(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記信地旋回地点、及び前記経路を、音声又は表示の少なくとも一方により、乗員に報知する報知部を備えることを特徴とする請求項1、2、4〜9の何れか一項に記載の車両用駐車支援装置。
【発明を実施するための形態】
【0008】
《第1実施形態》
《構成》
第1実施形態は、一回の信地旋回で縦列駐車ができるように、第一の信地旋回地点へ到達可能な経路領域を設定し、運転者に案内するものである。縦列駐車とは、自車両の前後方向と駐車領域の長手方向とが略平行である状態から駐車を行うことである。なお、運転者が運転している場合に限らず、人為的な運転操作がなくとも、車両に搭載されたレーダやカメラ等で周囲の環境を認識し、車両システムが主体となって自律的に駐車(自動駐車)する技術にも適応できる。
【0009】
ここでは、前輪を駆動輪とし後輪を従動輪とする前輪駆動車両において、右前輪の接地中心点を中心に車両を信地旋回させる構成を例に説明する。
信地旋回装置11の構成を、
図1に基づいて説明する。
信地旋回装置11は、前輪12FL及び12FRと、後輪12RL及び12RRと、補助輪13L及び13Rと、エンジン14と、ホイールシリンダ21FL及び21FR、ブレーキアクチュエータ22と、昇降機構23L及び23Rと、昇降機構制御回路24と、コントローラ25と、を備える。
【0010】
前輪12FL及び12FRには、エンジン14の駆動力が、トランスミッション15及びディファレンシャルギヤ16を順に介して伝達される。このディファレンシャルギヤ16により、左右輪の回転差が許容される。前輪12FL及び12FRは、ステアリング機構によって転舵される転舵輪でもある。
前輪12FL及び12FR、並びに後輪12RL及び12RRには、夫々、制動力を発生させるホイールシリンダ21FL及び21FR、並びに21RL及び21RRが設けられ、各ホイールシリンダの液圧によって、個別の制動力が発生する。各ホイールシリンダ21FL〜21RRの制動力は、ブレーキアクチュエータ22を介してコントローラ25によって制御される。
【0011】
補助輪13L及び13Rは、夫々、後輪12RL及び12RRの近傍に設けられ、具体的には後輪車軸よりも後側で、且つ後輪12RL及び12RRの内側に設けられている。補助輪13L及び13Rの配置は、車体の重心よりも後側である必要があり、できるだけ後輪車軸に近く、且つ車幅方向外側にあることが望ましい。さらに、補助輪13L及び13Rは、夫々、軸方向が、右前輪12FRの接地点に向かうように支持されている。
補助輪13L及び13Rは、夫々、昇降機構23L及び23Rによって昇降可能に構成される。昇降機構23L及び23Rは、昇降機構制御回路24を介してコントローラ25によって制御される。
【0012】
補助輪13L及び13Rの昇降を、
図2に基づいて説明する。
図中の(a)は、補助輪13L及び13Rを格納した状態を示す。ここでは、補助輪13L及び13Rを予め定めた位置まで上昇させて、補助輪13L及び13Rを非接地状態にしている。すなわち、前輪12FL及び12FR、並びに後輪12RL及び12RRの4輪が接地状態にある。このときの上昇位置を格納位置とする。
図中の(b)は、補助輪13L及び13Rを下降させることにより、車体後側を持ち上げた状態を示す。ここでは、補助輪13L及び13Rを車体に対して予め定めた位置まで下降させて、補助輪13L及び13Rを接地状態にし、且つ後輪12RL及び12RRを非接地状態にしている。すなわち、前輪12FL及び12FR、並びに補助輪13L及び13Rの4輪が接地状態にある。このときの下降位置を持ち上げ位置とする。
【0013】
昇降機構23Lの構造を、
図3に基づいて説明する。
ここでは、左側に位置する昇降機構23Lの構造について説明するが、右側に位置する昇降機構23Rの構造についても同様であるため、詳細な説明を省略する。図中の(a)は、補助輪13L及び13Rを格納した状態を示す。図中の(b)は、補助輪13L及び13Rを下降させることにより、車体後側を持ち上げた状態を示す。
後輪12RLは、車輪支持部材31によって回転自在に支持されている。車輪支持部材31は、サスペンション機構32を介して車体33に支持される。
サスペンション機構32は、ロアリンク34と、アッパリンク35と、ショックアブソーバ36と、を備える。
【0014】
ロアリンク34は、略車幅方向に延び、車幅方向外側の一端がブッシュを介して揺動可能に車輪支持部材31の下部に連結され、車幅方向内側の他端がブッシュを介して揺動可能に車体33に連結される。アッパリンク35は、略車幅方向に延び、ロアリンク34よりも上方に配置され、車幅方向外側の一端がブッシュを介して揺動可能に車輪支持部材31の上部に連結され、車幅方向内側の他端がブッシュを介して揺動可能に車体33に連結される。ショックアブソーバ36は、略上下方向に延び、下端がブッシュを介して揺動可能にロアリンク34に連結され、上端がブッシュを介して揺動可能に車体33に連結される。
【0015】
昇降機構23Lは、補助輪支持部材41と、車輪側リンク部材42、車体側リンク部材43と、直動リンク部材44と、を備える。
補助輪支持部材41は、補助輪13Lを回転自在に支持する。
車輪側リンク部材42は、一端が揺動可能に車輪支持部材31に連結され、他端が揺動可能に補助輪支持部材41に連結される。
車体側リンク部材43は、一端が揺動可能に補助輪支持部材41に連結され、他端が揺動可能に車体33に連結される。
【0016】
直動リンク部材44は、直動モータからなり、ロッド部材44aと、回転運動を直線運動に変換することでロッド部材44aを軸方向に進退させるモータ本体44bと、を備える。したがって、モータ本体44bに対してロッド部材44aを予め定めた位置まで前進させるときに、直動リンク部材44が伸長する。また、モータ本体44bに対してロッド部材44aを予め定めた位置まで後退させるときに、直動リンク部材44が収縮する。この直動リンク部材44は、ロッド部材44aの先端が揺動可能に補助輪支持部材41に連結され、モータ本体44bの基端が揺動可能に車体33に連結される。
【0017】
補助輪支持部材41において、車輪側リンク部材42との連結点を45とし、車体側リンク部材43との連結点を46とし、直動リンク部材44との連結点を47とする。そして、補助輪13Lが格納位置にあり、且つ直動リンク部材44を伸長させた状態で、連結点45よりも連結点46を上側の車幅方向外側に位置させ、且つ連結点46よりも連結点47を上側の車幅方向外側に位置させる。これにより、直動リンク部材44を収縮させると、補助輪支持部材41が連結点46を中心に回動し、この回動によって補助輪13Lが車体33に対して下降してゆく。そして、補助輪13Lが接地してからは、補助輪13Lを押し下げる力が反力として作用し、地面に対して車体33を持ち上げることになる。
コントローラ25は、直動リンク部材44におけるモータ回転角、及びモータ電流値を検出し、昇降機構制御回路24を介してモータ本体44bに対するロッド部材44aの位置を制御することによって、補助輪13L及び13Rを格納位置及び持ち上げ位置の何れかに制御する。
上記が昇降機構23Lの説明である。
【0018】
次に、ブレーキアクチュエータ22について説明する。
ブレーキアクチュエータ22は、例えばアンチスキッド制御(ABS)、トラクション制御(TCS)、スタビリティ制御(VDC:Vehicle Dynamics Control)等に用いられる油圧回路からなる。
ブレーキアクチュエータ22の構成を、
図4に基づいて説明する。
ブレーキアクチュエータ22は、マスターシリンダ26と各ホイールシリンダ21FL〜21RRとの間に介装される。マスターシリンダ26は、運転者のペダル踏力に応じて2系統の液圧を作るタンデム式のもので、プライマリ側をフロント左・リア右のホイールシリンダ21FL・21RRに伝達し、セカンダリ側を右前輪・左後輪のホイールシリンダ21FR・21RLに伝達するダイアゴナルスプリット方式を採用している。
【0019】
各ホイールシリンダ21FL〜21RRは、ディスクロータをブレーキパッドで挟圧して制動力を発生させるディスクブレーキや、ブレーキドラムの内周面にブレーキシューを押圧して制動力を発生させるドラムブレーキに内蔵してある。
プライマリ側は、第1ゲートバルブ61Aと、インレットバルブ62FL(62RR)と、アキュムレータ63と、アウトレットバルブ64FL(64RR)と、第2ゲートバルブ65Aと、ポンプ66と、ダンパー室67と、を備える。
【0020】
第1ゲートバルブ61Aは、マスターシリンダ26及びホイールシリンダ21FL(21RR)間の流路を閉鎖可能なノーマルオープン型のバルブである。インレットバルブ62FL(62RR)は、第1ゲートバルブ61A及びホイールシリンダ21FL(21RR)間の流路を閉鎖可能なノーマルオープン型のバルブである。アキュムレータ63は、ホイールシリンダ21FL(21RR)及びインレットバルブ62FL(62RR)間に連通してある。アウトレットバルブ64FL(64RR)は、ホイールシリンダ21FL(21RR)及びアキュムレータ63間の流路を開放可能なノーマルクローズ型のバルブである。
【0021】
第2ゲートバルブ65Aは、マスターシリンダ26及び第1ゲートバルブ61A間とアキュムレータ63及びアウトレットバルブ64FL(64RR)間とを連通した流路を開放可能なノーマルクローズ型のバルブである。ポンプ66は、アキュムレータ63及びアウトレットバルブ64FL(64RR)間に吸入側を連通し、且つ第1ゲートバルブ61A及びインレットバルブ62FL(62RR)間に吐出側を連通してある。ダンパー室67は、ポンプ66の吐出側に設けてあり、吐出されたブレーキ液の脈動を抑制し、ペダル振動を弱める。
【0022】
また、セカンダリ側も、プライマリ側と同様に、第1ゲートバルブ61Bと、インレットバルブ62FR(62RL)と、アキュムレータ63と、アウトレットバルブ64FR(64RL)と、第2ゲートバルブ65Bと、ポンプ66と、ダンパー室67と、を備えている。
第1ゲートバルブ61A・61Bと、インレットバルブ62FL〜62RRと、アウトレットバルブ64FL〜64RRと、第2ゲートバルブ65A・65Bとは、夫々、2ポート2ポジション切換・シングルソレノイド・スプリングオフセット式の電磁操作弁である。また、第1ゲートバルブ61A・61B及びインレットバルブ62FL〜62RRは、非励磁のノーマル位置で流路を開放し、アウトレットバルブ64FL〜64RR及び第2ゲートバルブ65A・65Bは、非励磁のノーマル位置で流路を閉鎖するように構成してある。
【0023】
また、アキュムレータ63は、シリンダのピストンに圧縮バネを対向させたバネ形のアキュムレータで構成してある。
また、ポンプ66は、負荷圧力に係りなく略一定の吐出量を確保できる歯車ポンプ、ピストンポンプ等、容積形のポンプで構成してある。
上記の構成により、プライマリ側を例に説明すると、第1ゲートバルブ61A、インレットバルブ62FL(62RR)、アウトレットバルブ64FL(64RR)、及び第2ゲートバルブ65Aが全て非励磁のノーマル位置にあるときに、マスターシリンダ26からの液圧がそのままホイールシリンダ21FL(21RR)に伝達され、通常ブレーキとなる。
【0024】
また、ブレーキペダルが非操作状態であっても、インレットバルブ62FL(62RR)、及びアウトレットバルブ64FL(64RR)を非励磁のノーマル位置にしたまま、第1ゲートバルブ61Aを励磁して閉鎖すると共に、第2ゲートバルブ65Aを励磁して開放し、更にポンプ66を駆動することで、マスターシリンダ26の液圧を第2ゲートバルブ65Aを介して吸入し、吐出される液圧をインレットバルブ62FL(62RR)を介してホイールシリンダ21FL(21RR)に伝達し、増圧させることができる。
【0025】
また、第1ゲートバルブ61A、アウトレットバルブ64FL(64RR)、及び第2ゲートバルブ65Aが非励磁のノーマル位置にあるときに、インレットバルブ62FL(62RR)を励磁して閉鎖すると、ホイールシリンダ21FL(21RR)からマスターシリンダ26及びアキュムレータ63への夫々の流路が遮断され、ホイールシリンダ21FL(21RR)の液圧が保持される。
さらに、第1ゲートバルブ61A及び第2ゲートバルブ65Aが非励磁のノーマル位置にあるときに、インレットバルブ62FL(62RR)を励磁して閉鎖すると共に、アウトレットバルブ64FL(64RR)を励磁して開放すると、ホイールシリンダ21FL(21RR)の液圧がアキュムレータ63に流入して減圧される。アキュムレータ63に流入した液圧は、ポンプ66によって吸入され、マスターシリンダ26に戻される。
【0026】
セカンダリ側に関しても、通常ブレーキ・増圧・保持・減圧の動作は、上記プライマリ側の動作と同様であるため、その詳細説明は省略する。
コントローラ25は、第1ゲートバルブ61A・61Bと、インレットバルブ62FL〜62RRと、アウトレットバルブ64FL〜64RRと、第2ゲートバルブ65A・65Bと、ポンプ66とを駆動制御することによって、各ホイールシリンダ21FL〜21RRの液圧を増圧・保持・減圧する。
上記がブレーキアクチュエータ22の説明である。
【0027】
次に、信地旋回の動作について説明する。
信地旋回の動作を、
図5に基づいて説明する。
車両が停止しており、シフト位置がニュートラル(N)又はパーキング(P)にある状態で、信地旋回要求があるときに、コントローラ25は、昇降機構制御回路24を介して直動リンク部材44を収縮させる。これにより、補助輪13L及び13Rが格納位置から下降し、持ち上げ位置へと変位するため、前輪12FL及び12FR、並びに補助輪13L及び13Rの4輪が接地状態となる。ここでは、接地状態にある前輪12FL及び12FR、並びに補助輪13L及び13Rを実線で示し、非接地状態にある後輪12RL及び12RRを点線で示す。
【0028】
そして、コントローラ25は、ブレーキアクチュエータ22を介して右前輪12FRのホイールシリンダ21FRだけを、予め定めた液圧まで増圧させる。このときの液圧は、右前輪12FRに駆動力が伝達されても、右前輪12FRの回転を阻止できる程度の値とする。なお、右前輪12FR以外、つまり左前輪12FL、左後輪12RL、右後輪12RRの各ホイールシリンダには、マスターシリンダ26の液圧が伝達され、通常のブレーキ操作を可能にする。
【0029】
この状態で、シフト位置をドライブ(D)又はバック(R)にし、前輪12FL及び12FRに駆動力を伝達すると、右前輪12FRは制動力によって回転が抑制されているため、左前輪12FLの回転だけが許容される。この左右輪における駆動力差(回転差)により、右前輪12FRの接地中心点Pfrを中心とするモーメントが車両に作用し、信地旋回が行われる。すなわち、左前輪12FLを前進させれば平面視で時計回りに信地旋回し、左前輪12FLを後退させれば平面視で反時計回りに信地旋回する。補助輪13L及び13Rは、夫々、軸方向が右前輪12FRの接地中心点Pfrに向かうように配置されているため、右前輪12FRの接地中心点Pfrを中心とするスムーズな信地旋回が実現される。
平面視における信地旋回の軌道を
図6に示す。
【0030】
次に、車両用駐車支援装置71の構成を、
図7に基づいて説明する。
車両用駐車支援装置71は、車輪速センサ72と、シフトセンサ73と、レーダ装置74と、コントローラ25と、報知部75と、信地旋回装置11と、を備える。
車輪速センサ72は、各車輪の車輪速度Vw
FL〜Vw
RRを検出する。この車輪速センサ72は、例えば車輪と共に回転し円周に突起部(ギヤパルサ)が形成されたセンサロータと、このセンサロータの突起部に対向して設けられたピックアップコイルを有する検出回路と、を備える。そして、センサロータの回転に伴う磁束密度の変化を、ピックアップコイルによって電圧信号に変換してコントローラ25に出力する。コントローラ25は、入力された電圧信号から車輪速度Vw
FL〜Vw
RRを判断し、例えば非駆動輪(従動輪)の車輪速平均値や全輪の車輪速平均値を車速として演算する。
【0031】
シフトセンサ73は、トランスミッション15のシフトポジションを検出する。このシフトセンサ73は、例えば複数のホール素子を備え、夫々のON/OFF信号をコントローラ25に出力する。コントローラ25は、入力されたON/OFF信号の組み合わせからシフトポジションを判断する。
レーダ装置74は、車体におけるフロント、リア、左サイド、及び右サイドの計4箇所に設けられている。レーダ装置74は、例えばミリ波レーダやLRF(Laser Range Finder)からなり、照射波を出力し、その反射波を入力することにより、自車両周囲に存在する前方物体までの距離、相対速度、及び方位を検出し、検出した各データをコントローラ25に出力する。
【0032】
ミリ波レーダは、距離及び相対速度については、例えばFM‐CW(Frequency Modulation-Continuous Wave)方式を利用し、ドップラ効果による周波数差に応じて距離及び相対速度を検出する。方位については、例えばDBF(Digital Beam Forming)方式を利用し、複数のチャンネルで受信した反射波の位相差に応じて方位を検出する。LRFは、偏向器となるポリゴンミラーの回転によって二次元スキャンを行う。距離及び相対速度については、レーザ光を照射してから、その反射光を受光するまでの時間に応じて距離及び相対速度を検出する。方位については、ポリゴンミラーの回転角に応じて方位を検出する。
【0033】
なお、4つのレーダ装置74を区別する際には、車体のフロントに設けたレーダ装置をフロントレーダ装置74Fとし、車体のリアに設けたレーダ装置をリアレーダ装置74Rとし、車体の左サイドに設けたレーダ装置を左サイドレーダ装置74SLとし、車体の右サイドに設けたレーダ装置を右サイドレーダ装置74SRとする。
レーダ装置74の配置例を、
図8に基づいて説明する。
フロントレーダ装置74Fは、例えばフロントグリルに設けられ、主に車体前方に存在する前方物体までの距離、相対速度、及び方位を検出する。リアレーダ装置74Rは、例えばリアバンパに設けられ、主に車体後方に存在する後方物体までの距離、相対速度、及び方位を検出する。左サイドレーダ装置74SLは、左側の例えばリアフェンダに設けられ、主に車体左方に存在する側方物体までの距離、相対速度、及び方位を検出する。右サイドレーダ装置74SRは、右側の例えばリアフェンダに設けられ、主に車体右方に存在する側方物体までの距離、相対速度、及び方位を検出する。各レーダ装置74は、検出角度が水平方向に例えば150度程度であり、検出距離が例えば100m程度である。
【0034】
コントローラ25は、例えばマイクロコンピュータからなり、第一の信地旋回地点設定部76と、経路領域設定部77と、信地旋回制御部78と、を備える。
第一の信地旋回地点設定部76、経路領域設定部77、及び信地旋回制御部78での処理を、
図9に基づいて説明する。
ここでは、縦列駐車の一例を示す。自車両VHは、縦列駐車領域Apに接した通路81上に位置しており、自車両VHの右斜め前方に縦列駐車領域Apがある。この自車両VHの初期位置を、車体サイズよりも僅かに大きなフレームFbで示す。ここでは、便宜上、四角形のうち、車体前側に相当する二つの角を切り取った形状で示す。縦列駐車領域Apは、略長方形であり、自車両VHの姿勢は、車体前後方向が縦列駐車領域Apの長手方向と略平行な状態にある。
【0035】
縦列駐車領域Apは、四方のうち、通路81に接している一方だけが開放され、他の三方は構造物によって囲まれている。この三方のうち、自車両VHから見て、奥側の構造物を82とし、右側の構造物を83とし、手前側の構造物を84とする。また、通路81の幅方向における縦列駐車領域Ap側の通路端には、通路81に沿って延び、且つ手前側の構造物84に連なる構造物85がある。構造物84と構造物85とが連なる箇所を角部86とする。また、通路81の幅方向における縦列駐車領域Apとは反対側の通路端には、通路81に沿って延びる構造物87がある。構造物は、例えば壁、ガードレール、フェンス、柵、縁石等であるが、他の駐車車両、植込み、土手等、何らかの障害物であっても適用できる。
【0036】
第一の信地旋回地点設定部76は、自車両VHの一部を前側から縦列駐車領域Apに進入させて信地旋回を行なえば、自車両の車体前後方向を縦列駐車領域Apの長手方向に一致させることができる地点を、第一の信地旋回地点Peとして設定する。第一の信地旋回地点Peとは、右前輪12FRの接地中心点Pfrを到達させる目標地点であり、奥側の構造物82から予め定めた距離x1だけ離れ、且つ右側の構造物83から予め定めた距離y1だけ離れたた地点とする。ここで、自車両の車体前後方向を縦列駐車領域Apの長手方向に一致させた位置を、フレームFeで示す。距離x1は、右前輪12FRの接地中心点Pfrから車体左側面までの距離に応じて決定され、距離y1は、接地中心点Pfrから車体前端面までの距離(フロントオーバーハング)に応じて決定される。何れも、信地旋回を行うときに、自車両が構造物82や構造物83との干渉を回避するために、最低限確保すべき距離とする。
【0037】
経路領域設定部77は、自車両が縦列駐車領域Apに進入する前に、第一の信地旋回地点Peへ到達可能な経路領域を設定する。第一の信地旋回地点Peへ到達可能な経路領域とは、自車両の信地旋回中心、つまり右前輪12FRの接地中心点Pfrを、第一の信地旋回地点Peに精度よく合わせることのできる経路領域である。具体的には、第一の信地旋回地点Peで信地旋回を行うときの円軌道のうち、自車両が障害物との干渉を回避して、縦列駐車領域Apへ進入可能な角度範囲θを、経路領域として設定する。ここでは、自車両VHが縦列駐車領域Apに対して、最も浅い角度で進入するときの限界線L1と、最も深い角度(90度)で進入するときの限界線L2とを設定し、これら限界線L1及びL2がなす角度を、角度範囲θとして設定する。
【0038】
限界線L1は、第一の信地旋回地点Peで信地旋回を行なうときの円軌道のうち、車体右側面の延長線が角部86に最も近く、且つ角部86に干渉しない角度位置である。限界線L2は、第一の信地旋回地点Peで信地旋回を行なうときの円軌道のうち、車体左側面が構造物82と平行になる角度位置である。角度範囲θにおいて、限界線L1に従った一方の限界位置を、フレームF1で示し、限界線L2に従った他方の限界位置を、フレームF2で示す。したがって、限界線L1に沿ったフレームF1の限界位置から、限界線L2に沿ったフレームF2の限界位置までの範囲内を、第一の信地旋回地点Peへ到達可能な経路領域として設定する。
【0039】
なお、限界線L2に沿った限界位置であるフレームF2は、自車両が縦列駐車領域Apに対して略直交する位置関係にあるため、通路81を通行してきた自車両は、前輪12FL及び12FRを転舵して進入することになる。それで、自車両が最大転舵角δmax(最小旋回半径)で旋回してフレームF2に到達する軌道を、経路領域の限界線Lrrとして設定する。この限界線Lrrは、例えば右後輪12RRの接地中心点Prrの軌道である。ここで、自車両を信地旋回によらず最大転舵角δmaxで旋回させれば、直角に方向転換してフレームF2に到達できる位置を、フレームFsで示す。転舵角を略0にしたまま、このフレームFsを超えて前進し、その後、転舵を開始して最大転舵角δmaxで旋回しても、限界位置であるフレームF2には到達することができない。この場合には、フレームFsを超えるまでに転舵を開始する必要がある。
【0040】
信地旋回制御部78は、自車両VHが前進によって縦列駐車領域Apに進入し、右前輪12FRの接地中心点Pfrが第一の信地旋回地点Peに到達している状態で、シフト位置がニュートラル(N)又はパーキング(P)にあることを確認する。そして、昇降機構制御回路24を介して補助輪13L及び13Rを格納位置から下降位置まで下降させ、且つブレーキアクチュエータ22を介して右前輪12FRに制動力を発生させる。そして、シフト位置がバック(R)にあることを確認したら、エンジン14から前輪12FL及び12FRに駆動力を伝達することにより、右前輪12FRの接地中心点Pfrを中心にして平面視で反時計回りに信地旋回する。
【0041】
そして、自車両VHがフレームFeに到達した状態で、シフト位置がニュートラル(N)又はパーキング(P)にあることを確認する。そして、ブレーキアクチュエータ22を介して右前輪12FRの制動力を解除し、且つ昇降機構制御回路24を介して補助輪13L及び13Rを下降位置から格納位置まで上昇させ、縦列駐車を完了する。
ここでは、ステアリング操作、シフト操作、及びアクセル操作は、運転者が行なうことを前提としているが、車両システムが主体となって自律的に行なってもよい。
【0042】
また、右前輪12FRの接地中心点Pfrを中心に信地旋回を行っているが、これに限定されるものではなく、左前輪12FLの接地点を中心に信地旋回を行ってもよい。この場合、補助輪13L及び13Rを、夫々、軸方向が、左前輪12FLの接地点に向かうように支持するとよい。そして、補助輪13L及び13Rを格納位置から下降位置まで下降させ、且つ左前輪12FLに制動力を発生させてから、前輪12FL及び12FRに駆動力を伝達することにより、左前輪12FLの接地点を中心にして信地旋回させる。このように、左前輪12FLの接地点を中心とする信地旋回の場合には、右前輪12FRを前進させれば平面視で反時計回りに信地旋回し、右前輪12FRを後退させれば平面視で時計回りに信地旋回する。
【0043】
さらに、前輪12FL及び12FRのうち、左右輪の一方を中心に信地旋回を行うことに限定されるものはなく、後輪12RL及び12RRのうち、左右輪の一方を中心に信地旋回を行ってもよい。この場合は、後輪12RL及び12RRを駆動輪とし、前輪12FL及び12FRを従動輪とする後輪駆動車両において、補助輪13L及び13Rを、前輪12FL及び12FRの側に設ける必要がある。そして、右後輪12RRの接地点を中心に信地旋回を行うなら、補助輪13L及び13Rを、夫々、軸方向が右後輪12RRの接地点に向かうように支持する。また、左後輪12RLの接地点を中心に信地旋回を行うなら、補助輪13L及び13Rを、夫々、軸方向が左後輪12RLの接地点に向かうように支持する。
【0044】
報知部75は、設定された第一の信地旋回地点Pe及び経路領域に応じて、縦列駐車を完了するまでの操作案内を、音声又は表示の少なくとも一方により、運転者に報知する。音声による報知の場合、スピーカを用い、例えば右斜め前方へ進むよう促したり、経路領域から外れないようにステアリング操作量の目安を案内したり、シフト位置の切り替えを促したり、信地旋回時のアクセル操作を促したりする。表示による報知の場合、ディスプレイを用い、例えば俯瞰画像上で第一の信地旋回地点Pe及び経路領域を表示し、必要とされる各種操作を案内する。
【0045】
次に、コントローラ25で実行する駐車支援処理を、
図10に基づいて説明する。この駐車支援処理は、例えば運転者のスイッチ操作により、縦列駐車支援要求が出力されたときに、所定時間(例えば10msec)毎に実行される。
ステップS101では、レーダ装置74により、障害物の有無や、障害物がある場合の距離及び方位等、自車両の周囲環境を認識する。
続くステップS102では、周囲環境に対する自車両の相対的な位置、及び姿勢を検出する。
【0046】
続くステップS103では、縦列駐車領域Apを設定する。
続くステップS104では、信地旋回によって縦列駐車可能な縦列駐車領域Apが存在するか否かを判定する。ここで、縦列駐車可能な縦列駐車領域Apが存在しない、又は信地旋回できるスペースがないときにはステップS105に移行する。一方、縦列駐車領域Apが存在し、且つ信地旋回を行なえるスペースもあるときにはステップS106に移行する。
ステップS105では、駐車支援を中止する旨を案内してから所定のメインプログラムに復帰する。
【0047】
ステップS106は、信地旋回地点設定部76の処理に対応し、第一の信地旋回地点Peを設定する。
続くステップS107では、第一の信地旋回地点Peで信地旋回を行うときの円軌道のうち、自車両が縦列駐車領域Apに対して、最も浅い角度で進入するときの限界線L1を設定する。
続くステップS108では、現在位置から信地旋回によらず最大転舵角δmax(最小旋回半径)で旋回して限界線L1に接続できるか否かを判定する。ここで、最大転舵角δmaxで接続できるときには、設定された限界線L1をそのまま維持できると判断してステップS110に移行する。一方、最大転舵角δmaxで接続できないときには、設定された限界線L1に補正が必要であると判断してステップS109に移行する。
ステップS109では、縦列駐車領域Apへの進入角度が予め定めた角度(例えば数度)だけ深くなるように、限界線L1の角度を増やしてから改めてステップS108に移行する。
【0048】
続くステップS110では、第一の信地旋回地点Peで信地旋回を行うときの円軌道のうち、自車両が縦列駐車領域Apに対して、最も深い角度(90度)で進入するときの限界線L2を設定する。
続くステップS111では、現在位置から信地旋回によらず最大転舵角δmax(最小旋回半径)で旋回して限界線L2に接続できるか否かを判定する。ここで、最大転舵角δmaxで接続できるときには、設定された限界線L2をそのまま維持できると判断してステップS113に移行する。一方、最大転舵角δmaxで接続できないときには、設定された限界線L2に補正が必要であると判断してステップS112に移行する。
ステップS112では、縦列駐車領域Apへの進入角度が予め定めた角度(例えば数度)だけ浅くなるように、限界線L2の角度を減らしてから改めてステップS111に移行する。
【0049】
続くステップS113では、限界線L1及びL2がなす角度を、角度範囲θとして設定する。
続くステップS114では、自車両が最大転舵角δmax(最小旋回半径)で旋回して限界線L2に接続する軌道を、経路領域の限界線Lrrとして設定する。
上記のステップS107〜S114の処理は、経路領域設定部77の処理に対応する。
続くステップS115は、報知部75の処理に対応し、第一の信地旋回地点Pe、角度範囲θ、及び限界線Lrrを運転者に報知すると共に、必要となる操作の案内を開始してから所定のメインプログラムに復帰する。
【0050】
《作用》
次に、第1実施形態の作用について説明する。
自車両を縦列駐車領域Apに進入させてから、駐車できるか否かを判定するだけでは、仮に駐車できないと判定されたときに、駐車領域への進入をやり直さなければならず、駐車支援の点で改善の余地があった。
そこで、自車両の一部を縦列駐車領域Apに進入させて信地旋回を行なえば、自車両の車体前後方向を縦列駐車領域Apの長手方向に一致させることができる地点を、第一の信地旋回地点Peとして設定する。また、自車両が縦列駐車領域Apに進入する前に、第一の信地旋回地点Peへ到達可能な経路領域を設定する。つまり、右前輪12FRの接地中心点Pfrを、第一の信地旋回地点Peに精度よく合わせることのできる経路領域を設定する。これにより、縦列駐車領域Apに進入した後に駐車ができず、進入をやり直さなければならない、といった事態を招くことを抑制できる。すなわち、縦列駐車領域Apに進入してから、駐車できるか否かを判定する場合と比べて、より適切な駐車支援を行うことができる。
【0051】
縦列駐車の一例を、
図9に基づいて説明する。
自車両VHは、縦列駐車領域Apが右斜め前方に見える位置で停止しており、この初期位置をフレームFbで示す。このとき、運転者のスイッチ操作により、縦列駐車要求が出力されると、レーダ装置74により、障害物の有無や、障害物がある場合の距離及び方位等、自車両の周囲環境を認識する(ステップS101)。この初期位置では、縦列駐車領域Apのうち、手前側、つまり構造物84がある側の一部がレーダ装置74の死角となり得るが、縦列駐車領域Apの大半を検出することができるとする。
【0052】
こうして周囲環境を認識したら、自車両VHの相対的な位置や姿勢を検出し(ステップS102)、縦列駐車領域Apを設定する(ステップS103)。このとき、設定した縦列駐車領域Apで確定して良いかどうかを運転者に尋ね、確定したり、再設定したりできるように構成することが望ましい。なお、信地旋回によって縦列駐車可能な縦列駐車領域Apが存在しないときには(ステップS104の判定が“No”)、駐車支援を中止する旨を案内する(ステップS105)。ここでは、信地旋回によって縦列駐車可能な縦列駐車領域Apが存在するものとする(ステップS104の判定が“Yes”)。
【0053】
そして、自車両の一部を縦列駐車領域Apに進入させて信地旋回を行なえば、縦列駐車を完了させることができる地点を、第一の信地旋回地点Peとして設定する(ステップS106)。ここでは、奥側の構造物82から予め定めた距離x1だけ離れ、且つ右側の構造物83から予め定めた距離y1だけ離れたた地点とする。つまり、前詰め、且つ右詰めとしているが、縦列駐車領域Apの長手方向の長さや短手方向(幅方向)の長さに応じて、調整してもよい。例えば、縦列駐車を完了させたときの位置が、縦列駐車領域Apの中心に位置するような第一の信地旋回地点Peを設定してもよい。また、設定した第一の信地旋回地点Peで確定して良いかどうかを運転者に尋ね、確定したり、再設定したりできるように構成することが望ましい。
【0054】
そして、第一の信地旋回地点Peで信地旋回を行うときの円軌道のうち、自車両VHが縦列駐車領域Apに対して、最も浅い角度で進入するときの限界線L1を設定する(ステップS107)。限界線L1は、第一の信地旋回地点Peで信地旋回を行うときの円軌道のうち、車体右側面の延長線が角部86に最も近く、且つ角部86に干渉しない位置である。なお、自車両が現在位置から信地旋回によらず最大転舵角δmax(最小旋回半径)で旋回して限界線L1に接続できないときには、接続できる角度まで限界線L1を補正する(ステップS108、S109)。
【0055】
また、第一の信地旋回地点Peで信地旋回を行うときの円軌道のうち、最も深い角度(90度)で進入するときの限界線L2を設定する(ステップS110)。限界線L2は、第一の信地旋回地点Peで信地旋回を行なうときの円軌道のうち、車体左側面が構造物82と平行になる位置である。なお、自車両が現在位置から信地旋回によらず最大転舵角δmax(最小旋回半径)で旋回して限界線L2に接続できないときには、接続できる角度まで限界線L2を補正する(ステップS111、S112)。そして、これら限界線L1及びL2がなす角度を、角度範囲θとして設定する(ステップS113)。
【0056】
また、限界線L2に沿った限界位置であるフレームF2は、自車両が縦列駐車領域Apに対して略直交する位置関係にあるため、通路81を通行してきた自車両は、前輪12FL及び12FRを転舵して進入することになる。それで、自車両が最大転舵角δmax(最小旋回半径)で旋回してフレームF2に到達する軌道を、経路領域の限界線Lrrとして設定する(ステップS114)。限界線Lrrは、例えば右後輪12RRの接地中心点Prrの軌道である。ここで、自車両を最大転舵角δmaxで旋回させれば、直角に方向転換してフレームF2に到達できる位置を、フレームFsで示す。転舵角を略0にしたまま、このフレームFsを超えて前進し、その後、転舵を開始して最大転舵角δmaxで旋回しても、限界位置であるフレームF2には到達することができない。この場合には、フレームFsを超えるまでに転舵を開始する必要がある。
【0057】
そして、第一の信地旋回地点Pe、角度範囲θ、及び限界線Lrrを運転者に報知すると共に、必要となる操作の案内を開始する(ステップS115)。つまり、一方の限界線L1から他方の限界線L2までの範囲を提示し、その範囲内に到達できるよう誘導したり、限界線Lrrを超えないように誘導したりする。これにより、一つの軌道を定めて、それに沿って誘導する場合と比べて、ステアリング操作の自由度が増し、ある程度のバラつきを許容できる良好な駐車支援を行うことができる。また、操作案内自体も大まかな内容で済むため、簡潔明瞭となり、ユーザにとっても理解しやすくなる。
【0058】
自車両VHの右斜め前方に縦列駐車領域Apが存在するような場合、通常は、最も深い角度(90度)となる限界線L2に沿って縦列駐車領域Apに進入することはなく、むしろ最も浅い角度となる限界線L1に沿って縦列駐車領域Apに進入することになる。そうすれば、大回りすることなく、フレームFbからフレームF1へ進行する際のステアリング操作を最小限に抑制し、且つ第一の信地旋回地点Peに到達してからの信地旋回量も最小限に抑制することができる。したがって、特に限界線L1に沿った限界位置であるフレームF1へと自車両VHを誘導するような操作案内をすることが望ましい。
【0059】
そして、自車両VHが前進によって縦列駐車領域Apに進入し、右前輪12FRの接地中心点Pfrが第一の信地旋回地点Peに到達したら、補助輪13L及び13Rを格納位置から下降位置まで下降させ、且つ右前輪12FRに制動力を発生させる。この状態で、エンジン14から前輪12FL及び12FRに駆動力を伝達することにより、右前輪12FRの接地中心点Pfrを中心とする信地旋回を行う。そして、自車両VHがフレームFeに到達したら、右前輪12FRの制動力を解除し、且つ補助輪13L及び13Rを下降位置から格納位置まで上昇させ、縦列駐車を完了する。
【0060】
なお、一方の限界線L1から他方の限界線L2までの範囲を提示し、その範囲内に到達できるよう誘導しているが、これに限定されるものではない。すなわち、一方の限界線L1から他方の限界線L2までの範囲内で、任意の一つの軌道を定めて、それに沿って誘導するようにしてもよい。
また、信地旋回の中心を自車両の前輪側の一点に定める構成について説明したが、これは信地旋回の利便性を最大限に引き出すことができるからである。すなわち、元々、前輪転舵によって車体前側は振りやすいため、信地旋回の中心を自車両の後輪側に定め、車体前側を振れるようにしても、その利便性が際立たない。これに対して、一般的な普通自動車では、後輪を転舵できない、又は転舵できても僅かであるため、車体後側は、車体前側ほど振ることができない。したがって、信地旋回の中心を自車両の前輪側に定め、車体後側を振れるようにすることにより、その利便性が際立つ。
【0061】
また、前進による縦列駐車について説明したが、これも信地旋回による縦列駐車の利便性を最大限に引き出すことができるからである。信地旋回機能のないコンベンショナルな車両においては、一般に、後退による縦列駐車は比較的容易であるのに対して、前進による縦列駐車は困難である。したがって、元々、縦列駐車が容易な後退時に、信地旋回機能によって駐車支援を行っても、その利便性が際立たない。これに対して、通常は困難な前進時に、信地旋回機能による駐車支援を行うことにより、その利便性が際立つ。
【0062】
また、後退時と比べて前進時の方が、第一の信地旋回地点Peを目指して車両を進行させやすいため、第一の信地旋回地点Peへ到達させやすい。さらに、後退による縦列駐車を行う場合には、先ず前進によって縦列駐車領域Apの横を過ぎてから、シフト位置を切り替えて、車両を後退させて縦列駐車を開始するため、縦列駐車のための車両の動作範囲が大きくなってしまう。これに対して、前進による縦列駐車を行う場合には、そのまま縦列駐車領域Apに進入させ、信地旋回を行なえば縦列駐車が完了するので、縦列駐車のための車両の動作範囲を最小限に抑制することができる。
【0063】
《応用例1》
第1実施形態では、レーダ装置74を用い、周囲環境を認識しているが、これに限定されるものではなく、自車両の周囲環境を撮像するカメラ79を搭載し、このカメラ79だけで、又はカメラ79とレーダ装置74との双方で、周囲環境を認識してもよい。
カメラ79は、車体におけるフロント、リア、左サイド、及び右サイドの計4箇所に設け、夫々、高解像度の広角カメラとする。なお、4つのカメラを区別する際には、車体のフロントに設けたカメラをフロントカメラ79Fとし、車体のリアに設けたカメラをリアカメラ79Rとし、車体の左サイドに設けたカメラを左サイドカメラ79SLとし、車体の右サイドに設けたカメラを右サイドカメラ79SRとする。
【0064】
フロントカメラ79F及び左サイドカメラ79SLの配置例を、
図11に示す。
フロントカメラ79Fは、例えばフロントグリルに設けられ、少なくとも車体前方の路面を撮像する。また、リアカメラ79Rは、例えばバックドアフィニッシャに設けられ、少なくとも車体後方の路面を撮像する。フロントカメラ79F及びリアカメラ79Rは、180度の水平画角を有する。また、左サイドカメラ79SLは、左のドラミラーに設けられ、少なくとも車体左方の路面を撮像する。また、右サイドカメラ79SRは、右のドアミラーに設けられ、少なくとも車体右方の路面を撮像する。各カメラ79は、撮像した各画像データをコントローラ25に入力する。
【0065】
コントローラ25は、各カメラ79からの映像を切り出し、俯瞰変換することで俯瞰画像(トップビュー)を生成する。ここでは、フロントカメラ79Fからの映像に基づく表示領域をAFとし、リアカメラ79Rからの映像に基づく表示領域をARとし、左サイドカメラ79SLからの映像に基づく表示領域をASLとし、右サイドカメラ79SRからの映像に基づく表示領域をASRとしている。
このように、カメラ79を用いれば、俯瞰画像上で第一の信地旋回地点Pe及び経路領域を表示し、必要とされる各種操作を案内できるため、より適切な駐車支援を行うことができる。
【0066】
《応用例2》
第1実施形態では、縦列駐車領域Apに接する通路81の幅員に、十分な余裕があることを前提に説明したが、通路81の幅員に、十分な余裕がない場合には、角度範囲θを補正する。
通路81の幅員が狭い場合の角度範囲θを、
図12に基づいて説明する。
通路81の幅員が狭いと、通路81における縦列駐車領域Apとは反対側の通路端に自車両を寄せてから、最大転舵角δmaxで旋回したとしても、縦列駐車領域Apに対して直角に方向転換することはできない。したがって、限界線L2は、第一の信地旋回地点Peで信地旋回を行なうときの円軌道のうち、車体左側面が構造物82と平行になる位置にすることができない。通路81の幅員は、レーダ装置74の検出結果から求めてもよいし、ナビゲーションシステムの道路地図情報から取得してもよい。
【0067】
この場合、通路81の幅員と、最大転舵角δmaxで旋回するときの最小旋回半径とに応じて、限界線L2の角度を補正する。具体的には、先ず通路81の構造物87側に自車両を寄せた位置をフレームFnで示し、この位置から最大転舵角δmax(最小旋回半径)で旋回するときの軌道を、限界線Lrrで示す。そして、第一の信地旋回地点Peで信地旋回を行なうときの円軌道のうち、後輪12RRの接地中心点Prrに対して、限界線Lrrが接する位置を、フレームF2で示し、このフレームF2に沿った直線を、限界線L2とする。この限界線L2の角度に応じて、角度範囲θを補正する。
このように、通路81の幅員と、最大転舵角δmaxで旋回するときの最小旋回半径とに応じて、角度範囲θを補正すれば、実現可能な経路領域を設定することができ、より適切な駐車支援を行うことができる。
【0068】
《応用例3》
第1実施形態では、ステアリング装置については、前輪12FL及び12FRだけを転舵できる一般的な構成としているが、これに限定されるものではない。例えば、前輪12FL及び12FRのみならず、後輪12RL及び12RRをも転舵できる四輪操舵車両(4WS)のうち、平面視で車体内側の予め定めた一点を中心に車両を旋回させる信地旋回が可能な車両にも適応することができる。
【0069】
信地旋回が可能な四輪操舵車両を、
図13に示す。
前輪12FL及び12FR、並びに後輪12RL及び12RRは、夫々、最大転舵角δmaxが90度以上の四輪操舵車両であり、平面視で車体内側の右前端部に、旋回中心Poを設定している。各車輪の軸方向が、旋回中心Poに向かうように転舵された状態で、駆動力を伝達することにより、旋回中心Poを中心に信地旋回を行うことができる。
このように、四輪操舵車両において信地旋回を行う場合は、補助輪13L及び13R、昇降機構23L及び23R、昇降機構制御回路24、及びブレーキアクチュエータ22等を、省略することができる。
【0070】
《対応関係》
第1実施形態では、信地旋回装置11が「信地旋回装置」に対応する。また、第一の信地旋回地点設定部76、及びステップS106の処理が「第一の信地旋回地点設定部」に対応する。また、経路領域設定部77、及びステップS107〜S114の処理が「経路設定部」に対応する。また、報知部75、及びステップS115の処理が「報知部」に対応する。また、レーダ装置74が「障害物検出部」に対応する。また、前輪12FL及び12FRが「駆動輪」に対応する。また、後輪12RL及び12RRが「従動輪」に対応する。また、ホイールシリンダ21FL及び21FRが「制動機構」に対応する。また、昇降機構23L及び23Rが「昇降機構」に対応する。また、信地旋回制御部78が「信地旋回制御部」に対応する。
【0071】
《効果》
次に、第1実施形態における主要部の効果を記す。
(1)第1実施形態に係る車両用駐車支援装置は、平面視で車両の予め定めた一点を中心に車両を旋回させる信地旋回が可能な信地旋回装置11を備える。そして、信地旋回を行う第一の信地旋回地点Peを設定し、自車両が縦列駐車領域Apに進入する前に、第一の信地旋回地点Peへ到達可能な経路領域を設定する。
このように、自車両が縦列駐車領域Apに進入する前に、第一の信地旋回地点Peへ到達可能な経路領域を設定することができる。これにより、縦列駐車領域Apに進入した後に駐車ができず、進入をやり直さなければならない、といった事態を招くことを抑制できる。したがって、縦列駐車領域Apに進入してから、駐車できるか否かを判定する場合と比べて、より適切な駐車支援を行うことができる。
【0072】
(2)第1実施形態に係る車両用駐車支援装置は、信地旋回を行なえば、車体前後方向と縦列駐車領域Apの長手方向とを一致させることができる地点を、第一の信地旋回地点Peとして設定する。
このように、車体前後方向と縦列駐車領域Apの長手方向とを一致させることができる第一の信地旋回地点Peを設定することにより、適切な駐車支援を行うことができる。
【0073】
(3)第1実施形態に係る車両用駐車支援装置は、第一の信地旋回地点Peで信地旋回を行うときの円軌道のうち、自車両が信地旋回によらず第一の信地旋回地点Peに到達可能な角度位置となるフレームF1及びF2を設定する。そして、このフレームF1及びF2へ到達可能な経路領域を設定する。
このように、自車両が信地旋回によらず第一の信地旋回地点Peに到達可能な角度位置を設定し、この角度位置へ到達可能な経路領域を設定することにより、実現可能な経路を設定することができる。
【0074】
(4)第1実施形態に係る車両用駐車支援装置は、自車両が信地旋回によらず最大転舵角δmaxで旋回して角度位置へ到達可能な軌道を、経路の限界線Lrrとして設定する。
このように、最大転舵角δmaxで旋回して角度位置へ到達可能な軌道を、経路の限界線Lrrとして設定することにより、実現可能な経路を設定することができる。
【0075】
(5)第1実施形態に係る車両用駐車支援装置は、縦列駐車領域Apに接する通路81の幅員と、信地旋回によらず最大転舵角δmaxで旋回するときの最小旋回半径とに応じて、フレームF1及びF2の角度位置を補正する。
このように、通路81の幅員と最小旋回半径とに応じて、角度位置を補正することにより、実現可能な経路を設定することができる。
【0076】
(6)第1実施形態に係る車両用駐車支援装置は、信地旋回の中心を自車両の前側の一点に定め、前進によって縦列駐車領域Apに進入する際の経路領域を設定する。
このように、信地旋回の中心を自車両の前側の一点に定め、前進によって縦列駐車領域Apに進入する際の経路領域を設定することにより、信地旋回による縦列駐車の利便性を最大限に引き出すことができる。
【0077】
(7)第1実施形態に係る車両用駐車支援装置は、第一の信地旋回地点Peで信地旋回を行うときの円軌道のうち、自車両が障害物との干渉を回避して縦列駐車領域Apへ進入可能な角度範囲θを、経路領域として設定する。
このように、自車両が障害物との干渉を回避して縦列駐車領域Apへ進入可能な角度範囲θを、経路領域として設定することにより、一つの経路だけを設定し提示する場合と比べて、第一の信地旋回地点Peを目指して自車両を進行させやすい。
【0078】
(8)第1実施形態に係る車両用駐車支援装置は、第一の信地旋回地点Pe、及び経路領域を、音声又は表示の少なくとも一方により、乗員に報知する。
このように、音声又は表示の少なくとも一方で、第一の信地旋回地点Pe、及び経路領域を運転者に報知することにより、適切な駐車支援を行うことができる。
【0079】
(9)第1実施形態に係る車両用駐車支援装置は、駆動輪としてエンジン14からの駆動力が伝達されると共に、左右の回転差を許容可能な前輪12FL及び12FRを備える。また、前輪12FL及び12FRに個別に制動力を発生させるホイールシリンダ21FL及び21FRを備える。また、平面視で後輪側に設けられ、軸方向を車体前後方向に向けた補助輪13L及び13Rを備える。また、補助輪13L及び13Rが非接地状態となる上昇位置と、補助輪13L及び13Rが接地状態となり、且つ後輪12RL及び12RRが非接地状態となる下降位置との間で、補助輪を昇降させる昇降機構23L及び23Rを備える。そして、補助輪13L及び13Rを下降位置まで下降させ、且つ右前輪12FRに制動力を発生させた状態で、エンジン14から前輪12FL及び12FRに駆動力を伝達することにより、右前輪12FRを中心に信地旋回を行う。
このように、補助輪13L及び13Rを下降位置まで下降させ、且つ右前輪12FRに制動力を発生させた状態で、エンジン14から前輪12FL及び12FRに駆動力を伝達することにより、右前輪12FRを中心に信地旋回を行うことができる。
【0080】
(10)第1実施形態に係る車両用駐車支援方法は、信地旋回装置11により、平面視で車両の予め定めた一点を中心に車両を旋回させる信地旋回機能を有する。そして、信地旋回を行う第一の信地旋回地点Peを設定し、自車両が縦列駐車領域Apに進入する前に、第一の信地旋回地点Peへ到達可能な経路領域を設定する。
このように、自車両が縦列駐車領域Apに進入する前に、第一の信地旋回地点Peへ到達可能な経路領域を設定することができる。これにより、縦列駐車領域Apに進入した後に駐車ができず、進入をやり直さなければならない、といった事態を招くことを抑制できる。したがって、縦列駐車領域Apに進入してから、駐車できるか否かを判定する場合と比べて、より適切な駐車支援を行うことができる。
【0081】
《第2実施形態》
《構成》
第2実施形態は、二回の信地旋回で縦列駐車ができるように、経路領域を設定し、運転者に案内するものである。
車両用駐車支援装置71の構成を、
図14に基づいて説明する。
ここでは、コントローラ25に第二の信地旋回地点設定部91を新たに追加していることを除いては、前述した第1実施形態と同様の構成であり、共通する部分については、詳細な説明を省略する。
【0082】
第二の信地旋回地点設定部91での処理を、
図15に基づいて説明する。
第二の信地旋回地点設定部91は、縦列駐車領域Apに接する通路81で信地旋回を行なえば、信地旋回の中心、つまり右前輪12FRの接地中心点Pfrと第一の信地旋回地点Peとを結ぶ直線を、車体前後方向と平行にできる地点を、第二の信地旋回地点Pmとして設定する。つまり、信地旋回を行なえば、その後は、ただ直進するだけで信地旋回の中心である右前輪12FRの接地中心点Pfrを、第一の信地旋回地点Peへと到達させることができる地点を、第二の信地旋回地点Pmとして設定する。
【0083】
第二の信地旋回地点Pmは、構造物87に対して自車両が干渉を回避可能な範囲で設定される。構造物87との干渉を回避できる第二の信地旋回地点Pmの限界位置は、下記の式に示すように、構造物87からの距離Dmとして定められる。
Dm={√(Ly
2+Lx
2)}×cos{φ+tan
−1(Ly/Lx)}
ここで、Lyは自車両の位置を示すフレームにおいて車幅方向の長さであり、Lxは自車両の位置を示すフレームにおいて車体前後方向の長さである。また、φは接地中心点Pfrと第一の信地旋回地点Peとを結ぶ直線と、縦列駐車領域Apの幅方向とがなす角度である。
【0084】
そして、角度φごとに第二の信地旋回地点Pmの限界位置を求め、この限界位置の集合によって形成される線を、限界線Lmとして設定する。角度φは、0〜θの範囲で設定される。
先ず、角度φ=0のときの限界位置をフレームFm1で示し、その第二の信地旋回地点をPm1で示す。フレームFm1では、信地旋回によって車体左後端が張り出すため、その分だけ構造物87に対して隙間を設けている。すなわち、前輪12FRの接地中心点Pfrから車体左後端までの長さをLhとすると、このLhを半径する円軌道に従って、車体左後端が張り出すことになる。したがって、フレームFm1では、Lh≒Dmとなる。
【0085】
そして、角度φをφ2、φ3、φ4、……、φN(Nは正の整数)と、順に大きくしてゆくときの限界位置をフレームFm2、Fm3、Fm4、……、FmNで示し、夫々の第二の信地旋回地点をPm2、Pm3、Pm4、……、PmNで示す。角度φを大きくするほど、縦列駐車領域Apへの進入角度が浅くなるため、限界線Lmと構造物87との距離Dmが小さくなる。
報知部75は、設定された第一の信地旋回地点Pe、経路領域、及び第二の信地旋回地点Pmに応じて、縦列駐車を完了するまでの操作案内を、音声又は表示の少なくとも一方により、運転者に報知する。
【0086】
次に、コントローラ25で実行する駐車支援処理を、
図16に基づいて説明する。この駐車支援処理は、例えば運転者のスイッチ操作により、縦列駐車支援要求が出力されたときに、所定時間(例えば10msec)毎に実行される。
ここでは、前述したステップS114の処理を、新たなステップS201の処理に変更したことを除いては、前述した第1実施形態と同様の処理を実行するため、共通する部分については、詳細な説明を省略する。
ステップS201は、第二の信地旋回地点設定部91の処理に対応し、第二の信地旋回地点Pmを設定する。
なお、ステップS115では、第一の信地旋回地点Pe、角度範囲θ、及び第二の信地旋回地点Pmを運転者に報知すると共に、必要となる操作の案内を開始してから所定のメインプログラムに復帰する。
【0087】
《作用》
次に、第2実施形態の作用について説明する。
ここでは、通路81で一回目(中間)の信地旋回を行うことにより、二回目(最終)の信地旋回を行う位置へと案内する。すなわち、縦列駐車領域Apに接する通路81で信地旋回を行なえば、信地旋回の中心、つまり右前輪12FRの接地中心点Pfrと第一の信地旋回地点Peとを結ぶ直線を、車体前後方向と平行にできる地点を、第二の信地旋回地点Pmとして設定する(ステップS201)。具体的には、構造物87に対して自車両が干渉を回避可能な範囲で、第二の信地旋回地点Pmを設定する。このように、第二の信地旋回地点Pmを設定することにより、第一の信地旋回地点Peに自車両を到達させることが容易となる。また、二回の信地旋回を行うことを前提とするので、縦列駐車可能な領域を拡大させることができる。
【0088】
《対応関係》
第2実施形態では、第二の信地旋回地点設定部91、及びステップS201の処理が「第二の信地旋回地点設定部」に対応する。
【0089】
《効果》
次に、第2実施形態における主要部の効果を記す。
(1)第2実施形態に係る車両用駐車支援装置は、縦列駐車領域Apに接する通路81で信地旋回を行なえば、信地旋回の中心(接地中心点Pfr)と第一の信地旋回地点Peとを結ぶ直線を車体前後方向と平行にすることができる地点を、第二の信地旋回地点Pmとして設定する。
このように、第二の信地旋回地点Pmを設定することにより、第一の信地旋回地点Peを目指して自車両を進行させやすい。
【0090】
(2)第2実施形態に係る車両用駐車支援装置は、構造物87に対して自車両の干渉を回避可能な範囲で、第二の信地旋回地点Pmを設定する。
このように、構造物87との干渉を回避可能な範囲で第二の信地旋回地点Pmを設定することにより、適切な駐車支援を行うことができる。
【0091】
(3)第2実施形態に係る車両用駐車支援装置は、第二の信地旋回地点Pmを、音声又は表示の少なくとも一方により、乗員に報知する。
このように、音声又は表示の少なくとも一方で、第二の信地旋回地点Pmを運転者に報知することにより、適切な駐車支援を行うことができる。
【0092】
《第3実施形態》
《構成》
第3実施形態は、信地旋回により後退で並列駐車ができる信地旋回地点領域を設定し、運転者に案内するものである。並列駐車とは、自車両の前後方向と駐車領域の長手方向とが略直角である状態から駐車を行うことである。
車両用駐車支援装置71の構成を、
図17に基づいて説明する。
車両用駐車支援装置71は、前述した第一の信地旋回地点設定部76を、新たな信地旋回地点設定部95に変更したことを除いては、前述した第1実施形態と同様である。
【0093】
信地旋回地点領域設定部95、経路領域設定部77、及び信地旋回制御部78での処理を、
図18に基づいて説明する。
ここでは、並列駐車の一例を示す。自車両VHは、並列駐車領域Apに接した通路81上に位置しており、自車両VHの左斜め前方に並列駐車領域Apがある。この自車両VHの初期位置を、車体サイズよりも僅かに大きなフレームFbで示す。ここでは、便宜上、四角形のうち、車体前側に相当する二つの角を切り取った形状で示す。フレームFbにおいて、右前輪12FRの接地中心点Pfrを通る車体前後方向の直線をLbで示す。並列駐車領域Apは、略長方形であり、自車両VHの姿勢は、車体前後方向が並列駐車領域Apの長手方向と略直角な状態にある。
【0094】
並列駐車領域Apは、四方のうち、通路81に接している一方だけが開放され、他の三方は構造物によって囲まれている。この三方のうち、自車両VHから見て、奥側の構造物を82とし、左側の構造物を83とし、手前側の構造物を84とする。また、通路81の幅方向における並列駐車領域Ap側の通路端には、通路81に沿って延び、且つ手前側の構造物84に連なる構造物85がある。構造物84と構造物85とが連なる箇所を角部86とする。また、通路81の幅方向における並列駐車領域Apとは反対側の通路端には、通路81に沿って延びる構造物87がある。構造物は、例えば壁、ガードレール、フェンス、柵、縁石等であるが、他の駐車車両、植込み、土手等、何らかの障害物であっても適用できる。
【0095】
信地旋回地点領域設定部95は、自車両が並列駐車領域Apに進入する前に、通路81上で、信地旋回により自車両の車体後方を並列駐車領域Apに向けることができる領域を、信地旋回地点領域Atとして設定する。具体的には、自車両の車体前後方向を並列駐車領域Apの長手方向に一致させ、且つ自車両の車幅方向中心と並列駐車領域Apの短手方向中心とを一致させることができる領域である。信地旋回地点領域Atは、右前輪12FRの接地中心点Pfrを到達させる目標領域である。
先ず、並列駐車領域Apの駐車予定位置をフレームFeで示す。駐車予定位置は、並列駐車領域Apの例えば中心に位置するように設定される。平面視で、フレームFeにおける右前輪12FRの接地中心点Pfrを通り、並列駐車領域Apの長手方向と平行な直線をLeで示す。この直線Le上で、信地旋回を行なっても自車両が障害物との干渉を回避できる範囲を、信地旋回地点領域Atとして設定する。
【0096】
具体的には、直線Le上のうち、信地旋回を行なうときに、構造物85との干渉を回避できる限界地点をP1とし、また構造物87との干渉を回避できる限界地点をP2とする。そして、直線Leに沿った一方の限界地点P1から他方の限界地点P2までの範囲を、信地旋回地点領域Atとして設定する。ここで、限界地点P1に右前輪12FRの接地中心点Pfrを到達させた状態において、信地旋回前の車両位置をフレームFb1で示し、信地旋回後の車両位置をフレームFa1で示し、その信地旋回によって車体左後端が描く円軌道をL1で示す。また、限界地点P2に右前輪12FRの接地中心点Pfrを到達させた状態において、信地旋回前の車両位置をフレームFb2で示し、信地旋回後の車両位置をフレームFa2で示し、その信地旋回によって車体右前端が描く円軌道をL2で示す。
【0097】
経路領域設定部77は、信地旋回地点領域Atへ到達可能な経路領域を設定する。ここでは、通路81の構造物85側に自車両を寄せた位置をフレームFnで示し、この位置から最大転舵角δmax(最小旋回半径)で旋回するときの軌道を、経路領域の限界線Lrrとして設定する。この限界線Lrrは、例えば右後輪12RRの接地中心点Prrの軌道である。そして、限界地点P1で信地旋回を行なうときの円軌道のうち、後輪12RRの接地中心点Prrに対して、限界線Lrrが接する位置をフレームFb1としている。したがって、転舵角を略0にしたまま、フレームFnを超えて前進し、その後、転舵を開始して最大転舵角δmaxで旋回しても、限界位置であるフレームFb1には到達することができない。この場合には、フレームFnを超えるまでに転舵を開始する必要がある。
【0098】
信地旋回制御部78は、右前輪12FRの接地中心点Pfrが信地旋回地点領域Atに到達している状態で、シフト位置がニュートラル(N)又はパーキング(P)にあることを確認する。そして、昇降機構制御回路24を介して補助輪13L及び13Rを格納位置から下降位置まで下降させ、且つブレーキアクチュエータ22を介して右前輪12FRに制動力を発生させる。そして、シフト位置が前進(D)にあることを確認したら、エンジン14から前輪12FL及び12FRに駆動力を伝達することにより、右前輪12FRの接地中心点Pfrを中心にして平面視で時計回りに信地旋回する。
【0099】
そして、自車両の車体前後方向を並列駐車領域Apの長手方向に一致させた状態で、シフト位置がニュートラル(N)又はパーキング(P)にあることを確認する。そして、ブレーキアクチュエータ22を介して右前輪12FRの制動力を解除し、且つ昇降機構制御回路24を介して補助輪13L及び13Rを下降位置から格納位置まで上昇させる。そして、シフト位置がバック(R)にあることを確認し、エンジン14から前輪12FL及び12FRに駆動力を伝達することにより、自車両VHを真っ直ぐ後退させる。そして、フレームFeに到達したら、シフト位置がニュートラル(N)又はパーキング(P)にあることを確認して、並列駐車を完了する。
ここでは、ステアリング操作、シフト操作、及びアクセル操作は、運転者が行なうことを前提としているが、車両システムが主体となって自律的に行なってもよい。
【0100】
報知部75は、設定された信地旋回地点領域At及び経路領域に応じて、並列駐車を完了するまでの操作案内を、音声又は表示の少なくとも一方により、運転者に報知する。音声による報知の場合、スピーカを用い、例えば右斜め前方へ進むよう促したり、経路領域から外れないようにステアリング操作量の目安を案内したり、シフト位置の切り替えを促したり、信地旋回時のアクセル操作を促したりする。表示による報知の場合、ディスプレイを用い、例えば俯瞰画像上で信地旋回地点領域At及び経路領域を表示し、必要とされる各種操作を案内する。
【0101】
次に、コントローラ25で実行する駐車支援処理を、
図19に基づいて説明する。この駐車支援処理は、例えば運転者のスイッチ操作により、並列駐車支援要求が出力されたときに、所定時間(例えば10msec)毎に実行される。
ステップS301では、レーダ装置74により、障害物の有無や、障害物がある場合の距離及び方位等、自車両の周囲環境を認識する。
続くステップS302では、周囲環境に対する自車両の相対的な位置、及び姿勢を検出する。
【0102】
続くステップS303では、並列駐車領域Apを設定する。
続くステップS304では、信地旋回によって並列駐車可能な並列駐車領域Apが存在するか否かを判定する。ここで、並列駐車可能な並列駐車領域Apが存在しない、又は信地旋回できるスペースがないときにはステップS305に移行する。一方、並列駐車領域Apが存在し、且つ信地旋回を行なえるスペースもあるときにはステップS306に移行する。
ステップS305では、駐車支援を中止する旨を案内してから所定のメインプログラムに復帰する。
【0103】
ステップS306では、駐車予定位置において、右前輪12FRの接地中心点Pfrを通り、並列駐車領域Apの長手方向と平行な直線Leを設定する。
続くステップS307では、直線Le上のうち、信地旋回を行なうときに、構造物85との干渉を回避できる限界地点P1を設定する。
続くステップS308では、直線Le上のうち、信地旋回を行なうときに、構造物87との干渉を回避できる限界地点P2を設定する。
【0104】
続くステップS309では、直線Leに沿った一方の限界地点P1から他方の限界地点P2までの範囲を、信地旋回地点領域Atとして設定する。
上記のステップS306〜S309の処理は、信地旋回地点領域設定部95の処理に対応する。
続くステップS310は、経路領域設定部77の処理に対応し、自車両が最大転舵角δmax(最小旋回半径)で旋回して限界地点P1に接続する軌道を、経路領域の限界線Lrrとして設定する。
続くステップS311は、報知部75の処理に対応し、信地旋回地点領域At、及び限界線Lrrを運転者に報知すると共に、必要となる操作の案内を開始してから所定のメインプログラムに復帰する。
【0105】
《作用》
次に、第3実施形態の作用について説明する。
自車両を並列駐車領域Apに進入させてから、駐車できるか否かを判定するだけでは、仮に駐車できないと判定されたときに、駐車領域への進入をやり直さなければならず、駐車支援の点で改善の余地があった。
そこで、自車両が並列駐車領域Apに進入する前に、この並列駐車領域Apに接する通路81上で、信地旋回により自車両の車体前後方向を並列駐車領域Apの長手方向に一致させ、且つ自車両の車幅方向中心と並列駐車領域Apの短手方向中心とを一致させることができる領域を、信地旋回地点領域Atとして設定する。この信地旋回地点領域Atで信地旋回を行なうときに、自車両の車体前後方向を並列駐車領域Apの長手方向に一致させ、且つ自車両の車幅方向中心と駐車領域の短手方向中心とを一致させ、並列駐車を容易にすることができる。これにより、並列駐車領域Apに進入した後に駐車ができず、進入をやり直さなければならない、といった事態を招くことを抑制できる。したがって、並列駐車領域Apに進入してから、駐車できるか否かを判定する場合と比べて、より適切な駐車支援を行うことができる。
【0106】
並列駐車の一例を、
図18に基づいて説明する。
自車両VHは、並列駐車領域Apが左斜め前方に見える位置で停止しており、この初期位置をフレームFbで示す。このとき、運転者のスイッチ操作により、並列駐車要求が出力されると、レーダ装置74により、障害物の有無や、障害物がある場合の距離及び方位等、自車両の周囲環境を認識する(ステップS301)。この初期位置では、並列駐車領域Apのうち、手前側、つまり構造物84がある側の一部がレーダ装置74の死角となり得るが、少なくとも並列駐車領域Apにおける幅方向の長さを検出することができるとする。
【0107】
こうして周囲環境を認識したら、自車両VHの相対的な位置や姿勢を検出し(ステップS302)、並列駐車領域Apを設定する(ステップS303)。このとき、設定した並列駐車領域Apで確定して良いかどうかを運転者に尋ね、確定したり、再設定したりできるように構成することが望ましい。なお、信地旋回によって並列駐車可能な並列駐車領域Apが存在しないときには(ステップS304の判定が“No”)、駐車支援を中止する旨を案内する(ステップS305)。ここでは、信地旋回によって並列駐車可能な並列駐車領域Apが存在するものとする(ステップS304の判定が“Yes”)。
【0108】
そして、駐車予定位置となるフレームFeにおいて、右前輪12FRの接地中心点Pfrを通り、並列駐車領域Apの長手方向と平行な直線Leを設定する(ステップS306)。ここでは、並列駐車領域Apの短手方向(幅方向)中心から、手前側に予め定めた距離だけオフセットした位置に、並列駐車領域Apの長手方向と平行な直線Leを設定する。つまり、並列駐車領域Apの幅方向中央に自車両を並列駐車させることを前提としているが、例えば右ハンドルの場合、助手席側よりも運転席側で広いスペースを確保できるように、フレームFeを構造物82の側に寄せたりしてもよい。また、設定した直線Leで確定して良いかどうかを運転者に尋ね、確定したり、再設定したりできるように構成することが望ましい。
【0109】
そして、直線Le上のうち、信地旋回を行なうときに、構造物85との干渉を回避できる限界地点P1を設定する(ステップS307)。限界地点P1は、信地旋回により、車体左後端が円軌道L1に沿って変位するときに、角部86との干渉を回避できる位置である。また、直線Le上のうち、信地旋回を行なうときに、構造物87との干渉を回避できる限界地点P2を設定する(ステップS308)。限界地点P2は、信地旋回により、車体右前端が円軌道L2に沿って変位するときに、構造物87との干渉を回避できる位置である。そして、直線Leに沿った一方の限界地点P1から他方の限界地点P2までの範囲を、信地旋回地点領域Atとして設定する(ステップS309)。
【0110】
また、自車両が最大転舵角δmax(最小旋回半径)で旋回して限界地点P1に到達する軌道を、経路領域の限界線Lrrとして設定する(ステップS310)。限界線Lrrは、例えば右後輪12RRの接地中心点Prrの軌道である。ここでは、通路81の構造物85側に自車両を寄せた位置をフレームFnで示し、この位置から最大転舵角δmax(最小旋回半径)で旋回するときの軌道を、経路領域の限界線Lrrとして設定する。そして、限界地点P1で信地旋回を行なうときの円軌道のうち、後輪12RRの接地中心点Prrに対して、限界線Lrrが接する位置をフレームFb1としている。転舵角を略0にしたまま、フレームFnを超えて前進し、その後、転舵を開始して最大転舵角δmaxで旋回しても、限界位置であるフレームFb1には到達することができない。この場合には、フレームFnを超えるまでに転舵を開始する必要がある。
【0111】
そして、信地旋回地点領域At、及び限界線Lrrを運転者に報知すると共に、必要となる操作の案内を開始する(ステップS311)。つまり、一方の限界地点P1から他方の限界地点P2までの範囲を提示し、その範囲内に到達できるよう誘導したり、限界線Lrrを超えないように誘導したりする。これにより、特定の一点を定めて、そこを目指すように誘導する場合と比べて、ステアリング操作の自由度が増し、ある程度のバラつきを許容できる良好な駐車支援を行うことができる。また、操作案内自体も大まかな内容で済むため、簡潔明瞭となり、ユーザにとっても理解しやすくなる。
【0112】
通路81の幅員が狭く、角部86や構造物87との干渉を回避できる信地旋回地点領域Atが存在しない場合は、その旨を運転者に報知する。
通路81の幅員が狭い場合を
図20に示す。
ここでは、車体左後端が角部86との干渉を回避できる限界地点P1を定めても、車体右前端が構造物87との干渉を回避できない状態を示す。このように、通路81の幅員が狭く、信地旋回地点領域Atを確保できないときには、その旨を運転者に知らせる。ここでは、通路81の幅員に十分な余裕があり、信地旋回地点領域Atを確保できているものとする。
【0113】
自車両VHがフレームFbの初期位置にいる場合、右前輪12FRの接地中心点Pfrを通る車体前後方向の直線Lbは、信地旋回地点領域Atを通過している。したがって、転舵角を略0にしたまま直進させ、右前輪12FRの接地中心点Pfrが直線Le上に到達する位置で停止させる。そして、補助輪13L及び13Rを格納位置から下降位置まで下降させ、且つ右前輪12FRに制動力を発生させる。この状態で、エンジン14から前輪12FL及び12FRに駆動力を伝達することにより、右前輪12FRの接地中心点Pfrを中心とする信地旋回を行う。そして、自車両の車体前後方向が並列駐車領域Apの長手方向に一致したら、右前輪12FRの制動力を解除し、且つ補助輪13L及び13Rを下降位置から格納位置まで上昇させる。そして、フレームFeに到達するまで、自車両を略真っ直ぐ後退させ、並列駐車を完了させる。
【0114】
なお、一方の限界地点P1から他方の限界地点P2までの範囲を提示し、その範囲内に到達できるよう誘導しているが、これに限定されるものではない。すなわち、一方の限界地点P1から他方の限界地点P2までの範囲内で、任意の一つの地点を定めて、そこに到達するよう誘導してもよい。
また、信地旋回の中心を自車両の前輪側の一点に定める構成について説明したが、これは信地旋回の利便性を最大限に引き出すことができるからである。すなわち、元々、前輪転舵によって車体前側は振りやすいため、信地旋回の中心を自車両の後輪側に定め、車体前側を振れるようにしても、その利便性が際立たない。これに対して、一般的な普通自動車では、後輪を転舵できない、又は転舵できても僅かであるため、車体後側は、車体前側ほど振ることができない。したがって、信地旋回の中心を自車両の前輪側に定め、車体後側を振れるようにすることにより、その利便性が際立つ。
【0115】
また、自車両の車体後方を並列駐車領域Apに向けるための信地旋回地点領域Atを設定し、車体後側から並列駐車領域Apに入れる場合について説明したが、これは並列駐車領域Apから出るときに、車体前側から出られるようにするためである。一般に、後退で出庫するよりも、前進で出庫する方が、安全確認をしやすい。したがって、駐車する際には、並列駐車領域Apに車体後側から入れ、出庫する際には、車体前側から出られるようにすることで、利便性の高い、適切な駐車支援を行うことができる。
【0116】
《効果》
次に、第3実施形態における主要部の効果を記す。
(1)第3実施形態に係る車両用駐車支援装置は、平面視で車両の予め定めた一点を中心に車両を旋回させる信地旋回が可能な信地旋回装置11を備える。そして、自車両が並列駐車領域Apに進入する前に、並列駐車領域Apに接する通路81上で、信地旋回により自車両の車体前後方向を並列駐車領域Apの長手方向に一致させることができる領域を、信地旋回地点領域Atとして設定する。
このように、自車両が並列駐車領域Apに進入する前に、信地旋回地点領域Atを設定することができ、この信地旋回地点領域Atで信地旋回を行なうときに、自車両の車体前後方向を並列駐車領域Apの長手方向に一致させ、並列駐車を容易にすることができる。これにより、並列駐車領域Apに進入した後に駐車ができず、進入をやり直さなければならない、といった事態を招くことを抑制できる。したがって、並列駐車領域Apに進入してから、駐車できるか否かを判定する場合と比べて、より適切な駐車支援を行うことができる。
【0117】
(2)第3実施形態に係る車両用駐車支援装置は、自車両の車体後方を並列駐車領域Apに向けるための信地旋回地点領域Atを設定する。
このように、車体後方を並列駐車領域Apに向けることで、駐車する際には、並列駐車領域Apに車体後側から入れ、出庫する際には、車体前側から出られるようにすることができる。したがって、利便性の高い、適切な駐車支援を行うことができる。
【0118】
(3)第3実施形態に係る車両用駐車支援装置は、信地旋回を行うときに、自車両が障害物との干渉を回避できる範囲で、信地旋回地点領域Atを設定する。
このように、障害物との干渉を回避できる範囲で、信地旋回地点領域Atを設定することにより、適切な駐車支援を行うことができる。
【0119】
(4)第3実施形態に係る車両用駐車支援装置は、平面視で、並列駐車領域Apにおける駐車予定位置での信地旋回の中心を通り、並列駐車領域Apの長手方向と平行な直線Le上で、信地旋回地点領域Atを設定する。
このように、駐車予定位置での信地旋回の中心と、並列駐車領域Apの長手方向とを求めるだけで、信地旋回地点領域Atを容易に設定することができる。
【0120】
(5)第3実施形態に係る車両用駐車支援装置は、信地旋回の中心を自車両の前側の一点に定める。
このように、信地旋回の中心を前側に定めることで、車体の後側を振れるようにし、信地旋回の利便性を最大限に引き出すことができる。
【0121】
(6)第3実施形態に係る車両用駐車支援装置は、信地旋回地点領域Atを、音声又は表示の少なくとも一方により、乗員に報知する。
このように、音声又は表示の少なくとも一方で、信地旋回地点領域Atを運転者に報知することにより、適切な駐車支援を行うことができる。
【0122】
(7)第3実施形態に係る車両用駐車支援装置は、信地旋回地点領域Atへ到達可能な経路領域を設定する。
このように、信地旋回地点領域Atへ到達可能な経路領域を設定することにより、適切な駐車支援を行うことができる。
【0123】
(8)第3実施形態に係る車両用駐車支援装置は、最大転舵角で旋回して信地旋回地点領域Atの限界地点に到達する軌道を、経路領域の限界線Lrrとして設定する。
このように、信地旋回地点領域Atの限界地点に到達できる限界線Lrrを設定することにより、信地旋回地点領域Atに到達させることが容易となる。
【0124】
(9)第3実施形態に係る車両用駐車支援装置は、経路領域の限界線Lrrを、音声又は表示の少なくとも一方により、乗員に報知する。
このように、音声又は表示の少なくとも一方で、経路領域の限界線Lrrを運転者に報知することにより、適切な駐車支援を行うことができる。
【0125】
(10)第3実施形態に係る車両用駐車支援装置は、駆動輪としてエンジン14からの駆動力が伝達されると共に、左右輪の回転差を許容可能な前輪12FL及び12FRを備える。また、前輪12FL及び12FRに個別に制動力を発生させるホイールシリンダ21FL及び21FRを備える。また、平面視で後輪側に設けられ、軸方向を車体前後方向に向けた補助輪13L及び13Rを備える。また、補助輪13L及び13Rが非接地状態となる上昇位置と、補助輪13L及び13Rが接地状態となり、且つ後輪12RL及び12RRが非接地状態となる下降位置との間で、補助輪を昇降させる昇降機構23L及び23Rを備える。そして、補助輪13L及び13Rを下降位置まで下降させ、且つ右前輪12FRに制動力を発生させた状態で、エンジン14から前輪12FL及び12FRに駆動力を伝達することにより、右前輪12FRを中心に信地旋回を行う。
このように、補助輪13L及び13Rを下降位置まで下降させ、且つ右前輪12FRに制動力を発生させた状態で、エンジン14から前輪12FL及び12FRに駆動力を伝達することにより、右前輪12FRを中心に信地旋回を行うことができる。
【0126】
(11)第3実施形態に係る車両用駐車支援方法は、信地旋回装置11により、平面視で車両の予め定めた一点を中心に車両を旋回させる信地旋回機能を有する。そして、自車両が並列駐車領域Apに進入する前に、並列駐車領域Apに接する通路81上で、信地旋回により自車両の車体前後方向を並列駐車領域Apの長手方向に一致させることができる領域を、信地旋回地点領域Atとして設定する。
このように、自車両が並列駐車領域Apに進入する前に、信地旋回地点領域Atを設定することができ、この信地旋回地点領域Atで信地旋回を行なうときに、自車両の車体前後方向を並列駐車領域Apの長手方向に一致させ、並列駐車を容易にすることができる。これにより、並列駐車領域Apに進入した後に駐車ができず、進入をやり直さなければならない、といった事態を招くことを抑制できる。したがって、並列駐車領域Apに進入してから、駐車できるか否かを判定する場合と比べて、より適切な駐車支援を行うことができる。
【0127】
《第4実施形態》
《構成》
第4実施形態は、信地旋回により前進で並列駐車ができる信地旋回地点領域を設定し、運転者に案内するものである。
ここでは、前進で並列駐車ができる信地旋回地点領域Atを設定することを除いては、前述した第3実施形態と同様の構成であり、共通する部分については、詳細な説明を省略する。
信地旋回地点領域設定部95、及び経路領域設定部77での処理を、
図21に基づいて説明する。
【0128】
ここでは、並列駐車の一例を示す。信地旋回地点領域設定部95は、自車両が並列駐車領域Apに進入する前に、通路81上で、信地旋回により自車両の車体前方を並列駐車領域Apに向け、且つ自車両の車体前後方向を並列駐車領域Apの長手方向に一致させることができる領域を、信地旋回地点領域Atとして設定する。信地旋回地点領域Atは、右前輪12FRの接地中心点Pfrを到達させる目標領域である。
先ず、並列駐車領域Apの駐車予定位置をフレームFeで示す。駐車予定位置は、並列駐車領域Apの例えば中心に位置するように設定される。平面視で、フレームFeにおける右前輪12FRの接地中心点Pfrを通り、並列駐車領域Apの長手方向と平行な直線をLeで示す。この直線Le上で、信地旋回を行なっても自車両が障害物との干渉を回避できる範囲を、信地旋回地点領域Atとして設定する。
【0129】
具体的には、直線Le上のうち、信地旋回を行なうときに、構造物87との干渉を回避できる限界地点をP2とする。そして、フレームFeにおける右前輪12FRの接地中心点Pfrから、直線Leに沿った限界地点P2までの範囲を、信地旋回地点領域Atとして設定する。ここで、限界地点P2に右前輪12FRの接地中心点Pfrを到達させた状態において、信地旋回前の車両位置をフレームFb2で示し、信地旋回後の車両位置をフレームFa2で示し、その信地旋回によって車体右前端が描く円軌道をL2で示す。
【0130】
信地旋回時に車体四隅の端点が描く軌道の算出について説明する。
平面座標における車体四隅の端点を、
図22に基づいて説明する。
XY座標系において、右前輪12FRの接地中心点の座標を[X
0,Y
0]とする。また、車体左前端の座標を[X
FL,Y
FL]とし、車体右前端の座標を[X
FR,Y
FR]とし、車体左後端の座標を[X
RL,Y
RL]とし、車体右後端の座標を[X
RR,Y
RR]とする。そして、右前輪12FRの接地中心点と車体左端との車幅方向の距離をLx
Lとし、右前輪12FRの接地中心点と車体右端との車幅方向の距離をLx
Rとする。また、右前輪12FRの接地中心点と車体前端との車体前後方向の距離をLy
Fとし、右前輪12FRの接地中心点と車体後端との車体前後方向の距離をLy
Rとする。
【0131】
また、前輪12FRの接地中心点と車体左前端とを結ぶ直線をL
FLとし、前輪12FRの接地中心点と車体右前端とを結ぶ直線をL
FRとし、前輪12FRの接地中心点と車体左後端とを結ぶ直線をL
RLとし、前輪12FRの接地中心点と車体右後端とを結ぶ直線をL
RRとする。また、前輪12FRの接地中心点を通り、車体前後方向に延びる直線をLbとする。そして、直線Lbと直線L
FLとがなす角度をα
FLとし、直線Lbと直線L
FRとがなす角度をα
FRとし、直線Lbと直線L
RLとがなす角度をα
RLとし、直線Lbと直線L
RRとがなす角度をα
RRとする。
そして、前輪12FRの接地中心点を中心とする信地旋回により、車体に回転角φを与えたときの車体四隅の座標は下記の式によって表される。
【0133】
また、車体左側及び右側の直線を表す式は、下記の式によって表される。
【0135】
並列駐車領域Apの幅方向の位置は上記の式を利用する。
経路領域設定部77は、信地旋回地点領域Atへ到達可能な経路領域を設定する。ここでは、通路81の構造物87側に自車両を寄せた位置をフレームFnで示し、この位置から最大転舵角δmax(最小旋回半径)で旋回するときの軌道を、経路領域の限界線Lrrとして設定する。この限界線Lrrは、例えば右後輪12RRの接地中心点Prrの軌道である。そして、限界地点P2で信地旋回を行なうときの円軌道のうち、後輪12RRの接地中心点Prrに対して、限界線Lrrが接する位置をフレームFb2としている。したがって、転舵角を略0にしたまま、フレームFnを超えて前進し、その後、転舵を開始して最大転舵角δmaxで旋回しても、限界位置であるフレームFb2には到達することができない。この場合には、フレームFnを超えるまでに転舵を開始する必要がある。
【0136】
《作用》
次に、第4実施形態の作用について説明する。
第4実施形態では、信地旋回により前進で並列駐車ができる信地旋回地点領域を設定し、運転者に案内する。
並列駐車の一例を、
図21に基づいて説明する。
駐車予定位置となるフレームFeにおいて、右前輪12FRの接地中心点Pfrを通り、並列駐車領域Apの長手方向と平行な直線Leを設定する(ステップS306)。ここでは、並列駐車領域Apの短手方向(幅方向)中心から、奥側に予め定めた距離だけオフセットした位置に、並列駐車領域Apの長手方向と平行な直線Leを設定する。
【0137】
そして、直線Le上のうち、信地旋回を行なうときに、構造物87との干渉を回避できる限界地点P2を設定する(ステップS308)。限界地点P2は、信地旋回により、車体右前端が円軌道L2に沿って変位するときに、構造物87との干渉を回避できる位置である。そして、フレームFeにおける右前輪12FRの接地中心点Pfrから、直線Leに沿った限界地点P2までの範囲を、信地旋回地点領域Atとして設定する(ステップS309)。一方の限界位置として、前述した第3実施形態の限界地点P1を用いないのは、前輪転舵によって並列駐車領域Apへと、ある程度まで進入することができるからである。すなわち、第4実施形態では、第3実施形態と比べて、信地旋回地点領域Atを広く設定することができる。また、前輪転舵によって並列駐車領域Apへと、ある程度まで進入することができるので、通路81の幅員が狭いときに、有利である。
【0138】
また、自車両が最大転舵角δmax(最小旋回半径)で旋回して限界地点P1に到達する軌道を、経路領域の限界線Lrrとして設定する(ステップS310)。限界線Lrrは、例えば右後輪12RRの接地中心点Prrの軌道である。ここでは、通路81の構造物87側に自車両を寄せた位置をフレームFnで示し、この位置から最大転舵角δmax(最小旋回半径)で旋回するときの軌道を、経路領域の限界線Lrrとして設定する。そして、限界地点P1で信地旋回を行なうときの円軌道のうち、後輪12RRの接地中心点Prrに対して、限界線Lrrが接する位置をフレームFb1としている。転舵角を略0にしたまま、フレームFnを超えて前進し、その後、転舵を開始して最大転舵角δmaxで旋回しても、限界位置であるフレームFb1には到達することができない。この場合には、フレームFnを超えるまでに転舵を開始する必要がある。
【0139】
そして、信地旋回地点領域At、及び限界線Lrrを運転者に報知すると共に、必要となる操作の案内を開始する(ステップS311)。つまり、フレームFeにおける右前輪12FRの接地中心点Pfrから、他方の限界地点P2までの範囲を提示し、その範囲内に到達できるよう誘導したり、限界線Lrrを超えないように誘導したりする。これにより、特定の一点を定めて、そこを目指すように誘導する場合と比べて、ステアリング操作の自由度が増し、ある程度のバラつきを許容できる良好な駐車支援を行うことができる。また、操作案内自体も大まかな内容で済むため、簡潔明瞭となり、ユーザにとっても理解しやすくなる。
第4実施形態において、前述した第3実施形態と共通する部分については、同様の作用効果が得られるものとし、詳細な説明は省略する。
【0140】
《効果》
次に、第4実施形態における主要部の効果を記す。
(1)第4実施形態に係る車両用駐車支援装置は、自車両の車体前方を並列駐車領域Apに向けるための信地旋回地点領域Atを設定する。
このように、車体前方を並列駐車領域Apに向けることで、車体後方を並列駐車領域Apに向けるよりも、信地旋回地点領域Atを拡張することができる。
【0141】
《第5実施形態》
《構成》
第5実施形態は、後退によって並列駐車するのか、前進によって並列駐車するのかを選択的に行うものである。
ここでは、駐車方向を切り替える処理を追加することを除いては、前述した第3実施形態及び第4実施形態と同様の構成であり、共通する部分については、詳細な説明を省略する。
駐車方向切り替え処理を、
図23に基づいて説明する。
【0142】
ステップS501では、通路81の幅員を検出する。ここでは、レーダ装置74によって検出するが、これに限定されるものではなく、ナビゲーションシステムから道路地図情報を取得したり、インフラストラクチャとの通信により幅員情報を取得したりしてもよい。
ステップS502では、幅員が予め定めた閾値以上であるか否かを判定する。閾値は、少なくとも自車両の車体後方を並列駐車領域Apに向けるための信地旋回地点領域Atを設定できる値に設定する。したがって、幅員が予め定めた閾値以上であるときには、十分な広さがあり、車体後側から並列駐車領域Apに入れるための信地旋回を行なえると判断してステップS503に移行する。一方、幅員が閾値より小さいときには、十分な広さがなく、車体後側から並列駐車領域Apに入れるための信地旋回を行なえないと判断してステップS504に移行する。
【0143】
ステップS503では、第3実施形態に従い、自車両の車体後方を並列駐車領域Apに向けるための信地旋回地点領域Atを設定する後退駐車モードに切り替えてから所定のメインプログラムに復帰する。
ステップS504では、第4実施形態に従い、自車両の車体前方を並列駐車領域Apに向けるための信地旋回地点領域Atを設定する前進駐車モードに切り替えてから所定のメインプログラムに復帰する。
上記が駐車方向切り替え処理である。
【0144】
《作用》
次に、第5実施形態の作用について説明する。
第5実施形態では、通路81の幅員を検出し(ステップS501)、この幅員によって、駐車方向の切り替えを行う。すなわち、幅員が閾値以上であるときには(ステップS502の判定が“Yes”)、通路81の幅員に十分な広さがあるので、後退駐車モードに切り替える(ステップS504)。これにより、信地旋回の利便性を最大限に引き出し、且つ出庫時には車体前側から出ることができる。一方、幅員が閾値より狭いときには(ステップS502の判定が“No”)、通路81の幅員に十分な広さがないので、前進駐車モードに切り替える(ステップS505)。これにより、信地旋回地点領域Atを広く設定することができ、並列駐車ができない、といった事態を招くことを抑制できる。
第5実施形態において、前述した第3実施形態及び第4実施形態と共通する部分については、同様の作用効果が得られるものとし、詳細な説明は省略する。
【0145】
《効果》
次に、第5実施形態における主要部の効果を記す。
(1)第5実施形態に係る車両用駐車支援装置は、自車両の車体後方を並列駐車領域Apに向けるための信地旋回地点領域Atを設定するか、又は自車両の車体前方を並列駐車領域Apに向けるための信地旋回地点領域Atを設定するかの何れか一方に切り替える。
このように、並列駐車領域Apに対して、車体後方を向けるか、又は車体前方を向けるかを選択的に行うことにより、その場の状況に応じた適切な駐車支援を行うことができる。
【0146】
(2)第5実施形態に係る車両用駐車支援装置は、通路81の幅員が、予め定めた閾値以上に広いときには、自車両の車体後方を並列駐車領域Apに向けるための信地旋回地点領域Atを設定する。一方、通路81の幅員が、閾値よりも狭いときには、自車両の前方を並列駐車領域Apに向けるための信地旋回地点領域Atを設定する。
このように、通路81の幅員に応じて切り替えることにより、適切な駐車支援を行うことができる。
【0147】
以上、限られた数の実施形態を参照しながら説明したが、権利範囲はそれらに限定されるものではなく、上記の開示に基づく実施形態の改変は、当業者にとって自明のことである。