【文献】
Japanese Journal of Rheumatology,1994年,Vol.5, No.3,p.227-236
【文献】
Int. J. Tissue React.,2004年,XXVI(1/2),p.9-16
【文献】
Tohoku J. Exp. Med.,2010年,Vol.220,p.229-235
【文献】
Biochemical and Biophysical Research Communications,2001年,Vol.405,p.575-580
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.骨芽細胞増殖促進剤
本発明の第1の発明は骨芽細胞増殖促進剤である。本発明の骨芽細胞増殖促進剤は、所定の分子量のヒアルロン酸又はその塩からなり、骨芽細胞に作用してその増殖を促進することができる。
【0016】
「ヒアルロン酸(HA)」は、前述したようにグルクロン酸とN-アセチルグルコサミンの二糖が直鎖状に重合した構造を有するグリコサミノグリカン(ムコ多糖)である。
【0017】
「その塩」とは、好ましくはHAの塩基性付加塩をいう。塩基性付加塩としては、例えば、ナトリウム塩若しくはカリウム塩のようなアルカリ金属塩、カルシウム塩若しくはマグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩、トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩若しくはブロカイン塩のような脂肪族アミン塩、N,N-ジベンジルエチレンジアミンのようなアラルキルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩若しくはイソキノリン塩のような複素環芳香族アミン塩、アルギニン塩若しくはリジン塩のような塩基性アミノ酸塩、アンモニウム塩又はテトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩若しくはテトラブチルアンモニウム塩のような第4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0018】
前記所定の分子量とは、170万〜230万、好ましくは180万〜220万の範囲をいう。一般に、単一分子量のみからなるHAを得ることは困難であり、その前後分子量のHAを伴う混合分子量として得られる。それ故、本明細書では200万を中心とする前後30万、好ましくは前後20万が所定の範囲に該当する。
【0019】
本明細書においてHAは、上記分子量を有する限り、天然物由来のものであっても、人工合成物(組換え遺伝子技術によるものを含む)であってもよい。不純物が少なく、安定的、かつ大量に入手するには、人工合成物が好ましい。
【0020】
本明細書において骨芽細胞は、株化細胞や骨芽細胞様細胞も含み得る。
【0021】
2.プロスタグランジンE2産生抑制剤
本発明の第2の発明はプロスタグランジンE2(PGE
2)産生抑制剤である。本発明のPGE
2産生抑制剤の構成は、第1態様に記載の骨芽細胞増殖促進剤と同じで、分子量のHA又はその塩からなり、PGE
2を産生する様々な細胞に作用してその産生を抑制することができる。
【0022】
「プロスタグランジンE2」(PGE
2)は、不飽和脂肪酸の一種デアルアラキドン酸から生合成されるオータコイドである。PGE
2は、サイトカイン、増殖因子、細菌内毒素等の刺激によって様々な細胞から産生され、7回膜貫通型の特異的受容体に結合して多様な生理活性を示す。破骨細胞に作用し、その分化や活性化を誘導して骨吸収作用を促進する。したがって、PGE
2の産生を抑制することができれば骨吸収作用を抑制することができる。
【0023】
3.骨量減少抑制剤
本発明の第3の発明は骨量減少抑制剤である。本発明の骨量減少抑制剤の構成も第1及び第2態様と同じである。
【0024】
第1及び第2態様に記載のように、200万を中心とする前後30万、好ましくは前後20万のHAは、骨芽細胞に対して細胞増殖促進作用を示し、骨形成を促進すると共に、PGE
2産生細胞に対してその産生を抑制する作用を示し、破骨細胞による骨吸収を抑制することができる。すなわち、前記分子量のHAは、骨代謝を担う骨芽細胞と破骨細胞の両者に作用することで、骨代謝異常等を起因とする骨量の減少を抑制し、骨代謝、すなわち骨のリモデリングを回復させることができる骨量減少抑制剤として利用することもできる。
【0025】
「骨量」とは、一定量の骨に含まれるコラーゲン等の骨基質とミネラルからなる骨塩の総和量をいう。骨量は、骨代謝、すなわち骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収のバランスによって一定量に維持されているが、加齢や閉経によって破骨細胞機能が活性化し、また骨芽細胞機能が低下することにより、過度の骨吸収が誘導され、骨粗鬆症のリスクが大きくなることが知られている。
【0026】
本発明の骨量減少抑制剤を個体に投与することで、骨代謝異常等で生じる骨量の減少を抑制し、骨量を維持又は改善することができる。
【0027】
4.骨粗鬆症の予防又は改善剤
4−1.概要
本発明の第4の態様は、骨粗鬆症の予防又は改善剤(本明細書ではしばしば「骨粗鬆症予防改善剤」と表記する)である。本発明の骨粗鬆症の予防又は改善剤は、第3態様の骨量減少抑制剤を有効成分とする。
【0028】
4−2.定義
「骨粗鬆症」は、代謝性骨疾患の1種であり、骨量の減少により骨密度が低下し、骨強度が低下する結果、骨が脆弱化して骨折しやすくなる疾患をいう。原発性骨粗鬆症と続発性骨粗鬆症に大別され、原発性骨粗鬆症は、さらに閉経後骨粗鬆症(I型骨粗鬆症)と老人性骨粗鬆症(II型骨粗鬆症)に分類される。「閉経後骨粗鬆症(I型骨粗鬆症)」とは、骨吸収を抑制するエストロゲンの欠乏や分泌量の低下によって生じる高回転型の骨粗鬆症であり、閉経後の女性に多く見られ、主として海綿骨が侵される。通常、椎骨や橈骨遠位端での骨折が多い。一方、「老人性骨粗鬆症(II型)」は、骨芽細胞数の減少と機能低下により骨形成が不十分となる低回転型の骨粗鬆症であり、加齢によって発症し、海綿骨と皮質骨の両方が侵される。通常、椎骨や大腿骨頸部での骨折が多い。本発明の骨粗鬆症予防改善剤の対象となる骨粗鬆症は、上記いずれも包含する。
【0029】
本明細書において「予防」とは、疾患(本明細書では骨粗鬆症)の発症を未然に防ぐことをいう。また、本明細書において「改善」とは、発症した疾患における症状の進行を緩和し、抑制し、又は阻止することをいう。
【0030】
4−3.構成
4−3−1.構成成分
本発明の骨粗鬆症予防改善剤は、必須構成成分として有効成分を、また選択的構成成分として溶媒及び担体を含む。以下、各構成成分について説明をする。
【0031】
(1)有効成分
本発明の骨粗鬆症予防改善剤は、第3態様の骨量減少抑制剤を有効成分として有効量包含する。本明細書において「有効量」とは、有効成分としての機能、すなわち薬理効果を発揮する上で必要な量で、かつそれを適用する被験体に対して有害な副作用をほとんど又は全く付与しない量をいう。この有効量は、被験体の情報、適用方法、剤形、及び適用回数等の様々な条件によって変わり得る。
【0032】
本明細書において「被験体」とは、骨粗鬆症予防改善剤の投与対象となる生体をいう。例えば、ヒト、愛玩動物(イヌ、ネコ、ウサギ等)、競走馬、実験動物(マウス、ラット、モルモット、サル等)、家畜(ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ニワトリ、ダチョウ等)等が該当する。好ましくはヒトである。
【0033】
本明細書において、「被験体の情報」とは、被験体の様々な状態情報であって、例えば、被験体がヒトであれば、年齢、体重、性別、全身の健康状態、疾患の有無、疾患の進行度や重症度、薬剤感受性、併用薬物の有無及び治療に対する耐性等を含む。
【0034】
「適用方法」、「剤形」、及び「適用回数」については後述する。
【0035】
前記有効量を勘案して骨粗鬆症予防改善剤における一投与量あたりの有効成分の含有量が決定される。一般に、骨粗鬆症予防改善剤の有効成分である骨量減少抑制剤は、HAからなる。HAは、元来生物の結合組織を構成する成分であり、関節内注入剤、点眼剤、及び多くのサプリメント等での長期使用において高い安全性が担保されている。
【0036】
有効成分である前記骨量減少抑制剤の薬理効果、すなわち、骨芽細胞に対して細胞増殖を促進し、またPGE
2産生細胞に対してその産生を抑制して破骨細胞による骨吸収を抑制することによって骨量の減少を抑制する効果を得るための有効量は、被験体における骨粗鬆症の進行度若しくは重症度、全身の健康状態、年齢、体重、性別、食生活、及び治療に対する耐性等が勘案される。このような有効量や骨粗鬆症予防改善剤における一投与量あたりの有効成分の含有量は、ヒトに投与する場合、最終的には個々の被験者に応じて医師の判断により決定され、調整される。
【0037】
(2)溶媒
本発明の骨粗鬆症予防改善剤は、必要に応じて薬学的に許容可能な溶媒中に溶解することができる。「薬学的に許容可能な溶媒」とは、製剤技術分野において通常使用する溶媒をいう。例えば、水若しくは水溶液、又は有機溶剤が挙げられる。水溶液には、例えば、生理食塩水、ブドウ糖又はその他の補助剤を含む等張液、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液が挙げられる。補助剤には、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム、その他にも低濃度の非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。有機溶剤には、エタノールが挙げられる。
【0038】
(3)担体
本発明の骨粗鬆症予防改善剤は、必要に応じて薬学的に許容可能な担体を含むことができる。「薬学的に許容可能な担体」とは、製剤技術分野において通常使用する添加剤をいう。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、滑沢剤、ヒト血清アルブミン等が挙げられる。
【0039】
溶媒には、例えば、水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る水溶液、又は薬学的に許容される有機溶剤のいずれであってもよい。水溶液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助剤を含む等張液、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液が挙げられる。補助剤としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム、その他にも低濃度の非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。
【0040】
賦形剤には、例えば、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖、金属塩、クエン酸、酒石酸、グリシン、ポリエチレングリコール、プルロニック、カオリン、ケイ酸、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0041】
結合剤には、例えば、植物デンプンを用いたデンプン糊、ペクチン、キサンタンガム、単シロップ、グルコース液、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック、パラフィン、ポリビニルピロリドン又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0042】
崩壊剤としては、例えば、前記デンプンや、乳糖、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド又はそれらの塩が挙げられる。
【0043】
充填剤としては、ワセリン、前記糖及び/又はリン酸カルシウムが例として挙げられる。
【0044】
乳化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが例として挙げられる。
【0045】
流動添加調節剤及び滑沢剤としては、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが例として挙げられる。
【0046】
上記の他にも、必要であれば医薬組成物において通常用いられる可溶化剤、懸濁剤、希釈剤、分散剤、界面活性剤、無痛化剤、安定剤、吸収促進剤、増量剤、付湿剤、保湿剤、湿潤剤、吸着剤、矯味矯臭剤、崩壊抑制剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、防腐剤、抗酸化剤、香料、風味剤、甘味剤、緩衝剤、等張化剤等を適宜含むこともできる。
【0047】
上記担体は、被験体内で酵素等による前記有効成分の分解を回避又は抑制する他、製剤化や投与方法を容易にし、剤形及び薬効を維持するために用いられるものであり、必要に応じて適宜使用すればよい。
【0048】
4−3−2.剤形
本発明の骨粗鬆症予防改善剤の剤形は、特に限定しない。被験体の体内で有効成分を失活させず、目的の部位にまで送達できる形態であればよい。
【0049】
具体的な剤形は、後述する適用方法によって異なる。適用方法は、非経口投与と経口投与に大別することができるので、それぞれの投与法に適した剤形にすればよい。
【0050】
(1)投与方法が経口投与の場合
剤形は、固形剤(錠剤、カプセル剤、ドロップ剤、トローチ剤を含む)、顆粒剤、粉剤、散剤、液剤(内用水剤、乳剤、シロップ剤を含む)が挙げられる。固形剤であれば、必要に応じて、当該技術分野で公知の剤皮を施した剤形、例えば、消化管溶性剤、糖衣錠、ゼラチン被包錠、フィルムコーティング錠にすることができる。好ましくは核及び被覆層を含む消化管溶性剤である。
【0051】
前記「消化管溶性」とは、被験体の消化管内において消化液の作用により被覆層が溶解され、核含有成分が徐放されることをいう。「消化管」とは、口から肛門に至る管腔をいう。被験体が哺乳動物である場合、本発明の消化管は、特に胃、十二指腸、小腸(空腸、回腸を含む)及び/又は大腸(盲腸、結腸及び直腸を含む)を指す。また、消化液とは、消化管から分泌される分泌液であって、通常、消化酵素や酸等を含有する。例えば、胃において分泌され、ペプシン及びリパーゼ等の消化酵素、並びに塩酸を含有する胃液、十二指腸において分泌され、トリプシン、キモトリプシン、カルボキシペプチダーゼ、アミラーゼ、リパーゼ等の消化酵素を含有する膵液、小腸の空腸において分泌され、マルターゼ、ラクターゼ、スクラーゼ等の消化酵素を含有する腸液が挙げられる。後述するように、本発明において被覆層の溶解は、胃液(特にそれに含有される塩酸)及び腸液の作用によるところが大きいと考えられている。
【0052】
本明細書の消化管溶性剤において「核」は、概ねその中心部に位置し、骨量減少抑制剤及び製薬上許容可能な担体を含有する部分をいう。核の形状は、特に限定はしない。しかし、一般に剤形の形状は核の形状を反映することから、本発明の剤形の製造においては、核の形状は、後述する本発明の剤形の形状と概ね同一の形状にすればよい。
【0053】
核のサイズは、必要量の薬剤を包含できる当該分野で公知の剤形サイズにすればよく、特に限定しない。剤形のサイズを先に定め、その剤形サイズから、所望の被覆層の厚さ分だけ減じることで定めてもよい。
【0054】
本明細書の消化管溶性剤において「被覆層」は、卵殻及び腸溶性ポリマーを含有し、前記核の表面を被覆するように形成された層をいう。
【0055】
本明細書において「卵殻」とは、結晶化した炭酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウム等を含有する卵の殻をいう。卵の由来となる生物種は、特に限定はしない。例えば、鳥類、爬虫類(カメ目、ワニ目及びヤモリ科を含む)が挙げられる。複数種の卵殻の混合物であっても構わない。好ましくは、鶏卵の卵殻である。安定的に、かつ多量に、また比較的安価に入手可能だからである。卵殻は、通常、採取時に卵殻膜が付着しているが、この卵殻膜はアレルゲンとなり得るため除去されていることが好ましい。卵殻は、薬剤、加熱、焼成、ガンマ線照射等による殺菌処理を施したものを使用する。焼成処理は、殺菌と共に前記卵殻膜も焼却できるので好ましい。本明細書の消化管溶性剤において卵殻は、粉末状態のものが使用される。粒径は、通常0.8μm〜40μmの範囲内、好ましくは1μm〜20μmの範囲内、より好ましくは1μm〜10μmの範囲内にあればよい。各粒子の粒径差が小さいこと、すなわち粒が揃っていることが望ましい。卵殻から卵殻膜を除去し、粉末化した卵殻カルシウムが市販されており、それらを利用することもできる(例えば、太陽化学株式社、キューピータマゴ株式会社より入手可能)。
【0056】
本明細書において「腸溶性ポリマー」とは、胃液に対しては難溶(耐胃液性)で、アルカリ性の小腸内において溶解する(腸液崩壊性)高分子物質をいう。本明細書の消化管溶性剤では、公知の腸溶性ポリマーを使用することができる。例えば、限定はしないが、エチルセルロース、セルロースエステル及びその誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、フタル酸酢酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、コハク酸酢酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、フタル酸酢酸ポリビニル、メタクリル酸エステルの共重合体(例えば、pH感受性メタクリル酸メタクリレートコポリマー)、セラックが該当する。好ましくは、セラックである。「セラック」(shellac:シェラック)は、ラックカイガラムシが分泌する樹脂状物質(シードラック)を精製して得られる天然熱硬化性樹脂であり、アレウリチン酸及びシェロール酸又はアレウリチン酸及びジャラール酸等の樹脂酸のエステルを主成分とする。人体に対しても無毒なことから、安全性の高い可食性皮膜剤として医薬品や食品等のコーティング剤に広く利用されており、本発明の被覆層における腸溶性ポリマーにも好適である。
【0057】
本発明の被覆層は、腸溶性ポリマー及び卵殻に加えて製薬上許容可能な添加剤を含有することができる。製薬上許容可能な添加剤は、例えば、乳化剤、油類(植物性油類、動物性油類を含む)、医薬用色素、糖、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール又は二酸化チタン等を含む。乳化剤には、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが挙げられる。植物性油類には、例えば、菜種油、パーム油、綿実油、大豆油、コーン油、紅花油、ゴマ油、亜麻仁油、ひまし油などが挙げられる。動物油類には、牛脂、豚脂、鯨油、サメ油等が挙げられる。
【0058】
被覆層における卵殻と腸溶性ポリマーとの混合比は、本発明の消化管溶性剤の標的消化管領域により定まる。本発明の消化管溶性剤を胃後部〜空腸前部の上部消化管において作用させる場合には、一般的に卵殻の比率を高くすればよい。例えば、卵殻:腸溶性ポリマーの混合比が重量比で1:30〜1:10、好ましくは1:25〜1:15の範囲内にあればよい。一方、本発明の消化管溶性剤を主として空腸〜回腸内において作用させる場合には、卵殻の比率を前記混合比よりも低くすればよい。例えば、卵殻:腸溶性ポリマーの混合比が重量比で1:40〜1:31の範囲内にすればよい。さらに、本発明の消化管溶性剤を回腸〜大腸の下部消化管において作用させる場合には、卵殻の比率をさらに低くすればよい。例えば、卵殻:腸溶性ポリマーの混合比を重量比で1:50〜1:41の範囲内にすればよい。このように、本発明の消化管溶性剤は、被覆層の卵殻と腸溶性ポリマーの混合比及び/又は被覆層自体の厚さ(後述する核に対する被覆層の重量%)を変えることにより、核に含まれる薬剤の消化管における作用部位を制御することが可能となる。好ましくは上部消化管を標的消化領域とする場合である。
【0059】
被覆層は、複数の層を重畳した構造を有してもよい。この場合、いずれの層も腸溶性ポリマー及び卵殻を含有するが、各層の成分組成及び構成成分含有率は、異なっていても構わない。
【0060】
(2)投与方法が非経口投与の場合
皮下投与、組織内投与(筋肉内投与を含む)、経粘膜投与、リンパ管内投与、及び経直腸的投与にさらに細分される。骨粗鬆症予防改善剤もそれぞれの投与法に適した剤形にすればよい。例えば、全身投与、組織内投与及び皮下投与に適した剤形としては、液剤やゲル剤が挙げられる。経粘膜投与に適した剤形としては、液剤(塗布剤、点眼剤、点鼻剤、吸引剤を含む)、懸濁剤(乳剤、クリーム剤を含む)、粉剤(点鼻剤、吸引剤を含む)、ペースト剤、ゲル剤、軟膏剤、硬膏剤等を挙げられる。リンパ管内投与に適した剤形としては、液剤等が挙げられる。経直腸的投与に適した剤形としては、坐剤等を挙げることができる。非経口投与の場合、好ましい剤形は、皮下投与に適した液剤又はゲル剤からなる皮下剤である。皮下剤の具体例には、注射剤が挙げられる。注射剤は、前記賦形剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、pH調節剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
【0061】
なお、上記各剤形の具体的な形状、大きさについては、いずれもそれぞれの剤形において当該分野で公知の剤形の範囲内にあればよく、特に限定はしない。本発明の骨粗鬆症予防改善剤の製造方法については、当該技術分野の常法に従って製剤化すればよい。
【0062】
4−3−3.適用方法
本発明の骨粗鬆症予防改善剤の適用経路は、経口投与でも非経口投与でもよい。非経口投与には、前述のように、例えば皮下投与、組織投与、経粘膜投与、リンパ管内投与、及び経直腸的投与が該当する。本発明の骨粗鬆症予防改善剤を局所投与する場合には、経口投与又は皮下投与が好ましく、皮下投与であれば注射等で皮下に直接投与すればよい。投与量は、有効成分が奏効する上で有効な量であればよい。有効量は、前述のように被験体情報に応じて適宜選択される。骨粗鬆症予防改善剤の薬理効果を得る上で、大量投与が必要な場合、被験体に対する負担軽減のために数回に分割して投与することもできる。例えば、通常成人1日当たりの骨粗鬆症予防改善剤の有効量を、1日1回又は数回に分けて、連続的に、又は断続的に長期間、例えば、1年以上、又は2年以上にわたり投与してもよい。
【0063】
4−3−4.適用対象
本発明の骨粗鬆症予防改善剤の適用対象となる被験体は限定しないが、ヒトであれば女性、特に閉経を迎える50歳前後及びそれ以降の女性、月経不順や卵巣機能不全等によりエストロゲン分泌量が低下している患者、骨粗鬆症罹患患者が好ましい。特に閉経前後の女性で、骨粗鬆症の症状がまだ現れていない被験体は、本発明の骨粗鬆症予防改善剤の適用対象として特に好適であり、期待される予防効果も高い。
【0064】
5.骨粗鬆症の予防又は改善用飲食料
本発明の第5の態様は、骨粗鬆症の予防又は改善用の食品又は飲料(本明細書ではしばしば「骨粗鬆症予防改善用飲食品」と表記する)である。本発明の骨粗鬆症予防改善用飲食品は、分子量170万〜230万のHA又はその塩を有効成分として含有する。200万を中心とする前後30万、好ましくは前後20万のHAは、骨代謝を担う骨芽細胞と破骨細胞の両者に作用することで、骨代謝異常を起因とする骨量の減少を抑制し、骨代謝、すなわち骨のリモデリングを回復させることができる骨量減少抑制剤として利用することもできる。この所定の分子量を有するHAからなる骨量減少抑制剤は、第4態様の骨粗鬆症予防改善剤に記載のように経口投与でもその薬理効果を奏し得る。したがって、分子量170万〜230万のHAを配合した飲食品の形態とすることで、普段の食事と共に無理なく毎日有効成分を摂取することができる。
【0065】
骨粗鬆症予防改善用飲食品を飲食品等として調製する場合、上記分子量のHA又はその塩の含有量は、第3態様に記載の有効成分の有効量に準じればよい。
【0066】
飲食品の形態は、特に制限されず、加工飲食品、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、あるいは家畜、競走馬若しくは鑑賞動物等の飼料又はペットフード等の他、上記分子量のHA又はその塩を配合できる全ての飲食品又は飼料が含まれる。より具体的には、加工飲食品であれば、緑茶、ウーロン茶や紅茶等の茶飲料、清涼飲料、ゼリー飲料、スポーツ飲料、乳飲料、炭酸飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料、発酵乳飲料、粉末飲料、ココア飲料、精製水等の飲料、またバター、ジャム、ふりかけ、マーガリン等のスプレッド類、マヨネーズ、ショートニング、カスタードクリーム、ドレッシング類、パン類、米飯類、麺類、パスタ、味噌汁、豆腐、牛乳、ヨーグルト、スープ又はソース類、菓子(例えばビスケットやクッキー類、チョコレート、キャンディ、ケーキ、アイスクリーム、チューインガム、タブレット)等に配合した形態で調製できる。健康食品、機能性食品、特定保健用食品であれば、錠剤、チュアブル錠、粉剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤、経管経腸栄養剤等の流動食等の各種製剤形態で調製できる。また、飼料は、本発明の前記加工飲食品とほぼ同様の組成・形態で利用できる。
【0067】
加工飲食品は、食品製造に用いられる食品素材、各種栄養素、各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸、各種油脂、種々の添加剤(例えば呈味成分、甘味料、有機酸等の酸味料、界面活性剤、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、色素、フレーバー)等と共に配合して、常法に従って製造すればよい。製剤形態の飲食品等は、第4態様の「骨粗鬆症の予防又は改善剤」と同様の方法で製造すればよい。
【実施例】
【0068】
<実施例1:高分子量ヒアルロン酸の骨芽細胞に対する増殖促進作用の検証>
(目的)
分子量の異なるHAの骨芽細胞に対する増殖促進作用を検証する。
【0069】
(方法)
骨芽細胞には、マウス骨芽細胞様細胞(MC3T3-E
1細胞)(理化学研究所細胞開発バンク)を用いた。MC3T3細胞を10%の胎仔血清(FBS)を含有したα-MEM培地(10%FBS+α-MEM)で5%CO
2存在下にて37℃で培養した後、96ウェルプレートに1×10
4/100μL/ウェルとなるように播種した。続いて、分子量3万、30万、200万のHAを生理食塩溶液で1mg/mLに調整した後、10μLの各HA溶液(HA-3、HA-30、HA-200)をウェルに添加して5%CO
2存在下にて37℃で48時間培養した。HA原体は、キッコーマン・バイオケミファ社より購入した。HA未添加を対照とした。
【0070】
また、MC3T3-E
1細胞を0.5mMの一酸化窒素誘導体ニトロプルシッド(SNP:シグマ社)を含有する10%FBS+α-MEMで5%CO
2存在下にて37℃で18〜24時間培養後、上記と同様に各HA溶液を添加して培養した。骨芽細胞増殖性は、荷重負荷(メカニカルストレス)により前骨芽細胞又は骨芽細胞が産生する一酸化窒素が自己応答性の細胞増殖刺激となることが知られている(川島博行, 2000, Niigata Dent. J. 31820 (2): 173-182)。SNPは、一酸化窒素を放出する一酸化窒素ドナーとしての作用を有する。なお、0.5mMは、細胞死を誘発しない濃度である。細胞増殖活性は、テトラゾリウム塩(MTT)法を用いて細胞増殖能をマイクロプレートリーダー(Model 680 Microplate Reader;Bio-Rad社)で測定した。具体的には、培養終了後の各96ウェルプレートにMTT溶液(MTT Cell Viability Assay Kit: BTI社)をキットに添付のプロトコルに従って添加して、5%CO
2存在下にて37℃で4時間培養した後、生成したホルマザンを発色させて比色測定した。
【0071】
(結果)
各分子量のHAによるMC3T3-E
1細胞の増殖作用の結果を
図1に示す。HAは、分子量依存的にMC3T3-E
1細胞増殖作用が認められた。さらにSNPの添加により、HAの細胞増殖作用は分子量に依存して相加的に促進した。HA-3に比較してHA-200の細胞増殖性が有意に高値を示した。以上の結果から、高分子量HA、特に200万は骨芽細胞の細胞増殖性を促進することが示唆された。
【0072】
<実施例2:骨芽細胞における高分子量ヒアルロン酸のPGE
2産生抑制作用の検証>
(目的)
高分子量HAによる骨芽細胞でのPGE
2産生抑制作用を検証する。
【0073】
(方法)
骨芽細胞には実施例1と同様にMC3T3-E
1細胞を、またHAには実施例1で骨芽細胞に対して有意な細胞増殖性促進効果が認められた分子量200万のHA-200を用いた。MC3T3-E
1細胞に対するPGE
2産生の誘導刺激にはIL-1α(インターロイキン1α)を用いた。
【0074】
MC3T3-E
1細胞を10%FBS+α-MEMを含む24ウェルプレートに1×10
5/mL/ウェルとなるように播種し、5%CO
2存在下にて37℃で培養した。その後、0.1%牛血清アルブミン(BSA)を含有したα-MEM培地(0.1%BSA+α-MEM)で培地交換し、分子量200万のHAを生理食塩溶液で3mg/mLに調製したHA-200溶液を100μL(=300μg/mL)と100ng/mLのIL-1α(Wako社)を100μL(=10ng/mL)、同時に各ウェルに添加して、5%CO
2存在下にて37℃で24時間培養した。陽性対照用として、200ng/mLのインターロイキン1レセプターアンタゴニスト(IL-1ra、Wako社)を100μL(=20ng/mL)と100ng/mLのIL-1αを100μL(=10ng/mL)、同時に各ウェルに添加して5%CO
2存在下にて37℃で24時間培養したものを用いた。また陰性対照には、IL-1α、HA-200及びIL-1raを添加せず、それ以外は同条件で培養したMC3T3-E
1細胞を用いた。培養終了後、各上清を回収して冷凍保存し、酵素免疫測定キット(GEヘルスケア社)を用いてPGE
2濃度を測定した。
【0075】
(結果)
MC3T3-E
1細胞のIL-1α刺激によるPGE
2産生の結果を
図2に示す。HA-200を添加したレーンC及び陽性対照のレーンDでは、レーンBで示すIL-1α刺激によるMC3T3-E
1細胞からのPGE
2産生を有意に抑制した。実施例1及び2の結果から、HA-200には骨芽細胞様細胞であるMC3T3-E
1細胞の増殖を促進する作用とPGE
2の産生を抑制する作用を有することが明らかとなった。つまり、HA-200は骨組織に対して骨形成を促進し、骨吸収を抑制できることが示唆された。
【0076】
<実施例3:エストロゲン分泌低下モデルラットでのHA-200の骨量減少抑制作用及び軟骨変性抑制作用の検証>
(目的)
HA-200におけるエストロゲンの分泌低下による骨量減少の抑制作用及び軟骨変性抑制作用を検証する。
【0077】
(方法)
エストロゲンの分泌低下モデルには、卵巣摘出処理を行ったラット(OVXラット)を用いた。ラットには、SD系♀ラット(8週齢、体重168±5g)を用いた。イソフルランの吸入麻酔下で手術により両方の卵巣を摘出した。卵巣摘出1週間後から、無処置対照群(A群)、OVX群(B群)及び被験物質投与群(C〜E群)を調製した。各群は3匹で構成されている。被験物質投与群は、HA-200を30mg/kgを、毎日4週間経口投与した群(C群)、週1回4週間皮下投与した群(D群)とした。また、陽性対照は、80μg/kgの骨粗鬆症治療剤(PTH(1-34):フォルティオ[登録商標]皮下注キット600μg;一般名:テリパラチド、日本イーラーラリー社)を週1回4週間皮下投与した群(E群)とした。投与終了1週間後に体重を測定し、剖検を行った。剖検は、イソフルラン吸入麻酔下に放血致死させて、子宮重量を測定し、左右大腿骨及び脛骨と椎体骨を摘出した。左大腿骨、脛骨及び椎体骨は、10%中性緩衝ホルマリン液に固定し、10%EDTAにて脱灰した後、パラフィンブロックを作製した。なお、椎体骨は第3から第5腰椎の組織標本を作製した。
【0078】
組織学的評価としては、ヘマトキシリン−エオジン染色、及びマッソントリクローム染色を行い、システム顕微鏡(オリンパス社)で観察し、画像撮影を行った。各群のマッソントリクローム染色像から海綿骨量、破骨細胞、多核巨細胞数を測定し、右脛骨をトルイジンブルー(TB)染色、及びデルマタン硫酸プロテオグリカン抗体(6B6:生化学工業社)の免疫組織染色法で軟骨変性の観察を行った。また、各群の軟骨下骨の海綿骨と軟骨組織像は、TB染色像から比較検討した。70%エタノールに固定した右脛骨のマイクロCT分析は、脛骨近位端海綿骨領域をマイクロCT(microcomputed-tomography、ScanXmate-L090:コムスキャンテクノ社)で撮影した。また、解析装置(TRI/3D-BON:ラットクスシステムエンジニアリング社)で骨組織容量(TV)及び骨量(BV)を測定し、骨密度(骨量体積率:BV/TV%)を算出した。脛骨の撮影は、骨の長軸を回転軸と一致させ、撮影の中心領域を脛骨の成長板から2.3mm離れた位置に設定し、電圧75kV、電流100μA、マトリックス径512×512、画素径20.2μm、スライス厚20.2μmで前額断面の二次元画像を得た。
【0079】
(結果)
剖検時における各群のラットの体重と子宮重量を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
対照であるA群と比較して、B、C、D及びE群は、いずれも有意な体重増加、及び有意な子宮重量減少が認められ、各群のOVXラットがほぼ同等のエストロゲン分泌低下状態であることが確認された。
【0082】
(1)骨量減少抑制作用
各群の右脛骨のマッソントリクローム染色像における組織学的評価は、骨端軟骨から3mmの範囲で1mm
2の面積当たりの海綿骨量と骨梁表面に付着していない多核巨細胞数及び骨梁表面に結合している3核以上の破骨細胞数を算定した。この組織学的評価、すなわち脛骨海綿骨量、多核巨細胞数及び3核以上の破骨細胞数を表2に、また海綿骨の組織像を
図3に、右脛骨のマイクロCT分析による前額断面画像を
図4に、そして骨密度(BV/TV)の結果を
図5に示す。同様に各群の第4腰椎のヘマトキシリン−エオジン染色における組織学的評価は、骨端軟骨から2.5mmの範囲で1mm
2の面積当たりの海綿骨量を算定した。この組織学的評価、すなわち腰椎の界面骨量を表3に示した。
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
表2から、脛骨では、B群の海綿骨量は、A群の約50%にまで低下しており、OVXによる骨量減少が認められた。D群及びE群の海綿骨量は、B群の海綿骨量より有意に高値を示しており、OVXによる骨量減少抑制作用を示した。一方、D群の多核巨細胞数及び破骨細胞数は、B群と比較して有意に減少しており、骨吸収促進を抑制していることが示された。C群及びE群ではB群でみられる海綿骨の消失や骨髄内の脂肪細胞の増加は少なく、破骨細胞数の減少が認められることから、HA-200のOVXによる骨量減少を抑制する作用が示唆された。
【0086】
マイクロCT分析による脛骨前額断面画像(
図4)では、A群に比較してB群の海綿骨量が明らかに減少していた。C群、D群及びE群では、B群より海面骨量の増加が認められた。各群のBV/TV値は、A群(27.0±1.1)、B群(8.4±0.7)、C群(12.3±0.9)、D群(12.5±0.8)及びE群(11.9±2.5)であった。その結果、A群に比較してB群では約69%海綿骨量が減少していた。C群及びD群では、B群のBV/TV値より有意に高値を示し、OVXによる骨量減少抑制作用が認められ、E群においても骨量減少抑制傾向がみられた(
図5)。
【0087】
そして、表3から、腰椎ではB群の海綿骨量がA群の約40%にまで低下しており、脛骨と同様にOVXによる骨量減少が認められた。C群、D群及びE群の海綿骨量は、B群の海綿骨量より約10%高値を示し、HA-200のOVXによる骨量減少を抑制する作用が示唆された。
【0088】
(2)軟骨変性抑制作用
A群、B群、C群及びD群の右脛骨の抗6B6抗体染色像(上段)及びTB染色像(下段)を
図6に示す。A群と比較して、B群では抗6B6抗体染色陽性像が強く認められ、また同一部位でのTB染色性の低下が認められた。これは、OVXによる軟骨基質の変性、すなわち酸性ムコ多糖の漏出を示唆している。一方、OVXラットにHA-200を投与したC群及びD群では、B群と比較して抗6B6抗体陽性像が低下し、またTB染色性の増加傾向が認められた。
【0089】
以上の結果から、OVXラットに対するHA-200の経口又は皮下投与により、OVXラットの脛骨及び腰椎における骨量減少を抑制できるだけでなく、軟骨下骨の海綿骨の骨量減少及び軟骨表層の変性を抑制できることが示された。したがって、HA-200を経口又は皮下投与により骨粗鬆症に起因する骨軟骨変性を抑制できることが期待される。
【0090】
<実施例4:HA-200含有消化管溶性剤投与によるHA-200の臨床的評価>
(目的)
ヒトにおけるHA-200の効果を検証するため、HA-200の投与による骨密度及び骨代謝マーカーの変動を検証する。
【0091】
(方法)
(1)消化管溶性剤HA-200の10mg/粒の製造
HA原体は、キッコーマン・バイオケミファ社より購入した。消化管溶性剤HA-200の10mg/粒の製造は、スノーデン社に委託し、特許第4630931号に開示の方法に基づき、主に小腸で溶解するようにシェラックでフィルムコートした上部消化管溶性錠剤として製造した。
【0092】
(2)試験施設及び投与対象者
試験施設は、駒木台クリニック(千葉県流山市小摩木台493-10、院長:豊島弘道)とした。インフォームドコンセントを行ったボランティア5名を投与対象者とした。ボランティアの性別、YAM値及び骨密度は、表4に示した。投与対象者の平均年齢は61.4±2.5歳である。
【0093】
【表4】
【0094】
投与対象者は、骨密度がYAM値(YoungAdultMean;骨密度若年成人平均値)70以上で年齢50歳以上の5例とし、消化管溶性剤HA-200の服用を4例(b〜e)、またプラセボ用カルシウム剤の服用を1例(a)とした。
【0095】
(3)服用量、服用期間及び検査項目
HA原体は、キッコーマン・バイオケミファ社より購入した。消化管溶性剤HA-200(10mg/粒)は、スノーデン社で委託製造し、シェラックでフィルムコートして製剤化した。服用は、特許第4630931号で取得したときの臨床試験で腸機能改善効果が認められた服用量を基準とした。すなわち、就寝前3粒/日を原則として、4ヶ月又は6ヶ月毎に原則として1年間骨密度(YAM値)をDCS-600EXV(ALOKA社)を用いてDEXA法で測定した。また、骨代謝マーカーには、血清中のTRACP-5b(骨型酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ)及び血清中のP1NPを用いた。TRACP-5bは、骨吸収の亢進に伴い増加する物質で、ヒトでは破骨細胞のみに由来するため骨吸収の状態を正確に反映するマーカーとなる。この検査項目は、BML社に委託した。またP1NPは、骨組織に大量に存在するI型コラーゲン前駆体の代謝産物であり、骨形成の早期マーカーとなる。なお、下記の項目に該当する対象者は試験から除外した。すなわち、骨粗鬆症薬の服用対象者(ただし、Ca製剤であれば可)、長期間のステロイド剤の服用対象者、抗リウマチ薬(MTX)の服用対象者、甲状腺機能亢進症罹患患者、卵巣機能不全患者、糖尿病罹患患者、肝不全患者、腎不全患者、胃切除の既往症対象者であり。一部の対象者については、血清中のP1NP(I型プロコラーゲン-N-プロペプチド)、TRACP-5bも測定し、骨代謝マーカーの変動について検討した。
【0096】
(結果)
各ボランティアの骨密度年間変化率を表4及び
図7に、また経月的な変化率を
図8に示し、2例(d及びe)の経月的な骨密度、骨代謝マーカーの変動を
図9に示す。
【0097】
代表的骨粗鬆症治療薬であるビスホスホネート製剤は、短期間でTRACP-5bが基準値以下まで低下する。それ故に、骨吸収及び骨形成を過度に抑制することが報告されている(辻王成他, 2013, 整形外科と災害外科, 62(3): 655-658)。また、同様に骨粗鬆症治療薬として知られるフォルティオ[登録商標](PTH(1-34))製剤では、投与6か月でP1NPが基準値以上に上昇することが知られている(Sugimoto T, et al., 2014, Osteoporos Int., 25(3): 1173-1180)。これに対して、表4及び
図7から消化管溶性剤HA-200を服用したb〜eのYAM値は、服用前には平均79±4であったのに対して、1年間服用した後には平均82±6に上昇し、骨密度の年間変化率も平均1.8%上昇していた。また、
図8からTRACP-5bの年間の変動は、基準値(120〜420mU/dl)上限前後の値で推移し、一定の傾向はみられなかった。またP1NPの年間の変動は、基準値(17.1〜64.7
mg/dl)の中間の値の中で推移していた。
【0098】
以上の結果から、消化管溶性剤HA-200の服用における骨密度上昇は、ビスホスホネート製剤やフォルティオ[登録商標](PTH(1-34))製剤でみられる特異的に破骨細胞機能低下や骨形成機能亢進する作用とは異なることが示唆された。したがって、消化管溶性剤HA-200は、従来の骨粗鬆症治療薬とは作用機序が異なる、安全な骨粗鬆症の予防又は改善剤となることが示唆された。