【文献】
高橋隆史、池田幸史、三島健稔、栗田多喜夫、恒等写像学習を用いたオプティカルフローからのカメラ回転情報の抽出、電子情報通信学会技術研究報告、第99巻、第686号(NC99−168)、2000年3月15日、社団法人 電子情報通信学会、p.135〜141
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述のスキャン毎に各情報を比較して、その相関値に基づいてターゲット物標の選別を行う構成・手法では、いくつかの課題があった。
【0006】
従来の構成では、スキャン毎に受信する信号は変化するため、エコー信号もスキャン毎に変動する。そのため、スキャン毎にターゲット候補情報が不安定になることや、形状や大きさが近い物標が近接している場合に、ターゲット候補となる物標をロストしたり、異なる物標を追尾する乗移りを生じたりすることがあった。
【0007】
また、受信信号を信号レベルの閾値によって2値化していたため、閾値の設け方によっては、例えばブイや小さな船舶のような信号レベルの小さい物標をについて選別の対象にもならなかった。更に信号レベルが閾値前後の物標については、スキャン毎に検出状況が変化するため乗移りやロストを生じることがあった。
【0008】
更に、海面反射やクラッタの領域内に物標がある場合においても、ターゲット候補情報が不安定になるため、ロストや乗移りを生じることがあった。
【0009】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、従来の構成よりも高い精度で物標の選別を行う装置である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明に記載の信号選別装置は、 電磁波の送受信を繰り返す送受信部と、前記送受信部が受信したエコー信号に基づいて複数の物標を検出するターゲット候補検出部と、前記送受信部からの距離が略等しく方位が異なる二点間のエコー信号の位相変化量を算出する位相変化量算出部と、前記位相変化量に基づいて、第一スキャンにおいて検出した前記複数の物標の中から、前記第一スキャンより前の第二スキャンで選別した物標と同一の物標を選別する物標選別部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
このような構成により、形状や大きさが近い物標が近接している場合でも、位相変化量に基づいて追尾物標を選別することで、追尾物標のロストや、異なる物標を追尾する乗移り、を発生しない。更に、従来では選別の対象にもならなかったエコー信号のレベルが閾値以下の弱い信号の物標でも選別対象とすることができる。
【0012】
また、前述に記載の信号選別装置であって、前記物標選別部は、前記第一スキャンにおいて検出した各物標の前記位相変化量と、前記第二スキャンにおいて選別した物標の前記位相変化量と、の相関値に基づいて、該第一スキャンにおいて検出した前記複数の物標の中から、該第二スキャンで選別した物標と同一の物標を選別することを特徴とする。
【0013】
このような構成により、スキャン毎に物標のエコー信号の形状や大きさが変動する場合や、物標が海面反射領域内にある場合、及び物標が近接している場合、においてもスキャン毎の位相変化量の相関値に基づくことで従来よりも高い精度で追尾・捕捉したい物標を選別することができる。
【0014】
また、前述に記載の信号選別装置であって、前記物標選別部は、前記第一スキャンにおいて検出した各物標の前記位相変化量及び観測位置と、前記第二スキャンにおいて選別した物標の前記位相変化量及び観測位置と、の相関値に基づいて、該第一スキャンにおいて検出した前記複数の物標の中から、該第二スキャンで選別した物標と同一の物標を選別することを特徴とする。
【0015】
このような構成により、スキャン毎に物標のエコー信号の形状や大きさが変動する場合や、物標が海面反射領域内にある場合、及び物標が近接している場合、においてもスキャン毎の位相変化量及び観測位置の相関値に基づくことで従来よりも高い精度で追尾・捕捉したい物標を選別することができる。
【0016】
また、前記位相変化量に基づいて、前記位相変化量に基づいて、自装置と各物標との相対速度を算出する相対速度算出部を備え、前記物標選別部は、前記相対速度に基づいて、前記第一スキャンにおいて検出した前記複数の物標の中から、前記第二スキャンで選別した物標と同一の物標を選別することを特徴とする。
【0017】
このような構成により、形状や大きさが近い物標が近接している場合でも、位相変化量から算出する相対速度に基づいて追尾物標を選別することで、追尾物標のロストや、異なる物標を追尾する乗移り、を発生しない。更に、従来では選別の対象にもならなかったエコー信号のレベルが閾値以下の弱い信号の物標でも選別対象とすることができる。
【0018】
また、前述に記載の信号選別装置であって、前記位相変化量に基づいて、自装置と各物標との相対速度を算出する相対速度算出部と、前記第一スキャンでの物標の観測位置及び予測位置と、前記第二スキャンでの物標の推定速度に基づいて、該第一スキャンでの物標の推定速度を算出する推定速度算出手段と、前記第一スキャンでの物標の前記観測位置及び前記予測位置に基づいて、該第一スキャンでの物標の推定位置を算出する推定位置算出手段と、前記第二スキャンでの物標の前記推定位置及び前記推定速度に基づいて、前記第一スキャンでの物標の前記予測位置を算出する予測位置算出手段と、を含む運動推定部と、を備え、前記物標選別部は、前記第一スキャンにおいて検出した各物標の前記相対速度及び前記観測位置と、前記第二スキャンにおいて選別した物標の前記相対速度及び該第一スキャンでの前記予測位置と、の相関値に基づいて、該第一スキャンにおいて検出した前記複数の物標の中から、前記第二スキャンで選別した物標と同一の物標を選別することを特徴とする。
【0019】
このような構成により、スキャン毎に物標のエコー信号の形状や大きさが変動する場合や、物標が海面反射領域内にある場合、及び物標が近接している場合、においても今回のスキャンにおける物標の相対速度及び観測位置と、前回スキャンにおける物標の相対速度及び今回スキャンにおける物標の予測位置との相関値に基づくことで、従来よりも高い精度で追尾・捕捉したい物標を選別することができる。
【0020】
また、前述の信号選別装置であって、前記運動推定部は、αβトラッカで構成されることを特徴とする。
【0021】
このような構成により、予測位置をより正確に算出できるため、今回スキャンでの観測位置と予測位置との相関値に基づいて物標の選別を行う際に、より高い精度で追尾・捕捉したい物標を選別することができる。
【0022】
また、前述の信号選別装置であって、前記相対速度と、前記自装置の絶対速度に基づいて、前記複数の物標の絶対速度を算出する絶対速度算出部を備え、前記物標選別部は、前記絶対速度に基づいて、前記第一スキャンにおいて検出した前記複数の物標の中から、前記第二スキャンで選別した物標と同一の物標を選別することを特徴とする。
【0023】
このような構成により、形状や大きさが近い物標が近接している場合でも、位相変化量から算出する絶対速度に基づいて追尾物標を選別することで、追尾物標のロストや、異なる物標を追尾する乗移り、を発生しない。更に、従来では選別の対象にもならなかったエコー信号のレベルが閾値以下の弱い信号の物標でも選別対象とすることができる。
【0024】
また、前述に記載の信号選別装置であって、前記相対速度算出部又は前記絶対速度算出部は、前記相対速度又は前記絶対速度の距離方向成分を算出することを特徴とする。
【0025】
このような構成により、形状や大きさが近い物標が近接している場合でも、位相変化量から算出する相対速度又は絶対速度の距離方向成分に基づいて追尾物標を選別することで、追尾物標のロストや、異なる物標を追尾する乗移り、を発生しない。更に、従来では選別の対象にもならなかったエコー信号のレベルが閾値以下の弱い信号の物標でも選別対象とすることができる。
【0026】
また、前述に記載の信号選別装置であって、前記送受信部は、同一平面内で回転するアンテナを介して、電磁波の送受信を繰り返すことを特徴とする。
【0027】
このような構成により、現在一般的に広く普及している回転式アンテナを備えたレーダ装置においても本発明の信号選別装置を適用することが可能である。
【0028】
また、本発明の信号選別方法は、電磁波の送受信を繰り返し、受信したエコー信号に基づいて、複数の物標を検出し、自装置からの距離が略等しく方位が異なる二点間のエコー信号の位相変化量を算出し、前記位相変化量に基づいて、第一スキャンにおいて検出した前記複数の物標の中から、前記第一スキャンより前の第二スキャンで選別した少なくとも一物標と同一の物標を選別することを特徴とする。
【0029】
このような方法により、形状や大きさが近い物標が近接している場合でも、位相変化量に基づいて追尾物標を選別することで、追尾物標のロストや、異なる物標を追尾する乗移り、を発生しない。更に、従来では選別の対象にもならなかったエコー信号のレベルが閾値以下の弱い信号の物標でも選別対象とすることができる。
【0030】
アンテナを介して電磁波の送受信を繰り返す送受信部と、前記送受信部が受信したエコー信号に基づいて複数の物標を検出するターゲット候補検出部と、前記送受信部からの距離が略等しく方位が異なる二点間のエコー信号の位相変化量を算出する位相変化量算出部と、前記位相変化量に基づいて、第一スキャンにおいて検出した前記複数の物標の中から、前記第一スキャンより前の第二スキャンで選別した物標と同一の物標を選別する物標選別部と、前記複数の物標の位置を示すレーダ装置を表示する表示器と、
を備えることを特徴とする。
【0031】
このような構成により、形状や大きさが近い物標が近接している場合でも、位相変化量に基づいて追尾物標を選別することで、追尾物標のロストや、異なる物標を追尾する乗移り、を発生しない。更に、従来では選別の対象にもならなかったエコー信号のレベルが閾値以下の弱い信号の物標でも選別対象とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0035】
図1は、本実施に係る船舶用レーダ装置のTT機能の主要構成を示すブロック図である。なお、本実施形態では船舶用のレーダ装置のTT機能として説明するが、本発明の信号選別装置の用途がTT機能に限られるものではない。
【0036】
本実施形態のレーダ装置は、
図1に示すように、レーダアンテナ1、送受信部2、A/D変換部3、ターゲット候補検出部4、ターゲット選別部5、および運動推定部6を備える。
【0037】
レーダアンテナ1は、所定の回転周期で同一平面内を回転しており、送受信部2は前記信号の送受信を繰り返し行うように構成されている。
【0038】
ここで、レーダ装置が電磁波信号を送信してからエコー信号が返ってくるまでにかかる時間はレーダアンテナ1から物標までの距離に比例する。従って、電磁波信号を送信してからエコー信号を受信するまでの時間と、当該電磁波信号の送受信を行ったときのアンテナの方位角とにより、物標の位置をレーダアンテナ1を中心とした極座表で取得することができる。
【0039】
送受信部2は、レーダアンテナ1を介して、指向性を持った信号(パルス状電波)を放射可能であるとともに、自装置周辺に在る物標からのエコー信号を受信するように構成されている。なお、送受信部2は回転式アンテナを備えるものに限られない。例えば、アンテナを固定した状態でビームを振ることが可能なシステム(フェイズドアレイレーダ)などで構成されてもよい。
【0040】
ここで、送受信部2は、物標からのエコー信号以外にも海面反射などの不要エコー信号や干渉信号などを受信する。を受信する。そこで、送受信部2が受信した物標からのエコー信号、海面反射などからの不要エコー信号、および干渉信号などは、「受信信号」と総称する。なお、受信信号にはホワイトノイズも含まれる。
【0041】
また、送受信部2は、受信信号の振幅及び位相の情報を取得するために、直交検波(IQ位相検波)を行う。直交検波を行うことにより、I信号とQ信号からなる複素信号を得ることができる。この直交検波についての詳細は後段で説明する。
【0042】
A/D変換部3は、送受信部2から出力されたアナログ信号のI信号及びQ信号を複数ビットのデジタルデータ(IQ受信データ)に変換して、ターゲット候補検出部4に出力する。
【0043】
なお、上記のように送受信部2でアナログ信号のI信号及びQ信号を生成した後にA/D変換部3でデジタル変換する方式のほか、送受信部2で受信信号をサンプリングすることでデジタル信号のI信号およびQ信号を直接生成してもよい。この場合は、A/D変換部3を省略することができる。
【0044】
ターゲット候補検出部4は、受信信号から物標からのエコー信号を検出し、その物標の位置、大きさ、又は位相変化量、速度などの情報を生成する。
【0045】
ターゲット候補検出部4は、位相検出部41、連結処理部42を備える。また、位相検出部41は、スイープメモリ411、位相変化量算出部412を備える。
【0046】
位相検出部41は、受信信号のサンプリング点毎に、レーダアンテナ1からの距離が略等しく方位が異なる二点間のエコー信号の位相変化量を算出し、位相変化量情報を連結処理部42に出力する。
【0047】
スイープメモリ411は、いわゆるバッファであり、必要なスイープ数のIQ信号受信データをリアルタイムで記憶する。ここで、「スイープ」とは、信号を送信してから次の信号を送信するまでの一連の動作をいう。
【0048】
位相変化量算出部412は、送受信部2が受信した信号のうち、レーダアンテナ1からの距離が略等しく方位が異なる二点間の位相変化量を算出する。具体的な算出方法については後段で説明する。
【0049】
連結処理部42は、所定の条件に従って、物標からの複数のエコー信号を連結処理(グループ化)し、そのグループの代表点の位置、大きさ、位相変化量や速度等の情報を生成する。
【0050】
ここでは、位相変化量412が算出した位相変化量に基づいた連結処理方法について説明する。
【0051】
図3は、レーダアンテナ1を備えた自船910を中心に、スイープ毎に受信される受信信号のサンプリング点を示している。物標900、物標901、及び反射物902が
図3のように配置されているとき、各サンプリング点のうち、位相変化量算出部412が算出した位相変化量が略等しい近接する点をグループ化することで、近接した反射物同士や、海面反射領域内にある物標を識別することができる。
【0052】
なお、本実施例では、位相変化量に基づいた連結処理方法について説明したが、本実施例の信号選別装置における連結処理方法はその限りでない。位相変化量に基づいて、相対速度や絶対速度を算出し、その速度情報に基づいて連結する手法や、受信信号に閾値を設けて2値化し、閾値以上の近接する受信信号のみを連結する手法など、連結処理の方法は問わない。
【0053】
ターゲット選別部5は、メモリ51を備え、複数の物標の中から追尾・捕捉したい少なくとも一物標の選別を行う。
【0054】
メモリ51は、追尾・捕捉したい少なくとも一物標のエコー信号における、代表点の位置及び位相変化量の情報をスキャン毎に記憶する。なお、代表点でなくとも、同一物標と識別した複数のエコー信号の位置や位相変化量などの其々の平均値などでもよい。
【0055】
ターゲット選別部5は、第一スキャンでターゲット候補検出部4が検出した複数の物標の位相変化量及び位置と、第一スキャンより前の第二スキャンでターゲット選別部5が選別した少なくとも一物標の位相変化量及び位置と、を比較し、第一スキャンでターゲット候補検出部4が検出した複数の物標の中から、位相変化量及び位置、の相関が最も高い物標を選別する。具体的には、w1及びw2を重み係数とし、(位相変化量の変化量)
2×w1+(位置の変化量)
2×w2の値が最も小さいものを選別する。ここで、位相変化量又は位置の変化量とは、第一スキャンと第二スキャン間での変化量を示す。状況に応じて、位相変化量の時間変化量と位置の変化量の重み付けを変更することが出来る。例えば、周囲に物標が多数在る場合や、海面反射領域内に物標が在る場合、位置の変化量よりも位相変化量の時間変化量の方が信頼度が高くなるため、位相変化量の時間変化量の重みを大きくすることでより正確な選別をすることが可能となる。なお、具体的な相関値の算出方法はこの限りでない。
【0056】
これによって、自装置周辺に複数物標がある場合だけでなく、海面反射領域内に物標がある場合や、物標が近接している場合にも、従来よりも高い精度で追尾・捕捉したい物標を選別することができる。
【0057】
なお、本発明のターゲット選別部5は、位相変化量と位置の情報に基づいて物標の選別を行っているが、位相変化量のみでも従来よりも高い精度で物標を選別することができる。
【0058】
また、後段の処理によっては、速度情報を生成した方が良い場合等、前述の処理において、位相変化量に基づく物標の自装置との相対速度や絶対速度の情報を、位相変化量情報の代わりに適用することもできる。
【0059】
次に、送受信部2が行う直交検波について
図4を参照して説明する。
【0060】
レーダアンテナ1から送信する電磁波信号の搬送波は、周波数f
0のコサイン波であるとする。この場合、電磁波信号を送信してからの時間をt、送受信部2に入力される受信信号の振幅をX(t)とすると、受信信号S(t) は、(数1)で表現することができる。ここで、φ(t)は、電磁波信号の搬送波に対する、受信エコーの搬送波の位相である(以下、単に位相という)。
【数1】
図4に示すように、この受信信号S(t)は、送受信部2に受信された後に2系統に分岐させられる。そして一方の受信信号S(t)に、電磁波信号の搬送波と同一周波数で同一位相の参照信号2cos(2πf
0t)を積算して合成することにより、(数2)で表される信号を得る。
【数2】
また、受信信号S(t)分岐させた他方に、電磁波信号の搬送波と同一周波数で位相を90°ずらした参照信号−2sin(2πf
0t)を積算して合成することより、以下の(数3)で表される信号を得る。
【数3】
(数2)および(数3)の右辺第一項(2倍周波数成分)はローパスフィルタ(LPF)によって除去される。これにより、送受信部2からは、(数4)に示すI信号、および(数5)に示すQ信号が出力される。
【数4】
【数5】
【0061】
次に、位相変化量算出部412が算出する位相変化量の算出方法について説明する。
【0062】
本実施形態では、A/D変換部3によってデジタル化された受信信号及びスイープメモリに記憶している受信信号に自己相関法を適用して位相変化量を算出する。仮に位相変化量がΔθのエコーがある時を想定する。この物標の距離に対応する距離番号をn
0として、この物標からのエコーが受信される最初の方位の方位番号をk
0とする(
図3参照)。このとき、レーダアンテナ1からの距離が略等しい点から受信した近接するM個の受信データを、それぞれS[k
0,n
0]、S[k
0+1,n
0]、S[k
0+2,n
0]、・・・、S[k
0+M−1,n
0]と表わすことができる。そして、受信データz[m]を(数6)で表すことができる。
【数6】
また、1スイープあたりの位相変化量Δθについて次式が成り立つ。
【数7】
ここでarg[・]は複素数の偏角を示す。ΔmとLは次式を満たす任意の自然数である。
【数8】
例えば、Δm=L=1と選べば次式を得る。
【数9】
(数7)を用いて、受信データz[m]から位相変化量Δθを推定する方法を自己相関法とよぶ。
【0063】
また、前述の位相変化量に基づいて相対速度を次のように算出することが出来る。
【0064】
レーダアンテナ1から物標までの往復伝播距離は、物標が相対速度vで接近するとき、送信周期Tの間に2vTだけ小さくなる。したがって、搬送波の周波数をf
0、光速をcとすると、受信データz[m+1]の位相は、受信データz[m]の位相に対して、次式で表わされる1スイープあたりの位相変化量Δθだけ大きくなる。
【数10】
この式を相対速度vについて解くと次式を得る。
【数11】
また、(数7)を(数11)に代入して次式を得ることができる。
【数12】
(数12)を用いて、受信データz[m]から相対速度vを推定する。
【0065】
また、位相変化量に基づいた速度を用いてエコー信号の選別や連結などの関連付けを行う際には、速度がある範囲内のエコーを処理してよい。この時、速度が折り返し速度付近の物標の場合は、その折り返しを考慮した際、近い速度となるエコーも関連付け対象とする。関連付けする速度範囲をV
t±V
σとした場合,例えば
図5に示すような場合、V
t+V
σ>V
max(V
max:折り返し速度)となるVtを選択しているときは,関連付けする速度範囲はV
t−V
σ≦V<V
maxまたは−V
max≦V≦−2V
max+V
t+V
σとなる.
(実施の形態2)
【0066】
図6は、本実施に係る船舶用レーダ装置のTT機能の主要構成を示すブロック図である。なお、本実施形態では船舶用のレーダ装置のTT機能として説明するが、本発明の信号選別装置の用途がTT機能に限られるものではない。
【0067】
本実施形態の信号選別装置10の全体を構成する主要なブロックは実施の形態1で記載したレーダ装置と同じであり、出力情報がターゲット選別部5に入力される点が異なるため、同等のブロックに関する説明は省略する。なお、実施の形態2において、「速度」とは距離方向成分の速度ベクトルを示す。
【0068】
本実施例のターゲット候補検出部4、ターゲット選別部、及び運動推定部の詳細な構成について、
図7を参照して説明する。
【0069】
ターゲット候補検出部4は、速度算出部44、連結処理部42、およびターゲット候補情報作成部43を備える。また、速度算出部44は、スイープメモリ411、相対速度算出部441、および絶対速度算出部442を備える。
【0070】
速度算出部44は、受信信号のサンプリング点毎に、レーダアンテナ1からの距離が略等しく方位が異なる二点間のエコー信号の位相変化量に基づいて、物標の絶対速度を算出し、絶対速度情報を連結処理部42に出力する。
【0071】
また、相対速度算出部441は、送受信部2が受信した信号のうち、レーダアンテナ1からの距離が略等しく方位が異なる二点間のエコー信号の位相変化量に基づいて、自船と物標との相対速度を算出する。具体的な算出方法については前段で説明した方法と同等である。
【0072】
絶対速度算出部442は、相対速度算出部441が算出した相対速度と、GPS受信機などから取得した自船の船速と、方位センサなどから取得した船首方位と、に基づいて物標の絶対速度を算出する。
【0073】
ターゲット選別部5は、メモリ51を備え、複数の物標の中から追尾・捕捉したい少なくとも一物標の選別を行う。
【0074】
メモリ51は、追尾・捕捉したい少なくとも一物標のエコー信号における、代表点の位置及び絶対速度の情報をスキャン毎に記憶する。なお、代表点でなくとも、同一物標と識別した複数のエコー信号の位置や絶対速度などの其々の平均値などでもよい。
【0075】
ターゲット選別部5は、第一スキャンでターゲット候補検出部4が検出した複数の物標の絶対速度及び位置と、第一スキャンより前の第二スキャンでターゲット選別部5が選別した少なくとも一物標の絶対速度及び運動推定部6が予測した予測位置と、を比較し、第一スキャンでターゲット候補検出部4が検出した複数の物標の中から、絶対速度と位置、其々の相関が最も高い物標を選別する。具体的には、w1及びw2を重み係数とし、(絶対速度の変化量)
2×w1+(位置の変化量)
2×w2の相関値が最も小さいものを選別する。ここで、絶対速度又は位置の変化量とは、第一スキャンと第二スキャン間での変化量を示す。状況に応じて、絶対速度の変化量と位置の変化量の重み付けを変更することが出来る。例えば、周囲に物標が多数在る場合や、海面反射領域内に物標が在る場合、位置の変化量よりも絶対速度の変化量の方が信頼度が高くなるため、絶対速度の変化量の重みを大きくすることでより正確な選別をすることが可能となる。なお、具体的な相関値の算出方法はこの限りでない。
【0076】
これによって、自装置周辺に複数物標がある場合だけでなく、海面反射領域内に物標がある場合や、物標が近接している場合にも、従来よりも高い精度で追尾・捕捉したい物標を選別することができる。
【0077】
なお、本実施例では、絶対速度に基づいた選別手法について説明しているが、前述の処理において、物標の絶対速度を算出する過程で算出される物標の相対速度を、物標の絶対速度情報の代わりに適用することもできる。
【0078】
運動推定部6は、ターゲット選別部5が選別した物標の推定位置、推定速度、及び予測位置を算出する。
【0079】
また、運動推定部6はαβトラッカで構成され、現在の物標の推定位置と選別された物標の観測位置との間を新たな推定位置として求め、更にそれによって推定速度を求める。そして、推定位置、推定速度から物標の予測位置まで算出することができる。
【0080】
具体的に、αβトラッカを用いた一例を説明する。
図8は上記αβトラッカのトラッキング方法を示す図である。ここで、位置平滑化定数をα、速度平滑化定数をβとする直線予測器として、第nスキャンから第(n+1)スキャンを予測する様子を示している。第nスキャンでの予測位置をP(n)、測定位置をM(n)とすると、追尾誤差E(n)は、E(n)=M(n)−P(n)である。平滑位置S(n)と平滑速度V(n)は、
【数13】
【数14】
で求められる。ここで、Tはサンプル周期である。これから、(n+1)回目のスキャンの予測位置P(n+1)は、
【数15】
で求められる。α=0は予測位置、α=1は測定位置を平滑位置とすることに相当し、αが小さいほど深く平滑されることを意味している。
【0081】
以上によって、従来ではスキャン毎にエコーが変化していた大きさや形状、振幅に依らず選別を行えるため、複数の物標の中から捕捉・追尾したい物標をリアルタイムに、より高い精度で選別することが可能である。
【0082】
上記実施形態で説明した信号識別装置を用いる実施方法は一例であって、種々変更することができる。例えば、本発明の信号識別装置と従来の信号選別手法を併用することで、物標の選別性能は格段に上がることが想定される。