特許第6191819号(P6191819)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191819
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】サイドエアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/239 20060101AFI20170828BHJP
   B60R 21/207 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   B60R21/239
   B60R21/207
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-159120(P2013-159120)
(22)【出願日】2013年7月31日
(65)【公開番号】特開2015-30298(P2015-30298A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕之
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 真也
(72)【発明者】
【氏名】二井 孝彰
(72)【発明者】
【氏名】西村 俊秀
【審査官】 岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−211348(JP,A)
【文献】 特開2007−030791(JP,A)
【文献】 特開2008−279977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16−21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収納部に収納されたエアバッグ本体を車両のドアと乗員との間に膨張展開させるサイド
エアバッグ装置であって、
前記エアバッグ本体は、
前記乗員の所定の部位に対応して設けられる退避部と、
前記退避部に形成される複数のベントホールと、
該エアバッグ本体の外周に沿って配されると共にその端部が前記ベントホールを貫通して該エアバッグ本体内部で連結され、該エアバッグ本体の展開時に前記退避部の車幅方向への膨張を規制する紐状部材と、
該エアバッ本体内部で前記紐状部材に接続され、前記ベントホールを前記エアバッグ本体内部側から閉塞可能な複数の蓋部材とを備え、
前記紐状部材は、前記エアバッグ本体に、標準体型以上の乗員が着座している場合の前記エアバッグ本体の展開時に印加される圧力である、所定の圧力以上の圧力が印加された場合に、前記連結が外れ、前記退避部での前記規制を解除するとともに前記蓋部材を引っ張って該蓋部材で前記ベントホールを閉塞するように構成されている
ことを特徴とするサイドエアバッグ装置。
【請求項2】
前記ベントホールは、前記退避部の前記乗員側と前記ドア側にそれぞれ形成されており、
前記乗員側の前記ベントホールを貫通した前記紐状部材の端部と前記ドア側の前記ベントホールを貫通した前記紐状部材の端部とが前記エアバッグ本体内部で互いに連結されることで前記退避部の車幅方向への膨張が規制され、前記端部同士の連結が外れることで前記退避部の車幅方向への膨張が許容される
ことを特徴とする請求項1記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項3】
前記蓋部は板状に形成されて前記紐状部材の端部に接続されており、
前記乗員側の前記ベントホールを貫通した前記紐状部材と前記ドア側の前記ベントホールを貫通した前記紐状部材とは、互いの蓋部材の面を向かい合せた状態で接合することで連結されている
ことを特徴とする請求項2に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項4】
前記紐状部材は、前記退避部より車両前方側で前記エアバッグ本体の外周を囲むよう配される前側紐状部と、前記退避部より車両後方側で前記エアバッグ本体の外周を囲むよう配される後側紐状部とで構成され、
前記前側紐状部と前記後側紐状部は、互いの両端部がそれぞれ前記乗員側および前記ドア側の前記ベントホールを貫通して前記エアバッグ本体内部で交差するよう連結されて上面視で八の字状を成すよう形成されている
ことを特徴とする請求項2又は3に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項5】
前記所定の部位が前記乗員の骨盤に対応する部位である
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のサイドエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサイドエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗員安全装置の一つとして、サイドエアバッグ装置がある。サイドエアバッグ装置は、シートバック(又はドアトリム)のフレームに固定されたインフレータから噴出したガスにより乗員とドアトリムとの間に膨張展開可能なバッグ本体を備える。サイドエアバッグ装置は、側面衝突等により車両に衝撃が加わった場合に、このバッグ本体が膨張展開されることで、乗員を側面衝突による衝撃から保護する。
【0003】
このようなサイドエアバッグ装置として、乗員の体格を検知する体格検知手段と、バッグ本体の上方への膨張を調整する膨張調整手段と、ベントホールを開閉させてバッグ本体の内圧を調整する開閉調整手段とを備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このサイドエアバッグ装置は、乗員の体格を検知して、小柄であると判断した場合には、上方への膨張を抑制するように膨張調整手段を制御すると共に、ベントホールを開状態とするように制御する。また、乗員の体格が大柄であると判断した場合には、上方への膨張を促進するように膨張調整手段を制御すると共に、ベントホールを閉状態とするように制御する。かかるサイドエアバッグ装置では、乗員の体型に合わせて衝撃を緩和することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−6237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、側突時にエアバッグが展開された際、エアバッグは、最初に乗員の腰部周りや大腿部に当接されるため、腰部周辺や大腿部周辺への入力が大きくなる傾向にある。大腿部や臀部は、比較的衝撃耐性が高いが骨盤に相当する部位は他の部位と比較して衝撃耐性が低く、特に大柄な乗員に比べてより衝撃耐性が低い女性などの小柄な乗員に対しては、骨盤への入力を低減させることが好ましい。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたサイドエアバッグ装置ではこのような骨盤などの衝撃耐性の低い部位に対応する位置のバッグ本体の膨張の抑制は考えられていない。従って、小柄な乗員の比較的衝撃耐性の低い部位(例えば骨盤)にも過大な力が入力されてしまうという課題がある。
【0007】
また、特許文献1に記載されたサイドエアバッグ装置では、体格検知手段等の複数の手段を設ける必要があり、構成が複雑であるという課題がある。
【0008】
そこで、本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決することにあり、構成が簡易で、かつ、乗員の体型に合わせて展開できると共に小柄な乗員に対してより適切に保護することができるサイドエアバッグ装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、収納部に収納されたエアバッグ本体を車両のドアと乗員との間に膨張展開させるサイドエアバッグ装置であって、前記エアバッグ本体は、前記乗員の所定の部位に対応して設けられる退避部と、前記退避部に形成される複数のベントホールと、該エアバッグ本体の外周に沿って配されると共にその端部が前記ベントホールを貫通して該エアバッグ本体内部で連結され、該エアバッグ本体の展開時に前記退避部の車幅方向への膨張を規制する紐状部材と、該エアバッ本体内部で前記紐状部材に接続され、前記ベントホールを前記エアバッグ本体内部側から閉塞可能な複数の蓋部材とを備え、前記紐状部材は、前記エアバッグ本体に、標準体型以上の乗員が着座している場合の前記エアバッグ本体の展開時に印加される圧力である、所定の圧力以上の圧力が印加された場合に、前記連結が外れ、前記退避部での前記規制を解除するとともに前記蓋部材を引っ張って該蓋部材で前記ベントホールを閉塞するように構成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明では、乗員が小柄で体重が軽く、またドアと乗員との間隔が比較的広い場合、つまり、エアバッ本体へ大きな圧力がかかりにくく、エアバッグ本体に印加される圧力が、標準体型以上の乗員が着座している場合のエアバッグ本体の展開時に印加される圧力である、所定の圧力未満の場合には、紐状部材による規制状態(紐状部材の連結状態)が維持される。すなわち、紐状部材によって乗員の所定の部位(例えば、比較的衝撃耐性の低い骨盤)に対応して形成されている退避部の幅方向への膨張が規制される。したがって、退避部がエアバッグ本体の他の部位よりも幅方向での厚みが抑制された凹状とされるので、乗員の所定の部位(骨盤)とエアバッグ本体(退避部)との接触を抑制しながら乗員を保護することができる。なお、退避部は、紐状部材が貫通されるベントホールからガスが抜けるので膨張しにくい構成となっており、耐性の弱い部位との接触をより確実に回避することができる。
【0011】
一方、標準体型以上の乗員が着座している場合は、ドアと乗員との間隔が狭くなり、乗員の体重も重くなるため、小柄な乗員の場合と比較してエアバッグ本体に大きな圧力がかかることになる。このため、エアバッグ本体には、所定の圧力以上の圧力が印加されることとなり、紐状部材に引っ張り力が作用して、紐状部材による退避部の規制(連結)が解除される。この場合には、紐状部材が蓋部材を引っ張って蓋部材がエアバッグ本体内部側からベントホールを閉塞するように構成されているので、ベントホールからガスの抜けが抑制され、退避部の膨張が許容されるとともにエアバッグ本体全体が前後方向に大きく膨張されて乗員を保護することができる。
【0012】
上記課題を解決する本発明の第2の態様は、前記ベントホールは、前記退避部の前記乗員側と前記ドア側にそれぞれ形成されており、前記乗員側の前記ベントホールを貫通した前記紐状部材の端部と前記ドア側の前記ベントホールを貫通した前記紐状部材の端部とが前記エアバッグ本体内部で互いに連結されることで前記退避部の車幅方向への膨張が規制され、前記端部同士の連結が外れることで前記退避部の車幅方向への膨張が許容されることを特徴とする。これにより、簡単な構成で、紐状部材によって退避部の車幅方向への膨張を抑制するとともにエアバッグ本体全体の展開状態を規制することができる。
【0013】
上記課題を解決する本発明の第3の態様は、前記蓋部は板状に形成されて前記紐状部材の端部に接続されており、前記乗員側の前記ベントホールを貫通した前記紐状部材と前記ドア側の前記ベントホールを貫通した前記紐状部材とは、互いの蓋部材の面を向かい合せた状態で接合することで連結されている。これにより、蓋部材によるベントホールの閉塞を的確に行うことができる。
【0014】
上記課題を解決する本発明の第4の態様は、前記紐状部材は、前記退避部より車両前方側で前記エアバッグ本体の外周を囲むよう配される前側紐状部と、前記退避部より車両後方側で前記エアバッグ本体の外周を囲むよう配される後側紐状部とで構成され、前記前側紐状部と前記後側紐状部は、互いの両端部がそれぞれ前記乗員側および前記ドア側の前記ベントホールを貫通して前記エアバッグ本体内部で交差するよう連結されて上面視で八の字状を成すよう形成されている。これにより、退避部における車幅方向への展開幅およびエアバッグ本体の車両前後方向への展開をより確実かつ適切に抑制することができる。
【0015】
上記課題を解決する本発明の第5の態様は、前記所定の部位が前記乗員の骨盤に対応する部位であることを特徴とする。これにより、比較的衝撃耐性の低い骨盤の部位を適切に保護することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のサイドエアバッグ装置によれば、構成が簡易で、かつ乗員の体型に合わせて展開できると共に比較的衝撃耐性の弱い小柄な乗員を適切に保護することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態1にかかるサイドエアバッグ装置の小柄な乗員着座時における展開状態を示す側面模式図。
図2】実施形態1にかかるサイドエアバッグ装置の小柄な乗員着座時における展開状態を示す(1)正面模式図、(2)上面からの断面模式図。
図3】実施形態1にかかるサイドエアバッグ装置の小柄な乗員着座時における展開状態を示す模式的斜視図。
図4】実施形態1にかかるサイドエアバッグ装置の標準体型以上の乗員着座時における展開状態を示す側面模式図。
図5】実施形態1にかかるサイドエアバッグ装置の標準体型以上の乗員着座時における展開状態を示す(1)正面模式図、(2)上面模式断面図。
図6】実施形態1にかかるサイドエアバッグ装置の標準体型以上の乗員着座時における展開状態を示す模式的斜視図。
図7】実施形態1にかかるサイドエアバッグ装置の規制部材の一部拡大模式図であり、(1)小柄な乗員着座時、(2)標準体型以上の乗員着座時。
図8】実施形態1にかかるサイドエアバッグ装置の規制部材の変化を示す一部拡大模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態1について図1〜8を用いて説明する。なお、各図面において同一のものには同一の参照符号を付している。
【0019】
図1〜3は小柄な乗員Iが着座している場合のサイドエアバッグ装置の展開状態を示している。
【0020】
図1に示すように、サイドエアバッグ装置1は、エアバッグ本体2と、エアバッグ本体2にガスを導入するためのインフレータ(ガス導入手段)3とを備える。サイドエアバッグ装置1は、シート4のシートバック5の側方にドア6との間で展開できるように折り畳まれて収納されている。サイドエアバッグ装置1は、車両が側面衝突を検出した場合に起動してインフレータ3からガスが噴出することで、エアバッグ本体2が乗員とドア6との間に膨張しつつ介在するように構成されている。これにより、車両の側面衝突時の衝撃を吸収して、乗員を保護することが可能である。
【0021】
エアバッグ本体2は、側面視において、シート4に着座した乗員の肩部から臀部を含む腰部周辺及び大腿部に対応して展開するように設けられている。エアバッグ本体2は、側面視における外形が矩形状であり、着座した乗員Iの骨盤部分に対応する所定の部位に退避部22が形成されている。そして、退避部22には、複数のベントホール21が形成されている。具体的には、展開時において退避部22の乗員側の面に2つのベントホール21a、21bが設けられ、退避部22のドア側(車外側)の面に2つのベントホール21c、21dが設けられている。
【0022】
ベントホール21は、乗員側とドア側とでその位置が上下方向にオフセットした位置とされている。つまり、乗員側に設けられる2つのベントホール21a、21bは、退避部22の上縁側に位置され、ドア側に設けられる2つのベントホール21c、21dは、退避部22の下縁側に位置されている。ベントホール21a〜21dによりガスの排出が調整され、エアバッグ本体2の展開が適切に保たれる。退避部22は、後述する紐部材により車幅方向への膨張(展開幅)が規制され、着座した乗員Iの骨盤部分にエアバッグ本体2が直接接触しないようにされている。
【0023】
エアバッグ本体2には、エアバッグ本体2の膨張を規制する環状の紐状部材23が設けられている。この紐状部材23は、エアバッグ本体2の外周を囲むように設けられ、退避部22においてベントホール21a〜21dに貫通されている。
【0024】
紐状部材23について、図3を用いて具体的に説明する。
【0025】
紐状部材23は、エアバッグ本体2の退避部22より前方側に設けられる前側紐状部23aと、エアバッグ本体2の退避部22より後方側に設けられる後側紐状部23bと、前側紐状部23aと後側紐状部23bとを連結する二つの連結部24、25とから構成されている。前側紐状部23aがエアバッグ本体2の退避部22より車両前方側の部位の外周を囲むように配置され、後側紐状部23bがエアバッグ本体2の退避部22より車両後方側の部位の外周を囲むように配置され、それぞれエアバッグ本体2の車両前後方向の側部に固定されている。そして、前側紐状部23aの両端部と後側紐状部23bの両端部とが退避部22のベントホール21a〜21dを貫通してエアバッグ本体2の内部で連結部24、25によって連結されている。
【0026】
連結部24、25は、それぞれ一対で設けられた蓋部材24a、24bおよび蓋部材25a、25bが組み合わされて構成されている。蓋部材24a、24bと蓋部材25a、25bは、ベントホール21a〜21dを閉塞可能な大きさの円板状に形成されており、前側紐状部23aと後側紐状部23bの端部にそれぞれ接続されている。
【0027】
前側紐状部23aは、その一端に蓋部材24aが設けられ、他端に蓋部材25aが設けられている。また、後側紐状部23bは、その一端に蓋部材25bが設けられ、他端に蓋部材24bが設けられている。より具体的には、前側紐状部23aは、その一端が乗員側からベントホール21aを貫通して蓋部材24aに接続され、他端がドア側からベントホール21cを貫通して蓋部材25aに接続されている。
【0028】
一方、後側紐状部23bは、その一端が乗員側からベントホール21bを貫通して蓋部材25bに接続され、他端がドア側からベントホール21dを貫通して蓋部材24bに接続されている。そして、これらの蓋部材のうち、蓋部材24aと蓋部材24bとが盤面で接合されて連結され、蓋部材25aと蓋部材25bとが盤面で接合されて連結されている。
【0029】
本実施形態では、蓋部材24a及び蓋部材24b、また、蓋部材25a及び蓋部材25bは、縫い合わされることで接合されており、それぞれ、連結部24および連結部25に所定以上の引っ張り力が作用した際に連結が外れる仕組みとなっている。
【0030】
なお、前側紐状部23aと後側紐状部23bとは、エアバッグ本体2(退避部22)の内部で互いに交差しており、交差部分に連結部24、25が配されている。この結果、紐状部材23は上面視において八の字状とされる。このような前側紐状部23a、後側紐状部23bと蓋部材24a、24bおよび蓋部材25a、25bとにより、環状の紐状部材23が構成されている。
【0031】
紐状部材23は、エアバッグ本体2の退避部22の車幅方向への膨張および退避部22の外側の接触部26の膨張を規制している。即ち、エアバッグ本体2の外周を囲む前側紐状部23aと後側紐状部23bとが連結部24,25で互いに連結されているので、前側紐状部23a、後側紐状部23bの長さの分でしか接触部26は膨張できない。
【0032】
従って、この状態では紐状部材23によりエアバッグ本体2の膨張が規制される。また、紐状部材23は、退避部22において前側紐状部23aと後側紐状部23bとが互いに交差するように貫通されているので、退避部22は、紐状部材23によって車幅方向への展開幅が抑制されることとなる。
【0033】
このように、エアバッグ本体2がドア6と乗員Iとの間に展開されて小柄な乗員Iと接触して乗員を保護することができる。この場合に、本実施形態のエアバッグ本体2では、紐状部材23とベントホール21により退避部22の車幅方向への膨張が抑制される。これにより、展開時に乗員Iの骨盤部分とエアバッグ本体2との接触を緩和しているので、比較的衝撃耐性の低い所定の部位をより適切に保護することができる。
【0034】
また、紐状部材23はエアバッグ本体2の接触部26の車両前後方向への膨張を規制するので、乗員Iとドア6との間を埋めることができ、小柄な乗員の体格に合わせてより適切に乗員を保護することができる。
【0035】
以下、図4〜6を用いて標準体型以上の乗員IIが着座している場合について説明する。
【0036】
図4に示すように、標準体型以上の乗員IIが着座している場合には、エアバッグ本体2は、小柄な乗員I(図1参照)が着座している場合とは異なる形態で展開されている。具体的に、エアバッグ本体2の展開状態について説明する。エアバッグ本体2は、側面視において、シート4に着座した乗員IIの肩部から臀部及び大腿部に対応して展開するように設けられている。
【0037】
エアバッグ本体2の展開長(展開時の車両の前後方向の長さ)は、小柄な乗員Iが着座している場合(図1参照)よりも長い。即ち、小柄な乗員I(図1参照)が着座した状態では、前側紐状部23aと後側紐状部23bとを連結する蓋部材24a、24bおよび蓋部材25a、25bが互いに連結された状態であるから、紐状部材23によりエアバッグ本体2が規制されて展開長が短い。
【0038】
これに対し、乗員IIが着座している場合には、詳しくは後述するが、前側紐状部23aと後側紐状部23bとを連結する蓋部材24aと蓋部材24b、蓋部材25aと蓋部材25bとが互いに分離されることで連結部24、25における連結が解除され、紐状部材23によりエアバッグ本体2の車両前後方向への膨張が規制されなくなるので、車両前後方向での展開長が長くなる。
【0039】
また、前側紐状部23aと後側紐状部23bとを連結する連結部24、25が分離されることで、図4に示す形態では、エアバッグ本体2は、複数のベントホール21が蓋部材24a、24bおよび蓋部材25a、25bにより内側より閉塞された状態となる。これにより、標準体型以上の乗員IIが着座した場合には、退避部22(図1参照)が車幅方向に膨張される。ベントホール21a〜21dが、それぞれ蓋部材24a、24bおよび蓋部材25a、25bにより閉塞されて退避部22が車幅方向に膨張されるので、乗員IIの骨盤に対応する位置はエアバッグ本体2が接触している。
【0040】
図7、8を用いてエアバッグ本体2の展開について詳細に説明する。
【0041】
標準体型以上の乗員IIが着座している場合であっても、エアバッグ本体2の膨張開始時には、図8(1)に示すように、小柄な乗員I(図1参照)が着座している場合と同様に、退避部22の車幅方向への膨張と接触部26の前後方向での膨張が規制された状態でエアバッグ本体2が展開される。即ち、エアバッグ本体2では、紐状部材23はこの場合にエアバッグ本体2の退避部22および接触部26の膨張を規制し、乗員IIとドア6との間に介在して乗員を保護している。
【0042】
ここで、図6に示すように標準体型以上の乗員IIが着座している場合には、乗員IIとドア6との間が狭く、エアバッグ本体2の車幅方向での展開幅が規制される。そうすると、エアバッグ本体2は、それ以上車幅方向に膨張できないため、車両の前後方向に膨張しようとする。この時に、エアバッグ本体2の車両の前後方向における圧力が高まり、所定の圧力を超え、エアバッグ本体2に固定されている前側紐状部23a、後側紐状部23bが車両の前後方向に引っ張られる(図8(2)参照)。
【0043】
これにより、図7(2)に示すように、連結部24,25に引っ張り力が作用し、蓋部材24aと蓋部材24bおよび蓋部材25aと蓋部材25bを縫い合わせていた糸が破断され、連結部24,25の連結、すなわち前側紐状部23aと後側紐状部23bとの連結による規制が解除される。
【0044】
そして、紐状部材23が車両の前後方向に引っ張られることで、図8(3)に示すように、エアバッグ本体2内部の蓋部材24a、24bおよび蓋部材25a、25bがそれぞれベントホール21a〜21dに引っ掛かり、ベントホール21a〜21dを内側から閉塞する。具体的には、ベントホール21aが蓋部材24aで、ベントホール21bが蓋部材25bで、ベントホール21cが蓋部材25aで、ベントホール21dが蓋部材24bで塞がれる。
【0045】
これにより、エアバッグ本体2内部のガスがベントホール21から外に排出されないので退避部22が膨張される。さらに、エアバッグ本体2の車両の前後方向における長さ(展開長)が長くなる。即ち、図1に示すように、小柄な乗員Iが着座している場合には展開幅(車両の左右方向における幅)が広く、図6に示すように、乗員IIが着座している場合には展開長が長い。また、標準体型以上の乗員IIが着座している場合には小柄な乗員Iが着座している場合に比べて展開幅が均一になる。
【0046】
このように、本実施形態のエアバッグ装置では、小柄な乗員Iが着座している場合には、エアバッグ本体2にかかる圧力が比較的小さく、連結部24、25の連結が維持されるので前側紐状部23a、後側紐状部23bによりエアバッグ本体2の展開が規制される。そして、標準体型以上の乗員IIが着座している場合には、ドア6と乗員IIとの間隔が狭いので、エアバッグ本体2にかかる圧力が大きく、所定の圧力以上の圧力が印加されると、前側紐状部23aおよび後側紐状部23bが蓋部材24a、24bおよび蓋部材25a、25bを引っ張って連結部24,25の連結が外れ、紐状部材23による規制が解除される。
【0047】
このとき、同時に蓋部材24a、24bおよび蓋部材25a、25bが、前側紐状部23aと後側紐状部23bによって移動され、それぞれベントホール21a〜21dをエアバッグ本体2内部側から閉塞することができるのである。
【0048】
従って、本実施形態では、退避部22と退避部22の車幅方向への膨張を規制する前側紐状部23aおよび後側紐状部23bと、蓋部材24a、24bおよび蓋部材25a、25bから構成されて前側紐状部23aと後側紐状部23bとを連結する連結部24,25とを設けていることで、乗員の体格に応じて膨張時のエアバッグ本体2の展開の状態を変更することが可能である。
【0049】
即ち、本実施形態のエアバッグ本体2は、小柄な乗員Iについては骨盤に対応する位置に退避部22が形成され、比較的耐性の低い骨盤には直接エアバッグ本体2本体が当たらず、接触部26により乗員Iの比較的耐性の高い大腿部等を適切に保護することができる。
【0050】
他方で、標準体型以上の乗員IIの場合には、乗員IIとドア6との間隔が狭いことからエアバッグ本体2に過大な圧力が入力され、紐状部材23による規制が外れて乗員IIとドア6との間にエアバッグ本体2が車両前後方向により大きく膨張する。標準体型以上の乗員IIについては退避部22が形成されないが、小柄な乗員Iに比べて骨盤に対応する位置の衝撃耐性が高いので、乗員IIとドア6との間により大きなエアバッグ本体2が介在し乗員IIを適切に保護することができる。この場合に、エアバッグ本体2は均一な展開幅で、かつ、均一な内圧で展開することで乗員をより適切に保護できる。
【0051】
このように、本実施形態のエアバッグ本体2では、新たに検出手段等を用いずに簡易に乗員の体型に応じてその展開状態を変更することができると共に、小柄な乗員をより適切に保護することができる。
【0052】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されない。上述した実施形態では、紐状部材23が一組しか設けられていないが、複数設けられていてもよい。例えば、退避部22の乗員側とドア側のベントホール21をそれぞれ4つずつ設け、紐状部材23を二組設置しても良い。この場合、退避部22での膨張がより確実に抑制される。
【0053】
また、上述した実施形態では、前側紐状部23aと後側紐状部23bとを交差するように連結しているが、これに限定されるものではなく、例えば、前側紐状部23aの一端と他端、後側紐状部23bの一端と他端を連結する構成としてもよい。この場合でも本実施形態と同様の効果、即ち、乗員の体型に合わせて展開することができると共に小柄な乗員をより適切に保護することができる。
【0054】
また、上述した実施形態では、エアバッグ本体2の外形は矩形状であるが、これに限定されない。例えば、人体の側面形状に応じた異なる形状であってもよい。
【0055】
また、上述した実施形態において、さらにエアバッグ本体2内部にガスの流路を規制するための流路規制手段が設けられていても良い。例えば、流路規制手段として先に膨張させたい領域に向かってガスが流れるように流路を規制するステッチを設けても良い。
【0056】
また、上述した実施形態では、ベントホールを4つとしたが、穴数はこれに限定されない。退避部の位置や形状に合わせて形成することができる。また、必要に応じて退避部以外の場所にベントホールを形成してもよい。
【0057】
また、退避部の形成位置も限定されない。例えば、本実施形態では小柄な乗員Iの骨盤に対してエアバッグ本体2からの入力を低減することができるように設けているが、これに限定されず、例えば肩部に対応して退避部を設けてもよい。また、退避部を複数の部位に対応する位置に設定してもよい。
【0058】
また、上述した実施形態では蓋はそれぞれ縫い合わさって接合されていたが、これに限定されない。所定の圧力を印加すれば互いに接合を解除することができれば、例えば、接着剤により接合されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のサイドエアバッグ装置は構成が簡易で、かつ、乗員の体型に合わせて展開できると共に小柄な乗員をより適切に保護する。従って、自動車製造産業において利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 サイドエアバッグ装置
2 エアバッグ本体
3 インフレータ
4 シート
5 シートバック
6 ドア
21a〜21d ベントホール
22 退避部
23 紐状部材
23a 前側紐状部
23b 後側紐状部
24、25 連結部
24a、24b、25a、25b 蓋部材
26 接触部
I 乗員(小柄)
II 乗員(標準体型以上)
図1
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図8