければ変数Nをインクリメントして(ステップS24)ステップS19に戻る。したがって、ステップS17で設定された全てのセグメントについて時間順に処理が遂行され、最終セグメントまで来るとステップS23でYesと判定される。そして、以上で算出されたイベント時間やドウェル時間等を含むパラメータテーブルが作成され(ステップS25)、パラメータテーブル格納部54に記憶される。
【0050】
図4は
図3に示した設定入力画面の内容に基づいて自動的に作成されるパラメータテーブルの一例である。同図から分かるように、セグメント#1に割り当てられた化合物A〜Cのうち、高感度モードの対象化合物である化合物Bのイベント時間及びドウェル時間が、他の化合物(化合物A、C)のイベント時間及びドウェル時間よりも長くなっている。なお、
図4の例において、化合物A〜Cのイベント時間の合計は、60+180+60=300[msec]であり、ステップS14で設定された測定ループ時間T
Lと等しくなる。また、化合物A、Cのイベント時間に対する化合物Bのイベント時間の比率は、180÷60=3であり、ステップS15で設定された向上比Kと等しくなる。このように、本実施例に係るLC−MSによれば、分析者が設定入力画面60上で高感度モードの対象化合物を指定すると共に向上比を入力するという簡単な操作を行うだけで、測定ループ時間に影響を及ぼすことなく、指定した化合物のイベント時間をその他の化合物のイベント時間より長く設定することができる。
【0051】
なお、本実施例に係るパラメータテーブル作成プログラム52は、多成分一斉分析を行う際により優れた効果を発揮することができる。試料に含まれる多数の成分を一斉分析する場合、LC部10から時間的に近接して溶出する化合物の数が増えるため、同一セグメントに属する化合物の数が増大する。ここで、こうした多成分一斉分析の自動パラメータテーブル作成処理において、試料中に含まれる多数の成分のうち化合物A〜Jの10種類の化合物が同一セグメントに割り当てられ、このうち化合物Bが高感度モードの対象化合物として指定されている場合を考える。このとき、高感度モードの対象化合物である化合物Bは、イベント時間が、(300÷(1×9+3×1))×3=75[msec]となり、ドウェル時間が、(75−1×3)÷3=24[msec]となる。また、その他の化合物(化合物A、C〜J)は、イベント時間が、(300÷(1×9+3×1))×1=25[msec]となり、ドウェル時間が(25−1×3)÷3≒7.3[msec]となる。一方、従来の自動パラメータテーブル作成処理では、これらの化合物のイベント時間はいずれも300÷10=30[msec]となり、ドウェル時間は(30-1×3)÷3=9[msec]となる。従って、本実施例に係るパラメータテーブル作成プログラム52によれば、高感度モードの対象化合物のドウェル時間は従来法で求められるドウェル時間の24÷9≒2.7[倍]となり、その他の化合物のドウェル時間は従来法で求められるドウェル時間の7.3÷9≒0.81[倍]となる。従って、SN比も、高感度モード対象化合物で従来法の2.7倍と高感度になり、その他の化合物でも従来法の約0.8倍とSN比の低下が最小限に抑えられている。これは、一部の化合物を高感度モードで測定することにより生じるデメリット(すなわち他の化合物におけるドウェル時間の減少)が多数の化合物で分散されるためである。
【実施例2】
【0052】
続いて、本発明の実施例2によるLC−MSについて
図5〜
図7を参照しつつ説明する。
図5は本実施例のLC−MSにおけるパラメータテーブル作成プログラムによる処理手順を示すフローチャートであり、
図6は本実施例における設定入力画面の一例である。また、
図7は
図6に示した設定内容に基づいて本実施例のLC−MSにおけるパラメータテーブル自動作成処理を実行することで作成されたパラメータテーブルを示す図である。なお、本実施例に係るLC−MSは
図1に示した第1実施例によるLC−MSと同一の構成を有しており、パラメータテーブル作成プログラム52の設定入力受付部55、イベント時間決定部57、及びドウェル時間決定部58の動作のみが実施例1と異なっている。
【0053】
本実施例は、高感度モードの対象を、実施例1のように化合物単位で指定するのではなく、イオン単位で指定するものとなっている。すなわち、本実施例では各目的化合物について測定すべき複数の質量電荷比の中から高感度モードの対象とするものを分析者が指定する。以下、本実施例におけるパラメータテーブル作成処理について詳細に説明する。
【0054】
まず、分析者が入力部43より所定の操作を行ってパラメータテーブル作成プログラム52を起動させると、設定入力受付部55が表示部44の画面上に設定入力画面70を表示させる(ステップS31)。本実施例における設定入力画面70の一例を
図6に示す。設定入力画面70には、化合物テーブル表示欄71と測定ループ時間入力欄73と向上比入力欄74が設けられており、化合物テーブル表示欄71に表示される化合物テーブルには、実施例1と同様に各目的化合物について化合物名、保持時間、プロセス時間、及び当該化合物について測定すべき1つの定量イオンの質量電荷比(m/z-1)と2つの確認イオンの質量電荷比(m/z-2, m/z-3)を設定可能となっている。更にこの化合物テーブルには、本実施例に特徴的な要素として、各化合物について測定すべき複数の質量電荷比について、高感度モードの対象とするか否かを個別に指定するためのチェックボックス72a〜72cが設けられている。なお、
図6の各行に設けられた3つのチェックボックス72a〜72cは、左から順にそれぞれ定量イオンの質量電荷比(m/z-1)、第1の確認イオンの質量電荷比(m/z-2)、及び第2の確認イオンの質量電荷比(m/z-3)に対応している。
【0055】
分析者は実施例1と同様に入力部43を介して前記化合物テーブルに各目的化合物の化合物名、保持時間、プロセス時間、及び質量電荷比(m/z-1, m/z-2, 及びm/z-3)を入力する(ステップS32)。
図6の例では、これらの事項として
図3及び
図8に示した化合物テーブルと同一内容が入力されている。また、分析者は各目的化合物の定量イオンの質量電荷比(m/z-1)と確認イオンの質量電荷比(m/z-2, m/z-3)に対応するチェックボックス72a〜72cの中から、高感度モードの対象とするイオンの質量電荷比のチェックボックスにチェックを入れ(ステップS33)、更に、測定ループ時間入力欄73及び向上比入力欄74にそれぞれ適宜の数値を入力する(ステップS34及びS35)。
図6では、高感度モードの対象として化合物Bの定量イオンの質量電荷比が選択され、測定ループ時間T
Lが300[msec]、向上比Kが3[倍]に設定されている。なお、本実施例において「向上比」とは、ある化合物について測定すべき複数のイオンのうち、高感度モードの対象イオンに対するドウェル時間とその他のイオンに対するドウェル時間との比であり、例えば向上比Kが「3」の場合、高感度モードの対象イオンのドウェル時間をその他のイオンのドウェル時間の3倍とすることを意味している。
【0056】
上記入力設定が終了した状態で、分析者が「自動作成」ボタン75をクリック操作すると、上記設定入力画面70で設定された内容が設定内容格納部53に格納されると共に、パラメータテーブル自動作成処理の実行が指示される(ステップS36)。これにより、まずセグメント設定部56が実施例1と同様にしてセグメントの設定を行う(ステップS37)。
【0057】
次に、パラメータテーブル作成プログラム52が、変数Nを1に設定し(ステップS38)、イベント時間決定部57によるイベント時間T
Iの算出を行う(ステップS39)。本実施例では測定ループ時間T
Lをセグメント#Nに割り当てられた化合物の数mで割ることにより、化合物1つ当たりの測定時間であるイベント時間T
Iを決定する(すなわちT
I=T
L÷m)。
図6の例の場合、測定ループ時間T
Lは300[msec]であり、セグメント#1には化合物A〜Cの3つの化合物が割り当てられている。従って、化合物A〜Cのイベント時間T
Iはそれぞれ、300÷3=100[msec]となる。また、セグメント#2には1つの化合物(化合物D)だけが割り当てられているため、該化合物に関するイベント時間T
Iは、300÷1=300[msec]となる。
【0058】
次いで、ドウェル時間決定部58が、目的化合物のそれぞれに関して測定すべき複数のイオンについてドウェル時間(データ蓄積時間)を算出する(ステップS40)。このとき、ドウェル時間決定部58は、高感度モードに指定されているイオンのドウェル時間T
Dがその他のイオンのドウェル時間T
Dの約K倍(Kは向上比)となるよう、例えば、以下のような式に基づいて計算を行う。
高感度モード対象イオン:T
D=((T
I−w×a)÷((a−b)×1+b×K))×K
同一化合物の非対象イオン:T
D=((T
I−w×a)÷((a−b)×1+b×K))×1
その他のイオン:T
D=(T
I−w×a)÷a
(aは測定すべきイオンの数、bは高感度モードの対象イオン数、wは電圧安定待ち時間)
なお、前記「同一化合物の非対象イオン」とは、ある化合物について測定すべき複数のイオンのうち少なくとも1つが高感度モードの対象に指定されている場合において、同化合物について測定すべき複数のイオンのうちの残りのイオン(高感度モードの対象に指定されていないイオン)を意味する。
図6に示した化合物テーブルの場合、化合物Bの2つの確認イオン(m/z-2、m/z-3)が前記「同一化合物の非対象イオン」に相当する。また、前記「その他のイオン」とは、ある化合物について測定すべき複数のイオンがいずれも高感度モードの対象に指定されていない場合における、該複数のイオンを意味する。
図6に示した化合物テーブルの場合、化合物A、C、D、Eの定量イオン(m/z-1)及び確認イオン(m/z-2、m/z-3)が前記「その他のイオン」に相当する。
【0059】
図6の例では、一つの化合物に対し測定対象イオンは3つ(定量イオンm/z-1、確認イオンm/z-2、及び確認イオンm/z-3)であり、向上比Kは3[倍]であるから、電圧安定待ち時間が1[msec]であるとすると、「高感度モード対象イオン」である化合物Bの定量イオン(m/z-1)に対するドウェル時間T
Dは、((100−1×3)÷((3-1)×1+1×3))×3=58.2[msec]となる。
また、「同一化合物の非対象イオン」である化合物Bの確認イオン(m/z-2、m/z-3)に対するドウェル時間T
Dは、それぞれ((100−1×3)÷((3-1)×1+1×3))×1=19.4[msec]、となる。更に、「その他のイオン」である、化合物A及びCの定量イオンと確認イオンに対するドウェル時間は、(100−1×3)÷3=32.3[msec]、となる。また、セグメント#2に属する化合物Dの各イオンに対するドウェル時間T
Dは(300-1×3)÷3=99[msec]となる。
【0060】
なお、ステップS40において、同一化合物について測定すべき複数のイオンが全て高感度モードの対象イオンであった場合、これらのイオンのドウェル時間は全て等しくなり、高感度モードによる効果が得られないことになる。そのため、このような指定ができないよう、ステップS33で分析者が高感度モードの対象イオンを指定する際に、設定入力画面70に設けられたチェックボックス72a〜72cにおいて、一つの行につき所定の数(1つ又は2つ)のチェックボックスにチェックが入った時点で同じ行の残りのチェックボックスを無効にする(例えばクリックしてもチェックが入らないようにする)ことが望ましい。
【0061】
続いて、パラメータテーブル作成プログラム52は、セグメント#Nが最終セグメントであるか否かを判定し(ステップS41)、最終セグメントでなければ変数Nをインクリメントして(ステップS42)ステップS39に戻る。したがって、ステップS37で設定された全てのセグメントについて時間順に処理が遂行され、最終セグメントまで来るとステップS41でYesと判定される。そして、以上で算出されたイベント時間やドウェル時間を含むパラメータテーブルが作成され(ステップS43)、パラメータテーブル格納部54に記憶される。
【0062】
図7は
図6に示した設定入力画面70の内容に基づいて自動的に作成されるパラメータテーブルの一例である。同図から明らかなように、本実施例では、各化合物について測定すべき複数のイオンに対してそれぞれ個別にドウェル時間が決定される。また、化合物Bについて測定すべき3つのイオンのうち、高感度モードの対象に指定された定量イオン(m/z-1)に対するドウェル時間が、残りのイオン(確認イオンm/z-2, m/z-3)に対するドウェル時間よりも長くなっている。なお、
図7の例において、化合物Bにおけるドウェル時間T
Dと電圧安定待ち時間wの合計は、58.2+19.4+19.4+1×3=100[msec]であり、ステップS39で設定された同化合物のイベント時間T
Iと等しくなる。また、化合物Bにおける高感度モードの対象イオンのドウェル時間と同化合物における他のイオンのドウェル時間の比率は、58.2÷19.4=3であり、ステップS35で設定された向上比Kと等しくなる。このように、本実施例に係るLC−MSによれば、分析者が設定入力画面70上で高感度モードの対象イオンを指定すると共に向上比を入力するという簡単な操作を行うことにより、各化合物のイベント時間に影響を及ぼすことなく、自動的に一部のイオンのドウェル時間をその他のイオンのドウェル時間より長く設定することができる。従って、例えば感度が悪い化合物について、その定量イオンを高感度モードの対象に設定することにより、定量に用いない確認イオンのドウェル時間を短縮し、その分、定量イオンのドウェル時間を延長して、高精度な定量を行うことができる。
【0063】
なお、本実施例では、設定入力画面70の化合物テーブル表示欄71において、化合物テーブルの各行に測定すべきイオンの数と同数のチェックボックスを設けるものとしたが、これに限らず、化合物テーブルの各行にはチェックボックスをそれぞれ1つだけ設け、チェックが入れられた化合物について測定すべき複数のイオンのうち、定量イオンのみを自動的に高感度モードの対象とするようにしてもよい。この場合、
図5のステップS31において、
図3と同様の設定入力画面60を表示部44に表示する。そして、ステップS33において分析者が設定入力画面70上でチェックボックス62のいずれかにチェックを入れることにより、該チェックボックスが設けられた行に対応する化合物の定量イオンが高感度モードの対象イオンとして指定される。その後は、上記と同様にしてセグメントの設定(ステップS37)、イベント時間の算出(ステップS39)、及びドウェル時間の算出(ステップS40)等が実行され、
図7に示したようなパラメータテーブルが作成される。
【0064】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を挙げて説明を行ったが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で適宜変形や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。例えば上記実施例のLC−MSでは、MS部20はシングルタイプの四重極型質量分析計であるが、MS部20が三連四重極型の質量分析計であるLC−MS/MSにおいて、SIM測定と同様に、化合物毎に溶出時間範囲や測定対象質量電荷比などの測定条件を設定する必要があるMRM測定を行う場合に本発明を適用できることは当然である。また、LCの代わりにGCを用いたGC−MSやGC−MS/MSに本発明を適用可能なことも明らかである。