(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下,図面を参照して,本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る多波長測定装置10を表す模式図である。多波長測定装置10は,試料Sの分光特性を測定するものであり,光源20,光ファイバ31〜31e,光カプラ32,レンズ33a,33b,セル34,光学素子35a,35b,光検出器36a,36b,制御・計算部37を有する。
【0015】
光源20は,試料Sの分光測定に適した複数の波長の光を選択して発する。
図2は,試料S(測定対象)の吸光度スペクトルと光源20からの発光スペクトルの関係を表す図である。
【0016】
ここでは,試料Sが,3つの物質f,g,hを混合した混合物であるとする(複数の成分を含む測定対象)。
図2(b)に,これら3つの物質f,g,hの光吸収(吸光度)スペクトルf(λ),g(λ),h(λ)の概略を示す。
【0017】
ここで,物質f,g,hは,例えば,高分子物質である。例えば,
図2(b)に示すように,高分子物質による光吸収(吸光度)スペクトルはブロードであり,吸光度スペクトルf(λ),g(λ),h(λ)間で重なりがある。離れた波長間隔(例えば,
図2のλ1〜λ3)の光を用いる吸光度測定により,吸光度スペクトルf(λ),g(λ),h(λ)に重なりのあるような複数成分f,g,hの混合サンプルの成分量の分析が可能である。例えば,生体の多成分分析(アルブミンやグルコース等)が可能となる。一例として,1.26ミクロン近傍に光吸収が存在するグルコースを測定対象物質と決めた場合,1.26ミクロン近傍を含む複数の波長の光を準備すれば良い。
【0018】
このとき,例えば,
図2に示す波長λ1,λ2,λ3の光を選択的に用いることで,物質f,g,hの定量化(混合比の算出)が可能となる。波長λ1,λ2,λ3は,例えば,980nm〜2000nmの範囲であり,吸光度スペクトルf(λ),g(λ),h(λ)の値が互いに異なる領域に設定できる。特に,波長λ1,λ2,λ3は,吸光度スペクトルf(λ),g(λ),h(λ)の値の相違が大きい領域に設定するのが好ましい。
図2に示すように,光吸収(吸光度)スペクトルf(λ),g(λ),h(λ)がブロードな場合,波長λ1,λ2,λ3にはある程度の任意性が認められる。
【0019】
ここで,波長λ1,λ2,λ3以外の光はこの物質f,g,hの混合比の測定には必要が無い。即ち,光源20が波長λ1,λ2,λ3以外の光を発生すると(ブロードな光発生),エネルギーの損失となる。
【0020】
そこで,
図2(a)に示すように,光源20が,測定対象物質f,g,hの光吸収スペクトルに合わせた波長λ1,λ2,λ3のピークP1〜P3の光を選択して発光するようにする。この結果,光源20での高効率な測定が可能となる。ここでは,波長λ1のピークP1の光が発せられ,波長λ2のピークP2の光および波長λ3のピークP3の光は,発せられない。なお,光源20の詳細は後述する。
【0021】
光ファイバ31,31a〜31eは,光源20からの光を導く導光路である。
光カプラ32は,光源20および光ファイバ31からの光を光ファイバ31a,31bの2つに分岐する分岐器である。光カプラ32は,光ファイバ31からの光を1:1に分岐することが好ましい。
【0022】
レンズ33aは,光ファイバ31cからの光を平行光に変換して,セル34内を通過させる。レンズ33bは,セル34内を通過した光を収束光に変換して,光ファイバ31cに導入させる。
【0023】
セル34は,光透過性(例えば,980nm〜2000nmの波長範囲の一部または全部の光を通過させる)の容器であり,試料Sを保持する。試料Sは,例えば,物質f,g,hを混合した混合物であり,気体,液体,固体のいずれでも差し支えない。
【0024】
光学素子35a,35bは,略同一の光学特性を有し,選択された波長λ1,λ2,λ3以外の光を除外する光フィルタ(光バンドパスフィルタ,エタロンフィルタ,ホログラフィックフィルタ,干渉フィルタ等)である。即ち,光学素子35a,35bは,「複数の波長の光のいずれかを選択する光学部材」に対応する。波長λ1,λ2,λ3の選択は,光学素子35a,35bの交換によって行える。即ち,光学素子35a,35b(例えば,波長λ1の光を透過し,波長λ2,λ3の光を遮断する)を異なる透過特性の光学素子35a,35b(例えば,波長λ2の光を透過し,波長λ1,λ3の光を遮断する)と交換する。また,波長選択特性が可変な光学素子35a,35bを用いても良い。例えば,光路に対してエタロンフィルタを傾けることで,透過域の波長を変化できる。
【0025】
但し,光学素子35a,35bを省略することも可能である。これは,後述の光学素子23でも波長λ1,λ2,λ3の選択が可能だからである。即ち,光学素子35(35a,35b)と光学素子23のいずれか1方のみおよび双方を用いて,波長λ1,λ2,λ3を選択できる。光学素子35(35a,35b)と光学素子23の双方を用いる場合,光学素子35は光検出器36a,36bへのバックグランド光の混入の防止に寄与する。
【0026】
光検出器36a,36bは,セル34を通過した光および通過しない光を受光し,受光した光の強度に対応する信号Sa,Sbを出力する。光検出器36aは,測定対象を透過した光を受光する受光素子に対応する。
【0027】
制御・計算部37は,光検出器36a,36bからの信号に基づき,演算等を行う。
制御・計算部37は,「光学部材を制御して,前記第1〜第3の波長の光を選択させ,前記選択された第1〜第3の波長の光それぞれでの受光素子の受光量を記憶する制御部」に対応する。即ち,制御・計算部37は,光学素子23,35(35a,35b)を制御して(光学素子23,35の光学特性の制御または光学特性の異なる光学素子23,35への交換),試料Sを通過する光の波長を選択する。また,制御・計算部37は,そのときの光検出器36a,36bからの信号Sa,Sbを記憶するメモリを有する。
【0028】
制御・計算部37は,「記憶された前記受光素子の受光量および前記第1〜第3の成分の前記第1〜第3の波長での吸光率に基づいて,前記測定対象の複数の成分の組成比を算出する算出部」として機能する。このために,制御・計算部37は,複数の成分の吸光率f(λ1)〜f(λ3),g(λ1)〜g(λ3),h(λ1)〜h(λ3)(あるいは,後述の行列M,または逆行列M
−1),および算出に必要なパラメータ(例えば,後述の光路長d)を記憶する。
【0029】
(光源20の詳細)
以下,光源20の詳細を説明する。
光源20は,ミラー(反射器)21,発光部材22,光学素子23,電源24を有する。
ミラー(反射器)21は,発光部材22の反対側の端面22aと共に,光共振器を構成する。
【0030】
本実施形態の光共振器は,ミラー21,端面22aにより挟まれたミラー対向型(リニア型)の光共振器である。ミラー21,端面22a間の経路を光が往復する。但し,リニア型の光共振器に換えて,リング型の光共振器を用いても良い。
【0031】
本実施形態の光共振器では,ミラー21,端面22a間の空間内を光(空間光)が伝搬する(空間光学部品を用いた光共振器)。これに対して,導波路(半導体,誘電体で構成された光導波路や光ファイバ等)を用いて,光(導波光)を伝搬させても良い(光導波光学部品を用いた光共振器)。
【0032】
ミラー21として,分布Bragg反射鏡,分布帰還型反射鏡,フォトニック結晶反射鏡を利用できる。分布Bragg反射鏡は,屈折率の異なる層を4分の1波長の長さで交互に積層した反射鏡である。分布帰還型反射鏡は,回折格子等を用いて,反射箇所を分布させた反射鏡である。フォトニック結晶反射鏡は,フォトニック結晶を用いた反射鏡である。フォトニック結晶は,屈折率の異なる材料が周期的に並んだ構造体であり,この構造の周期が波長の1/2の光を反射する。これらは,空間光,導波光のどちらでも利用可能である。
【0033】
発光部材22は,端面22aおよび発光部25を有する。
端面22aは,ミラー21と対応し,光共振器を構成するミラーとして機能する。端面22aは,反射性と共に,透過性(半透過性)を有し,光共振器で共振された光の一部を出力光として出射する。
【0034】
発光部25は,複数の波長の光を発光する。即ち,発光部25は,「光共振器内に配置され,互いに異なる複数の波長の光を発する発光部材」に対応する。
【0035】
発光部25として,量子ドット構造を用いることができる。
図3は,発光部材22の一例としての量子ドット構造40の一例を表す。量子ドット構造40は,量子ドット部分構造41a〜41c,中間層42a,42bを有する。
【0036】
量子ドット部分構造41a〜41cは,「量子ドットまたは量子井戸をそれぞれ備え,互いに異なる複数の波長の光を発する,複数の構造体(第1〜第3の構造体)」に対応する。なお,後述のように,量子ドットに替えて,量子井戸を利用しても良い。
【0037】
量子ドット部分構造41aは,量子ドット43a,キャップ層44a,サブナノ層間分離層45a,バックグラウンド層(下地層)46aを有する。量子ドット部分構造41bは,量子ドット43b,キャップ層44b,サブナノ層間分離層45b,バックグラウンド層(下地層)46bを有する。量子ドット部分構造41cは,量子ドット43c,キャップ層44c,サブナノ層間分離層45c,バックグラウンド層(下地層)46cを有する。
【0038】
量子ドット43a〜43c,キャップ層44a〜44c,サブナノ層間分離層45a〜45c,バックグラウンド層(下地層)46a〜46c,中間層42a,42bは,III族元素(例えば,In,Ga,Al)とV族元素(例えば,As,Sb,N,P)の混晶半導体で,構成できる。III族元素,V族元素の組み合わせは適宜に選択できる。
【0039】
量子ドット部分構造41a〜41cが,中間層42a,42bにより結合,積層される。
量子ドット43a〜43cに起因して,量子ドット部分構造41a〜41cそれぞれから,光が発生する。量子ドット部分構造41a〜41cそれぞれでの発光波長を異ならせ,複数波長の光出力を確保できる。
【0040】
例えば,量子ドット部分構造41a〜41cそれぞれでの発光をピークP1〜P3(波長λ1,λ2,λ3)とし(
図2(a)参照),発光部材22での波長λ1,λ2,λ3での発光を可能とする。後述のように,ピークP1〜P3の波長を適宜に異ならせることができる。
【0041】
量子ドット43a〜43cは,その中に電子を閉じ込め,電子の状態密度が離散化される。量子ドット43a〜43cは,所定の層に配置され,3次元いずれの方向からも大きさを制限された形状を有する。
図3には,判りやすさのために,一の層に一の量子ドット43a〜43cを配置した状態を表している。実際には,一の層に複数(多数)の量子ドットが配置される。
【0042】
キャップ層44a〜44cはそれぞれ,量子ドット43a〜43cを覆う。
サブナノ層間分離層45a〜45c上に,量子ドット43a〜43cが配置される。
【0043】
量子ドット部分構造41a〜41c(量子ドット43a〜43c,キャップ層44a〜44c,サブナノ層間分離層45a〜45c,バックグラウンド層(下地層)46a〜46c)の構造,組成は,発光特性と密接な関係を有する。特に,量子ドット43a〜43cおよびこれらを囲むキャップ層44a〜44c,サブナノ層間分離層45a〜45cの構成材料やサイズは,発光特性(発光波長)への影響が大きい。
【0044】
量子ドット部分構造41a〜41cでの発光波長を異ならせるために,次のように,それぞれの構造,組成が調節される。
【0045】
(1)量子ドット43a〜43cの組成を異ならせる。量子ドット43a〜43cのエネルギーバンドギャップを低エネルギー化する組成を選択することで,量子ドット部分構造41a〜41cでの発光波長を長波長化できる。
【0046】
(2)量子ドット43a〜43cの膜厚を異ならせる。量子ドット43a〜43cの膜厚を厚くすることで,量子ドット部分構造41a〜41cでの発光波長を長波長化できる。
【0047】
(3)キャップ層44a〜44cの格子定数を異ならせる。キャップ層44a〜44cの格子定数を量子ドット43a〜43cに近づけることで,量子ドット部分構造41a〜41cでの発光波長を長波長化できる。
【0048】
(4)キャップ層44a〜44cの膜厚を異ならせる。キャップ層44a〜44cの膜厚を大きくすることで,量子ドット部分構造41a〜41cでの発光波長を長波長化できる。
【0049】
(5)サブナノ層間分離層45a〜45cの組成を異ならせる。サブナノ層間分離層45a〜45cの組成元素数を減らすことで例えば,3元素InGaAsでは無く,二元素GaAsとする),量子ドット部分構造41a〜41cでの発光波長を長波長化できる。
【0050】
このように,量子ドット等の発光材料・光ゲイン材料を選択的に作製し,波長λ1〜λ3のみで発光するような光源20を作成できる。本実施形態では,このような測定対象となる物質f,g,h固有のブロードな光スペクトルに合わせて,波長λ1〜λ3の複数の狭い発光ピークP1〜P3を発光させる。測定する被対象物質の光スペクトル形状に合わせて,低消費電力でかつ高強度の光を発生できる。
【0051】
量子ドット構造は,例えば,次のようにして,作成できる。
(1)バックグラウンド層(下地層)46cの形成
GaAs基板上にMBE(Molecular Beam Epitaxy(分子線エピタキシ))法により,バックグラウンド層46c(例えば,InGaAsの層)をエピタキシャル成長させる。
【0052】
(2)サブナノ層間分離層45cの形成
バックグラウンド層46c上にMBE法により,サブナノ層間分離層45c(例えば,GaAsの層)をエピタキシャル成長させる。
【0053】
(3)量子ドット43cの形成
サブナノ層間分離層45c上にMBE法により,量子ドット43c(例えば,InAsの層)をエピタキシャル成長させる。サブナノ層間分離層45cの構成材料と量子ドット43cの構成材料との格子の不整合(格子定数の不一致)により,島状(アイランド)構造の量子ドット43cが形成される(自己組織化による形成)。サブナノ層間分離層45cと量子ドット43cの格子が不整合となるように,量子ドット43cの形成時において,例えば,InとAsの比率が制御される。
【0054】
(4)キャップ層44cの形成
量子ドット43c上にMBE法により,キャップ層44c(例えば,InGaAsの層)をエピタキシャル成長させる。この結果,量子ドット43cがキャップ層44cに覆われる(埋め込み)。
【0055】
(5)中間層42b〜キャップ層44aの形成
その後,中間層42b,バックグラウンド層46b,サブナノ層間分離層45b,量子ドット43b,キャップ層44b,中間層42a,バックグラウンド層46a,サブナノ層間分離層45a,量子ドット43a,キャップ層44aをMBE法により順に形成した。このようにして,量子ドット構造が形成される。
キャップ層44aの上およびバックグラウンド層46cの下に,電流注入用の電極が形成される。
【0056】
なお,以上の作成工程では,MBE法が用いられているが,MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition法:有機金属気相成長法)を用いることも可能である。
【0057】
光学素子23は,「複数の波長の光のいずれかを選択する光学部材」に対応し,選択された波長λ1,λ2,λ3以外の光を除外する光フィルタ(光バンドパスフィルタ,エタロンフィルタ,ホログラフィックフィルタ,干渉フィルタ等)である。波長λ1,λ2,λ3の選択は,光学素子23の交換によって行える。即ち,光学素子23(例えば,波長λ1の光を透過し,波長λ2,λ3の光を遮断する)を異なる透過特性の光学素子23(例えば,波長λ2の光を透過し,波長λ1,λ3の光を遮断する)と交換する。また,波長選択特性が可変な光学素子23を用いても良い。例えば,光路に対してエタロンフィルタを傾けることで,透過域の波長を変化できる。
【0058】
但し,光学素子23を省略することも可能である。これは,光学素子35(35a,35b)でも波長λ1,λ2,λ3の選択が可能だからである。即ち,光学素子23と光学素子35(35a,35b)のいずれか1方のみおよび双方を用いて,波長λ1,λ2,λ3を選択できる。
【0059】
電源24は,発光部25に発光のための電流(電力)を供給する。
【0060】
(多波長測定装置10の動作)
以下,多波長測定装置10の動作手順の一例を示す。
(1)測定
光源20からの波長λ1, λ2, λ3の光を切り替える。例えば,光学素子23,35を切り替えて,光源20から波長λ1の光を発する。この光は,光カプラ32によって,光ファイバ31a,31bに分岐される。光ファイバ31aからの光は試料Sを通過し,光ファイバ31bからの光は試料Sを通過しない。前者は測定用の光で,後者は基準用の光である。これらの光はそれぞれ,光学素子35a,35bを通過し,光検出器36a,36bで受光される。
【0061】
既述のように光検出器36a,36bからの信号Sa,Sbは,光検出器36a,36bで受光された光の強度を表す。信号Sa,Sbは,次の式(1)で表される。
Sa=K*I1=K*I0*T(λ1)
=K*I0*(e
−A (λ1)*d)
Sb=K*I0 … 式(1)
【0062】
I1: 光検出器36aに入射する(試料Sを通過する)光の光量
I0: 光検出器36bに入射する(試料Sを通過しない)光の光量
K: 光検出器36a,36bに入射する光の光量と,信号Sa,Sbの強度の関係を表す比例定数(光検出器36a,36bの感度に対応)
T(λ1): 波長λ1での試料Sの透過率
A(λ1): 波長λ1での試料Sの吸光度
d: 試料Sを通過する光の光路長(距離)
【0063】
信号Sa,Sbの比Rは,次の式(2)に示すように,波長λ1での試料Sの透過率T(λ1)に対応する。
R=Sa/Sb=T(λ1)=e
−A (λ1)*d … 式(2)
【0064】
以上から,次の式(3)のように吸光度A(λ1)を表すことができる。
A(λ1)=−Log(T(λ1))/d
=Log(Sb/Sa)/d … 式(3)
【0065】
以上のように,光検出器36a,36bからの信号Sa,Sb,および光路長dを用いて,吸光度A(λ1)を算出できる。
【0066】
吸光度A(λ1)と同様に,波長λ2,λ3での試料Sの吸光度A(λ2),A(λ3)を算出できる。
【0067】
以上では,光カプラ32での分岐比を1:1と仮定している。このため,信号Sa,Sbの比Rと透過率T(λ)が等しくなっている。分岐比が1:1で無い場合には,何らかの較正が必要となる。
【0068】
また,光源20からの出射光の強度が時間的に安定していれば,必ずしも光検出器36bは必要では無い。吸光度A(λ)が事実上無視できる材料を試料Sとして用いたときの,光検出器36aからの信号Sa0を式(3)での信号Sbに替えて用いることで,吸光度A(λ)を算出できる。光検出器36bは光源20からの光の強度をモニタするためのものである。
【0069】
(2)解析
吸光度A(λ)は,測定対象物質f,g,hの混合比m,n,p,単位量当たりの吸光度f(λ),g(λ),h(λ)と次のような関係を有する。
A(λ)=m*f(λ)+n*g(λ)+p*h(λ)
ここで,λ=λ1,λ2,λ3としたとき,次の関係が成立する。
A(λ1)=m*f(λ1)+n*g(λ1)+p*h(λ1)
A(λ2)=m*f(λ2)+n*g(λ2)+p*h(λ2)
A(λ3)=m*f(λ3)+n*g(λ3)+p*h(λ3)
【0070】
この関係を行列式で表すと,次の式(1)で表せる
【数1】
【0071】
次の式(2)に示すように,混合比m,n,pは,行列Mの逆行列M
−1,試料Sの吸光度A(λ2),A(λ3)から算出できる。
【数2】
【0072】
以上のように本実施形態の係る多波長測定装置10では,特定の波長λ1〜λ3のピークP1〜P3の光のみが発光,選択される。この結果,多波長測定装置10(特に,光源20)の消費エネルギーを低減できる。測定対象物質には必要無い波長の光を光源20が発光しないことから,光源20の消費エネルギーが削減される。例えば,多波長測定装置10をバッテリー駆動としたときに,長時間の動作が可能となる。
【0073】
(その他の実施形態)
本発明の実施形態は上記の実施形態に限られず拡張,変更可能であり,拡張,変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0074】
(1)以上の実施形態では,波長λ1,λ2,λ3での試料Sの吸光度A(λ1),A(λ2),A(λ3)を測定することで,物質f,g,hの混合比m,n,pを算出できる。言い換えれば,3種類の物質に対応して3つの波長での吸光度Aを測定することで,これら3種類の物質の混合比を算出している。
【0075】
これは,一般化可能である。即ち,N種類の物質に対応してN個の波長での吸光度Aを測定することで,これらN種類の物質の混合比を算出できる。この場合,光源20は,N個の波長の光を選択して発光可能である必要があり,量子ドット部分構造の個数もN個以上であることが好ましい。Nは,1以上の整数を用いることができる。物質が1種類(N=1)の場合,その物質の濃度を算出可能である。
【0076】
また,物質の種類の数と,光源20で発光可能な波長の数は必ずしも一致しなくても良い。例えば,物質の種類の数より波長の数が多いことが許容される。この場合,発光可能な波長の一部を使うことができる。また,物質の種類の数より多くの波長の数を用いて測定することで,混合比のより正確な算出が可能となる(一種の統計的処理)。
【0077】
(2)以上の実施形態では,光源20に量子ドットを用いている。これに対して,量子ドットに替えて,量子井戸を用いることも可能である。即ち,「量子ドットまたは量子井戸」を備えた構造体を積層して,発光部材(ひいては,光源20)を構成できる。
【0078】
(3)以上の実施形態では,光学素子23,35(35a,35b)の双方を用いて波長を選択している。これに対して,光学素子23,35の一方のみを用いることも可能である。即ち,共振器の内外いずれに配置した光学素子(光フィルタ)でも,波長の選択が可能である。