特許第6192183号(P6192183)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192183
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】回収ボイラー灰を溶出する方法
(51)【国際特許分類】
   D21C 11/00 20060101AFI20170828BHJP
【FI】
   D21C11/00 C
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-542323(P2015-542323)
(86)(22)【出願日】2013年11月15日
(65)【公表番号】特表2016-501319(P2016-501319A)
(43)【公表日】2016年1月18日
(86)【国際出願番号】FI2013000043
(87)【国際公開番号】WO2014076361
(87)【国際公開日】20140522
【審査請求日】2016年5月31日
(31)【優先権主張番号】20126204
(32)【優先日】2012年11月16日
(33)【優先権主張国】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】500403468
【氏名又は名称】アンドリツ オサケユキチュア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マキオー パターソン
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−341082(JP,A)
【文献】 特開平09−029201(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0219375(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00−1/38
D21C 1/00−11/14
D21D 1/00−99/00
D21F 1/00−13/12
D21G 1/00−9/00
D21H 11/00−27/42
D21J 1/00−7/00
B09B 1/00−5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一段階又は多段階の溶出工程と併せてパルプミルの回収ボイラーの灰を処理する方法であって、少なくとも1つのカルシウム化合物が、1つ又は複数の溶出段階において添加剤として用いられ、酸化カルシウム及び水酸化カルシウム化合物の少なくとも1つが用いられる、前記方法。
【請求項2】
酸化カルシウム及び水酸化カルシウムが用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶出工程を出る1つ又は複数の液体画分ストリームが、パルプミルの主な化学的回収サイクルの外部で使用される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
1つ又は複数の液体画分ストリームに含有されている水酸化物イオンが利用される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
水酸化物イオンが、パルプミルの漂白ラインで活用される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
溶出工程を出る1つ又は複数の固体画分ストリームが、パルプミルの黒液と混合される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
溶出工程から出た1つ又は複数の固体画分ストリームが、溶解段階に送られ、そこでナトリウム及びカリウム化合物などの水に容易に溶解できる化合物の大部分が、水又は水溶液に溶解し、その後、炭酸カルシウム及び水酸化カルシウムなどのカルシウム化合物を主に含む固体材料が、分離され、パルプミルのカルシウムサイクルに送られ、残留液体画分が、パルプミルの黒液に添加される、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の方法は、パルプミルの回収ボイラーに由来する灰の溶出に対処し、特に灰が著しく多量の炭酸塩を含有している場合に対処する。灰溶出工程の目的は、パルプミルの化学的回収サイクルから、いわゆる未処理元素の2つである塩素及びカリウムを除去することである。
【背景技術】
【0002】
フライアッシュは、主に、硫酸ナトリウムを含有しているが、炭酸塩、カリウム及び塩化物も含有している。回収ボイラーのフライアッシュ(例えば、電気集塵装置によって分離した灰)の溶出は、アルカリパルプ化工程を用いるパルプミルの化学的回収工程から塩素及びカリウムを除去する公知の方法である。これらの元素は、除去しなければ、一般にパルプミルの回収ボイラーに許容されない程度の汚染及び腐食をもたらすおそれがあるレベルまで蓄積してしまう。従来の灰溶出工程では、限られた量の水を灰に添加し、それによって灰を一部だけ溶解させる。塩素(Cl)及びカリウム(K)は、溶液中に豊富に存在しており、すなわちそれらの含量は、他の元素と比較して灰分中よりも溶液中の方が多い。元の灰材料における大部分のナトリウム塩は、スラリー中に固体として残る。固体は、例えばデカンタ遠心分離機を使用して溶液から分離され、その固体は、パルプ廃液(黒液)に添加することによって回収サイクルに戻される。溶液の一部は、通常、溶出槽にリサイクルされ、一部は下水管へと除去される。
【0003】
灰分中の炭酸塩(CO)は、灰分中のその含量が約5%を超える場合には、分離ステップの性能に対して有害な作用を及ぼす。この場合、溶液からの固体の十分な分離を確実にするために、通常、硫酸(HSO)を溶出段階で添加して、炭酸塩の一部を硫酸塩(SO)に変換する。例えば、灰分中の炭酸塩含量が10%である場合、典型的に、灰1トン当たり約80kgのHSOが溶出槽に添加される。
【0004】
従来の灰溶出工程は、例えば、論文:Honkanen,R.&Kaila,J.、様々な塩化物除去技術の経験(Experiences in Various Chloride Removal Technologies)、Proc.2010 International Chemical Recovery Conference、ウィリアムズバーグ、USA、Tappi Press、第2巻、259〜267頁に、より詳細に記載されている。この工程の変形形態の例は、特許出願文書WO2011/002354A1に開示されている二段階工程である。分離ステップでは、一般に溶液から固体を完全には分離できないことに留意されたい。主に固体材料を含むストリームは、混入溶液を含有しており、主に溶液を含む他のストリームは、いくらかの残留固体を含有してもよい。本文書の目的では、前者のストリームは、本明細書では固体画分と定義され、後者のストリームは、本明細書では液体画分と定義される。多段階溶出工程は、2つ以上の固体画分ストリーム及び2つ以上の液体画分ストリームを含むことに留意されたい。
【0005】
溶出工程で添加剤としてHSOを使用すると、ますます多くの問題が生じる。今日では、化学的回収サイクルからの硫黄の「自然な」除去は、かつてよりもはるかに低いレベルに抑えられている。このことは、このサイクルへの追加の硫黄の添加が比較的少量であっても、ミルのナトリウムと硫黄のバランスに測定可能な影響があることを意味する。硫黄がHSOの形態で添加される場合、最終的に、水酸化ナトリウム(NaOH)又は炭酸ナトリウム(NaCO)の形態で生成されるナトリウムの必要量が増大する結果になる。このようにして、HSOの実効価格は、その購入価格よりもかなり高くなる。
【0006】
特許出願WO00/61859は、フライアッシュの炭酸塩が、塩酸によって破壊され、硫酸塩が塩化カルシウムと共に沈殿する工程を開示している。しかし、塩素化合物を工程に添加することは、望ましくない。
【0007】
現代の回収ボイラーの燃焼温度は、過去のボイラーの燃焼温度よりも高い。燃焼温度がより高いということは、灰分中の炭酸塩含量がより高いことを意味することもあり、さらに、炭酸塩を多量に含む灰を灰溶出工程で取り扱う代替方法を発見する必要があることを強調している。
【0008】
つまり、相当量の炭酸塩を含有する回収ボイラー灰を伴っていても十分に実施することができるが、相当量のHSOを添加する必要がない溶出方法に対するニーズはとても高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、アルカリ蒸解工程を利用するパルプミルの回収ボイラーの灰を溶出するための、一段階又は多段階の工程と併用される新しい方法である。該方法によれば、少なくとも1つのカルシウム化合物、少なくとも酸化カルシウム(CaO)及び/又は水酸化カルシウム(Ca(OH))が、1つ又は複数の溶出段階において添加剤として用いられる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この新しい方法では、少なくともCaO及び/又はCa(OH)が添加され、次に、添加されたCaO及び/又はCa(OH)は、以下の周知の反応を介して灰分中の炭酸塩と反応する。
消和反応:CaO+HO→Ca(OH)(CaOを添加する場合)
苛性化反応:NaCO+Ca(OH)→2NaOH+CaCO(KCOでも類似の反応)
【0011】
特定の好ましい実施形態では、添加剤は、CaO及びCa(OH)に加えて炭酸カルシウム(CaCO)などの他のカルシウム化合物、及び/又はマグネシウム(Mg)などの他のアルカリ土類金属の化合物、並びに/又は不純物を含有できることに留意されたい。さらに、添加剤は、水ベースのスラリーの形態で導入することができる。さらに、本明細書に開示の新しいタイプの添加剤は、HSOなどの他のタイプの添加剤と一緒に使用することができる。
【0012】
水酸化ナトリウム(NaOH)及び水酸化カリウム(KOH)は、灰自体に存在する化合物のいずれよりも水溶性が高いので、新しい工程で生成された1つ又は複数の液体画分は、先の苛性化反応で形成された水酸化物イオンの多くを含有している。新しい方法と併せて適用される溶出条件(例えば、灰と水の比、COとCaOの比、温度、滞留時間)は、(1)水酸化物に加えて相当量の化合物が液体画分(単数又は複数)に溶解し、(2)従来の工程と同じように、塩素及び通常はカリウムも、液体画分(単数又は複数)に豊富に存在するような条件である。一段階溶出工程の場合、添加された水に対する灰の質量比は、好ましくは0.5〜2の範囲である。CaO及び/又はCa(OH)を添加する場合、処理される灰分中のCOのモルに対する添加されるCaのモル比は、好ましくは0.5〜3の範囲、より好ましくは0.5〜1.5の範囲である。温度は、典型的に50〜100℃の範囲であり得る。
【0013】
新しい方法で形成された液体画分(単数又は複数)に含有されている水酸化物イオンは、パルプミルの主な化学的回収サイクルの外部で活用することができる。漂白ラインが組み込まれたパルプミルでは、漂白ラインにおいて、購入されるNaOHを置換するために液体画分(単数又は複数)を利用するのが好ましい選択肢である。液体画分(単数又は複数)が、主な化学的回収サイクルの外部で利用される場合、灰溶出工程の主な機能である主サイクルからの塩素の除去は、通常はカリウムの除去と一緒に行われる。
【0014】
したがって、新しい方法は、回収ボイラー灰の溶出中にHSOの添加を低減又は排除するための、新規で優れた解決策を提供する。主な化学的回収サイクルの外部の場所で水酸化物の置換を行うことが可能であり、その置換が考慮される場合、塩素の所与の除去程度におけるナトリウムの純喪失を、対応する従来の灰溶出工程の純喪失よりも実に低く抑えることができる。
【0015】
新しい方法の非常に重要な主な利点は、比較的高価なHSO(前述の通り、ミルのナトリウムと硫黄のバランスに対する影響のため、実効価格が高い)を、比較的安価なカルシウム化合物で置換できることである。別の潜在的な利点は、同じ塩素除去程度におけるナトリウムの純喪失が、対応する従来の灰溶出工程に典型的に見られる純喪失と比較して低レベルであることである。
【0016】
カルシウム化合物(単数又は複数)を添加剤(単数又は複数)として用いる一実施形態によれば、溶出工程を出る1つ又は複数の固体画分ストリームは、溶解段階に送られ、そこでナトリウム及びカリウム化合物などの水に容易に溶解できる化合物の大部分が、水又は水溶液に溶解する。その後、CaCO及びCa(OH)などのカルシウム化合物を主に含む固体材料は、分離され、パルプミルのカルシウムサイクルに送られ、残留液体画分が、パルプミルの黒液ストリームに添加される。
【0017】
本発明の新しい方法を、本発明の一実施形態をそれぞれ図示する図1及び図2を参照することによって、より詳細に説明する。図1及び図2の数字及び文字は、以下のストリーム及び処理段階を指す。
1.回収ボイラー灰
2.水又は水溶液
3.CaO及び/又はCa(OH)
4.リサイクルされた液体画分
5.スラリー
6.液体画分
7.除去された液体画分
8.固体画分
9.水又は水溶液
10.スラリー
11.液体画分
12.固体画分
A.溶出段階
B.分離段階
C.溶解段階
D.分離段階
【0018】
図1に図示した実施形態では、パルプミルの回収ボイラーからの灰(1)、水又は水溶液(2)、並びに少なくともCaO及び/又はCa(OH)(3)は、リサイクルされた液体画分(4)と一緒に、典型的に混合槽で実施される溶出段階(A)に導入される。溶出段階を出たスラリー(5)は、分離段階(B)に送られ、この段階は、デカンタ遠心分離機又は濾過器などの適用できる分離デバイスを使用して実施することができる。分離段階を出た液体画分(6)の一部(4)は、溶出段階(A)にリサイクルされる。残留液体画分(7)は、好ましくはパルプミルの漂白ラインで利用される。液体画分は、水酸化物イオンを含有しており、NaOHを置換するために使用できる。
【0019】
未溶解の灰化合物に加えてカルシウム化合物を含み、分離段階(B)から出る固体画分ストリーム(8)は、好ましくはパルプミルの黒液ストリームと混合され、それによって最終的にパルプミルの回収ボイラーに送られる。
【0020】
図2に図示した実施形態は、分離段階(B)を出た固体画分ストリーム(8)をさらに処理するという点だけが図1の実施形態とは異なっている。図2の実施形態では、このストリーム(8)は、溶解段階(C)に送られ、そこでナトリウム及びカリウム化合物などの水に容易に溶解できる化合物が、水又は水溶液(9)に溶解する。溶解段階(C)を出たスラリー(10)は、分離段階(D)に送られる。分離段階(D)を出た液体画分(11)は、パルプミルの黒液ストリームに添加され、それによって最終的にパルプミルの回収ボイラーに送られる。分離段階(D)を出た固体画分ストリーム(12)は、主にカルシウム化合物を含んでおり、パルプミルのカルシウムサイクルに送られる。
【実施例】
【0021】
特定のパルプミルの回収ボイラーから出た灰の約40%は、風乾したパルプ1トン(ADt)当たり約55kgの灰に相当し、これを一段階の溶出工程にかける。灰の炭酸塩含量は、約10%である。ミルのカルシウムサイクルから得たパルプADt当たり燃焼済みの石灰(CaO)約5kgを、溶出処理の前又はその最中に溶出容器に添加する。対応する従来の灰溶出工程の場合では、ADt当たりHSO約4.4kgが、溶出容器に添加されていたはずである。
【0022】
溶出処理の後、固体をスラリーから直接的に分離する。残留液体画分を、ミルの漂白ラインで利用する。固体画分を溶解容器に送ると、そこでナトリウム及びカリウム化合物が水に溶解する。カルシウム化合物は、かなりの程度、未溶解のままである。カルシウム化合物は、分別し、ミルのカルシウムサイクルに戻し、水溶液は、ミルの黒液ストリームに添加する。
【0023】
このパルプミルでは、添加されるHSOの実効価格(ミルのナトリウムと硫黄のバランスへの影響を考慮)は、HSO1トンあたり約300ユーロであるが、CaOの限界実効価格(主に石灰釜燃料の費用に起因し、蒸発に対する高い義務を考慮)は、CaO1トンあたり約100ユーロである。したがって、新しい工程では、添加剤(CaO)の実効価格は、約0.5ユーロ/ADtになり、これは対応する従来の灰溶出工程における添加剤(HSO)の実効価格である約1.3ユーロ/ADtよりも著しく低い。
【0024】
本発明の実施形態は、本明細書に言及又は記載した実施形態に制限されず、特許請求の範囲内で変わり得る。
図1
図2