【実施例】
【0024】
(鋼種、試験片形状)
まず、表1に示す合金組成(残部はFe及び不可避不純物)の各鋼を真空溶解炉を用いて溶製し、インゴットに鋳造した。次に、このインゴットを圧延してバー材にした後、
図2に示されるように、ローラー部21と軸部22が一体のローラーピッチング試験片20(以下、試験用ローラー20という)を作成した。ローラーピッチング試験(以下、RP試験ともいう)については後述する。
【0025】
(浸炭方法)
次に、試験用ローラー20に対し、下記の条件で浸炭及び熱処理を施した。すなわち、950℃で均熱保持後、そのままの温度で浸炭処理、拡散処理をこの順に行い、その後850℃で30分間保持し、油焼入れを行った。焼戻しは160℃で2時間行った。浸炭処理は、圧力1500Paとしてアセチレンガス雰囲気で行った。また、拡散処理は、窒素雰囲気で行った。拡散処理後に仕上げ研削加工を施し、歯面の表面粗さRaを0.01〜0.4μmの範囲内に調整した。
【0026】
(ショットピーニング方法)
装置の噴射ノズルから試験用ローラー20までの距離を200mmとし、投射角はローラー部21の加工面に垂直となるよう試験用ローラー20を設置した。ショットピーニングは、試験用ローラー20におけるローラー部21の転走面を狙って行い、ローラー部21の転走面に対して均一にショットピーニングが施されるように、試験用ローラー20を設置したテーブルを回転させた。表2には、投射条件としての投射材の硬さ、投射材の粒径及びエア圧力(=投射圧)が示してある。なお、2段目ショットピーニングを行わなかった比較鋼1〜3,5〜7,9〜11については、2段目ショットピーニングの投射条件の各欄に「−」号を記載した。
【0027】
(圧縮残留応力測定)
ショットピーニング後の試験用ローラー20の圧縮残留応力測定方法は、非破壊的方法として一般的な「JIS B2711」に規定されているX線回折を利用したX線応力測定法を用いた。今回の試験用ローラー20は、マルテンサイト組織の鋼であるため、測定は特性X線の種類=CrKα線、X線応力係数k=−318[MPa/°]を用いて行った。また、測定部位はショットピーニング狙い位置中心とした。なお、
図4,5において、表層から圧縮残留応力が600MPaとなる深さ位置までの距離を「圧縮残留応力-600MPa深さ(μm)」とした。
【0028】
(表面粗さ測定)
試験用ローラー20におけるローラー部21の転走面について、表面粗さ測定器(東京精密株式会社製:SURFCOM1500SD-13)を用いて軸方向の表面粗さRaを測定した。測定長さ8mm、カットオフ波長0.8mm、傾斜補正は最小二乗曲線補正とした。
【0029】
(面疲労強度評価)
面疲労強度を評価するために、RP試験を行った。RP試験は、
図2に示されるように、負荷用ローラー30と試験用ローラー20(例えば、直径φ26mm、軸部22を含む全長130mm)を油潤滑下にて一定面圧で接触させ、すべりを与えながら回転させることにより、歯車のピッチング(剥離)損傷を再現する試験である。試験条件は面圧3.0GPa、すべり率−60%、回転数1500rpmとした。潤滑油はCVT用オイルを用い、湯温323K、流量2L/minで試験を行った。負荷用ローラー30は、軸受鋼SUJ2を焼入れ・焼戻し後に表面研削したもの(例えば、直径φ130mm、曲率半径1000mmのクラウニング加工を施したもの)を用いた。
【0030】
表2に各鋼種における測定結果を示す。表2中の「摩耗+ピッチング寿命」は、摩耗量の大小にかかわらない、ピッチングが発生するまでのRP試験による試験数を示している。また、表2における評価の「○」、「×」は、以下の判断基準に基づいている。すなわち、RP試験前の表面粗さRaが0.8μm以下である試験用ローラー20は、
図4及び
図5ともに塗り潰された四角形で示されており、
図4のSCr420では、圧縮残留応力-600MPa深さが75μmよりも浅い場合はピッチング寿命が1.0×10
6cycleを下回る一方、75μmよりも深い場合はピッチング寿命が1.0×10
6cycleを若干量上回ったあたりで安定化する(75μmよりも深くなっても、ピッチング寿命はそれほど増加しない)ことが分かる。同様に、
図5の真空用浸炭鋼では、圧縮残留応力-600MPa深さが75μmよりも浅い場合はピッチング寿命が1.0×10
7cycleを下回る一方、75μmよりも深い場合はピッチング寿命が1.0×10
7cycleを若干量上回ったあたりで安定化する(75μmよりも深くなっても、ピッチング寿命はそれほど増加しない)ことが分かる。
【0031】
そこで、鋼種の違いにかかわらず、圧縮残留応力-600MPa深さが75μmの深さ位置よりも深くなること、すなわち表層から75μm深さ位置での圧縮残留応力が600MPa以上となることを指標として規定するとともに、真空用浸炭鋼がSCr420に比べて焼戻し硬さが高く、摩耗速度の抑制効果に優れる等、材料自体の相違等を考慮に入れて、SCr420を用いたときの目標寿命を1.0×10
6cycle、真空用浸炭鋼を用いたときの目標寿命を1.0×10
7cycleとし、鋼種毎に対応する目標寿命を超えたものについては「○」を、超えなかったものについては「×」を記載することとした。
【0032】
【表2】
【0033】
表2において、SCr420を用いた発明鋼1〜6と比較鋼1〜11との比較、真空用浸炭鋼を用いた発明鋼7〜9と比較鋼12〜14との比較から、いずれの鋼種においても、1段ショットピーニングのみを行ったものについては圧縮残留応力-600MPa深さが75μm深さ位置よりも浅くなる一方、2段ショットピーニングを行ったものについては圧縮残留応力-600MPa深さが75μm深さ位置よりも深くなる、すなわち表層から75μm深さ位置での圧縮残留応力が600MPa以上となることが分かる。そして、1段ショットピーニングのみを行ったものに比べて2段ショットピーニングを行ったものの方が、摩耗+ピッチング寿命が増加傾向となることが分かる。
【0034】
また、表2及び
図3に示されるように、2段ショットピーニングを行った発明鋼2,7を含む発明鋼1〜9のいずれにおいても、表層から75μm深さ位置での圧縮残留応力が600MPa以上となり、表層から30μm深さ位置までの最大圧縮残留応力が1500MPa以上となり、さらに最表層(
図3にて0μmの深さ位置に対応)での圧縮残留応力が1000MPa以上となることが分かる。なお、
図3中の比較鋼11は、特開2002−322536号公報に記載されている、表層から50μm深さ位置までの最大圧縮残留応力が1250MPaとなる実施例に相当している。
【0035】
表2において、比較鋼1〜3,5〜7,12は、2段ショットピーニングを行わないことで、圧縮残留応力-600MPa深さが75μm深さ位置よりも浅くなり、75μm深さ位置での圧縮残留応力が600MPaを下回ることとなって、摩耗+ピッチング寿命が目標寿命に達しない例を示す。比較鋼4,8,13,14は、2段ショットピーニングを行っても、圧縮残留応力-600MPa深さが75μm深さ位置よりも浅ければ、摩耗+ピッチング寿命が目標寿命に達しない例を示す。比較鋼9〜11は、圧縮残留応力-600MPa深さが75μm深さ位置よりも深くなるように1段目ショットピーニングを行うようにした場合には、投射材の粒径との関係で表面粗さRaが0.8μmを超えてしまい、摩耗+ピッチング寿命が目標寿命に達しない例を示す。
【0036】
以上の説明からも明らかなように、本発明のショットピーニング方法によれば、ショットピーニング後において歯車10の歯面12の表層から30μm深さ位置までの最大圧縮残留応力を1500MPa以上、歯面12の表層から75μm深さ位置での圧縮残留応力を600MPa以上、かつ歯面12の表面粗さRaを0.8μm以下に設定することができる。これにより、歯車対ともにショットピーニングを行う場合でも、歯面12における摩耗の進行を抑制しつつ、ピッチング強度の向上を図ることができる。
【0037】
特に、本発明のショットピーニング方法によれば、歯面12の最表層の圧縮残留応力を1000MPa以上に設定することができる。したがって、表面粗さRaを0.8μm以下に設定できることと相まって、歯面12における摩耗の進行をより一層良好に抑制することができる。