【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の一実施例における品質計測装置の概要を説明する図である。
図1において品質計測装置10は、測定対象物から抽出液を抽出するための抽出容器12、その抽出容器12から抽出された抽出液に含まれる核酸関連物質と酵素との反応の程度を電気信号として取り出すための電気化学センサ14、および、その電気化学センサ14からの出力信号に基づいて核酸関連物質の濃度を計測するとともに、品質に関する値を算出する計測装置16を含んで構成されている。
【0020】
図2に抽出容器12の一例を示す。抽出容器12は、一端が開口し、他端が閉じた例えば円筒状の筒状部20と押し子22とを含んで構成されている。筒状部20の先端側には、その内径が筒状部20の内径よりも細い排出部20aが連続して設けられており、筒状部20の内部に置かれた測定対象物8から抽出された抽出液が排出されるようになっている。また、押し子22はその先端部に押し板22aを有しており、これらは一体的に動くようにされている。押し子22は筒状部20の開口端からその内部に押し板22aが先端となるように差し込まれ、押し板22aが筒状部20の内部に置かれた測定対象物8を筒状部20の先端20a側に押圧するようになっている。ここで、押し板22aは、筒状部20の内部を移動可能なように、その大きさが筒状部20の内径よりも小さくなるように設けられているが、筒状部20の内壁と押し板22aとの間とが気密にされてもよいし、されていなくてもよい。
【0021】
円筒部20の排出部20a側の端部には、先端部から順に、濾過部材24、破砕部26が設けられている。このうち、濾過部材24は、筒状部20の断面形状と同じ形状とされ、測定対象物8が後述する破砕部26により破砕されて抽出される抽出液が円筒部20から排出部20aに至る過程において、濾過、吸着、あるいは吸収を行なう。濾過部材24は、抽出液のうち、測定対象となる核酸関連物質以外の物質、特に後述する電気化学センサにおいて測定の障害となるような物質を濾過、吸着、あるいは吸収することができるように、その材料が選択される。本実施例においては、特に抽出液中の油脂分を取り除くことを目的として、不織布が用いられる。また、濾過部材24の厚さは、その濾過部材24が濾過あるいは吸着することのできる物質の量と交換頻度などに応じて適宜設定される。さらに濾過部材24においては、後述する破砕部26において測定対象物8が破砕された際に抽出液に含まれる固形物が濾過される。
【0022】
破砕部26は測定対象物8を破砕し、抽出液を抽出する。破砕部26は複数の破砕粒28から構成されている。複数の破砕粒28は予め接着されるなどして所定の形状とされた後に円筒部20内に挿入されてもよいし、個々の粒のまま円筒部20内に挿入されてもよい。破砕部26の大きさ、言い換えれば破砕部26を構成する破砕粒28の量は、円筒部20の大きさ、抽出しようとする測定対象物8の大きさなどに応じて設定される。具体的には例えば、押し子22を円筒部20に押し込み、押し板22aが測定対象物8を押圧した際に、測定対象物8が破砕され、押し板22aが破砕部26に近接するあるいは接することができる程度に破砕部26が設けられる。また、破砕部26の形状は特に限定されるものではないが、好適には測定対象物8が偏りなく破砕されるように、押し板22aと破砕部26とで測定対象物8を挟み込むように両者の形状が設計され得る。
【0023】
図3は破砕粒28の形状の一例を示す図である。本実施例においては、破砕粒28は球状、いわゆるビーズ状の形状を有している。このような形状を有する破砕粒28に測定対象物8が押し板22aにより押圧されることにより、測定対象物8が破断、圧搾され、抽出液が抽出される。なお、破砕部26において複数の破砕粒28のそれぞれの向きは揃えられる必要はない。破砕粒28の大きさ、具体的には外径、内径、および長さなどは破砕しようとする測定対象物8に応じて決定される。具体的には例えば、測定対象物8の粘度や硬さに応じて、マグロやアジ、タイなどの肉片を測定対象物8とする場合には直径0.5乃至2mmなどのように、測定対象物8の種類に応じて抽出量が多くなるように実験的に定められればよい。また破砕粒28の素材についても、測定対象物の粘度や硬さに応じて、あるいは上記押し子22を押圧する力の大きさに応じて決定されればよい。具体的には、本実施例においては破砕粒28はガラスによって構成されている。なお、
図3に示す破砕粒28は面取りが行なわれているが、これは必ずしも必須のものではない。
【0024】
図4は、本実施例の抽出容器12による測定対象物8からの抽出液の抽出量を他の方法と比較した図である。
図4において、粒径Φ0.5mm、粒径Φ1mm、および、粒径Φ2mmが本実施例に対応するものであり、それぞれ破砕粒28の外径の大きさを0.5mm、1mm、および2mmとした場合に対応している。また、手押し、および、ネジ式は、いずれも、本実施例の破砕部26に代えて、円板状の板を設けたものであり、この円板状の板と押し子22に設けられた押し板22aとで測定対象物8を挟み込んで押しつぶすことにより、抽出液の抽出を行なうものである。測定対象物8が押しつぶされることで抽出された抽出液は濾過部材24を経て排出口20aから排出される。この手押し、および、ネジ式の両者は、押し子22の押し方において異なり、手押しとは手で押すものであり、ねじ式とは押し子を図示しない螺子を用いた推進機構により押し込むものである。また、上記粒径Φ0.5mm、粒径Φ1mm、および、粒径Φ2mmのそれぞれについても、上記手押しと同様に押し子を手で押している。なお、手で押すとは測定対象物8から抽出液が得られる程度まで力が加わった状態である。
【0025】
抽出容器12に魚肉を測定対象物8として入れ、上述の5つの条件により抽出液の抽出液を複数回行なった。抽出時間を1分とした場合に得られた抽出液(体液)の量(質量)および抽出容器12に入れた測定対象物8である魚肉の量(質量)の値、およびそれらの比は
図4に示すとおりである。この
図4に示されるように、粒径Φ0.5mm、粒径Φ1mm、および、粒径Φ2mmの場合、すなわち、本実施例の破砕部26を適用した場合は、同じ力が加えられた手押しの場合のみならず、より大きい力が加えられたネジ式の場合に比較しても測定対象物8の質量に対する得られた抽出液の量の比が大きくなっており、短時間でかつ効率のよい抽出液の抽出が行なわれていることがわかる。また、粒径Φ0.5mm、粒径Φ1mm、および、粒径Φ2mmの場合のそれぞれを比較すると、測定対象物8の質量に対する得られた抽出液の量の比が異なっている。上述のように、測定対象物8に応じて破砕粒の大きさ、素材等を選択し得るものであり、
図4の例においては破砕粒28の径Φを1mmと選択することにより最も効率がよいこととなる。
【0026】
なお、抽出容器における破砕部26および濾過部材24は、一回の抽出が行なわれる毎に取り替えることが可能である。
【0027】
図5は電気化学センサ14の構成の一例を説明する図である。
図5に示すように、本実施例の電気化学センサ14は例えばガラスエポキシ樹脂などにより構成された基板30上に、蒸着あるいは塗布などによって設けられた3つの電極として作用極32、対極34、および参照極36を有している。
図5においては、横長の基板30のうち、左側の端子部42においては作用極32、対極34、および参照極36は基板30上に露出しており、後述する計測装置16に接続するための端子として機能するようになっている。また、右側のセンサ部46においては、作用極32、対極34、および参照極36は基板30上に露出しており、上述の抽出容器12によって抽出された測定対象物8の抽出液を滴下するなどしてそれら作用極32、対極34、および参照極36を覆うように付着することができるようになっている。一方、端子部42およびセンサ部46の間である中間部44は、基板および作用極32、対極34、および参照極36の3つの電極は絶縁部40で覆われている。この絶縁部40は例えば絶縁フィルムあるいは絶縁レジストで構成され、これによりこれらの3つの電極がセンサ部46以外の箇所において抽出液などにより電気的に接続されることがないようになっている。
【0028】
また、センサ部46側においては、作用極32および対極34は、好適には白金、金、グラッシーカーボン、カーボンペーストが、また、参照極36は、銀/塩化銀などが用いられる。
【0029】
作用極32の表面には、その作用極を含む電気化学センサ14によって検出しようとする核酸関連物質と反応する酵素をアセチルセルロース、コラーゲン、ポリビニルクロリド、ポリビニルアルコール、ポリビニルグルタミン酸、ポリビニルブチラール、ポリビニルアクリルアミド、ニトロセルロース、カルボキシメチルセルロース、光硬化樹脂などの固定化素材を用いて固定化した酵素固定部38が設けられている。具体的には、検出しようとする核酸関連物質がATPである場合、酵素固定部38に固定される酵素は例えばグリセロールキナーゼ(GK)およびグリセロール3リン酸オキシダーゼ(G3PO)である。また、検出しようとする核酸関連物質がIMPである場合、酵素固定部38に固定される酵素は5’−ヌクレオチダーゼ(NT)またはアルカリフォスファターゼ(AP)、ヌクレオチドフォスフォリラーゼ(NP)、キサンチンオキシダーゼ(XOD)等であり、検出しようとする核酸関連物質がHxR、Hxである場合、酵素固定部38に固定される酵素はヌクレオチドフォスフォリラーゼ(NP)、キサンチンオキシダーゼ(XOD)等である。また、測定対象物に含まれる干渉物質、具体的には例えばアスコルビン酸(ビタミンC)、アセトアミノフェン、尿酸などは、後述する電気化学センサにおいて、作用極32と対極34との間に電位差を生ずるように電圧を印可した場合にその電圧以下において分解しうる。これら干渉物質の影響を低減するためにアセチルセルロース、ナフィオン(登録商標)などのイオン交換膜、ポリビニルアルコール等を作用極32の酵素固定部38よりも基板側に設けてもよい。このようにすれば、これらの干渉物質が作用極32の表面に到達し分解されることを防止あるいは低減できる。
【0030】
図6は、電気化学センサ14の作用極32における核酸関連物質と酵素との反応の一例を説明する図である。
図6を用いてその原理を説明する。なお、
図6においては、電気化学センサ14においてATPを検出する場合を例としている。作用極32の酵素固定部38に付着した抽出液に含まれるATPは、酵素固定部38に固定された酵素であるGKによりADPに分解されるとともに、グリセロール3リン酸を生ずる。このグリセロール3リン酸は同じく酵素固定部38に固定された酵素であるG3POにより分解され、過酸化水素を生ずる。なお、参照極36は作用極32および対極34の電位の測定の際に基準となる電圧を参照するために設けられるものであり、作用極32と対極34との相対的な電位差が得られる場合には必ずしも必須ではない。
【0031】
図1に戻って、計測装置16は、電気化学センサ14の出力に基づいて電気化学センサ14が検出しようとした核酸関連物質の濃度を計測する。また、計測された核酸関連物質の濃度に基づいて測定対象物8の品質に関する値を算出する。本実施例においては、計測装置16はたとえばディスプレイ装置を含む表示部50を有しており、計測された核酸関連物質の濃度や、算出された品質に関する値などが表示部50に表示される。
【0032】
計測装置16と電気化学センサ14の各電極32、34、36とはそれぞれケーブル18で接続されており、電気化学センサ14の各電極間に電圧を印可したり、あるいは各電極間を流れる電流を計測したりすることができるようになっている。本実施例において、前述の
図5および
図6で説明したように電気化学センサ14がATPを検出対象とする場合において、作用極32の電圧が対極34の電圧よりも例えば0.7Vだけ高くなるように電位差を生ずるように電圧を印可すると、過酸化水素が酸化され、
図6に示すように作用極32に対し電子が渡される。すなわち作用極32から対極34に電流が流れる。この0.7Vは過酸化水素の分解電圧に相当するものであり、過酸化水素が分解し得る電圧であればこれより大きいものであっても小さいものであってもよい。計測装置16はこの電流の大きさを検出する。このように、計測装置16は電気化学センサ14の各電極32、34、36のそれぞれについて設定された値の電圧を印加する機能を有しており、また、電気化学センサ14の作用極32と対極34との間を流れる電流を測定する機能を有している。
【0033】
図7は、
図5の電気化学センサ14においてATPを検出対象とした場合に計測装置16で検出される電流値の時間変化を表したものである。具体的には、ATP濃度が予め2.5、1.0、0.75、0.5、0.25、0.1mM(mmol/L、体積モル濃度)となるように調製された溶液と、ATPを含まない液体(Blank)のそれぞれを測定対象物8とした場合に、本実施例の計測装置16において検出される電流の時間変化を示している。
図7に示すように各濃度のそれぞれについて、検出開始から一定時間経過すると、測定対象物8におけるATP濃度の変化が落ち着き、検出される電流の勾配が安定している。
【0034】
一方、
図8は、
図7においてATPの測定対象とされた測定対象物8のそれぞれについて、ATP濃度と
図7で示したように測定された電流値との相関関係を示した図である。ここで
図7で説明したように、検出開始から一定時間経過し、検出される電流の勾配が安定することから、電流値としては、電流の勾配が安定した後において、具体的には
図7の例において検出開始から10秒後から60秒後までの間において、複数回測定した電流値の平均が用いられる。このようにして得られた相関関係をたとえば最小二乗法などにより近似することで、計測装置16により計測された作用極32と対極34との間を流れる電流値に基づいてATP濃度を算出することが可能となる。すなわち、計測装置16は
図8に例示する作用極32および対極34間を流れる電流の値と測定対象物8の核酸関連物質の濃度との関係を各核酸関連物質ごとに有しておき、測定された電流の値に対する核酸関連物質の値を出力する機能を有している。なお、上記関係は
図8に示すような図であってもよいが、これに限られず、式やデータテーブルの形態であってもよい。
【0035】
図9乃至
図10は、
図8と同様の方法で得られたIMP濃度と電流値との相関関係、HxR濃度と電流値との相関関係をそれぞれ示した図である。
【0036】
すなわち、計測装置16は
図8に例示する作用極32および対極34間を流れる電流の値と測定対象物8の核酸関連物質の濃度との関係を各核酸関連物質ごとに有しておき、測定された電流の値に対する核酸関連物質の値を出力する機能を有している。なお、上記関係は
図8に示すような図であってもよいが、これに限られず、式やデータテーブルの形態であってもよい。
【0037】
さらに計測装置16は、上述のようにして得られた核酸関連物質の濃度に基づいて品質に関する値を算出する。具体的には、上述のように電気化学センサ14がATPを検出対象とする場合には、計測装置16は、測定対象物8について得られたATP濃度の、その測定対象物8の最大の、すなわち死後直後のATP濃度に対する比を百分率で表したものを鮮度に関する値として算出する。すなわち、
(鮮度に関する値)=(測定対象物8のATP濃度)/(測定対象物8の死直後のATP濃度)×100 ・・・(1)
である。ここで、測定対象物8の最大のATP濃度とは、測定対象物8ごと、すなわち魚の種類ごと、あるいは同じ魚であってもその部位や産地ごとに設定される値である。一般的に、魚肉、魚介類、食肉、畜肉など、本発明の品質計測装置の測定対象物8においては、ATPの濃度は死直後に最大値となるのでその最大値となる値を予め実験的にあるいは統計的に得ておけばよい。この値は予め計測装置16内の図示しない記憶装置(メモリなど)に記憶されていてもよいし、計測装置16を用いた計測が行われるごとに操作者によって入力されてもよい。
【0038】
測定対象物8におけるATP濃度は、前述のように死直後に最大となる一方、その後は時間の経過とともに減少するので上記(1)式のように得られる鮮度に関する値は鮮度を表す指標として有効である。また、魚種、産地などを問わず鮮度を評価することが可能となる。
【0039】
一方、電気化学センサ14がIMPを検出対象とする場合には、計測装置16は、測定対象物8について得られたIMP濃度のその測定対象物8の最大のATP濃度に対する比を百分率で表したものを品質に関する値として算出する。すなわち、
(品質に関する値)=(測定対象物8のIMP濃度)/(測定対象物8の最大のATP濃度)×100 ・・・(2)
である。ここで、測定対象物8の最大のATP濃度とは、前述の鮮度に関する値について説明したのと同様であり、予め実験的にあるいは統計的に得られる値である。
【0040】
測定対象物8が魚類である場合には、その測定対象物8である魚肉において、ATPの減少に伴ってIMPが増加することとなる。すなわち、ATPが分解した分だけIMPが増加することとなる。したがって式(2)で得られる品質に関する値が大きいほどATPの分解が進んでいるといえる。また、IMPはいわゆるうまみ成分に対応するものであるので、式(2)で得られる品質に関する値が高いとうまみが多くなっていると判断しうる。
【0041】
なお、電気化学センサ14がIMPの濃度を直接検出することができない場合には、たとえば、IMP、HxR、およびHxの濃度の合計と、HxRおよびHxの濃度の合計をそれぞれ検出可能な電気化学センサ14を用いて検出を行い、IMP、HxR、およびHxの濃度の合計から、HxRおよびHxの濃度の合計を減ずることによってIMPの濃度を得ることも可能である。
【0042】
また、電気化学センサ14がIMPを検出対象とする場合には、計測装置16は、測定対象物8について得られたIMP濃度のその測定対象物8のIMP濃度の基準値に対する比を百分率で表したものを品質に関する値として算出することもできる。すなわち、
(品質に関する値)=(測定対象物8のIMP濃度)/(測定対象物8のIMP濃度の基準値)×100 ・・・(3)
である。ここで、測定対象物8のIMP濃度の基準値とは、測定対象物8の種類ごとに予め設定される値であり、たとえばIMP濃度の最大値が用いられる。
【0043】
このように上記式(3)により得られる品質に関する値は、ATP濃度を用いることなく定義されているので、測定対象物8が魚肉の加工品のような場合、すなわち、加工前もしくは加工段階でATPがすでに分解されている場合であっても式(3)により得られる品質に関する値を用いて品質の評価を行うことができる。
【0044】
本実施例の品質計測装置10の効果を検証するために行った実験の結果を以下に示す。ATPのほぼ全量が分解するのに十分な時間が死後において経過した魚(アジ)の魚肉を、本実施例の抽出容器12に入れ、抽出液を抽出した。抽出された抽出液に、ATP標準溶液を混ぜ、実際の魚の体液に近いATP濃度の液体(以下、ATP溶液という。)を作製し、測定対象とした。複数のATP濃度のATP溶液のそれぞれについて、計測装置16の電気化学センサ14において所定の電圧を加えた際の電流値を測定した。このとき、電気化学センサ14の酵素固定部38には上述のATPを分解するための酵素が固定化素材により固定されている。
図11はこの結果を示す図である。
図11に示すように、この結果はATP濃度と測定された電流の値とが一定の線形となる関係を有していることを示している。従って計測装置16においては、この関係に基づいて、ある測定対象物8について電気化学センサ14により電流が測定された場合に、その電流の値からATP濃度を算出可能なことがわかる。
【0045】
また、IMP、HxR及びHxについても、ATPの場合と同様に、濃度と測定された電流の値とが一定の線形となる関係を有していることを確認している。従って、計測装置16はこの関係に基づいて、ある測定対象物8について電気化学センサ14により電流が測定された場合、その電流の値から濃度を算出可能である。
【0046】
本実施例の品質計測装置10によれば、(a)魚類、魚介類、食肉、畜肉及びこれらを用いた加工品を含んでなる測定対象物8に含まれ、鮮度および品質の指標となる核酸関連物質を抽出する抽出容器12と、(b)作用極32、対極34及び参照極36の3種類の電極のうち少なくとも作用極32および対極34を有し、作用極32の表面には核酸関連物質と反応する酵素を固定化させた酵素固定部38を含み、抽出容器12により抽出された核酸関連物質がもたらされるとともに作用極32および対極34間に電圧が印加される電気化学センサ14と、(c)電気化学センサ14の出力に基づいて核酸関連物質の濃度を計測し、前記品質に関する値を算出する計測装置16と、を有する。これにより、抽出容器12により測定対象物8から抽出液を容易に取り出すことが可能となるとともに、電気化学センサ14および計測装置16によりその抽出液中の核酸関連物質の濃度が計測されるとともに、計測された値に基づいて測定対象物8の品質に関する値が算出されるので、簡便な方法により手軽かつ迅速に測定対象物の品質に関する値を得ることができる。
【0047】
また、本実施例の抽出容器12は、測定対象物8を破砕するための破砕部26と、測定対象物8を破砕部26に押し付けるための押し子22および押し板22aと、破砕部26によって破砕された測定対象物8から抽出された液体を濾過する濾過部材24と、を含み、破砕部26は、複数の粒状の破砕粒28から構成される。これにより、抽出容器12において測定対象物8を効率よく破砕することができるので、より迅速に測定対象物8の抽出液を得ることができるとともに、濾過部材24により、抽出液から電気化学センサ14において測定対象とされる核酸関連物質以外の物質を取り除くことが可能となる。
【0048】
また、本実施例の品質計測装置10が計測の対象とする核酸関連物質は、ATP(アデノシン三リン酸)、ADP(アデノシン二リン酸)、AMP(アデノシン一リン酸)、IMP(イノシン酸)、HxR(イノシン)、およびHx(ヒポキサンチン)であるので、ATPとそれが分解することによって生ずる核酸関連物質の濃度を計測することができるので、ATPが含まれる魚肉、魚介類、食肉、畜肉、及びこれらを用いた加工品の品質に関する値を計測することができる。
【0049】
また、本実施例の濾過部材24は、測定対象物8から抽出された液体から、油脂成分を選択的に吸収するものであるので、測定対象物8の抽出液に含まれる油脂成分が酵素固定部38において核酸関連物質と酵素とが反応する障害となることが防止され、より適切な計測が可能となる。
【0050】
また、本実施例の品質計測装置10は、測定対象物8から抽出された液体中のATPの濃度に基づいて、測定対象物8の鮮度に関する指標を算出するので、測定対象物が魚肉、魚介類、食肉、畜肉などである場合のように、その死後においてATPが減少するところ、ATPの濃度を計測することにより適切に測定対象物の鮮度に関する指標を得ることができる。
【0051】
また、本実施例の品質計測装置10は、測定対象物8から抽出された液体中のIMPの濃度に基づいて、測定対象物8の品質に関する指標を算出するので、IMPはいわゆるうま味成分に対応することから、IMPの濃度に基づいて測定対象物の品質に関する指標を得ることができる。また、測定対象物が加工食品のように加工時点ですでにATPが失われている場合であってもその品質に関する指標を得ることができる。
【0052】
続いて、本発明の別の実施例について説明する。以下の説明において、実施例相互に共通する部分については、同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0053】
図12は、本発明の品質計測装置10の実施態様における電気化学センサ114の構成を説明する図であり、前述の実施例1における
図5に対応する図である。
図12の電気化学センサ114においても、前述の実施例1における電気化学センサ14と同様に、例えばガラスエポキシ樹脂などにより構成された基板30上に、蒸着あるいは塗布などによって設けられた3種類の電極として作用極32、対極34、および参照極36を有している。しかしながら、本実施例の電気化学センサ114は、複数種類の作用極、すなわち
図12の例においては3つの作用極32a、32b、32cを有する点において、実施例1の電気化学センサと異なる。
【0054】
上記3つの作用極32a、32b、32cにはそれぞれ酵素固定部38a、38b、38cが前述の実施例1と同様に設けられている。ここで、好適には、電気化学センサ114が一回の測定で複数種類の核酸関連物質を検出対象とするために、複数の酵素固定部38a、38b、38cのそれぞれに固定される酵素はその複数種類の核酸関連物質のそれぞれに対応した異なったものとされている。具体的にはたとえば、作用極32aはATPを検出するためのものとして、作用極32a上に設けられる固定部38aにはグリセロールキナーゼ(GK)およびグリセロール3リン酸オキシダーゼ(G3PO)が固定される。また作用極32bはIMP,HxRおよびHxを検出するためのものとして、作用極32b上に設けられる固定部38bにはアルカリフォスファターゼ(AP)、または、5’−ヌクレオチダーゼ(NT)、ヌクレオチドフォスフォリラーゼ(NP)、及びキサンチンオキシターゼ(XOD)が固定される。また作用極32cはHxRおよびHxを検出するためのものとして、作用極32c上に設けられる固定部38cにはヌクレオチドフォスフォリラーゼ(NP)、及びキサンチンオキシダーゼ(XOD)が固定される。
【0055】
また、
図13は、本実施例における電気化学センサ114の別の形態を説明する図であって、
図12に対応する図である。
図13に示す電気化学センサ114においては、各電極32、34、36の配置および形状が
図12と異なっている。
図12及び13に示すように、複数の作用極32が設けられる場合において、作用極32のそれぞれと対極34との間の距離が等しくなるように配置されることができれば、これらの配置に限定されない。
【0056】
また、
図13においては、各電極32、34、36のそれぞれは、センサ部46において抽出液と接触する部分のみが露出される一方、それ以外の部分は絶縁部40によって被覆されている点において
図12の例において異なっている。このようにすれば各電極32、34、36のうち測定に用いられない部分を保護することができ、電気化学センサ114の耐久性の向上を図ることができる。なお、
図5や
図12に示した電気化学センサ14、114においても、同様に絶縁部40が各電極32、34、36の抽出液と接触する部分以外を被覆するような形態としてもよい。
【0057】
上述の実施例2に係る電気化学センサ114は、複数の作用極32a、32b、32cを有し、複数の作用極32a、32b、32cのそれぞれに対応する酵素固定部38a、38b、38cには異なる酵素が固定化されているので、一回の測定により複数種類の酵素と反応する複数種類の核酸関連物質のそれぞれについての濃度を計測することができるので、より効率のよい計測が可能となる。
【0058】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0059】
例えば、前述の実施例においては、計測装置16は鮮度に関する値、あるいは品質に関する値として前述の式(1)乃至式(3)で示されたものを算出するとされたが、これに代えて、式(1)乃至式(3)で示されたものの自然対数の値を鮮度に関する値、あるいは品質に関する値として算出するようにしてもよい。このようにすれば、値が急峻に変化する場合であっても分かりやすい指標となりうる。また、測定対象物8の種類に応じて、具体的には魚種毎に、算出方法を異ならせてもよい。
【0060】
また、前述の実施例においては、計測装置16は鮮度に関する値、あるいは品質に関する値として前述の式(1)乃至式(3)で示されたものを算出するとされたが、これに代えて、予め定められた所定の数値範囲ごとに設定された指標を表示するようにしてもよい。具体的には例えば、式(1)で算出される鮮度に関する値が、0以上20以下である場合にはクラス1、20を超え40以下である場合にはクラス2、40を超え60以下である場合にはクラス3、60を超え80以下である場合にはクラス4、80を超え100以下である場合にはクラス5のように表示することができる。このクラス分けは、測定対象物8の種類に応じて、具体的には魚種毎に、定義が異なっていてもよい。
【0061】
また、前述の実施例においては、計測装置16は鮮度に関する値、あるいは品質に関する値をそれぞれ示すものとされたが、同一の計測対象物8について両者が計測される場合には、両者を勘案した評価を行ない、表示するようにしてもよい。具体的には例えば、前記鮮度に関する値が高く、前記品質に関する値が低い場合、すなわちATPの含有量が高くIMPの含有量が低い場合には鮮度がよいとの評価を行ない、鮮度に関する値が低く、品質に関する値が高い場合には品質が高い、あるいは食べごろであるとの評価を行ない、鮮度に関する値および品質に関する値がいずれも低い場合には品質が悪いとの評価を行なうようにすることができる。
【0062】
また、前述の実施例においては鮮度に関する値は(1)式により定義されるものであったがこれに限られない。例えば、測定対象物8について得られたATP濃度の、その測定対象物8の全核酸関連物質の合計の濃度に対する比を百分率で表したものを鮮度に関する値として算出することもできる。すなわち、
(鮮度に関する値)=(測定対象物8のATP濃度)/(測定対象物8のATP、IMP、HxR、Hxの濃度の合計)×100 ・・・(1’)
とすることもできる。同様に、前述の実施例においては品質に関する値は(2)式により定義されるものであったがこれに限られない。例えば、測定対象物8について得られたIMP濃度の、その測定対象物8の全核酸関連物質の合計の濃度に対する比を百分率で表したものを鮮度に関する値として算出することもできる。すなわち、
(品質に関する値)=(測定対象物8のIMP濃度)/(測定対象物8のATP、IMP、HxR、Hxの濃度の合計)×100 ・・・(2’)
とすることもできる。なお全核酸関連物質とは、例えば測定対象物8が魚肉類である場合において、それに含まれる各核酸関連物質であるATP(アデノシン三リン酸)、ADP(アデノシン二リン酸)、AMP(アデノシン一リン酸)、IMP(イノシン酸)、HxR(イノシン)、およびHx(ヒポキサンチン)を指すが、分解に伴って急速に減少する物質であるADPやAMPは、その濃度を0とみなすこともできる。
【0063】
また、前述の実施例2においては、基板30上には3つの作用極32a、32b、および32cが設けられ、これら3つの作用極32a、32b、32cにはそれぞれ異なった酵素が固定されていたが、このような態様に限定されない。具体的には例えば、これら3つの作用極32a、32b、32cに全て同じ酵素が固定されることにより、同じ核酸関連物質を同時に3回測定することができる。そして、このように測定された3回分の測定値の平均を測定値とすることで測定値の公差を小さくすることができる。さらには3つの作用極32a、32b、32cのうち2つに同じ酵素が固定される一方、残りの1つの作用極には異なる酵素を固定することもできる。このようにすれば、上述した3つの作用極32a、32b、32cのそれぞれに異なる酵素を固定する場合と、3つの作用極32a、32b、32cのそれぞれに同じ酵素を固定する場合との両方の効果を同時に得ることができる。また、基板30上に設けられる作用極32の数は3つに限定されず、作用極32の数が複数であれば同様の効果を得ることができる。
【0064】
また、前述の実施例においては、計測装置16は鮮度に関する値、あるいは品質に関する値を示すものとされたが、計測装置16において、HxRおよびHxの濃度の合計、および、ATP、ADP、AMP、IMP、HxR、およびHxの濃度の合計がそれぞれ得られる場合には、鮮度に関する値、あるいは品質に関する値に代えて、もしくは加えて、これらの濃度の合計の比であるK値を下記(3)式のように算出し表示するようにすることができる。
(K値)=(測定対象物8のHxRおよびHxの濃度の合計)/(測定対象物8のATP、ADP、AMP,IMP、HxR,及び、Hxの濃度の合計)×100 ・・・(3)
これにより、従来から広く用いられているK値により計測対象物8を評価することが可能となる。また、上記K値に代えて、下記(4)式で表されるような近似的なK値がK値として算出されてもよい。
(近似擬似的なK値)=(測定対象物8のHxRおよびHxの濃度の合計)/(測定対象物8のATP、IMP、HxR、Hxの濃度の合計)×100 ・・・(4)
これは、測定対象物8においてADP、AMPの濃度は時間の経過において大きな割合を占めないものであるため、(4)式のように算出した値であってもK値に準じて測定対象物を評価することが可能であるためである。さらに、上記K値あるいは近似的なK値に代えて、次式(5)で表されるKi値が算出されてもよい。
(Ki値)=(測定対象物8のHxRおよびHxの濃度の合計)/(測定対象物8のIMP、HxR、Hxの濃度の合計)×100 ・・・(5)
このKi値は、測定対象物8中のATP、ADP、AMPがほぼ分解し終えた状態においては、K値に代わる有効な指標の一つとして用いられ得る。
このようにすれば、本発明の品質評価装置によって従来から用いられているK値あるいはそれに準じる近似的なK値、もしくはKi値を簡便に得ることができる。
【0065】
また、前述の実施例においては破砕粒28は球状のものとされたが、これに限定されず、多数の破砕粒28が破砕部26としてもうけられた場合に、破砕粒28の形状と破砕粒28の相互の間隙により測定対象物8から液体を抽出しうる形状であればよく、例えば面取りされた多面体のような形状であってもよい。
【0066】
また、前述の実施例においては破砕粒28はガラス製のものとされたが、これに限定されず、例えば、樹脂、金属、セラミック、活性炭など、測定対象物8を押し付けることにより抽出液を抽出可能なものであればよい。
【0067】
また、前述の実施例においては、電気化学センサ14の基盤30はガラスエポキシ樹脂により構成されたが、これに限られず、例えば、アクリル樹脂(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリカーボネート(PC)などによって構成されてもよい。