【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の構成からなる充填材料の製造方法である。
<1>
地下空間ないし地下坑道の充填に用いる材料(この材料を充填材料と云う)の製造方法であって、鉱山廃水の中和処理によって発生した沈殿物(この沈殿物を中和沈殿物と云う)、セメント、建設残土、および水を配合してなり、混練から所定時間経過後の流動性(JHフロー)と材齢28日での一軸圧縮強度(硬化体強度)の目標値を満足する充填材料について、以下の式〔1〕および式〔2〕および式〔3〕に従って上記各材料の単位量を決定し、決定した単位量に基づいて上記各材料を配合して充填材料を製造する方法。
W=α×JH+β×ω
L−γ×s+δ ・・・〔1〕
ただし、ω
L=〔P×pl/100×ω
Lp/100〕+〔B×cl/100×ω
Lcl/100〕
α,β,γ,δ:実験定数
W:単位水量(kg/m
3)
JH:混練から所定時間経過後のJHフロー値(mm)
P :中和沈殿物量(kg/m
3)
pl:中和沈殿物中の75μm未満部分(質量%)
ω
Lp:中和沈殿物の液性限界時の含水比(質量%)
B :建設残土量(kg/m
3)
cl:建設残土中の75μm未満部分(質量%)
s :中和沈殿物および建設残土中の75μm以上部分(kg/m
3)
ω
Lcl:建設残土の液性限界時の含水比(質量%)
σ
28=n×C/W+m ・・・〔2〕
ただし、σ
28:28日材齢時の硬化体強度(N/mm
2)
n、m:配合試験に基づく定数
C:単位セメント量(kg/m
3)
P
V+C
V+B
V+W=1000・・・〔3〕
ただし、P
V:中和沈殿物容量(L/m
3)
C
V:セメント容量(L/m
3)
B
V:建設残土容量(L/m
3)
<2>
単位水量と細粒分容量に基づき、以下の式〔4〕に従って、
ブリーディング率5%以下の材料分離抵抗性を判断する上記[1]に記載する充填材料の製造方法。
単位水量/細粒分容量<8 ・・・〔4〕
(細粒分容量はセメントと中和沈殿物および建設残土の細粒分容量の合量)
<3>
細粒分容量に基づき、以下の式〔5〕に従って、
透水係数1×10−5cm/s以下の遮水性を判断する上記[1]または上記[2]に記載する充填材料の製造方法。
細粒分容量>100L/m
3 ・・・〔5〕
(細粒分容量はセメントと中和沈殿物および建設残土の細粒分容量の合量)
【0008】
本発明の充填材料の製造方法は以下の態様を含む。
<2>
単位水量と細粒分容量に基づき以下の式〔4〕に従って材料分離抵抗性(ブリーディング率5%以下)を判断する上記<1>に記載する充填材料の製造方法。
単位水量/細粒分容量<8 ・・・〔4〕
(細粒分容量はセメントと中和沈殿物および建設残土の細粒分容量の合量)
<3>
細粒分容量に基づき以下の式〔5〕に従って遮水性(透水係数1×10
-5cm/s以下)を判断する上記<1>または上記<2>に記載する充填材料の製造方法。
細粒分容量>100L/m
3 ・・・〔5〕
(細粒分容量はセメントと中和沈殿物および建設残土の細粒分容量の合量)
【0009】
〔具体的な説明〕
以下、本発明を具体的に説明する。なお、単位固有の場合を除き、量は質量(水を除き乾燥質量)、%は質量基準である。
【0010】
一般に、粒状物質と水からなるスラリーの流動性は以下のように変化する。ここで、細粒分は粒子径75μm未満の粒子、粗粒分は粒子径75μm以上の粒子である。
(イ)スラリーの流動性は、スラリーの単位水量Wが増加すると高くなり、この単位水量Wが減少すると低下する。
(ロ)粒状物質と水の量比が一定のとき、スラリーの流動性は粒状物質の粒子径が小さいほど(単位量中の細粒分量が多いほど)低下する。
(ハ)セメントモルタルのようにセメント(細粒分)と砂(粗粒分)が混在する系では、水量が一定の場合、細粒分量と粗粒分量の比率が流動性を左右する。
【0011】
上記(ロ)において、細粒分が流動するために必要な水量が存在し、この水量は細粒分の液性限界時における含水量と細粒分量に基づいている。一般に液性限界は425μm未満の粒子を対象とした試験でその含水比が測定されるが、流動化に必要な水量の主体は細粒分が要求する水量であるので、これを(液性限界時の含水量)×(細粒分量)によって定める。
【0012】
セメント、中和沈殿物、建設残土、および水からなる充填材料では、細粒分は中和殿物と建設残土およびセメントに含有されており、ここでセメントは加水後に水和反応を伴い液性限界が不定であるので除外され、中和殿物と建設残土の細粒分の合計量とそれぞれの液性限界の含水量に基づいて細粒分に関する水量が定められる。
【0013】
上記(ハ)において、細粒分と粗粒分が混在する場合、粗粒分の比率が高いと流動しやすくなり、目的の流動性を得るための水量は少なくて済む。そこで、目的の流動性を得るための水量は粗粒分に基づく量を差し引いて定められる。この粗粒分量は中和殿物と建設残土の粗粒分の合計量である。
【0014】
本発明は上記検討に基づき、セメント、中和沈殿物、建設残土、および水を配合してなる充填材料において、混練から所定時間経過後の流動性(JHフロー)と各材料の単位量との関係を、以下の式〔1〕で表現できることを見出した。さらに、セメント水比と硬化体強度の関係式〔2〕および各材料の容積和が充填材料の単位容量になることを示す式〔3〕を用い、配合設計の与条件となる硬化体強度および中和沈殿物量の決定後、式〔1〕と式〔2〕および式〔3〕から、上記材料の配合を決定できることを見出した。
W=α×JH+β×ω
L−γ×s+δ ・・・〔1〕
ただし、ω
L=〔P×ω
Lp/100〕+〔B×cl/100×ω
Lcl/100〕
α,β,γ,δ:実験定数
W:単位水量(kg/m
3)
JH:混練から所定時間経過後のJHフロー値(mm)
P :中和沈殿物量(kg/m
3)
ω
Lp:中和沈殿物の液性限界時の含水比(質量%)
B :建設残土量(kg/m
3)
cl:建設残土中の75μm未満部分(質量%)
s :建設残土中の75μm以上部分(kg/m
3)
ω
Lcl:建設残土の液性限界時の含水比(質量%)
【0015】
σ
28=n×C/W+m ・・・〔2〕
ただし、σ
28:28日材齢時の硬化体強度(N/mm
2)
n、m:配合試験に基づく定数
C:単位セメント量(kg/m
3)
【0016】
P
V+C
V+B
V+W=1000・・・〔3〕
ただし、P
V:中和沈殿物容量(L/m
3)
C
V:セメント容量(L/m
3)
b
V:建設残土容量(L/m
3)
【0017】
上記式〔1〕において、一般に中和沈殿物に含まれる粗粒子は少ないので粗粒子部分は省略されている。中和沈殿物に粗粒子が含まれる場合には液性限界時の水量は細粒子を対象として算出し、中和沈殿物の粗粒子量を建設残土中の粗粒子量に加算する。この場合、液性限界時の水量は次式によって与えられる。また、式〔1〕のsは中和沈殿物および建設残土中の75μm以上部分の合計量(kg/m
3)になる。
ω
L=〔P×pl/100×ω
Lp/100〕+〔B×cl/100×ω
Lcl/100〕
pl:中和沈殿物中の75μm未満部分(質量%)
なお、式〔1〕による配合設計において、液性限界時の含水量、細粒子量、粗粒子量は、使用する中和沈殿物および建設残土について事前に測定される。
【0018】
充填材料の配合設計に先立ち、使用する中和沈殿物、セメント、建設残土および水について、事前の試験によって上記式〔1〕の実験定数α、β、γおよびδを定める。この事前の試験は、上記の実験定数が求められる範囲で実施すればよい。
【0019】
例えば、実施例1のデータに基づいて、混練後90分のフロー値との関係について以下の重回帰式が得られる(決定係数0.961)。
W=0.337×JH(90)+0.159×ω
L−0.222×s+667.982
【0020】
また、例えば、混練直後のフロー値について以下の重回帰式が得られる(決定係数0.962)。
W=0.296×JH(0)+0.274×ω
L−0.191×s+598.633
さらに、例えば、混練60分後のフロー値について以下の重回帰式が得られる(決定係数0.964)。
W=0.317×JH(60)+0.170×ω
L−0.219×s+658.308
【0021】
上記式〔2〕によって、単位水量Wと単位セメント量Cの比から28日材齢時の硬化体強度が示される。式〔2〕のn、mは配合試験に基づく定数である。実施例で使用する中和沈殿物A、Bについて、配合試験に基づく定数n、mは、例えば以下のとおりである。
(イ)中和沈殿物Aについて、中和沈殿物の単位量44kg/m
3におけるnは6.905、mは−0.453、単位量132kg/m
3におけるnは0.970、mは−0.055であり、式〔2〕は以下のとおりである。
σ
28=6.905×C/W−0.453
σ
28=0.970×C/W−0.055
(ロ)中和沈殿物Bについて、中和沈殿物の単位量45kg/m
3におけるnは4.610、mは−0.268、単位量135kg/m
3におけるnは0.470、mは−0.039であり、式〔2〕は以下のとおりである。
σ
28=4.610×C/W−0.268
σ
28=0.470×C/W−0.039
【0022】
ここで、中和沈殿物の性状は、その発生する鉱山などによって異なる。また、中和沈殿物の単位量によって強度発現が異なる。そのため、上記式〔2〕の配合試験による定数nとmは、配合設計の対象である中和沈殿物の単位量を加えた単位水量Wと単位セメント量Cの比を変えた事前の試験によって予め求める。
【0023】
上記式〔3〕によって充填材料における各材料の単位容量が示される。
【0024】
単位水量Wと細粒分容量Xに基づき以下の式〔4〕に従って
、ブリーディング率5%以下の材料分離抵抗性を判断することができる。W/Xが8以上では材料分離抵抗性が低くなり、ブリーディング率が5%超えるので、例えば、建設残土が細粒分を含む場合には建設残土量を増やして配合を補正し、またはセメント量を増やして配合を補正する。
単位水量W/細粒分容量X<8 ・・・〔4〕
(細粒分容量はセメントと中和沈殿物および建設残土の細粒分容量の合量)
【0025】
細粒分容量Xに基づき、以下の式〔5〕に従って、
透水係数1×10−5cm/s以下の遮水性を判断することができる。Xが100L/m
3より小さいと、遮水性が不十分になり、透水係数1×10
−5cm/sを越えるため、例えば、建設残土が細粒分を含む場合は建設残土量を増やして配合を補正し、またはセメント量を増やして配合を補正する。
細粒分容量X>100L/m
3 ・・・〔5〕
(細粒分容量はセメントと中和沈殿物および建設残土の細粒分容量の合量)
【0026】
事前の試験によって定めたα,β,γ,δ、およびn、mに基づき、式〔1〕および式〔2〕と式〔3〕に従って決定した配合によって、セメント、中和沈殿物、建設残土、および水を混合して充填材料を製造する。なお、所定のブリーディング率(材料分離抵抗性)や透水係数(遮水性)が定められる場合には、式〔4〕および式〔5〕を用いて配合を再検討し、建設残土に細粒分を含む場合には建設残土の単位量を、含まない場合にはセメントの単位量を設定し、式〔1〕および式〔2〕と式〔3〕に基づいて配合を再度決定する。
【0027】
本発明において、セメントは早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、セメント系固化材などを使用することができる。
【0028】
本発明において、中和沈殿物は鉱山の廃水を中和処理して発生した中和沈殿物を使用することができる。建設残土は建設工事などで発生するものをそのまま使用することができる。混練水は水道水、中和沈殿物の上澄み水などを好適に使用することができる。流動性の調整、凝結時間の調整または材料分離低減などのために、化学混和剤などの添加物を必要に応じて使用することができる。