【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、(a)使用者の裸眼のコマ収差
を相殺するものでなく該コマ収差に対応した大きさ
を有する球面収差であって、且つ該使用者の裸眼の球面収差を相殺しないで残存させ
て該コマ収差に起因する該使用者の見え方の質の低下を軽減する大きさの球面収差を
、光学部に設定する光学特性の設定工程と、(b)該光学特性の設定工程で設定された該球面収差を、該使用者の裸眼における残余不正乱視に対する矯正光学特性として付与した光学部のレンズ形状を決定するレンズ形状の設定工程と、(c)該レンズ形状の設定工程で決定されたレンズ形状の光学部を形成することにより、該光学部における高次収差が光軸回りで回転対称とされた光学特性を有するコンタクトレンズを形成するレンズの形成工程とを、含むコンタクトレンズの製造方法を特徴とする。
【0011】
本発明は、先ずコンタクトレンズ使用者(以下、使用者という)の眼にコマ収差が残存していることが許容されることを前提とするものであり、この点において、「人眼に存在するコマ収差を相殺してゼロとするように逆符号値のコマ収差を設定する」という考え方とは、全く相違する。そして、そのうえで、見え方の質に悪影響を及ぼすコマ収差への対処法として、人眼に存在するコマ収差に対応した大きさの球面収差を、コンタクトレンズを利用して人眼に積極的に与えることで、コマ収差に起因するQOVの低下を軽減するものである。
【0012】
すなわち、本発明は、見え方を向上するに際して高次収差のうちでコマ収差に着目したのであり、しかも、コマ収差を相殺する矯正光学特性を与えることなく、コマ収差に対応した大きさの球面収差を矯正光学特性として与えることで見え方の向上が図られるという、新たな知見に基づくものである。要するに、前述の特許文献1,2に記載のように、高次収差による見え方の低下を抑えるために、単に、全ての又は特定の高次収差を相殺してゼロにするという従来技術思想に基づく限り、見え方を向上させるには設計および製造が極めて困難となることを避けられない。これに対して、本発明では、見え方への悪影響が大きいコマ収差に着眼し、光学中心軸に関して回転対称でないコマ収差による悪影響を、光学中心軸に関して回転対称となる球面収差で軽減することができるという、従来とは全く異なる新規な技術思想に立脚するものである。特に、このような本発明においては、矯正光学特性として採用されてレンズに付与される球面収差は、あくまでもコマ収差に対応する光学特性であり、従って、コマ収差を相殺してゼロとするものでないことは言うまでもなく、また、球面収差を相殺してゼロとするものでもないのであって、コマ収差も球面収差も残存することを肯定するという、従来とは視点を全く異にする技術であることが、理解されるべきである。
【0013】
しかも、球面収差をコンタクトレンズに設定することにより、QOVに悪影響が大きいコマ収差に効果的に対処できることは、発明の実施であるコンタクトレンズの製造や取扱い、装用等に際して大きな意義をもつ。即ち、使用者の裸眼におけるコマ収差だけに着目してコマ収差と逆符号の波面収差をコンタクトレンズに与えるためには、コンタクトレンズに対して回転非対称の複雑な光学特性とレンズ面形状を設定しなければならず、その設計と製造が極めて困難になるだけでなく、装用に際しても周方向に正確に位置決めすることが必要となって現実的でない。これに対して、本発明に従う構造とされたコンタクトレンズは、高次収差のなかでも光軸回りで回転対称の光学特性である球面収差をもって形成されることから、製造工程や装用時などにおいて高精度な周方向の位置設定が必要でなくなり、製造や取り扱いが容易となり、実用化も容易となるのである。
【0014】
要するに、本発明は、人眼におけるコマ収差に因る不十分なQOVに関して、球面収差を利用して軽減できることを見出したことに加えて、コンタクトレンズにおける球面収差の設定がコンタクトレンズの高次収差特性を回転対称にして行われ得ることに着目し、それらを互いに組み合わせたことによって、完成されたものである。そして、このような新規な基本思想に基づいて完成された本発明に従えば、従来では実用的な対策が極めて困難であった高次収差の一種であるコマ収差に起因するQOVの低下を軽減して、良好なQOVを与えることの出来る新規なコンタクトレンズが、製造および装用の面からも充分な実用性をもって提供され得ることとなったのである。
【0015】
なお、本発明において、人眼に存在するコマ収差に因るQOVの低下に対処するために、コンタクトレンズにより眼光学系に対して球面収差を積極的に与えることが有効であることは、後述する実施形態における実施例と比較例の対比によっても客観的に認められるところである。本発明者の検討したところでは、球面収差を与えることにより、少なくとも主観的な焦点深度が深くなることにも、一つの技術的根拠が認められるものと考えられる。特に、本発明に従うコンタクトレンズによって発揮されるQOVの向上効果は、後述する実施例データからも明らかなところである。
【0016】
ところで、本発明に係るコンタクトレンズにおける球面収差は、使用者の裸眼(コンタクトレンズを装用していない状態での眼)におけるコマ収差に対応した大きさで設定されるものであり、コマ収差が大きければ大きな球面収差となるように設定されるし、コマ収差が小さければ小さな球面収差となるように設定される。ここにおいて、使用者のコマ収差に対応した大きさの球面収差は、コンタクトレンズ装用時における使用者の眼光学系で評価される。それ故、使用者の裸眼に存在する球面収差を考慮し、かかる裸眼の球面収差とコンタクトレンズで与えられる球面収差の合計量が、使用者の裸眼でのコマ収差に略相当する大きさとなるように、コンタクトレンズの球面収差が設定される。また、コンタクトレンズ装用状態での眼光学系におけるコマ収差と球面収差との具体的対応関係は、両者が一致することを最適とする必要はなく、使用者における眼の客観的な光学特性だけでなく、使用者毎の主観的な見え方の好み等も考慮して決定することができる。
【0017】
このような決定手法は、レンズ光学系だけでなく裸眼の眼光学系における球面収差についても、それを容易に測定することができる装置が、特許第4652558号公報や米国特許第7,078,665号明細書等に開示されており、例えばシャックハルトマン方式による波面収差測定装置としてスポットオプチクス(Spot Optics)社製のOPAL300(商品名)などが市販されていることから、当業者であれば容易に実施することが可能である。特に、眼光学系におけるコマ収差に対応した球面収差の値を決定するに際しては、上述のとおり両者を一致させる必要がないことは、例えばコンタクトレンズや眼鏡の処方に際しても、最終的には使用者の主観的な見え方の感覚に委ねられたり、用途を考慮して選択されたりすることからも、当業者によれば使用者の意見や客観的測定情報等を参考にして決定することによって対応できることであって、例えば特許文献1,2に記載の如き従来構造のコンタクトレンズに比して、本発明の実施に際して実用性が無い程の困難さを伴うものでない。尤も、本発明において、球面収差を一層容易に且つ速やかに決定することを可能とするには、球面収差の選択範囲をより狭めることが有効であり、かかる目的から、以下の如き数式等で与えられる光学特性の選択技術が、好適に採用される。
【0018】
すなわち、上述の如き事情から、本発明に係るコンタクトレンズの球面収差(RMS値)は、下式を満足するように設定することが望ましい。
(使用者の裸眼のコマ収差−使用者の裸眼の球面収差−0.10μm)≦コンタクトレンズの球面収差≦(使用者の裸眼のコマ収差−使用者の裸眼の球面収差+0.10μm)
【0019】
なお、RMS値は、波面収差解析装置(波面センサー)によって人眼光学系の瞳孔領域における波面収差を数値化(二乗平均平方根で表示)した値(単位:μm)である。上式に従い、使用者の眼光学系においてコマ収差に対応した球面収差をコンタクトレンズで実現することにより、裸眼に存在する球面収差も考慮して、良好なQOVを得ることが容易となる。
【0020】
具体的には、例えば裸眼の球面収差を0.23とすると、コンタクトレンズの球面収差は下式のとおり設定することが望ましい。
(使用者の裸眼のコマ収差−0.33μm)≦コンタクトレンズの球面収差≦(使用者の裸眼のコマ収差−0.13μm)
【0021】
また、人眼の光学特性は、加齢に伴って変化する傾向にある。そこで、例えば角膜や水晶体等の眼組織の光学特性により、使用者の裸眼に存在するコマ収差は、使用者の年齢に応じて推定することも可能である。かかる観点から、本発明者が検討を加えた結果、本発明のコンタクトレンズに設定される球面収差(RMS値)は、コマ収差に対応する患者年齢を指標として、下式に基づいて設定することも、良好なQOVを得るのに有効である。
コンタクトレンズの球面収差 = A + B × 使用者の年齢
−0.33≦A(μm)≦−0.03
0.003≦B(μm)≦0.004
【0022】
ところで、使用者が自然眼でない場合、具体的には人工の眼内レンズを眼に挿入している場合等には、裸眼の光学特性の加齢に伴う変化が異なる。それ故、上式に基づくコンタクトレンズの球面収差の設定が適合しない場合がある。
【0023】
そこで、使用者が眼内レンズ挿入者であり、且つ、該眼内レンズが人眼における球面収差の補正光学特性を有しない、従来から一般に用いられている球面型眼内レンズの場合には、上式に代えて下式を採用することが有効である。
コンタクトレンズの球面収差 = A + B × 使用者の年齢
−0.25≦A(μm)≦0.05
0.003≦B(μm)≦0.004
【0024】
或いはまた、使用者が眼内レンズ挿入者であり、且つ、該眼内レンズが人眼における球面収差の補正光学特性を有し、裸眼の球面収差をゼロとする特殊な非球面型眼内レンズの場合には、上式に代えて下式を採用することが有効である。
コンタクトレンズの球面収差 = A + B × 使用者の年齢
−0.10≦A(μm)≦0.20
0.003≦B(μm)≦0.004
【0025】
さらに、人の自然眼の光学特性の一つであるコマ収差および球面収差が年齢に伴って変化することを考慮して、本発明者が検討を加えた結果、コンタクトレンズの使用者と同じ年齢層の母集団における人眼の光学特性の測定データから、当該使用者に対して良好なQOVを与え得るコンタクトレンズの球面収差を求めたり、決定された球面収差の適否を判定したりすることも可能であることを見出した。即ち、使用者と同じ年齢層の母集団における人眼の球面収差の測定データの平均値から該使用者の人眼(裸眼)における球面収差の分を除いた大きさの球面収差が、かかる使用者の眼に存在するコマ収差に対応した大きさの球面収差として設定されたコンタクトレンズとすることが、良好なQOVを得るのに有効である。
【0026】
また、本発明に係るコンタクトレンズには、低次収差が設定されていなくても良い。このように高次収差である球面収差だけが設定されたコンタクトレンズは、例えば眼内レンズの挿入等に因り、裸眼において低次収差を有せずに高次収差によるQOVの問題だけを有する者などに用いられることにより、QOVの向上を図ることができる。
【0027】
一方、本発明に係るコンタクトレンズには、光学部において高次収差のひとつである球面収差に加えて、球面レンズ度数や円柱レンズ度数等の低次収差が設定されていても良い。このように低次収差も併せて設定されたコンタクトレンズは、近視や遠視、老視、乱視などの屈折異常と共に、高次収差によるQOVの問題を有する者に用いられることにより、近視等の屈折異常の矯正と同時に更なるQOVの向上を、一つのコンタクトレンズによって効果的に達成し得る。
【0028】
さらに、本発明に係るコンタクトレンズでは、光学部の光学特性が光軸回りで回転対称とされている態様が、好適に採用される。例えば、高次収差に加えて低次収差も併せた光学特性を光軸回りで回転対称とすることにより、その製造や装用時の作業を一層容易にして実用性の更なる向上を図ることが出来る。また、光学特性を光軸回りで回転対称とする場合には、レンズ形状も、光軸上に設定された幾何中心軸回りで回転対称とすることが望ましい。なお、円柱レンズ度数が設定されたり、周上の異なる位置に各焦点が設定されたバイフォーカルレンズやマルチフォーカルレンズの場合など、光学特性が光軸回りで回転非対称とされた態様では、プリズムバラストやスラブオフ等の公知の周方向位置決め手段が採用される。また、そのように低次収差が回転非対称の光学特性をもって設定された場合でも、球面収差自体は光軸回りで回転対称の光学特性をもって設定され得る。
【0029】
また、本発明は、適合する使用者の裸眼のコマ収差が明示されており、且つ該使用者のコマ収差に起因する見え方の質の低下を軽減する矯正光学特性として、かかる明示された裸眼のコマ収差に対応した大きさを有する球面収差であって、該使用者の裸眼の球面収差を相殺しないで残存させて該コマ収差に起因する見え方の質の低下を軽減する大きさの球面収差が光学部に設定されていると共に、該光学部における高次収差が光軸回りで回転対称とされているコンタクトレンズも、特徴とする
ことができる。
【0030】
このような構造とされたコンタクトレンズは、上述の説明から明らかなように、患者に良好なQOVを与えることの出来るものであり、しかも、設計および製造が容易に実現可能となることから、市場に提供して実用化することが容易となる。なお、このような本発明に従う構造とされたコンタクトレンズは、上述の本発明方法によって好適に製造されるものである。また、上述の製造方法の説明において記載した各好適な態様は、何れも、本発明に係るコンタクトレンズにおいて、構成上可能な限り、適用され得る。
【0031】
また、本発明に係るコンタクトレンズにおいては、そのレンズ本体や個別包装,収容パッケージや収容箱の少なくとも一つに対して、前述の如き本発明方法に従って設定された球面収差の値とRMSの値との少なくとも一方が表示されていることが望ましい。