(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
−第1の実施形態−
図1は、第1の実施形態における電動車両の制御装置を備えた電気自動車の主要構成を示すブロック図である。電動車両とは、車両の駆動源の一部または全部として電動モータを備え、電動モータの駆動力により走行可能な自動車のことであり、電気自動車だけでなく、ハイブリッド自動車や燃料電池自動車も含まれる。また、電気自動車は、アクセルペダルの操作のみで車両の加減速や停止を制御することができる車両であってもよい。この車両では、ドライバは、加速時にアクセルペダルを踏み込み、減速時や停止時には、踏み込んでいるアクセルペダルの踏み込み量を減らすか、または、アクセルペダルの踏み込み量をゼロとする。
【0009】
モータコントローラ2は、車速V、アクセル開度θ、電動モータ4の回転子位相α、電動モータ4の電流iu、iv、iw等の車両状態を示す信号をデジタル信号として入力し、入力された信号に基づいて、電動モータ4を制御するためのPWM信号を生成する。また、生成したPWM信号に応じてインバータ3の駆動信号を生成する。
【0010】
インバータ3は、例えば、各相ごとに2個のスイッチング素子(例えば、IGBTやMOS−FET等のパワー半導体素子)を備え、駆動信号に応じてスイッチング素子をオン/オフすることにより、バッテリ1から供給される直流の電流を交流に変換し、電動モータ4に所望の電流を流す。
【0011】
電動モータ(三相交流モータ)4は、インバータ3から供給される交流電流により駆動力を発生し、減速機5および駆動軸8を介して、左右の駆動輪9a、9bに駆動力を伝達する。また、車両の走行時に駆動輪9a、9bに連れ回されて回転するときに、回生駆動力を発生させることで、車両の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収する。この場合、インバータ3は、電動モータ4の回生運転時に発生する交流電流を直流電流に変換して、バッテリ1に供給する。
【0012】
電流センサ7は、電動モータ4に流れる3相交流電流iu、iv、iwを検出する。ただし、3相交流電流iu、iv、iwの和は0であるため、任意の2相の電流を検出して、残りの1相の電流は演算により求めてもよい。
【0013】
回転センサ6は、例えば、レゾルバやエンコーダであり、電動モータ4の回転子位相αを検出する。
【0014】
ブレーキコントローラ10は、摩擦制動量指令値に応じたブレーキ液圧を発生させる。
摩擦ブレーキ11は、左右の駆動輪9a、9bに設けられ、ブレーキ液圧に応じてブレーキパッドをブレーキロータに押しつけて、車両に制動力を発生させる。
【0015】
Gセンサ12は、車両の前後方向における加速度a
sを検出する。
【0016】
図2は、モータコントローラ2によって行われる処理の流れを示すフローチャートである。
【0017】
ステップS201では、車両状態を示す信号を入力する。ここでは、車速V(km/h)、アクセル開度θ(%)、電動モータ4の回転子位相α(rad)、電動モータ4の回転数Nm(rpm)、回転子の角速度ω(rad/s)、電動モータ4の電流iu、iv、iw、バッテリ1とインバータ3間の直流電圧値Vdc(V)、従動輪摩擦ブレーキ指令値Fbf
*および駆動輪摩擦ブレーキ指令値Fbd
*、車両前後加速度a
sを入力する。
【0018】
車速V(km/h)は、図示しない車速センサや、ブレーキコントローラ10等の他のコントローラより通信にて取得する。または、モータ角速度ωmにタイヤ動半径Rを乗算し、ファイナルギヤのギヤ比で除算することにより車速v(m/s)を求め、3600/1000を乗算することにより単位変換して、車速V(km/h)を求める。
【0019】
アクセル開度θ(%)は、図示しないアクセル開度センサから取得するか、図示しない車両コントローラ等の他のコントローラから通信にて取得する。
【0020】
電動モータ4の回転子位相α(rad)は、回転センサ6から取得する。電動モータ4の回転数Nm(rpm)は、回転子の角速度ω(電気角)を電動モータ4の極対数で除算して、電動モータ4の機械的な角速度であるモータ角速度ωm(rad/s)を求め、求めたモータ角速度ωmに60/(2π)を乗算することによって求める。回転子の角速度ω(rad/s)は、回転子位相αを微分することによって求める。
【0021】
電動モータ4の電流iu、iv、iw(A)は、電流センサ7から取得する。
【0022】
直流電圧値Vdc(V)は、バッテリ1とインバータ3間の直流電源ラインに設けられた電圧センサ(不図示)、または、図示しないバッテリコントローラから送信される電源電圧値から求める。
【0023】
従動輪摩擦ブレーキ指令値Fbf
*および駆動輪摩擦ブレーキ指令値Fbd
*は、ブレーキコントローラ10より通信にて取得する。
【0024】
車両前後加速度a
sは、Gセンサ12より取得する。車両前後加速度a
sは、平坦路での加速時の値が正となるように符号を定める。
【0025】
ステップS202では、基本トルク目標値Tm1
*を算出する。具体的には、ステップS201で入力されたアクセル開度θおよび車速Vに基づいて、
図3に示すアクセル開度−トルクテーブルを参照することにより、基本トルク目標値Tm1
*を算出する。
【0026】
ステップS203では、外乱算出処理を行う。具体的には、車体駆動力外乱Fdvと駆動輪外乱Fdwを算出する。車体駆動力外乱Fdvと駆動輪外乱Fdwの算出処理の詳細については後述する。
【0027】
ステップS204では、制振制御演算処理を行う。具体的には、ステップS202で設定された基本トルク目標値Tm1
*と、ステップS203で算出された車体駆動力外乱Fdvおよび駆動輪外乱Fdwと、モータ角速度ωmとを入力し、駆動軸トルクの応答を犠牲にすることなく、駆動力伝達系振動(駆動軸8のねじり振動など)を抑制する最終トルク目標値Tm2
*を算出する。制振制御演算処理の詳細については、後述する。
【0028】
ステップS205では、ステップS204で算出された最終トルク目標値Tm2
*、モータ角速度ωm、および、直流電圧値Vdcに基づいて、d軸電流目標値id
*、q軸電流目標値iq
*を求める。例えば、トルク目標値、モータ角速度、および直流電圧値と、d軸電流目標値およびq軸電流目標値との関係を定めたテーブルを予め用意しておいて、このテーブルを参照することにより、d軸電流目標値id
*、q軸電流目標値iq
*を求める。
【0029】
ステップS206では、d軸電流idおよびq軸電流iqをそれぞれ、ステップS205で求めたd軸電流目標値id
*およびq軸電流目標値iq
*と一致させるための電流制御を行う。このため、まず初めに、ステップS201で入力された三相交流電流値iu、iv、iwと、電動モータ4の回転子位相αとに基づいて、d軸電流idおよびq軸電流iqを求める。続いて、d軸、q軸電流指令値id
*、iq
*と、d軸、q軸電流id、iqとの偏差から、d軸、q軸電圧指令値vd、vqを算出する。なお、算出したd軸、q軸電圧指令値vd、vqに対して、d−q直交座標軸間の干渉電圧を相殺するために必要な非干渉電圧を加算するようにしてもよい。
【0030】
次に、d軸、q軸電圧指令値vd、vqと、電動モータ4の回転子位相αから、三相交流電圧指令値vu、vv、vwを求める。そして、求めた三相交流電圧指令値vu、vv、vwと直流電圧値Vdcから、PWM信号tu(%)、tv(%)、tw(%)を求める。このようにして求めたPWM信号tu、tv、twにより、インバータ3のスイッチング素子を開閉することによって、電動モータ4を最終トルク目標値で指示された所望のトルクで駆動することができる。
【0031】
以下、
図2のステップS203で行われる外乱算出処理、および、ステップS204で行われる制振制御演算処理の詳細について説明する。まず初めに、両処理で使用する車両モデルについて説明する。
【0032】
図4は、車両の駆動力伝達系をモデル化した図であり、車両の運動方程式は、式(1)〜(6)で表される。ただし、式(1)〜(3)中の符号の右上に付されているアスタリスク(
*)は、時間微分を表している。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【0033】
特に、電動モータ4から駆動軸8までのバックラッシュ特性を不感帯でモデル化した場合、駆動軸トルクTdは次式(7)で表される。
【数7】
【0034】
ここで、式(1)〜(7)における各パラメータは、下記の通りである。
J
m:電動モータのイナーシャ
J
w:駆動輪のイナーシャ(1軸分)
M:車両の重量
K
d:駆動軸のねじり剛性
K
t:タイヤと路面の摩擦に関する係数
N:オーバーオールギヤ比
r:タイヤの荷重半径
ω
m:電動モータの角速度
ω
w:駆動輪の角速度
T
m:モータトルク
T
d:駆動軸のトルク
F:駆動力(2軸分)
F
dv:車体駆動力外乱
F
dw:駆動輪外乱(2軸分)
V:車両の速度
θ:駆動軸のねじり角
θ
d:電動モータから駆動軸までのオーバーオールのバックラッシュ量
【0035】
式(1)〜(6)をラプラス変換して、モータトルクTm、車体駆動力外乱Fdv、および駆動輪外乱Fdwからモータ角速度ωmまでの伝達特性を求めると、次式(8)となる。
【数8】
【0036】
ただし、式(8)中のG
p(s)、G
pFdv(s)、G
pFdw(s)は、それぞれ次式(9)〜(11)で表される。
【数9】
【数10】
【数11】
【0037】
式(9)〜(11)中の各パラメータは、次式(12)〜(21)で表される。
【数12】
【数13】
【数14】
【数15】
【数16】
【数17】
【数18】
【数19】
【数20】
【数21】
【0038】
続いて、
図2のステップS204で行われる制振制御演算処理の詳細について説明する。
【0039】
図5は、制振制御演算処理を実現するための制御ブロック図である。制振制御演算処理は、フィードフォワード補償器501(以下、F/F補償器501と呼ぶ)と、フィードバック補償器502(以下、F/B補償器502と呼ぶ)と、加算器503とによって行われる。
【0040】
F/F補償器501は、車両パラメータとギアのバックラッシュを模擬した不感帯モデルにより構成される車両モデル503と、ねじり角速度F/Bモデル504と、制御系遅れ要素505とを備え、基本トルク目標値Tm1
*、および車両に作用する外乱を入力し、フィードフォワード演算により、第1のトルク目標値を演算する。
【0041】
ねじり角速度F/Bモデル504は、車両モデル503で算出される擬似駆動軸ねじり角速度ωd^の前回演算値にF/BゲインK
FBIを乗算して得た値を、基本トルク目標値Tm1
*から減算し、減算により得られる値を第1のトルク目標値とする。F/BゲインK
FBIは、制振性能を満たす値に設定する。
【0042】
制御系遅れ要素505は、ねじり角速度F/Bモデル504から出力される第1のトルク目標値に、モータ応答遅れGa(s)を考慮して、モータトルク応答目標値Tmr
*を算出する。モータ応答遅れGa(s)は、次式(22)で表される。ただし、τaはモータ応答時定数である。
【数22】
【0043】
車両モデル503は、制御系遅れ要素505から出力されるモータトルク応答目標値Tmr
*と、車体駆動力外乱Fdvと、駆動輪外乱Fdwとに基づいて、式(8)より、モータ角速度推定値ωm^を算出する。車両モデル503はまた、算出したモータ角速度推定値ωm^と駆動輪角速度ωwとに基づいて、擬似駆動軸ねじり角速度ωd^(ωd^=ωm^/N−ωw)を算出する。
【0044】
F/B補償器502は、車両モデル503から出力されるモータ角速度推定値ωm^と、モータ角速度ωm(モータ角速度検出値)との偏差に基づいて、第2のトルク目標値を算出する。
【0045】
加算器503は、第1のトルク目標値と第2のトルク目標値とを加算することにより、最終トルク目標値Tm2
*を算出する。
【0046】
次に、
図2のステップS203で行われる外乱算出処理の詳細について説明する。
図6は、車体駆動力外乱Fdvと駆動輪外乱Fdwを算出する処理手順を示すフローチャートである。
【0047】
ステップS601では、モータ角速度ωmと最終トルク目標値Tm2
*に基づいて、車体駆動力外乱推定値Fdv^を算出する。ここでは、外乱として、摩擦ブレーキ制動量、路面の勾配抵抗、空気抵抗、タイヤの転がり抵抗をオーバーオールで推定する。
【0048】
図7は、モータ角速度ωmと最終トルク目標値Tm2
*に基づいて、車体駆動力外乱推定値Fdv^を算出する制御ブロックを示す図である。
【0049】
制御ブロック701は、H(s)/Gp(s)なる伝達特性を有するフィルタとしての機能を担っており、モータ角速度ωmを入力してフィルタリング処理を行うことにより、第1のモータトルク推定値を算出する。H(s)は、H(s)/Gp(s)の分母の次数が分子の次数と同じかそれ以上になるように設定する。具体的には、Gp(s)は3次/4次のフィルタであるため、ここでは、H(s)を0次/1次のローパスフィルタとして設定する。ローパスフィルタのゲインは、算出される車体駆動力外乱推定値Fdv^の滑らかさと応答性を最適化させた値に設定する。
【0050】
制御系遅れ要素702は、最終トルク目標値Tm2
*を入力し、制御演算時間遅れe
-L1s、センサ信号処理時間遅れe
-L2s、式(22)に示すモータ応答遅れGa(s)を考慮した時間遅れ演算を行い、最終トルク応答目標値Tm2r
*を算出する。
【0051】
ところで、制御系遅れ要素702に入力される最終トルク目標値Tm2
*は、本処理(外乱算出処理)の後段で実施する制振制御演算処理で算出される。従って、制御系遅れ要素702は、入力される最終トルク目標値Tm2
*が制御周期分だけ過去の値となっていることを考慮した上で遅れ要素を調整する。
【0052】
制御ブロック703は、H(s)なる伝達特性を有するローパスフィルタとしての機能を担っており、制御系遅れ要素702で算出される最終トルク応答目標値Tm2r
*を入力してフィルタリング処理を行うことにより、第2のモータトルク推定値を算出する。
【0053】
減算器704は、第1のモータトルク推定値から第2のモータトルク推定値を減算することにより、モータトルク外乱推定値を算出する。
【0054】
制御ブロック705は、モータトルク外乱推定値に、次式(23)で示すゲインK
FvTmを乗算することにより、車体駆動力外乱推定値Fdv^を算出する。
【数23】
【0055】
ここで、算出した車体駆動力外乱推定値Fdv^に特定周波数の振動が現れる場合、その振動を除去するためのノッチフィルタ等のフィルタリング処理を車体駆動力外乱推定値Fdv^に施してもよい。
【0056】
図6に戻って説明を続ける。ステップS602では、次式(24)により、車体駆動力外乱Fdvを算出する。
【数24】
【0057】
ステップS603では、次式(25)より、駆動輪外乱Fdwを算出する。
【数25】
【0058】
以上、第1の実施形態における電動車両の制御装置によれば、車両情報に基づいて基本トルク目標値Tm1
*(目標トルク指令値)を設定し、駆動輪につながる電動モータ4のトルクを制御する制御装置であって、基本トルク目標値Tm1
*、および車両に作用する外乱を入力し、フィードフォワード演算により、第1のトルク目標値を演算するF/F補償器501と、第1のトルク目標値に従ってモータトルクを制御するモータコントローラ2とを備える。F/F補償器501は、モータトルクおよび外乱から駆動軸ねじり角速度までの特性をモデル化した車両モデルであって、基本トルク目標値Tm1
*および車両に作用する外乱を入力して、擬似駆動軸ねじり角速度ωd^を出力する車両モデル503と、車両モデル503から出力される擬似駆動軸ねじり角速度ωd^を基本トルク目標値Tm1
*にフィードバックさせることによって、第1のトルク目標値を演算するねじり角速度F/Bモデル504とを備える。車両モデル503は、車両に作用する外乱を考慮して、擬似駆動軸ねじり角速度ωd^を算出するので、外乱が発生した場合でも、精度良く擬似駆動軸ねじり角速度ωd^を求めることができ、これにより、駆動軸ねじり振動を精度良く抑制することができる。
【0059】
駆動軸トルクの不感帯となるギアバックラッシュ区間では、外乱によるモデル化誤差の影響が駆動軸ねじり角速度に顕著に表れるため、外乱を考慮せずに擬似駆動軸ねじり角速度ωd^を算出する従来の制御装置では、バックラッシュ発生時に駆動軸ねじり振動を精度良く抑制できない可能性があった。しかしながら、本実施形態における電動車両の制御装置によれば、ギアバックラッシュ発生時にも駆動軸ねじり振動を精度良く抑制することができる。また、モータを走行駆動源とし、アクセルペダルの操作のみで車両の加減速や停止を制御することができる車両では、ブレーキペダルを使って車両の減速・停止を行う従来の車両に比べて、モータによる回生ブレーキ領域が拡大されるため、ギアバックラッシュ区間を跨ぐ走行シーンの頻度が高くなる。この車両に本発明の制振制御を適用すれば、上述したように、ギアバックラッシュ発生時にも駆動軸ねじり振動を精度良く抑制することができるので、著しい乗り心地の改善が可能となる。
【0060】
また、第1の実施形態における電動車両の制御装置によれば、モータコントローラ2によって車両に作用する外乱を推定し、車両モデル503には、推定した外乱が入力される。これにより、外乱を固定値とした場合や、関連性のあるパラメータに基づいて外乱を求める場合に比べて、車両の周辺環境の変化を加味した正確な外乱を求めることができ、これにより、精度良く擬似駆動軸ねじり角速度ωd^を求めることができる。
【0061】
モータコントローラ2によって推定される外乱には、摩擦ブレーキの制動量が含まれるので、電動モータ4による回生制動と摩擦ブレーキの協調制御が行われる場合や、ドライバがブレーキ操作を行った場合でも、擬似駆動軸ねじり角速度ωd^を精度良く求めることができ、特に、ギアバックラッシュ発生時にも駆動軸ねじり振動を精度良く抑制することができる。
【0062】
また、モータコントローラ2によって推定される外乱には、路面の勾配抵抗が含まれるので、坂路走行時においても擬似駆動軸ねじり角速度ωd^を精度良く求めることができ、特に、ギアバックラッシュ発生時にも駆動軸ねじり振動を精度良く抑制することができる。
【0063】
さらに、モータコントローラ2によって推定される外乱には、空気抵抗が含まれるので、例えば高速走行時のように空気抵抗が大きくなる状況下でも、擬似駆動軸ねじり角速度ωd^を精度良く求めることができ、特に、ギアバックラッシュ発生時にも駆動軸ねじり振動を精度良く抑制することができる。
【0064】
また、モータコントローラ2によって推定される外乱には、タイヤの転がり抵抗が含まれるので、擬似駆動軸ねじり角速度ωd^を精度良く求めることができ、特に、ギアバックラッシュ発生時にも駆動軸ねじり振動を精度良く抑制することができる。
【0065】
モータコントローラ2は、車両へのトルク入力からモータ角速度までの特性をモデル化した車両モデルGp(s)に基づいて、車両に作用する外乱を推定するので、車両に作用している外乱を精度良く推定することができる。また、信頼性の確保された既存の車両信号から外乱を推定するため、外乱を検出するための新規センサの追加が不要となり、コスト増加を抑制することができ、かつ、システムが複雑化することによる電子信頼性の悪化の可能性を低減することができる。
【0066】
−第2の実施形態−
第1の実施形態では、外乱として、摩擦ブレーキ制動量、路面の勾配抵抗、空気抵抗、転がり抵抗をオーバーオールで推定した。第2の実施形態における電動車両の制御装置では、空気抵抗と転がり抵抗は考慮せず、摩擦ブレーキ制動量と路面の勾配抵抗を考慮して外乱を推定する。
【0067】
図8は、第2の実施形態において、車体駆動力外乱Fdvと駆動輪外乱Fdwを算出する処理手順を示すフローチャートである。また、
図9は、車体駆動力外乱Fdvおよび駆動輪外乱Fdwを算出するための制御ブロック図である。
【0068】
図8のステップS801では、従動輪摩擦ブレーキ指令値Fbf
*、駆動輪摩擦ブレーキ指令値Fbd
*、および、車速Vに基づいて、次式(26)〜(29)に基づいて、従動輪ブレーキ制動量Fdbf、駆動輪ブレーキ制動量Fdbd、および、総ブレーキ制動量Fdbを算出する。この処理は、
図9の摩擦ブレーキ制動量演算部901によって行われる。
【数26】
【数27】
【数28】
【数29】
【0069】
ここで、式(26)〜(29)における各パラメータは、下記の通りである。
τ
b:ブレーキ応答遅れ時定数
L
b:ブレーキ応答遅れ無駄時間
F
bf*:従動輪摩擦ブレーキ指令値(二輪分の制動量の絶対値)
F
bd*:駆動輪摩擦ブレーキ指令値(二輪分の制動量の絶対値)
F
dbf:従動輪ブレーキ制動量(二輪分)
F
dbd:駆動輪ブレーキ制動量(二輪分)
F
db:総ブレーキ制動量(四輪分)
【0070】
また、sgn(V)は、車速Vが正の時に1、負の時に−1、0の時に0となる関数である。従って、従動輪摩擦ブレーキ指令値F
bf*および駆動輪摩擦ブレーキ指令値F
bd*は、車速Vが正の場合に負の値となり、車速Vが負の場合に正の値となる。
【0071】
なお、従動輪摩擦ブレーキ指令値Fbf
*および駆動輪摩擦ブレーキ指令値Fbd
*の代わりに、ブレーキ液圧を検出する液圧センサや、ドライバのブレーキ操作量を検出するストロークセンサ等、摩擦ブレーキの制動量と関連する検出値を用いて、従動輪ブレーキ制動量Fdbf、駆動輪ブレーキ制動量Fdbd、総ブレーキ制動量Fdbを算出するようにしてもよい。
【0072】
ステップS802では、次式(30)より、空気抵抗Fdaを算出する。この処理は、
図9の空気抵抗演算処理部902によって行われる。
【数30】
【0073】
式(30)において、Kρは空気抵抗演算比例定数である。ただし、空気抵抗演算比例定数Kρを固定値ではなく、車速Vの符号や温度等の条件に応じて可変としてもよい。空気抵抗は、車両前後方向の逆向きに作用するため、車速Vが正の場合に空気抵抗Fdaを負の値に、車速Vが負の場合に空気抵抗Fdaを正の値に設定する。
【0074】
ステップS803では、次式(31)より、転がり抵抗Fdrを算出する。この処理は、
図9の転がり抵抗演算処理部903によって行われる。
【数31】
【0075】
式(31)において、Fdrcは、転がり抵抗を予め実験的に求めた代表値である。転がり抵抗は、車両前後方向の逆向きに作用するため、車速Vが正の場合に転がり抵抗Fdrを負の値に、車速Vが負の場合に転がり抵抗Fdrを正の値に設定する。なお、転がり抵抗Fdrを、タイヤの空気圧センサ等の関連するセンサ検出値に基づいて算出するようにしてもよい。
【0076】
ステップS804では、車体駆動力外乱推定値Fdv^を算出する。この処理は、
図9の外乱推定演算処理部904によって行われる。
【0077】
図10は、外乱推定演算処理部904の詳細な構成を示すブロック図である。外乱推定演算処理部904は、制御ブロック1001と、制御系遅れ要素1002と、制御ブロック1003と、加算器1004と、制御系遅れ要素1005と、制御ブロック1006と、制御ブロック1007と、制御系遅れ要素1008と、制御ブロック1009と、制御ブロック1010と、加算器1011と、減算器1012と、制御ブロック1013とを備える。
【0078】
制御ブロック1001は、H(s)/Gp(s)なる伝達特性を有するフィルタとしての機能を担っており、
図7の制御ブロック701と同様に、モータ角速度ωmを入力してフィルタリング処理を行うことにより、第1のモータトルク推定値を算出する。
【0079】
制御系遅れ要素1002は、
図7の制御系遅れ要素702と同様に、最終トルク目標値Tm2
*を入力し、制御演算時間遅れe
-L1s、センサ信号処理時間遅れe
-L2s、式(22)に示すモータ応答遅れGa(s)を考慮した時間遅れ演算を行う。
【0080】
制御ブロック1003は、
図7の制御ブロック703と同様に、H(s)なる伝達特性を有するローパスフィルタとしての機能を担っており、制御系遅れ要素1002で時間遅れ演算処理が行われた最終トルク目標値を入力してフィルタリング処理を行うことにより、第2のモータトルク推定値を算出する。
【0081】
加算器1004は、転がり抵抗Fdrと、空気抵抗Fdaと、従動輪ブレーキ制動量Fdbfとを加算することにより、車体駆動力抵抗合算値を算出する。
【0082】
制御系遅れ要素1005は、加算器1004で算出された車体駆動力抵抗合算値を入力し、センサ信号処理時間遅れe
-L2sを考慮した時間遅れ演算を行う。
【0083】
制御ブロック1006は、式(10)で示すG
pFdv(s)に、制御系遅れ要素1005によって時間遅れ演算処理が行われた車体駆動力抵抗合算値を入力して、モータ角速度応答を求める。
【0084】
制御ブロック1007は、H(s)/Gp(s)なる伝達特性を有するフィルタとしての機能を担っており、制御ブロック1006で求められたモータ角速度応答を入力して、第3のモータトルク推定値を算出する。
【0085】
制御系遅れ要素1008は、駆動輪ブレーキ制動量Fdbdを入力し、センサ信号処理時間遅れe
-L2sを考慮した時間遅れ演算を行う。
【0086】
制御ブロック1009は、式(11)で示すG
pFdw(s)に、制御系遅れ要素1008によって時間遅れ演算処理が行われた駆動輪ブレーキ制動量を入力して、モータ角速度応答を求める。
【0087】
制御ブロック1010は、H(s)/Gp(s)なる伝達特性を有するフィルタとしての機能を担っており、制御ブロック1009で求められたモータ角速度応答を入力して、第4のモータトルク推定値を算出する。
【0088】
加算器1011は、第3のモータトルク推定値と第4のモータトルク推定値とを加算することにより、第5のモータトルク推定値を算出する。
【0089】
減算器1012は、第1のモータトルク推定値から、第2のモータトルク推定値および第5のモータトルク推定値を減算することにより、モータトルク外乱推定値を算出する。
【0090】
制御ブロック1013は、減算器1012から出力されるモータトルク外乱推定値に、式(23)で示したゲインK
FvTmを乗算することにより、車体駆動力外乱推定値Fdv^を算出する。
【0091】
図8のフローチャートに戻って説明を続ける。ステップS805では、次式(32)より、車体駆動力外乱Fdvを算出する。この処理は、
図9の車体駆動力外乱算出処理部905によって行われる。
【数32】
【0092】
ステップS806では、次式(33)より、駆動輪外乱Fdwを算出する。この処理は、
図9の駆動輪外乱算出処理部906によって行われる。
【数33】
【0093】
以上、第2の実施形態における電動車両の制御装置によれば、第1の実施形態における電動車両の制御装置と同様に、車両モデル503は、車両に作用する外乱を考慮して、擬似駆動軸ねじり角速度ωd^を算出するので、外乱が発生した場合でも、精度良く擬似駆動軸ねじり角速度ωd^を求めることができ、これにより、駆動軸ねじり振動を精度良く抑制することができる。
【0094】
また、従動輪摩擦ブレーキ指令値Fbf
*および駆動輪摩擦ブレーキ指令値Fbd
*に基づいて、摩擦ブレーキの制動量(従動輪ブレーキ制動量Fdbf、駆動輪ブレーキ制動量Fdbd、および、総ブレーキ制動量Fdb)を算出する。これにより、センサを用いて摩擦ブレーキの制動量を求める方法に比べて、センサの検出誤差や検出遅れの影響を受けることなく、摩擦ブレーキの制動量を安定的に求めることができる。また、摩擦ブレーキの制動量を検出するための新規センサの追加が不要となり、コスト増加を抑制することができ、かつ、センサ検出信号処理の追加に伴う演算量の増加を抑制することができる。
【0095】
さらに、式(26)〜(29)に示すように、摩擦ブレーキの制動量指令値が変化してから車両に作用する制動力が変化するまでの応答遅れを考慮して、摩擦ブレーキの制動量を算出するので、より正確に、摩擦ブレーキ制動量を求めることができる。
【0096】
従動輪摩擦ブレーキ指令値Fbf
*および駆動輪摩擦ブレーキ指令値Fbd
*の代わりに、摩擦ブレーキの制動量と関連する摩擦制動量関連値(ブレーキ液圧やドライバのブレーキ操作量等)を検出し、検出した摩擦制動量関連値に基づいて、摩擦ブレーキの制動量を算出することもできる。この場合には、ブレーキアクチュエータの特性や応答を正確に反映した摩擦ブレーキ制動量を求めることができる。また、摩擦制動量関連値の検出値が変化してから車両に作用する制動力が変化するまでの応答遅れを考慮して、摩擦ブレーキの制動量を算出することにより、より正確に、摩擦ブレーキ制動量を求めることができる。
【0097】
−第3の実施形態−
第1および第2の実施形態では、車体駆動力外乱推定値Fdv^を算出してから、車体駆動力外乱Fdvおよび駆動輪外乱Fdwを算出した。第3の実施形態における電動車両の制御装置では、車体駆動力外乱推定値Fdv^を算出することなく、車体駆動力外乱Fdvおよび駆動輪外乱Fdwを算出する。
【0098】
図11は、第3の実施形態において、車体駆動力外乱Fdvと駆動輪外乱Fdwを算出する処理手順を示すフローチャートである。また、
図12は、車体駆動力外乱Fdvおよび駆動輪外乱Fdwを算出するための制御ブロック図である。
【0099】
図11のステップS1101では、次式(34)に示すように、車速Vの微分値とGセンサ12よって検出される車両前後加速度a
sとの偏差に、車両質量Mを乗算することによって、勾配抵抗Fdsを算出する。この処理は、
図12の勾配抵抗演算処理部1201によって行われる。
【数34】
【0100】
ここで、車両質量Mは、制振制御演算処理および外乱算出処理の車両モデルに設定されている車両質量と同じ値を用いる。ただし、サスペンションのストロークセンサ等で検出した車両質量検出値に応じて車両モデルに設定した車両質量を可変とする場合には、勾配抵抗算出に用いる車両質量も同じく可変とする。
【0101】
なお、路面の勾配をカーナビゲーションシステム等の他の車載システムより通信等にて取得し、取得した勾配に車両質量Mを乗算することによって、勾配抵抗Fdsを求めてもよい。
【0102】
ステップS1102では、従動輪摩擦ブレーキ指令値Fbf
*、駆動輪摩擦ブレーキ指令値Fbd
*、および、車速Vに基づいて、式(26)、(27)、(29)に基づいて、従動輪ブレーキ制動量Fdbfおよび駆動輪ブレーキ制動量Fdbdを算出する。この処理は、
図12の摩擦ブレーキ外乱演算処理部1202によって行われる。
【0103】
ステップS1103では、式(30)より、空気抵抗Fdaを算出する。この処理は、
図12の空気抵抗演算処理部1203によって行われる。
【0104】
ステップS1104では、式(31)より、転がり抵抗Fdrを算出する。この処理は、
図12の転がり抵抗演算処理部1204によって行われる。
【0105】
ステップS1105では、次式(35)に示すように、従動輪ブレーキ制動量Fdbfと、勾配抵抗Fdsと、空気抵抗Fdaと、転がり抵抗Fdrとを加算することにより、車体駆動力外乱Fdvを算出する。この処理は、
図12の車体駆動力外乱算出処理部1205によって行われる。
【数35】
【0106】
ステップS1106では、次式(36)より、駆動輪外乱Fdwを算出する。この処理は、
図12の駆動輪外乱算出処理部1206によって行われる。
【数36】
【0107】
以上、第3の実施形態における電動車両の制御装置によれば、第1および第2の実施形態における電動車両の制御装置と同様に、車両モデル503は、車両に作用する外乱を考慮して、擬似駆動軸ねじり角速度ωd^を算出するので、外乱が発生した場合でも、精度良く擬似駆動軸ねじり角速度ωd^を求めることができ、これにより、駆動軸ねじり振動を精度良く抑制することができる。
【0108】
図13は、第1の実施形態における電動車両の制御装置による制御結果と、従来の制御装置(WO2013/157315A)による制御結果とを示す図である。
図13では、降坂路において電動モータ4の回生ブレーキと摩擦ブレーキの協調制御状態で走行している場面で、ドライバがブレーキペダルを緩やかに離し、その後にアクセルペダルを緩やかに踏み込んだ状況での目標トルク指令値、最終トルク目標値、車両の前後加速度をそれぞれ上から順に示している。
図13において、実線が第1の実施形態における電動車両の制御装置による制御結果であり、点線が従来の制御装置による制御結果である。
【0109】
時刻t0〜t2の期間では、踏み込んでいたブレーキペダルをドライバが緩やかに離していき、時刻t2で完全にブレーキペダルを離している。これにより、基本トルク目標値は、時刻t0〜t2にかけて緩やかに負の値から0に向かって上昇し、時刻t2において、0となる。
【0110】
ドライバは、時刻t2でブレーキペダルを離すと同時にアクセルペダルを緩やかに踏み込む。これにより、時刻t2以降において、基本トルク目標値は緩やかに増加していく。
【0111】
ところで、時刻t2〜t4では、モータトルクの値が負から正に変化するため、ギアのバックラッシュ区間を跨ぐ。従来の制御装置では、ギアのバックラッシュを考慮した制振制御を行うため、ギアが詰まるまでの間、最終トルク目標値を一定に保ちつつ、ギアが詰まった時点から再び最終トルク目標値を立ち上げる。
【0112】
外乱が無い場合、車両のギアが詰まるタイミングと、最終トルク目標値が立ち上がるタイミングは一致する。しかし、本タイムチャートの事例では、降坂路を走行しつつ、摩擦ブレーキの介入も継続しているため、外乱が印加されている。従来の制御装置では、これらの外乱が考慮されていない制振制御の車両モデルと、実際の車両状態との間で誤差が生じるため、時刻t3〜t4において、ギアが詰まる前に最終トルク目標値が立ち上がり、制振制御のF/B補償器の作用の関係から、時刻t4〜t5において、加速度が急激に大きくなっている。
【0113】
これに対して、第1の実施形態における電動車両の制御装置によれば、制振制御の車両モデル503として外乱を考慮しているため、車両モデル503と実際の車両の状態とは一致する。従って、ギアが詰まるタイミングで最終トルク目標値が立ち上がるので、時刻t4〜t5において、ショックの無い滑らかな加速応答が得られる。
【0114】
本発明は、上述した実施形態に限定されることはない。