特許第6191855号(P6191855)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191855
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】軟磁性金属粉末及び高周波用圧粉磁心
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/147 20060101AFI20170828BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   H01F1/147 166
   H01F27/24 D
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-42706(P2013-42706)
(22)【出願日】2013年3月5日
(65)【公開番号】特開2014-170877(P2014-170877A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2016年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】筒井 美紀子
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雄一郎
【審査官】 井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−100615(JP,A)
【文献】 特開2003−239050(JP,A)
【文献】 特開平04−018712(JP,A)
【文献】 特開2001−032054(JP,A)
【文献】 特開2009−054615(JP,A)
【文献】 特開2002−356749(JP,A)
【文献】 特開2008−124270(JP,A)
【文献】 特開2011−049568(JP,A)
【文献】 特開2001−274007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/147
H01F 27/255
H01F 1/20
B22F 1/00
B22F 3/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波用圧粉磁心のためのFe−Si−Cr−Sn系合金の球状粒子からなる軟磁性金属粉末であって、
前記球状粒子は、
内部結晶粒を含み、
質量%で、
Siを0.5%以上10.0%以下、
Crを1.5%以上8.0%以下、
Snを0.05%以上3.0%以下、残部Fe及び不可避的不純物とした成分組成の合金からなることを特徴とする軟磁性金属粉末。
【請求項2】
D50を20μm以下としたことを特徴とする請求項1記載の軟磁性金属粉末。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の前記軟磁性金属粉末を絶縁樹脂と混合し加圧成形されてなることを特徴とする高周波用圧粉磁心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性金属粉末及びこれを用いた圧粉磁心に関し、特に、高周波用の磁性部品に使用される圧粉磁心及びそのための軟磁性金属粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル電子機器の高性能化とともに小型軽量化に際し、電子回路の動作周波数を高周波側へと遷移させる必要性から、これら電子機器に使用される電子部品、例えば、チョークコイルやインダクタといった磁性部品(若しくは、磁性素子)についても高周波側への最適化が求められている。例えば、従来の磁性部品では、安価で且つ透磁率の高い酸化物フェライトを多く使用してきたが、かかる酸化物フェライトからなる磁心は数MHz以上の高周波側でコアロス(損失)が著しく大きくなってしまう傾向にある。そこで、軟磁性粉末を絶縁処理して圧縮成形して得られる圧粉磁心が利用され得る。酸化物フェライトからなるバルク状磁心と比較して、高周波側でのコアロスが小さく、しかも大電流でも高い透磁率を維持できるのである。
【0003】
ところで、高周波側でのコアロスにおいて、磁界によって生じる渦電流による損失(渦電流損)の寄与が大きくなる。渦電流損に対応するエネルギーは磁性部品の動作効率の低下となるとともに、熱となって放出されて電子機器の小型化に対する阻害要因ともなる。圧粉磁心において、渦電流損を抑制するにはこれを形成する軟磁性粉末の平均粒径を小さくすることが有効であるとされている。
【0004】
例えば、特許文献1では、圧粉磁心においても数10kHz〜数100kHzの高周波側の動作周波数において渦電流損が急激に上昇することを述べた上で、所定の平均粒径と最大粒径とを規定したFe−Si−Cr三元系合金からなる軟磁性粉末を加圧成形して得られる圧粉磁心を開示している。平均粒径が小さい軟磁性粉末から得られる圧粉磁心では、渦電流の流路が短くなり渦電流損を低減できる一方、平均粒径が小さすぎると加圧成形の不良による透磁率の低下を生じるとしている。更に、軟磁性粉末の製造にあたり、アトマイズ法によれば、粒径の細かい粉末を効率よく製造できるとともに、粉末の各粒子の形状を球形状に近くできて加圧成形時の充填率を高め、より密度の高い圧粉磁心となって、高い透磁率と高い磁束密度とを与え得るともしている。
【0005】
上記したような圧粉磁心のための軟磁性粉末としては、従来から磁性部品の磁心に使用されていたケイ素鋼板の成分組成からFe−Si二元系合金や、これに耐食性を高めるために非磁性のCrを加えたFe−Si−Cr三元系合金が多く用いられている。
【0006】
例えば、特許文献2では、Siを0.5〜8.0wt%含むFe−Si二元系合金からなるとともに、粉末粒子中の結晶粒の平均結晶粒径を圧粉磁心の200kHz程度までの励磁周波数に対して所定の範囲内とした軟磁性粉末を開示している。この特性に影響を与えない範囲で、C、N、Mn、P、S、Cu、Ni、Cr、Mo、Co、Ti、Sn、Nb、Zr、Alなどを加え得るとしている。ここでは、コアロスが粉末粒子内の結晶粒径に依存すること、所定の励磁周波数の下でコアロスを抑制する結晶粒径の存在することについて述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−049568号公報
【特許文献2】特開2008−124270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、軟磁性粉末を加圧成形して得られる圧粉磁心について、動作周波数の高周波側への最適化のための方法として、軟磁性粉末の粒径や粉末粒子内の結晶粒径を調整することが提案されている。かかる調整は軟磁性粉末の製造条件の制御によって行い得る。しかし、特許文献2で述べられているように、製造条件を制御しながら、コアロスを最低とするような結晶粒径の軟磁性粉末を安定して得ることは、実際には多くの困難を伴う。
【0009】
本発明はかかる状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、高周波用の磁性部品に使用される圧粉磁心及びその製造に適した軟磁性金属粉末であって、得られる圧粉磁心において、十分な透磁率と耐食性とを備えるとともに、数100kHz以上の高周波側の動作周波数域においてもコアロスを低減できる該金属粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、金属粉末の成分組成を調整することで、上記したようなコアロスを小さくし得る結晶粒径の軟磁性粉末を安定して製造できるようにすることを考え、鋭意研究を進める中で本発明に至っている。すなわち、本発明による軟磁性金属粉末は、質量%で、Siを0.5%以上10.0%以下、Crを1.5%以上8.0%以下、Snを0.05%以上3.0%以下、残部Fe及び不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0011】
かかる発明によれば、所定のFe−Si−Cr系合金に非磁性のSnを所定量だけ添加することで、得られる圧粉磁心における透磁率と耐食性を犠牲にすることなく、数100kHz以上の高周波側の動作周波数域におけるコアロスを低減でき、しかも、特に電源用途で要求される直流重畳特性を大幅に向上させ得るのである。
【0012】
また、本発明による圧粉磁心は、質量%で、Siを0.5%以上10.0%以下、Crを1.5%以上8.0%以下、Snを0.05%以上3.0%以下、残部Fe及び不可避的不純物からなる軟磁性金属粉末を加圧成形してなることを特徴としてもよい。
【0013】
かかる発明によれば、高い透磁率と耐食性を有しつつ、数100kHz以上の高周波側の動作周波数域におけるコアロスを低減でき、しかも、特に電源用途で要求される直流重畳特性にも優れる磁心を与えるのである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】軟磁性金属粉末及び圧粉磁心の製造方法を示す図である。
図2】軟磁性金属粉末の事前試験の結果を示す一覧である。
図3】圧粉磁心の評価試験結果を示す一覧である。
図4】圧粉磁心の評価試験結果を示す一覧である。
図5】圧粉磁心の評価試験結果を示す一覧である。
図6】評価試験に用いた圧粉磁心の斜視図である。
図7】軟磁性金属粉末のSEM写真である。
図8】圧粉磁心の鉄損に占める渦電流損の割合とSnの添加量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による圧粉磁心用の軟磁性金属粉末は、Fe−Si−Cr系合金に非磁性のSnを所定量だけ添加した合金であり、質量%で、Siを0.5%以上10.0%以下、Crを1.5%以上8.0%以下、Snを0.05%以上3.0%以下とした成分組成を有する。Fe−Si系合金に耐食性の向上のためにCrを所定量だけ添加するとともに、非磁性のSnを所定量だけ添加することで、より小さな平均粒径でより球形に近い軟磁性金属粉末を効率よく製造でき、且つ、軟磁性金属粉末の内部の結晶粒を細粒化させ得るのである。これにより、得られる圧粉磁心において、透磁率と耐食性を犠牲にすることなく、数100kHz以上の高周波側の動作周波数域において特に問題とされる渦電流損を抑制しコアロスの低減と直流重畳特性の向上とを与えるのである。
【0016】
以下に、本発明による1つの実施例である軟磁性金属粉末の製造方法及びかかる軟磁性金属粉末(以下においては、単に「金属粉末」と称する。)を用いた圧粉磁心の製造方法について図1を用いて説明する。
【0017】
図1(a)に示すように、後述する成分組成のFe−Si−Cr−Sn系合金からなる溶融金属3に水を吹き付けてアトマイズ化する水アトマイズ法により金属粉末1を製造した。なお、金属粉末1はその他の公知の方法にて製造することもできるが、特に、上記した水アトマイズ法によれば、平均粒径の比較的小さい球状のしかもその内部の結晶粒の細かい金属粉末1を安定して製造できる。
【0018】
次に、図1(b)に示すように、金属粉末1に絶縁樹脂2をバインダとして混合し、所定の形状の金型に充填し、プレスにて加圧成形する。ここで、金属粉末1は適宜、粒径を整えるべく分級したものを使用しても良い。なお、絶縁樹脂2としてシラン系、チタン系、アルミニウム系各種カップリング剤や、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ブチラール樹脂などの樹脂の、各単体又は複数を混合したものを用いることができる。続いて、金型から取り出した成形体を熱処理し樹脂2を硬化させると、圧粉磁心10を得ることができる。なお、プレスにて加圧成形する方法に変えて、射出成形機により射出成形する(トランスファ成形を含む)方法、ポッティング等の注型成形法、印刷による成形法により複合磁性体(磁心)を製造することもできる。
【0019】
続いて、上記した製造方法で成分組成を変えた金属粉末を製造するとともに、圧粉磁心を製造し、各種試験を行った結果について説明する。
【0020】
[事前試験]
得られる金属粉末の粒径に対するSnの影響を確認すべく、水アトマイズ法によりSn量を変えた金属粉末を製造し、その平均粒径D50を測定した。これらについては、図2にまとめた。なお、成分組成について、比較例1aは後述する比較例1と、実施例1aは後述する実施例1と対応するため、便宜的に比較例1a、1b及び実施例1a〜5aを表中で用いている。また、成分組成は、アトマイズ化する合金と得られる金属粉末とで同一である。
【0021】
(1)試験方法
図2に示す各成分組成のFe−Si−Cr−Sn系合金を用意し、水アトマイズ法により金属粉末を製造した。得られた金属粉末について、その平均粒径D50をレーザー回折式粒度分布測定装置により計測した。
【0022】
(2)試験結果
図2に示すように、平均粒径D50は、成分組成中のSnの量の増加とともに小さくなる傾向にあった。詳細には、Snを含まない比較例1aでは平均粒径D50が15.7μmで最大となり、Snの量を4wt%とした比較例2aでは平均粒径D50が11.8μmで最小となった。Snの量が実施例1a〜7aと順次多くなるにつれ、平均粒径D50は小さくなった。つまり、金属粉末を分級して所定の平均粒径の金属粉末を得ようとすれば、成分組成中のSnの量が多いほど、平均粒径D50の小さな金属粉末の歩留まりが高くなる。
【0023】
[評価試験]
次に、磁気特性に対する成分組成の影響を確認すべく、成分組成を変えた溶融金属3から水アトマイズ法により金属粉末を製造し、分級後、粒径を整えた金属粉末(一部については、分級を行っていないがこれについては後述する。)を用いてコア(圧粉磁心)を製造し、各種評価試験を行った。これらについて、図3乃至5にまとめた。
【0024】
(1)金属粉末の製造
図3乃至5に示す各成分組成の合金を用意し、水アトマイズ法により金属粉末を製造した。実施例22及び23(図5参照)を除いて、得られた金属粉末については20μmの篩(ふるい)にて分級した。図中にも示したように、レーザー回折式粒度分布測定装置により平均粒径D50を計測したところ、実施例22及び23を除いて、平均粒径D50を10〜12μm程度に整えることが出来た。なお、実施例22及び23では、水アトマイズ法における噴霧圧などの製造条件を変更して平均粒径D50の比較的大きな金属粉末を製造し使用している。
【0025】
(2)試験用コア(圧粉磁心)の製造
各金属粉末を図6に示す外径φ19mm、内径φ13mm、厚さ4.8mmのリング状のトロイダルコア10に加工した。すなわち、100質量部の金属粉末に対し2.5質量部のエポキシ樹脂をバインダーとして添加し、所定の金属粉末を混合分散させて金型に充填し、面圧で6ton/cmを与えて圧縮成形した。成形体を大気中で170℃、1時間保持して、エポキシ樹脂を硬化させてコア10を得た。
【0026】
(3)磁気特性の測定
コア10の初透磁率、直流印加磁界、鉄損(コアロス)について、以下の各測定を行った。
【0027】
初透磁率は、コア10に160ターンの巻線を与えて、アジレントテクノロジー社製のLCRメータ(4284A)を用いて、周波数1MHz、0.5mAで測定した。また、直流印加磁界は、コア10に160ターンの巻線を与えて、同LCRメータを用い、周波数10kHzの電流を印加しつつ直流磁界を重畳印加し、初透磁率が20%低下したところの直流磁界の値を測定した。
【0028】
鉄損は、コア10の1次側に40ターンの巻き線、2次側に8ターンの巻線をそれぞれ与えて、岩通計測株式会社製のB−Hアナライザ(SY−8258)を用いて、磁束密度0.05T、周波数500kHzの条件で測定した。また、鉄損からそれぞれヒステリシス損を減じて渦電流損を算出し、鉄損に占める渦電流損の割合を求めた(図8参照)。
【0029】
ヒステリシス損は、上記したと同様のB−Hアナライザにより磁束密度を固定し、周波数を変化させながら各周波数での鉄損を測定して算出した。すなわち、各周波数での鉄損の測定値を該周波数で除算し、周波数に対してグラフを作成する。周波数0kHzまで外挿した切片の値をヒステリシス損失係数とする。更に、ヒステリシス損失係数に周波数を乗じて各周波数でのヒステリシス損を算出した。
【0030】
(4)耐食性の評価
耐食性は、コア10を温度85℃、相対湿度85%に維持された恒温恒湿槽中に500時間放置し、その表面の変色の有無を目視で観察することで評価した。
【0031】
(5)試験結果
まず、Snの量を変化させた金属粉末から得られたコアの磁気特性及び耐食性の結果について説明する。
【0032】
図3に示すように、初透磁率は、成分組成中のSnの量の増加とともに小さくなる傾向にあった。詳細には、Snを含まない比較例1では34、Snの量を0.05wt%とした実施例1では34、Snの量を0.2wt%とした実施例2では35と同等となり、Snの量を実施例3〜7と順次多くするにつれ小さくなって、Snの量を4wt%とした比較例2では21と最小になった。つまり、非磁性のSnを添加していくにつれ、初透磁率は低下する。
【0033】
直流印加磁界は、成分組成中のSnの量の増加とともに大きくなる傾向にあった。詳細には、Snを含まない比較例1及びSnの量を0.05wt%とした実施例1では86Oe、Snの量を0.2wt%とした実施例1では84Oeと同等となり、Snの量を実施例3〜7と順次多くするにつれ大きくなって、Snの量を4wt%とした比較例2では直流印加磁界が118Oeで最大となった。つまり、Snを添加していくことで直流重畳特性を向上させ得る。
【0034】
鉄損は、成分組成中のSnの量の増加とともに小さくなる傾向にあった。詳細には、Snを含まない比較例1では7419kW/mで最大となり、Snの量を4wt%とした比較例2では6676kW/mで最小となった。Snの量を実施例1〜7と多くするにつれ鉄損が小さくなった。つまり、Snを添加していくことで鉄損を低減させることができる。
【0035】
ここで、図7(a)には、成分組成中にSnを含まない金属粉末の平均的な粒子(比較例1)を示した。また、図7(b)には、Snを1wt%含む金属粉末の平均的な粒子(実施例5)を示した。比較例1の粒子はいびつな形状を有しているが、実施例5の粒子ではより球形に近い形状を有している。Snを成分組成中に含むことにより、アトマイズ時の溶融金属3の溶湯の粘性が低下し、より球形の粒子になったと考えられる。更に、実施例5の粒子では、比較例1の粒子よりも細かい内部結晶粒を有している。図8を併せて参照すると、比較例1、実施例1〜5の金属粉末1から得たコア10について、Snを成分組成中に含むことにより、鉄損に占める渦電流損の割合が急激に小さくなり、含有量とともにこの割合が更に小さくなる傾向にある。この傾向は50kHzに比べて500kHzの高周波側で顕著になる。
【0036】
再び図3を参照すると、耐食性についてはSnを含まない比較例1では変色が観察されたが、Snの量を0.05%以上とした実施例1〜7、比較例2では変色は観察されなかった。すなわち、Snの添加により耐食性が向上した。
【0037】
上記した結果によれば、非磁性のSnを透磁率などの磁気特性を犠牲にしない範囲で添加して、金属粉末の結晶粒を微細化でき、得られる圧粉磁心において、特に500kHz以上の高周波側で渦電流損と鉄損の低下を与え得るとともに耐食性を向上させ得る。すなわち、このような圧粉磁心は、特に、500kHz以上の高周波用の磁性部品への使用に適する。また、Snの添加で金属粉末の形状をより球形に近くできて直流重畳特性を向上させ得る。すなわち、得られる圧粉磁心を電源用途としてコンバータ回路などに使用したときに、高い電流値までインダクタンスの低下を抑制できて、高い変換効率を維持できる。
【0038】
次に、Si及びCrの量を変化させた金属粉末から得られたコア10の磁気特性及び耐食性について説明する。
【0039】
まず、Siの量について、図4(a)に示すように、初透磁率は、Siの量を0.5〜10wt%とした実施例5及び実施例8〜15では28〜34と比較的高かったのに対し、Siを含まない比較例3では27、Siの量を11wt%とした比較例4では26とどちらも比較的低かった。つまり、Siの量には、初透磁率を最適化する成分範囲がある。また、直流印加磁界は、Siを含まない比較例3で147Oeと最大になり、実施例8〜12、5、13〜15とSiの量を多くするにともなって小さくなり、Siの量を11wt%とした比較例4では72Oeと最小になった。つまり、Siの量を多くするにつれ、直流印加磁界が小さくなる傾向にある。さらに、鉄損は、Siを含まない比較例3では15231kW/mと最大になり、実施例8〜12、5、13〜15とSiの量を多くするにつれ、小さくなってSiの量を11wt%とした比較例4では3498kW/mと最小になった。つまり、Siの量を多くするにつれ、鉄損が小さくなる傾向にある。
【0040】
また、Crの量について、図4(b)に示すように、初透磁率は、Crの量を1wt%とした比較例5では34と最大になり、実施例16〜18、5、19〜21とCrの量を多くするにともなって小さくなり、Crの量を9wt%とした比較例6では24と最小になった。つまり、成分組成中のCrの量を多くするにともなって初透磁率は小さくなる傾向にある。また、直流印加磁界は、Crの量を1wt%とした比較例5では116Oeと最大になり、実施例16〜18、5、19〜21とCrの量を多くするにともなって小さくなり、Crの量を9wt%とした比較例6では94Oeと最小になった。つまり、Crの量を多くするにつれ、直流印加磁界は小さくなった。さらに、鉄損は、Crの量を1wt%とした比較例5では5744kW/mと最小になり、実施例16〜18、5、19〜21とCrの量を多くするにともなって大きくなり、9wt%とした比較例6では7627kW/mと最大になった。つまり、Crの量を多くするにつれ、鉄損が大きくなる傾向にある。また、耐食性について、Crの量を1wt%とした比較例5では変色が観察されたが、Crの量を1.5〜9wt%とした実施例5、実施例16〜21、比較例6では、変色が観察されなかった。
【0041】
更に、図5に示すように、直流印加磁界は、Snの量を1wt%とした実施例14では89Oeであったのに対し、Snを含まない比較例7では73Oeと小さくなった。成分組成中のSiの量を8wt%と増やした場合でも、Snの添加で直流重畳特性を向上させ得る。また、実施例14に対して平均粒径D50を25.4μm及び37.9μmと大きくした実施例22及び23では、初透磁率がそれぞれ34及び37と大きくなり、直流印加磁界はそれぞれ82Oe及び80Oeと小さくなったものの比較的大きな値であった。一方、鉄損はそれぞれ4930kW/m及び6122kW/mと大きくなったものの比較的小さな値であった。すなわち、金属粉末の平均粒径を大きくしても、Snの添加により金属粉末の形状を球形に近くして結晶粒を小さくすることができたためと考えられる。また、Siの含有量を6.5wt%、Crの含有量を5wt%とした実施例20では、初透磁率が30と比較的大きく、直流印加磁界は88Oeと比較的大きく、鉄損は5719kW/mと比較的小さかった。
【0042】
上記した評価試験の結果に基づき、初透磁率、直流重畳特性の評価における直流印加磁界、鉄損のそれぞれについての目標値を定めた。すなわち、初透磁率は24以上、直流印加磁界は80Oe以上、鉄損は7400kW/m以下とすると、図3〜5において、磁気特性及び耐食性の総合判定として、磁気特性の目標値を全て満たし耐食性のあるものには「○」、それ以外には「×」を付した。
【0043】
ところで、本発明による金属粉末1を得るための溶融金属3の成分組成の範囲は、上記した評価試験の磁気特性及び耐食性を考慮して以下のように定められる。
【0044】
Siは、その含有量を多くし過ぎても少なくし過ぎても、得られる圧粉磁心等の複合磁性体の透磁率を低下させ、その含有量を少なくし過ぎると鉄損をも増大させてしまう。また、その含有量を多くし過ぎると直流重畳特性をも低下させてしまう。そこで、質量%で、Siは0.5〜10.0%の範囲内であり、好ましくは1.0〜8.0%の範囲内である。
【0045】
Crは、粉末及び得られる複合磁性体に耐食性を付与する一方で、非磁性であることから、過剰となると得られる複合磁性体の透磁率を低下させ、鉄損を増大させてしまう。そこで、質量%で、Crは1.5〜8.0%の範囲内であり、好ましくは2.0〜6.0%の範囲内である。
【0046】
Snは、非磁性であり、その含有量を多くし過ぎると得られる複合磁性体の透磁率を低下させる。一方で、本発明の効果を与えて複合磁性体の鉄損を増大させないようにするためには、一定以上を添加する必要がある。そこで、質量%で、Snは0.05〜3.0%の範囲内であり、好ましくは0.20〜2.0%の範囲内である。
【0047】
なお、不可避的不純物については、上記した磁気特性及び耐食性を損なわない範囲で許容され得るが、具体的には質量%で、C:0.04%以下、Mn:0.3%以下、P:0.06%以下、S:0.06%以下、N:0.06%以下、Cu:0.05%以下、Mo:0.05%以下、Ni:0.1%以下、O(酸素):1%以下である。
【0048】
ここまで本発明による代表的実施例について説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるだろう。
【符号の説明】
【0049】
1 軟磁性金属粉末
10 コア(圧粉磁心)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8