特許第6192012号(P6192012)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192012
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】コンタクトレンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/04 20060101AFI20170828BHJP
   G02C 13/00 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   G02C7/04
   G02C13/00
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-505828(P2013-505828)
(86)(22)【出願日】2012年3月23日
(86)【国際出願番号】JP2012002055
(87)【国際公開番号】WO2012127882
(87)【国際公開日】20120927
【審査請求日】2014年10月14日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2011/001747
(32)【優先日】2011年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000138082
【氏名又は名称】株式会社メニコン
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】洲崎 朝樹
【審査官】 藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/028659(WO,A1)
【文献】 特表2006−517676(JP,A)
【文献】 特表2001−505672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の裸眼のコマ収差を相殺するものでなく該コマ収差に対応した大きさを有する球面収差であって、且つ該使用者の裸眼の球面収差を相殺しないで残存させて該コマ収差に起因する該使用者の見え方の質の低下を軽減する大きさの球面収差を、光学部に設定する光学特性の設定工程と、
該光学特性の設定工程で設定された該球面収差を、該使用者の裸眼における残余不正乱視に対する矯正光学特性として付与した光学部のレンズ形状を決定するレンズ形状の設定工程と、
該レンズ形状の設定工程で決定されたレンズ形状の光学部を形成することにより、該光学部における高次収差が光軸回りで回転対称とされた光学特性を有するコンタクトレンズを形成するレンズの形成工程と
を、含むことを特徴とするコンタクトレンズの製造方法。
【請求項2】
前記光学特性の設定工程において、
前記光学部に設定される前記球面収差を、
下式の何れも満足するRMS値をもって設定する請求項1に記載のコンタクトレンズの製造方法。
コンタクトレンズの球面収差 ≧ 使用者の裸眼のコマ収差−使用者の裸眼の球面収差−0.10μm
コンタクトレンズの球面収差 ≦ 使用者の裸眼のコマ収差−使用者の裸眼の球面収差+0.10μm
【請求項3】
前記光学特性の設定工程において、
前記光学部に設定される前記球面収差を、
A,Bの何れも定数とする下式を満足するRMS値をもって設定する請求項1又は2に記載のコンタクトレンズの製造方法。
コンタクトレンズの球面収差 = A + B × 使用者の年齢
−0.33≦A(μm)≦−0.03
0.003≦B(μm)≦0.004
【請求項4】
前記コンタクトレンズが、人眼における球面収差の補正光学特性を有しない球面型眼内レンズを挿入した使用者に適用されるものであり、
前記光学特性の設定工程において、
前記光学部に設定される前記球面収差を、
A,Bの何れも定数とする下式を満足するRMS値をもって設定する請求項1又は2に記載のコンタクトレンズの製造方法。
コンタクトレンズの球面収差 = A + B × 使用者の年齢
−0.25≦A(μm)≦0.05
0.003≦B(μm)≦0.004
【請求項5】
前記コンタクトレンズが、人眼における球面収差の補正光学特性を有する非球面型眼内レンズを挿入した使用者に適用されるものであり、
前記光学特性の設定工程において、
前記光学部における前記球面収差を、
A,Bの何れも定数とする下式を満足するRMS値をもって設定する請求項1又は2に記載のコンタクトレンズの製造方法。
コンタクトレンズの球面収差 = A + B × 使用者の年齢
−0.10≦A(μm)≦0.20
0.003≦B(μm)≦0.004
【請求項6】
前記光学特性の設定工程において、
前記光学部における前記球面収差を、
前記使用者と同じ年齢層の母集団における人眼の球面収差の測定データの平均値と該使用者の人眼の球面収差との差をもって設定する請求項1〜5の何れか1項に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項7】
前記光学特性の設定工程において、
使用者の裸眼の低次収差の視力を相殺する低次収差として、球面レンズ度数と円柱レンズ度数との少なくとも一方を、前記球面収差に併せて設定する請求項1〜6の何れか1項に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項8】
前記光学特性の設定工程において、
前記光学部の光学特性を、低次収差および高次収差を含む全体として、前記光軸回りで回転対称として設定する請求項7に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人眼に装用されるコンタクトレンズに係り、特にQOV(見え方の質)を向上させることができる新規な構造のコンタクトレンズおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
良く知られているように、人眼は、遺伝や環境、加齢、疾病等に因り調節能力等の光学特性に不具合の存することがある。このような場合には、屈折異常等の問題が発生して良好な見え方を得られ難くなる。その対処法の一つとして、従来から、コンタクトレンズや眼鏡等の矯正レンズが用いられている。
【0003】
ところが、従来のコンタクトレンズや眼鏡等の矯正レンズでは、使用者の眼の光学特性に応じて処方したものであっても、未だ「見づらい」とか「ものが薄く見える」等と評価されることがあった。このような見え方の不具合は、見え方の質(Quality of Vision:QOV)の問題であり、近年では、それが人眼の高次収差に起因する残余不正乱視に因るものであることが判ってきた。即ち、従来の矯正レンズは、その光学特性が球面レンズ度数と円柱レンズ度数及び円柱レンズ軸方向で特定されることから判るように、近視や遠視、老視、乱視に対しては有効な矯正効果を発揮するものの、残余不正乱視への対策とはならなかったのである。
【0004】
このような残余不正乱視を解消するために、特表2004−526985号公報(特許文献1)には、使用者の眼に存在する高次収差を測定し、かかる高次収差を相殺してゼロとするように逆符号値の高次収差を設定した矯正レンズを処方することが提案されている。しかしながら、この特許文献1では、その[0016]等に記載されているように、単に高次収差に対して相殺する(ゼロとする)光学特性をレンズに付与するだけのものであり、理想的ではあるかもしれないが、実用化が極めて困難である。即ち、人眼における高次収差は多様であることに加え、特に見え方の質(QOV)への悪影響が大きいコマ収差等は光軸回りで異なる光学特性を有するものであるが故に、矯正用の高次収差を設定した矯正レンズは、カスタムメイドな商品にならざるを得ず、その設計だけでなく製造が極めて困難で現実的でないのである。
【0005】
また、残余不正乱視に対してQOVを向上させるための手法として、特表2006−517676号公報(特許文献2)には、ゼルニケ多項式で表される各次数の高次収差についてQOVに影響する程度を実測したチャートを用いて、QOVの向上に重要な次数の高次収差を特定し、特定された高次収差を相殺してゼロとするような矯正レンズを提供することが記載されている。しかし、この特許文献2では、その[0097]〜[0099]等に記載されているとおり、見え方に悪影響を及ぼす特定の高次収差だけを選出して、選出された特定の高次収差を相殺してゼロとする矯正レンズを与えることを目的とするに過ぎない。本発明者が検討したところ、このように特定の高次収差だけをゼロとする矯正レンズ度数では、他の残存する高次収差による見え方への悪影響が大きく、未だ充分なQOVの向上効果が得られ難かったのである。
【0006】
特に、かかる特許文献2に記載の手法では、複数の次数の高次収差を対称として、それらの高次収差を何れも相殺してゼロとする矯正レンズを提供しようとすると、矯正レンズの設計や製造が極めて複雑でオーダーメードが必要となることから実用性に乏しいという、特許文献1と同様な問題が避けられない。一方、一つの高次収差(例えば球面収差)だけを対象に相殺してゼロとする矯正レンズを提供すると、残存する他の高次収差(例えばコマ収差)による悪影響が大きくて良好な見え方を実現することが困難であった。
【0007】
なお、このような問題に対処するために、本出願人は、先に特願2010−093192号(特許文献3)において、単純な光学特性によって残余不正乱視への対処を実現可能とする新規構造のコンタクトレンズを提案した。本発明は、この先願である特許文献に記載のコンタクトレンズとは更に別異の技術思想をもって、残余不正乱視への対処を実用可能なレベルで実現して見え方の質(QOV)の向上を達成する、新規且つ有用な構造のコンタクトレンズおよびその製造方法を提供するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2004−526985号公報
【特許文献2】特表2006−517676号公報
【特許文献3】特願2010−093192号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであり、その解決課題とするところは、見え方の質(QOV)を効果的に向上させることが出来ると共に、各使用者への適合が容易とされて実用性が高い、新規な構造のコンタクトレンズおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、(a)使用者の裸眼のコマ収差を相殺するものでなく該コマ収差に対応した大きさを有する球面収差であって、且つ該使用者の裸眼の球面収差を相殺しないで残存させて該コマ収差に起因する該使用者の見え方の質の低下を軽減する大きさの球面収差を光学部に設定する光学特性の設定工程と、(b)該光学特性の設定工程で設定された該球面収差を、該使用者の裸眼における残余不正乱視に対する矯正光学特性として付与した光学部のレンズ形状を決定するレンズ形状の設定工程と、(c)該レンズ形状の設定工程で決定されたレンズ形状の光学部を形成することにより、該光学部における高次収差が光軸回りで回転対称とされた光学特性を有するコンタクトレンズを形成するレンズの形成工程とを、含むコンタクトレンズの製造方法を特徴とする。
【0011】
本発明は、先ずコンタクトレンズ使用者(以下、使用者という)の眼にコマ収差が残存していることが許容されることを前提とするものであり、この点において、「人眼に存在するコマ収差を相殺してゼロとするように逆符号値のコマ収差を設定する」という考え方とは、全く相違する。そして、そのうえで、見え方の質に悪影響を及ぼすコマ収差への対処法として、人眼に存在するコマ収差に対応した大きさの球面収差を、コンタクトレンズを利用して人眼に積極的に与えることで、コマ収差に起因するQOVの低下を軽減するものである。
【0012】
すなわち、本発明は、見え方を向上するに際して高次収差のうちでコマ収差に着目したのであり、しかも、コマ収差を相殺する矯正光学特性を与えることなく、コマ収差に対応した大きさの球面収差を矯正光学特性として与えることで見え方の向上が図られるという、新たな知見に基づくものである。要するに、前述の特許文献1,2に記載のように、高次収差による見え方の低下を抑えるために、単に、全ての又は特定の高次収差を相殺してゼロにするという従来技術思想に基づく限り、見え方を向上させるには設計および製造が極めて困難となることを避けられない。これに対して、本発明では、見え方への悪影響が大きいコマ収差に着眼し、光学中心軸に関して回転対称でないコマ収差による悪影響を、光学中心軸に関して回転対称となる球面収差で軽減することができるという、従来とは全く異なる新規な技術思想に立脚するものである。特に、このような本発明においては、矯正光学特性として採用されてレンズに付与される球面収差は、あくまでもコマ収差に対応する光学特性であり、従って、コマ収差を相殺してゼロとするものでないことは言うまでもなく、また、球面収差を相殺してゼロとするものでもないのであって、コマ収差も球面収差も残存することを肯定するという、従来とは視点を全く異にする技術であることが、理解されるべきである。
【0013】
しかも、球面収差をコンタクトレンズに設定することにより、QOVに悪影響が大きいコマ収差に効果的に対処できることは、発明の実施であるコンタクトレンズの製造や取扱い、装用等に際して大きな意義をもつ。即ち、使用者の裸眼におけるコマ収差だけに着目してコマ収差と逆符号の波面収差をコンタクトレンズに与えるためには、コンタクトレンズに対して回転非対称の複雑な光学特性とレンズ面形状を設定しなければならず、その設計と製造が極めて困難になるだけでなく、装用に際しても周方向に正確に位置決めすることが必要となって現実的でない。これに対して、本発明に従う構造とされたコンタクトレンズは、高次収差のなかでも光軸回りで回転対称の光学特性である球面収差をもって形成されることから、製造工程や装用時などにおいて高精度な周方向の位置設定が必要でなくなり、製造や取り扱いが容易となり、実用化も容易となるのである。
【0014】
要するに、本発明は、人眼におけるコマ収差に因る不十分なQOVに関して、球面収差を利用して軽減できることを見出したことに加えて、コンタクトレンズにおける球面収差の設定がコンタクトレンズの高次収差特性を回転対称にして行われ得ることに着目し、それらを互いに組み合わせたことによって、完成されたものである。そして、このような新規な基本思想に基づいて完成された本発明に従えば、従来では実用的な対策が極めて困難であった高次収差の一種であるコマ収差に起因するQOVの低下を軽減して、良好なQOVを与えることの出来る新規なコンタクトレンズが、製造および装用の面からも充分な実用性をもって提供され得ることとなったのである。
【0015】
なお、本発明において、人眼に存在するコマ収差に因るQOVの低下に対処するために、コンタクトレンズにより眼光学系に対して球面収差を積極的に与えることが有効であることは、後述する実施形態における実施例と比較例の対比によっても客観的に認められるところである。本発明者の検討したところでは、球面収差を与えることにより、少なくとも主観的な焦点深度が深くなることにも、一つの技術的根拠が認められるものと考えられる。特に、本発明に従うコンタクトレンズによって発揮されるQOVの向上効果は、後述する実施例データからも明らかなところである。
【0016】
ところで、本発明に係るコンタクトレンズにおける球面収差は、使用者の裸眼(コンタクトレンズを装用していない状態での眼)におけるコマ収差に対応した大きさで設定されるものであり、コマ収差が大きければ大きな球面収差となるように設定されるし、コマ収差が小さければ小さな球面収差となるように設定される。ここにおいて、使用者のコマ収差に対応した大きさの球面収差は、コンタクトレンズ装用時における使用者の眼光学系で評価される。それ故、使用者の裸眼に存在する球面収差を考慮し、かかる裸眼の球面収差とコンタクトレンズで与えられる球面収差の合計量が、使用者の裸眼でのコマ収差に略相当する大きさとなるように、コンタクトレンズの球面収差が設定される。また、コンタクトレンズ装用状態での眼光学系におけるコマ収差と球面収差との具体的対応関係は、両者が一致することを最適とする必要はなく、使用者における眼の客観的な光学特性だけでなく、使用者毎の主観的な見え方の好み等も考慮して決定することができる。
【0017】
このような決定手法は、レンズ光学系だけでなく裸眼の眼光学系における球面収差についても、それを容易に測定することができる装置が、特許第4652558号公報や米国特許第7,078,665号明細書等に開示されており、例えばシャックハルトマン方式による波面収差測定装置としてスポットオプチクス(Spot Optics)社製のOPAL300(商品名)などが市販されていることから、当業者であれば容易に実施することが可能である。特に、眼光学系におけるコマ収差に対応した球面収差の値を決定するに際しては、上述のとおり両者を一致させる必要がないことは、例えばコンタクトレンズや眼鏡の処方に際しても、最終的には使用者の主観的な見え方の感覚に委ねられたり、用途を考慮して選択されたりすることからも、当業者によれば使用者の意見や客観的測定情報等を参考にして決定することによって対応できることであって、例えば特許文献1,2に記載の如き従来構造のコンタクトレンズに比して、本発明の実施に際して実用性が無い程の困難さを伴うものでない。尤も、本発明において、球面収差を一層容易に且つ速やかに決定することを可能とするには、球面収差の選択範囲をより狭めることが有効であり、かかる目的から、以下の如き数式等で与えられる光学特性の選択技術が、好適に採用される。
【0018】
すなわち、上述の如き事情から、本発明に係るコンタクトレンズの球面収差(RMS値)は、下式を満足するように設定することが望ましい。
(使用者の裸眼のコマ収差−使用者の裸眼の球面収差−0.10μm)≦コンタクトレンズの球面収差≦(使用者の裸眼のコマ収差−使用者の裸眼の球面収差+0.10μm)
【0019】
なお、RMS値は、波面収差解析装置(波面センサー)によって人眼光学系の瞳孔領域における波面収差を数値化(二乗平均平方根で表示)した値(単位:μm)である。上式に従い、使用者の眼光学系においてコマ収差に対応した球面収差をコンタクトレンズで実現することにより、裸眼に存在する球面収差も考慮して、良好なQOVを得ることが容易となる。
【0020】
具体的には、例えば裸眼の球面収差を0.23とすると、コンタクトレンズの球面収差は下式のとおり設定することが望ましい。
(使用者の裸眼のコマ収差−0.33μm)≦コンタクトレンズの球面収差≦(使用者の裸眼のコマ収差−0.13μm)
【0021】
また、人眼の光学特性は、加齢に伴って変化する傾向にある。そこで、例えば角膜や水晶体等の眼組織の光学特性により、使用者の裸眼に存在するコマ収差は、使用者の年齢に応じて推定することも可能である。かかる観点から、本発明者が検討を加えた結果、本発明のコンタクトレンズに設定される球面収差(RMS値)は、コマ収差に対応する患者年齢を指標として、下式に基づいて設定することも、良好なQOVを得るのに有効である。
コンタクトレンズの球面収差 = A + B × 使用者の年齢
−0.33≦A(μm)≦−0.03
0.003≦B(μm)≦0.004
【0022】
ところで、使用者が自然眼でない場合、具体的には人工の眼内レンズを眼に挿入している場合等には、裸眼の光学特性の加齢に伴う変化が異なる。それ故、上式に基づくコンタクトレンズの球面収差の設定が適合しない場合がある。
【0023】
そこで、使用者が眼内レンズ挿入者であり、且つ、該眼内レンズが人眼における球面収差の補正光学特性を有しない、従来から一般に用いられている球面型眼内レンズの場合には、上式に代えて下式を採用することが有効である。
コンタクトレンズの球面収差 = A + B × 使用者の年齢
−0.25≦A(μm)≦0.05
0.003≦B(μm)≦0.004
【0024】
或いはまた、使用者が眼内レンズ挿入者であり、且つ、該眼内レンズが人眼における球面収差の補正光学特性を有し、裸眼の球面収差をゼロとする特殊な非球面型眼内レンズの場合には、上式に代えて下式を採用することが有効である。
コンタクトレンズの球面収差 = A + B × 使用者の年齢
−0.10≦A(μm)≦0.20
0.003≦B(μm)≦0.004
【0025】
さらに、人の自然眼の光学特性の一つであるコマ収差および球面収差が年齢に伴って変化することを考慮して、本発明者が検討を加えた結果、コンタクトレンズの使用者と同じ年齢層の母集団における人眼の光学特性の測定データから、当該使用者に対して良好なQOVを与え得るコンタクトレンズの球面収差を求めたり、決定された球面収差の適否を判定したりすることも可能であることを見出した。即ち、使用者と同じ年齢層の母集団における人眼の球面収差の測定データの平均値から該使用者の人眼(裸眼)における球面収差の分を除いた大きさの球面収差が、かかる使用者の眼に存在するコマ収差に対応した大きさの球面収差として設定されたコンタクトレンズとすることが、良好なQOVを得るのに有効である。
【0026】
また、本発明に係るコンタクトレンズには、低次収差が設定されていなくても良い。このように高次収差である球面収差だけが設定されたコンタクトレンズは、例えば眼内レンズの挿入等に因り、裸眼において低次収差を有せずに高次収差によるQOVの問題だけを有する者などに用いられることにより、QOVの向上を図ることができる。
【0027】
一方、本発明に係るコンタクトレンズには、光学部において高次収差のひとつである球面収差に加えて、球面レンズ度数や円柱レンズ度数等の低次収差が設定されていても良い。このように低次収差も併せて設定されたコンタクトレンズは、近視や遠視、老視、乱視などの屈折異常と共に、高次収差によるQOVの問題を有する者に用いられることにより、近視等の屈折異常の矯正と同時に更なるQOVの向上を、一つのコンタクトレンズによって効果的に達成し得る。
【0028】
さらに、本発明に係るコンタクトレンズでは、光学部の光学特性が光軸回りで回転対称とされている態様が、好適に採用される。例えば、高次収差に加えて低次収差も併せた光学特性を光軸回りで回転対称とすることにより、その製造や装用時の作業を一層容易にして実用性の更なる向上を図ることが出来る。また、光学特性を光軸回りで回転対称とする場合には、レンズ形状も、光軸上に設定された幾何中心軸回りで回転対称とすることが望ましい。なお、円柱レンズ度数が設定されたり、周上の異なる位置に各焦点が設定されたバイフォーカルレンズやマルチフォーカルレンズの場合など、光学特性が光軸回りで回転非対称とされた態様では、プリズムバラストやスラブオフ等の公知の周方向位置決め手段が採用される。また、そのように低次収差が回転非対称の光学特性をもって設定された場合でも、球面収差自体は光軸回りで回転対称の光学特性をもって設定され得る。
【0029】
また、本発明は、適合する使用者の裸眼のコマ収差が明示されており、且つ該使用者のコマ収差に起因する見え方の質の低下を軽減する矯正光学特性として、かかる明示された裸眼のコマ収差に対応した大きさを有する球面収差であって、該使用者の裸眼の球面収差を相殺しないで残存させて該コマ収差に起因する見え方の質の低下を軽減する大きさの球面収差が光学部に設定されていると共に、該光学部における高次収差が光軸回りで回転対称とされているコンタクトレンズも、特徴とすることができる
【0030】
このような構造とされたコンタクトレンズは、上述の説明から明らかなように、患者に良好なQOVを与えることの出来るものであり、しかも、設計および製造が容易に実現可能となることから、市場に提供して実用化することが容易となる。なお、このような本発明に従う構造とされたコンタクトレンズは、上述の本発明方法によって好適に製造されるものである。また、上述の製造方法の説明において記載した各好適な態様は、何れも、本発明に係るコンタクトレンズにおいて、構成上可能な限り、適用され得る。
【0031】
また、本発明に係るコンタクトレンズにおいては、そのレンズ本体や個別包装,収容パッケージや収容箱の少なくとも一つに対して、前述の如き本発明方法に従って設定された球面収差の値とRMSの値との少なくとも一方が表示されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明に従えば、QOVに悪影響が大きいものの相殺することが困難なコマ収差に対して、光軸回りで回転対称の光学特性である球面収差を適用してQOVの改善を図ることで、設計や製造,取り扱いが容易で実用化に優れた、新規な構造のコンタクトレンズが実現可能とされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の一実施形態としてのコンタクトレンズを示す正面図。
図2図1に示されたコンタクトレンズを装用した人眼の縦断説明図。
図3】人眼における眼球(裸眼)のコマ収差および球面収差の加齢変化を説明するためのグラフ。
図4】人眼における角膜のコマ収差の加齢変化を説明するために眼球(裸眼)のコマ収差と併せて示すグラフ。
図5】人眼における角膜の球面収差および水晶体の球面収差の加齢変化を説明するためのグラフ。
図6】本発明の第1〜5の実施例としてのコンタクトレンズについて、球面収差をゼロにした比較例1と共に、同一使用者の人眼への適用時の見え方を表すシミュレーション光学像。
図7】本発明の第6〜8の実施例としてのコンタクトレンズについて、球面収差をゼロにした比較例2と共に、同一使用者の人眼への適用時の見え方を表すシミュレーション光学像。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。先ず、図1には、本発明の一実施形態としてのコンタクトレンズ10が示されている。なお、本発明は、ソフトコンタクトレンズとハードコンタクトレンズの何れにも適用可能であるが、以下の実施形態ではソフトコンタクトレンズとして説明する。
【0035】
かかるコンタクトレンズ10は、ソフトコンタクトレンズとして従来周知の基本形状とされている。即ち、コンタクトレンズ10は、全体として球殻形状とされており、図2に示されているように、人眼12の角膜14上に重ね合わされて装用されることにより使用者の眼光学系に光学特性を与える光学部16を備えている。この光学部16は、コンタクトレンズ10の幾何中心軸および光軸(光学中心軸)をレンズ中心軸18とした正面視で円形領域とされており、光学部16の外周には、光学部16を取り囲んで円環形状で広がる周辺部20が設けられている。周辺部20の外周縁部は、コンタクトレンズ10の表裏両面をつなぐエッジ部22とされている。
【0036】
そして、使用者の角膜の曲率半径や瞳孔径などを考慮して、コンタクトレンズ10のベースカーブ(BC)やレンズ直径(DIA)等が適切に設定されている。また、光学部16には、従来周知の視力矯正用コンタクトレンズと同様に、使用者の近視や遠視、乱視等の程度に応じて、それを矯正するのに適切な大きさの球面レンズ度数や円柱レンズ度数が使用者に応じた適当な態様で設定され得るが、本発明において球面レンズ度数等の低次収差の光学特性の設定は任意であって必須でない。
【0037】
なお、コンタクトレンズ10の材質は本発明において限定されるものでなく、従来から公知のPHEMAやPVP、シリコーンハイドロゲル等のソフトコンタクトレンズ材料を用いて形成され得る。
【0038】
而して、本実施形態のコンタクトレンズ10では、その光学部16に対して、高次収差のひとつである球面収差が積極的に与えられている。この球面収差は、コンタクトレンズ使用者の裸眼に存在するコマ収差の値に対応した大きさで、且つ、使用者の裸眼の球面収差を相殺しないで残存させる大きさで設定される。具体的には、コンタクトレンズ10を装用した使用者の眼光学系(人眼とコンタクトレンズとを含む光学系)において、コマ収差の大きさが球面収差の大きさと略同じ程度となるように、コンタクトレンズ10における球面収差が設定される。このように、本実施形態におけるコンタクトレンズ10の製造方法は、光学特性の設定工程を含んで構成されている。尤も、コンタクトレンズ10にコマ収差は設定されていないことから、コンタクトレンズ10を装用した使用者の眼光学系におけるコマ収差は、コンタクトレンズ10を装用しない使用者の裸眼の眼光学系におけるコマ収差に等しい。
【0039】
なお、コマ収差および球面収差の値は、何れも、RMS値(μm)によって表すことができる。要するに、光線に直交する理想波面に対して実波面が光線方向にずれている量を、かかる理想波面上において二乗平均平方根で表した値として、各収差を表したものである。
【0040】
また、使用者の裸眼に存在するコマ収差は、その殆どが角膜14および水晶体24の各光学特性によるものである。尤も、使用者の裸眼に存在するコマ収差の大きさに対応して、コンタクトレンズ10の球面収差の大きさを設定できることから、裸眼に存在するコマ収差を角膜14および水晶体24において各別に特定する必要はない。因みに、裸眼に存在するコマ収差の大きさは、例えばシャックハルトマン型等の公知の波面センサーを用い、波面収差解析を行って得られたゼルニケ多項式におけるC31(横コマ収差)とC3 -1項(縦コマ収差)の合成ベクトル量として表わされる。尤も、角膜14のコマ収差は、例えばレフケラトメーター等で得られる角膜トポグラフィー等の測定値に基づいて求められる角膜14の形状や厚さから求めることが出来、裸眼の全体でのコマ収差の値と角膜14のコマ収差の値とを用いて、水晶体24のコマ収差も求めることが可能である。
【0041】
一方、使用者の裸眼に存在する球面収差も、コマ収差と同様、その殆どが角膜14および水晶体24の各光学特性によるものであり、公知の波面センサー等を用いて測定することができる。具体的には、例えば波面センサーで測定された全体的な波面収差に対して、波面収差解析を施して得られたゼルニケ多項式におけるC40項が球面収差とされる。
【0042】
従って、コンタクトレンズ10に設定されるべき球面収差の値は、下式に基づいて求めることが可能である。
【0043】
コンタクトレンズの球面収差≒使用者の裸眼のコマ収差−使用者の裸眼の球面収差
【0044】
この事実を考慮すると、前述の光学特性の設定工程において設定されるコンタクトレンズ10の光学部16における球面収差の好適な設定範囲(RMS値)は、下式によって表すことが出来る。
【0045】
コンタクトレンズの球面収差≧使用者の裸眼のコマ収差−使用者の裸眼の球面収差−0.10μm
コンタクトレンズの球面収差≦使用者の裸眼のコマ収差−使用者の裸眼の球面収差+0.10μm
【0046】
ところで、上式において「コンタクトレンズの球面収差」は、右辺(使用者の裸眼における「コマ収差−球面収差」)の値と完全に一致させることが必ずしも最適ではない。蓋し、見え方(QOV)は、主観的なもので個人差が大きいからであり、例えば対象物までの距離の相違によって鮮明度が大きく異なるのが好ましくないと感じる使用者と、特定距離の対象物だけを高度な鮮明度で観察したいと考える使用者とでは、最適として評価されるコンタクトレンズ10の球面収差の値が相違する。
【0047】
また、人眼(裸眼)におけるコマ収差および球面収差は、それぞれ図3に示すように、加齢に伴って何れも略一次関数的に増大する。図3から把握できるように、人眼におけるコマ収差と球面収差は互いに近しい量であるものの一致していない。このような事実を考慮すると、前述の光学特性の設定工程において設定されるコンタクトレンズ10の光学部16における球面収差の好適な設定範囲(RMS値)は、A,Bの何れも定数とする下式によって表すことが出来る。
【0048】
コンタクトレンズの球面収差 = A + B × 使用者の年齢
−0.33≦A(μm)≦−0.03
0.003≦B(μm)≦0.004
【0049】
一方、使用者が自然眼でなく、無水晶体の眼内レンズを入れている場合には、水晶体の加齢に伴う球面収差の変化を考慮せず、角膜の加齢に伴う球面収差の変化だけを考慮するべきである。なお、コマ収差に関して、眼内レンズを入れる一般的な年齢層である高齢層では、図4に示すように、眼球全体(裸眼)のコマ収差が角膜のコマ収差と略同じになっており、水晶体の摘出によっても眼球のコマ収差は殆ど変化しないと考えられる。ところが、角膜14および水晶体24の加齢に伴う球面収差の変化は、図5に示す如き態様を示す。かかる事実を考慮すると、球面収差の補正光学特性を有しない球面型眼内レンズを入れたコンタクトレンズ使用者の場合には、前述の光学特性の設定工程において設定されるコンタクトレンズ10の光学部16における球面収差の好適な設定範囲(RMS値)が、上式に代えてA,Bの何れも定数とする下式で表される。
【0050】
コンタクトレンズの球面収差 = A + B × 使用者の年齢
−0.25≦A(μm)≦0.05
0.003≦B(μm)≦0.004
【0051】
また一方、使用者に入れられた眼内レンズが球面収差を持つ場合には、その球面収差を考慮する必要がある。具体的には、かかる眼内レンズが、例えば角膜の球面収差を相殺して人眼(裸眼)での球面収差をゼロとする補正光学特性を有する非球面型眼内レンズである場合には、前述の光学特性の設定工程において設定されるコンタクトレンズ10の光学部16における球面収差の好適な設定範囲(RMS値)が、上式に代えてA,Bの何れも定数とする下式で表される。
【0052】
コンタクトレンズの球面収差 = A + B × 使用者の年齢
−0.10≦A(μm)≦0.20
0.003≦B(μm)≦0.004
【0053】
また、人眼12の光学特性が加齢に伴って変化することを考慮した別のアプローチによれば、前述の光学特性の設定工程において設定されるコンタクトレンズ10の光学部16における球面収差の値を、使用者と同じ年齢層に属する健常者の複数人を母集団とし、かかる母集団における人眼の光学特性に基づいて決定される特定範囲内に設定することも、好適である。
【0054】
具体的には、上記母集団における人眼(角膜及び水晶体を含む裸眼の眼光学系)の球面収差の測定データの平均値と使用者の人眼(裸眼)における球面収差との差を、かかる使用者の裸眼におけるコマ収差に対応した大きさの球面収差としてコンタクトレンズ10に設定することとなる。なお、このようにして設定されたコンタクトレンズ10の球面収差は、上記母集団である健常者の人眼が有する球面収差と略等しいことが、本発明者によって見出されている。
【0055】
上述の如き好適な設定範囲内において、コンタクトレンズ使用者の裸眼に存在するコマ収差および球面収差を考慮して決定された球面収差、即ち、前述の光学特性の設定工程で設定された球面収差を、使用者の裸眼における残余不正乱視に対する矯正光学特性として設定することにより、目的とするコンタクトレンズ10の光学部16における光学特性(レンズ形状)を決定するレンズ形状の設定工程が行われる。なお、光学レンズの設計に携わる当業者において周知のとおり、このように光学特性の設定値が決定されれば、具体的なコンタクトレンズの形状(屈折面となるレンズ前後面の形状)は、例えばスネル法則に基づく光線追跡法を利用した公知の各種のレンズ設計ソフトを用いて設定することが可能である。また、前述のように、コンタクトレンズ使用者の眼光学系に近視や乱視等が存在する場合には、それを矯正する球面レンズ度数や円柱レンズ度数等の低次収差も、併せて考慮して設定される。
【0056】
その後、前述のレンズ形状の設定工程において決定された設計情報に基づくレンズ形状の光学部16が、前述の如きレンズ材料を用い、公知のモールド法やスピンキャスト法、レースカッティング法等によるレンズの形成工程により形成されて、目的とする光学特性を有するコンタクトレンズ10が製造されることとなる。
【0057】
そして、このようにして製造されたコンタクトレンズ10は、前述の光学特性の設定工程において、少なくとも高次収差に関して、好ましくは低次収差および高次収差を含む全体に関して、レンズ中心軸18を回転中心軸として回転対称の光学特性が光学部16に設定される。また、コンタクトレンズ10には、コマ収差等のレンズ中心軸18回りの周方向で非対称な光学特性が設定されていないことから、一様なレンズ材質が採用されること等を前提とした一般的な場合には、少なくとも高次収差に関して、レンズ表面及び裏面の各形状も、レンズ中心軸18を回転中心軸とした回転体形状とされる。なお、前述の光学特性の設定工程において、使用者の裸眼の低次収差の視力を相殺する低次収差を球面収差に併せて設定する場合には、球面レンズ度数と円柱レンズ度数との少なくとも一方が設定されることが好ましい。例えば円柱レンズ度数を設定することで光学特性やレンズ面形状がレンズ中心軸18回りで回転対称とならないが、低次収差の設計や製造は確立された技術であって容易であるから、円柱レンズ度数の設定等によって製造や取扱いが著しく困難になることはない。
【0058】
それ故、本発明に従う構造とされたコンタクトレンズ10は、その製造や取扱い、装用等の何れの段階においても、周方向の位置決めを特に考慮することなく、容易に設計および製造を行い、装用することが可能となるのである。
【0059】
因みに、上述の如き本実施形態におけるコンタクトレンズ10によって良好なQOVが与えられることを確認するために行ったシミュレーション結果の幾つかを、本発明の実施例として以下に示す。
【0060】
先ず、図6は、60歳の使用者に対して本発明に従う構造とされたコンタクトレンズを適用させた場合のシミュレーション結果である。かかるシミュレーションは、光学設計ソフトのZEMAX(商品名、米国 Zemax Development Corp.製)を用いて、60歳の一般人(統計上の平均的な光学特性を有する者)の眼球モデルとして、裸眼のコマ収差(ゼルニケ多項式におけるC3 -1項の縦コマ収差量)が0.24μmのものを構築し、それに本発明に従うコンタクトレンズを装用せしめた状態で、瞳孔6mmに該当する光学領域に相当する眼光学系の光学特性を、ランドルト環のシミュレーション光学像で評価したものである。なお、かかる眼球モデルでは、近視や乱視等の低次収差は存在しないものとした。
【0061】
そして、これら実施例1〜5及び比較例1の各モデルについて、球面レンズ度数による焦点位置が最良となる点(0.00D)を基準とし、そこから0.50Dおよび1.00Dに相当する距離だけ近方へ焦点位置をずらしたときの各位置におけるシミュレーション光学像を求め、それらによって見え方(QOV)を評価することとした。
【0062】
また、比較例1は、球面収差をゼロにすることが望ましいとの従来の考え方に従い、例えば裸眼の球面収差を相殺して裸眼での球面収差をゼロとするコンタクトレンズを入れること等により、眼球モデルの球面収差(ゼルニケ多項式におけるC40項の球面収差量)をゼロとした場合に相当する。一方、実施例1〜5は、何れも、本発明に従って、球面収差を積極的に調節して設定する光学特性のコンタクトレンズを装用した場合に相当する。特に、実施例3は、眼球モデルにおいてコマ収差と同じRMS値の球面収差が設定されるように、裸眼のコマ収差および球面収差を考慮してコンタクトレンズの球面収差を設定した場合に相当する。
【0063】
図6に示されたシミュレーション光学像の結果から、球面収差を積極的に調節して設定した場合の方が、球面収差を相殺してゼロに設定する場合に比して、焦点位置の変化に伴う見え方(像の質)の変化が抑えられることが明らかである。即ち、比較例1では、最適焦点位置(0.00D)では像の鮮明度が高いが、それを外れると急激に見え方が低下し、1.00D変化した位置では殆ど見えなくなり、特定の距離のものしか見ることが出来ず、見え方の質の確保が難しいことを理解できる。また、球面収差を最適設定した実施例3だけでなく、特に実施例2,4のものは、1.00D変化した位置でも比較例1に比して像の質が明らかに良好に確保されている。
【0064】
また、図7は、20歳の一般人の眼球モデルに対して、本発明に従う構造とされたコンタクトレンズを装用させた場合のシミュレーション結果である。かかるシミュレーションは、上記実施例1〜5と同様に、ZEMAXを用いて、20歳の一般人の眼球モデルとして、コマ収差(ゼルニケ多項式におけるC3 -1項の縦コマ収差量)が0.14μmのものを構築し、それに本発明に従うコンタクトレンズを装用せしめた状態で、瞳孔6mmに該当する光学領域に相当する眼光学系の光学特性を、ランドルト環のシミュレーション光学像を取得して見え方を評価したものである。
【0065】
すなわち、比較例2は、比較例1と同様に、球面収差をゼロにすることが望ましいとの従来の考え方に従い、眼光学系の球面収差をゼロとした場合に相当する。一方、実施例6〜8は、何れも、本発明に従って、眼光学系の球面収差を積極的に調節して設定する光学特性のコンタクトレンズを装用した場合に相当する。特に、実施例7は、眼光学系のコマ収差と略同じRMS値の球面収差をコンタクトレンズで実現したものである。
【0066】
図7に示されたシミュレーション光学像の結果から、実施例6〜8に示されているように、裸眼に存在するコマ収差に対応して球面収差を積極的に調節して設定した場合の方が、球面収差を相殺してゼロに設定する場合に比して、焦点位置の変化に伴う見え方(像の質)の変化が抑えられ得、全体としての見え方の質の確保に有利であることを理解できる。
【符号の説明】
【0067】
10:コンタクトレンズ、12:人眼、16:光学部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7