(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
火力発電所や原子力発電所、製造プラントなどの設備では、機器の冷却媒体や機器を冷却する冷媒を冷却する冷却水などとして、海水や河川の水が使用されている。また、LNGプラントなどでは、LNGを気化させる温熱媒体としても海水や河川の水が使用されている。
【0003】
かかる海水や河川の水(以下、海水等という)を冷却などに使用する場合、配管等を介して、海中や河川から直接ポンプによって海水等を吸い上げることもできる。しかし、ポンプを外海等に設置することによる破損を防止するために、通常は、海水等を建屋内等に設けられている貯水槽に一旦導入し、この貯水槽内からポンプによって海水等を吸い上げることが行われている。具体的には、ポンプの吸引口に一端が接続された配管の他端を貯水槽内の内底面近傍に配置しておき、この状態でポンプを作動させることによって、貯水槽内の海水を吸い上げる構成を採用している。
【0004】
かかる貯水槽は、海や河川の水面(以下基準水面という)が最も低くなる干潮時などでも、その内底面が基準水面よりも下方に位置するように設置されるのが一般的である。これは、干潮時などでも貯水槽内の水位を一定以上に維持し、配管の他端が常時海水等に浸漬された状態を維持するため、つまり、冷却に使用する海水等の供給を維持するためである。
【0005】
しかし、上述したように貯水槽が設置されても、海や河川において基準水面が想定よりも低下した場合には、配管の他端が貯水槽内の水面から露出してしまう可能性がある。例えば、地震などによって津波が発生した場合、押し津波の状態と引津波の状態が繰り返されるが、引津波の際には基準水面は通常の干潮時の水位よりも大きく低下し、基準水面が貯水槽内の配管の他端よりも下がってしまう可能性がある。このような状態が生じると、ポンプによる吸水ができなくなり、設備の機器を冷却できなくなってしまう可能性がある。
【0006】
そして、配管の他端が貯水槽内の水面から露出した場合、ポンプが空引き(キャビテーション)をしてしまう可能性がある。かかる空引きが発生すると、ポンプが破損してしまう可能性がある。ポンプが破損してしまえば、基準水面が貯水槽内の配管の他端よりも高くなって配管の他端が貯水槽内の水面に浸漬される状況になっても、ポンプは吸水できない。つまり、設備の機器を冷却する機能が完全に失われてしまう。
【0007】
以上のように、わずかな時間でも配管の他端が貯水槽内の水面から露出することは避けなければならないので、基準水面が想定以上に低下した場合でも、貯水槽内の水面が配管の他端よりも上方に位置した状態を維持できるように、貯水槽内の水位の低下を防止する機構を設けることが必要である。とくに、基準水面の水位が回復するまでの一定期間、ポンプの吸水が継続できるように、ある程度の量の水を貯水槽内に貯留できる構造となっていることが望ましい。
【0008】
例えば、貯水槽内を海や河川側(外部空間)と配管の他端が配置されている側(内部空間)に分離する堰や壁を貯水槽内に設けて、この堰や壁に外部空間と内部空間とを連通遮断できるゲートを設けることが考えられる。かかる構造とすれば、基準水面が低下したときにゲートを閉めれば、基準水面の低下よる内部空間内の水位の低下を防止できる。一方、基準水面が上昇したときにゲートを開ければ、内部空間に再び海水等を供給することができる。
【0009】
しかし、基準水面を監視してゲートの開閉を制御する場合、基準水面の水位を検出するセンサーを設け、このセンサーの信号に基づいて、ゲート作動装置(シリンダやモータ等)によりゲートを開閉させることになるので、ゲートの構造が複雑になる。
しかも、地震等による津波の際には、押し津波の状態と引津波の状態が繰り返されることになり、基準水位が周期的に変動する。すると、基準水位の変動に合わせて、頻繁にゲートを開閉させなければならず、ゲートを適切に開閉できない可能性がある。
そして、センサーやゲート作動装置は緊急時に使用するものであるので、正常に作動することを常時確認しておかなければならず、そのメンテナンスや管理が大変である。
【0010】
一方、特別なゲート作動装置やセンサーを利用することなく、フラップ前後の水位差により自動でフラップを作動させる技術が開発されている(特許文献1、2)。
【0011】
特許文献1の技術は、河川と海とを仕切る防波堤に設けられるフラップゲートに関する技術であり、フラップが海側に揺動するとゲートが開き、フラップが河川側に揺動するとゲートが閉じるようになっている。かかる構成であるので、河川側の水位が海面よりも高い場合にはフラップが海側に揺動してゲートが開くから、河川側から海に水を流すことができる。一方、海面が河川側の水位よりも高い場合にはフラップが河川側に揺動してゲートを閉じるので、海から河川側に海水が流れないようにすることができる。
【0012】
また、特許文献2には、隣接する水路間に設けるフラップゲートが開示されている。このフラップゲートは、浮力発生手段を設けたフラップを備えており、このフラップは一方の水路内に配置されている。このため、一方の水路の水位が浮力発生手段の位置よりも高くなり、しかも、一方の水路の水位と他方の水路の水位差が一定より小さくなると、浮力発生手段の浮力によってフラップが上方に揺動するので、ゲートを開くことができる。一方、一方の水路の水位が浮力発生手段の位置よりも低くなると、フラップが下方に揺動するので、ゲートを閉じることができる。
【0013】
以上のように、特許文献1、2の技術では、ゲートを作動させるゲート作動装置やセンサーを使用しなくても、ゲート前後の水位差だけでフラップを揺動させてゲートを開閉させることができる。したがって、特許文献1、2の技術を上述した貯水槽に採用すれば、構造を簡素化できメンテナンスが容易なゲートを備えた貯水槽を形成することができる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかるに、特許文献1、2の技術の場合、フラップが上方に揺動してゲートが開く構造となっているので、ゲートが開いた状態からゲートを閉じるには、ゲート前後の水位が同等程度とならければならない。このため、特許文献1、2の技術を上述した貯水槽に使用した場合には、外部空間と内部空間の水位が同等となるまでは、ゲートを閉じることができない。すると、基準水面の低下に伴って外部空間の水位が低下すれば、ゲートは閉じるものの、ゲートが閉じたタイミングにおける内部空間には、ぜいぜいゲートの高さまでの水しか貯留されない。つまり、ゲートが閉じても内部空間に貯留される水の量が少ないので、基準水面が上昇して内部空間に海水等が供給される状態となるまでに、内部空間内の水をポンプが吸い上げてしまい、水切れ(ポンプが吸水できない状況)が生じる可能性がある。
【0016】
もちろん、ゲートの位置(つまり開口の位置)を高くすれば、ゲートが閉じるタイミングにおいて内部空間に貯留される水量を多くできるので、水切れが生じる可能性は低くなる。しかし、ゲートの位置を高くすると、基準水面が上昇しても、内部空間に水を供給できる状態(基準水面がゲートの位置以上となる状態)となるまでに時間がかかる。すると、津波のように、押し津波と引津波が繰り返すような場合(つまり、水位が周期的に変動する場合)には、押し津波となっても、基準水面がゲートの位置以上となっている時間が短くなり、押し津波の際に十分な量の水を内部空間内に供給できない可能性がある。すると、ゲートの位置を高くしてゲートが閉じるタイミングにおいて内部空間に貯留される水量を多くしても、ゲートが閉じている期間にポンプが吸い上げる水の量が押し津波の際に内部空間に供給される水の量を上回った場合には、水切れが生じる可能性がある。
【0017】
以上のごとく、現状では、内底面を基準水面よりも低くした貯水槽において、基準水面の大幅な低下が生じた場合に内部空間の水切れを防ぐことができ、しかも、メンテナンス性に優れたものは存在しておらず、かかる貯水槽が求められている。
【0018】
本発明は上記事情に鑑み、基準水面の大幅な低下が生じた場合でも水切れを防ぐことができ、しかも、メンテナンス性に優れた貯水槽、かかる貯水槽に適したフラップゲート、およびかかるフラップゲートを備えたゲート付堰を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
(貯水槽)
第1発明の貯水槽は、水を貯留し得る貯留空間を有し、該貯留空間内を分離する分離壁を備えた貯水槽であって、該分離壁には、前記分離壁によって分離される一方の空間と他方の空間を連通する開口が形成されており、該分離壁は、
上端が該分離壁に接近し鉛直方向に対して前記一方の空間側に傾いた状態で前記開口を閉じる遮断状態と、上端が前記分離壁から離れるように前記一方の空間側に揺動し前記開口を開く連通状態と、の間で揺動可能であるフラップを備えており、該フラップは、
その揺動中心が、該フラップの上端部と下端部との間であって該フラップの下端側に位置しかつ前記開口の上端部と下端部との間に位置するように配設されており、その揺動中心より下方部分の重量がその揺動中心より上方部分の重量よりも重くなっており、前記一方の空間内の水位が前記他方の空間内の水位と同等以下の場合には前記連通状態に維持され、前記一方の空間から前記他方の空間に向かう水流が発生すると前記遮断状態となるように設けられていることを特徴とする。
第2発明の貯水槽は、第1発明において、前記フラップは、前記連通状態において、水平方向に対して上傾した状態となるように設けられていることを特徴とする。
第3発明の貯水槽は、第1または第2発明において、前記貯水槽は、前記貯留空間における前記一方の空間が海中に連通されており、前記他方の空間が該他方の空間から外部に水を排出する排水手段の排水口と連通されていることを特徴とする。
第4発明の貯水槽は、第1、第2または第3発明において、前記貯水槽は、前記分離壁における前記開口の上部に設けられた作動確認機構を備えており、該作動確認機構は、前記フラップに連結離脱可能な連結部と、該連結部を前記分離壁の開口に向けて引っ張る引張手段と、該連結部を前記分離壁の開口から離間する方向に付勢する付勢手段と、を備えていることを特徴とする。
(フラップゲート)
第5発明のフラップゲートは、液体が収容される一対の空間を連通する開口を連通遮断するゲートであって、該ゲートが、
上端が前記開口に接近し鉛直方向に対して前記一対の空間の一方の空間側に傾いた状態で前記開口を閉じる遮断状態と、上端が前記開口から離れるように前記一方の空間側に揺動し前記開口を開く連通状態と、の間で揺動可能であるフラップを備えており、該フラップは、
その揺動中心が、該フラップの上端部と下端部との間であって該フラップの下端側に位置しかつ前記開口の上端部と下端部との間に位置するように配設されており、その揺動中心より下方部分の重量がその揺動中心より上方部分の重量よりも重くなっており、前記一方の空間内の液位が他方の空間内の液位と同等以下の場合には前記連通状態に維持され、前記一方の空間から前記他方の空間に向かう液体の流れが発生すると前記遮断状態となるように設けられていることを特徴とする。
第6発明のフラップゲートは、第5発明において、前記フラップは、前記連通状態において、水平方向に対して上傾した状態となるように設けられていることを特徴とする。
第7発明のフラップゲートは、第5または第6発明において、前記開口の上部に設置される作動確認機構を備えており、該作動確認機構は、前記フラップに連結離脱可能な連結部と、該連結部を前記開口に向けて引っ張る引張手段と、該連結部を前記開口から離間する方向に付勢する付勢手段と、を備えていることを特徴とする。
(ゲート付堰)
第8発明のゲート付堰は、開口が形成された本体部と、該本体部
の開口に設けられた
フラップゲートと、を備えており、該
フラップゲートが、
第5、第6または第7発明に記載のフラップゲートである
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
(貯水槽)
第1発明によれば、一方の空間内の水位が他方の空間内の水位と同等以下の場合には、開口を通して、一方の空間と他方の空間とが連通した状態に維持される。すると、両空間内の水位差などによって、他方の空間内の水を一方の空間に供給することができる。一方、他方の空間内の水が減少する等の原因により、一方の空間から他方の空間に向かって流れる水流が形成されると、その水流に起因してフラップが揺動し、フラップが遮断状態となる。すると、フラップによって開口が閉じられ一方の空間と他方の空間を分離することができるから、他方の空間内の水が減少した際に、一方の空間内に一定以上の水が貯留された状態とすることができる。しかも、一方の空間から他方の空間に向かって流れる水流が形成されればフラップが遮断状態となるように作動するので、開口の位置に係わらず、水流が形成されたタイミングにおいて一方の空間内に貯留されていた水を一方の空間内にほぼそのまま貯留することができる。また、両空間内の水位差に起因する水流によって、フラップが自動で揺動するので、フラップの作動を制御する必要がない。つまり、フラップを作動させる装置やセンサーなどを設ける必要がないので、貯水槽の構造を簡素化できる。
また、重力に起因してフラップに加わる揺動中心周りの回転モーメントを適切な状態とすることができるので、一方の空間から他方の空間に向かう水流が形成されたときに、連通状態から遮断状態にフラップをスムースに揺動させることができる。しかも、一方の空間から他方の空間に向かう水流が形成されていない状態において、フラップを連通状態で維持しやすくなる。そして、他方の空間内の水がなくなった状態でも、水頭差によってフラップが開くことを防ぐことができる。
第2発明によれば
、一方の空間から他方の空間に向かう水流が形成された際に、遮断状態となるようにフラップを揺動させやすくなる。
第3発明によれば、津波の引津波が発生した場合に、フラップが遮断状態となれば、引津波が発生したタイミングにおいて一方の空間内に貯留されていた水をほぼそのまま一方の空間内に貯留することができる。しかも、押し津波が発生すればフラップが連通状態となり、一方の空間内に水を供給することができるから、フラップが遮断状態となっている間に減少した水を、押し津波の際に一方の空間に補給できる。したがって、津波による引津波が発生しても、排水手段の排水口が露出することを防止することができ、排水手段による排水(つまり外部への吸水)を継続することができる。
第4発明によれば、連結部をフラップに連結して、引張手段によって連結部を分離壁の開口に向けて引っ張れば、フラップが分離壁の開口に向かって揺動するか否かを確認することができる。また、連結部を分離壁の開口に向けて引っ張った状態から引っ張る力を除去すれば、付勢手段によって連結部を分離壁の開口から離間する方向に付勢することができるので、フラップが分離壁の開口から離間する方向に向かって揺動するか否かを確認することができる。つまり、作動確認機構を設けておけば、連結部をフラップに連結して引張手段によって連結部を引っ張るだけでフラップが作動するか否かを確認することができるので、フラップの作動確認を容易にすることができる。
(フラップゲート)
第5発明によれば、一方の空間内の液位が他方の空間内の液位と同等以下の場合には開口を通して、一方の空間と他方の空間とが連通した状態に維持される。すると、両空間内の液位差などによって、他方の空間から一方の空間に液体を供給することができる。一方、他方の空間内の液位が低下する等の原因により、一方の空間から他方の空間に向かう液体の流れが形成されると、その液体の流れに起因してフラップが揺動し、フラップが遮断状態となる。すると、フラップによって開口が閉じられ、一方の空間と他方の空間を分離することができるから、他方の空間内の液位が低下した際に、一方の空間内の液位を、液体の流れが形成されたタイミングの状態に維持できる。また、両空間内の液位差に起因する液体の流れによってフラップが自動で揺動するので、フラップの作動を制御する必要がない。つまり、フラップを作動させる装置やセンサーなどを設ける必要がないので、ゲートの構造を簡素化できる。
また、重力に起因してフラップに加わる揺動中心周りの回転モーメントを適切な状態とすることができるので、一方の空間から他方の空間に向かう水流が形成されたときに、連通状態から遮断状態にフラップをスムースに揺動させることができる。しかも、一方の空間から他方の空間に向かう水流が形成されていない状態において、フラップを連通状態で維持しやすくなる。そして、他方の空間内の水がなくなった状態でも、水頭差によってフラップが開くことを防ぐことができる。
第6発明によれば
、一方の空間から他方の空間に向かう液体の流れが形成された際に、遮断状態となるようにフラップを揺動させやすくなる。
第7発明によれば、連結部をフラップに連結して、引張手段によって連結部を開口に向けて引っ張れば、フラップが開口に向かって揺動するか否かを確認することができる。また、連結部を開口に向けて引っ張った状態から引っ張る力を除去すれば、付勢手段によって連結部を開口から離間する方向に付勢することができるので、フラップが開口から離間する方向に向かって揺動するか否かを確認することができる。つまり、作動確認機構を設けておけば、連結部をフラップに連結して引張手段によって連結部を引っ張るだけでフラップが作動するか否かを確認することができるので、フラップの作動確認を容易にすることができる。
(ゲート付堰)
第8発明によれば、本体部を液体が収容される空間に設置して、その空間を本体部によって分離すれば、開口を介して分離された空間間を移動する液体の流れを制御することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の貯水槽は、火力発電所や原子力発電所、製造プラントなどの設備において、海水や河川の水を取水する際に使用される貯水槽であって、津波等に起因して海や河川の水面が低下した場合でも、水の取水を継続できるようにしたことに特徴を有している。
【0023】
なお、本発明の貯水槽は、上述したような設備の取水に使用される貯水槽に限られず、その用途はとくに限定されない。
また、本発明の貯水槽に設けられるフラップゲートの用途もとくに限定されない。例えば、防潮堤に設置し、押津波到来時には人手を介することなく通路を閉止する装置としても使用できる。
【0024】
以下では、本発明の貯水槽に海水を取り入れて、貯水槽内の海水をポンプによって吸い上げて設備の各種機器の冷却に使用する場合を説明する。以下の説明におけるポンプが、特許請求の範囲にいう排水手段に相当する。
【0025】
(本実施形態の貯水槽1)
つぎに、本実施形態の貯水槽1を図面に基づき説明する。
まず、本実施形態の貯水槽1の基本的な構成およびその機能を説明する。
【0026】
図1において、符号1は本実施形態の貯水槽を示している。この貯水槽1は、内部に中空な空間である貯留空間1hを備えており、この貯留空間1h内に海水を貯留することができるようになっている。
この貯留空間1hには、
図1に示すように、排水配管Pの一端(吸水端)が浸漬されている。この排水配管Pの他端はポンプの吸水口に接続されており、ポンプを作動することによって、貯留空間1h内の海水が吸い上げられて設備の各種機器に搬送され、各種機器の冷却に使用されるようになっている。
【0027】
一方、この貯水槽1には、外部の水源、つまり、海から海水を取り入れるための取水口1iが設けられている。この取水口1iは、取水配管などを介して海中に連通されている。つまり、取水配管と取水口1iを通して、海水が貯水槽1の貯留空間1h内に供給されるのである。
【0028】
しかも、
図1に示すように、貯水槽1は、その内底面bが海面WL(以下基準水面WLという)よりも低い位置となるように設けられている。より詳しくは、潮の満引きに起因する基準水面WLの変動が生じても、常時、基準水面WLよりも内底面bが低くなるように、貯水槽1は設けられる。具体的には、貯水槽1は、内底面bが干潮時の基準水面WL(最低水面)よりも低くなるように設けられる。
【0029】
このため、ポンプによって貯留空間1h内の海水が外部に排出されても、貯留空間1h内の水面Wが基準水面WLと一致した状態となるように、取水配管と取水口1iを通して、貯留空間1hに海水を供給することができる。つまり、ポンプによって貯留空間1h内の海水を外部に排出しても、貯留空間1hの水位を基準水面WLと同等のレベルに維持することができる。
【0030】
そして、排水配管Pの吸水端を、干潮時の基準水面WL(最低水面)よりも低い位置、つまり、最低水面でも排水配管Pの吸水端が水面下に位置するように配設しておく。すると、潮の満引きに起因する基準水面WLの変動が生じても、常に、設備に対して冷却水を供給することができるようにすることができる。
【0031】
なお、取水口1iに接続されている取水配管の他端、つまり、取水配管における海中に配置される端部(取水端)を配置する高さはとくに限定されない。しかし、配管の取水端は、通常、貯水槽1の内底面bよりも低い位置に配置される。これは、より深い位置の海水(温度の低い海水)を使用することで設備等を冷却する効果を高めるとともに、基準水面WLが低下した際に、取水端が基準水面WL上に露出して海水を取水できなくなることを防ぐためである。
【0032】
つぎに、本実施形態の貯水槽1の特徴的な構成を説明する。
【0033】
(分離壁2)
図1に示すように、本実施形態の貯水槽1には、貯留空間1h内を2つの空間に分離する分離壁2が設けられている。具体的には、分離壁2によって、貯留空間1hは、取水口1iが設けられている側の空間(供給空間1a)と、排水配管Pの吸水端が設けられている側の空間(排水空間1b)と、に分離されている。
【0034】
図1に示すように、分離壁2には、開口2hが設けられている。この開口2hは、分離壁2を貫通し供給空間1aと排水空間1bを連通する貫通孔である。つまり、取水口1iから貯留空間1hの供給空間1aに流入した海水は、開口2hを通って、供給空間1aから排水空間1bに供給されるのである。
【0035】
この開口2hは、断面略矩形に形成されており、その内面にはその内周に沿って突起状のシール部2sが設けられている。このシール部2sは、後述するフラップ10における本体11のブラケット12と接触する部分であるが、詳細は後述する。
【0036】
なお、開口2hを設ける高さはとくに限定されない。しかし、供給空間1aに流入した海水を排水空間1bに供給しやすくする上では、分離壁2の下部、つまり、貯水槽1の内底面bに近い位置に配設することが望ましい。本実施形態の貯水槽1では、開口2hを貯水槽1の内底面bに近い位置に配設しても、この開口2hに後述するフラップ10が設けられているので、フラップ10を閉じた際に、排水空間1bに十分な量の水を貯留することができる。
【0037】
また、分離壁2の高さはとくに限定されないが、供給空間1a内の水位低下によりフラップ10が閉じた時に、排水空間1bが所定の量の水を貯留できる程度の容積となる高さであればよい。例えば、フラップ10が閉じてから供給空間1a内の水位が回復するまでの間、排水空間1b内に、排水配管Pの吸水端を海水に浸漬した状態に維持できる程度の水を貯留しておける容積を有していることが望ましい。
【0038】
さらに、分離壁2の高さを調整すれば、基準水面WLが高くなったときには、分離壁2を越える形で海水を供給空間1aから排水空間1bに供給することも可能である。例えば、分離壁2の高さを干潮時の基準水面WLよりわずかに低くなるようにしておけば、干潮時以外は、分離壁2の開口2hだけでなく、分離壁2を越える形で海水を供給空間1aから排水空間1bに供給する状態とすることができる。
【0039】
(フラップ10)
図1および
図2に示すように、分離壁2には、開口2hを開閉するフラップ10が設けられている。このフラップ10は、開口2hと略相似形に形成されており、分離壁2に対して揺動可能に取り付けられている。具体的には、フラップ10が揺動してほぼ鉛直状態となると開口2hが閉じられ(
図2(B)参照)、フラップ10が揺動して上端が開口2hから離間すると開口2hが開く(
図2(A)参照)ように、フラップ10は分離壁2に取り付けられている。
【0040】
そして、このフラップ10は、供給空間1aと排水空間1bの水位差および、供給空間1aと排水空間1bとの間の水流の方向によって、自動的に開口2hを開閉するように設けられているのである。
以下、かかる機能を有するフラップ10について、詳細に説明する。
【0041】
図1〜
図3に示すように、フラップ10は、略箱状に形成された本体11と、ブラケット部12と、一対の揺動軸13,13と、を備えている。
【0042】
まず、一対の揺動軸13,13は、本体11の側面に互いに同軸となるように設けられている。この一対の揺動軸13,13は、分離壁2の開口2hの内面に回転可能に取り付けられている。具体的には、一対の揺動軸13,13は、その中心軸(揺動軸)が水平となるように分離壁2の開口2hの内面に取り付けられている。
【0043】
このため、フラップ10は、分離壁2に対して一対の揺動軸13,13の中心軸周りに揺動することができる。つまり、フラップ10は水平な揺動軸周りに揺動することができるので、フラップ10を、ほぼ鉛直状態(遮断状態)と、開口2hから離間した状態(連通状態)と、の間で揺動させることができるのである。なお、この一対の揺動軸13,13の中心軸が、特許請求の範囲にいう揺動中心に相当する。
【0044】
図3(A)に示すように、フラップ10の本体11は、正面視で略長方形状に形成されている。この本体11は、正面視では、開口2hと略相似形であるが、開口2hよりも小さくなるように形成されている。具体的には、開口2hの内面に設けられているシール部2sの内端面で形成される開口(以下シール部開口Shという)よりも若干小さくなるように形成されている(
図3参照)。つまり、本体11は、シール部開口Sh内に収容しうる程度の大きさに形成されているのである。
【0045】
フラップ10の本体11の側面には、この側面に沿って板状のブラケット部12が設けられている。この板状のブラケット部12は、その表面が本体11の表面とほぼ平行となるように形成されている。このブラケット部12の外径は、シール部開口Shよりも大きく、開口2hよりは若干小さくなるように形成されている。
【0046】
このため、フラップ10が揺動して遮断状態となると、本体11はシール部開口Sh内に配置される一方、ブラケット部12は、その表面がシール部2sの表面に接触する状態となる。すると、ブラケット部12の表面とシール部2sの表面の接触によって、シール部2sの両側、言い換えれば、開口2hの両側がフラップ10によって遮断される。つまり、フラップ10によって開口2hを閉じることができるので、供給空間1aと排水空間1bとの間をフラップ10によって遮断することができるのである。
【0047】
なお、ブラケット部12の表面またはシール部2sの表面のいずれか一方にゴム板などのシール部材Sgを設けておくことが好ましい(
図4参照)。すると、ブラケット部12の表面とシール部2sの表面が接触したときに、接触部分のシール性を高めることができ、フラップ10によって開口2hをほぼ液密性に閉じることができる。
【0048】
例えば、
図3に示すような構造を有するフラップ10の場合、遮断状態において、一対の揺動軸13,13より上方に位置するブラケット部12の表面はシール部2sの排水空間1b側の面に接触する(
図2(B)参照)。逆に、一対の揺動軸13,13より下方に位置するブラケット部12の表面はシール部2sの供給空間1a側の面に接触する(
図2(B)参照)。したがって、シール部2sにおいて、一対の揺動軸13,13より上方の部分ではシール部材Sgを排水空間1b側の面に設け、一対の揺動軸13,13より下方の部分ではシール部材Sgを供給空間1a側の面に設ければ、フラップ10によって開口2hを液密性に閉じる効果を高めることができる(
図2参照)。
【0049】
また、一対の揺動軸13,13は、フラップ10の本体11の側面に設けられているが、その中心軸は、本体11の上下方向の中間よりも下方に位置するように設けられている。
一方、開口2hのシール部2sは、遮断状態において、フラップ10の中心面(フラップ10を厚さ方向において二等分する面)が、若干、排水空間1b側に傾いた状態となるように設けられている。
【0050】
かかる構成となっているので、フラップ10には、遮断状態となっていても、その先端部を下方に揺動させようとする力が加わる。このため、フラップ10に対して開口2hに向けて押すような力を加えなければ、フラップ10は、遮断状態からでも、排水空間1b側に傾くように揺動する。つまり、フラップ10は、その上端を上方に揺動させる力(例えば浮力や水流など)が加わっていない状態では、上端が排水空間1b側に揺動した状態、言い換えれば、開口2hを開口する連通状態となるのである。
【0051】
(本実施形態の貯水槽1の作用)
つぎに、以上のごとき構造を有する本実施形態の貯水槽1の作用効果を説明する。
【0052】
まず、取水口1iを通して、貯留空間1hの供給空間1aに海水を導入すれば、貯留空間1h内(供給空間1aおよび排水空間1b)に基準水面WLと同じ高さまで海水を貯留することができる。そして、ポンプによって排水空間1b内の海水を外部に排出すると、排出された量と同量の海水が、分離壁2の開口2hを通して、供給空間1aから排水空間1bに供給される。同時に、排水空間1bに供給した海水と同量の海水が、取水口1iを通して供給空間1aに供給される。したがって、ポンプによって排水空間1b内の海水を外部に排出しても、貯留空間1h内(供給空間1aおよび排水空間1b)は基準水面WLと同じ高さに維持される。このとき、フラップ10は連通状態になっているので、フラップ10によって分離壁2の開口2hを通る海水の流れは阻害されない。
【0053】
一方、津波の引津波などの影響により基準水面WLが貯留空間1h内の水位よりも低下すると、取水口1iを通して、供給空間1a内から海水が外部に排出される。この場合、貯留空間1h内では、排水空間1bから供給空間1aに向かう水流が発生し、分離壁2の開口2hを通して、排水空間1bから供給空間1aに向かう水流も生じる。このとき、この水流に起因して、フラップ10を開口2h(つまり分離壁2)に向かって押すように水圧が加わるので、フラップ10は連通状態から遮断状態となるように揺動する。そして、フラップ10が遮断状態となれば分離壁2の開口2hは液密に閉じられた状態となるので、分離壁2によって、排水空間1bが供給空間1aから液密に分離された状態となる。つまり、フラップ10が遮断状態となった時点(排水空間1bから供給空間1aに向かう水流が形成されたタイミング)において排水空間1b内に貯留されていた海水を、排水空間1b内にほぼそのまま保持することができる。すると、基準水面WLが低下しても、排水空間1b内に貯留されている海水をポンプによって外部に排出する作業を継続することができるので、引津波などが発生しても、海水を利用した冷却などの作業を継続することができる。
【0054】
ポンプによって海水を外部に排出する作業を継続すると、排水空間1b内の海水の量が減少し、排水空間1b内の水位も低下する。しかし、基準水面WLが上昇すると、供給空間1aの水位が上昇し、排水空間1b内の水位よりも高くなる。すると、フラップ10は、自重や供給空間1aと排水空間1bの水位差によって、遮断状態から連通状態となるように揺動する。すると、分離壁2の開口2hが開かれるので、供給空間1aから排水空間1bに海水が供給され、排水空間1bの水位は供給空間1aと同じ水位まで上昇し、やがて、貯留空間1h内全体の水位が基準水面WLとなる。
【0055】
以上のごとく、本実施形態の貯水槽1では、引津波などの影響によって基準水面WLが大きく低下した場合には、フラップ10によって分離壁2の開口2hを閉じて、排水空間1bに一定以上の量の海水を貯留できる。しかも、排水空間1bから供給空間1aに向かって流れる水流が形成されればフラップ10がスムースに遮断状態となるように作動する。このため、水流が形成されたタイミングにおいて排水空間1b内に貯留されていた海水を、排水空間1b内にほぼそのまま貯留することができる。つまり、引津波などが発生した場合において、分離壁2の開口2hが設けられている位置(高さ)に係わらず、十分な量の海水を排水空間1b内に貯留することができるので、引津波などが発生しても、排水空間1b内の海水を利用した設備等の冷却を継続することができる。
【0056】
また、供給空間1aと排水空間1bの水位差に起因する水流によって、フラップ10が自動で揺動するので、フラップ10の作動を制御する必要がない。つまり、フラップ10を作動させる装置やセンサーなどを設ける必要がないので、貯水槽1の構造を簡素化できる。
【0057】
(フラップ10について)
なお、遮断状態において、フラップ10の中心面が鉛直面に対してなす角度θ1(以下単に角度θ1という)は、とくに限定されない。フラップ10の上端を上方に揺動させる力が加わっていない状態において、フラップ10を排水空間1b側に揺動させることができる程度であればよい。しかし、遮断状態から連通状態にフラップ10をスムースに揺動させる上では、角度θ1は、2〜6度が好ましく、2〜4度がより好ましい。
【0058】
また、フラップ10を連通状態に維持するだけであれば、フラップ10は、その先端部の重量が大きい方が好ましい。しかし、上述したように、フラップ10は、引津波が発生した場合などのように、排水空間1b側から供給空間1a側に向かう水流が発生すると、連通状態から遮断状態となるように揺動しなければならない。つまり、水流に起因する付勢力だけで、フラップ10の上端を下方に揺動させる力に対抗して、フラップ10を連通状態から遮断状態となるように、フラップ10の上端を上方に揺動させることができなければならない。
【0059】
このため、フラップ10は、一対の揺動軸13,13よりも下方の部分の長さL1よりも一対の揺動軸13,13よりも上方の部分の長さL2の方が長いにも係わらず、一対の揺動軸13,13よりも下方の部分の重量が一対の揺動軸13,13よりも上方の部分の重量よりも若干重くなるように形成されている。かかる構造とすると、重力に起因してフラップ10に加わる一対の揺動軸13,13周りの回転モーメントを適切な状態とすることができるので、排水空間1bから供給空間1aに向かう水流が形成されたときに、連通状態から遮断状態にフラップ10をスムースに揺動させることができる。例えば、長さL1を350mm、長さL2を700mmとし、下方の部分の重量を110kg、上方の部分の重量を90kg、とすれば、フラップ10をスムースに揺動させることができる。
【0060】
また、フラップ10は、その下端に一対の軸13,13を設けた構造とすることも可能であるが、上述したように、一対の軸13,13を、フラップ10の上端と下端の間に位置するように設けることが望ましい。言い換えれば、フラップ10は、一対の軸13,13の上方部分と下方部分に、それぞれ水圧を受ける部分を有するような構造となっていることが望ましい。かかる構成とすると、フラップ10が遮断状態となった後、供給空間1a内の海水が完全になくなった場合でも、フラップ10における一対の軸13,13の上方部分と下方部分に加わる水頭差によってフラップ10を遮断状態に維持しておくことができる。
【0061】
さらに、排水空間1b側から供給空間1a側に向かう水流が発生した際に、フラップ10をスムースに連通状態から遮断状態に揺動させることができるのであれば、連通状態において、フラップ10の中心面が水平面に対してなす角度θ2(以下単に角度θ2という)の大きさはとくに限定されない。しかし、角度θ2が小さすぎると、上記水流が発生しても、フラップ10がスムースに連通状態から遮断状態に揺動しない可能性がある。したがって、上記水流が発生した際に、フラップ10をスムースに連通状態から遮断状態に揺動させる上では、連通状態における角度θ2はあまり小さくないほうがよい。例えば、上記水流が形成されたときに、フラップ10をスムースに揺動させる上では、角度θ2は、35度以上が好ましく、40度以上がより好ましく、45度以上がさらに好ましい。
【0062】
一方、連通状態において、開口2hを通過して排水空間1bから供給空間1aにスムースに水を供給する(言い換えれば、開口2hを通過する水流の流量を多くする)上では、角度θ2はできるだけ小さい方が好ましい。
【0063】
したがって、排水空間1b側から供給空間1a側に向かう水流が発生した際に連通状態から遮断状態にフラップ10をスムースに揺動させることができ、しかも、連通状態において供給空間1aから排水空間1bにスムースに水を供給する上では、角度θ2は、35〜50度が好ましく、40〜45度がより好ましい。
【0064】
(揺動規制部材15)
連通状態において、フラップ10は、一定の角度以上搖動しないようにその揺動が規制されていることが望ましい。このようにフラップ10の揺動を規制する方法はとくに限定されないが、例えば、以下のごとき揺動規制部材15を設けて、フラップ10の揺動を規制することができる。
【0065】
図2に示すように、分離壁2における排水空間1b側の表面には、分離壁2に立設された揺動規制部材15が設けられている。この揺動規制部材15には、フラップ10が排水空間1b側に揺動したときに、フラップ10の揺動角度が所定の角度(例えば角度θ2)となると、フラップ10の本体部11と接触するように配設されている。かかる揺動規制部材15を設ければ、フラップ10が排水空間1b側に搖動しても、揺動規制部材15の位置までしか揺動できない。すると、上記水流が形成された際に、フラップ10をスムースに連通状態から遮断状態に揺動させることができる。揺動規制部材15とフラップ10の本体部11が接触する部分の構造はとくに限定されない。例えば、
図2に示すように、水平に対して傾いた支持面15a(具体的には、分離壁2から離間する方向に沿って上傾するように設けられた支持面15a)を設けて、支持面15aがフラップ10の本体部11の表面と面接触するようにしてもよい。
【0066】
(開口2hの数)
フラップ10を設けた開口2hは分離壁2に一箇所だけ設けてもよいが、複数箇所設けることが望ましい。開口2hを複数箇所設ければ、万が一、一の開口2hに設けられたフラップ10が遮断状態で開かなくなった場合でも、他の開口に設けられたフラップ10は連通状態とすることができる。つまり、他の開口2hによって、供給空間1aと排水空間1bを連通状態とすることができる。すると、供給空間1aの水位が低下してフラップ10が遮断状態となった後、供給空間1aの水位が復帰したときに、一の開口2hに設けられたフラップ10が故障して揺動しなくなっても、供給空間1aから排水空間1bに水を供給できる。
【0067】
(ゲート付堰)
上記例では、分離壁2が貯水槽1に固定されている場合を説明したが、分離壁2は、貯水槽1に対して着脱可能に設けられていてもよい。言い換えれば、貯水槽1に対して着脱可能なゲート付堰を、分離壁2として使用してもよい。つまり、開口が形成された本体部とこの開口に上述したフラップ10が設けられた堰を、分離壁2として使用してもよい。
【0068】
かかるゲート付堰を分離壁2として使用する場合、ゲート付堰の設置位置(
図1では左右方向の位置)を調整できるようにしておけば、排水空間1bの容量を調整することが可能となる。すると、冷却水を供給する設備を改修等した際に、適切な大きさの排水空間1bを貯水槽1に設けることができる。
また、ゲート付堰の設置位置を変更できない場合でも、ゲート付堰の高さを変更することによっても、排水空間1bの容量を変更することが可能となる。
【0069】
なお、上述したようなゲート付堰であれば、貯水槽1などの液体が収容される空間を分離する分離壁以外にも使用することができる。つまり、一方の側から他方の側への液体の流れは許容するが逆は許容しないように液体の流れを制御する装置として使用することができる。例えば、防潮堤などにフラップ10が海側に揺動するように設置すれば、押津波到来時には人手を介することなく通路を閉止する装置として、上述したゲート付堰を使用できる。
【0070】
(作動確認機構)
上述した貯水槽1の分離壁2に設けられるフラップ10は、通常、水中に浸漬された状態となっているので、フラップ10の作動を確認するために、以下の機構を設けておくことが望ましい。
【0071】
図4において、符号21は、分離壁2の開口2hの上部に設けられた作動確認機構20の本体部を示している。この本体部21はプーリ21rを備えており、このプーリ21rにワイヤー23が巻き掛けられている。このワイヤー23は、その基端が分離壁2に沿って設けられた管21p内を通して貯水槽1の外部まで延びている。つまり、ワイヤー23の基端を、貯水槽1の外部から操作できるようになっている。
【0072】
一方、ワイヤー23の先端には、連結部22が取り付けられている。この連結部22は、フラップ10に連結離脱可能なものである。連結部22はどのようなものを使用してもよいが、例えば、フラップ10が金属であれば、連結部22として電磁石を使用することができる。
【0073】
この連結部22と本体部21との間には、付勢部材24が設けられている。この付勢部材24は、連結部22を本体部21から離間する方向(言い換えれば、連結部22を分離壁2の開口2hから離間する方向)に付勢する機能を有するものである。例えば、バネやゴム、じゃばら等を付勢部材24として使用することができる。
【0074】
以上のごとき構成であるので、連通状態にあるフラップ10に連結部22を連結して、ワイヤー23を基端側に引っ張れば、連結部22とともにフラップ10を分離壁2の開口2hに向けて引っ張ることができる。すると、ワイヤー23を一定以上引っ張ることができたか否かで、フラップ10が分離壁2hの開口に向かって揺動するか否か、つまり、フラップ10が連通状態から遮断状態となるように揺動できるか否かを確認することができる。
【0075】
一方、ワイヤー23を引っ張ってフラップ10を分離壁2の開口2hに向けて揺動させた状態からワイヤー23を引っ張っていた力を除去すれば、付勢部材24によって、連結部22とともにフラップ10を分離壁2の開口2hから離間するように押すことができる。すると、ワイヤー23が先端に向けて一定以上移動した否かで、フラップ10が分離壁2hの開口から離間する方向に揺動するか否か、つまり、フラップ10が遮断状態から連通状態となるように揺動できるか否かを確認することができる。
【0076】
以上のごとく、作動確認機構20を設けておけば、連結部22をフラップ10に連結してワイヤー23を引っ張ったり、逆に、ワイヤー23を引っ張った状態から引張力を除去したりするだけで、フラップ10が作動するか否かを確認することができる。しかも、ワイヤー23の基端を貯水槽1の外部に配置しておけば、フラップ10を水没させた状態でフラップ10の作動確認ができるから、フラップ10の作動確認が容易になる。
【0077】
上述した、ワイヤー23が特許請求の範囲にいう引張手段であるが、引張手段は連結部22を分離壁2の開口2hに向けて引っ張ることができるものであればよく、とくに限定されない。例えば、水圧ピストンやリンク機構等を引張手段として使用することができる。
【0078】
なお、作動確認機構20の本体21等にカメラを設けてもよい。この場合、ワイヤー23の移動量だけでなく、画像でもフラップ10の作動を確認できるので、好ましい。
【0079】
(フラップ10の他の用途)
上記例では、貯水槽1の分離壁2の開口2hにフラップ10を設けた場合を説明した。しかし、フラップ10は、上述したような機能を要求される用途であれば、どのような場所でも使用することができる。つまり、壁などによって分離された一対の空間を連通する開口であって、一方の空間から他方の空間への水流は許容するが、他方の空間から一方の空間への水流は許容しないことが要求される開口において、水流を制御するゲートとしてフラップ10を採用することができる。
【実施例】
【0080】
本発明の貯水槽を、冷却水として使用するために海水を一旦貯留する貯水槽として使用した場合において、津波の際における貯水槽の水位変動と、外部への海水の供給を維持できるか否かを計算によって確認した。
【0081】
確認は、
図1に示すような貯水槽において、津波による基準水位(津波水位)の変動が発生した場合において、フラップによる開口の開閉タイミングと、排水空間の水位(堰内水位)の変動を調べた。
【0082】
なお、計算では、津波水位が正弦波で変動し、供給空間の水位は津波水位と同じであると仮定した。また、排水空間(堰内)からは、一定量の水(50m
3/min)が排水されていると仮定した。
【0083】
図5に結果を示す。
図5に示すように、引津波が発生して津波水位が堰(分離壁)よりも低くなると、短時間でフラップが作動して開口が閉じられていることが確認できる。そして、フラップが開口を閉じると、堰内水位は津波水位の影響を受けないことも確認できる。
【0084】
また、津波水位が上昇して堰内水位よりも高くなると、フラップが作動して開口が開くことが確認できる。そして、開口が開くことによって、津波水位が上昇している間に、堰内水位を回復できることが確認できる。
【0085】
そして、津波水位の変動とフラップの開閉によって堰内水位が変動しているものの、堰内水位はポンプ吸い込み口の高さよりも高く維持できており、外部への海水の供給を維持できていることが確認できる。
【0086】
以上のように、分離壁の開口に本発明のフラップを備えた本発明の貯水槽であれば、引き津波が発生したとしても貯水槽内の水位を、外部に対する海水の供給を維持できる水位に保つことができることが確認された。