特許第6191822号(P6191822)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191822
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】濃縮大豆蛋白質素材
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/16 20060101AFI20170828BHJP
   A23L 11/00 20160101ALI20170828BHJP
   A23L 13/70 20160101ALI20170828BHJP
   A23L 2/38 20060101ALI20170828BHJP
   A23L 33/185 20160101ALI20170828BHJP
   A23C 11/10 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   A23J3/16
   A23L11/00 A
   A23L13/70
   A23L2/38 D
   A23L33/185
   A23C11/10
【請求項の数】16
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2013-549231(P2013-549231)
(86)(22)【出願日】2012年12月7日
(86)【国際出願番号】JP2012081746
(87)【国際公開番号】WO2013089025
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2015年10月27日
(31)【優先権主張番号】特願2011-270918(P2011-270918)
(32)【優先日】2011年12月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本山 貴康
(72)【発明者】
【氏名】釘谷 博文
【審査官】 西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−519928(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/046686(WO,A1)
【文献】 特表2002−504828(JP,A)
【文献】 特開2008−237127(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/143057(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/084529(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/057554(WO,A1)
【文献】 特表2009−528847(JP,A)
【文献】 特許第5077461(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J 1/00−7/00
A23C 11/00−11/10
A23C 11/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥固形分あたりの蛋白質の総含量が80重量%以上であり、脂質含量(クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出物としての含量をいう。)が蛋白質含量に対して10重量%未満、原料由来の植物ステロールとしてのカンペステロールおよびスチグマステロールの和が脂質100gに対して230mg以上であって、加水分解物である、濃縮大豆蛋白質素材。
【請求項2】
0.22Mトリクロロ酢酸(TCA)可溶化率が4〜40%である、請求項1記載の、濃縮大豆蛋白質素材。
【請求項3】
ピックル液用である、請求項1又は2記載の濃縮大豆蛋白質素材。
【請求項4】
請求項1又は2記載の濃縮大豆蛋白質素材を含んでなるピックル液。
【請求項5】
以下の(a)〜(e)の物性を有する、請求項3記載の濃縮大豆蛋白質素材。
(a)加水分解率が0.22MTCA可溶化率で4〜40%。
(b)蛋白質中遊離アミノ酸含量が0.1〜2重量%。
(c)遊離アミノ酸中の疎水性アミノ酸の割合が35%以上。
(d)ゲル化力を保有する。
(e)NSI(Nitrogen soluble index)が70〜100%。
【請求項6】
蛋白質飲料用である、請求項1又は2記載の濃縮大豆蛋白質素材。
【請求項7】
請求項1又は2記載の濃縮大豆蛋白質素材を含んでなる蛋白質飲料。
【請求項8】
以下の(a)〜(c)の物性を持った、請求項6記載の濃縮大豆蛋白質素材。
(a)加水分解率が0.22MTCA可溶化率で4〜40%
(b)2価カチオン化合物含有量が、大豆蛋白質に対して0.05〜1重量%
(c)大豆蛋白質素材の水溶液が、pH6.7〜8。
【請求項9】
大豆蛋白質原料のスラリーまたは水溶液に対し、(A)2価カチオン化合物を添加する工程、(B)プロテアーゼを添加して蛋白質加水分解を行う工程及び(C)高温短時間加熱する工程を含む、請求項6記載の濃縮大豆蛋白質素材の製造方法。
【請求項10】
0.22MTCA可溶化率が4〜40%で、蛋白質1g当たり糖が180μmol以上結合している、請求項1記載の濃縮大豆蛋白質素材。
【請求項11】
NSIが80%以上である、請求項10記載の濃縮大豆蛋白質素材
【請求項12】
大豆蛋白質原料と還元糖を混合した後に、加熱処理を行い、続けて加水分解処理を行なう事を特徴とする、請求項10又は11記載の濃縮大豆蛋白質素材の製造方法。
【請求項13】
カゼイン代替物用である、請求項10記載の濃縮大豆蛋白質素材。
【請求項14】
乾燥固形分あたりの蛋白質の総含量が80重量%以上であり、脂質含量(クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出物としての含量をいう。)が蛋白質含量に対して10重量%未満、原料由来の植物ステロールとしてのカンペステロールおよびスチグマステロールの和が脂質100gに対して230mg以上であって、高栄養液体食品用である濃縮大豆蛋白質素材。
【請求項15】
乾燥固形分あたりの蛋白質の総含量が80重量%以上であり、脂質含量(クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出物としての含量をいう。)が蛋白質含量に対して10重量%未満、原料由来の植物ステロールとしてのカンペステロールおよびスチグマステロールの和が脂質100gに対して230mg以上である濃縮大豆蛋白質素材を含んでなる高栄養液体食品。
【請求項16】
以下(a)〜(d)の物性を持った、請求項14記載の、濃縮大豆蛋白質素材。
(a)ミネラル添加溶液粘度が15mPa・s以下で且つ、ミネラル添加溶液沈澱量が1容量%以下。
(b)濃縮大豆蛋白質素材の12重量%水溶液の、5℃における粘度が1,000mPa・s以下。
(c)濃縮大豆蛋白質素材の0.22MTCA可溶化率が11%未満。
(d)濃縮大豆蛋白質素材のNSIが70%以上。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃縮大豆蛋白質素材およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康に対する国民の意識が益々高くなり健康食品市場は大きくその市場を伸ばしている。中でも大豆は、栄養成分,生理効果の面から特に注目を浴びており、その蛋白質は蛋白補給源,抗コレステロール効果,脂肪燃焼効果等を期待されている。分離大豆蛋白質等の大豆蛋白質素材は、これらの効果を謳った粉末飲料や焼き菓子等をはじめとする健康食品開発の素材原料としては、一部利用されるようになってきた。
【0003】
これら大豆蛋白質素材は、栄養健康市場や高栄養液体食品市場においては高配合される場面が多い。しかし、高配合されることによって、大豆に元々存在したり、加工工程で発生する、アルデヒド類,ケトン類,アルコール類などの不快臭成分から成るいわゆる大豆臭が発生し、また後味として、渋味,収斂味が強く感じられるなどの問題があり、風味に関してより一層の改良を望む声が強くなっている。その中で、特許文献1のように大豆臭を低減させる手法についても考案されているが、更なる風味向上が求められている。
加えて、大豆蛋白質は室温で長期保存する中で風味の劣化が起こり易く、多くの市場から改善を求められているが、未だ十分ではない。
【0004】
また、現在大豆蛋白質を製造する上で、丸大豆からの大豆油の分離には有機溶媒であるヘキサンなどが使用されているが、消費者の健康志向の高まりや環境保護の考えから、有機溶媒を使用しない製造方法が求められてきている。その中で、特許文献2であるように有機溶媒を使用しない大豆蛋白質の製造方法についても報告されてきているが、蛋白質含量が高い分離大豆蛋白質であって長期保存可能で風味の良いものを製造する事は、未だできていない。
【0005】
ハム等の製造には、製品の保水性、抱脂性、結着性、あるいは硬さや弾力性といった食感の改良等を目的に、種々の蛋白質素材を含む、所謂ピックル液を肉に混合あるいは注入する方法が採用されている。しかしながらこれらピックル液に用いるための、ハム製品の食感、外観等が優れ、特に製品の風味に適した大豆蛋白質素材がなお切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−319046号公報
【特許文献2】WO2007/103785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、大豆臭が少なく、ゲル強度が高く、乳化物の離水が少ない濃縮大豆蛋白質素材を得ることを、併せて、その素材の調製に有期溶媒を使用しないことを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は本課題について鋭意検討する中で、丸大豆より特殊な抽出方法により得られた分離大豆蛋白質は非常に風味が良く、種々の機能を有する上に、有機溶媒の使用も避けられることを見出し、更に鋭意検討を重ねることにより、本発明を完成させた。
即ち本発明は
(1)乾燥固形分あたりの蛋白質の総含量が80重量%以上であり、脂質含量(クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出物としての含量をいう。)が蛋白質含量に対して10重量%未満、植物ステロールとしてのカンペステロールおよびスチグマステロールの和が脂質100gに対して200mg以上である、濃縮大豆蛋白質素材。
(2)加水分解物である、(1)記載の、濃縮大豆蛋白質素材。
(3)0.22Mトリクロロ酢酸(TCA)可溶化率が4〜40%である、(2)記載の、濃縮大豆蛋白質素材。
(4)ピックル液用である、(2)記載の濃縮大豆蛋白質素材。
(5)(4)記載の濃縮大豆蛋白質素材を含んでなるピックル液。
(6)以下の(a)〜(e)の物性を有する、(4)記載の濃縮大豆蛋白質素材。
(a)加水分解率が0.22MTCA可溶化率で4〜40%。
(b)蛋白質中遊離アミノ酸含量が0.1〜2重量%。
(c)遊離アミノ酸中の疎水性アミノ酸の割合が35%以上。
(d)ゲル化力を保有する。
(e)NSI(Nitrogen soluble index)が70〜100%。
(7)蛋白質飲料用である、(2)記載の濃縮大豆蛋白質素材。
(8)(7)記載の濃縮大豆蛋白質素材を含んでなる蛋白質飲料。
(9)以下の(a)〜(c)の物性を持った、(7)記載の濃縮大豆蛋白質素材。
(a)加水分解率が0.22MTCA可溶化率で4〜40%
(b)2価カチオン化合物含有量が、大豆蛋白質に対して0.05〜1重量%。
(c)大豆蛋白質素材の水溶液が、pH6.7〜8。
(10)大豆蛋白質原料のスラリーまたは水溶液に対し、(A)2価カチオン化合物を添加する工程、(B)プロテアーゼを添加して蛋白質加水分解を行う工程及び(C)高温短時間加熱する工程を含む、(7)記載の濃縮大豆蛋白質素材の製造方法。
(11)0.22MTCA可溶化率が4〜40%で、蛋白質1g当たり糖が180μmol以上結合している、(2)記載の、糖含有濃縮大豆蛋白質素材。
(12)NSIが80%以上である、(11)記載の濃縮大豆蛋白質加水分解物。
(13)大豆蛋白質原料と還元糖を混合した後に、加熱処理を行い、続けて加水分解処理を行なう事を特徴とする、(11)記載の濃縮大豆蛋白質素材の製造方法。
(14)カゼイン代替物用である、(11)記載の濃縮大豆蛋白質素材。
(15)高栄養液体食品用である、(1)記載の濃縮大豆蛋白質素材。
(16)(15)記載の濃縮大豆蛋白質素材を含んでなる高栄養液体食品。
(17)以下(a)〜(d)の物性を持った、(15)記載の、濃縮大豆蛋白質素材。
(a)ミネラル添加溶液粘度が15mPa・s以下で且つ、ミネラル添加溶液沈澱量が1容量%以下。
(b)濃縮大豆蛋白質素材の12重量%水溶液の、5℃における粘度が1,000mPa・s以下。
(c)濃縮大豆蛋白質素材の0.22MTCA可溶化率が11%未満。
(d)濃縮大豆蛋白質素材のNSIが70%以上。
(18)大豆蛋白質原料のスラリーまたは水溶液を、pH5.7〜7.4,110℃〜160℃で15〜70秒間加熱処理して調製したものである、(15)記載の濃縮大豆蛋白質素材。
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、丸大豆より風味良好な濃縮大豆蛋白質素材を有機溶媒を使用せずに得ることができ、更に種々の形態に加工することで、様々な食品で使用することができる。例えば、本発明の大豆蛋白素材は、大豆臭や渋味、収斂味等の後味の悪さがないすっきりとして風味良好であり、且つ漬け込み用ピックルに利用した場合に適度な硬さを付与する事ができる。また、高い乳化安定性を示し、カゼイン代替物用に使用することもできる。更に、低粘度で凝集物の少ない、良好な物性の高栄養液体食品を得る事ができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0011】
(濃縮大豆蛋白質素材)
本発明に用いられる濃縮大豆蛋白質素材は、大豆を由来とし、グリシニン及びβ-コングリシニンを主体とする蛋白質を主な構成成分とし、豆乳の場合は糖質、灰分などの水溶性成分も比較的多く含まれる一方で、食物繊維質は除去され、脂質は中性脂質と極性脂質が共に低減され、リポキシゲナーゼ蛋白質等のLPの含量も少ないものである。すなわち、乾燥固形分あたりの蛋白質の総含量が80重量%以上、好ましくは90重量%以上であり、脂質含量(クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出物としての含量をいう。)が蛋白質含量に対して10重量%未満、植物ステロールとしてのカンペステロールおよびスチグマステロールの和が脂質100gに対して200mg以上、であることを特徴とするものである。
【0012】
濃縮大豆蛋白質素材とは、豆乳を原料としてさらに蛋白質の純度を高めた大豆蛋白質素材であり、典型的には豆乳から糖質、灰分等の水溶性成分を除去して蛋白質の純度を高めた分離大豆蛋白質や、前記豆乳あるいは分離大豆蛋白の蛋白質をさらに分画してグリシニンあるいはβ−コングリシニンの純度を高めた分画大豆蛋白質が挙げられる。これらの分離大豆蛋白質や分画大豆蛋白質の製造は、公知の方法で大豆蛋白質原料より濃縮(分画)製造することが可能である。
【0013】
(蛋白質の各成分の組成分析)
本発明の濃縮大豆蛋白質素材を構成する蛋白質の各成分組成は、加水分解を行わない際には、
SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によりLP含量の推定としての、LCI値を分析することができる。
界面活性剤であるSDSと還元剤であるメルカプトエタノールの作用によって蛋白質分子間の疎水性相互作用、水素結合、分子間のジスルフィド結合が切断され、マイナスに帯電した蛋白質分子は固有の分子量に従った電気泳動距離を示ことにより、蛋白質に特徴的な泳動パターンを呈する。電気泳動後に色素であるクマシーブリリアントブルー(CBB)にてSDSゲルを染色した後に、デンシトメーターを用い、全蛋白質のバンドの濃さに対する各種蛋白質分子に相当するバンドの濃さが占める割合を算出する方法により求めることができる。
【0014】
(リポキシゲナーゼ蛋白質)
本発明の濃縮大豆蛋白質素材は、一般に水溶性で抽出されやすいリポキシゲナーゼ蛋白質が極めて少ないことも大きな特徴であり濃縮大豆蛋白質素材中の全蛋白質あたり1%以下であり、好ましくは0.5%以下である。
通常の未変性(NSI 90以上)の大豆を原料とした場合ではリポキシゲナーゼ蛋白質は可溶性の状態で存在するため、水抽出すると水溶性画分側へ抽出される。一方、本発明ではリポキシゲナーゼ蛋白質が原料大豆中において加熱処理によって失活され不溶化しているため、不溶性画分側に残る。
濃縮大豆蛋白質素材の蛋白質中におけるリポキシゲナーゼ蛋白質の割合が極めて少ないことによって、脂質の含有量を極めて低レベルに保つ豆乳を得ることがきるという利点がある。
【0015】
リポキシゲナーゼ蛋白質の場合は通常L-1、L-2、L-3の3種類が存在し、上記の電気泳動法により、リポキシゲナーゼ蛋白質に相当するこれらのバンドの濃さから含量を算出できる。
【0016】
(脂質親和性蛋白質:LP)
本発明の濃縮大豆蛋白質素材は、蛋白質の種類の中では脂質親和性蛋白質(Lipophilic Proteins)が一般の大豆素材よりも含量が少ないことが特徴である。脂質親和性蛋白質は、大豆の主要な酸沈殿性大豆蛋白質の内、グリシニン(7Sグロブリン)とβ-コングリシニン(11Sグロブリン)以外のマイナーな酸沈殿性大豆蛋白質群をいい、レシチンや糖脂質などの極性脂質を多く随伴するものである。以下、単に「LP」と略記することがある。
LPは雑多な蛋白質が混在したものであるが故、各々の蛋白質を全て特定し、LPの含量を厳密に測定することは困難であるが、下記LCI(Lipophilic Proteins Content Index)値を求めることにより推定することができる。
これによれば、濃縮大豆蛋白質素材中の蛋白質のLCI値は通常40%以下、より好ましくは38%以下、さらに好ましくは36%以下である。
通常の未変性(NSI 90以上)の大豆を原料とした場合ではLPは可溶性の状態で存在するため、水抽出すると水溶性画分側へ抽出される。一方、本発明に用いられる濃縮大豆蛋白質素材の場合、LPが原料大豆中において加熱処理によって失活され不溶化しているため、不溶性画分側に残る。
濃縮大豆蛋白質素材の蛋白質中におけるLPの割合が低いことによって脂質の含有量を極めて低レベルに保つ豆乳を得ることがきるという利点がある。
【0017】
(LP含量の推定・LCI値の測定方法)
(a) 各蛋白質中の主要な蛋白質として、7Sはαサブユニット及びα'サブユニット(α+α')、11Sは酸性サブユニット(AS)、LPは34kDa蛋白質及びリポキシゲナーゼ蛋白質(P34+Lx)を選択し、SDS−PAGEにより選択された各蛋白質の染色比率を求める。電気泳動は表1の条件で行うことが出来る。
(b) X(%)=(P34+Lx)/{(P34+Lx)+(α+α’)+AS}×100(%)を求める。
(c) 低変性脱脂大豆から調製された分離大豆蛋白のLP含量を加熱殺菌前に上記方法1,2の分画法により測定すると凡そ38%となることから、X=38(%)となるよう(P34+Lx)に補正係数k*=6を掛ける。
(d) すなわち、以下の式によりLP推定含量(Lipophilic Proteins Content Index、以下「LCI」と略する。)を算出する。
【0018】
(表1)
【0019】
(脂質)
本発明に用いられる濃縮大豆蛋白質素材は、原料である大豆粉の脂質含量/蛋白質含量の比よりも低い値しか脂質が含まれず、中性脂質と共に極性脂質の含量も低いことが特徴である。これに対し、一般の減脂豆乳は大豆をヘキサンで脱脂した脱脂大豆を水抽出して得られるが、その脱脂豆乳は極性脂質が除去されておらずなお多く含まれる。
そのため、本発明に用いられる濃縮大豆蛋白質素材中の脂質含量は、クロロホルム:メタノールが2:1(体積比)の混合溶媒を用い、常圧沸点において30分間抽出された抽出物量を総脂質量として、脂質含量を算出した値とする。溶媒抽出装置としてはFOSS社製の「ソックステック」を用いることができる。なお上記の測定法は「クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出法」と称するものとする。
【0020】
本発明に用いられる濃縮大豆蛋白質素材は、脂質含量が蛋白質含量に対して10重量%未満、好ましくは9重量%未満、より好ましくは8重量%未満、さらに好ましくは5重量%未満、さらに好ましくは4重量%以下であり、3重量%以下とすることも可能である。すなわち蛋白質よりも中性脂質と極性脂質を含めた総脂質が極めて少ないことが1つの重要な特徴である。通常の有機溶剤を用いて脱脂された脱脂大豆から抽出した脱脂豆乳も中性脂質は殆ど含まれないが、極性脂質が一部抽出されるため、蛋白質に対する脂質含量はおよそ5〜6重量%である。すなわち本発明に用いられる濃縮大豆蛋白質素材は通常の有機溶剤を使用している脱脂豆乳と同等以上に脂質、特に極性脂質が低減されたものである。
さらにまた乾燥固形分あたりでの脂質含量も5重量%以下、好ましくは3重量%以下、より好ましくは2重量%以下、さらに好ましくは1.5重量%以下である。
【0021】
(植物ステロール)
本発明に用いられる濃縮大豆蛋白質素材は、植物ステロールの脂質に対する含量が通常の脱脂豆乳よりも格段に高いことが特徴である。植物ステロールは大豆種子中に0.3重量%程度含まれ、主にシトステロール、カンペステロール、スチグマステロール等が含まれる。これら大豆に含まれる植物ステロールは極性が低いため、一般的にヘキサンなどの有機溶媒で大豆油を抽出をする場合には大豆油側に大部分移行してしまい、大豆油が精製される過程で除去される。そのため脱脂大豆には植物ステロールは非常に微量である。これらステロール類は原料大豆に由来することが好ましい。
【0022】
一方、本発明に用いられる濃縮大豆蛋白質素材においては、中性脂質と極性脂質が共に含量が低いにもかかわらず、脂質と親和性が高く水に不溶の植物ステロールであるカンペステロールとスチグマステロールが特に多く残存することを見出した。このように濃縮大豆蛋白質素材中の脂質に対する植物ステロールの含量を上げることは、別途に添加する方法以外では極めて難しく、本発明では脂質を殆ど含むことなく植物ステロールを多く含有する大豆蛋白質素材を提供できる利点を有する。
【0023】
これらカンペステロール及びスチグマステロールの含有量の和は、ヘキサン等の有機溶媒で脱脂された脱脂大豆を原料に調製された従来の濃縮大豆蛋白質素材では、脂質100g当たり40〜50mg程度であるのに対し、本発明に用いられる濃縮大豆蛋白質素材では脂質100g当たりで少なくとも200mg以上という高含量であり、好ましくは230mg以上、より好ましくは400mg以上、さらに好ましくは450mg以上、さらに好ましくは500mg以上含まれる。
【0024】
これら植物ステロールの含有量は、有機溶媒で抽出後、クロマトグラフィーにより、標準品とのピーク面積の比率で求めるような、一般的な方法により求めることができる。例えば財団法人日本食品分析センターのステロール定量法(第11014761号−別添分析法フローチャート参照)に準じて分析することができる。
【0025】
具体的には試料1.2gを採取し、1mol/Lの水酸化カリウムのエタノール溶液50mlに分散し、ケン化を行い、水150mlとジエチルエーテル100mlを加え、エーテル層に不ケン化物を抽出し、さらにジエチルエーテルを50mlを2回加えて抽出する。抽出された不ケン化物のジエチルエーテル層を水洗し、脱水ろ過し、溶媒を揮発除去する。その後、カラムクロマトグラフィー(シリカカートリッジカラム)にて抽出物をジエチルエーテル:ヘキサン(8:92)溶液10mlで洗浄し、ジエチルエーテル:ヘキサン(20:80)溶液25mlにて溶出させる。その液に内部標準として5α―コレスタン0.5mgを加え、溶媒を揮発除去する。この試料にヘキサン5mlを加え、ガスクロマトグラフ法(水素炎イオン検出器)によって目的の植物ステロールを検出する。ガスクロマトグラフ法の条件は、以下の通りで行うことができる。
【0026】
<ガスクロマトグラフ操作条件>
機種:GC-2010[株式会社島津製作所]
検出器:FID
カラム:DB-1[J&WSCIENTIFIC]φ0.25mm×15m、膜厚0.25μm
温度 :試料注入口290℃、検出器290℃
カラム240℃→3℃/min昇温→280℃
試料導入系:スプリット(スプリット比1:30)
ガス流量:ヘリウム(キャリアーガス)2.3ml/min,ヘリウム(メイクアップガス)30ml/min
ガス圧力:水素40ml/min,空気400ml/min
【0027】
(濃縮大豆蛋白質素材の製造態様)
本発明に用いられる濃縮大豆蛋白質素材の製造態様について示す。
・原料大豆及びその加工
濃縮大豆蛋白質素材の原料である大豆としては、全脂大豆あるいは部分脱脂大豆等の含脂大豆を用いる。部分脱脂大豆としては、全脂大豆を圧搾抽出等の物理的な抽出処理により部分的に脱脂したものが挙げられる。一般に全脂大豆中には脂質が乾燥固形分あたり約20〜30重量%程度含まれ、特殊な大豆品種については脂質が30重量%以上のものもあり、特に限定されないが、用いる含脂大豆としては、少なくとも脂質を15重量以上、好ましくは20重量%以上含むものが適当である。原料の形態は、半割れ大豆、グリッツ、粉末の形状でありうる。
過度に脱脂され脂質含有量が少なすぎると、脂質が少ない一方で植物ステロールを多く含む減脂豆乳を得ることが困難となる。特にヘキサン等の有機溶媒で抽出され、中性脂質の含量が1重量%以下となった脱脂大豆は、大豆の良い風味が損なわれ好ましくない。
【0028】
上記含脂大豆は天然の状態では蛋白質の多くが未変性で可溶性の状態にあり、水溶性窒素指数(Nitrogen Solubility Index、以下「NSI」と称する。)としては通常90%を超えるが、本発明においては、NSIが20〜77%が、好ましくは20〜70%になるよう加工処理を施した加工大豆を用いるのが適当である。より好ましいNSIの下限値は40%以上、より好ましくは41%以上、さらに好ましくは43%以上、最も好ましくは45%以上とすることができる。より好ましいNSIの上限値は75%未満、より好ましくは70%未満とすることができ、またさらに65%未満、あるいは60%未満、あるいは58%未満の低NSIのものを用いることができる。尚、本発明におけるNSIの値は、後述するNSIの測定方法に従って求められた値を使うものとする。
そのような加工大豆は、加熱処理やアルコール処理等の加工処理を行って得られる。加工処理の手段は特に限定されないが、例えば乾熱処理,水蒸気処理,過熱水蒸気処理,マイクロ波処理等による加熱処理や、含水エタノール処理,高圧処理、およびこれらの組み合わせ等が利用できる。
【0029】
NSIが例えば80%以上の高い数値になると脂質と蛋白質の分離効率が低下し、濃縮大豆蛋白質素材の脂質含量が増加する傾向となり、また風味は青臭みが強くなる。例えば過熱水蒸気による加熱処理を行う場合、その処理条件は製造環境にも影響されるため一概に言えないが、おおよそ120〜250℃の過熱水蒸気を用いて5〜10分の間で加工大豆のNSIが上記範囲となるように処理条件を適宜選択すれば良く、加工処理に特段の困難は要しない。簡便には、NSIが上記範囲に加工された市販の大豆を用いることもできる。
【0030】
前記の加工大豆は水抽出の前に、予め乾式又は湿式による粉砕,破砕,圧偏等の組織破壊処理を施されることが好ましい。組織破壊処理に際して、あらかじめ水浸漬や蒸煮により膨潤させても良く、これによって組織破壊に必要なエネルギーを低減させたり、ホエー蛋白質やオリゴ糖等の不快味を持つ成分を溶出させ除去できると共に、保水性やゲル化性の能力が高いグロブリン蛋白質(特にグリシニン及びβ−コングリシニン)の全蛋白質に対する抽出比率、すなわち水溶性画分への移行比率をより高めることができる。
【0031】
・原料大豆からの水抽出
水抽出は含脂大豆に対して3〜20重量倍、好ましくは4〜15重量倍程度の加水をし、含脂大豆を懸濁させて行われる。加水倍率は高い方が水溶性成分の抽出率が高まり、分離を良くすることができるが、高すぎると濃縮が必要となりコストがかかる。また、抽出処理を2回以上繰り返すと水溶性成分の抽出率をより高めることができる。
【0032】
抽出温度には特に制限はないが、高い方が水溶性成分の抽出率が高まる反面、油脂も可溶化されやすくなり、減脂豆乳の脂質が高くなるため、70℃以下、好ましくは55℃以下で行うと良い。あるいは5〜80℃、好ましくは50〜75℃の範囲で行うこともできる。
【0033】
抽出pH(加水後の大豆懸濁液のpH)も温度と同様に高いほうが水溶性成分の抽出率が高まる反面、油脂も可溶化されやすくなり、減脂豆乳の脂質が高くなる傾向にある。逆にpHが低すぎると蛋白質の抽出率が低くなる傾向にある。具体的には下限をpH6以上、もしくはpH6.3以上、もしくはpH6.5以上に調整して行うことができる。また上限は脂質の分離効率を上げる観点でpH9以下、もしくはpH8以下、もしくはpH7以下に調整して行うことができる。あるいは蛋白質の抽出率を高める観点でpH9〜12のよりアルカリ性側に調整して行うことも可能である。
【0034】
・水抽出後の固液分離
水抽出後、含脂大豆の懸濁液を遠心分離、濾過等により固液分離する。この際、中性脂質のみならず極性脂質も含めた大部分の脂質を水抽出物中に溶出させず、不溶化した蛋白質や食物繊維質の方に移行させ沈殿側(不溶性画分)とすることが重要である。具体的には含脂大豆の脂質の70重量%以上を沈殿側に移行させる。また抽出の際に上清側にも少量の脂質が溶出するが、豆乳中の脂質のように微細にエマルション化されたものではなく、15,000×g以下、あるいは5,000×g程度以下の遠心分離によっても容易に浮上させ分離することができ、この点で遠心分離機を使用するのが好ましい。なお遠心分離機は使用する設備によっては10万×g以上の超遠心分離を使用することも可能であるし、本発明に用いられる濃縮大豆蛋白質素材の場合は超遠心分離機を用いなくとも実施が可能である。
また水抽出の際あるいは水抽出後に解乳化剤を添加して豆乳からの脂質の分離を促進させることも可能であり、解乳化剤は特に限定されないが例えば特許文献1に開示されている解乳化剤を使用すればよい。ただし本発明に用いられる濃縮大豆蛋白質素材を調製する場合は解乳化剤を用いなくとも実施が可能である。
【0035】
水抽出工程後の固液分離により、中性脂質のみならず極性脂質を不溶性画分に移行させ、他方の水溶性画分を回収することにより減脂豆乳の画分を得ることができる。固液分離として遠心分離を用いる場合、二層分離方式、三層分離方式のいずれも使用することができる。二層分離方式の場合は水溶性画分として上清を回収する。また三層分離方式を用いる場合は、(1)浮上層(脂質を含む比重の最も小さいクリーム画分)、(2)中間層(脂質が少なく蛋白質、糖質を多く含む水溶性画分)、(3)沈殿層(脂質と食物繊維を多く含む不溶性画分)、の三層の画分に分けられる。この場合、脂質含量の少ない水溶性画分の中間層(2)を回収するとよい。
【0036】
(大豆蛋白質原料)
本発明の製造法に使用される大豆蛋白質原料は、上記の通り、乾燥固形分あたりの脂質含量が15重量%以上であってNSIが20〜77%の範囲に加工された含脂大豆を用い、
1)該含脂大豆に加水して懸濁液を調製する工程、
2)該懸濁液を固液分離し、中性脂質及び極性脂質を不溶性画分に移行させ除去し、蛋白質及び糖質を含む水溶性画分を回収する工程、により得られる減脂豆乳を加工して得られる。
すなわちこの減脂豆乳から、ホエー蛋白質やオリゴ糖などの大豆ホエー成分を除去して蛋白質を濃縮し、必要によりpH調整,殺菌,乾燥し粉末化するなどして、高蛋白質純度の大豆蛋白質原料を調製することができる。また、本大豆蛋白質原料は、濃縮大豆蛋白質素材としてそのまま用いることもできるし、大豆蛋白質原料として更に加工処理に用いることもできる。大豆ホエー成分を除去する方法としては公知の方法をいずれも利用できるが、減脂豆乳を等電点付近の酸性pH(pH4〜5程度)に調整し、蛋白質を等電点沈殿させ、遠心分離等により上清のホエーを除去して沈殿を回収後に中和して得られる、分離大豆蛋白質が最も一般的である。他にも、膜分離によって比較的低分子のホエーを除去する方法等を適用できる。
【0037】
(濃縮大豆蛋白質素材の特徴)
本発明に用いられる上記の濃縮大豆蛋白質素材は、いずれも含脂大豆を原料としているにもかかわらず、ヘキサン等の有機溶媒を用いて脱脂された脱脂大豆から水抽出して得た脱脂豆乳や分離大豆蛋白質とは蛋白質含量が同等である。ただしその他の成分組成については、ヘキサン脱脂物とも、従来のヘキサンを用いない脱脂物とも顕著に相違するものである。
【0038】
該濃縮大豆蛋白質素材は、ヘキサン等で脱脂した脱脂大豆から水抽出された減脂豆乳や分離大豆蛋白質などと比べて、脂質特に極性脂質の含量が低く低カロリーであると共に、ヘキサン等の有機溶媒を使用しないため環境負荷が小さく、有機溶媒による変性を受けておらず風味も格段に優れている。また極性脂質と共にLPが少ないため酸化安定性が高く風味の経時的劣化も極めて少ないことが特長である。特に、乾燥して粉末状素材として利用する場合は、通常の豆乳粉末や粉末状大豆蛋白のように脂質が酸化することが少なく風味の保存安定性が格段に優れる。
【0039】
(加水分解物)
本発明に用いる濃縮大豆蛋白質素材は、加水分解物であることが好ましい。加水分解率は、0.22M TCA可溶化率で4〜40%が好ましく、5〜35%が更に好ましい。加水分解により粘度が低下し、濃縮大豆蛋白質素材を使用する上での汎用性を高める上に、後述するように種々の優位な物性を得ることができる。
濃縮大豆蛋白質素材水溶液の加水分解については、例えば酸性下で非酵素的に行うこともできるが、プロテアーゼによる加水分解が、その後の乳化性等の機能の向上に効果的であり、好ましい。ここで用いるプロテアーゼは、プロテアーゼの分類において「金属プロテアーゼ」(Bacillus中性プロテイナーゼ,Streptomyces中性プロテイナーゼ,Aspergillus中性プロテイナーゼ,サモアーゼ等),「酸性プロテアーゼ」(ペプシン,Aspergillus酸性プロテイナーゼ,スミチームAP等),「チオールプロテアーゼ」(ブロメライン,パパイン等),「セリンプロテアーゼ」(トリプシン,キモトリプシン,ズブチリシン,Streptomycesアルカリプロテイナーゼ,Aspergillusアルカリプロテイナーゼ,アルカラーゼ,ビオプラーゼ等)に分類されるプロテアーゼの、1種または2種以上を作用させる事ができる。
加水分解後の濃縮大豆蛋白質素材は濃縮大豆蛋白質加水分解物として、以降の用途に好ましく使用することができる。
【0040】
[第一形態]
本発明の第一形態は、畜肉漬け込みピックル液用の濃縮大豆蛋白質素材である。即ち、本発明の大豆蛋白質原料に更に加工を行ことで、好ましくは、濃縮大豆蛋白質組成物を含む溶液を中性で加熱後Aspergillus oryzae由来あるいはRhizopus oryzae由来の、ペプチダーゼ活性を有する酵素を用いて下記条件となるように加水分解することで、以下の(a)〜(e)を満たす特徴的な物性を有するものとなり、この物性がピックルに好適である
(a)加水分解率が0.22Mトリクロロ酢酸(TCA)可溶化率で4〜40%。
(b)蛋白質中遊離アミノ酸含量が0.1〜2重量%。
(c)遊離アミノ酸中の疎水性アミノ酸の割合が35%以上。
(d)ゲル化力を保有する。
(e)NSI(Nitrogen soluble index)が70〜100%。
この大豆蛋白素材を用いる事で、大豆臭や渋味、収斂味等の後味の悪さがないすっきりとして風味良好であり、且つ漬け込み用ピックルに利用した場合に適度な硬さを付与する事ができる。
【0041】
(畜肉漬け込み用ピックル液)
食肉製品(食肉ハム,食肉ソーセージ,食肉ベーコン,焼豚など、更には食肉フライ製品(とんかつ、てんぷら)等が例示できる)、特にハム製造には、製品の保水性,抱脂性,結着性、あるいは硬さや弾力性といった食感の改良等を目的に、所謂ピックル液を肉に混合あるいは注入する方法が採用されている。この畜肉漬け込み用ピックル液には、分離大豆蛋白質をはじめ、必要に応じて卵白,カゼインナトリウム,乳たん白,血液たん白等の結着材料(蛋白質素材)とともに、食塩,糖類等の調味料、香辛料、重合リン酸塩等の結着補強剤、亜硝酸塩等の発色剤、カゼインナトリウム等の乳化安定剤、アスコルビン酸等の酸化防止剤、グルタミン酸ナトリウム等の調味料、ソルビン酸カリウム等の保存料、甘味料等が配合されている。
【0042】
(調製方法)
畜肉漬け込みピックル液用の物性を有する濃縮大豆蛋白質素材の調製方法について、以下説明する。先に説明した大豆蛋白質原料を含むスラリー又は水溶液は、中性付近のpHで加熱を行うことが好ましい。その際溶液pHは6.5〜8.0、好ましくは7.0〜7.5の範囲に調整を行う事が適当である。pHが6.5より低い場合、蛋白質の溶解性が低くなるため、大豆臭の脱臭効率が低下するとともに、ゲル化力が大幅に低下する傾向にある。また、pHが8.0より高い場合、後の加熱処理によりアルカリ臭の発生や色調に黄緑がかった変色が生ずるなど、風味、色調の低下に繋がるため好ましくない傾向にある。中和に用いるアルカリ剤としては、食品用途で使用できる水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが例示できる。
【0043】
本発明において、前記の大豆蛋白質原料を含む溶液に中性で加熱処理を行ってから、ペプチダーゼ活性を有する酵素を加えて蛋白質加水分解を行う事が好ましい。この加熱処理条件は、100〜155℃、好ましくは110〜150℃の範囲で、加熱時間は5秒〜5分、好ましくは5秒〜3分の範囲で実施することが適当である。加熱温度が100℃より低い温度、加熱時間が5秒より短い条件では、大豆臭の低減効果が乏しい。逆に、加熱温度が155℃を超える温度、加熱時間が5分を超える条件では、蛋白質の熱変性が進み過ぎゲル化力を損ったり、加熱による変色も発生し易くなり最終製品の品質にも影響をおよぼすため、避ける事が好ましい。
【0044】
次いでペプチダーゼ活性を有する酵素を用いて加熱後の溶液を加水分解する。本発明に用いるペプチダーゼ活性を有する酵素はAspergillus oryzae由来あるいはRhizopus oryzae由来の、エキソ型ペプチダーゼ活性を有する酵素が適当である。本発明のペプチダーゼ活性を有する酵素はエンドプロテアーゼ活性も有する複合酵素であっても問題ないが、エンドプロテアーゼ活性よりエキソプロテアーゼ活性が強いことが必要である。エンドプロテアーゼ活性の方が強いと目的の風味改良効果は弱いものとなる。
【0045】
本発明の酵素による加水分解は、大豆蛋白質原料の加水分解により調製された、濃縮大豆蛋白質素材がゲル化力を有する程度に加水分解することが適当である。加水分解しすぎてペプチドまで加水分解されたのではゲル化力を有しないからである。具体的には以下に記載する。
本発明において濃縮大豆蛋白質素材の加水分解率は、0.22MTCA可溶化率で4〜40%、好ましくは4〜20%、更に好ましくは5〜15%が適当である。0.22M TCA可溶化率で4%よりも低い分解度では、蛋白質に吸着していると思われる大豆臭の不快臭成分の遊離による脱臭効果および後味の不快味低減効果が乏しく、逆に20%を超える分解度の場合では、大豆臭の脱臭効果は高くなるものの、ゲル化力が損われ、20%を超えると更に顕著となるからである。
【0046】
本発明において、大豆蛋白質素材中の遊離アミノ酸含量は、蛋白質中0.1〜2重量%、好ましくは0.3〜1重量%、となるように加水分解することが適当である。遊離アミノ酸量で0.1重量%より低い分解度では、蛋白質に吸着していると思われる大豆臭の不快臭成分の遊離による脱臭効果および後味の不快味低減効果が乏しくなる。逆に2重量%を超える分解度では、大豆臭の脱臭効果は高くなるものの、加熱時や保存時に遊離アミノ酸と糖のメイラード反応による着色が生じ、大豆蛋白質素材およびそれを使用した畜肉製品に褐色を呈し、品質上好ましくない。
【0047】
本発明において、遊離アミノ酸中の疎水性アミノ酸の割合が35%以上、好ましくは40%以上となるように加水分解することが適当である。遊離アミノ酸中の疎水性アミノ酸の割合(疎水性アミノ酸比)が35%以下の酵素分解処理条件では、蛋白質に吸着していると思われる大豆臭の不快臭成分の遊離による脱臭効果および後味の不快味低減効果が乏しくなる。疎水性アミノ酸比は高い方が好ましく、特に上限はない。尚、疎水性アミノ酸比は、遊離アミノ酸含量中のアラニン,バリン,ロイシン,イソロイシン,プロリン,メチオニン,フェニルアラニン,チロシンの総量を、遊離アミノ酸含量の重量で除した値を百分率で表した。
【0048】
加水分解の後、必要により、酵素失活および更なる大豆臭の脱臭、殺菌を目的に2回目の加熱処理を行うことができる。この場合も前述と同様、間接加熱方式、直接加熱方式の何れの方法も利用可能であるが、脱臭効率の点から高温高圧の水蒸気を直接、濃縮大豆蛋白質素材の溶液に吹き込み、加熱保持した後、真空フラッシュパン内で急激に圧力開放させるスチームインジェクション式直接加熱殺菌機=UHT殺菌(例えば、商品名、VTIS殺菌機)を用いることが大豆臭の低減には好適である。この場合の加熱条件は、100〜155℃、より好ましくは110〜150℃の範囲で、加熱時間は5秒〜5分、より好ましくは5秒〜3分の範囲で実施する事ができる。
【0049】
こうして得られた濃縮大豆蛋白質素材は、粉末化をすることができる。粉末化の手段としては、噴霧乾燥機を用いて乾燥することが、品質や製造コストの面で好適である。噴霧乾燥の方法としては、ディスク型のアトマイザー方式や1流体、2流体ノズルによるスプレー乾燥のいずれも利用することができる。
【0050】
以上のようにして得られた濃縮大豆蛋白質素材であって、ゲル化力を保有しているものは、ピックル液用として好適である。尚、ゲル化力を有しているとは、後述するゲル化力の測定に於いて、折り曲げてひび割れしないものをいう。特定の酵素により加水分解されることで、風味が向上していながらゲル化力を有するので、ピックル液として畜肉加工製品に用いることができる。またピックル液に本発明における濃縮大豆蛋白質素材を用いることで、ピックル液の粘度が下がり作業性が良くなる。ピックル液の粘度は他の蛋白質素材の配合量等にも影響を受けるため、一概にはいえないが、例えば本発明における濃縮大豆蛋白質素材をピックル液中に2〜8重量%用いた場合、10℃において20〜100mPa・sの範囲にすることができる。
【0051】
尚、NSIが70%より低いと、濃縮大豆蛋白質素材の分散性に劣り、ピックル液を肉組織に注入する際に、組織に均等に分散しない等の問題が起こる場合がある。
【0052】
[第二形態]
本発明の第二形態は、栄養健康向け蛋白質飲料用の濃縮大豆蛋白質素材である。即ち、本発明の大豆蛋白質原料に更に加工を行ことで、特徴的な物性を有するものとなり、この大豆蛋白素材を用いると、大豆臭や渋味、収斂味等の後味の悪さがないすっきりとして風味良好な粉末飲料を得る事ができる。
【0053】
上述の特徴的な物性とは以下の(a)〜(c)を満たすものである。すなわち、
(a)加水分解率が0.22MTCA可溶化率で4〜40%。
(b)2価カチオン化合物含有量が、大豆蛋白質固形分に対して0.05〜1重量%。
(c)大豆蛋白質素材の水溶液が、pH6.7〜8。
これら(a)〜 (c)の条件に合致しない大豆蛋白質素材で蛋白質飲料を調製しても、調製した蛋白質飲料は、粘度が高すぎたり凝集物が発生したりと、飲料として良好な物性を得ることが難しい。
【0054】
(調製方法)
蛋白質飲料用の物性を有する濃縮大豆蛋白質素材の調製方法について、以下説明する。
(A)工程:(2価カチオン添加)
先に説明した大豆蛋白質スラリーまたはその水溶液に、2価カチオン化合物を添加する。本発明に用いる2価カチオン化合物には、カルシウム化合物およびマグネシウム化合物を使用することができる。カルシウム化合物としては、カルシウム塩,水酸化カルシウム,酸化カルシウムであり、食品用として使用出来る例として塩化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム等を挙げることができる。マグネシウム化合物としては、マグネシウム塩,水酸化マグネシウム,酸化マグネシウムであり、食品用として使用出来る例として塩化マグネシウム、L-グルタミン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム等を挙げることができる。飲料の物性への影響から、カルシウム化合物がより好ましい。
【0055】
2価カチオン化合物の添加量は、大豆蛋白質スラリーまたはその水溶液の乾燥固形分に対する2価カチオンとして添加量として0.05〜1重量%の範囲が必要であり、0.1〜0.8重量%が好ましい。2価カチオンとして0.05重量%より少ない添加量の場合、後味の不快味低減効果が少なく目的とする充分な効果が得られない。また、1重量%を超える添加量の場合は、後味の不快味低減効果はそれ以上期待できなくなるばかりでなく、2価カチオンと蛋白との反応による不溶化が促進され大豆臭の脱臭効果が低下したり、2価カチオンそのものの味も感じられるようになり風味改良にはマイナス作用が生じる。
【0056】
(B)工程:(プロテアーゼ処理)
大豆蛋白質スラリーまたはその水溶液は、大豆臭の一層の低減化および後味の不快味の低減化を図る為にプロテアーゼを用いて蛋白質の加水分解を行う。本発明に用いるプロテアーゼは、ペプチダーゼをプロテアーゼと併用ないしペプチダーゼ活性の混在するプロテアーゼ酵素の使用が好ましい。ペプチダーゼは、所謂エキソタイプと言われる蛋白の末端に作用する分解酵素であり、市販酵素としては天野エンザイム(株)「ペプチダーゼR」、「ウマミザイムG」、新日本化学工業(株)「スミチームFLAP」等がペプチダーゼ活性の高い酵素として市販されている。エンドタイプと呼ばれるプロテアーゼ酵素としては、天野エンザイム(株)「プロテアーゼN『アマノ』G」、「プロテアーゼNL『アマノ』G」、「プロレザーFG-F」、大和化成(株)「プロチンA」、「プロチンP」等が例示でき、これらの酵素を併用することも出来る。更に比較的ペプチダーゼ活性の混在する市販酵素だけをそのまま使用することも可能である。具体的には、天野エンザイム(株)「プロテアーゼA」、「プロテアーゼM」、「プロテアーゼP」、新日本化学工業(株)の「スミチームFP」、ノボザイムズジャパン(株)「フレーバーザイム」等が例示できる。
【0057】
前記の蛋白質加水分解の程度は、0.22M TCA可溶化率で4〜40%、好ましくは13〜40%、更に好ましくは18〜35%が適当である。0.22M TCA可溶化率で13%よりも低い分解度では、大豆臭の脱臭効果および後味の不快味の低減効果が乏しく、4%よりも低いと更に顕著となる。逆に40%を超える分解度の場合では、大豆臭の脱臭効果は高くなるものの分解により生じてくる低分子のペプチド含量が高くなる為、ペプチド由来の苦味や旨味などの味が強く現れるようになり、製品の後味は逆に好ましくないものとなる。
【0058】
以上の(A)2価カチオン化合物を添加する工程、及び(B)プロテアーゼを添加して蛋白質加水分解を行う工程の2工程を行なうのだが、そのいずれかの段階で、大豆蛋白質スラリーまたはその水溶液は、乾燥固形分濃度として7〜16重量%、好ましくは10〜14重量%に調整を行うことが好ましい。得られる大豆蛋白質の分散性,乾燥効率,大豆臭の脱臭効率の観点からかかる濃度範囲が好ましい。
【0059】
(C)工程:(高温短時間加熱)
(D)工程:(二回目の高温短時間加熱)
次に加熱工程について説明する。大豆蛋白質スラリーまたはその水溶液は、蛋白質加水分解工程の前または後で、好ましくは分解工程の前で(C)高温短時間加熱する。(C)高温短時間加熱を行った後に、(B)プロテアーゼ処理を行い、更に(D)二回目の高温短時間加熱を行うことが好ましい。加熱変性させることで、蛋白内部に隠れている疎水性部分を露出させ分解させることで、不快なフレーバー成分の脱臭が促進されるものと推定される。また、(B)プロテアーゼ処理の前に(C)高温短時間加熱し、蛋白を加熱変性させることで、その後の酵素分解による大豆臭効率をより高めることができる。
【0060】
(C)高温短時間加熱する工程の加熱条件は、大豆蛋白質スラリーまたはその水溶液のpHを6.7〜8、好ましくは6.8〜7.8の範囲とすることが好ましく、加熱温度として100〜155℃、より好ましくは110〜150℃の範囲で、加熱時間として5秒〜10分、より好ましくは30秒〜3分の範囲で実施することが適当である。このように、高温短時間加熱する際の大豆蛋白質スラリーまたはその水溶液は前記のように中和した大豆蛋白質溶液を用いることが好ましい。
大豆蛋白質スラリーまたはその水溶液のpHが6.7よりも低い条件では、加熱による蛋白の不溶化が進み、大豆臭と呼ぶ不快臭の低減効果が低下するだけでなく、溶液にした際のザラツキ感が生じることがある。逆にpH8よりも高い条件では加熱処理によりアルカリ臭の発生や色調が黄緑っぽく変色することがあり、その場合は風味、色調の低下に繋がる。なお、中和に用いるアルカリ剤としては、食品用途で使用できる水酸化ナトリウム,水酸化カリウムまたは水酸化カルシウム等を使用することができる。
また、加熱温度が100℃より低い温度、加熱時間として5秒よりも短い条件では、不快臭の低減効果が乏しいことがあり、逆に155℃を超える温度での加熱や10分を超える加熱処理の場合では蛋白の分解が生じたり、加熱による変色も発生し易くなることがあり、その場合は最終製品の品質にも影響を及ぼす為、避けることが好ましい。
【0061】
加熱方式は、間接加熱方式、直接加熱方式の何れの方法も利用可能であるが、脱臭効率の点から高温高圧の水蒸気を直接大豆蛋白質スラリーまたはその水溶液に吹き込み、加熱保持した後、真空フラッシュパン内で急激に圧力開放させるスチームインジェクション式直接加熱殺菌機を用いることが大豆臭の低減には好適である。以上の工程は、2価カチオン化合物の添加,中和,加熱,蛋白分解の順に実施することで、最も効率的、効果的に行なう事ができる。
【0062】
酵素反応前に(C)高温短時間加熱した場合、酵素反応後に続けて、酵素失活および更なる大豆臭の脱臭、殺菌を目的に(D)二回目の高温短時間加熱することが好ましいが、この(D)二回目の高温短時間加熱は、前述と同様、間接加熱方式、直接加熱方式の何れの方法も利用可能であるが、スチームインジェクション式直接加熱殺菌機を用いることが好適である。この場合の加熱温度も100〜155℃、より好ましくは110〜150℃の範囲で、加熱時間として5秒〜10分、より好ましくは10秒〜3分の範囲で実施することができる。
【0063】
酵素分解の前に(C)高温短時間加熱しなくても、酵素分解を受けた大豆蛋白は、大豆臭成分との親和性が低下し遊離しやすい状態になっているので、その後(C)高温短時間加熱するだけでも大豆臭成分の遊離が促進され、脱臭効果が高まる。酵素分解の前に(C)高温短時間加熱していれば、酵素分解の後で更に(D)二回目の高温短時間加熱処理をすることで大豆臭成分の遊離がより促進され、脱臭効果が高まり好ましい。
【0064】
大豆蛋白質スラリーまたはその水溶液は、分散性をより向上させるために、HLB値で4〜10に相当する乳化剤を大豆蛋白質スラリーまたはその水溶液の乾燥固形分に対して0.1〜0.8重量%の範囲、好ましくは0.2〜0.6重量%の範囲で添加を行うことができる。またその場合は添加後に均質化することが好ましい。この場合、添加に用いる乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル,グリセリン有機酸脂肪酸エステル,ポリグリセリン脂肪酸エステル,ショ糖脂肪酸エステル,ソルビタン脂肪酸エステル等の該当HLBの乳化剤が例示できる。
【0065】
本発明において、大豆蛋白質スラリーまたはその水溶液は、粉末化を行なうことができる。粉末化には、噴霧乾燥機を用いて乾燥することが、品質や製造コストの面で好適である。噴霧乾燥の方法としては、ディスク型のアトマイザー方式や1流体、2流体ノズルによるスプレー乾燥のいずれも利用することができる。粉末化した大豆蛋白の水分含量は、保存中に腐敗しない程度であれば特に限定するものではないが、通常、3〜12重量%程度、好ましくは4〜6.5重量%の範囲に調整を行うことができる。また、粉末化した大豆蛋白はより分散性を高める為に造粒処理を行うこともできる。
【0066】
(蛋白質飲料)
本発明における飲料とは、蛋白質を含む一般の飲料や清涼飲料などが挙げられる。これらの飲料は、酸味料として、クエン酸,リンゴ酸,酒石酸,グルコン酸,フマル酸,アスコルビン酸等の有機酸やその塩、甘味料として、果糖,ブドウ糖等の単糖類、砂糖,トレハロース等の2糖類、キシリトール,ラクチトール,マンニトール,ソルビトール,マルチトール,エリスリトール等の糖アルコールを含んで良い。また、蛋白質として本発明の濃縮大豆蛋白質を用い、他の蛋白質素材を添加することを妨げない。蛋白質として、飲料の乾燥固形分当り0.5重量%〜60重量%を、好ましくは2重量%〜50重量%を用いることができる。また、有機酸またはその塩を蛋白質乾燥固形分当り0.2重量部〜30重量部、好ましくは1重量部〜10重量部を添加することができる。また甘味料を、蛋白質乾燥固形分当り20重量部〜600重量部、好ましくは100重量部〜400重量部を添加するのことができる。必要に応じて、フレーバー類,高甘味度甘味料,色素,ミネラル,ビタミン,食物繊維等の生理機物質等を組み合わせて添加しても良い。
【0067】
[第三形態]
本発明の第三形態は、カゼイン代替物用の濃縮大豆蛋白質素材である。即ち、0.22MTCA可溶化率が4〜40%で、蛋白質1g当たり糖が180μmol以上結合している、糖含有濃縮大豆蛋白質素材を用いることで、高い乳化安定性を示す、カゼイン代替物用濃縮大豆蛋白質素材を得るものである。尚、ここで結合している糖とは、後述する方法にて、2-プロパノールに溶解せず蛋白質と共に沈殿するものであって、フェノール硫酸法で糖として反応するものを指す。
【0068】
(大豆蛋白質原料)
以下、本発明を具体的に説明する。本発明における大豆蛋白質原料とは、先に説明した大豆蛋白質原料であって、糖含有濃縮大豆蛋白質素材を調製するに当たっての、加糖加熱処理を行う対象の原料である。尚、最終的に得られる糖含有濃縮大豆蛋白質素材が、蛋白質を乾燥重量で80重量%以上含むことが好ましいために、大豆蛋白質原料としては、分離大豆蛋白質等の素材中の蛋白質純度が高いものを用いることが良い。また、意図的にβ-コングリシニン蛋白質含量を高めた大豆蛋白質原料は、本発明により乳化機能の付加が少ないため、あまり適切ではない。
【0069】
(還元糖の添加)
大豆蛋白質原料の水溶液、例えば乾燥固形分濃度5〜15重量%の水溶液に還元糖を加え、一段目の加熱処理を行なう。用いる還元糖としては、単糖ではL-アラビノース,D-キシロース,D-グルコース,D-リボース,D-フルクトースなど、二糖類ではラクトース,マルトースなど、三糖以上では還元末端を保有するデキストリンなどが例示できる。用いる還元糖の価格や最終的に得られる濃縮大豆蛋白質素材の乳化性から、二糖以下が好ましく、D-グルコース,D-フルクトース,ラクトース,マルトースが更に好ましく、D-グルコースが最も好ましい。これらの還元糖から1種類以上を選択し、水溶液中の大豆蛋白質原料の乾燥固形分に対し、好ましくは0.5重量%以上、更に好ましくは2重量%以上加える。また、10重量%以下が好ましい。10重量%を超えると、得られる糖含有濃縮大豆蛋白質素材に着色を生じることがあるし、蛋白質素材中の蛋白質含量の低下が大きい。また、還元糖添加の前または後に、pHを6.3〜8、好ましくは7〜8に調整する。pHが低いと得られる蛋白質素材の乳化性が低く、例えばコーヒーホワイトナーの保存中に離水が発生し、pHが高いとリジノアラニンが生成し得るため好ましくない。
【0070】
(一段加熱)
還元糖を添加後に、該溶液に対し加熱を行う。加熱温度は好ましくは100℃を超え170℃以下、更に好ましくは130℃以上で且つ150℃以下の加熱処理を加圧下にて行う。加熱時間は10秒〜300秒間が好ましく、20秒〜180秒間が更に好ましい。加熱温度が低い場合や加熱時間が短い場合は、得られる濃縮大豆蛋白質素材の乳化性が低く、加熱温度が高い場合や加熱時間が長い場合は、濃縮大豆蛋白質素材に着色を高め易く、また設備への負荷が増す。
【0071】
(加水分解処理)
続けて加熱後の水溶液について、蛋白質の加水分解を行なう。加水分解は例えば酸性下で非酵素的に行うこともできるが、プロテアーゼによる加水分解が、その後の乳化性の向上に効果的であり、好ましい。ここで用いるプロテアーゼは、プロテアーゼの分類において「金属プロテアーゼ」(Bacillus中性プロテイナーゼ,Streptomyces中性プロテイナーゼ,Aspergillus中性プロテイナーゼ,サモアーゼ等),「酸性プロテアーゼ」(ペプシン,Aspergillus酸性プロテイナーゼ,スミチームAP等),「チオールプロテアーゼ」(ブロメライン,パパイン等),「セリンプロテアーゼ」(トリプシン,キモトリプシン,ズブチリシン,Streptomycesアルカリプロテイナーゼ,Aspergillusアルカリプロテイナーゼ,アルカラーゼ,ビオプラーゼ等)に分類されるプロテアーゼの、1種または2種以上を作用させる事ができる。
【0072】
反応pHや反応温度は、それぞれのプロテアーゼの至適条件、或いは活性の得られる条件で行なうことが好ましい。通常、反応pHは各々の酵素の至適pH付近であり、温度は0〜100℃,好ましくは20〜80℃,更に好ましくは40〜70℃で反応を行なう。反応時間もpHや温度により変化するが、概ね5分〜12時間、好ましくは10分〜6時間が適当である。プロテアーゼ処理後の0.22M TCA可溶化率は4%以上であることが必要であり、5%以上であることが好ましい。また、40 %以下であることが必要であり、30%以下が好ましく、8%以上であることが最も好ましい。TCA可溶化率が低いと乳化性が低く、TCA可溶化率が高いと、NSIが低下することがある。なお、加水分解処理後に還元糖を添加し加熱処理を行っても、得られる濃縮大豆蛋白質素材に高い乳化性を発現させることは難しくなる。
【0073】
(二段加熱)
プロテアーゼによる加水分解後に更に加熱を行うことが好ましい。加熱温度は110〜170℃が好ましく、130〜170℃が更に好ましい。加熱時間は3〜20秒間が好ましい。二段加熱は殺菌がその主たる目的のひとつであり、好ましい条件が設定されるが、温度が低く時間が短いと殺菌の効果に弱く、温度が高く時間が長いと、風味や着色等の問題が起き易くなる。
【0074】
(糖含有濃縮大豆蛋白質素材)
こうして得られる濃縮大豆蛋白質素材は、従来の分離大豆蛋白質等に比べ、高い乳化性および蛋白質粒子の分散性を示し、乳化物製品の原料として非常に適している。そして、NSIが80%以上であると好ましく、また0.22M TCA可溶化率が30%以下であると更に好ましく、15%以上であると最も好ましい。
【0075】
(カゼイン代替物)
カゼイン代替物とは、カゼインの主たる用途である、クリーム,コーヒーホワイトナー,マーガリン,フラワーペースト等の乳化物を調製する際に、カゼインの全てまたは一部と置換可能な蛋白質を意味する。
【0076】
(コーヒーホワイトナー)
本発明において液状コーヒーホワイトナーとは、成分として蛋白質,脂質,乳化剤を含み、常温で液体の水中油型乳化物を指す。好ましくは、蛋白質3〜10重量%、脂質10〜40重量%、燐酸塩0.2〜1.5重量%、乳化剤0.4〜2.5重量%の組成を持つものであり、液状コーヒーホワイトナーの好ましい粘度として60mPa・s以上が例示できる。また液状コーヒーホワイトナーを構成する蛋白質成分はとしては、全脂乳,脱脂乳,カゼイン,乳ホエー,濃縮大豆蛋白質,分離大豆蛋白質,コーングルテン,小麦グルテン,卵白,卵黄等の、種々の蛋白質原料や蛋白質素材が使用できるが、液状コーヒーホワイトナーを構成する蛋白質中、大豆蛋白質が30重量%以上含まれていても、本発明は従来の濃縮大豆蛋白質素材と比較して特に効果的に保存後の離水を抑制できる。しかし、大豆蛋白質が蛋白質中60重量%を超えると、フェザーリングや離水が発生し易くなる。
【0077】
(コーヒーホワイトナー製法)
液状および粉末状コーヒーホワイトナーを調製するには、これらの原料を水系にて混合し、さらに含まれた脂質を均質化する。均質化とは、水と油を含む混合液を水中油型乳化組成物とし、さらに水中油型乳化組成物の液滴を微細化することである。微細化の一つの方法としては乳化機などの装置を用いる方法がある。乳化機としては、例えば、回転羽を有する撹拌機、高速回転するディスクやローターと固定ディスクを有するコロイドミル,超音波式乳化機,一種の高圧ポンプである均質機(ホモジナイザー)などが挙げられ、中でも均質機(ホモジナイザー)が好ましい。均質化工程としては例えば、上記原料を含む水中油型乳化物を、ホモジナイザーで30〜200kg/cm2の圧力で均質化した後、110〜150℃好ましくは120〜140℃で1〜10秒好ましくは3〜7秒で殺菌処理を行い、さらにホモジナイザーを用いて150〜500kg/cm2の圧力で均質化する方法が挙げられる。
【0078】
本発明の液状コーヒーホワイトナーは、先に説明した水中油型乳化物を収納した容器と併せて流通することも出来る。組成物が加熱滅菌され、無菌充填することが出来るため、保存,輸送が容易であり、必要な時直ぐに利用できる利点がある。また、従来の濃縮大豆蛋白質素材を利用したコーヒーホワイトナーと比較して保存時において、オイルオフ,離水が起こりにくい利点がある。充填法としては、当該コーヒーホワイトナーをあらかじめ加熱滅菌した後に無菌的に容器に充填する方法(例えばUHT滅菌とアセプティック充填を併用する方法)、また、当該コーヒーホワイトナーを容器に充填した後、容器と共に加熱滅菌する方法(例えばレトルト殺菌)などが採用できる。なお、UHT滅菌法では、間接加熱方式及び直接加熱方式のどちらでも使用することが出来る。また、コーヒーホワイトナーを水溶液として殺菌することなく、乾燥粉体として調製、流通し、使用直前に水溶液とするコーヒーホワイトナーにおいても、本発明の糖含有濃縮大豆蛋白質素材およびコーヒーホワイトナー用濃縮大豆蛋白質素材は、フェザーリングが発生せず離水の起こらない好ましい物性を持ったコーヒーホワイトナーとすることが出来る。
【0079】
[第四形態]
本発明の第四形態は、高栄養液体食品用の濃縮大豆蛋白質素材である。即ち、本発明の大豆蛋白質原料に更に加工を行ことで、特徴的な物性を有するものとなり、この大豆蛋白素材を用いると、低粘度で凝集物の少ない、良好な物性の高栄養液体食品を得る事ができる。
【0080】
この様に得られた高栄養液体食品用の濃縮大豆蛋白質素材は、以下の(a)〜(d)に挙げる物性も有する。すなわち、
(a)ミネラル添加溶液粘度が15mPa・s以下で且つ、ミネラル添加溶液沈澱量が1容量%以下。
(b)濃縮大豆蛋白質素材の12重量%水溶液の、5℃における粘度が1,000mPa・s以下。
(c)濃縮大豆蛋白質素材の0.22MTCA可溶化率が11%未満。
(d)濃縮大豆蛋白質素材のNSIが70%以上。
また、(b)に記載の粘度は、600mPa・s以下が、(c)に記載の0.22M TCA可溶化率は10%未満が、(d)に記載のNSIは73以上が、それぞれ良好な高栄養液体食品を調製するに当り、更に適切であり好ましい。
これら(a)〜 (d)の条件に合致しない大豆蛋白質素材で、調製した高栄養液体食品は、粘度が高すぎたり凝集物が発生するなどの問題を有する場合があり、液体食品として良好な物性を得ることが難しい。尚、ミネラル添加溶液とは、後述するように0.03重量%のカルシウムを含む、5重量%の蛋白質水溶液を121℃,10分間加熱したものである。
【0081】
(調製方法)
すなわち本発明の、高栄養液体食品用の濃縮大豆蛋白質素材は、以下の様に調製する。先に説明した大豆蛋白質原料の水懸濁液または水溶液を、pH5.7〜7.4、好ましくはpH6.0〜7.0とし、そのまま水系下に110℃〜160℃、好ましくは115℃〜140℃にて、15〜70秒間、好ましくは20〜60秒間で加熱処理することで得ることができる。加熱時のpHが低いと工程中での加熱殺菌後の液が増粘し、その後の工程、例えば噴霧乾燥等が難しくなる。また加熱時のpHが高いと、高栄養液体食品調製時の粘度が高くなるだけでなく、保存中の増粘も促進される。
【0082】
加熱温度が不十分では高栄養液体食品調製時に粘度が高くなり、加熱温度が高すぎると濃縮大豆蛋白質素材の溶解性が低下し、凝集物が発生する。一方、加熱時間が短かすぎると、得られる大豆蛋白質溶液の粘度が高く、その大豆蛋白質を用いた水中油型乳化物の油滴径が大きくなる。加熱時間が長すぎると、大豆蛋白質の溶解性が低下し凝集物が発生する。加熱時の濃縮大豆蛋白質素材の水懸濁液または水溶液の濃度は任意に設定できるが、乾燥固形分として概ね5重量%〜20重量%が例示できる。これより低濃度でも処理費用が余分に発生する程度で、実施に特に差し支えないし、高濃度でもその後の処理に影響を与えない粘度であれば良い。尚、加熱には工業的には高温瞬間加熱殺菌装置、例えばスチームインジェクション方式の連続式直接加熱殺菌装置等を用いることが出来る。
【0083】
(亜硫酸塩)
本発明は、亜硫酸塩を併用することで、更に低粘度低凝集な性質の濃縮大豆蛋白質素材を得ることができる。亜硫酸塩には亜硫酸ナトリウムが好ましく、これには一般食品工業向けのものが使用できる。また、次亜硫酸ナトリウムも同様に使用できる。これらは、上記大豆蛋白質原料の水懸濁液または水溶液の加熱処理時にその乾燥固形分当たり0.05重量%以上の亜硫酸塩が存在する様に、加熱前の任意の工程で添加することができる。0.05重量%以上の亜硫酸塩の添加により、二価金属存在下での大豆蛋白質素材溶液の粘度上昇や凝集発生を効果的に軽減し、二価金属対する強い耐性を与えることができる。添加量が多すぎると、製造した大豆蛋白質素材中の残存二酸化イオウ量が多くなる。食品中の二酸化イオウ量は食品衛生法で制限されているために、この値を超えない様に、通常は前述の乾燥固形分当たり0.2重量%以下で用いる場合が多い。また加熱殺菌後の添加では、亜硫酸塩によるミネラル耐性の向上効果を期待することはできない。
【0084】
こうして得られた濃縮大豆蛋白質素材は、高栄養液体食品の原料として用いるに非常に適した物性を持つ。この濃縮大豆蛋白質素材は、液体のまま液体食品に調製することもできるが、乾燥し粉末化した上で、改めて種々の原料と混合調製し液体食品とすることが好ましい。
【0085】
濃縮大豆蛋白質素材溶液の低粘度化のために、一般的に加水分解反応を用いるが、この際大豆蛋白質素材の0.22M TCA可溶化率が11%以上にまで加水分解を行なうと、総じてミネラル耐性が低くなり、かつ液体食品の増粘または,凝集物発生を招き易い。液体食品を調製するに当り、0.22M TCA可溶化率11%以上の、積極的な加水分解反応を行うことは好ましくない。
【0086】
(高栄養液体食品)
本発明において高栄養液体食品とは、カロリー値が1kcal/mL以上、栄養成分として少なくとも蛋白質,脂質,炭水化物,ミネラル,ビタミンを含み、常温で液体の食品を指す。好ましくは、蛋白質:10〜25%、脂質:15〜45%、炭水化物:35%以上のエネルギー組成と,カルシウム:20〜110mg/100kcal、マグネシウム:10〜70mg/100kcalの組成を持つものである。更に好ましくは、蛋白質:16〜20%、脂質:20〜30%、炭水化物:50〜65%のエネルギー組成と、カルシウム:35〜65mg/100kcal、マグネシウム:15〜40mg/100kcalの組成を持つものであり、高栄養液体食品の好ましい粘度としては、150mPa・s以下が例示できる。また、本発明の濃縮大豆蛋白質素材を、蛋白質として全蛋白質の50重量%以上、好ましくは60重量%以上含む高栄養液体食品が、大豆蛋白質に由来する生理効果を享受でき易く、好ましい。
【0087】
これら高栄養液体食品は前記の組成に加え、リン酸塩,クエン酸塩などの塩類、香料等を適宜添加することにより、高カロリー,高蛋白質,栄養バランス,良好な風味等の性質を付与することが可能であるが、本発明の濃縮大豆蛋白質素材を使用すれば、従来の濃縮大豆蛋白質素材を使用するよりも、キレート剤として機能するリン酸塩やクエン酸塩などの使用を大幅に減らすことができる。すなわち、従来の濃縮大豆蛋白質素材ではこれらキレート剤を多量に使用しないと、高栄養液体食品において凝集や沈澱を発生させたり、保存中の増粘を招いていたが、本発明の濃縮大豆蛋白質素材を使用することにより、この問題の回避が可能となる。これらキレート剤は一般的に高栄養液体食品中5〜20重量%添加されることが多いが、本発明の濃縮大豆蛋白質素材を使用すると、0〜5重量%の添加量でも使用可能となる。
【0088】
高栄養液体食品を調製するには、これらの原料を水系にて混合し、更に含まれた油分を均質化する。均質化とは、水と油を含む混合液をエマルションとし、さらにエマルションの液滴を微粒化することである。均質化の一つの方法としては乳化機などの装置を用いる方法がある。乳化機としては、例えば、回転羽を有する攪拌機、高速回転するディスクやローターと固定ディスクを有するコロイドミル、超音波式乳化機、一種の高圧ポンプである均質機(ホモジナイザー)などが挙げられる。中でも均質機(ホモジナイザー)が好ましく、均質化工程としては例えば、40〜100MPa、好ましくは50〜90MPaでの処理が挙げられる。
【0089】
本発明の高栄養液体食品は、上記の栄養組成物を収納した容器と併せて流通することもできる。栄養組成物が加熱滅菌され、無菌充填することができるため、保存,輸送が容易であり、必要なときすぐに使用できるという利点がある。また、保存時において、蛋白質の凝集,沈澱が形成しにくい利点がある。充填法としては、当該高栄養液体食品をあらかじめ加熱滅菌した後に無菌的に容器に充填する方法(例えば、UHT滅菌とアセプティック充填を併用する方法)また、当該高栄養液体食品を容器に充填した後、容器とともに加熱滅菌する方法(例えば、レトルト殺菌)などが採用できる。なお、UHT滅菌法では、間接加熱方式および直接加熱方式のどちらでも使用できる。また、高栄養液体食品を水溶液として殺菌することなく、乾燥粉体として調製,流通し、使用直前に水溶液とする高栄養液体食品にあっても、本発明の濃縮大豆蛋白質素材は、低粘度であり且つ低凝集の、好ましい物性を持った高栄養液体食品とすることができる。
【0090】
(測定方法)
次に本発明で用いた測定方法を示す。
<蛋白質含量(CP)の測定>
105℃,12時間乾燥した各種蛋白質素材の乾燥重量に対して、ケルダール法により測定した粗蛋白質量の重量を、重量%で表した。尚、窒素係数は6.25とした。
<0.22M TCA可溶化率>
大豆蛋白質素材に10倍量の水を加え、プロペラ撹拌し、濾紙(No.5)透過液を得、これに対し、等量の0.44M TCA溶液を加え、濾紙(No.6)透過液中の窒素をケルダール法で測定し、重量で除して百分率で表した。蛋白質の分解が進行すると、TCA可溶化率は上昇する。
【0091】
<NSI>
NSIは所定の方法に基づき、全窒素量に占める水溶性窒素(粗蛋白)の比率(重
量%)で表すことができ、本発明においては以下の方法に基づいて測定された値とする。
すなわち、試料2.0gに100mlの水を加え、40℃にて60分攪拌抽出し、1,400×gにて10分間遠心分離し、上清1を得る。残った沈殿に再度100mlの水を加え、40℃にて60分攪拌抽出し、1,400×gにて10分遠心分離し、上清2を得る。上清1および上清2を合わせ、さらに水を加えて250mlとする。No.5Aろ紙にてろ過したのち、ろ液の窒素含量をケルダール法にて測定する。同時に試料中の窒素含量をケルダール法にて測定し、ろ液として回収された窒素(水溶性窒素)の試料中の全窒素に対する割合を重量%として表したものをNSIとする。
<12重量%溶液粘度>
大豆蛋白質素材試料の12重量%溶液の、5℃での粘度をB型粘度計(TOKIMEC社製)で測定する。
【0092】
<ミネラル添加溶液粘度,沈澱量>
大豆蛋白質素材試料の5重量%水溶液100gに対し、30mgのカルシウム量となるよう乳酸カルシウムを添加し、この溶液をレトルトパウチに充填する。レトルト殺菌装置(日阪製作所社製)にて121℃,10分間加熱後の、20℃における粘度をB型粘度計(TOKIMEC社製)で測定する。また、これを10mL目盛付円錐形遠心沈澱管(テックジャム社製)へ10mL入れ、1,300×g,10分間遠心した後、沈澱量を測定し、沈殿管中の試料溶液に対する沈殿量を容量%で表す。
【0093】
<遊離アミノ酸含量の測定>
アミノ酸分析により大豆蛋白質画分の加水分解物中の遊離アミノ酸含量の測定を行った。加水分解物(4mg/ml)を等量の3%スルホサリチル酸に加え、室温で15分間振とうした。10,000rpmで10分間遠心分離し、得られた上澄みを0.45μmフィルターでろ過し、アミノ酸分析器(日本電子製JLC500V)にて、遊離アミノ酸を測定した。蛋白質中の遊離アミノ酸含量はケルダール法にて得られた蛋白質含量に対する割合として算出した。
【0094】
<ゲル化力>
濃縮大豆蛋白質素材の粉末と3.5倍の重量の水をワーリングブレンダーにより均一なペーストとし、直径25mmのケーシングに充填し、80℃湯浴中で30分間ボイルし、水冷し、ケーシングゲルとした。ケーシングから取り出した後、形状を保っているものをゲル化力保有と評価した。ケーシングから取り出したゲルを用いて、破断荷重,破断変形,ゼリー強度を測定した。測定はレオメーター(Rheoner RE-33005・(株)山電製)を用い、プランジャー径:φ5mm,試料厚:20mm,速度:1mm/secで行った。
【0095】
<糖結合量測定>
80容量%のプロパノール水溶液に溶解しない成分中の糖をフェノール硫酸法で定量し、糖結合量とする。すなわち、濃縮大豆蛋白質素材試料の5重量%水溶液1mlに対して、2-プロパノール(キシダ化学株式会社)を4ml加え十分に撹拌する。10分間室温で放置後、3,000rpmで10分間撹拌し沈殿を回収する。沈殿に対し80容量%の2-プロパノールを5ml加え沈殿を十分に分散させ、3,000rpmで10分間撹拌し沈殿を回収する。この操作をもう一度繰り返し沈殿を回収する。沈殿に対し、1M NaOHを5ml加え十分に懸濁させ、10分間加熱溶解させる。加熱溶解させたサンプルを水浴中で冷却した後、蛋白質定量法(ビュレット法)により蛋白質量を定量し、15mg/mlになるようにサンプル濃度を調整する。脱イオン水0.8mlに対して濃度調整したサンプルを0.2ml加え、5重量%フェノール水溶液を1ml加え十分に撹拌する。このサンプル懸濁液に対して濃硫酸を5ml素早く加え10分間室温で放置する。室温で放置後、十分に撹拌し水浴中で10分間放置後、波長490nmで吸光度を測定する。定量はD-グルコース(和光純薬株式会社)を使用し検量線を作製し定量を行う。また、濃度調整したサンプルの蛋白質量も定量し、糖結合量=糖濃度(μmol)/蛋白質量(g)として算出する。
【実施例】
【0096】
以下、実施例により本発明の実施態様を具体的に説明する。
【0097】
(製造例1)脱脂大豆蛋白質カードの調製
NSIを55%に調整した大豆粉(油分26重量%)20kgに対し、300kgの水を加え、pH7に調整し、50℃にて30分間攪拌抽出した。遠心分離機にて1,400×g、10分間の分離を行い、クリーム層、中間層、沈殿層(オカラ)に分離した。中間層である豆乳を乾燥固形分量12%に濃縮した後、塩酸を適量添加しpH4.5に調整した。更に遠心分離機にて3,000×g,15分間の分離を行い、沈殿物を脱脂大豆蛋白質カードとして回収した。
【0098】
(比較製造例1)従来型大豆蛋白質カードの調製
原料の大豆粉としてヘキサン脱脂した低変性脱脂大豆粉から以下の様に分離大豆蛋白質を調製した。低変性脱脂大豆粉1kgの温水抽出スラリーを遠心分離機にてオカラ画分を除き脱脂豆乳とした。次に、得られた脱脂豆乳のpHを4.5に調整して等電点沈殿し、遠心分離機にて3,000×g、15分間の分離を行い、沈殿物を従来型大豆蛋白質カードとして回収した。
【0099】
(製造例2)分離大豆蛋白質 製造例1にて得られた脱脂大豆蛋白質カードに4倍量の水を加えて、水酸化ナトリムでpH7.0に調整し、分離大豆蛋白質を含有する溶液を得た。これを連続式直接加熱方式殺菌装置(以下VTIS)(アルファラバル社製)で140℃,10秒間加熱を行い、スプレードライヤー(大川原化工機社製)で噴霧乾燥を行い、粉末状の分離大豆蛋白質A1を得た。尚、分離大豆蛋白質A1の蛋白質含量に対する脂質含量は2.83重量%であり、脂質100gに対するカンペステロール及びスチグマステロールの和は557.0mgであった。
【0100】
(比較製造例2)従来型分離大豆蛋白質 比較製造例1にて得られたヘキサン脱脂の従来型大豆蛋白質カードを用いて、製造例2と同様の処理を行い、粉末状の従来型分離大豆蛋白質a2を得た。尚、分離大豆蛋白質a2の蛋白質含量に対する脂質含量は4.06重量%であり、脂質100gに対するカンペステロール及びスチグマステロールの和は43.5mgであった。
【0101】
(製造例3)ピックル液用分離大豆蛋白質
製造例1にて得られた脱脂大豆蛋白質カードを乾燥固形分11重量%の濃度になるように水を加え、水酸化ナトリウムを用い溶液pH7.3に中和した。これをVTIS殺菌装置を用いて加熱処理(140℃,1分)を行い加熱変性させた大豆蛋白質溶液を得た。この大豆蛋白質溶液に、対乾燥固形分量あたり0.2重量%のAspergillus oryzae由来の「フレーバーザイム」(ノボザイムジャパン(株)製)を加え、55℃の反応温度で30分間、蛋白質加水分解を行った。酵素処理後の大豆蛋白質溶液をVTIS殺菌装置を用いて加熱処理(140℃,15秒)を行い、噴霧乾燥し、粉末状の分離大豆蛋白質B1を得た。得られた分離大豆蛋白質素材B1を分析した結果、0.22M TCA可溶化率が6.6%、蛋白質中遊離アミノ酸量が0.15重量%、遊離アミノ酸中の疎水性アミノ酸比が51%、3.5倍加水でゲル化力を有することが確認された。
【0102】
(比較製造例3)ピックル液用従来型分離大豆蛋白質
比較製造例1にて得られたヘキサン脱脂の従来型大豆蛋白質カードを用いて、製造例3と同様の処理を行い、粉末状の分離大豆蛋白質b2を得た。得られた従来型分離大豆たん白素材b2を分析した結果、0.22M TCA可溶化率が8.6%、蛋白質中遊離アミノ酸量が0.16重量%、遊離アミノ酸中の疎水性アミノ酸量比が51%、3.5倍加水でゲル化力を有することが確認された。
【0103】
(製造例4)蛋白質飲料用分離大豆蛋白質
製造例1にて得られた脱脂大豆蛋白質カードを用いて、カードを乾燥固形分12重量%の濃度になるよう加水し、水酸化カルシウムを乾燥固形分当り0.7重量%(カルシウムとして0.38重量%)を加え、水酸化ナトリウムを用いて溶液pHを7.2に中和を行った。次いで、この中和蛋白溶液をVTIS殺菌装置を用いて140℃で1分間加熱処理を行い大豆蛋白溶液を得た。
この大豆蛋白溶液を「ペプチダーゼR」および「プロテアーゼN『アマノ』G」(天野エンザイム(株)製)のエキソ型およびエンド型のプロテアーゼを両者併用使用し、55℃の反応温度で30分間、蛋白質加水分解を行った。加水分解度の程度は、使用酵素量の添加量を調整し、表2に示す異なる分解度を得た。
酵素加水分解後、この溶液をVTIS殺菌装置を用いて140℃で10秒間加熱処理を行い、ソルビタン脂肪酸エステル(HLB 4.9)を乾燥固形分当り0.2重量%添加、均質化した後、噴霧乾燥により粉末状分離大豆蛋白質C1を得た。得られた分離大豆蛋白質C1を分析した結果、0.22M TCA可溶化率が29%、10重量%水溶液のpHが7.26、カルシウムおよびマグネシウムの合計は0.5重量%である事が確認された。
【0104】
(比較製造例4)蛋白質飲料用従来型分離大豆蛋白質
比較製造例1にて得られたヘキサン脱脂の従来型大豆蛋白質カードを用いて、製造例4と同様の処理を行い、粉末状の分離大豆蛋白質c2を得た。得られた分離大豆蛋白質c2を分析した結果、0.22M TCA可溶化率が29.3%、10重量%水溶液のpHが6.98、カルシウムおよびマグネシウムの合計は0.5重量%である事が確認された。
【0105】
(製造例5)カゼイン代替物用分離大豆蛋白質
製造例1にて得られた脱脂大豆蛋白質カードに4倍量の水を加えて水酸化ナトリウムでpH7.3に調整し、分離大豆蛋白質を含有する溶液を得た。この乾燥固形分に対して無水結晶ブドウ糖(サンエイ糖化(株)製)を1重量%添加した後、得られた溶液を90℃,110℃,140℃でそれぞれ30秒間、VTIS殺菌装置で加熱を行い、得られた溶液に対してアルカラーゼ(ノボザイムジャパン(株)製)を分離大豆蛋白質の乾燥固形分当たりそれぞれ、0.2重量%添加し、55℃,15分間酵素反応を行った。酵素反応後にVTIS殺菌装置で140℃,10秒間加熱を行い、スプレードライヤーで噴霧乾燥を行い、粉末状の分離大豆蛋白質D1を得た。得られた分離大豆蛋白質D1を分析した結果、0.22M TCA可溶化率が23.1%、蛋白質1g当たり糖が189μmol結合しており、NSIは89%であった。
【0106】
(比較製造例5)カゼイン代替物用従来型分離大豆蛋白質
比較製造例1にて得られたヘキサン脱脂の従来型大豆蛋白質カードを用いて、製造例5と同様の処理を行い、粉末状の分離大豆蛋白質d2を得た。得られた分離大豆蛋白質d2を分析した結果、0.22M TCA可溶化率が25.9%、蛋白質1g当たり糖が192μmol結合しており、NSIは85%であった。
【0107】
(製造例6)高栄養液体食品用分離大豆蛋白質
製造例1にて得られた脱脂大豆蛋白質カードに4倍量の水を加えて水酸化ナトリウムでpH7.0に調整し、分離大豆蛋白質を含有する溶液を得た。この固形分に対し0.08%の亜硫酸ナトリウムを添加した後、VTIS殺菌装置で150℃,40秒間加熱を行い、スプレードライヤー(大川原化工機社製)で噴霧乾燥を行い、粉末状の分離大豆蛋白質E1を得た。得られた分離大豆蛋白質E1を分析した結果、ミネラル添加溶液沈殿量が0.0g、12重量%水溶液の5℃における粘度が322mPa・s、0.22M TCA可溶化率が3.4%、NSIが96.4 %である事が確認された。
【0108】
(比較製造例6)高栄養液体食品用従来型分離大豆蛋白質 比較製造例1にて得られたヘキサン脱脂の従来型大豆蛋白質カードを用いて、製造例6と同様の処理を行い、粉末状の従来型分離大豆蛋白質e2を得た。得られた分離大豆蛋白質e2を分析した結果、ミネラル添加溶液沈殿量が0.2g、12重量%水溶液の5℃における粘度が279mPa・s、0.22M TCA可溶化率が3.2%、NSIが94.1 %で有る事が確認された。
【0109】
製造例1〜12で得られた分離大豆蛋白質の分析値を表2に示す。尚、A1〜b2は、先に示したゲル化力測定法に準じ、規定の加水をして得られたケーシングゲルを用いて、破断荷重,破断変形,ゼリー強度を測定した。
【0110】
○表2 各分離大豆蛋白質の分析値
【0111】
(実施例1)ピックル液の検討
製造例3および比較製造例3で調製した分離大豆蛋白質B1と従来型分離大豆蛋白質b2を用いて、表3に示す組成のピックル液を調製した。調製後の液のpH及び粘度を測定後、ゲル化力測定法に準じてケーシングし、78℃で40分間加熱した。流水で室温まで戻した後、得られたケーシングゲルを用いて、ゲル強度及びゲル色調を測定した。ゲル強度はレオメーター(Rheoner RE-33005)を用いてプランジャー径:φ5mm,試料厚:20mm,速度:1mm/secの条件で行い、色調は色調色差計(Color and Color Difference Meter Model Z-1001DP・日本電色工業(株)製)を用いて行った。
【0112】
○表3 ピックル液配合
【0113】
○表4 ピックル液の評価
【0114】
ピックル液の評価を行った結果を表4に纏めた。表2の分析値より、分離大豆蛋白質B1とヘキサン脱脂の従来型分離大豆蛋白質b2は、ほぼ同じ蛋白質含量を示しているにも関わらず、本発明の分離大豆蛋白質b2を使用したピックル液の方が、従来型分離大豆蛋白質b2を使用したピックル液よりも高いゲル強度を示した。さらに、色調についても分離大豆蛋白質B1の方が、赤みが強くピックル液として優れた物性を示すことが確認された。
【0115】
(実施例2)粉末蛋白質飲料の検討
製造例4および比較製造例4で調製した分離大豆蛋白質C1とヘ従来型分離大豆蛋白質c2を用いて、風味評価を行った。風味評価は、10名のパネラーを用いて分離大豆蛋白質10重量%水溶液の風味(大豆臭、後味の不快味)について、5点満点で5点を最高として評価を行った。
【0116】
○表5 蛋白質飲料の評価
【0117】
粉末蛋白質飲料の検討結果を表5に纏めた。分離大豆蛋白質C1と従来型の分離大豆蛋白質c2の風味評価を行った結果、本発明の分離大豆蛋白質C1はヘキサン脱脂の従来型分離大豆蛋白質c2と比較して、大豆臭及び後味の不快味どちらについても良好な結果であった。
【0118】
(実施例3)カゼイン代替検討(液状コーヒーホワイトナーの検討)
製造例5および比較製造例5で調製した分離大豆蛋白質素材D1と従来型分離大豆蛋白質d2を蛋白質素材として各々使用し液状コーヒーホワイトナーを調製した。まず、水73重量部を70℃に加熱し燐酸2カリウムを0.4重量部溶解させ、ここに、上記分離蛋白質とカゼインナトリウムの等量混合物をそれぞれ5重量部添加し、シュガーエステル(DKエステルF160,第一工業製薬(株)製)を0.5重量部加えて撹拌した。さらに、この溶液に菜種硬化油(硬化菜種油(融点22℃),不二製油(株)製)を20重量部添加して、90℃湯浴中で撹拌混合し水中油型乳化物を得た。上記のようにして得られた各水中油型乳化物を、ホモジナイザーを用いて100〜200kg/cm2の圧力で均質化させた後、これらを80℃,10分間加熱して殺菌し、再度ホモジナイザーを用いて1次ホモ圧100〜300kg/cm2、2次ホモ圧50〜100kg/cm2の圧力で2段階均質化を行った後、これらを冷却して液状コーヒーホワイトナーを得た。
【0119】
コーヒーホワイトナーの評価
<フェザーリング評価>
市販のインスタントコーヒー2gを熱湯150ml(80℃以上)で溶解し、調製したコーヒーホワイトナー5mlを静かに滴下し、30秒後に撹拌して目視にてフェザーリングの程度を確認した。表中『無し』を『−』、『少ない』を『±』、『多い』を『+』で表記した。
<液状コーヒーホワイトナー保存後離水率>
調製したコーヒーホワイトナーを200ml保存瓶にて、4℃で1週間(保管し、保管後の離水率を測定した。表中『無し』を『−』、『少ない』を『±』、『多い』を『+』で表記した。また、オイルオフについても確認し、表中『無し』を『−』、『少ない』を『±』、『多い』を『+』で表記した。
<コーヒーホワイトナー粘度および乳化粒子径>
コーヒーホワイトナーの粘度は25℃にてB型粘度計(TOKIMEC社製)で、乳化粒子径はレーザー粒度分布計(島津製作所社製)で、それぞれ測定した。
【0120】
コーヒーホワイトナーの評価を行った結果を表6に纏めた。本発明の分離大豆蛋白質D1は、従来型の分離大豆蛋白質d2と比較して、フェザーリングについては同等の結果であったが、保存後の利水率については、優れていることが確認された。
【0121】
○表6 コーヒーホワイトナー評価
【0122】
(実施例4)高栄養液体食品の検討
製造例6および比較製造例6で調製した、分離大豆蛋白質E1及び従来型分離大豆蛋白質e2を使用して、ミネラル添加溶液粘度および沈殿量を測定した。またE1およびe2を使用して、高栄養液体食品を調製した。すなわち、60℃の水75.38重量部に対し、コハク酸モノグリセライド0.02重量部(ポエムB-10:理研ビタミン社製)、デキストリン15重量部(TK-16:松谷化学工業社製)、菜種油2.5重量部(不二製油社製)、各分離蛋白質5.5重量部を加えてTKホモミキサー(特殊機化工業社製)を用いて5000rpmにて15分間攪拌し、ここにクエン酸三ナトリウム0.8重量部、塩化カリウム0.4重量部、塩化マグネシウム0.2重量部、塩化カルシウム0.2重量部を加えて70℃まで昇温して更にホモミキサーにて10分間攪拌した。これを水酸化ナトリウムにてpH7.0へ調整し、高圧ホモゲナイザー(APV社製)を用いて20MPaにて処理後レトルトパウチに充填し、121℃,20分間にてレトルト殺菌処理(日阪製作所社製)を行った。10名のパネラーを用いて官能評価を行い、5点満点で評価を行った。また、総合評価を○(良い)〜×(悪い)で行った。
【0123】
○表7 ミネラル添加溶液物性および高栄養液体食品の評価
【0124】
結果を表7に纏めた。物性については両者に差は見られなかったが、風味に大きな差が認められた。本発明の分離大豆蛋白質E1を使用した高栄養液体食品は、ヘキサン脱脂の従来型分離大豆蛋白質e2を使用した高栄養液体食品と比較して、後味に渋み・収斂味を感じず、すっきりとした風味であった。さらに、こもった味もせず非常に良好な風味を示した。
【0125】
(実施例5)風味の保存安定性試験
製造例2〜6、および比較製造例2〜6で作成した分離大豆蛋白質A1〜E1及び従来型分離大豆蛋白質a2〜e2を使用して、風味の保存安定性を評価した。即ち、作成した各分離大豆蛋白質をポリスチレン製の袋に入れ、30℃の条件で、3ヶ月間保存し、1ヶ月目及び3ヶ月目に開封し、10重量%水溶液を調整し風味評価を行った。また、コントロールとして作成した各分離大豆蛋白質をアルミニウム製の袋に入れ、-18℃の条件で保管した物を設定した。風味評価については、10名のパネラーを用いて官能評価を行い、コントロールを5点満点とし、30℃で保存した分離大豆蛋白質の風味を相対的に評価した。評価結果については表8に纏める。
【0126】
○表8 風味の保存安定性試験の結果
【0127】
風味の保存安定性試験を行った結果、全ての分離大豆蛋白質について保存後1ヶ月では、風味に変化は見られなかったが、保存後3ヶ月において分離大豆蛋白質A1〜E1と従来型分離大豆蛋白質a2〜e2で差異が認められた。即ち、従来型分離大豆蛋白質a2〜e2では、各サンプル間で程度の差はあるが、全てにおいて後味に酸化劣化臭が認められたが、分離大豆蛋白質A1〜E1はコントロールと比較するとある程度の変化は認められたが、対応する従来型分離大豆蛋白質a2〜e2と比較すると、酸化劣化臭はほとんど認められず、良好な風味を維持していた。