(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
車輛用のステアリング装置のインターミディエートシャフトは、例えば雄軸と、筒状の雌軸とをスプラインの噛み合い(スプライン嵌合)等によって軸方向に伸縮可能に連結した伸縮軸によって構成される。スプラインを含む雄軸の外周面、または雌軸の内周面は、当該両軸間のクリアランスを埋めてガタ音を低減したり、ステアリング操作時のハンドルのガタを少なくしたりするために、樹脂被覆層で被覆される場合がある(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
樹脂被覆層の形成方法の一つとして、粉体流動浸漬法が知られている。粉体流動浸漬法は有機溶剤を使用しないため、環境に対する負荷が小さいという利点がある。
粉体流動浸漬法では、まず樹脂被覆層のもとになるベース樹脂(熱可塑性樹脂)を含む粉体塗料を用意し、当該粉体塗料を、流動槽内で、空気等を吹き込んで浮遊、流動させた状態とする。
【0004】
次いで浮遊、流動している粉体塗料中に、ベース樹脂の融点以上に加熱した雄軸、または雌軸を浸漬すると、粉体塗料が雄軸の外周面、あるいは雌軸の内周面(以下「被着面」と総称する場合がある。)に被着されるとともに溶融流展され、さらに冷却、固化されて樹脂被覆層が形成される。
粉体塗料→樹脂被覆層のもとになるベース樹脂としては、溶融時の流動性に優れる上、摺動特性等にも優れた樹脂被覆層を形成できるポリアミド11、ポリアミド12等が好適に使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、自動車の車室内に配設されていたインターミディエートシャフトを、例えば高温のエンジンルーム内などにも配設できることが求められつつあり、そのために樹脂被覆層を高耐熱化する必要が生じてきている。
そこで、例えば現状よりも耐熱性に優れる上、摩擦摩耗特性や摺動特性等にも優れたポリアミド610などを、ベース樹脂として用いることが検討されている。
【0007】
しかしポリアミド610は溶融時の粘度が高く、被着後のつきまわり性が低いためスムースに溶融流展されず、連続した樹脂被覆層を形成するのが容易でないという問題がある。
これを解決するために、例えば浮遊、流動している粉体塗料中に、加熱した雄軸、または雌軸を、例えば従来は1回のみ浸漬していたものを2回以上、繰り返して浸漬する等して粉体塗料の被着量を増加、すなわち粉体塗料を厚づけして、連続した樹脂被覆層を形成することが考えられる。
【0008】
しかしその場合には、樹脂被覆層内に真空ボイドが生じやすくなるという問題がある。
すなわち樹脂被覆層の表面は、形成後、外気と接することで急速に冷却されるのに対し、加熱された雄軸、または雌軸は温度が下がりにくいため、樹脂被覆層の内部は、被着面に近いほど高温の溶融状態が続くことになる。
そのため樹脂被覆層は、表面から順次、固化と、それに伴う収縮とが進行して、特に肉厚の部分の、被着面の界面付近に局部的に密度の小さい部位を生じ、当該部位の密度が限界を下回ると真空ボイドが発生する。
【0009】
厚づけした樹脂被覆層は冷却後、雄軸と雌軸の間のクリアランスに合わせてブローチ加工等して仕上げられるが、内部に真空ボイドが生じていると、それが研磨によって欠陥として露出して、樹脂被覆層の強度等を低下させる原因となる。
本発明の目的は、雄軸の外周面、または雌軸の内周面に、粉体塗料を用いた粉体流動浸漬法によって、真空ボイドのない連続した樹脂被覆層が形成された伸縮軸を製造できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、軸方向(X1)に摺動可能に連結された雄軸(21)、および筒状の雌軸(22)を備え、当該雄軸の外周面(21a)、または雌軸の内周面(22a)が、樹脂被覆層(27)によって被覆された伸縮軸(5)の製造方法であって、
流動浸漬法により、あらかじめ加熱した雄軸の外周面、または雌軸の内周面に粉体塗料を付着させて樹脂被覆層を形成する被覆工程、
形成した樹脂被覆層の冷却が完了する前に、当該樹脂被覆層をブローチ(28)加工によって薄肉化するブローチ加工工程、および
薄肉化した樹脂被覆層を冷却する冷却工程、
を含む伸縮軸の製造方法である(請求項1)。
【0011】
本発明によれば、被覆工程で被着面に形成した樹脂被覆層を、続くブローチ加工工程において、その冷却が完了する前にブローチ加工して厚みを十分に減じたのち、冷却工程において冷却しているため、肉厚のまま冷却して冷却完了後にブローチ加工する従来技術に比べて、冷却工程において樹脂被覆層内に生じる厚み方向の温度差を極力小さくして、真空ボイドの発生を抑制できる。
【0012】
そのため被覆工程において、例えばポリアミド610等の、溶融時の粘度が高く、被着後のつきまわり性が低いためスムースに溶融流展されないベース樹脂を含む粉体塗料を厚づけする場合でも、その後のブローチ加工工程、および冷却工程を経ることで、被着面に、所定の厚みを有し、なおかつ真空ボイドのない連続した樹脂被覆層が形成された伸縮軸を製造することが可能となる。
【0013】
また樹脂被覆層を、ブローチ加工工程で薄肉化後に冷却しているため、かかる樹脂被覆層、ならびに当該樹脂被覆層で被覆された雄軸または雌軸の冷却温度を、従来技術に比べて短縮して、伸縮軸の生産性を向上できるという利点もある。
なおブローチ加工工程では、粉体塗料に含まれるベース樹脂の融点−30℃以上、融点以下の温度で樹脂被覆層をブローチ加工するのが好ましい(請求項2)。
【0014】
先に説明したように、加熱された雄軸は温度が下がりにくいため、融点−30℃を下回る温度になったあとでブローチ加工をしても、それまでに、ブローチ加工前の肉厚の樹脂被覆層内で厚み方向の温度差が大きくなって真空ボイドが発生するおそれがある。
また、温度が下がるほどベース樹脂の弾性率が上昇し、それに比例してブローチ加工におけるブローチ加工荷重が上昇する傾向がある。
【0015】
そのため、特にベース樹脂の融点−30℃を下回る温度になったあとでブローチ加工をした場合には、ブローチ加工荷重が大幅に上昇して、ブローチ加工の作業性が低下したり、すでに硬化した樹脂被覆層が、過大な荷重によって雄軸から剥離しやすくなったりするおそれもある。
一方、融点を超える温度では樹脂被覆層の固化がほとんど始まっていないため、ブローチ加工できないおそれがある。
【0016】
また被覆工程では、厚み100μm以上、1.5mm以下の樹脂被覆層を形成するのが好ましい(請求項3)。
被覆工程で形成したブローチ加工前の樹脂被覆層の厚みが100μm未満では、特にポリアミド610等の、溶融時の粘度が高く、被着後のつきまわり性が低いためスムースに溶融流展されないベース樹脂を含む粉体塗料を使用した際に、連続した樹脂被覆層を形成できないおそれがある。
【0017】
また、冷却による樹脂被覆層の収縮率や、雄軸と雌軸の間のクリアランスなどにもよるが、ブローチ加工工程→冷却工程を経て形成される樹脂被覆層の厚みが小さくなりすぎて、上記クリアランスを十分に埋めることができずにガタを生じやすくなったりするおそれもある。
一方、厚みが1.5mmを超える場合には、ブローチ加工前の肉厚の樹脂被覆層内で厚み方向の温度差が大きくなって真空ボイドが発生するおそれがある。
【0018】
なおこの項において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、伸縮軸としてのインターミディエートシャフトを組み込んだ、電動パワーステアリング装置の一例の概略図である。
図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、ハンドル2と一体回転可能に連結されたステアリングシャフト3、ステアリングシャフト3に自在継手4を介して連結されたインターミディエートシャフト5、インターミディエートシャフト5に自在継手6を介して連結されたピニオンシャフト7、およびピニオンシャフト7に設けられたピニオン歯7aに噛み合うラック歯8aを有して、自動車の左右方向に延びる転舵軸としてのラックバー8を備えている。
【0021】
ピニオンシャフト7およびラックバー8により、ラックアンドピニオン機構からなる操舵機構9が構成されている。
ラックバー8は、車体に固定されるラックハウジング10内に、図示しない複数の軸受を介して直線往復動自在に支持されている。ラックバー8の両端部はラックハウジング10の両側へ突出し、各端部にはそれぞれタイロッド11が結合されている。
【0022】
各タイロッド11は、図示しないナックルアームを介して対応する操向輪12に連結されている。
ハンドル2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、その回転が、ピニオン歯7aおよびラック歯8aによって自動車の左右方向に沿うラックバー8の直線運動に変換されて操向輪12の転舵が達成される。
【0023】
ステアリングシャフト3は、ハンドル2に連なる入力軸3aと、ピニオンシャフト7に連なる出力軸3bとに分割されており、両軸3a、3bはトーションバー13を介して同一の軸線上で相対回転可能に互いに連結されている。
またトーションバー13には、両軸3a、3b間の相対回転変位量から操舵トルクを検出するためのトルクセンサ14が設けられており、トルクセンサ14のトルク検出結果がECU(Electric Control Unit:電子制御ユニット)15に与えられる。
【0024】
ECU15では、トルク検出結果や、図示しない車速センサから与えられる車速検出結果等に基づいて、駆動回路16を介して操舵補助用の電動モータ17を駆動制御する。そして電動モータ17の出力回転が、減速機18を介して減速されてピニオンシャフト7に伝達され、ラックバー8の直線運動に変換されて操舵が補助される。
減速機18は、電動モータ17により回転駆動される入力軸としての小歯車19と、小歯車19に噛み合うとともにステアリングシャフト3の出力軸3bに一体回転可能に連結される大歯車20とを備えている。
【0025】
図2は、インターミディエートシャフトの要部の断面図である。
図1、
図2を参照して、インターミディエートシャフト5は、例えばロアーシャフトである雄軸21と、例えばアッパーシャフトである筒状の雌軸22とを備えている。
雌軸22の上端は、自在継手4のヨーク4aに連結されており、雄軸21の下端は、自在継手6のヨーク6aに連結されている。
【0026】
雌軸22は、開放端である第一端部23および閉塞端である第二端部24を有している。第二端部24は自在継手4のヨーク4aの端部に連結され、閉塞されている。
雄軸21は、第一端部23側から雌軸22内に挿入されて、軸方向X1に摺動可能に連結されている。具体的には、雄軸21、および雌軸22がスプライン嵌合されている。
図3は、
図2のIII−III線に沿う断面図である。また
図4は、
図2のIV−IV線に沿う断面図である。
【0027】
図2、
図3を参照して、雄軸21の外周面21aは、軸方向X1に平行な雄スプライン25を有している。また
図2、
図4を参照して、雌軸22の内周面22aは、軸方向X1に平行で、かつ雄スプライン25と噛み合う雌スプライン26を有している。
雄スプライン25と雌スプライン26の噛み合い、すなわちスプライン嵌合により、雄軸21と雌軸22は、軸方向X1に相対摺動可能でかつ同伴回転可能とされている。
【0028】
図3を参照して、雄スプライン25を含む雄軸21の外周面21aは、樹脂被覆層27によって被覆されている。
かかる樹脂被覆層27を設けることにより、雄軸21と雌軸22の間に所定の摺動抵抗を付与するとともに、当該両軸21、22間のクリアランスを埋めてガタ音を低減したり、ステアリング操作時のハンドル2のガタつきを少なくしたりできる。
【0029】
上記の、雄スプライン25を含む雄軸21の外周面21aが樹脂被覆層27によって被覆された、伸縮軸としてのインターミディエートシャフト5は、先に説明したように被覆工程、ブローチ加工工程、および冷却工程を経る本発明の製造方法によって製造することができる。
図5は、本発明の製造方法の一例の各工程を説明する図であって、図(a)は、被覆工程で樹脂被覆層を形成した状態を示す断面図、図(b)は、上記樹脂被覆層を、ブローチ加工工程においてブローチ加工している状態を示す断面図である。
【0030】
まず被覆工程では、樹脂被覆層27のもとになる粉体塗料を、流動槽内で、空気等を吹き込んで浮遊、流動させた状態とし、次いで浮遊、流動している粉体塗料中に、当該粉体塗料に含まれるベース樹脂の融点以上に加熱した雄軸21を浸漬する。
そうすると粉体塗料が雄軸21の外周面21aに被着されるとともに溶融流展されて樹脂被覆層27が形成される(
図5(a)参照)。
【0031】
この段階では、
図5(a)に示したように粉体塗料を厚づけして、できるだけ連続した樹脂被覆層27を形成するようにするのが好ましい。これにより、例えばポリアミド610等の、溶融時の粘度が高く、被着後のつきまわり性が低いためスムースに溶融流展されないベース樹脂を含む粉体塗料を使用した場合でも、外周面21aに、連続した樹脂被覆層27を形成できる。
【0032】
なおベース樹脂としては、上記ポリアミド610の他、ポリアミド612、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、非晶ポリアリレート(PAR)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリイミド、ポリエーテルイミド(PEI)、液晶ポリマー(LCP)、フッ素樹脂等のエンジニアリングプラスチック〜スーパーエンジニアリングプラスチックなどの、粉体塗装用粉体塗料として使用可能な種々の熱可塑性樹脂がいずれも使用可能である。
【0033】
特に先に説明したように、例えばエンジンルームでの使用に耐えうる高い耐熱性を有する樹脂被覆層27を得ることを考慮すると、ベース樹脂としてはポリアミド610が好ましい。
被覆工程での樹脂被覆層27の厚みは特に限定されないが、雄スプライン25間の歯溝25a内の厚みtが100μm以上であるのが好ましく、1.5mm以下であるのが好ましい。
【0034】
被覆工程で形成したブローチ加工前の樹脂被覆層27の厚みtがこの範囲未満では、特にポリアミド610等の、溶融時の粘度が高く、被着後のつきまわり性が低いためスムースに溶融流展されないベース樹脂を含む粉体塗料を使用した際に、歯溝25a内から雄スプライン25の歯先25bまで連続した樹脂被覆層27を形成できないおそれがある。
また、冷却による樹脂被覆層27の収縮率や、雄軸21と雌軸22の間に設定されるクリアランスなどにもよるが、ブローチ加工工程→冷却工程を経て形成される樹脂被覆層の厚みが小さくなりすぎて、上記クリアランスを十分に埋めることができずにガタを生じやすくなったりするおそれもある。
【0035】
一方、厚みtが上記の範囲を超える場合には、ブローチ加工前の肉厚の樹脂被覆層27内、特に歯溝25a内の樹脂被覆層27内で、厚み方向の温度差が大きくなって真空ボイドが発生するおそれがある。
これに対し、厚みtを上記の範囲とすることで、雄軸21と雌軸22の間に設定されるクリアランスを埋めるのに適した厚みを有し、しかも歯溝25a内から雄スプライン25の歯先25bまで連続した樹脂被覆層27を、真空ボイドを生じることなしに、効率よく形成できる。
【0036】
次にブローチ加工工程では、形成した樹脂被覆層27の冷却が完了する前に、当該樹脂被覆層27をブローチ加工によって薄肉化する。
具体的には、例えば
図5(b)を参照して、あらかじめ用意したブローチ28内に、先の被覆工程で形成した樹脂被覆層27の冷却が完了する前の雄軸21を通過させることにより、樹脂被覆層27をブローチ加工して薄肉化する。
【0037】
ブローチ28としては、筒状の内周面28aに、その断面形状が雌軸22の雌スプライン26と類似した、雄軸21の雄スプライン25間の歯溝25aに嵌り合う平行な複数の歯29を有するとともに、当該歯29が、雄スプライン25との間に、ブローチ加工後でかつ冷却前の樹脂被覆層27の厚み分のクリアランスを隔てうる断面形状、および寸法に形成されたものを用いる。
【0038】
そして、雄軸21とブローチ28の中心軸を一致させ、かつ雄軸21の歯溝25aとブローチ28の歯29の位相を一致させた状態で、当該ブローチ28内に雄軸21を通過させることにより、樹脂被覆層27がブローチ加工されて薄肉化される。
本発明によれば、被覆工程で形成後、冷却が完了する前の樹脂被覆層を、かかるブローチ加工工程を経て厚みを十分に減じた状態で、次の冷却工程で冷却できるため、肉厚のまま冷却して冷却完了後にブローチ加工する従来技術に比べて、冷却工程で樹脂被覆層27内に生じる厚み方向の温度差を極力小さくして、真空ボイドの発生を抑制できる。
【0039】
また樹脂被覆層27を、ブローチ加工工程で薄肉化後に冷却しているため、かかる樹脂被覆層27、ならびに当該樹脂被覆層27で被覆された雄軸21の冷却温度を、従来技術に比べて短縮して、伸縮軸としてのインターミディエートシャフト5の生産性を向上できるという利点もある。
ブローチ加工を実施するタイミングは、上記のように被覆工程で形成した樹脂被覆層27の冷却が完了する前であればよい。しかし粉体塗料に含まれるベース樹脂の融点−30℃以上、融点以下の温度で樹脂被覆層27をブローチ加工するのが好ましい。
【0040】
例えばベース樹脂として、融点220℃のポリアミド610を使用する場合は、190℃以上、220℃以下の範囲でブローチ加工するのが好ましい。
図6は、被覆工程において形成した樹脂被覆層の温度(℃)の、被覆直後からの時間経過による変化の一例を示すグラフである。また
図7は、ベース樹脂の弾性率(MPa)と、樹脂被覆層のブローチ加工荷重(N)との関係の一例を示すグラフである。
【0041】
図6を参照して、被覆工程において雄軸21の外周面21aに形成した樹脂被覆層27は、当該雄軸21を流動槽から引き出した時点(
図6の0分の時点)以降、徐々にその温度が低下する。
しかし、先に説明したように加熱された雄軸21は温度が下がりにくいため、ベース樹脂の融点−30℃を下回る温度になったあとでブローチ加工をしても、それまでに、ブローチ加工前の肉厚の樹脂被覆層27内で厚み方向の温度差が大きくなって真空ボイドが発生するおそれがある。
【0042】
また
図7を参照して、ベース樹脂の温度が下がるほど弾性率(MPa)が上昇し、それに比例して樹脂被覆層27のブローチ加工荷重(N)が上昇する傾向がある。
そのため、特にベース樹脂の融点−30℃を下回る温度になったあとでブローチ加工をした場合には、ブローチ加工荷重(N)が大幅に上昇して、ブローチ加工の作業性が低下したり、すでに硬化した樹脂被覆層27が、過大な荷重によって雄軸21から剥離しやすくなったりするおそれもある。
【0043】
一方、融点を超える温度では樹脂被覆層27の固化がほとんど始まっていないため、ブローチ加工できないおそれがある。
樹脂被覆層27は、ある程度の固化が始まって以降にブローチ加工するのが、ブローチ加工の作業性を向上する上で好ましく、そのためには、ベース樹脂の融点以下、中でも融点−5℃以下、特に融点−10℃以下の温度でブローチ加工をするのが好ましい。
【0044】
次いで冷却工程で、薄肉化した樹脂被覆層27を、雄軸21ごと常温まで冷却したあと、雌軸22と組み合わせることにより、
図1、
図2に示す、伸縮軸としてのインターミディエートシャフト5を製造することができる。
なお樹脂被覆層27は、雄軸21の外周面21aではなく、雌軸22の内周面22aに形成してもよい。ただし両方に被覆層を形成する必要はない。
【0045】
伸縮軸がインターミディエートシャフト5として組み込まれるステアリング装置は、
図1に示すコラム式の電動パワーステアリング装置には限定されず、他の方式のパワーステアリング装置や、操舵補助機能を有しない通常のステアリング装置であってもよい。
伸縮軸を、例えばステアリング装置において衝撃吸収ストロークを確保するための伸縮可能シャフト等に適用してもよい。
【0046】
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を施すことができる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例、比較例に基づいて本発明をさらに説明するが、本発明の構成はかかる実施例、比較例に限定されるものではない。
〈実施例1〉
(被覆工程)
ベース樹脂としてポリアミド610(融点220℃)を含む粉体塗料を用いて、粉体流動浸漬法により、
図1〜
図4に示す雄軸21の、雄スプライン25を含む外周面21aに、樹脂被覆層27を形成した〔
図5(a)〕。
【0048】
条件は、雄軸21の温度:250℃とし、樹脂被覆層27の、雄スプライン25間の歯溝25a内の厚みtは1mmとした。
(ブローチ加工工程)
上記樹脂被覆層27の冷却が完了する前、その温度が190〜220℃の範囲にあるとき、ブローチ28を用いてブローチ加工して、樹脂被覆層27を、上記雄スプライン25間の歯溝25a内の厚みtが約300μmとなるように薄肉化した〔
図5(b)〕。
【0049】
(冷却工程)
ブローチ加工後の樹脂被覆層27を、雄軸21ごと常温まで冷却して、雄スプライン25を含む雄軸21の外周面21aが樹脂被覆層27によって被覆された雄軸21を作製した。
〈比較例1〉
被覆工程後の樹脂被覆層を、雄軸21ごと常温まで冷却したのち、ブローチ加工したこと以外は実施例1と同様にして、雄スプライン25を含む雄軸21の外周面21aが樹脂被覆層27によって被覆された雄軸21を作製した。
【0050】
〈断面観察〉
実施例1、比較例1で作製した雄軸21を、樹脂被覆層ごとカットして断面を顕微鏡で観察したところ、比較例1は、
図8に示すように樹脂被覆層内に真空ボイドが発生しているのが確認された。これに対し実施例1は、
図9に示すように樹脂被覆層内に真空ボイドは見られなかった。
【0051】
以上の結果から、被覆工程後、形成した樹脂被覆層の冷却が完了する前にブローチ加工工程を実施する本発明の製造によれば、雄軸の外周面に、粉体流動浸漬法によって、真空ボイドのない連続した樹脂被覆層を形成できることが確認された。