(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
それぞれ検出対象の角度と対応関係を有する第1の信号と第2の信号を生成する信号生成部と、前記第1の信号と前記第2の信号を用いた演算を行って前記検出対象の角度と対応関係を有する角度検出値を生成する角度検出部とを備えた角度センサに用いられる補正装置であって、
前記検出対象の角度が所定の周期で変化する場合、前記第1の信号は第1の理想成分と第1の誤差成分とを含み、前記第2の信号は第2の理想成分と第2の誤差成分とを含み、
前記第1の理想成分と前記第2の理想成分は、互いに異なる位相で、理想的な正弦曲線を描くように周期的に変化し、
前記補正装置は、
補正情報を生成する補正情報生成部と、
前記角度検出部が前記角度検出値を生成する過程において、前記補正情報によって処理内容が決定された補正処理を行う補正処理部とを備え、
前記補正処理は、前記角度検出値を、前記補正処理を行わない場合における前記角度検出値に相当する未補正角度検出値に比べて、前記第1の信号が前記第1の誤差成分を含まず前記第2の信号が前記第2の誤差成分を含まず且つ前記補正処理を行わない場合における前記角度検出値に相当する理想角度推定値に近づける処理であり、
前記補正情報生成部は、
前記第1の信号が前記第1の理想成分と前記第1の誤差成分とを含むように時間的に変化し、前記第2の信号が前記第2の理想成分と前記第2の誤差成分とを含むように時間的に変化する状況における前記第1の信号および前記第2の信号に基づいて、前記未補正角度検出値と前記理想角度推定値との差と対応関係を有する誤差推定値であって前記理想角度推定値に応じて変化する変化成分を含む誤差推定値を生成する誤差推定値生成部と、
前記誤差推定値に基づいて、前記補正情報を決定する補正情報決定部とを含み、
前記誤差推定値生成部は、前記検出対象の角度の変化の角速度を一定の推定値ωとみなして、所定の時間間隔Tで、前記第1および第2の信号に基づいて前記未補正角度検出値を算出すると共に、前記理想角度推定値と前記誤差推定値を算出する算出処理を行い、
前記算出処理では、前記算出処理を開始してから最初に前記未補正角度検出値が算出されるタイミングにおける前記未補正角度検出値の値をθp(0)とし、このタイミングにおける前記理想角度推定値の値を所定値θc(0)に設定し、iを1以上の整数として、前記θp(0)が算出されるタイミングの後で、時間的にi番目のタイミングで算出される前記理想角度推定値、前記未補正角度検出値および前記誤差推定値をそれぞれθc(i)、θp(i)、E(i)として、θc(i)を、θc(i−1)+ω・Tによって算出し、E(i)を、θp(i)−θc(i)によって算出することを特徴とする角度センサの補正装置。
それぞれ検出対象の角度と対応関係を有する第1の信号と第2の信号を生成する信号生成部と、前記第1の信号と前記第2の信号を用いた演算を行って前記検出対象の角度と対応関係を有する角度検出値を生成する角度検出部とを備えた角度センサに用いられる補正方法であって、
前記検出対象の角度が所定の周期で変化する場合、前記第1の信号は第1の理想成分と第1の誤差成分とを含み、前記第2の信号は第2の理想成分と第2の誤差成分とを含み、
前記第1の理想成分と前記第2の理想成分は、互いに異なる位相で、理想的な正弦曲線を描くように周期的に変化し、
前記補正方法は、
補正情報を生成する手順と、
前記角度検出部が前記角度検出値を生成する過程において、前記補正情報によって処理内容が決定された補正処理を行う手順とを含み、
前記補正処理は、前記角度検出値を、前記補正処理を行わない場合における前記角度検出値に相当する未補正角度検出値に比べて、前記第1の信号が前記第1の誤差成分を含まず前記第2の信号が前記第2の誤差成分を含まず且つ前記補正処理を行わない場合における前記角度検出値に相当する理想角度推定値に近づける処理であり、
前記補正情報を生成する手順は、
前記第1の信号が前記第1の理想成分と前記第1の誤差成分とを含むように時間的に変化し、前記第2の信号が前記第2の理想成分と前記第2の誤差成分とを含むように時間的に変化する状況における前記第1の信号および前記第2の信号に基づいて、前記未補正角度検出値と前記理想角度推定値との差と対応関係を有する誤差推定値であって前記理想角度推定値に応じて変化する変化成分を含む誤差推定値を生成する第1の手順と、
前記誤差推定値に基づいて、前記補正情報を決定する第2の手順とを含み、
前記第1の手順は、前記検出対象の角度の変化の角速度を一定の推定値ωとみなして、所定の時間間隔Tで、前記第1および第2の信号に基づいて前記未補正角度検出値を算出すると共に、前記理想角度推定値と前記誤差推定値を算出する算出処理を行い、
前記算出処理では、前記算出処理を開始してから最初に前記未補正角度検出値が算出されるタイミングにおける前記未補正角度検出値の値をθp(0)とし、このタイミングにおける前記理想角度推定値の値を所定値θc(0)に設定し、iを1以上の整数として、前記θp(0)が算出されるタイミングの後で、時間的にi番目のタイミングで算出される前記理想角度推定値、前記未補正角度検出値および前記誤差推定値をそれぞれθc(i)、θp(i)、E(i)として、θc(i)を、θc(i−1)+ω・Tによって算出し、E(i)を、θp(i)−θc(i)によって算出することを特徴とする角度センサの補正方法。
前記少なくとも1つの磁気検出素子は、磁化方向が固定された磁化固定層と、前記回転磁界の方向に応じて磁化の方向が変化する自由層と、前記磁化固定層と自由層の間に配置された非磁性層とを有する少なくとも1つの磁気抵抗効果素子であることを特徴とする請求項18記載の角度センサ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された技術と特許文献2に記載された技術は、いずれも、2乗和信号の大きさの変動が小さくなるように補正を行う技術である。従って、これらの技術は、2乗和信号の大きさに変動をもたらすような誤差を低減することができる。
【0010】
しかし、角度センサの角度検出値に生じる誤差には、検出対象の角度に応じて変化するが、2乗和信号の大きさに変動をもたらさない誤差もある。以下、このような誤差を角度依存誤差と言う。この角度依存誤差は、第1の信号と第2の信号において同じ位相で生じる誤差に起因して生じる。より詳しく説明すると、角度依存誤差は、検出対象の角度に応じて、第1の信号と第2の信号が、それぞれ、第1の理想成分と第2の理想成分に対して、角度依存誤差に対応する大きさだけ相違することによって生じる。角度依存誤差は、例えば、第1の検出回路のMR素子の自由層と第2の検出回路のMR素子の自由層に同じ方向の磁気異方性が生じていたり、磁界発生部と信号生成部の位置関係がずれていたりすることによって生じる。特許文献1に記載された技術や特許文献2に記載された技術では、角度依存誤差を低減することができない。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、第1および第2の信号において同じ位相で生じる誤差に起因して、第1および第2の信号に基づいて生成される角度検出値に生じる誤差を低減できるようにした角度センサの補正装置および補正方法ならびに角度センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の角度センサの補正装置は、それぞれ検出対象の角度と対応関係を有する第1の信号と第2の信号を生成する信号生成部と、第1の信号と第2の信号を用いた演算を行って検出対象の角度と対応関係を有する角度検出値を生成する角度検出部とを備えた角度センサに用いられる。本発明の角度センサは、上記信号生成部と、上記角度検出部と、本発明の補正装置とを備えている。
【0013】
検出対象の角度が所定の周期で変化する場合、第1の信号は第1の理想成分と第1の誤差成分とを含み、第2の信号は第2の理想成分と第2の誤差成分とを含む。第1の理想成分と第2の理想成分は、互いに異なる位相で、理想的な正弦曲線を描くように周期的に変化する。
【0014】
本発明の補正装置は、補正情報を生成する補正情報生成部と、角度検出部が角度検出値を生成する過程において、補正情報によって処理内容が決定された補正処理を行う補正処理部とを備えている。補正処理は、角度検出値を、補正処理を行わない場合における角度検出値に相当する未補正角度検出値に比べて、第1の信号が第1の誤差成分を含まず第2の信号が第2の誤差成分を含まず且つ補正処理を行わない場合における角度検出値に相当する理想角度推定値に近づける処理である。
【0015】
補正情報生成部は、第1の信号が第1の理想成分と第1の誤差成分とを含むように時間的に変化し、第2の信号が第2の理想成分と第2の誤差成分とを含むように時間的に変化する状況における第1の信号および第2の信号に基づいて、未補正角度検出値と理想角度推定値との差と対応関係を有する誤差推定値であって理想角度推定値に応じて変化する変化成分を含む誤差推定値を生成する誤差推定値生成部と、誤差推定値に基づいて、補正情報を決定する補正情報決定部とを含んでいる。
【0016】
本発明の補正装置および角度センサにおいて、検出対象の角度は、基準位置における回転磁界の方向が基準方向に対してなす角度であってもよい。この場合、本発明の角度センサにおける信号生成部は、第1の信号を生成する第1の検出回路と、第2の信号を生成する第2の検出回路とを含んでいてもよい。第1および第2の検出回路の各々は、回転磁界を検出する少なくとも1つの磁気検出素子を含んでいてもよい。少なくとも1つの磁気検出素子は、磁化方向が固定された磁化固定層と、回転磁界の方向に応じて磁化の方向が変化する自由層と、磁化固定層と自由層の間に配置された非磁性層とを有する少なくとも1つの磁気抵抗効果素子であってもよい。
【0017】
また、本発明の補正装置および角度センサにおいて、第1の理想成分と第2の理想成分の位相は、互いに90°異なっていてもよい。
【0018】
また、本発明の補正装置および角度センサにおいて、誤差推定値生成部は、検出対象の角度の変化の角速度を一定値とみなして、所定の時間間隔で、理想角度推定値を算出すると共に第1および第2の信号に基づいて未補正角度検出値を算出し、更に、未補正角度検出値と理想角度推定値の差を誤差推定値としてもよい。
【0019】
また、本発明の補正装置および角度センサにおいて、補正処理は、第1および第2の信号を補正する処理であってもよい。この場合、補正情報は、第1の誤差成分をフーリエ級数で表したときの複数の係数のうちの1つ以上の係数を含む第1の補正情報と、第2の誤差成分をフーリエ級数で表したときの複数の係数のうちの1つ以上の係数を含む第2の補正情報とを含んでいてもよい。また、補正情報決定部は、理想角度推定値の変化に対する誤差推定値の変化を表す波形に対してフーリエ変換を行い、その結果に基づいて、第1および第2の補正情報を決定してもよい。また、補正処理では、補正処理前の第1および第2の信号と第1および第2の補正情報とを用いて、第1の誤差成分の推定値と第2の誤差成分の推定値とを求め、補正処理前の第1の信号から第1の誤差成分の推定値を引いて補正処理後の第1の信号を生成し、補正処理前の第2の信号から第2の誤差成分の推定値を引いて補正処理後の第2の信号を生成してもよい。
【0020】
また、本発明の補正装置および角度センサにおいて、補正処理は、第1および第2の信号に基づいて未補正角度検出値を算出し、未補正角度検出値を補正して角度検出値を生成する処理であってもよい。この場合、補正情報は、理想角度推定値の変化に対する誤差推定値の変化成分の変化を表す波形を規定する情報であってもよい。また、補正情報決定部は、理想角度推定値の変化に対する誤差推定値の変化を表す波形に対してフーリエ変換を行い、その結果に基づいて、補正情報を決定してもよい。
【0021】
本発明の角度センサの補正方法は、それぞれ検出対象の角度と対応関係を有する第1の信号と第2の信号を生成する信号生成部と、第1の信号と第2の信号を用いた演算を行って検出対象の角度と対応関係を有する角度検出値を生成する角度検出部とを備えた角度センサに用いられる。検出対象の角度が所定の周期で変化する場合、第1の信号は第1の理想成分と第1の誤差成分とを含み、第2の信号は第2の理想成分と第2の誤差成分とを含む。第1の理想成分と第2の理想成分は、互いに異なる位相で、理想的な正弦曲線を描くように周期的に変化する。
【0022】
本発明の補正方法は、補正情報を生成する手順と、角度検出部が角度検出値を生成する過程において、補正情報によって処理内容が決定された補正処理を行う手順とを含んでいる。補正処理は、角度検出値を、補正処理を行わない場合における角度検出値に相当する未補正角度検出値に比べて、第1の信号が第1の誤差成分を含まず第2の信号が第2の誤差成分を含まず且つ補正処理を行わない場合における角度検出値に相当する理想角度推定値に近づける処理である。
【0023】
補正情報を生成する手順は、第1の信号が第1の理想成分と第1の誤差成分とを含むように時間的に変化し、第2の信号が第2の理想成分と第2の誤差成分とを含むように時間的に変化する状況における第1の信号および第2の信号に基づいて、未補正角度検出値と理想角度推定値との差と対応関係を有する誤差推定値であって理想角度推定値に応じて変化する変化成分を含む誤差推定値を生成する第1の手順と、誤差推定値に基づいて、補正情報を決定する第2の手順とを含んでいる。
【0024】
本発明の補正方法において、検出対象の角度は、基準位置における回転磁界の方向が基準方向に対してなす角度であってもよい。
【0025】
また、本発明の補正方法において、第1の理想成分と第2の理想成分の位相は、互いに90°異なっていてもよい。
【0026】
また、本発明の補正方法において、第1の手順は、検出対象の角度の変化の角速度を一定値とみなして、所定の時間間隔で、理想角度推定値を算出すると共に第1および第2の信号に基づいて未補正角度検出値を算出し、更に、未補正角度検出値と理想角度推定値の差を誤差推定値としてもよい。
【0027】
また、本発明の補正方法において、補正処理は、第1および第2の信号を補正する処理であってもよい。この場合、補正情報は、第1の誤差成分をフーリエ級数で表したときの複数の係数のうちの1つ以上の係数を含む第1の補正情報と、第2の誤差成分をフーリエ級数で表したときの複数の係数のうちの1つ以上の係数を含む第2の補正情報とを含んでいてもよい。また、第2の手順では、理想角度推定値の変化に対する誤差推定値の変化を表す波形に対してフーリエ変換を行い、その結果に基づいて、第1および第2の補正情報を決定してもよい。また、補正処理では、補正処理前の第1および第2の信号と第1および第2の補正情報とを用いて、第1の誤差成分の推定値と第2の誤差成分の推定値とを求め、補正処理前の第1の信号から第1の誤差成分の推定値を引いて補正処理後の第1の信号を生成し、補正処理前の第2の信号から第2の誤差成分の推定値を引いて補正処理後の第2の信号を生成してもよい。
【0028】
また、本発明の補正方法において、補正処理は、第1および第2の信号に基づいて未補正角度検出値を算出し、未補正角度検出値を補正して角度検出値を生成する処理であってもよい。この場合、補正情報は、理想角度推定値の変化に対する誤差推定値の変化成分の変化を表す波形を規定する情報であってもよい。また、第2の手順では、理想角度推定値の変化に対する誤差推定値の変化を表す波形に対してフーリエ変換を行い、その結果に基づいて、補正情報を決定してもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明では、第1および第2の信号に基づいて、未補正角度検出値と理想角度推定値との差と対応関係を有する誤差推定値を生成し、この誤差推定値に基づいて補正情報を決定し、この補正情報によって処理内容が決定された補正処理を行う。これにより、本発明によれば、第1および第2の信号において同じ位相で生じる誤差に起因して第1および第2の信号に基づいて生成される角度検出値に生じる誤差を低減することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る角度センサを含む角度センサシステムの概略の構成について説明する。
【0032】
本実施の形態に係る角度センサ1は、検出対象の角度θと対応関係を有する角度検出値θsを生成するものである。本実施の形態に係る角度センサ1は、特に、磁気式の角度センサである。
図1に示したように、本実施の形態に係る角度センサ1は、方向が回転する回転磁界MFを検出する。この場合、検出対象の角度θは、基準位置における回転磁界MFの方向が基準方向に対してなす角度である。
図1に示した角度センサシステムは、角度センサ1と、回転磁界MFを発生する手段の一例である円柱状の磁石5とを備えている。磁石5は、円柱の中心軸を含む仮想の平面を中心として対称に配置されたN極とS極とを有している。この磁石5は、円柱の中心軸を中心として回転する。これにより、磁石5が発生する回転磁界MFの方向は、円柱の中心軸を含む回転中心Cを中心として回転する。
【0033】
基準位置は、磁石5の一方の端面に平行な仮想の平面(以下、基準平面と言う。)内に位置する。この基準平面内において、磁石5が発生する回転磁界MFの方向は、基準位置を中心として回転する。基準方向は、基準平面内に位置して、基準位置と交差する。以下の説明において、基準位置における回転磁界MFの方向とは、基準平面内に位置する方向を指す。角度センサ1は、磁石5の上記一方の端面に対向するように配置される。
【0034】
なお、本実施の形態における角度センサシステムの構成は、
図1に示した例に限られない。本実施の形態における角度センサシステムの構成は、基準位置における回転磁界MFの方向が角度センサ1から見て回転するように、回転磁界MFを発生する手段と角度センサ1の相対的位置関係が変化する構成であればよい。例えば、
図1に示したように配置された磁石5と角度センサ1において、磁石5が固定されて角度センサ1が回転してもよいし、磁石5と角度センサ1が互いに反対方向に回転してもよいし、磁石5と角度センサ1が同じ方向に互いに異なる角速度で回転してもよい。
【0035】
また、磁石5の代わりに、1組以上のN極とS極が交互にリング状に配列された磁石を用い、この磁石の外周の近傍に角度センサ1が配置されていてもよい。この場合には、磁石と角度センサ1の少なくとも一方が回転すればよい。
【0036】
また、磁石5の代わりに、複数組のN極とS極が交互に直線状に配列された磁気スケールを用い、この磁気スケールの外周の近傍に角度センサ1が配置されていてもよい。この場合には、磁気スケールと角度センサ1の少なくとも一方が、磁気スケールのN極とS極が並ぶ方向に直線的に移動すればよい。
【0037】
上述の種々の角度センサシステムの構成においても、角度センサ1と所定の位置関係を有する基準平面が存在し、この基準平面内において、回転磁界MFの方向は、角度センサ1から見て、基準位置を中心として回転する。
【0038】
角度センサ1は、それぞれ検出対象の角度θと対応関係を有する第1の信号と第2の信号を生成する信号生成部2を備えている。信号生成部2は、第1の信号を生成する第1の検出回路10と、第2の信号を生成する第2の検出回路20とを含んでいる。
図1では、理解を容易にするために、第1および第2の検出回路10,20を別体として描いているが、第1および第2の検出回路10,20は一体化されていてもよい。また、
図1では、第1および第2の検出回路10,20が回転中心Cに平行な方向に積層されているが、その積層順序は
図1に示した例に限られない。第1および第2の検出回路10,20の各々は、回転磁界MFを検出する少なくとも1つの磁気検出素子を含んでいる。
【0039】
ここで、
図1および
図2を参照して、本実施の形態における方向と角度の定義について説明する。まず、
図1に示した回転中心Cに平行で、
図1における下から上に向かう方向をZ方向と定義する。
図2では、Z方向を
図2における奥から手前に向かう方向として表している。次に、Z方向に垂直な2方向であって、互いに直交する2つの方向をX方向とY方向と定義する。
図2では、X方向を右側に向かう方向として表し、Y方向を上側に向かう方向として表している。また、X方向とは反対の方向を−X方向と定義し、Y方向とは反対の方向を−Y方向と定義する。
【0040】
基準位置PRは、角度センサ1が回転磁界MFを検出する位置である。基準方向DRはX方向とする。前述の通り、検出対象の角度θは、基準位置PRにおける回転磁界MFの方向DMが基準方向DRに対してなす角度である。回転磁界MFの方向DMは、
図2において反時計回り方向に回転するものとする。角度θは、基準方向DRから反時計回り方向に見たときに正の値で表し、基準方向DRから時計回り方向に見たときに負の値で表す。
【0041】
次に、
図3を参照して、信号生成部2の構成について詳しく説明する。
図3は、信号生成部2の構成を示す回路図である。前述の通り、信号生成部2は、第1の信号S1を生成する第1の検出回路10と、第2の信号S2を生成する第2の検出回路20とを含んでいる。
【0042】
回転磁界MFの方向DMが所定の周期で回転すると、検出対象の角度θは所定の周期で変化する。この場合、第1および第2の信号S1,S2は、いずれも、上記所定の周期と等しい信号周期で周期的に変化する。第2の信号S2の位相は、第1の信号S1の位相と異なっている。本実施の形態では、第2の信号S2の位相は、第1の信号S1の位相に対して、信号周期の1/4の奇数倍だけ異なっていることが好ましい。ただし、磁気検出素子の作製の精度等の観点から、第1の信号S1と第2の信号S2の位相差は、信号周期の1/4の奇数倍から、わずかにずれていてもよい。以下の説明では、第1の信号S1の位相と第2の信号S2の位相の関係が上記の好ましい関係になっているものとする。
【0043】
第1の検出回路10は、ホイートストンブリッジ回路14と、差分検出器15とを有している。ホイートストンブリッジ回路14は、電源ポートV1と、グランドポートG1と、2つの出力ポートE11,E12と、直列に接続された第1の対の磁気検出素子R11,R12と、直列に接続された第2の対の磁気検出素子R13,R14とを含んでいる。磁気検出素子R11,R13の各一端は、電源ポートV1に接続されている。磁気検出素子R11の他端は、磁気検出素子R12の一端と出力ポートE11に接続されている。磁気検出素子R13の他端は、磁気検出素子R14の一端と出力ポートE12に接続されている。磁気検出素子R12,R14の各他端は、グランドポートG1に接続されている。電源ポートV1には、所定の大きさの電源電圧が印加される。グランドポートG1はグランドに接続される。差分検出器15は、出力ポートE11,E12の電位差に対応し且つ振幅が1になるように規格化された信号を生成し、これを第1の信号S1として出力する。
【0044】
第2の検出回路20の回路構成は、第1の検出回路10と同様である。すなわち、第2の検出回路20は、ホイートストンブリッジ回路24と、差分検出器25とを有している。ホイートストンブリッジ回路24は、電源ポートV2と、グランドポートG2と、2つの出力ポートE21,E22と、直列に接続された第1の対の磁気検出素子R21,R22と、直列に接続された第2の対の磁気検出素子R23,R24とを含んでいる。磁気検出素子R21,R23の各一端は、電源ポートV2に接続されている。磁気検出素子R21の他端は、磁気検出素子R22の一端と出力ポートE21に接続されている。磁気検出素子R23の他端は、磁気検出素子R24の一端と出力ポートE22に接続されている。磁気検出素子R22,R24の各他端は、グランドポートG2に接続されている。電源ポートV2には、所定の大きさの電源電圧が印加される。グランドポートG2はグランドに接続される。差分検出器25は、出力ポートE21,E22の電位差に対応し且つ振幅が1になるように規格化された信号を生成し、これを第2の信号S2として出力する。
【0045】
本実施の形態では、ホイートストンブリッジ回路(以下、ブリッジ回路と記す。)14,24に含まれる全ての磁気検出素子として、磁気抵抗効果素子(MR素子)、特にスピンバルブ型のMR素子を用いている。スピンバルブ型のMR素子は、磁化方向が固定された磁化固定層と、回転磁界MFの方向DMに応じて磁化の方向が変化する磁性層である自由層と、磁化固定層と自由層の間に配置された非磁性層とを有している。スピンバルブ型のMR素子は、TMR素子でもよいし、GMR素子でもよい。TMR素子では、非磁性層はトンネルバリア層である。GMR素子では、非磁性層は非磁性導電層である。スピンバルブ型のMR素子では、自由層の磁化の方向が磁化固定層の磁化の方向に対してなす角度に応じて抵抗値が変化し、この角度が0°のときに抵抗値は最小値となり、角度が180°のときに抵抗値は最大値となる。以下の説明では、ブリッジ回路14,24に含まれる磁気検出素子をMR素子と記す。
図3において、塗りつぶした矢印は、MR素子における磁化固定層の磁化の方向を表し、白抜きの矢印は、MR素子における自由層の磁化の方向を表している。
【0046】
第1の検出回路10では、MR素子R11,R14の磁化固定層の磁化の方向はX方向であり、MR素子R12,R13の磁化固定層の磁化の方向は−X方向である。この場合、回転磁界MFのX方向の成分の強度に応じて、出力ポートE11,E12の電位差が変化する。従って、第1の検出回路10は、回転磁界MFのX方向の成分の強度を検出して、その強度を表す信号を第1の信号S1として生成する。回転磁界MFのX方向の成分の強度は、検出対象の角度θと対応関係を有する。
【0047】
第2の検出回路20では、MR素子R21,R24の磁化固定層の磁化の方向はY方向であり、MR素子R22,R23の磁化固定層の磁化の方向は−Y方向である。この場合、回転磁界MFのY方向の成分の強度に応じて、出力ポートE21,E22の電位差が変化する。従って、第2の検出回路20は、回転磁界MFのY方向の成分の強度を検出して、その強度を表す信号を第2の信号S2として生成する。回転磁界MFのY方向の成分の強度は、検出対象の角度θと対応関係を有する。
【0048】
なお、検出回路10,20内の複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は、MR素子の作製の精度等の観点から、上述の方向からわずかにずれていてもよい。
【0049】
ここで、
図5を参照して、MR素子の構成の一例について説明する。
図5は、
図3に示した信号生成部2におけるMR素子の一部を示す斜視図である。この例では、1つのMR素子は、複数の下部電極142と、複数のMR膜150と、複数の上部電極143とを有している。複数の下部電極142は図示しない基板上に配置されている。個々の下部電極142は細長い形状を有している。下部電極142の長手方向に隣接する2つの下部電極142の間には、間隙が形成されている。
図5に示したように、下部電極142の上面上において、長手方向の両端の近傍に、それぞれMR膜150が配置されている。MR膜150は、下部電極142側から順に積層された自由層151、非磁性層152、磁化固定層153および反強磁性層154を含んでいる。自由層151は、下部電極142に電気的に接続されている。反強磁性層154は、反強磁性材料よりなり、磁化固定層153との間で交換結合を生じさせて、磁化固定層153の磁化の方向を固定する。複数の上部電極143は、複数のMR膜150の上に配置されている。個々の上部電極143は細長い形状を有し、下部電極142の長手方向に隣接する2つの下部電極142上に配置されて隣接する2つのMR膜150の反強磁性層154同士を電気的に接続する。このような構成により、
図5に示したMR素子は、複数の下部電極142と複数の上部電極143とによって直列に接続された複数のMR膜150を有している。なお、MR膜150における層151〜154の配置は、
図5に示した配置とは上下が反対でもよい。
【0050】
前述の通り、検出対象の角度θが前記所定の周期で変化する場合、第1および第2の信号S1,S2は、いずれも、前記所定の周期と等しい信号周期で周期的に変化する。信号S1,S2の各々の波形は、理想的には正弦曲線(サイン(Sine)波形とコサイン(Cosine)波形を含む)となる。しかし、実際には、例えば、MR膜150の磁化固定層153の磁化方向が回転磁界MF等の影響によって変動したり、MR膜150の自由層151の磁化方向が、自由層151の磁気異方性等の影響によって、回転磁界MFの方向DMと一致しなかったりすることに起因して、信号S1,S2の各々の波形は、正弦曲線から歪む。
【0051】
信号S1,S2の各々の波形が正弦曲線から歪むということは、信号S1,S2の各々は、理想的な正弦曲線を描くように周期的に変化する理想成分と、この理想成分以外の誤差成分とを含むということである。本実施の形態では、検出対象の角度θが前記所定の周期で変化する場合、第1の信号S1は第1の理想成分S1iと第1の誤差成分S1eとを含み、第2の信号S2は第2の理想成分S2iと第2の誤差成分S2eとを含む。第1の理想成分S1iと第2の理想成分S2iは、互いに異なる位相で、理想的な正弦曲線を描くように周期的に変化する。
【0052】
図3に示した例では、第1の理想成分S1iの波形は、角度θに依存したコサイン(Cosine)波形になり、第2の理想成分S2iの波形は、角度θに依存したサイン(Sine)波形になる。この場合、第1の理想成分S1iと第2の理想成分S2iの位相は、互いにπ/2(90°)だけ異なっている。
【0053】
次に、
図4を参照して、角度センサ1の、信号生成部2以外の部分について説明する。角度センサ1は、信号生成部2の他に、
図4に示した角度検出部3と補正装置4とを備えている。
図4は、角度検出部3および補正装置4の構成を示す機能ブロック図である。角度検出部3は、第1の信号S1と第2の信号S2を用いた演算を行って、検出対象の角度θと対応関係を有する角度検出値θsを生成する。
【0054】
角度検出部3は、角度検出値θsを生成するための演算を行う演算部31を備えている。補正装置4は、補正情報を生成する補正情報生成部41と、補正処理部42とを備えている。補正処理部42は、角度検出部3が角度検出値θsを生成する過程において、補正情報によって処理内容が決定された補正処理を行う。そのため、補正処理部42は、角度検出部3に組み込まれている。
【0055】
ここで、補正処理を行わない場合における角度検出値θsに相当する値を未補正角度検出値と呼び、記号θpで表す。また、第1の信号S1が第1の誤差成分S1eを含まず第2の信号S2が第2の誤差成分S2eを含まず且つ補正処理を行わない場合における角度検出値θsに相当する値を理想角度推定値と呼び、記号θcで表す。補正処理は、角度検出値θsを、未補正角度検出値θpに比べて、理想角度推定値θcに近づける処理である。
【0056】
補正情報生成部41は、第1および第2の信号S1,S2に基づいて、誤差推定値Eを生成する誤差推定値生成部411と、誤差推定値Eに基づいて、補正情報を決定する補正情報決定部412とを含んでいる。誤差推定値Eは、未補正角度検出値θpと理想角度推定値θcとの差(θp−θc)と対応関係を有する。誤差推定値Eは、理想角度推定値θcに応じて変化する変化成分Evを含んでいる。なお、補正情報生成部41において用いられる第1の信号S1は、第1の信号S1が第1の理想成分S1iと第1の誤差成分S1eとを含むように時間的に変化する状況における第1の信号S1である。同様に、補正情報生成部41において用いられる第2の信号S2は、第2の信号S2が第2の理想成分S2iと第2の誤差成分S2eとを含むように時間的に変化する状況における第2の信号S2である。
【0057】
角度検出部3と補正装置4は、例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)またはマイクロコンピュータによって実現することができる。
【0058】
以下、
図4、
図6および
図7を参照して、角度検出部3および補正装置4の動作と、本実施の形態に係る角度センサ1の補正方法について説明する。本実施の形態に係る補正方法は、補正情報を生成する手順と、角度検出部3が角度検出値θsを生成する過程において、補正情報によって処理内容が決定された補正処理を行う手順とを含んでいる。
図6は、補正情報を生成する手順を示すフローチャートである。
図6に示した手順は、角度センサ1の出荷前または使用前に実行される。
図7は、角度検出部3の動作を示すフローチャートである。
図7に示した動作は、補正処理を行う手順を含んでいる。
図7に示した動作は、角度センサ1の使用時に実行される。
【0059】
図6に示したように、補正情報を生成する手順は、第1および第2の信号S1,S2に基づいて、誤差推定値Eを生成する第1の手順S110と、誤差推定値Eに基づいて、補正情報を決定する第2の手順S120とを含んでいる。第1の手順S110において用いられる第1および第2の信号S1,S2は、補正情報生成部41において用いられる第1および第2の信号S1,S2と同じである。
【0060】
以下、第1の手順S110について説明する。第1の手順S110は、誤差推定値生成部411によって実行される。誤差推定値生成部411は、検出対象の角度θの変化の角速度を一定値とみなして、所定の時間間隔で、理想角度推定値θcを算出すると共に第1および第2の信号S1,S2に基づいて未補正角度検出値θpを算出し、更に、未補正角度検出値θpと理想角度推定値θcの差を誤差推定値Eとする。
【0061】
第1の手順S110は、検出対象の角度θの変化の角速度を一定値とみなすことができる状況、すなわち検出対象の角度θが一定またはほぼ一定の角速度で変化する状況の下で実行される。この状況は、
図1に示した角度センサシステムでは、磁石5を一定またはほぼ一定の角速度で回転させることで実現される。この状況は、第1の信号S1が第1の理想成分S1iと第1の誤差成分S1eとを含むように時間的に変化し、第2の信号S2が第2の理想成分S2iと第2の誤差成分S2eとを含むように時間的に変化する状況とも言える。
【0062】
第1の手順S110では、上記の状況の下で、始めに、角度θの変化の角速度の推定値ωを求める。角速度の推定値ωは、例えば以下の方法によって求めることができる。すなわち、所定の時間間隔Tで逐次、未補正角度検出値θpを算出すると共に、未補正角度検出値θpの変化の角速度を算出し、更に、それまでに算出された未補正角度検出値θpの変化の角速度の平均値を算出する。この処理を、ある程度長い期間、例えば未補正角度検出値θpが1周期(360°)だけ変化する期間だけ行い、最終的に得られた未補正角度検出値θpの変化の角速度の平均値を、角度θの変化の角速度の推定値ωとする。
【0063】
第1の手順S110では、角速度の推定値ωを求めた後、上記の状況の下で、理想角度推定値θc、未補正角度検出値θpおよび誤差推定値Eを、所定の時間間隔Tで逐次算出する処理を行う。この処理は、例えば、未補正角度検出値θpが1周期だけ変化する期間だけ行う。ここで、θc、θp、Eを逐次算出する処理を開始してから最初に未補正角度検出値θpが算出されるタイミングにおけるθpの値を、θp(0)とする。また、θp(0)が算出されるタイミングにおけるθc、Eの値は計算では求められない。本実施の形態では、θp(0)が算出されるタイミングにおけるθc、Eの値をそれぞれθc(0)、E(0)とし、θc(0)をθp(0)と等しい値に設定し、E(0)を0に設定する。
【0064】
また、θp(0)が算出されるタイミングの後で、時間的にi番目のタイミングで算出される理想角度推定値θc、未補正角度検出値θpおよび誤差推定値Eを、それぞれθc(i)、θp(i)、E(i)とする。iは1以上の整数である。
【0065】
誤差推定値生成部411は、下記の式(1)によって、θpを算出する。
【0066】
θp=atan(S2/S1) …(1)
【0067】
式(1)におけるatan(S2/S1)は、θpを求めるアークタンジェント計算を表し、S1,S2は、θpを算出するタイミングにおける第1および第2の信号S1,S2の値を表している。なお、θpが0°以上360°未満の範囲内では、式(1)におけるθpの解には、180°異なる2つの値がある。しかし、S1,S2の正負の組み合わせにより、θpの真の値が、式(1)におけるθpの2つの解のいずれであるかを判別することができる。すなわち、S1が正の値のときは、θpは、0°以上90゜未満、および270°より大きく360°以下の範囲内である。S1が負の値のときは、θpは90°よりも大きく270°よりも小さい。S2が正の値のときは、θpは0°よりも大きく180°よりも小さい。S2が負の値のときは、θpは180°よりも大きく360°よりも小さい。誤差推定値生成部411は、式(1)と、上記のS1,S2の正負の組み合わせの判定により、0°以上360°未満の範囲内でθpを求める。
【0068】
また、誤差推定値生成部411は、下記の式(2)によって、θc(i)を算出する。
【0069】
θc(i)=θc(i−1)+ω・T …(2)
【0070】
誤差推定値生成部411は、更に、下記の式(3)によって、E(i)を算出する。
【0071】
E(i)=θp(i)−θc(i) …(3)
【0072】
次に、第2の手順S120について説明する。第2の手順S120は、補正情報決定部412によって実行される。
図6に示したように、第2の手順S120は、理想角度推定値θcの変化に対する誤差推定値Eの変化を表す波形(以下、誤差推定値Eの波形と言う。)に対してフーリエ変換を行う手順S121と、手順S121の結果に基づいて、補正情報を決定する手順S122とを含んでいる。
【0073】
始めに、誤差推定値Eの波形に対してフーリエ変換を行う手順S121について説明する。手順S121では、第1の手順S110において算出されるθc(i)とE(i)に基づいて、誤差推定値Eの波形に対してフーリエ変換を行う。なお、本実施の形態では、誤差推定値Eの波形は、離散化されたデータによって表わされる。従って、手順S121では、誤差推定値Eの波形に対して、離散フーリエ変換(DFT)が行われる。この場合、手順S121では、0以上の整数で表される周波数毎に、積和演算によって周波数領域の関数が求められる。手順S121では、周波数毎の周波数領域の関数の振幅と位相を求める。
【0074】
手順S121は、手順S110で未補正角度検出値θpの1周期分の誤差推定値Eが得られた後に実行してもよいし、手順S110と並行して実行してもよい。手順S110と並行して手順S121を実行する場合には、手順S110で新しい誤差推定値E(i)が得られる度に、手順121では、周波数毎の周波数領域の関数を求めるための積和演算の結果を更新する。これを繰り返し実行することによって、手順S110で最後の誤差推定値E(i)が得られた後に、手順121で周波数毎の周波数領域の関数が求まる。
【0075】
手順S121のフーリエ変換の結果に基づいて、誤差推定値Eは、式(4A)、(4B)のように表すことができる。式(4B)において、Ecは、上記フーリエ変換後の周波数0の周波数領域の関数の振幅に対応する一定値である。
【0076】
E=Ec+Ev …(4A)
Ev=A
1cos(θc−α
1)
+A
2cos{2(θc−α
2)}
+A
3cos{3(θc−α
3)}+・・・ …(4B)
【0077】
以下の説明では、式(4B)におけるA
ncos{n(θc−α
n)}の項を、誤差推定値Eのn次成分(nは1以上の整数)と言う。手順S121では、次に、誤差推定値Eのn次成分の振幅A
nと位相α
nを求める。誤差推定値Eのn次成分の振幅A
nと位相α
nは、フーリエ変換後の周波数nの周波数領域の関数の振幅と位相から求めることができる。
【0078】
次に、補正情報を決定する手順S122について説明する。前述の通り、手順S122では、フーリエ変換を行う手順S121の結果に基づいて、補正情報を決定する。本実施の形態では特に、手順S122において、上記フーリエ変換後の周波数0の周波数領域の関数の振幅に対応するEcを無視して、誤差推定値Eの変化成分Evに基づいて補正情報を決定する。
【0079】
ここで、Ecを無視する理由について説明する。前述の通り、第1の手順S110では、θp(0)が算出されるタイミングにおける誤差推定値Eの値E(0)を、実際の誤差(未補正角度検出値θpと検出対象の角度θとの差)がいくつであるかに関わらず、0に設定する。この処理のため、θp(0)が算出されるタイミングに応じてEcは変化する。後で詳しく説明するが、本実施の形態では、角度依存誤差を低減する。Ecは、この角度依存誤差とは無関係である。角度依存誤差に関係するのは、誤差推定値Eのうちの変化成分Evである。以上のことから、本実施の形態では、Ecを無視して、変化成分Evに基づいて補正情報を決定する。
【0080】
本実施の形態では、補正情報は、第1の補正情報と第2の補正情報とを含んでいる。第1の信号S1の第1の誤差成分S1eは、式(5)のようにフーリエ級数で表すことができる。第1の補正情報は、第1の誤差成分S1eを式(5)のようにフーリエ級数で表したときの複数の係数a
11,a
12,a
13,a
14,…、b
11,b
12,b
13,b
14,…のうちの1つ以上の係数を含むものである。同様に、第2の信号S2の第2の誤差成分S2eは、式(6)のようにフーリエ級数で表すことができる。第2の補正情報は、第2の誤差成分S2eを式(6)のようにフーリエ級数で表したときの複数の係数a
21,a
22,a
23,a
24,…、b
21,b
22,b
23,b
24,…のうちの1つ以上の係数を含むものである。
【0081】
S1e=a
11cosθc+b
11sinθc
+a
12cos2θc+b
12sin2θc
+a
13cos3θc+b
13sin3θc
+a
14cos4θc+b
14sin4θc+・・・ …(5)
【0082】
S2e=a
21cosθc+b
21sinθc
+a
22cos2θc+b
22sin2θc
+a
23cos3θc+b
23sin3θc
+a
24cos4θc+b
24sin4θc+・・・ …(6)
【0083】
手順S122では、手順S121で求められた誤差推定値Eのn次成分の振幅A
nと位相α
nに基づいて、第1および第2の補正情報を算出する。
【0084】
以下、式(5)におけるcos(mθc)、sin(mθc)の係数を、それぞれ記号a
1m,b
1mで表し、式(6)におけるcos(mθc)、sin(mθc)の係数を、それぞれ記号a
2m,b
2mで表す。なお、mは1以上の整数である。
【0085】
ここで、誤差推定値Eの変化成分Evが誤差推定値Eの2次成分A
2cos{2(θc−α
2)}のみを含む場合を例にとって、係数a
1m,b
1m,a
2m,b
2mの算出方法について説明する。ここでは、第1の信号S1の第1の理想成分S1iの波形が、理想角度推定値θcに依存したコサイン波形になると仮定する。この場合、第1の信号S1の第1の誤差成分S1eは、下記の式(7)によって表される。
【0086】
S1e=S1−S1i
=cos(θc+E)−cosθc
=cosθc・cosE−sinθc・sinE−cosθc …(7)
【0087】
ところで、xが十分に小さいときには、cosx、sinxをそれぞれ1、xと近似することができる。本実施の形態では、誤差推定値Eの値は、cosE、sinEをそれぞれ1、Eと近似できるような小さな値である。この近似を式(7)に適用すると、第1の誤差成分S1eは、下記の式(8)で表される。
【0088】
S1e≒cosθc−sinθc・E−cosθc
=−sinθc・E
=−sinθc・A
2cos{2(θc−α
2)}
=−A
2{sin(3θc−2α
2)+sin(−θc+2α
2)}/2
=−A
2{sin3θc・cos2α
2−cos3θc・sin2α
2}/2
+A
2{sinθc・cos2α
2−cosθc・sin2α
2}/2
={(−A
2sin2α
2)/2}・cosθc
+{(A
2cos2α
2)/2}・sinθc
+{(A
2sin2α
2)/2}・cos3θc
+{(−A
2cos2α
2)/2}・sin3θc …(8)
【0089】
式(5)と式(8)を比較すると、下記のように、係数a
1m,b
1mが求められる。
【0090】
a
11=(−A
2sin2α
2)/2
b
11=(A
2cos2α
2)/2
a
12=0
b
12=0
a
13=(A
2sin2α
2)/2
b
13=(−A
2cos2α
2)/2
a
14=0
b
14=0
【0091】
A
2,α
2は、手順S121で求められている。従って、A
2,α
2を用いて、係数a
11,b
11,a
13,b
13を算出することができる。
【0092】
また、第2の信号S2の第2の理想成分S2iの波形が、理想角度推定値θcに依存したサイン波形になると仮定する。この場合、式(8)と同様に第2の信号S2の第2の誤差成分S2eを表す式を変形すると、第2の誤差成分S2eは、下記の式(9)で表される。
【0093】
S2e≒sinθc+cosθc・E−sinθc
={(A
2cos2α
2)/2}・cosθc
+{(A
2sin2α
2)/2}・sinθc
+{(A
2cos2α
2)/2}・cos3θc
+{(A
2sin2α
2)/2}・sin3θc …(9)
【0094】
式(9)と式(6)を比較すると、下記のように、係数a
2m,b
2mが求められる。
【0095】
a
21=(A
2cos2α
2)/2
b
21=(A
2sin2α
2)/2
a
22=0
b
22=0
a
23=(A
2cos2α
2)/2
b
23=(A
2sin2α
2)/2
a
24=0
b
24=0
【0096】
前述のように、A
2,α
2は、手順S121で求められている。従って、A
2,α
2を用いて、係数a
21,b
21,a
23,b
23を算出することができる。
【0097】
なお、誤差推定値Eの変化成分Evが誤差推定値Eの2次成分のみを含む場合に限らず、誤差推定値Eの変化成分Evが誤差推定値Eの複数のn次成分を含む場合であっても、複数のn次成分の振幅A
nと位相α
nを用いて、係数a
1m,b
1m,a
2m,b
2mを算出することができる。例えば、誤差推定値Eの変化成分Evが、1次成分A
1cos(θc−α
1)、2次成分A
2cos{2(θc−α
2)}および3次成分A
3cos{3(θc−α
3)}を含む場合、係数a
1m,b
1mは、下記のように表される。A
1〜A
3,α
1〜α
3は、手順S121で求められている。従って、A
1〜A
3,α
1〜α
3を用いて、係数a
11〜a
14,b
11〜b
14を算出することができる。
【0098】
a
11=(−A
2sin2α
2)/2
b
11=(A
2cos2α
2)/2
a
12=(A
1sinα
1−A
3sin3α
3)/2
b
12=(−A
1cosα
1+A
3cos3α
3)/2
a
13=(A
2sin2α
2)/2
b
13=(−A
2cos2α
2)/2
a
14=(A
3sin3α
3)/2
b
14=(−A
3cos3α
3)/2
【0099】
同様に、係数a
2m,b
2mは、下記のように表される。A
1〜A
3,α
1〜α
3は、手順S121で求められている。従って、A
1〜A
3,α
1〜α
3を用いて、係数a
21〜a
24,b
21〜b
24を算出することができる。
【0100】
a
21=(A
2cos2α
2)/2
b
21=(A
2sin2α
2)/2
a
22=(A
1cosα
1+A
3cos3α
3)/2
b
22=(A
1sinα
1+A
3sin3α
3)/2
a
23=(A
2cos2α
2)/2
b
23=(A
2sin2α
2)/2
a
24=(A
3cos3α
3)/2
b
24=(A
3sin3α
3)/2
【0101】
このように、係数a
1m,b
1m,a
2m,b
2mが算出されることにより、補正情報が決定される。以下の説明では、第1の補正情報は、算出された係数a
1m,b
1mの全てを含むものとし、第2の補正情報は、算出された係数a
2m,b
2mの全てを含むものとする。補正情報が決定されると、補正処理を行う手順における補正処理の内容も確定する。前述のように、
図6に示した補正情報を生成する手順は、角度センサ1の出荷前または使用前に実行される。従って、補正処理の内容は、角度センサ1の使用前に確定する。
【0102】
次に、
図7を参照して、角度検出部3の動作について説明する。
図7に示した動作は、始めに、補正処理を行う手順S200を実行する。補正処理を行う手順S200は、補正処理部42によって実行される。本実施の形態では、補正処理は、第1および第2の信号S1,S2を補正する処理である。
図7に示したように、補正処理を行う手順S200は、第1の誤差成分S1eの推定値Ep1と第2の誤差成分の推定値Ep2とを算出する手順S201と、第1および第2の信号S1,S2を補正する手順S202とを含んでいる。補正処理部42および手順S200において用いられる第1および第2の信号S1,S2は、角度センサ1の使用時の第1および第2の信号S1,S2である。
【0103】
以下、推定値Ep1,Ep2を算出する手順S201について説明する。補正処理部42は、補正処理前の第1および第2の信号S1,S2と、第1の補正情報すなわち係数a
1m,b
1mと、第2の補正情報すなわち係数a
2m,b
2mとを用いて、推定値Ep1,Ep2を求める。推定値Ep1は、式(10)によって表される。推定値Ep2は、式(11)によって表される。
【0104】
Ep1=a
11cosθp+b
11sinθp
+a
12cos2θp+b
12sin2θp
+a
13cos3θp+b
13sin3θp
+a
14cos4θp+b
14sin4θp+・・・ …(10)
【0105】
Ep2=a
21cosθp+b
21sinθp
+a
22cos2θp+b
22sin2θp
+a
23cos3θp+b
23sin3θp
+a
24cos4θp+b
24sin4θp+・・・ …(11)
【0106】
式(10)の右辺は、第1の誤差成分S1eを表す式(5)の右辺において理想角度推定値θcを未補正角度検出値θpに置き換えた内容である。式(11)の右辺は、第2の誤差成分S2eを表す式(6)の右辺において理想角度推定値θcを未補正角度検出値θpに置き換えた内容である。理想角度推定値θcを未補正角度検出値θpに置き換えたときに式(5)から求められる第1の誤差成分S1eの値と、理想角度推定値θcに基づいて式(5)から求められる第1の誤差成分S1eの値との差は、非常に小さい。同様に、理想角度推定値θcを未補正角度検出値θpに置き換えたときに式(6)から求められる第2の誤差成分S2eの値と、理想角度推定値θcに基づいて式(6)から求められる第2の誤差成分S2eの値との差は、非常に小さい。そのため、式(10)、(11)によって求められる推定値Ep1,Ep2は、十分な精度を有する。
【0107】
補正処理部42は、式(1)を用いて補正処理前の第1および第2の信号S1,S2から未補正角度検出値θpを求め、このθpを式(10)、(11)に代入して推定値Ep1,Ep2を求めてもよい。
【0108】
あるいは、補正処理部42は、未補正角度検出値θpを求めずに、以下のようにして、推定値Ep1,Ep2を求めてもよい。まず、式(10)の右辺と式(11)の右辺におけるcosθpとsinθpは、それぞれ、補正処理前の第1の信号S1と補正処理前の第2の信号S2の値である。また、式(10)の右辺と式(11)の右辺における2次以上の高次成分の項は、三角関数の倍角の公式や三倍角の公式等を用いて、cosθpとsinθpを用いて表すことができる。例えば、cos2θp、sin2θp、cos3θp、sin3θp、cos4θp、sin4θpは、それぞれ、下記の式(12A)、(12B)、(12C)、(12D)、(12E)、(12F)によって表される。
【0109】
cos2θp=cos
2θp−sin
2θp …(12A)
sin2θp=2sinθp・cosθp …(12B)
cos3θp=4cos
3θp−3cosθp …(12C)
sin3θp=3sinθp−4sin
3θp …(12D)
cos4θp=8cos
4θp−8cos
2θp+1 …(12E)
sin4θp=cosθp・(4sinθp−8sin
3θp) …(12F)
【0110】
従って、推定値Ep1,Ep2は、補正処理前の第1の信号S1の値cosθpと、補正処理前の第2の信号S2の値sinθpと、第1の補正情報すなわち係数a
1m,b
1mと、第2の補正情報すなわち係数a
2m,b
2mとを用いて算出することができる。
【0111】
次に、第1および第2の信号S1,S2を補正する手順S202について説明する。補正処理部42は、補正処理前の第1の信号S1から第1の誤差成分の推定値Ep1を引いて補正処理後の第1の信号Sa1を生成し、補正処理前の第2の信号S2から第2の誤差成分S2eの推定値Ep2を引いて補正処理後の第2の信号Sa2を生成する。補正処理後の第1および第2の信号Sa1,Sa2は、それぞれ、下記の式(13A)、(13B)によって表される。
【0112】
Sa1=S1−Ep1 …(13A)
Sa2=S2−Ep2 …(13B)
【0113】
次に、角度検出値θsを生成する手順S300について説明する。手順S300は、角度検出部3の演算部31によって実行される。演算部31は、補正処理後の第1および第2の信号Sa1,Sa2に基づいて、角度θと対応関係を有する角度検出値θsを算出する。具体的には、例えば、演算部31は、下記の式(14)によって、θsを算出する。なお、“atan”は、アークタンジェントを表す。
【0114】
θs=atan(Sa2/Sa1) …(14)
【0115】
式(14)におけるatan(Sa2/Sa1)は、θsを求めるアークタンジェント計算を表している。なお、θsが0°以上360°未満の範囲内では、式(14)におけるθsの解には、180°異なる2つの値がある。しかし、Sa1,Sa2の正負の組み合わせにより、θsの真の値が、式(14)におけるθsの2つの解のいずれであるかを判別することができる。θsの真の値とSa1,Sa2の正負の組み合わせの関係は、前述のθpの真の値とS1,S2の正負の組み合わせの関係と同じである。
【0116】
前述の通り、本実施の形態では、角度依存誤差を低減する。角度依存誤差とは、第1の信号S1と第2の信号S2において同じ位相で生じる誤差に起因して、第1および第2の信号S1,S2に基づいて生成される角度検出値θsに生じる誤差である。より詳しく説明すると、角度依存誤差は、検出対象の角度θに応じて、第1の信号S1と第2の信号S2が、それぞれ、第1の理想成分S1iと第2の理想成分S2iに対して、角度依存誤差に対応する大きさだけ相違することによって生じる。この角度依存誤差は、検出対象の角度θに応じて変化するが、第1の信号S1の2乗と第2の信号S2の2乗との和よりなる2乗和信号の大きさに変動をもたらさない。以下、本実施の形態における補正処理を行わなかった場合において角度検出値θsに生じる角度依存誤差をθeとする。この角度依存誤差θeは、例えば、第1の検出回路10のMR膜150の自由層151と第2の検出回路20のMR膜150の自由層151に同じ方向の磁気異方性が生じていたり、磁石5と信号生成部2の位置関係がずれていたりすることによって生じる。特許文献1に記載された技術や特許文献2に記載された技術では、角度依存誤差を低減することができない。
【0117】
ここで、角度検出値θsに生じた誤差が角度依存誤差θeのみである場合における第1の信号S1と第2の信号S2について説明する。まず、角度依存誤差θeは、例えば、式(4B)と同様の下記の式(15)によって表すことができる。
【0118】
θe=A
01cos(θ−α
01)
+A
02cos{2(θ−α
02)}
+A
03cos{3(θ−α
03)}+・・・ …(15)
【0119】
図8は、角度依存誤差θeの波形の一例を示している。
図8において、横軸は角度θを示し、縦軸は角度依存誤差θeを示している。
図8には、角度依存誤差θeが0.1cos{2(θ−45°)}である場合の例を示している。
【0120】
角度検出値θsに生じた誤差が角度依存誤差θeのみである場合には、第1の信号S1と第2の信号S2は、それぞれcos(θ+θe)、sin(θ+θe)と表すことができる。この場合、2乗和信号は、下記の式(16)によって表される。
【0121】
S1
2+S2
2=cos
2(θ+θe)+sin
2(θ+θe)=1 …(16)
【0122】
図9は、角度検出値θsに生じた誤差が角度依存誤差θeのみである場合における2乗和信号の波形を示している。
図9において、横軸は角度θを示し、縦軸は2乗和信号の値を示している。式(16)および
図9から理解されるように、角度検出値θsに生じた誤差が角度依存誤差θeのみである場合には、2乗和信号の値は、角度θの値によらずに一定になる。このように、角度依存誤差θeは、2乗和信号の大きさに変動をもたらさない。特許文献1に記載された技術と特許文献2に記載された技術は、いずれも、2乗和信号の大きさの変動が小さくなるように補正を行う技術である。従って、これらの技術では、角度依存誤差θeを低減することができない。
【0123】
本実施の形態では、第1および第2の信号S1,S2に基づいて、未補正角度検出値θpと理想角度推定値θcとの差と対応関係を有する誤差推定値Eを生成し、この誤差推定値Eに基づいて補正情報を決定し、この補正情報によって処理内容が決定された補正処理を行う。補正処理では、補正処理前の第1の信号S1から第1の誤差成分の推定値Ep1を引いて補正処理後の第1の信号Sa1を生成し、補正処理前の第2の信号S2から第2の誤差成分S2eの推定値Ep2を引いて補正処理後の第2の信号Sa2を生成する。これにより、誤差推定値Eの変化成分Evが低減される。式(4B)で表される変化成分Evは、式(15)で表される角度依存誤差θeの推定値と言える。従って、本実施の形態によれば、補正処理後の角度依存誤差を低減することができる。
【0124】
図10は、本実施の形態の効果を示す波形図である。
図10において、横軸は検出対象の角度θを示している。
図10において、縦軸は、第1の手順S110において求められた誤差推定値Eと、角度検出値θsにおける角度依存誤差とを総称した誤差を示している。
図10において、符号71は、誤差推定値Eの波形の一例を示し、符号72は、角度検出値θsにおける角度依存誤差の波形の一例を示している。
図10に示した例では、誤差推定値Eの波形における最大値と最小値の差は、補正処理を行わなかった場合の角度依存誤差θeにおける最大値と最小値の差の推定値と言える。この値は、約0.45°である。これに対し、角度検出値θsにおける角度依存誤差の波形における最大値と最小値の差は、約0.13°である。このように、本実施の形態によれば、角度依存誤差を低減することができる。
【0125】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。始めに、
図11を参照して、本実施の形態における角度検出部3の構成について説明する。
図11は、角度検出部3および補正装置4の構成を示す機能ブロック図である。本実施の形態では、角度検出部3は、第1の実施の形態で説明した演算部31および補正処理部42のうち、補正処理部42のみを備えている。補正処理部42は、角度検出部3に組み込まれている。なお、後で説明するように、本実施の形態では、角度検出値θsを生成するための演算は、補正処理部42によって行われる。
【0126】
以下、
図11および
図12を参照して、角度検出部3および補正装置4の動作と、本実施の形態に係る角度センサ1の補正方法について説明する。本実施の形態に係る補正方法は、第1の実施の形態における補正処理を行う手順S200の代わりに、補正情報によって処理内容が決定された補正処理を行う手順を含んでいる。
図12は、補正処理を行う手順を示すフローチャートである。
【0127】
本実施の形態に係る補正方法では、補正情報を生成する手順は、基本的には、第1の実施の形態において
図6を参照して説明した内容と同じである。ただし、本実施の形態では、補正情報を決定する手順S122の内容が、第1の実施の形態と異なっている。本実施の形態では、補正情報は、理想角度推定値θcの変化に対する誤差推定値Eの変化成分Evの変化を表す波形を規定する情報である。変化成分Evは、前出の式(4B)によって表される。補正情報を決定する手順S122では、
図6に示したフーリエ変換を行う手順S121で求めた振幅A
nと位相α
nを、補正情報とする。
【0128】
図12に示した補正処理を行う手順は、補正処理部42によって、補正情報を決定する手順S122の後に実行される。補正処理を行う手順は、第1および第2の信号S1,S2に基づいて未補正角度検出値θpを算出する手順S401と、未補正角度検出値θpを補正して角度検出値θsを生成する手順S402とを含んでいる。補正処理部42および補正処理を行う手順において用いられる第1および第2の信号S1,S2は、角度センサ1の使用時の第1および第2の信号S1,S2である。
【0129】
未補正角度検出値θpを算出する手順S401において、補正処理部42は、第1および第2の信号S1,S2に基づいて、前出の式(1)によって、未補正角度検出値θpを算出する。
【0130】
以下、角度検出値θsを生成する手順S402の第1ないし第3の例について説明する。始めに、手順S402の第1の例について説明する。第1の例では、手順S402の前に、予め、補正情報すなわち誤差推定値Eのn次成分の振幅A
nと位相α
nに基づいて、角度検出値θsの所定の角度間隔で、未補正角度検出値θpと角度検出値θsとの対応関係を示すテーブルを作成しておく。所定の角度間隔は、第1の実施の形態で説明した式(1)におけるω・Tと一致していてもよいし、一致していなくてもよい。上記のテーブルにおいて、i番目の対応するθpとθsを、それぞれθpa(i)、θsa(i)とする。iは0以上の整数である。θpa(0)、θsa(0)は、いずれも0とする。θsa(i)は、0°以上360°未満の範囲内の値である。θpa(i)とθsa(i)の関係は、下記の式(17)によって表される。
【0131】
θpa(i)=θsa(i)+Eva(i) …(17)
【0132】
式(17)において、Eva(i)は、前出の式(4B)において理想角度推定値θcをθsa(i)に置き換えて得られるEvの値である。
【0133】
角度センサ1の使用時には、補正処理部42は、上記テーブルに基づいて、線形補間を用いて、手順S401において算出された未補正角度検出値θpに対する角度検出値θsを求める。より具体的に説明すると、補正処理部42は、未補正角度検出値θpの前後のθpa(i)に対応するθsa(i)に基づいて、線形補間を用いて、未補正角度検出値θpに対応する角度検出値θsを求める。角度検出値θsは、未補正角度検出値θpが特定のθpa(i)と一致するときは特定のθpa(i)に対応するθsa(i)であり、θpがθpa(i)以外の時は線形補間によって推定された値である。
【0134】
次に、手順S402の第2の例について説明する。第2の例では、補正処理部42は、まず、補正情報すなわち誤差推定値Eのn次成分の振幅A
nと位相α
nを用いて、未補正角度検出値θpに対応する補正値Cvを求める。補正値Cvは、前出の式(4B)において理想角度推定値θcをθpに置き換えて得られるEvの値である。補正処理部42は、未補正角度検出値θpに補正値Cvを加算して得られる値を角度検出値θsとする。
【0135】
なお、式(4B)において理想角度推定値θcをθpに置き換えて得られるEvの値と、理想角度推定値θcに基づいて式(4B)から求められるEvの値との差は、非常に小さい。そのため、第2の例によって得られる角度検出値θsは、十分な精度を有する。
【0136】
次に、手順S402の第3の例について説明する。第3の例では、補正処理部42は、第2の例と同様に、未補正角度検出値θpに対応する補正値Cvを求める。ただし、第3の例では、補正処理部42は、補正値Cvを、下記の式(18)によって求める。式(18)の右辺は、前出の式(4B)において理想角度推定値θcをθpに置き換えて、更に展開したものである。
【0137】
Cv=A
1{cosθp・cosα
1+sinθp・sinα
1}
+A
2{cos2θp・cos2α
2+sin2θp・sin2α
2}
+A
3{cos3θp・cos3α
3+sin3θp・sin3α
3}
+・・・ …(18)
【0138】
第1の実施の形態で説明したように、式(18)の右辺におけるcosθpとsinθpは、それぞれ、補正処理前の第1の信号S1と補正処理前の第2の信号S2の値である。また、式(18)の右辺における2次以上の高次成分の項は、cosθpとsinθpを用いて表すことができる。第3の例では、補正処理部42は、補正処理前の第1の信号S1の値cosθpと、補正処理前の第2の信号S2の値sinθpと、誤差推定値Eの複数のn次成分の振幅A
nと位相α
nを用いて、補正値Cvを算出する。これにより、角度検出値θsを算出する際に、式(4B)において理想角度推定値θcをθpに置き換えて得られる式におけるコサイン関数の演算を省略することができる。
【0139】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0140】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、本発明の角度センサでは、本発明の補正装置による角度依存誤差を低減する補正処理に加えて、角度検出値に生じる角度依存誤差以外の誤差を低減する他の補正処理も行ってもよい。他の補正処理は、角度依存誤差を低減する補正処理によって補正された角度検出値を一定値だけ変化させて、新たな角度検出値を生成する処理であってもよい。
【0141】
また、本発明は、磁気式の角度センサに限らず、光学式の角度センサ等を含む角度センサ全般に適用することができる。