(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0023】
(実施形態1)
本発明に係る定着加圧ロールは、画像形成装置の定着部において未定着トナー像を熱と圧力で記録媒体に定着するために用いられるものであり、後述する加圧ロール及び定着ロールが例示される。本実施形態では、定着加圧ロールの一例として、加圧ロールを例示する。
【0024】
図1は、本実施形態に係る加圧ロールの横断面図及び縦断面図である。加圧ロール1は、芯体10と、芯体10の周囲に設けられた弾性層11と、弾性層11の周囲に設けられた離型層12とを具備する。
【0025】
本実施形態に係る弾性層11は、シリコーンゴム原料と、マイクロ樹脂バルーンと、水とを混合して分散した後、シリコーンゴム原料を硬化(加熱)することにより得られたシリコーンゴムで構成され、シリコーンゴムは、マイクロ樹脂バルーンで形成された空隙と、かかる空隙よりも小さい水の蒸発により形成された空隙とを含む。
【0026】
ここで、マイクロ樹脂バルーンで形成された空隙とは、シリコーンゴム原料を硬化する際、マイクロ樹脂バルーンの軟化温度以上で加熱することにより、マイクロ樹脂バルーンが破壊されてできた空間をいう。破壊とは、マイクロ樹脂バルーンが割れる、ひび割れる又は収縮する等、加熱によりシリコーンゴム原料を硬化する前の状態とは異なった状態になったもの全てを含むものとする。一方、水の蒸発により形成された空隙とは、シリコーンゴム原料を硬化する際、水の蒸発温度以上で加熱することにより、水が蒸発してできた小さな空間(気泡)をいう。
【0027】
弾性層11中では、このような大きさの異なる空隙、すなわち、マイクロ樹脂バルーンで形成された空隙と、水の蒸発により形成された小さい(微細な)空隙は均一に分散した状態で保持される。さらに、マイクロ樹脂バルーンで形成された空隙と、水の蒸発により形成された小さい空隙は、部分的に接触しながらロールの軸方向全体に亘り連通状態を形成する。これにより、詳細は後述するが、弾性層11の多孔性は優れたものとなり、ロールの軸方向全体に亘りロール硬度が低くなる。また、弾性層の連通状態は、大きさの異なる空隙で形成されるため、空隙間の連通性は良好になる。これにより、弾性層から空気が抜けやすくなり、加熱による膨張が抑制される。この結果、弾性層は低熱膨張率となる。さらに、マイクロ樹脂バルーンを配合することにより弾性層の低熱容量化も可能となる。
【0028】
加圧ロール1を構成する芯体10は、金属又は樹脂材料からなる。金属又は樹脂材料は、加圧ロール1の芯体として用いることができるものであれば、特に制限はない。また、芯体10の形状についても制限はなく、中空であっても、中空でなくてもよい。
【0029】
弾性層11を構成するシリコーンゴム原料は、加熱により硬化して弾性体を生成するシリコーンゴムであれば特に制限されず、液状シリコーンゴムやミラブル型シリコーンゴムを用いることができる。このようなシリコーンゴム原料は市販されているものを用いることができ、勿論、2種類以上を併用してもよい。
【0030】
マイクロ樹脂バルーンは、液化ガス又はガスを熱可塑性高分子殻で包み込んだものである。本実施形態で用いるマイクロ樹脂バルーンは、加熱により熱可塑性高分子殻が破壊され、弾性層11中に空隙を形成する。マイクロ樹脂バルーンが割れることで破壊された場合、熱可塑性高分子殻に包含されていた液化ガス又はガスは揮発除去され、割れたマイクロ樹脂バルーンの部分には、上述した空隙が形成される。また、マイクロ樹脂バルーンがひび割れた状態又は収縮した状態で破壊された場合、マイクロ樹脂バルーンはそのままの状態で上述した空隙を形成する。このため、マイクロ樹脂バルーンの空隙は、破壊のされ方により大きさが異なるものとなる。具体的には、空隙の大きさは当初のマイクロ樹脂バルーンの平均粒径とほぼ同一、これより大きい又は小さいものとなる。なお、破壊された空間にマイクロ樹脂バルーンが存在するか存在しないかは問わないものとする。
【0031】
このようなマイクロ樹脂バルーンは、未膨張のものでも既膨張のものでも用いることができる。マイクロ樹脂バルーンの平均粒径は、未膨張のものは約6μm〜45μm、既膨張のものは、約20μm〜130μmの範囲にある。マイクロ樹脂バルーンの破壊により形成された空隙の内径は、既膨張のマイクロ樹脂バルーンを用いた場合、破壊前の平均粒径と同程度となることが好ましい。例えば、平均粒径40μm〜60μmの既膨張のマイクロ樹脂バルーンを用いた場合、破壊後の空隙の内径は、20μm〜80μmの範囲で分布されることが好ましく、30μm〜70μmの範囲で分布されることがより好ましい。
【0032】
未膨張のマイクロ樹脂バルーンを用いた場合、通常は破壊前の平均粒径より数倍〜数十倍大きくなる。例えば、平均粒径10μm〜16μmの未膨張のマイクロ樹脂バルーンを用いた場合、破壊後の空隙の内径は、20μm〜200μmの範囲で分布されることが好ましく、50μm〜100μmの範囲で分布されることがより好ましい。
【0033】
なお、本実施形態におけるマイクロ樹脂バルーンの平均粒径とは、レーザー回折散乱式粒度分布計により測定されたメジアン径(D50)の値のことである。内径の分布とは、電子顕微鏡写真に基づき、マイクロ樹脂バルーン毎の空隙の内径を測定し、算出した範囲をいう。
【0034】
また、これらのマイクロ樹脂バルーンは、市販されているものを用いることができ、2種類以上を併用してもよい。なお、シリコーンゴム原料として、液状シリコーンゴムを用いる場合は未膨張又は既膨張のマイクロ樹脂バルーンが好ましく、ミラブル型シリコーンゴムを用いる場合は混練時にバルーンが破壊しにくい未膨張のマイクロ樹脂バルーンが好ましい。
【0035】
マイクロ樹脂バルーンの配合量は、水の配合量や、後述する界面活性剤の配合量に応じて適宜選択することができる。通常、シリコーンゴム原料100質量部に対して、0.5質量部〜7.5質量部が好ましく、1質量部〜5質量部がより好ましい。これは、弾性層11中でマイクロ樹脂バルーンが均一に安定して分散できる量である。なお、マイクロ樹脂バルーンの配合量が少なすぎると十分なロール硬度の低下が達成し難く、多すぎると粘度が上昇し成型が不可能になる。
【0036】
シリコーンゴム原料に混合される水は、弾性層11中で加熱により蒸発し、マイクロ樹脂バルーンで形成された空隙よりも小さい空隙を形成する。このような小さい空隙は、マイクロ樹脂バルーンで形成された空隙と部分的に接触しながら、ロールの軸方向全体に亘り連通状態を形成し、弾性層11の多孔性を発現する。このため、水の蒸発により形成された小さい空隙は、弾性層11中で均一に分散されることが好ましい。
【0037】
このような水としては、シリコーンゴム原料に混合できればよく、例えば、精製水、蒸留水、イオン交換水及び水道水等を用いることができる。混合時の水の温度についても制限はなく、例えば、加熱した水を混合してもよい。水の配合量は、マイクロ樹脂バルーンの配合量や、後述する界面活性剤の配合量に応じて適宜選択することができる。通常、シリコーンゴム原料100質量部に対して、5質量部〜100質量部が好ましく、15質量部〜60質量部がより好ましい。これは、弾性層11中で水がマイクロ樹脂バルーンと共に均一に安定して分散できる量である。
【0038】
弾性層11中では、大きさの異なる空隙、即ち、マイクロ樹脂バルーンで形成された空隙と、水の蒸発により形成された小さい空隙により連通状態が形成されるため、空隙間の連通性は良好なものとなる。
【0039】
このような連通性をより良好にするためには、シリコーンゴム原料に予め界面活性剤を配合することが好ましい。界面活性剤を配合することにより、シリコーンゴム原料中でマイクロ樹脂バルーンと水は均一に混合され分散される。そして、この均一な分散状態のままシリコーンゴム原料を硬化させることにより、マイクロ樹脂バルーンで形成された空隙と、水の蒸発により形成された小さい空隙は、弾性層11全体に亘り均一に分散されて形成される。これにより、空隙間の連通性は一層良好となり、弾性層11のロール硬度及び熱膨張率は確実に低下する。
【0040】
界面活性剤には、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤がある。アニオン性界面活性剤としては、例えば、親水基がスルホン酸塩型、硫酸エステル塩型、カルボン酸塩型、リン酸塩型のものを挙げることができる。カチオン性界面活性剤としては、例えば、親水基がアンモニウム塩型、四級アンモニウム塩型、ピリジウム塩型のものを挙げることができる。両性界面活性剤としては、例えば、親水基がアミノ酸塩型、ベタイン型のものを挙げることができる。ノニオン性界面活性剤としては、例えば、親水基がポリオキシエチレンエーテル、グリコシド、グリセリルエーテル、ポリエーテルのものを挙げることができる。また、上記界面活性剤の疎水基としては、アルキル鎖、不飽和結合を含むアルキル鎖、ベンゼン環を有するアルキル鎖、フッ化炭素鎖、シリコーン等を挙げることができる。界面活性剤の種類は、特に制限されず、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本実施形態ではシリコーンゴム原料中でのマイクロ樹脂バルーンと水との混合及び分散のし易さに鑑みて、ノニオン性界面活性剤を用いることが好ましい。特に、ノニオン性界面活性剤の中でもポリエーテル変性シリコーンを用いることが好ましい。なお、界面活性剤の配合量は、通常、シリコーンゴム原料100質量部に対して、1質量部〜10質量部が好ましい。
【0041】
弾性層11の厚さは、例えば、0.5mm〜20mmであり、好ましくは、2mm〜6mmである。これは、トナーの定着性を向上させ、画像の高画質化を図るためである。
【0042】
離型層12は、高い離型性の合成樹脂材料からなるのが好ましく、フッ素樹脂等を挙げることができる。フッ素樹脂としては、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)等を挙げることができ、特にパーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)が好ましい。離型層12の厚さは、定着加圧ロールに高い離型性を付与できる厚さであれば、特に制限はないが、例えば、1μm〜100μmであり、好ましくは、30μm〜70μmである。なお、離型層12は設けなくてもよい。離型層12を設けない場合は、例えば、後述する実施形態3に示すような定着ベルト20の定着ロール30Aとして用いることが好ましい(
図4参照)。
【0043】
次に、本実施形態の加圧ロールを製造する方法について以下に説明する。
【0044】
本実施形態では、シリコーンゴム原料として液状シリコーンゴムを用いて加圧ロール1を製造する場合について例示する。まず、液状シリコーンゴムに、マイクロ樹脂バルーンと水とを混合して分散させ、シリコーンゴム組成物を調製する。本実施形態では、液状シリコーンゴム中におけるマイクロ樹脂バルーンと水との混合性及び分散性を高めるため、さらに界面活性剤を配合する。
【0045】
次に、金型に芯体10を配置し、芯体10の周りにシリコーンゴム組成物を充填し、シリコーンゴム組成物を加熱硬化する。具体的には、最初に水の蒸発温度以下でシリコーンゴム原料を硬化する。次いで、マイクロ樹脂バルーン、すなわち、熱可塑性高分子殻の軟化温度以上且つ水の蒸発温度以上で加熱し、シリコーンゴム組成物中のマイクロ樹脂バルーンを割れた状態、ひび割れた状態又は収縮した状態に破壊すると共にシリコーンゴム組成物中の水を蒸発させる。これにより、弾性層11中にマイクロ樹脂バルーンの破壊により形成された空隙と水の蒸発により形成された空隙が弾性層11全体に亘り形成される。
【0046】
なお、シリコーンゴム組成物に含有されるシリコーンゴム原料の硬化温度、マイクロ樹脂バルーンの軟化温度及び水の蒸発温度は異なるため、それぞれの反応(硬化、軟化及び蒸発)が起こる順に加熱しても良いし、少なくとも二つの反応を同時に起こすように加熱しても良い。このように、加熱方法及び加熱回数は制限されない。
【0047】
次に、弾性層11の周囲に離型層12を形成する。離型層12は、PFAチューブを用いる他、例えばコーティング液の塗布により形成してもよい。また、最初にシリコーンゴム原料を加熱して硬化した後に離型層12を形成し、その後、さらに水の蒸発温度以上で加熱したり、マイクロ樹脂バルーンの軟化温度以上で加熱してもよい。
【0048】
このようにして製造された加圧ロール1は、ロールの軸方向全体に亘りロール硬度が低く、低熱容量且つ低熱膨張率となる。これは、加圧ロール1を構成する弾性層11中で、マイクロ樹脂バルーンの破壊により形成された空隙と水の蒸発により形成された小さい空隙が部分的に接触しながら、弾性層11全体に亘り連通状態を形成することにより弾性層から空気が抜けやすくなることに起因する。このような優れた連通状態は、シリコーンゴム原料中に界面活性剤を配合することにより効果的に達成される。
【0049】
なお、加圧ロール1は、ミラブル型シリコーンゴムを用いて製造することもできる。この場合、ミラブル型シリコーンゴムにマイクロ樹脂バルーン、水及び界面活性剤を加えてシリコーンゴム組成物を調製する。その後、例えば、シリコーンゴム組成物を押出し成形し、芯体を挿入して加熱硬化させ、PFAチューブ等からなる離型層を周囲に形成する。
【0050】
次に、定着装置について説明する。
図2に、本実施形態に係る定着装置の断面図を示す。
図2に示すように、定着装置2は、実施形態1に係る加圧ロール1と、加圧ロール1に対向して配置される定着ベルト20と、加圧ロール1に対向する位置で定着ベルト20を内側から加圧ロール1に対して押圧して所定のニップを形成する押圧部材21と、定着ベルト20を所定温度まで加熱する加熱手段22とを具備するものである。
【0051】
定着ベルト20は、対向する加圧ロール1との圧接により所定のニップを形成できるものであればよく、例えば、シームレス電鋳ベルトを少なくとも一層有する金属基体と、金属基体の内周面に形成された摺動層と、金属基体の外周面に形成された弾性層と、弾性層の外周面に形成された離型層とからなる。
【0052】
押圧部材21は、ゴム等の弾性体及び樹脂、金属等から構成される。表面には、必要に応じてフッ素樹脂等からなる層が形成されることや、摺動シートや溝等が設けられることもある。また、摺動シートの表面に凹凸加工が施されていてもよい。
【0053】
加熱手段22は、定着ベルト20を加熱できるものであればよく、定着ベルト20の外側に設けられていてもよい。加熱手段22としては、ハロゲンヒーター、電熱線ヒーター、赤外線ヒーター、励磁コイル(熱源)による電磁誘導発熱等を挙げることができる。なお、加熱手段22は、押圧部材21に内蔵されていてもよい。
【0054】
本実施形態の定着装置2は、ロールの軸方向全体に亘り、ロール硬度が低く、低熱容量且つ低熱膨張率の加圧ロール1を具備するものである。これにより、定着部において定着幅が広く確保され、トナーの定着性を向上させることができる。さらに、加圧ロール1が加熱されても、熱膨張によるロール径の変化等の不都合が生じず、定着速度の制御が容易になる。この結果、定着性能に優れた信頼性の高い定着装置を実現することができる。
【0055】
(実施形態2)
実施形態2では、定着加圧ロールの一例として、定着ロール及び加圧ロールを例示する。なお、実施形態1と同一部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0056】
図3に、実施形態2に係る定着ロール及び加圧ロールを具備する定着装置の断面図を示す。
図3に示すように、定着装置2Aは、加圧ロール1と、加圧ロール1に対向して配置される定着ベルト20と、押圧部材の代わりに、定着ベルト20を内側から加圧ロール1に対して押圧する定着ロール30とを具備する。定着ロール30には、図示されない加熱手段が外側に配置されている。本発明の定着加圧ロールは、
図3に示す定着ロール30としても、加圧ロール1としても使用することができる。
【0057】
(実施形態3)
実施形態3では、定着加圧ロールの一例として、定着ロール及び加圧ロールを例示する。なお、実施形態1と同一部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0058】
図4に、実施形態3に係る定着ロール及び加圧ロールを具備する定着装置の断面図を示す。
図4に示すように、定着装置2Bは、加圧ロール1と、加圧ロール1に対向して配置される定着ベルト20と、定着ベルト20を内側から加圧ロール1に対して押圧する定着ロール30Aと、加熱手段22を内蔵する加熱ロール23とを具備する。定着ベルト20の内側には、定着ロール30Aと加熱ロール23とが配置され、これらの定着ロール30Aと加熱ロール23とで定着ベルト20を回転駆動するものである。本発明の定着加圧ロールは、
図4に示す定着ロール30Aとしても、加圧ロール1としても使用することができる。
【0059】
(実施形態4)
実施形態4では、定着加圧ロールの一例として、定着ロール及び加圧ロールを例示する。実施形態1と同一部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0060】
図5に、実施形態4に係る定着ロール及び加圧ロールを具備する定着装置の断面図を示す。
図5に示すように、定着装置2Cは、加圧ロール1と、加圧ロール1に対向して配置される定着ロール30Bとを具備する。定着ロール30Bには、図示されない加熱手段が内蔵されている。本発明の定着加圧ロールは、
図5に示す定着ロール30Bとしても、加圧ロール1としても使用することができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明を限定するものではない。
【0062】
(実施例1)
以下の手順で、加圧ロール1を製造した。液状シリコーンゴム(東レダウコーニング製:DY39−796)100質量部に対し、マイクロ樹脂バルーン(松本油脂製薬製:F−65DE、既膨張、平均粒径40〜60μm)3質量部の表面に精製水15質量部を付着させたものと、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(東レダウコーニング製:ES−5612)5質量部とを加え、ホバートミキサーにて10分間攪拌して、シリコーンゴム組成物を調製した。
【0063】
次に、東レダウコーニング製プライマーを塗布乾燥した直径18mmの鉄製芯体を下フランジに立て、上フランジを載せ固定した後、下フランジ側から注型機にて調製したシリコーンゴム組成物を充填した。90℃の恒温槽に90分間入れ、シリコーンゴム組成物を加熱硬化し弾性層11を作製した。その後、冷却して脱型し、弾性層11の表面に接着剤を塗布し、離型層12としてPFAチューブを被せた。次いで、210℃の恒温槽で8時間加熱することにより、芯体10と、弾性層11とPFAチューブからなる離型層12とを備えた外径φ30mmの加圧ロール1を得た。
【0064】
また、加圧ロール1の作製と共に、弾性層11からなるテストピースを作製した。テストピースは、調製したシリコーンゴム組成物を、6mm厚のテストピース型に流し込み90℃の熱盤で90分間加熱し、テストピースを取り出した後、210℃の恒温槽で8時間加熱することにより作製した。
【0065】
(実施例2)
実施例2では、液状シリコーンゴムに対し、マイクロ樹脂バルーンの表面に精製水30質量部を付着させたものを加えた以外は実施例1と同様の工程で加圧ロール1を作製した。また、実施例1と同様の手順で弾性層11からなるテストピースを作製した。
【0066】
(実施例3)
実施例3では、液状シリコーンゴムに対し、界面活性剤2質量部を加えた以外は実施例2と同様の工程で加圧ロール1を作製した。また、実施例1と同様の手順で弾性層11からなるテストピースを作製した。
【0067】
(実施例4)
実施例4では、液状シリコーンゴムに対し、界面活性剤を加えない以外は実施例2と同様の工程で加圧ロール1を作製した。また、実施例1と同様の手順で弾性層11からなるテストピースを作製した。
【0068】
(実施例5)
実施例5では、液状シリコーンゴムに対し、マイクロ樹脂バルーンの表面に精製水45質量部を付着させたものを加えた以外は実施例2と同様の工程で加圧ロール1を作製した。また、実施例1と同様の手順で弾性層11からなるテストピースを作製した。
【0069】
(実施例6)
実施例6では、液状シリコーンゴムに対し、マイクロ樹脂バルーン1質量部の表面に精製水60質量部を付着させたものを加えた以外は実施例1と同様の工程で加圧ロール1を作製した。また、実施例1と同様の手順で弾性層11からなるテストピースを作製した。
【0070】
(実施例7)
実施例7では、液状シリコーンゴムに対し、マイクロ樹脂バルーン5質量部の表面に精製水30質量部を付着させたものを加えた以外は実施例2と同様の工程で加圧ロール1を作製した。また、実施例1と同様の手順で弾性層11からなるテストピースを作製した。
【0071】
(実施例8)
実施例8では、液状シリコーンゴムに対し、マイクロ樹脂バルーンの表面に精製水60質量部を付着させたものを加えた以外は実施例7と同様の工程で加圧ロール1を作製した。また、実施例1と同様の手順で弾性層11からなるテストピースを作製した。
【0072】
(比較例1)
比較例1では、液状シリコーンゴムに対し、精製水及び界面活性剤を加えない以外は実施例1と同様の工程で加圧ロール1を作製した。また、実施例1と同様の手順で弾性層11からなるテストピースを作製した。
【0073】
(試験例1)
実施例1〜8、比較例1に基づき作製したテストピース(以下、「弾性体」という)の連泡率(%)及び熱膨張率(%)をそれぞれ測定した。また、液状シリコーンゴムの硬化(加硫)後の弾性体割れの有無により成型の可否を判断した。表1に、実施例1〜8、比較例1の弾性体のシリコーンゴム組成物の構成、連泡率、熱膨張率の測定結果及び成型の可否の判断結果を示す。なお、成型の可否の判断は、成型可能の場合は○、ゴム粘度がやや高いが成型可能の場合は△とした。
【0074】
連泡率は、下記式1を使用して、弾性体を水中に入れ5分間減圧した後、常圧に戻した時の吸収量から求めた。なお、水の比重は1g/cm
3とする。
【0075】
[式1]
[(水吸収後の弾性体重量−水吸収前の弾性体重量)/[(1−(弾性体比重/硬化シリコーンゴム組成物の比重))×(水吸収前の弾性体重量/弾性体比重)]]×100
【0076】
熱膨張率は、下記式2を使用して、弾性体を25℃から200℃まで恒温槽で加熱したときの厚さ寸法の変化から求めた。
【0077】
[式2]
[(加熱後の弾性体厚さ−加熱前の弾性体厚さ)/(加熱前の弾性体厚さ)]×100
【0078】
マイクロ樹脂バルーン及び精製水(以下、単に「水」という)を含み、界面活性剤を含まない実施例4の弾性体と、マイクロ樹脂バルーンのみを含む比較例1の弾性体とを比較すると、実施例4の弾性体は、比較例1の弾性体より連泡率が約10倍高く、熱膨張率は低い値を示した。この結果、液状シリコーンゴムにマイクロ樹脂バルーンだけでなく、水を配合することにより、連泡性を高め、即ち、硬度を低くでき、且つ熱膨張率を低くできることがわかった。
【0079】
また、マイクロ樹脂バルーン、水及び界面活性剤を含む実施例2,3の弾性体と、マイクロ樹脂バルーン及び水を含み、界面活性剤を含まない実施例4の弾性体とを比較すると、実施例2,3の弾性体は、実施例4の弾性体より連泡率が約2〜3倍高く、熱膨張率は低い値を示した。この結果、液状シリコーンゴムにマイクロ樹脂バルーン及び水だけでなく、さらに界面活性剤を配合することにより、硬度及び熱膨張率を一層低くできることがわかった。
【0080】
これは、液状シリコーンゴムに界面活性剤を配合することにより、マイクロ樹脂バルーンで形成された空隙と水の蒸発により形成された小さい空隙とで良好な連通状態が形成されたからである。なお、このような連通状態は、後述する試験例2のレーザー顕微鏡による観察で確認されている。
【0081】
なお、マイクロ樹脂バルーン、水及び界面活性剤を含む実施例1〜3、実施例5〜8の弾性体は、マイクロ樹脂バルーンのみを含む比較例1の弾性体と比べて、いずれも連泡率が高く、熱膨張率は低い値を示した。この結果からも液状シリコーンゴムにマイクロ樹脂バルーン、水及び界面活性剤を配合することで硬度及び熱膨張率を低くできることがわかった。
【0082】
また、成型の可否については、実施例1〜8、比較例1のいずれの弾性体も、成型可能○、又はゴム粘度がやや高いが成型可能△であると判断され、成型に際し問題がないことがわかった。
【0083】
【表1】
【0084】
(試験例2)
上記の手順で形成した実施例1及び比較例1の弾性体をレーザー顕微鏡(キーエンス製レーザー顕微鏡VK−100)を用いて観察した。
【0085】
図6(a)、(b)に、倍率1000倍で観察した実施例1及び比較例1の弾性体のレーザー顕微鏡写真をそれぞれ示す。
【0086】
図6(a)に示すように、実施例1の弾性体は、約20μm〜100μmのマイクロ樹脂バルーンが弾性体全体に亘って存在し、マイクロ樹脂バルーンの間には、約2μm〜10μmの水の蒸発に起因する多数の微細な(小さい)空隙が弾性体全体に亘って形成されていた。また、マイクロ樹脂バルーンで形成された空隙と水の蒸発により形成された微細な空隙は、部分的に接触しており、連通状態を形成していることが確認された。
【0087】
一方、
図6(b)に示すように、比較例1の弾性体は、約20μm〜100μmのマイクロ樹脂バルーンが弾性体全体に亘って存在するが、元々水を含んでいないため、実施例1で観察された微細な空隙は存在しなかった。
【0088】
よって、液状シリコーンゴムにマイクロ樹脂バルーンだけでなく、水及び界面活性剤を配合することにより、マイクロ樹脂バルーンで形成された空隙と水の蒸発により形成された微細な空隙とを弾性体中で均一に分散させて連通状態を形成できることがわかった。また、このような良好な連通状態は、界面活性剤を配合することにより効果的に達成されることがわかった。