【実施例】
【0038】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
<ポリマーの重合>
下記化合物(i)(市販品、中村化学製)0.4gと化合物(ii)(メタクリル酸クロリドとHOSu(N-ヒドロキシスクシンイミド)の反応生成物を使用)を0.1gを溶媒プロピオン酸エチル10mL中、室温25℃で3時間γ線照射下(30kGy)で反応させ、重合反応を行った。
【0040】
【化3】
【0041】
<ペプチドの固定化>
微粒子表面に結合させるペプチドは以下のものを用いた。
AD22(MAP化した分子量として1.4 kD)Ala Ser Glu Phe Tyr Asn Ser Glu Asn Lys Thr Tyr Asp Leu Asp Phe Lys Thr Pro Asn Asn Asp(配列番号6)
この抗原ペプチド配列に基づき、(AD22)
4-MAP (MAP = multiple antigenic peptide))(分子量1.4kD)(
図13)を、手動合成装置を用いて合成し、SepPack(waters社製の使い捨てODSカラム)にて精製した。
【0042】
<ペプチドの導入>
続いて、活性エステル基(スクシンイミド基)を介して300mgの微粒子表面に熱帯熱マラリア原虫の抗原ペプチド(比較例1:(AD22)
4-MAP)3mg)を化学結合させた検査材料を作製した。
このとき化学結合には37℃4時間、さらに物理吸着に37℃20時間の条件にて反応させた。
【0043】
<ペプチドが導入されたことの確認>
上記ペプチドの化学結合に伴って遊離するHOSu(N-ヒドロキシスクシンイミド)量をHPLCによってモニターすることで、反応の進行を確認した。
【0044】
<凝集試験>
国立国際医療研究センター研究所において保管されている熱帯熱マラリア患者血漿(Pf患者)、正常なボランティア血漿(正常)、熱発患者としてマラリア疑い採血を受けたが抗原検出迅速診断キットと顕微鏡によるスメアー観察から陰性と診断された患者血漿(熱発患者)を用いて凝集試験を行った。
96穴プレートに、8個のウェルに、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で16〜2048倍希釈した被験者血清を50μLずつ、および1個のウェルにリン酸緩衝液のコントロールを50μLを加え、最後に上記微粒子を25μL(0.1mg/mL)ずつ加えた。96穴プレートを1分間振動撹拌後に、室温で8時間静置して反応させることで、凝集反応を検出した。
その結果、Pf患者と正常、Pf患者と熱発患者について一定の違いを表す陽性凝集像と陰性凝集像を得ることに成功した。
【0045】
さらに、フィリピンの流行地住民の血清(フィリピン大学公衆衛生学部寄生虫学教室において保管されている、熱帯熱三日熱マラリア原虫の混合感染患者血清、熱帯熱マラリア患者、三日熱マラリア患者血漿、発熱のためにマラリア疑い採血を受けたが抗原検出迅速診断キットと顕微鏡によるスメアー観察から陰性と診断された患者(熱発患者)の各10検体の合計40本の患者血清)について測定を行ったところ、マラリア患者と発熱患者(マラリアに現在感染していない患者)と抗体価の違いがやや不明瞭となり、流行地の血清ではマラリア患者と非患者間の区別のできないことが問題として明らかになった(
図12)。この理由はエノラーゼへの抗体価は過去のマラリア感染履歴を比較的長く反映するためであると考えられる。
【0046】
<実施例1>
本発明者らは、マラリア原虫由来の蛋白質であって、流行地患者血清の区別が可能なペプチド抗原配列を考え、(ヒトに感染する4種類の)原虫種内では配列がよく保存されていて抗原変異の少ない蛋白質であるLactate Dehydrogenase(LDH、乳酸脱水素酵素)に着目して抗原設計を行った。特に感染者の多い熱帯熱と三日熱マラリアの感染履歴を測定できるタイプの抗原ペプチドを探索した。
【0047】
抗原ペプチド配列はマラリア原虫LDHのアミノ酸配列から3種類を選択した。すなわち熱帯熱マラリア固有配列部分ペプチド18残基(pfLDH)(配列番号4)、三日熱マラリア固有配列ペプチド18残基(pvLDH)(配列番号5)、そして三日熱マラリア原虫由来LDHと熱帯熱マラリア原虫由来LDHの共通配列部分ペプチド19残基(pLDH)(配列番号3)である。
【0048】
<pLDH抗原の合成>
アミノ酸配列
(Gly-Phe-Thr-Lys-Ala-Pro-Gly-Lys-Ser-Asp-Lys-Glu-Trp-Asn-Arg-Asp-Asp-Leu-Leu)
(配列番号3)-Lys
組成式C
102H
161O
32N
29(mw. 2304.19)
【0049】
合成手順
pLDH抗原の合成はFmoc固相合成法によりShimadzu PSSM8自動ペプチド合成装置を用いて行った。固相合成で使用した樹脂はFmoc-Lys(Boc)-PEG-resin(0.18 mmol / g)を54 mg用いた。この樹脂を室温にて、3時間DMFで膨潤させた後(条件a)、脱Fmoc反応、保護アミノ酸の縮合反応、を繰り返して行った。合成に用いたFmoc保護アミノ酸の重量を表1に示した(各0.10 mmol、10 当量)。縮合剤は保護アミノ酸と等モルのHCTU/HOBt/DIEAを用い、各反応時間を30 minとした。脱Fmocには3 %DBU/DMF(条件b)を用いた。全アミノ酸縮合後、DMFとCH
2Cl
2によって樹脂を洗浄、trifluoroacetic acid : H
2O : triisopropylsilane = 95 : 2.5 : 2.5の混合試薬2 mLを加えて、室温で20時間静置し(条件c)、樹脂からの切り出しを行った。この溶液を回収し、CH
2Cl
2で樹脂の洗浄を行い、減圧乾燥によってペプチドを得た。得られたペプチドを冷ジエチルエーテルで洗浄を行い、減圧乾燥によって乾燥させ、粗生成物を得た(粗生成物の収量は表2に記載)。この粗生成物をHPLC(
図2)、ESI-MSにより目的物を確認後、ODSカラムの固相抽出(Waters SepPack ODS-5g)によって、15, 20, 25, 30 % アセトニトリル水溶液(0.1 % trifluoroacetic acid)を各50 mLで溶出させ、10 mLずつ分取した。その後、各フラクションをHPLCとESI-MSによる測定を行い、20 %-2のフラクションで目的物を確認し、凍結乾燥によって目的物を得た(精製後の収量は表2に記載)。
図3、
図4にそれぞれ精製物のHPLCクロマトグラムとESI-MSスペクトルを示した。
【0050】
HPLC条件
分析装置:Shimadzu LC-2010C-HT
分析カラム: YMC-PACK ODS(4 x 100 mm、粒子径3μm)
溶媒条件: 10%-70% アセトニトリル水溶液(0.1 % trifluoroacetic acid)
分析時間: 30分、流速: 1 mL/min
ESI-MS条件
分析装置:AP-SCIEX API-2000
溶媒: 10% アセトニトリル水溶液(0.1 % trifluoroacetic acid)
流速: 10 mL/min
【0051】
合成条件の検討
表2に記載のように、3つの条件a〜cについて変更することで、目的物の収量が12 %から50 %へ大幅に向上した。HPLCクロマトグラムの比較(
図2と
図6)から、切り出し反応の温度と時間(条件c)によってArg残基側鎖が残ることなく目的物の収量が大幅に向上したことがわかる。さらに(条件a)膨潤時間の延長によって固相反応樹脂へ十分にDMF溶媒を親和させることで反応試薬が十分に樹脂内へ行き渡り、(条件b)脱Fmoc試薬をpiperidineからDBUへ変更することで、脱Fmoc反応収率が向上し、合成中のペプチド鎖にFmoc基が残ることがないため、結果として欠損配列の生成が抑えられたことがわかった。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
<抗原ペプチドの高分子微粒子への修飾>
抗原ペプチドの高分子微粒子への化学修飾は、MAP化しなかったこと以外は上記比較例1と同様にして、抗原ペプチドと高分子微粒子をそれぞれインキュベーター内37℃で24時間反応させた。その後遠心分離し反応をブロッキングした。途中、反応時間4時間、24時間に反応溶液のサンプリングを行い、生成したHOSuを逆相HPLCにより検出することで反応の進行を確認した。
【0055】
<凝集試験>
フィリピン大学マニラ校公衆衛生学部において保管されている、熱帯熱・三日熱マラリア混合感染患者血漿(Pf,Pv混合感染患者)、熱帯熱マラリア患者血漿(Pf 患者)、三日熱マラリア患者血漿(Pv 患者)、熱発患者としてマラリア疑い採血を受けた血漿(熱発患者)、の各試料を用いて凝集試験を行った。96穴プレートに、12個のウェルに、リン酸緩衝生理食塩水(PBS-0.1% tween20)で16〜32768倍希釈した血漿試料を25μLずつを加え、最後にpLDH抗原を修飾したナノ微粒子を25μL(0.1mg/mL)ずつ加えた。96穴プレートを1分間振動撹拌後に、室温で8時間静置して反応させることで、凝集反応を検出した。その結果、
図7に示すように、マラリア患者(Pf,Pv混合感染患者、Pf 患者、Pv 患者)とマラリアではない熱発患者について有意な違いを表す抗体価を測定することに成功した。
【0056】
得られた抗体価について、従来の抗体価検査方法であるELISA法と比較を行った。ELISA法は抗原ペプチド(各10μg)を結合させたNUNC製96穴マイクロプレート(イモビライザーアミノ)に、1次抗体の希釈血漿(希釈率1/64、1/256、各25μL)、2次抗体のHRP修飾抗ヒトIgG抗体(希釈率1/1000、100μL)、検出試薬にABTS(濃度0.7mg/mL、300μL)を用いた。ELISA法の抗体価には血漿希釈率を1/64, 1/256の場合における、マイクロプレートリーダーにおける405nmの吸光度を用いた。
図8(希釈率64倍)と
図9(希釈率256倍)に示すように、ナノ微粒子による抗体価測定は、従来のELISA測定法と十分な相関のあることがわかった。
【0057】
同様の方法で、pfLDH抗原(
図10)とpvLDH抗原(
図11)を修飾したナノ微粒子を用いて抗体価測定を行った。
図10と
図11に示すように、今回の方法ではマラリア患者(Pf,Pv混合感染患者、Pf 患者、Pv 患者)とマラリアではない熱発患者について有意な違いを見出すことができなかった。よってpLDH抗原を修飾したナノ微粒子がマラリア感染の診断に適していることがわかった。
【0058】
本発明者らの本発明の方法(pLDH微粒子)及び従来の方法[本発明者らの既発明の方法(AD22微粒子)]について、診断法として感度と特異度等に関する有用性を比較した。上記凝集試験と同様に、それぞれの微粒子を用いて試験を行い、解析を行った。診断法として感度と特異度等に関する有用性を確認できるデータを、表3,4,5及び
図14,15,16に示した。すなわち表3及び
図14は、フィリピン流行地において採取された熱帯熱・三日熱マラリア混合感染患者血清10例、発熱患者血清10例を測定し、ROC解析を行った場合の感度・擬陽性の相違を示す。表4及び
図15は、フィリピン流行地において採取された熱帯熱マラリア患者血清10例、発熱患者血清10例を測定し、ROC解析を行った場合の感度・擬陽性の相違を示す。表5及び
図16は、フィリピン流行地において採取された、熱帯熱マラリア患者血清10例、三日熱マラリア患者血清10例、発熱患者血清10例を測定し、ROC解析を行った場合の感度・擬陽性の相違を示す。表3及び
図14から本発明の方法は、従来の方法と比較して、感度、特異度ともにすぐれていることがわかる。表4及び
図15から本発明の方法は、従来の方法と比較して、感度、特異度ともにすぐれていることがわかる。表5及び
図16から本発明の方法は、従来の方法と比較して、感度、特異度ともにすぐれていることがわかる。
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
比較の結果、単一の抗原を用いる本発明の方法は、原虫抗原全体を用いるIFAT法と比較して、特異性ではやや劣っていることがわかった。しかし、本発明の方法は、多検体を同時に解析できる点(IFATは一つ一つの患者試料を蛍光顕微鏡で測定)、検査材料が合成物のため室温でも安定な点(IFAT法で用いる原虫抗原は赤血球試料のため厳密な冷蔵保管が必要)に大きな優位性がある。
【0063】
さらに、本発明の方法は簡便なために、マラリア既往のない血清試料を見分けるのに特に適している。一方、IFAT法は高い抗体価の事例を見いだすのに便利である。実際に、フィリピンの様にマラリア対策が進んで患者数が減少しつつある流行地では、マラリア抗体価の低い場合が多く、結果として本発明の方法には、臨床現場における使用や流行地対策や疫学調査など、実用的にとても大きな優位性があると判断される。
【0064】
以上のとおり、本発明によって作成された抗原微粒子は、従来1検体の診断に約1日かかっていたIFAT法の代替法として大幅に多くの検査を同時に実施できると期待される。さらに本発明は3μLの血清検体があれば5時間で結果が得られるために、流行地での現地住民集団の疫学調査や集団間での流行の時間的な推移を調査することが期待される。
【0065】
IFAT法はマラリア原虫への抗体価の高さにより、現在の感染状況や最近の既往歴について診断する技術である。また、日本国内においてはIFATが実施されなくなったため、マラリア流行地滞在時や滞在後の過去の発熱について「マラリアであったのかそうでなかったのか」を確実に診断するIFAT代替法の開発が臨床現場から強く望まれている。
本発明は、このような要望に対応する技術を提供するものである。