特許第6191906号(P6191906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大同特殊鋼株式会社の特許一覧

特許6191906耐摩耗性及びピッチング強度に優れた歯車を形成するためのショットピーニング方法
<>
  • 特許6191906-耐摩耗性及びピッチング強度に優れた歯車を形成するためのショットピーニング方法 図000004
  • 特許6191906-耐摩耗性及びピッチング強度に優れた歯車を形成するためのショットピーニング方法 図000005
  • 特許6191906-耐摩耗性及びピッチング強度に優れた歯車を形成するためのショットピーニング方法 図000006
  • 特許6191906-耐摩耗性及びピッチング強度に優れた歯車を形成するためのショットピーニング方法 図000007
  • 特許6191906-耐摩耗性及びピッチング強度に優れた歯車を形成するためのショットピーニング方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191906
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】耐摩耗性及びピッチング強度に優れた歯車を形成するためのショットピーニング方法
(51)【国際特許分類】
   B24C 1/10 20060101AFI20170828BHJP
   B24C 11/00 20060101ALI20170828BHJP
   B23F 19/00 20060101ALI20170828BHJP
   C21D 7/06 20060101ALI20170828BHJP
   C23C 10/60 20060101ALI20170828BHJP
   C23C 8/22 20060101ALI20170828BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20170828BHJP
   C22C 38/60 20060101ALN20170828BHJP
【FI】
   B24C1/10 D
   B24C11/00 Z
   B23F19/00
   C21D7/06 A
   C23C10/60
   C23C8/22
   !C22C38/00 301N
   !C22C38/60
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-86314(P2013-86314)
(22)【出願日】2013年4月17日
(65)【公開番号】特開2014-210294(P2014-210294A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【弁理士】
【氏名又は名称】張川 隆司
(72)【発明者】
【氏名】梅森 直樹
(72)【発明者】
【氏名】石倉 亮平
【審査官】 小川 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−307678(JP,A)
【文献】 特開2008−057017(JP,A)
【文献】 特開2007−291486(JP,A)
【文献】 特開2002−030344(JP,A)
【文献】 米国特許第06038900(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0135414(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24C 1/10
B23F 19/00
C21D 7/06
DWPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
700HV以上の硬さの投射材を、投射エア圧力0.2〜0.6MPaの条件下で、1段目の前記投射材として粒径がφ0.3〜1.0mmの範囲内のものを用い、2段目の前記投射材として粒径がφ0.05〜0.2mmの範囲内のものを用いて浸炭処理後の歯車に投射する2段ショットピーニングを行うことにより、
前記歯車における歯面の表面の圧縮残留応力が1000MPa以上1605MPa以下、圧縮残留応力が最大となる深さ位置が、前記歯面の表面を除く前記歯面の表面から30μmまでの間にあり、その最大圧縮残留応力が1500MPa以上、前記歯面の表面から75μm深さ位置での圧縮残留応力が600MPa以上、圧縮残留応力が600MPaとなる前記歯面の表面からの深さ位置が76μm以上121μm以下の間にあり、かつ前記歯面の表面粗さRaが0.8μm以下に設定されることを特徴とする耐摩耗性及びピッチング強度に優れた歯車を形成するためのショットピーニング方法。
【請求項2】
質量%で、
C:0.1〜0.3%、
Si:0.5〜3.0%、
Mn:0.3〜3.0%、
P:0.03%以下、
S:0.03%以下、
Cu:0.01〜1.00%、
Ni:0.01〜3.00%、
Cr:0.3〜1.0%、
Mo:2.0%以下を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、
[Si%]+[Ni%]+[Cu%]−[Cr%]>0.5
の条件を満たす真空浸炭用鋼を用いることを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗性及びピッチング強度に優れた歯車を形成するためのショットピーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性及びピッチング強度に優れた歯車を形成するためのショットピーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に使用されている歯車では、歯元と歯面で疲労破壊形態が異なっており、近年、歯車の小型化に伴う面圧増加に対応して、歯元疲労強度(曲げ疲労強度)のみならず、歯面疲労強度(ピッチング強度)の向上が一層求められている。
ここで、歯面疲労強度については、ショットピーニングによる表層硬さ、表層に付与される圧縮残留応力及び表面粗さが大きな影響を与え、圧縮残留応力の応力値については、投射材の粒径、硬度、投射速度、投射時間等が大きな影響を与えることが知られており、ショットピーニングの条件が圧縮残留応力の応力値に及ぼす影響について様々な研究がなされている(例えば、下記特許文献1参照)。
一方、ショットピーニング後の表面粗さについては、ショットピーニングの投射条件や投射材の硬さ等が影響することが知られている(例えば、下記特許文献2参照)。
また、ピッチング強度については、摩擦熱により歯車の表面温度が上昇することから、焼戻し硬さが影響することが知られている。具体的には、焼戻し硬さを向上させる成分(Si,Cr,Mo等)を増加させることで、ピッチング強度を向上させることができる(例えば、下記非特許文献1参照)。
【0003】
ところで、歯車においてギヤ比が小さい場合には、対となる両歯車ともに高い疲労強度が求められるため、両歯車に対してショットピーニングを行うのが一般的である。この場合、相互に硬さが高く、表面粗さが大きくなっており、歯面疲労としては摩耗が生じてからピッチングが発生する破壊形態を呈する。摩耗が進行すると、両ギヤ同士の歯当たりが変わり、滑らかに接触することが困難となって、歯車の噛み合い時にノイズが発生するようになる。したがって、ノイズの発生を抑制するためには、摩耗の進行を抑制することが必要となる。一方、ピッチングは、通常、ショットピーニングにより圧縮残留応力が付与された深さ位置までの表層部が摩耗し終わってから生じるため、ピッチング強度をより向上させるためには、ショットピーニングによる圧縮残留応力をより深い位置にまで付与することが必要となる。
これらに関し下記特許文献3,4には、圧縮残留応力を付与することで耐摩耗性を向上させる旨が記載されている。また、下記特許文献5には、焼戻し硬さ、最表面での圧縮残留応力、更に表面粗さを向上させることでピッチング強度を向上させる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−307678号公報
【特許文献2】特開平7-290363号公報
【特許文献3】特開平9-176792号公報
【特許文献4】特開2000-230544号公報
【特許文献5】特開2002-322536号公報
【非特許文献1】CAMP-ISIJ,16(1993),796、Society of Automotive Engineers,Inc,P1〜7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献3,4においては、ピッチング強度について何ら考慮されていない。また、上記特許文献5においては、摩耗及び圧縮残留応力深さについて何ら考慮されておらず、付与する圧縮残留応力の応力値が小さいため、摩耗の進行を抑制しながらピッチング強度の向上を図ることはできなかった。
【0006】
本発明は、上記問題に対処するためになされたものであり、その目的は、歯車の歯面疲労強度を良好に向上させることが可能で、特に歯車対ともにショットピーニングを行う場合に摩耗の進行を抑制しつつ、ピッチング強度を向上させ得るショットピーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
上記目的を達成するために本発明の耐摩耗性及びピッチング強度に優れた歯車を形成するためのショットピーニング方法は、700HV以上の硬さの投射材を、投射エア圧力0.2〜0.6MPaの条件下で、1段目の投射材として粒径がφ0.3〜1.0mmの範囲内のものを用い、2段目の投射材として粒径がφ0.05〜0.2mmの範囲内のものを用いて浸炭処理後の歯車に投射する2段ショットピーニングを行うことにより、歯車における歯面の表面の圧縮残留応力が1000MPa以上1605MPa以下、圧縮残留応力が最大となる深さ位置が、歯面の表面を除く歯面の表面から30μmまでの間にあり、その最大圧縮残留応力が1500MPa以上、歯面の表面から75μm深さ位置での圧縮残留応力が600MPa以上、圧縮残留応力が600MPaとなる歯面の表面からの深さ位置が76μm以上121μm以下の間にあり、かつ歯面の表面粗さRaが0.8μm以下に設定されることを特徴とする。
【0008】
ショットピーニングによる圧縮残留応力をより深い位置にまで付与するために、粒径がφ0.3mm以上の投射材を用いることが考えられる。ところが、投射材の粒径がφ0.3mm以上であると、ショットピーニング後の表面が荒くなって表面粗さが悪化する。表面粗さが悪化すると、摩耗が促進されるため、圧縮残留応力を深い位置にまで付与した効果が薄れてしまう。これらを回避するためには2段ショットピーニングが有効である。すなわち、1段目に粒径がφ0.3〜1.0mmの投射材を用い、2段目に粒径がφ0.05〜0.2mmの微粒子状の投射材を用いることで、表面粗さの悪化を解消することができる。その結果、圧縮残留応力を深い位置にまで付与しつつ、表面粗さを所定値以下に抑制することが可能となる。なお、1段目に粒径がφ1.0mmを超える投射材を用いると、表面粗さが極端に悪化し、2段目の微粒子ショットピーニングを施しても表面粗さを小さくすることができないため、1段目の投射材の粒径はφ1.0mm以下とする必要がある。
【0009】
本発明のショットピーニング方法によれば、ショットピーニング後において歯車の歯面の表層から30μm深さ位置までの最大圧縮残留応力を1500MPa以上、歯面の表層から75μm深さ位置での圧縮残留応力を600MPa以上、かつ歯面の表面粗さRaを0.8μm以下に設定することができる。これにより、歯面疲労強度を良好に向上させることができ、例えば歯車対ともにショットピーニングを行う場合でも、摩耗の進行を抑制しつつ、ピッチング強度の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のショットピーニング方法の適用対象の一例である歯車の歯元及び歯面を示す部分拡大図。
図2】(A)はローラーピッチング試験で使用される負荷用ローラーと試験用ローラーを示す正面図。(B)は(A)の側面図。
図3】各鋼種における表層からの深さ位置(距離)と圧縮残留応力との関係を示すグラフ。
図4】鋼種がSCr420である場合において、圧縮残留応力が600MPaとなる深さ位置とピッチング寿命との関係を示すグラフ。
図5】鋼種が真空浸炭用鋼である場合において、圧縮残留応力が600MPaとなる深さ位置とピッチング寿命との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のショットピーニング方法は、JISで規定されたSCr420H、SCM420H、SNCM220Hなどの肌焼構造用鋼や、これらにNb,Tiを0.1%以下添加した鋼等に適用することができる。表1には、本実施例で採用した鋼の一例としてSCr420の組成が示してある。
【0012】
【表1】
【0013】
また、上記鋼以外にも、例えば特開2007−291486号公報に記載されている真空浸炭用鋼に適用することもできる。この真空浸炭用鋼は、質量%で、C:0.1〜0.3%、Si:0.5〜3.0%、Mn:0.3〜3.0%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Cu:0.01〜1.00%、Ni:0.01〜3.00%、Cr:0.3〜1.0%、Mo:2.0%以下を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、
[Si%]+[Ni%]+[Cu%]−[Cr%]>0.5
の条件を満たしている。表1には、本実施例で採用した真空浸炭用鋼の組成の一例が示してある。ここで、真空浸炭用鋼について各元素の組成限定理由について概説しておく。
【0014】
C(0.1〜0.3%)は、歯車10の歯元11の強度(図1参照)を確保する上で適切な範囲である。Mnは、脱酸剤として鋼の溶製時に添加されるが、炭化物の生成にはあまり影響を与えないから、その量は広い範囲(0.3〜3.0%)から選ぶことができる。P及びSは不純物であって、製品の機械的性質にとって好ましくない成分であるから、その量は低い方がよい。前記の値(ともに0.03%)は、許容限度である。
【0015】
Si(0.5〜3.0%)、Ni(0.01〜3.00%)及びCu(0.01〜1.00%)は、炭化物の生成を抑制する成分であって、それぞれ上記の下限値以上であって、かつ、それらの量の合計からCrの量を差し引いた値が0.5を上回るように添加しなければならない。しかし、大量の添加は、熱間加工性を低下させるから、それぞれに上記の上限を設けた。
【0016】
Cr:0.3〜1.0%
Crは炭化物の生成を促進する成分であるから、多量に存在させることができない。1.0%は、炭化物の生成を抑制する成分が多量である場合に可能な、Cr量の上限である。ただし、あまり低減しすぎると焼入れ性が低くなって、製品の機械的特性が不満足になるので、下限値として0.3%を設けた。
【0017】
Mo:2.0%以下
Moは焼入れ性を向上させ、焼戻し軟化抵抗性を高めるために添加することができる。多量になると鋼の加工性を悪くするので、2.0%以下の適切な添加量を選ぶべきである。
【0018】
[Si%]+[Ni%]+[Cu%]−[Cr%]>0.5
Si、Ni及びCuは炭化物の生成を抑制し、一方、Crは増加させるから、前三者の影響と後者の影響とをバランスさせて、抑制効果が高くなるようにすることによって、エッジ部の炭化物生成量抑制を実現することができる。
【0019】
上記真空浸炭用鋼は、上述した基本的な合金成分に加えて、以下の任意添加元素の、少なくとも一つを含有する合金組成とすることができる。
【0020】
Nb:0.10%以下及びTi:0.10%以下の1種または2種
これらの成分は、浸炭時に生じる結晶粒の成長を抑制し、整粒組織を保つという目的にとって有効である。過大な添加は加工性に悪影響を及ぼすので、それぞれ上記の限界内の添加量に止める。
【0021】
B:0.01%以下
Bは、焼入れ性の向上に効果があるので、所望により添加する。大量の存在は加工性にとって有害であるから、0.01%以下の添加量を選ぶ。
【0022】
Pb:0.01〜0.20%、Bi:0.01〜0.10%及びCa:0.0003〜0.0100%の1種または2種以上
これらの成分は、被削性の向上という目的にとって有効である。過大な添加は靱性に悪影響を及ぼすので、それぞれ上記の限界内の添加量に止める。
【0023】
本発明のショットピーニング方法に適用される歯車10は、自動車の歯車の用途に好適である。ここで、歯面12は、図1に示されるように、歯車10の噛み合いに預かる面の全てを意味する。
【実施例】
【0024】
(鋼種、試験片形状)
まず、表1に示す合金組成(残部はFe及び不可避不純物)の各鋼を真空溶解炉を用いて溶製し、インゴットに鋳造した。次に、このインゴットを圧延してバー材にした後、図2に示されるように、ローラー部21と軸部22が一体のローラーピッチング試験片20(以下、試験用ローラー20という)を作成した。ローラーピッチング試験(以下、RP試験ともいう)については後述する。
【0025】
(浸炭方法)
次に、試験用ローラー20に対し、下記の条件で浸炭及び熱処理を施した。すなわち、950℃で均熱保持後、そのままの温度で浸炭処理、拡散処理をこの順に行い、その後850℃で30分間保持し、油焼入れを行った。焼戻しは160℃で2時間行った。浸炭処理は、圧力1500Paとしてアセチレンガス雰囲気で行った。また、拡散処理は、窒素雰囲気で行った。拡散処理後に仕上げ研削加工を施し、歯面の表面粗さRaを0.01〜0.4μmの範囲内に調整した。
【0026】
(ショットピーニング方法)
装置の噴射ノズルから試験用ローラー20までの距離を200mmとし、投射角はローラー部21の加工面に垂直となるよう試験用ローラー20を設置した。ショットピーニングは、試験用ローラー20におけるローラー部21の転走面を狙って行い、ローラー部21の転走面に対して均一にショットピーニングが施されるように、試験用ローラー20を設置したテーブルを回転させた。表2には、投射条件としての投射材の硬さ、投射材の粒径及びエア圧力(=投射圧)が示してある。なお、2段目ショットピーニングを行わなかった比較鋼1〜3,5〜7,9〜11については、2段目ショットピーニングの投射条件の各欄に「−」号を記載した。
【0027】
(圧縮残留応力測定)
ショットピーニング後の試験用ローラー20の圧縮残留応力測定方法は、非破壊的方法として一般的な「JIS B2711」に規定されているX線回折を利用したX線応力測定法を用いた。今回の試験用ローラー20は、マルテンサイト組織の鋼であるため、測定は特性X線の種類=CrKα線、X線応力係数k=−318[MPa/°]を用いて行った。また、測定部位はショットピーニング狙い位置中心とした。なお、図4,5において、表層から圧縮残留応力が600MPaとなる深さ位置までの距離を「圧縮残留応力-600MPa深さ(μm)」とした。
【0028】
(表面粗さ測定)
試験用ローラー20におけるローラー部21の転走面について、表面粗さ測定器(東京精密株式会社製:SURFCOM1500SD-13)を用いて軸方向の表面粗さRaを測定した。測定長さ8mm、カットオフ波長0.8mm、傾斜補正は最小二乗曲線補正とした。
【0029】
(面疲労強度評価)
面疲労強度を評価するために、RP試験を行った。RP試験は、図2に示されるように、負荷用ローラー30と試験用ローラー20(例えば、直径φ26mm、軸部22を含む全長130mm)を油潤滑下にて一定面圧で接触させ、すべりを与えながら回転させることにより、歯車のピッチング(剥離)損傷を再現する試験である。試験条件は面圧3.0GPa、すべり率−60%、回転数1500rpmとした。潤滑油はCVT用オイルを用い、湯温323K、流量2L/minで試験を行った。負荷用ローラー30は、軸受鋼SUJ2を焼入れ・焼戻し後に表面研削したもの(例えば、直径φ130mm、曲率半径1000mmのクラウニング加工を施したもの)を用いた。
【0030】
表2に各鋼種における測定結果を示す。表2中の「摩耗+ピッチング寿命」は、摩耗量の大小にかかわらない、ピッチングが発生するまでのRP試験による試験数を示している。また、表2における評価の「○」、「×」は、以下の判断基準に基づいている。すなわち、RP試験前の表面粗さRaが0.8μm以下である試験用ローラー20は、図4及び図5ともに塗り潰された四角形で示されており、図4のSCr420では、圧縮残留応力-600MPa深さが75μmよりも浅い場合はピッチング寿命が1.0×10cycleを下回る一方、75μmよりも深い場合はピッチング寿命が1.0×10cycleを若干量上回ったあたりで安定化する(75μmよりも深くなっても、ピッチング寿命はそれほど増加しない)ことが分かる。同様に、図5の真空用浸炭鋼では、圧縮残留応力-600MPa深さが75μmよりも浅い場合はピッチング寿命が1.0×10cycleを下回る一方、75μmよりも深い場合はピッチング寿命が1.0×10cycleを若干量上回ったあたりで安定化する(75μmよりも深くなっても、ピッチング寿命はそれほど増加しない)ことが分かる。
【0031】
そこで、鋼種の違いにかかわらず、圧縮残留応力-600MPa深さが75μmの深さ位置よりも深くなること、すなわち表層から75μm深さ位置での圧縮残留応力が600MPa以上となることを指標として規定するとともに、真空用浸炭鋼がSCr420に比べて焼戻し硬さが高く、摩耗速度の抑制効果に優れる等、材料自体の相違等を考慮に入れて、SCr420を用いたときの目標寿命を1.0×10cycle、真空用浸炭鋼を用いたときの目標寿命を1.0×10cycleとし、鋼種毎に対応する目標寿命を超えたものについては「○」を、超えなかったものについては「×」を記載することとした。
【0032】
【表2】
【0033】
表2において、SCr420を用いた発明鋼1〜6と比較鋼1〜11との比較、真空用浸炭鋼を用いた発明鋼7〜9と比較鋼12〜14との比較から、いずれの鋼種においても、1段ショットピーニングのみを行ったものについては圧縮残留応力-600MPa深さが75μm深さ位置よりも浅くなる一方、2段ショットピーニングを行ったものについては圧縮残留応力-600MPa深さが75μm深さ位置よりも深くなる、すなわち表層から75μm深さ位置での圧縮残留応力が600MPa以上となることが分かる。そして、1段ショットピーニングのみを行ったものに比べて2段ショットピーニングを行ったものの方が、摩耗+ピッチング寿命が増加傾向となることが分かる。
【0034】
また、表2及び図3に示されるように、2段ショットピーニングを行った発明鋼2,7を含む発明鋼1〜9のいずれにおいても、表層から75μm深さ位置での圧縮残留応力が600MPa以上となり、表層から30μm深さ位置までの最大圧縮残留応力が1500MPa以上となり、さらに最表層(図3にて0μmの深さ位置に対応)での圧縮残留応力が1000MPa以上となることが分かる。なお、図3中の比較鋼11は、特開2002−322536号公報に記載されている、表層から50μm深さ位置までの最大圧縮残留応力が1250MPaとなる実施例に相当している。
【0035】
表2において、比較鋼1〜3,5〜7,12は、2段ショットピーニングを行わないことで、圧縮残留応力-600MPa深さが75μm深さ位置よりも浅くなり、75μm深さ位置での圧縮残留応力が600MPaを下回ることとなって、摩耗+ピッチング寿命が目標寿命に達しない例を示す。比較鋼4,8,13,14は、2段ショットピーニングを行っても、圧縮残留応力-600MPa深さが75μm深さ位置よりも浅ければ、摩耗+ピッチング寿命が目標寿命に達しない例を示す。比較鋼9〜11は、圧縮残留応力-600MPa深さが75μm深さ位置よりも深くなるように1段目ショットピーニングを行うようにした場合には、投射材の粒径との関係で表面粗さRaが0.8μmを超えてしまい、摩耗+ピッチング寿命が目標寿命に達しない例を示す。
【0036】
以上の説明からも明らかなように、本発明のショットピーニング方法によれば、ショットピーニング後において歯車10の歯面12の表層から30μm深さ位置までの最大圧縮残留応力を1500MPa以上、歯面12の表層から75μm深さ位置での圧縮残留応力を600MPa以上、かつ歯面12の表面粗さRaを0.8μm以下に設定することができる。これにより、歯車対ともにショットピーニングを行う場合でも、歯面12における摩耗の進行を抑制しつつ、ピッチング強度の向上を図ることができる。
【0037】
特に、本発明のショットピーニング方法によれば、歯面12の最表層の圧縮残留応力を1000MPa以上に設定することができる。したがって、表面粗さRaを0.8μm以下に設定できることと相まって、歯面12における摩耗の進行をより一層良好に抑制することができる。
【符号の説明】
【0038】
10 歯車
11 歯元
12 歯面
20 試験用ローラー(ローラーピッチング試験片)
21 ローラー部
22 軸部
30 負荷用ローラー
図1
図2
図3
図4
図5