特許第6192086号(P6192086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192086
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】多波長測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/35 20140101AFI20170828BHJP
   H01S 5/00 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   G01N21/35
   H01S5/00
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-72316(P2012-72316)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-205113(P2013-205113A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年2月6日
【審判番号】不服2016-9664(P2016-9664/J1)
【審判請求日】2016年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 直克
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 浩一
(72)【発明者】
【氏名】川西 哲也
(72)【発明者】
【氏名】寶迫 巌
【合議体】
【審判長】 三崎 仁
【審判官】 信田 昌男
【審判官】 ▲高▼見 重雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−29642(JP,A)
【文献】 特開2003−8148(JP,A)
【文献】 特開平6−283812(JP,A)
【文献】 特開2012−191075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの光共振器と,
前記1つの光共振器内に配置され,量子ドットをそれぞれ備え,互いに異なる複数の波長の光をそれぞれ発する,複数の構造体を積層してなり,前記複数の波長を含む光を前記一つの光共振器の外部に出射する発光部材と,
前記一つの光共振器の外部に出射された光から前記複数の波長の光のいずれかを選択する光学部材と,
複数の測定成分を含む測定対象を透過した,前記選択された波長の光を受光する受光素子と,
を具備し、複数の成分を測定する多波長測定装置。
【請求項2】
前記発光部材が,
第1の層と,この第1の層上に配置される第1の量子ドットと,この第1の量子ドットを覆う第2の層と,を有し,第1の波長の光を発する第1の構造体と,
第3の層と,この第3の層上に配置される第2の量子ドットと,この第2の量子ドットを覆う第4の層と,を有し,前記第1の構造体に積層して配置され,かつ前記第1の波長と異なる第2の波長の光を発する第2の構造体と,
第5の層と,この第5の層上に配置される第3の量子ドットと,この第3の量子ドットを覆う第6の層と,を有し,前記第2の構造体に積層して配置され,かつ前記第1,第2の波長と異なる第3の波長の光を発する第3の構造体と,
を有する,
ことを特徴とする請求項1記載の多波長測定装置。
【請求項3】
前記測定対象が第1〜第3の測定成分を含み,
前記光学部材を制御して,前記第1〜第3の波長の光を選択させ,前記選択された第1〜第3の波長の光それぞれでの受光素子の受光量を記憶する制御部と,
前記記憶された前記受光素子の受光量および前記第1〜第3の測定成分の前記第1〜第3の波長での吸光率に基づいて,前記測定対象の複数の測定成分の組成比を算出する算出部と,
を具備することを特徴とする請求項2記載の多波長測定装置。
【請求項4】
前記第1〜第3の量子ドットの組成またはサイズの少なくとも一方が互いに異なる,ことを特徴とする請求項3記載の多波長測定装置。
【請求項5】
前記第1,第3,および第5の層の厚さ,構成材料の格子定数の少なくともいずれかが異なる,ことを特徴とする請求項3記載の多波長測定装置。
【請求項6】
前記第2,第4,および第6の層の組成が異なる,
ことを特徴とする請求項3記載の多波長測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,多波長での光学測定を行う多波長測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多波長での光学測定が種々の用途に利用されている。例えば,材料に対する光の透過量を複数波長で測定して,その材料中に含まれる成分の量を算出することがある。このため,例えば,ブロードな波長帯域を有する光源から発せられた光を分光器等で分光して,分光測定がなされる(例えば,特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−072007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで,測定に用いる波長は,測定材料中の成分(物質)に応じた複数の波長で足りることが多い。即ち,物質はある特定の波長で,光吸収を示す場合が多い(物質が,波長λ1,λ2・・・のように波長軸上で特徴ある光吸収スペクトルを有する)。光吸収スペクトルがブロードな場合でも,これは同様であり,測定材料中の成分(物質)に応じた複数の波長で足りることが多い。
この場合,光源から発せられる光に,測定に用いられない波長の光が含まれ,エネルギー損失の原因となる。
【0005】
上記に鑑み,本発明は,多波長での効率的な光学測定を可能とする多波長光学測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る多波長測定装置は,光共振器と,前記光共振器内に配置され,量子ドットまたは量子井戸をそれぞれ備え,互いに異なる複数の波長の光を発する,複数の構造体を積層してなる発光部材と,前記複数の波長の光のいずれかを選択する光学部材と,複数の成分を含む測定対象を透過した,前記選択された波長の光を受光する受光素子と,を具備することを特徴とする。
【0007】
「量子ドットまたは量子井戸をそれぞれ備え,互いに異なる複数の波長の光を発する,複数の構造体を積層してなる発光部材」からの複数の波長の光のいずれかを選択して,測定対象を光学的に測定する。この結果,多波長での効率的な光学測定が可能となる。
【0008】
前記発光部材が,第1の層と,この第1の層上に配置される第1の量子ドットまたは第1の量子井戸と,この第1の量子ドットまたは第1の量子井戸を覆う第2の層と,を有し,第1の波長の光を発する第1の構造体と,第3の層と,この第3の層上に配置される第2の量子ドットまたは第2の量子井戸と,この第2の量子ドットまたは第2の量子井戸を覆う第4の層と,を有し,前記第1の構造体に積層して配置され,かつ前記第1の波長と異なる第2の波長の光を発する第2の構造体と,第5の層と,この第5の層上に配置される第3の量子ドットまたは第3の量子井戸と,この第3の量子ドットまたは第3の量子井戸を覆う第6の層と,を有し,前記第2の構造体に積層して配置され,かつ前記第1,第2の波長と異なる第3の波長の光を発する第3の構造体と,を有しても良い。
第1〜第3の構造体それぞれでの第1〜第3の量子ドットまたは量子井戸からの第1〜第3の波長の光を用いて,効率的な光学測定が可能となる。
【0009】
前記測定対象が第1〜第3の成分を含み,前記光学部材を制御して,前記第1〜第3の波長の光を選択させ,前記選択された第1〜第3の波長の光それぞれでの受光素子の受光量を記憶する制御部と,前記記憶された前記受光素子の受光量および前記第1〜第3の成分の前記第1〜第3の波長での吸光率に基づいて,前記測定対象の複数の成分の組成比を算出する算出部と,を具備しても良い。
第1〜第3の波長の光での測定結果に基づいて,第1〜第3の成分の組成比を算出できる。
【0010】
ここで,構造体それぞれから放出される光の波長を異ならせるには種々の手法があり得る。例えば,次の(1)〜(4)およびこれらの組み合わせによって,構造体それぞれから放出される光の波長を異ならせることができる。
【0011】
(1)前記第1〜第3の量子ドットの組成またはサイズ(厚さ等)の少なくとも一方が異なる。
(2)前記第1,第3,第5の層の厚さが異なる。
(3)前記第1,第3,第5の層の構成材料の格子定数が異なる。
(4)前記第2,第4,第6の層の組成が異なる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば,多波長での効率的な光学測定を可能とする多波長光学測定装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る多波長測定装置10を表す模式図である。
図2】試料S(測定対象)の吸光度スペクトルと光源20からの発光スペクトルの関係を表す図である。
図3】積層された構造体を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下,図面を参照して,本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る多波長測定装置10を表す模式図である。多波長測定装置10は,試料Sの分光特性を測定するものであり,光源20,光ファイバ31〜31e,光カプラ32,レンズ33a,33b,セル34,光学素子35a,35b,光検出器36a,36b,制御・計算部37を有する。
【0015】
光源20は,試料Sの分光測定に適した複数の波長の光を選択して発する。
図2は,試料S(測定対象)の吸光度スペクトルと光源20からの発光スペクトルの関係を表す図である。
【0016】
ここでは,試料Sが,3つの物質f,g,hを混合した混合物であるとする(複数の成分を含む測定対象)。図2(b)に,これら3つの物質f,g,hの光吸収(吸光度)スペクトルf(λ),g(λ),h(λ)の概略を示す。
【0017】
ここで,物質f,g,hは,例えば,高分子物質である。例えば,図2(b)に示すように,高分子物質による光吸収(吸光度)スペクトルはブロードであり,吸光度スペクトルf(λ),g(λ),h(λ)間で重なりがある。離れた波長間隔(例えば,図2のλ1〜λ3)の光を用いる吸光度測定により,吸光度スペクトルf(λ),g(λ),h(λ)に重なりのあるような複数成分f,g,hの混合サンプルの成分量の分析が可能である。例えば,生体の多成分分析(アルブミンやグルコース等)が可能となる。一例として,1.26ミクロン近傍に光吸収が存在するグルコースを測定対象物質と決めた場合,1.26ミクロン近傍を含む複数の波長の光を準備すれば良い。
【0018】
このとき,例えば,図2に示す波長λ1,λ2,λ3の光を選択的に用いることで,物質f,g,hの定量化(混合比の算出)が可能となる。波長λ1,λ2,λ3は,例えば,980nm〜2000nmの範囲であり,吸光度スペクトルf(λ),g(λ),h(λ)の値が互いに異なる領域に設定できる。特に,波長λ1,λ2,λ3は,吸光度スペクトルf(λ),g(λ),h(λ)の値の相違が大きい領域に設定するのが好ましい。図2に示すように,光吸収(吸光度)スペクトルf(λ),g(λ),h(λ)がブロードな場合,波長λ1,λ2,λ3にはある程度の任意性が認められる。
【0019】
ここで,波長λ1,λ2,λ3以外の光はこの物質f,g,hの混合比の測定には必要が無い。即ち,光源20が波長λ1,λ2,λ3以外の光を発生すると(ブロードな光発生),エネルギーの損失となる。
【0020】
そこで,図2(a)に示すように,光源20が,測定対象物質f,g,hの光吸収スペクトルに合わせた波長λ1,λ2,λ3のピークP1〜P3の光を選択して発光するようにする。この結果,光源20での高効率な測定が可能となる。ここでは,波長λ1のピークP1の光が発せられ,波長λ2のピークP2の光および波長λ3のピークP3の光は,発せられない。なお,光源20の詳細は後述する。
【0021】
光ファイバ31,31a〜31eは,光源20からの光を導く導光路である。
光カプラ32は,光源20および光ファイバ31からの光を光ファイバ31a,31bの2つに分岐する分岐器である。光カプラ32は,光ファイバ31からの光を1:1に分岐することが好ましい。
【0022】
レンズ33aは,光ファイバ31cからの光を平行光に変換して,セル34内を通過させる。レンズ33bは,セル34内を通過した光を収束光に変換して,光ファイバ31cに導入させる。
【0023】
セル34は,光透過性(例えば,980nm〜2000nmの波長範囲の一部または全部の光を通過させる)の容器であり,試料Sを保持する。試料Sは,例えば,物質f,g,hを混合した混合物であり,気体,液体,固体のいずれでも差し支えない。
【0024】
光学素子35a,35bは,略同一の光学特性を有し,選択された波長λ1,λ2,λ3以外の光を除外する光フィルタ(光バンドパスフィルタ,エタロンフィルタ,ホログラフィックフィルタ,干渉フィルタ等)である。即ち,光学素子35a,35bは,「複数の波長の光のいずれかを選択する光学部材」に対応する。波長λ1,λ2,λ3の選択は,光学素子35a,35bの交換によって行える。即ち,光学素子35a,35b(例えば,波長λ1の光を透過し,波長λ2,λ3の光を遮断する)を異なる透過特性の光学素子35a,35b(例えば,波長λ2の光を透過し,波長λ1,λ3の光を遮断する)と交換する。また,波長選択特性が可変な光学素子35a,35bを用いても良い。例えば,光路に対してエタロンフィルタを傾けることで,透過域の波長を変化できる。
【0025】
但し,光学素子35a,35bを省略することも可能である。これは,後述の光学素子23でも波長λ1,λ2,λ3の選択が可能だからである。即ち,光学素子35(35a,35b)と光学素子23のいずれか1方のみおよび双方を用いて,波長λ1,λ2,λ3を選択できる。光学素子35(35a,35b)と光学素子23の双方を用いる場合,光学素子35は光検出器36a,36bへのバックグランド光の混入の防止に寄与する。
【0026】
光検出器36a,36bは,セル34を通過した光および通過しない光を受光し,受光した光の強度に対応する信号Sa,Sbを出力する。光検出器36aは,測定対象を透過した光を受光する受光素子に対応する。
【0027】
制御・計算部37は,光検出器36a,36bからの信号に基づき,演算等を行う。
制御・計算部37は,「光学部材を制御して,前記第1〜第3の波長の光を選択させ,前記選択された第1〜第3の波長の光それぞれでの受光素子の受光量を記憶する制御部」に対応する。即ち,制御・計算部37は,光学素子23,35(35a,35b)を制御して(光学素子23,35の光学特性の制御または光学特性の異なる光学素子23,35への交換),試料Sを通過する光の波長を選択する。また,制御・計算部37は,そのときの光検出器36a,36bからの信号Sa,Sbを記憶するメモリを有する。
【0028】
制御・計算部37は,「記憶された前記受光素子の受光量および前記第1〜第3の成分の前記第1〜第3の波長での吸光率に基づいて,前記測定対象の複数の成分の組成比を算出する算出部」として機能する。このために,制御・計算部37は,複数の成分の吸光率f(λ1)〜f(λ3),g(λ1)〜g(λ3),h(λ1)〜h(λ3)(あるいは,後述の行列M,または逆行列M−1),および算出に必要なパラメータ(例えば,後述の光路長d)を記憶する。
【0029】
(光源20の詳細)
以下,光源20の詳細を説明する。
光源20は,ミラー(反射器)21,発光部材22,光学素子23,電源24を有する。
ミラー(反射器)21は,発光部材22の反対側の端面22aと共に,光共振器を構成する。
【0030】
本実施形態の光共振器は,ミラー21,端面22aにより挟まれたミラー対向型(リニア型)の光共振器である。ミラー21,端面22a間の経路を光が往復する。但し,リニア型の光共振器に換えて,リング型の光共振器を用いても良い。
【0031】
本実施形態の光共振器では,ミラー21,端面22a間の空間内を光(空間光)が伝搬する(空間光学部品を用いた光共振器)。これに対して,導波路(半導体,誘電体で構成された光導波路や光ファイバ等)を用いて,光(導波光)を伝搬させても良い(光導波光学部品を用いた光共振器)。
【0032】
ミラー21として,分布Bragg反射鏡,分布帰還型反射鏡,フォトニック結晶反射鏡を利用できる。分布Bragg反射鏡は,屈折率の異なる層を4分の1波長の長さで交互に積層した反射鏡である。分布帰還型反射鏡は,回折格子等を用いて,反射箇所を分布させた反射鏡である。フォトニック結晶反射鏡は,フォトニック結晶を用いた反射鏡である。フォトニック結晶は,屈折率の異なる材料が周期的に並んだ構造体であり,この構造の周期が波長の1/2の光を反射する。これらは,空間光,導波光のどちらでも利用可能である。
【0033】
発光部材22は,端面22aおよび発光部25を有する。
端面22aは,ミラー21と対応し,光共振器を構成するミラーとして機能する。端面22aは,反射性と共に,透過性(半透過性)を有し,光共振器で共振された光の一部を出力光として出射する。
【0034】
発光部25は,複数の波長の光を発光する。即ち,発光部25は,「光共振器内に配置され,互いに異なる複数の波長の光を発する発光部材」に対応する。
【0035】
発光部25として,量子ドット構造を用いることができる。図3は,発光部材22の一例としての量子ドット構造40の一例を表す。量子ドット構造40は,量子ドット部分構造41a〜41c,中間層42a,42bを有する。
【0036】
量子ドット部分構造41a〜41cは,「量子ドットまたは量子井戸をそれぞれ備え,互いに異なる複数の波長の光を発する,複数の構造体(第1〜第3の構造体)」に対応する。なお,後述のように,量子ドットに替えて,量子井戸を利用しても良い。
【0037】
量子ドット部分構造41aは,量子ドット43a,キャップ層44a,サブナノ層間分離層45a,バックグラウンド層(下地層)46aを有する。量子ドット部分構造41bは,量子ドット43b,キャップ層44b,サブナノ層間分離層45b,バックグラウンド層(下地層)46bを有する。量子ドット部分構造41cは,量子ドット43c,キャップ層44c,サブナノ層間分離層45c,バックグラウンド層(下地層)46cを有する。
【0038】
量子ドット43a〜43c,キャップ層44a〜44c,サブナノ層間分離層45a〜45c,バックグラウンド層(下地層)46a〜46c,中間層42a,42bは,III族元素(例えば,In,Ga,Al)とV族元素(例えば,As,Sb,N,P)の混晶半導体で,構成できる。III族元素,V族元素の組み合わせは適宜に選択できる。
【0039】
量子ドット部分構造41a〜41cが,中間層42a,42bにより結合,積層される。
量子ドット43a〜43cに起因して,量子ドット部分構造41a〜41cそれぞれから,光が発生する。量子ドット部分構造41a〜41cそれぞれでの発光波長を異ならせ,複数波長の光出力を確保できる。
【0040】
例えば,量子ドット部分構造41a〜41cそれぞれでの発光をピークP1〜P3(波長λ1,λ2,λ3)とし(図2(a)参照),発光部材22での波長λ1,λ2,λ3での発光を可能とする。後述のように,ピークP1〜P3の波長を適宜に異ならせることができる。
【0041】
量子ドット43a〜43cは,その中に電子を閉じ込め,電子の状態密度が離散化される。量子ドット43a〜43cは,所定の層に配置され,3次元いずれの方向からも大きさを制限された形状を有する。図3には,判りやすさのために,一の層に一の量子ドット43a〜43cを配置した状態を表している。実際には,一の層に複数(多数)の量子ドットが配置される。
【0042】
キャップ層44a〜44cはそれぞれ,量子ドット43a〜43cを覆う。
サブナノ層間分離層45a〜45c上に,量子ドット43a〜43cが配置される。
【0043】
量子ドット部分構造41a〜41c(量子ドット43a〜43c,キャップ層44a〜44c,サブナノ層間分離層45a〜45c,バックグラウンド層(下地層)46a〜46c)の構造,組成は,発光特性と密接な関係を有する。特に,量子ドット43a〜43cおよびこれらを囲むキャップ層44a〜44c,サブナノ層間分離層45a〜45cの構成材料やサイズは,発光特性(発光波長)への影響が大きい。
【0044】
量子ドット部分構造41a〜41cでの発光波長を異ならせるために,次のように,それぞれの構造,組成が調節される。
【0045】
(1)量子ドット43a〜43cの組成を異ならせる。量子ドット43a〜43cのエネルギーバンドギャップを低エネルギー化する組成を選択することで,量子ドット部分構造41a〜41cでの発光波長を長波長化できる。
【0046】
(2)量子ドット43a〜43cの膜厚を異ならせる。量子ドット43a〜43cの膜厚を厚くすることで,量子ドット部分構造41a〜41cでの発光波長を長波長化できる。
【0047】
(3)キャップ層44a〜44cの格子定数を異ならせる。キャップ層44a〜44cの格子定数を量子ドット43a〜43cに近づけることで,量子ドット部分構造41a〜41cでの発光波長を長波長化できる。
【0048】
(4)キャップ層44a〜44cの膜厚を異ならせる。キャップ層44a〜44cの膜厚を大きくすることで,量子ドット部分構造41a〜41cでの発光波長を長波長化できる。
【0049】
(5)サブナノ層間分離層45a〜45cの組成を異ならせる。サブナノ層間分離層45a〜45cの組成元素数を減らすことで例えば,3元素InGaAsでは無く,二元素GaAsとする),量子ドット部分構造41a〜41cでの発光波長を長波長化できる。
【0050】
このように,量子ドット等の発光材料・光ゲイン材料を選択的に作製し,波長λ1〜λ3のみで発光するような光源20を作成できる。本実施形態では,このような測定対象となる物質f,g,h固有のブロードな光スペクトルに合わせて,波長λ1〜λ3の複数の狭い発光ピークP1〜P3を発光させる。測定する被対象物質の光スペクトル形状に合わせて,低消費電力でかつ高強度の光を発生できる。
【0051】
量子ドット構造は,例えば,次のようにして,作成できる。
(1)バックグラウンド層(下地層)46cの形成
GaAs基板上にMBE(Molecular Beam Epitaxy(分子線エピタキシ))法により,バックグラウンド層46c(例えば,InGaAsの層)をエピタキシャル成長させる。
【0052】
(2)サブナノ層間分離層45cの形成
バックグラウンド層46c上にMBE法により,サブナノ層間分離層45c(例えば,GaAsの層)をエピタキシャル成長させる。
【0053】
(3)量子ドット43cの形成
サブナノ層間分離層45c上にMBE法により,量子ドット43c(例えば,InAsの層)をエピタキシャル成長させる。サブナノ層間分離層45cの構成材料と量子ドット43cの構成材料との格子の不整合(格子定数の不一致)により,島状(アイランド)構造の量子ドット43cが形成される(自己組織化による形成)。サブナノ層間分離層45cと量子ドット43cの格子が不整合となるように,量子ドット43cの形成時において,例えば,InとAsの比率が制御される。
【0054】
(4)キャップ層44cの形成
量子ドット43c上にMBE法により,キャップ層44c(例えば,InGaAsの層)をエピタキシャル成長させる。この結果,量子ドット43cがキャップ層44cに覆われる(埋め込み)。
【0055】
(5)中間層42b〜キャップ層44aの形成
その後,中間層42b,バックグラウンド層46b,サブナノ層間分離層45b,量子ドット43b,キャップ層44b,中間層42a,バックグラウンド層46a,サブナノ層間分離層45a,量子ドット43a,キャップ層44aをMBE法により順に形成した。このようにして,量子ドット構造が形成される。
キャップ層44aの上およびバックグラウンド層46cの下に,電流注入用の電極が形成される。
【0056】
なお,以上の作成工程では,MBE法が用いられているが,MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition法:有機金属気相成長法)を用いることも可能である。
【0057】
光学素子23は,「複数の波長の光のいずれかを選択する光学部材」に対応し,選択された波長λ1,λ2,λ3以外の光を除外する光フィルタ(光バンドパスフィルタ,エタロンフィルタ,ホログラフィックフィルタ,干渉フィルタ等)である。波長λ1,λ2,λ3の選択は,光学素子23の交換によって行える。即ち,光学素子23(例えば,波長λ1の光を透過し,波長λ2,λ3の光を遮断する)を異なる透過特性の光学素子23(例えば,波長λ2の光を透過し,波長λ1,λ3の光を遮断する)と交換する。また,波長選択特性が可変な光学素子23を用いても良い。例えば,光路に対してエタロンフィルタを傾けることで,透過域の波長を変化できる。
【0058】
但し,光学素子23を省略することも可能である。これは,光学素子35(35a,35b)でも波長λ1,λ2,λ3の選択が可能だからである。即ち,光学素子23と光学素子35(35a,35b)のいずれか1方のみおよび双方を用いて,波長λ1,λ2,λ3を選択できる。
【0059】
電源24は,発光部25に発光のための電流(電力)を供給する。
【0060】
(多波長測定装置10の動作)
以下,多波長測定装置10の動作手順の一例を示す。
(1)測定
光源20からの波長λ1, λ2, λ3の光を切り替える。例えば,光学素子23,35を切り替えて,光源20から波長λ1の光を発する。この光は,光カプラ32によって,光ファイバ31a,31bに分岐される。光ファイバ31aからの光は試料Sを通過し,光ファイバ31bからの光は試料Sを通過しない。前者は測定用の光で,後者は基準用の光である。これらの光はそれぞれ,光学素子35a,35bを通過し,光検出器36a,36bで受光される。
【0061】
既述のように光検出器36a,36bからの信号Sa,Sbは,光検出器36a,36bで受光された光の強度を表す。信号Sa,Sbは,次の式(1)で表される。
Sa=K*I1=K*I0*T(λ1)
=K*I0*(e−A (λ1)*d
Sb=K*I0 … 式(1)
【0062】
I1: 光検出器36aに入射する(試料Sを通過する)光の光量
I0: 光検出器36bに入射する(試料Sを通過しない)光の光量
K: 光検出器36a,36bに入射する光の光量と,信号Sa,Sbの強度の関係を表す比例定数(光検出器36a,36bの感度に対応)
T(λ1): 波長λ1での試料Sの透過率
A(λ1): 波長λ1での試料Sの吸光度
d: 試料Sを通過する光の光路長(距離)
【0063】
信号Sa,Sbの比Rは,次の式(2)に示すように,波長λ1での試料Sの透過率T(λ1)に対応する。
R=Sa/Sb=T(λ1)=e−A (λ1)*d … 式(2)
【0064】
以上から,次の式(3)のように吸光度A(λ1)を表すことができる。
A(λ1)=−Log(T(λ1))/d
=Log(Sb/Sa)/d … 式(3)
【0065】
以上のように,光検出器36a,36bからの信号Sa,Sb,および光路長dを用いて,吸光度A(λ1)を算出できる。
【0066】
吸光度A(λ1)と同様に,波長λ2,λ3での試料Sの吸光度A(λ2),A(λ3)を算出できる。
【0067】
以上では,光カプラ32での分岐比を1:1と仮定している。このため,信号Sa,Sbの比Rと透過率T(λ)が等しくなっている。分岐比が1:1で無い場合には,何らかの較正が必要となる。
【0068】
また,光源20からの出射光の強度が時間的に安定していれば,必ずしも光検出器36bは必要では無い。吸光度A(λ)が事実上無視できる材料を試料Sとして用いたときの,光検出器36aからの信号Sa0を式(3)での信号Sbに替えて用いることで,吸光度A(λ)を算出できる。光検出器36bは光源20からの光の強度をモニタするためのものである。
【0069】
(2)解析
吸光度A(λ)は,測定対象物質f,g,hの混合比m,n,p,単位量当たりの吸光度f(λ),g(λ),h(λ)と次のような関係を有する。
A(λ)=m*f(λ)+n*g(λ)+p*h(λ)
ここで,λ=λ1,λ2,λ3としたとき,次の関係が成立する。
A(λ1)=m*f(λ1)+n*g(λ1)+p*h(λ1)
A(λ2)=m*f(λ2)+n*g(λ2)+p*h(λ2)
A(λ3)=m*f(λ3)+n*g(λ3)+p*h(λ3)
【0070】
この関係を行列式で表すと,次の式(1)で表せる
【数1】
【0071】
次の式(2)に示すように,混合比m,n,pは,行列Mの逆行列M−1,試料Sの吸光度A(λ2),A(λ3)から算出できる。
【数2】
【0072】
以上のように本実施形態の係る多波長測定装置10では,特定の波長λ1〜λ3のピークP1〜P3の光のみが発光,選択される。この結果,多波長測定装置10(特に,光源20)の消費エネルギーを低減できる。測定対象物質には必要無い波長の光を光源20が発光しないことから,光源20の消費エネルギーが削減される。例えば,多波長測定装置10をバッテリー駆動としたときに,長時間の動作が可能となる。
【0073】
(その他の実施形態)
本発明の実施形態は上記の実施形態に限られず拡張,変更可能であり,拡張,変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0074】
(1)以上の実施形態では,波長λ1,λ2,λ3での試料Sの吸光度A(λ1),A(λ2),A(λ3)を測定することで,物質f,g,hの混合比m,n,pを算出できる。言い換えれば,3種類の物質に対応して3つの波長での吸光度Aを測定することで,これら3種類の物質の混合比を算出している。
【0075】
これは,一般化可能である。即ち,N種類の物質に対応してN個の波長での吸光度Aを測定することで,これらN種類の物質の混合比を算出できる。この場合,光源20は,N個の波長の光を選択して発光可能である必要があり,量子ドット部分構造の個数もN個以上であることが好ましい。Nは,1以上の整数を用いることができる。物質が1種類(N=1)の場合,その物質の濃度を算出可能である。
【0076】
また,物質の種類の数と,光源20で発光可能な波長の数は必ずしも一致しなくても良い。例えば,物質の種類の数より波長の数が多いことが許容される。この場合,発光可能な波長の一部を使うことができる。また,物質の種類の数より多くの波長の数を用いて測定することで,混合比のより正確な算出が可能となる(一種の統計的処理)。
【0077】
(2)以上の実施形態では,光源20に量子ドットを用いている。これに対して,量子ドットに替えて,量子井戸を用いることも可能である。即ち,「量子ドットまたは量子井戸」を備えた構造体を積層して,発光部材(ひいては,光源20)を構成できる。
【0078】
(3)以上の実施形態では,光学素子23,35(35a,35b)の双方を用いて波長を選択している。これに対して,光学素子23,35の一方のみを用いることも可能である。即ち,共振器の内外いずれに配置した光学素子(光フィルタ)でも,波長の選択が可能である。
【符号の説明】
【0079】
10…多波長測定装置,20…光源,21…ミラー,22…発光部材,22a…端面,23…光学素子,24…電源,25…発光部,31−31e…光ファイバ,33a,33b…レンズ,34…セル,35a,35b…光学素子,36a,36b…光検出器,37…制御・計算部,40…量子ドット構造,41a−41c…量子ドット部分構造,42a,42b…中間層,43a−43c…量子ドット,44a−44c…キャップ層,45a−45c…サブナノ層間分離層,46a−46c…バックグラウンド層
図1
図2
図3