(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記低圧領域側の圧力に対する前記高圧領域側の相対圧力変化で変位し、前記低圧領域側が前記高圧領域側よりも高圧である非定常時に、前記シール体から前記流入溝及び前記連通路を経て前記高圧領域側の空間に至る非定常時流路を開放し、前記高圧領域側が前記低圧領域側よりも高圧である定常時に、前記非定常時流路の一部を塞ぐ閉塞材を備えている、
請求項1に記載の軸シール装置。
前記ハウジングには、前記流入溝から前記ハウジング内を貫通して前記高圧領域側の空間に連通する複数の前記連通路が形成されていると共に、前記連通路と連通して前記閉塞材を収納し、前記定常時に前記連通路を塞ぐ閉塞位置と、前記非定常時に前記連通路を開放する開放位置との間で、前記閉塞材を移動可能に収納する閉塞材収納部が形成されている、
請求項2に記載の軸シール装置。
前記低圧領域側の圧力に対する前記高圧領域側の相対圧力変化で変位し、前記高圧領域側が前記低圧領域側よりも高圧である定常時に、前記非定常時流路の一部を塞ぎ、前記非定常時に前記非定常時流路を開放する閉塞材を備えている、
請求項6に記載の軸シール装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の軸シール装置において、各薄板シール片の自由端を回転軸から浮上させるためには、回転軸の軸方向における高圧領域から低圧領域に流れる作動流体の流れを一定の方向にさせる必要がある。しかしながら、回転機械の中には、回転軸の軸方向における作動流体の流れ方向が変化するものがある。ここで、以下の説明では、各薄板シール片の自由端を浮上させるための作動流体の流れを定常時流れとし、定常時流れに対して逆方向の流れを非定常時流れとする。
【0008】
定常時流れ方向となるように設置された従来の軸シール装置において、低圧領域の圧力と高圧領域の圧力とが逆転すると、作動流体は非定常時流れ方向となる。このとき、各薄板シール片の相互間を流れる作動流体は、回転軸に近づく側、つまり、径方向内側に向かって流れる。このような状態になると、従来の軸シール装置は、各薄板シール片を回転軸側に押付ける圧力分布となり、各薄板シール片の自由端が回転軸から浮上しない場合がある。
【0009】
したがって、従来の軸シール装置では、回転軸の軸方向における作動流体の流れ方向が変化すると、シール体を構成する各薄板シール片の自由端が回転軸から浮上せず、シール体が回転軸と接触することで摩耗し、シール寿命が短くなるという課題がある。また、このようにしてシール体が摩耗すると、定常時流れ方向におけるシール性能が低下するという課題もある。
【0010】
そこで、本発明は、回転軸の軸方向における作動流体の流れ方向が変化しても、シール体と回転軸との接触によるシール体の摩耗を防ぎ、シール寿命を長くすることができる軸シール装置、及びこれを備える回転機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための発明に係る第一態様としての軸シール装置は、
回転軸と前記回転軸の外周側を覆うステータとの間の環状空間を前記回転軸が延びる軸方向で低圧領域側と高圧領域側とに分ける軸シール装置において、前記回転軸を中心として周方向に延びる環状凹部が形成され、前記ステータに固定されているハウジングと、前記回転軸の外周に配置され、前記回転軸の径方向外側の部分が前記ハウジングの前記環状凹部に収納されているシール体と、厚さ方向を前記軸方向に向け、前記ハウジングの前記環状凹部内で前記シール体の前記高圧領域側に沿って配置されている高圧サイドシール板と、を備え、
前記シール体と前記ハウジングと前記高圧サイドシール板とのうち何れか一の部材の前記径方向外側に、前記低圧領域側の流体が前記シール体中の一部を通って流入し得る流入溝が形成され、前記ハウジングと前記高圧サイドシール板とのうち一方の部材に、前記流入溝と前記高圧領域側の空間とを連通させる連通路が形成されている。
【0012】
低圧領域側が高圧領域側よりも高圧になる非定常時において、低圧領域側の流体がシール体中を通って、低圧の高圧領域側の空間に流れ込む。当該軸シール装置では、シール体とハウジングと高圧サイドシール板とのうち何れか一の部材の径方向外側に流入溝が形成されている。このため、非定常時、低圧領域側の流体がシール体中を通る過程で、一部の流体が流入溝に流れ込む。流入溝に流入した流体は、連通路を介して、低圧の高圧領域側の空間に流れ込む。
【0013】
よって、当該軸シール装置では、非定常時において、低圧領域側の流体がシール体中を通る過程で、一部の流体が径方向外向き成分を有する流れになる。当該軸シール装置では、非定常時、この流れによって、シール体の径方向内側には浮上力が発生する。このため、シール体の径方向内側端は、回転軸から浮上する。
【0014】
なお、前記シール体は、薄板状を成す複数の薄板シール片を有し、複数の前記薄板シール片が厚さ方向を前記周方向に向けられて、前記周方向に積層され、複数の前記薄板シール片における径方向内側端が自由端をなし、前記径方向外側の部分が互いに連結されているものであってもよい。
【0015】
前記課題を解決するための発明に係る第二態様としての軸シール装置は、
前記第一態様としての軸シール装置において、前記低圧領域側の圧力に対する前記高圧領域側の相対圧力変化で変位し、前記低圧領域側が前記高圧領域側よりも高圧である非定常時に、前記シール本体から前記流入溝及び前記連通路を経て前記高圧領域側の空間に至る非定常時流路を開放し、前記高圧領域側が前記低圧領域側よりも高圧である定常時に、前記非定常時流路の一部を塞ぐ閉塞材を備えている。
【0016】
定常時において、高圧領域側の流体がシール体中を通って、低圧領域側の空間に流れ込む。仮に、定常時に非定常時流路の一部が塞がれていなければ、高圧領域側の流体の一部は、この非定常時流路を介して、低圧領域側の空間に流れ込む。この際、非定常時流路中のシール体中では、高圧領域側の流体が低圧領域側に向かいつつも径方向内側に向かって流れる。この流れは、各薄板シール片の径方向内側に対して沈降力として作用する。
【0017】
そこで、当該軸シール装置では、定常時に、非定常時流路の一部を閉塞材で塞ぎ、シール体の径方向内側に作用する沈降力の発生を抑えている。
【0018】
前記課題を解決するための発明に係る第三態様としての軸シール装置は、
前記第二態様としての軸シール装置において、前記高圧サイドシール板は、前記ハウジング及び前記シール体に対して、前記軸方向に相対移動可能に前記環状凹部に配置され、前記閉塞材は、前記定常時に、前記シール体に接して前記非定常時流路の一部を塞ぎ、前記非定常時に、前記シール体に対して非接触状態になって前記非定常時流路を開放する前記高圧サイドシール板である。
【0019】
当該軸シール装置では、高圧サイドシール板が閉塞材として機能するので、部品点数を増加させずに、定常時に、非定常時流路の一部を塞ぐことができる。
【0020】
前記課題を解決するための発明に係る第四態様としての軸シール装置は、
前記第一から前記第三のいずれか一態様の軸シール装置において、前記ハウジングには、前記流入溝から前記ハウジング内を貫通して前記高圧領域側の空間に連通する複数の前記連通路が形成されている。
【0021】
前記課題を解決するための発明に係る第五態様としての軸シール装置は、
前記第二態様としての軸シール装置において、前記ハウジングには、前記流入溝から前記ハウジング内を貫通して前記高圧領域側の空間に連通する複数の前記連通路が形成されていると共に、前記連通路と連通して前記閉塞材を収納し、空間であって、前記定常時に前記連通路を塞ぐ閉塞位置と、前記非定常時に前記連通路を開放する開放位置との間で、前記閉塞材を移動可能に収納する閉塞材収納部が形成されている。
【0022】
前記課題を解決するための発明に係る第六態様としての軸シール装置は、
回転軸と前記回転軸の外周側を覆うステータとの間の環状空間を前記回転軸が延びる軸方向で低圧領域側と高圧領域側とに分ける軸シール装置において、前記回転軸を中心として周方向に延びる環状凹部が形成され、前記ステータに固定されているハウジングと、前記回転軸の外周に配置され、前記回転軸の径方向外側の部分が前記ハウジングの前記環状凹部に収納されているシール体と、厚さ方向を前記軸方向に向け、前記ハウジングの前記環状凹部内で前記シール体の前記高圧領域側に沿って配置されている高圧サイドシール板と、を備え、
前記シール体と前記ハウジングと前記高圧サイドシール板とのうち前記シール体を含む部材には、前記低圧領域側が前記高圧領域側よりも高圧である非定常時に前記低圧領域側の流体が前記高圧領域側に流れる過程で、前記シール体を前記回転軸に対して浮上させる流れを発生させる非定常時流路が形成されている。
【0023】
当該軸シール装置では、非定常時において、低圧領域側の流体が高圧領域側に流れる過程で、シール体を回転軸に対して浮上させる流れが発生する。このため、当該軸シール装置では、シール体の径方向内側端は、回転軸から浮上する。
【0024】
前記課題を解決するための発明に係る第七態様としての軸シール装置は、
前記第六態様としての軸シール装置において、前記低圧領域側の圧力に対する前記高圧領域側の相対圧力変化で変位し、前記高圧領域側が前記低圧領域側よりも高圧である定常時に、前記非定常時流路の一部を塞ぎ、前記非定常時に前記非定常時流路を開放する閉塞材を備えている。
【0025】
当該軸シール装置では、定常時に、非定常時流路の一部が閉塞材で塞がれる。
【0026】
前記課題を解決するための発明に係る一態様としての回転機械は、
以上のいずれかの態様の軸シール装置と、前記回転軸と、前記ステータと、を備えている。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る一態様では、低圧領域側が高圧領域側より高圧になる非定常時に、シール体の径方向内側端が回転軸から浮上する。よって、本発明に係る一態様によれば、シール体の摩耗を防ぎ、シール寿命を長くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照し、本発明に係る軸シール装置及びこれを備える回転機械の実施形態について説明する。
【0030】
「回転機械の実施形態」
ガスタービン設備は、
図1に示すように、多量の空気を内部に取り入れて圧縮する圧縮機2と、この圧縮機2で圧縮された圧縮空気中で燃料を燃焼させて燃焼ガスを生成する燃焼器3と、燃焼器3からの燃焼ガスで駆動するタービン4とを備えている。
【0031】
圧縮機2は、回転軸線Arを中心として回転する圧縮機ロータ2aと、圧縮機ロータ2aを回転可能に覆う圧縮機ケーシング2bと、を備えている。また、タービン4は、回転軸線Arを中心として回転するタービンロータ4aと、タービンロータ4aを回転可能に覆うタービンケーシング4bと、を備えている。
【0032】
ここで、回転軸線Arが延びている方向を軸方向Da、回転軸線Arを基準とした周方向を単に周方向Dc、回転軸線Arを基準とした径方向を単に径方向Drとする。また、軸方向Daのうちで一方側を上流側、他方側を下流側とし、径方向Drで回転軸線Arに近づく側を径方向内側、回転軸線Arから遠ざかる側を径方向外側とする。
【0033】
圧縮機ロータ2a及びタービンロータ4aは、いずれも、回転軸線Arを中心として軸方向Daに延びる回転軸6b,6dと、この回転軸6b,6dの軸方向Daに間隔を開けて固定されている複数の動翼列7b,7dと、を有している。各動翼列7b,7dは、回転軸6b,6dの外周に、周方向Dcに互いの間隔を開けて固定されている複数の動翼を有して構成されている。圧縮機2の回転軸6bとタービン4の回転軸6dとは、一体回転するよう互いに連結され、ガスタービンの回転軸6を成している。
【0034】
圧縮機ケーシング2b内及びタービンケーシング4b内には、複数の静翼列5b,5dが軸方向Daに間隔を開けて固定されている。各静翼列5b,5dは、各ケーシング2b,4b内面に、周方向Dcに互いの間隔を開けて固定されている複数の静翼を有して構成されている。
【0035】
以上のように、圧縮機2及びタービン4は、いずれも、回転軸6b,6dと、回転軸6b,6dの外周側を覆うケーシング2b,4bと、静翼列5b,5dとを備えている回転機械である。圧縮機2及びタービン4のケーシング2b,4b及び静翼列5b,5dは、ステータを成す。
【0036】
圧縮機2は、さらに、軸方向Daの作動流体(空気)gの流れを抑える軸シール装置10aを備えている。軸シール装置10aは、回転軸6bと径方向Drで対向するよう圧縮機ケーシング2bの内面であって圧縮機ケーシング2bの軸方向Daの端部に設けられている。
【0037】
回転軸6bが回転している時、圧縮機ケーシング2b内部の圧力がその外部の圧力よりも高くなる。このため、軸シール装置10aにとって、軸方向Daにおける圧縮機ケーシング2bの内側が高圧領域側となり、軸方向Daにおける圧縮機ケーシング2bの外側が低圧領域側になる。軸シール装置10aは、回転軸6bに沿って圧縮機ケーシング2bの内側(高圧領域側)から圧縮機ケーシング2bの外側(低圧領域側)への作動流体gの流れを抑制する。
【0038】
タービン4でも、さらに、軸方向Daの作動流体(燃焼ガス)gの流れを抑える軸シール装置10bを備えている。軸シール装置10bは、回転軸6dと径方向Drで対向するようタービンケーシング4bの内面であってタービンケーシング4bの軸方向Daの端部に設けられている。
【0039】
回転軸6dが回転している時、タービンケーシング4b内部の圧力がその外部の圧力よりも高くなる。このため、軸シール装置10bにとって、軸方向Daにおけるタービンケーシング4bの内側が高圧領域側となり、軸方向Daにおけるタービンケーシング4bの外側が低圧領域側になる。軸シール装置10bは、回転軸6dに沿ってタービンケーシング4bの内側(高圧領域側)からタービンケーシング4bの外側(低圧領域側)への作動流体gの流れを抑制する。
【0040】
圧縮機2の軸シール装置10aやタービン4の軸シール装置10bのように、回転機械に設置される軸シール装置は、設置する箇所により、ガスタービンの運転状況に応じて、低圧領域側の圧力と高圧領域側の圧力とが逆転し、回転軸6b,6dの軸方向における作動流体の流れ方向が変化する場合がある。以下、この軸シール装置の実施形態について説明する。
【0041】
「軸シール装置の第一実施形態」
本実施形態の軸シール装置100は、
図2に示すように、ガスタービンの回転軸6(以下、単に回転軸6とする)の外周に沿って、周方向Dcに円弧状に延びる複数のシールセグメント101を有して構成されている。
【0042】
図3に示すように、ガスタービンのステータ8には、径方向内側から径方向外側に凹み、回転軸線Arを中心として環状を成す取付部9が形成されている。各シールセグメント101は、このステータ8の取付部9に取り付けられている。
【0043】
各シールセグメント101は、いずれも、
図3及び
図4に示すように、多数の薄板シール片21の束であるシール体20と、断面溝形を成してシール体20を保持する保持リング30と、保持リング30とシール体20との隙間を埋めるシム38と、シール体20における回転軸6の軸方向Daの一方側に配置されている高圧サイドシール板40と、シール体20における回転軸6の軸方向Daの他方側に配置されている低圧サイドシール板50と、保持リング30の径方向外側に配置される背面スペーサ39と、これら覆うハウジング60と、を備えている。ここで、以下の説明では、シール体20における回転軸6の軸方向Daの一方側を高圧領域側Hsとし、シール体20における回転軸6の軸方向Daの他方側を低圧領域側Lsとする。
【0044】
薄板シール片21は、薄い板によって形成された部材である。この薄板シール片21は、周方向Dcから見てT字状に形成され、その幅方向を回転軸6の軸方向Daに向け、言い換えると、その厚さ方向を回転軸6の周方向Dcに向けている。
【0045】
この薄板シール片21は、頭部22と、この頭部22よりも幅寸法及び厚さ寸法が小さく形成されている胴部25と、頭部22と胴部25との間に位置して、これらよりも幅寸法が小さく形成されている首部23と、を有している。この薄板シール片21は、径方向外側から径方向内側に向かって、頭部22、首部23、胴部25の順に形成されている。首部23の高圧領域側Hsの縁は、頭部22の高圧領域側Hsの縁及び胴部25の高圧領域側Hsの縁よりも低圧領域側Lsに位置している。よって、頭部22と胴部25との間であって高圧領域側Hsの部分は、首部23を底として低圧領域側Lsに凹んだ凹み28aが形成されている。また、首部23の低圧領域側Lsの縁は、頭部22の低圧領域側Lsの縁及び胴部25の低圧領域側Lsの縁よりも高圧領域側Hsに位置している。よって、頭部22と胴部25との間であって低圧領域側Lsの部分は、首部23を底として高圧領域側Hsに凹んだ凹み28bが形成されている。
【0046】
各薄板シール片21は、その厚さ方向を周方向Dcに向けて、周方向Dcに積層されている。各薄板シール片21における各頭部22の径方向外側端21aは、互いに接続されている。さらに、各薄板シール片21の各胴部25の径方向外側の位置26も、互いに接続されている。すなわち、各薄板シール片21は、その径方向外側の部分が互いに接続されている。
【0047】
各薄板シール片21の胴部25は、弾性変形可能であり、胴部25の径方向内側端21bが自由端になっている。各薄板シール片21は、その径方向内側端21bがその径方向外側端21aよりも回転軸6の回転方向側Rsに位置するよう傾斜配置されている。薄板シール片21の径方向内側端21bは、回転軸6が停止している際、回転軸6の外周面と接している。
【0048】
薄板シール片21は、前述したように、頭部22の厚さ寸法(周方向の寸法)が首部23及び胴部25の厚さ寸法よりも大きい。このため、
図5に示すように、周方向Dcで隣接する二枚の薄板シール片21の胴部25の間に微小間隙sが形成される。
【0049】
保持リング30は、断面溝形を成し、周方向Dcに延びている部材である。保持リング30は、径方向Drで互いに対向する一対の側板31と、一対の側板31の軸方向Daの端相互を連結する底板32と、を有する。一対の側板31及び底板32は、いずれも周方向Dcに延びている。保持リング30の一対の側板31の相互間は、底板32を溝底とする溝部33を成している。一対の側板31の相互間の寸法、つまり、溝幅は薄板シール片21における頭部22の径方向Drの幅寸法より若干大きい。
【0050】
保持リング30は、薄板シール片21の頭部22の高圧領域側Hsと低圧領域側Lsとに配置されている。薄板シール片21における高圧領域側Hsの頭部22は、高圧領域側Hsの保持リング30の溝部33内に入れられている。また、薄板シール片21における低圧領域側Lsの頭部22は、低圧領域側Lsの保持リング30の溝部33内に入れられている。保持リング30の径方向外側の側板31と、薄板シール片21の頭部22との間には、シム38が嵌め込まれ、薄板シール片21の頭部22が保持リング30により保持されている。この結果、薄板シール片21の頭部22は、各保持リング30に対して移動できないようになっている。
【0051】
高圧サイドシール板40及び低圧サイドシール板50は、いずれも、厚さ方向を軸方向Daに向け、軸方向Daから見た形状が円弧帯状を成している。
【0052】
高圧サイドシール板40は、前述したように、シール体20の高圧領域側Hsに配置されている。この高圧サイドシール板40は、径方向外側のベース部41と、このベース部41から径方向内側に向かって延びている薄板サイドシール部42と、を有している。ベース部41は、その厚さ方向の寸法(軸方向Daの寸法)が薄板サイドシール部42の厚さ方向の寸法(軸方向Daの寸法)よりも大きく、薄板サイドシール部42を基準にして低圧領域側Lsに突出している。このベース部41は、薄板シール片21の頭部22と胴部25との間の高圧領域側Hsの凹み28aに入り込んでいる。
【0053】
低圧サイドシール板50は、前述したように、シール体20の低圧領域側Lsに配置されている。この低圧サイドシール板50も、高圧サイドシール板40と同様、径方向外側のベース部51と、このベース部51から径方向内側に向かって延びている薄板サイドシール部52とを有している。ベース部51は、その厚さ方向の寸法(軸方向Daの寸法)が薄板サイドシール部52の厚さ方向の寸法(軸方向Daの寸法)よりも大きく、薄板サイドシール部52を基準にして高圧領域側Hsに突出している。このベース部51は、薄板シール片21の頭部22と胴部25との間の低圧領域側Lsの凹み28bに入り込んでいる。
【0054】
図3に示すように、低圧サイドシール板50の薄板サイドシール部52における径方向Drの長さ寸法は、高圧サイドシール板40の薄板サイドシール部42における径方向Drの長さ寸法よりも小さい。このため、低圧サイドシール板50の薄板サイドシール部52における径方向内側縁から回転軸6までの距離は、高圧サイドシール板40の薄板サイドシール部42における径方向内側縁から回転軸6までの距離より長い。言い換えると、回転軸6と低圧サイドシール板50の径方向内側縁との間隔は、回転軸6と高圧サイドシール板40の径方向内側縁との間隔より大きい。
【0055】
以上で説明した薄板シール片21、高圧サイドシール板40、低圧サイドシール板50は、いずれも、弾性変形が可能であり、優れた耐熱性を有するNi基合金であるインコネル(登録商標)系合金や、Co基合金であるステライト(登録商標)系合金等で形成されている。
【0056】
ハウジング60は、環状の取付部9に取り付け可能に、外形が周方向Dcに円弧状を成している。また、このハウジング60には、径方向内側から径方向外側に向かって凹み、周方向Dcに延びる環状凹部61が形成されている。環状凹部61は、環状凹部61の径方向内側を形成する内側環状凹部62と、環状凹部61の径方向外側を形成し内側環状凹部62とつながっている外側環状凹部65と、を有する。
【0057】
内側環状凹部62の軸方向Daの幅寸法は、薄板シール片21における胴部25の軸方向Daの幅寸法と、高圧サイドシール板40の厚さ方向の寸法(軸方向Daの寸法)と、低圧サイドシール板50の厚さ方向の寸法(軸方向Daの寸法)とを合わせた寸法よりも若干大きい。
【0058】
外側環状凹部65の軸方向Daの幅寸法は、薄板シール片21の頭部22が保持リング30で保持されている状態での頭部22と保持リング30とを含めた軸方向Daの幅寸法よりも若干大きい。このため、外側環状凹部65の軸方向Daの幅寸法は、内側環状凹部62の軸方向Daの幅寸法よりも大きい。
【0059】
保持リング30で保持されている薄板シール片21は、保持リング30と共に、ハウジング60の環状凹部61に配置されている。なお、薄板シール片21の胴部25は、そのほとんどがハウジング60の内側環状部62内に配置されている。但し、薄板シール片21の径方向内側端21bは、ハウジング60の内側環
状凹部62から径方向内側へ、つまり、回転軸6側へ突出している。
【0060】
ハウジング60の外側環
状凹部65を画定する面のうち、径方向内側を向いて回転軸6の外周面と対向している面と保持リング30との間には、背面スペーサ39が配置されている。保持リング30及びこの保持リング30で保持されている薄板シール片21の頭部22は、この背面スペーサ39により、ハウジング60に対する径方向Drの相対位置が固定されている。
【0061】
ハウジング60には、
図3、
図4及び
図6に示すように、ハウジング60の内側環状凹部62を画定する面のうち、周方向Dcに広がる高圧領域側Hsの高圧側内面63に流入溝66が形成されている。この流入溝66は、高圧側内面63の径方向外側に形成されている。より具体的には、流入溝66の径方向外側縁の位置は、高圧側内面63の径方向外側縁(内側環状凹部62の径方向外側縁)の位置と一致している。また、この流入溝66の径方向内側縁の位置は、後述する連通溝68の径方向外側縁の位置と一致している。ハウジング60と高圧サイドシール板40との間であって流入溝66内は流入空間67を成している。
【0062】
さらに、ハウジング60には、高圧側内面63の一部分の凹みにより、流入溝66から径方向内側に延びる複数の連通溝68が形成されている。複数の連通溝68は、周方向Dcに間隔をあけて高圧側内面63に形成されている。ハウジング60と高圧サイドシール板40との間であって複数の連通溝68内は連通路69を成している。
【0063】
次に、本実施形態における軸シール装置100の作用について説明する。
【0064】
まず、
図7を参照して、回転軸6が回転して、高圧領域側Hsの作動流体の圧力が低圧領域側Lsの圧力よりも高くなる定常時の作用について説明する。このように、定常時では、高圧領域側Hsが高圧Hとなり、低圧領域側Lsが低圧Lとなる。
【0065】
定常時において、薄板シール片21の径方向内側端21bには、回転軸6の回転によって生じる動圧効果により、回転軸6の外周面から浮上させる浮上力が作用する。
【0066】
また、薄板シール片21の束であるシール体20及び薄板シール片21の頭部22を保持する保持リング30は、高圧領域側Hsが高圧Hであるため、ハウジング60の環状凹部61内の低圧領域側Lsに一体的に片寄る。
【0067】
低圧サイドシール板50は、ハウジング60の内側環状凹部62を画定する面のうち、低圧領域側Lsの低圧側内面64に接する。一方、この低圧サイドシール板50は、シール体20の低圧領域側Ls縁から離れる。また、高圧サイドシール板40は、シール体20の高圧領域側Hs縁に、より具体的には、薄板シール片21における胴部25の高圧領域側Hs縁に接する。このため、薄板シール片21の相互間には、薄板シール片21の高圧領域側Hs縁のうち、高圧サイドシール板40と接していない径方向内側の部分から高圧領域
側Hsの作動流体が流入する。薄板シール片21相互間に流入した作動流体は、ここから低圧領域側Lsへと流れる。
【0068】
ところで、低圧サイドシール板50は、シール体20の低圧領域側Ls縁から離れているため、シール体20を形成する薄板シール片21の胴部25の低圧領域側Ls縁と低圧サイドシール板50との間に空間が形成されていることになる。この空間は、低圧領域Lの圧力と実質的に同じ圧力となる。つまり、薄板シール片21の胴部25における低圧領域側Ls縁の径方向全域での圧力は、低圧領域
側Lsの圧力と実質的に同じである。一方、薄板シール片21の胴部25における高圧領域側Hs縁では、高圧領域側Hsの作動流体が流入する部分、つまり、高圧サイドシール板40が接していない径方向内側の部分の圧力が最も高くなる。
【0069】
よって、薄板シール片21の相互間では、シール板の胴部25における高圧領域側Hs縁の径方向内側の部分の圧力が最も高く、軸方向Daにおける低圧領域側Lsに向かうに連れて圧力が次第に低くなると共に、径方向外側に向かうに連れても圧力が次第に低くなる。なお、
図7中の薄板シール片21の胴部25中に描かれている点線は等圧線Liである。
【0070】
薄板シール片21の相互間は以上のような圧力分布であるため、薄板シール片21の胴部25における高圧領域側Hs縁の径方向内側の部分から薄板シール片21の相互間に流入した作動流体は、軸方向Daにおける低圧領域側Lsに向かいつつも径方向外側に向かって流れる。このように、薄板シール片21の相互間では、
図7に示す矢印のように径方向外側に向かう作動流体の流れが生じるため、各薄板シール片21の径方向内側の部分には、浮上力Fuが発生する。
【0071】
以上のように、定常時には、回転軸6の回転によって生じる動圧効果による浮上力と、各薄板シール片21の相互間の流体の流れ(定常時流れ)による浮上力Fuとが発生する。このため、各薄板シール片21の径方向内側端21bである自由端は、回転軸6から浮上する。
【0072】
次に、低圧領域側Lsの圧力が高圧領域側Hsの圧力よりも高くなる非定常時の作用について説明する。このように、非定常時では、高圧領域側Hsが低圧Lとなり、低圧領域側Lsが高圧Hとなる。
【0073】
ここで、本実施形態の軸シール装置100の作用の理解を深めるために、比較例の軸シール装置100xにおける非定常時の作用について、
図10を参照して説明する。
【0074】
比較例の軸シール装置100xは、ハウジング60xの高圧側内面63xに、第一実施形態における流入溝66及び連通溝68が形成されていない点を除いて、本実施形態の軸シール装置100と同じ構成である。よって、比較例の軸シール装置100xには、本実施形態の軸シール装置100と異なり、流入溝66及び連通路69が形成されていない。
【0075】
非定常時において、薄板シール片21の束であるシール体20及び薄板シール片21の頭部22を保持する保持リング30は、低圧領域側Lsが高圧Hであるため、ハウジング60xの環状凹部61内の高圧領域側Hsに一体的に片寄る。
【0076】
低圧サイドシール板50は、ハウジング60xの低圧側内面64から離れる一方で、シール体20の低圧領域側Ls縁に接する。また、高圧サイドシール板40は、シール体20の高圧領域側Hs縁から離れる一方で、ハウジング60xの高圧側内面63xに接する。このため、薄板シール片21相互間には、薄板シール片21の低圧領域側Ls縁のうち、低圧サイドシール板50と接していない径方向内側の部分から高圧Hの低圧領域側Lsの流体が流入する。
【0077】
ところで、前述したように、回転軸6と低圧サイドシール板50の径方向内側縁との間隔は、回転軸6と高圧サイドシール板40の径方向内側縁との間隔より大きい。このため、薄板シール片21の相互間で、非定常時における最も圧力の高い部分、つまり、薄板シール片21の低圧領域側Ls縁のうち、低圧サイドシール板50と接していない径方向内側の部分は、定常時における最も圧力の高い部分よりも径方向外側に広がっている。
【0078】
したがって、薄板シール片21の相互間では、シール板の胴部25における低圧領域側Ls縁の径方向内側の部分の圧力が最も高く、軸方向Daにおける高圧領域側Hsに向かうに連れて圧力が次第に低くなると共に、
低圧サイドシール板50の径方向内側に向かうに連れても圧力が次第に低くなる。なお、
図10中の薄板シール片21の胴部25中に描かれている点線は等圧線Liである。
【0079】
低圧サイドシール板50と接していない薄板シール片21の低圧領域側Ls縁の径方向内側の部分から流入した作動流体は、以上のような圧力分布であるため、軸方向Daにおける低圧Lの高圧領域側Hsに向かいつつ径方向内側に向かって流れる。また、薄板シール片21の胴部25における高圧領域側Hs縁の径方向全域での圧力は、前述したように、高圧領域側Hsの圧力と実質的に同じ圧力となる。このため、薄板シール片21の相互間を通ってきた作動流体は、薄板シール片21における高圧領域側Hs縁へ流れ、薄板シール片21の高圧領域側Hs縁と高圧サイドシール板40との間を径方向内側に向かって流れる。そして、高圧サイドシール板40と回転軸6との間から低圧Lの領域内に流出する。このように、薄板シール片21の相互間には、
図10に示す矢印のように径方向内側に向かう作動流体の流れが生じる。
【0080】
以上のように、比較例の軸シール装置100xでは、非定常時、各薄板シール片21の相互間の流体の流れ(非定常時流れ)による沈降力Fdが作用し、各薄板シール片21の径方向内側端21bである自由端は、回転軸6から浮上しない場合がある。
【0081】
次に、非定常時における本実施形態の軸シール装置100の作用について、
図8及び
図9を参照して説明する。
【0082】
本実施形態でも、非定常時において、薄板シール片21の束であるシール体20及び薄板シール片21の頭部22を保持する保持リング30は、比較例と同様、低圧領域側Lsが高圧Hであるため、ハウジング60の環状凹部61内の高圧領域側Hsに一体的に片寄る。
【0083】
本実施形態でも、低圧サイドシール板50は、ハウジング60の低圧側内面64から離れる一方で、シール体20の低圧領域側Ls縁に接する。このため、薄板シール片21相互間には、薄板シール片21の低圧領域側Ls縁のうち、低圧サイドシール板50と接していない径方向内側の部分から作動流体が流入する。
【0084】
また、高圧サイドシール板40は、シール体20の高圧領域側Hs縁から離れる一方で、ハウジング60の高圧側内面63に接する。このため、薄板シール片21の胴部25における高圧領域側Hs縁の径方向全域での圧力は、低圧Lの高圧領域側Hsの圧力と実質的に同じ圧力となる。
【0085】
ところで、本実施形態の軸シール装置100には、高圧サイドシール板40とハウジング60との間であって径方向外側の位置に流入溝66が形成されている。薄板シール片21の相互間は、非定常時において、高圧サイドシール板40がシール体20の高圧領域側Hs縁から離れているため、流入溝66と連通している。具体的に、薄板シール片21の相互間は、高圧サイドシール板40の薄板サイドシール部42とシール体20を形成する薄板シール片21における胴部25の高圧領域側Hs縁との間、薄板シール片21の首部23と高圧サイドシール板40のベース部41との間、及び、高圧領域側Hsの保持リング30における径方向内側の側板31と高圧サイドシール板40のベース部41との間を介して、流入溝66と連通している。
【0086】
また、この流入溝66は、連通路69を介して、低圧Lの高圧領域側Hsの空間と連通している。よって、本実施形態では、非定常時に、薄板シール片21の相互間から流入溝66及び連通路69を経て低圧Lの高圧領域側Hsの空間に至る非定常時流路70が形成される。
【0087】
このため、多数の薄板シール片21の低圧領域側Ls縁のうち、低圧サイドシール板50と接していない径方向内側の部分から、多数の薄板シール片21の相互間に流入した作動流体は、薄板シール片21の相互間から非定常時流路70を経て、ハウジング60の高圧領域側Hsの径方向内側端部と回転軸6との間から低圧Lの高圧領域側Hsの空間に流出する。また、薄板シール片21の相互間に流入した作動流体の一部は、薄板シール片21の相互間を流れて高圧サイドシール板40と回転軸6との間から低圧Lの高圧領域側Hsの空間に流出する。このため、薄板シール片21の相互間には、
図8に示す矢印のように径方向外側に向かう作動流体の流れが生じる。なお、
図8中の薄板シール片21の胴部25中に描かれている点線は等圧線Liである。
【0088】
本実施形態の軸シール装置100では、非定常時において、各薄板シール片21の相互間の作動流体の流れのうち、薄板シール片21の胴部25における高圧領域側Hs縁の径方向内側の部分を経る流れによって、各薄板シール片21の径方向内側端21b側には僅かな沈降力も発生する。しかしながら、本実施形態の軸シール装置100では、非定常時において、非定常時流路70を経る作動流体の流れによって、各薄板シール片21の径方向内側端21bには浮上力Fuが発生する。
【0089】
従って、本実施形態の軸シール装置100では、非定常時であっても、各薄板シール片21の相互間の作動流体の流れ(非定常時流れ)による浮上力Fuの発生により、各薄板シール片21の径方向内側端21bである自由端を回転軸6から浮上させることができる。
【0090】
なお、本実施形態の軸シール装置100では、
図7に示すように、定常時において、高圧サイドシール板40がシール体20の高圧領域側Hs縁と接しており、非定常時流路70中で、薄板シール片21の胴部25における高圧領域側Hs縁の径方向外側の部分が塞がっている。このため、各薄板シール片21に沈降力を発生させるための作動流体の流れは生じない。このように、本実施形態では、定常時において、非定常時流路70の一部を高圧サイドシール板40で塞ぎ、各薄板シール片21の径方向内側端21bに作用する沈降力の発生を抑えている。
【0091】
以上、本実施形態では、各薄板シール片21の径方向内側端21bである自由端は、定常時では回転軸6から浮上し、非定常時では回転軸6から浮上するため、各薄板シール片21の摩耗を防ぐことができ、シール寿命を長くすることができる。
【0092】
「軸シール装置の第二実施形態」
次に、本発明に係る軸シール装置の第二実施形態について、
図11を参照して説明する。
【0093】
第一実施形態の軸シール装置100では、ハウジング60の高圧側内面63に流入溝66及び複数の連通溝68が形成されている。一方、本実施形態の軸シール装置100aでは、高圧サイドシール板40aに流入溝66a及び複数の連通溝68aが形成されている。
【0094】
本実施形態の流入溝66aは、高圧サイドシール板40aの薄板サイドシール部42aにおいて、ハウジング60aの高圧側内面63aと対向する面に形成されている。この流入溝66aは、薄板サイドシール部42aの径方向外側に周方向Dcに延びて形成されている。ハウジング60aと高圧サイドシール板40aとの間であって流入溝66a内は、流入空間67aを成している。
【0095】
本実施形態の複数の連通溝68aは、ハウジング60aの高圧側内面
63aに対して、薄板サイドシール部42aの一部分の凹みにより、流入溝66aから径方向内側に延びるように形成されている。この複数の連通溝68aは、周方向Dcに間隔をあけて形成されている。ハウジング60aと高圧サイドシール板40aとの間であって複数の連通溝68a内は、連通路69aを成している。
【0096】
本実施形態でも、多数の薄板シール片21の相互間は、非定常時において、高圧サイドシール板40aにおける薄板サイドシール部42aと薄板シール片21における胴部25の高圧領域側Hs縁との間、薄板シール片21の首部23と高圧サイドシール板40aのベース部41との間、及び、高圧領域側Hsの保持リング30における径方向内側の側板31と高圧サイドシール板40aのベース部41との間を介して、流入溝66aと連通している。さらに、この流入溝66aは、連通路69aを介して、低圧Lの高圧領域側Hsの空間と連通している。よって、本実施形態でも、非定常時において、薄板シール片21の相互間から流入溝66a及び連通路69aを経て低圧Lの高圧領域側Hsの空間に至る非定常時流路70aが形成される。このため、第一実施形態と同様、非定常時であっても、各薄板シール片21の径方向内側端21bである自由端を回転軸6から浮上させることができる。
【0097】
また、定常時には、高圧サイドシール板40aがシール体20の高圧領域側Hs縁と接し、非定常時流路70a中で、薄板シール片21の胴部25における高圧領域側Hs縁の径方向外側の部分が塞がる。このため、第一実施形態と同様、定常時において、各薄板シール片21の径方向内側端21bである自由端は、回転軸6から浮上する。
【0098】
したがって、本実施形態でも、第一実施形態と同様、各薄板シール片21の摩耗を防ぐことができ、シール寿命を長くすることができる。
【0099】
「軸シール装置の第三実施形態」
次に、本発明に係る軸シール装置の第三実施形態について、
図12を参照して説明する。
【0100】
本実施形態の軸シール装置100bは、第一実施形態の軸シール装置100の変形例である。第一実施形態の軸シール装置100では、ハウジング60の高圧側内面63に流入溝66及び複数の連通溝68が形成され、高圧サイドシール板40とハウジング60との間であって、流入溝66内が流入空間67を成し、複数の連通溝68内が連通路69を成している。
【0101】
本実施形態でも、第一実施形態と同様、ハウジング60bの高圧側内面63bに流入溝66が形成され、高圧サイドシール板40とハウジング60bとの間であって、流入溝66内が流入空間67を成している。しかしながら、本実施形態の連通路69bは、流入空間67から、ハウジング60bを貫通して、高圧領域側Hsの空間に連通している。ハウジング60bには、この連通路69bが周方向Dcに互いに間隔をあけて複数形成されている。よって、本実施形態でも、非定常時において、薄板シール片21の相互間から流入溝66及び連通路69bを経て低圧Lの高圧領域側Hsの空間に至る非定常時流路70bが形成される。
【0102】
このように、連通路は、流入溝と高圧領域側Hsの空間とを連通させることができれば、第一及び第二実施形態のように、高圧サイドシール板とハウジングとの間に形成しなくてもよい。
【0103】
なお、本実施形態は、第一実施形態の変形例であるが、第二実施形態においても、本実施形態と同様、流入溝66aから、ハウジング60aを貫通して、非定常時に低圧Lとなる高圧領域側Hsの空間に連通する連通路を形成してもよい。
【0104】
「軸シール装置の第四実施形態」
次に、本発明に係る軸シール装置の第四実施形態について、
図13を参照して説明する。
【0105】
以上の各実施形態における軸シール装置100,100a,100bでは、高圧サイドシール板40,40aを定常時に非定常時流路70,70a,70bの一部を塞ぐ閉塞材として用いている。本実施形態の軸シール装置100cは、高圧サイドシール板40cを閉塞材として用いず、別途、閉塞材76を設けたものである。
【0106】
本実施形態では、高圧サイドシール板40cにおける薄板サイドシール部42cの径方向外側には、軸方向Daに貫通した貫通孔45が形成されている。ハウジング60cの高圧側内面63cで、貫通孔45と軸方向Daで対向する位置には、周方向Dcに延びている流入溝66が形成されている。本実施形態でも、高圧サイドシール板40cとハウジング60cとの間であって、流入溝66内が流入空間67を成している。ハウジング60cには、流入空間67からハウジング60cを貫通して、非定常時に低圧Lとなる高圧領域側Hsの空間に連通している複数の連通路69cが形成されている。
【0107】
ハウジング60cには、さらに、各連通路69c中の位置に、連通路69cの内径よりも大きな径の閉塞材収納部75が形成されている。この閉塞材収納部75内には、閉塞材76とバネ等の弾性体77が配置されている。この閉塞材76は、閉塞材収納部75内で、連通路69cを塞ぐ閉塞位置と連通路69cを開放する開放位置との間で移動可能である。弾性体77は、閉塞材76を開放位置から閉塞位置の向きに付勢する。
【0108】
本実施形態では、多数の薄板シール片21の相互間、高圧サイドシール板40cの貫通孔45、ハウジング60cに形成されている流入空間67、連通路69c及び閉塞材収納部75が非定常時流路70cを形成する。
【0109】
非定常時において、低圧領域
側Lsから多数の薄板シール片21の相互間に流入した流体の一部は、高圧サイドシール板40cの貫通孔45を経由して、流入空間67に流入する。流入空間67に流入した流体の圧力は、閉塞材76を開放位置から閉塞位置の向きに付勢する付勢力に増さっている。このため、閉塞材76は、非定常時では、閉塞材収納部75内の開放位置に位置し、連通路69cは開放されている。よって、流入空間67に流入した流体は、連通路69cを通過して、低圧Lの高圧領域側Hsの空間に流れ込む。
【0110】
一方、閉塞材76は、定常時、流入空間67側から圧力を受けないため、弾性体77の付勢力により、閉塞材収納部75内の閉塞位置に位置し、連通路69cの一部は塞がる。
【0111】
以上のように、本実施形態でも、非定常時であっても、高圧Hの低圧領域側Lsから流体の一部が非定常時流路70cを介して、低圧Lの高圧領域側Hsの空間に流れ込むので、各薄板シール片21の径方向内側端21bである自由端を回転軸6から浮上させることができる。また、定常時には、非定常時流路70c中の一部が塞がるため、各薄板シール片21の径方向内側端21bである自由端は、回転軸6から浮上する。
【0112】
「軸シール装置の第五実施形態」
次に、本発明に係る軸シール装置の第五実施形態について、
図14を参照して説明する。
【0113】
本実施形態の軸シール装置100dは、第四実施形態の軸シール装置100cの変形例である。第四実施形態の軸シール装置100cでは、ハウジング60cの高圧側内面63cに流入溝66が形成され、高圧サイドシール板40cとハウジング60cとの間であって、流入溝66内が流入空間67を成している。
【0114】
本実施形態では、薄板シール片21dにおける胴部25dの径方向外側部分が高圧領域側Hs縁から低圧領域側Lsに凹む凹みが形成されている。このため、薄板シール片21dの束であるシール体20dの径方向外側の部分には、高圧領域側Hs縁から低圧領域側Lsに凹み周方向Dcに延びる流入溝66dが形成されている。シール体20dと高圧サイドシール板40dとの間であって、流入溝66d内は、流入空間67dを成す。
【0115】
高圧サイドシール板40dにおける薄板サイドシール部42dの流入溝66dと対向する位置には、軸方向Daに貫通する貫通孔45dが形成されている。ハウジング60dには、高圧サイドシール板40dの貫通孔45dと対向する位置からハウジング60dを貫通して、非常時に低圧Lとなる高圧領域側Hsの空間に連通している複数の連通路69dが形成されている。本実施形態でも、第四実施形態と同様、ハウジング60dには、さらに、各連通路69d中の位置に、連通路69dの内径よりも大きな径の閉塞材収納部75が形成されている。この閉塞材収納部75内には、閉塞材76とバネ等の弾性体77とが配置されている。
【0116】
本実施形態では、多数の薄板シール片21dの相互間、シール体20dに形成されている流入空間67d、高圧サイドシール板40dの貫通孔45d、ハウジング60dに形成されている連通路69d及び閉塞材収納部75が非定常時流路70dを形成する。
【0117】
以上のように、流入空間67dは、ハウジングと高圧サイドシール板との間のみならず、高圧サイドシール板40dとシール体20dとの間に形成することも可能である。
【0118】
なお、以上では、軸シール装置をガスタービンに適用する場合について説明したが、本発明の軸シール装置はこれに限定されるものではなく、例えば、蒸気タービン、圧縮機、水車、冷凍機、ポンプ等、各種回転機械にも適用できる。