(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192014
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】生体インプラント
(51)【国際特許分類】
A61L 27/32 20060101AFI20170828BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20170828BHJP
A61F 2/30 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
A61L27/32
A61L27/54
A61F2/30
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-556300(P2013-556300)
(86)(22)【出願日】2013年1月16日
(86)【国際出願番号】JP2013050661
(87)【国際公開番号】WO2013114947
(87)【国際公開日】20130808
【審査請求日】2016年1月4日
(31)【優先権主張番号】特願2012-22205(P2012-22205)
(32)【優先日】2012年2月3日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 正明
(72)【発明者】
【氏名】塚本 正紹
(72)【発明者】
【氏名】野田 岩男
【審査官】
磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−512959(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/029612(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/023510(WO,A1)
【文献】
SHIMAZAKI et al.,In Vivo Antibacterial and Silver-Releasing Properties of NovelThermal Sprayed Silver-Containing Hydr,J Biomed Mater Res Part B: Appl Biomater,2009年,92B,386-389
【文献】
NODA et al.,Development of Novel Thermal Sprayed Antibacterial Coatingand Evaluation of Release Properties of Si,J Biomed Mater Res Part B: Appl Biomater,2008年,89B,456-465
【文献】
安藤他,抗菌性生体材料の開発,整形・災害外科,2010年 4月30日,第53巻第5号,467-475
【文献】
宮本他,新規の抗菌性生体材料の開発,化学療法の領域,2010年,Vol.26、No.9,p.125-129
【文献】
野田他,銀含有アパタイトコーティング,バイオマテリアル−生体材料,2011年,Vol.29-4,p.266-270
【文献】
野田他,銀含有ハイドロキシアパタイト溶射技術の開発第4報,第40回日本人工関節学会プログラム・抄録集,2010年,p.350
【文献】
安藤他,銀系抗菌生体材料の開発,第34回日本骨・間接感染症学会プログラム・抄録集,2011年,p.64
【文献】
野田他,銀含有ハイドロキシアパタイト溶射技術の開発第5報,第41回日本人工関節学会プログラム・抄録集,2011年,p.371
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/32
A61F 2/30
A61L 27/54
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属またはセラミックスからなる基体上の少なくとも一部に、リン酸カルシウム系材料を溶射材料とする溶射被膜が形成され、該溶射被膜中の銀濃度が、0.05重量%〜3.00重量%であり、該溶射被膜が水和され、該溶射被膜の表面にヒドロキシアパタイトが存在する、生体インプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗菌性を有する生体インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
骨傷害/疾病双方の治療への生体インプラントの使用は、活動的な人口及び老人人口の増加と共に絶えず拡大している。骨破砕及び骨除去のための骨代替物の使用又は脆弱化した骨のためのサポートの使用には、人工骨代替物が、生来骨とともに、強い関節又は骨を形成して、構造の完全性を保障することを必要とする。骨は隣接構造中へ、特に隣接構造が多孔質であり骨に匹敵する場合に、その中へ成長していくことができる。しかし、骨は、多孔質構造中へ成長するだけではなく、多孔質構造中に成長した生来の骨と生体インプラントとの間の強い接着を可能にするように結合する必要がある。
【0003】
生体インプラントの骨への固着のためには、骨がインプラント表面へ及び/又は中へ成長することが重要である。多数の研究により、コバルト−クロム(Co−Cr)及びチタン(Ti)−合金からなる生体インプラント上のリン酸カルシウムコーティング、例えば生物的アパタイトは、合金だけの裸表面の時より遥かに迅速に骨付着を促進することが明らかにされている。生物的アパタイトCa
10(PO
4)
6(OH)
2は、ヒトの骨および歯起源の主要化合物の1つである。この合成形の、ヒドロキシアパタイト(HA)は、天然産アパタイトに非常に類似しており、歯科及び整形外科用生体インプラントでHAを使用する研究が行われている。HA又は他の結晶性リン酸カルシウムを用いる被覆により、移植後、周囲の骨及び組織と容易に一体化する生体インプラントを製造することができる。
【0004】
しかしながら、整形外科で使用される人工関節は、変形性関節症などに対して関節機能を再建できる有効な治療法であるが、人工関節表面に細菌が繁殖し、術後感染を発症することがある。これは人工関節表面に細菌が付着しやすく、また付着した細菌がバイオフィルムと呼ばれる生息域を形成するためである。この場合、抗菌薬(抗生物質)も効かなくなり、治療は容易ではない。さらに骨髄炎を引き起こした場合には、人工関節を抜去、再手術が必要になり、時には患肢を切断せざるを得なくなることもある。
【0005】
これに対し、生体インプラントの表面にHAを沈殿させ、それを乾燥させることにより抗生物質などの含浸に適した、結晶性が高く比表面積が大きなHA層をコーティングする方法、そのコーティング層に抗生物質などを含浸させる治療剤含浸生体インプラントが提案されている(特許文献1)。しかしながら、この方法では、抗生物質の含浸には適するものの、被膜の気孔径、気孔率が均一であるため、希望する速度で薬剤を徐放させることが困難であり、薬剤は一定速度で一気に溶出し易いという問題がある。
【0006】
これに対し、本願出願人は、リン酸カルシウム系材料からなるコーティング層の結晶度を調整することにより、HAの消失速度を調整して、抗菌剤または抗菌薬の放出速度を調整する方法を提案した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2005−506879号公報
【特許文献2】特開2008−73098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、術後感染の発症の原因の一つは、細菌がインプラント表面にバイオフィルムを形成し、抗菌薬が効かなくなることである。特に手術直後の24時間は、患者の免疫機能が大きく低下しているため、細菌感染のリスクが極めて高い。その後、患者の免疫機能は徐々に回復していくが、術後1週間から数週間という長期にわたって感染リスクが高い状態が続く。特に、糖尿病などの免疫性疾患で、細菌感染に対する抵抗力の弱い患者(易感染性宿主:コンプロマイズドホスト)は感染リスクが高い。また、インプラント手術後に感染症を発症した患者のインプラント再置換手術は、通常の何倍あるいは何十倍も感染率が高い。そのため、術後長期にわたってバイオフィルムの形成を阻害することができる生体インプラントが必要とされている。しかしながら、従来の生体インプラントでは、そのような長期に亘ってバイオフィルムの形成を阻害することは困難であった。
【0009】
そこで、本発明は、術後長期に亘ってバイオフィルム形成を阻害することの可能な生体インプラントを提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の生体インプラントは、金属、セラミックスまたはプラスチックからなる基体上の少なくとも一部に、リン酸カルシウム系材料からなる溶射被膜が形成され、該溶射被膜中の銀濃度が、0.05重量%〜3.00重量%であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明においては、上記リン酸カルシウム系材料が、ヒドロキシアパタイト、α−第3リン酸カルシウム、β−第3リン酸カルシウムおよび第4リン酸カルシウムから成る群から選択される1種または2種以上の混合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、術後の感染リスクが高い期間に、長期に亘ってインプラント表面へのバイオフィルムの形成を阻害することができるので、抗菌薬による感染治療効果を持続させ、術後感染のリスクを低減させることができる。なお、本発明において、長期とは、術後感染リスクの高い期間を指し、術後1週間から数週間の期間を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の生体インプラントは、金属、セラミックスまたはプラスチックからなる基体上の少なくとも一部に、リン酸カルシウム系材料からなる溶射被膜が形成され、該溶射被膜中の銀濃度が、0.05重量%〜3.00重量%であることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の生体インプラントには、疾病や外傷等の治療のために使用される人工骨や内固定具、または失われた関節機能を再建するために使用される人工関節、歯牙を再建するために使用される人工歯根などの金属製、セラミック製もしくはプラスチック製のインプラントが含まれる。
【0015】
また、生体インプラントの基体には、金属、セラミックスまたはプラスチックを用いることができる。金属としては、ステンレス合金、コバルト・クロム合金、チタン、チタン合金、アルミナ、そしてジルコニア等を用いることができるが、チタン又はチタン合金が好ましい。チタン合金としては、アルミニウム、スズ、ジルコニウム、モリブデン、ニッケル、パラジウム、タンタル、ニオブ、バナジウム、白金等の少なくとも1種を添加した合金を用いることができる。好ましくは、Ti−6Al−4V合金である。また、セラミックスとしては、例えば、アルミナ、ジルコニア、アルミナ・ジルコニア複合セラミックス等を用いることができる。また、プラスチックとしては、例えば、ポリエチレン、フッ素系樹脂、エポキシ樹脂、PEEK樹脂、ベークライト等を用いることができる。
【0016】
また、リン酸カルシウム系材料としては、ヒドロキシアパタイト、α−第3リン酸カルシウム、β−第3リン酸カルシウムおよび第4リン酸カルシウムから成る群から選択される1種又は2種以上の混合物を用いることができる。好ましくは、ヒドロキシアパタイトである。
【0017】
(製造方法)
リン酸カルシウム系材料からなる溶射被膜を形成するために用いる溶射法としては、フレーム溶射法、高速フレーム溶射法、プラズマ溶射法およびコールドスプレー法を挙げることができる。例えば、フレーム溶射法では、酸素と可燃性ガスとのガス炎を熱源として溶射材料を溶融または溶融に近い状態にして母材の表面に吹き付けて被膜を形成する。通常のフレーム溶射法では、溶射温度は約2700℃、溶射速度マッハ0.6である。溶射条件として、例えば、酸素ガス 50psi、アセチレンガス 43psiのガスフレームトーチ中に、100psiのドライエアーで溶射粉末を導入し、溶射距離60〜100mmで溶射を行うことができる。
【0018】
溶射被膜の厚さは、5〜100μm、好ましくは20〜40μmである。5μmより薄いと溶射部位全域を覆うことができなくなり、100μmより厚いと溶射時の残留応力で、被膜の密着強度が低下するからである。
【0019】
形成した溶射被膜を熱処理することが好ましい。リン酸カルシウム系材料の結晶度が増加して被膜の安定性を向上させることができるからである。熱処理は、10
−2Pa以下の減圧下、400〜1000℃の温度範囲で、0.5〜7時間行う。好ましくは550〜850℃の温度範囲で、1〜5時間である。
【0020】
また、熱処理後、溶射被膜を水和処理することが好ましい。水和処理を行うことにより、酸素アパタイトから水酸アパタイトへ転換され、銀イオンの溶出性を安定化できる。水和処理は物質に水分子を付加させる工程であり、例えば、60〜100℃の水中に10〜60分間浸漬することで行うことができる。
【0021】
溶射被膜中の銀濃度は、溶射材料となるリン酸カルシウム系材料に配合する銀原料の量を変化させることにより、調整することができる。溶射被膜中の銀濃度は、0.05重量%〜3.00重量%、好ましくは0.05重量%〜2.50重量%、より好ましくは0.05重量%〜1.00重量%、さらに好ましくは0.1重量%〜1.00重量%である。0.05重量%より小さいと抗菌性が十分でないからである。また、3.00重量%より大きいと生体組織や臓器に毒性を示すようになるからである。文献によれば、多量の銀は、アルギリア症(全身の皮膚の色調が灰色になる病気)や白血球の減少、肝臓や腎臓へのダメージを引き起こす。我々の研究でも、銀濃度が3.00重量%より大きいと、細胞の変形や新生骨の形成阻害が生じることを見出している。
【0022】
本発明の生体インプラントの例として、例えば、骨内に挿入される骨接触部位であるステムと、該ステムの上端に形成され骨頭ボールを固定するネック部とを有する人工関節であって、少なくとも該骨接触部位の表面の一部にリン酸カルシウム系材料からなる溶射被膜が形成され、該溶射被膜中の銀濃度が、0.05重量%〜3.00重量%である人工関節を挙げることができる。また、この人工関節がチタン又はチタン合金からなることが好ましい。
【実施例】
【0023】
実験例1.
(試験片作製)
50mm×50mm×2mmの純チタン板の片面に、所定量の酸化銀を添加したヒドロキシアパタイトを、フレーム溶射法にて溶射することにより、厚さ約40μmの溶射被膜を形成した。
【0024】
フレーム溶射は、酸素ガス 50psi、アセチレンガス 43psiのガスフレームトーチ中に、100psiのドライエアーで溶射粉末を導入し、溶射距離60〜100mmで溶射を行った。
【0025】
(銀濃度の測定)
試験片を100℃にて十分乾燥後、秤量した後、硝酸溶液(硝酸5mL+純水50mL)に加熱溶解させた。この溶液中の銀濃度をICP発光分光分析法にて定量分析し、被膜中の銀濃度を求めた。次に被膜を溶解させて除去した後の試験片を十分乾燥させ、再び秤量して、被膜溶解前との重量差から、被膜重量を求めた。被膜中の銀量を被膜の重量で割って、被膜中の銀濃度(重量%)を算出した。本実施例の被膜中の銀濃度は0.3重量%であった。
【0026】
(抗菌性能試験)
抗菌性能試験として、バイオフィルム形成阻害性能の評価を行った。
試験片にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌を付着させた後、37℃に保持した牛血清中に浸漬し、60rpmで攪拌し、流動状態下で培養した。培養1週間後および2週間後、被膜上に形成されたバイオフィルムを蛍光染色し、蛍光顕微鏡によりバイオフィルムの被覆率を測定するとともに形態観察も行った。なお、バイオフィルム被覆率の算出には画像解析ソフトウェアを使用し、蛍光発光部分の表面積割合から、被覆率を求めた。
【0027】
実験例2.
酸化銀を添加しないヒドロキシアパタイトを用いた以外は、実験例1と同様にして試験片を作製し、抗菌性能試験に供した。
【0028】
(結果)
バイオフィルムの被覆率を表1に示す。1週間培養と2週間培養のいずれにおいても、実験例1では、コントロールに比し、バイオフィルムの被覆率が低くなり、バイオフィルムの形成を阻害することを確認できた。
【0029】
【表1】
【0030】
実験例3.
本実験例は、被膜中の銀濃度の影響を再確認するために行ったものであり、銀濃度(重量%)は、0%、0.05%、0.1%、0.3%とした。
【0031】
(試験片作製)
直径14mm、厚さ1mmの純チタン板の片面に、所定の酸化銀を添加したヒドロキシアパタイトをフレーム溶射して、厚さ40μmの溶射被膜を形成した。この時、酸化銀の添加量を調整することにより、被膜中の銀濃度(重量%)が0%、0.05%、0.1%、0.3%の4種の試験片を製作した。
【0032】
フレーム溶射は、実験例1と同様の方法により行った。
【0033】
(銀濃度の測定)
銀濃度の測定は、実験例1と同様の方法により行った。
【0034】
(抗菌性能試験)
抗菌性能試験として、バイオフィルム形成阻害試験を行った。牛血清培地内の細菌が飽和状態になることを避けるため、培地を3日おきに交換した以外は、実験例1と同様の方法により行った。
【0035】
(結果)
表2にバイオフィルム被覆率の測定結果を示す。1週間後培養と2週間後培養のいずれにおいても、被膜中の銀濃度に比例してバイオフィルム被覆率の低下が認められた。これにより、被膜中の銀濃度が増加すると、バイオフィルムの形成が阻害されることを確認できた。なお、本実験例の結果、および経験的な細菌増殖の知見を考慮すると、銀濃度が0.05%であれば約4週間、0.1%であれば約6週間、0.3%であれば約10週間においてバイオフィルム形成阻害効果を保持するものと推定される。
【0036】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の生体インプラントは、術後長期に亘りバイオフィルム形成を阻害する効果を有しているので、術後感染のリスクを大きく低減することができる。特に、易感染性宿主や、インプラント手術後に感染症を発症した患者のインプラント再置換手術等の感染リスクが高い場合にはその効果は大きい。