【文献】
米谷真人,新規マイクロ波加熱としての界面選択加熱の可能性と機能材料形成プロセスへの展開,機能材料,2014年 2月 5日,Vol.34 No.2,P.47-55
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
「本発明の複合体の加熱方法」
本発明の複合体の加熱方法は、互いに接する異種の第1の物質と第2の物質とを含む複合体をある特定の周波数の電磁波の照射により加熱する複合体の加熱方法に関する。
本発明の複合体の加熱方法において、第1の物質および第2の物質は互いの当接界面に静的分極を有する材料の組合せからなる。
本発明の複合体の加熱方法において、電磁波の電場の振動方向と当接界面とのなす角度θが0〜45°であり、電磁波の電場の振動方向と静的分極の方向とが互いに交差方向であるという関係を充足しつつ、電磁波の振動電場の強度が最も高くなる位置を含む領域に複合体を設置または搬送して、複合体に電磁波を照射する。
【0026】
本発明の複合体の加熱方法において、電磁波の電場の振動方向と当接界面とのなす角度θは、好ましくは0〜40°であり、より好ましくは0〜30°であり、特に好ましくは0〜20°である。
【0027】
第1の物質と第2の物質の組合せは特に制限されない。
たとえば、
第1の物質は、半導体、絶縁体、または導体であり、
第2の物質は、第1の物質とは異種の材料からなる、半導体、絶縁体、または導体である。
たとえば、第1の物質と第2の物質のうち少なくとも一方は、酸化物半導体、酸化物絶縁体、酸化物導体、または金属導体である。
【0028】
本発明は、第1の物質と第2の物質とが、それぞれ単独の材料では上記特定の周波数の電磁波の吸収特性が低い材料からなる場合に好ましく適用できる。
具体的には、本発明は、第1の物質と第2の物質とが、それぞれ単独の材料では上記特定の周波数の電磁波における誘電損失係数が5以下である場合に好ましく適用できる。
【0029】
「物質の誘電損失係数」は、測定物質の均一膜(ベタ膜)を得、実際に用いる周波数の電磁波を実際に照射し、誘電特性を測定することにより求められる。膜の誘電損失係数の測定方法は、たとえば「背景技術」の項に挙げた非特許文献2、3に記載されている。
【0030】
たとえば、第1の物質は、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、またはインジウム錫酸化物(ITO)等の透光性酸化物導電体であり、第2の物質は、Ta
2O
5、TiO
2、Bi
2O
3、MnO
2、およびNb
2O
5等の酸化物半導体である。
【0031】
たとえば、第1の物質は、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス、または酸化チタン等の絶縁体であり、第2の物質は白金(Pt)等の金属導体である。
【0032】
用いる電磁波の周波数は特に制限なく、たとえば0.1GHz〜100GHzが好ましい。
用いる電磁波の周波数としては、915MHz、2.45GHz、5.8GHz、または24.1GHzが好ましい。
本実施形態の方法では、第1の物質と第2の物質が吸収しづらい周波数の電磁波を用いてもよい。したがって、最も汎用の2.45GHzの電磁波等を用いることができる。この場合、電磁波発生装置として特殊な装置が不要であり、低コストである。
【0033】
第1の物質および第2の物質のうち少なくとも一方が未焼結物である場合、上記電磁波の照射により未焼結物を焼結することができる。
【0034】
第1の物質が触媒担体であり、第2の物質が触媒である場合、上記電磁波の照射により触媒を加熱して、各種反応を行うことができる。
【0035】
「第1実施形態の複合体とその加熱方法]
図面を参照して、本発明に係る第1実施形態の複合体の構造とその加熱方法について、説明する。
図1は、本実施形態の複合体の模式斜視図である。
図2は、本実施形態の複合体の模式断面図である。
図3Aは、上記の複合体の加熱に用いて好適な加熱装置の一実施形態を示す模式透視斜視図である。
【0036】
図1に示すように、本実施形態の複合体1は、第1の膜(第1の物質)11上に第1の膜11とは異種の材料からなる第2の膜(第2の物質)12が積層された積層膜である。
本実施形態において、
第1の膜11は、半導体膜、絶縁体膜、または導体膜であり、
第2の膜12は、第1の膜11とは異種の材料からなる、半導体膜、絶縁体膜、または導体膜である。
第1の膜11と第2の膜12のうち少なくとも一方は、酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜または硫化物膜等であることが好ましく、酸化物膜であることがより好ましい。すなわち、第1の膜11と第2の膜12のうち少なくとも一方は、酸化物半導体膜、酸化物絶縁体膜、または酸化物導体膜であることが好ましい。
第1の膜11と第2の膜12のうち少なくとも一方は、金属導体膜でもよい。
本実施形態において、第2の膜12は複数の微粒子12aからなる微粒子膜である。
微粒子12aの形状は特に制限なく、球状、板状、およびロッド状等、任意である。
【0037】
複合体1は、第1の膜11上に第2の膜12を成膜した後、ある特定の周波数の電磁波照射による加熱焼成を実施して、製造されたものである。
本発明は、第1の膜11と第2の膜12とが、それぞれ単独の膜では上記特定の周波数の電磁波の吸収特性が低い材料からなる場合に好ましく適用できる。
具体的には、本発明は、第1の膜11と第2の膜12とが、それぞれ単独の膜では上記特定の周波数の電磁波における誘電損失係数が5以下である場合に好ましく適用できる。
【0038】
本実施形態の複合体(積層膜)1はたとえば、色素増感型光電変換素子の負極に用いられる。
この場合、第1の膜11はたとえば、フッ素ドープ酸化錫(FTO)膜、アンチモンドープ酸化錫(ATO)膜、あるいはインジウム錫酸化物(ITO)膜等からなる透光性酸化物導電体膜であり、第2の膜12はたとえば、色素増感剤を担持する酸化チタン膜等の酸化物半導体膜である。これらの膜はいずれもマイクロ波として最も汎用の2.45MHzの電磁波に対して吸収特性が小さく、それぞれ単独の膜では2.45MHzの電磁波における誘電損失係数が5以下である。
【0039】
色素増感型光電変換素子の負極用途の場合、複合体1の基板(図示せず)としては特に制限なく、ガラスあるいはポリイミド等の透光性基板が挙げられる。
第2の膜12を構成する微粒子12aの粒子径は特に制限されず、色素増感型光電変換素子の用途では、たとえば5〜20nm程度が好ましい。
第2の膜12が酸化チタン微粒子膜である場合、その結晶型は特に制限されず、色素増感型光電変換素子の用途ではアナターゼ型が好ましい。
酸化チタン微粒子膜の成膜方法は特に制限されず、酸化チタン前駆体を含むゾルを塗布し焼成するゾルゲル法、および酸化チタン微粒子の分散ペーストまたは分散液を塗布し焼成する塗布法等が挙げられる。
【0040】
本実施形態において、第2の膜12は複数の微粒子12aからなる微粒子膜であるが、平坦膜(ベタ膜)でもよいし、他の形態の膜でもよい。
第2の膜12は、スパッタ法、CVD(ケミカルベーパーデポジション)法、および蒸着法等の気相法によって成膜してもよい。
【0041】
第1の膜11と第2の膜12とは、仕事関数、電気陰性度、イオン化ポテンシャル、および電子親和力のうち、いずれかが異なる。
第1の膜11が、FTO膜、ATO膜、あるいはITO膜等の透光性酸化物導電体膜であり、第2の膜12が酸化チタン膜等の酸化物半導体膜である場合、
図2に示すように、第1の膜11と第2の膜12との当接界面S1に静的分極が生じる。図中、符号Dは静的分極方向、符号Eとその下の矢印は電場とその振動方向を示している。上記材料の組合せでは、複合体1の当接界面S1において、第1の膜11側がプラスに分極し、第2の膜12側がマイナスに分極する。
材料の組合わせによっては、当接界面S1において、第1の膜11側がマイナスに分極し、第2の膜12側がプラスに分極する場合もある。
【0042】
複合体1の製造においては、第1の膜11上に第2の膜12を成膜した後、電磁波照射により第2の膜12を加熱焼成する。この際、電磁波の電場Eの振動方向と当接界面S1とのなす角度が0〜45°であり、電磁波の電場Eの振動方向と静的分極の方向Dとが互いに交差方向であるという関係を充足しつつ、電磁波の振動電場の強度が最も高くなる位置を含む領域に複合体1を設置または搬送して、複合体1に電磁波を照射する。
【0043】
複合体1の加熱焼成は、
図3Aに示す加熱装置100を用いて行うことができる。
加熱装置100は、ある特定の周波数の電磁波を発振する電磁波アンテナ(電磁波発振部)121とこの電磁波アンテナ121から発振された電磁波が内空間に広がるキャビティ(導波管)122とを備えている。
図示例において、キャビティ122の内底面は加熱対象である複合体1が設置される複合体設置面122aとなっている。
図示例では、複合体設置面122aにおいて、一方向をx方向、これに直交する方向をy方向とし、複合体設置面122aに対して垂直方向をz方向としてある。
キャビティ122は、x方向に延びた直方体状である。
キャビティ122内において、x方向奥の上部に、電磁波アンテナ121が設置されている。
複合体1は、ベルトコンベア等の搬送手段によって、キャビティ122の内底面に沿ってx方向またはy方向に搬送されてもよい。
【0044】
図示する例では、電磁波アンテナ121の位置とキャビティ122の内空間サイズにより、シングルモード(TE103モード)の電磁波が生成されるように調整されている。
電磁波アンテナ121の位置、電磁波アンテナ121から発振される電磁波の周波数と発振強度、およびキャビティ122の内空間サイズによって、キャビティ122内を伝搬する電場Eの振動方向と振動強度が決まる。したがって、キャビティ122内を伝搬する電場Eの振動方向と振動強度は、シミュレーションによって求められる(たとえば非特許文献4を参照)。
図示例では、電場Eの振動方向はy方向であり、電場Eはy方向の振動強度が連続的に変化する定在電磁場が、x方向に伝搬する電磁波の重ね合わせにより形成されている(たとえば非特許文献5を参照)。
【0045】
本実施形態では、電場Eの振動方向(y方向)と複合体1の当接界面S1(xy面方向)とが互いに平行方向であり、電場Eの振動方向(y方向)と複合体1の当接界面S1における静的分極の方向Dとが互いに交差方向であるという関係を充足しつつ、振動電場の強度が最も高くなる位置を含む領域に複合体1を設置または搬送して、加熱焼成を実施する。
加熱装置100は、電場Eの振動方向と複合体1の当接界面S1とが互いに平行方向であり、電場Eの振動方向と複合体1の当接界面S1における静的分極の方向Dとが互いに交差方向であるという関係を充足しつつ、振動電場の強度が最も高くなる位置を含む領域に複合体1を設置または搬送する手段を有する。
図3Aには、電場Eの振動方向(y方向)と複合体1の当接界面S1(xy面方向)とが互いに平行であり、振動電場の強度(y方向の振動強度)が最も高くなる位置を含む領域に複合体1が設置されている様子が示されている。
図2には、電場Eの振動方向(y方向)と複合体1の当接界面S1における静的分極の方向Dとが互いに垂直方向またはそれに近い方向である様子が示されている。
【0046】
電場Eの振動方向(y方向)と複合体1の当接界面S1における静的分極の方向Dとが互いに交差方向である場合、複合体1の当接界面S1において、第1の膜11側の静的分極同士(たとえばプラス極同士)、および第2の膜12側の静的分極同士(たとえばマイナス極同士)が電場Eにより揺らされると考えられる。その結果、第1の膜11と第2の膜12が吸収しづらい周波数の電磁波を用いた場合にも、振動電場によって界面分極およびその周りの誘電緩和過程が効率的に誘起されると考えられる。
本実施形態の方法では、上記作用効果により、第1の膜11と第2の膜12が吸収しづらい周波数の電磁波を用いた場合にも、複合体1を短時間で所望温度に昇温し、加熱することが可能であると考えられる。
【0047】
本実施形態の方法では、複合体1の当接界面S1から加熱焼成を進めることができるので、加熱焼成の工程で膜の割れ発生を抑制することができる。
本実施形態の方法は、加熱焼成の工程において割れが起こりやすい厚さ1mm以下の薄膜を含む複合体に好ましく適用できる。
本実施形態の方法では、薄膜を急速加熱しても、膜の割れ発生を抑制することができる。
【0048】
本実施形態の方法では、当接界面S1から加熱焼成が進むことで、膜の割れを防止できると共に、周囲温度を上げることなく、より低温での加熱焼成が可能となる。
より低温での加熱焼成は、低エネルギーかつ低コストであり、基板の選択自由度も高く、好ましい。
たとえば、基板として、ガラス基板(ホウケイ酸ガラス基板および石英ガラス基板等)等の無機基板あるいはポリイミド基板等の耐熱性樹脂基板の他、一般の樹脂基板を用いることも可能となる。たとえば、基板として、安価な汎用の可撓性樹脂フィルムを用いて、ロールトゥロール(Roll to Roll)連続プロセスにより、低コストに複合体1を製造することが可能となる。
【0049】
用いる電磁波の周波数は特に制限なく、たとえば0.1GHz〜100GHzが好ましい。
用いる電磁波の周波数としては、915MHz、2.45GHz、5.8GHz、または24.1GHz等が好ましい。
本実施形態の方法では、第1の膜11と第2の膜12が吸収しづらい周波数の電磁波を用いてもよい。したがって、最も汎用の2.45GHzの電磁波等を用いることができる。この場合、電磁波発生装置として特殊な装置が不要であり、低コストである。
【0050】
2.45GHzの周波数では、石英およびテフロン(登録商標)等の材料は電磁波のエネルギーをほとんど吸収せず加熱されない。また、金属は電磁波を極めて高い効率で反射するため、加熱されない。したがって、キャビティ122の内面(複合体設置面122aおよびその他の内面)、および複合体1の搬送手段等をこのような材料で構成することにより、断熱構造をほとんど要することなく、加熱対象である複合体1を選択的に加熱することができる。そのため、簡便な装置構成でエネルギーロスの少ない加熱装置100を構築することができる。
【0051】
電磁波照射による加熱温度(膜表面の最高到達温度)は特に制限されない。
第1の膜11がFTO膜、ATO膜、あるいはITO膜等の透光性酸化物導電体膜であり、第2の膜12が酸化チタン膜等の酸化物半導体膜である場合、電磁波照射により未焼結の第2の膜12を焼結することができる。
第2の膜12が酸化チタン膜等の酸化物半導体膜である場合、従来の加熱法による焼結温度は通常400〜500℃であるが、本実施形態の方法では、200℃程度の低温でも焼結が可能となる。
第2の膜12が酸化チタン膜等の酸化物半導体膜である場合、第2の膜12の焼結温度は、200〜500℃が好ましい。
【0052】
複合体1に照射する電磁波の出力および照射時間は、複合体1の材料、用いる電磁波の周波数、および所望の膜表面の最高到達温度に応じて適宜選択される。
第1の膜11がFTO膜、ATO膜、あるいはITO膜等からなる透光性酸化物導電体膜であり、第2の膜12が酸化チタン膜等の酸化物半導体膜であり、最も汎用の2.45GHzの電磁波を用いる場合、たとえば出力5〜29W程度、照射時間1〜5分間程度で、200℃以上、300℃以上、または400℃以上の温度が達成される(後記[実施例]の項を参照)。
【0053】
上記のように、電場Eの振動方向と複合体1の当接界面S1とは互いに平行方向であることが最も好ましい。この場合、電場Eの振動方向と複合体1の当接界面S1とのなす角度θは0°である。
電場Eの振動方向と複合体1の当接界面S1とのなす角度θは0°から多少ずれても、同様の作用効果が得られる。角度θ>0の場合の電場Eの振動方向と複合体1の当接界面S1との位置関係の例を
図3Bに示しておく。
角度θが0〜45°、好ましくは0〜40°、より好ましくは0〜30°、特に好ましくは0〜20°の範囲内において、用いる電磁波を吸収しづらい材料であっても効率よく加熱焼成することができ、複合体1の当接界面S1から加熱焼成を進めることができ、加熱焼成の工程で膜の割れ発生を抑制することができる。
【0054】
本実施形態では、電場Eの振動方向と複合体1の当接界面S1とのなす角度が0〜45°、好ましくは0〜40°、より好ましくは0〜30°、特に好ましくは0〜20°であり、電場Eの振動方向と当接界面S1における静的分極の方向Dとが互いに交差方向であるという関係を充足しつつ、振動電場の強度が最も高くなる位置を含む領域に複合体1を設置または搬送して、加熱焼成を実施するので、電磁波を最も効率よく利用できる。したがって、電磁波の照射時間は短時間でよく、たとえば10分間以下でよく、5分間以下でもよく、2分間以下も可能である。電磁波を用いずに、電気オーブン等を用いた通常の焼成であれば、所望の温度に昇温するのに30分間程度の時間がかかり、さらに所望の温度で30分間以上保持する必要がある。これに比較して、本実施形態の方法では、加熱焼成時間の大幅な短縮が可能である。
【0055】
複合体1の基板として可撓性樹脂フィルムを用いる場合、ロールトゥロール(Roll to Roll)連続プロセスによる複合体1の製造が可能である。この場合も、電磁波の照射時間は短時間でよいので、大きな加熱装置は必要ない。
【0056】
以上説明したように、本実施形態によれば、互いに接する異種の第1の物質と第2の物質とを含む複合体1をある特定の周波数の電磁波の照射により加熱する工程を有し、用いるある特定の周波数の電磁波を吸収しづらい材料であっても効率よく加熱することができ、複合体1の当接界面S1から加熱を進めることが可能な複合体1の加熱方法、およびこの加熱方法に用いて好適な加熱装置100を提供することができる。
【0057】
[色素増感型光電変換素子]
図面を参照して、色素増感型光電変換素子の構成例について説明する。
図4は、模式断面図である。
【0058】
図示する色素増感型光電変換素子200は、
ガラス基板等からなる第1基板211の表面に、負極として、フッ素ドープ酸化錫(FTO)膜、アンチモンドープ酸化錫(ATO)膜、あるいはインジウム錫酸化物(ITO)膜等からなる第1導電体膜212と、色素増感剤を坦持した酸化チタン膜等の半導体膜213とが順次形成された負極基板210と、
ガラス基板等からなる第2基板221の表面に、正極として、FTO膜あるいはITO膜等からなる第2導電体膜222と、白金等の触媒層223とが順次形成された正極基板220と、
負極基板210および正極基板220との間に充填され、酸化還元対を含む電界質層230とから概略構成されている。
【0059】
負極側の第1導電体膜212と正極側の第2導電体膜222とは、外部回路を通じて電気的に接続されている。
電界質層230としては、ヨウ素を含むレドックス溶液等が用いられる。
色素増感型光電変換素子200の周縁部はシール材240により封止されている。
【0060】
色素増感剤としては特に制限されず、公知の色素増感剤を1種又は2種以上用いることができる。
【0061】
色素増感型光電変換素子200において、負極側の第1基板211と第1導電体膜212とは、透光性を有する必要がある。正極側の第2基板221と第2導電体膜222とは、透光性を有していてもよいし、有していなくてもよい。
【0062】
色素増感型光電変換素子200において、負極基板210をなす第1導電体膜212と色素増感剤を坦持した半導体膜213との複合体(積層膜)として、上記実施形態の複合体1(積層膜)を用いることができる。
【0063】
色素増感型光電変換素子200においては、負極側の第1基板211側から入射した光によって色素増感剤の電子が励起され、この励起電子が色素増感剤を担持する酸化チタン等に伝導し、さらに第1導電体膜212へ伝導する。第1導電体膜212へ伝導した電子は、外部回路を通じて正極側の第2導電体膜222へ伝導する。正極側の第2導電体膜222に伝導した電子は、電解質中の酸化還元対を介して色素増感剤の基底準位に戻る。これらの一連の作用により、光電変換が起こる。
【0064】
「第2実施形態の複合体とその加熱方法]
図面を参照して、本発明に係る第2実施形態の複合体の構造とその加熱方法について、説明する。
図5は、本実施形態の複合体の模式斜視図である。
図6Aは、上記の複合体を用いた触媒ユニットの一実施形態を示す模式斜視図である。
図6Bは、上記触媒ユニットの一部を拡大した模式透視斜視図である。
図6Cは、上記の複合体を用いた触媒ユニットの他の例を示す模式断面図である。
図7は、上記の触媒ユニットを用いた一実施形態の触媒反応装置の模式透視斜視図である。
【0065】
図5に示すように、本実施形態の複合体2は、第1の物質からなる板状またはロッド状等の異方性粒子からなる触媒担体21と、その表面に担持された第1の物質とは異種の第2の物質からなる複数の触媒粒子22からなる。
図示する例では、触媒担体21は板状粒子であり、触媒粒子22は球状粒子である。
板状またはロッド状の異方性粒子からなる触媒担体21の粒子径は特に制限なく、たとえば0.02〜5μm程度が好ましい。
触媒粒子22の粒子径は特に制限されず、たとえば5〜20nm程度が好ましい。
本明細書において、「粒子径」は粒子の最大径である。
【0066】
触媒担体21としては、触媒粒子22を担持できれば、板状またはロッド状等の異方性粒子の代わりに基板を用いてもよい。
第1の物質と第2の物質とは、仕事関数、電気陰性度、イオン化ポテンシャル、および電子親和力のうち、いずれかが異なる。
本実施形態において、第1の物質および第2の物質は互いの当接界面S2に静的分極を有する材料の組合せからなる。
本実施形態において、当接界面S2は、触媒担体21の触媒粒子22が担持された側の面である。
静的分極の様子については、第1実施形態の
図2を参照されたい。ただし、分極のプラスマイナスの方向は材料の組合せによる。
【0067】
第1の物質は、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、セシウム、バリウム、ランタン、セリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、ホウ素、アルミニウム、ケイ素、ゲルマニウム、ガリウム、インジウム、スズ、鉛、ビスマス、およびアンチモンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む酸化物、硫化物、炭化物、水酸化物、リン酸化物、または窒化物を含むことができる。
第2の物質は、ホウ素、炭素、アルミ、ケイ素、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、および水銀からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む単体、合金、酸化物、窒化物、水酸化物、リン酸化物、または硫化物を含むことができる。
【0068】
第1の物質としては、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス、または酸化チタン等が好ましい。
【0069】
複合体2に対して、ある特定の周波数の電磁波照射による加熱を実施して、触媒存在下での各種反応を行うことができる。
本発明は、触媒担体21と触媒粒子22とが、それぞれ単独の材料では上記特定の周波数の電磁波の吸収特性が低い材料からなる場合に好ましく適用できる。
具体的には、本発明は、触媒担体21と触媒粒子22とが、それぞれ単独の材料では上記特定の周波数の電磁波における誘電損失係数が5以下である場合に好ましく適用できる。
【0070】
たとえば、触媒粒子22/触媒担体21の材料の組合せとしては、白金(Pt)/ホウケイ酸ガラス、白金(Pt)/石英ガラス、および白金(Pt)/酸化チタン等の組合せが好ましい。
これらの材料はいずれもマイクロ波として最も汎用の2.45MHzの電磁波に対して吸収特性が小さく、それぞれ単独の材料では2.45MHzの電磁波における誘電損失係数が5以下である。
【0071】
触媒担体21の表面に触媒粒子22を形成する方法は特に制限なく、触媒粒子22の前駆体を含むゾルを塗布し焼成するゾルゲル法、および触媒粒子22の分散ペーストまたは分散液を塗布し焼成する塗布法等が挙げられる。
【0072】
化学反応触媒等の用途において、複合体2は、
図6Aおよび
図6Bに示す触媒ユニット340の形態で用いることができる。
触媒ユニット340は、複数の触媒保持部342を有する多孔質の基材341を備える。
基材341はセラミックス等からなり、複数の触媒保持部342は基材341に多孔質状等に形成された複数の貫通孔である。
基材341および触媒保持部342の形状は適宜設計可能である。
【0073】
図6Bに示すように、個々の触媒保持部342の内部に、複数の複合体2が充填されている。
図示する例では、個々の触媒保持部342の内部において、複数の複合体2は、板状またはロッド状等の異方性粒子からなる触媒担体21(図示例では板状)の一軸方向(板状粒子の場合は板面の一軸方向、ロッド状粒子の場合は長軸方向)が円柱状の基材341の中心軸方向に沿うように配列している。
なお、実際には、個々の触媒保持部342にほぼ隙間なく多数の複合体2が充填されているが、
図6Bでは、1個の触媒保持部342について、一部の複合体2のみを図示してある。
図6B中のz方向は、後記
図7のz方向と同じである。
図6Bでは、複数の複合体2が、板状またはロッド状等の異方性粒子からなる触媒担体21の一軸方向(板状粒子の場合は板面の一軸方向、ロッド状粒子の場合は長軸方向)が円柱状の基材341の中心軸方向と完全平行となって整然と配列している様子が示されているが、複数の複合体2の配列の秩序は必ずしも整然としたものではない(後記[実施例]の項の
図19を参照)。
【0074】
本実施形態において、電磁波の電場Eの振動方向と複合体2の当接界面S2とのなす角度θが0〜45°であり、好ましくは0〜40°であり、より好ましくは0〜30°であり、特に好ましくは0〜20°であり、電磁波の電場Eの振動方向と複合体2の当接界面S2における静的分極の方向とが互いに交差方向であるという関係を充足しつつ、電磁波の振動電場の強度が最も高くなる位置を含む領域に触媒ユニット340が配置される。これにより、触媒粒子22/触媒担体21を当接界面S2から効率良く加熱することができる。
【0075】
図6Cに示す設計変更例の触媒ユニット350のように、基材としては、円柱状の基材341の代わりに、基板351を用いることができる。この態様では、基板351の一方の面が、複数の複合体2を保持する触媒保持部351Sである。
この図には、板状またはロッド状等の異方性粒子からなる触媒担体21の一軸方向(板状粒子の場合は板面の一軸方向、ロッド状粒子の場合は長軸方向)が触媒保持部351Sの面に対して平行またはそれに近い方向となるように配列している様子が模式的に示されている。
この態様では、
図6Cに示すように、電磁波の電場Eの振動方向を触媒保持部351Sの面に平行な方向またはそれに近い方向とすればよい。この場合、電磁波の電場Eの振動方向と触媒粒子22/触媒担体21の当接界面S2とのなす角度θが0〜45°であり、電磁波の電場Eの振動方向と触媒粒子22/触媒担体21の当接界面S2における静的分極の方向とが互いに交差方向であるという条件を充足することができ、触媒粒子22/触媒担体21を当接界面S2から効率良く加熱することができる。
【0076】
板状またはロッド状等の異方性粒子からなる複数の触媒担体21は特段の処理を行わなくても、板状またはロッド状等の異方性粒子からなる触媒担体21の一軸方向(板状粒子の場合は板面の一軸方向、ロッド状粒子の場合は長軸方向)が触媒保持部342、351Sの面に対して平行またはそれに近い方向となるように自然に配列することができる。
【0077】
必要に応じて、有機表面修飾材料等で表面コーティングされた複数の触媒担体21を用意し(工程(A))、これら複数の触媒担体21を触媒保持部342、351Sに塗布する(工程(B))ことができる。この方法では、複数の触媒担体21が高い親水性を有することから触媒担体粒子21同士および触媒担体粒子21と触媒保持部342の間の大きな親水性相互作用により、より容易に、触媒保持部342、351Sに上記のように複数の複合体2を配列して充填することができる。
有機表面修飾材料としては、親水性ポリマー等が挙げられる。
触媒担体21の表面に触媒粒子22を形成する工程は、複数の触媒保持部342、351Sに複数の触媒担体21を塗布する工程の前でもよいし、後でもよい。
【0078】
触媒ユニット340において、個々の触媒保持部342の内部に、複数の複合体2がほぼ隙間なく充填されているが、ガスが通る微小な隙間は存在する。
触媒ユニット340に被反応ガスGを通すことで、触媒反応により被反応ガスGの反応が可能となる。
触媒ユニット340は、触媒存在下で行われる各種反応に用いることができる。この場合、被反応ガスGは、反応に用いられる原料ガス等である。
【0079】
本実施形態において、触媒反応の際に、電磁波照射により触媒ユニット340を触媒反応に適した温度に加熱する。
【0080】
触媒ユニット340を用いた触媒反応は、
図7に示す触媒反応装置300を用いて行うことができる。
触媒反応装置300は、ある特定の周波数の電磁波を発振する電磁波アンテナ(電磁波発振部)310とこの電磁波アンテナ310から発振された電磁波が内空間に広がるキャビティ(導波管)320とを備えている。
図示例では、キャビティ320の底面をx−y平面(図示左方向がx方向、図示奥行き方向がy方向)とし、キャビティ320の底面に対して垂直方向をz方向としてある。
キャビティ320は、x方向に延びた直方体状である。
キャビティ320内において、x方向奥の上部に、電磁波アンテナ310が設置されている。電磁波アンテナ310と触媒ユニット340とは、y方向位置がほぼ同じで、x方向位置が異なっている。
【0081】
本実施形態において、触媒反応装置300において、電磁波アンテナ310の位置とキャビティ320の内空間サイズにより、シングルモード(TE103モード)の電磁波が生成されるように調整されている。
電磁波アンテナ310の位置、電磁波アンテナ310から発振される電磁波の周波数と発振強度、およびキャビティ320の内空間サイズによって、キャビティ320内を伝搬する電場Eの振動方向と振動強度が決まる。したがって、キャビティ320内を伝搬する電場Eの振動方向と振動強度は、シミュレーションによって求められる(たとえば非特許文献4を参照)。
図示例では、電場Eの振動方向はz方向であり、電場Eはz方向の振動強度が連続的に変化する定在電磁場が、x方向に伝搬する電磁波の重ね合わせにより形成されている(たとえば非特許文献5を参照)。
【0082】
本実施形態において、電磁波の電場Eの振動方向と複合体2の当接界面S2とのなす角度θが0〜45°であり、電磁波の電場Eの振動方向と複合体2の当接界面S2における静的分極の方向とが互いに交差方向であるという関係を充足しつつ、電磁波の振動電場の強度が最も高くなる位置を含む領域に触媒ユニット340が配置される。
【0083】
本実施形態の触媒反応装置300において、キャビティ320には、キャビティ320をz方向に貫通するガス管331が設けられている。ガス管331の内部に、原料ガス等の被反応ガスGが流下するようになっている。ガス管331の内部に上記触媒ユニット340が嵌め込まれている。触媒ユニット340は、板状またはロッド状等の異方性粒子からなる触媒担体21の一軸方向(板状粒子の場合は板面の一軸方向、ロッド状粒子の場合は長軸方向)がz方向となる向きで取り付けられている(
図6Bを参照)。
図中、符号332はキャビティ320にガス管331を固定するための固定用部材であり、符号333は触媒ユニット340の温度を測定する光ファイバ温度計である。
本実施形態において、電磁波の電場Eの振動方向はz方向である。複合体2の当接界面S2はz方向に平行な面であり、たとえば、
図6Bに示すように、当接界面S2はyz面である。この場合、電場Eの振動方向と複合体2の当接界面S2とは互いに平行方向であり、電場Eの振動方向と当接界面S2とのなす角度θは0°である。
【0084】
本実施形態においては、第1実施形態と同様のメカニズムで、触媒担体21と触媒粒子22とが吸収しづらい周波数の電磁波を用いた場合にも、複合体2(触媒ユニット340)を短時間で所望温度に加熱することが可能である。
本実施形態では、複合体2の当接界面S2から加熱を進めることができるので、周囲温度を上げることなく、より低温での加熱反応が可能となる。
【0085】
本実施形態においても、用いる電磁波の周波数は特に制限なく、たとえば0.1GHz〜100GHzが好ましい。
用いる電磁波の周波数としては、915MHz、2.45GHz、5.8GHz、または24.1GHz等が好ましい。
本実施形態において、触媒担体21と触媒粒子22が吸収しづらい周波数の電磁波を用いてもよい。したがって、最も汎用の2.45GHzの電磁波等を用いることができる。この場合、電磁波発生装置として特殊な装置が不要であり、低コストである。
【0086】
複合体2の加熱温度(電磁波照射による複合体2の最高到達温度)は、所望の触媒反応が効果的に進む温度である。
【0087】
電場Eの振動方向と複合体2の当接界面S2とは互いに平行方向であることが最も好ましい。この場合、電場Eの振動方向と複合体2の当接界面S2とのなす角度θは0°である。
上記したように、複数の複合体2の配列の秩序は必ずしも整然としたものではない。
電場Eの振動方向と複合体2の当接界面S2とのなす角度θは0°から多少ずれても、同様の作用効果が得られる。
角度θが0〜45°、好ましくは0〜40°、より好ましくは0〜30°、特に好ましくは0〜20°の範囲内において、用いる電磁波を吸収しづらい材料であっても効率よく加熱することができ、複合体2の当接界面S2から加熱を進めることができる。
【0088】
本実施形態では、電場Eの振動方向と当接界面S2とのなす角度θが0〜45°、好ましくは0〜40°、より好ましくは0〜30°、特に好ましくは0〜20°であり、電場Eの振動方向と当接界面S2における静的分極の方向とが互いに交差方向であるという関係を充足しつつ、振動電場の強度が最も高くなる位置を含む領域に複合体2(触媒ユニット340)を設置して加熱を実施するので、電磁波を最も効率よく利用できる。したがって、電磁波の照射時間は短時間でよく、被反応ガスGが触媒ユニット340を通る時間は短時間でよい。
【0089】
以上説明したように、本実施形態によれば、触媒担体21と触媒粒子22とが用いるある特定の周波数の電磁波を吸収しづらい材料であっても複合体2を効率よく加熱することができ、複合体2の当接界面S2から加熱を進めることが可能な複合体2の加熱方法を提供することができる。
本実施形態によれば、上記の複合体2の加熱方法を適用した触媒反応装置300およびこれに用いて好適な触媒ユニット340を提供することができる。
【0090】
「その他の適用例」
本発明の複合体の加熱方法は、上記第1、第2の実施形態の複合体の他、界面分極を有する任意の複合体の加熱に適用できる。
【0091】
本発明はたとえば、固体酸化物燃料電池等における、イオン導電性セラミック薄膜および/または薄膜電極の積層構造の焼結に適用することができる。本発明はたとえば、セラミックコンデンサにおける、セラミック誘電体と内部電極との交互多層積層構造の焼結に適用することができる。
上記積層構造では、従来法では加熱炉を用いた高温焼結が必要であるが、本発明を適用することで、加熱炉を用いずに、低エネルギーで焼結ができる。
【0092】
本発明は、たとえば、複合体の界面近傍を優先的に加熱変性させて、界面付近の物性とその外側の物性の違いにより機能を持つデバイスの製造に適用することができる。
たとえば、屈折率の違う材料を積層させることにより形成される光閉じ込め効果または光変調を用いた各種光学デバイス(電気光学デバイスおよび磁気光学デバイス等)における、半導体基板上の酸化膜とその上の誘電体膜との積層構造、絶縁基板上の電気光学材料の積層構造、あるいは電気光学材料と誘電体膜との積層構造等の焼結に適用することができる。
たとえば、音響インピーダンスの違う材料を積層させることによる弾性波の閉じ込めとその変調を用いた表面弾性波素子、バルク弾性波素子、あるいは音響光学デバイスにおける、酸化物強誘電体あるいは圧電体の積層構造等の焼結に適用することができる。
たとえば、半導体の不純物濃度の傾斜による不純物準位のプロファイルの制御が必要な半導体デバイスに適用することができる。より具体的には、たとえば、上記実施形態で挙げた色素増感型光電変換素子、およびその他の各種光電変換素子(非晶質薄膜光電変換素子、多結晶・微結晶光電変換素子、および結晶系光電変換素子等)におけるp−i―nプロファイル、あるいは半導体層の界面物性を利用した電気特性の制御等に適用することができる。
【0093】
本発明は、界面分極を有する任意の複合体の加熱に適用できるため、本発明の適用範囲は広い。
本発明は、複合体をなす第1の物質と第2の物質のうち、少なくとも一方が2.45GHzのマイクロ波における誘電損失係数が比較的低い材料からなる場合に好ましく適用できる。
【0094】
2.45GHzのマイクロ波における誘電損失係数が比較的低い材料としては、酸化物、硫化物、および窒化物等の半導体または絶縁体等が挙げられる。
これらの材料はたとえば、C、Al、Si、Ga、Ge、In、Sn、Sb、Te、Tl、Pb、およびBiからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。
【0095】
本発明は特に、複合体をなす第1の物質と第2の物質のうち、少なくとも一方が2.45GHzのマイクロ波における誘電損失係数が比較的低い、金属酸化物、金属硫化物、および金属窒化物等からなる場合に好ましく適用できる。
中でも、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、およびZnからなる群より選ばれた少なくとも1種の第一周期遷移金属;
Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pb、Ag、およびCdからなる群より選ばれた少なくとも1種の第二周期遷移金属;
あるいは、
La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、およびHgからなる群より選ばれた少なくとも1種の第三周期遷移金属を含む材料に好ましく適用できる。
上記材料は誘電特性が良好な半導体または絶縁体であるため、光学特性、半導体または絶縁特性等に優れており、広く光学デバイスおよび電子デバイスに利用されている。かかる用途においては、真空プロセスを要しない低コストな成膜方法であることから、上記材料を含むペースト等の塗布と300℃以上の高温焼結を含む塗布法が用いられる場合がある。誘電損失特性は材料独自の周波数特性を示すため、多くの場合は特定のマイクロ波周波数に対して必ずしも高い誘電損失特性を有するものではない。そのため、上記材料を用いた異種材料の複合体において、界面分極を利用した、本発明のマイクロ波照射下における自己発熱は迅速焼結方法として有用である。
【実施例】
【0096】
本発明に係る実施例および比較例について説明する。
【0097】
[実施例1−1]
(FTO基板)
ホウケイ酸ガラス基板(Soda Glass)上に、CVD法により、膜厚1μm、シート抵抗10Ω/cm□のFTO(フッ素ドープ酸化錫)膜が形成されたFTO基板を用意した。このFTO基板を、水、アセトン、およびエタノールで洗浄し、乾燥した後、紫外オゾンランプ照射により有機物除去して、成膜基材として使用した。
(酸化チタン微粒子膜の成膜と焼成)
上記成膜基材(FTO基板)上に、酸化チタン前駆体を含むゾル(Solaronix社製Tiゾル)を塗布し、ホットプレートを用い、130℃で6分間加熱乾燥して、4μ厚、1cm幅の酸化チタン微粒子膜(平均粒子径:20nm程度)を成膜した。
図8に示すように、成膜基材上に、成膜基材よりも小さい面積で酸化チタン微粒子膜を成膜した。
図8は酸化チタン微粒子膜/成膜基材の上面図である。図中、符号Subは成膜基材(この例ではFTO基板)、符号Membは加熱対象膜(ここでは酸化チタン微粒子膜)を示す。
以上のようにして、酸化チタン微粒子膜/FTO基板を得た。
得られた酸化チタン微粒子膜/FTO基板の走査型電子顕微鏡(SEM)による表面写真を
図9に示す。FTO膜上に多数のランダム形状の微粒子からなる酸化チタン微粒子膜が形成されている様子が観察された。
【0098】
図3Aに示したような加熱装置を用意した。電磁波アンテナの位置とキャビティの内空間サイズにより、シングルモード(TE103モード)の電磁波が生成されるように調整した。
キャビティ内のxy座標位置と電場の振動方向および振動強度との関係は、シミュレーションにより求めた。
図3Aに示したように、電場の振動方向と酸化チタン微粒子膜/FTO基板の当接界面とが互いに平行方向(電場の振動方向と酸化チタン微粒子膜/FTO基板の当接界面とのなす角度θ=0°)で、電磁波の振動電場の強度が最も高くなる位置を含む領域に酸化チタン微粒子膜/FTO基板を設置した。
得られた酸化チタン微粒子膜/FTO基板に対して、2.45GHzの電磁波(マイクロ波)を照射して、加熱焼成を実施した。電磁波の出力は、5.3Wと29Wの2条件とした。電場の振動強度の最大値は、5.3Wで80V/m、29Wで190V/mであった。
【0099】
[比較例1−1]
(成膜基材)
ホウケイ酸ガラス基板上に真空蒸着法により膜厚0.5μmの金属チタン膜が形成されたTi基板を用意した。このTi基板を、水、アセトン、およびエタノールで洗浄し、乾燥した後、紫外オゾンランプ照射により有機物除去して、成膜基材として使用した。
(酸化チタン微粒子膜の成膜)
上記成膜基材(Ti基板)上に、酸化チタン前駆体を含むゾル(Solaronix社製Tiゾル)を塗布し、実施例1−1と同様にして、酸化チタン微粒子膜の成膜および焼成を実施した。
【0100】
[比較例1−2] TiO
2/石英ガラス基板の製造
成膜基材として石英ガラス基板(SiO
2)を用いた以外は実施例1−1と同様にして、酸化チタン微粒子膜の成膜および焼成を実施した。
【0101】
[実施例1−1、比較例1−1、および比較例1−2の評価]
(誘電損失係数)
実施例1−1、比較例1−1、および比較例1−2の各例で得た膜について、2.45GHzの電磁波の誘電損失係数を測定した。結果は以下の通りであった。
酸化チタン膜の誘電損失係数:1.0×10
−2〜1.0×10
−4、
FTO膜の誘電損失係数:0.5〜3、
金属チタン膜の誘電損失係数:表面は酸化チタン層であるため、1.0×10
−3〜1.0×10
−4。
いずれも2.45GHzの電磁波の誘電損失係数は5以下であった。
【0102】
(温度測定)
実施例1−1、比較例1−1、および比較例1−2の各例においては、放射温度計を用い、電磁波を用いた加熱焼成工程における成膜基材単体と酸化チタン微粒子膜/成膜基材の表面温度の変化を測定した。
図8に温度の測定箇所を示す。
酸化チタン微粒子膜の表面において四隅に近い箇所A〜D、および上に酸化チタン微粒子膜が成膜されず成膜基材の表面が露出した箇所E、Fについて、表面温度測定を実施した。測定箇所E、Fの平均データを成膜基材単体の表面温度とし、測定箇所A〜Dの平均データを酸化チタン微粒子膜/成膜基材の表面温度とした。
【0103】
図10Aに、電磁波の出力を5.3Wとしたときの成膜基材単体の表面温度の測定結果を示す。
図10Bに、電磁波の出力を5.3Wとしたときの酸化チタン微粒子膜/成膜基材の表面温度の測定結果を示す。
図10Cに、電磁波の出力を29Wとしたときの成膜基材単体および酸化チタン微粒子膜/成膜基材の表面温度の測定結果を示す。
【0104】
図10A〜
図10Cに示すように、石英ガラス基板単体およびこの上に成膜された酸化チタン微粒子膜には全く温度上昇が見られなかった。つまり、石英ガラス基板および酸化チタン微粒子膜はそれぞれ単体では、2.45GHzの電磁波を照射しても全く加熱されないことが分かった。これらの材料の組合せでは、当接界面において、静的分極が生じていないと考えられる。
【0105】
図10Aに示すように、Ti基板およびFTO基板は、それぞれ単体では2.45GHzの電磁波の照射によりある程度は加熱されるが、顕著ではなかった。
【0106】
図10Aおよび
図10Bに示すように、Ti基板上に成膜された酸化チタン微粒子膜の温度上昇は、Ti基板単体と類似したものであった。これらの材料の組合せでは、当接界面において、静的分極が生じていないと考えられる。
【0107】
図10A〜
図10Cに示すように、FTO基板上に成膜された酸化チタン微粒子膜の温度上昇は、FTO基板単体よりも顕著に大きく、5.3W照射条件では約2分後に200℃以上に達し、29W照射条件では約1分後に400℃以上に達した。
FTO基板上に成膜された酸化チタン微粒子膜の温度上昇は、誘導加熱あるいは電極上のスパーク等による、単に成膜基材からの伝導によるものではないと言える。これらの材料の組合せでは、当接界面において静的分極が生じており、同じ極の静的分極同士が電場により誘電緩和が生じ加熱されたと考えられる。
【0108】
[実施例2、比較例2]
(酸化物微粒子膜の成膜)
成膜基材として、実施例2では実施例1−1と同じFTO基板を用意し、比較例2では石英ガラス基板(SiO
2)を用意した。
各例において、以下の6種の酸化物微粒子を用意した。
SnO
2微粒子(Tin(IV) Oxide(純度99.9%) 、Aldrich社製「549657-5G」)、
Ta
2O
5微粒子(Tantalum(V) Oxide(99.9%)、和光純薬工業社製「200-09342」)、
TiO
2微粒子(純度99.9%、Degussa社製「P25」)、
Bi
2O
3微粒子(Bismuth(III) Oxide(99.9%)、和光純薬工業社製「028-08842」)、
MnO
2微粒子(Manganese(IV) Oxide、Aldrich社製「217646-100G」)、
Nb
2O
5(Niobium(V) Oxide(99.9%)、和光純薬工業社製「144-05332」)。
各酸化物微粒子について、
5質量部の酸化物微粒子と、
75質量部の無水エタノール(和光純薬工業社製「321-00025」)と、
10質量部のエチルセルロース(東京化成工業社製「E0072」)と、
10質量部のテルピネオール(異方性混合物、和光純薬工業社製「203-07992」)とを混合して(計100質量部)、
酸化物微粒子分散ペーストを得た。
各例において、上記基板上に各酸化物微粒子分散ペーストを塗布し、120℃で5分間焼成して、各種酸化物微粒子膜を成膜した。
酸化物微粒子膜の膜厚と幅は実施例1−1と同様、4μ厚、1cm幅とした。
いずれも酸化物微粒子膜の平均粒子径は実施例1−1と同様、20nm程度であった。
【0109】
(酸化物微粒子膜の焼成)
実施例1−1と同様の装置を用い、2.45GHzの電磁波を照射して、加熱焼成を実施した。電磁波の出力は5.0Wとした。
この例においては、実施例1−1と同様、電場の振動方向と酸化物微粒子膜/成膜基材の当接界面とが互いに平行方向(電場の振動方向と酸化物微粒子膜/成膜基材の当接界面とのなす角度θ=0°)で、電磁波の振動電場の強度が最も高くなる位置を含む領域に酸化物微粒子膜/成膜基材を設置した。
【0110】
(温度測定)
実施例1−1と同様の方法にて、電磁波を用いた加熱焼成工程における成膜基材単体および酸化物微粒子膜/成膜基材の表面温度の変化を測定した。
実施例2の評価結果を
図11Aに示し、比較例2の評価結果を
図11Bに示す。
【0111】
図11Bに示すように、石英ガラス基板上に成膜された各種酸化物微粒子膜(SnO
2微粒子膜、Ta
2O
5微粒子膜、TiO
2微粒子膜、Bi
2O
3微粒子膜、MnO
2微粒子膜、およびNb
2O
5微粒子膜)にはいずれも、全く温度上昇が見られなかった。つまり、石英ガラス基板および酸化物微粒子膜はそれぞれ単体では、2.45GHzの電磁波を照射しても全く加熱されないことが分かった。これらの材料の組合せでは、当接界面において、静的分極が生じていないと考えられる。
【0112】
図11Aに示すように、FTO基板上に成膜された各種酸化物微粒子膜(Ta
2O
5微粒子膜、TiO
2微粒子膜、Bi
2O
3微粒子膜、MnO
2微粒子膜、およびNb
2O
5微粒子膜)では、FTO基板単体に対して、顕著な温度上昇が見られた。電磁波照射開始後300秒後の到達温度はいずれも125℃以上であり、150℃以上あるいは200℃以上に到達したサンプルもあった。
SnO
2はFTOの主成分であり、FTO基板上に成膜されたSnO
2微粒子膜の温度上昇は、FTO基板単体と同等レベルであった。
【0113】
実施例2において、FTOとその上に形成した酸化物との仕事関数差と、電磁波照射開始後300秒後の酸化物微粒子膜の表面温度との関係を、
図11Cに示す。
図中、縦軸の薄膜温度は、電磁波照射開始後300秒後の酸化物微粒子膜の表面温度である。
FTOの主成分はSnO
2であるので、FTOとその上に形成した酸化物との仕事関数差はSnO
2とFTO上に形成した酸化物との仕事関数差でもって求めた。
FTOとその上に形成した酸化物との仕事関数差が大きくなる程、電磁波照射開始後300秒後に到達する温度が高くなる傾向があった。
FTOとその上に形成した酸化物との仕事関数差は、0.5eV以上が好ましく、1.0eV以上が好ましい。
【0114】
[実施例3−1]
実施例1−1と同様にして、酸化チタン微粒子膜/FTO基板を得た。
実施例1−1と同様の装置を用い、2.45GHzの電磁波を照射して、加熱焼成を実施した。電磁波の出力は5.3Wとした。
この実施例では、角度θを変化させ、各条件についてFTO基板単体と酸化チタン微粒子膜/FTO基板の表面温度の測定を実施した。温度測定は実施例1−1と同様の方法にて実施した。
なお、角度θは、酸化チタン微粒子膜/FTO基板においては、電場の振動方向と酸化チタン微粒子膜/FTO基板の当接界面とのなす角度であり、FTO基板単体については電場の振動方向とFTO基板の基板面とのなす角度である。
図12AにFTO基板単体の表面温度の測定結果(細線)と酸化チタン微粒子膜/FTO基板の表面温度の測定結果(太線)を示す。
FTO基板単体の表面温度と比較した場合、θ=0〜40°、好ましくはθ=0〜30°、より好ましくは0〜20°の範囲内において、酸化チタン微粒子膜/FTO基板の表面に顕著な温度上昇が見られた。
【0115】
[実施例3−2]
実施例1−1と同様にして、酸化チタン微粒子膜/FTO基板を得た。
実施例1−1と同様の装置を用い、2.45GHzの電磁波を照射して、加熱焼成を実施した。電磁波の出力は5.0Wとした。
この実施例では、電場の振動方向と酸化チタン微粒子膜/FTO基板の当接界面とのなす角度θを変化させ、各条件について酸化チタン微粒子膜/FTO基板の表面温度の測定を実施した。温度測定は実施例1−1と同様の方法にて実施した。
図12Bに評価結果を示す。
θ=0〜45°、好ましくはθ=0〜30°、より好ましくはθ=0〜20°の範囲内において、酸化チタン微粒子膜/FTO基板の表面に顕著な温度上昇が見られた。
【0116】
実施例3−2において、電場の振動方向と酸化チタン微粒子膜/FTO基板の当接界面とのなす角度θと、電磁波照射開始後300秒後の酸化チタン微粒子膜/酸化チタン微粒子膜/FTO基板の表面温度との関係を
図12Cに示す(白丸のプロットおよび太線データ)。
振動電場のパワーは、電場強度のcos成分の二乗に比例する。電場の振動方向と酸化チタン微粒子膜/FTO基板の当接界面とのなす角度θが0°と90°のときの電磁波照射開始後300秒後の酸化チタン微粒子膜/FTO基板の表面温度のデータを測定データに一致させて、振動電場のパワーが電場強度のcos成分の二乗に比例するとして計算を実施したときの計算データを細線で示す。
測定データと計算データは概ね一致しており、電場の振動方向と酸化チタン微粒子膜/FTO基板の当接界面とのなす角度θと酸化チタン微粒子膜/FTO基板の加熱温度との間には相関があることが示された。
測定データおよび計算データから、θ=0〜45°、好ましくはθ=0〜40°、より好ましくはθ=0〜30°、特に好ましくは0〜20°の範囲内において、酸化チタン微粒子膜/FTO基板の表面に顕著な温度上昇が見られることが示された。
【0117】
[実施例4−1]
実施例1−1で用いたのと同じFTO基板を用意した。
41.4mgのチタンフロライド(TiF
4)と20mLの0.01M HCl水溶液とを混合した後、pHが2であることを確認し、さらに10mLの2−プロパノールと10mLの脱イオン水とを添加し、混合した。これにさらに、0.5mLの10質量%HF水溶液を添加し、混合した。得られた混合溶液をテフロン(登録商標)製オートクレーブに封入し、180℃で24時間加熱して、水熱合成を実施した。
得られた白色粉末をデキャンテーションによりエタノールおよび脱イオン水で5回ずつ洗浄して、アナターゼ型の板状酸化チタン微粒子を得た。
得られた酸化チタン微粒子をエタノール中に分散させた。微粒子分散液の濃度は20質量%とした。得られた微粒子分散液を上記FTO基板上に塗布し、溶媒を乾燥除去した。
このサンプルのSEM表面写真を
図13A(d)に示す。この写真には、FTO基板上に1個の板状の酸化チタン微粒子が載っている様子が見られた。
【0118】
得られた酸化チタン微粒子/FTO基板上に、熱硬化性ポリマー液(旭有機材工業株式会社製フェノール樹脂液「ES01)を、スピンコート法により塗布した。塗布条件は、滴下量5μL、回転数500rpm、液膜厚約0.1mmとした。
実施例1−1と同様の条件で電磁波照射を行った。電磁波照射条件は、2.45GHz、10.0W、25秒間とした。
電磁波照射により加熱された部分の熱硬化性ポリマーが硬化し、その他の部分の熱硬化性ポリマーは未硬化のままであった。
電磁波照射後に、エタノール中でサンプルを超音波洗浄したところ、未硬化のポリマーは洗い流された。
電磁波照射および洗浄後のサンプルのSEM表面写真を
図13A(a)〜(c)に示す。いずれも、FTO基板と酸化チタン微粒子との間からポリマーが盛り上がって硬化している様子が見られた。酸化チタン微粒子/FTO基板では、界面加熱が起こることが示された。
【0119】
[実施例4−2]
成膜基材をドープなしのSnO
2基板とした以外は実施例4−1と同様にして、酸化チタン微粒子/SnO
2基板を得た。このサンプルのSEM表面写真を
図13B(a)に示す。
得られた酸化チタン微粒子/SnO
2基板上に、実施例4−1と同様にして、熱硬化型ポリマー溶液の塗布と乾燥、電磁波照射、および洗浄を実施した。電磁波照射および洗浄後のサンプルのSEM表面写真を
図13B(b)に示す。
実施例4−1と異なり、この例では、界面加熱によるポリマーの硬化は見られなかった。酸化チタン微粒子/SnO
2基板では、界面加熱は起こらないことが示された。
【0120】
[実施例4−3]
実施例2と同様にして、SnO
2微粒子/FTO基板を得た。このサンプルのSEM表面写真を
図13C(a)に示す。
得られたSnO
2微粒子/FTO基板上に、実施例4−1と同様にして、熱硬化型ポリマー液の塗布、電磁波照射、および洗浄を実施した。電磁波照射および洗浄後のサンプルのSEM表面写真を
図13C(b)に示す。
実施例4−1と異なり、この例においても、界面加熱によるポリマーの硬化は見られなかった。SnO
2微粒子/FTO基板では、界面加熱は起こらないことが示された。
【0121】
[実施例5−1〜5−2]
実施例1−1と同様にして、酸化チタン微粒子膜/FTO基板を得た。
実施例1−1と同様の装置を用い、2.45GHzの電磁波を照射して、加熱焼成を実施した。電磁波の出力は29Wとした。
この例においては、実施例1−1と同様、電場の振動方向と酸化チタン微粒子膜/FTO基板の当接界面とが互いに平行方向(電場の振動方向と酸化チタン微粒子膜/FTO基板の当接界面とのなす角度θ=0°)で、電磁波の振動電場の強度が最も高くなる位置を含む領域に酸化物微粒子膜/成膜基材を設置した。
電磁波を照射した後、100℃まで自然放冷した。
電磁波照射による温度上昇プロファイルは、
図10Cに示したのと同様である。酸化チタン微粒子膜の最高到達温度は約450℃であった。
電磁波照射時間は、5.0分間(実施例5−1)と2.5分間(実施例5−2)の2条件とした。なお、電磁波照射時間には、常温から約450℃までの昇温時間(約2分間)が含まれる。
【0122】
上記焼成後の酸化チタン微粒子膜/FTO基板をSolaronix社製Ruthenizer 535−bisTBA(N719)のエタノール溶液に12時間浸漬して、負極基板を得た。用いた色素増感剤の化学式を[化1]に示す。この色素増感剤は、300〜750nmの可視域に吸収を持つ。
【0123】
【化1】
【0124】
酸化チタン微粒子膜の成膜基材として用いたのと同じFTO基板上に、Pt前駆体を含むゾル(Solaronix社製プラティゾル)を塗布し、酸素雰囲気下400℃で焼成することにより、触媒として粒子径1〜5nmの白金ナノ粒子を基板表面に析出して、正極基板を得た。
色素担持酸化チタン微粒子膜とPt触媒層とが互いに対向するように、上記の負極基板と正極基板とを対向配置し、これら基板の周縁部間をシール材として熱可塑性樹脂(Solaronix社製Surlyn)を用いて熱圧着した。
次いで、両電極間にヨウ素系電解質溶液(電解質:0.1M LiI、0.6M ブチルメチルイミダゾリウムヨーダイド(BMImI)、および0.5M t−ブチルピリジン(tBP)、溶媒:アセトニトリル(AN)/バレルニトリル(VN)(質量比85/15)混合溶媒 )を注入して、色素増感型光電変換素子を得た。
【0125】
[比較例5]
実施例1−1と同様にして、酸化チタン微粒子膜/FTO基板を得た。得られた酸化チタン微粒子膜/FTO基板を、電気オーブンを用い、常温から450℃まで30分間かけて昇温し、450℃で30分間保持した後、100℃まで自然放冷した。
実施例5−1、5−2と同様の方法で、上記焼成後の酸化チタン微粒子膜/FTO基板を色素増感剤の溶液に12時間浸漬して、負極基板を得た。この負極基板を用いた以外は実施例5−1、5−2と同様の方法で、色素増感型光電変換素子を得た。
【0126】
[実施例5−1〜5−2および比較例5の評価]
(光電変換特性の評価)
実施例5−1〜5−2および比較例5の光電変換素子について、擬似太陽光(AM1.5、結晶系シリコン規格、山下電装社製)を用い、室温下での光電流−電圧特性の測定を実施した。結果を
図14および表1に示す。
図中、実施例5−1のデータはMW(5min)で示し、実施例5−2のデータはMW(2.5min)で示し、比較例5のデータは、Heater(30min)で示してある。
【0127】
比較例5では、従来一般的な方法により色素増感型光電変換素子を製造した。この例では、電磁波照射を行わずに酸化チタン微粒子膜を加熱焼成した。加熱焼成時間は、30分間の昇温と30分間の温度保持で合計60分間であった。得られた素子は、光電流Jscが9.22mA/cm
2であり、開放電圧Vocが0.697Vであった。
実施例5−1、5−2では、電磁波照射により酸化チタン微粒子膜を加熱焼成した。電磁波照射時間はわずか5分間または2.5分間であった。
得られた素子は、光電流Jscが9.64〜11.6mA/cm
2であり、開放電圧Vocが0.701〜0.737Vであり、比較例5と同等以上の光電変換応答が確認された。
【0128】
【表1】
【0129】
[実施例6]
実施例1−1で用いたのと同じFTO基板を用意した。
上記成膜基材上に、酸化チタン微粒子分散ペースト(Peccell社製「PECC-01-06」)を塗布し、120℃で6分間加熱焼成して、酸化チタン微粒子膜(平均粒子径:20nm程度)を成膜した。膜厚は3.8±0.2μmであった。
実施例1−1と同様の装置を用い、2.45GHzの電磁波を10分間照射して、加熱焼成を実施した。
電磁波の出力は、照射開始から1分後までは10.0Wとし、1分後から照射終了までは5.0Wとした。
この例においては、実施例1−1と同様、電場の振動方向と酸化チタン微粒子膜/FTO基板の当接界面とが互いに平行方向(電場の振動方向と酸化チタン微粒子膜/FTO基板の当接界面とのなす角度θ=0°)で、電磁波の振動電場の強度が最も高くなる位置を含む領域に酸化チタン微粒子膜/FTO基板を設置した。
電磁波を照射した後、100℃まで自然放冷した。
電磁波照射による温度上昇プロファイルは
図10Bに示したのに類似し、酸化チタン微粒子膜の最高到達温度は約200℃であった。
なお、電磁波照射時間には、常温から約200℃までの昇温時間(約2分間)が含まれる。
【0130】
上記焼成後の酸化チタン微粒子膜/FTO基板を用いた以外は実施例5−1、5−2と同様にして、負極基板を得た。この負極基板を用いた以外は実施例5−1、5−2と同様にして、色素増感型光電変換素子を得た。
【0131】
[比較例6]
実施例1−1と同様にして、酸化チタン微粒子膜/FTO基板を得た。得られた酸化チタン微粒子膜/FTO基板を、電気オーブンを用い、常温から200℃まで30分間かけて昇温し、200℃で10分間保持した後、100℃まで自然放冷した。
上記焼成後の酸化チタン微粒子膜/FTO基板を用いた以外は比較例5と同様にして、負極基板を得た。この負極基板を用いた以外は比較例5と同様にして、色素増感型光電変換素子を得た。
【0132】
[実施例6および比較例6の評価]
(光電変換特性の評価)
実施例6および比較例6の光電変換素子について、実施例5−1、5−2および比較例5と同様に、光電変換性能を評価した。結果を
図15および表2に示す。図中、実施例6のデータはMWで示し、比較例6のデータは、Heaterで示してある。
【0133】
電磁波照射により酸化チタン微粒子膜/FTO基板を約200℃で低温焼結した実施例6では、電磁波照射により酸化チタン微粒子膜/FTO基板を約450℃で高温焼結した実施例5−1、5−2、および通常のオーブン加熱により酸化チタン微粒子膜/FTO基板を450℃で高温焼結した比較例5と同等性能の光電変換素子が得られた。
電磁波照射により酸化チタン微粒子膜/FTO基板を約200℃で低温焼結した実施例6では、通常のオーブン加熱により酸化チタン微粒子膜/FTO基板を200℃で低温焼結した比較例6よりも高性能な光電変換素子が得られた。
【0134】
【表2】
【0135】
[実施例7]
(基板)
以下の5種の基板を用意した。
ホウケイ酸ガラス基板(Soda Glass)、
(001)ルチル型TiO
2基板、
(100)ルチル型TiO
2基板、
(110)ルチル型TiO
2基板、
シリコン基板(Si)。
【0136】
(白金ナノ粒子の形成)
上記の各基板の上に、白金前駆体溶液として0.01M H
2PtCl
6水溶液を0.16ml/cm
2の塗布量で塗布した。これを酸素雰囲気下400℃30分間焼成して、触媒粒子である白金ナノ粒子を基板表面に析出した。
白金ナノ粒子の粒子径は1〜50nm程度であった。
例として、白金ナノ粒子/ホウケイ酸ガラス基板のSEM表面写真を
図16に示す。
【0137】
(加熱焼成)
白金ナノ粒子/各種基板に対して、実施例1−1と同様の装置を用い、2.45GHzの電磁波を照射して、加熱焼成を実施した。
電磁波の出力は、白金ナノ粒子/ルチル型TiO
2基板については15.0Wとし、その他の白金ナノ粒子/基板については5.0Wとした。
この例においては、実施例1−1と同様、電場の振動方向と白金ナノ粒子/各種基板の当接界面とが互いに平行方向(電場の振動方向と白金ナノ粒子/各種基板の当接界面とのなす角度θ=0°)で、電磁波の振動電場の強度が最も高くなる位置を含む領域に白金ナノ粒子/各種基板を設置した。
【0138】
(温度測定)
実施例1−1と同様にして、電磁波を用いた加熱工程における基板単体および白金ナノ粒子/各種基板の表面温度の変化を測定した。
評価結果を
図17A、
図17Bに示す。
図17Bは、
図17Aにおいて最高到達温度が60℃に満たなかったサンプルについて、縦軸スケールを拡大して図示したものである。
【0139】
図17Aおよび
図17Bに示すように、(001)ルチル型TiO
2基板、(100)ルチル型TiO
2基板、(110)ルチル型TiO
2基板、およびシリコン基板の5種類の基板はいずれも、基板単体では全く温度上昇が見られなかった。
ホウケイ酸ガラス基板は、基板単体でも多少加熱されたが、最高到達温度は40℃以下であった。
白金ナノ粒子/(100)ルチル型TiO
2基板、および白金ナノ粒子/(110)ルチル型TiO
2基板においても、全く温度上昇が見られなかった。これらの材料の組合せでは、当接界面において、静的分極が生じていないと考えられる。
白金ナノ粒子/シリコン基板および白金ナノ粒子/(001)ルチル型TiO
2基板では、基板単体よりも大きな温度上昇が見られた。これらサンプルにおける電磁波照射開始後300秒後の到達温度は、50〜60℃程度であった。これらの材料の組合せでは、当接界面において、静的分極が生じていると考えられる。
白金ナノ粒子/ホウケイ酸ガラス基板では、基板単体に比して顕著な温度上昇が見られた。これらサンプルにおける電磁波照射開始後300秒後の到達温度は、130℃以上であった。これらの材料の組合せでは、当接界面において、静的分極が生じていると考えられる。
ホウケイ酸ガラス基板の代わりに石英ガラス基板を用いて同様の実験を行ったところ、白金ナノ粒子/石英ガラス基板においても、白金ナノ粒子/ホウケイ酸ガラス基板と同様、顕著な温度上昇が見られた。
【0140】
[実施例8]
実施例7と同様にして、白金ナノ粒子/ホウケイ酸ガラス基板を得た。
実施例1−1と同様の装置を用い、2.45GHzの電磁波を照射して、加熱焼成を実施した。電磁波の出力は5.0Wとした。
この実施例では、電場の振動方向と白金ナノ粒子/ホウケイ酸ガラス基板の当接界面とのなす角度θを変化させ、各条件について白金ナノ粒子/ホウケイ酸ガラス基板の表面温度の測定を実施した。温度測定は実施例1−1と同様の方法にて実施した。
図18Aに評価結果を示す。
θ=0〜45°、好ましくは0〜20°において、白金ナノ粒子/ホウケイ酸ガラス基板の表面に顕著な温度上昇が見られた。
ホウケイ酸ガラス基板の代わりに石英ガラス基板を用いて同様の実験を行ったところ、白金ナノ粒子/石英ガラス基板においても、白金ナノ粒子/ホウケイ酸ガラス基板と同様、加熱温度のθ依存性が見られた。
【0141】
実施例8において、電場の振動方向と当接界面とのなす角度θと、電磁波照射開始後300秒後の白金ナノ粒子/ホウケイ酸ガラス基板の表面温度との関係を
図18Bに示す(黒四角のプロットとこれを繋ぐ太線データ)。
振動電場のパワーは、電場強度のcos成分の二乗に比例する。電場の振動方向と当接界面とのなす角度θが0°と90°のときの電磁波照射開始後300秒後の白金ナノ粒子/ホウケイ酸ガラス基板の表面温度のデータを測定データに一致させて、振動電場のパワーが電場強度のcos成分の二乗に比例するとして計算を実施したときの計算データを別の太線(プロットなし)で示す。
測定データと計算データは概ね一致しており、電場の振動方向と当接界面とのなす角度θと積層体の加熱温度との間には相関があることが示された。
測定データおよび計算データから、θ=0〜45°、好ましくはθ=0〜40°、より好ましくはθ=0〜30°、特に好ましくは0〜20°において、白金ナノ粒子/ホウケイ酸ガラス基板の表面に顕著な温度上昇が見られることが示された。
【0142】
[実施例9]
ガラス基板上にITO(インジウム錫酸化物)膜が形成されたITO基板を用意した。
25mLのチタンブトキシドと3mLの43質量%HF水溶液とを混合した後、これをテフロン(登録商標)製オートクレーブに封入し、180℃24時間加熱して、水熱合成を実施した。得られた白色粉末をデキャンテーションによりエタノールで5回洗浄し、0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液中に再分散させた。これを7日間攪拌した後、デキャンテーションにより純水で5回洗浄し、表面のフッ化物が除去された均質なアナターゼ型の板状酸化チタン微粒子を得た。
得られたアナターゼ型の板状酸化チタン微粒子をエタノール中に再分散させた。微粒子分散液の濃度は20質量%とした。この微粒子分散液中に、バインダーとしてアルファテルピネオールおよびエチルセルロースを加え、混練して、酸化チタン微粒子ペーストを得た。
得られた酸化チタン微粒子ペーストをITO基板上にスキージ法により塗布し、450℃で焼成して、酸化チタン微粒子膜を形成した。
【0143】
得られた酸化チタン微粒子膜/ITO基板のSEM観察を実施した。表面SEM像を
図19Aに示し、断面SEM像を
図19Bに示す。
基板面に沿って、板状微粒子である酸化チタン微粒子が、板状微粒子の板面が基板面に対して平行またはそれに近い方向となるように配列している様子が見られた。
板状微粒子の径は0.05μm程度であった。
【0144】
板状微粒子である酸化チタン微粒子を触媒担体とし、これに白金ナノ粒子等の触媒粒子を担持させることで、
図6Cに示したような触媒ユニットが得られる。
電磁波照射によりこの触媒ユニットを加熱することができる。この際、
図6Cに示したように、電磁波の電場Eの振動方向を基板面に平行な方向またはそれに近い方向とすればよい。この場合、電磁波の電場Eの振動方向と触媒粒子/触媒担体の当接界面とのなす角度が0〜45°、好ましくは0〜40°、より好ましくは0〜30°、特に好ましくは0〜20°の範囲内であり、電磁波の電場の振動方向と触媒粒子/触媒担体の当接界面における静的分極の方向とが互いに交差方向であるという条件を充足することができ、触媒ユニットを当接界面から効率良く加熱することができる。