(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記刃部は半球状の球体面を平面で切除したすくい面と、該すくい面と球体面との交差稜線からなる切刃とを有しており、前記切刃は−10°から−80°の負角のすくい角を有している請求項1から3のいずれか1項に記載されたダイヤモンド焼結体ボールエンドミル。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に記載されたボールエンドミルで被削材を切削加工し、例えばレンズ金型等の超精密金型や半導体部品等の超精密部品を製造する場合、半球状に形成した多結晶焼結ダイヤ層におけるダイヤモンド粒子の凸部が不規則な形状を呈するため多結晶焼結ダイヤ層の表面粗さが大きくなってしまい、レンズ金型等の加工精度が十分に高精度なものが得られないという欠点があった。
【0007】
しかも、放電加工によって半球状の多結晶ダイヤ層を形成するために、多結晶ダイヤ層の表面に放電加工用ワイヤの成分であるCuやZn等が溶着したり、酸化物が付着したりすることがあった。また、ダイヤモンド焼結体を高温高圧で焼結したものをワイヤ放電加工で半球状に形成するため、最表面のダイヤモンド粒子が炭化してグラファイト化することもあった。
そのため、ボールエンドミルの多結晶焼結ダイヤ層の表面に上述した熱影響層が形成されたり、ワイヤ成分やその他の不純物が付着したりすることによっても凹凸部の表面粗さが大きくなってしまい、被削材の加工面粗さを低下させるという欠点があった。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、ダイヤモンド焼結体の表面粗さを小さくして被削材の高精度な加工を行えるようにしたダイヤモンド焼結体ボールエンドミルとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミルは、ダイヤモンド焼結体ボールエンドミルであって、工具本体の先端の刃部が半球状の球体面を有し、該半球状の球体面の表面はダイヤモンド粒子と結合剤によるダイヤモンド焼結体の
ダイヤモンド粒子からなる凸部
が切刃として研磨加工
されたものであり、刃部の球体面は凸部と結合剤が脱落した凹部の表面粗さが最大1μm以下に設定されていると共に平均で0.18μm以下に設定されていることを特徴とする。
本発明によれば、刃部の半球状の球体面は表面がダイヤモンドとコバルト等の結合剤の焼結体からなっていてダイヤモンドの凸部とコバルト等の結合剤の凹部とで比較的面粗さの大きい凹凸形状を呈しており、その凸部を研磨加工することで、凸部等に付着している高温高圧で焼結した際に劣化したダイヤモンド粒子や酸化物等を除去することでダイヤモンド焼結体本来の組成でない劣化した成分を除去するため、加工時に生成する切屑や加工面にクラックが入ることを抑制して高精度の切削加工を行える。
しかも、刃部の半球状の球体面の表面粗さが最大1μm以下、そして平均0.18μm以下に設定されていることで、高精度な切削加工を行えると共に切屑や加工面にクラックが生じることを抑制して面粗さの小さい高精度な加工面が得られる延性モード切削を行える。
【0010】
また、刃部はダイヤモンド焼結体を放電加工によって略半球状に形成すると共に、その表面を研磨加工してなることを特徴とする。
本発明によれば、ダイヤモンド焼結体を放電加工によって半球状に形成する際に放電ワイヤや電極の成分である銅や亜鉛等が表面に付着しており、これを研磨によって除去することで不純物の少ない面粗度の良好な刃部を形成できる。
【0011】
また、刃部の半球状の球体面は逃げ角が0°であることを特徴とする。
刃部の半球状の球体面における逃げ面の逃げ角が0°であると逃げ面の凸部によっても切削加工を行える。
【0013】
また、刃部は半球状の球体面に付着する酸化物が10wt%以下であることが好ましい。
ダイヤモンド焼結体の球体面に付着する酸化物を表面の研磨によって10wt%以下にすることで、耐摩耗性が上がり面粗さの小さい切削加工面を得られる。
【0014】
また、本発明によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミルでは、刃部は半球状の球体面を平面で切除したすくい面と、該すくい面と球体面との交差稜線からなる切刃とを有しており、切刃は−10°から−80°の負角のすくい角を有していることを特徴とする。
本発明によれば、刃部のダイヤモンド焼結体の表面を研磨して凸部と凹部の面粗さを向上できる上に半球状の球体面をすくい面で除去してすくい角が負角の切刃を形成することで切刃強度を確保して切り込みを大きくできて、切れ味と切削効率が向上する。
【0015】
また、刃部は半球状の球体面とすくい面との交差稜線からなる切刃が半球状の球体面の半径の−5%から+5%の範囲の芯上がりまたは芯下がりに設定されていることが好ましい。
切刃を芯上がりまたは芯下がりに形成することで刃部の回転軸線近傍の低速域での切刃の欠損を防ぐと共に、この領域ではダイヤモンド粒子の凸部によって高精度に切削加工できる。また、切刃の刃先によって切り込みが大きい利点がある。
【0016】
また、本発明によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミルでは、刃部はすくい面と切刃とを回転軸線に対して両側に対向させて形成したことを特徴とする。
切刃を刃部の回転軸線の両側に対向させて形成したことで加工効率が向上する。
【0017】
また、刃部の先端において、回転軸線の両側に形成した切刃間の幅は半球状の球体面の半径の1〜10%に設定されていることが好ましい。
回転軸線の両側に形成した切刃をそれぞれ芯上がりに形成したことで、刃部の回転軸線近傍の低速域での両側の切刃の欠損を防ぐと共に、この領域ではダイヤモンド粒子の凸部によって高精度に被削材を切削加工できる。
【0018】
また、切刃にはネガランドまたはホーニングを形成してもよい。
切刃にネガランドまたはホーニングを形成することで、切刃の刃先を強化できると共に加工面や切屑にクラックが生じることを抑制して延性モード切削を進めて加工面の面粗さが向上する。
【0019】
また、切刃におけるダイヤモンド焼結体のダイヤモンド粒子の粒子径は30μm以下に設定されていることが好ましい。
ダイヤモンド焼結体の粒子径が30μm以下であれば高精度の切削加工を行える。
【0020】
本発明によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミルの製造方法は、工具本体の先端の刃部が半球状の球体面を有すると共に、その球体面の表面はダイヤモンド粒子と結合剤によるダイヤモンド焼結体の
ダイヤモンド粒子からなる凸部
が切刃として研磨加工
されたことで、前記刃部の球体面は前記凸部と結合剤が脱落した凹部の表面粗さが最大1μm以下に設定されていると共に平均で0.18μm以下に設定され、半球状の球体面をワイヤ放電加工、型彫り放電加工、レーザ加工、研削(研磨)加工の少なくとも1つ以上の手段によってすくい面となる平面に切除することで、該平面と球体面との交差稜線からなる切刃を形成するようにしたことを特徴とする。
本発明によれば、ダイヤモンド焼結体の半球状の球体面を、ワイヤ放電加工、型彫り放電加工、レーザ加工、研削(研磨)加工の少なくともいずれかの手段で平面に切除して、平面と球体面との交差稜線からなる切刃を形成することで、ワイヤ放電加工、型彫り放電加工、レーザ加工、研削(研磨)加工のいずれかの手段で切除したすくい面となる平面に、当該加工手段に基づく表面粗さが形成される。その表面粗さの凹部が切削加工時に油溜まりを形成するので生成された切屑が付着しにくく、切刃による切削時の潤滑性が高くなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミルによれば、工具本体の先端の刃部が半球状の球体面を有し、該半球状の球体面の表面はダイヤモンド粒子とコバルト等の結合剤の焼結体を研磨加工してなるため、ダイヤモンド焼結体の表面に突出するダイヤモンド粒子を研磨すると共に表面に付着する高熱で劣化したダイヤモンド粒子や酸化物等の不純物を研磨によって除去したため、表面の面粗さが小さくなり被削材の加工精度が一層向上する。
しかも、ダイヤモンド焼結体の表面の面粗さが向上するために切削加工によって生じる被削材の切屑が付着することを妨げるので被削材の加工精度が一層向上するという利点が得られる。
【0022】
また、本発明によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミルの製造方法によれば、ワイヤ放電加工、型彫り放電加工、レーザ加工、研削(研磨)加工の少なくともいずれかの手段で切除した切刃のすくい面に、当該加工手段に基づく表面粗さが形成され、その表面粗さの凹部が切削加工時に油溜まりを形成するので生成された切屑が付着しにくく、切刃による切削時の潤滑性が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第一実施形態によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミルの刃部を示すものであり、(a)は側面図、(b)は先端面図である。
【
図2】
図1に示すボールエンドミルの刃部のダイヤモンド焼結体を示す部分拡大図であり、(a)は実施形態による研磨した形状、(b)は研磨しない形状を示す図である。
【
図3】(a)は実施形態によるダイヤモンド焼結体の表面粗さを示す図、(b)は研磨しないダイヤモンド焼結体の表面粗さを示す図である。
【
図4】(a)は実施形態によるダイヤモンド焼結体の凸部と凹部の測定ポイント1,2を示す拡大図、(b)は研磨しないダイヤモンド焼結体の凸部と凹部の測定ポイント1,2を示す拡大図である。
【
図5】(a)は実施形態によるダイヤモンド焼結体のラマン分光分析結果の図、(b)は研磨しないダイヤモンド焼結体のラマン分光分析結果の図である。
【
図6】第一実施形態によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミルによる切削状態を示す要部斜視図である。
【
図7】(a)は一般的な切削工具による切削メカニズムを示す図、(b)は(a)より刃先の切り込みを浅くした場合の切削メカニズムを示す刃先の拡大図である。
【
図8】(a)は従来のダイヤモンド焼結体による切削状態の図、(b)は実施形態のダイヤモンド焼結体による切削状態の図である。
【
図9】実施形態と従来技術によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミルで切削した切屑の形状を示すものであり、(a)は切り込み深さ0.5μm、(b)は切り込み深さ1μm、(c)は切り込み深さ2μmの場合の切屑形状の図である。
【
図11】
図10に示すレンズ金型に対する実施形態のPCDボールエンドミルによる送り切削経路を示す平面図である。
【
図12】
図11において、実施形態によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミルの加工角度を示す図である。
【
図13】
図12に示す加工角度に応じた、実施形態と従来技術による被削材の加工面形状を示す拡大図であり、(a)はレンズ金型の中央付近(0°)、(b)は25°付近、(c)は45°付近の加工面形状の図である。
【
図14】レンズ金型の中央付近の加工面粗さを示す図であり、(a)は実施形態、(b)は従来技術の図である。
【
図15】レンズ金型の25°付近の加工面粗さを示す図であり、(a)は実施形態、(b)は従来技術の図である。
【
図16】レンズ金型の45°付近の加工面粗さを示す図であり、(a)は実施形態、(b)は従来技術の図である。
【
図17】切削加工後のダイヤモンド焼結体ボールエンドミルの先端面図であり、(a)は実施形態の図、(b)は従来技術の図である。
【
図18】切り込み深さによる実施形態と従来技術によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミルで切削した加工溝を示す図であり、(a)は切り込み深さ0.5μm、(b)は切り込み深さ1μm、(c)は切り込み深さ2μmの図である。
【
図19】実施形態と従来技術によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミルで切削した加工溝の溝中央における外観を示す図であり、(a)は切り込み深さ0.5μm、(b)は切り込み深さ1μm、(c)は切り込み深さ2μmの図である。
【
図20】実施形態と従来技術によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミルで切削した加工溝の溝縁部における外観を示す図であり、(a)は切り込み深さ0.5μm、(b)は切り込み深さ1μm、(c)は切り込み深さ2μmの図である。
【
図21】本発明の第二実施形態によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミルを示すものであり、(a)は要部側面図、(b)は(a)から90度異なる方向から見た要部側面図である。
【
図22】第二実施形態によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミルの先端面図である。
【
図23】第二実施形態によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミルによる切削状態を示す要部斜視図である。
【
図24】刃部の切刃のすくい角の範囲を示す説明図である。
【
図25】すくい面の芯下がりと芯上がりの範囲を示すダイヤモンド焼結体ボールエンドミルの変形例の図である。
【
図26】刃部における回転軸線の両面に対向して芯上がりのすくい面を形成したダイヤモンド焼結体ボールエンドミルの別の変形例の図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の第一実施形態によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミルについて
図1乃至
図20に沿って詳述する。
図1において、本実施形態によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミル1は、工具本体2の先端部が例えば略半球状の球体面を有するダイヤモンド焼結体(PCD)からなる刃部3として形成されている。刃部3はその外径Dが例えば1mmからなり、実際には半球形状より大きく球体に近い球体面形状を有している。そのため、刃部3は工具本体2の先端より拡径された外径形状を有している。
【0025】
工具本体2は、例えば超硬合金、cBN焼結体、ダイヤモンド焼結体等からなる材質とされている。本実施形態では、ダイヤモンド焼結体からなる刃部3と工具本体2を一体にしてその基部にろう付けしている。また、工具本体2としてダイヤモンド焼結体を用いた場合はソリッド工具にすることができ、工具本体2として超硬合金やcBN焼結体等を用いた場合には、ダイヤモンド焼結体からなる刃部3の最大外径より小径となる部分までを上記材質で形成して、この刃部3を工具本体2にろう付けしてもよい。工具本体2はその中心の回転軸線O回りに回転可能とされている。
【0026】
刃部3のダイヤモンド焼結体は、微細な多結晶のダイヤモンド粒子CをCo(またはNi)等の結合剤と混ぜて高温高圧で焼結したものであり、更に放電加工によって略半球状に形成されている。なお、本実施形態で用いるダイヤモンド焼結体のダイヤモンド粒子Cの粒径は30μm以下に設定するものとする。粒径が30μmより大きいとすくい面の間隔が大きくなって切れ味が低下し、被削材8の切削による高精度な加工面粗さを達成できない。
ダイヤモンド焼結体からなる刃部3は、
図2(b)に示すように多数のダイヤモンド粒子Cの凸部5と結合剤Coからなる凹部6とからなっていて、ダイヤモンド粒子の凸部5は不規則な形状を有している。凹部6は放電加工によって結合剤Coが抜け落ちることで形成され、それによって多数のダイヤモンド粒子が残って凸部5を形成し、この凸部5が切刃として被削材を切削加工する。
【0027】
そして、本実施形態による刃部3は高温高圧の焼結時に刃部3であるダイヤモンド焼結体の表面に熱影響層という劣化したダイヤモンドが付着し、更に酸素を含む酸化物が付着している。また、放電加工によって先端を半球状に形成する際、放電加工用のワイヤ成分である銅Cuや亜鉛Zn等が溶けて付着している。そのため、刃部3のダイヤモンド焼結体の成分は本来、ダイヤモンドCと結合剤Coだけのはずであるが、上述した不純物である劣化したダイヤモンド、酸化物、Cu,Zn等が表面に付着している。この現象はダイヤモンド焼結体の表面だけに現れる。
【0028】
そして、本実施形態である刃部3のダイヤモンド焼結体は略半球状の表面全体を砥石によってくまなく研磨することによって形成されている。これによって、ダイヤモンド焼結体の表面に付着している熱的影響を受けた劣化したダイヤモンド、不純物である酸化物、Cu,Zn等の多くが除去されている。そのため、
図2(a)に示すように凸部5はより平坦化されている。
なお、砥石による刃部3のダイヤモンド焼結体の研磨厚さ(深さ)は例えば3μm〜20μmの範囲とするが、ダイヤモンド砥粒Cの粒径によって増減調整可能である。また、砥石に代えて、バレルやラップ盤(鋳鉄の基板にダイヤモンドパウダーを塗布したスカイフ盤)等によってダイヤモンド焼結体の表面を研磨してもよい。
そのため、刃部3の表面のダイヤモンド焼結体は
図2(b)に示す研磨前(従来技術と同様)の面粗さは凸部5と凹部6の差が大きく例えば最大2μm程度、平均0.3μm程度であったが、
図2(a)に示す研磨後の最大の面粗さRzは1μm以下、平均の面粗さRaは0.18μm以下となっている。そのため、本実施形態によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミル1は面粗さの小さい高精度な切削加工を行える。
【0029】
以下、本実施形態によるダイヤモンド焼結体の刃部3の
図2(a)、(b)に示す研磨後と研磨前のダイヤモンド粒子Cの凸部5と結合剤Coの凹部6を備えた表面形状の具体例について説明する。
図3(a)、(b)は
図2(a)、(b)に示すダイヤモンド焼結体の刃部3の表面粗さを示すものである。研磨前の従来技術によるダイヤモンド焼結体の表面の面粗さは、
図3(b)で示すように、最大面粗さRz=2.0400μm、平均面粗さRa=0.3016μmであるが、研磨後の実施形態によるダイヤモンド焼結体の表面の面粗さは、
図3(a)で示すように、最大面粗さRz=0.9247μm、平均面粗さRa=0.1797μmであり、約1/2になっている。
【0030】
次に、実施形態によるダイヤモンド焼結体の刃部3の表面における、
図4(a)及び
図4(b)に示す研磨後と研磨前のダイヤモンドの凸部5の分析箇所であるポイント1と結合剤Coの凹部6の分析箇所であるポイント2の成分を分析した。その結果は下記の表1、表2に示す通りである。本実施形態による研磨後の凸部5と凹部6の
図4(a)に示すポイント1、2には、表1に示すようにそれぞれダイヤモンドCと結合剤Coが多く表れており、不純物は検出されていない。またドレシングによって突出するダイヤモンド粒子が抜けることもあるため、より平坦化されている。
一方、研磨前の凸部5と凹部6の
図4(b)に示すポイント1には、表2に示すようにダイヤモンドCと結合剤Co以外に、不純物として酸化物O、銅Cu、亜鉛Znが検出され、ポイント2には更にタングステンWが検出されている。
【0033】
また、表1,2で検出された炭素Cはダイヤモンド結晶かグラファイトという炭化したダイヤか不明であるため、これらについてラマン分光分析を行った。ラマン分光分析測定を行った結果、
図5(a)、(b)に示す測定結果が得られた。即ち、
図5(a)において、実施形態による凸部5のダイヤモンド粒子Cでは、ダイヤモンド粒子Cのピーク値である1332cm
-1が測定され、高温焼結によるグラファイトは検出されなかった。
一方、
図5(b)において、従来技術による凸部5のダイヤモンド粒子ではGバンド1580m
-1、Dバンド1350m
-1、D´バンド1620m
-1が測定され、グラファイトが検出されたが、上述したダイヤモンド粒子のピーク値は検出されなかった。そのため、実施形態による刃部3のダイヤモンド焼結体では従来技術で表面の凸部5を被覆する炭化されたダイヤモンドが研磨によって除去されたことを検出できる。
【0034】
次に本実施形態によるダイヤモンド焼結体(以下、簡便のためにPCDという)ボールエンドミル1を用いた切削方法の具体例について
図6以降によって説明する。
図6において、本実施形態によるPCDボールエンドミル1によって被削材として超硬合金からなる被削材8の溝加工を行った。切削に際してPCDボールエンドミル1の刃部3を回転軸線O周りに回転切削を行いながら被削材8に所定深さAaだけ切り込ませ、溝加工の切り込み深さAaを変えながら横送り切削加工を行う。そして、ダイヤモンド焼結体の凸部5による回転切削加工によって送り方向の一方の側部には切屑が盛り上がり、対向する他方の側部には切屑が流動して分断され加工面の周辺に飛び散ることになる。
【0035】
ここで、切削加工における延性モード切削のメカニズムについて
図7、
図8によって説明する。
図7(a)において、単結晶ダイヤモンドのバイトを用いて脆性材である超硬合金やセラミック等の被削材8を回転させながら刃部3で切削を行う場合、切り込み厚さが1μm以上であるとして、被削材8は切刃3aで生じる切屑がすくい面9の方向にまた被削材8の一部が逃げ面10の方向にそれぞれ引っ張られるため、切刃3aの領域に両方への引っ張り応力が集中してクラックが発生する。
一方、
図7(b)に示すように、被削材8への切り込み深さを0.1μm以下に小さくして刃部3を拡大して示した場合、静水圧の応力で押しつけ圧力や引張応力をなくすと被削材にクラックが入らず、切屑を流動させながら切削することになる。これが一般的な延性モード切削の原理である。
【0036】
これに対し、
図8(a)に示すように、従来技術によるPCDボールエンドミルでは、上述した研磨をしていないダイヤモンド焼結体の刃部3におけるダイヤモンド粒子Cの凸部5と結合剤Coの凹部6からなる半球状の部分で切削加工すると、凸部5や凹部6の凹凸差が大きいため、凸部5のすくい角γが小さく引っ張り応力で被削材にクラックが生じてしまい、切屑が細かく分断されてしまうために延性モードにならなかった。
一方、
図8(b)に示す本実施形態によるPCDボールエンドミル1では、ダイヤモンド焼結体による刃部3における凸部5と凹部6の面粗さが小さいため、切屑と被削材8にクラックが入らず延性モード切削になる。しかも、凸部5の切刃はすくい角γが大きな負角になり、切屑を盛り上げて長い切屑が生じる。
【0037】
本実施形態によるPCDボールエンドミル1は、半球状の刃部3における凸部5を研磨してより平坦化することで研磨後の凸部5と凹部6の面粗さをより小さく設定できることで、延性モード切削の原理によって平板状の切屑を延ばし被削材8にクラックが入らない延性モード切削を行える。
しかも、通常、延性モード切削は切り込み0.1μmまであるが、本実施形態によるPCDボールエンドミル1では、
図9(a)、(b)、(c)に示すように被削材8の切削加工によって、切り込み0.1μmに限らず、0.5μm、1μm、2μmまで延性モード切削が可能であり、従来技術の10倍から20倍の切り込みに亘って延性モード切削を行えることがわかった。
図9に示す切屑を生成する切削条件は下記の表3に示す通りである。
【0039】
次に本実施形態によるPCDボールエンドミル1による上述した延性モード切削を立証するために、超硬合金の被削材8によるレンズ金型12の切削加工結果を
図6に示すPCDボールエンドミル1を用いて
図10から
図21によって具体的に説明する。
被削材として超硬合金からなる
図10に示す凹曲面12aのレンズ金型12を切削加工するものとし、実施形態によるPCDボールエンドミル1によって三次元切削加工を行う。切削に際し、刃部3の切り込み深さAaを0.5μmとし、
図11に示すようにPCDボールエンドミル1を凹曲面12aに対して縦送りしつつ1μm(=ar)のピッチで横送りしてUターンさせてジグザグ状の軌跡Kで送り切削加工するものとした。そして、レンズ金型12の凹曲面12aは半径R=0.75mmの球面レンズ形状とした。
PCDボールエンドミル1を用いてレンズ金型12の凹曲面12aをレンズ形状に3次元加工するために用いた切削条件は下記の表4に示すとおりである。
【0041】
本実施形態によるPCDボールエンドミル1で切削加工したレンズ金型12の
図12に示す中央断面の凹曲面12aにおいて、円弧形状の中心点をPとして、中心点Pから降ろす垂線と凹曲面12aの円弧形状線との交点をaとし、この垂線に対して25°の角度の中心点Pからの線と凹曲面12aとの交点をb、45度の角度の線との交点をcとした。そして、各交点a,b,cの領域における切削加工面の拡大図を示すと
図13(a)、(b)、(c)のようになる。比較のためにダイヤモンド焼結体の表面の凸部5を研磨しない従来技術のPCDボールエンドミルによる切削加工面の交点a,b,cの領域の拡大図も同様に
図13(a)、(b)、(c)で示した。
【0042】
図13(a)、(b)、(c)に示す結果から、実施形態による凹曲面12aの切削加工面にはPCDボールエンドミル1の切削加工による走行跡は生じなかった。一方、従来技術では、PCDボールエンドミルの切削加工による走行跡がスジ状に残っており、ダイヤモンド焼結体の凸部5の研磨による凹曲面12aの面粗さの違いを確認できた。
また、
図14、
図15、
図16はレンズ金型12の凹曲面12aの上記交点a,b,cの領域における実施形態と従来技術によるPCDボールエンドミルによる切削加工面の表面粗さの測定データを示すものである。これらのグラフから、測定箇所である交点a,b,cの領域における最大表面粗さRz、平均面粗さRaについて表5に示す測定結果が得られた。
そのため、本実施形態によるレンズ金型12の凹曲面12aの切削加工について加工面粗さの向上は従来技術の2倍〜3倍という顕著な効果が得られた。
【0044】
次に
図17は上述したレンズ金型12の凹曲面12aを切削加工した後のPCDボールエンドミル1の刃部3におけるダイヤモンド焼結体の表面での切屑の付着状態を示すものである。同図(a)に示す実施形態によるPCDボールエンドミル1の刃部3では球体面の凸部5と凹部6の面粗さが小さくダイヤモンド粒子表面が平滑化しているために切屑がほとんど付着しておらず、加工が進んでも刃部3の切れ味は良好に維持できることを認識できる。一方、同図(b)に示す従来技術によるPCDボールエンドミルでは凸部5と凹部6の面粗さが大きいので多くの切屑が付着しており切削が進むと切れ味が低下することを認識できた。
【0045】
また、
図18において、実施形態によるPCDボールエンドミル1と従来技術によるPCDボールエンドミルによって超硬合金による被削材8の溝加工を帯状に行った。各PCDボールエンドミルによる溝加工に際し、切り込み深さAa=0.5μm、1μm、2μmにそれぞれ設定して送り切削した。切り込み深さに応じて切削加工した加工溝の加工面形状が
図18(a)、(b)、(c)に開示されている。
従来技術の場合には、送り方向に沿った加工面には筋状の加工跡とその加工跡上の筋に沿って周囲に飛散した細かな切屑が開示されている。一方、実施形態の場合には送り方向に沿った筋状の加工跡はほとんどなく、比較的薄く幅広の切屑が加工面に沿って飛散している。
【0046】
また、
図19、
図20は
図18に示す溝加工面の拡大図である。
図19(a)、(b)、(c)は切り込み深さ0.5μm、1μm、2μmに応じた被削材8における加工溝の溝中央に飛散した切屑の状態を示す。また、
図20(a)、(b)、(c)は切り込み深さ0.5μm、1μm、2μmに応じた被削材8における加工溝の溝縁部に飛散した切屑の状態を示す。
【0047】
従来技術のPCDボールエンドミルは、ダイヤモンド粒子Cの凸部5と結合剤Coの凹部6との間の面粗さが最大Rz=2μm、平均Ra=0.3μmと大きく加工面と切屑にクラックが生じ易いために、延性モード切削によらず、比較的細かく分断された切屑が飛散している。一方、実施形態のPCDボールエンドミル1は、研磨されたダイヤモンド粒子Cの凸部5と結合剤Coの凹部6との間の面粗さが最大Rz=1μm、平均Ra=0.18μmであって加工面と切屑にクラックが生じにくいために、延性モード切削による比較的長い切屑が生成されて飛散している。
【0048】
上述したように本第一実施形態によるPCDボールエンドミル1によれば、刃部3がダイヤモンド粒子Cの凸部5と結合剤Coによる凹部6によって半球状に形成されていてその表面の凸部5を研磨して表面に付着した高温高圧で劣化したダイヤモンド粒子や酸化物O、放電加工用ワイヤの成分が溶け出した銅Cuと亜鉛Zn等の不純物を除去すると共に、大きく突出するダイヤモンド粒子Cも研磨で除去したため、ダイヤモンド焼結体の表面層における凸部5と凹部6で生成する面粗さを最大Rz=1μm以下、平均Ra=0.18μm以下と小さく設定できる。
【0049】
そのため、超硬合金等の被削材8の加工面精度が高く、しかも延性モード切削によって脆性破壊することなく長い切屑を生成することができる。即ち、半球状の刃部3の表面は凸部5と凹部6の面粗さが小さいため切屑に働く引っ張り応力をなくして高静水圧応力によってクラックを生じない長い切屑を生成できると共に加工面の面粗さが小さく高精度な加工面を形成できるという延性モード切削を行える。
しかも、刃部3の被削材8に対する切り込み深さが0.5μm程度の浅いものに限定されることなく、1μm〜2μmに至るまで深い切り込み切削においても同様に延性モード切削を行えるという効果を奏する。
【0050】
以上、本発明の第一実施形態によるPCDボールエンドミル1を説明したが、本発明はこのような実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の異なる形態や態様を採用できることはいうまでもない。これらはいずれも本発明の範囲に含まれる。
次に本発明の他の実施形態や変形例について説明するが、上述した実施形態の部分や部品と同一または同様なものについては同一の符号を用いて説明を行うものとする。
【0051】
次に本発明の第二実施形態によるPCDボールエンドミル20について
図21から
図23に基づいて説明する。
図21から
図23において、本第二実施形態によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミル20は、工具本体2の先端部が例えば略半球状のダイヤモンド焼結体(PCD)を形成し、その外周面には多数のダイヤモンド粒子Cの凸部5と結合剤Coの凹部6とで半球面状の凹凸形状を有している刃部3を形成している。
【0052】
しかも、半球状の刃部3のダイヤモンド焼結体はその表面を砥石によって研磨することによって、ダイヤモンド焼結体の表面に付着している高熱で劣化した熱影響層のダイヤモンド粒子C、結合剤Co,酸化物、放電ワイヤから溶解した成分のCu,Zn等の不純物を含む劣化層の多くが除去されて1μm以下の小さな面粗さを有している。
このようにして成形された第一実施形態による略半球状のダイヤモンド焼結体の刃部3を斜めにカットしたすくい面21を形成することで本第二実施形態によるPCDボールエンドミル20が形成されている。
【0053】
本第二実施形態によるPCDボールエンドミル20は、
図21(a)、(b)及び
図22に示すように、すくい面21が略半球状の外周面22の工具本体2との接合部付近から工具本体2の中心軸線Oと交差するように例えば約40°の平面で切除されて構成されている。そして、ダイヤモンド焼結体からなる半球状の外周面22とすくい面21との交差稜線が略円形を呈する切刃23を構成している。しかも、この刃部3は工具本体2の中心軸線Oを中心とする回転方向に応じてすくい面21の回転方向前方を向く一方の半円弧状の稜線が切刃23を構成する。
【0054】
すくい面21における切刃23のすくい角αは−40°の負角に設定されている。また、切刃23の逃げ面は研磨したダイヤモンド粒子Cの凸部5と結合剤Coの凹部6とで凹凸形状を形成した外周面22に形成されており、切刃23の逃げ角は0°に設定されている。そのため、工具本体2を中心軸線O回りに回転させながら横送りすると、略半球状の刃部3の回転によって半円弧状の切刃23で被削材を回転切削しながら切刃23の逃げ面である略半球状の外周面22においてもダイヤモンド粒子の凸部5によって切削加工を行う。
しかも、本第二実施形態では、刃部3も研磨されたダイヤモンド粒子Cの凸部5と結合剤Coからなる凹部6とで凹凸形状を形成している。
【0055】
次に、本第二実施形態によるPCDボールエンドミル20におけるすくい面21の成形方法について説明する。
すくい面21の成形方法はダイヤモンド焼結体からなる半球状の外周面22を斜めに切除するものであれば、適宜成形方法を採用できる。例えば、砥石による機械研削(研磨)によってすくい面21を形成してもよい。砥石による機械研削は手間がかかるが、すくい面21の仕上げ面粗さが良いという利点がある。
また、他のすくい面21の成形方法を説明すると、例えばワイヤ放電加工によって半球状の刃部3からすくい面21を切除して形成してもよい。この場合、全加工行程をワイヤ放電加工で行ってもよいし、粗加工をワイヤ放電で行って仕上げ研削(研磨)加工を砥石による機械研削で行ってもよい。仕上げ加工を砥石で行うとワイヤ放電加工よりも仕上げ面粗さが小さくなる。
【0056】
また、他の成形方法として、型彫り電加工によって半球状の刃部3からすくい面21を切除して形成してもよい。この場合、全加工行程を型彫り放電加工で行ってもよいし、粗加工を型彫り放電加工で行って、仕上げ研削(研磨)加工を砥石による機械研削で行ってもよい。
同様に、レーザ加工によって半球状の刃部3からすくい面21を切除してもよい。この場合、全加工行程をレーザ加工で行ってもよいし、粗加工をレーザ加工で行って、仕上げ研削(研磨)加工を砥石による機械研削で行ってもよい。
いずれの場合も仕上げ加工を砥石による機械研削で行うと、手間がかかるが仕上げ面粗さが向上する利点がある。
【0057】
しかも上述したいずれかのすくい面21の成形方法を用いた場合において、すくい面21の表面粗さを適度に粗く形成し、例えば面粗さ3μm〜10μmの範囲に設定すると、表面の凹凸の凹部に切削油剤を貯留できて油溜まりを形成できる。この場合、すくい面21に切刃23で生成した切屑が刃先に付着することを油溜まりによって抑制できる。また、切刃23近傍の油溜まりに貯留する油剤が切刃23の潤滑性を向上させて摩耗を抑制する効果により、切削抵抗が軽減して耐欠損性を向上させる。
【0058】
本第二実施形態によるPCDボールエンドミル20は上述した構成を備えているから、
図23に示すように、被削材8の溝加工を行うためにPCDボールエンドミル20を深さAaに亘って切り込ませて横送り切削して、超硬合金の被削材8に切削加工する。その際、刃部3の回転軸線O回りの回転によって刃部3の切刃23によって被削材を切削加工して生成される切屑をすくい面21を通して排出させる。その際、切刃23のすくい角は負角α(例えばα=-40°)であるため、被削材が超硬合金のような高硬度材料であっても刃先強度が高く、ダイヤモンド焼結体からなる切刃23を欠損することなく切削加工できる。
【0059】
しかも、略半球状の刃部3に形成された切刃23の逃げ面は逃げ角が0度であるため、逃げ面のダイヤモンド焼結体のダイヤモンド粒子Cの凸部5によっても被削材を切削加工する。その際、刃部3の切り込み深さAaに応じて刃部3の周縁部に切屑を盛り上げると共に、切刃23によって超硬合金の切屑を生成してすくい面21上を流通させる。更に、切刃23の逃げ面である刃部3の略半球状の研磨された凸部5のダイヤモンド焼結体は凹部6との面粗さが最大Rz=1μm以下と小さいため、クラックを生じにくく長い切屑と面粗さの小さい良好な加工面を得られる延性モード切削を行うことができる。
【0060】
従って、本第二実施形態によるPCDボールエンドミル20によれば、略半球状の刃部3の一部をすくい面21で切除した負角αの切刃23によって超硬合金等の被削材8を切削加工できると共に、切刃23の逃げ面をなすと共に刃部3の研磨したダイヤモンド粒子Cの凸部5と結合剤Coの凹部6による略半球状の一部をなすダイヤモンド焼結体によって、切屑や加工面にクラックを生じ難い延性モード切削を行える。
そのため、刃部3の全周を略半球状に形成した第一実施形態によるPCDボールエンドミル1よりも切刃23の切り込みを5〜10倍深くすることができて切削効率が向上し、焼き入れ鋼のような高硬度材や超硬合金、セラミック等の硬脆材による被削材8を高効率で面粗さの良好な切削加工を行える。
【0061】
しかも、ダイヤモンド焼結体からなる半球状の外周面22の一部を切除してすくい面21を形成することで、選択されたいずれかの加工方法に応じてすくい面21にその表面粗さによる微細な凹凸が形成される。そしてワークの切削加工時に、切刃23近傍のすくい面21の凹部に切削油剤が貯留され、凹部内の切削油剤が切刃23に供給されることで潤滑性を向上させて摩耗を抑制する効果により、切削抵抗が軽減して耐欠損性を向上させる。
【0062】
また、本第二実施形態によるPCDボールエンドミル20では、ワイヤ放電加工、型彫り放電加工、レーザ加工を用いてすくい面21と切刃23を形成することで、切刃23のエッジがチャンファや刃先ホーニングと同様な形態が得られるため、切刃強度を向上できる。また、すくい面21の表面粗さを例えば最大3μm〜10μmに設定して適度に粗くすることで微細な凹部に油溜まりを形成でき刃先への切屑付着の防止や耐欠損性、耐摩耗性を向上できる。
【0063】
なお、略半球状でダイヤモンドCと結合剤Coからなるダイヤモンド焼結体の刃部3を研磨した後、すくい面21を切除して負角のすくい角αを形成して稜線に切刃23を形成したPCDボールエンドミル20において、切刃23のすくい角αは−40°に限定されるものではない。
図24に示すように少なくとも−10°から−80°をなす範囲で適宜のすくい角αを設定できる。しかも、少なくとも切刃23近傍がすくい面21となる平面を有していればよい。
ここで、切刃23のすくい角αが上記範囲であれば切刃23の欠損を防いで第一実施形態による半球状の刃部3と比較してより高い切り込みで切削加工が行える。一方、すくい角αが−10°より大きいと、超硬合金のような高硬度な被削材を切削加工する際に切刃23を欠損し易いおそれが生じる。また、すくい角αが−80°より小さいと負角が大きすぎて切刃23の切れ味が著しく低下して切削加工を効率よく行えない。
【0064】
また、変形例によるPCDボールエンドミル20において、略半球状の刃部3では、すくい面21の切刃23は先端部で回転軸線Oと交差するように形成したが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。
例えば
図25に示すように切刃23Aは芯上がりに形成してもよいし、或いは切刃23Bとして芯下がりに形成してもよい。この場合、刃部3の先端部において、基準となるすくい面21を形成する回転軸線Oと先端部で交差する切刃23のすくい角αを−10°〜−80°の範囲として、すくい面21を形成する切刃23の芯上がりと芯下がりの範囲は、回転軸線Oと刃部3の先端部との交差部を中心として回転軸線Oに直交する方向に、略半球状の刃部3の半径をR(=0.5mm)として±2%の範囲内に設定するものとする。例えば、刃部3の半径Rを500μmとして±25μmの範囲に設定することが好ましい。
【0065】
また、他の変形例によるPCDボールエンドミル20として、
図26に示すように、上述したダイヤモンド焼結体からなる略半球状の刃部3において、回転軸線Oの両側に同一のすくい角αを有するすくい面21をそれぞれ形成し、すくい面21と略半球状の外周面22との交差稜線が切刃23を構成している。これらのすくい角αは負角−10°〜−80°の範囲に設定されている。また、一対のすくい面21と切刃23は回転軸線Oに対して線対称及び回転対称に設定されていることが好ましい。
しかも、対向する一対の切刃23は芯上がりに形成されており、各切刃23の先端部の回転軸線Oからの芯上がりの長さSは刃部3の半径Rの1〜5%の範囲に設定されていることが好ましい。例えば、刃部3の半径Rを500μmとして芯上がりの長さSは±25μmの範囲に設定することが好ましい。各切刃23を芯上がりに形成することで回転軸線O近傍の低速域での切刃23の欠損を防ぐと共に切刃23による切り込みが大きく、この領域ではダイヤモンド粒子Cの凸部5によって延性モード切削で高精度に切削加工することができる。
【0066】
なお、上述した第二実施形態やその変形例によるPCDボールエンドミル20では、切刃23にネガランドや丸ホーニングを形成してもよい。これによって刃先強度を向上させて耐摩耗性を向上できる。
また、放電加工として実施形態ではワイヤ放電加工によってダイヤモンド焼結体の刃部3に半球状の球体面を形成したが、ワイヤ放電加工に代えて形彫り放電加工等で行ってもよい。また、刃部3の先端に半球状の球体面を形成するに際し、必ずしも放電加工によって行わなくてもよく、例えば砥石で研磨して半球状または部分的な球面形状に形成してもよい。