(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、具体的な構成を挙げて、より詳細に説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0014】
1.中空糸膜モジュール
(1)中空糸膜モジュールの構成
中空糸膜モジュール(以下、「膜モジュール」ということがある。)は、分離対象液(つまり原水)から透過液を分離することができればよい。膜分離(つまりろ過)の方式には、全量ろ過とクロスフローろ過があり、クロスフローろ過においては、分離対象液から透過液(ろ過液)と濃縮液とが得られる。
【0015】
具体的には、全量ろ過においては、中空糸膜モジュールは、筒状ケースと;筒状ケース内に収容され、分離対象液(原水)をろ過液(透過液)に分離する分離膜と、を備える。また、中空糸膜モジュールには、膜洗浄液などの排出用に追加の出口などがあってもよい。
【0016】
一方、クロスフローろ過の場合は、中空糸膜モジュールは、筒状ケースと;筒状ケース内に収容され、分離対象液(原水)をろ過液(透過液)と濃縮液とに分離する分離膜と;筒状ケースの外側から分離膜の一次側に分離対象液を供給する分離対象液入口と;ろ過液を筒状ケース外に排出する透過液出口と、濃縮液を筒状ケース外に排出する濃縮液出口と、を備える。分離対象液入口および濃縮液出口は、筒状ケースの長手方向における両端の近傍にそれぞれ設けられることが好ましい。
【0017】
なお、「一次側」とは、分離膜で仕切られた空間のうち分離対象液(原水)が供給される方であり、「二次側」とは、膜を隔てて「一次側」の反対側である。つまり、一次側とは、外圧式中空糸膜モジュールでは膜の外側を指す。「一次側」および「二次側」はそれぞれ、「供給側」、「透過側」と言い換えられてもよい。
【0018】
中空糸膜モジュールの具体的な構成について、外圧式中空糸膜モジュールを例に、図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1の中空糸膜モジュール100は、上下の端部が開口した筒状ケース3と、筒状ケース3内に収納された複数の中空糸膜1と、上キャップ6と、下キャップ7とを備える。筒状ケース3には、その高さ方向において、上端(第1端)に上キャップ6が装着され、下端(第2端)に下キャップ7が装着される。さらに、中空糸膜モジュール100は、第1ポッティング部4および第2ポッティング部5を備える。なお、ここでの「上」、「下」とは、中空糸膜モジュール100の使用時の姿勢における上下を指し、
図1の上下と一致する。
【0020】
複数(多数本)の中空糸膜1は、束ねられて中空糸膜束2を形成している。筒状ケース3内での中空糸膜1の充填率は、25%以上38%以下である。充填率の詳細については後述する。また、中空糸膜1は膜モジュール内に均等に配置されていることが好ましい。そのために、糸と糸が密着するのを防ぐ目的で、中空糸膜に巻縮等がついていてもよい。
【0021】
本形態では、中空糸膜1の上端と下端とは、それぞれ第1ポッティング部4および第2ポッティング部5によって束ねられている。第1ポッティング部4は、筒状ケース3の第1端側に位置し、第2ポッティング部5は、筒状ケース3の第2端側に位置する。本形態では、中空糸膜束2の上端の端面は開口した状態で第1ポッティング部4によって束ねられ、中空糸膜束2の下端の端面は封止した状態(すなわち閉口された状態)で第2ポッティング部5によって束ねられている。
【0022】
図1では、両ポッティング部(第1ポッティング部4,第2ポッティング部5)が筒状ケース3の内部に固定されることで、中空糸膜束2が筒状ケース3内に固定される。すなわち、第2ポッティング部5は、第1ポッティング部4と対向するように配置されている。
【0023】
第1ポッティング部4および第2ポッティング部5は、いわゆるポッティング剤で形成されている。なお、第1ポッティング部4および第2ポッティング部5を、必要に応じ筒状等の容器内に接着固定し、Oリングやパッキンなどのシール材を用いて液密かつ気密に筒状ケース3の内部に固定することで、中空糸膜1と第1ポッティング部4および第2ポッティング部5をカートリッジ式として、中空糸膜束2を筒状ケース3内に固定してもよい。
【0024】
第2ポッティング部5は、第1ポッティング部4との対向面から逆の面まで、連続する貫通孔11を多数有する。貫通孔11は、原水を筒状ケース3内に導く原水流入流路として機能する。
【0025】
原水は、下キャップ7の原水流入口8より中空糸膜モジュール100内に流入し、中空糸膜1を透過しなかった原水は、濃縮液出口10より中空糸膜モジュール100の外部へ排出される。
【0026】
中空糸膜1を透過した透過液は、上キャップ6の透過液出口9より中空糸膜モジュール100の外部へ排出される。このようにして、原水によって膜面に対する平行な流れ(クロスフロー流)を生起しながら、ろ過するクロスフローろ過方式を実施することが出来る。
【0027】
また、濃縮液出口10を閉止すれば、原水を全てろ過する全量ろ過を実施することができる。なお、原水流入口は、
図1のようにモジュールの下部にあってもよいし、側面に1つ以上のノズルを設けて、原水流入口としてもよい。
【0028】
以上に説明した部材のより具体的な構成および中空糸膜モジュールがさらに備え得る部材について説明する。
【0029】
(2)中空糸膜
中空糸膜モジュールは、中空糸状の分離膜(中空糸膜)を備える。中空糸膜は、精密ろ過膜であっても限外ろ過膜であっても構わない。本発明において、中空糸膜は多孔質中空糸膜である。
【0030】
中空糸膜の細孔径については特に限定されず、原水中の濁質、溶解成分を良好に分離するため、平均細孔径が0.001μm以上10μm未満の範囲内で適宜選択することができる。中空糸膜の平均細孔径は、ASTM:F316−86記載の方法(別称:ハーフドライ法)にしたがって決定される。なお、このハーフドライ法によって決定されるのは、中空糸膜の最小孔径層の平均孔径である。
【0031】
ハーフドライ法による平均細孔径の測定の標準測定条件は、使用液体をエタノール、測定温度を25℃、昇圧速度を1kPa/秒とする。平均細孔径[μm]は、下記式より求まる。
平均細孔径[μm]=(2860×表面張力[mN/m])/ハーフドライ空気圧力[Pa]
エタノールの25℃における表面張力は21.97mN/mである(日本化学会編、化学便覧基礎編改訂3版、II−82頁、丸善(株)、1984年)ので、標準測定条件の場合、平均細孔径は、下記式より求めることができる。
平均細孔径[μm]=62834.2/(ハーフドライ空気圧力[Pa])
【0032】
中空糸膜は、中空糸の外側から内側に向かってろ過する外圧式と、内側から外側に向かってろ過する内圧式があるが、濁質による閉塞の起こりにくい外圧式中空糸膜がより好ましい。また、モジュール運転中の物理洗浄による応力や堆積物の重さで膜が切れないよう破断強力の強い膜を使用することが好ましい。破断強力の下限は、中空糸膜単糸あたり600g以上であることが好ましい。
【0033】
本発明は、筒状ケース内における中空糸膜の充填率を25%以上38%以下と比較的低くとることで、高濃度の濁質を含有する液でもモジュール内での詰まりを抑制しながら流すことができる。中空糸膜の充填率の下限値は30%以上がより好ましく、中空糸膜の充填率の上限値は38%以下がより好ましい。
【0034】
中空糸膜の充填率を低減するためには、モジュール当たりの中空糸膜の本数を減らしてもよい。しかし、中空糸膜の本数を減らすと、1本の中空糸膜モジュールの膜面積が減少するので、大きな膜面積を有するモジュールと同程度の透過液流量を得るには、単位膜面積当たりの透過液流量を増やすか、モジュールの本数を増やさなければならない。単位膜面積当たりの透過液流量を増やそうとすると、膜の目詰まりが早くなる。また、モジュール数を増やすと設備コストおよびランニングコストが高くなる。ここでいう、「膜面積」とは、分離に使用される箇所の中空糸膜の表面積のことであり、ポッティング部などで外周を覆われずに露出している部分の中空糸膜外周の表面積である。
【0035】
本発明における中空糸膜モジュールでは、単位体積あたりの膜面積が800m
2/m
3以上3,700m
2/m
3以下の範囲にある。
膜面積がこの範囲にあることで、充填率が比較的低くても膜面積の減少を抑制できる。その結果、急激な膜の目詰まりを防止し、同時にモジュール内での濁質の蓄積を抑制して、長期にわたる安定運転が可能となる。単位体積あたりの膜面積は、800m
2/m
3以上2,300m
2/m
3以下の範囲がより好ましい。
【0036】
なお、単位体積あたりの膜面積は中空糸膜モジュール内のろ過に利用される空間体積をV、膜面積をAとしたとき、下記式によって表すことができる。
単位体積あたりの膜面積[m
2/m
3]=A/V
【0037】
ここで中空糸膜モジュール内のろ過に利用される空間体積とは、中空糸膜モジュールの筒状ケース内において、中空糸膜がポッティング部などで覆われずに露出して存在している部分の筒状ケース内の空間体積のことである。例えば、
図1において、第1ポッティング部4の下面から第2ポッティング部5の上面までの距離をモジュール長さL、中空糸膜の存在領域の断面積をS1としたとき、中空糸膜モジュール内のろ過に利用される空間体積Vは下記式で表すことができる。
空間体積V[m
3]=L×S1
【0038】
ここで、モジュール長さLは、第2ポッティング部を備えないモジュールなどにおいては、中空糸膜がポッティング部などで覆われずに露出して存在している部分において最も距離が長い部分を採用する。
【0039】
例えば、日本国特開平11−342320号公報に示されているような複数の中空糸膜をU字状に束ねて筒状ケースに挿入し、中空糸膜の両端を第1ポッティング部にポッティングして開口させたモジュールの場合、中空糸膜のU字の接点部から第1ポッティング部の下までの距離をLとする。また、中空糸膜の存在領域とは、中空糸膜モジュールの横断面で最も外側の中空糸膜を囲む領域のことである。存在領域の詳細については後述する。
【0040】
単位体積あたりの膜面積を上記範囲にするためには、中空糸膜の外径を小さくするという手段をとることができる。外径が小さな中空糸膜を充填すると、膜面積の減少を抑えながら、充填率を下げることができる。
【0041】
しかしながら、従来の技術では外径の小さな中空糸膜は、その膜の横断面積が小さくなるので、引っ張り荷重の掛かる面積が小さいため、引っ張りに耐えうる力が小さく、モジュール運転中の物理洗浄による応力や堆積物の重さで膜が切れてしまい、原水が透過液側に漏れて分離が困難になる課題があった。
【0042】
すなわち、本発明における中空糸膜は、破断強度が23MPa以上である。これによって運転中の膜切れを回避し、高濃度の濁質を含有した液においても安定的に運転が可能となる。破断強度の測定方法は、特に限定されるものではないが、例えば、引っ張り試験機を用い、測定長さ50mmの試料を引っ張り速度50mm/分で引っ張り試験を、試料を変えて5回以上行い、破断強度の平均値を求めることで測定することができる。中空糸膜の破断強度は、23MPa以上70MPa以下の範囲が好ましく、30MPa以上60MPa以下の範囲がより好ましい。
【0043】
本発明において、中空糸膜モジュールの膜面積を確保すると共に、モジュール運転中の液圧による中空糸膜の形状変化を抑制するという観点から、中空糸膜の外径は1.2mm以下であることが好ましい。さらには、中空糸膜の外径は0.5mm以上1.2mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.8mm以上1.2mm以下である。
【0044】
中空糸膜の内径は0.2mm以上であることが好ましい。内径が0.2mm以上であることで、中空糸膜の中空部に流れる透過液の抵抗を小さく抑えられる。なお、中空糸膜の内径の好ましい範囲は、内径/膜厚比と外径の長さによって決まる。中空糸膜の内径/膜厚比は0.85以上8以下であることが、モジュール運転中の液圧による中空糸膜の形状変化を抑制できるので好ましい。
【0045】
本発明は、筒状ケース内における中空糸膜の充填率を25%以上38%以下と比較的低くとることで、高濃度の濁質を含有する液でもモジュール内での詰まりを抑制しながら流すことができる。中空糸膜の充填率は中空糸膜の本数を減らすことによっても可能だが、上述の通り、膜面積の減少によるモジュールの寿命の短縮やコスト増加につながる。
【0046】
そこで、外径が小さな中空糸膜を充填すると、膜面積の減少を抑えながら、充填率を下げることができる。外径を1.2mm以下にすることで濁質の蓄積が解消できる充填率まで十分に下げることが出来る。
【0047】
本発明の中空糸膜は、様々な膜素材の中空糸膜を使うことが出来る。例えば、ポリフッ化ビニリデン製、ポリスルホン製、ポリエーテルスルホン製、ポリテトラフルオロエチレン製、ポリエチレン製、及びポリプロピレン製等の膜が挙げられる。特に、有機物による汚れが発生しにくく、かつ洗浄がしやすく、さらに耐久性に優れているフッ素樹脂系高分子を含有する分離膜が好ましい。
【0048】
本発明における中空糸膜について、フッ素樹脂系高分子を含有する多孔質中空糸膜を例に挙げて、具体的な構成について以下に多孔質中空糸膜AおよびBの2通りについて説明する。
まず、多孔質中空糸膜Aについて以下に説明する。
【0049】
(2−1A)多孔質中空糸膜A
(a)フッ素樹脂系高分子
本発明の多孔質中空糸膜は、フッ素樹脂系高分子を含有することが好ましい。
本書において、フッ素樹脂系高分子とは、フッ化ビニリデンホモポリマーおよびフッ化ビニリデン共重合体のうちの少なくとも1つを含有する樹脂を意味する。フッ素樹脂系高分子は、複数の種類のフッ化ビニリデン共重合体を含有してもよい。
【0050】
フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデン残基構造を有するポリマーであり、典型的にはフッ化ビニリデンモノマーとそれ以外のフッ素系モノマーなどとの共重合体である。このような共重合体としては、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、及び三フッ化塩化エチレンから選ばれた1種類以上のモノマーとフッ化ビニリデンとの共重合体が挙げられる。
【0051】
また、本発明の効果を損なわない程度に、前記フッ素系モノマー以外の例えばエチレンなどのモノマーが共重合されていてもよい。
【0052】
また、フッ素樹脂系高分子の重量平均分子量は、要求される高分子分離膜の強度と透水性能によって適宜選択すればよいが、重量平均分子量が大きくなると透水性能が低下し、重量平均分子量が小さくなると強度が低下する。このため、重量平均分子量は5万以上100万以下が好ましい。高分子分離膜が薬液洗浄に晒される水処理用途の場合、重量平均分子量は10万以上70万以下が好ましく、さらに15万以上60万以下が好ましい。
【0053】
多孔質中空糸膜は、フッ素樹脂系高分子を主成分として含有することが好ましい。フッ素樹脂系高分子を主成分として含有するとは、多孔質中空糸膜においてフッ素樹脂系高分子が占める割合が50重量%以上であることをいう。多孔質中空糸膜においてフッ素樹脂系高分子が占める割合は、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、95重量%以上であることが特に好ましい。また、多孔質中空糸膜は、フッ素樹脂系高分子のみで構成されていてもよい。
【0054】
なお、「フッ素樹脂系高分子を主成分として含有する多孔質中空糸膜」とは、「フッ素樹脂系高分子をベースとする多孔質中空糸膜」とも言い換えられる。本明細書では、他の要素についても「XがYを主成分として含有する」という説明が記載されているが、これらについても同様に、Xについて「Yをベースとする」と言い換えることができる。
【0055】
(b)分子鎖の配向
本発明の多孔質中空糸膜において、フッ素樹脂系高分子の分子鎖は、多孔質中空糸膜の長手方向に配向している。また、分子鎖の配向度πは、0.4以上1.0未満であることが好ましい。配向度πは、下記式(1)に基づき、広角X線回折測定によって得られた半値幅H(°)から算出される。
配向度π=(180°−H)/180° ・・・(1)
(ただし、Hは広角X線回折像の円周方向における回折強度分布の半値幅(°)である。)
【0056】
分子鎖の多孔質中空糸膜の長手方向への配向およびその配向度πの測定方法について、以下に具体的に説明する。
【0057】
配向度πを算出するためには、多孔質中空糸膜の長手方向が鉛直となるように繊維試料台に取り付ける。なお、多孔質中空糸膜の短手方向とは、中空糸の径方向と平行な方向であり、長手方向とは、短手方向に垂直な方向である。また、短手方向は、中空面と平行な方向、すなわち中空面の面内方向と言い換えることができ、長手方向とは、中空面に垂直な方向と言い換えることができる。
【0058】
X線回折を行うと、デバイ環(Debye−Scherrer ring)と呼ばれる円環状の回折像が得られる。無配向試料ではデバイ環に沿って回折強度に大きな変化は見られないが、配向試料では、デバイ環上での強度分布に偏りが生じる。よって、この強度分布から、上記式(1)に基づいて配向度を算出することができる。
【0059】
より詳細には、分子鎖が無配向である場合には、短手方向に2θ/θスキャンすると(つまりデバイ環の径方向における回折強度分布を示す回折パターンを得ると)、回折角2θ=20°付近の位置にピークが見られる。このとき得られる回折パターンの横軸はX線の回折角2θであり、縦軸は回折強度である。さらに、回折角2θをこのピーク位置つまり20°付近に固定して、試料を方位角β方向にスキャンすることで、横軸が方位角βを示し、縦軸が回折強度を示す回折パターン(つまり、回折角2θ=20°の位置におけるデバイ環の円周方向に沿った回折強度分布)が得られる。無配向試料では、デバイ環の円周方向360°全体にわたって、回折強度はほぼ一定となる。
【0060】
一方で、分子鎖が多孔質中空糸膜の長手方向に配向している場合には、2θ=20°付近のデバイ環上で中空糸膜の短手方向に相当する方位角上(つまり赤道上)に、強い回折強度が見られ、他の部分では小さい回折強度が得られる。つまり、配向試料では、デバイ環の径方向における回折強度分布では、無配向試料と同様に2θ=20°付近で回折ピークが見られ、円周方向における分布では、無配向試料と違って、中空糸膜の短手方向に相当する方位角上に回折ピークが観察される。
【0061】
デバイ環の径方向における回折ピークの位置(つまり回折ピークに対応する2θの値)を、以上の説明では「20°付近」とした。しかし、この2θの値は、高分子の構造、配合によって異なり、15〜25°の範囲となる場合もある。例えば、α晶またはβ晶を有するポリフッ化ビニリデンホモポリマーについてX線回折を行うと、2θ=20.4°付近に、α晶またはβ晶の(110)面、すなわち分子鎖と平行な面に由来する回折ピークが見られる。
【0062】
上述したように、回折角2θの値を固定して、さらに方位角方向(円周方向)に0°から360°までの強度を測定することにより、方位角方向の強度分布が得られる。この強度分布は、回折像における結晶ピークをその円周方向にスキャンして得られる強度分布であるとも言える。ここで、方位角180°(長手方向)の強度と方位角90°(短手方向)の強度の比が0.80以下となる場合または1.25以上となる場合に、ピークが存在するとみなし、この方位角方向の強度分布において、ピーク高さの半分の位置における幅(半値幅H)を求める。
【0063】
この半値幅Hを上記式(1)に代入することによって配向度πを算出する。
本発明の多孔質中空糸膜の分子鎖の多孔質中空糸膜の長手方向への配向度πは、0.4以上1.0未満の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.5以上1.0未満であり、更に好ましくは0.6以上1.0未満である。
【0064】
配向度πが0.4以上であることで、多孔質中空糸膜の機械的強度が大きくなる。なお、配向度πは、多孔質中空糸膜の長手方向に1cm間隔の測定点で広角X線回折測定を行った際に、80%以上の測定点で、0.4以上1.0未満であることが好ましい。
【0065】
なお、結晶ピークを円周方向にスキャンして得られる強度分布で、方位角180°の強度と方位角90°の強度の比が0.80を超えて1.25未満の範囲となる場合には、ピークが存在しないとみなす。つまり、この場合は、フッ素樹脂系高分子は無配向であると判断する。
【0066】
中空糸膜がポリフッ化ビニリデンのα晶またはβ晶を含有する場合、半値幅Hは、広角X線回折測定によるポリフッ化ビニリデンのα晶またはβ晶の(110)面由来の結晶ピーク(2θ=20.4°)を円周方向にスキャンして得られる強度分布から得られるものであることが好ましい。
【0067】
本発明の分子鎖の配向は、ラマン分光法による配向解析により求めることができる。
まず、多孔質中空糸膜の長手方向に沿う断面において、ミクロトームによる切削を行うことで、多孔質中空糸膜を切片化する。こうしてえられた切片を光学顕微鏡で観察することで、柱状組織を確認しながら、柱状組織の長手方向に沿って、1μm間隔でレーザーラマン測定を行う。
【0068】
例えば、フッ素樹脂系高分子がポリフッ化ビニリデンホモポリマーである場合、1270cm
−1付近のラマンバンドは、CF
2(フルオロカーボン)伸縮振動とCC(炭素−炭素)伸縮振動とのカップリングモードに帰属する。これらの振動の振動方向は、分子鎖に対して平行なモードである。一方で、840cm
−1付近のラマンバンドの振動方向は分子鎖に対して垂直である。ラマン散乱は分子鎖の振動方向と入射光の偏光方向が一致する場合に強く得られることから、これらの振動モードの散乱強度の比は配向度と相関して変化する。
【0069】
このため、配向パラメータを、下記式(2)で算出することができる。配向パラメータは、多孔質中空糸膜の長手方向への配向が高いほど大きな値となり、無配向時には1、短手方向への配向が高いと1よりも小さな値を示す。
配向パラメータ=(I1270/I840)平行/(I1270/I840)垂直 ・・・(2)
【0070】
式(2)において、
平行条件:多孔質中空糸膜の長手方向と偏光方向が平行
垂直条件:多孔質中空糸膜の長手方向と偏光方向が直交
I1270平行:平行条件時の1270cm
−1のラマンバンドの強度
I1270垂直:垂直条件時の1270cm
−1のラマンバンドの強度
I840平行:平行条件時の840cm
−1のラマンバンドの強度
I840垂直:垂直条件時の840cm
−1のラマンバンドの強度
である。
【0071】
本発明では、多孔質中空糸膜1本について、10個の相異なる柱状組織の各3箇所について測定を行い、それぞれの配向パラメータを式(2)により算出し、各配向パラメータの平均値をラマン配向パラメータνとする。また、10個の相異なる柱状組織の各3箇所の測定点の中で、最も大きな配向パラメータと最も小さな配向パラメータについてそれぞれ平均値を求め、最大ラマン配向パラメータM、最小ラマン配向パラメータmとし、M/mを算出する。
【0072】
精度良く、ラマン配向パラメータν、最大ラマン配向パラメータM、最小ラマン配向パラメータm、M/mを求めるために、10個の相異なる柱状組織の各10箇所、さらには20箇所について測定を行うことが好ましい。
【0073】
本発明の多孔質中空糸膜の分子鎖の多孔質中空糸膜の長手方向へのラマン配向パラメータνは、3.0以上が好ましく、より好ましくは3.4以上であり、さらに好ましくは3.7以上である。配向度πが3.0以上であることで、多孔質中空糸膜の強度が大きくなる。
【0074】
最大ラマン配向パラメータM、最小ラマン配向パラメータmは、それぞれ柱状組織における主たる配向箇所と延伸時の力点を表す。得られる多孔質中空糸膜の強度、伸度、透水性等の性能のバランスを考慮して、Mやmを適切な範囲とすればよいが、M/mが大きいほど、分子鎖の配向が進み、多孔質中空糸膜の強度が大きくなる傾向にあるため好ましい。このため、本発明では、M/mは、3以上が好ましく、4以上がより好ましく、5以上がさらに好ましい。
【0075】
広角X線回折測定により求められる配向度πは、多孔質膜中空糸膜全体の分子鎖の配向を表す。また、ラマン分光法により求められるラマン配向パラメータνは、多孔質膜中空糸膜の柱状組織に焦点をあてた場合の分子鎖の配向、すなわち局所的な分子鎖の配向を表す傾向にある。
【0076】
多孔質膜中空糸膜全体および局所の分子鎖がともに強く配向していると、多孔質中空糸膜の強度が高くなるため、配向度πが0.6以上1.0未満の範囲であり、かつ、ラマン配向パラメータνが3.4以上であることが好ましい。配向度πが0.7以上1.0未満の範囲であり、かつ、ラマン配向パラメータνが3.7以上であることがさらに好ましい。
【0077】
(c)柱状組織
(i)寸法
多孔質中空糸膜は、多孔質中空糸膜の長手方向に配向する柱状組織を有する。「柱状組織」とは、一方向に長い形状の固形物である。柱状組織のアスペクト比(長手長さ/短手長さ)が3以上であることが好ましい。
ここで、「長手長さ」とは柱状組織の長手方向の長さを指す。また、「短手長さ」とは柱状組織の短手方向の平均長さである。
【0078】
長手長さおよび短手長さは、以下のように測定できる。中空糸膜の長手方向に沿って中空糸膜を切断する。得られた断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察する。倍率は、柱状組織の長さによって変更可能であり、視野内に5個、好ましくは10個の柱状組織の全体が、その長手方向に渡って含まれる程度とする。1つの柱状組織において、長手方向の長さにばらつきが認められる場合は、長手長さとして、長手方向の最大長さを測定すればよい。
【0079】
また、短手長さは、1つの柱状組織における所定数の任意の測定点において各短手方向の長さを計測し、それらの平均値を算出することで求められる。測定点数は、長手長さ(μm)を1μmで除した値(小数点以下切り捨て)である。たとえば、柱状組織の長手長さが20.5μmの時には、測定点数は20点となる。ただし、この値が21以上になった場合は、任意の20箇所を測定すればよい。
【0080】
柱状組織の長手長さは特に限定されないが、7μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは15μm以上である。また、柱状組織の長手長さは、例えば50μm以下であることが好ましく、より好ましくは40μm以下である。
【0081】
本発明において、柱状組織の短手長さが0.5μm以上3μm以下であることが好ましい。短手長さが前記範囲であると、高い強度性能と高い純水透過性能が得られるため好ましい。
【0082】
柱状組織の短手長さが0.5μm以上であることで、柱状組織自体の物理的強度が大きくなるので、高い強度が得られる。また、柱状組織の短手長さが3μm以下であることで、柱状組織間の空隙が大きくなるので、良好な純水透過性能が得られる。柱状組織の短手長さは、0.7μm以上2.5μm以下であることがより好ましく、更に好ましくは1μm以上2μm以下である。
【0083】
なお、本発明の多孔質中空糸膜において、柱状組織の長手長さの代表値および短手長さの代表値の好ましい範囲は、それぞれ、上述の個々の柱状組織の長手長さおよび短手長さの好ましい範囲と同一である。また、各代表値がその範囲内にあることの効果については、個々の柱状組織の寸法がその範囲にある場合の効果についての説明が適用される。
【0084】
長手長さの代表値は、以下のように測定する。長手長さの測定と同様にして、中空糸膜における3箇所、好ましくは5箇所の位置で、1箇所につき5個、好ましくは10個の柱状組織について、長手長さを測定する。得られた長手長さの値について平均値を求めることで、柱状組織の長手長さの代表値とすることができる。
【0085】
また、短手長さの代表値は、長手長さの代表値の測定の対象とした柱状組織について、上述のとおり短手長さ(平均値として算出される)を測定し、その平均値を算出することで決定される。
【0086】
また、本発明の多孔質中空糸膜において、長手長さの代表値および短手長さの代表値から算出される柱状組織のアスペクト比の代表値は、3以上であることが好ましく、より好ましくは5以上、更に好ましくは10以上、特に好ましくは20以上である。
【0087】
本発明において、柱状組織の短手長さが0.5μm以上3μm以下であり、且つ、柱状組織のアスペクト比が3以上であることが好ましい。
【0088】
(ii)太さ均一性
後述するように、本発明の中空糸膜は、高分子を含有する製膜原液から中空糸を形成し、その中空糸を延伸することで、製造可能である。便宜上、延伸前の状態を「中空糸」と呼び、延伸後の状態を「中空糸膜」と呼ぶ。
【0089】
延伸後の中空糸膜における柱状組織の太さ均一性(後述の平均値D)は、0.60以上が好ましく、より好ましくは0.70以上であり、更に好ましくは0.80以上であり、特に好ましくは0.90以上である。太さ均一性は、最大で1.0であるが、柱状組織は、1.0未満の太さ均一性を有してもよい。
【0090】
このように中空糸膜において、柱状組織が高い太さ均一性を有すること、つまり柱状組織のくびれ部分が少ないことで、中空糸膜の伸度が高くなる。
延伸後の多孔質中空糸膜が高い伸度を保持していると、急激な荷重が掛かった際にも糸切れしにくいため好ましい。多孔質中空糸膜の破断伸度は、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0091】
太さ均一性について説明する。柱状組織の各短手方向の長さのバラツキが小さいほど、柱状組織は、くびれ部分が少なく、太さの均一性が高くなり、理想的な円柱に近づく。
【0092】
柱状組織の太さ均一性は、多孔質中空糸膜の短手方向に平行な第一の断面と第二の断面を比較することで求められる。以下に具体的に説明する。
【0093】
まず、互いに平行である第一の断面と第二の断面を選定する。第一の面と第二の面との距離は5μmとする。まず、それぞれの断面において、樹脂からなる部分と空隙部分とを区別し、樹脂部分面積と空隙部分面積を測定する。
【0094】
次に、第一の断面を第二の断面に投影した時に、第一の断面における樹脂からなる部分と第二の断面における樹脂からなる部分とが重なる部分の面積、すなわち重なり面積を求める。下記式(3)および(4)に基づいて、1本の中空糸膜について任意の20組の第一の断面と上記第二の断面について、太さ均一性AおよびBをそれぞれ求める。
太さ均一性A=(重なり面積)/(第二の断面の樹脂部分面積) ・・・(3)
太さ均一性B=(重なり面積)/(第一の断面の樹脂部分面積) ・・・(4)
【0095】
つまり、1本の中空糸膜について、20組の太さ均一性A、Bが得られる。この値が大きいほど、柱状組織の太さが均一であることを意味する。次に、それぞれの組について、太さ均一性AとBとの平均値Cを算出する。すなわち1本の中空糸膜について、20個の平均値Cが得られる。この平均値Cについて、さらに平均値Dを算出する。この平均値Dが、この中空糸膜の太さ均一性である。
【0096】
また、1本の中空糸膜について算出された20個の平均値Cのうち、80%以上が0.60以上である場合に、この中空糸膜は柱状組織を有するといえる。
【0097】
なお、太さ均一性の測定に当たっては、樹脂部分と空隙部分とを明瞭に区別するために、あらかじめ、多孔質中空糸膜をエポキシ樹脂等で樹脂包埋し、エポキシ樹脂等をオスミウム等で染色処理することが好ましい。このような樹脂包埋・染色処理によって、空隙部分がエポキシ樹脂等で埋められ、後述する集束イオンビームによる断面加工の際に、フッ素樹脂系高分子からなる部分と、空隙部分(すなわちエポキシ樹脂部分)とが明瞭に区別できるようになるため、観察精度が高くなる。
【0098】
また、上述した多孔質中空糸膜の短手方向に平行な第一の断面と第二の断面を得るために、集束イオンビーム(FIB)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM)を用いることが好ましい。多孔質中空糸膜の短手方向に平行な面を、FIBを用いて切り出し、FIBによる切削加工とSEM観察を、多孔質中空糸膜の長手方向に向かって50nm間隔で繰り返し200回実施する。このような連続断面観察によって、10μmの深さの情報を得ることができる。
【0099】
この中で、5μmの間隔を持つ互いに平行な面となる任意の第一の断面と第二の断面を選択し、上述した式(3)および(4)を用いて太さ均一性を求めることができる。なお、観察倍率は、柱状組織および球状組織が明瞭に確認できる倍率であればよく、例えば1000〜5000倍を用いればよい。
【0100】
(iii)組成
柱状組織は、フッ素樹脂系高分子を含有する。柱状組織は、フッ素樹脂系高分子を主成分として含有することが好ましい。フッ素樹脂系高分子を主成分として含有するとは、柱状組織においてフッ素樹脂系高分子が占める割合が50重量%以上であることをいう。柱状組織においてフッ素樹脂系高分子が占める割合は、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、95重量%以上であることが特に好ましい。また、柱状組織は、フッ素樹脂系高分子のみで構成されていてもよい。
【0101】
言い換えると、多孔質中空糸膜はフッ素樹脂系高分子を含有する固形分を有しており、その固形分の少なくとも一部が柱状組織を構成している。フッ素樹脂系高分子を含有する固形分は、その全てが柱状組織を構成していてもよいし、その一部が柱状組織に該当しない形状を有していてもよい。多孔質中空糸膜において、フッ素樹脂系高分子を含有する固形分のうち、柱状組織を構成する固形分が占める割合は、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上であることが更に好ましい。
【0102】
(iv)中空糸膜における柱状組織
多孔質中空糸膜において、主たる構造が柱状組織であることが好ましい。主たる構造が柱状組織であるとは、多孔質中空糸膜において、柱状組織が占める割合が50重量%以上であることをいう。多孔質中空糸膜において、柱状組織が占める割合は、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、95重量%以上であることが特に好ましい。また、多孔質中空糸膜は、柱状組織のみで構成されていてもよい。
【0103】
より具体的には、多孔質中空糸膜は、その主たる構造として、フッ素樹脂系高分子を主成分として含有する柱状組織を有することが好ましい。
多孔質中空糸膜は、柱状組織の集合体である、とも表現できる。
ここで、「長手方向に配向する」とは、柱状組織の長手方向と多孔質中空糸膜の長手方向とが成す角度のうち鋭角の角度が20度以内であることを意味する。
【0104】
(d)その他
本発明の多孔質中空糸膜は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、上述した柱状組織以外の組織を含有していてもよい。柱状組織以外の構造としては、例えば、アスペクト比(長手長さ/短手長さ)が3未満の球状組織が挙げられる。球状組織の短手長さおよび長手長さは、0.5μm以上3μm以下の範囲であることが好ましい。球状組織を用いる場合に、その短手長さおよび長手長さが前記範囲であれば、多孔質中空糸膜の強度の低下が抑制され、かつ良好な純水透過性能を維持することができる。
【0105】
ただし、このようなアスペクト比が3未満の球状組織が多孔質中空糸膜に占める割合が大きくなると、球状組織同士の連結が増加し、くびれ部分が増加していくため、高倍率延伸が困難になり、また、延伸後の伸度保持が困難になる傾向を示す。このため、球状組織が多孔質中空糸膜に占める割合は、小さければ小さいほど好ましく、20%未満が好ましく、10%未満がより好ましく、1%未満(ほとんど球状組織が無いこと)がさらに好ましく、球状組織が全く存在しないことが最も好ましい。
【0106】
ここで各組織の占有率(%)は、多孔質中空糸膜の長手方向の断面について、SEM等を用いて柱状組織および球状組織が明瞭に確認できる倍率、好ましくは1000〜5000倍で写真を撮影し、下記式(5)で求められる。精度を高めるために、任意の20カ所以上、好ましくは30カ所以上の断面について占有率を求め、それらの平均値を算出することが好ましい。
占有率(%)={(各組織の占める面積)/(写真全体の面積)}×100 ・・・(5)
【0107】
ここで、写真全体の面積および組織の占める面積は、写真撮影された各組織の対応する重量に置き換えて求める方法などが好ましく採用できる。すなわち、撮影された写真を紙に印刷し、写真全体に対応する紙の重量およびそこから切り取った組織部分に対応する紙の重量を測定すればよい。また、SEM等による写真撮影に先立ち、上述したような樹脂包埋・染色処理、FIBによる切削加工を施すと、観察精度が高くなるため好ましい。
【0108】
また、本発明の多孔質中空糸膜は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、上述した柱状組織を有する層と、他の構造を有する層とが積層されたものであってもよい。ただし、柱状組織を有する層に比べて、他の構造を有する層の厚みが厚くなると、本発明の目的・効果を発揮しにくくなるため、柱状組織を有する層の厚みに対する他の構造を有する層の厚みの比は、0.3以下が好ましく、0.2以下がより好ましい。
【0109】
本発明の多孔質中空糸膜は、50kPa、25℃における純水透過性能が0.7m
3/m
2/hr以上であり、破断強度が25MPa以上であることが好ましい。より好ましくは50kPa、25℃における純水透過性能が0.7m
3/m
2/hr以上であり、破断強度が30MPa以上である。
【0110】
特に、高い純水透過性能と高い強度性能を両立させた高性能の中空糸膜とするという観点から、50kPa、25℃における純水透過性能が0.7m
3/m
2/hr以上5.0m
3/m
2/hr以下であり、破断強度が25MPa以上70MPa以下の範囲が好ましく、より好ましくは50kPa、25℃における純水透過性能が0.7m
3/m
2/hr以上5.0m
3/m
2/hr以下であり、破断強度が30MPa以上70MPa以下の範囲である。
【0111】
(2−2A)多孔質中空糸膜Aの製造方法
本発明の多孔質中空糸膜Aを製造する方法について、以下に例示する。多孔質中空糸膜の製造方法は、少なくとも、
1)フッ素樹脂系高分子を含有する製膜原液から、熱誘起相分離により、長さ方向に配向し、かつ0.60以上1.00未満の太さ均一性を有する柱状組織を有する中空糸を形成する工程、および
2)上記1)で得られた多孔質中空糸を長手方向に2.0倍以上5.0倍以下で延伸する工程
を備える。
【0112】
(a)製膜原液の調製
本発明における多孔質中空糸膜Aの製造方法は、フッ素樹脂系高分子溶液を調製する工程をさらに備える。フッ素樹脂系高分子を、フッ素樹脂系高分子の貧溶媒または良溶媒に、結晶化温度以上の比較的高温で溶解することで、フッ素樹脂系高分子溶液(つまり、フッ素樹脂系高分子を含有する製膜原液)を調製する。
【0113】
製膜原液中の高分子濃度が高いと、高い強度を有する多孔質中空糸膜が得られる。一方で、高分子濃度が低いと、多孔質中空糸膜の空隙率が大きくなり、純水透過性能が向上する。このため、フッ素樹脂系高分子の濃度は、20重量%以上60重量%以下であることが好ましく、30重量%以上50重量%以下であることがより好ましい。
【0114】
本書において、貧溶媒とは、フッ素樹脂系高分子を60℃以下の低温では、5重量%以上溶解させることができないが、60℃以上かつフッ素樹脂系高分子の融点以下(例えば、高分子がフッ化ビニリデンホモポリマー単独で構成される場合は178℃程度)の高温領域で5重量%以上溶解させることができる溶媒である。良溶媒とは、60℃以下の低温領域でもフッ素樹脂系高分子を5重量%以上溶解させることができる溶媒である。非溶媒とは、フッ素樹脂系高分子の融点または溶媒の沸点まで、フッ素樹脂系高分子を溶解も膨潤もさせない溶媒と定義する。
【0115】
ここで、フッ素樹脂系高分子の貧溶媒としては、例えば、シクロヘキサノン、イソホロン、γ−ブチロラクトン、メチルイソアミルケトン、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド等およびそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0116】
良溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル等およびそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0117】
非溶媒としては、例えば、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o−ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコール、塩素化炭化水素、またはその他の塩素化有機液体およびそれらの混合溶媒などが挙げられる。
【0118】
(b)中空糸の形成
中空糸の形成工程においては、温度変化により相分離を誘起する熱誘起相分離法を利用して、フッ素樹脂系高分子を含有する製膜原液から、中空糸を得る。後述する2.0倍以上の高倍率延伸を行うためには、中空糸は、その長さ方向に配向する柱状組織を有し、かつ、柱状組織の太さ均一性は0.60以上であることが好ましい。
【0119】
柱状組織の太さ均一性の下限は、0.70以上であることがより好ましく、0.80以上であることが更に好ましく、0.90以上であることが特に好ましい。柱状組織の太さ均一性の上限は1.0未満であることが好ましい。
【0120】
熱誘起相分離法には、主に2種類の相分離機構が利用される。一つは高温時に均一に溶解した高分子溶液が、降温時に溶液の溶解能力低下が原因で高分子濃厚相と高分子希薄相に分離し、その後構造が結晶化により固定される液−液相分離法である。もう一つは高温時に均一に溶解した高分子溶液が、降温時に高分子の結晶化が起こり高分子固体相と溶媒相に相分離する固−液相分離法である。
【0121】
前者の方法では主に三次元網目構造が、後者の方法では主に球状組織で構成された球状構造が形成される。本発明の中空糸膜の製造では、後者の相分離機構が好ましく利用される。よって、固−液相分離が誘起される高分子濃度および溶媒が選択される。前者の相分離機構では、上述したような中空糸膜の長さ方向に配向した柱状組織を発現させることは困難である。これは構造が固定される前の相分離でポリマー濃厚相は非常に微細な相を形成し、柱状にすることができないためである。
【0122】
具体的な方法としては、上述の製膜原液を多孔質中空糸膜紡糸用の二重管式口金の外側の管から吐出しつつ、中空部形成液体を二重管式口金の内側の管から吐出する。こうして吐出された製膜原液を冷却浴中で冷却固化することで、多孔質中空糸膜を得る。
【0123】
フッ素樹脂系高分子溶液は、口金から吐出される前に、圧力をかけられながら、特定の温度条件下に一定時間置かれる。圧力は0.5MPa以上であることが好ましく、1.0MPa以上であることがより好ましい。
【0124】
前記高分子溶液の温度Tは、Tc+35℃≦T≦Tc+60℃を満たすことが好ましく、Tc+40℃≦T≦Tc+55℃を満たすことがより好ましい。Tcは、フッ素樹脂系高分子溶液の結晶化温度である。この圧力および温度下で前記高分子溶液が保持される時間は、10秒以上であることが好ましく、20秒以上であることがより好ましい。
【0125】
具体的には、高分子溶液を口金に送る送液ラインのいずれかの箇所に、高分子溶液を滞留させる滞留部が設けられており、滞留した高分子溶液を加圧する加圧手段と、滞留した高分子溶液の温度を調整する温度調整手段(例えば加熱手段)が設けられる。
【0126】
加圧手段としては、特に限定されないが、送液ラインに2つ以上のポンプを設置することで、その間のいずれかの箇所で加圧することができる。ここでポンプとしては、例えば、ピストンポンプ、プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプ、ウィングポンプ、ギヤーポンプ、ロータリーポンプ、及びスクリューポンプなどが挙げられ、2種類以上を用いてもよい。
【0127】
この工程により結晶化が起こりやすい条件で圧力が加えられるため、結晶の成長が異方性を有し、等方的な球状構造ではなく、多孔質中空糸膜の長さ方向に配向した組織が発現し、その結果、柱状構造が得られると推測される。
【0128】
ここで、前記フッ素樹脂系高分子溶液の結晶化温度Tcは次のように定義される。示差走査熱量測定(DSC測定)装置を用いて、フッ素樹脂系高分子と溶媒など製膜高分子原液組成と同組成の混合物を密封式DSC容器に密封し、昇温速度10℃/minで溶解温度まで昇温し30分保持して均一に溶解した後に、降温速度10℃/minで降温する過程で観察される結晶化ピークの立ち上がり温度がTcである。
【0129】
次に、口金から吐出されたフッ素樹脂系高分子溶液を冷却する冷却浴について説明する。冷却浴には、濃度が50〜95重量%の貧溶媒あるいは良溶媒と、濃度が5〜50重量%の非溶媒からなる混合液体を用いることが好ましい。さらに貧溶媒としては高分子溶液と同じ貧溶媒を用いることが好ましく採用される。
【0130】
また、中空部形成液体には、冷却浴同様、濃度が50〜95重量%の貧溶媒あるいは良溶媒と、濃度が5〜50重量%の非溶媒からなる混合液体を用いることが好ましい。さらに貧溶媒としては高分子溶液と同じ貧溶媒を用いることが好ましく採用される。
【0131】
ここで、くびれ部分を多数有する繊維状組織ではなく、均一な太さを有する柱状組織とするために、くびれ部分への高分子取り込み成長を促進させることが望ましい。本発明者らは、くびれ部分への高分子取り込み成長は、界面エネルギーの高いくびれ部分の消失につながり、エネルギー的に安定化するため、くびれ部分以外の成長よりも優先的に生じさせうることを見出し、太さ均一性を向上させための方法について鋭意検討を行った。
【0132】
その結果、くびれ部分への高分子取り込み成長を促進させる方法として、熱誘起相分離が下記a)およびb)の冷却工程のうちの少なくとも一方を備えることが好ましいことを見出した。
a)前記製膜原液をTc−30℃<Tb≦Tcを満たす温度Tbの冷却浴に浸す工程
b)Tb1≦Tc−30℃を満たす温度Tb1の冷却浴に浸した後、Tc−30℃<Tb2≦Tcを満たす温度Tb2の冷却浴に浸す工程
(ただし、Tcは前記フッ素樹脂系高分子を含有する製膜原液の結晶化温度である。)
【0133】
本発明において、方法a)として、冷却浴中での冷却固化を前記高分子溶液の結晶化温度付近で行うことで、冷却固化を徐々に進行させることを見出した。この場合、冷却浴の温度Tbを、前記フッ素樹脂系高分子溶液の結晶化温度をTcとした際に、Tc−30℃<Tb≦Tcを満たすようにするものであり、Tc−20℃<Tb≦Tcとすることがより好ましい。
【0134】
冷却浴の通過時間(つまり冷却浴への浸漬時間)は、くびれ部分への高分子取り込み成長を含む熱誘起相分離が完結するのに十分な時間を確保できれば特に限定されず、中空糸膜数、紡糸速度、浴比、冷却能力などを勘案して実験的に決定すればよい。
【0135】
ただし、太さ均一性を達成するためには、上述した冷却浴の温度の範囲において通過時間をできるだけ長くすることが好ましく、例えば、10秒以上、好ましくは20秒以上、さらに好ましくは30秒以上とするのがよい。
【0136】
また、方法b)として二段階以上の冷却を行ってもよい。具体的には、冷却工程は、過冷却度を高めて結晶核生成・成長を促す第1の冷却浴を用いて冷却するステップと、その後、くびれ部分への高分子取り込み成長を促す第2の冷却浴を用いて冷却するステップとを含んでいてもよい。第2の冷却浴による冷却ステップは、くびれ部分への高分子取り込み成長が、主に相分離の構造粗大化過程で優先的に生じるという現象を利用している。
【0137】
この場合、口金から吐出されたフッ素樹脂高分子溶液を冷却する第1の冷却浴の温度Tb1が、Tb1≦Tc−30℃を満たすことで、過冷却度を高めて結晶核の生成および成長を促すことができ、第2の冷却浴の温度Tb2を結晶化温度付近の温度とすることで(具体的には、Tc−30℃<Tb2≦Tc、より好ましくはTc−20℃<Tb2≦Tcを満たすようにすることで)、くびれ部分への高分子取り込み成長を促すことができる。Tcは高分子溶液の結晶化温度である。
【0138】
それぞれの冷却浴の通過時間は変更可能であるが、例えば、第1の冷却浴の通過時間を1秒以上20秒以下、好ましくは3秒以上15秒以下、さらに好ましくは5秒以上10秒以下とし、第2の冷却浴の通過時間を10秒以上、好ましくは20秒以上、さらに好ましくは30秒以上とするのがよい。
【0139】
0.60未満の太さ均一性を有する組織を、柱状組織と区別するために、「繊維状組織」と称すると、日本国特開2006−297383号公報に開示されているのは繊維状組織を有する中空糸膜である。このような繊維状組織を有する多孔質中空糸膜は、強度および純水透過性能に比較的優れているため、本発明者らは、これを延伸することで高強度化を図った。しかしながら、均一に延伸することができず、高強度化できないことが分かった。
【0140】
一般に、水処理用に用いられる多孔質膜は、水を透過させるための空隙部を多数有し、延伸時には、空隙部を起点として組織の破壊が進行するため、延伸そのものが大変難しい。特に、多孔質中空糸膜が、非溶媒誘起相分離や熱誘起相分離の原理を利用する乾湿式紡糸によって得られる相分離多孔構造を有する場合には、微細な空隙が多数存在し、空隙率が高いため、この傾向が顕著である。
【0141】
日本国特開2006−297383号公報に記載の繊維状組織を有する多孔質膜の場合には、長手方向に配向した繊維状組織によって、延伸時の応力が分散され、2.0倍未満と低倍率ではあるが延伸が可能になったと考えられる。しかしながら、2.0倍以上の高倍率延伸を均一に実施することは未だ困難であり、その原因について鋭意検討した結果、繊維状組織は、くびれ部分が多く、延伸時に、このくびれ部分に応力が集中するため、くびれ部分が優先的に延伸されてしまい、繊維状組織全体を均一に延伸できないために延伸倍率を上げることができないことを発見した。
【0142】
これに対して、本発明者らは、日本国特開2006−297383号公報に記載のくびれ部分を多数有する繊維状組織ではなく、でも、日本国特許第4885539号公報に記載の網目構造でも、国際公開第2003/031038号に記載の球状構造でもなく、均一な太さを有する柱状組織を有する中空糸であれば、柱状組織全体を均一に延伸できることを見出し、2.0倍以上の高倍率延伸を可能とした。そして、このような均一かつ高倍率延伸によって、フッ素樹脂系高分子の分子鎖を多孔質中空糸膜の長手方向に延伸配向させることに成功し、高い純水透過性能を維持しつつ高強度化することに成功した。
【0143】
(c)延伸
最後に、本発明では、以上の方法で得られる柱状組織を有するフッ素樹脂系高分子からなる多孔質中空糸膜を高倍率延伸することで、該高分子の分子鎖を該中空糸膜の長手方向に配向させる。
【0144】
延伸倍率は、2.0〜5.0倍であり、より好ましくは2.5〜4.0倍であり、より好ましくは2.5〜3.5倍である。延伸倍率が2.0倍未満の場合、延伸による分子鎖の配向が充分ではなく、5.0倍を超えると伸度の低下が大きくなる。
【0145】
延伸温度は、好ましくは60〜140℃、より好ましくは70〜120℃、さらに好ましくは80〜100℃であり、60℃未満の低温雰囲気で延伸した場合、安定して均質に延伸することが困難である。140℃を超える温度で延伸した場合、フッ素樹脂系高分子の融点に近くなるため、構造組織が融解し純水透過性能が低下する場合がある。
【0146】
延伸は、液体中で行うと、温度制御が容易であり好ましいが、スチームなどの気体中で行ってもよい。液体としては水が簡便で好ましいが、90℃程度以上で延伸する場合には、低分子量のポリエチレングリコールなどを用いることも好ましく採用できる。
【0147】
次に、多孔質中空糸膜Bについて以下に説明する。
【0148】
(2−1B)多孔質中空糸膜B
(a)フッ素樹脂系高分子
本発明の多孔質中空糸膜Bは、フッ素樹脂系高分子を含有することが好ましい。
本書において、フッ素樹脂系高分子とは、フッ化ビニリデンホモポリマーおよびフッ化ビニリデン共重合体のうちの少なくとも1つを含有する樹脂を意味する。フッ素樹脂系高分子は、複数の種類のフッ化ビニリデン共重合体を含有してもよい。
【0149】
フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデン残基構造を有するポリマーであり、典型的にはフッ化ビニリデンモノマーとそれ以外のフッ素系モノマーなどとの共重合体である。このような共重合体としては、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、及び三フッ化塩化エチレンから選ばれた1種類以上のモノマーとフッ化ビニリデンとの共重合体が挙げられる。
【0150】
また、本発明の効果を損なわない程度に、前記フッ素系モノマー以外の例えばエチレンなどのモノマーが共重合されていてもよい。
【0151】
また、フッ素樹脂系高分子の重量平均分子量は、要求される高分子分離膜の強度と透水性能によって適宜選択すればよいが、重量平均分子量が大きくなると透水性能が低下し、重量平均分子量が小さくなると強度が低下する。
【0152】
このため、重量平均分子量は5万以上100万以下が好ましい。高分子分離膜が薬液洗浄に晒される水処理用途の場合、重量平均分子量は10万以上70万以下が好ましく、さらに15万以上60万以下が好ましい。
【0153】
多孔質中空糸膜は、フッ素樹脂系高分子を主成分として含有することが好ましい。フッ素樹脂系高分子を主成分として含有するとは、多孔質中空糸膜においてフッ素樹脂系高分子が占める割合が50重量%以上であることをいう。多孔質中空糸膜においてフッ素樹脂系高分子が占める割合は、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、95重量%以上であることが特に好ましい。また、多孔質中空糸膜は、フッ素樹脂系高分子のみで構成されていてもよい。
【0154】
なお、「フッ素樹脂系高分子を主成分として含有する多孔質中空糸膜」とは、「フッ素樹脂系高分子をベースとする多孔質中空糸膜」とも言い換えられる。本明細書では、他の要素についても「XがYを主成分として含有する」という説明が記載されているが、これらについても同様に、Xについて「Yをベースとする」と言い換えることができる。
【0155】
(b)分子鎖の配向
(b−1)ラマン配向
本発明の分子鎖の配向は、ラマン分光法による配向解析により求めることができる。まず、多孔質中空糸膜の長手方向に沿う断面において、ミクロトームによる切削を行うことで、多孔質中空糸膜を切片化する。こうして得られた切片を光学顕微鏡で観察することで、柱状組織を確認しながら、柱状組織の長手方向に沿って、1μm間隔でレーザーラマン測定を行う。一つの柱状組織における測定点の数は、後述する柱状組織の長手長さ(μm)を1μmで除した値(小数点以下切り捨て)とする。たとえば、柱状組織の長手長さが20.5μmの時には、測定点数は20点となる。
【0156】
ラマン散乱は分子鎖の振動方向と入射光の偏光方向が一致する場合に強く得られることから、分子鎖に対して平行な振動方向を示す振動モードと、分子鎖に対して垂直な振動方向を示す振動モードを適宜選定し、その散乱強度比をとることで配向度を算出できる。
【0157】
例えば、フッ素樹脂系高分子がポリフッ化ビニリデンホモポリマーである場合、1270cm
−1付近のラマンバンドは、CF
2(フルオロカーボン)伸縮振動とCC(炭素−炭素)伸縮振動とのカップリングモードに帰属する。これらの振動モードにおける振動方向は、分子鎖に対して平行である。一方で、840cm
−1付近のラマンバンドの振動方向は分子鎖に対して垂直である。
【0158】
このため、配向パラメータを、下記式(2)で算出することができる。配向パラメータは、多孔質中空糸膜の長手方向への配向が高いほど大きな値となり、無配向時には1、短手方向への配向が高いと1よりも小さな値を示す。
ラマン配向パラメータ=(I1270/I840)平行/(I1270/I840)垂直 ・・・(2)
【0159】
式(2)において、
平行条件:多孔質中空糸膜の長手方向と偏光方向が平行
垂直条件:多孔質中空糸膜の長手方向と偏光方向が直交
I1270平行:平行条件時の1270cm
−1のラマンバンドの強度
I1270垂直:垂直条件時の1270cm
−1のラマンバンドの強度
I840平行:平行条件時の840cm
−1のラマンバンドの強度
I840垂直:垂直条件時の840cm
−1のラマンバンドの強度
である。
【0160】
多孔質中空糸膜1本について、後述する柱状組織の長手長さの代表値の0.5倍から1.5倍の範囲で、10個の相異なる柱状組織を選定し、それぞれについてレーザーラマン測定を行い、各測定点の配向パラメータを式(2)により算出し、それらの平均値をラマン配向パラメータνとする。
【0161】
また、1つの柱状組織の測定点の中で、最も大きな配向パラメータと最も小さな配向パラメータを選ぶ操作を、10個の相異なる柱状組織について行い、選ばれた10個の最も大きな配向パラメータと10個の最も小さな配向パラメータについて、それぞれ平均値を求め、最大ラマン配向パラメータM、最小ラマン配向パラメータmとする。ラマン配向パラメータν、最大ラマン配向パラメータM、最小ラマン配向パラメータm、後述の比M/mを精度良く得るために、20個の相異なる柱状組織について測定を行うことが好ましい。
【0162】
本発明の多孔質中空糸膜の分子鎖の多孔質中空糸膜の長手方向へのラマン配向パラメータνは、1.5以上が好ましく、より好ましくは2.0以上であり、さらに好ましくは2.5以上である。配向度πが1.5以上であることで、多孔質中空糸膜の強度が大きくなる。
【0163】
最大ラマン配向パラメータM、最小ラマン配向パラメータmは、それぞれ柱状組織における主たる配向箇所の配向度と、延伸時の力点となる部分の配向度を表すと考えられる。
【0164】
このため、得られる多孔質中空糸膜の強度、伸度、透水性等の性能のバランスを考慮して、Mやmを適切な範囲とすればよい。多孔質中空糸膜に高い靱性を持たせるため、Mおよびmは好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下、特に好ましくは3.0以下である。
【0165】
ラマン配向パラメータν、M、mが大きいほど分子鎖の配向が進んでいるので、多孔質中空糸膜の強度は大きくなる傾向にある。その一方で、最大ラマン配向パラメータM、最小ラマン配向パラメータmの比であるM/mが大きくなりすぎる、つまり配向が進んでいる部分と進んでいない部分の配向度の差異が大きくなりすぎると、配向が進んでいない部分に応力が集中し多孔質中空糸膜が挫屈し易くなり靱性が失われる。このため、本発明では、M/mは、1.5以上4.0以下が好ましく、2.0以上3.5以下がより好ましく、2.5以上3.0以下がさらに好ましい。
【0166】
(b−2)X線回折測定における配向度
本発明の多孔質中空糸膜において、フッ素樹脂系高分子の分子鎖は、多孔質中空糸膜の長手方向に配向しているが、X線回折測定における分子鎖の配向度πが0.4未満であるか、あるいは分子鎖が無配向である。配向度πは、下記式(1)に基づき、広角X線回折測定によって得られた半値幅H(°)から算出される。
配向度π=(180°−H)/180° ・・・(1)
(ただし、Hは広角X線回折像の円周方向における回折強度分布の半値幅(°)である。)
【0167】
分子鎖の多孔質中空糸膜の長手方向への配向度πの測定方法について、以下に具体的に説明する。
配向度πを算出するためには、多孔質中空糸膜の長手方向が鉛直となるように繊維試料台に取り付ける。なお、多孔質中空糸膜の短手方向とは、中空糸の径方向と平行な方向であり、長手方向とは、短手方向に垂直な方向である。また、短手方向は、中空面と平行な方向、すなわち中空面の面内方向と言い換えることができ、長手方向とは、中空面に垂直な方向と言い換えることができる。
【0168】
X線回折を行うと、デバイ環(Debye−Scherrer ring)と呼ばれる円環状の回折像が得られる。無配向試料ではデバイ環に沿って回折強度に大きな変化は見られないが、配向試料では、デバイ環上での強度分布に偏りが生じる。よって、この強度分布から、上記式(1)に基づいて配向度を算出することができる。
【0169】
より詳細には、分子鎖が無配向である場合には、短手方向に2θ/θスキャンすると(つまりデバイ環の径方向における回折強度分布を示す回折パターンを得ると)、回折角2θ=20°付近の位置にピークが見られる。このとき得られる回折パターンの横軸はX線の回折角2θであり、縦軸は回折強度である。さらに、回折角2θをこのピーク位置つまり20°付近に固定して、試料を方位角β方向にスキャンすることで、横軸が方位角βを示し、縦軸が回折強度を示す回折パターン(つまり、回折角2θ=20°の位置におけるデバイ環の円周方向に沿った回折強度分布)が得られる。無配向試料では、デバイ環の円周方向360°全体にわたって、回折強度はほぼ一定となる。
【0170】
一方で、分子鎖が多孔質中空糸膜の長手方向に配向している場合には、2θ=20°付近のデバイ環上で中空糸膜の短手方向に相当する方位角上(つまり赤道上)に、強い回折強度が見られ、他の部分では小さい回折強度が得られる。つまり、配向試料では、デバイ環の径方向における回折強度分布では、無配向試料と同様に2θ=20°付近で回折ピークが見られ、円周方向における分布では、無配向試料と違って、中空糸膜の短手方向に相当する方位角上に回折ピークが観察される。
【0171】
デバイ環の径方向における回折ピークの位置(つまり回折ピークに対応する2θの値)を、以上の説明では「20°付近」とした。しかし、この2θの値は、高分子の構造、配合によって異なり、15〜25°の範囲となる場合もある。例えば、α晶またはβ晶を有するポリフッ化ビニリデンホモポリマーについてX線回折を行うと、2θ=20.4°付近に、α晶またはβ晶の(110)面、すなわち分子鎖と平行な面に由来する回折ピークが見られる。
【0172】
上述したように、回折角2θの値を固定して、さらに方位角方向(円周方向)に0°から360°までの強度を測定することにより、方位角方向の強度分布が得られる。この強度分布は、回折像における結晶ピークをその円周方向にスキャンして得られる強度分布であるとも言える。ここで、方位角180°(長手方向)の強度と方位角90°(短手方向)の強度の比が0.80以下となる場合または1.25以上となる場合に、ピークが存在するとみなし、この方位角方向の強度分布において、ピーク高さの半分の位置における幅(半値幅H)を求める。
【0173】
結晶ピークを円周方向にスキャンして得られる強度分布で、方位角180°の強度と方位角90°の強度の比が0.80を超えて1.25未満の範囲となる場合には、ピークが存在しないとみなす。つまり、この場合は、フッ素樹脂系高分子は無配向であると判断する。
【0174】
この半値幅Hを上記式(1)に代入することによって配向度πを算出する。
本発明の多孔質中空糸膜において、フッ素樹脂系高分子の分子鎖の、多孔質中空糸膜の長手方向への配向度πは、0.4未満である。なお、フッ素樹脂系高分子の分子鎖は、多孔質中空糸膜の長手方向に対して無配向であってもよい。
【0175】
中空糸膜がポリフッ化ビニリデンのα晶またはβ晶を含有する場合、半値幅Hは、広角X線回折測定によるポリフッ化ビニリデンのα晶またはβ晶の(110)面由来の結晶ピーク(2θ=20.4°)を円周方向にスキャンして得られる強度分布から得られるものであることが好ましい。
【0176】
広角X線回折測定により求められる配向度πは、多孔質膜中空糸膜全体の分子鎖の配向を表し、ラマン分光法により求められるラマン配向パラメータνは、多孔質膜中空糸膜の柱状組織に焦点をあてた場合の分子鎖の配向、すなわち局所的な分子鎖の配向を表す傾向にある。本発明の多孔質中空糸膜は、広角X線回折での多孔質膜中空糸膜全体の結晶配向は見られないが、ラマン分光法での局所的な分子鎖は配向している状態にあることで、高い強度と高い靱性を両立できる。
【0177】
広角X線回折による配向度πが0.4未満であるか、あるいは分子鎖が無配向の場合、ラマン分光法によるラマン配向パラメータνが1.5以上であることが好ましく、さらには、ラマン配向パラメータνが2.0以上であることが好ましい。
【0178】
(c)柱状組織
(i)寸法
図11に示すように、多孔質中空糸膜aは、多孔質中空糸膜aの長手方向に配向する柱状組織bを有する。「柱状組織」とは、一方向に長い形状の固形物である。柱状組織のアスペクト比(長手長さ/短手長さ)が3以上であることが好ましい。
ここで、「長手長さ」とは柱状組織の長手方向の長さを指す。また、「短手長さ」とは柱状組織の短手方向の平均長さである。
【0179】
長手長さおよび短手長さは、以下のように測定できる。中空糸膜の長手方向に沿って中空糸膜を切断する。得られた断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察する。倍率は、柱状組織の長さによって変更可能であり、視野内に5個、好ましくは10個の柱状組織の全体が、その長手方向に渡って含まれる程度とする。1つの柱状組織において、長手方向の長さにばらつきが認められる場合は、長手長さとして、長手方向の最大長さを測定すればよい。
【0180】
また、短手長さは、1つの柱状組織における所定数の任意の測定点において各短手方向の長さを計測し、それらの平均値を算出することで求められる。測定点数は、長手長さ(μm)を1μmで除した値(小数点以下切り捨て)である。たとえば、柱状組織の長手長さが20.5μmの時には、測定点数は20点となる。ただし、この値が21以上になった場合は、任意の20箇所を測定すればよい。
【0181】
柱状組織の長手長さは特に限定されないが、7μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは15μm以上である。また、柱状組織の長手長さは、例えば50μm以下であることが好ましく、より好ましくは40μm以下である。
【0182】
本発明において、柱状組織の短手長さが0.5μm以上3μm以下であることが好ましい。短手長さが前記範囲であると、高い強度性能と高い純水透過性能が得られるため好ましい。
【0183】
柱状組織の短手長さが0.5μm以上であることで、柱状組織自体の物理的強度が大きくなるので、高い強度が得られる。また、柱状組織の短手長さが3μm以下であることで、柱状組織間の空隙が大きくなるので、良好な純水透過性能が得られる。柱状組織の短手長さは、0.7μm以上2.5μm以下であることがより好ましく、更に好ましくは1μm以上2μm以下である。
【0184】
なお、本発明の多孔質中空糸膜において、柱状組織の長手長さの代表値および短手長さの代表値の好ましい範囲は、それぞれ、上述の個々の柱状組織の長手長さおよび短手長さの好ましい範囲と同一である。また、各代表値がその範囲内にあることの効果については、個々の柱状組織の寸法がその範囲にある場合の効果についての説明が適用される。
【0185】
長手長さの代表値は、以下のように測定する。長手長さの測定と同様にして、中空糸膜における3箇所、好ましくは5箇所の位置で、1箇所につき5個、好ましくは10個の柱状組織について、長手長さを測定する。得られた長手長さの値について平均値を求めることで、柱状組織の長手長さの代表値とすることができる。
【0186】
また、短手長さの代表値は、長手長さの代表値の測定の対象とした柱状組織について、上述のとおり短手長さ(平均値として算出される)を測定し、その平均値を算出することで決定される。
【0187】
また、本発明の多孔質中空糸膜において、長手長さの代表値および短手長さの代表値から算出される柱状組織のアスペクト比の代表値は、3以上であることが好ましく、より好ましくは5以上、更に好ましくは10以上、特に好ましくは20以上である。
【0188】
本発明において、柱状組織の短手長さが0.5μm以上3μm以下であり、且つ、柱状組織のアスペクト比が3以上であることが好ましい。
【0189】
(ii)太さ均一性
後述するように、本発明の中空糸膜は、高分子を含有する製膜原液から中空糸を形成し、その中空糸を延伸することで、製造可能である。便宜上、延伸前の状態を「中空糸」と呼び、延伸後の状態を「中空糸膜」と呼ぶ。
【0190】
延伸後の中空糸膜における柱状組織の太さ均一性(後述の平均値D)は、0.50以上が好ましく、より好ましくは0.60以上であり、更に好ましくは0.70以上であり、特に好ましくは0.80以上である。太さ均一性は、最大で1.0であるが、柱状組織は、1.0未満の太さ均一性を有してもよい。
【0191】
このように中空糸膜において、柱状組織が高い太さ均一性を有すること、つまり柱状組織のくびれ部分が少ないことで、中空糸膜の伸度が高くなる。
延伸後の多孔質中空糸膜が高い伸度を保持していると、急激な荷重が掛かった際にも糸切れしにくいため好ましい。多孔質中空糸膜の破断伸度は、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0192】
太さ均一性について説明する。柱状組織の各短手方向の長さのバラツキが小さいほど、柱状組織は、くびれ部分が少なく、太さの均一性が高くなり、理想的な円柱に近づく。
【0193】
柱状組織の太さ均一性は、多孔質中空糸膜の短手方向に平行な第一の断面と第二の断面を比較することで求められる。以下に具体的に説明する。
【0194】
まず、互いに平行である第一の断面と第二の断面を選定する。第一の面と第二の面との距離は5μmとする。まず、それぞれの断面において、樹脂からなる部分と空隙部分とを区別し、樹脂部分面積と空隙部分面積を測定する。
【0195】
次に、第一の断面を第二の断面に投影した時に、第一の断面における樹脂からなる部分と第二の断面における樹脂からなる部分とが重なる部分の面積、すなわち重なり面積を求める。下記式(3)および(4)に基づいて、1本の中空糸膜について任意の20組の第一の断面と上記第二の断面について、太さ均一性AおよびBをそれぞれ求める。
太さ均一性A=(重なり面積)/(第二の断面の樹脂部分面積) ・・・(3)
太さ均一性B=(重なり面積)/(第一の断面の樹脂部分面積) ・・・(4)
【0196】
つまり、1本の中空糸膜について、20組の太さ均一性A、Bが得られる。この値が大きいほど、柱状組織の太さが均一であることを意味する。次に、それぞれの組について、太さ均一性AとBとの平均値Cを算出する。すなわち1本の中空糸膜について、20個の平均値Cが得られる。この平均値Cについて、さらに平均値Dを算出する。この平均値Dが、この中空糸膜の太さ均一性である。
【0197】
また、1本の中空糸膜について算出された20個の平均値Cのうち、80%以上が0.60以上である場合に、この中空糸膜は柱状組織を有するといえる。
【0198】
なお、太さ均一性の測定に当たっては、樹脂部分と空隙部分とを明瞭に区別するために、あらかじめ、多孔質中空糸膜をエポキシ樹脂等で樹脂包埋し、エポキシ樹脂等をオスミウム等で染色処理することが好ましい。このような樹脂包埋・染色処理によって、空隙部分がエポキシ樹脂等で埋められ、後述する集束イオンビームによる断面加工の際に、フッ素樹脂系高分子からなる部分と、空隙部分(すなわちエポキシ樹脂部分)とが明瞭に区別できるようになるため、観察精度が高くなる。
【0199】
また、上述した多孔質中空糸膜の短手方向に平行な第一の断面と第二の断面を得るために、集束イオンビーム(FIB)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM)を用いることが好ましい。多孔質中空糸膜の短手方向に平行な面を、FIBを用いて切り出し、FIBによる切削加工とSEM観察を、多孔質中空糸膜の長手方向に向かって50nm間隔で繰り返し200回実施する。このような連続断面観察によって、10μmの深さの情報を得ることができる。
【0200】
この中で、5μmの間隔を持つ互いに平行な面となる任意の第一の断面と第二の断面を選択し、上述した式(3)および(4)を用いて太さ均一性を求めることができる。なお、観察倍率は、柱状組織および球状組織が明瞭に確認できる倍率であればよく、例えば1000〜5000倍を用いればよい。
【0201】
(iii)組成
柱状組織は、フッ素樹脂系高分子を含有する。柱状組織は、フッ素樹脂系高分子を主成分として含有することが好ましい。フッ素樹脂系高分子を主成分として含有するとは、柱状組織においてフッ素樹脂系高分子が占める割合が50重量%以上であることをいう。柱状組織においてフッ素樹脂系高分子が占める割合は、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、95重量%以上であることが特に好ましい。また、柱状組織は、フッ素樹脂系高分子のみで構成されていてもよい。
【0202】
言い換えると、多孔質中空糸膜はフッ素樹脂系高分子を含有する固形分を有しており、その固形分の少なくとも一部が柱状組織を構成している。フッ素樹脂系高分子を含有する固形分は、その全てが柱状組織を構成していてもよいし、その一部が柱状組織に該当しない形状を有していてもよい。多孔質中空糸膜において、フッ素樹脂系高分子を含有する固形分のうち、柱状組織を構成する固形分が占める割合は、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上であることが更に好ましい。
【0203】
(iv)中空糸膜における柱状組織
多孔質中空糸膜において、主たる構造が柱状組織であることが好ましい。主たる構造が柱状組織であるとは、多孔質中空糸膜において、柱状組織が占める割合が50重量%以上であることをいう。多孔質中空糸膜において、柱状組織が占める割合は、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、95重量%以上であることが特に好ましい。また、多孔質中空糸膜は、柱状組織のみで構成されていてもよい。
【0204】
より具体的には、多孔質中空糸膜は、その主たる構造として、フッ素樹脂系高分子を主成分として含有する柱状組織を有することが好ましい。
多孔質中空糸膜は、柱状組織の集合体である、とも表現できる。
ここで、「長手方向に配向する」とは、柱状組織の長手方向と多孔質中空糸膜の長手方向とが成す角度のうち鋭角の角度が20度以内であることを意味する。
【0205】
(d)空隙率
本発明の多孔質中空糸膜は、高い純水透過性能と高い強度を両立するために、空隙率は40%以上80%以下が好ましく、45%以上75%以下がより好ましく、50%以上70%以下がさらに好ましい。空隙率が、40%未満だと純水透過性能が低くなり、80%を超えると強度が著しく低下するため、水処理用の多孔質中空糸膜としての適性を欠く。
【0206】
多孔質中空糸膜Bの空隙率は、上述した断面における樹脂部分面積と空隙部分面積を用いて、下記式(5)によって求められる。精度を高めるために、任意の20点以上、好ましくは30点以上の断面について空隙率を求め、それらの平均値を用いることが好ましい。
空隙率(%)={100×(空隙部分面積)}/{(樹脂部分面積)+(空隙部分面積)} ・・・(5)
【0207】
(e)ヤング率
本発明の多孔質中空糸膜Bは、実使用に適した高い靱性を有することが好ましく、靱性は引張試験のヤング率で示すことができる。多孔質中空糸膜のヤング率は、多孔質中空糸膜の用途に合わせて選択できるが、好ましくは0.20GPa以上0.40GPa未満である。より好ましくは0.22GPa以上0.38GPa未満であることで、洗浄工程などにおいて中空糸膜が揺れ、濁質が膜面から剥がれ易い。
【0208】
さらに好ましくは0.24GPa以上0.36GPa未満であることで、洗浄工程などにおいてさらに中空糸膜が揺れ、濁質が膜面から効果的に剥がれ易い。ヤング率が0.15GPaより小さくなると、実使用時の応力負荷によって中空糸膜が変形しやすくなる。また、ヤング率が0.40GPa以上になると、例えば水処理用途で頻繁に実施されるスクラビング洗浄などの糸揺れ時に、中空糸膜の糸折れが発生しやすくなる。
【0209】
(f)その他
本発明の多孔質中空糸膜は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、上述した柱状組織以外の組織を含有していてもよい。柱状組織以外の構造としては、例えば、アスペクト比(長手長さ/短手長さ)が3未満の球状組織が挙げられる。球状組織の短手長さおよび長手長さは、0.5μm以上3μm以下の範囲であることが好ましい。球状組織を用いる場合に、その短手長さおよび長手長さが前記範囲であれば、多孔質中空糸膜の強度の低下が抑制され、かつ良好な純水透過性能を維持することができる。
【0210】
ただし、このようなアスペクト比が3未満の球状組織が多孔質中空糸膜に占める割合が大きくなると、球状組織同士の連結が増加し、くびれ部分が増加していくため、高倍率延伸が困難になり、また、延伸後の伸度保持が困難になる傾向を示す。このため、球状組織が多孔質中空糸膜に占める割合は、小さければ小さいほど好ましく、20%未満が好ましく、10%未満がより好ましく、1%未満(ほとんど球状組織が無いこと)がさらに好ましく、球状組織が全く存在しないことが最も好ましい。
【0211】
ここで各組織の占有率(%)は、多孔質中空糸膜の長手方向の断面について、SEM等を用いて柱状組織および球状組織が明瞭に確認できる倍率、好ましくは1000〜5000倍で写真を撮影し、下記式(5)で求められる。精度を高めるために、任意の20カ所以上、好ましくは30カ所以上の断面について占有率を求め、それらの平均値を算出することが好ましい。
占有率(%)={(各組織の占める面積)/(写真全体の面積)}×100 ・・・(5)
【0212】
ここで、写真全体の面積および組織の占める面積は、写真撮影された各組織の対応する重量に置き換えて求める方法などが好ましく採用できる。すなわち、撮影された写真を紙に印刷し、写真全体に対応する紙の重量およびそこから切り取った組織部分に対応する紙の重量を測定すればよい。また、SEM等による写真撮影に先立ち、上述したような樹脂包埋・染色処理、FIBによる切削加工を施すと、観察精度が高くなるため好ましい。
【0213】
また、本発明の多孔質中空糸膜は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、上述した柱状組織を有する層と、他の構造を有する層とが積層されたものであってもよい。ただし、柱状組織を有する層に比べて、他の構造を有する層の厚みが厚くなると、本発明の目的・効果を発揮しにくくなるため、柱状組織を有する層の厚みに対する他の構造を有する層の厚みの比は、0.3以下が好ましく、0.2以下がより好ましい。
【0214】
本発明の多孔質中空糸膜は、50kPa、25℃における純水透過性能が0.7m
3/m
2/hr以上であり、破断強度が23MPa以上であることが好ましい。より好ましくは50kPa、25℃における純水透過性能が0.7m
3/m
2/hr以上であり、破断強度が25MPa以上である。
【0215】
特に、高い純水透過性能と高い強度性能を両立させた高性能の中空糸膜とするという観点から、50kPa、25℃における純水透過性能が0.7m
3/m
2/hr以上5.0m
3/m
2/hr以下であり、破断強度が23MPa以上70MPa以下の範囲が好ましく、より好ましくは50kPa、25℃における純水透過性能が0.7m
3/m
2/hr以上5.0m
3/m
2/hr以下であり、破断強度が30MPa以上60MPa以下の範囲である。
【0216】
純水透過性能の測定は、多孔質中空糸膜4本からなる長さ200mmのミニチュアモジュールを作製して行う。温度25℃、ろ過差圧16kPaの条件下に、逆浸透膜ろ過水の外圧全ろ過を10分間行い、透過量(m
3)を求める。その透過量(m
3)を単位時間(h)および有効膜面積(m
2)あたりの値に換算し、さらに(50/16)倍することにより、圧力50kPaにおける値に換算することで純水透過性能を求める。
【0217】
破断強度と破断伸度の測定方法は、特に限定されるものではないが、例えば、引っ張り試験機を用い、測定長さ50mmの試料を引っ張り速度50mm/分で引っ張り試験を、試料を変えて5回以上行い、破断強度の平均値と破断伸度の平均値を求めることで測定することができる。
【0218】
以上に説明した多孔質中空糸膜は、飲料水製造、工業用水製造、浄水処理、排水処理、海水淡水化、工業用水製造などの各種水処理に十分な純水透過性能、強度、伸度を有する。
【0219】
(2−2B)多孔質中空糸膜Bの製造方法
本発明の多孔質中空糸膜Bを製造する方法について、以下に例示する。多孔質中空糸膜の製造方法は、少なくとも、
1)フッ素樹脂系高分子を含有する製膜原液から、熱誘起相分離により、長さ方向に配向し、かつ0.50以上1.00未満の太さ均一性を有する柱状組織を有する中空糸を形成する工程、および
2)上記1)で得られた多孔質中空糸を長手方向に1.8倍以上2.7倍以下に、延伸速度1%/秒以上150%/秒以下で延伸する工程
を備える。
【0220】
(a)製膜原液の調製
本発明における多孔質中空糸膜Bの製造方法は、フッ素樹脂系高分子溶液を調製する工程をさらに備える。フッ素樹脂系高分子を、フッ素樹脂系高分子の貧溶媒または良溶媒に、結晶化温度以上の比較的高温で溶解することで、フッ素樹脂系高分子溶液(つまり、フッ素樹脂系高分子を含有する製膜原液)を調製する。
【0221】
製膜原液中の高分子濃度が高いと、高い強度を有する多孔質中空糸膜が得られる。一方で、高分子濃度が低いと、多孔質中空糸膜の空隙率が大きくなり、純水透過性能が向上する。このため、フッ素樹脂系高分子の濃度は、20重量%以上60重量%以下であることが好ましく、30重量%以上50重量%以下であることがより好ましい。
【0222】
本書において、貧溶媒とは、フッ素樹脂系高分子を60℃以下の低温では、5重量%以上溶解させることができないが、60℃以上かつフッ素樹脂系高分子の融点以下(例えば、高分子がフッ化ビニリデンホモポリマー単独で構成される場合は178℃程度)の高温領域で5重量%以上溶解させることができる溶媒である。良溶媒とは、60℃以下の低温領域でもフッ素樹脂系高分子を5重量%以上溶解させることができる溶媒である。非溶媒とは、フッ素樹脂系高分子の融点または溶媒の沸点まで、フッ素樹脂系高分子を溶解も膨潤もさせない溶媒と定義する。
【0223】
ここで、フッ素樹脂系高分子の貧溶媒としては、例えば、シクロヘキサノン、イソホロン、γ−ブチロラクトン、メチルイソアミルケトン、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド等およびそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0224】
良溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル等およびそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0225】
非溶媒としては、例えば、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o−ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコール、塩素化炭化水素、またはその他の塩素化有機液体およびそれらの混合溶媒などが挙げられる。
【0226】
(b)中空糸の形成
中空糸の形成工程においては、温度変化により相分離を誘起する熱誘起相分離法を利用して、フッ素樹脂系高分子を含有する製膜原液から、中空糸を得る。後述する1.8倍以上の高倍率延伸を行うためには、中空糸は、その長さ方向に配向する柱状組織を有し、かつ、柱状組織の太さ均一性は0.50以上1.00未満であることが好ましい。
【0227】
柱状組織の太さ均一性の下限は、0.60以上であることがより好ましく、0.70以上であることが更に好ましく、0.80以上であることが特に好ましい。
【0228】
熱誘起相分離法には、主に2種類の相分離機構が利用される。一つは高温時に均一に溶解した高分子溶液が、降温時に溶液の溶解能力低下が原因で高分子濃厚相と高分子希薄相に分離し、その後構造が結晶化により固定される液−液相分離法である。もう一つは高温時に均一に溶解した高分子溶液が、降温時に高分子の結晶化が起こり高分子固体相と溶媒相に相分離する固−液相分離法である。
【0229】
前者の方法では主に三次元網目構造が、後者の方法では主に球状組織で構成された球状構造が形成される。本発明の中空糸膜の製造では、後者の相分離機構が好ましく利用される。よって、固−液相分離が誘起される高分子濃度および溶媒が選択される。前者の相分離機構では、上述したような中空糸膜の長さ方向に配向した柱状組織を発現させることは困難である。これは構造が固定される前の相分離でポリマー濃厚相は非常に微細な相を形成し、柱状にすることができないためである。
【0230】
具体的な方法としては、上述の製膜原液を多孔質中空糸膜紡糸用の二重管式口金の外側の管から吐出しつつ、中空部形成液体を二重管式口金の内側の管から吐出する。こうして吐出された製膜原液を冷却浴中で冷却固化することで、多孔質中空糸膜を得る。
【0231】
フッ素樹脂系高分子溶液は、口金から吐出される前に、圧力をかけられながら、特定の温度条件下に一定時間置かれる。圧力は0.5MPa以上であることが好ましく、1.0MPa以上であることがより好ましい。
【0232】
前記高分子溶液の温度Tは、Tc+35℃≦T≦Tc+60℃を満たすことが好ましく、Tc+40℃≦T≦Tc+55℃を満たすことがより好ましい。Tcは、フッ素樹脂系高分子溶液の結晶化温度である。この圧力および温度下で前記高分子溶液が保持される時間は、10秒以上であることが好ましく、20秒以上であることがより好ましい。
【0233】
具体的には、高分子溶液を口金に送る送液ラインのいずれかの箇所に、高分子溶液を滞留させる滞留部が設けられており、滞留した高分子溶液を加圧する加圧手段と、滞留した高分子溶液の温度を調整する温度調整手段(例えば加熱手段)が設けられる。
【0234】
加圧手段としては、特に限定されないが、送液ラインに2つ以上のポンプを設置することで、その間のいずれかの箇所で加圧することができる。ここでポンプとしては、例えば、ピストンポンプ、プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプ、ウィングポンプ、ギヤーポンプ、ロータリーポンプ、及びスクリューポンプなどが挙げられ、2種類以上を用いてもよい。
【0235】
この工程により結晶化が起こりやすい条件で圧力が加えられるため、結晶の成長が異方性を有し、等方的な球状構造ではなく、多孔質中空糸膜の長さ方向に配向した組織が発現し、その結果、柱状構造が得られると推測される。
【0236】
ここで、前記フッ素樹脂系高分子溶液の結晶化温度Tcは次のように定義される。示差走査熱量測定(DSC測定)装置を用いて、フッ素樹脂系高分子と溶媒など製膜高分子原液組成と同組成の混合物を密封式DSC容器に密封し、昇温速度10℃/minで溶解温度まで昇温し30分保持して均一に溶解した後に、降温速度10℃/minで降温する過程で観察される結晶化ピークの立ち上がり温度がTcである。
【0237】
次に、口金から吐出されたフッ素樹脂系高分子溶液を冷却する冷却浴について説明する。冷却浴には、濃度が50〜95重量%の貧溶媒あるいは良溶媒と、濃度が5〜50重量%の非溶媒からなる混合液体を用いることが好ましい。さらに貧溶媒としては高分子溶液と同じ貧溶媒を用いることが好ましく採用される。また、中空部形成液体には、冷却浴同様、濃度が50〜95重量%の貧溶媒あるいは良溶媒と、濃度が5〜50重量%の非溶媒からなる混合液体を用いることが好ましい。さらに貧溶媒としては高分子溶液と同じ貧溶媒を用いることが好ましく採用される。
【0238】
ここで、くびれ部分を多数有する繊維状組織ではなく、均一な太さを有する柱状組織とするために、くびれ部分への高分子取り込み成長を促進させることが望ましい。本発明者らは、くびれ部分への高分子取り込み成長は、界面エネルギーの高いくびれ部分の消失につながり、エネルギー的に安定化するため、くびれ部分以外の成長よりも優先的に生じさせうることを見出し、太さ均一性を向上させための方法について鋭意検討を行った。
【0239】
その結果、くびれ部分への高分子取り込み成長を促進させる方法として、熱誘起相分離が下記a)およびb)の冷却工程のうちの少なくとも一方を備えることが好ましいことを見出した。
a)前記製膜原液をTc−30℃<Tb≦Tcを満たす温度Tbの冷却浴に浸す工程
b)Tb1≦Tc−30℃を満たす温度Tb1の冷却浴に浸した後、Tc−30℃<Tb2≦Tcを満たす温度Tb2の冷却浴に浸す工程
(ただし、Tcは前記フッ素樹脂系高分子を含有する製膜原液の結晶化温度である。)
【0240】
本発明において、方法a)として、冷却浴中での冷却固化を前記高分子溶液の結晶化温度付近で行うことで、冷却固化を徐々に進行させることを見出した。この場合、冷却浴の温度Tbを、前記フッ素樹脂系高分子溶液の結晶化温度をTcとした際に、Tc−30℃<Tb≦Tcを満たすようにするものであり、Tc−20℃<Tb≦Tcとすることがより好ましい。
【0241】
冷却浴の通過時間(つまり冷却浴への浸漬時間)は、くびれ部分への高分子取り込み成長を含む熱誘起相分離が完結するのに十分な時間を確保できれば特に限定されず、中空糸膜数、紡糸速度、浴比、冷却能力などを勘案して実験的に決定すればよい。
【0242】
ただし、太さ均一性を達成するためには、上述した冷却浴の温度の範囲において通過時間をできるだけ長くすることが好ましく、例えば、10秒以上、好ましくは20秒以上、さらに好ましくは30秒以上とするのがよい。
【0243】
また、方法b)として二段階以上の冷却を行ってもよい。具体的には、冷却工程は、過冷却度を高めて結晶核生成・成長を促す第1の冷却浴を用いて冷却するステップと、その後、くびれ部分への高分子取り込み成長を促す第2の冷却浴を用いて冷却するステップとを含んでいてもよい。第2の冷却浴による冷却ステップは、くびれ部分への高分子取り込み成長が、主に相分離の構造粗大化過程で優先的に生じるという現象を利用している。
【0244】
この場合、口金から吐出されたフッ素樹脂高分子溶液を冷却する第1の冷却浴の温度Tb1が、Tb1≦Tc−30℃を満たすことで、過冷却度を高めて結晶核の生成および成長を促すことができ、第2の冷却浴の温度Tb2を結晶化温度付近の温度とすることで(具体的には、Tc−30℃<Tb2≦Tc、より好ましくはTc−20℃<Tb2≦Tcを満たすようにすることで)、くびれ部分への高分子取り込み成長を促すことができる。Tcは高分子溶液の結晶化温度である。
【0245】
それぞれの冷却浴の通過時間は変更可能であるが、例えば、第1の冷却浴の通過時間を1秒以上20秒以下、好ましくは3秒以上15秒以下、さらに好ましくは5秒以上10秒以下とし、第2の冷却浴の通過時間を10秒以上、好ましくは20秒以上、さらに好ましくは30秒以上とするのがよい。
【0246】
0.50未満の太さ均一性を有する組織を、柱状組織と区別するために、「繊維状組織」と称すると、日本国特開2006−297383号公報に開示されているのは繊維状組織を有する中空糸膜である。このような繊維状組織を有する多孔質中空糸膜は、強度および純水透過性能に比較的優れているため、本発明者らは、これを延伸することで高強度化を図った。しかしながら、均一に延伸することができず、高強度化できないことが分かった。
【0247】
一般に、水処理用に用いられる多孔質膜は、水を透過させるための空隙部を多数有し、延伸時には、空隙部を起点として組織の破壊が進行するため、延伸そのものが大変難しい。特に、多孔質中空糸膜が、非溶媒誘起相分離や熱誘起相分離の原理を利用する乾湿式紡糸によって得られる相分離多孔構造を有する場合には、微細な空隙が多数存在し、空隙率が高いため、この傾向が顕著である。
【0248】
日本国特開2006−297383号公報における繊維状組織を有する多孔質膜の場合には、長手方向に配向した繊維状組織によって、延伸時の応力が分散され、延伸が可能になったと考えられる。しかしながら、破断強度の大幅な向上は見られず、その原因について鋭意検討した結果、繊維状組織は、くびれ部分が多く、延伸時に、このくびれ部分に応力が集中するため、くびれ部分が優先的に延伸されてしまい、繊維状組織全体を均一に延伸できないために延伸倍率を上げることができないことを発見した。
【0249】
これに対して、本発明者らは、均一な太さを有する柱状組織を有する中空糸であれば、柱状組織全体を均一に延伸できることを見出し、このような均一かつ高倍率延伸によって、フッ素樹脂系高分子の分子鎖を多孔質中空糸膜の長手方向に延伸配向させることに成功し、高い純水透過性能を維持しつつ高強度化することに成功した。
【0250】
(c)延伸
最後に、本発明では、以上の方法で得られる柱状組織を有するフッ素樹脂系高分子からなる多孔質中空糸膜を低速度で高倍率延伸することで、該高分子の分子鎖を該中空糸膜の長手方向に配向させる。その結果、上述の範囲のラマン配向パラメータおよびX線回折における配向度が実現される。
【0251】
延伸倍率は、好ましくは1.8〜2.4倍であり、より好ましくは1.9〜2.3倍である。延伸倍率が1.8倍以上であることで、延伸により分子鎖を充分に配向させることができるので、多孔質中空糸膜を高強度化することができる。
【0252】
また、本発明においては、延伸速度は1%/秒〜150%/秒が好ましく、より好ましくは3%/秒〜100%/秒、さらに好ましくは5%/秒〜50%/秒である。延伸速度が1%/秒以上であることで、延伸処理設備を極端に大型化することなく延伸することが可能となる。また、延伸倍率が150%/秒以下であることで、安定して均質に延伸することができる。
【0253】
柱状組織を有する中空糸を上述のような低い速度で延伸することによって、中空糸全体を均質に延伸することができ、その結果、均質に配向を進めることができる。この均質な延伸には、1つの柱状組織の全体を均質に延伸することと、複数の異なる柱状組織を同程度延伸することが含まれていると考えられる。
【0254】
また、上述したように、柱状組織は、先に形成された固形分のくびれ部分に高分子を取り込むことで形成されている。先に形成された固形分と、その後に形成された部分とでは、成長速度が異なるため、微視的な構造(例えば体積当たりの分子鎖の絡み合い点の数)も異なると考えられる。
【0255】
延伸速度は以下の様に算出される。
延伸速度(%/秒)=(延伸倍率×100−100)÷延伸時間(秒)
【0256】
ここで、延伸倍率は「延伸後の長さ(m)÷延伸前の長さ(m)」により算出される。延伸時間は、実質的に延伸に使用した時間(秒)を用いる。延伸倍率は延伸装置の設定速度から算出してもよいが、好ましくは、延伸する直前の多孔質中空糸膜の長手方向に10cmの着色をしてから延伸を実施し、延伸前後の着色部分の長さを測定するのがよい。その際に延伸に使用した時間も実測することができる。
【0257】
延伸温度は、好ましくは60〜140℃、より好ましくは70〜120℃、さらに好ましくは80〜100℃であり、60℃未満の低温雰囲気で延伸した場合、安定して均質に延伸することが困難である。140℃を超える温度で延伸した場合、フッ素樹脂系高分子の融点に近くなるため、構造組織が融解し純水透過性能が低下する場合がある。
【0258】
延伸は、液体中で行うと、温度制御が容易であり好ましいが、スチームなどの気体中で行ってもよい。液体としては水が簡便で好ましいが、90℃程度以上で延伸する場合には、低分子量のポリエチレングリコールなどを用いることも好ましく採用できる。
【0259】
(3)整流部材
中空糸膜モジュールは、筒状ケース内に、中空糸膜モジュール内の流れを整流化するための整流部材を備えてもよい。整流部材は、例えば、筒状の部材であり、筒状ケースの上端近傍に配置される。
【0260】
中空糸膜は、接着剤などで、筒状ケースまたは整流部品に固定されてもよい。また、上記したように中空糸膜はカートリッジ式であってもよい。つまり、中空糸膜が、筒状ケースまたは整流部品に対して脱着可能であってもよい。
【0261】
(4)筐体
筒状ケース3、上キャップ6および下キャップ7は、筐体に相当する。
【0262】
筒状ケース3は、上下の端部が開口した筒形状のケースであり、筒状ケースの形状は特に限定はないが、円筒形状の胴体を持つものが好ましい。胴体部の形状は円筒でなくともよく、筒状ケースの製作のし易さ、中空糸膜モジュール内のデッドスペースの最小化などを考慮して変更することができる。筒状ケース3は、その側面において、円筒形状における高さ方向での上端の近傍に濃縮液出口10を備える。
【0263】
上キャップ6は、筒状ケース3の上端に液密かつ気密に装着される。上キャップ6は透過液出口9を備える。上キャップ6は、筒状ケース3の上端に対して、着脱可能である。
【0264】
下キャップ7は、筒状ケース3の下端に液密かつ気密に装着される。下キャップ7は原水流入口8を備える。なお、本形態では、原水流入口8は、エア供給口としても機能する。
【0265】
筒状ケース3、上キャップ6および下キャップ7は、例えば、これらの部材の材料としては、ポリスルホン、ポリカーボネート、及びポリフェニレンスルフィドなどの樹脂が単独もしくは混合で用いられる。また、樹脂以外の材料として、例えば、アルミニウム、及びステンレス鋼などが好ましい。好ましい材料としてはさらに、樹脂と金属の複合体や、ガラス繊維強化樹脂、炭素繊維強化樹脂などの複合材料が挙げられる。
【0266】
(5)ポッティング部
第1ポッティング部4のように中空糸膜を開口したまま束ねる部材および、第2ポッティング部5のように中空糸膜を閉塞しかつ束ねる部材をまとめて集束部材(ポッティング部)とよぶ。
【0267】
集束部材としては、接着剤が好ましく用いられる。
接着剤の種類は、接着対象部材との接着強度、耐熱性などを満たせば特に限定されないが、汎用品で安価であり、水質への影響も小さいエポキシ樹脂やポリウレタン樹脂などの合成樹脂を用いることが好ましい。
【0268】
(6)分離膜充填率
筒状ケース内の中空糸膜の充填率を高くすると、膜面積を大きくでき、また、少ないクロスフロー流量で膜面線速度を向上させ膜の洗浄性を向上させることができる。しかしながら中空糸膜の充填率を高くすると中空糸膜同士が密着して、中空糸膜表面や中空糸膜同士の間に存在する濁質が洗浄されにくく、蓄積が解消されないという問題がある。
【0269】
ここで中空糸膜の充填率とは、中空糸膜モジュールの横断面(
図1の左右方向に平行かつ紙面に垂直な面)で中空糸膜部分が占める面積の割合のことである。中空糸膜の存在領域の断面積をS1、中空糸膜部分のみの断面積の合計をS2としたとき、中空糸膜の充填率は下記式(6)で表すことができる。
中空糸膜の充填率[%]=S2/S1×100 ・・・(6)
【0270】
ここで中空糸膜の存在領域とは、中空糸膜モジュールの横断面で最も外側の中空糸膜を囲む領域のことである。ただし中空糸膜の膜束の根元(つまり第1ポッティング部4の下面または第2ポッティング部5の上面)における中空糸膜の存在領域は以下のように定義する。
【0271】
図2に示す中空糸膜モジュールの横断面では第2ポッティング部5に貫通孔11が存在し、貫通孔部分には中空糸膜が存在しないため、貫通孔部分は中空糸膜の存在領域S1から除外する。
【0272】
また
図3に示す中空糸膜モジュールの横断面では、第2ポッティング部5の貫通孔11部分と、第2ポッティング部5と筒状ケース3の間の間隙91には中空糸膜が存在しないため、中空糸膜の存在領域S1から除外する。
【0273】
また
図4に示す中空糸膜モジュールの横断面では第2ポッティング部5の面積の合計を中空糸膜の存在領域S1の面積とする。
【0274】
ここで中空糸膜部分のみの断面積S2は下記式(7)で表すことができる。
S2=[円周率]×[中空糸膜の外径/2]
2×[領域内の中空糸膜の本数] ・・・(7)
【0275】
本発明者らは、筒状ケース内での中空糸膜の充填率が38%以下であると、中空糸膜同士が密着しにくいので、中空糸膜表面や中空糸膜同士の間に蓄積した濁質の洗浄効率を高めることができることを見出した。本発明においては、筒状ケース内での中空糸膜の充填率が25%以上38%以下とする。充填率がこの範囲にあることで、膜モジュールは、単位膜面積当たりの透過液流量が過大にならない膜面積を確保することが出来る。中空糸膜の充填率は、さらに好ましくは、30%以上38%以下の範囲である。
【0276】
また、筒状ケース内全体で、中空糸膜の充填率が上記範囲を満たすことが好ましい。具体的には、第1ポッティング部4の下面での充填率、第2ポッティング部5の上面での充填率、および筒状ケース中央における充填率が、上記範囲内にあることが好ましい。筒状ケース中央部における充填率とは、筒状ケースの長さ(つまり円筒形状の高さ)を2等分する横断面における充填率である。
【0277】
第1ポッティング部4の下面および第2ポッティング部5の上面では膜が束ねられているので、これらの部分での充填率は、筒状ケースの中程での充填率に比べて高くなりやすい。特に第2ポッティング部5に貫通孔11がある場合、および第2ポッティング部5が小束接着部である場合は、第2ポッティング部5の上面での膜の充填率が高くなりやすいので、第2ポッティング部5の上面での膜の充填率が上述の範囲内にあることが好ましい。
【0278】
膜モジュール1本当たりの膜面積が等しい場合、膜モジュールの充填率は、外径の小さな中空糸膜を使用するほど下がる。ただし、この場合、外径の小さな中空糸膜ほど充填する本数は増える。一方、隣り合う中空糸膜同士の間隔は、中空糸膜の外径が小さ過ぎると膜の本数が増えるために、中空糸膜の外径が大き過ぎると充填率が高くなるために、中空糸膜同士の間隔は狭くなる。
【0279】
濁質は、中空糸膜を中心にして堆積していくので、中空糸膜の本数が増えると、モジュール内に蓄積される濁質が空間的に分散され、濁質とフラッシング時の流体の接触効率が上がり、フラッシングの洗浄効率を上げることができる(洗浄工程の詳細は後述する。)。しかしながら、濁質は複数本の中空糸膜の間にも詰まることがあるが、隣り合う中空糸膜同士の間隔が広い方が、濁質の詰まりを抑制できるので望ましい。従って、中空糸膜の本数ができるだけ多くて、かつ中空糸膜同士の間隔を広く取ることが出来る中空糸膜の外径を選択すべきである。
【0280】
本発明による膜モジュールは、膜モジュール内の膜充填率を等しくした場合でも中空糸膜の外径が小さい場合により効果を有する。すなわち、中空糸膜の外径が小さいと膜面積は増加し、単位膜面積当たりの濁質堆積量が減少するので、ろ過工程中の通液抵抗の上昇は抑えることができる。ろ過工程中に膜表面に堆積した濁質は、透過液の通液抵抗に相当する圧縮力を受けて、元の濁質よりも緻密化する。このような緻密化は、通液抵抗が大きいほど、また、単位膜面積当たりの濁質量が多いほど、進行する。
【0281】
従って、上記のような単位膜面積当たりの濁質堆積量の減少は、通液抵抗の抑制だけでなく、濁質の緻密化を抑制するので、洗浄工程においては堆積物の洗浄が容易になる。また、外径が小さいと充填率が等しくても中空糸膜の本数が増える。中空糸膜の本数が増えると、中空糸膜1本に堆積する濁質量が減り、濁質によって膜1本にかかる引っ張り荷重を減らすことができ、膜切れを防止することができる。また、濁質は中空糸膜の周囲に存在すると考えると中空糸膜の本数が増えることで濁質が分散して存在するので、フラッシング時の流体と濁質の接触効率があがり、フラッシングの洗浄効果を上げることができる。
【0282】
2.中空糸膜モジュールの運転方法
(1)原水
分離対象となる原水には、懸濁物質や溶解物質が含まれる。懸濁物質や溶解物質としては、有機物が挙げられる。主な有機物としては、例えば、多糖、及びオリゴ糖などの糖やタンパク質、及びアミノ酸である。原水中の懸濁物質の濃度は、好ましくは10mg/L以上であり、より好ましくは100〜10000mg/Lである。
【0283】
また原水は、糖および/またはタンパク質とともに金属を含んでいてもよい。金属としては、例えばカルシウム、鉄、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、マンガン、及び銅が例示される。
【0284】
原水は、これらの物質が集合あるいは凝集、フロック体を形成して粒径を大きくして存在している場合もある。また、本発明の中空糸膜モジュールに供給する前に凝集剤で凝集処理を施していてもよい。凝集剤としては、例えばポリ塩化アルミニウムやポリ硫酸アルミニウム、塩化第2鉄、ポリ硫酸第2鉄、硫酸第2鉄、ポリシリカ鉄、及び有機系高分子凝集剤等を使用することができる。
【0285】
(2)膜分離工程
まず、膜分離工程では、懸濁物質を含む原水を、前記中空糸膜モジュールに供給して懸濁物質と液体とを分離する。
【0286】
中空糸膜モジュールで行われる膜分離のろ過方式は、全量ろ過であってもよいし、クロスフローろ過が行われてもよい。ただし、高濃度に懸濁物質を含有する原水では膜に付着する汚れの量が多いので、この汚れを効果的に除去するためには、クロスフローろ過を行うことが好ましい。クロスフローろ過によって、循環する原水のせん断力で膜に付着する汚れを除去することができるからである。
【0287】
また、1工程の時間は5分〜120分間継続して実行されることが好ましい。より好ましくは、9〜30分間継続することがよい。これによって、モジュール内に濁質の蓄積量が多くなり過ぎる前に洗浄できる。また、ろ過時間が短すぎると、モジュールの運転効率が落ちてコストが高くなってしまう。
【0288】
膜分離は、分離膜を隔てて原水側圧力と透過側圧力との差(膜間差圧)を駆動力として原水側から透過液側に液体が通液されることによって実施される。膜間差圧は、一般に原水流入口へポンプで加圧しながら原水を供給したり、透過液側をポンプやサイホンを利用して吸引したりすることにより得ることが出来る。本発明の膜モジュールではろ過を継続することが出来る膜間差圧は、好ましくは10〜100kPa、より好ましくは15〜50kPaで、この範囲を超える前に膜分離工程を終了し、洗浄工程に移行するとよい。
【0289】
なお、膜間差圧は、差圧計や原水側と透過液側に取り付けた圧力計の差から測定することができる。膜分離速度の制御方法としては一定の透過液流量を回収(定流量ろ過)しても、送液圧や吸引圧を一定にして透過液流量は成り行きの流量で回収(定圧ろ過)しても差し支えはないが、透過液や濃縮液の生産速度の制御のし易さから定流量ろ過であることが好ましい。
【0290】
(3)洗浄工程
洗浄工程では、前記膜分離工程を停止して、中空糸膜の膜表面や膜束間に蓄積した懸濁物質を洗浄する。
【0291】
本発明の洗浄工程は、以下の2つのステップを組み合わせて行う。
(A)中空糸膜の透過側から中空糸膜の原水側へ通水し、膜表面や膜細孔の詰まり物を押し出す逆圧洗浄ステップ
(B)中空糸膜の原水側に膜面線速度0.3m/s以上5.0m/s以下の流量で前記原水または少なくとも前記原水以下の懸濁物質濃度を有する水を流してフラッシングする洗浄ステップ
以下、それぞれの洗浄ステップについて詳細に説明する。
【0292】
洗浄ステップ(A)は、中空糸膜を隔てて透過液側から原水側に向かって通液することによって、膜表面や膜細孔の詰まり物を押し出す洗浄方法(逆洗)である。本発明の第1実施形態のモジュールによれば、
図1に示したように、原水側の濃縮液出口10および原水流入口8に通じる流路を開けた状態で透過液出口9から洗浄水を送液することによって行われる。
【0293】
洗浄ステップ(A)における洗浄水は、透過液もしくは水を使用することができる。また、ランニングコストが高くなるので頻度高く使用することはできないが、薬液を送液しても構わない。使用できる薬液については後述する。
【0294】
また、薬液によって洗浄する場合、実施前に水による洗浄ステップ(A)と洗浄ステップ(B)を行うと、薬液と高濃度の濁質が接触して濁質に含まれるタンパク質が膜細孔内で変性して膜の目詰まりを起こしたり、過剰に薬液を消費したりすることを防ぐことができる。薬液を使用して洗浄ステップ(A)を行った後は、水による洗浄ステップ(A)を実施してリンスを行った後に、次のろ過工程を実施すると良い。
【0295】
洗浄ステップ(B)は、膜モジュールの下部から原水側へ洗浄水を供給してフラッシングする洗浄方法である。本発明の第1実施形態のモジュールによれば、濃縮液出口10に通じた流路を開いた状態で、原水流入口8から洗浄水を送液することによって実施する。洗浄ステップ(B)における洗浄水は、原水もしくは原水よりも濁質濃度の低い水を使用することができる。また、低頻度で薬液を使用することもできる。
【0296】
洗浄工程は、1つのろ過工程を含む運転周期(運転サイクル)において、上記2つの洗浄ステップを少なくとも1つ含み、同じものを繰り返したり、1つの洗浄ステップを省いたりしてもよく、また両洗浄ステップを同時に行ってもよい。
【0297】
図5に、本発明における中空糸膜モジュールの運転方法の一例を示す。
図5に示すように、洗浄工程には、洗浄ステップ(A)と洗浄ステップ(B)以外の操作が入ってもよく、例えば、モジュール内の懸濁質を含有した原水を原水流入口から排水する排濁操作や、モジュールの原水流入口から空気を供給して気泡で膜を揺らして膜に堆積した濁質を洗浄する空気洗浄(空洗)が適用されてもよい。
【0298】
空気洗浄における空気供給流量は、中空糸膜モジュールの横断面における面積やモジュール長さや、中空糸膜外径によっても異なるが、中空糸膜モジュールの横断面における面積あたり70〜400m
3/m
2/hrとするのが好ましい。
【0299】
また、
図5のように、洗浄ステップ(B)の膜面線速度は各運転周期によって異なってもよく、運転周期ごとに設定可変である。モジュールの運転は、通常、数回の運転周期を1単位としてこれを繰り返すように、運転装置に内蔵されたPLC(プログラムコントローラー)にあらかじめ記憶させて自動的に実行するのが一般的であり、運転装置稼動前に設定させて開始するのが一般的である。この1単位となる数回の運転周期をまとめたものを1つの運転周期群として、1つの群に含まれる洗浄ステップ(B)の総数に対して1〜50%の洗浄ステップ(B)の膜面線速度が1.0m/s以上であることが好ましい。
【0300】
図5では、1つの運転周期群において、洗浄ステップ(B)の総数が3つであり、そのうち1.0m/s以上である洗浄ステップ(B)は1つであるので、総数に対して約33%である。これは、50%より多い頻度で高い膜面線速度で洗浄ステップ(B)を実施すると、必要な洗浄水や洗浄水を送液するためのポンプ動力が必要以上に大きくなり、1%よりも低い頻度で高い膜面線速度で実施すると、堆積物の蓄積が解消されずに進行するからである。
【0301】
また、洗浄ステップは
図6に示すように、1つの洗浄工程に洗浄ステップが両方含まれていなくてもよいし、洗浄ステップ(A)と洗浄ステップ(B)の運転の順番はどちらが先であってもよい。洗浄ステップ(A)を先に行うと、膜面に蓄積した堆積物の膜に付着する力が弱まり、洗浄ステップ(B)での洗浄効率を高めることができる。一方、洗浄ステップ(B)を先に行うと、膜面の大きな濁質を取り除くことができ、逆洗時の洗浄水の通液抵抗を減らすことができる。
【0302】
クロスフローろ過を行う場合、
図7の第1運転周期、第2運転周期のように、膜分離工程の後に洗浄ステップ(B)を適用して、ろ過停止して原水側の原水循環のみを継続するような間欠ろ過を行うことが好ましい。これにより、膜面への濁質の堆積を抑制して長時間安定運転を行うことができる。
【0303】
また、
図7の第3運転周期のように、洗浄ステップ(A)および洗浄ステップ(B)を同時に行った後、モジュール内を一旦排水し、RO水を用いて高流速で洗浄することにより、濁質の蓄積をより解消することができる。
【0304】
また、
図8の第1周期、第2周期のように、膜分離工程の後に洗浄ステップ(A)ならびに洗浄ステップ(B)を適用して、ろ過を一時停止して逆洗を行いつつ、原水側の原水循環を継続するような間欠逆洗ろ過を行うと、より濁質の蓄積を解消できる。しかし、洗浄ステップ(A)の洗浄水(逆洗洗浄水)が原水側に流入するので、逆洗洗浄水がRO水を用いれば原水及び透過液の濃度が低下し、原水の濃縮速度が遅くなる。逆洗洗浄水に透過液を用いれば透過液の回収速度が遅くなるので、生産速度との兼ね合いで決定される。
【0305】
(4)薬液
本発明による中空糸膜モジュールは、薬液で洗浄することができる。薬液としては、例えば、次亜塩素酸ソーダや過酸化水素などの酸化剤、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、及び乳酸などの酸類、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムなどのアルカリ類、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤、各種界面活性剤およびこれらの水溶液などが利用できる。
【0306】
薬液の濃度は10mg/Lから200000mg/Lであることが好ましい。10mg/Lより薄いと洗浄効果が十分でなく、200000mg/Lより濃くなると薬剤のコストが高くなり、不経済となるからである。薬剤は1種類であっても2種類以上の混合物であってもよい。
【実施例】
【0307】
以下に、実施例および比較例を上げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0308】
中空糸膜の性能評価方法は以下の通りである。
【0309】
<1.純水透過性能>
多孔質中空糸膜4本からなる有効長さ200mmの小型モジュールを作製した。このモジュールに、温度25℃、ろ過差圧16kPaの条件で、1時間にわたって蒸留水を送液し得られた透過水量(m
3)を測定し、単位時間(h)および単位膜面積(m
2)当たりの数値に換算し、さらに圧力(50kPa)換算して純水透過性能(m
3/m
2/hr)とした。なお、単位膜面積は平均外径と多孔質中空糸膜の有効長から算出した。
【0310】
<2.破断強力、破断強度、破断伸度>
引っ張り試験機(TENSILON(登録商標)/RTM−100、東洋ボールドウィン株式会社製)を用い、測定長さ50mmの試料を引っ張り速度50mm/分で、試料を変えて5回以上試験し、破断強力、破断強度、破断伸度の平均値を求めることで算出した。
【0311】
<3.分子鎖の多孔質中空糸膜の長手方向への配向度π>
多孔質中空糸膜の長手方向が鉛直となるように繊維試料台に取り付け、X線回折装置(Rigaku社製、高分子用SmartLab、CuKα線)を用いて、X線回折測定(2θ/θスキャン、βスキャン)を行った。まず、2θ/θスキャンで、2θ=20.4°にピークトップがあることを確認した。次に、βスキャンにて、2θ=20.4°の回折ピークに対し、方位角方向に0°から360°までの強度を測定することにより、方位角方向の強度分布を得た。ここで、方位角180°の強度と方位角90°の強度の比が0.80以下、または、1.25以上となる場合にピークが存在するとみなし、この方位角方向の強度分布において、ピーク高さの半分の位置における幅(半値幅H)を求め、下記式(1)によって配向度πを算出した。なお、βスキャンにおける強度の極小値が0°と180°付近に見られたため、これらを通る直線をベースラインとした。
配向度π=(180°−H)/180° ・・・(1)
【0312】
<4.ラマン配向パラメータν>
多孔質中空糸膜中のポリフッ化ビニリデンホモポリマーの配向のパラメータを以下の操作により求めた。
多孔質中空糸膜の長手方向の断面を、ミクロトームによる切削により切片化した。多孔質中空糸膜1本あたり10個の柱状組織を選択し、光学顕微鏡で柱状組織を確認しながら、それぞれの柱状組織について、その長手方向に沿って、1μm間隔でレーザーラマン分光法により散乱強度の測定を行った。1つの柱状組織あたりの測定箇所は20箇所とした。
それぞれの配向パラメータを式(2)により算出し、各配向パラメータの平均値をラマン配向パラメータνとした。また、10個の相異なる柱状組織の各20箇所の測定点の中で、最も大きな配向パラメータと最も小さな配向パラメータについてそれぞれ平均値を求め、最大ラマン配向パラメータM、最小ラマン配向パラメータmとし、M/mを算出した。
【0313】
ラマン配向パラメータ=(I1270/I840)平行/(I1270/I840)垂直 ・・・(2)
平行条件:多孔質中空糸膜の長手方向と偏光方向が平行
垂直条件:多孔質中空糸膜の長手方向と偏光方向が直交
I1270平行:平行条件時の1270cm
−1のラマンバンドの強度
I1270垂直:垂直条件時の1270cm
−1のラマンバンドの強度
I840平行:平行条件時の840cm
−1のラマンバンドの強度
I840垂直:垂直条件時の840cm
−1のラマンバンドの強度
【0314】
レーザーラマン分光装置および測定条件は以下の通りである。
装置:Jobin Yvon/愛宕物産 T−64000
条件:測定モード;顕微ラマン
対物レンズ;×100
ビーム径;1μm
光源;Ar+レーザー/514.5nm
レーザーパワー;100mW
回折格子;Single 600gr/mm
スリット;100μm
検出器;CCD/Jobin Yvon 1024×256
【0315】
<5.柱状組織の長手長さ、短手長さ>
多孔質中空糸膜の長手方向の断面を、走査型電子顕微鏡等を用いて3000倍で写真を撮影し、10個の柱状組織の長手長さ、短手長さを平均して求めた。ここで、各柱状組織の短手長さは、当該組織内の任意の20点の短手方向の長さを計測し、それらの平均値を算出することで求めた。
【0316】
<6.太さ均一性>
まず、多孔質中空糸膜をエポキシ樹脂で樹脂包埋し、オスミウム染色処理することで、空隙部分をエポキシ樹脂で埋めた。次に、集束イオンビーム(FIB)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、多孔質中空糸膜の短手方向に平行な面を、FIBを用いて切り出し、FIBによる切削加工とSEM観察を、多孔質中空糸膜の長手方向に向かって50nm間隔で繰り返し200回実施し、10μmの深さの情報を得た。
【0317】
太さ均一性は、上記FIBを用いた連続断面観察で得た多孔質中空糸膜の短手方向に平行な第一の断面と第二の断面を比較することで求めた。ここで、第一の断面と第二の断面は、5μmの間隔を持つ互いに平行な面となるように、20組を選定した。まず、それぞれの断面において、樹脂からなる部分と空隙部分(エポキシ部分)とを区別し、樹脂部分面積と空隙部分面積を求め、次に、両断面に垂直な方向から、第一の断面を第二の断面に投影した時に、第一の断面の樹脂からなる部分と第二の断面の樹脂からなる部分とが重なる部分の面積を求め、重なり面積とした。太さ均一性は、下記式(3)および(4)によって求められる太さ均一性A、Bを平均した値として算出し、20組の平均値を採用した。また、16組以上で太さ均一性0.60以上となった場合に「柱状組織を有する」とし、15組以下の場合には「繊維状組織を有する」とした。
太さ均一性A=(重なり面積)/(第二の断面の樹脂部分面積) ・・・(3)
太さ均一性B=(重なり面積)/(第一の断面の樹脂部分面積) ・・・(4)
【0318】
<7.空隙率>
空隙率は、「6.太さ均一性」で得た20組の第一の断面と第二の断面、すなわち、合計40点の断面から、任意の20点の断面について、樹脂部分面積と空隙部分面積を用いて、下記式(5)によって求め、それらの平均値を用いた。
空隙率(%)={100×(空隙部分面積)}/{(樹脂部分面積)+(空隙部分面積)} ・・・(5)
【0319】
<8.組織の占有率>
多孔質中空糸膜の長手方向の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて3000倍で任意の20カ所の写真を撮影し、下記式(6)でそれぞれ求め、それらの平均値を採用した。ここで写真全体の面積および組織の占める面積は、撮影された写真を紙に印刷し、写真全体に対応する紙の重量およびそこから切り取った組織部分に対応する紙の重量としてそれぞれ置き換えて求めた。
占有率(%)={(各組織の占める面積)/(写真全体の面積)}×100 ・・・(6)
【0320】
<9.フッ素樹脂系高分子溶液の結晶化温度Tc>
セイコー電子工業株式会社製DSC−6200を用いて、フッ素樹脂系高分子と溶媒など製膜高分子原液組成と同組成の混合物を密封式DSC容器に密封し、昇温速度10℃/minで溶解温度まで昇温し、30分保持して均一に溶解した後に、降温速度10℃/minで降温する過程で観察される結晶化ピークの立ち上がり温度を結晶化温度Tcとした。
【0321】
また、中空糸膜モジュールの性能評価方法及び中空糸膜モジュール運転後の原水供給槽内の残留塩素濃度の測定方法は以下の通りである。
【0322】
<10.残留塩素濃度の測定>
残留塩素濃度の測定方法には、DPD法、電流法、吸光光度法、などが用いられる。本実施例では、HACH社製ポケット残留塩素計(HACH2470)を用いて、DPD法によって測定した。洗浄液を試料として10mL分取し、専用試薬を添加して反応させ、528nmの吸光度から濃度を検出した。なお、塩素計の測定レンジを越える場合には、RO水で希釈して測定した。
【0323】
(参考例1)中空糸膜Aの製造方法
フッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製KF1300、重量平均分子量:41.7万、数平均分子量:22.1万)36重量%とγ−ブチロラクトン64重量%を150℃で溶解した。このフッ化ビニリデンホモポリマー溶液のTcは48℃であった。該溶液を2つのギヤーポンプを設置することにより、その間のライン上で2.0MPaに加圧し、99〜101℃で20秒間滞留させた後、二重管式口金の外側の管から吐出し、同時にγ−ブチロラクトン85重量%水溶液を二重管式口金の内側の管から吐出し、γ−ブチロラクトン85重量%水溶液からなる温度25℃の冷却浴中に20秒間滞留させ固化させた。得られた多孔質中空糸膜は、太さ均一性0.62の柱状組織を有し、柱状組織の占有率は86%であり、球状組織占有率は14%であった。
【0324】
ついで、95℃の水中にて、上記で得られた多孔質中空糸膜を2.5倍に延伸した。延伸後の多孔質中空糸膜は、長手長さ16μm、短手長さ2.2μm、太さ均一性0.61、空隙率55%の柱状組織を有し、フッ化ビニリデンホモポリマー分子鎖の多孔質中空糸膜の長手方向への配向度πは0.61、ラマン配向パラメータνは3.12、M/mは3.1であった。延伸後の多孔質中空糸膜の構造と性能を表1に示す。
(参考例2)中空糸膜モジュールの作製
中空糸膜モジュールの作製方法を以下に説明する。
中空糸膜を長さ1800mmにカットし、30質量%グリセリン水溶液に1時間浸漬後、風乾した。この中空糸膜を125℃の水蒸気で1時間加熱処理して風乾させ、長さ1200mmにカットした。こうして得られた所定の本数の中空糸膜を1束に束ねた。シリコーン接着剤(東レ・ダウコーニング社製、SH850A/B、2剤を質量比が50:50となるように混合したもの)で中空糸膜束の片端を封止した。
【0325】
ポリスルホン製の筒状ケース3(内径150mm、外径170mm、長さ1150mm)の内面で、中空糸膜が接着される領域については予めサンドペーパー(#80)でヤスリがけを行い、エタノールで脱脂した。
【0326】
その後、
図9に示すように、前記中空糸膜束2を、筒状ケース3内に充填した。このとき筒状ケース3の膜モジュール上部側となる第1端部(
図9の右側端部)に封止した側の端部が位置するように、中空糸膜束2を配置し、さらにポッティングキャップ14(内径150mm)を装着した。モジュール下部側となる第2端部(
図9の左側端部)には底に36個の穴が空いたポッティングキャップ13(内径150mm)を装着した。その後ポッティングキャップ13の底の穴に36本のピン16を差し込んで固定した。ピン16はそれぞれ、直径10mm、長さ200mmの円柱状であった。ピン16の位置は
図2の貫通孔11と同様であり、傾斜の下方である位置に、つまりポッティング時の上側の位置に貫通孔が形成されるようにピンを配置した。こうして両端にポッティングキャップが装着された中空糸膜モジュールを遠心成型機内に設置した。
【0327】
ポリメリックMDI(Huntsman社製、Suprasec5025)とポリブタジエン系ポリオール(Cray Valley社製、Krasol LBH 3000)と2−エチル−1,3−ヘキサンジオールを質量比が57:100:26となるように混合した。得られた混合物(つまりポリウレタン樹脂液)を、接着剤投入器15に入れた。接着剤投入器15は2方向に分割されたものであり、接着剤投入器15により、モジュール上部側(第1端部)には917g、モジュール下部側(第2端部)には325gのポリウレタン樹脂液を入れた。
続いて遠心成型機を回転させ、接着剤を両端のポッティングキャップに充填し、第1ポッティング部4および第2ポッティング部5を形成した。遠心成型機内の雰囲気温度は35℃、回転数は350rpm、遠心時間は4時間とした。
【0328】
遠心後、ポッティングキャップ13,14とピン16を取り外し、室温で24時間静置し、接着剤を硬化させた。その後、ポリスルホン製の筒状ケースのモジュール上部側(第1端部側)の外側の接着剤部分(
図9に示すD−D面)をチップソー式回転刃でカットし、中空糸膜の端面を開口させた。続いてポリスルホン製の筒状ケースの両端に上キャップ6、下キャップ7を取り付け、第1実施形態の中空糸膜モジュール100を得た。
【0329】
その後中空糸膜モジュールにエタノールを送液してろ過を行い、中空糸膜の細孔内をエタノールで満たした。続いてRO水を送液してろ過を行い、エタノールをRO水に置換した。
【0330】
【表1】
【0331】
(実施例1)
参考例1の製造方法を用いて、外径1.1mm、内径0.6mm、破断強度27MPa、破断強力1,840g/本である多孔質中空糸膜を得た。その後、参考例2の多孔質中空糸膜モジュールの作製方法に従い、前記中空糸膜を6,880本充填した中空糸膜モジュールを作製した。完成した膜モジュールは、26.2m
2の膜面積を有し、筒状ケースの中央部における充填率は37%であった。このモジュールを
図10に示すように分離膜装置に取り付けて、糖液のろ過を行った。
糖液は、水と市販のコーンスターチに、α−アミラーゼおよびグルコアミラーゼを添加して、60℃で24時間攪拌しながら加水分解反応を行ったものを供試した。平均濁質濃度は、500mg/Lであった。
得られた糖液を
図10の分離膜装置の原水供給槽17に入れ、膜分離を実施した。ろ過方式はクロスフローろ過を採用した。
【0332】
まず膜分離工程として、バルブ18を開けて、バルブ19を原水供給槽17から中空糸膜モジュール100へのラインが開通するように設定し、バルブ20を開けて、原水供給ポンプ21を駆動し、糖液を膜面線速度0.3m/secになるように中空糸膜モジュール100へ供給し、中空糸膜を透過しなかった濃縮液はバルブ20を通り原水供給槽17に戻すよう循環させた。同時にバルブ22を開けて、バルブ28をポンプ23から透過液貯槽24へのラインが開通するように設定し、ポンプ23を駆動し、中空糸膜を透過した糖液を透過流量26.2m
3/日で28分間回収した。
【0333】
その後、ポンプ23を停止して、バルブ22を閉じ、バルブ25を開けてポンプ26を駆動して透過液貯槽24から中空糸膜モジュール100へ透過液を透過流量39.3m
3/日で供給し洗浄ステップ(A)の逆洗を実施した。同時に、膜面線速度0.3m/secで原水供給ポンプ21から膜モジュール100へ供給した糖液と洗浄ステップ(A)の操作によって中空糸膜を通って原水側へ合流した透過液とを全てバルブ20を通り原水供給槽17に戻すよう循環させて、洗浄ステップ(B)を行い、これを2分間実施した。
【0334】
その後、さらに続けて、再び同時にバルブ22を開けて、バルブ28をポンプ23から透過液貯槽24へのラインが開通するように設定し、ポンプ23を駆動し、中空糸膜を透過した糖液を透過流量26.2m
3/日で膜分離工程を開始し、第2運転周期を前記第1運転周期と同一操作で運転し、これを第15運転周期まで繰り返した。続いて、第16運転周期において、再び同時にバルブ22を開けて、バルブ28をポンプ23から透過液貯槽24へのラインが開通するように設定し、ポンプ23を駆動し、中空糸膜を透過した糖液を透過流量26.2m
3/日で膜分離工程を28分間運転した。その後、ポンプ23を停止して、バルブ22を閉じ、バルブ25を開けてポンプ26を駆動して透過液貯槽24から中空糸膜モジュール100へ透過液を供給し洗浄ステップ(A)を実施しつつ、膜面線速度0.3m/secで原水供給ポンプ21から膜モジュール100へ供給した糖液と洗浄ステップ(A)の操作によって中空糸膜を通って原水側へ合流した透過液とを全てバルブ20を通り原水供給槽17に戻すよう循環させて、洗浄ステップ(B)を同時に2分間実施した。
【0335】
その後、原水供給ポンプ21とポンプ26を停止させてバルブ25を閉じた。続いてバルブ19を開けて、中空糸膜モジュール100から糖液を排濁液貯槽27へ排出し、原水供給ポンプ21を駆動して原水供給槽17内からも濃縮された糖液を排水した。
その後、バルブ19を閉じ、原水供給槽17にRO水を供給し、原水供給ポンプ21を駆動し、RO水を膜面線速度5.0m/secになるように中空糸膜モジュール100へ供給し、バルブ20を通り原水供給槽17に戻すよう循環させて、2回目の洗浄ステップ(B)を5分間実施した。その後、原水供給ポンプ21を停止させ、バルブ19を開けて、中空糸膜モジュール100からRO水を排濁液貯槽へ排出し、さらに原水供給ポンプ21を駆動して原水供給槽17内からも洗浄水として用いたRO水を排水した。
以上の運転周期群を9回繰り返した。
【0336】
その後、原水供給槽17に洗浄液として次亜塩素酸ナトリウムを3000ppmとなるように添加して、バルブ18を開けて、バルブ19を原水供給槽17から中空糸膜モジュール100へのラインが開通するように設定し、バルブ20を開けて、原水供給ポンプ21を駆動し、糖液を膜面線速度0.3m/secになるように分離膜モジュール100へ供給し、中空糸膜を透過しなかった濃縮液はバルブ20を通り原水供給槽17に戻すよう循環させた。同時にバルブ22を開けて、バルブ28をポンプ23から原水供給槽17へのラインが開通するように設定し、ポンプ23を駆動して、中空糸膜を透過した洗浄液を透過流量2.6m
3/日で原水供給槽17へ循環されるように設定して、薬液洗浄を実施した。この薬液洗浄を1時間実施した後、原水供給槽17内の次亜塩素酸ナトリウムの残留塩素濃度を測定したところ、薬液洗浄前の遊離塩素濃度が2700ppmであったのに対し、洗浄後は1400ppmであった。モジュールの透水性の回復率は、85%であった。
【0337】
(実施例2)
参考例1の製造方法を用いて、外径1.2mm、内径0.7mm、破断強度27MPa、破断強力2,060g/本である中空糸膜を得た。その後、参考例2の多孔質中空糸膜モジュールで前記中空糸膜を3,910本充填したモジュールを作成した。完成したモジュールは、16.2m
2の膜面積を有し、筒状ケースの中央部における充填率は25%、単位体積あたりの膜面積950m
2/m
3であった。このモジュールを
図10のフローシートの分離膜装置に取り付けて実施例1と同一の運転操作を行い、その後、さらに続けて、原水供給槽17に次亜塩素酸ナトリウム3000ppmを調製して、薬液洗浄を1時間実施した後、原水供給槽17内の次亜塩素酸ナトリウムの残留塩素濃度を測定したところ、薬液洗浄前の遊離塩素濃度が2700ppmであったのに対し、洗浄後は900ppmであった。モジュールの透水性の回復率は、82%であった。
【0338】
(比較例1)
参考例1の製造方法を用いて、外径1.1mm、内径0.6mm、破断強度27MPa、破断強力1,840g/本である多孔質中空糸膜を得た。その後、参考例2の多孔質中空糸膜モジュールの作製方法に従い、前記中空糸膜を10,000本充填した中空糸膜モジュールを作製した。完成した膜モジュールは、38.0m
2の膜面積を有し、筒状ケースの中央部における充填率は54%、単位体積あたりの膜面積は2,210m
2/m
3であった。
この膜モジュールを
図10に示す分離膜装置に取り付けて実施例1と同一の運転操作を行った。
【0339】
その結果、膜モジュールへの送液圧が次第に高くなり、第5運転周期群の第16運転周期において、膜分離工程、次いで洗浄ステップ(A)ならびに(B)を行った後、糖液を排水し、RO水による2回目の洗浄ステップ(B)を開始したところ、送液圧が高くなり、2.0m/secの流量を維持できなくなった。モジュールを取り外して、中を確認したところ筒状ケース内に多くの濁質の堆積がみられた。実施例1と比較して、比較例1は、濁質の蓄積の解消が不十分であったと考えられる。
【0340】
(比較例2)
国際公開第2003/031038号に記載の技術より中空糸膜を製造した。得られた中空糸膜は、外径2.2mm、内径1.0mm、純水透過性能0.6m
3/m
2/hr、破断強力1,850g/本、破断強度6MPa、破断伸度68%であった。参考例2の多孔質中空糸膜モジュールの作製方法に従い、この中空糸膜1,720本充填した中空糸膜モジュールを作製した。完成した膜モジュールは、13.1m
2の膜面積を有し、筒状ケースの中央部における充填率は37%、単位体積あたりの膜面積は760m
2/m
3であった。
この膜モジュールを
図10に示す分離膜装置に取り付けて実施例1と同一の運転操作を行った。
その結果、膜分離工程における膜ろ過差圧の上昇が早くなり、第6運転周期群における膜分離工程の途中で膜ろ過差圧が100kPaに達し、運転を停止した。続けて、実施例1の方法で次亜塩素酸ナトリウム3000ppmによる薬液洗浄を行った。薬液洗浄を1時間実施した後、原水供給槽17内の次亜塩素酸ナトリウムの残留塩素濃度を測定したところ、薬液洗浄前の遊離塩素濃度が2700ppmであったのに対し、洗浄後は800ppmであった。モジュールの透水性の回復率は、60%であった。実施例1と比較して膜閉塞が早く、安定運転が困難であり、十分な洗浄にはさらに薬液が必要であった。
【0341】
(比較例3)
国際公開第2003/031038号に記載の技術より中空糸膜を製造したところ、外径1.1mm、内径0.6mm、純水透過性能1.7m
3 /m
2 /hr、破断強力540g/本、破断強度8MPa、破断伸度46%である中空糸膜を得た。参考例2の多孔質中空糸膜モジュールの作製方法に従い、この中空糸膜6,880本充填した中空糸膜モジュールを作製した。完成した膜モジュールは、26.2m
2の膜面積を有し、筒状ケースの中央部における充填率は37%であった。
この膜モジュールを
図10に示す分離膜装置に取り付けて実施例1と同一の運転操作を行った。
【0342】
その結果、第3運転周期群の第16運転周期において、膜分離工程、次いで洗浄ステップ(A)ならびに(B)を行った後、糖液を排水し、RO水による2回目の洗浄ステップ(B)を開始したところ、第1ポッティング部と中空糸膜の接着界面で中空糸膜が破断した。蓄積された濁質の重みと、洗浄ステップによる応力の作用によって膜が破断したと考えられる。
【0343】
【表2】
【0344】
(参考例4)中空糸膜Bの製造方法
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製KF1300、重量平均分子量:41.7万、数平均分子量:22.1万)35重量%とγ−ブチロラクトン65重量%を150℃で溶解した。こうして得られたフッ化ビニリデンホモポリマー溶液(つまり原料液)のTcは46℃であった。
原料液の加圧および吐出には、二重管式口金と、その口金につながれた配管と、その配管上に配置された2つのギヤーポンプとを備える装置を用いた。ギヤーポンプ間の配管内で、上記原料液を、2.5MPaに加圧しながら、99〜101℃で15秒間滞留させた。その後、二重管式口金の内側の管からγ−ブチロラクトン85重量%水溶液を吐出しながら、外側の管から原料液を吐出した。γ−ブチロラクトン85重量%水溶液からなる温度20℃の冷却浴中に原料液を20秒間滞留させ、固化させた。
得られた多孔質中空糸膜は、太さ均一性0.55の柱状組織を有し、柱状組織の占有率は85%であり、球状組織占有率は15%であった。
【0345】
ついで、95℃の水中にて、上記で得られた多孔質中空糸膜を延伸速度9%/秒で2.0倍に延伸した。
延伸後の多孔質中空糸膜を観察したところ、柱状組織が認められた。また、多孔質中空糸膜において、長手長さの代表値16μm、短手長さの代表値2.1μm、太さ均一性0.51の柱状組織を有し、空隙率が56%、フッ化ビニリデンホモポリマー分子鎖の多孔質中空糸膜の長手方向への配向度πは算出できず無配向であり、ラマン配向パラメータνは1.82、最大ラマン配向パラメータMは2.31、最小ラマン配向パラメータmは1.32、M/mは1.8であった。延伸後の多孔質中空糸膜の構造と性能を表3に示す。
【0346】
(参考例3)中空糸膜モジュールの作製
中空糸膜モジュールの作製方法を以下に説明する。
中空糸膜を長さ1200mmにカットし、30質量%グリセリン水溶液に1時間浸漬後、風乾した。こうして得られた所定の本数の中空糸膜を1束に束ねた。シリコーン接着剤(東レ・ダウコーニング社製、SH850A/B、2剤を質量比が50:50となるように混合したもの)で中空糸膜束の片端を封止した。
【0347】
ポリスルホン製の筒状ケース3(内径150mm、外径170mm、長さ1150mm)の内面で、中空糸膜が接着される領域については予めサンドペーパー(#80)でヤスリがけを行い、エタノールで脱脂した。
その後、
図9に示すように、前記中空糸膜束2を、筒状ケース3内に充填した。このとき筒状ケース3の膜モジュール上部側となる第1端部(
図9の右側端部)に封止した側の端部が位置するように、中空糸膜束2を配置し、さらにポッティングキャップ14(内径150mm)を装着した。モジュール下部側となる第2端部(
図9の左側端部)には底に36個の穴が空いたポッティングキャップ13(内径150mm)を装着した。その後ポッティングキャップ13の底の穴に36本のピン16を差し込んで固定した。ピン16はそれぞれ、直径10mm、長さ200mmの円柱状であった。ピン16の位置は
図2の貫通孔11と同様であり、傾斜の下方である位置に、つまりポッティング時の上側の位置に貫通孔が形成されるようにピンを配置した。こうして両端にポッティングキャップが装着された中空糸膜モジュールを遠心成型機内に設置した。
【0348】
ポリメリックMDI(Huntsman社製、Suprasec5025)とポリブタジエン系ポリオール(Cray Valley社製、Krasol LBH 3000)と2−エチル−1,3−ヘキサンジオールを質量比が57:100:26となるように混合した。得られた混合物(つまりポリウレタン樹脂液)を、接着剤投入器15に入れた。接着剤投入器15は2方向に分割されたものであり、接着剤投入器15により、モジュール上部側(第1端部)には917g、モジュール下部側(第2端部)には325gのポリウレタン樹脂液を入れた。
続いて遠心成型機を回転させ、接着剤を両端のポッティングキャップに充填し、第1ポッティング部4および第2ポッティング部5を形成した。遠心成型機内の雰囲気温度は35℃、回転数は350rpm、遠心時間は4時間とした。
【0349】
遠心後、ポッティングキャップ13,14とピン16を取り外し、室温で24時間静置し、接着剤を硬化させた。その後、ポリスルホン製の筒状ケースのモジュール上部側(第1端部側)の外側の接着剤部分(
図9に示すD−D面)をチップソー式回転刃でカットし、中空糸膜の端面を開口させた。続いてポリスルホン製の筒状ケースの両端に上キャップ6、下キャップ7を取り付け、第1実施形態の中空糸膜モジュール100を得た。
【0350】
その後中空糸膜モジュールにエタノールを送液してろ過を行い、中空糸膜の細孔内をエタノールで満たした。続いてRO水を送液してろ過を行い、エタノールをRO水に置換した。
【0351】
(参考例5)中空糸膜Bの製造方法
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製KF1300、重量平均分子量:41.7万、数平均分子量:22.1万)36重量%とγ−ブチロラクトン64重量%を150℃で溶解した。このフッ化ビニリデンホモポリマー溶液のTcは48℃であった。該溶液を2つのギヤーポンプを設置することにより、その間のライン上で2.5MPaに加圧し、99〜101℃で15秒間滞留させた後、二重管式口金の外側の管から吐出し、同時にγ−ブチロラクトン85重量%水溶液を二重管式口金の内側の管から吐出し、γ−ブチロラクトン85重量%水溶液からなる温度10℃の第1冷却浴中に10秒間滞留させ、ついで、γ−ブチロラクトン85重量%水溶液からなる温度20℃の第2冷却浴中に20秒間滞留させ、固化させた。得られた多孔質中空糸膜は、太さ均一性0.64の柱状組織を有し、柱状組織の占有率は87%であり、球状組織占有率は13%であった。
【0352】
ついで、95℃の水中にて、上記で得られた多孔質中空糸膜を延伸速度44%/秒で2.4倍に延伸した。延伸後の多孔質中空糸膜は、長手長さの代表値18μm、短手長さの代表値1.9μm、太さ均一性0.60の柱状組織を有し、空隙率が55%、フッ化ビニリデンホモポリマー分子鎖の多孔質中空糸膜の長手方向への配向度πは0.25であり、ラマン配向パラメータνは2.35、最大ラマン配向パラメータMは2.84、最小ラマン配向パラメータmは1.21、M/mは2.4であった。延伸後の多孔質中空糸膜の構造と性能を表3に示す。
【0353】
(参考例6)中空糸膜Bの製造方法
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製KF1300、重量平均分子量:41.7万、数平均分子量:22.1万)39重量%とγ−ブチロラクトン61重量%を150℃で溶解した。このフッ化ビニリデンホモポリマー溶液のTcは52℃であった。該溶液を2つのギヤーポンプを設置することにより、その間のライン上で2.5MPaに加圧し、99〜101℃で20秒間滞留させた後、二重管式口金の外側の管から吐出し、同時にγ−ブチロラクトン85重量%水溶液を二重管式口金の内側の管から吐出し、γ−ブチロラクトン85重量%水溶液からなる温度5℃の第1冷却浴中に10秒間滞留させ、ついで、γ−ブチロラクトン85重量%水溶液からなる温度30℃の第2冷却浴中に40秒間滞留させ、固化させた。得られた多孔質中空糸膜は、太さ均一性0.69の柱状組織を有し、柱状組織の占有率は91%であり、球状組織占有率は9%であった。
【0354】
ついで、95℃の水中にて、上記で得られた多孔質中空糸膜を延伸速度142%/秒で2.4倍に延伸した。延伸後の多孔質中空糸膜は、長手長さの代表値22μm、短手長さの代表値1.8μm、太さ均一性0.62の柱状組織を有し、空隙率が54%、フッ化ビニリデンホモポリマー分子鎖の多孔質中空糸膜の長手方向への配向度πは0.31であり、ラマン配向パラメータνは2.53、最大ラマン配向パラメータMは3.08、最小ラマン配向パラメータmは1.14、M/mは2.7であった。延伸後の多孔質中空糸膜の構造と性能を表3に示す。
【0355】
(参考例7)中空糸膜Bの製造方法
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製KF1300、重量平均分子量:41.7万、数平均分子量:22.1万)39重量%とγ−ブチロラクトン61重量%を150℃で溶解した。このフッ化ビニリデンホモポリマー溶液のTcは52℃であった。該溶液を2つのギヤーポンプを設置することにより、その間のライン上で2.5MPaに加圧し、99〜101℃で20秒間滞留させた後、二重管式口金の外側の管から吐出し、同時にγ−ブチロラクトン85重量%水溶液を二重管式口金の内側の管から吐出し、γ−ブチロラクトン85重量%水溶液からなる温度5℃の第1冷却浴中に10秒間滞留させ、ついで、γ−ブチロラクトン85重量%水溶液からなる温度35℃の第2冷却浴中に50秒間滞留させ、固化させた。得られた多孔質中空糸膜は、太さ均一性0.68の柱状組織を有し、柱状組織の占有率は92%であり、球状組織占有率は8%であった。
【0356】
ついで、95℃の水中にて、上記で得られた多孔質中空糸膜を延伸速度2%/秒で1.8倍に延伸した。延伸後の多孔質中空糸膜は、長手長さの代表値13μm、短手長さの代表値1.9μm、太さ均一性0.66の柱状組織を有し、空隙率が53%、フッ化ビニリデンホモポリマー分子鎖の多孔質中空糸膜の長手方向への配向度πは算出できず無配向であり、ラマン配向パラメータνは2.13、最大ラマン配向パラメータMは2.69、最小ラマン配向パラメータmは1.65、M/mは1.6であった。延伸後の多孔質中空糸膜の構造と性能を表3に示す。
【0357】
(参考例8)中空糸膜Bの製造方法
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製KF1300、重量平均分子量:41.7万、数平均分子量:22.1万)38重量%とジメチルスルホキシド62重量%を130℃で溶解した。このフッ化ビニリデンホモポリマー溶液のTcは29℃であった。該溶液を2つのギヤーポンプを設置することにより、その間のライン上で2.5MPaに加圧し、78〜80℃で20秒間滞留させた後、二重管式口金の外側の管から吐出し、同時にジメチルスルホキシド90重量%水溶液を二重管式口金の内側の管から吐出し、ジメチルスルホキシド85重量%水溶液からなる温度20℃の冷却浴中に20秒間滞留させ、固化させた。得られた多孔質中空糸膜は、太さ均一性0.62の柱状組織を有し、柱状組織の占有率は94%であり、球状組織占有率は6%であった。
【0358】
ついで、95℃の水中にて、上記で得られた多孔質中空糸膜を延伸速度19%/秒で2.0倍に延伸した。延伸後の多孔質中空糸膜は、長手長さの代表値19μm、短手長さの代表値2.3μm、太さ均一性0.61の柱状組織を有し、空隙率が57%、フッ化ビニリデンホモポリマー分子鎖の多孔質中空糸膜の長手方向への配向度πは算出できず無配向であり、ラマン配向パラメータνは2.32、最大ラマン配向パラメータMは2.61、最小ラマン配向パラメータmは1.42、M/mは1.8であった。延伸後の多孔質中空糸膜の構造と性能を表3に示す。
【0359】
(参考例9)中空糸膜Bの製造方法
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製KF1300、重量平均分子量:41.7万、数平均分子量:22.1万)38重量%とジメチルスルホキシド62重量%を130℃で溶解した。このフッ化ビニリデンホモポリマー溶液のTcは29℃であった。該溶液を2つのギヤーポンプを設置することにより、その間のライン上で2.5MPaに加圧し、78〜80℃で20秒間滞留させた後、二重管式口金の外側の管から吐出し、同時にジメチルスルホキシド90重量%水溶液を二重管式口金の内側の管から吐出し、ジメチルスルホキシド85重量%水溶液からなる温度−3℃の第1冷却浴中に10秒間滞留させ、ついで、ジメチルスルホキシド85重量%水溶液からなる温度20℃の第2冷却浴中に30秒間滞留させ、固化させた。得られた多孔質中空糸膜は、太さ均一性0.68の柱状組織を有し、柱状組織の占有率は93%であり、球状組織占有率は7%であった。
【0360】
ついで、95℃の水中にて、上記で得られた多孔質中空糸膜を延伸速度146%/秒で1.8倍に延伸した。延伸後の多孔質中空糸膜は、長手長さの代表値19μm、短手長さの代表値2.0μm、太さ均一性0.66の柱状組織を有し、空隙率が56%、フッ化ビニリデンホモポリマー分子鎖の多孔質中空糸膜の長手方向への配向度πは算出できず無配向であり、ラマン配向パラメータνは2.18、最大ラマン配向パラメータMは2.56、最小ラマン配向パラメータmは1.29、M/mは2.0であった。延伸後の多孔質中空糸膜の構造と性能を表3に示す。
【0361】
(参考例10)中空糸膜Bの製造方法
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製KF1300、重量平均分子量:41.7万、数平均分子量:22.1万)42重量%とジメチルスルホキシド58重量%を130℃で溶解した。このフッ化ビニリデンホモポリマー溶液のTcは35℃であった。該溶液を2つのギヤーポンプを設置することにより、その間のライン上で2.5MPaに加圧し、78〜80℃で20秒間滞留させた後、二重管式口金の外側の管から吐出し、同時にジメチルスルホキシド90重量%水溶液を二重管式口金の内側の管から吐出し、ジメチルスルホキシド85重量%水溶液からなる温度−3℃の第1冷却浴中に10秒間滞留させ、ついで、ジメチルスルホキシド85重量%水溶液からなる温度20℃の第2冷却浴中に50秒間滞留させ、固化させた。得られた多孔質中空糸膜は、太さ均一性0.72の柱状組織を有し、柱状組織の占有率は95%であり、球状組織占有率は5%であった。
【0362】
ついで、95℃の水中にて、上記で得られた多孔質中空糸膜を延伸速度125%/秒で2.4倍に延伸した。延伸後の多孔質中空糸膜は、長手長さの代表値22μm、短手長さの代表値1.8μm、太さ均一性0.70の柱状組織を有し、空隙率が56%、フッ化ビニリデンホモポリマー分子鎖の多孔質中空糸膜の長手方向への配向度πは0.34であり、ラマン配向パラメータνは2.96、最大ラマン配向パラメータMは3.31、最小ラマン配向パラメータmは1.42、M/mは2.3であった。延伸後の多孔質中空糸膜の構造と性能を表3に示す。
【0363】
(参考例11)中空糸膜Bの製造方法
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製KF1300、重量平均分子量:41.7万、数平均分子量:22.1万)42重量%とジメチルスルホキシド58重量%を130℃で溶解した。このフッ化ビニリデンホモポリマー溶液のTcは35℃であった。該溶液を2つのギヤーポンプを設置することにより、その間のライン上で2.5MPaに加圧し、78〜80℃で20秒間滞留させた後、二重管式口金の外側の管から吐出し、同時にジメチルスルホキシド90重量%水溶液を二重管式口金の内側の管から吐出し、ジメチルスルホキシド85重量%水溶液からなる温度−3℃の第1冷却浴中に10秒間滞留させ、ついで、ジメチルスルホキシド85重量%水溶液からなる温度20℃の第2冷却浴中に50秒間滞留させ、固化させた。得られた多孔質中空糸膜は、太さ均一性0.72の柱状組織を有し、柱状組織の占有率は95%であり、球状組織占有率は5%であった。
【0364】
ついで、95℃の水中にて、上記で得られた多孔質中空糸膜を延伸速度16%/秒で2.4倍に延伸した。延伸後の多孔質中空糸膜は、長手長さの代表値23μm、短手長さの代表値1.9μm、太さ均一性0.72の柱状組織を有し、空隙率が55%、フッ化ビニリデンホモポリマー分子鎖の多孔質中空糸膜の長手方向への配向度πは算出できず無配向であり、ラマン配向パラメータνは2.48、最大ラマン配向パラメータMは2.75、最小ラマン配向パラメータmは1.33、M/mは2.1であった。延伸後の多孔質中空糸膜の構造と性能を表3に示す。
【0365】
(参考例12)
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製KF1300、重量平均分子量:41.7万、数平均分子量:22.1万)35重量%とγ−ブチロラクトン65重量%を150℃で溶解した。このフッ化ビニリデンホモポリマー溶液のTcは46℃であった。該溶液を2つのギヤーポンプを設置することにより、その間のライン上で2.5MPaに加圧し、99〜101℃で20秒間滞留させた後、二重管式口金の外側の管から吐出し、同時にγ−ブチロラクトン85重量%水溶液を二重管式口金の内側の管から吐出し、γ−ブチロラクトン85重量%水溶液からなる温度5℃の冷却浴中に20秒間滞留させ固化させた。得られた多孔質中空糸膜は、太さ均一性0.42の柱状組織を有し、柱状組織の占有率は90%であり、球状構造占有率は10%であった。
【0366】
ついで、95℃の水中にて、上記で得られた多孔質中空糸膜を延伸速度44%/秒で1.5倍に延伸した。延伸後の多孔質中空糸膜は、長手長さの代表値12μm、短手長さの代表値2.2μm、太さ均一性0.39の柱状組織を有し、空隙率が56%、フッ化ビニリデンホモポリマー分子鎖の多孔質中空糸膜の長手方向への配向度πは算出できず無配向であり、ラマン配向パラメータνは1.01、最大ラマン配向パラメータMは1.03、最小ラマン配向パラメータmは1.00、M/mは1.0であった。延伸後の多孔質中空糸膜の構造と性能を表4に示す。
【0367】
(参考例13)
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製KF1300、重量平均分子量:41.7万、数平均分子量:22.1万)36重量%とγ−ブチロラクトン64重量%を150℃で溶解した。このフッ化ビニリデンホモポリマー溶液のTcは48℃であった。該溶液を2つのギヤーポンプを設置することにより、その間のライン上で2.5MPaに加圧し、99〜101℃で20秒間滞留させた後、二重管式口金の外側の管から吐出し、同時にγ−ブチロラクトン85重量%水溶液を二重管式口金の内側の管から吐出し、γ−ブチロラクトン85重量%水溶液からなる温度5℃の冷却浴中に20秒間滞留させ、ついで、γ−ブチロラクトン85重量%水溶液からなる温度20℃の第2冷却浴中に20秒間滞留させ、固化させた。得られた多孔質中空糸膜は、太さ均一性0.66の柱状組織を有し、柱状組織の占有率は91%であり、球状構造占有率は9%であった。
【0368】
ついで、95℃の水中にて、上記で得られた多孔質中空糸膜を延伸速度175%/秒で2.4倍に延伸したところ糸切れが発生し延伸することができなかった。
【0369】
(参考例14)
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製KF1300、重量平均分子量:41.7万、数平均分子量:22.1万)38重量%とジメチルスルホキシド62重量%を130℃で溶解した。このフッ化ビニリデンホモポリマー溶液のTcは29℃であった。該溶液を2つのギヤーポンプを設置することにより、その間のライン上で0.2MPaに加圧し、64〜66℃で20秒間滞留させた後、二重管式口金の外側の管から吐出し、同時にジメチルスルホキシド90重量%水溶液を二重管式口金の内側の管から吐出し、ジメチルスルホキシド85重量%水溶液からなる温度−3℃の冷却浴中に20秒間滞留させ固化させた。得られた多孔質中空糸膜は、太さ均一性0.44の柱状組織を有し、柱状組織の占有率は25%であり、球状構造占有率が75%であった。
【0370】
ついで、95℃の水中にて、上記で得られた多孔質中空糸膜を延伸速度16%/秒で1.5倍に延伸した。延伸後の多孔質中空糸膜は、長手長さの代表値14μm、短手長さの代表値2.1μm、太さ均一性0.42の柱状組織を有し、空隙率が59%、フッ化ビニリデンホモポリマー分子鎖の多孔質中空糸膜の長手方向への配向度πは算出できず無配向であり、ラマン配向パラメータνは1.03、最大ラマン配向パラメータMは1.08、最小ラマン配向パラメータmは1.01、M/mは1.1であった。延伸後の多孔質中空糸膜の構造と性能を表4に示す。
【0371】
(参考例15)
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製KF1300、重量平均分子量:41.7万、数平均分子量:22.1万)38重量%とジメチルスルホキシド62重量%を130℃で溶解した。このフッ化ビニリデンホモポリマー溶液のTcは29℃であった。該溶液を2つのギヤーポンプを設置することにより、その間のライン上で2.5MPaに加圧し、78〜80℃で20秒間滞留させた後、二重管式口金の外側の管から吐出し、同時にジメチルスルホキシド90重量%水溶液を二重管式口金の内側の管から吐出し、ジメチルスルホキシド85重量%水溶液からなる温度−3℃の冷却浴中に10秒間滞留させ、ついで、ジメチルスルホキシド85重量%水溶液からなる温度20℃の第2冷却浴中に30秒間滞留させ、固化させた。得られた多孔質中空糸膜は、太さ均一性0.68の柱状組織を有し、柱状組織の占有率は93%であり、球状構造占有率は7%であった。
【0372】
ついで、95℃の水中にて、上記で得られた多孔質中空糸膜を延伸速度44%/秒で1.5倍に延伸した。延伸後の多孔質中空糸膜は、長手長さの代表値17μm、短手長さの代表値2.0μm、太さ均一性0.68の柱状組織を有し、空隙率が58%、フッ化ビニリデンホモポリマー分子鎖の多孔質中空糸膜の長手方向への配向度πは算出できず無配向であり、ラマン配向パラメータνは1.01、最大ラマン配向パラメータMは1.05、最小ラマン配向パラメータmは1.01、M/mは1.0であった。延伸後の多孔質中空糸膜の構造と性能を表4に示す。
【0373】
(実施例3)
参考例4の製造方法を用いて、外径1.1mm、内径0.6mm、純水透過性能1.0m
3/m
2/hr、破断強度26MPa、ヤング率0.26GPaである多孔質中空糸膜を得た。その後、参考例3の多孔質中空糸膜モジュールの作製方法に従い、前記中空糸膜を6,880本充填した中空糸膜モジュールを作製した。完成した膜モジュールは、26.2m
2の膜面積を有し、筒状ケースの中央部における充填率は37%であった。単位体積あたりの膜面積は1523m
2/m
3であった。このモジュールを
図10に示すように分離膜装置に取り付けて、糖液のろ過を行った。
糖液は、水と市販のコーンスターチに、α−アミラーゼおよびグルコアミラーゼを添加して、60℃で24時間攪拌しながら加水分解反応を行ったものを供試した。平均濁質濃度は、500mg/Lであった。
得られた糖液を
図10の分離膜装置の原水供給槽17に入れ、膜分離を実施した。ろ過方式はクロスフローろ過を採用した。
【0374】
まず膜分離工程として、バルブ18を開けて、バルブ19を原水供給槽17から中空糸膜モジュール100へのラインが開通するように設定し、バルブ20を開けて、原水供給ポンプ21を駆動し、糖液を膜面線速度0.3m/secになるように中空糸膜モジュール100へ供給し、中空糸膜を透過しなかった濃縮液はバルブ20を通り原水供給槽17に戻すよう循環させた。同時にバルブ22を開けて、バルブ28をポンプ23から透過液貯槽24へのラインが開通するように設定し、ポンプ23を駆動し、中空糸膜を透過した糖液を透過流量26.2m
3/日で28分間回収した。
【0375】
その後、ポンプ23を停止して、バルブ22を閉じ、バルブ25を開けてポンプ26を駆動して透過液貯槽24から中空糸膜モジュール100へ透過液を透過流量39.3m
3/日で供給し洗浄ステップ(A)の逆洗を実施した。同時に、膜面線速度0.3m/secで原水供給ポンプ21から膜モジュール100へ供給した糖液と洗浄ステップ(A)の操作によって中空糸膜を通って原水側へ合流した透過液とを全てバルブ20を通り原水供給槽17に戻すよう循環させて、洗浄ステップ(B)を行い、これを2分間実施した。
【0376】
その後、さらに続けて、再び同時にバルブ22を開けて、バルブ28をポンプ23から透過液貯槽24へのラインが開通するように設定し、ポンプ23を駆動し透過流量26.2m
3/日で膜分離工程を開始し、第2運転周期を前記第1運転周期と同一操作で運転し、これを第15運転周期まで繰り返した。続いて、第16運転周期において、再びバルブ22を開けて、バルブ28をポンプ23から透過液貯槽24へのラインが開通するように設定し、ポンプ23を駆動し、透過流量26.2m
3/日で膜分離工程を28分間運転した。その後、ポンプ23を停止して、バルブ22を閉じ、バルブ25を開けてポンプ26を駆動して透過液貯槽24から中空糸膜モジュール100へ透過液を供給し洗浄ステップ(A)を実施しつつ、膜面線速度0.3m/secで原水供給ポンプ21から膜モジュール100へ供給した糖液と洗浄ステップ(A)の操作によって中空糸膜を通って原水側へ合流した透過液とを全てバルブ20を通り原水供給槽17に戻すよう循環させて、洗浄ステップ(B)を同時に2分間実施した。
【0377】
その後、原水供給ポンプ21とポンプ26を停止させてバルブ25を閉じた。続いてバルブ19を開けて、中空糸膜モジュール100から糖液を排濁液貯槽27へ排出た。その後、バルブ18を閉じて、原水供給ポンプ21を駆動して原水供給槽17内からも濃縮された糖液を排水した。
その後、バルブ18を開け、バルブ19を閉じ、原水供給槽17にRO水を供給し、原水供給ポンプ21を駆動し、RO水を膜面線速度5.0m/secになるように中空糸膜モジュール100へ供給し、バルブ20を通り原水供給槽17に戻すよう循環させて、2回目の洗浄ステップ(B)を5分間実施した。その後、原水供給ポンプ21を停止させ、バルブ19を開けて、中空糸膜モジュール100からRO水を排濁液貯槽へ排出し、さらにバルブ18を閉じて、原水供給ポンプ21を駆動して原水供給槽17内からも洗浄水として用いたRO水を排水した。
以上の糖液のろ過運転およびそれに続くRO水を用いた濁質の排出の運転周期群を9回繰り返した。
【0378】
その後、原水供給槽17に洗浄液として次亜塩素酸ナトリウムを3000ppmとなるように添加して、バルブ18を開けて、バルブ19を原水供給槽17から中空糸膜モジュール100へのラインが開通するように設定し、バルブ20を開けて、原水供給ポンプ21を駆動し、糖液を膜面線速度0.3m/secになるように分離膜モジュール100へ供給し、中空糸膜を透過しなかった濃縮液はバルブ20を通り原水供給槽17に戻すよう循環させた。同時にバルブ22を開けて、バルブ28をポンプ23から原水供給槽17へのラインが開通するように設定し、ポンプ23を駆動して、中空糸膜を透過した洗浄液を透過流量2.6m
3/日で原水供給槽17へ循環されるように設定して、薬液洗浄を実施した。この薬液洗浄を1時間実施した後、原水供給槽17内の次亜塩素酸ナトリウムの残留塩素濃度を測定したところ、薬液洗浄前の遊離塩素濃度が2700ppmであったのに対し、洗浄後は1400ppmであった。モジュールの透水性の回復率は、87%であった。
【0379】
(実施例4)
参考例5の方法を用いて、外径1.1mm、内径0.6mm、純水透過性能2.0m
3/m
2/hr、破断強度26MPa、ヤング率0.22GPaである中空糸膜を得た。その後、参考例3のモジュールで前記中空糸膜を6,880本充填したモジュールを作成した。完成したモジュールは、26.2m
2の膜面積を有し、筒状ケースの中央部における充填率は37%であった。単位体積あたりの膜面積は1523m
2/m
3であった。このモジュールを
図10のフローシートの分離膜装置に取り付けて実施例3と同一の糖液のろ過運転およびRO水を用いた排濁の運転周期群を9回実施した。続いて実施例3と同様に次亜塩素酸ナトリウムを用いて薬液洗浄を実施した。薬液洗浄前の遊離塩素濃度が2710ppmであったのに対し、洗浄後は1400ppmであった。モジュールの透水性の回復率は、80%であった。
【0380】
(実施例5)
参考例6の製造方法を用いて、外径1.1mm、内径0.6mm、純水透過性能1.6m
3/m
2/hr、破断強度35MPa、ヤング率0.24GPaである中空糸膜を得た。その後、参考例3のモジュールで前記中空糸膜を6,880本充填したモジュールを作成した。完成したモジュールは、26.2m
2の膜面積を有し、筒状ケースの中央部における充填率は37%であった。単位体積あたりの膜面積は1523m
2/m
3であった。このモジュールを
図10のフローシートの分離膜装置に取り付けて実施例3と同一の糖液のろ過運転およびRO水を用いた排濁の運転周期群を9回実施した。続いて実施例3と同様に次亜塩素酸ナトリウムを用いて薬液洗浄を実施した。薬液洗浄前の遊離塩素濃度が2700ppmであったのに対し、洗浄後は1410ppmであった。モジュールの透水性の回復率は、89%であった。
【0381】
(実施例6)
参考例7の製造方法を用いて、外径1.1mm、内径0.6mm、純水透過性能0.7m
3/m
2/hr、破断強度27MPa、ヤング率0.28GPaである中空糸膜を得た。その後、参考例3のモジュールで前記中空糸膜を6,880本充填したモジュールを作成した。完成したモジュールは、26.2m
2の膜面積を有し、筒状ケースの中央部における充填率は37%であった。単位体積あたりの膜面積は1523m
2/m
3であった。このモジュールを
図10のフローシートの分離膜装置に取り付けて実施例3と同一の糖液のろ過運転およびRO水を用いた排濁の運転周期群を9回実施した。続いて実施例3と同様に次亜塩素酸ナトリウムを用いて薬液洗浄を実施した。薬液洗浄前の遊離塩素濃度が2730ppmであったのに対し、洗浄後は1500ppmであった。モジュールの透水性の回復率は、88%であった。
【0382】
(実施例7)
参考例8の製造方法を用いて、外径1.1mm、内径0.6mm、純水透過性能1.7m
3/m
2/hr、破断強度28MPa、ヤング率0.30GPaである中空糸膜を得た。その後、参考例3のモジュールで前記中空糸膜を6,880本充填したモジュールを作成した。完成したモジュールは、26.2m
2の膜面積を有し、筒状ケースの中央部における充填率は37%であった。単位体積あたりの膜面積は1523m
2/m
3であった。このモジュールを
図10のフローシートの分離膜装置に取り付けて実施3と同一の糖液のろ過運転およびRO水を用いた排濁の運転周期群を9回実施した。続いて実施例3と同様に次亜塩素酸ナトリウムを用いて薬液洗浄を実施した。薬液洗浄前の遊離塩素濃度が2680ppmであったのに対し、洗浄後は1400ppmであった。モジュールの透水性の回復率は、88%であった。
【0383】
(実施例8)
参考例9の製造方法を用いて、外径1.1mm、内径0.6mm、純水透過性能0.8m
3/m
2/hr、破断強度31MPa、ヤング率0.31GPaである中空糸膜を得た。その後、参考例3のモジュールで前記中空糸膜を6,880本充填したモジュールを作成した。完成したモジュールは、26.2m
2の膜面積を有し、筒状ケースの中央部における充填率は37%であった。単位体積あたりの膜面積は1523m
2/m
3であった。このモジュールを
図10のフローシートの分離膜装置に取り付けて実施例3と同一の糖液のろ過運転およびRO水を用いた排濁の運転周期群を9回実施した。続いて実施例3と同様に次亜塩素酸ナトリウムを用いて薬液洗浄を実施した。薬液洗浄前の遊離塩素濃度が2700ppmであったのに対し、洗浄後は1400ppmであった。モジュールの透水性の回復率は、87%であった。
【0384】
(実施例9)
参考例10の製造方法を用いて、外径1.1mm、内径0.6mm、純水透過性能2.2m
3/m
2/hr、破断強度29MPa、ヤング率0.35GPaである中空糸膜を得た。その後、参考例3のモジュールで前記中空糸膜を6,880本充填したモジュールを作成した。完成したモジュールは、26.2m
2の膜面積を有し、筒状ケースの中央部における充填率は37%であった。単位体積あたりの膜面積は1523m
2/m
3であった。このモジュールを
図10のフローシートの分離膜装置に取り付けて実施例3と同一の糖液のろ過運転およびRO水を用いた排濁の運転周期群を9回実施した。続いて実施例3と同様に次亜塩素酸ナトリウムを用いて薬液洗浄を実施した。薬液洗浄前の遊離塩素濃度が2800ppmであったのに対し、洗浄後は1500ppmであった。モジュールの透水性の回復率は、87%であった。
【0385】
(実施例10)
参考例11の製造方法を用いて、外径1.1mm、内径0.6mm、純水透過性能2.1m
3/m
2/hr、破断強度33MPa、ヤング率0.32GPaである中空糸膜を得た。その後、参考例3のモジュールで前記中空糸膜を6,880本充填したモジュールを作成した。完成したモジュールは、26.2m
2の膜面積を有し、筒状ケースの中央部における充填率は37%であった。単位体積あたりの膜面積は1523m
2/m
3であった。このモジュールを
図10のフローシートの分離膜装置に取り付けて実施例3と同一の糖液のろ過運転およびRO水を用いた排濁の運転周期群を9回実施した。続いて実施例3と同様に次亜塩素酸ナトリウムを用いて薬液洗浄を実施した。薬液洗浄前の遊離塩素濃度が2650ppmであったのに対し、洗浄後は1400ppmであった。モジュールの透水性の回復率は、88%であった。
【0386】
(実施例11)
参考例4の製造方法を用いて、外径1.2mm、内径0.7mm、純水透過性能1.0m
3/m
2/hr、破断強度26MPa、ヤング率0.26GPaである中空糸膜を得た。その後、参考例3の多孔質中空糸膜モジュールで前記中空糸膜を3,910本充填したモジュールを作成した。完成したモジュールは、16.2m
2の膜面積を有し、筒状ケースの中央部における充填率は25%、単位体積あたりの膜面積945m
2/m
3であった。このモジュールを
図10のフローシートの分離膜装置に取り付けて実施例3と同一の運転操作を行い、その後、さらに続けて、原水供給槽17に次亜塩素酸ナトリウム3000ppmを調製して、薬液洗浄を1時間実施した後、原水供給槽17内の次亜塩素酸ナトリウムの残留塩素濃度を測定したところ、薬液洗浄前の遊離塩素濃度が2700ppmであったのに対し、洗浄後は900ppmであった。モジュールの透水性の回復率は、82%であった。
【0387】
(比較例4)
参考例4の製造方法を用いて、外径1.1mm、内径0.6mm、純水透過性能1.0m
3/m
2/hr、破断強度26MPa、ヤング率0.26GPaである多孔質中空糸膜を得た。その後、参考例3の多孔質中空糸膜モジュールの作製方法に従い、前記中空糸膜を10,000本充填した中空糸膜モジュールを作製した。完成した膜モジュールは、38.0m
2の膜面積を有し、筒状ケースの中央部における充填率は54%、単位体積あたりの膜面積は2,214m
2/m
3であった。
この膜モジュールを
図10に示す分離膜装置に取り付けて実施例3と同一の運転操作を行った。
【0388】
その結果、膜モジュールへの送液圧が次第に高くなり、第5運転周期群の第16運転周期において、膜分離工程、次いで洗浄ステップ(A)ならびに(B)を行った後、糖液を排水し、RO水による2回目の洗浄ステップ(B)を開始したところ、送液圧が高くなり、2.0m/secの流量を維持できなくなった。モジュールを取り外して、中を確認したところ筒状ケース内に多くの濁質の堆積がみられた。実施例3と比較して、比較例4は、濁質の蓄積の解消が不十分であったと考えられる。
【0389】
(比較例5)
参考例12に記載の技術より中空糸膜を製造した。得られた中空糸膜は、外径2.2mm、内径1.0mm、純水透過性能1.0m
3/m
2/hr、破断強度11MPaであった。参考例3の多孔質中空糸膜モジュールの作製方法に従い、この中空糸膜1,720本充填した中空糸膜モジュールを作製した。完成した膜モジュールは、13.1m
2の膜面積を有し、筒状ケースの中央部における充填率は37%、単位体積あたりの膜面積は762m
2/m
3であった。
この膜モジュールを
図10に示す分離膜装置に取り付けて実施例3と同一の運転操作を行った。
【0390】
その結果、膜分離工程における膜ろ過差圧の上昇が早くなり、第6運転周期群における膜分離工程の途中で膜ろ過差圧が100kPaに達し、運転を停止した。続けて、実施例1の方法で次亜塩素酸ナトリウム3000ppmによる薬液洗浄を行った。薬液洗浄を1時間実施した後、原水供給槽17内の次亜塩素酸ナトリウムの残留塩素濃度を測定したところ、薬液洗浄前の遊離塩素濃度が2700ppmであったのに対し、洗浄後は800ppmであった。モジュールの透水性の回復率は、60%であった。実施例3と比較して膜閉塞が早く、安定運転が困難であり、十分な洗浄にはさらに薬液が必要であった。
【0391】
(比較例6)
参考例12に記載の技術より中空糸膜を製造したところ、外径1.1mm、内径0.6mm、純水透過性能1.0m
3 /m
2 /hr、破断強度11MPaである中空糸膜を得た。参考例3の多孔質中空糸膜モジュールの作製方法に従い、この中空糸膜6,880本充填した中空糸膜モジュールを作製した。完成した膜モジュールは、26.2m
2の膜面積を有し、筒状ケースの中央部における充填率は37%であった。単位体積あたりの膜面積は1523m
2/m
3であった。
この膜モジュールを
図10に示す分離膜装置に取り付けて実施例3と同一の運転操作を行った。
【0392】
その結果、第3運転周期群の第16運転周期において、膜分離工程、次いで洗浄ステップ(A)ならびに(B)を行った後、糖液を排水し、RO水による2回目の洗浄ステップ(B)を開始したところ、第1ポッティング部と中空糸膜の接着界面で中空糸膜が破断した。蓄積された濁質の重みと、洗浄ステップによる応力の作用によって膜が破断したと考えられる。
【0393】
(比較例7)
参考例14に記載の技術より中空糸膜を製造した。得られた中空糸膜は、外径1.1mm、内径0.6mm、純水透過性能1.1m
3 /m
2 ・hr、破断強度12MPaであった。参考例3のモジュールで、この中空糸膜4,640本充填したモジュールを作成した。完成したモジュールは、21.5m
2の膜面積を有し、筒状ケースの中央部における充填率は37%であった。単位体積あたりの膜面積は1027m
2/m
3であった。
このモジュールを
図10のフローシートの分離膜装置に取り付けて実施例3と同一の糖液のろ過運転操作を行ったところ、第4運転周期群の第16運転周期において、膜分離工程、次いで洗浄ステップ(A)ならびに(B)を行った後、糖液を排水し、RO水による2回目の洗浄ステップ(B)を開始したところ、第1ポッティング部と中空糸膜の接着界面で中空糸膜が破断し、第5運転周期群の膜分離工程を開始したところ、糖液のろ過液へのリークが観察された。蓄積された濁質の重みと、洗浄ステップによる応力の作用によって膜が破断したと考えられる。
【0394】
(比較例8)
参考例15に記載の技術より中空糸膜を製造した。得られた中空糸膜は、外径1.1mm、内径0.6mm、純水透過性能0.7m
3 /m
2 ・hr、破断強度20MPaであった。参考例3のモジュールで、この中空糸膜4,640本充填したモジュールを作成した。完成したモジュールは、21.5m
2の膜面積を有し、筒状ケースの中央部における充填率は37%であった。単位体積あたりの膜面積は1027m
2/m
3であった。
このモジュールを
図10のフローシートの分離膜装置に取り付けて実施例3と同一の糖液のろ過運転操作を行ったところ、第8運転周期群の第16運転周期において、膜分離工程、次いで洗浄ステップ(A)ならびに(B)を行った後、糖液を排水し、RO水による2回目の洗浄ステップ(B)を開始したところ、第1ポッティング部と中空糸膜の接着界面で中空糸膜が破断し、第9運転周期群の膜分離工程を開始したところ、糖液のろ過液へのリークが観察された。蓄積された濁質の重みと、洗浄ステップによる応力の作用によって膜が破断したと考えられる。
【0395】
(比較例9)
参考例4に記載の技術より中空糸膜を製造したところ、破断強度26MPa、外径1.1mm、内径0.6mm、純水透過性能1.0m
3 /m
2 ・hr、破断強度26MPaである中空糸膜を得た。参考例3のモジュールで、この中空糸膜5,650本充填したモジュールを作成した。完成したモジュールは、26.2m
2の膜面積を有し、筒状ケースの中央部における充填率は45%であった。単位体積あたりの膜面積は1251m
2/m
3であった。
このモジュールを
図10のフローシートの分離膜装置に取り付けて実施例3と同一の糖液のろ過運転操作を行ったところ、モジュールへの送液圧が次第に高くなり、第7運転周期群第16運転周期において、膜分離工程、次いで洗浄ステップ(A)ならびに(B)を行った後、糖液を排水し、RO水による2回目の洗浄ステップ(B)を開始したところ、送液圧が高くなり、2.0m/secの流量を維持できなくなった。モジュールを取り外して、中を確認したところ筒状ケース内に多くの濁質の堆積がみられた。実施例3と比較して、比較例6は、濁質の蓄積の解消が不十分であったと考えられる。
【0396】
【表3】
【0397】
【表4】
【0398】
【表5】
【0399】
【表6】
【0400】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお本出願は、2015年12月28日付で出願された日本特許出願(特願2015−257122)及び2016年5月31日付で出願された日本特許出願(特願2016−108320)に基づいており、その全体が引用により援用される。
本発明は、膜モジュール内の懸濁物質の蓄積を効果的に解消し、ランニングコストの低減化を図るとともに、安定的に運転が可能な中空糸膜モジュールとその運転方法を提供する。本発明は、高さ方向における第1端と第2端とを有する筒状ケースと、筒状ケース内に収容される複数の中空糸膜と、筒状ケース内に収容され、複数の中空糸膜を、該複数の中空糸膜の筒状ケースの第1端側に位置する端部が開口した状態で接着する第1ポッティング部とを備え、中空糸膜は、多孔質中空糸膜であり、破断強度が23MPa以上であり、且つ、前記中空糸膜モジュールの単位体積あたりの膜面積は800m